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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】通信装置、通信方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 40/12 20090101AFI20230316BHJP
   H04W 40/24 20090101ALI20230316BHJP
   H04W 40/34 20090101ALI20230316BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20230316BHJP
   H04W 84/18 20090101ALI20230316BHJP
【FI】
H04W40/12
H04W40/24
H04W40/34
H04W84/12
H04W84/18 110
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019567190
(86)(22)【出願日】2019-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2019002521
(87)【国際公開番号】W WO2019146764
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2018010944
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018165445
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518315911
【氏名又は名称】株式会社AiTrax
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大崎 邦倫
【審査官】▲高▼橋 真之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/105371(WO,A1)
【文献】特開2011-030049(JP,A)
【文献】特開2004-282268(JP,A)
【文献】特開2005-033815(JP,A)
【文献】Suhua TANG, et.al.,A Link Heterogeneity-Aware On-Demand Routing (LHAOR) protocol utilizing local update and RSSI information,IEICE Transactions on Communications,2005年09月,Vol. E88-B, No.9,pp.3588-3597
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線LANによる無線メッシュネットワークをサポートする通信システムにおける通信装置であって、
受信電力とメトリック値とが対応づけられた定義テーブルと積算メトリック値とを記憶する記憶部と、
他の通信装置から送信されるブロードキャスト信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信したブロードキャスト信号の受信電力に対応するメトリック値を前記定義テーブルから取得し、取得したメトリック値と、受信したブロードキャスト信号に含まれるメトリック値とに基づいて積算メトリック値を算出する算出部と、
算出された積算メトリック値が、前記記憶部に記憶されている積算メトリック値よりも小さい場合に、前記記憶部に記憶されている積算メトリック値を算出された積算メトリック値に更新するとともに、算出された積算メトリック値のブロードキャスト信号を送信した前記他の通信装置を、前記無線メッシュネットワークにおける経路構築対象として決定する決定部と、
を有し、
前記算出部は、前記受信部で受信したブロードキャスト信号の受信電力を、過去に受信したブロードキャスト信号の受信電力と、新たに受信したブロードキャスト信号の受信電力とを所定の割合で合算することで算出し、
前記所定の割合は、当該通信装置が固定局として動作する場合と、当該通信装置が移動局として動作する場合とで、異なる割合に設定される、
通信装置。
【請求項2】
無線LANによる無線メッシュネットワークをサポートする通信システムにおける通信装置であって、
受信電力とメトリック値とが対応づけられた定義テーブルと積算メトリック値とを記憶する記憶部と、
他の通信装置から送信されるブロードキャスト信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信したブロードキャスト信号の受信電力に対応するメトリック値を前記定義テーブルから取得し、取得したメトリック値と、受信したブロードキャスト信号に含まれるメトリック値とに基づいて積算メトリック値を算出する算出部と、
算出された積算メトリック値が、前記記憶部に記憶されている積算メトリック値よりも小さい場合に、前記記憶部に記憶されている積算メトリック値を算出された積算メトリック値に更新するとともに、算出された積算メトリック値のブロードキャスト信号を送信した前記他の通信装置を、前記無線メッシュネットワークにおける経路構築対象として決定する決定部と、
を有し、
前記定義テーブルは、受信電力とメトリック値との第1セットと、受信電力とメトリック値との第2セットとを含み、
前記算出部は、前記受信部で受信したブロードキャスト信号の受信電力に対応するメトリック値を、前記第1セット及び前記第2セットのうち指示されたセットから取得する、
通信装置。
【請求項3】
当該通信装置が固定局として動作し、かつ、算出された積算メトリック値が、前記記憶部に記憶されている積算メトリック値よりも小さい場合、前記算出された積算メトリック値を含むブロードキャスト信号を送信するブロードキャスト部、を含む、
