(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】乾燥果実の製造方法および乾燥果実
(51)【国際特許分類】
A23B 7/024 20060101AFI20230316BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20230316BHJP
【FI】
A23B7/024
A23L19/00 A
(21)【出願番号】P 2018246047
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】313014273
【氏名又は名称】イビデン物産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石原 暁良
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-187554(JP,A)
【文献】特開2016-077195(JP,A)
【文献】特開2010-273577(JP,A)
【文献】特開2004-121136(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076431(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/049928(WO,A1)
【文献】特開昭49-110850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/024
A23L 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥果実の製造方法であって、
果実を凍結乾燥させる第1乾燥工程と、
前記第1乾燥工程を経た果実に調味液を含浸する含浸工程と、
前記含浸工程を経た果実の表面に糖質を被覆する被覆工程と、
前記被覆工程を経た果実を凍結乾燥させる第2乾燥工程とを有
し、
前記含浸工程は、前記調味液を40~90℃に加熱し、さらに撹拌しながら、前記調味液と、前記第1乾燥工程を経た果実とを混合することによって行い、
前記被覆工程は、果実の水分含有率が30質量%以下になるように前記含浸工程を経た果実と前記糖質とを混合して、被覆された糖質の厚さを1~3mmにすることを特徴とする乾燥果実の製造方法。
【請求項2】
前記糖質が砂糖である請求項1に記載の乾燥果実の製造方法。
【請求項3】
前記第1乾燥工程の前に、前記果実を小片状に切断してから冷凍する前処理工程を有する請求項1又は2に記載の乾燥果実の製造方法。
【請求項4】
前記第1乾燥工程の前に、前記果実を冷凍してから小片状に切断する前処理工程を有する請求項1又は2に記載の乾燥果実の製造方法。
【請求項5】
前記被覆工程では、前記含浸工程を経た果実と粉末状の糖質とを混合して、前記含浸工程を経た果実の表面に糖質を被覆する請求項1~4のいずれか一項に記載の乾燥果実の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥果実の製造方法および乾燥果実に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、乾燥果実の製造方法について、果実を凍結乾燥する第1工程と、第1工程後の乾燥果実に調味液を含浸して味付けする第2工程と、第2工程後の乾燥果実を凍結乾燥する第3工程とを有することが記載されている。第2工程で含浸された調味液は、第1工程の凍結乾燥によって形成された気孔内に浸透した状態となる。第3工程の凍結乾燥を行うことによって、調味液中の水分が除去されて、調味液中の糖質が気孔内に充填された状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の乾燥果実の製造方法では、第3工程の凍結乾燥を行う前に、気孔内に浸透した調味液が外部に滲みだすことがあった。調味液が外部に滲みだすと、果実内の調味液の分布に偏りが生じやすくなる。果実内の調味液の分布に偏りが生じた状態で第3工程を行うと、乾燥果実内の糖質の分布に偏りが生じて食感や風味が低下する虞があった。また、第3工程の凍結乾燥時に、昇華した水により果実の組織を構成する細胞壁を変形、破壊させてしまうことがあり、やはり食感や風味を低下させる虞があった。本発明は、こうした事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、乾燥果実内の糖質の分布をより均一にし、また、乾燥果実の破壊強度を改善して食感および風味を改善することができる乾燥果実の製造方法と乾燥果実を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の乾燥果実の製造方法は、乾燥果実の製造方法であって、果実を凍結乾燥させる第1乾燥工程と、上記第1乾燥工程を経た果実に調味液を含浸する含浸工程と、上記含浸工程を経た果実の表面に糖質を被覆する被覆工程と、上記被覆工程を経た果実を凍結乾燥させる第2乾燥工程とを有することを要旨とする。
