(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】ケーブルカッター
(51)【国際特許分類】
H02G 1/02 20060101AFI20230316BHJP
B23D 29/02 20060101ALI20230316BHJP
B26B 27/00 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
H02G1/02
B23D29/02 A
B26B27/00 G
(21)【出願番号】P 2019074846
(22)【出願日】2019-04-10
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390019091
【氏名又は名称】東邦工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】江里口 辰己
(72)【発明者】
【氏名】木下 知之
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-123582(JP,U)
【文献】特開2015-223643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/02
B23D 29/02
B26B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面中央部に硬質芯を有する被切断線材を切断するケーブルカッターにおいて、
刃物支点及びハンドル支点を互いの軸心が平行する状態に支持する支点ベースと、
前記支点ベースに対して前記ハンドル支点の軸心と垂直になる方向へ突出して設けられたベース側ハンドルレバーと、
前記ハンドル支点を介して前記支点ベースに支持されることにより前記ベース側ハンドルレバーに対して相対接近離反する方向へ揺動自在に保持されたフリー側ハンドルレバーと、
前記支点ベースに対して前記ベース側
ハンドルレバーの突出向きとは逆向きに突出して設けられたベース側切断刃と、
前記刃物支点を介して前記支点ベースに支持されることにより前記ベース側切断刃に対して被切断線材の嵌め入れ空間が形成される開状態と互いの刃先が噛み合う閉状態とを切り換える方向へ揺動自在に保持されたフリー側切断刃と、
を有しており、
前記フリー側切断刃には刃部先端から前記刃物支点を超えた反対側の基端方向へ延長してリンクレバーが設けられ、
前記フリー側ハンドルレバーには前記ハンドル支点よりもハンドル端側にレバー長手方向に沿った長孔が設けられて当該長孔と前記リンクレバーのレバー端とがリンク支点を介してスライド自在に連結されることにより前記フリー側切断刃と前記ベース側切断刃との閉動時には前記リンク支点が前記ハンドル支点へ接近を許容され開動時には前記ハンドル支点からの離反を許容されており、
前記フリー側切断刃と前記ベース側切断刃との開き角度が前記被切断線材の前記硬質芯を切断開始する角度のときに前記刃物支点と前記ハンドル支点と前記リンク支点の3点が一直線に並び且つ前記リンク支点と前記ハンドル支点との間の距離が短縮傾向を示す範囲内に配置されている
ことを特徴とするケーブルカッター。
【請求項2】
前記フリー側切断刃及び前記ベース側切断刃において、
両切断刃の閉動時に前記被切断線材の側面に当接するそれぞれの刃先領域には鋭利刃が形成されており、
両切断刃の閉動が進行して前記硬質芯に当接するそれぞれの刃先領域には、前記被切断線材と面接触する面殺し端を備えた押圧刃が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のケーブルカッター。
【請求項3】
前記フリー側切断刃の刃先及び前記ベース側切断刃の刃先には、両切断刃の閉動に伴って被切断線材を前記鋭利刃から前記押圧刃へ向けて移行させる抱き寄せカーブが付与されていることを特徴とす
る請求項2に記載のケーブルカッター。
【請求項4】
前記支点ベースには、前記ハンドル支点の支点配置部とは異なる配置で前記ハンドル支点を選択的に支持可能にする第2支点配置部が設けられており、