請求項1又は2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記ブロードキャスト部は、当該通信装置が移動局として動作する場合、前記算出された積算メトリック値を含むブロードキャスト信号を送信しないように制御する、
請求項に記載の通信装置。
【請求項5】
前記定義テーブルには、経路を生じさせないことを示すメトリック値が含まれる、
請求項1~のいずれか一項に記載の通信装置。
【請求項6】
無線LANによる無線メッシュネットワークをサポートする通信システムにおける通信装置が行う通信方法であって、
受信電力とメトリック値とが対応づけられた定義テーブルと積算メトリック値とを記憶部に記憶するステップと、
他の通信装置から送信されるブロードキャスト信号を受信するステップと、
受信したブロードキャスト信号の受信電力に対応するメトリック値を前記定義テーブルから取得し、取得したメトリック値と、受信したブロードキャスト信号に含まれるメトリック値とに基づいて積算メトリック値を算出するステップと、
算出された積算メトリック値が、前記記憶部に記憶されている積算メトリック値よりも小さい場合に、前記記憶部に記憶されている積算メトリック値を算出された積算メトリック値に更新するとともに、算出された積算メトリック値のブロードキャスト信号を送信した前記他の通信装置を、前記無線メッシュネットワークにおける経路構築対象として決定するステップと、
を含み、
前記算出するステップは、前記受信するステップで受信したブロードキャスト信号の受信電力を、過去に受信したブロードキャスト信号の受信電力と、新たに受信したブロードキャスト信号の受信電力とを所定の割合で合算することで算出し、
前記所定の割合は、当該通信装置が固定局として動作する場合と、当該通信装置が移動局として動作する場合とで、異なる割合に設定される、
通信方法。
【請求項7】
無線LANによる無線メッシュネットワークをサポートする通信システムにおける通信装置が行う通信方法であって、
受信電力とメトリック値とが対応づけられた定義テーブルと積算メトリック値とを記憶部に記憶するステップと、
他の通信装置から送信されるブロードキャスト信号を受信するステップと、
受信したブロードキャスト信号の受信電力に対応するメトリック値を前記定義テーブルから取得し、取得したメトリック値と、受信したブロードキャスト信号に含まれるメトリック値とに基づいて積算メトリック値を算出するステップと、
算出された積算メトリック値が、前記記憶部に記憶されている積算メトリック値よりも小さい場合に、前記記憶部に記憶されている積算メトリック値を算出された積算メトリック値に更新するとともに、算出された積算メトリック値のブロードキャスト信号を送信した前記他の通信装置を、前記無線メッシュネットワークにおける経路構築対象として決定するステップと、
を含み、
前記定義テーブルは、受信電力とメトリック値との第1セットと、受信電力とメトリック値との第2セットとを含み、
前記算出するステップは、前記受信するステップで受信したブロードキャスト信号の受信電力に対応するメトリック値を、前記第1セット及び前記第2セットのうち指示されたセットから取得する、
通信方法。
【請求項8】
無線LANによる無線メッシュネットワークをサポートする通信システムにおける通信装置に、
受信電力とメトリック値とが対応づけられた定義テーブルと積算メトリック値とを記憶部に記憶するステップと、
他の通信装置から送信されるブロードキャスト信号を受信するステップと、
受信したブロードキャスト信号の受信電力に対応するメトリック値を前記定義テーブルから取得し、取得したメトリック値と、受信したブロードキャスト信号に含まれるメトリック値とに基づいて積算メトリック値を算出するステップと、
算出された積算メトリック値が、前記記憶部に記憶されている積算メトリック値よりも小さい場合に、前記記憶部に記憶されている積算メトリック値を算出された積算メトリック値に更新するとともに、算出された積算メトリック値のブロードキャスト信号を送信した前記他の通信装置を、前記無線メッシュネットワークにおける経路構築対象として決定するステップと、
を実行させ
前記算出するステップは、前記受信するステップで受信したブロードキャスト信号の受信電力を、過去に受信したブロードキャスト信号の受信電力と、新たに受信したブロードキャスト信号の受信電力とを所定の割合で合算することで算出し、
前記所定の割合は、当該通信装置が固定局として動作する場合と、当該通信装置が移動局として動作する場合とで、異なる割合に設定される、
プログラム。
【請求項9】
無線LANによる無線メッシュネットワークをサポートする通信システムにおける通信装置に、
受信電力とメトリック値とが対応づけられた定義テーブルと積算メトリック値とを記憶部に記憶するステップと、
他の通信装置から送信されるブロードキャスト信号を受信するステップと、
受信したブロードキャスト信号の受信電力に対応するメトリック値を前記定義テーブルから取得し、取得したメトリック値と、受信したブロードキャスト信号に含まれるメトリック値とに基づいて積算メトリック値を算出するステップと、
算出された積算メトリック値が、前記記憶部に記憶されている積算メトリック値よりも小さい場合に、前記記憶部に記憶されている積算メトリック値を算出された積算メトリック値に更新するとともに、算出された積算メトリック値のブロードキャスト信号を送信した前記他の通信装置を、前記無線メッシュネットワークにおける経路構築対象として決定するステップと、
を実行させ、
前記定義テーブルは、受信電力とメトリック値との第1セットと、受信電力とメトリック値との第2セットとを含み、
前記算出するステップは、前記受信するステップで受信したブロードキャスト信号の受信電力に対応するメトリック値を、前記第1セット及び前記第2セットのうち指示されたセットから取得する、