【0006】
また、本発明の乾燥果実は、表面が粉糖で被覆され、果実の切断断面における細胞壁の輪郭が円形状であり、その細胞壁により構成される空隙もしくは細胞壁間の空隙の少なくとも一部に糖質が充填された乾燥果実であることを要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、含浸工程を経た果実の表面に糖質を被覆する被覆工程を有することにより、果実内に含浸された調味液が、調味液を含浸させた後、第2乾燥工程の凍結乾燥前に、マイグレーション等により外部に滲みだすことを抑制することができる。果実内における調味液の分布の偏りを抑制することができるため、乾燥果実内の糖質の分布をより均一にすることができる。また、調味液の含浸工程を経た果実の表面を糖質で被覆するため、第2乾燥工程中の凍結乾燥時に、調味液中の凍結した水が昇華して果実の外に排出されにくくなり、固体の水がゆっくり昇華して気化することとなるため、果実の組織を構成する細胞壁の変形、破壊を防止することができる。このため、元々の果実の細胞壁の形状、すなわち、果実の切断面における細胞壁の輪郭の形状が連続した(つまり、細胞壁が破壊されていない)円形状となっており、円形状は応力に抵抗する力が強いことから、この細胞壁により構成される空隙もしくは細胞壁間の空隙の少なくとも一部に調味液の乾燥硬化物である糖質が充填されることで、細胞壁が糖質のマトリクスを補強する作用を発現し、乾燥果実の破断強度を高くすることができるものと推定される。その結果、サクサクした食感と風味を実現できるもの考えられる。なお、「円形状」とは、真円、楕円、長円の概念を含むものである。また、乾燥果実の細胞壁の形状は、立体として考えた場合は、円形状の回転体である球形状であり、長円の回転体や楕円の回転体である扁球、長球を含むものである。これら球形状の細胞壁の内部に空隙が形成され、その空隙の少なくとも一部、もしくは球形状の細胞壁間の空隙に調味液の乾燥硬化物である糖質が充填されるのである。果実の細胞壁は主としてペクチン、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどで構成され、乾燥せしめることで硬度が高い円形状(立体としては球形状)の骨格として機能し、また、円形状や球形状は、応力に抵抗する力が強いことから、乾燥果実の破断強度を改善できるものと推定される。
【0008】
本発明の乾燥果実の製造方法について、上記糖質が砂糖であることが好ましい。上記構成によれば、砂糖は水分を吸収しやすいため、調味液中の水分をある程度吸収した状態で保持することができる。これにより、調味液が外部に滲みだすことを好適に抑制することができるため、乾燥果実内の糖質の分布をより均一にすることができる。
【0009】
本発明の乾燥果実の製造方法について、上記第1乾燥工程の前に、上記果実を小片状に切断してから冷凍する前処理工程を有することが好ましい。上記構成によれば、果実を小片状に切断することにより、果実を冷凍する際に、果実をより短時間で冷凍することができる。また、果実を冷凍して所定期間保管することができるため、後工程の第1乾燥工程を行うタイミングを任意に設定することができる。
【0010】
本発明の乾燥果実の製造方法について、上記第1乾燥工程の前に、上記果実を冷凍してから小片状に切断する前処理工程を有することが好ましい。上記構成によれば、果実を冷凍することにより、果実を所定期間保管することができるため、後工程の第1乾燥工程を行うタイミングを任意に設定することができる。また、果実を冷凍してから小片状に切断することにより、切断後の果実の形状を維持しやすくなるため、取り扱い性が向上する。
【0011】
本発明の乾燥果実の製造方法について、上記被覆工程では、上記含浸工程を経た果実と粉末状の糖質とを混合して、上記含浸工程を経た果実の表面に糖質を被覆することが好ましい。上記構成によれば、果実の表面に糖質を効率良く被覆することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の乾燥果実の製造方法によれば、乾燥果実内の糖質の分布をより均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、乾燥果実の製造方法およびその製造方法により得られる乾燥果実の一実施形態を説明する。
