(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】充填材型枠、充填材の充填施工方法および充填材型枠用粘着テープ
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20230315BHJP
E04B 1/21 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
E04B1/58 503C
E04B1/21 C
(21)【出願番号】P 2022044903
(22)【出願日】2022-03-22
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004020
【氏名又は名称】ニチバン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】石塚 新太
(72)【発明者】
【氏名】池野 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】市村 周二
(72)【発明者】
【氏名】大場 春樹
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-248714(JP,A)
【文献】特開2018-145299(JP,A)
【文献】実公昭61-033049(JP,Y2)
【文献】特開平07-216985(JP,A)
【文献】特開2017-066237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38 - 1/61
E04B 1/21
E04G 9/00 -19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のコンクリート部材と第2のコンクリート部材との連結のために前記第1のコンクリート部材と前記第2のコンクリート部材との間の隙間に充填材を充填する際に用いられる充填材型枠であって、
前記充填材型枠は、支持体層と粘着剤層とを備えた粘着テープから構成され、
前記粘着テープの初期引張強さは、少なくとも3000N/10mmであり、
前記第1のコンクリート部材の端部と前記第2のコンクリート部材の端部とをまたぐように配置されるとともに前記粘着剤層により前記第1のコンクリート部材の端部表面と前記第2のコンクリート部材の端部表面とに貼り付けられた前記粘着テープにより前記隙間内を閉塞空間にする充填材型枠。
【請求項2】
前記第1および第2のコンクリート部材の前記各端部表面において少なくとも前記粘着テープが位置する領域にプライマーが塗布されている請求項1に記載の充填材型枠。
【請求項3】
前記粘着テープは、前記粘着剤層と前記プライマーとの間で少なくとも所定の剥離力を有する請求項2に記載の充填材型枠。
【請求項4】
前記粘着テープにより閉鎖された前記隙間から前記粘着テープへ作用する外力は前記粘着テープの前記剥離力の1.3倍以内である請求項
3に記載の充填材型枠。
【請求項5】
前記第1のコンクリート部材および前記第2のコンクリート部材の各コーナー部が曲面状になっている請求項1乃至4のいずれかに記載の充填材型枠。
【請求項6】
前記隙間を挟んで互いに対向した前記第1のコンクリート部材の端部と前記第2のコンクリート部材の端部との間の最大間隙幅が5~50mmの範囲内であり、
前記粘着テープは、前記最大間隙幅における前記充填材の充填高さ0.8mに対し前記第1および第2のコンクリート部材の前記各端部表面において少なくとも35mmの貼付幅を有する請求項1乃至5のいずれかに記載の充填材型枠。
【請求項7】
前記隙間を挟んで互いに対向した前記第1のコンクリート部材の端部と前記第2のコンクリート部材の端部との間の最大間隙幅が5~50mmの範囲内であり、
前記粘着テープは、前記最大間隙幅における前記充填材の充填高さ1.5mに対し前記第1および第2のコンクリート部材の前記各端部表面において少なくとも65mmの貼付幅を有する請求項1乃至5のいずれかに記載の充填材型枠。
【請求項8】
前記粘着テープは単層で貼り付けられている請求項1乃至7のいずれかに記載の充填材型枠。
【請求項9】
前記粘着テープは複層で貼り付けられている請求項1乃至7のいずれかに記載の充填材型枠。
【請求項10】
請求項1乃至
9のいずれかに記載の充填材型枠を用いて、前記隙間に充填材を充填する、充填材の充填施工方法。
【請求項11】