プログラム。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2018年1月25日に出願された日本出願番号(特願)2018-010944号及び2018年9月4日に出願された日本出願番号(特願)2018-165445号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、通信装置、通信方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0003】
無線多段中継における経路構築手法として、例えばIEEE802.11sが知られている(例えば特許文献1)。IEEE802.11sを利用することで、通信装置が互いに接続して無線メッシュネットワークを構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-124813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
IEEE802.11sでは、メトリック(Metric)と呼ばれる、通信装置間の経路ごとのコストを示す重み値に基づいて、通信経路の決定が行われる。IEEE802.11sでは、相互に接続する通信装置の互換性を重視しており、例えばIEEE802.11aやIEEE802.11acなどの通信規格の異なる通信装置が混在した環境に対応することができるように、通信規格で定められた理論上の最大通信速度に基づいてメトリック値が決定される。
【0006】
ここで、無線通信においては、必ずしも理論上の最大通信速度で通信が行われるのではない。例えば、無線通信においては、周囲の電波環境の影響があるため、通信速度は、通信が開始されてから、ある程度のフレームのやり取りが行われた後、最適な速度に調整される。従って、電源投入後などのように送受信するフレームが少ない場合においては、実際の最適な送信速度を得ることができないため、上述のように理論上の最大通信速度を用いたメトリックの計算方法を利用して構築された経路は最適ではない。特に、ツリー型の経路を構築する場合では、ユーザのフレームの送受信が開始される前に経路が決定される必要があるため、中継装置が移動する場合などを考慮すると、標準仕様により規定されている理論上の最大通信速度を用いたメトリックによる経路構築は最適な方法ではない。
【0007】
そこで、本発明は、無線メッシュネットワークにおいて、より最適な経路構築を行うことを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る通信装置は、無線LANによる無線メッシュネットワークをサポートする通信システムにおける通信装置であって、受信電力とメトリック値とが対応づけられた定義テーブルと積算メトリック値とを記憶する記憶部と、他の通信装置から送信されるブロードキャスト信号を受信する受信部と、受信部で受信したブロードキャスト信号の受信電力に対応するメトリック値を定義テーブルから取得し、取得したメトリック値と、受信したブロードキャスト信号に含まれるメトリック値とに基づいて積算メトリック値を算出する算出部と、算出された積算メトリック値が、記憶部に記憶されている積算メトリック値よりも小さい場合に、記憶部に記憶されている積算メトリック値を算出された積算メトリック値に更新するとともに、算出された積算メトリック値のブロードキャスト信号を送信した他の通信装置を、無線メッシュネットワークにおける経路構築対象として決定する決定部と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無線メッシュネットワークにおいて、より最適な経路構築を行うことを可能にする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る無線通信システムのシステム構成の一例を示す図である。
図2】従来のIEEE802.11sにおける経路構築の方式を示す図である。
図3】中継装置のハードウェア構成例を示す図である。
図4】中継装置の機能ブロック構成例を示す図である。
図5】定義テーブルの一例を示す図である。
図6】中継装置の装置構成例を示す図である。
図7】実施形態に係る無線通信システムが行う処理手順の一例を示す図である。
図8】中継装置が経路構築対象の中継装置を決定する際の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図9】中継装置が行う経路構築の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0012】
<システム構成>
図1は、実施形態に係る無線通信システム1のシステム構成の一例を示す図である。無線通信システム1は、固定局である中継装置10-1A~10-1F、移動局である中継装置10-2A及び10-2Bを含む。固定局である中継装置10-1A~10-1Fを特に区別しない場合は「中継装置(固定局)10-1」と称する。移動局である中継装置10-2A及び10-2Bを特に区別しない場合は「中継装置(移動局)10-2」と称する。また、中継装置(固定局)10-1及び中継装置(移動局)10-2を区別しない場合は「中継装置10」と称する。無線通信システム1に含まれる中継装置(固定局)10-1及び中継装置(移動局)10-2の数は任意であり、特に制限はない。また、中継装置10を無線中継装置と称してもよいし、通信装置と称してもよい。
【0013】
中継装置(固定局)10-1は、基本的に移動せず、建物の内部や屋外などに固定的に設置された中継装置10を意図している。また、中継装置(移動局)10-2は、例えば自動車等に搭載されていたり、ユーザが所持していたりと、基本的に移動することが前提である中継装置10を意図している。
【0014】
中継装置(固定局)10-1及び中継装置(移動局)10-2は、アクセスポイントとして動作し、無線LAN、LPWA(Low-Power Wide-Area Network)、Bluetooth(登録商標)又は有線LAN等を介して端末20と通信することができる。端末20は、例えば、スマートフォン、タブレット端末、携帯電話機、パーソナルコンピュータ(PC)、ノートPC、携帯情報端末(PDA)、家庭用ゲーム機器などである。図1の例では、端末20Aは中継装置(移動局)10-2Aと通信しており、端末20Bは中継装置(移動局)10-2Bと通信している。図1の例はあくまで一例であり、端末20が中継装置(固定局)10-1と通信することも可能である。
