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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20230316BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230316BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20230316BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230316BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20230316BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
B01J23/63 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01J35/04 301L
B01J37/02 301L
F01N3/10 A
F01N3/28 301A
F01N3/28 301D
F01N3/28 301E
F01N3/28 301G
F01N3/28 301Q
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018128204
(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公開番号】P2020006301
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 知弘
(72)【発明者】
【氏名】藪崎 祐司
(72)【発明者】
【氏名】河合 将昭
(72)【発明者】
【氏名】岡田 満克
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-205134(JP,A)
【文献】特開2010-179204(JP,A)
【文献】特開2017-200677(JP,A)
【文献】特開2009-226249(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182726(WO,A1)
【文献】特開2015-085241(JP,A)
【文献】特開2009-226275(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1508407(CN,A)
【文献】特開2005-334801(JP,A)
【文献】特表2005-530614(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0087541(US,A1)
【文献】特開2017-039069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/73 - 53/96
F01N 3/00
F01N 3/02
F01N 3/04 - 3/38
F01N 9/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス流れの上流側から下流側へと延在する触媒コート層を有する排ガス浄化触媒装置であって、
前記触媒コート層は、排ガス流れの上流側から下流側へ向けて順に存在する3以上のゾーンを有し、
前記3つ以上のゾーンそれぞれは、酸化触媒ゾーン又は還元触媒ゾーンであり、
前記酸化触媒ゾーンの最上層において、Pt及びPdの合計原子数が、Pt、Pd、及びRhの合計原子数の、95atomic%以上であり、
前記還元触媒ゾーンの最上層において、Rhの原子数が、Pt及びPdの合計原子数よりも多く、
前記酸化触媒ゾーンと、前記還元触媒ゾーンとが、排ガス流れ方向で少なくとも2回切り換わり、
前記還元触媒ゾーンは、Rhである貴金属を含有する単層の触媒コート層から成り、かつ
前記酸化触媒ゾーンは、Rhである貴金属を含有する下層と、前記下層上の、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する上層とを有する2層構成の触媒コート層から成る
排ガス浄化触媒装置。
【請求項2】
排ガス流れの上流側から下流側へと延在する触媒コート層を有する排ガス浄化触媒装置であって、
前記触媒コート層は、排ガス流れの上流側から下流側へ向けて順に存在する3以上のゾーンを有し、
前記3つ以上のゾーンそれぞれは、酸化触媒ゾーン又は還元触媒ゾーンであり、
前記酸化触媒ゾーンの最上層において、Pt及びPdの合計原子数が、Rhの原子数よりも多く、
前記還元触媒ゾーンの最上層において、Rhの原子数が、Pt及びPdの合計原子数よりも多く、
前記酸化触媒ゾーンと、前記還元触媒ゾーンとが、排ガス流れ方向で少なくとも2回切り換わり、
前記酸化触媒ゾーンは、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する単層の触媒コート層から成り、かつ
前記還元触媒ゾーンは、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する下層と、前記下層上の、Rhである貴金属を含有する上層とを有する2層構成の触媒コート層から成る
排ガス浄化触媒装置。
【請求項3】
前記3以上のゾーンのうちの、酸化触媒ゾーンの合計の長さが、前記触媒コート層の全長の15%以上85%以下である、請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項4】
前記3以上のゾーンのうちの、還元触媒ゾーンの合計の長さが、触媒コート層の全長の15%以上85%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項5】
前記酸化触媒ゾーンと前記還元触媒ゾーンとが排ガス流れ方向で切り換わる数が、2回又は3回である、請求項1~のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項6】
前記触媒コート層が基材上に存在している、請求項1~のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項7】
前記触媒コート層が、排ガス流れ方向に直列に配置される2つの基材上に分割されて存在しており、かつ
前記排ガス浄化触媒装置が、前段触媒と後段触媒との組み合わせである、請求項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項8】
前記後段触媒が床下触媒である、請求項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項9】
前記排ガス流れ方向に直列に配置される2つの基材のうちの、