請求項2乃至4のいずれかに記載の充填材型枠を用いて、前記隙間に充填材を充填する際に、前記第1および第2のコンクリート部材の各端部表面において少なくとも前記粘着テープが位置する領域を下地処理してからプライマーを塗布し、所定の養生期間経過後に前記粘着テープを貼り付け、前記隙間に充填材を充填する、充填材の充填施工方法。
【請求項12】
前記粘着テープの貼り付け条件に関する前記粘着テープの剥離力を事前に確認する請求項
10または
11に記載の充填材の充填施工方法。
【請求項13】
前記第1および第2のコンクリート部材はプレキャスト部材である請求項
10乃至
12のいずれかに記載の充填材の充填施工方法。
【請求項14】
請求項1乃至
9のいずれかに記載の充填材型枠または請求項
10乃至
13のいずれかに記載の充填材の充填施工方法において前記粘着テープとして使用される充填材型枠用粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート部材間の隙間に充填材を充填する際に用いる充填材型枠、充填材の充填施工方法、および、充填材型枠用粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、現場施工の省力化の観点からコンクリート部材のプレキャスト(PCa)化が進んでいる。プレキャスト部材(以下、「PCa部材」ともいう。)は、トレーラー等により現場搬入され、施工現場において複数のPCa部材が接続され一体化される。通常、PCa部材同士は20~30mm程度の隙間を空けて設置し、この隙間に無収縮モルタル等の充填材を充填している。このとき使用される充填材の型枠としては、木製のコンクリートパネルによるものが一般的である。
【0003】
特許文献1は、基材の表面に粘着層を有し、その粘着層の表面に剥離可能な被覆層を備え、テープの幅がコンクリート型枠用合板の木口面・側面の厚みに対応して細幅に構成されたコンクリート型枠用粘着テープを開示し、この粘着テープをコンクリート型枠用合板の木口面・側面に接着し、複数枚のコンクリート型枠用合板の間に介在させてコンクリート型枠を構成する。
【0004】
非特許文献1,2は、コンクリートのひび割れ補修方法としてのエポキシ樹脂等の低圧注入工法において注入材の漏洩防止のためにひび割れ表面にシール材としてシールテープを用いることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「注入状況の確認が可能なひび割れ注入シールテープの開発」土木学会第71回年次学術講演会(平成28年9月)V-179
【文献】「シールテープを用いた低圧注入工法の実施工」土木学会第72回年次学術講演会(平成29年9月)V-406
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術によれば、PCa部材間の20~30mm程度の隙間を充填する際に、木製のコンクリートパネルからなる型枠の支持のため支保工を設置し、隙間に充填材を充填し、充填材の硬化後に脱枠する必要があるが、わずか数十mmの隙間の充填のために型枠・支保工・脱枠までの施工準備と施工工程を要しているのが実情であり、施工効率の低下を招いている。
【0008】
特許文献1のコンクリート型枠用粘着テープは、コンクリート型枠用合板同士を木口面や側面で接着するもので、型枠自体を構成するものではない。非特許文献1,2のシールテープは、コンクリートのひび割れ補修の際にエポキシ樹脂等の注入材の漏洩防止のためにひび割れ表面にシール材として貼り付けるもので、ひび割れ面から受ける外力とコンクリート部材間の隙間から受ける外力とでは数値が大きく異なり、コンクリート部材間の隙間に充填材を充填する際の型枠を構成するものではない。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、コンクリート部材間の隙間に充填材を充填する際に使用して充填材充填の施工効率を向上可能な充填材型枠、かかる充填材型枠を用いた充填材の充填施工方法、および、かかる充填材型枠に使用する充填材型枠用粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明者等は、コンクリート部材間の隙間がわずか数十mmであることに着目し、従来の木製型枠に代えて粘着テープを充填材型枠として使用することに着想し、本発明に至った。粘着テープを充填材型枠として用いることで、型枠支保工の設置および脱枠は、粘着テープの貼付けと剥がしのみになり、施工工程が簡略化し施工時間が短縮するので、施工効率が格段に向上でき、また、使用材料の削減にも寄与できる。
【0011】