乾燥果実は、以下に記載する前処理工程、第1乾燥工程、含浸工程、被覆工程、第2乾燥工程を順に経ることにより製造される。
【0015】
(前処理工程)
前処理工程は、第1乾燥工程を行う前に、果実を小片状に切断して、冷凍する工程である。果実を切断する方法は特に限定されず、公知の切断機を用いることができる。小片の形状は特に限定されず、顆粒状や、棒状、薄片状等にすることができる。小片状の果実の大きさは特に限定されず、適宜決定することができる。小片状の果実の大きさとしては、例えば、果実の外形が、直径20cmの球体内に納まる大きさであることが好ましく、直径1cmの球体内に納まる大きさであることがより好ましい。小片状の果実の大きさが上記数値範囲であると、後工程の第1乾燥工程、及び、第2乾燥工程において、果実中の水分を除去しやすくなる。果実を小片状に切断する処理とともに、果実の皮や種を除去する処理を行ってもよい。
【0016】
小片状にした果実を冷凍する方法については特に限定されず、公知の冷凍機を用いることができる。冷凍温度としては、例えば、-30~-10℃であることが好ましく、-30~-20℃であることがより好ましい。冷凍温度が-30~-10℃であることにより、後工程である第1乾燥工程において凍結乾燥を行う温度まで冷却することが容易になる。ここで、前処理工程における冷凍は、後述する第1乾燥工程において果実を予備凍結する処理とは別の処理を意味するものとする。前処理工程において果実を冷凍することにより、果実を所定期間保管することができるため、後工程の第1乾燥工程を行うタイミングを任意に設定することができる。
【0017】
果実の種類は特に限定されない。例えば、リンゴ、イチゴ、ブルーベリー、クランベリー、キウイ、パイナップル、ブドウ、ミカン等を採用することができる。上記の果実は、一種類のみを用いてもよいし、複数の種類を組合わせて用いてもよい。
【0018】
(第1乾燥工程)
第1乾燥工程は、前処理工程を経た果実を凍結乾燥させる工程である。
第1乾燥工程に用いる凍結乾燥機としては特に限定されず、公知の凍結乾燥機を用いることができる。まず、トレイ上に複数の冷凍状態の小片状の果実を互いに重なり合った状態で載置する。小片状の果実は、トレイ上に載置された状態で、厚さが0.5~4cmの範囲で略均一となるようにする。この小片状の果実が載置されたトレイを、-30~-18℃の凍結庫に、0.5~18時間保持して予備凍結を行う。次に予備凍結を行った小片状の果実について、トレイごと凍結乾燥機の内部の棚に配置し、凍結乾燥を行う。凍結乾燥の条件は特に限定されない。例えば、凍結乾燥機の内部の真空度を10~500Paにまで低下させた状態で凍結乾燥機の内部の温度を10~40℃にし、15~30時間保持する。具体的には、凍結乾燥機内の真空度を130Pa以下、棚加熱温度を40~60℃にすることが好ましい。高真空状態を維持し棚温度から輻射熱を与えることによって、果実内の水分を昇華させて除去する。果実内の水分が除去されることによって、果実に気孔が形成される。果実に形成される気孔には、細胞壁により構成される空隙や細胞壁間に生じる空隙を含むものとする。
【0019】
(含浸工程)
含浸工程は、第1乾燥工程を経た果実に調味液を含浸する工程である。
含浸工程には、公知の攪拌機を用いることができる。公知の攪拌機としては、例えば、公知の加熱ニーダーを用いることができる。加熱ニーダーに調味液を入れ、調味液を加熱しながら攪拌する。加熱温度は特に限定されないが、例えば、40~90℃に加熱することが好ましい。調味液を40~90℃に加熱することにより、調味液の粘度を低下させて、果実に調味液を含浸させやすくすることができる。調味液を攪拌しながら、第1乾燥工程を経た果実を加熱ニーダーに投入して、調味液と混合する。1~10分間混合することによって、調味液は、第1乾燥工程で形成された果実の気孔内に含浸される。これにより、第1乾燥工程を経た果実の気孔内に調味液が浸透した状態となる。
【0020】
調味液の配合量は特に限定されないが、果実100質量部に対して、調味液を30~200質量部配合させることが好ましい。
