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  • 特許-フッ素樹脂フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】フッ素樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230316BHJP
【FI】
C08J5/18 CEW
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022553962
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035425
(87)【国際公開番号】W WO2022071237
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2020164961
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021154966
(32)【優先日】2021-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145530
【氏名又は名称】株式会社潤工社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅弘
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/022355(WO,A1)
【文献】特開2020-083917(JP,A)
【文献】特開2012-045812(JP,A)
【文献】特開昭54-156067(JP,A)
【文献】特開2002-172316(JP,A)
【文献】特開2014-156599(JP,A)
【文献】特表2008-512551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22、
9/00-9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇温速度10℃の昇温過程で測定した示差走査熱量測定(DSC)において、
結晶融解曲線が339℃~355℃と370℃~390℃の温度範囲にポリテトラフルオロエチレン由来の吸熱ピークを示すフィルムであって、
該結晶融解曲線が339℃より低温側にはポリテトラフルオロエチレン由来の吸熱ピークを示さず、
フィルム厚さ(mm)をx軸とし、ISO14782に準拠して測定したヘーズ値(%)をy軸とした、xy直交座標において、A点(0.01,10.0)、B点(0.25,50.0)、C点(0.25,99.5)、D点(0.01,50.0)を結ぶ直線で囲まれる四角形の範囲内にある、フィルム厚さ及びヘーズ値を有することを特徴とするフッ素樹脂フィルム。
【請求項2】
昇温速度10℃の昇温過程で測定した示差走査熱量測定(DSC)において、
結晶融解曲線が339℃~355℃と370℃~390℃の温度範囲にポリテトラフルオロエチレン由来の吸熱ピークを示すフィルムであって、
該結晶融解曲線が339℃より低温側にはポリテトラフルオロエチレン由来の吸熱ピークを示さず、
フィルム厚さ(mm)をx軸とし、ISO14782に準拠して測定したヘーズ値(%)をy軸とした、xy直交座標において、A点(0.01,10.0)、B‘点(0.25,70.0)、C点(0.25,99.5)、D点(0.01,50.0)を結ぶ直線で囲まれる四角形の範囲内にある、フィルム厚さ及びヘーズ値を有することを特徴とするフッ素樹脂フィルム。
【請求項3】
前記結晶融解曲線の339℃~355℃の温度範囲にある吸熱ピークと370℃~390℃の温度範囲にある吸熱ピークから算出される融解エネルギーの比が、3対1~30対1である、
請求項1または2に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項4】
30GHzにおける比誘電率が 2.1以下である、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項5】
30GHzにおける誘電正接が 0.001以下である、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項6】
