(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】除染強度センサ、除染システム、除染強度の検出方法、除染強度の検出プログラム
(51)【国際特許分類】
A61L 2/28 20060101AFI20230315BHJP
A61L 101/22 20060101ALN20230315BHJP
【FI】
A61L2/28
A61L101:22
(21)【出願番号】P 2022557157
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2022034638
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2021210950
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】茂田 誠
(72)【発明者】
【氏名】池田 卓司
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-074033(JP,A)
【文献】国際公開第2013/042179(WO,A1)
【文献】特開昭64-054244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00-28
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
除染対象中に配置されるセンサ部の電気抵抗値に基づいて、前記除染対象中の過酢酸によって除染される微生物およびウイルスの少なくとも一方に対する除染の
進行の程度を検出する除染強度センサにおける前記センサ部として用いられる電極であって、
前記過酢酸によって腐食する金属によって構成さ
れ、かつ、除染強度が高くなるにつれて前記金属の腐食が進行することによって、前記電気抵抗値が増加するように構成される
電極。
【請求項2】
前記腐食は、前記金属が酢酸塩に変化する化学反応を含む
請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記金属は、銅および亜鉛の少なくとも一方を含む
請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記金属は、前記銅および前記亜鉛を含む合金である
請求項3に記載の電極。
【請求項5】
請求項1または2に記載の電極を前記センサ部とする、
除染強度センサ。
【請求項6】
前記センサ部は、第1センサ部と第2センサ部とを含み、
前記第1センサ部は、前記金属が前記除染対象中に曝露している前記電極であり、
前記第2センサ部は、前記金属の表面が腐食しないようにマスキングされている前記電極である、
請求項5に記載の除染強度センサ。
【請求項7】
請求項5に記載の除染強度センサと、
前記除染対象中に前記過酢酸を噴出する除染装置と、を備える除染システム。
【請求項8】
前記除染装置は、前記除染強度センサから前記除染の完了を示す情報を取得すると、前記過酢酸の噴出を停止するように構成される
請求項7に記載の除染システム。
【請求項9】
除染対象中の過酢酸によって除染される微生物およびウイルスの少なくとも一方に対する除染の
進行の程度を検出する除染強度の検出方法であって、
前記過酢酸によって腐食する金属によって構成され
、かつ、除染強度が高くなるにつれて前記金属の腐食が進行することによって、電気抵抗値が増加するように構成される電極を含むセンサ部であって、前記除染対象中に配置された前記センサ部から、前記電極の
前記電気抵抗値を取得するステップと、
取得した前記電気抵抗値が所定の条件を満たすと、前記除染が完了したと判定するステップと、を含む
除染強度の検出方法。
【請求項10】
除染対象中の過酢酸によって除染される微生物およびウイルスの少なくとも一方に対する除染の
進行の程度を検出する除染強度の検出プログラムであって、
前記過酢酸によって腐食する金属によって構成され
、かつ、除染強度が高くなるにつれて前記金属の腐食が進行することによって、電気抵抗値が増加するように構成される電極を含むセンサ部であって、前記除染対象中に配置された前記センサ部から、前記電極の
前記電気抵抗値を取得するステップと、
取得した前記電気抵抗値が所定の条件を満たすと、前記除染が完了したと判定するステップと、をコンピュータに実行させる
除染強度の検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除染強度センサ、除染システム、除染強度の検出方法、および、除染強度の検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、除染対象の一例としてのセーフティキャビネットの内部を過酢酸によって除染するように構成される除染システムを開示している。この除染システムでは、除染が完了した否かが、セーフティキャビネット内に配置されるバイオロジカルインジケータを用いて判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記除染システムでは、バイオロジカルインジケータに付着した菌等を培養液中で培養させ、培養液の色の変化によって、除染対象の除染が完了したか否かを判定する。菌等を培養させるためには、少なくとも1週間程度の時間を要する。このため、上記除染システムでは、除染対象の除染が完了したか否かを短時間で判定することができない。
【0005】
本発明は、除染対象の除染が完了したか否かを短時間で判定できる除染強度センサ、除染システム、除染強度の検出方法、および、除染強度の検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る除染強度センサは、過酢酸によって除染される微生物およびウイルスの少なくとも一方に対する除染の程度を検出する除染強度センサであって、前記過酢酸によって腐食する金属によって構成され、前記金属が曝露している曝露部を含む。