上流側の基材上の触媒コート層が、排ガス流れ方向に、酸化触媒ゾーン及び還元触媒ゾーンをこの順に有し、
下流側の基材上の触媒コート層が、排ガス流れ方向に、還元触媒ゾーン及び酸化触媒ゾーンをこの順に有する、
請求項7又は8に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項10】
前記触媒コート層が、1つの基材上に存在している、請求項7に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項11】
前記触媒コート層の少なくとも一部が基材の少なくとも一部を構成している、請求項1~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関からの排ガス中には、窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等を含む。したがってこれらの排ガスは、CO及びHCを酸化し、かつNOを還元する排ガス浄化触媒によって浄化したうえで、大気中に放出されている。
【0003】
排ガス浄化触媒の代表的なものとしては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の貴金属を、多孔質の金属酸化物担体に担持させた三元触媒が知られている。これら貴金属のうち、Pt及びPdは酸化触媒として機能してCO及びHCの酸化浄化に寄与し、Rhは還元触媒として機能してNOの還元浄化に寄与すると考えられている。
【0004】
このような排ガス浄化触媒では、触媒コート層を、Pdを含む下層、及びRhを含む上層の2層構造として、触媒性能を向上しようとする技術が提案されている(特許文献1)。また、Pdを含む下層を排ガス浄化触媒装置の全長にわたって形成し、Rhを含む上層を排ガス流れの上流側のみに形成する技術が提案されている(特許文献2)。
【0005】
ところで従来、上記のような排ガス浄化触媒装置における触媒コート層は、それ自体は排ガス浄化能を持たない基材、例えばコージェライト製のハニカム基材上に形成されていた。しかし近年、無機酸化物粒子から構成される基材に、貴金属が担持された排ガス浄化触媒が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-6017号公報
【文献】特開平9-85091号公報
【文献】特開2015-85241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、排ガス中のCO及びHCの酸化浄化と、NOの還元浄化とのバランスに優れ、CO、HC、及びNOすべての浄化効率が高い排ガス浄化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のとおりである。
【0009】
《態様1》
排ガス流れの上流側から下流側へと延在する触媒コート層を有する排ガス浄化触媒装置であって、
上記触媒コート層は、排ガス流れの上流側から下流側へ向けて順に存在する3以上のゾーンを有し、
上記3つ以上のゾーンそれぞれは、酸化触媒ゾーン又は還元触媒ゾーンであり、
上記酸化触媒ゾーンの最上層において、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)の合計原子数が、ロジウム(Rh)の原子数よりも多く、
上記還元触媒ゾーンの最上層において、ロジウム(Rh)の原子数が、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)の合計原子数よりも多く、
上記酸化触媒ゾーンと、上記還元触媒ゾーンとが、排ガス流れ方向で少なくとも2回切り換わる、
排ガス浄化触媒装置。
《態様2》
上記還元触媒ゾーンは、Rhである貴金属を含有する触媒コート層から成り、かつ
上記酸化触媒ゾーンは、Rhである貴金属を含有する下層と、上記下層上の、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する上層とを有する2層構成の触媒コート層から成る、
態様1に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様3》
上記酸化触媒ゾーンは、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する触媒コート層から成り、かつ
上記還元触媒ゾーンは、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する下層と、上記下層上の、Rhである貴金属を含有する上層とを有する2層構成の触媒コート層から成る、
態様1に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様4》
上記3以上のゾーンのうちの、酸化触媒ゾーンの合計の長さが、上記触媒コート層の全長の15%以上85%以下である、態様1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様5》
上記3以上のゾーンのうちの、還元触媒ゾーンの合計の長さが、触媒コート層の全長の15%以上85%以下である、態様1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様6》
上記酸化触媒ゾーンと上記還元触媒ゾーンとが排ガス流れ方向で切り換わる数が、2回又は3回である、態様1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様7》
上記触媒コート層が基材上に存在している、態様1~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様8》
上記触媒コート層が、排ガス流れ方向に直列に配置される2つの基材上に分割されて存在しており、かつ
上記排ガス浄化触媒装置が、前段触媒と後段触媒との組み合わせである、態様7に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様9》
上記後段触媒が床下触媒である、態様8に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様10》
上記触媒コート層が、1つの基材上に存在している、態様7に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様11》
