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特許7245408導電性ナノファイバー、製造方法、燃料電池用部材、及び燃料電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】導電性ナノファイバー、製造方法、燃料電池用部材、及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   D01F 1/09 20060101AFI20230316BHJP
   D01D 5/02 20060101ALI20230316BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20230316BHJP
   D01D 10/06 20060101ALI20230316BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20230316BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20230316BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
D01F1/09
D01D5/02
D01D5/04
D01D10/06
D04H1/728
H01B5/00 E
H01B5/00 G
H01M4/86 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018063274
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019173221
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000207816
【氏名又は名称】大豊精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(73)【特許権者】
【識別番号】593078257
【氏名又は名称】株式会社メックインターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 誠
(72)【発明者】
【氏名】河原 文雄
(72)【発明者】
【氏名】島田 大輔
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/146984(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104527175(CN,A)
【文献】国際公開第2014/175380(WO,A1)
【文献】特開2017-199546(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0148739(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0100203(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0169725(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0087203(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D1/00-13/02
D01F1/00-6/96
9/00-9/04
D04H1/00-18/04
H01B5/00-5/16
H01M4/86-4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子の複数の繊維で構成されたシート状のナノファイバーと、
断面積が前記繊維の断面積よりも小さく且つ一部が前記繊維中に配置された複数の線状の導電性ナノ材料と、
を備え、
前記導電性ナノ材料は、前記繊維中に配置された本体部、及び前記本体部に接続され前記繊維外に配置された突出部を有し、
前記繊維中には、前記繊維の外部と連通する空洞部が形成され
前記空洞部は、前記導電性ナノ材料の前記本体部に沿って、前記本体部の周囲に形成され、
前記空洞部は、前記繊維の延伸方向に直交する断面において、複数の穴を構成し、
前記繊維の延伸方向に直交する断面において、前記複数の穴の少なくとも1つは、前記繊維の表面から離間している、
導電性ナノファイバー。
【請求項2】
前記導電性ナノ材料は、クリンプ形状を有するカーボンナノチューブである、
請求項1に記載の導電性ナノファイバー。
【請求項3】
導電性ナノファイバーを製造する製造方法であって、
高分子材料を溶媒に溶かした第1溶液を作成する第1溶液作成工程と、
前記第1溶液に導電性ナノ材料と、前記導電性ナノ材料の表面に配位でき且つ前記溶媒に溶解する分散剤とが配合された第2溶液を作成する第2溶液作成工程と、
エレクトロスピニング法により前記第2溶液から前記導電性ナノファイバーを作成するナノファイバー作成工程と、
前記ナノファイバー作成工程の後、前記導電性ナノ材料の表面に付着している前記分散剤を除去する洗浄工程と、
を含み
前記導電性ナノファイバーは、
高分子の複数の繊維で構成されたシート状のナノファイバーと、
断面積が前記繊維の断面積よりも小さく且つ一部が前記繊維中に配置された複数の線状の導電性ナノ材料と、
を備え、