【0007】
本願発明者(ら)は、過酢酸によって除染される微生物およびウイルスの少なくとも一方が存在する除染対象が過酢酸によって除染される場合、除染強度が高くなるにつれて金属の腐食が進行し、電気抵抗値が増加することを見出した。上記除染強度センサによれば、除染対象の除染強度が高くなるにつれて曝露部の腐食が進行するため、曝露部の電気抵抗値が増加する。このため、例えば、除染が開始される前の曝露部の電気抵抗値と除染が開始された後の曝露部の電気抵抗値との関係が、予め定められる除染が完了したと判定できる条件を満たした場合に除染が完了したと判定できる。このため、除染対象の除染が完了したことを短時間で判定できる。
【0008】
本発明の第2観点に係る除染強度センサは、第1観点に係る除染強度センサであって、前記腐食は、前記金属が酢酸塩に変化する化学反応を含む。
【0009】
酢酸塩は、水に可溶である。上記除染強度センサによれば、曝露部が腐食した場合に腐食した部分を例えば、純水で湿らせた不織布で拭くことによって、腐食した部分を除去できる。
【0010】
本発明の第3観点に係る除染強度センサは、第1観点または第2観点に係る除染強度センサであって、前記金属は、銅および亜鉛の少なくとも一方を含む。
【0011】
上記除染強度センサによれば、過酢酸によって曝露部の腐食が好適に進行する。
【0012】
本発明の第4観点に係る除染強度センサは、第3観点に係る除染強度センサであって、前記金属は、前記銅および前記亜鉛を含む合金である。
【0013】
上記除染センサによれば、過酢酸によって曝露部の腐食が特に好適に進行する。
【0014】
本発明の第5観点に係る除染強度センサは、第1観点~第4観点のいずれか1つに係る除染強度センサであって、前記曝露部を含む第1センサ部と、前記金属によって構成され、前記金属が腐食しないようにマスキングされている第2センサ部と、を備える。
【0015】
上記除染強度センサによれば、除染対象の除染強度が高くなるにつれて第1センサ部の曝露部の腐食が進行するため、第1センサ部の電気抵抗値が増加する。一方、第2センサ部は、マスキングされているため、除染対象の除染強度が高くなった場合でも腐食しない。このため、第2センサ部の電気抵抗値は、実質的に変化しない。このため、第1センサ部の電気抵抗値と第2センサ部の電気抵抗値との関係が、予め定められる除染が完了したと判定できる条件を満たした場合に除染が完了したと判定できる。このため、除染対象の除染が完了したことを短時間で判定できる。
【0016】
本発明の第6観点に係る除染システムは、第1観点~第5観点のいずれか1つ係る除染強度センサと、前記微生物および前記ウイルスの少なくとも一方が存在する除染対象に前記過酢酸を噴出する除染装置と、を備える。
【0017】
上記除染システムによれば、第1観点に係る除染強度センサによって得られる効果と同様の効果が得られる。
【0018】
本発明の第7観点に係る除染システムは、第6観点に係る除染システムであって、前記除染装置は、前記曝露部の腐食の進行が、予め定められる除染が完了したと判定できる条件を満たした場合に、前記過酢酸の噴出を停止するように構成される。
【0019】
上記除染システムによれば、過酢酸の噴出量が多くなることを抑制できる。
【0020】
本発明の第8観点に係る除染強度の検出方法は、除染強度センサを用いて、過酢酸によって除染される微生物およびウイルスの少なくとも一方に対する除染の程度を検出する除染強度の検出方法であって、前記除染強度センサは、前記過酢酸によって腐食する金属によって構成され、前記金属が曝露している曝露部を含み、前記曝露部の腐食の進行が予め定められる除染が完了したと判定できる条件を満たしているか否かを判定するステップを含む。
【0021】
上記除染強度の検出方法によれば、第1観点に係る除染強度センサによって得られる効果と同様の効果が得られる。
【0022】
本発明の第9観点に係る除染強度の検出プログラムは、除染強度センサを用いて、過酢酸によって除染される微生物およびウイルスの少なくとも一方に対する除染の程度を検出する除染強度の検出プログラムであって、前記除染強度センサは、前記過酢酸によって腐食する金属によって構成され、前記金属が曝露している曝露部を含み、前記曝露部の腐食の進行が予め定められる除染が完了したと判定できる条件を満たしているか否かを判定するステップをコンピュータに実行させる。
【0023】
上記除染強度の検出プログラムによれば、第1観点に係る除染強度センサによって得られる効果と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に関する除染強度センサ、除染システム、除染強度の検出方法、および、除染強度の検出プログラムによれば、除染対象の除染が完了したか否かを短時間で判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態の除染システムの概略構成を示す図。
【
図4】基準比率RAXの算出方法の一例を示すフローチャート。
【
図6】第1試験に用いられる除染システムの概略構成を示す図。
【
図7】第1試験の試験例1~7の試験結果を示す表。
【
図8】第1試験の試験例6の試験結果を示すグラフ。
【
図9】第1試験の試験例8、9の試験結果を示す表。
【
図10】第2試験に用いられる除染システムの概略構成を示す図。
【
図11】第2試験の試験例10の試験結果を示す表。
【
図12】第3試験に用いられる金属のサンプルの諸元を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る除染システムについて説明する。なお、本実施形態において、除染とは、空間に浮遊していたり、任意の物体の表面に付着している微生物およびウイルスに対して薬剤等を用いて損傷を与え、生存する微生物およびウイルスの数を減らすこと、死滅させること、および、無害化することの少なくとも1つを含む。