前記第2支点配置部は、前記フリー側及びベース側の両ハンドルレバーを相互接近させる過程で当該第2支点配置部に支持させた前記ハンドル支点が前記刃物支点と前記リンク支点と一直線に並ぶときに、前記フリー側切断刃と前記ベース側切断刃との開き角度が前記被切断線材の側面を切断開始する角度に設定されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のケーブルカッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面中央部に硬質芯を有するACSR線などの被切断線材を手作業で切断する際に、好適に使用することができるケーブルカッターに関する。
【背景技術】
【0002】
電力を伝送するために用いる電線は、許容電流の種別だけでなく、架空線とするか地中線とするか等の設置環境の違いなども考慮されて種々のものが使い分けられている。
例えば、鋼心アルミ撚り線(以下、ACSR線と言う)は、亜鉛メッキ鋼線を芯にしてそのまわりを硬アルミ線で取り囲んで撚り合わせた構造を有していることから、相対的に軽量であり、降雪の少ない地域であることを条件として架空線への使用が好適とされている。
【0003】
なお、本明細書では、亜鉛メッキ鋼線などの硬い芯を「硬質芯」と言う。
一方で、ビニル絶縁電線(以下、IV線と言う)は、複数本の銅線を撚り合わせた構造を有しており、相対的に重いとされることから、降雪地域や美感地域などにおいて地中線への使用が好適とされているといった具合である。
このような電線(ACSR線やIV線など)は、自然災害や事故、工事をはじめ、延長や分岐、更には交換といったメンテナンスなどの各種目的により、設置済み現場での切断作業が必要とされる場合がある。IV線の切断には、倍力機構を採用して一対のハンドルレバーを開閉操作することにより一対の切断刃(片刃の鋭利刃)を開閉させるケーブルカッターと呼ばれる手作業用のカッターが用いられるのが普通である。
【0004】
これに対してACSR線の場合には、芯となっている鋼線が硬い(硬質芯を有している)ためにケーブルカッターで切断しようとすれば切断刃の刃先を局部的に潰したり、欠損させたりしてしまい、このような刃先の破損したケーブルカッターを使用し続ければ、硬アルミ線を再接続が不能となる切断面に変形させてしまうといった弊害をもたらす。
そのため従来では、例えば一対のハンドルを繰り返し開閉揺動させることでラチェット機構を用いて回転刃を徐々に噛み合わせてゆくような、いわゆる送り刃方式のカッターが用いられることがあった(特許文献1等)。
【0005】
なお、特許文献1に記載のカッターでは、硬質芯を切断することを前提としていることを要因として回転刃の刃先が鈍角(すなわち90°を超える緩い角度)に形成されており、刃こぼれや刃先の潰れが起こるのを防止してあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
地上数メートル~数十メートルもある高所で、しかもクレーンのブーム先端に取り付けられた狭くて安定の悪い作業カゴ内での作業が強いられるACSR線の切断作業では、送り刃方式のカッターにより一対のハンドルを、力をかけて何度も開閉揺動させなければならない作業は敬遠される。
まして、ACSR線が活線である場合などでは、高電圧大電流による、いわゆる吸い寄せや吹き飛ばし、感電等をも招来するおそれがあり、長い時間、ACSR線に近づいたままカッターを噛み付かせておくような作業はそもそも危険であると言える。
【0008】
その結果、ワンアクションの端的な動作により且つ短時間でACSR線を切断できるようなケーブルカッターの開発が待たれているのが現状である。
一方で、ACSR線の切断作業が必要な単一の現場内や、或いはこの現場とは別の巡回先現場において、IV線のような太い電線をも切断する要請が生じる場合もある。このような場合には、ACSR線を切断するためのカッターとは別に、前記したケーブルカッターのようなIV線専用のカッターが必要になっていた。
【0009】
なぜなら、ACSR線を切断するためのカッターでは、特許文献1でも開示されている
ように刃先を鈍角にするなどの特殊な対策が施されていたため、このカッターによりIV線を切断した場合には、IV線の切断面を、再接続が不可能又は困難となるほどに変形させてしまうおそれがあったためである。