前記導電性ナノ材料は、前記繊維中に配置された本体部、及び前記本体部に接続され前記繊維外に配置された突出部を有し、
前記洗浄工程では、前記突出部を有する前記導電性ナノファイバーが前記分散剤を溶かす溶剤中に浸され、前記溶剤が前記突出部を介して前記繊維中に進入し、前記本体部の表面に付着している前記分散剤が除去されることで、前記繊維中に空洞部が生成され、
前記空洞部は、前記導電性ナノ材料の前記本体部に沿って、前記本体部の周囲に形成され、
前記空洞部は、前記繊維の延伸方向に直交する断面において、複数の穴を構成し、
前記繊維の延伸方向に直交する断面において、前記複数の穴の少なくとも1つは、前記繊維の表面から離間している、
製造方法。
【請求項4】
前記導電性ナノ材料は、クリンプ形状を有するカーボンナノチューブである、
請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
ガス拡散層と、撥水層と、触媒層と、を備える燃料電池用部材であって、
前記撥水層は、請求項1又は2に記載の導電性ナノファイバー、あるいは、請求項3又は4に記載の製造方法で製造された導電性ナノファイバーで構成されている、燃料電池用部材。
【請求項6】
アノード部、カソード部、及び前記アノード部と前記カソード部との間に配置された電解質膜を備える燃料電池であって、
前記アノード部の一部及び前記カソード部の一部の少なくとも一方は、請求項1又は2に記載の導電性ナノファイバー、あるいは、請求項3又は4に記載の製造方法で製造された導電性ナノファイバーで構成されている、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ナノファイバー、燃料電池用部材、及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、アノード部と、カソード部と、アノード部とカソード部の間に配置された電解質層と、を備えている。燃料電池の構成としては、例えば特開2002-203569号公報に記載されている。電解質層は、例えば固体高分子電解質膜である。アノード部及びカソード部は、それぞれ、電解質側に配置される触媒層と、気相側に配置されるガス拡散層と、を備えている。昨今の燃料電池において、アノード部及びカソード部(特にカソード部)には、触媒層とガス拡散層との間に撥水層が設けられている。カソード部の撥水層の材質は、酸素透過性、撥水性、及び導電性を備えたものが採用される。撥水層は、燃料電池内の水管理において重要な役割を果たすため、その材料・構成が研究されている。
【0003】
ここで、本発明者は、特開2017-199546号公報及び特開2017-197871号公報に記載されているように、導電性を向上させて、燃料電池に適した構成を有する導電性ナノファイバーを発明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-203569号公報
【文献】特開2017-199546号公報
【文献】特開2017-197871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池の発電性能試験は、ウェット環境下とドライ環境下で行われる。燃料電池としては、いずれの環境下でも発電性能を発揮できることが好ましい。しかし、上記導電性ナノファイバーでは、ドライ環境における発電性能に改良の余地があった。そこで、本発明者は、さらに研究を進め、より燃料電池に適した導電性ナノファイバーを開発した。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、燃料電池に適用した場合に、ウェット環境下での発電性能を劣化させることなく、ドライ環境下での発電性能を改善させることができる導電性ナノファイバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の導電性ナノファイバーは、高分子の複数の繊維で構成されたシート状のナノファイバーと、断面積が前記繊維の断面積よりも小さく且つ一部が前記繊維中に配置された複数の線状の導電性ナノ材料と、を備え、前記導電性ナノ材料は、前記繊維中に配置された本体部、及び前記本体部に接続され前記繊維外に配置された突出部を有し、前記繊維中には、前記繊維の外部と連通する空洞部が形成され、前記空洞部は、前記導電性ナノ材料の前記本体部に沿って、前記本体部の周囲に形成され、前記空洞部は、前記繊維の延伸方向に直交する断面において、複数の穴を構成し、前記繊維の延伸方向に直交する断面において、前記複数の穴の少なくとも1つは、前記繊維の表面から離間している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、空洞部が設けられていることで、水分(水蒸気等)を繊維内部に保持することができ、保水性を向上させることができる。つまり、本発明の導電性ナノファイバーが燃料電池に適用された場合、当該燃料電池がドライ環境で使用されても、繊維内にナノレベルの水分を保持することができ、当該水分が反応に寄与し、発電性能の向上が可能となる。また、ナノレベルよりも大きな水滴は、空洞部で保持されることがなく、空洞部があることによる排水性への悪影響はほぼなく、燃料電池のウェット環境での性能劣化も抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】導電性ナノファイバーを説明するための概念図である。