調味液の種類としては、特に限定されないが、例えば、第1乾燥工程を行った果実と同じ種類の果実の濃縮液や、クエン酸やリンゴ酸等の水溶液を用いることができる。第1乾燥工程を行った果実とは異なる果実の濃縮液を用いてもよい。これらの調味液は一種類のみを使用してもよく、複数の調味液を組合わせて使用してもよい。調味液は、糖度が20~80Brixであることが好ましい。調味液の糖度は、公知の糖度計を用いて測定することができる。
【0021】
(被覆工程)
被覆工程は、含浸工程を経た果実の表面に糖質を被覆する工程である。具体的には、含浸工程を経た果実と粉末状の糖質(以下、粉糖ともいう。)とを混合して、果実の表面に糖質を被覆する工程である。被覆工程には、公知の混合機を用いることができる。公知の混合機としては、例えば、公知のドラム式混合機を用いることができる。果実と粉糖とをドラム式混合機に投入して混合する。混合時間は特に限定されないが、例えば、1~10分間混合することが好ましい。粉糖の配合量は特に限定されないが、果実100質量部に対して、粉糖を50~200質量部配合させることが好ましい。果実と粉糖は、予め5~40℃に冷却した状態で混合することが好ましい。被覆工程では、果実の水分含有率が、30質量%以下になるように混合を行うことが好ましく、15質量%以下になるように混合することがより好ましい。ここで、果実の水分含有率とは、被覆された糖質を含む果実全体の質量に対する水分の質量割合を意味するものとする。
【0022】
粉糖の粒子径は、特に限定されないが、例えば、30~300Meshであることが好ましい。粉糖の粒子径が上記数値範囲であると、粉糖の粒子径が相対的に小さいため、被覆層の厚さ、すなわち、被覆された糖質(以下、糖衣ともいう。)の厚さをより均一にすることができる。糖衣の厚さは、特に限定されないが、1~3mmであることが好ましい。糖衣の厚さが上記数値範囲であると、果実内の調味液の滲みだしを好適に抑制することができる。糖衣の厚さは、公知の電子顕微鏡を用いて、乾燥果実の破断面を観察することにより測定することができる。
【0023】
糖質の種類は特に限定されない。例えば、ブドウ糖や果糖等の単糖類、砂糖や乳糖等の二糖類、糖分子が3個以上重合したオリゴ糖、デンプン等の多糖類を用いることができる。その中でも、単糖類や二糖類は、水分を吸収しやすいため好ましい。
【0024】
(第2乾燥工程)
第2乾燥工程は、被覆工程を経た果実を凍結乾燥させる工程である。
第2乾燥工程に用いる凍結乾燥機としては特に限定されず、第1乾燥工程と同じ凍結乾燥機を使用してもよい。第2乾燥工程の条件は、第1乾燥工程と同様の条件であってもよいが、第2乾燥工程は、第1乾燥工程を経た果実に対して行うため、予備凍結後の凍結乾燥の時間は、第1乾燥工程の時間より短くしてもよい。具体的には、第2乾燥工程の時間は、6~18時間とすることができる。第2乾燥工程を行うことによって、果実の気孔内に浸透した調味液中の水分を除去することができる。
【0025】
以上の工程を行うことにより、乾燥果実の気孔(細胞壁により構成される空隙や細胞壁間に生じる空隙)内に糖質が充填された状態になるとともに、乾燥果実の表面に糖衣が形成された乾燥果実が得られる。
【0026】
ここで、含浸工程を有さない態様、すなわち、果実に調味液を含浸させない態様では、気孔内に糖質が充填されないため、乾燥果実の強度が相対的に小さくなる。そのため、乾燥果実の食感は、柔らかく、歯応えのないものとなる。これに対し、本実施形態では、気孔内に糖質が充填されているとともに、表面に糖衣が形成されているため、乾燥果実の強度が相対的に大きくなる。また、後述のように、乾燥果実を構成する細胞壁の輪郭の形状が、乾燥果実の切断面において、破壊されていない、連続した円形状になる。さらに、乾燥によって硬くなった円形状の細胞壁が集合して二次元的に広がった(立体的には硬くなった球形状の細胞壁が集合して三次元的に広がった)骨格構造を形成する。円形状、球形状の骨格は、応力に抵抗する力が強いことから、これらの骨格構造が糖質のマトリクスを補強することで、乾燥果実の破断強度を向上させていると推定される。そのため、乾燥果実の食感は、歯応えがあって良好なものとなる。さらに、乾燥果実は、調味液に由来する風味が加えられたものとなる。
【0027】
本実施形態の作用及び効果について記載する。