【0027】
<1.除染システムの構成>
図1は、本実施形態の除染システム10の概略構成を示す図である。除染システム10は、過酢酸を用いて除染対象100の除染を実施する。除染対象100は、例えば、安全キャビネット、インキュベータ装置、アイソレータ装置、無菌ボックス、培養器、遠心分離機、保管庫、空調機器、クリーンベンチ、クリーンルームまたは、ダクト等である。除染対象100は、密閉されていてもよいし、準密閉状態であってもよい。準密閉状態とは、密閉に近いが完全な密閉ができてない状態をいう。例えば、除染対象100の内部と外部との空気が一定レベルで遮断され、過酢酸の漏洩によって過酢酸の濃度が極端に低下しない程度の状態をいう。本実施形態では、除染対象100は、安全キャビネットである。以下では、除染対象100を安全キャビネット100と称する場合がある。除染システム10は、除染装置20と、除染強度センサ60とを含む。
【0028】
除染システム10においては、管91、92を介して除染装置20が安全キャビネット100に接続されている。除染装置20によって、例えば、安全キャビネット100の内部に存在する微生物およびウイルスの少なくとも一方が除染される。本実施形態においては、除染装置20は、安全キャビネット100の外部に配置されている。
【0029】
安全キャビネット100は、バイオハザードを抑制するための箱状の実験設備である。実験者は、ワークエリアWAに手を挿入し、例えば、生物材料を用いた実験を行なう。安全キャビネット100は、ファン110と、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタ120、130と、シャッタ140とを含んでいる。実験時には、ファン110が作動することによって気流が生じ、HEPAフィルタ120を通じて清浄な空気が外部に排出されるとともに、HEPAフィルタ130を通じて清浄な空気がワークエリアWAに供給される。シャッタ140は、開閉可能に構成されている。フィルタ120は、ULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルタであってもよい。なお、フィルタ120は、例えば、安全キャビネット100に取り付けられるカバー部100Zによって覆われる。カバー部100Zは、例えば、除染の開始時に安全キャビネット100に取り付けられる。
【0030】
安全キャビネット100には、例えば、連通孔100A、100B、100C、100Dが形成されている。連通孔100A~100Dは除染専用に設置されたものであってもよいし、例えば、一般的な安全キャビネットに設けられているドレーン部、バキューム、および、DOPサンプリングポートが連通孔100A~100Dとして用いられてもよい。連通孔100A~100Dの各々は、開閉可能になっている。連通孔100A、100B、100C、100Dは、安全キャビネット100の使用時は、密閉されていることが好ましい。連通孔100A、100B、100C、100Dは、安全キャビネット100の除染時において、除染装置20と接続されている場合以外は、密閉されていることが好ましい。
図1に示される例では、管92を介して連通孔100Bに除染装置20が接続されており、管91を介して連通孔100Dに除染装置20が接続されている。すなわち、安全キャビネット100の天井部の連通孔100Dと、安全キャビネット100の底部の連通孔100Bとに除染装置20が接続されている。管92を接続する連通孔は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0031】
除染中は、シャッタ140が閉められる。シャッタ140が閉められた状態であっても、安全キャビネット100の内部と外部との間は完全には遮断されない場合があり、そのような場合には僅かな隙間が形成される。除染中において、隙間は、除染ガスの漏れの程度によっては、除染ガスの漏れを防ぐために、養生テープ200によって養生される。また、連通孔100A、100Cの各々は閉鎖されることが好ましい。
【0032】
<2.除染装置の構成>
除染装置20は、記憶装置30、制御装置40、および、噴出装置50を有する。記憶装置30および制御装置40は、バス(図示略)を介して通信できるように接続される。記憶装置30は、例えば、ハードディスクまたはソリッドステートドライブである。記憶装置30は、噴出装置50の動作の制御に関する1または複数のプログラム(以下では、「噴出プログラム30P」という)を記憶する。
【0033】
制御装置40は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を含み、後述する機能を実行する。制御装置40は、ユーザからの要求に応じて記憶装置30に記憶されている噴出プログラム30Pを実行する。制御装置40が噴出プログラム30Pを実行することによって、除染装置20には、噴出装置50の動作を制御する1または複数の機能ブロックが構築される。1または複数の機能ブロックは、噴出制御部40Xを含む。
【0034】
図2は、噴出装置50の概略構成を示す図である。噴出装置50は、ポンプ51と、蒸気発生部52とを含んでいる。ポンプ51には、管93、94が接続されている。管93は、管91(
図1参照)に接続されている。ポンプ51は、管93側から空気を吸引し、管94側に空気を供給するように構成されている。
【0035】
