(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】養子細胞療法用の操作された細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230316BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230316BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230316BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230316BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230316BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20230316BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230316BHJP
C12N 15/90 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/04
C12N15/09 110
C12N15/62 Z
C12N15/90 104Z
(21)【出願番号】P 2018501358
(86)(22)【出願日】2016-07-15
(86)【国際出願番号】 US2016042647
(87)【国際公開番号】W WO2017011804
(87)【国際公開日】2017-01-19
【審査請求日】2019-07-16
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-28
(32)【優先日】2016-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2015/040660
(32)【優先日】2015-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516316897
【氏名又は名称】ジュノー セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】モーラー ケンドール エム.
(72)【発明者】
【氏名】リーバイツキー ハイアム アイ.
(72)【発明者】
【氏名】サザー ブライズ
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】上條 肇
【審判官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Immunotherapy,2009,Vol.32,No.7,p.737-743
【文献】Leukemia,2011,Vol.26,No.2,p.365-367
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00 - 5/10
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus(JDreamIII)
MEDLINE/BIOSIS/CAPlus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作された免疫細胞であって、
抗B細胞成熟抗原(BCMA)抗体またはBCMAに特異的に結合するその抗原結合断片を含む細胞外抗原結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)であって、CAMLタンパク質(TACI:transmembrane activator and CAML interactor)またはB細胞活性化因子受容体(BAFF-R)である関連抗原にも結合するか、または結合すると疑われる、キメラ抗原受容体(CAR)と、
関連抗原をコードする遺伝子の遺伝子破壊であって、該遺伝子破壊が、遺伝子を特異的に認識するCRISPR-Casの組み合わせでの遺伝子編集によるものであり、かつ、操作された免疫細胞における関連抗原の発現が低下される、遺伝子破壊と、
を含む、操作された免疫細胞。
【請求項2】
破壊が、遺伝子をDNAレベルで破壊することを含むか、
破壊が可逆的でないか、または
破壊が一過性でない、
請求項1記載の操作された免疫細胞。
【請求項3】
破壊が、遺伝子によってコードされる正常産物または野生型産物の発現を完全に無くす、請求項1または2記載の操作された免疫細胞。
【請求項4】
別の抗原に特異的に結合しかつ細胞に対して共刺激シグナルを誘導することができるキメラ共刺激受容体である、別の遺伝子操作された抗原受容体をさらに含む、あるいは、
第2の標的抗原に特異的に結合し、他の標的抗原の認識時に、細胞に対して阻害シグナルまたは免疫抑制シグナルまたは抑制シグナルを誘導することができるキメラ抑制性受容体である、別の遺伝子操作された抗原受容体をさらに含む、
請求項1~3のいずれか一項記載の操作された免疫細胞。
【請求項5】
第2の標的抗原が、がん細胞の表面にも感染細胞の表面にも発現していない抗原であるか、またはその発現ががん細胞もしくは感染細胞でダウンレギュレートされている、請求項4記載の操作された免疫細胞。
【請求項6】
免疫細胞がT細胞である、請求項1~5のいずれか一項記載の操作された免疫細胞。
【請求項7】
免疫細胞が、CD4+T細胞またはCD8+T細胞であるT細胞である、請求項1~6のいずれか一項記載の操作された免疫細胞。
【請求項8】
免疫細胞がナチュラルキラー(NK)細胞である、請求項1~5のいずれか一項記載の操作された免疫細胞。
【請求項9】
遺伝子操作された免疫細胞を生成する方法であって、該方法が、
(a)抗B細胞成熟抗原(BCMA)抗体またはBCMAに特異的に結合するその抗原結合断片を含む細胞外抗原結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を免疫細胞に導入する工程と、
(b)免疫細胞において、CAMLタンパク質(TACI:transmembrane activator and CAML interactor)またはB細胞活性化因子受容体(BAFF-R)である関連抗原をコードする遺伝子の遺伝子破壊を行い、それによって、関連抗原の発現が低下された、遺伝子操作された免疫細胞を生成する工程であって、受容体が、関連抗原にも結合するか、または結合すると疑われ、かつ、遺伝子破壊が、遺伝子を特異的に認識するCRISPR-Casの組み合わせでの遺伝子編集によるものである、工程と、
を含み、
工程(a)および(b)が同時にまたは任意の順序で連続して行われる、
遺伝子操作された免疫細胞を生成する方法。
【請求項10】
破壊が、遺伝子をDNAレベルで破壊することを含むか、
破壊が可逆的でないか、または
破壊が一過性でない、
請求項9記載の方法。
【請求項11】
破壊が、遺伝子によってコードされる正常産物または野生型産物の発現を完全に無くす、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
(c)別の抗原に特異的に結合しかつ細胞に共刺激シグナルを誘導することができるキメラ共刺激受容体である、別の遺伝子操作された抗原受容体をコードする核酸を免疫細胞に導入する工程
をさらに含み、工程(a)、(b)、および(c)が同時にまたは任意の順序で連続して行われる、請求項9~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
免疫細胞がT細胞である、請求項9~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
免疫細胞が、CD4+T細胞またはCD8+T細胞であるT細胞である、請求項9~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
免疫細胞がナチュラルキラー(NK)細胞である、請求項9~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
請求項9~15のいずれか一項記載の方法によって生成された、細胞。
【請求項17】
請求項1~8のいずれか一項記載の操作された免疫細胞または請求項16記載の細胞、および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項18】
疾患または状態を処置するための方法において使用するための医用薬剤の製造における、請求項1~8のいずれか一項記載の操作された免疫細胞、請求項16記載の細胞、または請求項17記載の組成物、の使用。
【請求項19】
遺伝子操作された抗原受容体が、疾患または状態に関連する抗原に特異的に結合する、請求項18記載の使用。
【請求項20】
疾患または状態が腫瘍またはがんである、請求項18または19記載の使用。
【請求項21】
疾患または状態の処置において使用するための、請求項1~8のいずれか一項記載の操作された免疫細胞、請求項16記載の細胞、または請求項17記載の組成物。
【請求項22】
遺伝子操作された抗原受容体が、疾患または状態に関連する抗原に特異的に結合する、請求項21記載の
、操作された免疫細胞、細胞、または組成物。
【請求項23】
疾患または状態が腫瘍またはがんである、請求項21または22記載の操作された免疫細胞、細胞、または組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2016年1月21日に出願され表題が「Engineered Cells for Adoptive Cell Therapy」である米国仮出願第62/025,006号、および2015年7月15日に出願され表題が「Engineered Cells for Adoptive Cell Therapy」であるPCT出願第PCT/US15/40660号からの優先権を主張する。これらの内容は、その全体が参照により組み入れられる。
【0002】
参照による配列表の組み入れ
本願は電子形式の配列表と一緒に出願されている。配列表は、2016年7月15日に作成された、サイズが72,719キロバイトの735042000541SEQLIST.TXTという名称のファイルとして提供されている。電子形式の配列表の情報は、その全体が参照により組み入れられる。
【0003】
分野
本開示は、一部の局面では、NK細胞およびT細胞を含む、養子療法用の操作された細胞に関する。一部の局面において、さらに、本開示は、前記細胞を操作および生成するための方法および組成物、前記細胞を含有する組成物、ならびにこれらを対象に投与するための方法に関する。一部の局面において、前記細胞および前記方法の特徴は特異性および/または効力を提供する。一部の態様において、前記細胞は、抗原に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)および共刺激受容体を含有する。一部の態様において、前記細胞は、複数種の抗原を標的化する受容体を含む。一部の態様において、前記細胞は、例えば、遺伝子産物をコードする遺伝子の破壊による、1種類または複数種の遺伝子産物の抑制を含む。一部の態様において、操作された抗原受容体が認識する抗原をコードする遺伝子が破壊されて、操作された細胞が標的化される可能性が小さくなる。一部の態様において、操作された抗原受容体は、標的抗原、例えば、疾患特異的(例えば、腫瘍特異的または腫瘍関連)抗原などの、ある抗原を認識してもよく、例えば、ある抗原に特異的に結合してもよく、さらに、別の抗原にも特異的に結合するか、または別の抗原も認識してもよく、別の抗原は、場合によっては、処置されている疾患もしくは状態または標的細胞もしくは標的組織もしくは病原体において発現していないか、あるいは処置されている疾患もしくは状態または標的細胞もしくは標的組織もしくは病原体と関連しないか、あるいは処置されている疾患もしくは状態または標的細胞もしくは標的組織もしくは病原体の表面で、またはその中で特異的に発現も過剰発現もアップレギュレートもされていない。しかしながら、一部のこのような局面では、別の抗原は、疾患特異的抗原、例えば、腫瘍特異的抗原などの第1の抗原のファミリーメンバーでもよく、第1の抗原と構造類似性および/もしくは配列類似性を共有してもよく、ならびに/または第1の抗原とエピトープを共有してもよく、ならびに/あるいは第1の抗原に関連してもよい。従って、一部の態様において、前記受容体は、疾患特異的抗原である第1の抗原に特異的に結合し、かつ処置されている疾患もしくは状態または細胞もしくは組織もしくは生物の疾患特異的抗原でない第2の抗原にも特異的に結合する受容体である。
【背景技術】
【0004】
背景
養子療法用の操作された細胞を生成および投与するために様々な戦略を利用することができる。例えば、遺伝子操作された抗原受容体、例えば、CARを発現する免疫細胞を作製するための戦略、および前記細胞において遺伝子発現を抑止または抑制するための戦略を利用することができる。例えば、このような細胞を用いて処置することができる、もっと広い範囲の標的抗原および疾患を提供するために、前記細胞の特異性または選択性を改善するために、例えば、オフターゲット効果を回避するために、ならびに前記細胞の効力を改善するために、例えば、エフェクター機能の抑止を回避することによって、ならびに対象に投与した際に前記細胞の活性および/または生存を改善することによって前記細胞の効力を改善するために、改善した戦略が必要とされる。このようなニーズを満たす方法、細胞、組成物、キット、およびシステムが提供される。
【発明の概要】
【0005】
概要
操作された細胞、例えば、操作された免疫細胞または免疫賦活細胞を含む細胞、ならびに前記細胞を、例えば、養子療法において生成および使用するための方法、ならびに前記細胞を含有する組成物、例えば、薬学的組成物が提供される。前記細胞の中には、単独もしくは集団で安全性、特異性、選択性、および/もしくは効力を改善する、ならびに/または養子細胞療法による、もっと広い範囲の抗原もしくは疾患の標的化を可能にする1つまたは複数の特徴、例えば、二重抗原標的化特徴および/または遺伝子破壊をもつ細胞がある。
【0006】
一部の態様において、前記細胞は、標的抗原(例えば、処置しようとする疾患もしくは状態と関連するか、あるいは処置しようとする疾患もしくは状態の表面で、またはその中で発現している、例えば、特異的に発現している標的抗原)に特異的に結合する、遺伝子操作された抗原受容体を含む、操作された細胞、例えば、操作された免疫細胞である。一部の態様において、処置されている疾患もしくは状態の表面で、またはその中で発現しているか、処置されている疾患もしくは状態の表面で、またはその中で特異的に発現しているか、あるいは処置されている疾患もしくは状態と関連する標的抗原は、本明細書中では、「疾患特異的標的」、「疾患特異的標的抗原」、または「疾患特異的抗原」と呼ばれることがある。一部の局面において、前記細胞は遺伝子の破壊をさらに含む。従って、このような用語は、疾患の表面だけ、または疾患の中だけで発現している抗原だけを指すとは意図されず、ある特定の他の細胞タイプもしくは組織タイプでも発現していても、または非疾患組織もしくは非疾患細胞の状況でも発現していても、このような疾患もしくは状態に関連するか、またはこのような疾患もしくは状態において発現している抗原を包含する。一部の局面において、破壊される遺伝子は、抗原、例えば、標的抗原(例えば、疾患もしくは状態の表面で、またはその中で発現しているか、あるいは疾患もしくは状態に関連する抗原、すなわち、疾患特異的抗原)、あるいは、例えば、このような標的抗原に関連する抗原をコードする遺伝子である。一般的に、破壊は、操作された細胞において、操作された免疫細胞にある標的抗原、そのエピトープ、あるいはこのような疾患特異的標的抗原に関連するか、またはこのような疾患特異的標的抗原と類似性もしくはエピトープを共有する別の抗原の発現の低下をもたらす。一部の局面において、標的抗原、例えば、疾患特異的標的抗原(および/または別の抗原)は、休止T細胞、活性化T細胞(一部のこのような局面では、休止T細胞でない)、もしくはその両方の中で、または休止T細胞、活性化T細胞(一部のこのような局面では、休止T細胞でない)、もしくはその両方の表面で発現している(または他の細胞または正常細胞または対照細胞と比較して高い発現を示す)抗原である。一部の局面において、標的抗原、例えば、疾患特異的標的抗原は、操作された細胞を作製するのに用いられた細胞、もしくは活性化型のこのような細胞の表面で、またはその中で発現しているか、あるいは操作された細胞を作製するのに用いられた細胞、もしくは活性化型のこのような細胞の表面で、またはその中でアップレギュレートされている、例えば、T細胞、NK細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、および/もしくは幹細胞、例えば、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の表面で、またはその中でアップレギュレートされている。一部の局面において、標的抗原は、がん、例えば、血液がん、免疫がん、白血病、リンパ腫、および/または骨髄腫、例えば、多発性骨髄腫における細胞表面で発現している。従って、一部の局面において、処置されている疾患または状態は、がんまたは腫瘍、例えば、血液がん、免疫がん、白血病、リンパ腫、および/もしくは骨髄腫、例えば、多発性骨髄腫、ならびに/または固形腫瘍、ならびに/またはこのようながんもしくは腫瘍に関連する細胞もしくは組織である。一部の態様において、疾患または状態は自己免疫性もしくは炎症性の疾患もしくは状態であるか、あるいは感染性の疾患もしくは状態またはこれらに関連する細胞もしくは病原体である。一部の局面では、別の抗原は、疾患もしくは状態において発現していないか、または疾患もしくは状態において特異的に発現していないか、または疾患もしくは状態と関連しない抗原であり、一部の局面では、どのがんでも発現していないか、またはどのがんでも特異的に発現していないか、またはどのがんにも関連しない抗原である。
【0007】
一部の局面において、標的抗原(例えば、疾患特異的標的抗原)は、操作された細胞を生成するのに用いられた細胞タイプ、または休止型もしくは活性化型のこのような細胞の表面で、例えば、休止T細胞または活性化T細胞において、ならびに/あるいは休止している、または活性化されたNK細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、幹細胞、および/または人工多能性幹細胞(iPS細胞)において、過剰発現も発現もされていない。しかしながら、一部のこのような局面では、このような標的抗原に関連する、例えば、このような標的抗原(例えば、疾患もしくは状態と関連する抗原、および/または疾患もしくは状態が発現する抗原)と配列類似性もしくは構造類似性を共有する、および/または標的抗原と共通エピトープを共有する1種類または複数種の抗原が、このような細胞タイプ、例えば、休止T細胞および/もしくは活性化T細胞の表面に、またはその内部に(場合によっては、活性化されているが、休止していないT細胞において)発現または過剰発現している。一部の局面において、抗原受容体は、標的抗原(例えば、疾患特異的標的抗原)と、標的抗原に関連するか、または標的抗原と類似性もしくはエピトープを共有する、例えば、疾患または状態に関連しなくてもよい抗原の両方に対して交差反応性を示す(例えば、特異的に結合する)。
【0008】
標的抗原またはその関連抗原が活性化T細胞の表面で、または活性化T細胞の中で発現している一部の態様では、このような抗原は、このような細胞の表面も、このような細胞の中でも、例えば、休止T細胞もしくは非活性化T細胞の表面でも、休止T細胞もしくは非活性化T細胞の中でも発現していないか、または休止T細胞もしくは非活性化T細胞の50%、60%、70%、80%、90%、または95%において発現していない。一部の局面において、活性化T細胞において、前記抗原は休止T細胞または非活性化T細胞と比較して高レベルで発現している。具体的な態様において、前記抗原は、活性化T細胞の表面で、もしくは活性化T細胞の中で、(例えば、フローサイトメトリーによって、例えば、平均蛍光強度によって測定された時に、および/または定量PCR、例えば、定量RT-PCR、例えば、qPCRによって測定された時に)休止T細胞または非活性化T細胞と比較して少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、もしくは95%多いレベルで、および/または1倍、1.5倍、2倍、3倍多いレベルで発現している。場合によっては、表面発現レベルなどの発現レベルが、異なるT細胞集団において比較される時、比較は、同じ個体、例えば、処置されている対象に由来する、一部の局面では、同じ試料または組織または流体に由来する2つの異なるこのような集団の間で行われる。
【0009】