【0015】
また、中継装置(固定局)10-1及び中継装置(移動局)10-2は、IEEE802.11sをサポートしており、IEEE802.11sに定められた手順に従って経路を構築することで、無線通信システム1全体で無線メッシュネットワークを構成する。図1における点線は、中継装置10の間で構築された経路を示している。IEEE802.11sでは、HWMP(Hybrid Wireless Mesh Protocol)という規格が採用されている。HWMPには各中継装置10が自律的にネットワークを構築するRM-AODV(On demand routing is based on Radio Metric AODV)や、特定の中継装置を起点としてツリー型のネットワークを構築するPro-active routing方式がある。IEEE802.11sでは、メトリックと呼ばれる、中継装置10間の経路ごとのコストを示す重み値に基づいて、通信経路の決定が行われる。本実施形態は、双方の方式で採用されている経路構築の方式に適用することが可能である。
【0016】
図2は、従来のIEEE802.11sにおける経路構築の方式を示す図である。この方式では、まず、起点となる特定の中継装置10(例えばインターネットに接続している等、通信の起点となる中継装置10であり、図1の例では中継装置(固定局)10-1A)から、メトリック値が0である経路構築フレームを送信(ブロードキャスト)する。次に、周辺の中継装置10は、受信した経路構築フレームに含まれるメトリック値と、当該経路構築フレームを送信した中継装置10と通信する際の理論上の最大通信速度を基にしたメトリック値を加算したメトリック値(以下、「積算メトリック値」と言う。)を計算する。
【0017】
メトリック値は、通信経路におけるコストを示すことから、通信速度が速いほど小さい値に設定される。図2の例では、理論上の最大通信速度が54Mbpsの場合(例えばIEEE802.11aの場合)のメトリック値を100とし、理論上の最大通信速度が150Mbpsの場合(例えばIEEE802.11nの場合)のメトリック値を50と定めたと仮定する。積算メトリック値は、無線メッシュネットワークにおいて起点となる中継装置10からの経路における全コストを示すものと言うこともできる。
【0018】
図2のAは、中継装置10Bが、他の中継装置10との間で経路を構築しようとする場合の処理例を示している。図2のAの場合、中継装置10Aから送信される経路構築フレームに含まれるメトリック値は0であり、中継装置10Cから送信される経路構築フレームに含まれるメトリック値は100である。また、中継装置10Aと中継装置10Bとの間は理論上の最大通信速度が150Mbpsであり、中継装置10Bと中継装置10Cとの間は理論上の最大通信速度が54Mbpsであるとする。また、図2のAにおいて、中継装置10A及び中継装置10Cは、お互いに通信可能な状態であるものとする。
【0019】
中継装置10Bは、中継装置10Aとの間で経路を構築した場合のメトリック値を、中継装置10Aから送信される経路構築フレームに含まれるメトリック値と中継装置10Aと中継装置10Bとの間の理論上の最大通信速度150Mbpsに対応するメトリック値50とを合算することで計算する。この場合、0+50=50になる。同様に、中継装置10Bが中継装置10Cとの間で経路を構築した場合のメトリック値は、100+100=200になる。従って、中継装置10Bは、メトリック値が小さい中継装置10Aとの間で経路を構築する。
【0020】
図2のBは、中継装置10Cが、他の中継装置10との間で経路を構築しようとする場合の処理例を示している。また、図2のBにおいて、中継装置10A及び中継装置10Bは、お互いに通信可能な状態であるものとする。その他、特に言及しない点は図2のAと同一である。この場合、中継装置10Cが中継装置10Bとの間で経路を構築した場合のメトリック値は、50+100=150になる。同様に、中継装置10Cが中継装置10Aとの間で経路を構築した場合のメトリック値は、0+100=100になる。従って、中継装置10Cは、メトリック値が小さい中継装置10Aとの間で経路を構築する。
【0021】
本実施形態では、すべての中継装置で使用している通信方式を同一と仮定して、中継装置の理論上の最大通信速度の代わりに、電波の受信電力をメトリック値の計算に用いる。
【0022】
なお、本実施形態では、電波の品質を示す指標として、受信電力以外の他の指標を用いるようにしてもよい。例えば、受信強度を示す指標(RSSI(Received Signal Strength Indicator))でもよいし、SNR(Signal to Noise Ratio)でもよい。
【0023】
また、中継装置(移動局)10-2は、移動することを前提としていることから、中継装置(移動局)10-2が経路の中間地点に含まれていると、経路が頻繁に切り替わってしまう可能性がある。このような経路の切り替えが無線メッシュネットワーク内の様々な箇所で生じてしまうと、ネットワーク全体の通信品質が劣化することになり好ましくない。そこで、本実施形態では、中継装置(移動局)10-2は、経路構築フレームを送信しないように制御することで、中継装置(移動局)10-2が経路の中間地点(図1の例では、中継装置10-1B、10-1D、10-1E)に存在することがないようにする。
【0024】
ここで、本実施形態に係る中継装置10が行う経路構築方法の概要を説明する。まず、経路構築の起点となる装置はルートノードと呼ばれる。本実施形態では、インターネットに接続されている中継装置(固定局)10-1Aを、ルートノードとする。ルートノードは、メトリック値を0に設定した経路構築フレームを所定の周期で送信する。また、所定の周期で経路構築フレームを送信する度に、経路構築フレームに含めるシーケンス番号(初期値は0)をカウントアップしていく。