本実施形態では、蒸気発生部52は、薬液50Xを加熱することなく、かつ、ミストを放出することなく、過酢酸を含む蒸気のみを発生させるように構成されている。蒸気発生部52は、容器52A、吸湿部材52B、および、薬液50Xを含んでいる。容器52Aは、例えば筒状の密閉容器である。容器52Aには、吸湿部材52Bと、薬液50Xとが収容されている。薬液50Xは、過酢酸を含む液体状の薬剤である。より詳細には、薬液50Xは、過酢酸製剤である。
【0036】
吸湿部材52Bは、薬液50Xにより湿潤し、通風により薬液50Xを効率良くガス化(気化)できれば、構造や部材は特に限定されない。例えば、吸湿部材52Bは、織物、編み物、不織布、または、フィルム等のシート状のものをそのまま使用してもよく、ひだ折り状、コルゲート状に加工することによって形成されていてもよい。シリカゲル、ゼオライト等の多孔質材料が織物、編み物、不織布又はフィルム等の中に内包されていてもよい。本実施形態では、吸湿部材52Bは、例えば、多孔質材料によって構成されている。吸湿部材52Bは、薬液50Xに浸漬されている。吸湿部材52Bには、薬液50Xが染み込んでいる。吸湿部材52Bは、毛細管現象により容器52A内の薬液50Xを吸い上げる。別の例では、蒸気発生部52は、薬液50Xを吸い上げる等して吸湿部材52Bの上部から薬液50Xを注ぐ機構を有していてもよく、薬液50Xの気化を促すために、攪拌用のファンを有していてもよい。
【0037】
容器52Aには、管94および管95が接続されている。管95は、管92(
図1参照)に接続されている。容器52Aに接続される管94、95の容器52A内での位置および長さは特に限定されない。管94、95が薬液50X内に入り、薬液50Xが泡立たない方が好ましいため、管94、95の容器52A内での位置および長さはそのようなことを実現できる構成、例えば、管94、95の先端が薬液50X内に入らない構成であることが好ましい。また、エアを導入する管94の先端とエアを排気する管95の先端とが離れており、エアの流路が長く、吸湿部材52Bの過酢酸蒸気の発生を促進する位置に管94、95の先端が存在することが好ましい。
【0038】
除染装置20によれば、薬液50Xが加熱されないため、過酢酸の分解を抑制して効率良く過酢酸蒸気を発生させることができる。また、除染装置20によれば、過酢酸を含む薬液50Xの温度が除染対象のHEPAフィルタ120、130が配置された空間内の温度と同程度に維持されるため、空間内で結露が発生する可能性を抑制することができる。
【0039】
管94を介してポンプ51から空気の供給を受け、吸湿部材52Bに染み込んでいる薬液50Xの気化が促進される。このため、過酢酸を含む蒸気(以下、「過酢酸蒸気」という)が発生する。過酢酸蒸気は、管95を介して安全キャビネット100の内部に供給される。本実施形態の除染装置20は、過酢酸蒸気を噴出する、いわゆる気化式であるが、除染装置20は、過酢酸のミストを噴出する、いわゆる霧化式であってもよい。
【0040】
従来の除染システムでは、除染に先立って、例えば、HEPAフィルタ120の上方の空間に、BI(Biological Indicator)150が配置される。また、ワークエリアWAに、BI160が配置される。除染の終了後に、BI150、160の培養を行い、BI150、160に付着している菌等の死滅状況に基づいて、除染効果が確認される。
【0041】
ユーザは、BI150、160の培養が完了し、安全キャビネット100の除染が完了したこと、換言すれば、BI150、160に付着していた菌等が完全に死滅したことが確認された場合、安全キャビネット100を使用できる。しかし、BI150、160の培養には、通常、少なくとも1週間程度の時間を要するため、ユーザは、少なくとも1週間程度、安全キャビネット100を使用できない。本実施形態の除染システム10は、除染対象100の除染が完了したか否かを短時間で判定できるように、除染強度センサ60を備える。
【0042】
<3.除染強度センサの構成>
図3は、除染強度センサ60の概略構成を示す図である。除染強度センサ60の基本的な構成は、従来の電気抵抗式腐食センサと同様であるが、測定感度として0.01μm程度の金属の腐食を検出することが好ましい。電気抵抗の測定方法としては、例えば、二端子測定法、四端子測定法等があるが、より測定感度の良い四端子測定法が好ましい。
【0043】
本実施形態の除染強度センサ60は、センサ部70および本体部80を備える。センサ部70と本体部80とは、ケーブル60Xによって電気的に接続される。センサ部70は、安全キャビネット100内の任意の箇所に配置される。センサ部70は、例えば、
図1に示されるようにワークエリアWAの任意の位置に配置される。センサ部70は、HEPAフィルタ120の上方の空間、換言すれば、HEPAフィルタ120に対して二次側に配置されてもよい。複数のセンサ部70が、安全キャビネット100内に配置されてもよい。本体部80は、安全キャビネット100の外部に配置される。本体部80は、後述する電気抵抗値の比率RAを表示する出力装置と接続されてもよい。出力装置は、例えば、液晶ディスプレイである。ケーブル60Xは、例えば、シャッタ140の下部の隙間に配置されるチューブ170(
図1参照)を介してワークエリアWAに挿入される。除染中において、シャッタ140の下部のチューブ170を除く隙間は養生テープ200によって養生される。なお、ケーブル60Xは、例えば、連通孔100Aまたは連通孔100Cを介してワークエリアWAに挿入されてもよい。
【0044】