従って、このような場合には複数種類のカッターを持ち運ぶことが必要となるので、作業者には持ち運びの嵩が増え且つ重さも倍増するなどの大きな負担になっていた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、断面中央部に硬質芯を有するACSR線などの被切断線材をワンアクションの端的な動作により且つ短時間で確実に切断できるようにしたケーブルカッターを提供することを目的とする。
また本発明は、硬質芯を持つ被切断線材と硬質芯を持たない被切断線材とのいずれに対しても最適な態様で切断できる(ワンアクションの端的な動作により且つ短時間で確実に切断できる)ようにして作業者のカッター持ち運びの負担を大幅に軽減できるようにしたケーブルカッターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係るケーブルカッターは、断面中央部に硬質芯を有する被切断線材を切断するケーブルカッターにおいて、刃物支点及びハンドル支点を互いの軸心が平行する状態に支持する支点ベースと、前記支点ベースに対して前記ハンドル支点の軸心と垂直になる方向へ突出して設けられたベース側ハンドルレバーと、前記ハンドル支点を介して前記支点ベースに支持されることにより前記ベース側ハンドルレバーに対して相対接近離反する方向へ揺動自在に保持されたフリー側ハンドルレバーと、前記支点ベースに対して前記ベース側ハンドルレバーの突出向きとは逆向きに突出して設けられたベース側切断刃と、前記刃物支点を介して前記支点ベースに支持されることにより前記ベース側切断刃に対して被切断線材の嵌め入れ空間が形成される開状態と互いの刃先が噛み合う閉状態とを切り換える方向へ揺動自在に保持されたフリー側切断刃と、を有しており、前記フリー側切断刃には刃部先端から前記刃物支点を超えた反対側の基端方向へ延長してリンクレバーが設けられ、前記フリー側ハンドルレバーには前記ハンドル支点よりもハンドル端側にレバー長手方向に沿った長孔が設けられて当該長孔と前記リンクレバーのレバー端とがリンク支点を介してスライド自在に連結されることにより前記フリー側切断刃と前記ベース側切断刃との閉動時には前記リンク支点が前記ハンドル支点へ接近を許容され開動時には前記ハンドル支点からの離反を許容されており、前記フリー側切断刃と前記ベース側切断刃との開き角度が前記被切断線材の断面中央に配置された硬質芯を切断開始する角度のときに前記刃物支点と前記ハンドル支点と前記リンク支点の3点が一直線に並び且つ前記リンク支点と前記ハンドル支点との間の距離が短縮傾向を示す範囲内に配置されていることを特徴とする。
【0012】
前記フリー側切断刃及び前記ベース側切断刃において、両切断刃の閉動時に前記被切断線材の側面に当接するそれぞれの刃先領域には鋭利刃が形成されており、両切断刃の閉動が進行して前記硬質芯に当接するそれぞれの刃先領域には、前記被切断線材と面接触する面殺し端を備えた押圧刃が形成されたものとするのが好適である。
この場合、前記フリー側切断刃の刃先及び前記ベース側切断刃の刃先には、両切断刃の閉動に伴って被切断線材を前記鋭利刃から前記押圧刃へ向けて移行させる抱き寄せカーブが付与されたものとすると尚よい。
【0013】
前記支点ベースには、前記ハンドル支点の支点配置部とは異なる配置で前記ハンドル支点を選択的に支持可能にする第2支点配置部が設けられており、前記第2支点配置部は、前記フリー側及びベース側の両ハンドルレバーを相互接近させる過程で当該第2支点配置部に支持させた前記ハンドル支点が前記刃物支点と前記リンク支点と一直線に並ぶときに、前記フリー側切断刃と前記ベース側切断刃との開き角度が前記被切断線材の側面を切断開始する角度に設定されているものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るケーブルカッターは、断面中央部に硬質芯を有するACSR線などの被切断線材をワンアクションの端的な動作により且つ短時間で確実に切断できるようになった。また、硬質芯を持つ被切断線材とそうでない被切断線材とのいずれに対しても最適な態様で切断できる(ワンアクションの端的な動作により且つ短時間で確実に切断できる)ようになった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図2の第1使用態様とした場合の切断の様子を示した要部拡大図である。
【