一部の局面において、例えば、抗原受容体が、活性化シグナル、または標的抗原を発現する細胞に向けられた免疫応答を引き起こすシグナルを誘導する場合、標的抗原は、がんなどの処置しようとする疾患または状態の表面で発現しているが、操作されているか、または養子細胞療法に用いられる細胞の表面でも通常発現している抗原である。一部の局面において、操作されているか、または養子細胞療法に用いられる細胞は、標的抗原に関連するか、または標的抗原と類似性を共有する1種類または複数種の抗原を発現するか、または通常発現する。一部の局面において、疾患特異的標的などの標的抗原はユニバーサル腫瘍抗原であり、一部の局面では、操作された細胞の表面で、もしくは操作された細胞の中で天然に発現している、および/あるいは活性化T細胞の表面で、もしくは活性化T細胞の中で発現している、または活性化T細胞の表面で、もしくは活性化T細胞の中で、その発現がアップレギュレートされている抗原である。一部の局面において、ユニバーサル腫瘍抗原は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、マウス二重微小染色体2ホモログ(MDM2)、チトクロムP450 1B1(CYP1B)、HER2/neu、ウィルムス腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン(livin)、αフェトプロテイン(AFP)、がん胎児抗原(CEA)、ムチン16(MUC16)、MUC1、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、p53、またはサイクリン(D1)である。例えば、標的抗原はhTERTまたはサバイビンである。一部の局面において、標的抗原はCD38である。一部の局面において、標的抗原はB細胞成熟抗原(BCMA、BCM)である。一部の局面において、標的抗原は、BCMA、B細胞活性化因子受容体(BAFFR、BR3)、および/またはCAMLタンパク質(TACI(transmembrane activator and CAML interactor))、またはその関連タンパク質である。例えば、標的抗原は、一部の態様では、BAFFRもしくはTACIであるか、またはBAFFRもしくはTACIに関連する。一部の局面において、標的抗原はCD33またはTIM-3である。一部の局面において、標的抗原は、CD26、CD30、CD53、CD92、CD100、CD148、CD150、CD200、CD261、CD262、またはCD362である。
【0010】
一部の態様において、その発現が破壊される遺伝子または抗原は、標的抗原に関連する(例えば、疾患特異的標的抗原に関連するか、または疾患特異的標的抗原と類似性もしくはエピトープを共有する)別の抗原である。一部のこのような態様において、標的抗原(例えば、疾患特異的抗原)は、操作された細胞の表面でも、その中でも天然に発現していなくてもよく、活性化型の操作された細胞の表面でも、その中でも発現していなくてもよく、および/または活性化T細胞の表面でも、その中でも発現していなくてもよく、および/または他の細胞と比較してT細胞においてアップレギュレートも過剰発現もされていなくてもよく、非活性化T細胞もしくは正常T細胞もしくは対照T細胞と比較して活性化T細胞の表面でも、その中でもアップレギュレートも過剰発現もされていなくてもよい。しかしながら、一部のこのような態様では、関連抗原は、操作された細胞の表面で、もしくはその中で天然に発現している、および/または活性化T細胞の表面で、もしくはその中でアップレギュレートされている関連抗原であるのに対して、標的抗原は、操作された細胞の表面でも、その中でも天然に発現していなくてもよく、および/または活性化T細胞の表面でも、その中でもアップレギュレートされていなくてもよい。一部の局面において、破壊される(またはその発現が破壊される)遺伝子または抗原は、本明細書において開示された任意の標的抗原であるか、または本明細書において開示された任意の標的抗原に関連する。一部の局面において、標的抗原および/または破壊される、もしくはその発現が破壊される抗原は、BCMA、TACI、BAFF-R、および/またはFc受容体様5(FCRL5、FcRH5)である。一部の局面において、標的抗原と、破壊される1つまたは複数の抗原、例えば、標的抗原に関連する抗原は両方とも活性化T細胞の表面で、または活性化T細胞の中で発現している。
【0011】
一部の局面において、例えば、受容体が抑止シグナルまたは阻害シグナル、例えば、免疫抑制シグナルを誘導する場合、抗原は、前記の疾患または状態において発現していない抗原である。一部の局面において、遺伝子操作された抗原受容体は、標的抗原を認識すると、細胞に対して阻害シグナルまたは免疫抑制シグナルまたは抑制シグナルを誘導することができる。一部の局面において、前記抗原はがん細胞の表面にも感染細胞の表面にも発現していない抗原であるか、または抗原の発現ががん細胞もしくは感染細胞でダウンレギュレートされている抗原である。このような抗原の例はMHCクラスI分子である。
【0012】
一部の態様において、前記抗原は、操作された細胞の細胞タイプにおいて天然に発現している遺伝子産物である。一部の態様において、操作された免疫細胞における標的抗原の発現は、遺伝子破壊が無い免疫細胞における発現と比較して少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または95%低下する。一部の態様において、破壊は、遺伝子の少なくとも1つのエキソンの少なくとも一部の欠失を含む;遺伝子における中途終止コドンの存在をもたらす、遺伝子における欠失、変異、および/もしくは挿入を含む;ならびに/または遺伝子の第1のエキソン内もしくは第2のエキソン内での欠失、変異、および/もしくは挿入を含む。
【0013】
前記細胞タイプの中には、T細胞、NK細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、および幹細胞、例えば、人工多能性幹細胞(iPS細胞)がある。
【0014】
一部の態様において、遺伝子操作された抗原受容体は、細胞に対して活性化シグナルを誘導することができる。一部の局面において、遺伝子操作された抗原受容体は、ITAM含有モチーフを有する細胞内ドメインを含む。一部の局面において、遺伝子操作された抗原受容体は、T細胞受容体(TCR)または機能的な非TCR抗原認識受容体である。一部の局面において、遺伝子操作された抗原受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)、例えば、活性化CARもしくは刺激CAR、阻害CAR、および/または共刺激CARである。CARの中には、標的抗原に特異的に結合する細胞外抗原認識ドメイン、およびITAMを含む細胞内シグナル伝達ドメイン、例えば、CD3-ゼータ(CD3ζ)鎖の細胞内ドメインを有するCAR、共刺激シグナル伝達領域、例えば、CD28または41BBのシグナル伝達ドメインをさらに含むCARがある。
【0015】
一部の局面において、操作された細胞は、操作された受容体、例えば、第1の標的抗原、例えば、疾患特異的抗原に特異的に結合する細胞外抗原認識ドメインを有するCARを含み、さらに、疾患もしくは状態の表面でも、その中でも(例えば、腫瘍細胞の表面でも、その中でも)発現していないが、第1の標的抗原も発現する正常なまたは対照の細胞または組織の表面で発現している他の1種類または複数種の抗原、例えば、第2の抗原にも結合する第2の受容体、例えば、第2のCARを含む。一部の局面において、負のシグナルもしくは免疫阻害シグナルを誘導する、および/または第1の抗原を標的化する受容体によって誘導されるシグナルを別の方法で弱めるシグナル伝達部分を含む細胞内シグナル伝達ドメイン、例えば、免疫チェックポイント分子、例えば、PD-1またはCTLA4のシグナル伝達ドメイン。一部の局面において、このような細胞は、このような分子、またはこのような分子をコードする遺伝子の破壊をさらに含む。
【0016】
一部の局面において、前記細胞は、別の抗原に特異的に結合しかつ細胞に対して共刺激シグナルを誘導することができる別の遺伝子操作された抗原受容体、例えば、共刺激受容体、例えば、キメラ共刺激受容体を含む。一部の局面において、このような別の標的抗原と、第1の受容体によって認識される第1の標的抗原は別個である。一部の態様において、このような抗原のうちの少なくとも1つは、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、マウス二重微小染色体2ホモログ(MDM2)、チトクロムP450 1B1(CYP1B)、HER2/neu、ウィルムス腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン、αフェトプロテイン(AFP)、がん胎児抗原(CEA)、ムチン16(MUC16)、MUC1、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、p53、サイクリン(D1)、BCMA、BAFFR、FcRH5、またはTACIより選択され、他方は、腫瘍またはがんにおいて発現している別の抗原であり、場合によっては、特定のタイプの腫瘍またはがんにおいて発現しており、1つまたは複数のある特定の他のタイプのがんでは発現していない。一部の局面において、このような他の抗原は、多発性骨髄腫に関連するか、または多発性骨髄腫に特異的な抗原、例えば、CD38またはCD138またはBCMAまたはCS-1である。一部の局面において、このような他の抗原は、1つもしくは複数の血液がんまたは1つもしくは複数の固形腫瘍タイプにおいて発現している。一部の局面において、標的抗原と別の抗原は別個であり、個々に、CD38およびCD138からなる群より選択される。
【0017】
このような一部の局面において、前記細胞は、第1の遺伝子操作された抗原受容体を含み、処置しようとする疾患または状態において発現している抗原を認識しかつ刺激シグナルまたは活性化シグナルを誘導する、さらなる遺伝子操作された抗原受容体をさらに含み、この刺激シグナルまたは活性化シグナルは第1の遺伝子操作された抗原受容体によって弱められる。
【0018】
前記細胞を生成するための方法およびこのような方法によって生成された細胞も提供される。一部の態様において、前記方法は、(a)標的抗原に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体を免疫細胞に導入する工程と、(b)免疫細胞において標的抗原の発現を抑制し、それによって、標的抗原、例えば、疾患特異的抗原(および/または他の抗原、例えば、処置される疾患または状態に関する疾患特異的抗原ではないが、疾患特異的抗原に関連するかまたは類似性もしくはエピトープを共有する、関連する抗原)の発現が抑制された遺伝子操作された免疫細胞を生成する工程によって行われる。一部の局面において、工程(a)および(b)は同時にまたは任意の順序で連続して行われる。
【0019】
一部の態様において、(b)の工程は、標的抗原、または破壊される他の抗原をコードする遺伝子を破壊することを含み、破壊は遺伝子をDNAレベルで破壊することを含む、および/または破壊は可逆的でない、および/または破壊は一過性でない。一部の局面において、破壊は、特異的に遺伝子に結合またはハイブリダイズするDNA結合タンパク質またはDNA結合核酸を免疫細胞に導入することを含む。
【0020】
一部の態様において、破壊は、(a)DNA標的化タンパク質およびヌクレアーゼを含む融合タンパク質または(b)RNAガイドヌクレアーゼを導入することを含む。例えば、一部の態様において、DNA標的化タンパク質またはRNAガイドヌクレアーゼは、遺伝子に特異的な、ジンクフィンガータンパク質(ZFP)、TALタンパク質、またはクリスパー(CRISPR:clustered regularly interspaced short palindromic nucleic acid)を含む。一部の態様において、破壊は、特異的に遺伝子に結合するか、遺伝子を認識するか、または遺伝子にハイブリダイズする、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TAL-エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、または/およびクリスパー-Cas9の組み合わせを導入することを含む。一部の態様において、導入は、DNA結合タンパク質、DNA結合ヌクレオチド、および/またはDNA結合タンパク質もしくはDNA結合ヌクレオチドを含む複合体をコードする配列を含む核酸を細胞に導入することによって行われる。一部の態様において、核酸はウイルスベクターである。
【0021】
一部の態様において、遺伝子との特異的結合は遺伝子のエキソンの中で起こる、および/または標的抗原もしくは他の抗原のN末端をコードする遺伝子部分の中で起こる。一部の態様において、導入によって、遺伝子にフレームシフト変異が起こる、および/または遺伝子のコード領域の中に早期終止コドンが挿入される。
【0022】
任意の態様のうちの一部において、前記方法は、(c)別の遺伝子操作された抗原受容体を導入する工程をさらに含み、これはいくつかの局面では別の抗原に特異的に結合するキメラ共刺激受容体であり、いくつかの局面では処置される同じ疾患または状態に対する疾患特的抗原であり、かつ細胞に対して共刺激シグナルを誘導することができ、工程(a)、(b)、および(c)は同時にまたは任意の順序で連続して行われる。前記方法によって生成された細胞も提供される。
【0023】
一部の態様において、操作された細胞は、(a)第1の抗原(一般的に、疾患特異的抗原)に特異的に結合しかつ細胞に対して活性化シグナルを誘導することができる、第1の遺伝子操作された抗原受容体と、(b)第2の抗原(一般的に、疾患特異的抗原、例えば、同じ疾患もしくは状態に特異的であるか、またはこれと関連する抗原)に特異的に結合しかつ細胞に対して共刺激シグナル(例えば、第1の受容体とその抗原が結合した後の細胞の完全活性化またはその特定のエフェクター機能に必要な共刺激シグナル)を誘導することができる共刺激受容体、例えば、キメラ共刺激受容体である、第2の遺伝子操作された抗原受容体とを含む。
【0024】
一部の態様において、提供される方法は、2つ以上の異なる操作された細胞を、例えば、それぞれ、2つ以上の操作された細胞を含有する同じ組成物および/または別々の組成物にして投与する工程を含み、2つ以上の異なる操作された細胞はそれぞれ、第1の抗原および第2の抗原、任意で、第3の抗原などを特異的に認識するか、またはこれに結合する。一部の態様において、第1および第2の異なる細胞は、それぞれ、第1および第2の操作された受容体を発現する。
【0025】
一部の態様において、疾患特異的抗原は、必ずしも、疾患もしくは状態の表面で、またはその中で発現しているわけではない(あるいは疾患もしくは状態の表面で、またはその中で特異的に発現しているわけではない、あるいは疾患もしくは状態と関連しているわけではない)タイプの抗原でもよいが、このエピトープは疾患特異的である、および/あるいは疾患もしくは状態の細胞もしくは組織の表面でのみ(または疾患もしくは状態の細胞もしくは組織の表面で比較的多く)発現または過剰発現している。
【0026】
一部のこのような態様において、第1の抗原および第2の抗原は別個であり、少なくとも1つは、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、マウス二重微小染色体2ホモログ(MDM2)、チトクロムP450 1B1(CYP1B)、HER2/neu、ウィルムス腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン、αフェトプロテイン(AFP)、がん胎児抗原(CEA)、ムチン16(MUC16)、MUC1、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、p53、サイクリン(D1)、BCMA、BAFF-R、またはTACIからなる群より選択される。第1の第2の抗原の一方は、hTERT、サバイビン、MDM2、CYP1B、HER2/neu、WT1、リビン、AFP、CEA、MUC16、MUC1、PSMA、p53、サイクリン(D1)、BCMA、BAFFR、またはTACIのどれとも異なる抗原でもよく、別の腫瘍抗原でもよい。
【0027】
一部の態様において、操作された細胞は、(a)第1の抗原に特異的に結合しかつ細胞に対して活性化シグナルを誘導することができる、第1の遺伝子操作された抗原受容体と、(b)第2の抗原に特異的に結合しかつ細胞に対して共刺激シグナル(例えば、第1の受容体とその抗原が結合した後の細胞の完全活性化またはその特定のエフェクター機能に必要な共刺激シグナル)を誘導することができる共刺激受容体、例えば、キメラ共刺激受容体である、第2の遺伝子操作された抗原受容体とを含む。一部のこのような態様において、第1の抗原および第2の抗原は別個であり、個々に、CD38、CS-1、およびCD138からなる群より選択される。一部の態様において、第1の抗原および第2の抗原は、BCMA、ならびにCD38、CS-1、およびCD138のいずれか1つまたは複数、またはCD38、CS-1、およびCD138、TACI、ならびにBAFFRのいずれか1つまたは複数、ならびに/またはTACIおよびBAFFRのいずれか1つまたは複数からなる群より選択される。
【0028】
一部の態様において、操作された細胞は、(a)第1の抗原に特異的に結合しかつ細胞に対して活性化シグナルを誘導することができる、第1の遺伝子操作された抗原受容体と、(b)第2の抗原に特異的に結合しかつ細胞に対して共刺激シグナルを誘導することができるキメラ共刺激受容体である、第2の遺伝子操作された抗原受容体とを含み、第1の抗原および第2の抗原は別個であり、個々に、CD38およびCD138からなる群より選択される。
【0029】
一部の態様において、操作された免疫細胞は、(a)第1の抗原に特異的に結合しかつ細胞に対して活性化シグナルを誘導することができる、第1の遺伝子操作された抗原受容体と、(b)第2の抗原に特異的に結合しかつ細胞に対して共刺激シグナルを誘導することができるキメラ共刺激受容体である、第2の遺伝子操作された抗原受容体とを含み、第1の抗原および第2の抗原は別個であり、第1の抗原または第2の抗原はCS-1である。
【0030】
一部の態様において、第2の抗原は、多発性骨髄腫において発現している抗原である。一部の態様において、第1の抗原は、多発性骨髄腫において発現している抗原である。
【0031】
一部の態様において、第1の遺伝子操作された抗原受容体はITAM含有配列を含む、第1の遺伝子操作された抗原受容体はCD3-ゼータ(CD3ζ)鎖の細胞内シグナル伝達ドメインを含む、かつ/または第1の遺伝子操作された抗原受容体は、T細胞共刺激分子に由来するシグナル伝達ドメイン、例えば、T細胞共刺激分子、例えば、CD28および41BBからなる群より選択される1つまたは複数の分子の細胞内シグナル伝達ドメインを有するシグナル伝達ドメインを含まない。
【0032】
一部の局面において、(a)第1の抗原はCD38であり、第2の抗原はCD138である;(b)第1の抗原はCD38であり、第2の抗原はCS-1である;(c)第1の抗原はCD138であり、第2の抗原はCD38である;(d)第1の抗原はCD138であり、第2の抗原はCS-1である;(e)第1の抗原はCS-1であり、第2の抗原はCD38である;または(f)第1の抗原はCS-1であり、第2の抗原はCD138である、または(g)第1の抗原はCD38であり、第2の抗原はBCMAである、(h)第1の抗原はBCMAであり、第2の抗原はCS-1である;(c)第1の抗原はCD138であり、第2の抗原はBCMAである;(d)第1の抗原はBCMAであり、第2の抗原はTACIである;(e)第1の抗原はBCMAであり、第2の抗原はBAFF-Rである、または(f)第1の抗原はBCMAであり、第2の抗原はBAFF-Rである。場合によっては、前記細胞は、第3の抗原、例えば、上記の任意の組み合わせのさらなる抗原を認識する、第3の遺伝子操作された抗原受容体をさらに含む。
【0033】
一部の局面において、第1の遺伝子操作された抗原受容体は、第1の標的抗原に、少なくとも10-8M、少なくとも10-7M、少なくとも10-6M、少なくとも10-5M、10-5M、または10-4Mの解離定数(KD)で特異的に結合する細胞外抗原認識ドメインを含有する。一部の局面において、第1の遺伝子操作された抗原受容体の連結と、第2の遺伝子操作された抗原受容体の連結によって前記細胞において応答が誘導される。この応答は、遺伝子操作された抗原受容体の一方だけを連結しても誘導されない。
【0034】
一部の態様において、応答は、増殖、サイトカイン分泌、および細胞傷害活性からなる群より選択される。
【0035】
遺伝子が破壊される任意の態様などの一部の態様において、提供される細胞において破壊される遺伝子またはその発現が破壊される抗原は、第1の抗原をコードする遺伝子を含むか、もしくは第1の抗原を含む、および/または第2の抗原をコードする遺伝子を含むか、もしくは第2の抗原を含む。一部の局面において、破壊によって、例えば、本明細書に記載の破壊によって、操作された免疫細胞において第1の抗原および/または第2の抗原の発現が低下する。一部の例では、破壊される遺伝子は、CD38、TACI、BAFF-R、もしくはBCMA、および/またはhTERT、サバイビン、MDM2、CYP1B、HER2/neu、WT1、リビン、AFP、CEA、MUC16、MUC1、PSMA、p53、サイクリン(D1)をコードする。一部の態様において、抗原は、このような任意の抗原のうちの腫瘍に関連する形態、例えば、腫瘍特異的エピトープまたは腫瘍関連エピトープを含む抗原である。抗原はネオ抗原でもよい。一部のこのような局面において、破壊される遺伝子は、ネオ抗原と同一性を共有する、例えば、他の点では同じか、または似ているが、腫瘍特異的なエピトープ、バリエーション、または修飾を含まない対応する非腫瘍関連抗原でもよい。
【0036】