すなわち、上記目的を達成するための充填材型枠は、第1のコンクリート部材と第2のコンクリート部材との連結のために前記第1のコンクリート部材と前記第2のコンクリート部材との間の隙間に充填材を充填する際に用いられる充填材型枠であって、
前記充填材型枠は、支持体層と粘着剤層とを備えた粘着テープから構成され、前記粘着テープの初期引張強さは、少なくとも3000N/10mmであり、
前記第1のコンクリート部材の端部と前記第2のコンクリート部材の端部とをまたぐように配置されるとともに前記粘着剤層により前記第1のコンクリート部材の端部表面と前記第2のコンクリート部材の端部表面とに貼り付けられた前記粘着テープにより前記隙間内を閉塞空間にするものである。
【0012】
この充填材型枠によれば、間隙を挟んで隣り合った第1のコンクリート部材の端部と第2のコンクリート部材の端部とをまたぐように配置され、かつ、第1のコンクリート部材の端部表面と第2のコンクリート部材の端部表面とに貼り付けられた粘着テープによって第1および第2のコンクリート部材間の隙間を閉塞空間にでき、かかる閉塞空間に充填材料を充填できる。このように、粘着テープをコンクリート部材の各端部表面に貼り付けることで充填材型枠を構成でき、粘着テープを剥がすことで充填材型枠を除去できるので、従来の木製型枠および木製型枠支持のための支保工が不要となり、型枠支保工の設置および脱枠は、粘着テープの貼付けと剥がしのみになり、施工工程が簡略化し施工時間が短縮し、施工効率が向上する。
【0013】
前記第1および第2のコンクリート部材の前記各端部表面において少なくとも前記粘着テープが位置する領域にプライマーが塗布されていることが好ましい。これにより、粘着テープの粘着力の向上を図ることができ、たとえば、コンクリート部材のコンクリート表面が雨水などで湿潤状態となっても粘着テープの粘着力が低下しない。
【0014】
前記粘着テープは、前記粘着剤層と前記プライマーとの間で少なくとも所定の剥離力を有することが好ましい。
【0015】
前記粘着テープにより閉鎖された前記隙間から前記粘着テープへ作用する外力は前記粘着テープの前記剥離力の1.3倍以内であることが好ましい。
【0016】
前記第1のコンクリート部材および前記第2のコンクリート部材の各コーナー部が曲面状になっていることが好ましい。
【0017】
前記隙間を挟んで互いに対向した前記第1のコンクリート部材の端部と前記第2のコンクリート部材の端部との間の最大間隙幅が5~50mmの範囲内であり、 前記粘着テープは、前記最大間隙幅における前記充填材の充填高さ0.8mに対し前記第1および第2のコンクリート部材の前記各端部表面において少なくとも35mmの貼付幅を有することが好ましい。
【0018】
前記隙間を挟んで互いに対向した前記第1のコンクリート部材の端部と前記第2のコンクリート部材の端部との間の最大間隙幅が5~50mmの範囲内であり、前記粘着テープは、前記最大間隙幅における前記充填材の充填高さ1.5mに対し前記第1および第2のコンクリート部材の前記各端部表面において少なくとも65mmの貼付幅を有することが好ましい。
【0019】
前記粘着テープは単層で貼り付けられることができ、または、前記粘着テープは複層で貼り付けられてもよい。粘着テープが複層となることで、粘着テープ全体の剛性が増す。
【0021】
上記目的を達成するための充填材の充填施工方法は、上述の充填材型枠を用いて、前記隙間に充填材を充填するものである。
【0022】
この充填材の充填施工方法によれば、粘着テープをコンクリート部材の各端部表面に貼り付けることで構成した充填材型枠を用いて第1のコンクリート部材と第2のコンクリート部材との間の隙間に充填材を充填できるので、従来のような木製型枠および木製型枠支持のための支保工が不要となり、型枠支保工の設置および脱枠は、粘着テープの貼付けと剥がしのみになり、施工工程が簡略化し施工時間が短縮し、施工効率が向上する。
【0023】
上述のプライマーを適用する充填材型枠を用いる場合、前記隙間に充填材を充填する際に、前記第1および第2のコンクリート部材の各端部表面において少なくとも前記粘着テープが位置する領域を下地処理してからプライマーを塗布し、所定の養生期間経過後に前記粘着テープを貼り付け、前記隙間に充填材を充填することが好ましい。これにより、粘着テープの粘着力の向上を図ることができ、たとえば、コンクリート部材のコンクリート表面が雨水などで湿潤状態となっても粘着テープの粘着力を向上させることができる。
【0024】
前記粘着テープの貼り付け条件(たとえば、コンクリート部材の表面含水率など)に関する前記粘着テープの剥離力を事前に確認することが好ましい。
