(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】打撃試験の評価基準値の設定方法およびその装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/12 20060101AFI20230316BHJP
G01N 29/38 20060101ALI20230316BHJP
G01N 29/04 20060101ALI20230316BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
G01N29/12
G01N29/38
G01N29/04
G01N3/00 M
(21)【出願番号】P 2019140094
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】513096336
【氏名又は名称】リック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391062539
【氏名又は名称】一般財団法人日本建築総合試験所
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】岩野 聡史
(72)【発明者】
【氏名】片岡 繁人
(72)【発明者】
【氏名】内田 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】春畑 仁一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 夏樹
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-118075(JP,A)
【文献】特開2004-144586(JP,A)
【文献】特開2017-090328(JP,A)
【文献】特開2018-066632(JP,A)
【文献】特開2006-349628(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0073246(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01N 3/00-3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度計を有する打撃具で評価対象物の測定点を打撃する打撃ステップと、
前記打撃具で前記評価対象物を打撃した際に前記加速度計で測定される打撃波形を取得し、この打撃波形から、前記打撃具が前記評価対象物に接触している接触時間、および前記打撃具が前記評価対象物に衝突するときの速度と前記打撃具が前記評価対象物によって反発するときの速度との比である反発速度比を測定する測定ステップと、
前記評価対象物の複数の測定点への打撃によりそれぞれ測定される接触時間と反発速度比を比較し、これら接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求める比較ステップと、
求められた接触時間を評価基準値として設定する設定ステップと
を具備することを特徴とする打撃試験の評価基準値の設定方法。
【請求項2】
前記比較ステップでは、正の相関関係にある接触時間と反発速度比から最小二乗法によって相関関係式を求め、この相関関係式から接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求める
ことを特徴とする請求項1記載の打撃試験の評価基準値の設定方法。
【請求項3】
前記評価対象物は、弾性体である
ことを特徴とする請求項1または2記載の打撃試験の評価基準値の設定方法。
【請求項4】
加速度計を有し、評価対象物の測定点を打撃する打撃具と、
前記打撃具で前記評価対象物を打撃した際に前記加速度計で測定される打撃波形を取得し、この打撃波形から、前記打撃具が前記評価対象物に接触している接触時間、および前記打撃具が前記評価対象物に衝突するときの速度と前記打撃具が前記評価対象物によって反発するときの速度との比である反発速度比を測定する測定部と、
前記評価対象物の複数の測定点への打撃によりそれぞれ前記測定部で測定される接触時間と反発速度比を比較し、これら接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求める比較部と、
この比較部で求められた接触時間を評価基準値として設定する設定部と
を具備することを特徴とする打撃試験の評価基準値の設定装置。
【請求項5】
前記比較部は、正の相関関係にある接触時間と反発速度比から最小二乗法によって相関関係式を求め、この相関関係式から接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求める
ことを特徴とする請求項4記載の打撃試験の評価基準値の設定装置。
【請求項6】
前記評価対象物は、弾性体である