前記細胞と、一部の局面では担体、例えば、薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物とを含む、組成物もまた提供される。疾患および状態には、がんおよび感染症、例えば、血液がん、白血病、リンパ腫、および多発性骨髄腫、ならびに固形腫瘍および他の非血液(non-blood)がんまたは非血液(non-hematological)がんが含まれる。一部の態様において、提供される細胞および組成物は複数のタイプのがんを処置するのに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
詳細な説明
I.養子細胞療法において特異性および/または効力をもたらす組成物および方法
養子細胞療法、例えば、養子免疫治療のための細胞が提供される。前記細胞は、T細胞およびNK細胞などの免疫細胞を含み、一般的に、遺伝子操作された抗原受容体、例えば、操作されたTCRおよび/またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現する。例えば、多発性骨髄腫(MM)を含むがんを処置する際の養子療法における、前記細胞の方法および使用も提供される。前記細胞を操作、調製、および生成するための方法、前記細胞を含有する組成物、ならびに前記細胞を含むキットおよび装置、ならびに前記細胞を使用、生成、および投与するためのキットおよび装置も提供される。一部の局面において、提供される態様は、抗原特異的養子細胞療法の改善した選択性、特異性、および/もしくは効力を提供する、ならびに/または養子細胞療法を介して標的化される可能性のある疾患、状態、および/もしくは標的抗原の範囲を拡大する。一部の局面において、提供される態様は、投与されている細胞への曝露を改善する。
【0038】
前記細胞は、一般的に、1つまたは複数の遺伝子操作された核酸またはその産物を導入することによって操作される。このような産物の中には、操作されたT細胞受容体(TCR)および機能的非TCR抗原受容体、例えば、活性化CAR、刺激CAR、および共刺激CARを含むキメラ抗原受容体(CAR)、ならびにその組み合わせを含む、遺伝子操作された抗原受容体がある。
【0039】
前記細胞の中には、ある特定の遺伝子および/または遺伝子産物が、例えば、発現を損なうか、または低減する破壊を介して破壊、改変、および/または抑制されている細胞がある。このような遺伝子および遺伝子産物は、キメラ抗原受容体(CAR)または他の操作された受容体、例えば、前記細胞が発現する抗原受容体によって認識されるか、または特異的に結合される1種類または複数種の抗原、例えば、疾患特異的標的抗原、その疾患特異的エピトープ、および/またはこれに関連するものをコードする遺伝子を含んでもよいか、またはこれを含む。一部の態様において、破壊または抑制される遺伝子または遺伝子産物は、遺伝子操作された抗原受容体、例えば、活性化CAR、阻害CAR、もしくは共刺激CAR、一般的には、活性化CARもしくは共刺激CARによって標的化される抗原であるか、またはその抗原をコードする遺伝子である。従って、例えば、遺伝子編集によって、内因性遺伝子の発現の抑制および/または破壊を行う核酸も提供される。遺伝子の発現が低下した細胞、または抑制を行うための遺伝子および方法も提供される。
【0040】
一部の態様において、前記細胞は、抗原、例えば、処置しようとする疾患または状態に対応する疾患特異的標的抗原を標的化する(例えば、これに特異的に結合するか、またはこれを認識する)、操作された受容体を発現する。一部のこのような態様において、標的抗原は、操作された細胞の表面でも、その中でも発現していないか、または操作された細胞の表面でも、その中でも過剰発現していなくてもよい。一部の局面では、さらに、このような受容体、例えば、TCRまたはCARは、操作された細胞もしくは同じタイプの活性化細胞の表面で、またはその中で発現もしくは過剰発現している可能性がある1種類もしくは複数種の他の抗原に特異的に結合するか、あるいはこれを認識してもよい、例えば、これと交差反応してもよい。一部の局面において、他の抗原は、疾患特異的標的抗原に関連する、例えば、疾患特異的標的抗原と配列類似性もしくは構造類似性を含有するか、または疾患特異的標的抗原のエピトープを含有する。このような関連抗原は疾患特異的抗原でもよく、処置しようとする疾患もしくは状態の表面で発現している抗原でもよく、疾患特異的でないか、あるいはこのような疾患もしくは状態の表面で、またはその中で発現していない抗原でもよい。このような交差反応性は、一部の局面では、望ましくない効果を生じることがある、および/または効力を小さくすることがある。例えば、操作された細胞が、前記受容体が特異的に結合する標的腫瘍抗原に構造的に類似する抗原を発現するのであれば、腫瘍抗原特異的なCARまたはTCRは、類似する抗原を認識し、これに結合し、例えば、特異的に結合し、操作された細胞それ自身の望ましくない死滅または阻害を誘導する可能性がある。一部の態様において、このような関連抗原またはその発現は、操作された細胞において破壊され、それによって、このような効果の危険性が対処されるか、または小さくなる。一部の態様において、操作された細胞は、CARもしくはTCRによって標的化される同じ抗原を発現する、および/または少なくとも標的抗原と、標的抗原に関連する1種類または複数種の抗原を発現してもよい。
【0041】
一部の態様では、例えば、活性化抗原受容体または共刺激抗原受容体、例えば、活性化CARまたは共刺激CARの状況では、操作された細胞において発現している抗原(例えば、疾患特異的標的抗原、および/またはそれに関連する抗原関連、例えば、それと配列または構造上の類似性もしくはエピトープを共有している)をコードする遺伝子を抑制することによって、操作された細胞それ自身が死滅または阻害の標的となる可能性が避けられるか、または小さくなり、それによって、養子細胞療法における細胞の効力および/または持続もしくは増殖が改善される。従って、一部の局面において、このような破壊によって、操作された細胞が自身を標的化する可能性が避けられるか、または小さくなる。
【0042】
例えば、自身の細胞でも発現している抗原を標的とする抗原特異的細胞、例えば、抗原特異的T細胞は、このような細胞の同士打ち(fratricide killing)を誘導することがある。場合によっては、T細胞の同士打ちは、活性化T細胞において発現しているタンパク質抗原である、サバイビン、hTERT、p53など、例えばCS1、に対する抗原特異的T細胞の培養物において観察される(Turksma et al.(2013) Journal of Translational Medicine, 11: 152; Leisegang et al.(2010) J Clin. Invest., 120:3869-3877; Chen et al.(2007) Cancer Biol Ther., 6: 1991-1996; Theoret et al.(2008) Hum Gene Ther., 19: 1219-1232)。免疫細胞の同士打ち、例えば、自死を検出する方法は、例えば、抗原受容体(例えば、TCRまたはCARまたは他の抗原受容体)を用いて遺伝子操作されたT細胞をインビトロで、例えば、2週間まで培養し、細胞増殖、生存、および/または細胞傷害性を対象にした様々なアッセイのいずれかを用いて、ある期間にわたってモニタリングする方法を含んでもよい。場合によっては、培養細胞は、7-AAD、あるいは、例えばカスパーゼまたは活性化カスパーゼ分子を検出することによって、生存および細胞死またはアポトーシスもしくはアポトーシス経路の活性化を見分けるために用いられる他の染色もしくは他の試薬を用いて染色することができる。一部の例では、抗原特異的免疫細胞の同士打ちによって誘導される細胞傷害性は、細胞傷害アッセイ、例えば、クロム放出を評価するアッセイを用いて評価することができる。場合によっては、遺伝子操作された抗原受容体を発現する免疫細胞それ自身の自死は、このような細胞が、エクスビボでは投与前に、および/またはインビボでは投与の際に同士打ちによって無くなる可能性があるので、養子細胞療法において、ある特定の抗原特異的免疫細胞を使用する方法を限定する可能性がある。集団内での操作された細胞の自死は、操作された細胞のこのような集団内にある1個の細胞が同じ細胞によって死滅したことによるものでもよく、集団内の細胞が互いに殺し合ったことによるものでもよい。
【0043】
このような問題を克服する細胞および方法が提供される。例えば、一部の態様では、前記細胞では、遺伝子操作された抗原受容体の1つまたは複数が特異的に結合する抗原をコードする遺伝子の発現が抑制される。一部の態様において、1つまたは複数の遺伝子操作された抗原受容体によって標的指向される抗原に関連する抗原をコードする遺伝子の発現は、細胞内で抑制される。免疫細胞において本明細書に記載した抗原を抑制することによって、一部の態様において、免疫細胞が自分たちで同士打ちをすることが妨げられるか、または少なくなる。一部の態様において、同士打ちは(例えば、増殖、生存、および/または細胞傷害アッセイによって評価された時に)、操作された抗原受容体を発現するが、例えば、操作された抗原受容体によって標的化される遺伝子もしくは抗原またはその発現が破壊されていない細胞または細胞集団と比較して、少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、またはそれを超えて少なくなる。このような特徴は、一部の局面では、養子細胞療法の状況において特異性および/または効力を改善する。
【0044】
このような抗原の中には、免疫系のがん、例えば、白血病、リンパ腫、および/もしくは骨髄腫、例えば、多発性骨髄腫において発現している抗原、ならびに/または活性化T細胞を含むT細胞および/もしくはNK細胞の表面に発現している抗原がある。例示的な抗原は、活性化または刺激されたT細胞またはNK細胞およびそのサブセットの表面で発現している抗原、特に、CARまたは他の操作された受容体をコードする核酸の導入を促進するのに用いられる刺激条件によって生成された活性化細胞の表面で発現している抗原である。例えば、このような抗原の中には、通常、休止T細胞の表面では発現しておらず、T細胞が活性化すると発現が誘導される、および/または活性化T細胞の表面で発現している抗原がある。一部の態様において、前記遺伝子は、ユニバーサル腫瘍抗原、またはそのファミリーのメンバー、例えば、hTERT、サバイビン、MDM2、CYP1B、HER2/neu、WT1、リビン、AFP、CEA、MUC16、MUC1、PSMA、p53、またはサイクリン(D1)をコードする。例えば、前記遺伝子はhTERTまたはサバイビンをコードする。一部の局面において、前記遺伝子はBCMA、BAFFR、またはTACIをコードする(Kimberley et al., (2008) J Cellular Physiology, 218:1; Pelekanou, et al., (2013) PloS One, 8:12; Wang et al., (2001) Nat Immunol, 2:7; Mariette, X, (2011) Sjogren’s Syndrome; Salzer et al., (2005) Curr Opin Allergy Clin Immunol, 5:6)、および/またはFcRH5をコードする。一部の態様において、前記遺伝子は、抗原CD33またはTIM-3をコードする。一部の態様において、前記遺伝子は、抗原CD26、CD30、CD53、CD92、CD100、CD148、CD150、CD200、CD261、CD262、またはCD362をコードする。
【0045】
一部の態様において、抑制は、抗原をコードする遺伝子を破壊することによって、例えば、欠失させることによって、例えば、遺伝子全体、エキソン、もしくは領域を欠失させることによって、および/または外因性配列と交換することによって、および/または遺伝子内で、典型的には遺伝子のエキソン内で変異、例えば、フレームシフト変異もしくはミスセンス変異を起こすことによって行われる。一部の態様において、抗原が発現されないように、または抗原受容体によって認識される形で発現されないように、破壊によって中途終止コドンが遺伝子に組み込まれる。破壊は一般的にDNAレベルで行われる。一般的に、破壊は、恒久的であるか、不可逆的であるか、または一過性でない。他の態様において、RNAiを用いた遺伝子ノックダウンなどの一過性または可逆的な抑制戦略が用いられる。一部の態様において、操作された細胞の表面での抗原発現を破壊することによって、または別の方法で抑制することによって、本明細書で提供される前記方法および組成物は、操作された細胞が自分たちで殺し合う可能性を避けるか、または小さくし、それによって効力が高まる。
【0046】
一部の態様において、前記細胞は前記細胞および方法の効力が高いという特徴を含み、この効力は、操作された細胞における遺伝子発現を破壊することによって提供される。一部の局面において、破壊される遺伝子は、チェックポイント分子、免疫抑制分子、例えば、免疫抑制シグナルを細胞に送達する受容体、および/または操作された細胞の応答のロバストネスを、例えば、免疫療法に関連した投与の後に小さくすることができる任意の分子をコードする。
【0047】
一部の態様では、例えば、阻害CARによって認識される抗原の状況では、操作された細胞によって発現される阻害CARが、操作された細胞でも発現している分子に結合し、それによって、操作された細胞によるシグナル伝達または標的免疫応答に対する減弱効果が誘導される可能性が遺伝子破壊によって妨げられるか、または小さくなる。このような抗原の例は、正常細胞もしくは非標的細胞または(オフターゲット効果を阻止するために阻害CAR分子が含まれるように)オフターゲット細胞の表面に発現しており、T細胞またはNK細胞などの遺伝子操作に用いられる細胞タイプの表面にも発現している抗原である。例示的な抗原は、場合によっては、免疫回避、がん、または感染の状況においてダウンレギュレートされていることがあるが、一般的に有核細胞の表面に発現しているMHC分子、例えば、MHCクラスI分子である。他の例は、T細胞、NK細胞、または細胞療法のために操作される他の細胞の表面でも発現している任意の阻害CAR標的である。
【0048】
他の態様において、破壊される遺伝子は、抗原をコードする遺伝子以外の遺伝子、例えば、免疫抑制分子、例えば、チェックポイント分子またはアデノシン受容体、例えば、A2ARをコードする遺伝子である。
【0049】
一部の局面において、破壊は、遺伝子編集によって、例えば、破壊するように標的化された領域にある遺伝子に特異的に結合するか、またはその遺伝子にハイブリダイズするDNA結合タンパク質またはDNA結合核酸を用いた遺伝子編集によって行われる。一部の局面において、前記タンパク質または核酸は、例えば、キメラまたは融合タンパク質の中で、ヌクレアーゼと結合または複合体化される。例えば、一部の態様において、破壊は、破壊される遺伝子に特異的な、DNA標的化タンパク質およびヌクレアーゼ、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)もしくはTAL-エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)を含む融合、またはRNAガイドヌクレアーゼ、例えば、クリスパー-Cas系、例えば、クリスパー-Cas9系を用いて行われる。
【0050】
一部の態様において、複数種の抗原を標的化する戦略によって選択性および特異性が改善される。一般的に、このような戦略は、典型的には別個の遺伝子操作された抗原受容体に存在し、別個の抗原に特異的に結合する複数の抗原結合ドメインを伴う。従って、一部の態様において、前記細胞は、複数種の抗原に結合する能力を用いて操作される。一部の局面において、前記細胞または組織もしくはその細胞を用いて標的化しようとする疾患もしくは状態の中で、またはその表面でそれぞれが発現している異なる抗原に特異的に結合する、複数種の遺伝子操作された抗原受容体が細胞に導入される。このような特徴は、一部の局面では、オフターゲット効果の可能性に対処することできるか、またはその可能性を小さくすることができる。例えば、疾患または状態において発現している1種類の抗原が非罹患細胞もしくは正常細胞の表面で、または非罹患細胞もしくは正常細胞の中で発現もしている場合、このような多標的化アプローチは、前記細胞を活性化するために、または特定のエフェクター機能を誘導するために複数種の抗原受容体を介した結合を必要とすることで、望ましい細胞タイプに対する選択性を提供することができる。
【0051】
一部の態様において、前記細胞は、第1の抗原を認識する第1の遺伝子操作された抗原受容体と、第2の抗原を認識する第2の遺伝子操作された抗原受容体を発現する。一部の態様において、第2の受容体は、第2の抗原を認識する共刺激受容体を発現する。一部の態様において、両方の受容体は活性化受容体である。一部の態様において、さらなる受容体は第3の抗原またはそれより多くの抗原を認識する。一部の局面において、抗原はそれぞれ、標的細胞、疾患、または状態の状況において、例えば、新生物、がん、悪性腫瘍、もしくは感染症において発現しており、例えば、疾患特異的標的である。一部の局面において、前記抗原の1つまたは複数はまた、細胞療法を用いて標的化するのが望ましくない、細胞の表面でも、または組織もしくは環境の中でも、例えば、正常組織もしくは非罹患組織においても発現している。一部の態様において、複数種の受容体および/または複数種の抗原認識成分が存在すると、このような組織、細胞、または環境に対するオフターゲット効果の可能性が避けられるか、または小さくなる。従って、一部の局面において、提供される細胞および方法の特徴は、細胞療法によって標的化される細胞、組織、または環境以外の細胞、組織、または環境に向けられる、細胞の不適切な活性化または応答の可能性を避けるか、または小さくする。例えば、一部の態様において、提供される細胞および方法の特徴はオフターゲット効果の可能性を避けるか、または小さくする。一部の態様において、本明細書において提供される細胞または組成物または方法が2種類以上の疾患特異的標的を標的化する能力によって、抗原またはエピトープが消失するために、例えば、2種類以上の疾患特異的抗原のどちらの存在下でも活性化または刺激が可能になることで、望ましくない効果の危険性が避けられるか、または小さくなる。一部のこのような局面において、2種類以上の疾患特異的抗原受容体を標的化する2種類以上の受容体は、同じ細胞の表面に、例えば、同じ構築物もしくは異なる構築物から、および/または同じプロモーターの制御下で発現されてもよい、ならびに/あるいは同じ組成物の中にある異なる細胞によって発現されてもよい、ならびに/あるいは両方とも同じ対象に投与された2つの異なる組成物に存在してもよい。
【0052】
一部の態様において、2種類以上の抗原のうちの少なくとも1つは、腫瘍特異的標的もしくは腫瘍関連標的、ユニバーサル腫瘍抗原、および/または多発性骨髄腫特異的標的もしくは多発性骨髄腫関連標的である。一部の局面において、2種類以上の抗原の1つまたは複数は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、マウス二重微小染色体2ホモログ(MDM2)、チトクロムP450 1B1(CYP1B)、HER2/neu、ウィルムス腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン、αフェトプロテイン(AFP)、がん胎児抗原(CEA)、ムチン16(MUC16)、MUC1、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、p53、サイクリン(D1)、BCMA、BAFFR、FcRH5、またはTACIより選択され、他方は、腫瘍またはがんの表面で発現している別の抗原であり、場合によっては、特定のタイプの腫瘍またはがんの表面で発現しており、1つまたは複数のある特定の他のタイプのがんの表面では発現していない。一部の局面において、抗原の1つまたは複数は、多発性骨髄腫関連抗原または多発性骨髄腫特異的抗原、例えば、CD38もしくはCD138もしくはBCMAもしくはCS-1および/またはBAFF-R、FcRH5、もしくはTACIである。一部の局面において、このような他の抗原は、1種類もしくは複数種の血液がんまたは1種類もしくは複数種の固形腫瘍タイプの表面で発現している。一部の局面において、標的抗原および前記の別の抗原は別個であり、個々に、CD38およびCD138、CS-1、BCMA、BAFF-R、FcRH5、および/またはTACIからなる群より選択される。一部のこのような局面において、前記細胞は、処置しようとする疾患もしくは状態の表面で発現している抗原を認識し、第1の遺伝子操作された抗原受容体によって抑えられる、刺激シグナルまたは活性化シグナルを誘導する、さらなる遺伝子操作された抗原受容体をさらに含む。
【0053】
一部の局面において、遺伝子操作された抗原受容体の少なくとも1つは、ユニバーサル腫瘍抗原もしくはそのファミリーメンバーである、および/または1つもしくは複数のタイプの腫瘍の表面で発現している標的抗原に特異的である。例えば、前記細胞の中には、複数種の抗原を標的化する細胞がある。この場合、標的化される抗原の少なくとも1つは、hTERT、サバイビン、MDM2、CYP1B、HER2/neu、WT1、リビン、AFP、CEA、MUC16、MUC1、PSMA、p53、サイクリン(D1)である、ならびに/あるいは、一部の態様では、標的抗原の少なくとも1つは、BCMA、BAFFR、FcRH5、および/もしくはTACIであるか、またはこれを含む。一部の態様において、前記細胞の表面にある、1種類または複数種の他の遺伝子操作された抗原受容体によって標的化される一方または他方の抗原は、腫瘍またはがんの表面で発現している抗原である。