図2】導電性ナノファイバーの詳細構成を説明するための概念図である。
図3】導電性ナノファイバーの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図4】導電性ナノファイバーのSEM写真である。
図5A】導電性ナノファイバーのSEM写真である。
図5B】導電性ナノファイバーのSEM写真である。
図6】導電性ナノファイバーの一例のSEM写真である。
図7】導電性ナノファイバーを説明するための概念図(長手方向に直交する方向から見た説明図)である。
図8】本実施形態の導電性ナノファイバーの詳細構成を説明するための概念図である。
図9A】本実施形態の導電性ナノファイバーの断面のSEM写真である。
図9B】本実施形態の導電性ナノファイバーの断面の概念図である。
図9C】空洞部がない導電性ナノファイバー1の断面のSEM写真である。
図10】本実施形態の導電性ナノファイバーの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図11】本実施形態の燃料電池の構成を説明するための概念図である。
図12A】本実施形態の燃料電池のドライ環境下での発電性能を示す図である。
図12B】本実施形態の燃料電池のウェット環境下での発電性能を示す図である。
図13A】本実施形態の導電性ナノファイバーの細孔径分布を示す図である。
図13B】洗浄工程前の導電性ナノファイバーの細孔径分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、一部の図は概念図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない場合がある。まずは、ナノファイバー2の繊維21中に空洞部4が形成されていない状態の導電性ナノファイバー1について説明し、その後、空洞部4を有する本実施形態の導電性ナノファイバー1Aについて説明する。図1及び図2に示すように、導電性ナノファイバー1は、ナノファイバー2と、導電性ナノ材料3と、を備えている。
【0011】
ナノファイバー2は、高分子(高分子化合物)の複数の繊維21で構成されている。換言すると、ナノファイバー2は、ナノファイバー化された高分子材料で構成されている。ナノファイバー2は、複数の繊維21によりシート状に形成されている。ナノファイバー2の原料は、高分子材料であれば良いが、一般的な用途(例えば各種電池材料)を想定すると、例えば、ポリフッ化ビリニデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアミド、又はポリイミド等が好適である。ナノファイバーは、繊維径がナノオーダーの複数の繊維で構成された不織布(シート)である。厚みは、必要に応じて、適用する部材に要求される厚みに調整すれば良いが、一般的には0.1~1000μm程度である。ただし、厚みはこれに限られない。
【0012】
導電性ナノ材料3は、断面積が繊維21の断面積よりも小さく、且つ繊維21中に配置されている線状で導電性を有するナノ材料である。線状とは、球状や粒子状ではない(非球状であり且つ非粒子状である)ことを表しており、長手方向を有する形状を意味し、例えば糸状、管状、又はクリンプ形状等である。また、断面積とは、ナノ材料又は繊維21をその長手方向(延伸方向)に直交する方向に切断した断面(以下、「直交断面」とも称する)の面積である。導電性ナノ材料3の断面積が繊維21の断面積よりも小さいとは、導電性ナノ材料3の直径(換算直径)が繊維21の繊維径(換算直径)より小さいと同様の意味である。換算直径とは、対象物の直交断面を円形に換算した際の直径である。繊維21や導電性ナノ材料3の直交断面は、概略円形状といえる。繊維21内には複数の導電性ナノ材料3が配置されている。
【0013】
導電性ナノ材料3の一端部31は、繊維21の表面から繊維21の外部に突出している。換言すると、導電性ナノ材料3は、繊維21中に配置された本体部30と、本体部30に接続され繊維21外に配置された突出部(一端部)31と、を備えている。つまり、繊維21の表面には、導電性ナノ材料3の一端部が当該表面から突出して構成された突出部31が形成されている。突出部31は、導電性ナノ材料3の一端部が繊維21の表面から突出したものである。導電性ナノファイバー1には、一部が繊維21中に配置され、その他の部位が繊維21外に配置されている導電性ナノ材料3が存在するといえる。換言すると、一部が繊維21から露出した導電性ナノ材料3と、全部が繊維21内に配置された導電性ナノ材料3が存在するといえる。
【0014】
導電性ナノ材料3は、製造コストや酸化抑制の観点から、炭素系の導電性ナノ材料であることが好ましい。炭素系の導電性ナノ材料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、フラーレン、カーボンナノホーン、及びカーボンナノコイル等が挙げられる。このなかで線状のものが導電性ナノ材料3に相当する。また、これら材料の名称は、1つのものに対して2つ以上の名称が当てはまることがあり、意味として互いにオーバーラップする場合がある(例えばカーボンナノホーンはカーボンナノチューブの一種ともいえる)。
【0015】