【0025】
一方、ルートノード以外の中継装置10は、MP(メッシュポータル、メッシュポイント)と呼ばれる。MPは、他の中継装置10(ルートノード及びMPの両方を含む)から経路構築フレームを新たに受信した場合、新たに受信した経路構築フレームに含まれるシーケンス番号と、前回他の中継装置10(ルートノード及びMPの両方を含む)から受信した経路構築フレームのシーケンス番号を比較する。
【0026】
新たに受信した経路構築フレームに含まれるシーケンス番号と、前回受信した経路構築フレームのシーケンス番号とが同一である場合、以下(1)~(3)に示す処理を行う。
【0027】
(1)新たに受信した経路構築フレームに基づき算出した積算メトリック値が自身のメモリに記憶している積算メトリック値よりも小さい値であるか否かを判定する。
【0028】
(2)小さい値であると判定した場合、自身のメモリに記憶している積算メトリック値を、新たに受信した経路構築フレームに基づき算出した積算メトリック値に更新するとともに、当該積算メトリック値と新たに受信した経路構築フレームに含まれるシーケンス番号と同一のシーケンス番号とを含む経路構築フレームをブロードキャストする。
【0029】
(3)小さい値ではない(つまり同一値又は大きい値である)と判定した場合、積算メトリック値の更新及び経路構築フレームのブロードキャストを行わずに処理を終了する。
【0030】
一方、新たに受信した経路構築フレームに含まれるシーケンス番号と、前回受信した経路構築フレームのシーケンス番号とが異なる場合、自身のメモリに記憶している積算メトリック値を最大値に更新する。最大値に更新した後、上述の(1)~(3)と同一の処理を行う(ただし、積算メトリック値を最大値に更新しているので(3)の処理は通常行われない)。
【0031】
以上の処理手順によれば、ルートノードである中継装置10が経路構築フレームを送信すると、それを受信したMPである中継装置10は、一旦積算メトリック値を最大値に更新し、積算メトリックの計算をやり直すことになる。また、中継装置10が密集している場合、MPである中継装置10間でも直接経路構築フレームが送受信され、より小さい積算メトリック値になる経路が選択されていくことになる。つまり、ルートノードが経路構築フレームを送信する度に、ネットワーク内の経路が無線状況に応じた適切な状態に更新されていくことから、ネットワーク内の無線状況が変化しても、より最適な経路構築を行うことができる。
【0032】
<ハードウェア構成>
図3は、中継装置10のハードウェア構成例を示す図である。中継装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、メモリ、HDD(Hard Disk Drive)及び/又はSSD(Solid State Drive)等の記憶装置12、有線又は無線通信を行う通信IF(Interface)13、入力操作を受け付ける入力デバイス14、及び情報の出力を行う出力デバイス15を有する。入力デバイス14は、例えば、スイッチ、キーボード、タッチパネル、マウス及び/又はマイク等である。出力デバイス15は、例えば、LED(Light-Emitting Diode)、ディスプレイ及び/又はスピーカ等である。
【0033】
<機能ブロック構成>
図4は、中継装置10の機能ブロック構成例を示す図である。中継装置10は、記憶部100と、受信部101と、測定部102と、算出部103と、決定部104と、中継処理部105と、ブロードキャスト部106と、端末通信部107とを含む。受信部101と、測定部102と、算出部103と、決定部104と、中継処理部105と、ブロードキャスト部106と、端末通信部107とは、中継装置10のCPU11が、記憶装置12に記憶されたプログラムを実行することにより実現することができる。また、当該プログラムは、記憶媒体に格納することができる。当該プログラムを格納した記憶媒体は、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体(Non-transitory computer readable medium)であってもよい。非一時的な記憶媒体は特に限定されないが、例えば、USBメモリ又はCD-ROM等の記憶媒体であってもよい。また、記憶部100は、中継装置10が備える記憶装置12を用いて実現することができる。
【0034】
記憶部100は、受信電力とメトリック値とが対応づけられた定義テーブルを記憶する。また、記憶部100は、積算メトリック値を格納する。図5は、定義テーブルの一例を示す図である。より具体的には、図5は、1dBm単位での電波の受信電力とメトリック値とを対応づけた定義テーブルである。図5に示す定義テーブルには、Metric(ケース1)と、Metric(ケース2)との2つのパターンが存在するが、メトリック値を計算する際は、外部のサーバ等やディップスイッチ等により指示されたパターンを利用することとしてもよい。定義テーブルは、受信電力-Metricテーブルと称されてもよい。なお、電波の信号強度が弱すぎて中継装置10を接続させないほうがよい場合も考慮し、メトリック値を非常に大きな値に設定することを許容するようにしてもよい。
【0035】
受信部101は、他の中継装置10から送信される経路構築フレーム(ブロードキャスト信号)を受信する機能を有する。また、受信部101は、前回受信した経路構築フレームとはシーケンス番号が異なる経路構築フレームを受信した場合、記憶部100に格納されている積算メトリック値を初期値(積算メトリック値がとり得る最大値)に更新する。
【0036】
測定部102は、受信部101で受信した経路構築フレームの受信電力を測定する機能を有する。
【0037】
