(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】中空構造体及び中空構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 3/12 20060101AFI20230316BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20230316BHJP
G10K 11/172 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
B32B3/12 Z
G10K11/16 130
G10K11/172
(21)【出願番号】P 2019007648
(22)【出願日】2019-01-21
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000010054
【氏名又は名称】岐阜プラスチック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】青木 規洋
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/225706(WO,A1)
【文献】特開2018-134756(JP,A)
【文献】特開2003-036904(JP,A)
【文献】特表2013-521080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
G10K11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に複数のセルが並設されたコア層と、前記コア層の両面に接合された一対のスキン層とを備えた樹脂製の板材を有する中空構造体であって、
前記一対のスキン層の少なくとも一方及び前記コア層には、前記セルの内外を連通する孔が複数設けられており、
前記孔の内面は、前記板材を構成する樹脂が蒸発して形成された蒸発面であ
り、
前記板材は、湾曲部を有し、
前記孔は、前記湾曲部に設けられており、
前記孔における前記セルの内側の開口端部には、前記セルの内方に突出する樹脂塊を有し、
前記コア層は、前記複数のセルを区画する側壁部を有し、
前記孔は、前記側壁部を厚さ方向に貫通し、
前記複数の孔の隣り合う孔の間隔は、前記複数のセルのピッチより短く、
前記複数の孔は、異なる形状の孔が混在しており、
前記スキン層の肉厚は、前記コア層の肉厚よりも厚いことを特徴とする中空構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の中空構造体の製造方法であって、
前記孔は、前記板材にレーザー光線を照射して形成する、請求項1に記載の中空構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空構造体及び中空構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、中空構造体について記載されている。
図4に示すように、中空構造体70は、内部に複数のセルSが並設されたコア層72と、コア層72の両面に接合された一対のスキン層73、74とを備えた樹脂製の板材71を有している。スキン層73とコア層72の上壁部とを貫通するように針部材75を突き刺して、孔76を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1等の中空構造体70では、板材71に針部材75を突き刺した際に、スキン層73及びコア層72が針部材75で押し広げられた状態となる。そのため、板材71の全体の形状が、孔76を形成した側(
図4中上側)が凸となるように反る場合があった。本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、板材の反りが抑制された中空構造体
及び中空構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための中空構造体は、内部に複数のセルが並設されたコア層と、前記コア層の両面に接合された一対のスキン層とを備えた樹脂製の板材を有する中空構造体であって、前記一対のスキン層の少なくとも一方及び前記コア層には、前記セルの内外を連通する孔が複数設けられており、前記孔の内面は、前記板材を構成する樹脂が蒸発して形成された蒸発面であることを要旨とする。
【0006】
