(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】三層被覆金属管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 1/08 20060101AFI20230315BHJP
B32B 15/092 20060101ALI20230315BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20230315BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20230315BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230315BHJP
B05D 1/06 20060101ALI20230315BHJP
B05D 1/24 20060101ALI20230315BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230315BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
B32B1/08 A
B32B15/092
B05D7/14 K
B05D3/02 B
B05D3/00 D
B05D3/02 Z
B05D1/06 L
B05D1/06 K
B05D1/06 H
B05D1/24
B05D7/24 301A
B05D7/24 302U
B05D7/24 301P
B05D7/24 301S
B05D7/24 302G
H05B6/10 371
(21)【出願番号】P 2022534523
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2020026505
(87)【国際公開番号】W WO2022009295
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-12-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000208695
【氏名又は名称】第一高周波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 修也
(72)【発明者】
【氏名】梅田 勇
(72)【発明者】
【氏名】岩本 盛男
(72)【発明者】
【氏名】木村 壮次郎
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-106341(JP,A)
【文献】特開2020-032366(JP,A)
【文献】特開2018-193570(JP,A)
【文献】特開2006-247887(JP,A)
【文献】特開2017-177458(JP,A)
【文献】特開2004-130669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00- 7/26
B05B 5/00- 5/16
B05C 1/00- 3/20
7/00-21/00
H05B 6/00- 6/10
6/14- 6/44
B29C63/00-63/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属管の外周面に、エポキシ樹脂層、接着層、ポリオレフィン樹脂層をこの順に積層した三層被覆金属管の製造方法であって、該エポキシ樹脂層、該接着層及び該ポリオレフィン樹脂層を、粉体塗装により形成するものであり、下記の工程(1)から工程(5)をこの順に行うことを特徴とする三層被覆金属管の製造方法。
(1)該金属管を、該エポキシ樹脂層の原料のエポキシ樹脂のガラス転移点(Tg1)以上、かつ、該エポキシ樹脂の架橋反応温度以下に加熱する工程
(2)該エポキシ樹脂の塗膜を、静電塗装法又は流動浸漬法により該金属管の外周面に形成する工程
(3)半溶融状態の該エポキシ樹脂の塗膜上に、静電塗装法又は流動浸漬法により熱溶融接着剤の塗膜を形成する工程
(4)該金属管を工程(1)よりも高い温度で加熱する工程
(5)該熱溶融接着剤の塗膜上に、ポリオレフィン樹脂の塗膜を形成する工程
【請求項2】
工程(2)の完了後即座に工程(3)を行う請求項1に記載の三層被覆金属管の製造方法。
【請求項3】
前記金属管を加熱する工程において、該金属管を誘導加熱によって均一に加熱する請求項1又は請求項2に記載の三層被覆金属管の製造方法。
