IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般財団法人電力中央研究所の特許一覧

<>
  • 特許-植物成長抑制方法 図1
  • 特許-植物成長抑制方法 図2
  • 特許-植物成長抑制方法 図3
  • 特許-植物成長抑制方法 図4
  • 特許-植物成長抑制方法 図5
  • 特許-植物成長抑制方法 図6
  • 特許-植物成長抑制方法 図7
  • 特許-植物成長抑制方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】植物成長抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 21/00 20060101AFI20230316BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
A01M21/00 Z
A01G7/00 601A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018187815
(22)【出願日】2018-10-02
(65)【公開番号】P2020054287
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】橋田 慎之介
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/056221(WO,A1)
【文献】特開2014-180221(JP,A)
【文献】特開平04-166076(JP,A)
【文献】特表2006-515307(JP,A)
【文献】高辻正基,“2 光と植物-植物工場”,光資源を活用し、創造する科学技術の振興-持続可能な「光の世紀」に向けて-(文部科学省科学技術・学術審議会・資源調査分科会報告書),第2章,2007年09月05日,[2022年9月30 日検索],インターネット <https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/07091111.htm>
【文献】高橋俊一,"過剰な光エネルギーで起こる光阻害とその防御について",光合成研究,2013年08月,第23巻第2号,57-63頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00 - 7/06
A01M 21/00 - 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
夜間には、植物に光を照射してNADP+を合成させると共にNADPHを生成させて植物にエネルギーを使わせるための明期処理と、
前記光の照射を止め前記植物において一旦合成・生成された前記NADP及び前記NADPH分解させるための暗期処理とが、
前記明期処理の後に前記暗期処理の順で且つ前記明期処理は0.5分以上30分以下、その後の前記暗期処理は20分以上119分以下の明暗サイクルで交互に繰り返し行われる
ことを特徴とする植物成長抑制方法。
【請求項2】
前記明期処理は分以上10分以下、前記暗期処理は20分以上59分以下であることを特徴とする請求項1記載の植物成長抑制方法。
【請求項3】
前記明期処理と前記暗期処理とが、野外において夜間に行われることを特徴とする請求項1または2記載の植物成長抑制方法。
【請求項4】
前記明期処理において植物に対して照射される光の光合成光量子束密度が10~50 μmolm-2-1 であることを特徴とする請求項1または2記載の植物成長抑制方法。
【請求項5】
前記明期処理において植物に対して照射される光の強度が、少なくとも、前記植物においてNADP+が合成され得る強度であることを特徴とする請求項1または2記載の植物成長抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物成長抑制方法及び植物成長抑制用照明装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば人工光を用いて植物の成長/生長を管理・制御する際に用いて好適な植物の成長を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物の成長/生長を促進するために人工光源から発生する光を植物に照射する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-153666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、植物の成長/生長を抑制するために人工光源から発生する光を利用する方法は、少なくとも実用的な手法として確立したものは、知られていない。
【0005】
例えば低草緑地による良好な景観の創出や維持,法面の維持,抑草剤・除草剤の使用による風評被害の防止などのため、植物の成長/生長を抑制する技術、特に化学物質を使わずに植物の成長/生長を抑制する技術は有用である。
【0006】
そこで、本発明は、化学物質を使うことなく植物の成長/生長を抑制することができる植物成長抑制方法及び植物成長抑制用照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明に係る植物成長抑制方法は、夜間には、植物に光を照射してNADP+を合成させると共にNADPHを生成させて植物にエネルギーを使わせるための明期処理と、前記光の照射を止め前記植物において一旦合成・生成された前記NADP及び前記NADPH分解させるための暗期処理とが、明期処理と暗期処理とがこの順で且つ明期処理は0.5分以上30分以下、その後の暗期処理は20分以上119分以下の明暗サイクルで交互に繰り返し行われるようにしている。
【0008】