板材にレーザー光線を照射し、板材を構成する樹脂を蒸発させて孔を形成すると、孔の内面は、板材を構成する樹脂が蒸発した蒸発面となる。スキン層及びコア層を押し広げることなく孔が形成されているため、中空構造体の反りが抑制されている。
【0007】
上記中空構造体について、前記板材は、湾曲部を有し、前記孔は、前記湾曲部に設けられていることが好ましい。湾曲部は、板材を湾曲させることによって形成されるため、湾曲部に応力が溜まった状態となり易い。この湾曲部に針部材で孔を形成すると、湾曲部にさらに応力が付与されて板材が反りやすくなる。上記構成によれば、板材が湾曲部を有し、孔が湾曲部に設けられている構成において、板材の反りを好適に抑制することができる。
【0008】
上記中空構造体について、前記孔における前記セルの内側の開口端部には、前記セルの内方に突出する樹脂塊を有することが好ましい。レーザー光線の照射にともない溶融した樹脂が固化することによって、孔におけるセルの内側の開口端部に樹脂塊が形成される。この樹脂塊によって開口端部を補強することができるため、開口端部におけるスキン層のコア層からの剥離を抑制することができる。
【0009】
上記中空構造体について、前記コア層は、前記複数のセルを区画する側壁部を有し、前記孔は、前記側壁部を厚さ方向に貫通していることが好ましい。この構成によれば、側壁部を貫通した孔によって、側壁部の両側のセルを共に、セルの内外を連通した状態とすることができる。これにより、板材で吸音可能な周波数の幅を広くすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の中空構造体及び中空構造体の製造方法によれば、板材の反りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)は樹脂構造体の斜視図、(b)は(a)のα-α線断面図、(c)は(a)のβ-β線断面図。
【
図2】(a)は中空構造体のコア層を構成するシート材の斜視図、(b)は同シート材の折り畳み途中の状態を示す斜視図、(c)は同シートを折り畳んだ状態を示す斜視図。
【
図3】(a)~(c)は孔形成工程における中空構造体の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
中空構造体の実施形態を説明する。
図1(a)~(c)に示すように、中空構造体10は、内部に複数のセルSが並設されたコア層20と、コア層20の両面に接合された一対のスキン層30、40とを備えた樹脂製の板材14を有する。一対のスキン層30、40の一方及びコア層20には、セルSの内外を連通する孔15が複数設けられており、孔15の内面は、板材14を構成する樹脂が蒸発して形成された蒸発面15Aである。
【0013】
図1(b)及び(c)に示すように、コア層20は、所定形状に成形された1枚の熱可塑性樹脂製のシート材を折り畳んで形成されている。そして、コア層20は、上壁部21と、下壁部22と、上壁部21及び下壁部22の間に立設されてセルSを六角柱形状に区画する側壁部23とで構成されている。
【0014】
図1(b)及び(c)に示すように、コア層20の内部に区画形成されるセルSには、構成の異なる第1セルS1及び第2セルS2が存在する。
図1(b)に示すように、第1セルS1においては、側壁部23の上部に2層構造の上壁部21が設けられている。この2層構造の上壁部21の各層は互いに接合されている。また、第1セルS1においては、側壁部23の下部に1層構造の下壁部22が設けられている。一方、
図1(c)に示すように、第2セルS2においては、側壁部23の上部に1層構造の上壁部21が設けられている。また、第2セルS2においては、側壁部23の下部に2層構造の下壁部22が設けられている。この2層構造の下壁部22の各層は互いに接合されている。側壁部23の上部に設けられた2層構造の上壁部21、及び、側壁部23の下端部に設けられた2層構造の下壁部22は、各層の全面で接合されていてもよいし、部分的に接合されていてもよい。
【0015】
図1(b)及び(c)に示すように、隣接する第1セルS1同士の間、及び隣接する第2セルS2同士の間は、それぞれ2層構造の側壁部23によって区画されている。2層構造の側壁部23を構成する各層は、上壁部21側と下壁部22側で接合されており、中央側は接合されていない。
【0016】