炭素系の導電性ナノ材料は、触媒として機能し難いため、意図しない反応が抑制され、化学反応が頻繁に発生する電池内部においても好適である。そして、上記の炭素系の導電性ナノ材料中でも、線状(長手方向を有する形状)であることが通常状態であるもの(例えばカーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、及びカーボンナノコイル等)は、導電性発現の観点から好適である。
【0016】
導電性ナノ材料3として、特に好ましいのは、カーボンナノチューブである。カーボンナノチューブは、直径が100nm以下であり且つアスペクト比(長さ/直径)が比較的大きいため、導電性の向上において好適である。さらにカーボンナノチューブは、クリンプ形状を有するものが多いため、突出部31の形成の観点及び導電性発現の観点においてより好適である。導電性ナノ材料3としては、直径100nm以下でクリンプ形状を有する炭素系の導電性ナノ材料が好ましいといえる。さらに具体的には、導電性ナノ材料3として、金属型の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)や金属型の多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が好適である。導電性及びコストの面から、多層カーボンナノチューブのほうがより好ましい。カーボンナノチューブの長さ(全長)は、1μm以上が好適であり、この場合、少ない配合比で導電性を発現させることができる。つまり、導電性ナノ材料3のアスペクト比(長さ/直径)は、10以上であることがより好ましい。
【0017】
また、導電性ナノファイバー1において、図7Aに示すように、隣り合う繊維21同士の間には、突出部31同士が接触した状態の通電部Zが形成されているといえる。例えば、ナノファイバー2の厚み方向に隣り合う繊維21同士の間には、突出部31同士が接触した状態の通電部Zが形成されているともいえる。通電部Zは、突出部31同士が接触して構成されている。通電部Zは、突出部31同士が接触している部分といえる。さらに換言すると、図7Bに示すように、通電部Zは、第一の繊維21aに形成された第一の突出部31aと、第二の繊維21bに形成され且つ第一の突出部31aと接触した第二の突出部31bと、で構成されている。通電部Zは、第一の繊維21aと、第一の繊維21aと隣り合う第二の繊維21bとの間に形成されている。これにより、導電性ナノファイバー1の厚み方向の導電性が発現する。厚み方向に導電性が発現した場合、厚み方向に隣り合う繊維21間に、通電部Zが形成されていると推定できる。導電性ナノファイバー1は、複数の通電部Zを有している。
【0018】
導電性ナノファイバー1では、各繊維21(1本1本に)に複数の突出部31が形成されている。1本の繊維21に複数の突出部31が形成されている場合、その突出部31のうちの少なくとも1つと他の繊維21の突出部31とが接触しやすく、当該1つと1つの接触によっても、繊維21間に通電部Zが形成される。
【0019】
(製造方法)
導電性ナノファイバー1は、エレクトロスピニング法(電界紡糸法)を用いて製造される。エレクトロスピニング法は、公知の方法であって、例えば原料溶液をノズルに充填し、ナノファイバーを堆積・捕集させる部位(捕集部位)とノズルとの間に電圧(例えば20kV)を印加し、原料溶液をノズルから引き出してナノファイバー化し、捕集部位上にナノファイバーを生成する方法である。導電性ナノファイバー1の製造方法は、図3に示すように、原料溶液を作成する原料溶液作成工程S1と、原料溶液作成工程S1で作成された原料溶液を用いて、エレクトロスピニング法によりナノファイバー(導電性ナノファイバー1)を作成するナノファイバー作成工程S2と、を含んでいる。
【0020】
原料溶液作成工程S1は、第1溶液作成工程S11と、第2溶液作成工程S12と、を含んでいる。第1溶液作成工程S11は、例えば作業者が、高分子材料を溶媒に溶かした第1溶液を作成する工程である。溶媒としては、ナノファイバー化する高分子材料を溶解可能であり、且つエレクトロスピニング法によって紡糸可能な乾燥性を有することが求められる。溶媒は、単独溶媒でも、複数の溶媒を混合したものでも良い。ナノファイバーの主原料となる高分子材料がポリフッ化ビリニデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアミド、又はポリイミドである場合、溶媒は例えばNNジメチルホルムアミド(DMF)、NNジメチルアセトアミド(DMAc)、又はNメチルピロリドン(NMP)等であることが好適である。
【0021】
第2溶液作成工程S12は、例えば作業者が、第1溶液の作成時又は作成後に、第1溶液に導電性ナノ材料3(例としてここではカーボンナノチューブ)と分散剤が配合された第2溶液を作成する工程である。第2溶液は、カーボンナノチューブの分散液であって、原料溶液である。第2溶液作成工程S12では、目的に応じて、公知の装置、例えばボールミル、ビーズミル、ジェットミル、又は超音波分散機などを用いて、第2溶液が作成されれば良い。分散剤としては、導電性ナノ材料3(カーボンナノチューブ)の表面に配位でき且つ溶媒に溶解するものが好ましい。分散剤の一例としては、アニオン系界面活性剤、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム(SDBS)、コール酸ナトリウム(SC)、又はデオキシコール酸ナトリウム(DOC)等が挙げられる。また、分散剤として、例えばカチオン系界面活性剤(各種アミンや4級アンモニウム塩等)等も利用可能である。昨今の文献では、弱酸の塩(例えばアンモニウム、カリウム等の酢酸塩、炭酸塩、又はリン酸塩等)が分散剤として使用できるとの記載も見られる。適宜分散剤を加えて第2溶液を作成することで、導電性ナノ材料3の凝集が抑えられる。