ことを特徴とする請求項4または5記載の打撃試験の評価基準値の設定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価対象物の健全性を評価する打撃試験の評価基準値の設定方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非破壊試験として、コンクリートなどの弾性体の表面をハンマで打撃する打撃試験が提案され、実施されている。この打撃試験では、弾性体の表面をハンマで打撃した際の測定結果の値を評価基準値と比較し、弾性体が健全であるのか否かを判定している。しかしながら、この評価基準値を設定する方法は、これまでは、容易に評価基準値を設定することができない数多くの測定点で実施した打撃試験の結果から評価基準値を設定する相対評価や、客観的に正確な評価基準値を設定することができない技術者の経験・主観に基づく評価などが一般的である。
【0003】
また、日本非破壊検査協会規格NDIS3434-2には、評価基準値の設定方法として、参照供試体を作製し、この参照供試体で接触時間を測定して参照値を決定する方法が示されているが、参照供試体を作製する必要があり、評価基準値を容易に設定することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-81767号公報
【文献】特開2010-203810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなことから、打撃試験においては、容易に客観的な評価基準値を設定できることが望まれている。
【0006】
本発明は、容易に客観的な評価基準値を設定できる打撃試験の評価基準値の設定方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の打撃試験の評価基準値の設定方法は、加速度計を有する打撃具で評価対象物の測定点を打撃する打撃ステップと、前記打撃具で前記評価対象物を打撃した際に前記加速度計で測定される打撃波形を取得し、この打撃波形から、前記打撃具が前記評価対象物に接触している接触時間、および前記打撃具が前記評価対象物に衝突するときの速度と前記打撃具が前記評価対象物によって反発するときの速度との比である反発速度比を測定する測定ステップと、前記評価対象物の複数の測定点への打撃によりそれぞれ測定される接触時間と反発速度比を比較し、これら接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求める比較ステップと、求められた接触時間を評価基準値として設定する設定ステップとを具備するものである。
【0008】
請求項2記載の打撃試験の評価基準値の設定方法は、請求項1記載の打撃試験の評価基準値の設定方法において、前記比較ステップでは、正の相関関係にある接触時間と反発速度比から最小二乗法によって相関関係式を求め、この相関関係式から接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求めるものである。
【0009】
請求項3記載の打撃試験の評価基準値の設定方法は、請求項1または2記載の打撃試験の評価基準値の設定方法において、前記評価対象物は、弾性体である。
【0010】
請求項4記載の打撃試験の評価基準値の設定装置は、加速度計を有し、評価対象物の測定点を打撃する打撃具と、前記打撃具で前記評価対象物を打撃した際に前記加速度計で測定される打撃波形を取得し、この打撃波形から、前記打撃具が前記評価対象物に接触している接触時間、および前記打撃具が前記評価対象物に衝突するときの速度と前記打撃具が前記評価対象物によって反発するときの速度との比である反発速度比を測定する測定部と、前記評価対象物の複数の測定点への打撃によりそれぞれ前記測定部で測定される接触時間と反発速度比を比較し、これら接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求める比較部と、この比較部で求められた接触時間を評価基準値として設定する設定部とを具備するものである。
【0011】
請求項5記載の打撃試験の評価基準値の設定装置は、請求項4記載の打撃試験の評価基準値の設定装置において、前記比較部は、正の相関関係にある接触時間と反発速度比から最小二乗法によって相関関係式を求め、この相関関係式から接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求めるものである。
【0012】
請求項6記載の打撃試験の評価基準値の設定装置は、請求項4または5記載の打撃試験の評価基準値の設定装置において、前記評価対象物は、弾性体である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の打撃試験の評価基準値の設定方法によれば、評価対象物の複数の測定点への打撃によりそれぞれ測定される接触時間と反発速度比の相関関係を比較し、これら接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を評価基準値として設定することにより、容易に客観的な評価基準値を設定できる。
【0014】
請求項2記載の打撃試験の評価基準値の設定方法によれば、請求項1記載の打撃試験の評価基準値の設定方法の効果に加えて、正の相関関係にある接触時間と反発速度比から最小二乗法によって相関関係式を求めることにより、この相関関係式から接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求めることができる。