図1(a)に示すように、第1セルS1はX方向に沿って列を成すように並設されていて、上面視した場合に、隣り合う2つの第1セルS1が六角形の1辺を共有している。同様に、第2セルS2はX方向に沿って列を成すように並設されていて、上面視した場合に、隣り合う2つの第2セルS2が六角形の1辺を共有している。第1セルS1の列及び第2セルS2の列は、X方向に直交するY方向において交互に配列されている。そして、これら第1セルS1及び第2セルS2により、コア層20は、全体としてハニカム構造をなしている。
【0017】
図1(a)~(c)に示すように、上記のように構成されたコア層20の上面には熱可塑性樹脂製のシート材であるスキン層30が接合されている。また、コア層20の下面には、熱可塑性樹脂製のシート材であるスキン層40が接合されている。この実施形態では、コア層20における第1セルS1の上部が、コア層20の上壁部21及びスキン層30で閉塞されている。したがって、コア層20の上壁部21とスキン層30とで、第1セルS1の上部を閉塞する閉塞壁を構成する。同様に、コア層20における第2セルS2の下部が、コア層20の下壁部22及びスキン層40で閉塞されている。したがって、コア層20の下壁部22とスキン層40とで、第2セルS2の下部を閉塞する閉塞壁を構成する。なお、
図1(b)及び(c)では、図示されている3つのセルSのうち、最も左側のセルSに代表して符号を付しているが、他のセルSについても同様である。
【0018】
スキン層30、40及びコア層20は、熱可塑性樹脂製である。スキン層30、40及びコア層20を構成する熱可塑性樹脂は、従来周知のものであってその材質は特に限定されない。例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、アクリル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。スキン層30、40及びコア層20を構成する熱可塑性樹脂は、いずれも同じ材質であることが好ましい。本実施形態では、いずれもポリプロピレン樹脂製とされている。
【0019】
板材14の厚さは、特に限定されないが、3mm~40mmであることが好ましい。
コア層20を構成する上壁部21、下壁部22、及び、側壁部23の各厚さは、0.1mm~0.5mmであることが好ましい。
【0020】
スキン層30、40の厚さは、0.3mm~2.0mmであることが好ましい。スキン層30、40の厚さは、コア層20の厚さよりも厚いことが好ましい。例えば、スキン層30、40の厚さは、コア層20の厚さの1.5~2.5倍であることが好ましい。スキン層30、40の厚さがコア層20の厚さよりも厚いことにより、スキン層30、40とコア層20の厚さが等しい態様に比べて、相対的に、板材14を軽量化することができるとともに、板材14の曲げ強度を高くすることができる。
【0021】
図1(b)及び(c)に示すように、中空構造体10の一方の面(
図1では上面側)には、セルSの内外を連通させる孔15が設けられている。具体的には、
図1(b)に示すように、第1セルS1において孔15は、上面側のスキン層30及び2層構造の上壁部21を貫通するように設けられている。また、
図1(c)に示すように、第2セルS2において孔15は、上面側のスキン層30及び1層構造の上壁部21を貫通するように設けられている。すなわち、孔15は、各セルSの閉塞壁のうち、側壁部23の上部を閉塞する閉塞壁に設けられている。
【0022】
孔15は、後述する孔形成工程において、板材14にレーザー光線17を照射して形成されており、孔15の内面は樹脂が蒸発して形成された蒸発面15Aとなっている。
針部材を突き刺して孔を形成する従来の態様では、孔の内面に針部材が挿通した溝状の跡が複数形成されるとともに、孔の開口端部に大きな曲面が形成される。これに対して、レーザー光線17を照射して形成した孔15は、孔15の内面である蒸発面15Aに溝状の跡などは形成されず、平滑面となりやすい。また、孔の精度を高くしやすく、応力も残り難い。蒸発面15Aは、顕微鏡等を用いて孔15の内面を観察することによって識別することができる。
【0023】
図1(a)に示すように、孔15は、セルSの並設方向であるX方向に沿って等間隔毎に設けられている。
図1(b)及び(c)に示すように、X方向に隣り合う孔15の間隔P2は、各セルSのピッチP1よりも短くなっている。この実施例では、孔15の間隔P2は、各セルSのピッチP1の0.9倍になっている。
【0024】
図1(a)に示すように、孔15の列は、互いに平行になるように、所定の間隔毎に複数列設けられている。具体的に説明すると、中空構造体10を上面視した場合、ある列の第1セルS1は、その隣の列の第2セルS2と六角形の1辺を共有して隣り合っている。このように隣り合う第1セルS1の孔15と第2セルS2の孔15との間隔が、同一列中において隣り合う孔15の間隔P2と同じになるように、孔15の列同士の間隔が設定されている。