算出部103は、受信部101で受信した経路構築フレームについて測定部102で測定した受信電力に対応するメトリック値を定義テーブルから取得し、取得したメトリック値と、受信した経路構築フレームに含まれるメトリック値とを合計することで積算メトリック値を算出する機能を有する。なお、積算メトリック値は、必ずしも、取得したメトリック値と、受信した経路構築フレームに含まれるメトリック値とを合計した値に限定されない。例えば、算出部103は、取得したメトリック値と、受信した経路構築フレームに含まれるメトリック値とを合計した値に、少なくとも1以上の所定の定数を乗算することで積算メトリック値を算出するようにしてもよい。また、算出部103は、取得したメトリック値と、受信した経路構築フレームに含まれるメトリック値とを所定の関数に入力し、当該所定の関数から出力される値を積算メトリック値とするようにしてもよい。所定の関数は、少なくとも、入力された2つのメトリック値の各々より大きな値を出力する関数であればどのような関数も含まれる。すなわち、算出部103は、取得したメトリック値と、受信した経路構築フレームに含まれるメトリック値とに基づいて、積算メトリック値を算出するようにしてもよい。
【0038】
また、算出部103は、受信部101で受信したブロードキャスト信号の受信電力を、過去に受信した経路構築フレームの受信電力と、新たに受信した経路構築フレームの受信電力とを所定の割合で合算することで算出するようにしてもよい(より具体的には、後述する1次フィルタ等を利用することとしてもよい)。
【0039】
決定部104は、算出部103で算出された積算メトリック値が、記憶している積算メトリック値よりも小さい場合に、記憶部100に記憶されている積算メトリック値を当該算出された積算メトリック値に更新するとともに、当該算出された積算メトリック値のブロードキャスト信号を送信した他の中継装置10を、無線メッシュネットワークにおける経路構築対象として決定する。
【0040】
中継処理部105は、他の中継装置10又は端末20から受信したデータを、決定部104で決定された中継装置10に送信(転送)する機能を有する。また、中継処理部105は、決定部104で決定された中継装置10から送られてきたデータを、経路上の他の中継装置10又は端末20に送信(転送)する機能を有する。
【0041】
ブロードキャスト部106は、経路構築フレームをブロードキャストする機能を有する。より具体的には、中継装置10がMPとして動作する場合、記憶部100に格納された積算メトリック値が小さい積算メトリック値に更新された場合に、更新後の小さい値の積算メトリック値とシーケンス番号とを含む経路構築フレームをブロードキャストする。中継装置10がルートノードとして動作する場合、積算メトリック値が0である経路構築フレームを、シーケンス番号をカウントアップさせながら所定の周期でブロードキャストする。
【0042】
また、ブロードキャスト部106は、中継装置10が固定局として動作する場合、積算メトリック値を含む経路構築フレームをブロードキャストし、中継装置10が移動局として動作する場合、積算メトリック値を含む経路構築フレームをブロードキャストしないように制御するようにしてもよい。中継装置10が固定局として動作するのか移動局として動作するのかについては、記憶部100に記憶されたフラグの値により決定されるようにしてもよい。若しくは、ディップスイッチ等の物理的なスイッチが固定局側に設定されている場合は固定局として動作し、移動局側に設定されている場合は移動局として動作することとしてもよい。
【0043】
端末通信部107は、無線LAN、Bluetooth(登録商標)又は有線LAN等を介して端末20と直接通信する機能を有する。
【0044】
図6は、中継装置10の装置構成例を示す図である。中継装置10は、ユーザアプリケーション200と、Linux Kernel210と、無線モジュール220とから構成されていてもよい。ユーザアプリケーション200には、定義テーブルを更新するための独自アルゴリズムによるプログラムが含まれている。また、Linux Kernel210には、定義テーブルと、IEEE802.11sをサポートする無線モジュール用のドライバとが含まれている。また、Linux Kernel210には、図4で説明した各機能部も含まれる。
【0045】
経路構築の高速化のために、定義テーブルは無線通信装置を動作させるハードウェアのドライバプログラム内部で参照するようにしてもよい。定義テーブルにおける各メトリック値の計算や決定、さらにはテーブルへの書き込みは、図6に示すように、Linux kernel210内部ではなく、ユーザアプリケーション200から行うこととしてもよい。このユーザアプリケーション200では定義テーブルの値を計算するうえで、電波強度の変動や中継装置で中継しているデータ量などを考慮して、自己学習型のアルゴリズムによりテーブルの値を決定して、一定の周期でテーブルの値を更新するようにしてもよい。
【0046】
また、Linux kernel210内部では、小数を扱った計算が困難であるため、あらかじめ、対数等の小数演算をユーザアプリケーション200側で行ってテーブルを更新し、このテーブルをLinux kernel210で参照することとしてもよい。
【0047】
<処理手順>
図7は、実施形態に係る無線通信システム1が行う処理手順の一例を示す図である。図7を用いて、中継装置(移動局)10-2が、中継装置(固定局)10-1A又は中継装置(固定局)10-1Bとの間で新たな経路を構築し、端末20がインターネット30との間でデータの送受信を行うまでの一連の処理手順を説明する。図7の例では、中継装置(固定局)10-1Aはルートノードであるとする。
【0048】
まず、中継装置(固定局)10-1A及び中継装置(固定局)10-1Bは、経路構築フレームをブロードキャストする。中継装置(固定局)10-1Aが送信する経路構築フレームにはメトリック値0及びシーケンス番号0が含まれており、中継装置(固定局)10-1Bが送信する経路構築フレームにはメトリック値100及びシーケンス番号0が含まれているものとする(S100、S101)。
【0049】