30℃~250℃におけるフィルムXY方向の線膨張係数が、100ppm/℃以下である、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項7】
フィルムの厚さが10μm~200μmである、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のフッ素樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂フィルムに関するものであり、特に熱膨張係数が小さく抑えられたフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
高度情報化が進み、情報通信量が増加し、通信機器では使用する信号の大容量化と高速化が進んでいる。これに伴い、これらの機器に搭載される各種プリント基板には高周波領域での対応が必要となり、使用される基板材料として伝送速度を向上させる低比誘電率、および伝送損失の低減を可能とする低誘電正接の材料が求められている。
【0003】
一般に、プリント基板の材料としては、高い絶縁性と寸法安定性からポリイミド樹脂が用いられることが多い。しかし、信号伝送の高速化などへの更なる対応が求められ、基板材料としてのポリイミド樹脂にも、高速化に対応した低誘電率化が求められるようになった。たとえば特許文献1には、ポリイミド層内部の一部をエッチング除去して、小孔が内部ポリイミド層に全体的に生成することで低誘電が実現されたポリイミドフィルムについて記載されている。しかし、要求される高い伝送速度に対しては十分ではなく、1GHz以上の高周波領域で使用する場合には伝送損失が発生することが問題となる。
【0004】
また、特許文献2には、銅箔などの金属基材上にフッ素樹脂からなる誘電体層を形成したフッ素樹脂基板について記載されている。フッ素樹脂は、比誘電率および誘電正接が小さい材料であることが知られているが、銅箔などの金属基材と積層する場合、誘電体層となるフッ素樹脂の熱膨張係数が、金属基材である銅の熱膨張係数より大きく、リフロー時の加熱によって反りが発生するという問題がある。そのため、フッ素樹脂をそのままでは使用することはできなかった。特許文献2には、誘電体層のフッ素樹脂に中空のガラスビーズを含有させることによりリフロー時の反りの発生を抑制したフッ素樹脂基板について記載されている。しかし、中空のビーズを混合した樹脂は、成形するときに中空ビーズが破壊しやすく、作成した基板の誘電特性が悪化するという問題があった。
【0005】
特許文献3には、熱的に寸法安定性に優れたポリイミドフィルムと、液晶高分子などを含まないフッ素樹脂層とからなる多層フィルムについて記載されており、この多層フィルムは、誘電率が3以下であり、50~200℃の線膨張係数が小さく抑えられていると記載されている。しかし、特許文献3の多層フィルムは、ポリイミドフィルムの上にフッ素樹脂を塗装してフッ素樹脂層を形成しており、フッ素樹脂層が非常に薄いため、フッ素樹脂の熱膨張の影響が低く抑えられているものである。その反面、多層フィルムとしては、低誘電率および低誘電正接というフッ素樹脂の特長である誘電特性を十分に得ることができていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007‐119573号公報
【文献】WO2013‐146667号公報
【文献】特開2017‐136755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フッ素樹脂は、一般に誘電率が2.1~2.4と低く、高周波領域での信号伝送に適した誘電特性を有している。しかし、上述のように、フッ素樹脂は線膨張係数(以下、CTEと呼ぶことがある。)が大きく温度による寸法変化が大きいため、銅箔などの金属基材と積層した場合に加熱による反りが発生するという問題だけではなく、微細な配線を持つ回路を製造する場合には、配線の損傷が発生するなどの問題があった。そのため、異種基材との積層に適したフッ素樹脂フィルムとして、フッ素樹脂の特長である誘電特性が保持されたフィルムは、これまで実現されてこなかった。