本発明に係る植物成長抑制方法において、明期処理は分以上10分以下暗期処理は20分以上59分以下であるようにしても良い。
【0009】
本発明に係る植物成長抑制方法は、明期処理と暗期処理とが、野外において夜間に行われるようにしても良い。
【0012】
これらの植物成長抑制方法や植物成長抑制用照明装置によると、光照射の制御によって植物の成長/生長を抑制するようにしているので、化学物質を使うことなく植物の成長/生長が抑制される。
【0013】
これらの植物成長抑制方法や植物成長抑制用照明装置によると、また、比較的短時間の光照射によって植物の成長/生長を抑制し得るので、低廉なコストで植物の成長/生長の管理・制御が行われる。
【0014】
また、本発明の植物成長抑制方法は、明期処理において植物に対して照射される光の光合成光量子束密度が10~50 μmolm-2-1 であるようにしても良く、また、本発明の植物成長抑制用照明装置は、光の光合成光量子束密度が10~50 μmolm-2-1 であるようにしても良い。これらの場合には、弱い光の照射によって植物の成長/生長が抑制される。
【0015】
また、本発明の植物成長抑制方法は、明期処理において植物に対して照射される光の強度が、少なくとも、前記植物においてNADP+が合成され得る強度であるようにしても良く、また、本発明の植物成長抑制用照明装置は、光の強度が、少なくとも、前記植物においてNADP+が合成され得る強度であるようにしても良い。これらの場合には、必要最低限の弱い光の照射によって植物の成長/生長が抑制される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の植物成長抑制方法や植物成長抑制用照明装置によれば、化学物質を使うことなく植物の成長/生長を抑制することができるので、植物の成長/生長を抑制する仕法としての有用性や汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0017】
本発明の植物成長抑制方法や植物成長抑制用照明装置によれば、また、低廉なコストで植物の成長/生長の管理・制御を行うことができるので、植物の成長/生長を抑制する仕法としての有用性や汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0018】
本発明の植物成長抑制方法や植物成長抑制用照明装置は、光の強度が所定の範囲や程度であるようにした場合には、弱い光の照射によって植物の成長/生長を抑制することができるので、植物の成長/生長を抑制する仕法としての有用性や汎用性の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1の比較例及び明暗パターン毎の成長/生長の態様の状態を示す図である。
図2】実施例1の比較例及び明暗パターン毎の葉面積の推移を示す図である。
図3】実施例1の比較例及び明暗パターン毎の個体生物量を示す図である。
図4】実施例2の比較例及び明暗パターン毎の葉面積の増加率を示す図である。
図5】実施例3の光照射開始からの時間経過に伴うNADP+量とNADPH量とのそれぞれの推移を示す図である。
図6】実施例4の光照射終了からの時間経過に伴うNADP+量とNADPH量とのそれぞれの推移を示す図である。
図7】実施例5の照射する光の強度別のNADP+及びNADPHの総量を示す図である。
図8】実施例6の光照射の時間長さ別のNADP+及びNADPHの総量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0021】
以下に、本発明に係る植物成長抑制方法及び植物成長抑制用照明装置の実施形態の一例を示す。
【0022】
本実施形態の植物成長抑制方法は、植物にNADP+を合成させるための明期処理と、NADP+を分解させるための暗期処理とが行われるようにしている。
【0023】
本実施形態の植物成長抑制方法は、特に、0.5分以上30分以下の明期処理と、20分以上120分以下の暗期処理とが行われるようにしている。
【0024】
また、本実施形態の植物成長抑制用照明装置(単に「照明装置」とも表記する)は、植物にNADP+を合成させるために植物に対して光を照射する照明状態と、NADP+を分解させるために植物に対して光を照射しない休止状態とに制御されるようにしている。
【0025】
本実施形態の植物成長抑制用照明装置は、特に、植物に対して光を照射する0.5分以上30分以下の照明状態と、植物に対して光を照射しない20分以上120分以下の休止状態とに制御されるようにしている。
【0026】
照明装置は、植物に対して照射するための光を出射する(言い換えると、放射する,発光する)光出射部と、当該光出射部を制御する制御部とを備える。
【0027】
照明装置は、植物の上方に配置されることが考えられる。ただし、照明装置は、成長管理・制御の対象の植物に対して光を照射し得る位置に配置されれば良く、植物の側方に配置されるようにしても良く、或いは、植物の上方及び側方に配置されるようにしても良い。
【0028】
照明装置の光出射部は、光を放射する光源を含み、単色光若しくは混色光を放射/発光する仕組みとして構成される。
【0029】
照明装置の光出射部は、光を放射/発光する仕組みの纏まりとして、一基が備えられるようにしても良く、或いは、複数基が備えられるようにしても良い。また、各光出射部は、一個の光源を有するものとして構成されるようにしても良く、或いは、複数個の光源を有するものとして構成されるようにしても良い。
【0030】
照明装置の光出射部は、具体的には例えば、(光源としての)発光ダイオードやレーザーダイオードなどの半導体発光素子,蛍光灯・蛍光ランプ,またはメタルハライドランプを一個若しくは複数個有するものとして構成され得る。照明装置の光出射部は、複数種類の光源から成るものとして構成されるようにしても良い。
【0031】