中継装置(移動局)10-2は、中継装置(固定局)10-1Aからブロードキャストされた経路構築フレームと、中継装置(固定局)10-1Bからブロードキャストされた経路構築フレームとを受信する(S102)。続いて、中継装置(移動局)10-2は、中継装置(固定局)10-1A又は中継装置(固定局)10-1Bのいずれかを経路構築対象として決定する(S103)。ここでは、中継装置(固定局)10-1Aを、経路構築対象として決定したものとする。中継装置(移動局)10-2は、決定した経路構築対象の中継装置(固定局)10-1Aの識別子(MACアドレス、SSID等)を記憶しておく。
【0050】
続いて、中継装置(移動局)10-2は、端末20からインターネット30向けのデータを受信する(S104)。中継装置(移動局)10-2は、受信したデータを、ステップS103の処理手順で決定した中継装置(固定局)10-1Aに転送する(S105)。中継装置(固定局)10-1Aは、受信したデータをインターネット30に送信する(S106)。
【0051】
続いて、インターネット30から端末20に向けてデータが送信される。当該データを受信した中継装置(固定局)10-1Aは、当該データを、中継装置(移動局)10-2に送信する(S107、S108)。中継装置(移動局)10-2は、当該データを端末20に送信する。なお、ステップS104~ステップS109におけるデータのルーティング処理は、IEEE802.11sで定められたルーティング手順に従って行われる。
【0052】
図8は、中継装置10が経路構築対象の中継装置10を決定する際の処理手順の一例を示すフローチャートである。図8の手順は、図7のステップS103の処理手順に該当する。
【0053】
ステップS201で、中継装置10の受信部101は、前回受信した経路構築フレームのシーケンス番号と新たに受信した経路構築フレームのシーケンス番号とが同一であるか否かを判定する。同一であると判定した場合はステップS203に進み、異なると判定した場合はステップS202に進む。
【0054】
ステップS202で、中継装置10の受信部101は、記憶部100(メモリ)に記憶している積算メトリック値を最大値に更新する。
【0055】
ステップS203で、中継装置10の測定部102は、新たに受信した経路構築フレームの受信電力を測定する。ステップS204で、中継装置10の算出部103は、定義テーブルを検索することで、測定した受信電力に対応するメトリック値を取得する。ステップS205で、中継装置10の算出部103は、新たに受信した経路構築フレームに含まれるメトリック値と定義テーブルから取得したメトリック値とを合算することで積算メトリック値を算出する。
【0056】
ステップS206で、決定部104は、算出した積算メトリック値が、記憶部100に記憶している積算メトリック値より小さいか否かを判定する。小さい値である場合はステップS207に進み、同一又は大きい値である場合は処理を終了する。
【0057】
ステップS207で、決定部104は、記憶部100に記憶している積算メトリック値を、ステップS205で算出した積算メトリック値に更新する。ステップS208で、決定部104は、新たに受信した経路構築フレームを送信した中継装置10を、経路構築対象として決定し、決定した中継装置10の識別子(MACアドレス、SSID等)を記憶する。ステップS209で、ブロードキャスト部106は、更新した積算メトリック値と、新たに受信した経路構築フレームのシーケンス番号とを含む経路構築フレームをブロードキャストする。なお、ブロードキャスト部106は、中継装置10が移動局である場合、ステップS209の処理手順を省略する。つまり、ブロードキャスト部106は、経路構築フレームをブロードキャストしないように制御する。
【0058】
以上説明した処理手順において、受信電力は環境によって短期間に変動するものであるため、測定部102は、ステップS203の処理手順において、1次フィルタによる平均化手法を導入して測定を行うようにしてもよい。
【0059】
例えば、平均化された受信電力をPave_old、計測された受信電力をPnow、平均化数をNとし、以下の式により平均化した受信電力Paveを計算するようにしてもよい。
【0060】
Pave=(Pave_old×(N-1)+Pnow)/N
ここで、Nは任意の値を設定可能である。Nを小さな値とすれば、新たに受信した経路構築フレームの受信電力の影響を大きく受けるため、受信電力が頻繁に変動するような環境に適している。つまり、中継装置10が移動局として動作する場合に適している。
【0061】
また、Nを大きな値とすれば、過去に受信した経路構築フレームの受信電力の影響を大きく受けるため、固定局向けの電波強度の安定化に適用できる。つまり、中継装置10が固定局として動作する場合に適している。
【0062】
また、運用中に一時的にN=1とすることで、平均化されたPaveの初期化も可能とする。このように、平均化数Nをシステムの動作中に任意の値に変更することで一次フィルタの時定数を自由に変更することができる。
【0063】
また、測定部102は、1次フィルタに限定されず他の平均化手法を利用することとしてもよい。例えば、測定部102は、過去所定の回数分の受信電力の値を平均することとしてもよい。
【0064】
<動作例>
図9は、中継装置10が行う経路構築の具体例を示す図である。図9のAは、中継装置10Cが、他の中継装置10との間で経路を構築しようとする場合の処理例を示している。図9において、中継装置10Aから送信される経路構築フレームに含まれるメトリック値は0であり、中継装置10Bから送信される経路構築フレームに含まれるメトリック値は50であるとする。また、中継装置10Cが中継装置10Bから受信した経路構築フレームの受信電力は-48dBmであり、中継装置10Cが中継装置10Aから受信した経路構築フレームの受信電力は-60dBmであるとする。また、中継装置10Aはルートノードであり、各中継装置10が受信する経路構築フレームに含まれるシーケンス番号は同一であるものとする。また、図9のAでは、定義テーブルに、図5のケース1のメトリック値が設定されているものとする。図9のBは、定義テーブルに、図5のケース2のメトリック値が設定されているものとする。
【0065】