【0054】
一部の局面において、疾患または状態は多発性骨髄腫である、標的細胞は多発性骨髄腫細胞である、および/または標的抗原は、多発性骨髄腫において発現している抗原である。前記細胞の中には、複数種の抗原を標的化する細胞があり、このような複数種の抗原、例えば、CD38、CD138、CS-1、BCMA、BAFF-R、TACI、および/またはFcRH5の組み合わせが、多発性骨髄腫などの疾患または状態において発現している。標的化される抗原の例示的な組み合わせには、CD38、CD138、および/もしくはCS-1の2つ以上;BCMA、BAFF-R、TACIの2つ以上、および/またはBCMA、FcRH5、および/もしくはCS-1の2つ以上、BCMAと、CD38、CD138、CS-1、BAFF-R、TACI、および/もしくはFcRH5のいずれか1つまたは複数の組み合わせ;ならびに/あるいはBCMAと、CD38、CD138、CS-1、および/またはFcRH5のいずれか1つまたは複数の組み合わせが含まれる。一部の局面において、前記細胞は、多発性骨髄腫において発現している2種類以上の抗原を認識し、このうちの1つまたは複数は正常細胞または非がん細胞の表面でも発現していてもよい。一部の態様において、抗原には、CD38、CD138、およびCS-1の2つ以上;ならびに/またはBCMA、CS-1、CD38、CD138、および/またはFcRH5の2つ以上が含まれる。
【0055】
一部の態様において、複数種の抗原認識ドメインまたは複数種の抗原受容体は、複数種の受容体または抗原認識ドメインが特異的に結合または連結した時にだけ細胞において応答が誘導され、1種類の受容体またはドメインだけが抗原と連結または結合した時には応答が誘導されないように設計または操作される。一部の局面において、第1の受容体は、活性化ドメイン、例えば、ITAM含有モチーフ、例えば、CD3-ゼータ鎖の免疫賦活性ドメインを含む。一部の局面において、第1の受容体は低い親和性を示し、ならびに/または受容体による特異的結合は細胞における特定の活性、例えば細胞毒性活性、および/もしくは増殖、および/もしくはサイトカイン産生などを誘導しない。一部の局面において、第2の受容体は、このような活性化ドメインを含まないが、共刺激ドメイン、例えば、第1の受容体の連結によって誘導されるシグナルを強化する共刺激ドメインを含む共刺激受容体である。一部の局面において、正常細胞も、活性化受容体によって認識される抗原を発現するか、または活性化受容体によって認識される抗原を発現することができる。
【0056】
一部の態様において、前記細胞は、異なる抗原を認識する複数種の遺伝子操作された抗原受容体を含み、遺伝子破壊、例えば、抗原受容体の1つまたは複数によって標的化される抗原をコードする遺伝子の破壊も含む。一部の態様において、遺伝子破壊は抗原受容体の導入の前に行われる。一部の態様において、遺伝子破壊は抗原受容体の導入と同時に行われる。一部の局面において、抗原受容体の導入は、例えば、破壊された遺伝子座への相同組換えによる挿入によって、遺伝子破壊をもたらす。
【0057】
操作された細胞を生成するための方法、化合物、および組成物も提供される。細胞単離、遺伝子操作、および遺伝子破壊のための方法が提供される。遺伝子操作された抗原受容体をコードする核酸、例えば、構築物、例えば、ウイルスベクター、ならびに/または標的遺伝子破壊のためのコード核酸および/もしくはタンパク質、ならびにこのような核酸を、例えば、形質導入によって細胞に導入するための方法が提供される。操作された細胞を含有する組成物、ならびに前記細胞および組成物を、例えば、養子細胞療法のために対象に投与するための方法、キット、および装置も提供される。一部の局面において、前記細胞は対象から単離され、操作され、同じ対象に投与される。他の局面において、前記細胞は、ある対象から単離され、操作され、別の対象に投与される。
【0058】
A.細胞、細胞調製、および培養
一部の態様において、前記細胞、例えば、操作された細胞は、真核細胞、例えば、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞である。一部の態様において、前記細胞は血液、骨髄、リンパ、またはリンパ系臓器に由来し、免疫系の細胞、例えば、自然免疫もしくは適応免疫の細胞、例えば、リンパ球、典型的にはT細胞および/またはNK細胞を含む骨髄系細胞またはリンパ系細胞である。他の例示的な細胞には、幹細胞、例えば、人工多能性幹細胞(iPSC)を含む多分化能性幹細胞および多能性幹細胞が含まれる。一部の局面において、前記細胞はヒト細胞である。前記細胞は、典型的には、初代細胞、例えば、対象から直接単離された、および/または対象から単離され、凍結された細胞である。一部の態様において、前記細胞には、T細胞または他の細胞タイプの1つまたは複数のサブセット、例えば、全T細胞集団、CD4+細胞、CD8+細胞、およびその部分母集団、例えば、機能、活性化状態、成熟度、分化能、増殖、再循環、局在化、および/もしくは持続の能力、抗原特異性、抗原受容体のタイプ、特定の臓器もしくは区画における存在、マーカーもしくはサイトカイン分泌プロファイル、ならびに/または分化の程度によって規定されるT細胞または他の細胞タイプの1つまたは複数のサブセットが含まれる。処置しようとする対象に関して、前記細胞は同種異系および/または自己由来でもよい。前記方法の中には既製の方法が含まれる。一部の局面において、例えば、既製の技術の場合、前記細胞は多能性および/または多分化能性であり、例えば、幹細胞、例えば、人工多能性幹細胞(iPSC)である。一部の態様において、前記方法は、本明細書に記載のように、対象から細胞を単離する工程、細胞を調製、処理、培養、および/または操作する工程、ならびに凍結保存前または凍結保存後に細胞を同じ患者に再導入する工程を含む。
【0059】
T細胞ならびに/またはCD4+T細胞および/もしくはCD8+T細胞のサブタイプおよび部分母集団の中には、ナイーブT(TN)細胞、エフェクターT細胞(TEFF)、メモリーT細胞およびそのサブタイプ、例えば、幹細胞メモリーT(TSCM)、セントラルメモリー(central memory)T(TCM)、エフェクターメモリーT(TEM)、または高度に分化したエフェクターメモリーT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、未熟T細胞、成熟T細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、粘膜関連インバリアント(mucosa-associated invariant)T(MAIT)細胞、天然および適応性の調節性T(Treg)細胞、ヘルパーT細胞、例えば、TH1細胞、TH2細胞、TH3細胞、TH17細胞、TH9細胞、TH22細胞、濾胞ヘルパーT細胞、α/βT細胞、ならびにδ/γT細胞がある。
【0060】
一部の態様において、T細胞集団の1つまたは複数は、1種類もしくは複数種の特定のマーカー、例えば表面マーカーが陽性の細胞(マーカー+)またはそれらのマーカーを高レベルで発現する細胞(マーカーhigh)、あるいは1種類もしくは複数種のマーカーが陰性の細胞(マーカー-)またはそれらのマーカーを比較的低いレベルで発現する細胞(マーカーlow)が、濃縮または枯渇されている。場合によっては、このようなマーカーは、ある特定のT細胞集団(例えば、非メモリー細胞)において存在しないか、または比較的低いレベルで発現しているが、ある特定の他のT細胞集団(例えば、メモリー細胞)において存在するか、または比較的高いレベルで発現しているマーカーである。一態様において、前記細胞(例えば、CD8+細胞またはT細胞、例えば、CD3+細胞)は、CD45RO、CCR7、CD28、CD27、CD44、CD127、および/もしくはCD62Lが陽性の細胞またはそれらを高い表面レベルで発現する細胞が、濃縮(すなわち、正に選択)されている、ならびに/あるいはCD45RAが陽性の細胞または高い表面レベルのCD45RAを発現する細胞が枯渇(例えば、負に選択)されている。一部の態様において、細胞は、CD122、CD95、CD25、CD27、および/もしくはIL7-Rα(CD127)が陽性の細胞またはそれらを高い表面レベルで発現する細胞が、濃縮されているか、または枯渇されている。一部の例では、CD8+T細胞は、CD45RO陽性(またはCD45RA陰性)およびCD62L陽性の細胞が濃縮されている。
【0061】
一部の態様において、CD4+T細胞集団およびCD8+T細胞部分母集団、例えば、セントラルメモリー(TCM)細胞が濃縮された部分母集団。
【0062】
一部の態様において、前記細胞はナチュラルキラー(NK)細胞である。一部の態様において、前記細胞は、単球または顆粒球、例えば、骨髄系細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞、マスト細胞、好酸球、および/または好塩基球である。
【0063】
細胞調製
操作用の細胞および細胞を含有する組成物は、典型的には、試料、例えば、生物学的試料、例えば、対象から入手した生物学的試料、または対象から得られた生物学的試料から単離される。一部の態様において、細胞が単離される対象は、特定の疾患もしくは状態があるか、または細胞療法を必要とするか、または細胞療法が投与される対象である。対象は、一部の態様では、哺乳動物、例えば、ヒト、例えば、特定の治療介入、例えば、細胞が単離、処理、および/または操作される養子細胞療法を必要とする対象である。
【0064】
従って、前記細胞は、一部の態様では、初代細胞、例えば、初代ヒト細胞である。前記試料には、対象から直接採取した組織、液体、および他の試料、ならびに1つまたは複数の処理工程、例えば、分離、遠心分離、遺伝子操作(例えば、ウイルスベクターを用いた形質導入)、洗浄、および/またはインキュベーションに起因する試料が含まれる。生物学的試料は、生物学的供給源から直接得られた試料でもよく、処理された試料でもよい。生物学的試料には、体液、例えば、血液、血漿、血清、脳脊髄液、滑液、尿および汗、組織および臓器試料が、これらから得られた処理済み試料を含めて含まれるが、これに限定されない。
【0065】
一部の局面において、前記細胞が得られる、または単離される試料は血液もしくは血液由来試料であるか、アフェレーシスもしくは白血球搬出法による生成物であるか、またはこれから得られる。例示的な試料には、全血、末梢血単核球(PBMC)、白血球、骨髄、胸腺、組織生検材料、腫瘍、白血病、リンパ腫、リンパ節、消化管に関連するリンパ系組織、粘膜に関連するリンパ系組織、脾臓、他のリンパ系組織、肝臓、肺、胃、腸、結腸、腎臓、膵臓、乳房、骨、前立腺、子宮頸部、精巣、卵巣、扁桃腺、もしくは他の臓器、および/またはこれらに由来する細胞が含まれる。試料には、細胞療法、例えば、養子細胞療法の状況では、自己供給源および同種異系供給源に由来する試料が含まれる。
【0066】
一部の態様において、前記細胞は細胞株、例えば、T細胞株に由来する。前記細胞は、一部の態様では、異種供給源から、例えば、マウス、ラット、非ヒト霊長類、およびブタから得られる。
【0067】
細胞処理、調製、および親和性に基づかない分離
一部の態様において、前記細胞の単離には、1つまたは複数の調製工程および/または親和性に基づかない細胞分離工程が含まれる。一部の例では、例えば、望ましくない成分を除去するために、望ましい成分を濃縮するために、細胞を溶解するか、または特定の試薬に対して感受性のある細胞を除去するために、1種類または複数種の試薬の存在下で細胞が洗浄、遠心分離、および/またはインキュベートされる。一部の例では、細胞は、密度、粘着性、サイズ、特定の成分に対する感受性および/または耐性などの1つまたは複数の特性に基づいて分離される。
【0068】
一部の例では、対象の循環血に由来する細胞は、例えば、アフェレーシスまたは白血球搬出法によって得られる。試料は、一部の局面では、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、他の有核白血球を含むリンパ球、赤血球、および/または血小板を含有し、一部の局面では、赤血球および血小板以外の細胞を含有する。
【0069】
一部の態様において、例えば、血漿画分を除去するために、および後の処理工程のために前記細胞を適切な緩衝液または培地に入れるために、対象から収集した血球は洗浄される。一部の態様において、前記細胞はリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄される。一部の態様において、洗浄溶液には、カルシウムおよび/もしくはマグネシウムならびに/または多くの、もしくは全ての二価カチオンが無い。一部の局面において、洗浄工程は半自動「フロースルー」遠心機(例えば、Cobe 2991 cell processor, Baxter)によって製造業者の説明書に従って成し遂げられる。一部の局面において、洗浄工程はタンジェント流(tangential flow)濾過(TFF)によって製造業者の説明書に従って成し遂げられる。一部の態様において、洗浄後に、前記細胞は、様々な生体適合性緩衝液、例えば、Ca++/Mg++を含まないPBSで再懸濁される。ある特定の態様において、血球試料の成分は除去され、前記細胞は培養培地に直接、再懸濁される。
【0070】
一部の態様において、前記方法には、密度に基づく細胞分離方法、例えば、赤血球溶解による末梢血からの白血球の調製、およびPercoll勾配またはFicoll勾配による遠心分離が含まれる。
【0071】
親和性および/またはマーカープロファイルに基づく分離
一部の態様において、単離方法には、細胞における、1種類または複数種の特定の分子、例えば、表面マーカー、例えば、表面タンパク質、細胞内マーカー、または核酸の発現または存在に基づく様々な細胞タイプの分離が含まれる。一部の態様において、このようなマーカーに基づいて分離するための任意の公知の方法を使用することができる。一部の態様において、分離は親和性または免疫親和性に基づく分離である。例えば、単離は、一部の局面では、例えば、このようなマーカーに特異的に結合する抗体または結合パートナーとインキュベートし、その後に、一般的に洗浄工程を行い、抗体または結合パートナーに結合している細胞を、抗体または結合パートナーに結合していない細胞から分離することによって、1種類または複数種のマーカー、典型的には細胞表面マーカーの細胞発現または発現レベルに基づいて細胞および細胞集団を分離することを含む。
【0072】
このような分離工程は、さらに使用するために、試薬に結合した細胞が保持される正の選択に基づいてもよく、および/または抗体または結合パートナーに結合していない細胞が保持される負の選択に基づいてもよい。一部の例では、さらに使用するために両画分とも保持される。一部の局面において、不均質な集団の中にある細胞タイプを特異的に特定する抗体が利用できない場合、望ましい集団以外の細胞によって発現されるマーカーに基づいて分離が最も良く行われるように、負の選択が特に有用な場合がある。
【0073】
分離によって、特定のマーカーを発現する特定の細胞集団または細胞が100%濃縮または除去される必要はない。例えば、特定のタイプの細胞、例えば、マーカーを発現する細胞の正の選択または濃縮とは、このような細胞の数またはパーセントが増加することを指すが、このマーカーを発現しない細胞が完全に無くなる必要はない。同様に、特定のタイプの細胞、例えば、マーカーを発現する細胞の負の選択、除去、または枯渇とは、このような細胞の数またはパーセントが減少することを指すが、このような細胞が全て完全に取り除かれる必要はない。
【0074】
一部の例では、複数回の分離工程が行われ、この場合、ある工程に由来する正に選択された画分または負に選択された画分は別の分離工程、例えば、後の正の選択または負の選択に供される。一部の例では、1回の分離工程で、例えば、それぞれが負の選択のために標的化されたマーカーに特異的な複数種の抗体または結合パートナーと細胞をインキュベートすることによって、同時に、複数種のマーカーを発現する細胞を枯渇することができる。同様に、様々な細胞タイプの表面に発現している複数種の抗体または結合パートナーと細胞をインキュベートすることによって、複数の細胞タイプを同時に正に選択することができる。
【0075】
例えば、一部の局面において、特定のT細胞部分母集団、例えば、1種類もしくは複数種の表面マーカーが陽性の細胞または高レベルの1種類もしくは複数種の表面マーカーを発現する細胞、例えば、CD28+、CD62L+、CCR7+、CD27+、CD127+、CD4+、CD8+、CD45RA+、および/またはCD45RO+T細胞が正の選択法または負の選択法によって単離される。
【0076】
例えば、CD3+、CD28+T細胞は、CD3/CD28結合磁気ビーズ(例えば、DYNABEADS(登録商標)M-450 CD3/CD28 T Cell Expander)を用いて正に選択することができる。
【0077】
一部の態様において、単離は、特定の細胞集団を正の選択によって濃縮することによって、または特定の細胞集団を負の選択によって枯渇させることによって行われる。一部の態様において、正の選択または負の選択は、それぞれ、正に選択された細胞または負に選択された細胞の表面に発現している1種類もしくは複数種の表面マーカー(マーカー+)または比較的高いレベルで発現している1種類もしくは複数種の表面マーカー(マーカーhigh)に特異的に結合する1種類または複数種の抗体または他の結合剤と細胞をインキュベートすることによって成し遂げられる。
【0078】
一部の態様において、T細胞は、非T細胞、例えば、B細胞、単球、または他の白血球の表面に発現しているマーカー、例えば、CD14の負の選択によってPBMC試料から分離される。一部の局面において、CD4+ヘルパーおよびCD8+細胞傷害性T細胞を分離するために、CD4+選択工程またはCD8+選択工程が用いられる。このようなCD4+集団およびCD8+集団は、1つまたは複数のナイーブ、メモリー、および/またはエフェクターT細胞部分母集団の表面で発現しているか、または比較的多量に発現しているマーカーを対象にした正の選択または負の選択によって部分母集団にさらに選別することができる。
【0079】
一部の態様において、さらに、CD8+細胞は、ナイーブ、セントラルメモリー、エフェクターメモリー、および/またはセントラルメモリー幹細胞について、例えば、それぞれの部分母集団に関連する表面抗原に基づいた正の選択または負の選択によって濃縮または枯渇される。一部の態様において、効力を高めるために、例えば、長期生存、増殖、および/または投与後の生着を改善するために、セントラルメモリーT(TCM)細胞の濃縮が行われる。一部の局面において、この効力は、このような部分母集団において特にロバストである。Terakura et al.(2012) Blood.1:72-82; Wang et al.(2012) J Immunother. 35(9):689-701を参照されたい。一部の態様において、TCMが濃縮されたCD8+T細胞およびCD4+T細胞を組み合わせると効力がさらに高まる。
【0080】
態様において、メモリーT細胞は、CD8+末梢血リンパ球のCD62L+サブセットおよびCD62L-サブセットの両方に存在する。PBMCは、例えば、抗CD8抗体および抗CD62L抗体を用いて、CD62L-CD8+画分および/またはCD62L+CD8+画分について濃縮または枯渇することができる。
【0081】
一部の態様において、セントラルメモリーT(TCM)細胞の濃縮は、CD45RO、CD62L、CCR7、CD28、CD3、および/またはCD127の正の、または多量の表面発現に基づいている。一部の局面において、セントラルメモリーT(TCM)細胞の濃縮は、CD45RAおよび/またはグランザイムBを発現するか、または多量に発現する細胞を対象にした負の選択に基づいている。一部の局面において、TCM細胞が濃縮されたCD8+集団の単離は、CD4、CD14、CD45RAを発現する細胞の枯渇と、CD62Lを発現する細胞を対象にした正の選択または濃縮によって行われる。一局面において、セントラルメモリーT(TCM)細胞の濃縮は、CD4発現に基づいて選択された細胞の負の画分から開始して行われ、この画分は、CD14およびCD45RAの発現に基づく負の選択と、CD62Lに基づく正の選択に供される。このような選択は一部の局面では同時に行われ、他の局面では連続して、どちらの順序でも行われる。一部の局面において、CD4に基づく分離から正の画分および負の画分が両方とも保持され、この方法の後の工程において、任意で、1つまたは複数のさらなる正の選択工程または負の選択工程の後に用いられるように、CD8+細胞集団または部分母集団の調製において用いられた同じCD4発現に基づく選択工程が、CD4+細胞集団または部分母集団を作製するのにも用いられる。
【0082】
特定の例では、PBMC試料または他の白血球試料はCD4+細胞の選択に供される。この場合、負の画分および正の画分が両方とも保持される。次いで、負の画分は、CD14およびCD45RAまたはCD19の発現に基づく負の選択と、セントラルメモリーT細胞に特徴的なマーカー、例えば、CD62LまたはCCR7に基づく正の選択に供される。この場合、正の選択および負の選択はどちらの順序でも行われる。
【0083】