照明装置の制御部は、光出射部の制御を行うものであり、所定の周期に従って光を出射する処理と光の出射を休止する処理とが行われるように光出射部を制御する。
【0032】
照明装置に関し、光を出射する処理を行っている状態(即ち、光を照射している状態)を「照明状態」と呼び、光の出射を休止する処理を行っている状態(即ち、光を照射していない状態)を「休止状態」と呼ぶ。つまり、照明装置は、制御部により、照明状態になったり休止状態になったりするように制御される。
【0033】
照明装置が光を照射していない間は、植物に対し、照明装置から照射される光は勿論、照明装置から照射される光以外の光も含めて何らの光も照射されていない状態(つまり、遮光状態)が確保されて維持される。例えば、植物に対し、照明装置から人工光が照射されないだけでなく、他の人工光や天然光が照射されないようにする。
【0034】
植物に関し、何らかの光が照射されている状態を「明期状態」と呼び、何らの光も照射されていない状態を「暗期状態」と呼ぶ。
【0035】
植物を明期状態におくことを「明期処理」と呼び、植物を暗期状態におくことを「暗期処理」と呼ぶ。
【0036】
本発明における暗期状態は、植物へと至り得る光が、成長管理・制御の対象の植物がNADP+の合成を行わない若しくは殆ど行わない程度に遮られている状態をいう。したがって、本発明における暗期状態は、植物へと至り得るあらゆる光が遮られて植物が完全な暗闇におかれる状態(言い換えると、植物にとって完全な遮光状態)だけでなく、植物がNADP+の合成を行わない若しくは殆ど行わない程度の光が照射される環境下に植物がおかれる状態を含む。
【0037】
照明装置の制御部は、当該制御部に保持されている所定の制御指令に従い、光出射部に対して光を出射する指令を出力する処理を実行したり光の出射を休止する指令を出力する処理を実行したりする。
【0038】
照明装置の制御部は、例えば、CPU(中央演算処理装置)と不揮発性の記憶装置との組み合わせによって構成されるようにしても良く、或いは、電源装置と当該電源装置の入/切を制御するデジタルタイマとの組み合わせによって構成されるようにしても良い。
【0039】
照明装置の光出射部から出射される光の波長は、特定のピーク波長や波長域には限定されない。光出射部から、例えば、白色光が出射されるようにしても良く、或いは、赤色光(具体的には、ピーク波長が大凡600~700 nm の範囲である光)や青色光(具体的には、ピーク波長が大凡400~500 nm の範囲である光)が出射されるようにしても良く、複数のピーク波長を有する混色光が出射されるようにしても良い。
【0040】
照明装置の光出射部から出射される光の強度(別言すると、光量)は、特定の程度には限定されない。明期処理の際の光の強度は、具体的には例えば、あくまで例として挙げると、光合成光量子束密度で5~1000 μmolm-2-1 程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0041】
照明装置の光出射部から出射される光の波長や強度は、明期処理の間中一定に保たれるようにしても良く、或いは、明期処理の途中で変化するようにしても良い。
【0042】
本実施形態では照明装置が光を照射する照明状態と照明装置が光の照射を休止する休止状態との間での切り替えが行われることにより、植物に対して光が照射される明期状態になる明期処理と植物に対して光が照射されない暗期状態になる暗期処理とが交互に連続して行われ、即ち明暗周期がある態様で光の照射が行われる。
【0043】
例えば、成長管理・制御の対象の植物が植物生育チャンバやコンテナなどに収容されて外部の光が遮断され得る環境下で照明装置の点灯・消灯操作(言い換えると、照明状態と休止状態との切り替え操作)が行われることにより、照明装置が点灯されて当該照明装置による光が照射されて明期処理が行われ、照明装置が消灯され且つ外部の光が遮断されて暗期処理が行われる。
【0044】
あるいは、野外に生育する植物や屋外に置かれている植物に対しては、夜間において照明装置の点灯・消灯操作(言い換えると、照明状態と休止状態との切り替え操作)が行われることにより、照明装置が点灯されて当該照明装置による光が照射されて明期処理が行われ、照明装置が消灯され且つ天然の光が十分に抑えられた自然環境状態で暗期処理が行われる。
【0045】
照明装置の態様は、特定の形態・形式に限定されるものではなく、管理・制御の対象の植物の生育地帯やその周辺の状況が考慮されるなどした上で、適当な形態・形式が適宜選択される。照明装置の態様としては、例えば据付け型,固定型,または移動型など種々の形態・形式が挙げられる。
【0046】
照明装置は、具体的には例えば、植物が収容される設備(例えば、植物生育チャンバやコンテナ)に備え付けられる態様(据付け型)でも良く、或いは、植物が生育している地帯内や前記地帯に隣接する場所に設置される態様(固定型)でも良く、更に或いは、小型無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle の略;「ドローン」とも呼ばれる)のように飛行する態様(移動型)でも良い。
【0047】
明期処理は短時間の光照射で十分であるため、照明装置として小型無人航空機を利用することも可能であり、この場合、本発明は、対象地帯の状況や広さに対して柔軟に対応することができ、また、遠隔からの自動作業として実施することもできる仕組みとして実現され得る。
【0048】
また、太陽電池を備えるものとして照明装置を構成して屋外に設置し、昼間に蓄電して夜間に照明を行うようにしても良い。この場合、本発明は、照明装置を自立型にして普段の手間を大幅に低減することができる仕組みとして実現され得る。
【0049】