【請求項4】
工程(1)における加熱温度が60℃以上140℃以下である請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の三層被覆金属管の製造方法。
【請求項5】
工程(4)における加熱温度が200℃以上300℃以下である請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の三層被覆金属管の製造方法。
【請求項6】
工程(5)を静電塗装法又は流動浸漬法により行い、工程(5)の後に下記工程(6)を行う請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の三層被覆金属管の製造方法。
(6)前記金属管を加熱する工程
【請求項7】
工程(6)の後に、下記工程(7)を1回以上行う請求項6に記載の三層被覆金属管の製造方法。
(7)前記金属管の外周面の最上層のポリオレフィン樹脂の塗膜上に、更にポリオレフィン樹脂を静電塗装法又は流動浸漬法により塗装することで該ポリオレフィン樹脂の塗膜を厚膜化し、その後、該金属管を加熱する工程
【請求項8】
前記ポリオレフィン樹脂層の平均厚さが0.1mm以上10mm以下である請求項1ないし請求項7の何れかの請求項に記載の三層被覆金属管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂層、接着層、ポリオレフィン樹脂層をこの順に積層した三層被覆金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海域で使用する鋼構造物に用いる鋼管や寒冷地等の過酷な環境下に敷設するパイプラインに用いる鋼管には、耐腐食性や耐衝撃性が要求され、そのような要求を満たす鋼管として、エポキシ樹脂層、接着層、ポリオレフィン樹脂層を外周面に積層被覆した三層被覆鋼管が使用されており、その製造方法が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、鋼管にエポキシ粉体塗料を塗装後、ポリオレフィン樹脂と変性ポリオレフィン樹脂をそれぞれの押出機からTダイを通して帯状に共押出し、回転する鋼管に、接着層及びポリオレフィン層を形成し、鋼管表面に三層被覆を形成している。
しかし、この方法は、鋼管を回転しながら層を形成することから、曲管に対しては適用することができないという難点がある。
【0004】
特許文献2では、鋼管の外面に、エポキシプライマー層を形成した後、ポリオレフィン接着層およびポリオレフィン層を有するポリオレフィン成形物を、上記鋼管に融着させることにより、鋼管表面に三層被覆を形成している。特許文献2のポリオレフィン成形物は、シート形状やパネル形状である。
【0005】
特許文献3では、金属曲管の外周面に、まず、反応硬化性エポキシ樹脂の不完全硬化定着層を形成し、次いで、定着層の上に、熱融接着剤の薄膜層及びポリオレフィンの厚膜層を接触した状態に配置した仮組み複層被覆を形成し、その後、この被覆の下の金属曲管を誘導加熱することにより、金属曲管に三層被覆を形成している。
特許文献3においては、曲管にポリオレフィンの厚膜層を形成する方法として、ポリオレフィンテープを包帯巻きする方法、溶射による方法、ポリオレフィン製の複数の短管を一時的に拡径させた状態で遊嵌し元の径への復元によって密に嵌合させる方法、複数のセグメントに分割されたポリオレフィン製の曲管状成形体セグメントの端部同志を溶接接合して一体化する方法が記載されている。
【0006】
特許文献2や特許文献3に記載のシートやテープを使用した方法では、気泡が混入しないよう、細心の注意を払う必要があり、また、ポリオレフィン樹脂層の厚さを制御することが困難である。また、溶射による方法の場合も、ポリオレフィン樹脂層を厚膜化することはできない。
更に、複数の短管を使用した方法や曲管状成形体セグメントを使用する方法では、短管やセグメントの接合部分の厚さが、他の部分と比べて異なり、不具合を生じる場合があった。
【0007】
また、特許文献3には、粉末塗装を用いて3層被覆を施すことは理論的には可能であるものの、実用化が困難であると記載されている。
【0008】
三層被覆金属管は、様々な条件での使用が想定され、使用条件に合った三層被覆金属管を生産性良く製造することのできる方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-247887号公報