上記触媒コート層の少なくとも一部が基材の少なくとも一部を構成している、態様1~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の排ガス浄化触媒装置は、排ガス中のCO及びHCの酸化浄化と、NOの還元浄化とのバランスに優れており、排ガス中のCO、HC、及びNOすべてについて浄化効率が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の排ガス浄化触媒装置の作用を説明するための概念図である。図1(a)は、酸化触媒ゾーン、還元触媒ゾーン、及び酸化触媒ゾーンの順に3ゾーンを有する排ガス浄化触媒装置に関し、図1(b)は、還元触媒ゾーン、酸化触媒ゾーン、及び還元触媒ゾーンの順に3ゾーンを有する排ガス浄化触媒装置に関する。
図2図2は、本発明の排ガス浄化触媒装置における触媒コート層の層構成の例を示す概略断面図である。図2(a)は、還元触媒ゾーンがRhを含有する触媒コート層から成り、酸化触媒ゾーンがRhを含有する下層と、Pt及び/又はPdを含有する上層とを有する2層構成の触媒コート層から成る、第1形態の触媒コート層を示し、図2(b)は、酸化触媒ゾーンがPt及び/又はPdを含有する触媒コート層から成り、酸化触媒ゾーンがPt及び/又はPdを含有する下層と、Rhを含有する上層とを有する2層構成の触媒コート層から成る、第2形態の触媒コート層を示す。
図3図3は、実験例1~3で評価した排ガス浄化触媒装置における触媒コート層の構成を示す概略断面図である。
図4図4は、実験例4~7で評価した排ガス浄化触媒装置における触媒コート層の構成を示す概略断面図である。
図5図5は、実験例8~11で評価した排ガス浄化触媒装置における触媒コート層の構成を示す概略断面図である。
図6図6は、実験例12~15で評価した排ガス浄化触媒装置における触媒コート層の構成を示す概略断面図である。
図7図7は、実験例16~19で評価した排ガス浄化触媒装置における触媒コート層の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《排ガス浄化触媒装置》
本発明の排ガス浄化触媒装置は、
排ガス流れの上流側から下流側へと延在する触媒コート層を有する排ガス浄化触媒装置であって、
前記触媒コート層は、排ガス流れの上流側から下流側へ向けて順に存在する3以上のゾーンを有し、
前記3つ以上のゾーンそれぞれは、酸化触媒ゾーン又は還元触媒ゾーンであり、
前記酸化触媒ゾーンの最上層において、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)の合計原子数が、ロジウム(Rh)の原子数よりも多く、
前記還元触媒ゾーンの最上層において、ロジウム(Rh)の原子数が、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)の合計原子数よりも多く、
前記酸化触媒ゾーンと、前記還元触媒ゾーンとが、排ガス流れ方向で少なくとも2回切り換わることを特徴とする。
【0013】
すなわち、本発明の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層は、排ガス流れの上流側から下流側へ向けて、
酸化触媒ゾーン、還元触媒ゾーン、酸化触媒ゾーンのような順で反応性が切り換わる3以上のゾーンを有するか、又は
還元触媒ゾーン、酸化触媒ゾーン、還元触媒ゾーンのような順で反応性が切り換わる3以上のゾーンを有する。
【0014】
このような構成の排ガス浄化装置は、排ガス中のCO及びHCの酸化浄化、並びにNOの還元浄化の双方を効率よく行うことができる。
【0015】
〈本発明の排ガス浄化触媒装置の構成例、及びその作用機構〉
図1(a)に、本発明の排ガス浄化触媒装置の一例を示す。図1(a)の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層(10)は、排ガス流れの上流側から順に、酸化触媒ゾーン(1)、還元触媒ゾーン(2)、及び酸化触媒ゾーン(3)の順に3ゾーンを有し、したがって、酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが排ガス流れ方向で2回切り換わっている。図1(a)の排ガス浄化触媒装置の上方に、排ガス中のCO、HC、及びNOの排ガス流れ方向の濃度変化の概念図が合わせて示されている。
【0016】
図1(a)の排ガス浄化触媒装置に流入した排ガスは、先ず触媒コート層(10)のうちの上流側の酸化触媒ゾーン(1)と接触し、CO及びHCの酸化浄化、並びにNOのうちのNOの酸化が、下記の反応式:
CO+(1/2)O→CO
炭化水素(HC)+O→HO+CO
NO+(1/2)O→NO
にしたがって優先的に起こり、CO及びHCの濃度が減少するとともに、酸素が消費されて排ガス中の酸素濃度は減少する。なお、酸化触媒ゾーン(1)では、NOの還元浄化が副次的に起こってもよい。
【0017】
次いで排ガスは、中間の還元触媒ゾーン(2)と接触する。このとき、酸化触媒ゾーン(1)における優先的な酸化浄化によって、排ガス中のCO及びHCの濃度は有意に減少しているが、NO濃度は比較的高い濃度を維持している。また、排ガス中の酸素濃度は減少している。したがって、還元触媒ゾーン(2)では、NOのうちのNOの還元浄化が、下記の反応式:
2NO→N+2O
にしたがって速い速度で進んで、NO濃度が急激に減少するとともに、酸素が放出されて排ガス中の酸素濃度は増加する。なお、還元触媒ゾーン(2)では、CO及びHCの酸化浄化が副次的に起こってもよい。
【0018】
更に排ガスは、下流側の酸化触媒ゾーン(3)と接触する。このとき、排ガス中のNO濃度は、還元触媒ゾーン(2)の還元浄化によって大きく減少しているが、CO及びHCの濃度は、上流側の酸化触媒ゾーン(1)通過後の濃度から大きくは減少せずに、ある程度の濃度を維持している。また、排ガス中の酸化濃度は増加している。したがって、下流側の酸化触媒ゾーン(3)では、CO及びHCの酸化浄化が速い速度で進み、これらの濃度は急激に減少する。なお、酸化触媒ゾーン(3)では、NOの還元浄化が副次的に起こり、NO濃度が更に減少されてもよい。
【0019】
図1(a)の排ガス浄化触媒装置は、このような作用機構により、排ガス中のCO及びHCの酸化浄化、並びにNOの還元浄化の双方を、効率よく行うことができると考えられる。
【0020】
図1(b)に、本発明の排ガス浄化触媒装置の別の一例を示す。図1(b)の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層(20)は、排ガス流れの上流側から順に、還元触媒ゾーン(4)、酸化触媒ゾーン(5)、及び還元触媒ゾーン(6)の順に3ゾーンを有し、したがって、酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが排ガス流れ方向で2回切り換わっている。図1(b)の排ガス浄化触媒装置の上方に、排ガス中のCO、HC、及びNOの排ガス流れ方向の濃度変化の概念図が合わせて示されている。
【0021】