センサ部70は、第1センサ部71および第2センサ部72を含む。第1センサ部71は、過酢酸によって腐食する金属によって構成され、バー状である。第1センサ部71の腐食は、金属が酢酸塩に変化する化学反応を含む。金属の酢酸塩への反応を用いているため、センサ部70のうちの後述する曝露部71Aの腐食が速やかに進行する。電気抵抗値が変化しやすいため、感度よく腐食を計測することができ、除染の進行を感度良く測定することができる。酢酸塩は、水に可溶であるため、第1センサ部71が腐食した場合に腐食した部分を例えば、純水で湿らせた不織布で拭くことによって、腐食した部分を除去できる。別の例では、第1センサ部71の腐食した部分をアルミナ等を用いた金属磨きで擦ることによって、腐食した部分を除去できる。第1センサ部71が腐食すると、腐食によって第1センサ部71の感度は低下するが、腐食した部分を除去することで、第1センサ部71を感度よく使用することができる。
【0045】
第1センサ部71は、金属が曝露している曝露部71Aを有する。第2センサ部72は、第1センサ部71と同様のバー状であり、第1センサ部71を構成する金属と同じ金属によって構成される。第2センサ部72は、金属が腐食しないように表面の概ね全体がマスキングされている。第1センサ部71および第2センサ部72を構成する金属は、過酢酸によって腐食する金属であれば、任意に選択可能である。第1センサ部71および第2センサ部72を構成する金属は、例えば、銅および亜鉛の少なくとも一方を含むことが好ましい。銅と亜鉛とは、同条件における過酢酸による腐食の進行の程度が異なる。同条件において、亜鉛は、銅よりも、過酢酸による腐食が進行しやすい。センサ部70を繰り返し利用する観点から、第1センサ部71および第2センサ部72は、後述する電気抵抗値の比率RAの変化が把握できる範囲で腐食が進行すればよい。このため、第1センサ部71および第2センサ部72を構成する金属は、除染強度に応じて腐食の進行が所望の程度となるように、銅および亜鉛を含む合金であることが好ましい。除染強度が高い環境下でセンサ部70が使用される場合、センサ部70を構成する金属は、腐食の進行を抑制するために、銅および亜鉛のうちの銅の比率が高い合金であることが好ましい。除染強度が低い環境下でセンサ部70が使用される場合、センサ部70を構成する金属は、腐食の進行を促進するために、銅および亜鉛のうちの亜鉛の比率が高い合金であることが好ましい。第1センサ部71および第2センサ部72を構成する金属は、例えば、真鍮(C2680)を好適に用いることができる。
【0046】
第1センサ部71および第2センサ部72の大きさは、任意に選択可能である。本実施形態では、第1センサ部71および第2センサ部72の長さは、90mmであり、厚さは、50μmである。
【0047】
本体部80は、記憶装置81および制御装置82を有する。記憶装置81および制御装置82は、バス(図示略)を介して通信できるように接続される。記憶装置81は、例えば、ハードディスクまたはソリッドステートドライブである。記憶装置81は、除染強度の検出に関する1または複数のプログラム(以下では、「除染強度の検出プログラム81P」という)を記憶する。
【0048】
制御装置82は、CPU、RAM、ROM等を含み、後述する機能を実行する。制御装置82は、ユーザからの要求に応じて記憶装置81に記憶されている除染強度の検出プログラム81Pを実行する。制御装置82が除染強度の検出プログラム81Pを実行することによって、本体部80には、除染強度を検出する1または複数の機能ブロックが構築される。1または複数の機能ブロックは、除染強度検出部82Xを含む。
【0049】
本願発明者(ら)は、除染対象100が過酢酸によって除染される場合、除染強度が高くなるにつれて第1センサ部71を構成する金属の腐食が進行し、電気抵抗値が増加することを見出した。第1センサ部71を構成する金属の腐食の程度は、金属の抵抗値を測定する除染強度センサ60によって数値として表すことができる。除染強度センサ60によれば、除染対象100の除染強度が高くなるにつれて第1センサ部71の曝露部71Aの腐食が進行するため、第1センサ部71の電気抵抗値が増加する。一方、第2センサ部72は、マスキングされているため、除染対象100の除染強度が高くなった場合でも腐食しない。このため、第2センサ部72の電気抵抗値は、実質的に変化しない。このため、第1センサ部71の電気抵抗値と第2センサ部72の電気抵抗値との関係が予め定められる除染が完了したと判定できる関係を満たした場合に除染が完了したと判定できる。このため、除染システム10によれば、除染対象の除染が完了したことを短時間で判定できる。本実施形態では、例えば、第2センサ部72の電気抵抗値に対する第1センサ部71の電気抵抗値の比率RAが、予め定められる除染が完了したと判定できる基準比率RAX以上となった場合に除染が完了したと判定される。除染強度検出部82Xは、除染装置20による除染が実施されている間、電気抵抗値の比率RAを第1センサ部71の電気抵抗値R1および第2センサ部72の電気抵抗値R2を用いた以下の式(1)に基づいてリアルタイムで算出する。
【0050】
RA=R1/R2・・・(1)
【0051】
なお、本実施形態では、曝露部71Aの腐食の進行にともなう電気抵抗値R1の増加は微小である。本実施形態の制御装置82は、0.01%の電気抵抗値の変化を測定することができる。
【0052】
<4.基準比率RAXの算出方法>
図4は、基準比率RAXの算出方法の手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される各工程は、作業者によって行なわれる。
【0053】
ステップS11では、作業者は、安全キャビネット100内に、BI150、160、および、除染強度センサ60のセンサ部70を配置する。ステップS12では、作業者は、管91、92を用いて、安全キャビネット100に除染装置20を接続する。ステップS13では、作業者は、必要に応じて安全キャビネット100に開口を設けたり、隙間を養生テープ200によって養生する。ステップS14では、作業者は、除染装置20を駆動させ、安全キャビネット100内の除染を開始する。
【0054】