【0025】
前記第1および第2のコンクリート部材がプレキャスト部材である場合に、上記充填材の充填施工方法を適用することが好ましい。
【0026】
上記目的を達成するための充填材型枠用粘着テープは、上述の充填材型枠の前記粘着テープとして使用されるものである。
【0027】
この充填材型枠用粘着テープをコンクリート部材の各端部表面に貼り付けることで充填材型枠を構成でき、かかる充填材型枠を用いて第1のコンクリート部材と第2のコンクリート部材との間の隙間に充填材を充填できるので、従来のような木製型枠および木製型枠支持のための支保工が不要となり、型枠支保工の設置および脱枠は、粘着テープの貼付けと剥がしのみになり、施工工程が簡略化し施工時間が短縮し、施工効率が向上する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、コンクリート部材間の隙間に充填材を充填する際に使用して充填材充填の施工効率を向上可能な充填材型枠、かかる充填材型枠を用いた充填材の充填施工方法、および、かかる充填材型枠に使用する粘着テープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本実施形態による充填材の充填施工方法の主要工程を説明するためにコンクリート部材の各表面端部近傍を示す側断面図(a)~(c)である。
【
図2】
図1(c)の矢印IIからコンクリート部材の表面端部近傍を見た部分図である。
【
図3】
図1(c)の粘着テープによる充填材型枠がコンクリート部材間に設置された状態を概略的に示す要部斜視図である。
【
図4】
図1~
図3の粘着テープの剥離力と作用圧力を説明するための充填材型枠要部の側断面図である。
【
図5】
図3のコンクリート部材11,12のコーナー部R0を示す図(a)および曲面形状のコーナー部R1を示す図(b)である。
【
図6】本実験例の暴露時および封減時の表面含水率試験結果を示す図である。
【
図7】本実験例の粘着テープの剥離試験として行った90°ピール試験を示す概略図である。
【
図8】本実験例におけるモルタル表面に対する90°剥離力と表面含水率との関係を示す図(a)~(d)である。
【
図9】
図8(b)~(d)のプライマーありの場合の表面含水率とモルタル表面に対する90°剥離力との関係をまとめて示す図である。
【
図10】
図8(b)~(d)に示す90°剥離力と表面含水率との近似式による関係曲線を示す図である。
【
図11】本実験例のモルタル充填実験において使用したモルタル試験体の概略図である。
【
図12】本実験例のモルタル充填実験において漏出確認時の外力Aと粘着テープの90°剥離力Bとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図1は本実施形態による充填材の充填施工方法の主要工程を説明するためにコンクリート部材の各表面端部近傍を示す側断面図(a)~(c)である。
図2は、
図1(c)の矢印IIからコンクリート部材の表面端部近傍を見た部分図である。
図3は、
図1(c)の粘着テープによる充填材型枠がコンクリート部材間に設置された状態を概略的に示す要部斜視図である。
【0031】
本実施形態による充填材の充填施工方法における充填材型枠を設置し充填材を充填する工程を
図1~
図3を参照して説明する。
【0032】
本実施形態による充填材型枠は、
図1(a),
図2のように、プレキャスト部材として製造された第1のコンクリート部材11と第2のコンクリート部材12とがトレーラー等により現場搬入され施工現場で設置位置に幅gの隙間10を介して配置された状態で、隙間10を閉塞空間にするように次のようにして設置される。
【0033】
すなわち、まず、
図1(a)(b),
図2のように、第1のコンクリート部材11の端部表面11aおよび第2のコンクリート部材12の端部表面12aにおいて各端部11b,12bから距離w1の範囲内のコンクリート面の領域にプライマー13,14を塗布し下地調整をする。
【0034】
プライマー13,14を各端部表面11a,12aのコンクリート面の領域に塗布した後、たとえば、1時間程度の一定時間養生する。
【0035】
次に、
図1(c),
図2のように、幅wの粘着テープ15を、第1,第2のコンクリート部材11,12の各端部11b,12bをまたぐように配置するとともに、端部11b,12b間の隙間10の延びる方向に沿うようにして端部表面11a,12aのプライマー13,14上に貼り付ける。
【0036】