本発明における明期処理は、植物に対して光が照射されることによって植物においてNADP+が合成される過程である。したがって、明期処理は、植物におけるNADP+の合成に必要な時間は少なくとも行われる。このため、明期処理の時間長さは、管理・制御の対象の植物の類別・種類に応じてNADP+が合成され得る時間長さが考慮されるなどした上で、適当な時間長さに適宜設定される。
【0050】
明期処理の一回当たりの時間長さは、具体的には例えば、あくまで一般例として挙げると、0.5~30分程度の範囲のうちのいずれかの値に設定され、0.5~20分程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが好ましく、0.5~15分程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが一層好ましく、0.5~10分程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが更に一層好ましく、0.5~4分程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが特に好ましい。
【0051】
明期処理の一回当たりの時間長さは0.5~2分程度でも十分であり、特に光照射に使用するエネルギーを節約する(延いては、光照射にかかるコストを低減させる)という観点から好ましい。
【0052】
一方、本発明における暗期処理は、植物に対して照射される光が十分に抑えられることにより、明期処理において合成されたNADP+が分解される過程である。したがって、暗期処理は、植物におけるNADP+の分解に必要な時間は少なくとも行われる。このため、暗期処理の時間長さは、管理・制御の対象の植物の類別・種類に応じてNADP+が分解され得る時間長さが考慮されるなどした上で、適当な時間長さに適宜設定される。
【0053】
暗期処理の一回当たりの時間長さは、具体的には例えば、あくまで一般例として挙げると、凡そ20分以上に設定され、凡そ30分以上に設定されることが好ましい。
【0054】
例えば、植物生育チャンバやコンテナなどの外部の光が遮断され得る設備に収容されている植物に対しては、前記設備が閉じられて遮光状態が実現されることによって暗期処理が行われる。
【0055】
あるいは、野外に生育する植物や屋外に置かれている植物については、夜間において明期処理が行われていない状態(即ち、植物に対して光が照射されていない状態)が暗期処理に該当する。なお、必要に応じ、明期処理の終了から日の出までの時間長さとして20乃至30分以上確保され得る時機に明期処理が開始されることが考慮される。
【0056】
先に明期処理が行われて続けて暗期処理が行われる手順を一セットとして明暗サイクル処理が行われる。すなわち、明暗サイクル処理として、明期処理と暗期処理とがこの順で連続して行われる。
【0057】
明期処理と暗期処理とは、連続して一回ずつ行われる(即ち、明暗サイクル処理が一回だけ行われる)ようにしても良く、或いは、交互に連続して複数回繰り返して行われる(即ち、明暗サイクル処理が複数回繰り返して行われる)ようにしても良い。
【0058】
なお、明暗サイクル処理が複数回繰り返し行われる場合、各明暗サイクル処理の明期処理において照明装置の光出射部から出射される光の波長や強度(別言すると、光量)は、全ての明暗サイクル処理で同じであるようにしても良く、或いは、明暗サイクル処理毎に異なるようにしても良い。
【0059】
また、明暗サイクル処理が複数回繰り返し行われる場合、各明暗サイクル処理における明期処理の時間長さや暗期処理の時間長さは、全ての明暗サイクル処理で同じであるようにしても良く、或いは、明暗サイクル処理毎に上述した時間長さの範囲内で異なるようにしても良い。
【0060】
明暗サイクル処理が複数回繰り返し行われる場合の時間長さは、特定の時間長さに限定されるものではなく、成長管理・制御の対象の植物について必要とされる成長/生長の抑制の程度や実施可能性などに応じて一日24時間のうちの適当な時間長さに適宜設定される。
【0061】
明暗サイクル処理の実施可能性としては、例えば、野外に生育する植物や屋外に置かれている植物が成長管理・制御の対象である場合に明期処理と暗期処理とを交互に連続して繰り返すことが可能な時間帯は、特別の設備を伴わない場合には、夜間(即ち、日の入りから日の出まで)に限定されることなどが挙げられる。この場合はつまり、明暗サイクル処理が行われる時間長さは、(日本国内の場合は)凡そ10時間程度(具体的には、夏場)から14時間程度(具体的には、冬場)の範囲になる。なお、夜間において明暗サイクル処理が一回だけ行われる場合には、暗期処理の時間長さは、最大で凡そ10~14時間程度になる。
【0062】
また、植物生育チャンバやコンテナなどの外部の光が遮断され得る設備に収容されている植物に対して本発明が適用される場合で、例えば当該植物を必要以上に弱体化させないことが必要とされる場合は、一日のうち夜間は明期処理と暗期処理とが行われ、昼間は植物に対して天然の光が当てられるようにしても良い。このような場合は具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、一日24時間のうち6~16時間程度は植物に対して天然の光が当てられるようにしても良い。つまり、明暗サイクル処理が行われる時間長さは、8~18時間程度になる。
【0063】
明暗サイクル処理は、種子が発芽したり苗が植えられたりした直後以降において、任意のタイミングで開始されて任意のタイミングで終了する処理として、別言すると、任意の期間の処理として実施され得る。なお、成長管理・制御の対象の植物の成長段階に関係なく、即ち成長の初期段階であるのか或いは成長が既に進んでいるのかには関係なく、本発明は適用され得る。
【0064】
明暗サイクル処理が複数回繰り返し行われる場合の期間長は、特定の日数に限定されるものではなく、成長管理・制御の対象の植物について成長/生長の抑制が必要とされる期間などに応じて適当な日数に適宜設定される。