本発明は、フッ素樹脂の誘電特性を保持し、かつ低CTEを実現したフッ素樹脂フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、フッ素樹脂フィルムの結晶の状態を一定の範囲内に制御することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明に係るフッ素樹脂フィルムは、昇温速度10℃の昇温過程で測定した示差走査熱量測定(DSC)において、結晶融解曲線が339℃~355℃と370℃~390℃の温度範囲にポリテトラフルオロエチレン由来の吸熱ピークを示すフィルムであって、該結晶融解曲線が339℃より低温側にはポリテトラフルオロエチレン由来の吸熱ピークを示さず、フィルム厚さ(mm)をx軸とし、ISO14782に準拠して測定したヘーズ値(%)をy軸とした、xy直交座標において、A点(0.01,10.0)、B点(0.25,50.0)、C点(0.25,99.5)、D点(0.01,50.0)を結ぶ直線で囲まれる四角形の範囲内にある、フィルム厚さ及びヘーズ値を有するものである。
【0009】
また、本発明のフッ素樹脂フィルムは、昇温速度10℃の昇温過程で測定した示差走査熱量測定(DSC)において、結晶融解曲線が339℃~355℃と370℃~390℃の温度範囲にポリテトラフルオロエチレン由来の吸熱ピークを示すフィルムであって、該結晶融解曲線が339℃より低温側にはポリテトラフルオロエチレン由来の吸熱ピークを示さず、フィルム厚さ(mm)をx軸とし、ISO14782に準拠して測定したヘーズ値(%)をy軸とした、xy直交座標において、A点(0.01,10.0)、B’点(0.25,70.0)、C点(0.25,99.5)、D点(0.01,50.0)を結ぶ直線で囲まれる四角形の範囲内にある、フィルム厚さ及びヘーズ値を有することが好ましい。
【0010】
また、上述の結晶融解曲線の339℃~355℃の温度範囲にある吸熱ピークと370℃~390℃の温度範囲にある吸熱ピークから算出される融解エネルギーの比は、3対1~30対1であることが好ましい。
【0011】
本発明のフッ素樹脂フィルムは、30GHzにおける比誘電率が 2.1以下であり、また、30GHzにおける誘電正接が 0.001以下である。
【0012】
また、本発明のフッ素樹脂フィルムは、30℃~250℃におけるフィルムXY方向の線膨張係数が、100ppm/℃以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフッ素樹脂フィルムは、フッ素樹脂の優れた誘電特性を維持しつつ、温度による寸法変化を小さく抑えることができる。線膨張係数が小さい金属材料などと積層しても問題の発生が少なく、優れた誘電特性を活かして高周波基板材料などの用途にも好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明のフッ素樹脂フィルムの示差走査熱量測定(DSC)で得られる結晶融解曲線の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下で本発明の実施形態の一つについて説明する。以下に説明する実施形態は本発明を限定する意図ではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の成立に必須であるとは限らない。
【0016】
本発明のフッ素樹脂フィルムは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を主成分とすることが好ましい。本発明で用いるPTFEは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」と言う。)のホモポリマーであっても良いし、または他のモノマーを少量含む、変性PTFEであっても良い。変性PTFEに含まれる、TFE以外の少量のモノマーとしては、例えばクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PPVE)などが挙げられ、これらのモノマーを1種類または2種類以上を併せて含有していてもよい。
【0017】
成形用のPTFEのパウダーには、ファインパウダーとモールディングパウダーの2種類がある。ファインパウダーは乳化重合で得られるもので、その粒子に強いせん断応力をかけるとフィブリル化を伴って変形する性質を持っている。この性質を利用したのがペースト押出成形である。ペースト押出成形は、ファインパウダーに助剤(潤滑剤)と呼ばれる有機溶剤を混合して得られるペーストを圧縮成形した後、それを押出機で加圧して金型から押出し、成形する方法が一般的である。本発明のフッ素樹脂フィルムには、PTFEのファインパウダーを主成分とし、これに助剤を混合して押出機でシート形状に成形し、助剤を除去した後に延伸したものを用いることが好ましい。