図2】本発明に係るケーブルカッターの一実施形態について硬質芯を持つ被切断線材を切断するための第1使用態様を示した側面図である。
【
図3】
図4の第2使用態様とした場合の切断の様子を示した要部拡大図である。
【
図4】本発明に係るケーブルカッターの一実施形態について硬質芯を持たない被切断線材を切断するための第2使用態様を示した側面図である。
【
図8】ACSR線を示した断面図であって(a)は芯が1本のタイプであり(b)は芯が複数本であるタイプである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1乃至
図7は、本発明に係るケーブルカッター(以下、「本発明カッター」と言う)1の一実施形態を示している。
本実施形態は、硬質芯を持つ例えばACSR線などの被切断線材の切断に適した第1使用態様(
図1及び
図2)と、硬質芯を持たない例えばIV線などの被切断線材の切断に適した第2使用態様(
図3及び
図4)との切り換えが可能とされたものを示している。以下では、第1使用態様を示した
図1及び
図2を主に用いて構成及び構造の説明を進める。
【0018】
なお、本発明カッター1は、第1使用態様と第2使用態様との切り換えが可能である点を特徴的な構成とするが、その他にも、少なくとも硬質芯を持つ被切断線材に対して、ワンアクションの端的な動作により且つ短時間で確実に切断できるようにしている点に特徴的な構成を有したものである。
因みに、
図8(a)に示すように、硬質芯Pを持つ被切断線材Wは、その代表例とするACSR線の断面構造から明らかなように、亜鉛メッキ鋼線等より成る硬質芯Pのまわりに硬アルミ線等より成る複数本の伝送線Sが配置された構造を有している。
【0019】
硬質芯Pは、
図8(b)に示すように複数本が用いられていることもあり、硬質芯Pの使用本数や線径などに応じて伝送線Sの本数も変化する。また、図示は省略するが、伝送線Sの更に外側に絶縁用の被覆材によるチューブが形成されている場合もある。
まず本発明カッター1の概要から説明する。
図2に示すように、本発明カッター1は、一対の切断刃2,3と、これら切断刃2,3を開閉動作させるための一対のハンドルレバー4,5とを有し、一方の切断刃3と一方のハンドルレバー4との間にはリンク機構6が設けられている。
【0020】
そして、第1使用態様と第2使用態様との切り換えは、切断刃2,3の相対的な開閉動
を支持する刃物支点10、一方のハンドルレバー4を支持するハンドル支点11、リンク機構6に備えられるリンク支点12、の3つの支点が一直線状に並ぶ状態(
図1及び
図3参照)と、この状態下にあって両切断刃2,3が成す開き角度α、βとの間に、それぞれ特定の相関が成立することを基本的な前提条件としている。具体的な切り換え操作は、ハンドル支点11の配置換えにより行う。
【0021】
なお、開き角度α、βについては、被切断線材Wを「切断開始」する時点で両切断刃2,3の刃先間に生じる角度を言うものとするが、「切断開始」の時点については、被切断線材Wの切断目的とする箇所(径方向の位置を言い、使用態様に応じて硬質芯Pの側面であったり被切断線材W自体の側面(絶縁用被覆材によるチューブを備える被切断線材Wの場合はチューブの側面を含む)であったりする)に対して両切断刃2,3が当接しているか又は当接直前の近接状態であるかをおおよその目安として、そのいずれでもよいものとする。
【0022】
要は、「切断開始」の時点から作業者がハンドルレバー4,5を相互接近させればその直後から、被切断線材Wにおける切断目的とする箇所の切断が開始されるような時点を言うものとする。
このような構成を備える本発明カッター1は、ハンドル支点11の配置換えによって、被切断線材Wが硬質芯Pを持つものであるか持たないものであるかの違いに拘わらず、ワンアクションの端的な動作で、しかも短時間で確実に切断できるものである。言うまでもなく、切断後の被切断線材Wの断面は、再接続に支障をきたすことのない綺麗な切断面が得られるようになっている。
【0023】
以下、本発明カッター1について詳説する。本発明カッター1は、前記のように一対の切断刃2,3、及び一対のハンドルレバー4,5を有すると共に、これらの他に、一方の切断刃3と一方のハンドルレバー5との間を固定的に連結する支点ベース15を有している。