上述のようにして、粘着テープ15を、
図3のように、たとえば壁状の第1のコンクリート部材11と壁状の第2のコンクリート部材12との側面B、底面C、反対側の側面Dに渡って隙間10に沿うようにして
図1(b)(c),
図2の端部表面11a,12aのプライマー13,14に貼り付けることで、隙間10内を上部が開放した閉塞空間にする。このようにして、粘着テープ15から構成される充填材型枠を両コンクリート部材11,12間に設置することができる。
【0037】
次に、
図3のように、粘着テープ15が貼り付けられていない上面Aにおける上面隙間18からたとえば無収縮モルタルを隙間10内に打設し、隙間10内の閉塞空間に充填する。無収縮モルタルの所定の養生期間経過後に、粘着テープ15を剥がし充填材型枠を脱枠することで、充填材の充填工程が完了する。これにより、第1,第2のコンクリート部材11,12が連結され一体化する。
【0038】
なお、
図3の破線に示すように、コンクリート部材11,12の上面Aにおいて隙間10への充填材の充填に支障がない範囲まで粘着テープ15の貼り長を伸ばすようにしてもよい。これによって粘着テープ15が安定し、側面への貼付けがし易くなり、また、上面Aまで貼り長を伸ばすことで粘着テープ15の耐圧力が向上する。また、上面Aに傾斜部分がある場合等には上面A全体に粘着テープ15を貼り付け、粘着テープ15に形成した充填孔から充填材を打設することが好ましい。
【0039】
また、コンクリート部材11,12の端部表面11a,12aとは、
図1~
図3のように、隙間10を閉鎖するように粘着テープ15を貼り付ける側面B、底面C,反対側の側面D,上面Aにおける端部11b,12bから所定範囲内のコンクリート表面を指し、プライマー13,14を適用する場合は、プライマー13,14を塗布する範囲内のコンクリート表面をも指す。
【0040】
上述の粘着テープ15から構成される充填材型枠によれば、第1および第2のコンクリート部材11,12の端部表面11a,12aに貼り付けられた粘着テープ15によって両コンクリート部材11,12間の隙間10を閉塞空間にでき、かかる閉塞空間にモルタル等の充填材料を打設できる。このように、粘着テープ15だけで充填材型枠を構成でき、粘着テープ15を剥がすことで充填材型枠を除去できるので、従来の木製型枠および木製型枠支持のための支保工が不要となり、型枠支保工の設置および脱枠は、粘着テープ15の貼付けと剥がしのみになり、施工工程が簡略化し施工時間が短縮し、施工効率が向上し、型枠省力化を実現できる。
【0041】
粘着テープ15は、
図1(c)のように、支持体層15bと、支持体層15b上に接して設けられた粘着剤層15aと、を備える接合部材であって、
図2,
図3のように、コンクリート部材11,12の間の隙間10の閉塞に対応可能な幅を有し、所定の長さを有している。
【0042】
粘着テープ15の支持体層15bは、紙、不織布、網布、織布、フィルム、ゲル、金属箔等のいずれか1つ、または、これらの複合体から構成され、特に、モルタルの充填状態等を視認できるように光透過性を有し、可撓性を有し曲げることができ、高弾性率を有し外力による伸びの少ない材料が好ましい。粘着剤層15aは、ゴム系、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系等の粘着剤から構成され、特に、充填材料(モルタル)と極性が離れた低極性の材料であるゴム系の粘着剤が好ましい。
【0043】
また、
図1(b)のように、コンクリート面の下地調整のために塗布するプライマーは、好ましい粘着剤と極性が近い材料であって、被着体(コンクリート)の隙間を埋め、被着体と粘着剤の両方に接着性の良い材料から構成されることが好ましい。モルタルが充填材料であるので、たとえば、ゴム系溶剤型接着剤等のゴム系のプライマーが好ましい。
【0044】
コンクリート部材11,12間の充填施工については屋外施工が想定されるため、コンクリート面が雨水などにより湿潤している状態が考えられる。この場合、たとえばゴム系接着剤による粘着テープを湿潤面に貼り付けると粘着力が低下してしまうが、プライマー塗布による下地調整により、粘着テープの粘着力を向上させることで、コンクリート面が雨水などによる湿潤状態であっても粘着テープの粘着力が低下しない。
【0045】
図1(c),
図2のように、型枠材として必要な粘着テープ15の全幅wは、次式(1)から求めることができる。
w=2×w2+g (1)
ただし、w2:粘着テープ15の端部表面11a,12aにおける貼付幅
g:隙間10の幅
【0046】