【0025】
中空構造体10の製造方法について説明する。
中空構造体10の製造方法は、一対のスキン層30、40と一対のスキン層30、40に挟まれたコア層20とを備える中空状の板材14を成形する板材形成工程と、板材形成工程で得られた板材14に孔15を形成する孔形成工程とを有する。
【0026】
(板材形成工程)
図2(a)に示すように、第1シート材100は、1枚の熱可塑性樹脂製のシートを所定の形状に成形することにより形成される。第1シート材100には、帯状をなす平面領域110及び膨出領域120が、第1シート材100の長手方向(X方向)に交互に配置されている。膨出領域120には、上面と一対の側面とからなる断面下向溝状をなす第1膨出部121が膨出領域120の延びる方向(Y方向)の全体にわたって形成されている。なお、第1膨出部121の上面と側面とのなす角は90度であることが好ましく、その結果として、第1膨出部121の断面形状は下向コ字状となる。また、第1膨出部121の幅(上面の短手方向の長さ)は平面領域110の幅と等しく、かつ第1膨出部121の膨出高さ(側面の短手方向の長さ)の2倍の長さとなるように設定されている。
【0027】
また、膨出領域120には、その断面形状が正六角形を最も長い対角線で二分して得られる台形状をなす複数の第2膨出部122が、第1膨出部121に直交するように形成されている。第2膨出部122の膨出高さは第1膨出部121の膨出高さと等しくなるように設定されている。また、隣り合う第2膨出部122間の間隔は、第2膨出部122の上面の幅と等しくなっている。
【0028】
なお、こうした第1膨出部121及び第2膨出部122は、シートの塑性を利用してシートを部分的に上方に膨出させることにより形成されている。また、第1シート材100は、真空成形法や圧縮成形法等の周知の成形方法によって1枚のシートから成形することができる。
【0029】
図2(a)及び(b)に示すように、上述のように構成された第1シート材100を、境界線P、Qに沿って折り畳むことでコア層20が形成される。具体的には、第1シート材100を、平面領域110と膨出領域120との境界線Pにて谷折りするとともに、第1膨出部121の上面と側面との境界線Qにて山折りしてX方向に圧縮する。そして、
図2(b)及び(c)に示すように、第1膨出部121の上面と側面とが折り重なるとともに、第2膨出部122の端面と平面領域110とが折り重なることによって、一つの膨出領域120に対して一つのY方向に延びる角柱状の区画体130が形成される。こうした区画体130がX方向に連続して形成されていくことにより中空板状のコア層20が形成される。なお、この実施形態では、第1シート材100を折り畳むために圧縮する方向が、セルSが並設される方向(X方向)である。
【0030】
上記のように第1シート材100を圧縮するとき、第1膨出部121の上面と側面とによってコア層20の上壁部21が形成されるとともに、第2膨出部122の端面と平面領域110とによってコア層20の下壁部22が形成される。なお、
図2(c)に示すように、上壁部21における第1膨出部121の上面と側面とが折り重なって2層構造を形成する部分、及び下壁部22における第2膨出部122の端面と平面領域110とが折り重なって2層構造を形成する部分がそれぞれ重ね合わせ部131となる。
【0031】
また、第2膨出部122が折り畳まれて区画形成される六角柱形状の領域が第2セルS2となるとともに、隣り合う一対の区画体130間に区画形成される六角柱形状の領域が第1セルS1となる。本実施形態では、第2膨出部122の上面及び側面が第2セルS2の側壁部23を構成するとともに、第2膨出部122の側面と、膨出領域120における第2膨出部122間に位置する平面部分とが第1セルS1の側壁部23を構成する。そして、第2膨出部122の上面同士の当接部位、及び膨出領域120における上記平面部分同士の当接部位が2層構造をなす側壁部23となる。また、第1セルS1では、一対の重ね合わせ部131によってその上部が区画され、第2セルS2では、一対の重ね合わせ部131によってその下部が区画されている。なお、こうした折り畳み工程を実施するに際して、第1シート材100を加熱処理して軟化させた状態としておくことが好ましい。
【0032】