図9のAの場合、中継装置10Cは、中継装置10Bから受信した経路構築フレームの受信電力(-48dBm)に対応するメトリック値(54)を、中継装置10Bから送信される経路構築フレームに含まれるメトリック値50と合算することで、中継装置10Bと経路を構築した場合の積算メトリック値を計算する。この場合、50+54=104になる。同様に、中継装置10Cは、中継装置10Aから受信した経路構築フレームの受信電力(-60dBm)に対応するメトリック値(500)を、中継装置10Aから送信される経路構築フレームに含まれるメトリック値0と合算することで、中継装置10Bと経路を構築した場合の積算メトリック値を計算する。この場合、0+500=500になる。従って、中継装置10は、最終的に、積算メトリック値が小さい中継装置10Bを、経路構築対象の中継装置10として決定することになる。
【0066】
図9のBの場合、中継装置10Cは、中継装置10Bから受信した経路構築フレームの受信電力(-48dBm)に対応するメトリック値(54)を、中継装置10Bから送信される経路構築フレームに含まれるメトリック値50と合算することで、中継装置10Bと経路を構築した場合の積算メトリック値を計算する。この場合、50+54=104になる。同様に、中継装置10Cは、中継装置10Aから受信した経路構築フレームの受信電力(-60dBm)に対応するメトリック値(100)を、中継装置10Aから送信される経路構築フレームに含まれるメトリック値0と合算することで、中継装置10Bと経路を構築した場合の積算メトリック値を計算する。この場合、0+100=100になる。従って、中継装置10は、最終的に、積算メトリック値が小さい中継装置10Aを、経路構築対象の中継装置10として決定することになる。
【0067】
<まとめ>
以上説明した実施形態は、以下のように説明することができる。
【0068】
中継装置(固定局)10-1は、経路構築に関する信号を定期的に送受信して、お互いが無線多段中継を行うための最適な経路をあらかじめ構築しておく。中継装置(移動局)10-2は、周辺の中継装置(固定局)10-1が定期的に送信する経路構築に関する信号を受信して自らの判断で条件の良い中継装置(固定局)10-1を選択し、接続を行う。さらに無線メッシュネットワーク(無線多段中継システム)の安定性を高めるため、中継装置(移動局)10-2には、他の中継装置(移動局)10-2や周辺の中継装置(固定局)10-1を接続させないことも選択できる。
【0069】
また、以上説明した実施形態は、以下のように説明してもよい。
【0070】
中継装置(移動局)10-2が、周辺の多段中継ノード(中継装置(固定局)10-1)から送信される信号を使って自ら通信する相手を自動的に選択する方法。
【0071】
経路の安定性を考慮して、中継装置(移動局)10-2に他の中継装置(固定局)10-1もしくは他の中継装置(移動局)10-2を接続させないことを選択できる方法。
【0072】
以下を特徴とする経路構築の方式:
(1)カーネル内に、受信電力とメトリック値との対応関係を示す定義テーブルを構築する。
【0073】
(2)ユーザアプリケーション200により、電波強度の変動や中継装置10で中継しているデータ量などを考慮して、自己学習型のアルゴリズムにより定義テーブルの値を一定の周期で更新する。
【0074】
(3)受信電力は変化が大きいので、Linux Kernel210で定義テーブルを参照する前に受信電力の平均化を行う。
【0075】
(4)平均化は数式で行い、一次フィルタとする。
【0076】
(5)平均化された受信電力をPave_old、計測された受信電力をPnow、平均化数をNとすると、以下の式により新たなPaveを計算する。
【0077】
Pave=(Pave_old×(N-1)+Pnow)/N
(6)定義テーブルを参照し、平均化された受信電力Paveに対応するメトリック値を取得する。
【0078】
<効果>
以上説明した実施形態では、メトリック値の計算を、中継装置10間で通信する際の理論上の最大通信速度に応じて定められたメトリック値を用いるのではなく、各中継装置10から送信される電波の受信電力の大きさに応じて定められたMetricを用いることした。一般的に、電波の受信電力が大きいほど通信品質は向上することになる。従って、本実施形態では、従来のIEEE802.11sに沿った方式と比較して、より通信品質が良いルートで経路構築がなされることになることから、無線メッシュネットワークにおいて、より最適な経路構築を行うことが可能になる。
【0079】
また、本実施形態に係る方式を採用することで、経路の構築を、利用環境に合わせた任意の形にすることが可能となる。例えば、図5に示すように、ある程度の電波強度を持った中継装置10との接続をさせる傾向を持った定義テーブル(パターン1)、もしくは、受信電力が微弱ではあるが、遠方の中継装置と接続させる傾向を持たせたテーブル(パターン2)を作成しておき、例えばパターン1は中継装置(固定局)10-1で利用し、パターン2は中継装置(移動局)10-2で利用するなど、中継装置10の形態に合わせて定義テーブルを変更することで、経路の構築を柔軟に行うことが可能となる。
【0080】
<その他>
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態で説明したフローチャート、シーケンス、実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…無線通信システム、10…中継装置、11…CPU、12…記憶装置、13…通信IF、14…入力デバイス、15…出力デバイス、20…端末、30…インターネット、100…記憶部、101…受信部、102…測定部、103…算出部、104…決定部、105…中継処理部、106…ブロードキャスト部、107…端末通信部、200…ユーザアプリケーション、210…Linux kernel、220…無線モジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9