隙間10の幅gの最大間隙幅は、対向した端部間11b,12bにおいて5~50mmの範囲内であり、充填高さが1.5mの場合には粘着テープ15の貼付幅w2は、少なくとも65mm必要であるので、粘着テープ15の全幅wは少なくとも135~180mmである。前記の貼付幅w2、全幅wは充填材の充填高さを1.5mとした場合の数値であり、同一間隙幅であっても、充填材を充填する高さによっては貼り付け幅w2を上記記載の貼付幅65mmより狭くすることも可能なため、粘着テープの全幅もより狭くすることもできる。たとえば、充填高さが0.8mの場合には粘着テープ15の貼付幅w2は少なくとも35mm必要であり、粘着テープ15の全幅wは少なくとも75~120mmである。
【0047】
また、
図1(b)(c)、
図2のように、プライマー13,14の幅w1は、粘着テープ15の貼付幅w2または粘着テープ15の両端からそれぞれ少なくとも幅jだけ幅広であることがプライマー13,14と粘着テープ15との接着面を確保する上で好ましい。幅jは少なくとも1mmであることが好ましい。
【0048】
粘着テープの粘着力について
図4を参照して説明する。
図4は、
図1~
図3のコンクリート部材間に貼り付けられた粘着テープによる充填材型枠の要部側断面図である。粘着テープは、コンクリートのひび割れ補修のための低圧注入工法で使用されており、1mm程度のひび割れ幅に対して局所的に0.1MPa程度の圧力が作用しても剥離しないことが報告されている(非特許文献1,2参照)。しかし、粘着テープを数十mmの隙間の充填材型枠として使用したケースはなく、硬化前の水頭圧が作用することで粘着テープが変形し、テープ剥離に伴う充填材漏出が懸念される。そこで、
図1(c),
図2のように、コンクリート面にプライマー13,14を塗布した上で、所定の耐圧力を発揮する所定の粘着力を有する粘着テープ15をコンクリート部材11,12間に貼り付けるが、コンクリート部材11,12間の隙間10(幅gが5~50mm程度)に貼り付ける粘着テープ15についてはテープ剛性が耐圧力を高める上で重要である。よって、プライマーによる下地調整と、テープ剛性により発揮される耐圧力と、コンクリート部材11,12間に作用する圧力と、から適切な粘着力を有する粘着テープを選定する。
【0049】
図4のように、粘着テープ15の単位面積あたりの粘着力Fが、コンクリート部材11,12間の隙間10の作用幅gにおける充填材による最大作用圧力Pを上回ることが粘着テープ15の剥離防止上好ましい。また、粘着テープ15の剛性は、粘着テープ15の初期引張強さが最大作用圧力Pを上回ることが好ましい。また、粘着テープ15は、単層で貼り付けられて使用できるが、2層、3層、・・・のように同一箇所に複層に積層して貼り付け、
図4の破線で示すように、2層の粘着テープ16,3層の粘着テープ17としてもよい。複層とした粘着テープ16,17により単層の粘着テープ15よりも剛性を増加でき、より大きい最大作用圧力Pに抵抗することができるので、必要に応じて、積層し剛性を増加させることが好ましい。
【0050】
図5は、
図3のコンクリート部材11,12のコーナー部R0を示す図(a)および曲面形状のコーナー部R1を示す図(b)である。粘着テープ15を、
図5(a)のように、コンクリート部材11,12の隅角部が角のあるコーナー部R0である場合、粘着テープ15がコーナー部R0に適用されると、その角において元の形状(直線状)に戻ろうとする復元力が作用することから粘着テープ15とコンクリート面との間に空隙kが発生し易くなり、発生した空隙kを通して充填材が洩れる可能性が生じる。かかる充填材漏洩対策として、コンクリート部材11,12の隅角部を、
図5(b)のように、曲面形状(たとえば、半径20mm以上の曲線状)のコーナー部R1にすることが好ましい。これにより、粘着テープ15を連続して貼り付けられるうえ、曲面形状のコーナー部R1において復元力の発生を緩和し、
図5(a)のような空隙kの発生を抑制することができる。
【0051】
(実験例)
以下、本発明について行った実験例を説明するが、本発明は本実験例に限定されるものではない。本実験例では、コンクリート目地部にモルタルを充填する際の型枠として粘着テープを使用する場合の性能を確認するために、表面含水率試験、粘着テープの剥離試験、モルタル充填実験を行った。粘着テープとしてひび割れ補修低圧注入工法用シール材であるニチバン株式会社販売の商品名「せこたん」(登録商標)を用いた。このシール材は、PETフィルムの基材(支持体層)にゴム系粘着剤を塗布した0.225mmの粘着テープである。また、接着プライマーとしてコニシ株式会社販売の合成ゴム系接着剤(ゴム系溶剤型接着剤)であるスプレーのりZ-3(商品名)を用いた。