図1(b)の排ガス浄化触媒装置に流入した排ガスは、先ず触媒コート層(20)のうちの上流側の還元触媒ゾーン(4)と接触し、NOのうちのNOの還元浄化が優先的に起こり、NO濃度が減少するとともに、酸素が放出されて排ガス中の酸素濃度は増加する。なお、還元触媒ゾーン(4)では、CO及びHCの酸化浄化が副次的に起こってもよい。
【0022】
次いで排ガスは、中間の酸化触媒ゾーン(5)と接触する。このとき、還元触媒ゾーン(4)における優先的な還元浄化によって、排ガス中のNOの濃度は有意に減少しているが、CO及びHCの濃度は比較的高い濃度を維持している。また、排ガス中の酸素濃度は増加している。したがって、酸化触媒ゾーン(5)では、CO及びHCの酸化浄化(並びにNOの酸化)が速い速度で進み、CO及びHCの濃度は急激に減少するとともに、酸素が消費されて排ガス中の酸素濃度は減少する。なお、酸化触媒ゾーン(5)では、NOの還元浄化が副次的に起こってもよい。
【0023】
更に排ガスは、下流側の還元触媒ゾーン(6)と接触する。このとき、排ガス中のCO及びHCの濃度は、酸化触媒ゾーン(5)の酸化浄化によって大きく減少しているが、NO濃度は、上流側の還元触媒ゾーン(4)通過後の濃度から大きくは減少せずに、ある程度の濃度を維持している。また、排ガス中の酸素濃度は減少している。したがって、下流側の還元触媒ゾーン(6)では、NOの還元浄化が速い速度で進み、NOの濃度は急激に減少する。なお、還元触媒ゾーン(6)では、CO及びHCの酸化浄化が副次的に起こり、これらの濃度が更に減少されてもよい。
【0024】
図1(b)の排ガス浄化触媒装置は、このような作用機構により、排ガス中のCO及びHCの酸化浄化、並びにNOの還元浄化の双方を、効率よく行うことができると考えられる。
【0025】
〈酸化触媒ゾーン及び還元触媒ゾーンの切り換わり数〉
本発明の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層において、酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが排ガス流れ方向で切り換わる数は、2回以上であり、例えば2回以上6回以下であってよい。切り返し数が過度に多いと、各ゾーンの長さが相対的に短くなる。そのため、酸化触媒ゾーンでは、酸化浄化反応が不十分となる他、酸素の消費による排ガス中の酸素濃度の減少が不十分となって、次の還元触媒ゾーンにおける還元浄化反応の速度が損なわれる場合がある。同様に、還元触媒ゾーンでは、還元浄化反応が不十分となる他、酸素の放出による排ガス中の酸素濃度の増加が不十分となって、次の酸化触媒ゾーンにおける酸化浄化反応の速度が損なわれる場合がある。このような事態を回避し、本発明の効果を有効に発現させる観点から、触媒コート層における酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとの切り換わり数は、2回以上4回以下が好ましく、2回又は3回がより好ましい。
【0026】
〈酸化触媒ゾーン及び還元触媒ゾーンの長さの割合〉
本発明の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層では、酸化触媒ゾーン及び還元触媒ゾーンのそれぞれが有意の長さを有していることが、CO及びHCの酸化浄化、並びにNOの還元浄化の双方を効果的に行える点で好ましい。この観点から、触媒コート層における酸化触媒ゾーンの合計の長さは、触媒コート層の全長に対して、例えば、10%以上、15%以上、20%以上、30%以上、40%以上、又は45%以上であってよく、90%以下、85%以下、80%以下、70%以下、60%以下、又は55%以下であってよい。同様に、還元触媒ゾーンの合計の長さは、触媒コート層の全長に対して、例えば、10%以上、15%以上、20%以上、30%以上、40%以上、又は45%以上であってよく、90%以下、85%以下、80%以下、70%以下、60%以下、又は55%以下であってよい。
【0027】
触媒コート層における酸化触媒ゾーンの合計の長さは、典型的には、触媒コート層の全長に対して、15%以上85%以下であってよい。還元触媒ゾーンの合計の長さは、典型的には、触媒コート層の全長に対して、15%以上85%以下であってよい。
【0028】
本発明の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層は、酸化触媒ゾーン及び還元触媒ゾーンのみから構成されていてもよいし、これら以外のゾーンを有していてよい。酸化触媒ゾーン及び還元触媒ゾーン以外のゾーンとしては、例えば、酸化触媒及び還元触媒双方の触媒活性を同程度に示すゾーン、酸化還元反応以外の反応の触媒活性を示すゾーン、何らの触媒活性も有さないゾーン等を挙げることができる。本発明の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層における酸化触媒ゾーン及び還元触媒ゾーン以外のゾーンの長さは、触媒コート層の全長に対して、10%以下、5%以下、又は3%以下であってよい。
【0029】
〈酸化触媒ゾーン及び還元触媒ゾーンの構成〉
本発明の排ガス浄化触媒装置の各ゾーンは、単層であっても多層であってもよい。単層である場合にはこの層が酸化触媒ゾーン又は還元触媒ゾーンを構成し、多層である場合にはその最上層が酸化触媒ゾーン又は還元触媒ゾーンを構成してよい。
【0030】
本発明の排ガス浄化触媒装置において、酸化触媒ゾーンでは、その最上層において、Pt及びPdの合計原子数がRhの原子数よりも多い。Pt及びPdは酸化触媒活性を示し、Rhは還元触媒活性を示すと考えられている。そのため、最上層における酸化触媒活性を示す原子の数が、最上層における還元触媒活性を示す原子の数よりも多いことにより、そのゾーンは酸化反応優位の触媒活性を示す酸化触媒ゾーンであることができる。一方、還元触媒ゾーンでは、その最上層において、還元触媒活性を示すRhの原子数が、酸化触媒活性を示すPt及びPdの合計原子数よりも多く、このことにより、還元反応優位の触媒活性を示すことができる。
【0031】
酸化触媒ゾーンの最上層における、Pt及びPdの合計原子数とRhの原子数との比は、これらの全原子数に対するPt及びPdの合計原子数の割合が、50atomic%超であることを要し、60atomic%以上、70atomic%以上、80atomic%以上、90atomic%以上、又は95atomic%以上であってよく、特に100atomic%であってもよい。
【0032】
還元触媒ゾーンの最上層における、Rhの原子数とPt及びPdの合計原子数との比は、これらの全原子数に対するRhの原子数の割合が、50atomic%超であることを要し、60atomic%以上、70atomic%以上、80atomic%以上、90atomic%以上、又は95atomic%以上であってよく、特に100atomic%であってもよい。
【0033】