【0022】
ナノファイバー作成工程S2は、例えば作業者が、一般のエレクトロスピニング装置(ノズル及び捕集部位を備える装置)を用いて、エレクトロスピニング法により原料溶液(第2溶液)からナノファイバー(導電性ナノファイバー1)を作成する工程である。エレクトロスピニング装置は、ナノファイバーの直径が900nm以下(例えば400~500nm)となるように設定・稼働される。
【0023】
ここで、ナノファイバー作成工程S2では、導電性ナノファイバー1を作成するために、以下の条件でエレクトロスピニング法が実施される。すなわち、ノズルと捕集部位との間(以下、「ノズル-捕集部位間」とも称する)に印加する印加電圧は、30kV以上であり、より好ましくは35kV以上である。原料溶液がカーボンナノチューブを含んでいるためノズル-捕集部位間に電流が流れやすく、印加電圧は、カーボンナノチューブを配合していない場合よりも10kV程高く設定されている。
【0024】
ナノファイバー製造時の雰囲気温度は、25℃以上であり、より好ましくは30℃以上である。これにより、溶液の乾燥性を向上させることができる。この温度は、低いと溶液の乾燥性が悪くなり、ノズル-捕集部位間の距離を大きくしないと繊維として捕集することが難しくなる。一方で、ノズル-捕集部位間の距離が大きくなると、ノズルから溶液を飛ばすためにより大きな電圧が必要となる。印加電圧が大きすぎると、ノズル-捕集部位間の電気的な絶縁が破壊され、紡出が困難になり、スパークによるシートの破損等が発生するおそれがある為、均一なシートの作成の面で不利となる。したがって、カーボンナノチューブを含む原料溶液を用いる場合、紡出温度を高めて紡出性を向上させることが好ましい。
【0025】
原料溶液に用いる溶媒(第1溶液の溶媒)は有機溶媒であり、これにより溶液が非導電性となるためノズルと捕集部位との間に電位差が生じやすく紡糸しやすい。なお、溶媒が水である場合、印加電圧が20kV以上となると電流が流れるため、紡出性が悪化し、単位時間当たりの繊維生成量が低下するおそれもある。
【0026】
相対湿度は35%以下であり、これにより樹脂の偏析が抑制される。一般的に相対湿度が50%以下で紡出可能となる。ここで相対湿度が35%より高いと、繊維の捕集性が悪化する。つまり、この場合、繊維が捕集部位から立ち上がってノズル側に伸びる傾向があり、ノズル-捕集部位間が導電性材料(導電性ナノファイバー)で接続され、ノズル-捕集部位間に過電流が流れて短絡し、紡出の継続が難しくなるおそれがある。樹脂溶液中に水を添加すると樹脂が析出する現象が見られることから、ノズルから飛び出した溶液が引き延ばされつつ溶媒が蒸発してナノファイバー化する過程で水(湿分)が存在すると、溶媒が蒸発する前に樹脂が析出してしまう。このため、生成物に部分的に剛直な部分ができ、捕集部位で捕集される際、立ち上がってしまうものと考えられる。溶液にカーボンナノチューブが配合されると、この傾向が顕著になることから、相対湿度を35%以下に設定することが好ましい。このような条件の下で、エレクトロスピニング法が実施され、導電性ナノファイバー1が製造される。
【0027】
通常、繊維中に導電材料を配した繊維は、繊維1本1本の長手方向(延伸方向)は導電材料により導電性が確保され得るが、繊維の集合状態(例えば不織布等)になると、全体の導電性が悪化する傾向にある。これは構成上、繊維の最表面が樹脂で覆われているため、繊維同士の接触部が非導電性の樹脂となるためである。ナノファイバーについても同様に、捕集部位にて不織布状に堆積したシートとなるため、通常であれば導電性が悪い傾向がある。これに対して、導電性ナノファイバー1によれば、良好な導電性が得られる。
【0028】
カーボンナノチューブは、図4に示すように、一般的に直線状ではなく屈曲したクリンプ形状を有している。このため、カーボンナノチューブを分散した状態でナノファイバー中に配し、且つ生成されるナノファイバー2の繊維21の繊維径を小さく(500nm以下に)コントロールすることにより、図5A及び図5Bに示すように、繊維21がカーボンナノチューブのクリンプ形状の影響を受けて細かく屈曲するとともに、繊維21の表面(例えば繊維21の角部の表面)からカーボンナノチューブの一端部が飛び出す構造が形成される。これにより、繊維21が重なり合っても、図7に示すように、導電性ナノ材料3であるカーボンナノチューブの飛び出した一端部(突出部)31同士が互いに接触し、そこに通電部Zが形成され、良好な導電性を発現させることが可能となる。なお、図5Bは、導電性ナノファイバー1を引き伸ばして撮影したものである。導電性ナノファイバー1の引き伸ばしていない状態(例えば一般の使用状態)では、例えば他の写真のように、複数の繊維21が入り組んだ状態となる。
【0029】
このように、導電性ナノファイバー1によれば、突出部31により繊維21同士の間に通電部Zが形成されるため、厚み方向を含むシート全体の導電性の向上が可能となる。換言すると、複数の繊維21の表面に突出部31が形成された導電性ナノファイバー1を形成することで、各所で通電部Zが形成され、導電性ナノファイバー1の導電性を向上させることができる。