この支点ベース15の存在により、支点ベース15と固定的連結関係を持つ切断刃3及びハンドルレバー5を、以下では「ベース側切断刃3」「ベース側ハンドルレバー5」と呼び、支点ベース15とは連結されるものの固定的ではない方(可動とされる方)の切断刃2及びハンドルレバー4を、以下では「フリー側切断刃2」「フリー側ハンドルレバー4」と呼ぶ。
【0024】
支点ベース15は板状に形成されており、刃物支点10及びハンドル支点11を互いの軸心が平行する状態に支持できるようになっている。なお、図示は省略するが、フリー側ハンドルレバー4の揺動によってフリー側切断刃2(後述するリンクレバー38)との接触干渉を避けるために、支点ベース15に対して板厚方向のクランク折れ構造を採用してもよい。
【0025】
ここにおいて刃物支点10及びハンドル支点11を「支持できる」というのは、刃物支点10やハンドル支点11を支点ベース15からピン状に突出状態に固定している場合だけではなく、ピン状の刃物支点10やハンドル支点11を差し込むための差込孔(又は凹部)が設けられている場合をも含むものとする。
要するに、支点ベース15自体は実質的な刃物支点10やハンドル支点11を含むことが限定されるものではなく、刃物支点10及びハンドル支点11を「支持できる」構成であればよい。
【0026】
具体例を挙げれば、刃物支点10は、切断刃2,3や支点ベース15のいずれにも固定されずに、ストレート軸や頭部付き軸、ボルトなどの別個のものとして装備すればよい。場合によっては(第1使用態様と第2使用態様との切り換えを行わない仕様とする場合等では)、切断刃2,3に固定されたものでも、又は支点ベース15に固定されたものでもよい。
【0027】
同様にハンドル支点11についても、ハンドルレバー4,5や支点ベース15のいずれにも固定されずに、ストレート軸や頭部付き軸、ボルトなどの別個のものとして装備すればよい。場合によっては(第1使用態様と第2使用態様との切り換えを行わない仕様とする場合等では)、ハンドルレバー4,5に固定されたものでも、又は支点ベース15に固
定されたものでもよい。
【0028】
本実施形態では、支点ベース15に対して板厚方向に貫通する差込孔が形成され、この差込孔にストレート軸や頭付き軸、ボルトなどを差し込む構造を採用しており、この差し込みによって支点ベース15から突出した部分で刃物支点10及びハンドル支点11を形成させている。
すなわち、
図5に示すように、一方の刃物支点10には支点ベース15(ベース側切断刃3)側からフリー側切断刃2へ向けて六角頭付きボルト17を差し込む構造としてある。この六角頭付きボルト17の固定は、フリー側切断刃2を突き抜けた側のボルト端にナット18を螺合させることで行っている。
【0029】
他方、ハンドル支点11には、支点ベース15に対して刃物支点10の場合とは逆方向から(フリー側ハンドルレバー4側から支点ベース15へ向けて)、軸端部に径方向へ貫通するピン挿入孔が形成された頭付き軸19を差し込む構造としてある。この頭付き軸19の固定は、支点ベース15を突き抜けた側の軸端にフリー側ハンドルレバー4を嵌め入れた後、ピン挿入孔へスナップピン20を挿入することで行っている。
【0030】
ところで、支点ベース15には、ハンドル支点11を形成するため(頭付き軸19を差し込むため)の差込孔が少なくとも2個設けられている。差込孔の一つは第1支点配置部21であり、他の一つは第2支点配置部22である。なお、それより多くの差込孔を形成して、第3以降の支点配置部を設けてもよい。
前記のようにハンドル支点11を形成する頭付き軸19には、その軸端にピン挿入孔が形成されているので、このピン挿入孔へのスナップピン20の抜き差しを行うことで、ハンドル支点11に対するフリー側ハンドルレバー4の着脱が自在に行えると共に、支点ベース15の各差込孔に対するハンドル支点11の着脱も自在に行えるものである。
【0031】
そのため、このような第1支点配置部21又は第2支点配置部22のいずれかに対して、ハンドル支点11を選択的に形成させることができる(フリー側ハンドルレバー4の配置換えができる)ものとなっている。第1支点配置部21及び第2支点配置部22の使い分けについては後述する。
ベース側ハンドルレバー5は、支点ベース15に対してハンドル支点11の軸心と垂直になる方向へ突出して設けられており、突出側の端部には弾性材製のグリップ25が設けられている。