本発明の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層は、例えば、以下の2つから選ばれる1種以上を含む構成であってよい。
(1)還元触媒ゾーンは、Rhである貴金属を含有する触媒コート層から成り、かつ
酸化触媒ゾーンは、Rhである貴金属を含有する下層と、この下層上の、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する上層とを有する2層構成の触媒コート層から成る、
触媒コート層(第1形態の触媒コート層)、並びに、
(2)酸化触媒ゾーンは、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する触媒コート層から成り、かつ
還元触媒ゾーンは、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する下層と、この下層上の、Rhである貴金属を含有する上層とを有する2層構成の触媒コート層から成る、
触媒コート層(第2形態の触媒コート層)。
【0034】
図2(a)に第1形態の触媒コート層の構成を説明する概略断面図を示した。この第1形態の触媒コート層は、Rhである貴金属を含有する還元反応優位の下層と、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する酸化反応優位の上層とを有する。下層は、触媒コート層の長さの全部にわたって存在している。上層は、触媒コート層のうちの、排ガス流れ上流側の一部と、下流側の一部とに、分割されて存在している。
【0035】
図2(a)の触媒コート層では、排ガス流れ上流側の領域において、Rhである貴金属を含有する下層と、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する上層との2層構成である。この領域の上層は、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する酸化反応優位の層であるから、これら2層によって酸化触媒ゾーン(1)が構成されている。排ガス流れの中流領域には上層が形成されておらず、Rhである貴金属を含有する還元反応優位の下層が露出しており、この下層によって還元触媒ゾーン(2)が構成されている。更に、排ガス流れ下流側の領域では、酸化触媒ゾーン(1)と同様の2層構成を有し、これら2層によって酸化触媒ゾーン(3)が構成されている。
【0036】
図2(a)の触媒コート層では、上記のような層構成により、排ガス流れの上流側から順に、酸化触媒ゾーン(1)、還元触媒ゾーン(2)、及び酸化触媒ゾーン(3)を有し、酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが、排ガス流れ方向で2回切り換わっている。
【0037】
図2(b)に第2形態の触媒コート層の構成を説明する概略断面図を示した。この第2形態の触媒コート層は、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する還元反応優位の下層と、Rhである貴金属を含有する酸化反応優位の上層とを有する。下層は、触媒コート層の長さの全部にわたって存在している。上層は、触媒コート層のうちの、排ガス流れ上流側の一部と、下流側の一部とに、分割されて存在している。
【0038】
図2(b)の触媒コート層では、排ガス流れ上流側の領域において、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する下層と、Rhである貴金属を含有する上層との2層構成である。この領域の上層は、Rhである貴金属を含有する還元反応優位の層であるから、これら2層によって還元触媒ゾーン(4)が構成されている。排ガス流れの中流領域には上層が形成されておらず、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する酸化反応優位の下層が露出しており、この下層によって酸化触媒ゾーン(5)が構成されている。更に、排ガス流れ下流側の領域では、還元触媒ゾーン(4)と同様の2層構成を有し、これら2層によって還元触媒ゾーン(6)が構成されている。
【0039】
図2(b)の触媒コート層では、上記のような層構成により、排ガス流れの上流側から順に、還元触媒ゾーン(4)、酸化触媒ゾーン(5)、及び還元触媒ゾーン(6)を有し、酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが、排ガス流れ方向で2回切り換わっている。
【0040】
2以上の第1形態の触媒コート層を直列に組み合わせて一体の触媒コート層とすること、2以上の第2形態の触媒コート層を直列に組み合わせて一体の触媒コート層とすること、第1形態の触媒コート層と第2形態の触媒コート層とを直列に組み合わせて一体の触媒コート層とすること、又は第1形態の触媒コート層若しくは第2形態の触媒コート層とこれら以外の触媒コート層とを直列に組み合わせて一体の触媒コート層とすることも、本発明の好ましい態様に含まれる。
【0041】
〈担体粒子〉
本発明の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層におけるPt、Pd、及びRhは、それぞれ、適当な担体粒子上に担持されていてよい。この担体粒子は、例えば、Al、Si、Ce、及びZrから選択される1種以上の酸化物の粒子であってよい。担体粒子は、具体的には例えば、アルミナ(単身のアルミナ)、シリカアルミナ、ゼオライト、酸化チタン、シリカ、セリア、ジルコニア、及び希土類元素を含む複合酸化物等;並びにこれらの混合物、固溶体等;から構成される粒子から選択されてよい。
【0042】
触媒コート層がPt及びPdの双方を含むとき、これらの貴金属は、同じ担体粒子上に担持されていてよく、それぞれ別個の担体粒子上に担持されていてよい。耐久による粒径増大に伴う触媒活性の低下を、PtとPdとの合金化によって抑制する観点からは、PtとPdは同じ担体粒子上に担持されていてよい。
【0043】
触媒コート層におけるRhは、セリア-ジルコニア複合酸化物を含む担体粒子状に担持されていてよい。
【0044】
〈貴金属濃度〉
本発明の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層における酸化触媒ゾーンの最上層は、Pt及びPdから選択される貴金属を含有する。還元触媒ゾーンが多層構成であるとき、その下層は、Pt及びPdから選択される貴金属を含有していてよい。触媒コート層がPtを含有するとき、その含有量は、基材の容量1L当たりの金属換算質量として、例えば、0.01g/L以上、0.02g/L以上、0.03g/L以上、0.04g/L以上、又は0.05g/L以上であってよく、例えば、2.0g/L以下、1.5g/L以下、1.0g/L以下、又は0.5g/L以下であってよい。触媒コート層がPdを含有するとき、その含有量は、基材(後述)の容量1L当たりの金属換算質量として、例えば、0.1g/L以上、0.3g/L以上、0.5g/L以上、又は1.0g/L以上であってよく、例えば、5.0g/L以下、4.5g/L以下、4.0g/L以下、3.5g/L以下、3.0g/L以下、2.5g/L以下、又は2.0g/L以下であってよい。