CD4+Tヘルパー細胞は、細胞表面抗原を有する細胞集団を特定することによってナイーブ細胞、セントラルメモリー細胞、およびエフェクター細胞に選別される。CD4+リンパ球は標準的な方法によって得ることができる。一部の態様において、ナイーブCD4+Tリンパ球は、CD45RO-、CD45RA+、CD62L+、CD4+T細胞である。一部の態様において、セントラルメモリーCD4+細胞はCD62L+およびCD45RO+である。一部の態様において、エフェクターCD4+細胞はCD62L-およびCD45RO-である。
【0084】
一例では、負の選択によってCD4+細胞を濃縮するために、モノクローナル抗体カクテルは、典型的には、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、およびCD8に対する抗体を含む。一部の態様において、正の選択および/または負の選択のために細胞の分離を可能にするために、抗体または結合パートナーは固体支持体またはマトリックス、例えば、磁気ビーズまたは常磁性ビーズに結合される。例えば、一部の態様において、前記細胞および細胞集団は、免疫磁気(または親和性磁気(affinitymagnetic))分離法を用いて分離または単離される(Methods in Molecular Medicine, vol. 58: Metastasis Research Protocols, Vol.2: Cell Behavior In Vitro and In Vivo, p 17-25 Edited by: S. A. Brooks and U. Schumacher(著作権)Humana Press Inc., Totowa, NJにおいて概説される)。
【0085】
一部の局面において、分離しようとする細胞の試料または組成物は、小さな、磁化可能な、または磁気に反応する材料、例えば、磁気に反応する粒子または微粒子、例えば、常磁性ビーズ(例えば、DynalbeadsまたはMACSビーズ)とインキュベートされる。磁気に反応する材料、例えば、粒子は、一般的に、分離することが望ましい細胞または細胞集団、例えば、負に選択する、または正に選択することが望ましい細胞または細胞集団の表面に存在する分子、例えば、表面マーカーに特異的に結合する結合パートナー、例えば、抗体に直接的または間接的に取り付けられる。
【0086】
一部の態様において、磁性粒子または磁気ビーズは、抗体または他の結合パートナーなどの特異的結合メンバーに結合される、磁気に反応する材料を含む。磁気分離方法において用いられる多くの周知の磁気に反応する材料がある。適切な磁性粒子には、参照により本明細書に組み入れられる、Molday,米国特許第4,452,773号、および欧州特許明細書EP452342Bに記載の磁性粒子が含まれる。コロイドサイズの粒子、例えば、Owen 米国特許第4,795,698号およびLiberti et al.,米国特許第5,200,084号に記載のコロイドサイズの粒子が他の例である。
【0087】
インキュベーションは、一般的に、磁性粒子または磁気ビーズに取り付けられている、抗体または結合パートナーまたはこのような抗体もしくは結合パートナーに特異的に結合する分子、例えば、二次抗体もしくは他の試薬が、もし細胞表面分子が試料中の細胞の表面に存在すれば細胞表面分子に特異的に結合する条件下で行われる。
【0088】
一部の局面において、試料は磁場の中に置かれ、磁気に反応する粒子または磁化可能な粒子が取り付けられている細胞は磁石に引き付けられるか、非標識細胞から分離される。正の選択の場合、磁石に引き付けられた細胞が保持される。負の選択の場合、引き付けられなかった細胞(非標識細胞)が保持される。一部の局面において、同じ選択工程の間に正の選択と負の選択の組み合わせが行われ、正の画分および負の画分が保持され、さらに処理されるか、またはさらなる分離工程を受ける。
【0089】
ある特定の態様において、磁気に反応する粒子は一次抗体または他の結合パートナー、二次抗体、レクチン、酵素、もしくはストレプトアビジンでコーティングされる。ある特定の態様において、磁性粒子は、1種類または複数種のマーカーに特異的な一次抗体のコーティングを介して細胞に取り付けられる。ある特定の態様において、前記細胞はビーズではなく、一次抗体または結合パートナーで標識され、次いで、細胞タイプ特異的な二次抗体または他の結合パートナー(例えば、ストレプトアビジン)でコーティングされた磁性粒子が添加される。ある特定の態様において、ストレプトアビジンでコーティングされた磁性粒子が、ビオチン化した一次抗体または二次抗体と一緒に用いられる。
【0090】
一部の態様において、後でインキュベート、培養、および/または操作される細胞に、磁気に反応する粒子を取り付けたままにしておく。一部の局面において、患者に投与するために、前記粒子を細胞に取り付けたままにしておく。一部の態様において、磁化可能な粒子または磁気に反応する粒子は細胞から取り除かれる。磁化可能な粒子を細胞から取り除くための方法は公知であり、例えば、競合する非標識競合抗体、磁化可能な粒子、または切断可能なリンカーと結合体化した抗体などの使用を含む。一部の態様において、磁化可能な粒子は生分解性である。
【0091】
一部の態様において、親和性に基づく選択は、磁気活性化細胞選別(MACS)(Miltenyi Biotech, Auburn, CA)を介した選択である。磁気活性化細胞選別(MACS)システムは、磁化粒子が取り付けられている細胞を高純度で選択することができる。ある特定の態様において、MACSは、外部磁場が印加された後に、非標的種および標的種が連続して溶出されるモードで動作する。すなわち、取り付けられなかった種が溶出される間に、磁化粒子に取り付けられた細胞は所定の位置に保たれる。次いで、この第1の溶出工程が完了した後に、磁場に閉じ込められ、溶出しないようにされていた種は、このような種が溶出および回収が可能なように何らかのやり方で遊離される。ある特定の態様において、非標的細胞は標識され、不均質な集団細胞から枯渇される。
【0092】
ある特定の態様において、単離または分離は、前記方法の単離工程、細胞調製工程、分離工程、処理工程、インキュベーション工程、培養工程、および/または処方工程の1つまたは複数を行うシステム、装置、または器具を用いて行われる。一部の局面において、前記システムは、例えば、誤り、使用者の操作、および/または汚染を最小限にするために、これらの各工程を閉じた、または無菌の環境において行うのに用いられる。一例では、システムは、国際特許出願公開番号WO2009/072003またはUS20110003380A1に記載のシステムである。
【0093】
一部の態様において、システムまたは器具は、統合システム型もしくは自立型システムにおいて、および/または自動的に、もしくはプログラム可能なやり方で、単離工程、処理工程、操作工程、および処方工程の1つまたは複数、例えば、全てを行う。一部の局面において、システムまたは器具は、使用者が、処理工程、単離工程、操作工程、および処方工程の様々な局面をプログラムする、制御する、そのアウトカムを評価する、および/または調整するのを可能にする、システムまたは器具と通信するコンピュータおよび/またはコンピュータプログラムを備える。
【0094】
一部の局面において、例えば、閉じた無菌のシステムにおいて細胞を臨床規模レベルで自動分離するために、分離工程および/または他の工程はCliniMACSシステム(Miltenyi Biotic)を用いて行われる。構成要素には、内蔵型マイクロコンピュータ、磁気分離ユニット、蠕動ポンプ、および様々なピンチ弁が含まれる場合がある。内蔵型コンピュータは一部の局面では機器の全構成要素を制御し、反復手順を統一された順序で行うようにシステムを命令する。磁気分離ユニットは、一部の局面では、可動性の永久磁石および選択カラム用のホルダを備える。蠕動ポンプはチューブセット全体にわたる流速を制御し、ピンチ弁と一緒に、緩衝液がシステムを制御されて流れ、細胞が絶え間なく懸濁されるのを確かなものにする。
【0095】
CliniMACSシステムは、一部の局面では、滅菌した非発熱性の溶液に溶解して供給される、抗体に結合した磁化可能な粒子を使用する。一部の態様において、細胞は磁性粒子で標識された後に、余分な粒子を除去するために洗浄される。次いで、細胞調製バッグがチューブセットに接続され、そして次にチューブセットは緩衝液含有バックおよび細胞収集バッグに接続される。チューブセットは、プレカラムおよび分離カラムを含む予め組み立てられた滅菌チューブからなり、使い捨て専用である。分離プログラムが開始した後に、システムは分離カラムに細胞試料を自動的にアプライする。標識された細胞はカラム内に保持されるのに対して、標識されなかった細胞は一連の洗浄工程によって除去される。一部の態様において、本明細書に記載の方法と共に使用するための細胞集団は標識されず、カラム内に保持されない。一部の態様において、本明細書に記載の方法と共に使用するための細胞集団は標識され、カラム内に保持される。一部の態様において、磁場が取り除かれた後に、本明細書に記載の方法と共に使用するための細胞集団はカラムから溶出され、細胞収集バッグ内に収集される。
【0096】
ある特定の態様において、分離工程および/または他の工程はCliniMACS Prodigyシステム(Miltenyi Biotec)を用いて行われる。CliniMACS Prodigyシステムには、一部の局面では、細胞を自動洗浄し、遠心分離によって分画する細胞処理ユニット(cell processing unity)が付いている。CliniMACS Prodigyシステムはまた、内蔵カメラと、供給源の細胞産物の巨視的な層を識別することによって最適な細胞分画エンドポイントを決定する画像認識ソフトウェアも備えている場合がある。例えば、末梢血は赤血球、白血球、および血漿の層に自動的に分離される。CliniMACS Prodigyシステムはまた、細胞培養プロトコール、例えば、細胞分化および増殖、抗原添加、ならびに長期細胞培養を行う内臓型細胞発育チャンバーも備えている場合がある。インプットポートを用いると、培地を無菌的に取り出し、補充することができる。細胞は、内臓型顕微鏡を用いてモニタリングすることができる。例えば、Klebanoff et al.(2012) J Immunother. 35(9): 651-660, Terakuraet al.(2012) Blood.1:72-82、およびWang et al.(2012) J Immunother. 35(9):689-701を参照されたい。
【0097】
一部の態様において、本明細書に記載の細胞集団はフローサイトメトリーを介して収集および濃縮(または枯渇)される。フローサイトメトリーでは、複数種の細胞表面マーカーについて染色された細胞は流体の流れに入って運ばれる。一部の態様において、本明細書に記載の細胞集団は、分取スケール(preparative scale)(FACS)選別を介して収集および濃縮(または枯渇)される。ある特定の態様において、本明細書に記載の細胞集団は、FACSに基づく検出系と組み合わせて微小電気機械システム(MEMS)チップを用いることによって収集および濃縮(または枯渇)される(例えば、WO2010/033140, Cho et al.(2010) Lab Chip 10, 1567-1573;および Godin et al.(2008) J Biophoton. 1(5):355-376を参照されたい)。どちらの場合でも、細胞は複数種のマーカーで標識することができ、それによって、詳細に明らかにされたT細胞サブセットを高純度で単離することが可能になる。
【0098】
一部の態様において、正の選択および/または負の選択のために分離を容易にするために、抗体または結合パートナーは1種類または複数種の検出可能なマーカーで標識される。例えば、分離は蛍光標識抗体との結合に基づいてもよい。一部の例では、1種類または複数種の細胞表面マーカーに特異的な抗体または他の結合パートナーの結合に基づく細胞の分離は、流体の流れの中で、例えば、分取スケール(FACS)および/または微小電気機械システム(MEMS)チップを備える蛍光標識細胞分取(FACS)によって、例えば、フローサイトメトリー検出系と組み合わせて行われる。このような方法を用いると、複数種のマーカーに基づいて正の選択および負の選択を同時に行うことができる。
【0099】
凍結保存
一部の態様において、調製方法は、単離、インキュベーション、および/または操作の前または後に細胞を凍結、例えば、凍結保存するための工程を含む。一部の態様において、凍結工程およびその後の解凍工程によって、細胞集団の中にある顆粒球が取り除かれ、単球がある程度まで取り除かれる。一部の態様において、例えば、血漿および血小板を取り除く洗浄工程の後に、前記細胞は凍結溶液に懸濁される。様々な任意の公知の凍結溶液およびパラメータを一部の局面で使用することができる。一例は、20%DMSOおよび8%ヒト血清アルブミン(HSA)を含有するPBS、または他の適切な細胞凍結培地を使用することを伴う。次いで、DMSOおよびHSAの最終濃度がそれぞれ10%および4%になるように、これを培地で1:1に希釈する。次いで、細胞は1分につき1°の速度で-80℃まで凍結され、液体窒素貯蔵タンクの気相の中で保管される。
【0100】
一部の態様において、提供される方法は、発育工程、インキュベーション工程、培養工程、および/または遺伝子操作工程を含む。例えば、一部の態様において、枯渇された細胞集団および培養開始組成物をインキュベートおよび/または操作するための方法が提供される。
【0101】
従って、一部の態様において、前記細胞集団は培養開始組成物中でインキュベートされる。インキュベーションおよび/または操作は、培養容器、例えば、ユニット、チャンバー、ウェル、カラム、チューブ、チューブセット、弁、バイアル、培養皿、バック、または細胞を培養もしくは発育するための他の容器の中で行われてもよい。
【0102】
インキュベーションおよび培養
一部の態様において、前記細胞は遺伝子操作の前に、または遺伝子操作に関連してインキュベートおよび/または培養される。インキュベーション工程は、培養、発育、刺激、活性化、および/または増殖を含んでもよい。一部の態様において、前記組成物または細胞は刺激条件または刺激薬剤の存在下でインキュベートされる。このような条件は、遺伝子操作のために、例えば、遺伝子操作された抗原受容体を導入するために、集団内の細胞の増殖(proliferation)、増殖(expansion)、活性化、および/もしくは生存を誘導するように、抗原曝露を模倣するように、ならびに/または細胞を初回刺激(prime)するように設計された条件を含む。
【0103】
条件は、特定の培地、温度、酸素含有量、二酸化炭素含有量、時間、薬剤、例えば、栄養分、アミノ酸、抗生物質、イオン、および/または刺激因子、例えば、サイトカイン、ケモカイン、抗原、結合パートナー、融合タンパク質、組換え可溶性受容体、ならびに細胞を活性化するように設計された他の任意の薬剤のうち1つまたは複数を含んでもよい。
【0104】
一部の態様において、刺激条件または刺激薬剤には、TCR複合体の細胞内シグナル伝達ドメインを活性化することができる1種類または複数種の薬剤、例えば、リガンドが含まれる。一部の局面において、この薬剤は、T細胞におけるTCR/CD3細胞内シグナル伝達カスケードをオンにするか、または開始する。このような薬剤には、例えば、ビーズなどの固体支持体に結合した、抗体、例えば、TCR成分および/もしくは共刺激受容体に特異的な抗体、例えば、抗CD3、抗CD28、ならびに/または1種類もしくは複数種のサイトカインが含まれ得る。任意で、増殖方法は、抗CD3および/または抗CD28の抗体を(例えば、少なくとも約0.5ng/mlの濃度で)培養培地に添加する工程をさらに含んでもよい。一部の態様において、刺激薬剤には、IL-2および/またはIL-15、例えば、少なくとも約10単位/mLの濃度のIL-2が含まれる。
【0105】
一部の局面において、インキュベーションは、Riddellらへの米国特許第6,040,177号、Klebanoff et al.(2012) J Immunother. 35(9): 651-660、Terakuraet al.(2012) Blood.1:72-82、および/またはWang et al.(2012) J Immunother. 35(9):689-701に記載の技法などの技法に従って行われる。
【0106】
一部の態様において、T細胞は、(例えば、結果として生じた細胞集団が、増殖させようとする初期集団内でTリンパ球1個につき少なくとも約5個、10個、20個、もしくは40個またはそれより多いPBMCフィーダー細胞を含有するように)フィーダー細胞、例えば、非分裂末梢血単核球(PBMC)を培養開始組成物に添加し、培養物を(例えば、T細胞の数を増やすのに十分な時間にわたって)インキュベートすることによって増殖される。一部の局面において、非分裂フィーダー細胞はγ線を照射したPBMCフィーダー細胞を含んでもよい。一部の態様において、細胞分裂を阻止するために、PBMCに約3000~3600ラドの範囲のγ線が照射される。一部の局面において、フィーダー細胞が培養培地に添加された後に、T細胞の集団が添加される。
【0107】
一部の態様において、刺激条件は、ヒトTリンパ球の増殖に適した温度、例えば、少なくとも約25℃、一般的には少なくとも約30度、および一般的には37℃または約37℃を含む。任意で、インキュベーションは、フィーダー細胞として非分裂性のEBV形質転換リンパ芽球様細胞(LCL)を添加する工程をさらに含んでもよい。LCLに、約6000~10,000ラドの範囲のγ線を照射することができる。LCLフィーダー細胞は、一部の局面では、LCLフィーダー細胞と初回Tリンパ球との比が少なくとも約10:1などの任意の適切な量で提供される。
【0108】
態様において、抗原特異的T細胞、例えば、抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞は、ナイーブまたは抗原特異的なTリンパ球を抗原で刺激することによって得られる。例えば、サイトメガロウイルス抗原に対する抗原特異的T細胞株またはクローンは、感染対象からT細胞を単離し、前記細胞をインビトロで同じ抗原で刺激することによって作製することができる。
【0109】
一部の局面において、前記方法は、操作された細胞または操作されている細胞の表面で1種類または複数種のマーカーの発現を評価する工程を含む。一態様において、前記方法は、養子細胞療法によって標的化されることが求められる1種類または複数種の標的抗原(例えば、遺伝子操作された抗原受容体によって認識される抗原)の表面発現を、例えば、親和性に基づく検出方法、例えば、フローサイトメトリーによって評価する工程を含む。前記方法が抗原または他のマーカーの表面発現を明らかにする一部の局面では、例えば、本明細書に記載の方法を用いて、抗原または他のマーカーをコードする遺伝子は破壊されるか、発現が別のやり方で抑制される。
【0110】
B.遺伝子操作された抗原受容体
一部の態様において、前記細胞は、1種類または複数種の抗原受容体をコードする、遺伝子操作を介して導入された1つまたは複数の核酸、およびこのような核酸の遺伝子操作された産物を含む。一部の態様において、このような核酸は異種である、すなわち、細胞または細胞から得られた試料に通常は存在せず、例えば、別の生物または細胞から得られたもの、例えば、操作されている細胞、および/またはこのような細胞が得られた生物に普通は見られないものである。一部の態様において、前記核酸は非天然であり、例えば、複数の異なる細胞タイプに由来する様々なドメインをコードする核酸のキメラ組み合わせを含む核酸を含む、天然に見られない核酸である。
【0111】
遺伝子操作された産物の中には、遺伝子操作された抗原受容体がある。このような抗原受容体の中には、遺伝子操作されたT細胞受容体(TCR)およびその成分、ならびに機能的な非TCR抗原受容体、例えば、キメラ活性化受容体およびキメラ共刺激受容体を含むキメラ抗原受容体(CAR)がある。一部の態様において、CARは、抗原に特異的に結合する細胞外抗原認識ドメインを含有する。一部の態様において、抗原は、細胞の表面で発現しているタンパク質である。一部の態様において、CARはTCR様CARであり、抗原は、処理されたペプチド抗原、例えば、TCRと同様に、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の状況において細胞表面で認識される、細胞内タンパク質のペプチド抗原である。
【0112】
CARおよび組換えTCRを含む例示的な抗原受容体、ならびに受容体を操作するための方法および受容体を細胞に導入するための方法には、例えば、国際特許出願公開番号WO200014257、WO2013126726、WO2012/129514、WO2014031687、WO2013/166321、WO2013/071154、WO2013/123061、米国特許出願公開第US2002131960号、同第US2013287748号、同第US20130149337号、米国特許第6,451,995号、同第7,446,190号、同第8,252,592号、同第8,339,645号、同第8,398,282号、同第7,446,179号、同第6,410,319号、同第7,070,995号、同第7,265,209号、同第7,354,762号、同第7,446,191号、同第8,324,353号、および同第8,479,118号、ならびに欧州特許出願第EP2537416号に記載のもの、ならびに/またはSadelain et al., Cancer Discov. 2013 April; 3(4): 388-398; Davila et al.(2013) PLoS ONE 8(4): e61338; Turtle et al., Curr. Opin.Immunol., 2012 October; 24(5): 633-39; Wu et al., Cancer, 2012 March 18(2): 160-75に記載のものである。一部の局面において、遺伝子操作された抗原受容体には、米国特許第7,446,190号に記載のCARおよび国際特許出願公開番号WO/2014055668A1に記載のCARが含まれる。