【0032】
本実施形態では、軽量化目的のためにレバー本体をパイプ材で形成し、支点ベース15にこのパイプ材を嵌め入れる心棒(図示略)を設けて、支点ベース15(心棒)とベース側ハンドルレバー5(パイプ材製のレバー本体)とをボルト26によって連結した構造としてある。しかし、ベース側ハンドルレバー5を中実材としたり支点ベース15とベース側ハンドルレバー5とを一体形成したりすることもできる。
【0033】
フリー側ハンドルレバー4は、ハンドル支点11を介して支点ベース15に支持されており、突出側の端部には弾性材製のグリップ27が設けられている。そのため、このフリー側ハンドルレバー4はハンドル支点11の回りで揺動自在とされ、ベース側ハンドルレバー5に対して相対的に接近離反の動作を生じさせることができる。
本実施形態では、このフリー側ハンドルレバー4についても軽量化目的のためにレバー本体をパイプ材で形成している。そして、フリー側ハンドルレバー4を支点ベース15のハンドル支点11に支持させる部分は、板状のレバーヘッド28により形成してある。勿論、フリー側ハンドルレバー4を中実材としてもよい。
【0034】
そのうえで、このレバーヘッド28にレバー本体のパイプ材を嵌め入れる心棒(図示略)を設け、レバーヘッド28(心棒)とフリー側ハンドルレバー4(パイプ材製のレバー本体)とをボルト29によって連結した構造としてある。
フリー側ハンドルレバー4のレバーヘッド28には、ハンドル支点11よりもハンドル端側となる配置で、レバー長手方向に沿った長孔30が設けられている。この長孔30は、前記したリンク機構6の一要素である。
【0035】
ベース側切断刃3は、支点ベース15に対し、ベース側ハンドルレバー5の突出向きとは逆向きに突出して設けられている。
本実施形態の本発明カッター1は、右利きの作業者が好適に使用できるようにすることを想定してある。従って、本発明カッター1を、リンク機構6と接続関係にあるフリー側ハンドルレバー4が上向きでベース側ハンドルレバー5が下向きとなるように姿勢を水平方向へ向けたときには、ベース側切断刃3における刃突端側の尖端部分が斜め下方へ向くように、支点ベース15に対するベース側切断刃3の角度を設定してある。
【0036】
これに対し、フリー側切断刃2は、刃物支点10を介して支点ベース15に支持されている。このような刃物支点10による支持により、フリー側切断刃2はベース側切断刃3に対して被切断線材Wの嵌め入れ空間が形成される開状態と、互いの刃先が噛み合う閉状態とを切り換える方向へ揺動自在となっている。
フリー側切断刃2の揺動(開閉動作)は、ベース側切断刃3を基準として行われることになるので、前記したように支点ベース15に対するベース側切断刃3の角度設定は、フリー側切断刃2もその刃突端の尖端部分を斜め下方へ向けた状態で開閉動作を行うことに繋がる。その結果、被切断線材Wを挟み付ける作業や切断作業が容易且つ迅速に行え、しかも、作業者はハンドルレバー4,5の操作に適切且つ十分な操作力を発揮できるようになっている。
【0037】
また、これらフリー側切断刃2とベース側切断刃3とには、それぞれの刃先(噛み合う縁部が設けられた部分)が、刃物支点10に近い基部側に比べて刃物支点10から遠くなるほど(刃突端の尖端部分へ近づくほど)、互いに接近し交差するような相対逆向きの湾曲が付与されている。
そのため、これらフリー側切断刃2とベース側切断刃3との間に被切断線材Wを嵌め入れた状態(
図3参照)にあって、両切断刃2,3を閉動させてゆくと、両切断刃2,3の刃先が被切断線材Wの側面に当接した状態から、被切断線材Wは次第に刃物支点10に向けて移行し、抱き寄せられるようになる(
図1参照)。このような作用を生じるために採用された湾曲を、本明細書では「抱き寄せカーブ」と呼ぶものとする。
【0038】
なお、両切断刃2,3の閉動を開始して最初に被切断線材Wに当接するとき(
図3)の刃先領域には、
図7に示すような刃先を鋭利に尖らせた鋭利刃35が形成されている。そのため、被切断線材Wにおいて比較的に軟質とされる側面部分(絶縁用被覆材によるチューブを備える被切断線材Wの場合はチューブの側面を含む)は、綺麗な切断面を生じながら円滑に切断されることになる。
【0039】