このようにして得られたコア層20の上面及び下面には、それぞれ熱可塑性樹脂製の第2シート材が熱溶着により接合されて中空構造体10が形成される。コア層20の上面に接合された第2シート材はスキン層30となり、コア層20の上壁部21と共に側壁部23の上部を閉塞する。コア層20の下面に接合された第2シート材は、スキン層40となり、コア層20の下壁部22と共に側壁部23の下部を閉塞する。したがって、この実施形態においては、第1シート材100を折り畳んでコア層20を形成する折り畳み工程、及びコア層20の上面及び下面にそれぞれ第2シート材を接合してスキン層30、40を形成する工程を合わせた工程が、板材形成工程に相当する。
【0033】
なお、第2シート材(スキン層30、40)をコア層20に熱溶着する際には、第1セルS1における2層構造の上壁部21(重ね合せ部131)が互いに熱溶着される。同様に、第2セルS2における2層構造の下壁部22(重ね合せ部131)が互いに熱溶着される。
【0034】
以上の工程により、一対のスキン層30、40と一対のスキン層30、40に挟まれたコア層20とを備える中空状の板材14が成形される。
板材形成工程では、成形した板材14を、さらに所定の形状に賦形する賦形工程を有してもよい。例えば、板材14を真空引きした状態でプレス成形することにより、板材14に所定の形状を付与することができる。所定の形状としては、例えば、板材14を一定の曲率で湾曲させた湾曲部が挙げられる。賦形工程では、板材14の一部が湾曲部を有するように賦形してもよいし、板材14の全体が湾曲部を有するように賦形してもよい。
【0035】
(孔形成工程)
孔形成工程では、板材14にレーザー光線17を照射して板材14の所定の位置に孔15を形成する。レーザー光線17の種類としては特に限定されないが、例えば、YAGレーザー(発光素子としてネオジウムイオンをドーピングした、イットリウム・ガリウム・ガーネットの結晶構造を有する固体を発生源とするレーザー、波長1.064μm)が挙げられる。他には、YVO4レーザー(発光素子としてネオジウムイオンをドーピングした、イットリウムバナデートの結晶構造を有する固体を発生源とするレーザー、波長1.064μm)、炭酸ガスレーザー(炭酸ガス、窒素及びヘリウムを規定量封入した発振管を発生源とするレーザー、波長10.6μm)等が挙げられる。これらのうち、炭酸ガスレーザーは、透明な樹脂にも吸収されて樹脂を溶融、蒸発させやすいこと、及び、比較的小さな照射面積で小径の貫通孔を設けることが可能であるため好ましい。
【0036】
図3(a)に示すように、孔形成工程では、板材14における所定の位置に孔15を形成することができるようにレーザー光線照射装置16の位置を調整する。
図3(b)、(c)に示すように、レーザー光線照射装置16の位置を変更しながら、レーザー光線17を照射することによって、孔15が複数形成される。孔15は、略円形の横断面形状を有した状態で形成される。孔15の内面は、板材14を構成する樹脂が蒸発することによって蒸発面15Aとなる。
【0037】
孔15におけるセルSの内側の開口端部15Bには、セルSの内方に突出する半球状の樹脂塊18が付着している。同様に、セルSの外側の開口端部15Cにも、セルSの外方に突出する半球状の樹脂塊18が付着している。この樹脂塊18は、板材14にレーザー光線17を照射した際に、蒸発した樹脂の一部が凝縮することによって形成される。また、レーザー光線17を照射した際に、溶融した樹脂が固化することによっても形成される。樹脂塊18の形状は、半球状に限定されず、孔15の周囲に環状に形成されていてもよい。レーザー光線17を照射する条件を制御して、樹脂塊18が形成されないように構成してもよい。セルSの外方に突出する樹脂塊18は、拭き取ることによって容易に除去することができる。稀に、拭き取った後に跡が残る場合があるが、孔15の径には影響はない。
【0038】
以上の製造工程を経ることによって、内部に複数のセルSが並設されたコア層20と、コア層20の両面に接合された一対のスキン層30、40とを備えた樹脂製の板材14を有する中空構造体10が得られる。一対のスキン層30、40の一方及びコア層20には、セルSの内外を連通する孔15が複数設けられており、15の内面は、板材14を構成する樹脂が蒸発して形成された蒸発面15Aとなる。
【0039】
中空構造体10の用途としては、特に限定されない。中空構造体10は、複数のセルSがハニカム構造をなすように構成されているため、軽量で曲げ強度に優れた特性を有する。また、断熱性においても優れた特性を有する。また、セルSの内外を連通する孔15が複数設けられているため、吸音性に優れている。具体的には、孔の精度が高いため、特定の周波数の吸音率を高くすることができる。そのため、これらの特性が要求される用途に適宜用いることができる。中空構造体10の用途としては、例えば、会議室の壁や車両の内装材等に用いることができる。