【0113】
キメラ抗原受容体(CAR)
一部の態様において、操作された抗原受容体には、活性化CARもしくは刺激CAR、共刺激CAR(WO2014/055668を参照されたい)、および/または阻害CAR(iCAR、Fedorov et al., Sci. Transl. Medicine, 5(215)(December, 2013)を参照されたい)を含むキメラ抗原受容体(CAR)が含まれる。CARは、一般的に、一部の局面ではリンカーおよび/または膜貫通ドメインを介して、1つまたは複数の細胞内シグナル伝達成分と連結した細胞外抗原(またはリガンド)結合ドメインを含む。このような分子は、典型的には、天然抗原受容体を介したシグナル、このような受容体と共刺激受容体の組み合わせを介したシグナル、および/または共刺激受容体だけを介したシグナルを模倣するか、またはこれに似せる。
【0114】
一部の態様において、特定の抗原(またはマーカーまたはリガンド)、例えば、養子療法によって標的化しようとする特定の細胞タイプにおいて発現している抗原、例えば、がんマーカー、および/または減弱応答を誘導することを目的とした抗原、例えば、正常細胞もしくは非罹患細胞タイプの表面で発現している抗原に対する特異性をもつCARが構築される。従って、CARは、典型的には、細胞外部分に、1つもしくは複数の抗原結合分子、例えば、1つもしくは複数の抗原結合断片、ドメイン、もしくは部分、または1つもしくは複数の抗体可変ドメイン、および/または抗体分子を含む。一部の態様において、CARは、抗体分子の1つまたは複数の抗原結合部分、例えば、モノクローナル抗体(mAb)の可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)に由来する単鎖抗体断片(scFv)を含む。
【0115】
本明細書において「抗体」という用語は最も広い意味で用いられ、インタクトな抗体、ならびに断片抗原結合(Fab)断片、F(ab')2断片、Fab'断片、Fv断片、組換えIgG(rIgG)断片、抗原に特異的に結合することができる可変重鎖(VH)領域、単鎖可変断片(scFv)を含む単鎖抗体断片、およびシングルドメイン抗体(例えば、sdAb、sdFv、ナノボディ)断片を含む機能的(抗原結合)抗体断片を含む、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を含む。この用語は、遺伝子操作された免疫グロブリンおよび/または別の方法で改変された形の免疫グロブリン、例えば、イントラボディ(intrabody)、ペプチボディ(peptibody)、キメラ抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、およびヘテロコンジュゲート(heteroconjugate)抗体、多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体、ダイアボディ、トリアボディ、およびテトラボディ、タンデムdi-scFv、タンデムtri-scFvを包含する。特に定めのない限り、「抗体」という用語は、その機能的抗体断片を包含すると理解しなければならない。この用語はまた、IgGおよびそのサブクラス、IgM、IgE、IgA、およびIgDを含む任意のクラスまたはサブクラスの抗体を含むインタクトな抗体または完全長抗体も包含する。
【0116】
一部の態様において、抗原結合タンパク質、抗体およびその抗原結合断片は完全長抗体の抗原を特異的に認識する。一部の態様において、抗体の重鎖および軽鎖は完全長でもよく、抗原結合部分(Fab、F(ab')2、Fv、または単鎖Fv断片(scFv))でもよい。他の態様において、抗体重鎖定常領域は、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、およびIgEから選択され、特に、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、さらに具体的にはIgG1(例えば、ヒトIgG1)から選択される。別の態様において、抗体軽鎖定常領域は、例えば、κまたはλ、特にκから選択される。
【0117】
提供される抗体の中には抗体断片がある。「抗体断片」とは、インタクトな抗体が結合する抗原に結合する、インタクトな抗体の部分を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例には、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2;ダイアボディ;直鎖抗体;可変重鎖(VH)領域、単鎖抗体分子、例えば、scFvおよびシングルドメインVHシングル抗体;ならびに抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれるが、これに限定されない。特定の態様において、抗体は、可変重鎖領域および/または可変軽鎖領域を含む単鎖抗体断片、例えば、scFvである。
【0118】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、抗体と抗原との結合に関与する抗体重鎖または軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれ、VHおよびVL)は一般的に似た構造を有し、各ドメインは4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と3つのCDRを含む(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91(2007)を参照されたい)。抗原結合特異性を付与するにはVHドメインまたはVLドメインが1個あるだけで十分な場合がある。さらに、特定の抗原に結合する抗体のVHドメインまたはVLドメインを用いて、それぞれ、相補的なVLドメインまたはVHドメインのライブラリーをスクリーニングすることで、特定の抗原に結合する抗体が単離される場合がある。例えば、Portolano et al., J. Immunol. 150:880-887(1993); Clarkson et al., Nature 352:624-628(1991)を参照されたい。
【0119】
シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全てもしくは一部または軽鎖可変ドメインの全てもしくは一部を含む抗体断片である。ある特定の態様において、シングルドメイン抗体はヒトシングルドメイン抗体である。一部の態様において、CARは、抗原、例えば、がんマーカー、または標的化しようとする細胞もしくは疾患、例えば、腫瘍細胞もしくはがん細胞の細胞表面抗原、例えば、本明細書に記載の、または当技術分野において公知の任意の標的抗原に特異的に結合する抗体重鎖ドメインを含む。
【0120】
抗体断片は、インタクトな抗体のタンパク質分解消化ならびに組換え宿主細胞による生成を含むが、これに限定されない様々な技法によって作ることができる。一部の態様において、抗体は、組換えにより生成された断片、例えば、天然では生じない配置を含む断片、例えば、2つ以上の抗体領域もしくは鎖が合成リンカー、例えば、ペプチドリンカーでつながっている断片、および/または天然のインタクトな抗体の酵素消化では生成されないことがある断片である。一部の局面において、抗体断片はscFvである。
【0121】
「ヒト化」抗体とは、全ての、または実質的に全てのCDRアミノ酸残基が非ヒトCDRに由来し、全ての、または実質的に全てのFRアミノ酸残基がヒトFRに由来する抗体である。ヒト化抗体は、任意で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでもよい。「ヒト化型」の非ヒト抗体とは、典型的には、親非ヒト抗体の特異性および親和性を保持しながらヒトに対する免疫原性を小さくするためにヒト化されている、非ヒト抗体の変種を指す。一部の態様において、ヒト化抗体にある、いくつかのFR残基は、例えば、抗体特異性または親和性を回復または改善するために、非ヒト抗体(例えば、CDR残基が得られた抗体)に由来する対応する残基で置換される。
【0122】
一部の態様において、CARは、細胞の表面で発現している抗原、例えば、インタクトな抗原、例えば、疾患特異的抗原を特異的に認識する抗体または抗原結合断片(例えば、scFv)を含有する。一部の態様において、CARは、CARが認識するように設計された標的抗原、例えば疾患特異的抗原に関する1つまたは複数の抗原であって、例えば、配列、エピトープ、または構造において類似性または同一性を共用する、1つまたは複数の抗原を更に認識するか、またはこれに結合する、例えばこれと交差反応性である。
【0123】
一部の態様において、CARは、MHC-ペプチド複合体として細胞表面に提示された細胞内抗原、例えば、腫瘍関連抗原を特異的に認識するTCR様抗体、例えば、抗体または抗原結合断片(例えば、scFv)を含有する。一部の態様において、MHC-ペプチド複合体を認識する抗体またはその抗原結合部分は、抗原受容体などの組換え受容体の一部として細胞の表面に発現させることができる。抗原受容体の中には、機能的な非TCR抗原受容体、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)がある。一般的に、ペプチド-MHC複合体に向けられたTCR様特異性を示す抗体または抗原結合断片を含有するCARはまたTCR様CARと呼ばれることもある。
【0124】
「主要組織適合遺伝子複合体」(MHC)への言及は、多様な形をもつペプチド結合部位または結合溝(groove)を含有し、場合によっては、細胞機構によって処理されたペプチド抗原を含むポリペプチドのペプチド抗原と複合体化することができるタンパク質、一般的には糖タンパク質を指す。場合によっては、MHC分子は、T細胞の表面にある抗原受容体、例えば、TCRまたはTCR様抗体が認識可能なコンホメーションで抗原を提示するために、ペプチドとの複合体、すなわち、MHC-ペプチド複合体を含めて細胞表面に示されてもよく、発現されてもよい。一般的に、MHCクラスI分子は、膜貫通α鎖、場合によっては、3つのαドメインをもつ膜貫通α鎖と、非共有結合しているβ2ミクログロブリンを有するヘテロ二量体である。一般的に、MHCクラスII分子は2つの膜貫通糖タンパク質αおよびβで構成され、αおよびβは両方とも典型的には膜を貫通している。MHC分子は、ペプチドを結合するための抗原結合部位と、適切な抗原受容体が認識するのに必要な配列を含有する、MHCの有効な部分を含んでもよい。一部の態様において、MHCクラスI分子は、MHC-ペプチド複合体が、T細胞、例えば、一般的にはCD8+T細胞であるが、場合によってはCD4+T細胞によって認識される場所である細胞表面に、サイトゾル内に生じたペプチドを送達する。一部の態様において、MHCクラスII分子は、典型的には、小胞系内に生じたペプチドがCD4+T細胞によって認識される場所である細胞表面に、このようなペプチドを送達する。一般的に、MHC分子は、総称して、マウスではH-2、ヒトではヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれる、連鎖した遺伝子座の一群によってコードされる。従って、典型的に、ヒトMHCはヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれることもある。
【0125】
「MHC-ペプチド複合体」もしくは「ペプチド-MHC複合体」という用語またはそのバリエーションは、ペプチド抗原とMHC分子の複合体または結合、例えば、一般的に、MHC分子の結合溝または裂け目(cleft)におけるペプチドの非共有結合相互作用によるペプチド抗原とMHC分子の複合体または結合を指す。一部の態様において、MHC-ペプチド複合体は細胞の表面に存在するか、または細胞の表面で示される。一部の態様において、抗原受容体、例えば、TCR、TCR様CAR、またはその抗原結合部分がMHC-ペプチド複合体を特異的に認識することができる。
【0126】
「ペプチド抗原」または「ペプチドエピトープ」という用語は、例えば、抗原受容体が認識する場合、MHC分子と結合することができるポリペプチドのペプチドを指す。一般的に、前記ペプチドは、もっと長い生物学的分子、例えば、ポリペプチドまたはタンパク質の断片に由来するか、またはこれに基づく。一部の態様において、前記ペプチドの長さは典型的には約8~約24アミノ酸である。一部の態様において、ペプチドの長さは、MHCクラスII複合体における認識の場合、約9~22アミノ酸である。一部の態様において、ペプチドの長さは、MHCクラスI複合体における認識の場合、約8~13アミノ酸である。一部の態様において、MHC-ペプチド複合体などのMHC分子の状況においてペプチドが認識されると、TCRまたはTCR様CARなどの抗原受容体は、T細胞に対して、T細胞応答、例えば、T細胞増殖、サイトカイン産生、細胞傷害性T細胞応答、または他の応答を誘導する活性化シグナルを発生または誘発する。
【0127】
一部の態様において、MHC-ペプチド複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合部分は、特定のMHC-ペプチド複合体を含有する有効量の免疫原で宿主を免疫化することによって生成することができる。場合によっては、MHC-ペプチド複合体のペプチドは、MHCに結合することができる抗原、例えば、腫瘍抗原、例えば、ユニバーサル腫瘍抗原、またはそのファミリーのメンバー、骨髄腫抗原、または下記で説明される他の抗原のエピトープである。一部の態様において、次いで、免疫応答を誘発するために有効量の免疫原が宿主に投与される。この場合、免疫原は、MHC分子の結合溝内でのペプチドの三次元提示に対して免疫応答を誘発するのに十分な期間にわたって、その三次元形態を保持する。次いで、MHC分子の結合溝内でのペプチドの三次元提示を認識する望ましい抗体が生成されたかどうか確かめるために、宿主から収集した血清がアッセイされる。一部の態様において、生成された抗体は、MHC-ペプチド複合体を、MHC分子だけと、関心対象のペプチドだけと、およびMHCと無関係のペプチドの複合体と区別できることを確かめるために評価することができる。次いで、望ましい抗体は単離することができる。
【0128】
一部の態様において、MHC-ペプチド複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合部分は、ファージ抗体ライブラリーなどの抗体ライブラリーディスプレイ法を用いることによって生成することができる。一部の態様において、変異体Fab、scFV、または他の抗体型のファージディスプレイライブラリーを作製することができる。例えば、前記のファージディスプレイライブラリーではライブラリーメンバーは、1つまたは複数のCDRの1つまたは複数の残基が変異されている。このような方法の例は当技術分野において公知である(例えば、米国特許出願公開第US20020150914号、同第US2014/0294841号;およびCohen CJ. et al.(2003) J Mol. Recogn. 16:324-332を参照されたい)。
【0129】
一部の局面において、抗原特異的結合成分または認識成分は1つまたは複数の膜貫通ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインに連結される。一部の態様において、CARはCARの細胞外ドメインと融合した膜貫通ドメインを含む。一態様において、天然で、CARの中で前記ドメインの1つと結合している膜貫通ドメインが用いられる。場合によっては、膜貫通ドメインは、このようなドメインと、同じ表面膜タンパク質または異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインとの結合を避けて、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限にするためにアミノ酸置換によって選択または改変される。
【0130】
膜貫通ドメインは一部の態様では天然供給源または合成供給源に由来する。供給源が天然である場合、このドメインは、一部の局面では、任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来する。膜貫通領域は、T細胞受容体のα鎖、β鎖、またはζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、例えばCD8α、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、およびCD154に由来する膜貫通領域を含む(すなわち、少なくとも、その膜貫通領域を含む)。または、膜貫通ドメインは一部の態様では合成である。一部の局面において、合成膜貫通ドメインは、主に疎水性の残基、例えば、ロイシンおよびバリンを含む。一部の局面において、フェニルアラニン、トリプトファン、およびバリンのトリプレットが合成膜貫通ドメインの各末端に見られる。
【0131】
一部の態様において、短いオリゴペプチドリンカーまたはポリペプチドリンカー、例えば、長さが2~10アミノ酸のリンカー、例えば、グリシンおよびセリン、例えば、グリシン-セリンダブレット(doublet)を含有するリンカーが、CARの膜貫通ドメインと細胞質シグナル伝達ドメインとの間に存在し、連結を形成する。
【0132】
CARは、一般的に、少なくとも1つの細胞内シグナル伝達成分を含む。一部の態様において、CARは、TCR複合体の細胞内成分、例えば、T細胞活性化および細胞傷害性を媒介するTCR CD3+鎖、例えば、CD3ζ鎖を含む。従って、一部の局面において、抗原結合分子は1つまたは複数の細胞シグナル伝達モジュールと連結される。一部の態様において、細胞シグナル伝達モジュールは、CD3膜貫通ドメイン、CD3細胞内シグナル伝達ドメイン、および/または他のCD膜貫通ドメインを含む。一部の態様において、CARは、1つまたは複数のさらなる分子、例えば、Fc受容体γ、CD8、CD4、CD25、またはCD16の一部をさらに含む。例えば、一部の局面において、CARは、CD3-ゼータ(CD3-ζ)またはFc受容体γのシグナリングドメイン、CD8、CD4、CD25、および/またはCD16のシグナリングトメインまたは膜貫通ドメインを含むキメラ分子を含む。
【0133】
一部の態様において、CARが連結されると、CARの細胞質ドメインまたは細胞内シグナル伝達ドメインは、免疫細胞、例えば、細胞を発現するように操作されたT細胞の正常なエフェクター機能または応答の少なくとも1つを活性化する。例えば、ある状況では、CARは、T細胞の機能、例えば、細胞溶解活性またはTヘルパー活性、例えば、サイトカインまたは他の因子の分泌を誘導する。一部の態様において、抗原受容体成分または共刺激分子の細胞内シグナル伝達ドメインの切断部分。このような切断部分は、一部の局面では、例えば、エフェクター機能シグナルを伝達するのであれば、インタクトな免疫賦活性鎖の代わりに用いられる。一部の態様において、細胞内シグナル伝達ドメインはT細胞受容体(TCR)の細胞質配列を含み、一部の局面では、天然の状況において、このような受容体と協調して、抗原受容体結合後にシグナル伝達を開始するように働く共受容体の細胞質配列、ならびに/またはこのような分子の任意の誘導体もしくは変種、ならびに/または同じ機能を有する任意の合成配列も含む。
【0134】
天然TCRの状況において、完全活性化には、一般的に、TCRを介したシグナル伝達だけでなく、共刺激シグナルも必要とされる。従って、一部の態様において、完全活性化を促進するには、二次シグナルまたは共刺激シグナルを発生させるための成分もCARに含まれる。他の態様において、CARは、共刺激シグナルを発生させるための成分を含まない。一部の局面において、さらなるCARが同じ細胞において発現され、二次シグナルまたは共刺激シグナルを発生させるための成分を提供する。一部の局面において、前記細胞は、一次シグナルを誘導するシグナル伝達ドメインを含有する第1のCARと、第2の抗原に結合し、共刺激シグナルを発生させるための成分を含有する第2のCARを含む。例えば、第1のCARは活性化CARでもよく、第2のCARは共刺激CARでもよい。一部の局面において、特定のエフェクター機能を細胞において誘導するためには両CARが連結しなければならず、これにより、標的化されている細胞タイプに対する特異性および選択性を得ることができる。
【0135】
T細胞活性化は、一部の局面では、2種類の細胞質シグナル伝達配列:TCRを介して抗原依存的一次活性化を開始する細胞質シグナル伝達配列(一次細胞質シグナル伝達配列)、および抗原非依存的に二次シグナルまたは共刺激シグナルを供給するように働く細胞質シグナル伝達配列(二次細胞質シグナル伝達配列)によって媒介されると説明される。一部の局面において、CARは、このようなシグナル伝達成分の一方または両方を含む。
【0136】