ステップS15では、作業者は、所定時間TXが経過したか否かを判断する。ステップS15が否定判定の場合、すなわち、所定時間TXが経過していない場合、作業者は、ステップS15の判定を繰り返し実行する。ステップS15が肯定判定の場合、すなわち、所定時間TXが経過した場合、作業者は、ステップS16において、本体部80によって算出される電気抵抗値の比率RAを記録し、除染装置20の駆動を停止する。
【0055】
ステップS17では、作業者は、BI150、160を培養液で培養させる。ステップS18では、作業者は、培養液の色に基づいて、BI150、160に付着していた菌等が完全に死滅したか、すなわち、安全キャビネット100の除染が完了したか否かを判定する。ステップS18が肯定判定の場合、すななわち、安全キャビネット100の除染が完了していた場合、作業者は、ステップS16で記録した比率RAを除染が完了したと判定できる基準比率RAXとして設定する。ステップS18が否定判定の場合、すなわち、除染対象100の除染が完了していない場合、作業者は、本算出方法を終了し、所定時間TXを変更して、本算出方法を再び実行する。典型的な例では、作業者は、再び実行する本算出方法では、ステップS15において、所定時間TXよりも長い所定時間TYが経過したか否かを判定する。
【0056】
<5.除染手順>
図5は、安全キャビネット100内の除染手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される各工程は、作業者によって行なわれる。なお、
図5に示されるステップS21~ステップS24は、
図4に示されるステップS11~ステップS14と同じ手順であるため、その説明を省略する。
【0057】
ステップS25では、作業者は、電気抵抗値の比率RAが、予め定められる除染が完了したと判定できる基準比率RAX以上となったか否かを判定する。ステップS25が否定判定の場合、すなわち、電気抵抗値の比率RAが基準比率RAX未満である場合、作業者は、ステップS25の判定を繰り返し実行する。ステップS25が肯定判定の場合、すなわち、電気抵抗値の比率RAが基準比率RAX以上となった場合、ステップS26において、作業者は、除染装置20の駆動を停止する。
【0058】
<6.除染システムの作用および効果>
除染システム10では、第2センサ部72の電気抵抗値に対する第1センサ部71の電気抵抗値の比率RAが、基準比率RAX以上となった場合に除染が完了したと判定できる。このため、除染対象100の除染が完了したことを短時間で判定できる。また、除染を完了するために、必要以上に高濃度の過酢酸を噴出すること、および、長時間にわたり除染することで除染対象100に存在する機器に過度の負荷がかかることを抑制できる。なお、噴出装置50による過酢酸蒸気の噴出流量、過酢酸蒸気の濃度、および、所定時間TXが同じ場合でも、除染が完了するか否かは、ワークエリアWAの温度、湿度等の様々な要因に依存する。このため、基準比率RAXの算出方法を繰り返し実施して基準比率RAXを算出することによって、ワークエリアWAの温度、湿度等が変化した場合であっても、除染対象100の除染が完了したか否かを精度よく判定できる。
【0059】
<7.変形例>
上記実施形態は本発明に関する除染強度センサ、除染システム、除染強度の検出方法、および、除染強度の検出プログラムが取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本発明に関する除染強度センサ、除染システム、除染強度の検出方法、および、除染強度の検出プログラムは、実施形態に例示された形態とは異なる形態を取り得る。その一例は、実施形態の構成の一部を置換、変更、もしくは、省略した形態、または、実施形態に新たな構成を付加した形態である。以下に実施形態の変形例の幾つかの例を示す。なお、以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
【0060】
<7-1.第1変形例>
上記実施形態において、除染強度センサ60から第2センサ部72を省略することもできる。この変形例では、例えば、除染が開始される前の曝露部71Aの電気抵抗値を第2センサ部72の電気抵抗値の代わりとして用いることによって、除染が開始される前の曝露部71Aの電気抵抗値と除染が開始された後の曝露部71Aの電気抵抗値との関係が、予め定められる除染が完了したと判定できる条件を満たした場合に除染が完了したと判定できる。
【0061】
<7-2.第2変形例>
上記実施形態において、曝露部71Aの腐食した部分の厚さHAが、予め定められる除染が完了したと判定できる厚さHAX以上となった場合に除染が完了したと判定されてもよい。
【0062】
<7-3.第3変形例>
センサ部70は、未使用状態または除染開始前において、第1センサ部71の電気抵抗値と第2センサ部72の電気抵抗値とが一致しない場合がある。換言すれば、センサ部70は、未使用状態または除染開始前において、比率RAが「1」とならない場合がある。このため、上記実施形態において、下記の式(2)のように、補正係数Kを用いて比率RAを補正することが好ましい。補正係数Kは、未使用状態または除染開始前における第2センサ部72の電気抵抗値に対する第1センサ部71の電気抵抗値の比率RASの逆数である。例えば、未使用状態または除染開始前における第1センサ部71の電気抵抗値が1.1000であり、第2センサ部72の電気抵抗値が1.0000である場合、比率RASは、1.1000であるため、補正係数Kは、0.9091となる。
【0063】
RA=K・(R1/R2)・・・(2)
【0064】
<7-4.第4変形例>