【0065】
本発明に係る植物成長抑制方法や植物成長抑制用照明装置が対象とする栽培植物(言い換えると、本発明の適用対象になり得る栽培植物)は、特定の類や種類の植物には限定されない。例えば花を咲かせる植物であるか否かや、果実をつくる植物であるか否かや、葉菜か草花か樹木かに関係なく、本発明の適用対象になり得る。
【0066】
また、本発明に係る植物成長抑制方法や植物成長抑制用照明装置が対象とする植物の栽培形態(言い換えると、本発明の適用対象になり得る植物栽培形態)は、特定の種類の栽培態様に限定されるものではなく、例えば水耕栽培,土耕栽培,養液栽培,及び培地栽培などのうちの何れでも構わない。
【0067】
以上のように構成された植物成長抑制方法や植物成長抑制用照明装置によれば、光照射の制御によって植物の成長/生長を抑制するようにしているので、化学物質を使うことなく植物の成長/生長を抑制することができる。このため、植物の成長/生長を抑制する仕法としての有用性や汎用性の向上を図ることが可能になる。また、比較的短時間の光照射によって植物の成長/生長を抑制し得るので、低廉なコストで植物の成長/生長の管理・制御を行うことができる。このため、植物の成長/生長を抑制する仕法としての有用性や汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0068】
なお、上述の実施形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。
【0069】
例えば、上述の実施形態では照明装置の光出射部から光が出射されることによって明期処理が実現されるようにしているが、明期処理の実現の仕法は照明装置が用いられる態様に限定されるものではなく、天然の光(例えば、太陽光)が利用されるようにしても良い。この場合は、例えば、開閉自在の扉やシャッター等を備える開口部を有する植物生育チャンバやコンテナなどに成長管理・制御の対象の植物が収容され、前記扉やシャッター等が開くことによって天然の光が取り入れられて明期処理が実現され、また、前記扉やシャッター等が閉まることによって天然の光が遮断されて暗期処理が実現される(尚この場合、成長管理・制御の対象の植物を必要以上に弱体化させないことが必要とされる場合は、一日のうち夜間に明期処理と暗期処理とが行われ、昼間に前記扉やシャッター等が開けられて天然の光が取り入れられて植物に対して天然の光が当てられるようにしても良い)。すなわち、本発明に係る植物成長抑制方法は、照明器具が用いられることなく、言い換えると人工光ではなく、天然の光(太陽光)が利用されることによっても実施され得る。
【実施例1】
【0070】
本発明に係る植物成長抑制方法及び植物成長抑制用照明装置に関し、植物の成長/生長の抑制効果を検証した実施例を図1乃至図3を用いて説明する。
【0071】
本実施例では、湿らせた培養土にシロイヌナズナ種子が播種されて育苗が行われ、播種後7日目に苗が採取されて栽培実験に供された。
【0072】
明期処理の時間長さと暗期処理の時間長さとの組み合わせに関して三種類の明暗サイクルのパターンが設定された。三種類の明暗サイクルのパターンはそれぞれ明暗パターン〈A〉,〈B〉,及び〈C〉とされた。
【0073】
三種類の明暗パターン〈A〉乃至〈C〉それぞれの内容は下記の通りに設定された。なお、下記における「昼間」は日の出から日の入りまでの凡そ14時間のことであり、「夜間」は日の入りから日の出までの凡そ10時間のことである。
【0074】
明暗パターン〈A〉
昼間は自然環境に対応する状態として光が照射され、夜間は光が照射される明期処理1分間と光照射が休止される暗期処理20分間とが交互に連続して行われる明暗サイクル処理が複数回(具体的には、30回)繰り返し実施される。
【0075】
明暗パターン〈B〉
昼間は自然環境に対応する状態として光が照射され、夜間は光が照射される明期処理1分間と光照射が休止される暗期処理59分間とが交互に連続して行われる明暗サイクル処理が複数回(具体的には、10回)繰り返し実施される。
【0076】
明暗パターン〈C〉
昼間は自然環境に対応する状態として光が照射され、夜間は光が照射される明期処理10分間と光照射が休止される暗期処理50分間とが交互に連続して行われる明暗サイクル処理が複数回(具体的には、10回)繰り返し実施される。
【0077】
また、本発明に係る植物成長抑制方法による植物の成長/生長の抑制効果を傍証するための〈比較例〉として、昼間は自然環境に対応する状態として光が照射され、夜間は明暗サイクル処理が施されない(即ち、夜間の間中ずっと暗期状態が維持される)実験群が設定された。
【0078】
明暗パターン〈A〉乃至〈C〉並びに〈比較例〉のそれぞれについて六サンプル(六苗)から成る実験群が構成され、全ての実験群が同時に生育箱内に収容されて栽培試験に供された。
【0079】
本実施例で用いられた生育箱は、外部の光を遮断し得る構造を備えるものであり、実験の間は内部温度が23 ℃ に保たれた。
【0080】
明暗パターン〈A〉乃至〈C〉の実験群を構成する植物に対して生育箱内で照射された光は白色光であり、光の強度(別言すると、光量)は光合成光量子束密度で昼間の時間帯に照射される光は約100 μmolm-2-1 に設定されると共に夜間の明期処理で照射される光は約100 μmolm-2s-1 に設定された。
【0081】
<実験結果>
上述の条件や仕様に従って栽培実験が行われ、実験7日目における、〈比較例〉並びに明暗パターン〈A〉乃至〈C〉毎の成長/生長の態様の状態について図1に示す結果が得られた。なお、見た目の大きさの対比が可能であるように、全ての実験群が同一の条件で撮影されている。
【0082】