(1)含浸工程を経た果実の表面に糖質を被覆する被覆工程を有することにより、果実内に含浸された調味液が外部に滲みだすことを抑制することができる。果実内における調味液の分布の偏りを抑制することができるため、乾燥果実内の糖質の分布をより均一にすることができると考えられる。また、乾燥果実を構成する細胞壁の輪郭の形状が、乾燥果実の切断面において、破壊されていない、連続した円形状であるため、乾燥によって硬い円形状の細胞壁が集合(立体的には硬い球形状の細胞壁が集合)して骨格構造を形成する。円形状、球形状の骨格は、応力に抵抗する力が強いことから、これらの骨格構造が糖質のマトリクスを補強することで乾燥果実の破断強度を向上させることができると考えられる。したがって、乾燥果実のサクサクした食感を実現し、風味を良好なものとすることができる。また、果実内に含浸された調味液が外部に滲みだすことを抑制することができるため、滲みでた調味液によって、果実同士が付着することを抑制することができる。
【0028】
(2)糖質が砂糖である。砂糖は水分を吸収しやすいため、調味液中の水分をある程度吸収した状態で保持することができる。したがって、調味液が外部に滲みだすことを好適に抑制することができるため、乾燥果実内の糖質の分布をより均一にすることができる。
【0029】
(3)第1乾燥工程の前に、果実を小片状に切断してから冷凍する前処理工程を有する。果実を小片状に切断することにより、果実を冷凍する際に、果実をより短時間で冷凍することができる。また、果実を冷凍して所定期間保管することができるため、後工程の第1乾燥工程を行うタイミングを任意に設定することができる。
【0030】
(4)被覆工程では、含浸工程を経た果実と粉糖を混合して、含浸工程を経た果実の表面に糖質を被覆する。したがって、果実の表面に糖質を効率良く被覆することができる。
本実施形態は、次のように変更して実施することも可能である。また、上記実施形態の構成や以下の変更例に示す構成を適宜組み合わせて実施することも可能である。
【0031】
・本実施形態では、前処理工程として、果実を小片状に切断してから冷凍していたが、この態様に限定されない。例えば、果実を冷凍してから小片状に切断してもよい。果実を冷凍することにより、果実を所定期間保管することができるため、後工程の第1乾燥工程を行うタイミングを任意に設定することができる。また、果実を冷凍してから小片状に切断することにより、切断後の果実の形状を維持しやすくなるため、取り扱い性が向上する。
【0032】
・前処理工程は省略してもよい。例えば、果実を小片状に切断すること、及び、果実を事前に冷凍することの少なくともいずれかを省略してもよい。
・第1乾燥工程は、トレイ上に複数の冷凍状態の小片状の果実を互いに重なり合った状態で載置する態様に限定されない。トレイ上において、複数の冷凍状態の小片状の果実が、互いに重なり合うことなく離間した状態で載置されていてもよい。第2乾燥工程も同様である。小片状の果実を、互いに重なり合うことなく離間した状態で載置することにより、果実同士が付着することを抑制することができる。
【0033】
・第1乾燥工程、及び、第2乾燥工程は、小片状の果実を載置したトレイをトレイごと凍結庫に入れて予備凍結を行った後、トレイごと凍結乾燥機の内部の棚に配置して凍結乾燥を行う態様に限定されない。例えば、小片状の果実を載置したトレイをレール運搬で可動するラックに並べ、ラックをそのまま凍結庫に入れて予備凍結を行った後、ラックをそのまま凍結乾燥機に入れて凍結乾燥を行ってもよい。
【0034】
・被覆工程において、含浸工程を経た果実の表面に糖質を被覆する方法は、本実施形態の方法に限定されない。すなわち、被覆工程は、含浸工程を経た果実と粉糖とを混合して、含浸工程を経た果実の表面に糖質を被覆する方法に限定されない。被覆工程は、例えば、含浸工程を経た果実の表面に粉糖を吹きつけることによって、果実の表面に糖質を被覆してもよい。
【0035】
・被覆工程を経た果実の水分含有率は、30質量%以下に限定されない。第2乾燥工程において、果実内の水分を好適に除去することができれば、被覆工程を経た果実の水分含有率は、30質量%を超えていてもよい。
【0036】
・第1乾燥工程及び第2乾燥工程において、予備凍結は省略してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
(実施例1)
乾燥果実の原料として、以下の材料を用いた。
【0038】
果実:リンゴ
調味液:糖度60Brixの濃縮リンゴ液
粉糖:50Meshの砂糖(上白糖)
まず、切断機を用いて、リンゴを顆粒状に切断した。顆粒状のリンゴは、直径約1cmの球体内に納まる大きさであった。得られた顆粒状のリンゴを、冷凍機に入れて-25℃で24時間保持して冷凍した。
【0039】
次に、冷凍したリンゴを、冷凍状態のまま、トレイ上に載置した。リンゴは、互いに重なり合った状態で載置されており、トレイ上での厚さが3cmであった。この小片状の果実が載置されたトレイを、予備凍結庫内の温度を-25℃にし、12時間保持して予備凍結を行う。次に予備凍結を行った小片状の果実について、トレイごと凍結乾燥機の内部の棚に配置し、凍結乾燥を行う。凍結乾燥機の内部の真空度を80Paにまで低下させ、棚温度50℃にて20時間保持して凍結乾燥(第1乾燥工程)を行った。