【文献】特開2017-177458号公報
【文献】特開2004-130669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、密着強度が大きく信頼性の高い三層被覆金属管を、生産性良く製造することのできる製造方法を提供することにあり、またかかる方法によって製造した三層被覆金属管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、エポキシ樹脂層を形成する前に、金属管を特定温度で予熱しておき、エポキシ樹脂層及び接着層の塗布完了後に、更に高温で金属管を加熱(再加熱)することによって、すなわち、二段階で加熱を行うことによって、三層全てを粉体塗装により形成する場合であっても、密着強度が大きく信頼性の高い三層被覆金属管を製造することが可能であることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、金属管の外周面に、エポキシ樹脂層、接着層、ポリオレフィン樹脂層をこの順に積層した三層被覆金属管の製造方法であって、該エポキシ樹脂層、該接着層及び該ポリオレフィン樹脂層を、粉体塗装により形成するものであり、下記の工程(1)から工程(5)をこの順に行うことを特徴とする三層被覆金属管の製造方法を提供するものである。
【0013】
(1)該金属管を、該エポキシ樹脂層の原料のエポキシ樹脂のガラス転移点(Tg1)以上、かつ、該エポキシ樹脂の架橋反応温度以下に加熱する工程
(2)該エポキシ樹脂の塗膜を、静電塗装法又は流動浸漬法により該金属管の外周面に形成する工程
(3)半溶融状態の該エポキシ樹脂の塗膜上に、静電塗装法又は流動浸漬法により熱溶融接着剤の塗膜を形成する工程
(4)該金属管を工程(1)よりも高い温度で加熱する工程
(5)該熱溶融接着剤の塗膜上に、ポリオレフィン樹脂の塗膜を形成する工程
【0014】
また、本発明は工程(5)を静電塗装法又は流動浸漬法により行い、工程(5)の後に下記工程(6)を行う前記の三層被覆金属管の製造方法を提供するものである。
【0015】
(6)前記金属管を加熱する工程
【0016】
また、本発明は、工程(6)の後に、下記工程(7)を1回以上行う前記の三層被覆金属管の製造方法を提供するものである。
【0017】
(7)前記金属管の外周面の最上層のポリオレフィン樹脂の塗膜上に、更にポリオレフィン樹脂を静電塗装法又は流動浸漬法により塗装することで該ポリオレフィン樹脂の塗膜を厚膜化し、その後、該金属管を加熱する工程
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、密着強度が大きく信頼性の高い三層被覆金属管を、生産性良く製造することができる。
【0019】
本発明では、エポキシ樹脂層を形成する前の金属管の予熱温度は、エポキシ樹脂の劣化温度よりも低く、エポキシ樹脂層の劣化が発生しないので、本発明の方法により製造された金属管は、防食性に優れる。
【0020】
本発明では、エポキシ樹脂を半溶融状態で塗布した後、即座に、熱溶融接着剤を塗布する。すなわち、1層目の塗布と2層目の塗布の間のオープンタイムを、実質ゼロとすることができる。よって、本発明では、生産性が向上するのみならず、接着層の接着力も向上し、信頼性の高い三層被覆金属管を製造することが可能である。
【0021】
本発明では、1層目と2層目を塗布した後に、工程(4)において、1層目、好ましくは1層目と2層目を硬化させるので、1層目の塗布の前に必要以上に金属管を加熱しておく必要が無い。このため、本発明では、1層目の素材であるエポキシ樹脂の劣化が起きにくい。
例えば、粉末塗装を用いて3層目の原料であるポリオレフィン樹脂を十分な厚さで形成するためには、金属管の温度が250℃程度となっている必要がある。このような温度で3層目を塗布する場合、1層目を塗布する前の金属管の温度は、320℃程度にしておく必要があり、エポキシ樹脂の劣化の原因となる。このため、特許文献3においては、粉末塗装による3層被覆の実用化は困難であるとされている。
本発明では、金属管を段階的に加熱するので、過剰な金属管の加熱に起因するエポキシ樹脂の劣化を防止できる。
【0022】
本発明では、最上層のポリオレフィン樹脂層を粉体塗装により形成するので、特許文献2や特許文献3のようなシートやテープを使用した方法に見られる気泡の発生の問題は生じない。
【0023】