【0015】
請求項3記載の打撃試験の評価基準値の設定方法によれば、請求項1または2記載の打撃試験の評価基準値の設定方法の効果に加えて、評価対象物である弾性体について、容易に客観的な評価基準値を設定できる。
【0016】
請求項4記載の打撃試験の評価基準値の設定装置によれば、評価対象物の複数の測定点への打撃によりそれぞれ測定される接触時間と反発速度比の相関関係を比較し、これら接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を評価基準値として設定することにより、容易に客観的な評価基準値を設定できる。
【0017】
請求項5記載の打撃試験の評価基準値の設定装置によれば、請求項4記載の打撃試験の評価基準値の設定装置の効果に加えて、正の相関関係にある接触時間と反発速度比から最小二乗法によって相関関係式を求めることにより、この相関関係式から接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求めることができる。
【0018】
請求項6記載の打撃試験の評価基準値の設定装置によれば、請求項4または5記載の打撃試験の評価基準値の設定装置の効果に加えて、評価対象物である弾性体について、容易に客観的な評価基準値を設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施の形態を示す打撃試験の評価基準値の設定装置の説明図である。
【
図3】同上設定装置を用いた評価基準値の設定方法を示すフローチャートである。
【
図4】同上設定装置の打撃具で弾性体を打撃した際に加速度計で測定される打撃波形の例を示す波形図である。
【
図5】同上打撃波形から測定される接触時間と反発速度比を示すグラフである。
【
図6】同上正の相関関係にある接触時間と反発速度比の相関関係式を曲線で示すグラフである。
【
図7】同上打撃試験の評価対象物としてコンクリート橋脚を示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
図1に打撃試験の評価基準値を設定する設定装置を示す。この設定装置は、評価対象物を打撃試験して健全性を評価する打撃試験装置10である。なお、設定装置は、打撃試験装置10とは別に構成してもよい。また、打撃試験の評価対象物は、コンクリートなどの弾性体11である。
【0022】
そして、設定装置である打撃試験装置10は、加速度計14を有する打撃具15、およびこの打撃具15で弾性体11を打撃した際に加速度計14で測定される打撃波形を取得して処理する処理部16を備えている。
【0023】
打撃具15は、手元側に把持部19が設けられ、先端側に打撃部である鉄球20が設けられたハンマである。打撃具15が有する加速度計14は、打撃具15の先端側で、弾性体11を打撃する鉄球20とは反対側に取り付けられている。なお、打撃具15は、人手で打撃するハンマの他、例えば電動力を用いて打撃動作する打撃機構などでもよい。
【0024】
処理部16は、加速度計14が電気的に接続され、加速度計14で測定される打撃波形を取得して処理する。処理部16は、専用の処理ユニット、パソコン、これら処理ユニットとパソコンの組み合わせのいずれで構成されていてもよい。
図1には処理ユニットとパソコンの組み合わせの例を示す。
【0025】
次に、
図2に処理部16の構成を示す。処理部16は、設定装置の機能として、測定部23、比較部24、設定部25および記憶部26を備えている。
【0026】
測定部23は、打撃具15で弾性体11を打撃した際に加速度計14で測定される打撃波形を取得し、この打撃波形から、打撃具15が弾性体11に接触している接触時間、および打撃具15が弾性体11に衝突するときの速度と打撃具15が弾性体11によって反発するときの速度との比である反発速度比を測定する。
【0027】
比較部24は、弾性体11の複数の測定点への打撃によりそれぞれ測定部23で測定される接触時間と反発速度比を比較し、これら接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求める。
【0028】
設定部25は、比較部24で求められた接触時間を打撃試験の評価基準値として設定する。
【0029】
記憶部26は、処理部16による評価基準値の設定機能および打撃試験機能を実行するプログラムや、測定部23によって測定される測定点毎の接触時間と反発速度比、比較部24によって求められる接触時間、設定部25によって設定される評価基準値などのデータを記憶する。
【0030】
なお、処理部16は、打撃試験の機能として、弾性体11の打撃試験の際に測定される接触時間の測定値を評価基準値と比較し、弾性体11の健全性を評価する機能を備えている。
【0031】
ここで、評価基準値の設定にあたり、打撃試験において利用する原理について説明する。
【0032】
弾性体11の表面が健全であると、打撃具15で弾性体11の表面を打撃することにより、弾性体11の表面に弾性変形が生じる。つまり、打撃具15での打撃により弾性体11の表面は変形するが、打撃具15での打撃が終了すると弾性体11の変形は元に戻る。