図1に示す結果から、本発明に係る明暗サイクル処理が施された明暗パターン〈A〉乃至〈C〉の方がいずれも、明暗サイクル処理が施されていない〈比較例〉よりも、茎や葉の伸び広がりの様が小ぶりであり、本発明に係る明暗サイクル処理が施されることによって植物の成長/生長が抑制されることが確認された。
【0083】
また、〈比較例〉並びに明暗パターン〈A〉乃至〈C〉毎の成長/生長の体相の状態に関し、実験3日目から7日目までの葉面積(単位:cm2)の日毎の推移について図2に示す結果が得られた。図2に示されている葉面積の計測値は、一苗毎の葉面積の合計の、各実験群を構成する六サンプルの平均値である。
【0084】
図2に示す結果から、本発明に係る明暗サイクル処理が施された明暗パターン〈A〉乃至〈C〉の方がいずれも、明暗サイクル処理が施されていない〈比較例〉よりも、葉面積の値が小さく、本発明に係る明暗サイクル処理が施されることによって植物の成長/生長が抑制されることが確認された。具体的には、〈比較例〉と比べて明暗パターン〈A〉乃至〈C〉の方がいずれも日にちの経過に伴う葉面積の増加の程度が緩やかであり、本発明に係る明暗サイクル処理が施されることによって継続的に植物の成長/生長の具合が大幅に鈍化することが確認された。
【0085】
また、〈比較例〉並びに明暗パターン〈A〉乃至〈C〉毎の成長/生長の体相の状態に関し、実験7日目における個体生物量(具体的には、新鮮重)(単位:mgFW)について図3に示す結果が得られた。図3に示されている個体生物量の計測値は、一苗毎の生物量の、各実験群を構成する六サンプルの平均値である。
【0086】
図3に示す結果から、本発明に係る明暗サイクル処理が施された明暗パターン〈A〉乃至〈C〉の方がいずれも、自然環境下に置かれて明暗サイクル処理が施されていない〈比較例〉よりも、個体生物量の値が小さく、本発明に係る明暗サイクル処理が施されることによって植物の成長/生長が抑制されることが確認された。
【0087】
また、図1図2に示す結果から、本発明が適用された場合、植物はその成長/生長が抑制されるだけであり、異常形態が生じたり枯れたりはしないことが確認された。
【0088】
本実施例の結果から、1~10分程度の光照射と20~59分程度の遮光とが交互に連続して行われる明暗サイクル処理は、当該明暗サイクル処理が施されない場合と比べ、植物の成長/生長を半分から3分の1程度(個体生物量ベース,7日間)にまで大幅に抑制することが示された。本実施例に示す結果から、本発明に係る植物成長抑制方法及び当該方法を実施する際に用いられる本発明に係る植物成長抑制用照明装置は、植物の成長/生長の抑制に有効であることが確認された。
【実施例2】
【0089】
本発明に係る植物成長抑制方法及び植物成長抑制用照明装置に関し、植物の成長/生長の抑制効果を検証した他の実施例を図4を用いて説明する。
【0090】
本実施例では、湿らせた培養土にシロイヌナズナ種子が播種されて育苗が行われ、播種後7日目に苗が採取されて栽培実験に供された。
【0091】
明期処理の時間長さと暗期処理の時間長さとの組み合わせに関して二種類の明暗サイクルのパターンが設定された。二種類の明暗サイクルのパターンはそれぞれ明暗パターン〈D〉及び〈E〉とされた。
【0092】
二種類の明暗パターン〈D〉及び〈E〉それぞれの内容は下記の通りに設定された。なお、下記における「昼間」は日の出から日の入りまでの凡そ14時間のことであり、「夜間」は日の入りから日の出までの凡そ10時間のことである。
【0093】
明暗パターン〈D〉
昼間は自然環境に対応する状態として光が照射され、夜間は光が照射される明期処理1分間と光照射が休止される暗期処理59分間とが交互に連続して行われる明暗サイクル処理が複数回(具体的には、10回)繰り返し実施される。
【0094】
明暗パターン〈E〉
昼間は自然環境に対応する状態として光が照射され、夜間は光が照射される明期処理1分間と光照射が休止される暗期処理119分間とが交互に連続して行われる明暗サイクル処理が複数回(具体的には、5回)繰り返し実施される。
【0095】
また、本発明に係る植物成長抑制方法による植物の成長/生長の抑制効果を傍証するための〈比較例〉として、昼間は自然環境に対応する状態として光が照射され、夜間は明暗サイクル処理が施されない(即ち、夜間の間中ずっと暗期状態が維持される)実験群が設定された。
【0096】
明暗パターン〈D〉及び〈E〉並びに〈比較例〉のそれぞれについて六サンプル(六苗)から成る実験群が構成され、全ての実験群が同時に生育箱内に収容されて栽培試験に供された。
【0097】
本実施例で用いられた生育箱は、外部の光を遮断し得る構造を備えるものであり、実験の間は内部温度が23 ℃ に保たれた。
【0098】
明暗パターン〈D〉及び〈E〉の実験群を構成する植物に対して生育箱内で照射された光は白色光であり、光の強度(別言すると、光量)は光合成光量子束密度で昼間の時間帯に照射される光は約100 μmolm-2-1 に設定されると共に夜間の明期処理で照射される光は約100 μmolm-2s-1 に設定された。
【0099】
<実験結果>
上述の条件や仕様に従って栽培実験が行われ、〈比較例〉並びに明暗パターン〈D〉及び〈E〉毎の成長/生長の体相の状態に関し、実験7日目における葉面積(単位:cm2)の実験当初からの増加率(単位:%)について図4に示す結果が得られた。図4に示されている増加率の基になっている葉面積の計測値は、一苗毎の葉面積の合計の、各実験群を構成する六サンプルの平均値である。
【0100】
図4に示す結果から、本発明に係る明暗サイクル処理が施された明暗パターン〈D〉及び〈E〉の方がどちらも、明暗サイクル処理が施されていない〈比較例〉よりも、葉面積の増加率が小さく、本発明に係る明暗サイクル処理が施されることによって植物の成長/生長が抑制されることが確認された。
【0101】
なお、本発明が適用された場合、植物はその成長/生長が抑制されるだけであり、異常形態が生じたり枯れたりはしないことが外観の状態として確認された。