本発明の方法は、最上層のポリオレフィン樹脂層を形成する前に、金属管を加熱(再加熱)する工程を有する。このため、特許文献3のように、エポキシ樹脂を塗布する前の段階の予熱のみで形成する方法に比べて、ポリオレフィン樹脂層の厚さの制御が容易である。特に、本発明では、ポリオレフィン樹脂層を複数回に亘って塗装可能であるので、厚いポリオレフィン樹脂層を持つ三層被覆金属管を製造することが可能である。
【0024】
本発明では、1層目のエポキシ樹脂層、2層目の接着層の原料の塗布が完了した段階(高温で金属管を加熱(再加熱)する前の段階)では、エポキシ樹脂の架橋反応は進行していない。このため、エポキシ樹脂を塗布した状態、又は、エポキシ樹脂及び熱溶融接着剤を塗布した状態の金属管を、保存しておき、3層目のポリオレフィン樹脂層の形成を、例えば、別の場所で別途行うことができる。
【0025】
本発明では、特許文献3のように移動式の加熱ではなく、金属管を誘導加熱によって均一に加熱することができる。よって、本発明では、金属管全体の接着力を均一とすることができる。
【0026】
本発明では、塗膜の形成時に金属管を回転させる必要はないので、本発明は、曲管である金属管にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の三層被覆金属管の製造方法により製造した三層被覆金属管の構造を示す模式図である。
【
図2】本発明の三層被覆金属管の製造方法により製造した三層被覆金属管の構造を示す模式図である(ポリオレフィン樹脂層を複数回に分けて形成した場合)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0029】
本発明により製造される三層被覆金属管1の模式図を
図1及び
図2に示す。本発明においては、金属管10の外周面10Sに、エポキシ樹脂層11、接着層12、ポリオレフィン樹脂層13をこの順に積層することにより、三層被覆金属管1を製造する。本発明では、エポキシ樹脂層11、接着層12、ポリオレフィン樹脂層13は、何れも、粉体塗装により形成する。
【0030】
本発明では、三層被覆金属管1の最上層のポリオレフィン樹脂層13を、複数回に分けて形成することもできる。例えば、
図2では、2回に分けてポリオレフィン樹脂層13A及びポリオレフィン樹脂層13Bを形成した例を示す。
【0031】
本発明における金属管10としては、電縫鋼管、鍛接鋼管、シームレス鋼管、スパイラル鋼管、UOE鋼管等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
また、例えば、特許文献1のように、金属管を回転して塗膜を形成する方法は、曲管には適用できない。したがって、全ての層を粉末塗装により形成するという本発明の特徴は、金属管10が曲管である場合の方が生かされやすい。ただし、金属管10が直管である場合が本発明の範囲外となるものではない。
【0033】
本発明では、エポキシ樹脂層11、接着層12、ポリオレフィン樹脂層13を全て、粉体塗装により形成するので、気泡の混入等の問題が生じにくく、また、それぞれの層の均一性を確保しやすい。
【0034】
エポキシ樹脂層11は、粉末エポキシ樹脂を原料として形成する。エポキシ樹脂としては、市販の粉末エポキシ樹脂を適宜使用することができる。エポキシ樹脂層を設けることにより、金属管の防食性を高めることができる。
【0035】
エポキシ樹脂層11の原料となるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が例示できる。
【0036】
エポキシ樹脂層11の平均厚さは、50μm以上であることが好ましく、70μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることが特に好ましい。また、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることが特に好ましい。
上記範囲内であると、十分に耐食性を発揮し、また、コストを抑制しやすい。
【0037】
ポリオレフィン樹脂層13は、耐衝撃性を高める等の目的で設けられている。ポリオレフィン樹脂層13は、ポリオレフィン樹脂を原料として形成する。
【0038】
ポリオレフィン樹脂に特に限定は無く、低密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリエチレン-プロピレン共重合体樹脂、等が例示できる。
これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
ポリオレフィン樹脂層13の平均厚さは、0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.5mm以上であることが特に好ましい。また10mm以下であることが好ましく、7mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることが特に好ましい。
上記下限以上であると、十分な耐衝撃性を発揮できる。上記上限以下であると、コスト的に有利である。
【0040】
ポリオレフィン樹脂層13の平均厚さは、通常、上記した範囲内において、求められる保護特性に応じて、適宜選択される。本発明では、ポリオレフィン樹脂層13を均一な厚みで形成しやすく、また、厚さの制御も容易である。更に、本発明では、ポリオレフィン樹脂層を複数回に亘って形成することも可能である。本発明は、上記上限付近の厚さの(すなわち、厚さの大きい)ポリオレフィン樹脂層13を持つ三層被覆金属管1を製造するのに適している。
【0041】
接着層12は、エポキシ樹脂層11とポリオレフィン樹脂層13との間の接着性を向上させるために設けられている。接着層12は、熱溶融接着剤を原料として形成する。熱溶融接着剤は、エポキシ樹脂とポリオレフィン樹脂の何れにも良好に接合する特性を持つ。
【0042】
熱溶融接着剤は、該特性を持つ物であれば、特に限定は無いが、ポリオレフィン樹脂を無水マレイン酸等の酸無水物で変性した変性ポリオレフィン樹脂や、オレフィンと他のモノマーの共重合体、等が挙げられる。後者の例としては、エチレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-無水マレイン酸-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸エステル共重合体等が例示できる。
これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
接着層12の平均厚さは、50μm以上であることが好ましく、70μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることが特に好ましい。また、400μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることが特に好ましい。
上記範囲内であると、十分な接着性を発揮し、また、コストを抑制しやすい。
【0044】
本発明では、下記の工程(1)~工程(5)をこの順に行うことにより、三層被覆金属管1を製造する。必要に応じて、下記の工程(6)や工程(7)、その他の工程を行うこともできる。
【0045】
<工程(1)>
工程(1)においては、金属管10を、エポキシ樹脂層11の原料のエポキシ樹脂のガラス転移点(Tg1)以上、かつ、該エポキシ樹脂の架橋反応温度以下に加熱する。
【0046】
工程(1)は、1層目であるエポキシ樹脂層11、及び2層目である接着層12を金属管10の上に形成するために、金属管10を予熱しておく工程である。
工程(1)における金属管10の加熱温度は、エポキシ樹脂のガラス転移点(Tg1)以上、かつ、エポキシ樹脂の架橋反応温度以下である。すなわち、次の工程(2)において、エポキシ樹脂を金属管10に塗布した際に、エポキシ樹脂が半溶融状態となるような温度である。
【0047】
工程(1)において、このような温度範囲に金属管10を予熱しておくことにより、後記の工程(3)において、半溶融状態のエポキシ樹脂の塗膜の上に熱溶融接着剤を塗布することができ、1層目(エポキシ樹脂層11)と2層目(接着層12)の間の接着力が向上する。
【0048】
仮に、工程(1)を行うことなく、エポキシ樹脂の塗布(工程(2))及び熱溶融接着剤の塗布(工程(3))を行った場合、静電反発により、2層目(接着層12)が、剥がれ落ちる場合がある。
また、特許文献3に記載のように、ポリオレフィン樹脂を塗布する工程を見越して、エポキシ樹脂を塗布する前の段階において、320℃程度の高温で金属管10を加熱すると、エポキシ樹脂の劣化が発生するところ、本発明の工程(1)の加熱温度では、エポキシ樹脂の劣化は発生しない。
すなわち、本発明では、工程(1)を行うことにより、1層目(エポキシ樹脂層11)及び2層目(接着層12)の剥離等の不具合が発生しにくくなる。
【0049】