【0045】
本発明の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層における還元触媒ゾーンの最上層は、Rhである貴金属を含有する。酸化触媒ゾーンが多層構成であるとき、その下層は、Rhを含有していてよい。触媒コート層におけるRhの含有量は、基材の容量1L当たりの金属換算質量として、例えば、0.01g/L以上、0.03g/L以上、0.05g/L以上、又は0.10g/L以上であってよく、例えば、2.0g/L以下、1.5g/L以下、1.0g/L以下、又は0.5g/L以下であってよい。
【0046】
〈任意成分〉
本発明の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層は、上記のとおり、Pt及びPdから選択される貴金属、及びRhである貴金属を含み、好ましくは更にこれらの担体粒子を含むが、必要に応じてその他の成分を含有していてよい。その他の成分は、例えば、貴金属を担持していない酸化物粒子、無機バインダー等であってよい。貴金属を担持していない酸化物粒子は、例えば、Al、Si、Ce、及びZrから選択される1種以上の酸化物の粒子であってよく、具体的には例えば、アルミナ、シリカ、セリア、ジルコニア等、及びこれらの複合酸化物、例えばゼオライト等から構成される粒子から選択されてよい。無機バインダーは、例えば、アルミナゾル、チタニアゾル等であってよい。
【0047】
〈触媒コート層のコート量〉
本発明の排ガス浄化触媒装置における触媒コート層のコート量は、多層の領域を含む場合には全部の層の合計として、基材の容量1L当たりの質量が、例えば、20g/L以上、50g/L以上、100g/L以上、120g/L以上、又は150g/L以上であってよく、例えば、400g/L以下、350g/L以下、300g/L以下、又は250g/L以下であってよい。
【0048】
〈基材〉
本発明の排ガス浄化触媒装置は、基材を含んでいてよい。
本発明の排ガス浄化触媒装置における基材としては、自動車用排ガス浄化触媒の基材として一般に使用されているものを使用いてよい。例えば、モノリスハニカム基材等であってよい。基材を構成する材料は、例えばコージェライト、SiC、ステンレス鋼、金属酸化物粒子等であってよい。基材の容量は、例えば1L程度であってよい。
【0049】
本発明の排ガス浄化触媒装置では、触媒コート層が基材上に存在していてもよいし、触媒コート層の少なくとも一部が基材の少なくとも一部を構成していてもよい。触媒コート層が基材上に存在する場合、例えば、基材上に、上記の図2(a)又は図2(b)に示したような下層及び上層が存在するものであってよい。触媒コート層が基材を構成している場合、例えば、上記の図2(a)又は図2(b)に示したような下層が基材の少なくとも一部を構成し、この下層の上に、図2(a)又は図2(b)に示した上層が存在するものであってよい。
【0050】
〈排ガス浄化触媒装置の態様〉
以下、触媒コート層が基材上に存在している場合を例として、本発明の排ガス浄化触媒装置の更に詳しい実施態様について説明する。
【0051】
本発明の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層は、1つの基材上に存在していてもよいし、排ガス流れ方向に直列に配置される2つ以上の基材上に分割されて存在していてもよい。触媒コート層が2つ以上の基材上に分割されて存在しているときには、分割された複数の触媒コート層を配置順に連結した一体の触媒コート層と考えて、酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとの切り換わり回数を評価してよい。例えば、触媒コート層が排ガス流れ方向に直列に配置される2つの基材上に分割されて存在しており、上流側基材上の触媒コート層が排ガス流れ方向に酸化触媒ゾーン及び還元触媒ゾーンをこの順に有し、下流側基材上の触媒コート層が排ガス流れ方向に還元触媒ゾーン及び酸化触媒ゾーンをこの順に有するときには、上流側コート層の後ろ側の還元触媒ゾーンと下流側コート層の前側の還元触媒ゾーンとを1つの還元触媒ゾーンと考えてよい。そして、この触媒コート層は、酸化触媒ゾーン、還元触媒ゾーン、及び酸化触媒ゾーンをこの順に有する触媒コート層であり、酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが2回切り換わっていると評価してよい。
【0052】
本発明の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層が存在する基材の数は、1つ又は2つであることが好ましい。
【0053】
触媒コート層が排ガス流れ方向に直列に配置される2つの基材上に分割されて存在しているとき、排ガス浄化触媒装置は、前段触媒と後段触媒との組み合わせであってよい。この場合、少なくとも後段触媒は、床下触媒であってよい。
【0054】
《排ガス浄化触媒装置の製造方法》
本発明の排ガス浄化触媒は、上記のような触媒層を有するものである限り、どのような方法によって製造されたものであってもよい。本発明の排ガス浄化触媒の典型的な製造方法につき、触媒コート層が第1形態の触媒コート層である場合を例として説明する。第1形態の触媒コート層を有する排ガス浄化装置は、例えば、以下のいずれかの方法によって製造されてよい。
【0055】
〈第1の製造方法〉
本発明の排ガス浄化触媒装置を得るための第1の製造方法は、例えば、
基材上に、Rh前駆体及び酸化物粒子を含有するRh含有層形成用塗工液をコートして、Rh含有層形成用塗工液の塗膜を形成すること、
Rh含有層形成用塗工液の塗膜を焼成して、Rh含有層を形成すること、
Rh含有層を形成した基材の一部に、Pt及びPdから選択される貴金属の前駆体、並びに酸化物粒子を含有するPt,Pd含有層形成用塗工液をコートして、Pt,Pd含有層形成用塗工液の塗膜を形成すること、並びに
Pt,Pd含有層形成用塗工液の塗膜を焼成して、Pt,Pd含有層を形成すること
を含む方法であってよい。
【0056】
第1の製造方法によると、触媒コート層が基材上に存在している排ガス浄化触媒装置を得ることができる。
【0057】