これに対し、両切断刃2,3の閉動が進行して被切断線材Wを抱き寄せカーブにより刃物支点10に近付けるようになったとき(
図1の状態であり両切断刃2,3の刃先が伝送線Sに食い込んで硬質芯Pへの当接を開始する段階)の刃先領域には、
図6に示すような押圧刃36が形成されている。
この押圧刃36は、被切断線材W(ここでは硬質芯P)と面接触する面殺し端を備えたものである。すなわち、硬質芯Pに対して鋭利刃35が当接するのを回避できるので、鋭利刃35が硬質芯Pによる切断反力によって局部的に潰れたり欠損したりすることを防止できることになる。
【0040】
このようなフリー側切断刃2には、刃部先端から刃物支点10を超えた反対側の基端方向へ延長してリンクレバー38が設けられている。そしてこのリンクレバー38の先端に、前記したフリー側ハンドルレバー4のレバーヘッド28に設けられた長孔30と連結するためのリンク支点12が設けられている。
本実施形態において、リンク支点12は、
図5に示すようにフリー側ハンドルレバー4のレバーヘッド28側からリンクレバー38へ向けて六角頭付きボルト39を差し込む構造としてある。この六角頭付きボルト39の固定は、リンクレバー38を突き抜けた側のボルト端にナット40を螺合させることで行っている。
【0041】
これにより、フリー側切断刃2とベース側切断刃3との閉動時には、リンク支点12がハンドル支点11へ接近する方向でスライドを許容され、開動時にはハンドル支点11からの離反する方向でスライドを許容されることになって、前記したリンク機構6が形成されているものである。
このリンク機構6を備えていることにより、フリー側ハンドルレバー4がグリップ27
を[力点]、ハンドル支点11を[支点]、リンク支点12を[作用点]とする第1段の倍力機構を構成し、フリー側切断刃2がリンク支点12を[力点]、ハンドル支点11を[支点]とし、切断刃2の刃先を[作用点]とする第2段の倍力機構を構成することになる。すなわち、本発明カッター1は、フリー側ハンドルレバー4からフリー側切断刃2の刃先に至る間に2段階の倍力機構を備えたものである。
【0042】
本発明カッター1では、前記したように支点ベース15の第1支点配置部21を選択してハンドル支点11を配置し、このハンドル支点11にフリー側ハンドルレバー4を支持させれば、
図1及び
図2に示す第1使用態様(硬質芯Pを持つ被切断線材Wの切断に適した態様)にでき、支点ベース15の第2支点配置部22を選択してハンドル支点11を配置し、このハンドル支点11にフリー側ハンドルレバー4を支持させれば、
図3及び
図4に示す第2使用態様(硬質芯を持たない被切断線材Wの切断に適した態様)にできる。
【0043】
なお、両切断刃2,3が完全に閉じたあとに、それ以上、両切断刃2,3が閉じ方向へ揺動することがないように、支点ベース15には、リンクレバー38を当て止めすることでフリー側切断刃2の揺動域を規制するようにしたストッパー42を設けてある。このストッパー42は、第1使用態様のとき(
図2参照)も第2使用態様のとき(
図4参照)も、リンクレバー38と当接関係が得られるような配置としてある。
【0044】
第1使用態様では、
図1に示すように刃物支点10、ハンドル支点11、リンク支点12の3点が一直線に並んだときに、ちょうど両切断刃2,3の開き角度αが被切断線材Wの硬質芯Pを切断開始する時点に到達するようになっている。
またリンク機構6では、刃物支点10を支点とするリンクレバー38の揺動と、ハンドル支点11を支点とするフリー側ハンドルレバー4の揺動との関係から、両切断刃2,3の開き角度が小さくなるにつれてリンク支点12とハンドル支点11との間の距離は短縮傾向を示す相関を有している。
【0045】
すなわち、
図1から明らかなように、リンク支点12とハンドル支点11との間の距離が短くなれば(一例としてL1>L2)、フリー側ハンドルレバー4の長さが一定であることに鑑みればリンク支点12からフリー側ハンドルレバー4のグリップ27(力点位置)までの距離は長くなる(L3<L4)という相関が成り立つことは明らかである。
そのため、両切断刃2,3を開いてそれらの間に被切断線材Wを嵌め入れ、両ハンドルレバー4,5を相互接近方向へ向けて操作してゆくことで、まず両切断刃2,3が被切断線材Wの側面に当接して食い込みが生じ、続いて、両切断刃2,3の刃先が被切断線材Wの硬質芯Pに当接するようになると、その直後からは、リンク支点12からフリー側ハンドルレバー4のグリップ27までの距離が必ず長くなるので、それだけトルクも増大傾向となりながら硬質芯Pの切断が開始される。