【0102】
本実施例の結果から、1分程度の光照射と59~119分程度の遮光とが交互に連続して行われる明暗サイクル処理は、当該明暗サイクル処理が施されない場合と比べ、植物の成長/生長を半分から4分の1程度(葉面積の増加率ベース,7日間)にまで大幅に抑制することが示された。本実施例に示す結果から、本発明に係る植物成長抑制方法及び当該方法を実施する際に用いられる本発明に係る植物成長抑制用照明装置は、植物の成長/生長の抑制に有効であることが確認された。
【実施例3】
【0103】
本発明に係る植物成長抑制方法及び植物成長抑制用照明装置に関し、植物の成長/生長を抑制するメカニズムを検討すると共に本発明に必要とされる条件を検討した実施例を図5を用いて説明する。
【0104】
本発明において植物の成長/生長を抑制する機序は、光照射と遮光とを組み合わせることで植物の光合成のメカニズムに対して影響を与えることによって顕著な植物の成長/生長の抑制効果を生み出しているものであると考えられる。
【0105】
植物の光合成では、生体の酸化還元反応に関与する補酵素であるNADP+及びNADPHが電子伝達物質としての役割を果たす。
【0106】
具体的には、空気中の二酸化炭素を取り込んで有機物に変える(即ち、植物の成長/生長に寄与する)炭酸固定反応は葉緑体の中のストロマという部分で起こり、カルビン回路(又は、カルビン・ベンソン回路)と呼ばれる。カルビン回路の中ではNADPHが還元剤としての役割を果たしており、光エネルギーを使う光化学反応が、カルビン回路にNADPHを供給する役目を果たしている。
【0107】
NADPHは、水が酸化されて酸素が生成される際に放出される電子がNADP+に渡されて生成される(即ち、NADP+は電子受容体として働く)。また、NADP+は、光が当たってから、即ち光合成の初期段階で合成され、光が照射されないで光合成が行われないために電子を受け取れない場合は、一定時間が経過すると分解する。
【0108】
上述のことも踏まえ、本発明において植物の成長/生長を抑制する機序は、光を照射してNADP+を合成させると共にNADPHを生成させて植物にエネルギーを使わせると共に、NADPHが植物の成長/生長に使われる前に光の照射を止めることにより、NADP+の合成及びNADPHの生成(言い換えると、光合成の準備)をさせてエネルギーを浪費させ、且つ、NADPHを成長/生長に使わせず、結果として植物の成長/生長を抑制するという仕組みであると考えられた。
【0109】
上記の見立ても踏まえ、本実施例では、NADP+及びNADPHの合成・生成実態を検証するため、植物に対して光を照射する時間長さとNADP+及びNADPHの総量との間の関係が調べられた。
【0110】
本実施例では、湿らせた培養土にシロイヌナズナ種子が播種されて育苗が行われ、播種後7日目に苗が採取されて栽培実験に供された。
【0111】
本実施例では、植物に対し、光合成光量子束密度が100 μmolm-2-1 に設定された白色光が照射された。
【0112】
<実験結果>
実験体について、実験開始時(別言すると、光照射の開始直前:0分)並びに光照射の開始から0.5分,1分,2分,及び4分経過時点のそれぞれにおける葉中のNADP+量(図中の記号●)とNADPH量(図中の記号○)とがそれぞれ計測され、図5に示す結果が得られた。
【0113】
図5に示す結果から、少なくとも0.5分程度光を照射することにより、植物においてNADPHの量が増加し始めることが確認された。
【0114】
図5に示す結果から、また、光照射の開始から少なくとも4分程度の間は、NADPHは増加し続け、NADP+は変化しないことが看てとれた。ここで、植物に光が照射されるとNADP+は数マイクロ~数ミリ秒以内にNADPHへと変換されるため、「NADP+が変化しない(即ち、減少しない)」且つ「NADPHが増加する」という現象は「NADP+が合成されてNADP+及びNADPHの総量が増加した」ということを意味する。すなわち、図5に示す結果から、植物においてNADP+を増加(言い換えると、合成)させるためには植物に対して0.5分以上の光照射が必要であり、言い換えると、0.5分以上の光照射によってNADP+を増加(言い換えると、合成)させることができることが確認された。
【0115】
本実施例の結果から、概ね0.5分以上の光照射により、植物に光合成の準備をさせてエネルギーを消費させ得ることが示された。本実施例に示す結果から、短時間の光照射によって植物に光合成の準備をさせてエネルギーを消費させて植物の成長/生長を抑制するという本発明に係る機序の的確性が確認された。
【実施例4】
【0116】
本発明に係る植物成長抑制方法及び植物成長抑制用照明装置に関し、植物の成長/生長を抑制するメカニズムを検討すると共に本発明に必要とされる条件を検討した他の実施例を図6を用いて説明する。
【0117】
上記の実施例3で述べた見立ても踏まえ、本実施例では、NADP+及びNADPHの分解実態を検証するため、植物に対する光の照射が終了してからの時間長さとNADP+及びNADPHの総量との間の関係が調べられた。
【0118】
本実施例では、湿らせた培養土にシロイヌナズナ種子が播種されて育苗が行われ、播種後7日目に苗が採取されて栽培実験に供された。
【0119】
本実施例では、まず、植物に対し、光合成光量子束密度が100 μmolm-2-1 に設定された白色光が30分間照射された。その後、光照射が中止されると共に遮光され、植物は暗期状態に維持された。
【0120】
<実験結果>
実験体について、光照射の終了時(別言すると、消灯直前:0分)並びに光照射の終了から1分,15分,30分,及び60分経過時点のそれぞれにおける葉中のNADP(図中の記号●)及びNADPH(図中の記号○)が計測され、図6に示す結果が得られた。
【0121】
図6に示す結果から、少なくとも20分程度光を遮断することにより、植物においてNADP+の量が減少し始めることが確認された。