上記実施形態において、除染強度検出部82Xは、例えば、第1センサ部71の電気抵抗値に対する第2センサ部72の電気抵抗値の比率RBが、予め定められる除染が完了したと判定できる基準比率RBX以下となった場合に除染が完了したと判定してもよい。除染強度検出部82Xは、除染装置20による除染が実施されている間、電気抵抗値の比率RBを第1センサ部71の電気抵抗値R1および第2センサ部72の電気抵抗値R2を用いた以下の式(3)に基づいてリアルタイムで算出する。基準比率RBXは、例えば、
図4に示される基準比率RAXを算出するためのフローチャートと同様の考え方に基づいて算出することができる。
【0065】
RB=R2/R1・・・(3)
【0066】
<7-5.第5変形例>
上記実施形態において、除染強度検出部82Xは、以下の式(4)で示されるように、比率RAと、除染開始前における第2センサ部72の電気抵抗値に対する第1センサ部71の電気抵抗値の比率RASとの差ΔRAに基づいて、除染が完了したか否かを判定してもよい。この変形例では、除染強度検出部82Xは、差ΔRAが、予め定められる除染が完了したと判定できる基準差ΔRX以上となった場合に除染が完了したと判定する。
【0067】
ΔRA=RA-RAS・・・(4)
【0068】
<7-6.第6変形例>
上記実施形態において、除染強度検出部82Xは、以下の式(5)に示されるように、除染開始前における第1センサ部71の電気抵抗値に対する第2センサ部72の電気抵抗値の比率RBSと、第4変形例の比率RBとの差ΔRBに基づいて、除染が完了したか否かを判定してもよい。この変形例では、除染強度検出部82Xは、差ΔRBが、予め定められる除染が完了したと判定できる基準差ΔRY以上となった場合に除染が完了したと判定する。
【0069】
ΔRB=RBS-RB・・・(5)
【0070】
<7-7.第7変形例>
上記実施形態において、除染強度センサ60の本体部80を除染装置20に搭載することもできる。また、除染強度センサ60から本体部80を省略し、除染強度の検出プログラム81Pを除染装置20の記憶装置30に記憶させることもできる。この変形例では、除染装置20の制御装置40が除染強度の検出プログラム81Pを実行することによって、除染装置20に除染強度検出部82Xが構築される。また、この変形例では、
図5に示される除染手順のステップS25の判定処理を除染強度検出部82Xが実行し、ステップS25が肯定判定の場合、噴出制御部40Xが噴出装置50の駆動を停止するようにしてもよい。
【0071】
<7-8.第8変形例>
上記実施形態において、除染強度検出部82Xは、第1センサ部71の電気抵抗値と第2センサ部72の電気抵抗値との差ΔRCに基づいて、除染が完了したか否かを判定してもよい。この変形例では、除染強度検出部82Xは、差ΔRCが、予め定められる除染が完了したと判定できる基準差ΔRZ以上となった場合に除染が完了したと判定する。
【0072】
<7-9.第9変形例>
上記実施形態において、安全キャビネット100内に配置される粒子除去用フィルタは、HEPAフィルタ120、130であったが、安全キャビネット100内に配置される粒子除去用フィルタは、これに限定されない。除染対象の粒子除去用フィルタは、例えば、中性能フィルタであってもよいし、ULPAフィルタであってもよい。
【0073】
<7-10.第10変形例>
上記実施形態において、除染装置20は、エアの流れが安全キャビネット100、ポンプ51、蒸気発生部52、安全キャビネット100という順であったが、エアの流れる順序はこれに限定されない。例えば、エアは、安全キャビネット100、蒸気発生部52、ポンプ51、安全キャビネット100という順に流れてもよい。
【0074】
<8.試験>
本願発明者(ら)は、本発明の効果を確認するために、試験用の除染システムを用いて以下の第1試験および第2試験を実施した。また、本願発明者(ら)は、センサ部70に好適に用いることができる金属を確認するための第3試験を実施した。なお、以下では、説明の便宜上、試験用の除染システムを構成する要素のうち、実施形態と同じ要素には、実施形態と同様の符号を付して説明する。
【0075】
<8-1.第1試験>
図6は、第1試験に用いられる除染システム10Xの概略構成を示す図である。除染システム10Xは、除染対象100X、除染装置20X、BI150X、温湿度計310、過酢酸濃度計320、および、除染強度センサ60を有する。
【0076】
除染対象100Xは、アクリルボックスである。アクリルボックスのサイズは、横78cm×奥行き57cm×高さ78cmである。アクリルボックスは、全面に開閉可能な扉(図示略)を有する。アクリルボックスは、左右、および、天面に開口100XAを有する。開口100XAの直径は、30mmである。天面の開口100XAから温湿度計310のセンサ部311、過酢酸濃度計320のセンサ部321、および、除染強度センサ60のセンサ部70が、アクリルボックス内の空間に挿入される。温湿度計310のセンサ部311は、HIOKI社製のLR9502である。温湿度計310の本体部312は、HIOKI社製のLR5001である。過酢酸濃度計320のセンサ部321は、ATI社製の過酢酸ガスセンサーモジュール00-1705である。過酢酸濃度計320の本体部322は、ATI社製のF12シリーズガス検知器である。
【0077】
BI150Xは、アクリルボックス内の空間に配置される。BI150Xは、MesaLab社製のHMV-091 菌数106である。BI150Xの培養液は、MesaLab社製のPM/100である。
【0078】
除染装置20Xは、アクリボックス内の空間に配置される。除染装置20Xは、過酢酸系薬剤、酢酸、または、過酸化水素を収容する容器、ならびに、容器に取り付けられるファンを有する。ファンは、過酢酸系薬剤、酢酸、または、過酸化水素が蒸気化するように、これらの液面に送風する。
【0079】
試験例1~7では、除染装置20Xの容器に過酢酸系薬剤が収容される。過酢酸系薬剤は、Medivators社製のミンケアである。ミンケアは、過酸化水素の含有率が、22.0%、酢酸の含有率が、4.5%、過酢酸の含有率が、9.0%である。ミンケアは、純水で希釈され、希釈液500mlが除染装置20Xの容器に収容される。