ここで例えば、基材上に形成されたRh含有層のうちの、排ガス流れ上流側の一部領域上及び下流側の一部領域上にPt,Pd含有層を形成し、中間領域ではRh含有層が露出されるように構成することができる。この方法によると、1つの基材上に触媒コート層を有する排ガス浄化触媒装置が得られ、この触媒コート層は、酸化触媒ゾーン(上流側のPt,Pd含有層)、還元触媒ゾーン(中間のRh含有層)、及び酸化触媒ゾーン(下流側のPt,Pd含有層)をこの順に有し、酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが2回切り換わっている第1実施態様の触媒コート層となる。
【0058】
また例えば、基材上に形成されたRh含有層のうちの排ガス流れ上流側の一部領域上にPt,Pd含有層を形成し、別の基材上に形成されたRh含有層のうちの排ガス流れ下流側の一部領域上にPt,Pd含有層を形成し、これらをこの順に直列に組み合わせることができる。この方法によると、2つの基材上に触媒コート層が分割されて配置された排ガス浄化触媒装置が得られ、この触媒コート層は、酸化触媒ゾーン(上流側基材の上流側のPt,Pd含有層)、還元触媒ゾーン(上流側基材下流側及び下流側基材上流側のRh含有層)、及び酸化触媒ゾーン(下流側基材下流側のPt,Pd含有層)をこの順に有し、酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが2回切り換わっている第1実施態様の触媒コート層となる。
【0059】
塗工液中のRh、Pt、及びPdの前駆体は、これらの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、アセチルアセトン錯体等から選択されてよい。酸化物粒子は、所望の触媒コート層における担体粒子の種類に応じて適宜に選択されてよい。塗工液の溶媒は、水性溶媒であってよく、典型的には水である。この場合の塗工液は、水系スラリーとなる。
【0060】
塗工液のコート方法としては、例えば、ディップ法、流し込み法、押し上げ法等の公知の方法を制限なく採用することができる。塗工液のコート後、必要に応じて溶媒を除去するための工程を行ってもよい。この工程は、例えば60~300℃、好ましくは120~250℃の温度において、例えば5~120分、好ましくは10~60分加熱する方法によってよい。焼成時の加熱温度は、例えば300℃以上又は400℃以上、1,000℃以下とすることができ、好ましくは500℃~800℃である。焼成の加熱時間は、例えば0.1~10時間とすることができ、好ましくは0.5~5時間である。
【0061】
第1の製造方法において、Rh含有層とPt,Pd含有層との形成順を逆にすれば、第2形態の触媒コート層が基材上に存在している排ガス浄化触媒装置を得ることができる。
【0062】
〈第2の製造方法〉
本発明の排ガス浄化触媒装置を得るための第2の製造方法は、特許文献3(特開2015-85241号公報)の記載を参考にして、これに当業者による適宜の変更を加えて、実施することができる。
【0063】
本発明の排ガス浄化触媒装置を得るための第2の製造方法は、例えば、
Rh前駆体及び酸化物粒子、並びに水及びバインダーを含有するRh含有基材形成用組成物を、所定の基材形状に成形すること、
基材形状に成形されたRh含有基材形成用組成物を焼成して、Rh含有基材を形成すること、
Rh含有基材の一部に、Pt及びPdから選択される貴金属の前駆体、並びに酸化物粒子を含有するPt,Pd含有層形成用塗工液をコートして、Pt,Pd含有層形成用塗工液の塗膜を形成すること、並びに
Pt,Pd含有層形成用塗工液の塗膜を焼成して、Pt,Pd含有層を形成すること
を含む方法であってよい。
【0064】
第2の製造方法によると、触媒コート層の一部(Rh含有層)が基材の全部を構成している排ガス浄化触媒装置を得ることができる。
【0065】
Rh含有基材上におけるPt,Pd含有層の形成位置は、所望の排ガス浄化触媒装置の触媒コート層の構成に応じて、上記第1の製造方法の記載を参照して、当業者によって適宜に設定されてよい。
【0066】
Rh含有基材形成用組成物中のバインダーは、例えば、アルミナゾル、チタニアゾル等であってよい。基材形状に成形されたRh含有基材形成用組成物、及びPt,Pd含有層形成時の焼成条件は、それぞれ、上記第1の製造方法の記載を参照して、当業者によって適宜に設定されてよい。
【実施例
【0067】
《コート層形成用塗工液の調製》
〈調製例1〉
金属パラジウム換算濃度が5質量%の硝酸パラジウム水溶液30質量部(金属パラジウム1.5質量部相当)、アルミナ50質量部、及びセリウム系複合酸化物(CeO含量55質量%)50質量部を、イオン交換水100質量部に投入して撹拌することにより、塗工液1を得た。
【0068】
〈調製例2〉
金属ロジウム換算濃度が5質量%の硝酸ロジウム水溶液4質量部(金属ロジウム0.2質量部相当)、アルミナ50質量部、及びジルコニウム系複合酸化物(ZrO含量70質量%)50質量部を、イオン交換水100質量部に投入して撹拌することにより、塗工液2を得た。
【0069】
《単段触媒の製造》
〈製造例1〉
(1)下層の形成
全長100mm、容量1Lのモノリスハニカム基材に、塗工液1を100mm幅で塗工し、250℃にて1時間加熱して乾燥した後、500℃にて1時間焼成して、基材上に、下層を形成した。下層の全質量は101.5gであり、そのうちパラジウムの質量は1.5gであった。
【0070】
(2)上層の形成
下層形成後の基材に、塗工液2を100mm幅で塗工し、250℃にて1時間加熱して乾燥した後、500℃にて1時間焼成して、下層上に更に上層を形成することにより、触媒Aを得た。触媒Aの上層の全質量は100.2gであり、そのうちロジウムの質量は0.2gであった。
【0071】
〈製造例2~20〉
下層及び上層の形成に、それぞれ、表1に記載の塗工液を用い、上層の塗工幅を、排ガス流れの上流側端部(Fr)又は下流側端部(Rr)から表1に記載の幅とした他は、製造例1と同様に操作して、触媒B~Tを得た。
【0072】
〈製造例21〉
(1)下層の形成
塗工液1を用いて、製造例1と同様にしてモノリスハニカム基材上に下層を形成した。下層の全質量は101.5gであり、そのうちパラジウムの質量は1.5gであった。
【0073】
(2)上層の形成
下層形成後の基材に、塗工液2を排ガス流れの上流側端部(Fr)から35mmの幅で塗工し、50℃にて1時間加熱して乾燥した後、500℃にて1時間焼成して、下層上に上流側上層を形成した。この上流側上層の全質量は50.1gであり、そのうちロジウムの質量は0.1gであった。次いで、下層及び上流側上層形成後の基材に、塗工液2を排ガス流れの下流側端部(Rr)から35mmの幅で塗工し、50℃にて1時間加熱して乾燥した後、500℃にて1時間焼成して、下層上に下流側上層を形成することにより、触媒Uを得た。触媒Uの下流側上層の全質量は50.1gであり、そのうちロジウムの質量は0.1gであった。
【0074】
〈製造例22〉
(1)下層の形成