【0018】
PTFEファインパウダーは、比重(SSG)が2.15~2.20のファインパウダーを使用することが好ましく、未焼成のものを使用することが好ましい。
【0019】
PTFEのファインパウダーは、PTFEの融点以上の熱履歴がない場合、示差走査熱量測定(DSC)で得られる結晶融解曲線において、345℃付近に吸熱ピークを示す。結晶融解曲線の345℃付近の吸熱ピークは伸び切り鎖結晶(ECC)に類似した結晶構造によるものであると考えられており、一旦PTFEの結晶が融解すると345℃付近の吸熱ピークは消失し、326℃付近の吸熱ピークが観測されるようになる。326℃付近の吸熱ピークは折りたたみ鎖結晶(FCC)によるものであると考えられており、一般に、PTFE重合後のファインパウダーはECCに類似した結晶構造を持つが、一旦融解して再結晶化するとFCCに結晶構造が変化すると考えられている。
【0020】
このPTFEファインパウダーをシート状に成形した後、延伸すると、DSCで得られる結晶融解曲線において、380℃付近に吸熱ピークが観測される。この380℃付近にある吸熱ピークは、延伸によって分子鎖にせん断が加わり、伸び切り鎖結晶(ECC)が強く配向したものによると考えられる。以降、これを高融点伸び切り鎖結晶(HECC)と呼ぶことがある。このHECCによる吸熱ピークを発生させるためには、PTFEのシートを高速で延伸する、または高い延伸倍率で延伸するなどして、シートを構成するPTFEを繊維化させるとよい。
【0021】
図1は、本発明のフッ素樹脂フィルムのDSCで得られる結晶融解曲線の一例である。本発明のフッ素樹脂フィルムは、昇温速度10℃の昇温過程で測定した示差走査熱量測定(DSC)で得られる結晶融解曲線において、PTFE由来のピークとして339℃~355℃の温度範囲に低温側の吸熱ピーク1と、370℃~390℃の温度範囲に高温側の吸熱ピーク2を示す。上述のように、339℃~355℃の温度範囲にある吸熱ピークはECCによるものであると考えられ、370℃~390℃の温度範囲にある吸熱ピークはHECCによるものであると考えられる。また、DSCで得られる結晶融解曲線の吸熱ピークの面積から、結晶の融解エネルギーを算出することができる。339℃~355℃の温度範囲の吸熱ピーク1から算出される低温側ピークの融解エネルギーと、370℃~390℃の温度範囲の吸熱ピーク2から算出される高温側ピークの融解エネルギーの比(”低温側ピークの融解エネルギー”対”高温側ピークの融解エネルギー”)が、3対1~30対1であることが好ましく、4対1~25対1であることがより好ましい。この2つの温度範囲の融解エネルギーの比が前記範囲にある結晶状態が、PTFEフィルムの線熱膨張を低く抑えることに寄与していると考えられる。
【0022】
さらに、本発明のフッ素樹脂フィルムは、フィルム厚さ(mm)をx軸とし、ISO14782に準拠して測定したヘーズ値(%)をy軸とした、xy直交座標において、A点(0.01,10.0)、B点(0.25,50.0)、C点(0.25,99.5)、D点(0.01,50.0)を結ぶ直線で囲まれる四角形の範囲内にある、フィルム厚さ及びヘーズ値を有している。また、A点(0.01,10.0)、B’点(0.25,70.0)、C点(0.25,99.5)、D点(0.01,50.0)を結ぶ直線で囲まれる四角形の範囲内にある、フィルム厚さ及びヘーズ値を有することが好ましい。ヘーズ値は、フィルムに照射された光の拡散透過光の全光線透過光に対する割合から求められるもので、光の拡散透過率Tdと全光線透過率Ttとから、ヘーズ(%)=Td/Tt×100として算出される。本発明のフッ素樹脂フィルムは、例えばPTFEシートを延伸して多孔質化した後、圧縮処理を施して高密度化させて成形することができるが、そのフッ素樹脂フィルムを透過した光は、フィルム中の空孔によって拡散され、フィルムの厚さとヘーズの関係が上記の範囲にある空孔状態が、PTFEの誘電特性の維持と線熱膨張の抑制に寄与していると考えられる。
【0023】