【0046】
故に、両ハンドルレバー4,5から両切断刃2,3へ伝わる切断力がピークとなった状態下で、両切断刃2,3を介して硬質芯Pに適切且つ十分な切断力が伝達され、切断作業が容易且つ迅速に行えるものである。
また、このとき両切断刃2,3の刃先領域は押圧刃36が設けられた領域であるために、各切断刃2,3が潰れたり欠損したりすることはない。
【0047】
これに対し、第2使用態様では、
図3に示すように刃物支点10、ハンドル支点11、リンク支点12の3点が一直線に並んだときに、ちょうど両切断刃2,3の開き角度βが、被切断線材Wの側面を切断開始する時点に到達するようになっている。
またリンク機構6では、刃物支点10を支点とするリンクレバー38の揺動と、ハンドル支点11を支点とするフリー側ハンドルレバー4の揺動との関係から、両切断刃2,3の開き角度が小さくなるにつれてリンク支点12とハンドル支点11との間の距離は短縮傾向を示す相関を有している(この点は第1使用態様のときと同じ作用が得られる)。
【0048】
そのため、両切断刃2,3を開いてそれらの間に被切断線材Wを嵌め入れ、両ハンドルレバー4,5を相互接近方向へ向けて操作してゆくことで、両切断刃2,3が被切断線材Wの側面に当接すると、その直後からは、リンク支点12からフリー側ハンドルレバー4のグリップ27までの距離が必ず長くなるので、それだけトルクも増大傾向となりながら被切断線材Wの切断が開始される。
【0049】
故に、両ハンドルレバー4,5から両切断刃2,3へ伝わる切断力がピークとなった状態下で、両切断刃2,3を介して被切断線材Wの側面に適切且つ十分な切断力が伝達され、切断作業が容易且つ迅速に行えるものである。
また、このとき両切断刃2,3の刃先領域は鋭利刃35が設けられた領域であるために、綺麗な切断面を生じながら円滑に切断されることになる。
【0050】
以上詳説したところから明らかなように、本発明カッター1は、断面中央部に硬質芯Pを有するACSR線などの被切断線材Wをワンアクションの端的な動作により且つ短時間で確実に切断できるようになった。
また、切断しようとする被切断線材Wの違い(硬質芯Pを持つ被切断線材Wとそうでない被切断線材W)に応じてハンドル支点11の配置換えができるようになっているので、いずれの被切断線材Wに対しても最適な態様で切断できる(ワンアクションの端的な動作により且つ短時間で確実に切断できる)ようになっている。
【0051】
ところで、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
例えば、
図1乃至
図7に示した第1実施形態は、両切断刃2,3の刃部先端が向けられる方向と、両ハンドルレバー4,5の配置との関係について、主として右利きの作業者が使い易く且つ操作力を発揮できるように考慮したものである。これに対して、左利きの作業者が使い易く且つ力を発揮できるように考慮して、
両切断刃2,3の刃部先端が向けられる方向と、両ハンドルレバー4,5の配置との関係を反対にすることも可能である。
【0052】
硬質芯を持つ被切断線材WとしてACSR線を例示し、硬質芯を持たない被切断線材WとしてIV線を例示したが、いずれも限定されるものではなく、その他の線材を切断する場合にも本発明カッター1を好適に使用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0053】
1 ケーブルカッター(本発明カッター)
2 フリー側切断刃
3 ベース側切断刃
4 フリー側ハンドルレバー
5 ベース側ハンドルレバー
6 リンク機構
10 刃物支点
11 ハンドル支点
12 リンク支点
15 支点ベース
17 六角頭付きボルト
18 ナット
19 頭付き軸
20 スナップピン
21 第1支点配置部
22 第2支点配置部
25 グリップ
26 ボルト
27 グリップ
28 レバーヘッド
29 ボルト
30 長孔
35 鋭利刃
36 押圧刃
38 リンクレバー
39 六角頭付きボルト
40 ナット
42 ストッパー
α 開き角
β 開き角
P 硬質芯
S 伝送線
W 被切断線材