なお、「エポキシ樹脂の架橋反応温度以下」とは、エポキシ樹脂が架橋により完全に硬化しておらず、半溶融状態を保っている状態である温度域のことをいい、架橋反応が一部開始していたとしても、半溶融状態を保っている温度であれば、「エポキシ樹脂の架橋反応温度以下」に該当する。
【0050】
使用するエポキシ樹脂等の種類により、工程(1)を行うのに適した加熱温度は異なるが、工程(1)における加熱温度は、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上が特に好ましい。また、140℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましく、100℃以下が特に好ましい。
【0051】
工程(1)において、金属管10を、所定の温度に加熱する具体的な方法について、特に限定はなく、炉内に投入して加熱する方法、誘導加熱による方法、ガスバーナーによる方法等が挙げられる。
均一性の点から、誘導加熱による方法が特に望ましい。
【0052】
<工程(2)>
工程(2)においては、エポキシ樹脂の塗膜を、静電塗装法又は流動浸漬法により金属管10の外周面10Sに形成する。
工程(2)は、工程(1)において、金属管10の温度が前記温度範囲になった後、即座に行うのが望ましい。
【0053】
工程(2)において、前記温度範囲に加熱された金属管10に塗布されたエポキシ樹脂は、半溶融状態となる。
【0054】
工程(2)においては、静電塗装法又は流動浸漬法により、エポキシ樹脂の塗膜を形成する。溶射法は、金属管の温度を著しく上げてしまい、例えば、従来の方法の欠点が表出してしまうので、工程(2)に適用することは望ましくない。
【0055】
<工程(3)>
工程(3)においては、半溶融状態のエポキシ樹脂の塗膜上に、静電塗装法又は流動浸漬法により熱溶融接着剤の塗膜を形成する。
【0056】
工程(3)は、工程(2)の完了後、即座に行うのが、生産性の観点からも、三層被覆金属管1の品質の観点からも望ましい。
【0057】
工程(3)においては、静電塗装法又は流動浸漬法により、熱溶融接着剤の塗膜を形成する。工程(2)の場合と同様、溶射法は、金属管の温度を著しく上げてしまうので、工程(3)に適用することは望ましくない。
【0058】
熱溶融接着剤は、エポキシ樹脂とポリオレフィン樹脂を接合するために使用されるので、熱溶融接着剤により形成される接着層12を厚くする必要はない。このため、生産性の観点から、工程(3)は、静電塗装法により行うのが望ましい。
【0059】
工程(1)から工程(3)までを行った場合、金属管10の上に、未硬化のエポキシ樹脂の塗膜、及び、熱溶融接着剤の塗膜が塗布された状態となる。
本発明では、工程(3)までを行った状態で金属管10を保存しておくことができる。例えば、工程(4)移行の工程を別の場所に移送してから行うこともできる。
【0060】
<工程(4)>
工程(4)においては、金属管10を工程(1)よりも高い温度で加熱する。
【0061】
工程(4)は、工程(2)で形成したエポキシ樹脂の塗膜を硬化させるために、金属管10を加熱する工程である。
また、工程(4)における加熱は、次の工程(5)において、ポリオレフィン樹脂の塗膜を十分な厚さで粉末塗装できるようにするための予熱、という役割も兼ねる。
【0062】
上記した2つの役割を果たすため、工程(4)における加熱温度は、前記した工程(1)における加熱温度よりも高くする必要がある。
一方、エポキシ樹脂の劣化を防止するために、工程(4)における加熱温度は、高くし過ぎないようにする必要がある。
【0063】
工程(4)における加熱温度は、使用するエポキシ樹脂の種類にもよるが、200℃以上が好ましく、210℃以上がより好ましく、220℃以上が特に好ましい。また、300℃以下が好ましく、290℃以下がより好ましく、280℃以下が特に好ましい。
加熱温度が上記下限より低いと、エポキシ樹脂が十分に硬化しない場合がある。また、加熱温度が上記上限より高いと、エポキシ樹脂の劣化が進行してしまう場合がある。
【0064】
工程(4)において、金属管10を、所定の温度に加熱する具体的な方法について、特に限定はなく、炉内に投入して加熱する方法、誘導加熱による方法、ガスバーナーによる方法等が挙げられる。
均一性の点から、誘導加熱による方法が特に望ましい。
【0065】
<工程(5)>
工程(5)においては、熱溶融接着剤の塗膜上に、ポリオレフィン樹脂の塗膜を形成する。