本発明のフッ素樹脂フィルムは、DSCで得られる結晶融解曲線において、339℃より低温側にPTFE由来の吸熱ピークを有さないものである。339℃より低温側にPTFE由来の吸熱ピークを有さないことは、フィルムを構成するPTFEが融点(DSCで観測される345℃付近の吸熱ピーク温度)以上の温度履歴を持たないことを示しており、形成されたフィルムの結晶構造が特定の状態に保たれていることを示している。なお、図1の結晶融解曲線は、345℃付近に吸熱ピーク1があり、そのピーク温度よりも低温側にショルダーが現れている例である。フィルムの原料となるPTFEファインパウダーは、分子量が異なるパウダーから構成されていることがあり、図1の吸熱ピーク1のように吸熱ピークにショルダーが表れる場合がある。ここで、ピークとは、曲線が極値をとる場合にそれをピークと呼び、ショルダーとは、図1の1aの曲線のように極値をとらないものを指す。本発明では、DSCの結晶融解曲線において、ピークにショルダーが現れても、そのショルダーはピークとはみなさないものとする。
【0024】
本発明のフッ素樹脂フィルムは、フッ素樹脂以外の樹脂、またはフィラーなどの添加剤を含まないか、ほとんど含まないものであることが好ましい。これによりフッ素樹脂の特長である低誘電率、および低誘電正接の誘電特性を保持することができる。本発明のフッ素樹脂フィルムは、30GHzにおける比誘電率が 約2.1以下であり、誘電正接が 約0.001以下である。また、85GHzにおける比誘電率が 約2.1以下であり、誘電正接が 約0.001以下である。本発明のフッ素樹脂フィルムは、広い周波数帯域において、優れた誘電特性を有している。
【0025】
本発明のフッ素樹脂フィルムは、30℃~250℃におけるフィルムXY方向の線膨張係数が100ppm/℃以下と低く、温度による寸法変化を小さく抑えることが可能である。フッ素樹脂の線膨張を抑えるために、フッ素樹脂にポリイミドやガラスクロスなどの他の層を積層する必要がないため、薄いフィルムを構成することが可能となる。本発明のフッ素樹脂フィルムの肉厚は、5μm~250μmとすることが可能であり、好ましくは10μm~200μmであり、さらに好ましくは20~200μmである。
【0026】
以下、本発明のフッ素樹脂フィルムを作成する、製造方法の一例について説明する。
【0027】
[予備成形体の成形]
本発明のフッ素樹脂フィルムの作成に用いるPTFE予備成形体は、一般的に知られる方法により成形することができる。例えば、未焼成のPTFEファインパウダーに助剤を配合してペーストを作成し、そのペーストを室温で圧縮成形して予備成形体とする。助剤は、PTFEファインパウダーに添加することによりペースト化して押出すことを可能にするものであり、成形前の揮発を抑え、成形後に揮発することで容易に除去できるものが好ましい。使用しやすい助剤は、初留点(IBP)が150℃~250℃程度のものであり、石油系溶剤が好ましく用いられる。
[押出成形]
作成した予備成形体を押出機に装填し、圧力をかけて押出金型からペーストを押出し、PTFEシートを成形する。シートの厚さは、延伸‐圧縮後のフィルム厚さに応じて適宜決定するとよく、押出圧力はPTFE粒子のフィブリル化を促進するのに十分な高さであることが好ましい。押出金型の温度は室温でもよく、例えば25℃~80℃程度の温度範囲で押出成形するとよい。成形された未焼成のPTFEシートは、PTFEの融点よりも低い温度で加熱され、助剤が揮発する。助剤が除去された後のPTFEシートは、助剤が抜けた後の細孔を含んでいる。
[シート延伸]
助剤が除去されたPTFEシートは、PTFEの融点よりも低い温度で延伸される。未焼成のPTFEシートを延伸することにより、助剤が抜けた後の細孔を起点としてシート全体が多孔質化することが知られている。本発明のフッ素樹脂フィルムには、延伸倍率が15倍~225倍程度の多孔質PTFEシートを用いることができ、延伸倍率が18倍~145倍程度であることがより好ましい。この延伸倍率は、(X方向の延伸倍率×Y方向の延伸倍率)の面積倍率で表される。多孔質PTFEシートの厚さは、約0.03mm~3mmとすることができ、約0.04mm~2mmとすることがより好ましい。多孔質PTFEシートの密度は、例えば0.1g/cm~0.7g/cmとすることができ、0.2g/cm~0.5g/cmとすることがより好ましい。
[シート圧縮処理]