【0030】
なお、図4は、導電性ナノファイバー1中の一部に形成された不良部位であるカーボンナノチューブの凝集塊の100,000倍のSEM写真である。図4のカーボンナノチューブの直径は30nm以下(およそ10nm以上30nm以下)であり、曲がりくねったクリンプ形状となっている。また、図5A及び図5Bは、図4の導電性ナノファイバー1の50,000倍のSEM写真であり、図中の丸印は突出部31の位置を示している。これらのSEM写真は、後述する実施例2のSEM写真である。
【0031】
(導電性ナノファイバー1の例)
導電性ナノファイバー1の一例について説明する。この例では、ナノファイバーの主原料である高分子材料としてSolef21216(ソルベイ社製)を用い、導電性ナノ材料3として、カーボンナノチューブであるNC7000(ナノシル社製)を用い、分散剤としてアジスパーPB821(味の素ファインテクノ社製)を用い、溶媒としてDMFとアセトンを1:1で混合したものを用いた。
【0032】
原料溶液の作成には、湿式ジェットミルJN20(常光社製)を用いた。原料溶液における高分子材料濃度は5.4wt%であり、原料溶液における導電材(カーボンナノチューブ)濃度は0.73wt%であり、樹脂に対する導電材の割合は13.5%であった。「樹脂に対する導電材の割合」は、導電材濃度を高分子材料濃度で割った値(導電材濃度/高分子材料濃度)である。図6(30,000倍のSEM写真)に示すように、ナノファイバーには、突出部31が形成されていた。図中の丸印は、突出部31を表す。導電性ナノファイバー1において、図7に示すように、隣り合う繊維21同士の間には、突出部31同士が接触した状態の通電部Zが形成されやすい。
【0033】
(本実施形態の導電性ナノファイバー)
ここで、本実施形態の導電性ナノファイバー1Aについて説明する。導電性ナノファイバー1Aは、上記の導電性ナノファイバー1と比較して、繊維21中に空洞部4が形成されている点で異なっている。図8に示すように、本実施形態において、繊維21中には、繊維の外部と連通する空洞部4が形成されている。なお、導電性ナノファイバー1Aの全体構成としては、図1の構成と同様である。
【0034】
空洞部4は、突出部31が形成されている繊維21の表面に開口し、当該開口を介して繊維21の外部と連通している。空洞部4は、導電性ナノ材料3の本体部30の周囲に形成されている。空洞部4は、導電性ナノ材料3の一部(本体部30)に沿って形成されている。空洞部4は、繊維状(直線状又は曲線状)に延在しているといえる。図9A及び図9Bに示すように、空洞部4は、繊維21の延伸方向に直交する断面(直交断面)において、複数の穴41を構成している。複数の穴41は、それぞれが繊維21の表面に開口を持っていてもよく、少なくとも1つの開口を介して外部と連通していてもよい。複数の穴41は、原理としては導電性ナノ部材3の本体部30の周囲に形成されるが、本体部30の末端部など、断面において穴41付近に本体部30が表れない場合もある。上記直交端面における空洞部4の大きさは、導電性ナノ部材3の断面と同等のレベル(ナノレベル)となる。上記直交端面において、複数の穴41の少なくとも1つ(図9Aではすべての穴41)は、繊維21の表面から離間している(すなわち形状が環状になっている)。なお、図3の製造工程で作成された導電性ナノファイバー1には、図9Cに示すように、空洞部4が形成されていない。
【0035】
導電性ナノファイバー1Aは、図10に示すように、導電性ナノファイバー1を製造後(図3参照)に、洗浄工程S3を実施することで製造される。洗浄工程S3は、導電性ナノ材料3の表面に付着している分散剤を除去する工程である。洗浄工程S3は、例えば、突出部31を有する導電性ナノファイバー1を、分散剤を溶かす溶剤中に浸すことで実施される。分散剤を溶かす溶剤は、例えばシンナー等、公知の溶剤から、使用した分散剤に応じて適宜選択すればよい。洗浄工程S3により、溶剤が突出部31を介して繊維21中に進入し、本体部30の表面に付着した分散剤を除去する。これにより、繊維21の内部において、分散剤が占めていた領域の少なくとも一部が空洞(穴)となり、本体部30の周囲に空洞部4が形成される。空洞部4は、本体部30に沿って形成されているといえる。溶剤は突出部31を介して繊維21中に進入しており、分散剤除去後の繊維21内部の空洞と外部とは連通している。空洞部4は、本体部30の表面の一部と繊維21とにより区画されているともいえる。なお、空洞部4の形成において、すべての分散剤が除去される必要はない。
【0036】
導電性ナノファイバー1Aによれば、空洞部4が設けられていることで、水分(水蒸気等)を繊維21内部に保持することができ、保水性を向上させることができる。つまり、例えば、導電性ナノファイバー1Aが燃料電池に適用された場合、当該燃料電池がドライ環境で使用されても、繊維21内にナノレベルの水分を保持することができる。本実施形態によれば、ドライ環境下においても必要な水分が確保され、発電性能の向上が可能となる。さらに、流水に係る水分は、ナノレベルではないため空洞部4で保持されることがなく、空洞部4があることによる排水性への悪影響はほぼないと考えられる。つまり、本実施形態によれば、必要な水分が確保されるとともに排水性も維持され、ウェット環境での性能劣化も抑制される。また、本実施形態によれば、導電性ナノ材料3の分散剤が除去されているため、電気抵抗が下がり、導電性を向上させることができる。