【0040】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)一対のスキン層30、40の一方及びコア層20には、セルSの内外を連通する孔15が複数設けられており、孔15の内面は、板材14を構成する樹脂が蒸発して形成された蒸発面15Aである。
【0041】
板材14にレーザー光線17を照射し、板材14を構成する樹脂を蒸発させて孔15を形成すると、孔15の内面は、板材14を構成する樹脂が蒸発した蒸発面となる。スキン層30、40及びコア層20を押し広げることなく孔15が形成されているため、中空構造体10の反りが抑制されている。すなわち、板材14に応力を付与することなく孔15を形成することができる。また、蒸発面15Aが平滑面であるため、孔15の内面が粗面で構成された態様に比べて、孔15の内面に応力が集中することを抑制することができる。
【0042】
(2)板材14は、湾曲部を有し、孔15は、湾曲部に設けられている。湾曲部は、板材14を湾曲させることによって形成されるため、湾曲部に応力が溜まった状態となり易い。この湾曲部に針部材で孔15を形成すると、湾曲部にさらに応力が付与されて板材14が反りやすくなる。したがって、板材14が湾曲部を有し、孔15が湾曲部に設けられている構成において、板材14の反りを好適に抑制することができる。
【0043】
(3)孔15におけるセルSの内側の開口端部15Bには、セルSの内方に突出する樹脂塊18を有する。レーザー光線17の照射にともない溶融した樹脂が固化されることによって、孔15におけるセルSの内側の開口端部15Bに樹脂塊18が形成される。この樹脂塊18によって開口端部15Bを補強することができるため、開口端部15Bにおけるスキン層30のコア層20からの剥離を抑制することができる。
【0044】
(4)レーザー光線17を照射して孔15を形成することにより、孔15の精度を高くすることができる。また、孔15の開口端部に曲面が形成されることを抑制して、開口端部をよりシャープな形状にすることができる。
【0045】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・本実施形態では、一対のスキン層30、40の一方及びコア層20に孔15が設けられていたが、この態様に限定されない。一対のスキン層30、40の両方及びコア層20に孔15が設けられていてもよい。一対のスキン層30、40の両方に孔15が設けられた態様において、一回のレーザー光線17の照射によって、一対のスキン層30、40の両方に同時に孔15が形成されていてもよい。
【0046】
・本実施形態では、セルSが並設された方向に隣り合う孔15の間隔は、セルSが並設された方向に隣り合うセルSの各間隔の平均値よりも短く構成されていたが、この態様に限定されない。セルSが並設された方向に隣り合う孔15の間隔は、セルSが並設された方向に隣り合うセルSの各間隔の平均値と等しいか、平均値よりも長く構成されていてもよい。
【0047】
・本実施形態では、孔15は、セルSが並設された方向に沿って等間隔で設けられていたが、孔15はランダムに設けられていてもよい。また、各セルS毎に一定数の孔15を形成してもよい。例えば、各セルSをカメラで認識することにより、各セルS毎に一定数の孔15を形成することができる。各セルSの所定の位置、例えば、セルSの中央に一つの孔15を開けるように構成してもよい。
【0048】
・本実施形態では、孔15は、各セルSの閉塞壁のうち、セルSの上部を閉塞する閉塞壁のみに設けられていたが、この態様に限定されない。例えば、孔15は、セルSの上部を閉塞する閉塞壁と、コア層20の側壁部23とに跨って設けられていてもよい。レーザー光線17を照射して孔15を形成する位置に、側壁部23が位置するように調整することによって、閉塞壁を貫通するとともに、側壁部23を厚さ方向に貫通するように孔15を形成することができる。側壁部23を貫通した孔15によって、側壁部23の両側のセルSを共に、セルSの内外を連通した状態とすることができる。したがって、セルSの内外を連通する孔15を効率良く形成して、孔15の数を少なくすることが可能になる。また、側壁部23に対して斜め方向からレーザー光線17を照射することにより、側壁部23を厚さ方向に貫通する孔を形成してもよい。また、本実施形態では、スキン層30、40に対して直交するようにコア層20の側壁部23が設けられていたが、スキン層30、40に対して斜めになるようにコア層20の側壁部23を設けてもよい。これにより、レーザー光線17で側壁部23を厚さ方向に貫通するように孔を形成することが容易になるため、側壁部23の左右のセルSや、3つ以上のセルSに跨って、孔を設けることが容易になる。