【0122】
図6に示す結果から、また、上述の実施例3の図5に示す結果と比較することにより、遮光によるNADP+量やNADPH量の減少の程度は光照射によるNADP+量やNADPH量の増加の程度と比べて緩やかであることが看てとれた。ここで、植物に光が照射されないとNADPHは数マイクロ~数ミリ秒以内にNADP+へと変換されるため、光照射の終了から1分後の計測でNADPHはほぼ基底レベルになっている。一方、NADP+は、光照射の終了から15分後の計測でも殆ど減少していないが、30分後の計測では減少し始め、60~120分程度で基底レベルになることが確認された。これらのことから、NADP+を減少(言い換えると、分解)させるためには20分程度以上の遮光が必要であると考えられた。
【0123】
本実施例の結果から、概ね20分以上の遮光により、植物において一旦合成・生成されたNADP+やNADPHを分解させ得ることが示された。本実施例に示す結果から、短時間の光照射によって植物に光合成の準備をさせてエネルギーを消費させ且つその後に遮光することによって光合成の準備を消散させて結果的にエネルギーを浪費させて植物の成長/生長を抑制するという本発明に係る機序の的確性が確認された。
【実施例5】
【0124】
本発明に係る植物成長抑制方法及び植物成長抑制用照明装置に関し、本発明に必要とされる条件を検討した実施例を図7を用いて説明する。
【0125】
本実施例では、NADP+及びNADPHの合成・生成実態を検証するため、植物に対して照射する光の強度とNADP+及びNADPHの総量との間の関係が調べられた。
【0126】
本実施例では、湿らせた培養土にシロイヌナズナ種子が播種されて育苗が行われ、播種後7日目に苗が採取されて栽培実験に供された。
【0127】
本実施例では、光合成光量子束密度が10 μmolm-2-1 に設定された白色光が照射される実験体と、光合成光量子束密度が50 μmolm-2-1 に設定された白色光が照射される実験体とが準備された。
【0128】
<実験結果>
各実験体について、実験開始時(別言すると、光照射の開始直前)並びに光照射の開始から5分,10分,及び30分経過時点のそれぞれにおける葉の新鮮重量(単位:g)当たりのNADP+及びNADPHの総量(単位:n mol)が計測され、図7に示す結果が得られた。
【0129】
図7に示す結果から、光合成光量子束密度が少なくとも10 μmolm-2-1 程度の光を照射することにより、植物においてNADP+及びNADPHの総量が増加し始めることが確認された。
【0130】
図7に示す結果から、また、光照射の開始から5分程度まではNADP+及びNADPHの総量が急激に増加することが確認された。また、光合成光量子束密度が10 μmolm-2-1 程度の弱い光が照射される場合には、光が照射され始めてから少なくとも30分程度はNADP+及びNADPHの総量が増加し続けることが確認された。
【0131】
本実施例の結果から、光合成光量子束密度が10 μmolm-2-1 程度の微弱な光の照射でも、NADP+の合成やNADPHの生成が誘導されることが示された。本実施例に示す結果から、本発明に係る植物成長抑制方法及び植物成長抑制用照明装置では、明期処理は光合成光量子束密度が10 μmolm-2-1 程度の光の照射であっても植物の成長/生長の抑制効果が発揮され得ることが確認された。
【実施例6】
【0132】
本発明に係る植物成長抑制方法及び植物成長抑制用照明装置に関し、本発明に必要とされる条件を検討した更に他の実施例を図8を用いて説明する。
【0133】
本実施例では、NADP+及びNADPHの合成・生成実態を検証するため、植物に対して光を照射する時間長さとNADP+及びNADPHの総量との間の関係が調べられた。
【0134】
本実施例では、湿らせた培養土にシロイヌナズナ種子が播種されて育苗が行われ、播種後7日目に苗が採取されて栽培実験に供された。
【0135】
本実施例では、光照射の時間長さが0分(即ち、常に暗期状態),0.5分間,1分間,2分間,及び4分間に設定された実験体のそれぞれが準備された。
【0136】
本実施例では、植物に対し、光合成光量子束密度が10 μmolm-2-1 に設定された白色光が照射された。
【0137】
<実験結果>
各実験体について、実験開始時(別言すると、光照射の開始直前:0分)並びに実験開始から10分経過時点における葉の新鮮重量(単位:g)当たりのNADP+及びNADPHの総量(単位:n mol)が計測され、図8に示す結果が得られた。なお、実験開始から10分経過時点とは、具体的には例えば0.5分の光照射が行われる実験体については、実験開始と同時に光照射が開始されると共に実験開始から0.5分後に光照射が終了し、光照射終了から9.5分後のことである。
【0138】
図8に示す結果から、少なくとも0.5分程度光を照射することにより、植物においてNADP+及びNADPHの総量が増加し始めることが確認された。
【0139】
本実施例の結果から、0.5分程度の短時間の光照射でも、NADP+の合成やNADPHの生成が誘導されることが確認された。本実施例に示す結果から、本発明に係る植物成長抑制方法及び植物成長抑制用照明装置では、明期処理は0.5分程度であっても植物の成長/生長の抑制効果が発揮され得ることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明に係る植物成長抑制方法や植物成長抑制用照明装置は、植物の成長/生長の抑制を通じて植物の成長管理・制御を良好に行うことができるので、例えば、野草の維持・管理や草木の栽培(具体的には例えば、花卉の開花時期や出荷時期の調整)などの分野で利用価値が高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8