上述の多孔質PTFEシートは、PTFEの融点よりも低い温度で圧縮処理されていることが望ましい。例えば、圧縮処理温度は、80℃~340℃程度の温度範囲であることが好ましい。圧縮処理は、例えば、一対の圧延ロールの間に多孔質PTFEシートを走行させ、対の圧延ロールで挟持した多孔質PTFEシートに一定の荷重がかかるように保持することにより行われる。圧延ロールにかける荷重は、圧縮処理後のPTFEシートに必要な厚さや密度などに応じて、PTFEシートに適切な圧力がかかるように設定することが望ましい。例えば、荷重は5MPa~400MPaの範囲にすることができる。また、一対の圧延ロールで一度に圧縮処理するだけではなく、複数対の圧延ロールで数段階に分けて行うこともできる。この圧縮処理により、多孔質PTFEはシート内の空孔径とその分布が変化し、高密度化する。このように作成されたPTFEフィルムの密度は、1.8g/cm~2.4g/cmとなる。このようにして得られるフッ素樹脂フィルムの厚さは、5μm~250μm、好ましくは10μm~200μm、さらに好ましくは20~200μmとすることができる。
【0028】
以下の実施例で、本発明をより詳細に説明する。なお、以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例
【0029】
<示差走査熱量測定(DSC)>
DSCは、NETZSCH JAPAN製 DSC3200を用いて、JIS K 7122に準拠して行った。フッ素樹脂フィルムを5mg~10mg切り取り、測定試料とした。測定試料は、熱収縮の影響を防ぐためにアルミパンにクランプした。室温から400℃まで、昇温速度10℃/minで昇温した過程で得られたデータを用いた。得られた結晶融解曲線(DSC曲線)から、吸熱ピーク温度を確認した。DSC曲線のベースラインの調整と転移熱の求め方はJIS K 7122に従い、ピーク面積から融解エネルギーを算出した。DSC曲線のベースラインが略直線の場合、DSC曲線がベースラインを離れる点を300℃の点とし、DSC曲線がベースラインに戻る点を360℃の点とし、この2点を直線で結ぶことで、339℃~355℃の低温側温度域の吸熱ピーク面積を算出することができる。同様に、DSC曲線上の370℃の点と390℃の点を直線で結び、370℃~390℃の高温側温度域の吸熱ピークのベースラインとしてピーク面積を算出することができる。
このように算出したピーク面積から、低温側ピークの融解エネルギーと高温側ピークの融解エネルギーを求めた。

<ヘーズ測定>
ヘーズの測定は、ISO14782に準拠して測定を行われた。試験装置には、スガ試験機(株)製 ヘーズメーターHZ-V3を使用した。光源はD65、測定径はφ14mm、ダブルビーム方式を用いて測定を行った。測定値は、1サンプルにつき3か所測定を行い、その平均値を採用した。測定環境は、温度23℃±2℃、湿度50%RH±10%RHとした。

<CTE測定>
線膨張係数(CTE)は、熱膨張係数のうち、長さの変化率を示すものである。CTEの測定は、ISO11359‐2に準拠した機械熱分析(TMA法)で行った。TMA法は、測定サンプルを引張りプローブにセットし、測定サンプルに一定の荷重をかけた状態で昇温し、測定サンプルの膨張による長さの変化量を測定することによってCTEを求めるものである。CTEは以下の式(1)を用いて算出される。
CTE =(ΔL/L0)×(1/ΔT)×10 式(1)
ここで、ΔLは、温度T1からT2まで温度が変化したときの測定サンプルの長さの変化量、L0は、測定前の測定サンプルの長さ、ΔTは、温度の変化量(T2-T1)℃を表す。
測定サンプルは、前処理として270℃の恒温槽で1時間のアニール処理を行い、残留ひずみを除去してから測定に用いることが好ましい。
測定装置にはNETZSCH JAPAN製 TMA4000Sを使用し、以下の条件で測定した。
測定温度範囲:室温~250℃
昇温速度 :10℃/min
引張荷重 :0.5g
測定サンプルサイズ :長さ15mm×幅5mm(チャック部を入れたサンプル寸法 長さ20mm×幅5mm)

測定方法
室温~250℃まで昇温後、20℃/minの速度で室温まで冷却する。その後、10℃/minの速度で再び250℃まで昇温し、2回目の昇温時の長さ変化からCTEを求める。
フィルムのX方向、Y方向それぞれで測定サンプルを作成して測定を行い、30℃~250℃のCTEを算出した。X方向とY方向で測定値の大きい方の値を、そのフィルムのXY方向のCTEとした。

<誘電特性測定>
比誘電率および誘電正接は、平衡型円板共振器法により測定した。測定装置にキーサイトテクノロジー(株)製 vector network analyzer N5251Aを使用し、以下の条件で測定した。