工程(5)は、工程(4)において、金属管10の温度が前記温度範囲になった後、即座に行うのが望ましい。
【0066】
工程(5)において、ポリオレフィン樹脂の塗膜を形成するための方法は、粉体塗装による方法であれば、特に限定は無い。例えば、静電塗装法、流動浸漬法、溶射法等が例示できる。
【0067】
ポリオレフィン樹脂層13の厚さの均一性や、コスト等の点から静電塗装法や流動浸漬法が望ましく、流動浸漬法が特に望ましい。
また、求められる保護特性によっては、ポリオレフィン樹脂層13を厚く形成する需要が存在する。溶射法は、厚い塗膜を形成するには不向きであることから、厚いポリオレフィン樹脂層13を形成したい場合は、静電塗装法や流動浸漬法が望ましい。
【0068】
<工程(6)>
工程(6)は、必要な場合に、工程(5)の後に行われる。工程(6)は、金属管10を加熱する工程である。
工程(6)は、工程(5)を静電塗装法や流動浸漬法で行った場合に必要となる。
【0069】
工程(6)は、工程(5)を静電塗装法や流動浸漬法で行った場合、金属管10の加熱が必要となる。
一方、溶射法によって工程(5)を行った場合、金属管10の温度は十分に上昇するので、工程(6)を行う必要はない。
【0070】
工程(6)における加熱温度は、使用するポリオレフィン樹脂の種類にもよるが、200℃以上が好ましく、220℃以上が特に好ましい。また、300℃以下が好ましく、260℃以下が特に好ましい。
【0071】
工程(6)において、金属管10を、所定の温度に加熱する具体的な方法について、特に限定はなく、炉内に投入して加熱する方法、誘導加熱による方法、金属管内部に蒸気を通気させる方法等が挙げられる。
均一性や生産性の点から、誘導加熱による方法が特に望ましい。
【0072】
<工程(7)>
工程(7)は、工程(5)を静電塗装法や流動浸漬法で行った場合に、必要に応じて、工程(6)の後に1回以上行われる。工程(7)は、金属管10の外周面10Sの最上層のポリオレフィン樹脂の塗膜上に、更にポリオレフィン樹脂を静電塗装法又は流動浸漬法により塗装することでポリオレフィン樹脂の塗膜を厚膜化し、その後、金属管10を加熱する工程である。
【0073】
工程(7)を行う場合、ポリオレフィン樹脂層13は複数回に亘って塗装されることで形成される。例えば、
図2は、工程(7)を1回行った場合の模式図であり、ポリオレフィン樹脂層13のうち、工程(5)で形成したポリオレフィン樹脂の塗膜に由来する部分が13A、工程(7)で形成した形成したポリオレフィン樹脂の塗膜に由来する部分が13Bである。
【0074】
工程(7)を行うことにより、13Bの分だけポリオレフィン樹脂層13が厚くなるので、厚いポリオレフィン樹脂層13を持つ三層被覆金属管1を製造しやすくなり、かかる三層被覆金属管1の需要に応えることができる。
【0075】
工程(7)における加熱温度の好ましい範囲は、前記した工程(6)の加熱温度の好ましい範囲と同様である。
【0076】
工程(6)において、金属管10を、所定の温度に加熱する具体的な方法について、特に限定はなく、炉内に投入して加熱する方法、誘導加熱による方法、金属管内部に蒸気を通気させる方法等が挙げられる。
【0077】
工程(7)は、2回以上行ってもよい。すなわち、
図2において、13Bの上に、13C、13D、・・・(図示せず)が存在してもよい。
【0078】
本発明では、金属管10を加熱する工程が複数存在する(工程(1)、工程(4)、工程(6)、工程(7))。それぞれの工程における加熱方法は同一であってもよいし、異なっていてもよい。少なくとも、工程(4)、工程(6)及び工程(7)は、通常、連続して行われるので、同一であるのが望ましい。
また、本発明では、金属管10を加熱する工程において、金属管10を誘導加熱によって均一に加熱するのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の方法により製造される三層被覆金属管は、密着強度が大きく信頼性が高く、また、最外層であるポリオレフィン樹脂層の厚さの制御が容易であり厚膜化も可能であるので、ガス管、水道管、ケーブル保護管等として広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0080】
1 三層被覆金属管
10 金属管
10S 外周面
11 エポキシ樹脂層
12 接着層
13 ポリオレフィン樹脂層
13A ポリオレフィン樹脂層
13B ポリオレフィン樹脂層