【0037】
ここで、導電性ナノファイバー1Aは、燃料電池(固体高分子型燃料電池)の構成部材(特に撥水層)として用いられることが好ましい。燃料電池9は、例えば、図11に示すように、アノード部91と、カソード部92と、アノード部91とカソード部92の間に配置された電解質膜93と、セパレータX1、X2と、を備えている。アノード部91は、一方面から電解質膜93側の他方面に向かって、ガス拡散層911、撥水層912、及び触媒層913が形成されて構成されている。カソード部92は、他方面から電解質膜93側の一方面に向かって、ガス拡散層921、撥水層922、及び触媒層923が形成されて構成されている。アノード部(燃料極)91、カソード部(空気極)92、及び電解質膜93は、膜・電極接合体(MEA)を構成している。アノード部91はアノード電極ともいえ、カソード部92はカソード電極ともいえる。
【0038】
ガス拡散層(GDL)911、921は、気体を均一に触媒層913、923に行き渡らせるための層である。ガス拡散層911は、撥水層912から受けた電子をセパレータX1に送るための層でもある。つまり、ガス拡散層911は、触媒層913への水素の供給と電子の授受を行うための層であり、アノード部91の気相側に配置されている。ガス拡散層921は、触媒層923への酸化剤ガスの供給及び電子の授受を行うための層であり、カソード部92の気相側に配置されている。ガス拡散層911、921は、多孔質且つ導電性を有するものであれば良く、例えば細孔径が数μmの炭素粒子を固めて形成される。燃料電池9では、例えば、反応ガスを加湿して供給する構成や、化学反応によって生成した水を利用する構成が採用される。ガス拡散層911、921は、水又は水蒸気の通路を構成し、撥水層912、922とともに、反応系内に必要な水分を適切に吸入・排出させる役割を担う。セパレータ(バイポーラプレート)X1、X2は、ガスの流路をつくる導電部材であって、例えば表面に複数の溝が形成された導電部材である。
【0039】
アノード部91の撥水層912は、水を凝縮させずにガス拡散層911に送るための層であり、且つ電子の授受を行うための層である。カソード部92の撥水層922は、ガス拡散層921の触媒層923側の表面に液膜が形成されることを抑制するための層であり、且つ電子の授受を行うための層である。撥水層912は水分保持(ドライアウト防止)の観点で設けられ、撥水層922は排水性の向上(フラッディング防止)の観点で設けられている。撥水層912、922は、触媒層913、923の気相側表面を被覆するように、触媒層913、923とガス拡散層911、921の間に配置されている。撥水層912、922は、マイクロポーラス層(MPL)である。なお、従来の撥水層は、例えば細孔径が数nmの炭素粒子を固めて形成される。従来の撥水層は、例えば撥水性樹脂とカーボンブラックを主成分とする薄膜である。
【0040】
例えば、カソード部92の撥水層922は、酸化剤ガス中に含まれる酸素を触媒層923に供給することが可能な酸素透過性と、触媒層923からガス拡散層921への水の排出を適量にすることが可能な撥水性(例えば排水性)と、を備えることが求められる。同様に、アノード部91の撥水層912は、水素透過性と、適切な撥水性(例えば水分保持性)が求められる。カソード部92は、構成上、運転(反応)により比較的多くの水が生じる部分であるため、撥水層922の役割(性能)はより重要となる。
【0041】
触媒層913、923は、電池反応の反応場になる層であり、アノード部91及びカソード部92における電解質膜93に接する部位に設けられている。触媒層913は、水素をプロトンと電子に分解するための層である。触媒層923は、プロトンと電子と酸素から水を生成するための層である。触媒層913、923は、図示しないが、例えば、担体と、担体に担持された触媒と、層内電解質と、を備えている。触媒層913、923は、例えば、細孔径が数μmの炭素粒子に直径が数nmの白金粒子をまぶし、それを高分子で覆って固めて形成される。また、例えば、触媒層913、923は、粒径数μmのカーボン粒子に数nmの白金粒子を担持させて形成される。電解質膜93は、高分子電解質膜(PEM)であって、種々の材料で生成可能であり、例えばフッ素化ポリマや炭化水素系ポリマであっても良い。電解質膜93は、プロトンをアノード部91側からカソード部92側に移動させ、電子及び気体の通過をブロックするための部材といえる。なお、導電性ナノファイバー1を適用する以前の従来の燃料電池における各部の構成や機能は、公知のものを参照できる。
【0042】
ここで、導電性ナノファイバー1Aは、特にカソード部(「燃料電池用部材」に相当する)92の撥水層922として用いることが好ましい。つまり、撥水層922は、導電性ナノファイバー1Aで構成されていることが好ましい。導電性ナノファイバー1Aを撥水層922に適用した場合、保水性が向上することにより、ドライ環境下においても繊維21中に適度に水分(水蒸気)が保持され、発電性能の低下を抑制することができる。化学反応により生成される水は、当初ナノレベルの水滴であると考えられ、繊維21表面に付着し、空洞部4で保持されやすいと考えられる。つまり、空洞部4により撥水層922に必要な水分が保持されやすい。また、繊維21中に空洞部4が形成されていても、繊維21の表面上での流水にさほどの影響はなく、排水性への影響は小さい。つまり、排水性に関係する水は、すでにナノレベルではなく、空洞部4の存在の影響はないと考えられる。このため、ウェット環境下での発電性能も維持される。つまり、本実施形態によれば、ドライ環境下での性能維持及びウェット環境下での性能維持を両立させることができる。