【0040】
次に、加熱ニーダー内に調味液20kgを投入し、70℃に加熱しながら攪拌した。第1乾燥工程を経たリンゴ20kgを加熱ニーダーに投入し、調味液とともに4分間攪拌して、調味液を含浸させた。
【0041】
次に、調味液を含浸させたリンゴを加熱ニーダーから取り出し、このリンゴ15kgと、粉糖12kgとを、ドラム式混合機に投入して、3分間混合した。混合後の果実の水分含有率は、13質量%であった。
【0042】
次に、粉糖と混合したリンゴを、トレイ上に載置した。リンゴは、互いに重なり合った状態で載置されており、トレイ上での厚さが約3cmであった。リンゴをトレイごと凍結乾燥機の内部の棚に配置した。第1乾燥工程と同様に予備凍結を行った後、凍結乾燥機の内部の真空度を80Paにまで低下させ、棚温度を50℃にし、12時間保持して凍結乾燥(第2乾燥工程)を行った。
【0043】
(比較例1)
被覆工程を行わなかった、すなわち、調味液を含浸させたリンゴと粉糖とを混合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして乾燥果実を作製した。
【0044】
(評価試験)
(電子顕微鏡観察)
実施例1及び比較例1の乾燥果実について、切断面を電子顕微鏡で観察した。
【0045】
図1に、実施例1と比較例1の乾燥果実における切断面の電子顕微鏡写真を示す。
比較例1の乾燥果実では、被覆層は観察されなかった。比較例1の乾燥果実は、被覆層を有していないため、調味液が外部に滲みだすことによって、糖質の分布に偏りが生じているものと推測される。これに対し、実施例1の乾燥果実では、糖衣と推測される灰色の被覆層が観察された。被覆層の厚さは、約0.5mmであった。表面の糖衣によって、内部の調味液が滲みだすことが抑制されており、調味液に由来する糖質は、より均一に気孔の内表面を覆った状態で充填されていると推測される。
【0046】
また、実施例1の乾燥果実の切断断面には、輪郭が円、楕円形状(立体的には、球状、長球状、扁球状)の細胞壁が観察され、その細胞壁により構成される空隙および細胞壁間の空隙(説明中で「気孔」と表記)に調味液の乾燥硬化物と考えられる糖質が充填されていることが観察された。一方、比較例1の乾燥果実の切断断面には、輪郭が尖った部分がいくつも並んだ形状、いわゆる“ギザギザ”形状の細胞壁が観察された。しかも、その細胞壁は不連続であると考えられ、あたかも袋が破裂したような様を呈していた。おそらく、第2乾燥工程において、調味液中の凍結水が急激に昇華して、細胞壁を変形、破壊したものと推定される。
【0047】
(破断強度測定)
実施例1及び比較例1の乾燥果実について、破断強度を測定した。破断強度は、破断強度試験機(サン科学社製のレオメーター)を用いて、各サンプル10個について、破断試験を行い、各サンプルの平均値を算出した。
【0048】
比較例1の乾燥果実は、破断強度の平均値が12Nであったのに対し、実施例1の乾燥果実は、破断強度の平均値が40Nであり、約30%向上していた。実施例1では、気孔(細胞壁により構成される空隙および細胞壁間の空隙)内に充填された糖質と表面の糖衣とによって、破断強度が高くなっていると推測される。この理由は定かではないが、おそらく、乾燥果実の切断断面に観察される、輪郭が円、楕円形状(立体的には、球状、長球状、扁球状)の硬い細胞壁が集合して形成された強固な骨格構造に起因すると考えられる。円、楕円形状、球状、長球状、扁球状は、応力に対して抵抗する力が強いため、このような骨格構造が、含浸した調味液の乾燥硬化物である糖質のマトリクスを補強し、乾燥果実の破断強度を向上させているものと考えられる。なお、乾燥果実としては、破断強度が25N以上であることが食感の観点から望ましい。
【0049】
(食感評価)
実施例1及び比較例1の乾燥果実について、食感評価を行った。食感評価は、11名の試験者に対して行った。評価基準としては、5点;サクサク感が大変良い、4点;サクサク感が良い、3点;普通の食感、2点;湿ったスナック菓子の食感、1点;グミのような柔らかい食感、とした。評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
表1より、比較例1の乾燥果実は、平均が2.2点であった。これに対し、実施例1の乾燥果実は、平均が4.2点であり、良好な食感が得られていることが確認された。