一部の局面において、CARは、TCR複合体の一次活性化を刺激するように、または阻害するように調節する一次細胞質シグナル伝達配列を含む。刺激するように働く一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容活性化チロシンモチーフまたはITAMとして知られるシグナル伝達モチーフを含有してもよい。ITAMを含有する一次細胞質シグナル伝達配列の例には、TCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD79a、およびCD79bに由来するものが含まれる。一部の態様において、CARにある細胞質シグナル伝達分子は、CD3ζに由来する細胞質シグナル伝達ドメイン、その一部、または配列を含有する。
【0137】
一部の態様において、CARは、共刺激受容体、例えば、CD28、4-1BB、OX40、DAP10、およびICOSのシグナル伝達ドメインおよび/または膜貫通部分を含む。一部の局面において、同じCARが活性化成分と共刺激成分の両方を含む。他の局面において、活性化ドメインは、あるCARによって提供されるのに対して、共刺激成分は、別の抗原を認識する別のCARによって提供される。
【0138】
ある特定の態様において、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3(例えば、CD3-ζ)細胞内ドメインに連結されたCD28膜貫通ドメインおよびシグナル伝達ドメインを含む。一部の態様において、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζまたは他の主な、もしくは活性化細胞内ドメインに連結された、キメラCD28およびCD137(4-1BB、TNFRSF9)共刺激ドメインを含む。
【0139】
一部の態様において、CARは、細胞質部分に、活性化ドメイン、例えば、一次活性化ドメインと組み合わされた2つ以上の共刺激ドメインを包含する。一例は、CD3-ζ、CD28、および4-1BBの細胞内成分を含む受容体である。
【0140】
一部の態様において、CARまたは他の抗原受容体は、切断バージョンの細胞表面受容体、例えば、切断型EGFR、tEGFRなどの受容体を発現させる、細胞の形質導入または操作を確認するためのマーカーをさらに含む。一部の態様において、マーカーは同じプロモーターまたは調節エレメント、例えばCARもしくは他の受容体のエンハンサーの制御下にある。一部の局面では、多標的化アプローチが使用され、マルチプルマーカーがそれぞれの異なる受容体に関して使用される。
【0141】
場合によっては、CARは、第一世代CAR、第二世代CAR、および/または第三世代CARと呼ばれる。一部の局面において、第一世代CARは、抗原が結合した時に、CD3鎖によって誘導されるシグナルしか生じないCARである。一部の局面において、第二世代CARは、このようなシグナルと共刺激シグナルを生じるCAR、例えば、CD28またはCD137などの共刺激受容体に由来する細胞内シグナル伝達ドメインを含むCARである。一部の局面において、第三世代CARは、一部の局面では、異なる共刺激受容体の複数の共刺激ドメインを含むCARである。
【0142】
一部の局面において、CARまたは他の抗原受容体は阻害CAR(例えば、iCAR)であり、細胞における応答、例えば、免疫応答、例えば、ITAMによって促進される応答および/または共刺激によって促進される応答を弱めるか、または抑止する細胞内成分を含む。このような細胞内シグナル伝達成分の例は、PD-1、CTLA4、LAG3、BTLA、OX2R、TIM-3、TIGIT、LAIR-1、PGE2受容体、A2ARを含むEP2/4アデノシン受容体を含む免疫チェックポイント分子において見られるものである。一部の局面において、操作された細胞は、細胞の応答、例えば、活性化CARおよび/または共刺激CARによって誘導される応答を弱めるように働くような、このような阻害性分子のシグナル伝達ドメインまたはこのような阻害性分子に由来するシグナル伝達ドメインを含む阻害CARを含む。このようなCARは、例えば、活性化受容体、例えば、CARによって認識される抗原が正常細胞の表面でも発現しているか、または正常細胞の表面でも発現している可能性がある状況において、オフターゲット効果の可能性を小さくするために用いられる。一部の局面において、正常細胞に特異的なマーカーを認識する抑制性受容体、例えば、iCARが導入される。一部の局面において、このような抗原またはそれに関連する抗原が、操作された細胞でも発現している場合、抗原は、本明細書において提供される遺伝子編集または破壊アプローチの標的となる。一部の局面において、このような破壊によって、操作された細胞それ自身によって誘導される、操作された細胞の応答の減弱が避けられる。
【0143】
TCR
一部の態様において、遺伝子操作された抗原受容体には、組換えT細胞受容体(TCR)および/または天然T細胞からクローニングしたTCR、および/または天然T細胞からクローニングしたTCRの鎖の対が含まれる。
【0144】
一般的に、TCRは、可変α鎖およびβ鎖(それぞれ、TCRαおよびTCRβとも知られる)または可変γ鎖およびδ鎖(それぞれ、TCRγおよびTCRδとも知られる)またはその抗原結合部分を含有し、一般的にはMHC受容体に結合した抗原ペプチドに特異的に結合することができる分子を指す。一部の態様において、TCRはαβの形をとっている。典型的に、αβの形およびγδの形で存在するTCRは一般的に構造が似ているが、これらを発現するT細胞は別個の解剖学的場所または機能を有することがある。TCRは細胞の表面に見出されてもよく、可溶型で見出されてもよい。一般的に、TCRは、一般的に、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合した抗原の認識を担うT細胞(またはTリンパ球)の表面に見出される。一部の態様において、TCRはまた定常ドメイン、膜貫通ドメイン、および/または短い細胞質テールも含有してよい(例えば、Janeway et al., Immunobiology: The Immune System in Health and Disease, 3rd Ed., Current Biology Publications, p.4:33, 1997を参照されたい)。例えば、一部の局面において、TCRの各鎖は、1つのN末端免疫グロブリン可変ドメインと、1つの免疫グロブリン定常ドメインと、膜貫通領域と、C末端にある短い細胞質テールを有してもよい。一部の態様において、TCRは、シグナル伝達の媒介に関与するCD3複合体のインバリアントタンパク質と結合する。特に定めのない限り、「TCR」という用語は、その機能的なTCR断片を包含することが理解されるはずである。この用語はまた、αβの形またはγδの形のTCRを含む、インタクトなTCRまたは完全長TCRも包含する。
【0145】
従って、本明細書における目的のために、TCRへの言及は、任意のTCRまたは機能的断片、例えば、MHC分子の中で結合している特定の抗原性ペプチド、すなわち、MHC-ペプチド複合体に結合するTCRの抗原結合部分を含む。TCRの「抗原結合部分」または「抗原結合断片」は同義に用いることができ、TCRの構造ドメインの一部を含有するが、完全TCRが結合する抗原(例えば、MHC-ペプチド複合体)に結合する分子を指す。場合によっては、抗原結合部分は、特定のMHC-ペプチド複合体に結合するために結合部位を形成するのに十分な、TCRの可変α鎖および可変β鎖などのTCR可変ドメイン、例えば、一般的に、各鎖が3つの相補性決定領域を含有する場所である可変ドメインを含有する。
【0146】
一部の態様において、TCR鎖の可変ドメインは結合して、抗原認識を付与し、TCR分子の結合部位を形成することによってペプチド特異性を決定し、ペプチド特異性を決定するループ、すなわち免疫グロブリンに似た相補性決定領域(CDR)を形成する。典型的に、免疫グロブリンと同様に、CDRはフレームワーク領域(FR)によって分けられている(例えば、Jores et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. U.S.A. 87:9138, 1990; Chothia et al., EMBO J. 7:3745, 1988を参照されたい;Lefranc et al., Dev. Comp. Immunol. 27:55, 2003も参照されたい)。一部の態様において、CDR3は、処理された抗原の認識を担う主要なCDRであるが、α鎖のCDR1も抗原性ペプチドのN末端部分と相互作用することが示されている。これに対して、β鎖のCDR1はペプチドのC末端部分と相互作用する。CDR2はMHC分子を認識すると考えられている。一部の態様において、β鎖の可変領域は、さらなる超可変(hypervariability)(HV4)領域を含有することがある。
【0147】
一部の態様において、TCR鎖は定常ドメインを含有する。例えば、免疫グロブリンと同様に、TCR鎖(例えば、α鎖、β鎖)の細胞外部分は、2つの免疫グロブリンドメイン、N末端にある可変ドメイン(例えば、VαまたはVβ;典型的には、Kabatナンバリング, Kabat et al., 「Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services, Public Health Service National Institutes of Health, 1991, 5th ed.に基づいてアミノ酸1~116)と、細胞膜に隣接する1つの定常ドメイン(例えば、α鎖定常ドメイン、すなわちCα、典型的には、Kabatに基づいてアミノ酸117~259、β鎖定常ドメイン、すなわちCβ、典型的には、Kabatに基づいてアミノ酸117~295)を含有することがある。例えば、場合によっては、2本の鎖によって形成されるTCRの細胞外部分は、膜に近い2つの定常ドメインと、CDRを含有する、膜から遠い2つの可変ドメインを含有する。TCRドメインの定常ドメインは、システイン残基がジスルフィド結合を形成して、2本の鎖を連結する短い接続配列を含有する。一部の態様において、TCRは定常ドメインに2つのジスルフィド結合を含有するように、α鎖およびβ鎖のそれぞれに、さらなるシステイン残基を有してもよい。
【0148】
一部の態様において、TCR鎖は膜貫通ドメインを含有してもよい。一部の態様において、膜貫通ドメインは正に荷電している。場合によっては、TCR鎖は細胞質テールを含有する。場合によっては、この構造のために、TCRはCD3のような他の分子と結合することが可能になる。例えば、定常ドメインと膜貫通領域を含有するTCRはタンパク質を細胞膜に固定し、CD3シグナル伝達装置または複合体のインバリアントサブユニットと結合することができる。
【0149】
一般的に、CD3は、哺乳動物では3つの異なる鎖(γ、δ、およびε)と、ζ鎖を有することがある多タンパク質複合体である。例えば、哺乳動物では、この複合体は、1本のCD3γ鎖、1本のCD3δ鎖、2本のCD3ε鎖と、CD3ζ鎖ホモ二量体を含有することがある。CD3γ鎖、CD3δ鎖、およびCD3ε鎖は、1つの免疫グロブリンドメインを含有する免疫グロブリンスーパーファミリーの高度に関連する細胞表面タンパク質である。CD3γ鎖、CD3δ鎖、およびCD3ε鎖の膜貫通領域は負に荷電している。これは、これらの鎖が、正に荷電しているT細胞受容体鎖と結合するのを可能にする特徴である。CD3γ鎖、CD3δ鎖、およびCD3ε鎖の細胞内テールはそれぞれ、免疫受容活性化チロシンモチーフまたはITAMとして知られる1つの保存されたモチーフを含有するのに対して、各CD3ζ鎖は3つの保存されたモチーフを有する。一般的に、ITAMはTCR複合体のシグナル伝達能力に関与する。これらのアクセサリー分子は、負に荷電している膜貫通領域を有し、TCRからの細胞へのシグナルの伝達において役割を果たす。CD3-およびζ-鎖はTCRと一緒になって、T細胞受容体複合体として知られるものを形成する。
【0150】
一部の態様において、TCRは、2つの鎖αおよびβ(または任意でγおよびδ)のヘテロ二量体でもよく、単鎖TCR構築物でもよい。一部の態様において、TCRは、例えば、1つまたは複数のジスルフィド結合によって連結される、2つの別々の鎖(α鎖およびβ鎖またはγ鎖およびδ鎖)を含有するヘテロ二量体である。
【0151】
一部の態様において、標的抗原(例えば、がん抗原)に対するTCRは特定され、前記細胞に導入される。一部の態様において、標的抗原に対するTCRはまた、1つまたは複数の他の抗原、例えば、(例えば、配列類似性または構造類似性を共有することで)標的抗原に関連する抗原の1つまたは複数のペプチドエピトープにも特異的に結合する、例えば、これと交差反応性を示す。交差反応性の抗原は、標的抗原と同じか、または標的抗原と比較して1つもしくは複数のアミノ酸の違い、例えば、1つ、2つ、もしくは3つの違いを有するエピトープを有してもよい。一部の態様において、TCRをコードする核酸は、様々な供給源から、例えば、公的利用可能なTCR DNA配列をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅することによって得ることができる。一部の態様において、TCRは、生物学的供給源から、例えば、細胞、例えば、T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、T細胞ハイブリドーマ、または他の公的利用可能な供給源から得られる。一部の態様において、T細胞は、インビボで単離された細胞から得ることができる。一部の態様において、例えば、高親和性T細胞クローンを患者から単離し、TCRを単離することができる。一部の態様において、T細胞はT細胞ハイブリドーマまたはクローンから培養することができる。一部の態様において、標的抗原に対するTCRクローンは、ヒト免疫系遺伝子(例えば、ヒト白血球抗原系、すなわちHLA)を用いて操作されたトランスジェニックマウスにおいて作製されている。例えば、腫瘍抗原を参照されたい(例えば、Parkhurst et al.(2009) Clin Cancer Res.15: 169-180およびCohen et al.(2005) J Immunol. 175:5799-5808を参照されたい)。一部の態様において、標的抗原に対するTCRを単離するためにファージディスプレイが用いられる(例えば、Varela-Rohena et al.(2008) Nat Med. 14: 1390-1395およびLi(2005) Nat Biotechnol. 23:349-354を参照されたい)。一部の態様において、TCRまたはその抗原結合部分はTCR配列の知識を元に合成により作製することができる。
【0152】
一部の態様において、T細胞クローンが得られた後に、TCRα鎖およびβ鎖は単離され、遺伝子発現ベクターにクローニングされる。一部の態様において、TCRα遺伝子およびβ遺伝子は、両鎖が同時発現するようにピコルナウイルス2Aリボソームスキップペプチドを介して連結される。一部の態様において、TCRの遺伝子移入は、レトロウイルスベクターもしくはレンチウイルスベクターを介して、またはトランスポゾンを介して成し遂げられる(例えば、Baum et al.(2006) Molecular Therapy: The Journal of the American Society of Gene Therapy. 13: 1050-1063; Frecha et al.(2010) Molecular Therapy: The Journal of the American Society of Gene Therapy. 18: 1748-1757; an Hackett et al.(2010) Molecular Therapy: The Journal of the American Society of Gene Therapy. 18:674-683を参照されたい)。
【0153】
抗原
遺伝子操作された抗原受容体によって標的化される抗原の中には、養子細胞療法を介して標的化される疾患、状態、もしくは細胞タイプの状況において発現している抗原(例えば、養子細胞療法を介して標的化される疾患、状態、もしくは細胞タイプの表面で、またはその中で特異的に発現しているか、養子細胞療法を介して標的化される疾患、状態、もしくは細胞タイプの表面で、またはその中で過剰発現しているか、あるいは養子細胞療法を介して標的化される疾患、状態、もしくは細胞タイプと関連する抗原)がある。一部の態様において、このような抗原は、疾患特異的抗原、疾患特異的標的、および/または疾患特異的標的抗原と呼ばれる。一部の態様において、疾患特異的標的抗原は、非疾患特異的標的抗原とは、エピトープまたは比較的小さな変化の点だけ、例えば、疾患もしくは状態にしか露出しないか、または疾患もしくは状態にしか存在しないエピトープの点だけ異なる。疾患および状態の中には、血液がん、免疫系のがん、例えば、リンパ腫、白血病、および/または骨髄腫、例えば、B、T、および骨髄性の白血病、リンパ腫、ならびに多発性骨髄腫を含むがんおよび腫瘍を含む、増殖性、新生物性、および悪性の疾患および障害がある。
【0154】
一部の態様において、前記抗原はポリペプチドである。一部の態様において、前記抗原は炭水化物または他の分子である。一部の態様において、前記抗原は、正常な、または標的化されない細胞または組織と比較して、疾患または状態の細胞、例えば、腫瘍細胞または病原性細胞の表面で選択的に発現しているか、または過剰発現している。他の態様において、前記抗原は正常細胞の表面で発現している、および/または操作された細胞の表面で発現している。このような一部の態様において、特異性および/または効力を改善するために、本明細書において提供される多標的化および/または遺伝子破壊アプローチが用いられる。
【0155】
一部の態様において、前記抗原はユニバーサル腫瘍抗原またはそのファミリーのメンバーである。「ユニバーサル腫瘍抗原」という用語は、一般的に、腫瘍細胞において非腫瘍細胞より高いレベルで発現しており、さらに、様々な起源の腫瘍において発現している免疫原性分子、例えば、タンパク質を指す。一部の態様において、ユニバーサル腫瘍抗原は、ヒトがんの30%超、40%超、50%超、60%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、またはそれより多くのヒトがんにおいて発現している。一部の態様において、ユニバーサル腫瘍抗原は、少なくとも3つの、少なくとも4つの、少なくとも5つの、少なくとも6つの、少なくとも7つの、少なくとも8つの、またはそれより多い異なるタイプの腫瘍において発現している。場合によっては、ユニバーサル腫瘍抗原は正常細胞などの非腫瘍細胞において発現しているが、腫瘍細胞において発現しているレベルより低いレベルで発現していることがある。場合によっては、ユニバーサル腫瘍抗原は非腫瘍細胞において全く発現しておらず、例えば、正常細胞において発現していない。例示的なユニバーサル腫瘍抗原には、例えば、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、マウス二重微小染色体2ホモログ(MDM2)、チトクロムP450 1B1(CYP1B)、HER2/neu、ウィルムス腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン、αフェトプロテイン(AFP)、がん胎児抗原(CEA)、ムチン16(MUC16)、MUC1、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、p53、サイクリン(D1)が含まれる。ユニバーサル腫瘍抗原を含む腫瘍抗原のペプチドエピトープは当技術分野において公知であり、一部の局面では、TCRまたはTCR様CARなどのMHCによって拘束される抗原受容体を作製するのに使用することができる(例えば、PCT特許出願公開番号WO2011009173またはWO2012135854および米国特許出願公開第US20140065708号を参照されたい)。
【0156】
一部の局面において、標的抗原は、操作された細胞の表面でも、その中でも天然に発現していない、および/あるいは活性化T細胞、もしくは操作された細胞を作製するのに用いられたタイプの活性化細胞の表面でも、その中でもアップレギュレートされていない疾患特異的抗原、例えば、腫瘍抗原であるか、またはこれを含む。しかしながら、一部のこのような局面では、さらに、前記受容体は、別の抗原、例えば、標的抗原に関連し、例えば、配列類似性または構造類似性によって関連し、一部の局面では、操作された細胞またはその活性化タイプもしくは活性化型の表面で、あるいはその中で天然に発現している、および/あるいは活性化T細胞もしくは使用されているタイプの活性化細胞の表面で、またはその中でアップレギュレートされている抗原を、(例えば、交差反応性によって)結合もしくは認識するか、または結合もしくは認識する可能性を有する。例えば、一部のこのような場合では、T細胞または活性化T細胞が、腫瘍抗原に関連する抗原を発現するか、または発現もしくはアップレギュレートすると疑われるのであれば、抗体または結合タンパク質は腫瘍抗原に結合するが、T細胞において発現している抗原にも結合し、これと交差反応性を示す可能性がある。一部の局面において、標的抗原はBCMA、TACI、もしくはBAFFRであるか、またはBCMA、TACI、もしくはBAFFRのファミリーメンバーである。例えば、一部の局面において、標的抗原はBCMAであり、前記細胞はTACIおよび/またはBAFFRを発現する可能性があり、一部の例では、前記受容体はこれらと交差反応する可能性がある。
【0157】