測定サンプル形状 : 30mm×30mm
掃引周波数 : 100M~100GHz
円板直径 :15mm
測定環境 :-40℃、室温(22℃、60%RH)、125℃
【0030】
実施例1
面積延伸倍率が36倍になるように延伸された未焼成の多孔質PTFEシートを準備した。その多孔質PTFEシートを、一対の圧延ロールの間に通して、圧縮温度340℃で圧縮した。圧延ロール間では、10MPaの一定の荷重がかけられた。得られたフッ素樹脂フィルムの厚さは、0.24mmであった。
実施例2
面積延伸倍率が36倍になるように延伸された未焼成の多孔質PTFEシートを準備した。その多孔質PTFEシートを、一対の圧延ロールの間に通して、圧縮温度340℃で圧縮した。圧延ロール間では、10MPaの一定の荷重がかけられた。得られたフッ素樹脂フィルムの厚さは、0.018mmであった。
実施例3
面積延伸倍率が50倍になるように延伸された未焼成の多孔質PTFEシートを準備した。その多孔質PTFEシートを、一対の圧延ロールの間に通して、圧縮温度120℃で圧縮した。圧延ロール間では、60MPaの一定の荷重がかけられた。得られたフッ素樹脂フィルムの厚さは、0.015mmだった。
実施例4
面積延伸倍率が36倍になるように延伸された未焼成の多孔質PTFEシートを準備した。その多孔質PTFEシートを、一対の圧延ロールの間に通して、圧縮温度300℃で圧縮した。圧延ロール間では、10MPaの一定の荷重がかけられた。得られたフッ素樹脂フィルムの厚さは、0.25mmだった。
実施例5
面積延伸倍率が30倍になるように延伸された未焼成の多孔質PTFEシートを準備した。その多孔質PTFEシートを、一対の圧延ロールの間に通して、圧縮温度320℃で圧縮した。圧延ロール間では、10MPaの一定の荷重がかけられた。得られたフッ素樹脂フィルムの厚さは、0.05mmだった
実施例6
面積延伸倍率が30倍になるように延伸された未焼成の多孔質PTFEシートを準備した。その多孔質PTFEシートを、一対の圧延ロールの間に通して、圧縮温度120℃で圧縮した。圧延ロール間では、200MPaの一定の荷重がかけられた。得られたフッ素樹脂フィルムの厚さは、0.04mmだった
実施例7
面積延伸倍率が100倍になるように延伸された未焼成の多孔質PTFEシートを準備した。その多孔質PTFEシートを、一対の圧延ロールの間に通して、圧縮温度300℃で圧縮した。圧延ロール間では、20MPaの一定の荷重がかけられた。得られたフッ素樹脂フィルムの厚さは、0.05mmだった
比較例1
面積延伸倍率が50倍になるように延伸された未焼成の多孔質PTFEシートを準備した。その多孔質PTFEシートを、一対の圧延ロールの間に通して、圧縮温度360℃で圧縮した。圧延ロール間では、10MPaの一定の荷重がかけられた。得られたフッ素樹脂フィルムの厚さは、0.05mmだった
【0031】
各実施例、比較例で得られたフッ素樹脂フィルムについて、DSC、ヘーズ、線膨張係数を測定した結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

実施例のフッ素樹脂フィルムは、いずれも30℃~250℃におけるフィルムXY方向の線膨張係数が、100ppm/℃以下だった。また、実施例のフッ素樹脂フィルムは、30GHzにおける比誘電率の測定値が、-40℃~125℃の温度範囲において、2.03~2.06であり、誘電正接の測定値が、-40℃~125℃の温度範囲において、0.0001だった。また、85GHzにおける比誘電率の測定値が、-40℃~125℃の温度範囲において、2.01~2.04であり、誘電正接の測定値が、-40℃~125℃の温度範囲において、0.0001~0.0003だった。
いずれの実施例のフィルムも、広い温度範囲において、比誘電率が2.1以下、また誘電正接が0.001以下で安定した誘電特性を持っており、フッ素樹脂の特長である優れた誘電特性を保持していた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のフッ素樹脂フィルムは、フッ素樹脂の優れた誘電特性を保持しており、温度による寸法変化が小さいため、高周波基板材料などの用途、とくに線膨張係数が小さい金属材料などとの積層に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 339℃~355℃の吸熱ピーク 2 370℃~390℃の吸熱ピーク

図1