【0052】
(1)表面含水率試験
モルタル充填実験で用いるモルタル試験体を用いて湿潤状態から表面含水率の経時変化を計測した。モルタル試験体を霧吹きにより湿潤させてから大気に対し暴露したものおよび封減したものについてそれぞれ表面含水率を時間の経過とともに計測した。暴露・封減時の表面含水率試験結果を
図6に示す。試験雰囲気は気温27℃、相対湿度70%であった。実施工はプライマーと粘着テープとにより封緘に近い状態になると考えられ、封緘の表面含水率が暴露よりも大きく、粘着テープの粘着にとって厳しい状態であることがわかる。
【0053】
(2)粘着テープの剥離試験(90°ピール試験)
図7のように、十分水に浸漬した湿潤状態のモルタルパネルに次の試験ケース1~4のようにそれぞれ粘着テープを貼り付け、任意時間経過後に90°剥離力を計測し、剥がした部分の表面含水率を直後に計測した。
・試験ケース1:プライマーなしで粘着テープ1層
・試験ケース2:プライマー塗布後粘着テープ1層
・試験ケース3:プライマー塗布後粘着テープ2層
・試験ケース4:プライマー塗布後粘着テープ3層
【0054】
図8(a)~(d)にそれぞれ試験ケース1~4の試験結果としてモルタル表面に対する90°剥離力と表面含水率との関係を示す。
図8(a)から試験ケース1のプライマーなしの場合は、バラツキが大きいのに対し、
図8(b)~(d)から試験ケース2~4のプライマーありの場合は、表面含水率が低いほど90°粘着力が大きくなることがわかる。
【0055】
図9に、
図8(b)~(d)の表面含水率とモルタル表面に対する90°剥離力とをまとめてプロットし、試験ケース2~4のプライマーありの場合のモルタル表面に対する90°剥離力と表面含水率との関係を示す。
図9から粘着テープの積層数が多いほど90°剥離力が大きいことがわかる。たとえば、
図6の表面含水率試験結果より封緘状態60分を想定した場合の表面含水率8%に対応するモルタル表面に対する90°剥離力を
図10のように求めると、プライマーあり1層:3.76(N/20mm)、プライマーあり2層:5.24(N/20mm)、プライマーあり3層:7.28(N/20mm)である。なお、
図10には
図8(b)~(d)に示す90°剥離力と表面含水率との近似式による関係曲線をそれぞれ示し、各近似式から表面含水率8%のときの90°剥離力を求めた。また、
図9からモルタル表面に対する90°剥離力は表面含水率4~5%の場合に最も大きいことがわかる。この90°剥離力は、粘着テープをモルタル表面から90°曲げた状態で剥離するのに要する力であり、モルタル面・コンクリート面に対する粘着テープの粘着力とみなすことができる。
【0056】
なお、
図7の剥離試験(90°ピール試験)において、90°剥離力が比較的大きい低表面含水率(4%未満)での糸曳長さLを測定した結果、プライマーあり1~3層の場合の各糸曳長さLは、大きな違いが確認されなかった。
【0057】
(3)モルタル充填実験
図11のモルタル試験体の概略図に示すように、実規模想定の作用幅g20mm(
図4参照)、深さd(奥行き)20mmの目地を形成したモルタル試験体に上記粘着テープ(全幅150mm = 貼付幅65mm×2 + 間隙20mm)を型枠として貼り付け、充填材を充填したときに漏出を防止できるか否かについて確認した。充填材は無収縮モルタル(太平洋マテリアル株式会社販売の製品名「プレユーロックス」(登録商標)比重=2.1)を使用した。試験は、水分噴霧により試験体に含水させ、プライマーを塗布し、粘着テープを貼り付け、上部から目地内に無収縮モルタルを充填した。試験条件は、プライマーあり粘着テープ1層、2層、3層、プライマーなし1層とした。プライマー塗布からモルタル充填まで60分としたので、
図6からモルタル表面含水率は8%と推定され、また、プライマーあり粘着テープ1層、2層、3層の各剥離力は
図10のとおりである。
【0058】
試験結果は、プライマーあり粘着テープ1層、2層の場合、モルタル漏出が試験体底部で確認されたが、そのときのモルタル高さHが1090mm,1530mmであった。プライマーあり粘着テープ3層の場合、モルタル高さHが1510mmでモルタル漏出が確認されなかった。漏出時のモルタル高さから充填されたモルタル自重による最大圧力を求めた。試験結果を表1,
図12に示す。なお、粘着テープ3層に関しては、所定の高さで漏出しなかったため漏出が確認できる高さまでの充填実験は実施していない。