【0033】
弾性体11の表面が劣化、損傷すると、打撃具15での打撃による弾性体11の表面の変形量が大きくなる(弾性係数が小さくなる)という変化が生じる。劣化、損傷がさらに進行すると、打撃具15での打撃が終了しても弾性体11の変形が元に戻らない塑性変形が生じる。
【0034】
測定される接触時間は、弾性体11の表面の弾性係数(硬さ)を反映している。弾性体11の表面が健全であると、弾性係数が大きく、接触時間が短い。一方、弾性体11の表面が劣化、損傷すると、弾性係数が小さくなり、接触時間が長くなる。
【0035】
測定される反発速度比は、弾性体11の表面の動きやすさを反映している。弾性体11の表面が健全で、打撃により弾性体11の表面に弾性変形が生じている範囲において、反発速度比は大きくなる。一方、弾性体11の表面の劣化、損傷が進行し、打撃により弾性体11の表面に塑性変形が生じるようになると、反発速度比は小さくなる。
【0036】
したがって、接触時間と反発速度比には、弾性体11の表面が健全である範囲において、接触時間が長くなるほど反発速度比も大きく、正の相関関係があり、一方、弾性体11の表面が劣化、損傷する範囲において、接触時間が長くなるほど反発速度比が小さくなり、負の相関関係がある。さらに、反発速度比は、正の相関関係の範囲内において接触時間が長くなるほど反発速度比の増加の割合が減少し、正の相関関係から負の相関関係に変化することで反発速度比の増加が減少に変化し、負の相関関係の範囲内において接触時間が長くなるほど反発速度比の減少の割合が大きくなる相関関係がある。そして、このような接触時間と反発速度比の相関関係は、弾性体11の状態の物理現象によって生じる。
【0037】
次に、評価基準値の設定方法を、
図3のフローチャートを参照して説明する。
【0038】
打撃具15で弾性体11の表面の測定点を打撃する(ステップS1(打撃ステップ))。このとき、弾性体11の表面は健全性を有する。
【0039】
処理部16の測定部23により、打撃具15で弾性体11を打撃した際に加速度計14で測定される打撃波形を取得し、この打撃波形から、打撃具15が弾性体11に接触している接触時間、および打撃具15が弾性体11に衝突するときの速度と打撃具15が弾性体11によって反発するときの速度との比である反発速度比を測定する(ステップS2(測定ステップ))。
【0040】
図4に打撃波形の例を示す。時刻T1で打撃具15と弾性体11との接触が開始し、時刻Tmaxで打撃波形の振幅が最大となり、時刻T2で打撃具15と弾性体11との接触が終了する。時刻T1から時刻Tmaxまでは打撃具15が弾性体11に衝突していく時間であり、時刻Tmaxから時刻T2までは弾性体11が打撃具15を反発している時間であり、時刻T1から時刻T2までが打撃具15が弾性体11に接触している接触時間である。
【0041】
打撃波形から、打撃具15が弾性体11に接触している接触時間を測定するには、例えば、打撃波形の時刻歴加速度を高速フーリエ変換により周波数解析し、振幅が最大となる周波数の逆数により接触時間を測定してもよい(例えば、特許第4565449号公報参照)。あるいは、打撃波形の時刻T1から時刻T2までの接触時間を測定してもよい。
【0042】
打撃波形から、打撃具15が弾性体11に衝突するときの速度と打撃具15が弾性体11によって反発するときの速度との比である反発速度比を測定するには、例えば、数1の反発速度比Qの式により求める。
【0043】
【0044】
ここで、VA:打撃具15が弾性体11の表面に衝突するときの速度、VR:接触終了時の弾性体11の表面の速度、a(t):時刻tでの打撃波形の振幅値、T1:打撃具15と弾性体11との接触が開始した時刻、Tmax:打撃波形の振幅値が最大値となる時刻、T2:打撃具15と弾性体11との接触が終了した時刻である。
【0045】
このような打撃具15による打撃を弾性体11の複数の測定点について行い、各測定点での打撃波形から接触時間と反発速度比をそれぞれ測定する。
【0046】
続いて、処理部16の比較部24により、弾性体11の複数の測定点への打撃によりそれぞれ測定される接触時間と反発速度比を比較し、これら接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求める(ステップS3(比較ステップ))。
【0047】
図5に弾性体11の複数の測定点pでの打撃波形から測定される接触時間と反発速度比の例を示す。測定点pによって接触時間と反発速度比に違いが生じるが、上述したように弾性体11の表面が健全である範囲においては、接触時間が短ければ反発速度比も小さく、接触時間が長ければ反発速度比も大きいため、複数の測定点の接触時間と反発速度比には正の相関関係がある。
【0048】
そして、弾性体11の複数の測定点pへの打撃によりそれぞれ測定される接触時間と反発速度比を比較することにより、これら接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係にある複数の測定点を抽出する。