塗工液2を用いて、製造例2と同様にしてモノリスハニカム基材上に下層を形成した。下層の全質量は100.2gであり、そのうちロジウムの質量は0.2gであった。
【0075】
(2)上層の形成
下層形成後の基材に、塗工液1を排ガス流れの上流側端部(Fr)から35mmの幅で塗工し、50℃にて1時間加熱して乾燥した後、500℃にて1時間焼成して、下層上に上流側上層を形成した。この上流側上層の全質量は50.75gであり、そのうちパラジウムの質量は0.75gであった。次いで、下層及び上流側上層形成後の基材に、塗工液1を排ガス流れの下流側端部(Rr)から35mmの幅で塗工し、50℃にて1時間加熱して乾燥した後、500℃にて1時間焼成して、下層上に下流側上層を形成することにより、触媒Vを得た。触媒Vの下流側上層の全質量は50.75gであり、そのうちパラジウムの質量は0.75gであった。
【0076】
表1には、上記製造例で得られた各触媒について、ゾーンごとの反応性を合わせて示した。製造例21及び22の「反応性」欄の「Md」とは、触媒の上流側ゾーンと下流側ゾーンの間に位置する中間ゾーンを意味する。
【0077】
【表1】
【0078】
《実験例1》
前段触媒及び床下触媒としてそれぞれ触媒Aを用いて排ガス浄化触媒装置を構成し、その排ガス浄化性能を調べた。排ガス浄化触媒装置を、排気量:4,000ccのガソリンエンジンに取り付け、平均エンジン回転数:3,500rpm、触媒入りガス温度:1,000℃の条件で20時間の耐久を行った。耐久後の触媒を、排気量:5,300ccの車両に取り付け、FTP-75モードに従って走行して、テールパイプからのHC、CO、及びNOのエミッションを測定し、走行1マイル当たりの総炭化水素(THC)排出量及びNO排出量を調べた。結果は表2に示した。
【0079】
《実験例2~15》
前段触媒及び床下触媒として、それぞれ、表2に記載の単段触媒を用いた他は、実例1と同様にして、排ガス浄化性能を調べた。結果は表2に示した。
【0080】
《実験例16》
排ガス浄化触媒装置として、触媒Aから成る一段触媒を用いた他は、実例1と同様にして、排ガス浄化性能を調べた。結果は表2に示した。
【0081】
《実験例17~19》
排ガス浄化触媒装置として、表2に記載の単段触媒を用いた他は、実例1と同様にして、排ガス浄化性能を調べた。結果は表2に示した。
【0082】
《図面の提示》
実験例1~19で用いた排ガス浄化触媒装置の構成を示す概略断面図を、図3~7に示した。
【0083】
【表2】
【0084】
表2のうち、前段触媒及び床下触媒を有し、コート層の全長が200mmである実験例1~15の排ガス浄化触媒装置を比較する。
【0085】
コート層の全部が還元触媒の反応性を示す実験例1の排ガス浄化触媒装置に対して、コート層を2分して酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとを1個ずつ配置した実験例2及び3の排ガス浄化触媒装置(酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが1回切り換わる)では、酸化浄化に関わるTHCの排出量は減少したが、還元浄化に関わるNOの排出量は増加した。
【0086】
これに対して、コート層の中央部に長さ20mm(全長の10%)の酸化触媒ゾーンを配置し、還元触媒ゾーン、酸化触媒ゾーン、及び還元触媒ゾーンの3ゾーン構成とした実験例5の排ガス浄化触媒装置(酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが2回切り換わる)では、NO及びTHC双方の排出量が、実験例1に比べて少し減少した。コート層の中央部に配置する酸化触媒ゾーンの長さを、それぞれ、30mm(全長の15%)、60mm(同30%)、及び90mm(同45%)とした実験例6、7、及び8では、NO及びTHC双方の排出量が更に減少した。長さ60mm(全長の30%)の酸化触媒ゾーンの配置位置を、コート層の中央部から少しずらした実験例14及び15も、実験例1と比較して、NO及びTHC双方の排出量が大きく減少した。ここで、実験例1の排ガス浄化触媒装置に比べて、還元触媒ゾーンの長さが短くなっているにもかかわらず、THCのみならずNOの排出量も減少していることに留意されたい。
【0087】
コート層の全部が酸化触媒反応性を示す実験例4の排ガス浄化触媒装置に対して、コート層の中央部に長さ20mm(全長の10%)の還元触媒ゾーンを配置した実験例9の排ガス浄化触媒装置(酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが2回切り換わる)では、THCの排出量がわずかに増えたが、NOの排出量が減少した。コート層の中央部に配置する還元触媒ゾーンの長さを、それぞれ30mm(全長の15%)、60mm(同30%)、及び90mm(同45%)とした実験例10、11、及び12では、NO及びTHC双方の排出量がともに大きく減少した。実験例10、11、及び12では、実験例2の排ガス浄化触媒装置に比べて、酸化触媒ゾーンの長さが短くなっているにもかかわらず、NOのみならずTHCの排出量も減少した。
【0088】
次に、単段触媒から構成され、コート層の全長が100mmである実験例16~19の排ガス浄化触媒装置を比較する。
【0089】
コート層の全部が還元触媒の反応性を示す実験例16の排ガス浄化触媒装置では、酸化浄化に関わるTHCの排出量が多かった。これに対して、コート層の中央部に長さ30mm(全長の30%)の酸化触媒ゾーンを配置した実験例18の排ガス浄化触媒装置(酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが2回切り換わる)では、THCの排出量が減少するとともに、還元浄化に関わるNOの排出量も減少した。
【0090】
また、コート層の全部が酸化触媒反応性を示す実験例17の排ガス浄化触媒装置では、還元浄化に関わるNOの排出量が多かった。これに対して、コート層の中央部に長さ30mm(全長の30%)の還元触媒ゾーンを配置した実験例19の排ガス浄化触媒装置(酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが2回切り換わる)では、NOの排出量が減少するとともに、酸化浄化に関わるTHCの排出量も減少した。
【0091】
以上のことから、触媒コート層を長さ方向に3以上のゾーンに分割し、酸化触媒ゾーンと還元触媒ゾーンとが2回以上切り換わる構成の本発明の排ガス浄化触媒装置は、酸化浄化に関わるTHCの排出量、及び還元浄化に関わるNOの排出量の双方を、効率よく減少できることが検証された。
【符号の説明】
【0092】
1、3、5 酸化触媒ゾーン
2、4、6 還元触媒ゾーン
10、20 触媒コート層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7