【0049】
・孔15の形状は円形状に限定されない。例えば、孔15の形状は、三角形状、四角形状、細長形状など、適宜選択することができる。孔15の形状を細長形状などの幅狭にすることにより、虫やゴミ等がコア層20に入りにくくすることができる。また、異なる形状の孔15が混在するようにしてもよい。異なる形状の孔15が混在することにより、幅広い周波数の音を吸音することが可能になる。
【0050】
・樹脂塊18が付着する位置は、本実施形態の態様に限定されない。すなわち、本実施形態では、孔15におけるセルSの内側の開口端部15Bのみに、セルSの内方に突出する樹脂塊18を有していたが、孔15におけるセルSの外側の開口端部15Cに、セルSの外方に突出する樹脂塊18を有していてもよい。スキン層30、40の肉厚が厚いことで、孔15を開ける時に孔15の外周側が溶融しないため、樹脂塊18はスキン層上に載っているだけの状態になる。そのため、樹脂塊18を簡単に拭き取ることができる。スキン層30、40の肉厚は、コア層20の肉厚の1.5倍、2.0倍、2.5倍にすることができる。スキン層30、40の肉厚が上記倍数であると、板材14が軽量で、且つ、曲げ強度が強くなる。
【0051】
・本実施形態では、コア層20を形成した後、コア層20の上面及び下面に、第2シート材を接合してスキン層30、40を形成することによって、板材14の厚さを略一定に構成していたが、この態様に限定されない。すなわち、板材14の厚さが変化するように構成してもよい。例えば、コア層20を形成した後、コア層20の厚さを変化させたうえでスキン層30、40を形成することによって、板材14の厚さを変化させてもよい。コア層20の厚さを変化させる方法としては、例えば、コア層20を部分的に切断する方法や、コア層20を圧縮して押し潰す方法を採用することができる。板材14の厚さの変化としては、例えば、板材14の厚さが一方の端部から他方の端部に向かって徐々に薄くなる、すなわち、一方のスキン層30に対して、他方のスキン層40が傾斜した状態となるように構成してもよい。
【0052】
・スキン層30、40の少なくとも一方に不織布やレザー等の他の材料が貼り付けられていてもよい。例えば、不織布やレザー等の他の材料を貼り付けた後、レーザー光線17を照射して、スキン層30、40と共に孔を形成してもよい。不織布やレザー等の他の材料を貼り付けることで、車両の内装材である荷室のデッキボード等として好適に用いることが可能になる。また、スキン層30、40が不織布やレザー等の他の材料で構成されていてもよい。
【0053】
・コア層20の形状は、本実施形態のハニカム形状に限定されない。コア層20の形状としては、例えば、複数のセルSが円柱形、円錐形、接頭円錐形、接頭円錐形の接頭同士を合せた形状、三角柱形、ハーモニカ形状などをなすように構成されていてもよい。
【0054】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に記載する。
(イ)内部に複数のセルSが並設されたコア層20と、コア層20の両面に接合された一対のスキン層30、40とを備えた樹脂製の板材14を成形する板材形成工程と、板材形成工程で得られた板材14にレーザー光線17を照射して、一対のスキン層30、40の少なくとも一方及びコア層20に、セルSの内外を連通する孔15を複数形成する孔形成工程とを有する中空構造体の製造方法。
【0055】
板材14にレーザー光線17を照射して孔15を形成することにより、孔15を形成する際の板材14の反りを抑制することができる。
(ロ)板材形成工程は、成形した板材14をさらに所定の形状に賦形する賦形工程を有する。
【0056】
板材14に孔15を形成する前に所定の形状に賦形することによって、板材14を賦形することが容易になる。また、レーザー光線17を照射して孔15を形成することにより、板材14が所定の形状を有していても、反りを抑制した状態で孔15を形成することが可能になる。
【符号の説明】
【0057】
S…セル、10…中空構造体、14…板材、15…孔、15A…蒸発面、20…コア層、30…スキン層、40…スキン層。