【0080】
試験例8では、除染装置20Xの容器に酢酸を0.45%に純水で希釈した希釈液500mlが収容される。試験例9では、除染装置20Xの容器に過酸化水素を純水で1.1%に希釈した希釈液500mlが収容される。
【0081】
第1試験では、除染装置20Xの駆動中、除染強度センサ60によって、センサ部70の電気抵抗値の比率RAを測定した。本試験では、所定時間、除染装置20Xを駆動させ、除染装置20Xの駆動の停止後、アクリルボックスの左右の開口100XAからBI150Xを取り出し、BI150Xを培養液で培養させた。
【0082】
図7は、試験例1~7の試験結果を示す表である。
図8は、試験例6の試験結果を示すグラフである。
図9は、試験例8、9の試験結果を示す表である。本試験では、第5変形例に示される電気抵抗値の差ΔRAが0.0021以上の場合に、BI150Xが死滅して除染が完了することが確認された。また、試験例2、3、7より、湿度が同程度であっても、過酢酸の濃度が異なる場合、電気抵抗値の差ΔRAが異なることが確認された。試験例1、3より、過酢酸の濃度が同程度であっても、湿度が異なる場合、電気抵抗値の差ΔRAが異なることが確認された。除染対象100Xの除染が完了するか否かは、温度、湿度、および、除染時間等の様々な要因に依存するが、除染強度センサ60によって検出される電気抵抗値の比率RAを用いることで、除染対象100Xの除染が完了したか否かを短時間で精度よく判定できることが確認された。試験例8、9より、酢酸または過酸化水素では、BI150Xが死滅しないこと、および、第1センサ部71の曝露部71Xが腐食しないことが確認された。
【0083】
<8-2.第2試験>
図10は、第2試験に用いられる除染システム10Yの概略構成を示す図である。除染システム10Yは、第1試験に用いられる除染システム10Xと比較して、除染装置20Yの構成が異なり、その他の構成は、除染システム10Xと同じである。除染装置20Yは、超音波式ミスト発生装置である。超音波式ミスト発生装置は、ニッタ株式会社製のFOGACTである。第2試験の試験方法は、第1試験と同様である。
【0084】
図11は、第2試験の試験結果を示す表である。第2試験では、試験例9より、第5変形例に示される電気抵抗値の差ΔRAが0.0012以上である場合に、BI150Xが死滅して除染が完了することが確認された。除染装置20Yが超音波式ミスト発生装置であっても、電気抵抗値の比率RAを測定することによって、除染対象100Xの除染が完了したか否かを短時間で精度よく判定できることが確認された。
【0085】
また、第1試験および第2試験の結果より、過酢酸による金属の腐食の進行の程度と、微生物およびウイルスが除染により死滅または損傷する程度とが関連していることが確認された。これにより、微生物およびウイルスが除染により死滅または損傷する程度がどこまで進行したかについて、除染強度センサ60が示す数値、換言すれば、除染強度として表すことができる。さらに、微生物およびウイルスの死滅した時の除染強度センサ60が示す除染強度によって、除染を終了すべきタイミングを把握できる。
【0086】
<8-3.第3試験>
図12は、第3試験で用いられたセンサ部70を構成する金属の諸元を示す表である。第3試験では、
図12に示されるサンプルNо.1~Nо.7の金属を
図6に示される除染システム10Xの除染対象100X内に収容し、除染装置20Xによって過酢酸を噴出した。第3試験では、除染対象100Xの開口100XAは、密閉されている。BI150Xは、第1試験のMesaLab社製のHMV-091 菌数10
6に加えて、MesaLabs社製LCD-404 菌数10
4を使用した。2つのBI150Xの培養液は、MesaLab社製のPM/100である。サンプルNо.1~Nо.7の金属は、JIS H 3100 「銅及び銅合金の板及び条」によって規定されるサンプルである。
【0087】
第3試験では、除染開始後、2時間、3時間、および、4時間の経過時にそれぞれ、BI150Xを取り出し、死滅しているか否かを確認した。第3試験では、2時間、3時間、および、4時間の経過時の全てで、2つのBI150Xが死滅していること、換言すれば、陰性であることが確認された。
【0088】
第3試験では、サンプルNо.1~Nо.7の金属の腐食の進行の程度を確認するために、除染開始前と除染終了後の金属の光沢を光沢計(株式会社堀場製作所製 グロスチェッカー IG-410)を用いて測定した。
図13は、その結果である。なお、
図13中の金属の欄の数値は、各サンプルの金属の含有割合を示している。
【0089】
図13に示されるように、サンプルNо.1~Nо.5の金属は、除染終了後に光沢度が大きく低下していることから、腐食が好適に進行していることが把握できる。サンプルNо.6の金属は、光沢度がほとんど低下していない。このことから、センサ部70を構成する金属にスズまたはリンが含まれる場合、過酢酸によっては、腐食が実質的に進行しないことが確認された。サンプルNо.7の金属は、光沢度が低下していない。このことから、センサ部70を構成する金属にニッケルが含まれる場合、過酢酸によっては、腐食が実質的に進行しないことが確認された。
【符号の説明】
【0090】
10 :除染システム
20 :除染装置
60 :除染強度センサ
71 :第1センサ部
71A:曝露部
72 :第2センサ部
81P:除染強度の検出プログラム
【要約】
除染強度センサは、過酢酸によって除染される微生物およびウイルスの少なくとも一方に対する除染の程度を検出する除染強度センサであって、前記過酢酸によって腐食する金属によって構成され、前記金属が曝露している曝露部を含む。