【0043】
例えば図12Aに示すように、導電性ナノファイバー1Aを撥水層922に適用した場合のドライ環境下での発電性能は、従来のものよりも優れている。この性能試験は、面積(撥水層)1cmに対して、発電性能測定装置(株式会社東陽テクニカ製AUTOPEM)を用いて行った。当該試験におけるドライ環境の条件は、アノード側において、空気量を0.5NL/min、背圧を100KPa、相対湿度(RH)を60%とし、カソード側において、空気量を0.5NL/min、背圧を100KPa、相対湿度(RH)を00%とした。
【0044】
図12Aの実線は、上記した導電性ナノファイバー1の例に対して洗浄工程S3を実行して製造した導電性ナノファイバー1Aを、撥水層922に適用した燃料電池9の発電性能である。この燃料電池9において、アノード部91の撥水層912には、既存のMPL(SGL製MPL付GDL 24BCH)が適用されている。図12Aの破線は、上記した導電性ナノファイバー1の例(洗浄工程S3を経ていないもの)を撥水層922に適用した燃料電池の発電性能である。この燃料電池においても、上記同様、アノード部91の撥水層912には、既存のMPL(SGL製MPL付GDL 24BCH)が適用されている。図12Aの一点鎖線は、既存のMPL(SGL製MPL付GDL 24BCH)を撥水層912、922に適用した燃料電池の発電性能である。図12Aの二点鎖線は、撥水層912、922がない燃料電池(ガス拡散層と触媒層のみ)の発電性能である。図12Aで示す燃料電池における上記以外の構成は、互いに同様である。
【0045】
また、上記と同構成の各燃料電池に対して、上記性能試験とは相対湿度が異なるウェット環境(加湿条件)下での性能試験を行った。その結果を図12Bに表す。アノード側において、空気量を0.5NL/min、背圧を100KPa、相対湿度(RH)を88%とし、カソード側において、空気量を0.5NL/min、背圧を100KPa、相対湿度(RH)を42%とした。
【0046】
図12Aに示すように、本実施形態によれば、ドライ環境(低加湿条件)下において、他の燃料電池に比べて、高電流域での電圧値の低下が抑制されている。また、図12Bに示すように、ウェット環境(加湿条件)下においても、本実施形態によれば、他の燃料電池に比べて、高電流域での電圧値の低下が抑制されている。これは、ウェット環境下においても、ナノレベルの水分を保持することで、必要な水分が導電性ナノファイバー1A内部で確保されるからと考えられる。
【0047】
また、導電性ナノファイバー1Aと導電性ナノファイバー1について、BJH解析による細孔分布を作成した。図13Aに導電性ナノファイバー1A(すなわち洗浄工程S3を経たもの)の細孔分布を表し、図13Bに導電性ナノファイバー1(すなわち洗浄工程S3前のもの)の細孔分布を表す。図13A及び図13Bに示すように、洗浄工程S3が実施されたことで、細孔径45~55nmあたりの細孔容積が増大している。これは、繊維21の表面に形成された開口(穴)に起因する。また、カーボンナノチューブ(導電性ナノ材料3)の直径は12~13nmであり、当該直径よりもやや大きい細孔径の領域で細孔容積が増大している。これらの測定結果によれば、洗浄工程S3により、繊維21の表面に、カーボンナノチューブに対応して、空洞部4の開口が形成されることと整合がとれる。また、洗浄工程S3を経て開口が形成されることにより、導電性ナノファイバー1AのBET比表面積が導電性ナノファイバー1に比べて増大した。なお、BJT解析及びBET比表面積の測定で使用した装置は、自動比表面積/細孔分布測定装置 Tristarii3020(Micromeritics製)である。
【0048】
このように本実施形態によれば、保水性が向上したことにより、ドライ環境下における電池性能の低下を抑制することができる。また、空洞部4があっても繊維21の表面による排水性への影響は小さく、排水性は確保されるため、ウェット環境下での電池性能も維持される。
【0049】
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、導電性ナノファイバー1Aは、燃料電池用部材に限らず、他の実用機器(例えば二次電池等)にも用いることができる。また、燃料電池9において、アノード部91の一部及びカソード部92の一部の少なくとも一方が、導電性ナノファイバー1Aで構成されていてもよい。導電性ナノファイバー1Aは、適度な保水性、排水性、及び良好な導電性を備え、あらゆる部材として利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1A:導電性ナノファイバー、
2:ナノファイバー、 21:繊維、
3:導電性ナノ材料、 30:本体部、 31:突出部(一端部)、
4:空洞部、 41:穴、
9:燃料電池、 91:アノード部、 92:カソード部(燃料電池用部材)、
911、912:ガス拡散層、 912、922:撥水層、
913、923:触媒層、 93:電解質膜、 Z:通電部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B