図5に示す例では、範囲a内の4つの測定点pが、接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係にある。さらに、範囲a内の4つの測定点pにおいては、接触時間が長くなるほど反発速度比の増加の割合が減少する相関関係にある。
【0049】
正の相関関係にある接触時間と反発速度比から最小二乗法によって相関関係式を求める。すなわち、範囲aにある測定点pの接触時間と反発速度比から最小二乗法によって相関関係式を求める。相関関係式は、例えば、y=-3E-0.5x2+0.0106xとなる。
【0050】
図6に正の相関関係にある接触時間と反発速度比の相関関係式を曲線bで示す。この曲線bは、正の相関関係の範囲内では接触時間が長くなるほど反発速度比の増加の割合が減少する相関関係があるため、二次曲線に近似した曲線となる。この曲線bは、前半部は接触時間と反発速度比が共に増加する正の相関関係にあり、後半部は接触時間の増加とともに反発速度比が減少する負の相関関係にある。そして、この相関関係式から、接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するとき(
図6の変化点c)を抽出し、その変化するときの接触時間の値を求める。
【0051】
そして、処理部16の設定部25により、求めた接触時間の値を評価基準値として設定する(ステップS4(設定ステップ))。さらに、設定された評価基準値を記憶部26に記憶する(ステップS5(記憶ステップ))。
【0052】
次に、設定装置である打撃試験装置10の適用例を説明する。
【0053】
図7に、一例として、弾性体11であるコンクリート橋脚30の維持管理への適用例を示す。
【0054】
コンクリート橋脚30の表面に複数の測定点pを設定し、上述した評価基準値の設定方法に従って、打撃具15で複数の測定点pを打撃し、測定される接触時間と反発速度比の相関関係から評価基準値を設定する。
【0055】
そして、打撃試験の際には、打撃具15で複数の測定点pを打撃し、測定された接触時間の測定値と予め設定された評価基準値とを比較し、コンクリート橋脚30の健全性を判定する。つまり、接触時間の測定値が評価基準値よりも短ければ、コンクリート橋脚30は健全と判定し、一方、接触時間の測定値が評価基準値よりも長ければ、コンクリート橋脚30に劣化、損傷が生じていると判定する。
【0056】
この打撃試験を例えば5年後、10年後…にも実施し、コンクリート橋脚30に経年による劣化、損傷が生じているのかを判定する。
【0057】
なお、打撃試験の際に測定された接触時間と反発速度比を評価基準値の設定用のデータとして追加し、評価基準値を再度求めて設定してもよい。この場合、上述したように弾性体11の表面が健全である範囲においては、接触時間が短ければ反発速度比も小さく、接触時間が長ければ反発速度比も大きく、接触時間と反発速度比には正の相関関係があるため、データの追加によってより正確な評価基準値を設定できる。
【0058】
そして、本実施の形態の評価基準値の設定方法および設定装置によれば、打撃具15で弾性体11を打撃した際に加速度計14で測定される打撃波形を取得し、この打撃波形から接触時間と反発速度比を測定し、弾性体11の複数の測定点への打撃によりそれぞれ測定される接触時間と反発速度比を比較し、これら接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求め、この求められた接触時間を評価基準値として設定するため、容易に客観的かつ正確な評価基準値を設定できる。
【0059】
例えば、数多くの測定点で実施した試験結果から評価基準値を設定する相対評価や、技術者の経験・主観に基づく評価に比べて、容易に客観的かつ正確な評価基準値を設定できる。また、日本非破壊検査協会規格NDIS3434-2には、評価基準値の設定方法として、参照供試体を作製し、この参照供試体で接触時間を測定して参照値を決定する方法が示されているが、これに対して、参照供試体を作製する必要がなく、容易に客観的かつ正確な評価基準値を設定できる。このように、1回の打撃で得られる打撃波形から測定される接触時間と反発速度比を比較するという、弾性体11に生じる物理現象に着目した新しい発想により、容易に客観的かつ正確な判定基準値を設定できる。
【0060】
しかも、1回の打撃で得られる打撃波形から接触時間と反発速度比の2つの測定値を測定して評価基準値を設定できるため、複数の測定器を用いる必要がなく、設定装置の構成や設定作業性を簡単にできる。
【0061】
さらに、正の相関関係にある接触時間と反発速度比から最小二乗法によって相関関係式を求め、この相関関係式から接触時間と反発速度比の相関関係が正の相関関係から負の相関関係に変化するときの接触時間を求めることができるため、打撃する測定点が少なくても、客観的に正確な評価基準値を設定できる。
【0062】
なお、以上の実施の形態では、評価対象物である弾性体11としてコンクリートを例示して説明したが、これに限定されることはなく、打撃によって弾性変形が生じる弾性体11であればよく、例えば金属、合成樹脂、木材などにも適用できる。
【符号の説明】
【0063】
10 設定装置である打撃試験装置
11 評価対象物である弾性体
14 加速度計
15 打撃具
23 測定部
24 比較部
25 設定部