【0059】
【0060】
表1,
図12に示すように、粘着テープの90°剥離力Bの1.3倍以上の外力Aが作用した場合に漏出が確認された。すなわち、漏出時の作用幅(20mm)の片側に加わるモルタル自重による外力Aと粘着テープの90°剥離力Bとの関係は、プライマーあり粘着テープ1層、2層のケースから、A=1.3×Bである。この関係から、たとえば、剥離力から使用できる間隙の寸法の上限値あるいは充填材の充填高さが定まる。また、プライマーあり粘着テープ3層の場合、本実験では漏出が確認されなかったが、9.5N程度の外力まで漏出しないものと推定される。
【0061】
以上の実験結果から、粘着テープの剛性は積層することで増加させることができること、充填材として比重2.1の無収縮モルタルを用いた場合、最大圧力33kN/m
2まで充填材が漏出しないことがわかった。また、粘着テープの表面含水率や封減時間等の貼り付け条件に対する90°剥離力を事前に計測することで、粘着テープを充填材型枠として使用可能である。また、粘着テープの支持体の剛性向上や粘着力の強化が図られれば、漏出しない最大圧力が大きくなり、たとえば、充填材の充填高さH(
図11)を高くできること、あるいは、粘着テープとコンクリートの貼り付け幅w2(
図1、
図2)を狭めることができることなどを実現可能である。
【0062】
本実験例で粘着テープとして使用したシール材の支持体のPETフィルム(厚さ:100μm)は、本出願人による試験によれば、引張弾性係数が約3000 N/mm2、同じく初期引張強さが約3000N/10mm(=引張弾性係数 約3000 × 厚さ0.1mm × 単位幅10mm)であった。したがって、粘着テープ1層、2層、3層の初期引張強さは、初期引張強さ約3000N/10mm ×1,2,3から、約3000N/10mm、約600 0N/10mm、約9000N/10mmである。
【0063】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、充填材型枠を構成する粘着テープは、
図3のように、コンクリート部材11,12の側面B,Dおよび底面Cに貼り付けられるが、コンクリート部材が底面側で土台等に接する場合やコンクリート部材の形状や設置位置等の条件によっては側面B,Dだけに貼り付けられる場合がある。
【0064】
また、
図1~
図3では、コンクリート部材の端部表面にプライマー塗布をしてから粘着テープを貼り付けたが、本発明はこれに限定されず、天候状況等によるコンクリート面の状態に応じて、プライマー塗布を省略し、コンクリート部材の端部表面に直接粘着テープを貼り付けるようにしてもよい。
【0065】
また、本実施形態では、第1のコンクリート部材11と第2のコンクリート部材12とがプレキャスト部材であったが、本発明はこれに限定されず、プレキャスト部材でなくともよく、たとえば、プレキャスト部材と現場施工のコンクリート部材、または、現場施工のコンクリート部材同士などであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、コンクリート部材間の隙間に充填材を充填する際に使用する充填材型枠を粘着テープから構成することで、施工手間の低減、充填材の充填施工効率の向上および型枠省力化を実現できる。
【符号の説明】
【0067】
10 隙間
11 第1のコンクリート部材
12 第2のコンクリート部材
11a,12a 端部表面
11b,12b 端部
13,14 プライマー
15 粘着テープ
15a 粘着剤層
15b 支持体層
16 2層の粘着テープ
17 3層の粘着テープ
18 上面隙間
g 隙間10の幅、作用幅
k 空隙
w 粘着テープの全幅
w1 プライマーの幅
w2 粘着テープの片側貼付幅
【要約】
【課題】コンクリート部材間の隙間に充填材を充填する際に使用して充填材充填の施工効率を向上可能な充填材型枠、かかる充填材型枠を用いた充填材の充填施工方法、および、かかる充填材型枠に使用する充填材型枠用粘着テープを提供する。
【解決手段】この充填材型枠は、第1のコンクリート部材11と第2のコンクリート部材12との間の隙間10に充填材を充填する際に用いられ、充填材型枠は、支持体層15bと粘着剤層15aとを備えた粘着テープ15から構成され、第1のコンクリート部材の端部11bと第2のコンクリート部材の端部12bとをまたぐように配置されるとともに粘着剤層により第1のコンクリート部材の端部表面11aと第2のコンクリート部材の端部表面12aとに貼り付けられた粘着テープにより隙間内を閉塞空間にする。
【選択図】
図1