標的抗原に関連するか、または標的抗原のファミリーメンバーである1種類または複数種の抗原の例示的な説明は、例えば、場合によっては、標的抗原に結合する抗体、受容体、操作された受容体、または他の結合剤もしくはリガンドが関連抗原にも結合する(例えば、関連抗原に対して交差反応性を示す)ように、標的抗原と構造類似性および/または配列類似性を、例えば、同じエピトープまたは似たエピトープを有することで示す抗原を含む。例えば、BCMAに特異的に結合する、および/またはBCMAを認識する薬剤、例えば、操作された受容体、例えば、操作された抗原受容体は、一部の局面では、TACI、例えば、WO2002/066516に記載の薬剤、および/またはBAFF-Rと交差反応性を示すことがある。同様に、TACIに結合する、および/またはTACIを認識する薬剤はBCMAまたはBAFF-Rと交差反応性を示すことがある。標的抗原に関連するか、または標的抗原のファミリーメンバーである抗原は進化的に関連付けられてもよく、ならびに/または構造および/もしくは配列によって関連付けられてもよい。標的抗原に関連するか、または標的抗原のファミリーメンバーである抗原は核酸配列および/またはアミノ酸配列によって標的抗原に対してパーセント配列同一性を示してもよい。標的抗原に関連するか、または標的抗原のファミリーメンバーである抗原は、一部の局面では、核酸配列および/またはアミノ酸配列によって標的抗原に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を示してもよい。一部の局面において、標的抗原に関連するか、または標的抗原のファミリーメンバーである抗原は、エピトープ、例えば、前記受容体が認識するエピトープを含む部分にわたって90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を示してもよい。一部の局面において、このような部分は、少なくとも6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、または20個のアミノ酸、例えば、連続したアミノ酸を含んでもよい。一部の態様において、関連抗原は、連続したアミノ酸領域にわたって配列が高度の類似性を示してもよいが、それぞれの折り畳まれたタンパク質の内部で、類似した、または同じエピトープ、例えば、複数の連続した部分を含むエピトープを共有してもよい。一部の態様において、関連抗原は、同じリガンドまたは受容体に結合する、例えば、特異的に結合する。一部の態様において、標的抗原に関連するか、または標的抗原のファミリーメンバーである抗原は、抗原の完全長配列または構造の一部だけで、例えば、一連の予測されたエピトープにわたって、ある特定のパーセント配列同一性または構造類似性を示してもよい。例えば、標的抗原は、本明細書に記載の操作された結合タンパク質によって認識される多数のペプチドエピトープを含んでもよい。一部の態様において、標的抗原に関連する抗原は、標的抗原の関連するエピトープと構造的に、および/または連続して類似するエピトープを含んでもよい。一部の態様において、これらのエピトープは長さが約8~約24アミノ酸のペプチドである。
【0158】
一部の態様において、抗原、例えば、標的抗原、例えば、疾患特異的抗原および/または関連抗原はhTERTである。hTERTは、様々ながんにおいて広範に発現している腫瘍抗原である。一部の局面において、hTERTは、SEQ ID NO:3に示したアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号NP_937983.2)を有するか、または含有し、SEQ ID NO:4に示したヌクレオチド配列(GenBankアクセッション番号NM_198253.2)によってコードされる。一般的に、hTERTは、線状染色体のテロメア末端を維持し、場合によっては、分解しないように、および端と端が融合しないように染色体を保護することができる複合体であるヒトテロメラーゼ複合体の一部である逆転写酵素である。一部の局面において、hTERTが発現するとRNAテンプレートからテレオメア(teleomere)が合成される。hTERTは複合体の律速成分であるので、hTERT発現はテロメラーゼ活性と相関関係を示すことができる。一般的に、hTERTは正常細胞を含むほとんどのヒト細胞において発現していないが、腫瘍およびがん細胞において発現しているか、またはアップレギュレートされる。例えば、ヒト腫瘍の85%超がhTERTを発現する。従って、一部の局面において、hTERTはユニバーサル腫瘍抗原になり得る。hTERTのHLAによって拘束されるペプチドエピトープは公知であり(例えば、米国特許第7,718,777号ならびにPCT特許出願公開番号WO2000025813およびWO2013135553を参照されたい)、一部の局面では、hTERTに対する抗原受容体を作製および特定するのに使用することができる。hTERTペプチドエピトープの非限定的な例には、SEQ ID NO:7~19のいずれかに示した任意のhTERTペプチドエピトープが含まれる。hTERTに対する抗原受容体、例えば、TCRまたはTCR様抗体は作製されており、当技術分野において公知である(例えば、米国特許第7,718,777号および米国特許出願公開第US20090226474号および同第US20030223994号を参照されたい; Ugel et al.(2010) Blood, 115: 1374-1384も参照されたい)。
【0159】
一部の態様において、抗原、例えば標的抗原、例えば疾患特異的抗原、および/または関連抗原は、サバイビン(baculoviral inhibitor of apoptosis repeat-containing 5, BIRC5とも呼ばれる)である。一部の局面において、サバイビンは、SEQ ID NO:5に示したアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号NP_001159)を有するか、または含有し、SEQ ID NO:6に示したヌクレオチド配列(GenBankアクセッション番号NM_001168.2)によってコードされる。場合によっては、他の転写物アイソフォーム、例えば、GenBankアクセッション番号NP_001012270に示したアミノ酸配列もしくはNM_001012270に示したヌクレオチド配列、またはNP_001012271.1に示したアミノ酸配列もしくはNM_001012271.1に示したヌクレオチド配列を有するか、または含有する転写物アイソフォームが存在する場合がある。一般的に、サバイビンは、アポトーシスタンパク質(IAP)阻害剤ファミリーのメンバーである。場合によっては、サバイビンは、多くのタイプのがん、例えば、肺がん、結腸がん、乳がん、膵臓がん、前立腺がん、メラノーマなどにおいてアップレギュレートされるが、一般的に、正常細胞または正常組織では発現しておらず、アップレギュレートされない。一部の局面において、がんにおけるサバイビンの発現は腫瘍進行におけるアポトーシス阻害の一般的な役割に関連するかもしれない。従って、一部の局面において、サバイビンはユニバーサル腫瘍抗原になり得る。サバイビン(survivn)のHLAによって拘束されるペプチドエピトープは公知であり(例えば、米国特許第7,892,559号および米国特許出願公開第US20090004214号を参照されたい)、場合によっては、このようなペプチドエピトープは、TCRまたはTCR様CARを含む、サバイビンに対する抗原受容体を作製および特定するのに使用することができる。サバイビンペプチドエピトープの非限定的な例には、SEQ ID NO:20~30のいずれかに示した任意のサバイビンペプチドエピトープが含まれる。TCRまたはTCR様抗体などのサバイビンに対する抗原受容体は作製されており、当技術分野において公知である(例えば、PCT特許出願公開番号WO2010075417を参照されたい)。
【0160】
一部の局面において、前記抗原、例えば標的抗原、例えば疾患特異的抗原、および/または関連抗原は、例えば、CD38、CD138、および/またはCS-1および/またはBCMA、BAFF-R、TCAI、および/またはFcRH5は,
多発性骨髄腫において発現している。他の例示的な多発性骨髄腫抗原には、CD56、TIM-3、CD33、CD123、および/またはCD44が含まれる。このような抗原に対して作られた抗体または抗原結合断片は公知であり、例えば、米国特許第8,153,765号、同第8,603477号、同第8,008,450号に記載のもの、米国特許出願公開第US20120189622号または米国特許出願第US20100260748A1号に記載のもの、および/またはPCT国際特許出願公開番号WO2006099875、WO2009080829、WO2012092612、またはWO2014210064A1に記載のものを含む。一部の態様において、このような抗体またはその抗原結合断片(例えば、scFv)を用いて、CARを作製することができる。
【0161】
一部の態様において、前記抗原、例えば標的抗原、例えば疾患特異的抗原、および/または関連抗原は、ヒトCD38であるCD38抗原である。一部の局面において、CD38は、GenBankアクセッション番号:BAA18966、例えば、BAA18966.1、またはGI:1911103に示したアミノ酸配列を有するか、またはこれを含有する。一部の局面において、CD38は、以下の配列:
を有するか、またはこれを含有する。一部の局面において、CD38抗原は、SEQ ID NO:2に示したヌクレオチド配列によってコードされてもよい。一部の態様において、抗原結合ドメインが特異的に結合する抗原部分は典型的には抗原の細胞外領域の中にある。例えば、SEQ ID NO:1に関して、細胞外領域はSEQ ID NO:1のアミノ酸残基43~300に対応する。一部の態様において、前記抗原は、がんまたは腫瘍細胞の表面に発現しているか、またはアップレギュレートされるが、休止T細胞または活性化T細胞などの免疫細胞においても発現している可能性がある抗原でもよい。例えば、場合によっては、hTERT、サバイビン、および他のユニバーサル腫瘍抗原の発現が、活性化Tリンパ球を含むリンパ球に存在することが報告されている(例えば、Weng et al.(1996) J Exp. Med., 183:2471-2479; Hathcock et al.(1998) J Immunol, 160:5702-5706; Liu et al.(1999) Proc. Natl Acad Sci., 96:5147-5152; Turksma et al.(2013) Journal of Translational Medicine, 11: 152を参照されたい)。同様に、場合によっては、CD38および他の腫瘍抗原もT細胞などの免疫細胞において発現していてもよく、例えば、活性化T細胞においてアップレギュレートされてもよい。
【0162】
一部の局面において、抗原は、活性化T細胞にだけ発現し(またはアップレギュレートされ)、休止T細胞でも、ある特定のパーセントの休止細胞でも発現していなくてもよい(またはアップレギュレートされていなくてもよい)。例えば、一部の局面において、標的抗原または関連抗原、例えば、腫瘍関連抗原はBCMAおよび/またはBCMAファミリーメンバー、例えば、TACIまたはBAFF-Rであり、これは(またはそのファミリーメンバーは)、一部の局面では、B細胞または他の腫瘍細胞だけでなく活性化T細胞でも発現しているか、または発現している危険性がある。例えば、Wang et al., (2001) Nat Immunol, 2:7; Mariette, X, (2011) Sjogren's Syndrome; Salzer et al., (2005) Curr Opin Allergy Clin Immunol, 5:6を参照されたい。このような態様および/または本明細書中の他の態様の一部の局面では、標的抗原および/またはこれに関連する1種類もしくは複数種の抗原をコードする遺伝子の破壊をさらに提供することで、提供される態様は、操作された細胞において発現している可能性があっても、複数種の受容体が標的化される多標的化戦略を可能にする、および/または標的抗原に結合するだけでなく、1種類もしくは複数種の関連抗原、例えば、疾患または状態の表面でも発現している可能性がある1つもしくは複数の関連ファミリーメンバーとも交差反応する操作された受容体の使用を可能にする。
【0163】
例えば、一部の局面において、CD38は公知のT細胞活性化マーカーである。本明細書において提供される一部の態様では、抗原が免疫細胞それ自身の表面に発現する状況において、発現した遺伝子操作された抗原受容体が抗原に特異的に結合しないように、免疫細胞にある、抗原をコードする遺伝子を抑制または破壊するように、T細胞などの免疫細胞を操作することができる。従って、一部の局面では、これにより、例えば、養子細胞療法に関連する、免疫細胞において操作されたものの効力を低下させる可能性がある操作された免疫細胞同士の結合などのオフターゲット効果が避けられるかもしれない。
【0164】
一部の態様において、抗原、例えば、標的抗原、例えば、疾患特異的抗原および/または関連抗原は、B細胞成熟抗原(BCMA;腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー17、TNFRSF17とも呼ばれる)、またはその同じファミリーに属するか、もしくは同じリガンドに結合する抗原である。一部の局面において、BCMAは、SEQ ID NO:31に示したアミノ酸配列を有するか、もしくは含有する、および/またはSEQ ID NO:32に示したヌクレオチド配列によってコードされるか、もしくは、スプライスバリアントもしくはアイソフォーム、対立遺伝子変種もしくはその他の変種、例えば、免疫細胞(例えば、T細胞、例えば、活性化T細胞)が発現する任意の変種である。一部の態様において、このような抗原に対する抗体またはその抗原結合断片(例えば、scFv)を用いてCARを作製することができる。一部の局面において、BCMAまたはBCMAファミリーメンバーなどの抗原は、神経膠腫などの多発性骨髄腫以外のがんにおいて発現している。Kimberley et al, (2008) J Cellular Physiology, 218: 1; Pelekanou, et al, (2013) PloS One, 8: 12を参照されたい。
【0165】
一部の態様において、抗原、例えば、標的抗原、例えば、疾患特異的抗原および/または関連抗原は、CAMLタンパク質(TACI(transmembrane activator and CAML interactor)、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー13B、TNFRSF13Bとも呼ばれる)である。一部の局面において、TACIは、SEQ ID NO:33に示したアミノ酸配列を有するか、またはこれを含有する、および/あるいはSEQ ID NO:34に示したヌクレオチド配列によってコードされるか、またはスプライスバリアントもしくはアイソフォーム、対立遺伝子変種もしくはその他の変種、例えば、免疫細胞(例えば、T細胞、例えば、活性化T細胞)が発現する任意の変種である。一部の態様では、このような抗原に対する抗体またはその抗原結合断片(例えば、scFv)を用いてCARを作製することができる。
【0166】
一部の態様において、抗原、例えば、標的抗原、例えば、疾患特異的抗原および/または関連抗原は、B細胞活性化因子受容体(BAFF受容体。腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー13C、TNFRSF13Cとも呼ばれる)である。一部の局面において、BAFF受容体は、SEQ ID NO:35に示したアミノ酸配列を有するか、またはこれを含有する、および/あるいはSEQ ID NO:36に示したヌクレオチド配列によってコードされるか、またはスプライスバリアントもしくはアイソフォーム、対立遺伝子変種もしくはその他の変種、例えば、免疫細胞(例えば、T細胞、例えば、活性化T細胞)が発現する任意の変種である。一部の態様において、このような抗原に対する抗体またはその抗原結合断片(例えば、scFv)を用いてCARを作製することができる。
【0167】
一部の態様において、抗原は、Fc受容体ホモログ5(FcRH5。FcR様タンパク質5、FcRL5とも呼ばれる)である。一部の局面において、FcRH5は、SEQ ID NO:55に示したアミノ酸配列を有するか、もしくはこれを含有する、および/あるいはSEQ ID NO:56に示したヌクレオチド配列によってコードされるか、またはスプライスバリアントもしくはアイソフォーム、対立遺伝子変種もしくはその他の変種、例えば、免疫細胞(例えば、T細胞、例えば、活性化T細胞)が発現する任意の変種である。一部の態様では、このような抗原に対する抗体またはその抗原結合断片(例えば、scFv)を用いてCARを作製することができる。一部の態様では、FcRH5および/または関連抗原、例えば、ホモログもしくはファミリーメンバー、例えば、1つもしくは複数のドメインを共有する、配列もしくは構造の点で類似性を共有する、および/またはエピトープを共有するもの、例えば、前記細胞またはその活性化型の表面で発現しているか、もしくは発現している可能性があるもの、例えば、FcRH3、例えば、非疾患細胞、例えば、操作された細胞もしくは活性化型、例えば、T細胞もしくはNK細胞において発現している可能性があるもの。一部の態様において、標的抗原もしくは関連抗原および/または欠失される抗原はFcRH3である。Polson AG et al., Int. Immunol. 2006 Sep 18(9): 1368-73を参照されたい。
【0168】
一部の態様において、例えば、阻害CARの場合、標的は、オフターゲットマーカー、例えば、罹患細胞または標的化しようとする細胞の表面に発現していないが、正常細胞または非罹患細胞の表面に発現している抗原であり、正常細胞または非罹患細胞は、操作された同じ細胞にある活性化受容体または刺激受容体によって標的化される疾患特異的標的も発現する。例示的なこのような抗原は、MHC分子、例えば、MHCクラスI分子、例えば、このような分子が疾患または状態ではダウンレギュレートされているが、非標的細胞では依然として発現している場合、疾患または状態の処置に関連するMHC分子、例えば、MHCクラスI分子である。一部の態様において、操作された免疫細胞は、1種類または複数種の他の抗原を標的化する抗原を含有してもよい。一部の態様において、1種類または複数種の他の抗原は抗原またはがんマーカーである。提供される免疫細胞の表面にある抗原受容体によって標的化される他の抗原には、一部の態様では、オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、tEGFR、Her2、L1-CAM、CD19、CD20、CD22、メソテリン、CEA、およびB型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、EPHa2、ErbB2、3、もしくは4、FBP、胎児アセチコリンe(acethycholine e)受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-α、IL-13R-α2、kdr、κ軽鎖、ルイス(Lewis)Y、L1-細胞接着分子、MAGE-A1、メソテリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gp100、がん胎児性抗原、ROR1、TAG72、VEGF-R2、がん胎児抗原(CEA)、前立腺特異的抗原、PSMA、Her2/neu、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、CS-1、c-Met、GD-2、およびMAGE A3、CE7、ウィルムス腫瘍1(WT-1)、サイクリン、例えば、サイクリンA1(CCNA1)、ならびに/またはビオチン化分子、ならびに/またはHIV、HCV、HBV、もしくは他の病原体が発現する分子が含まれ得る。
【0169】
一部の態様では、操作された受容体(例えば、CARまたはTCR)が、操作された免疫細胞および標的抗原と交差反応性になるように、操作された免疫細胞は、本明細書に記載の任意の標的抗原に関連する抗原を含有するか、または(例えば、活性化もしくは刺激されると)含有する、および/もしくはアップレギュレートする危険性があると疑われる。
【0170】
一部の態様において、前記受容体、例えば、CARは病原体特異的抗原に結合する。一部の態様において、CARは、ウイルス抗原(例えば、HIV、HCV、HBVなど)、細菌抗原、および/または寄生生物抗原に特異的である。一部の態様において、前記受容体、例えば、CARは炎症マーカーに特異的である。
【0171】
多標的化
一部の態様において、前記細胞および方法は、例えば、一部の局面では、それぞれが異なる抗原を認識し、一部の局面では、それぞれが異なる細胞内シグナル伝達成分を含む、2種類以上の遺伝子操作された受容体を細胞の表面に発現させるなどの多標的化戦略を含む。前記受容体は、同じまたは異なるプロモーター下で、同じまたは異なるベクターによってコードされ、同じまたは異なる発現マーカーの1つまたは複数の発現と関連付けられてもよい。一部の局面において、多標的化アプローチは、それぞれが、異なる、このような操作された受容体、例えば、異なる抗原を認識する異なる受容体を発現する、複数の細胞を投与することを包含する。一部の局面において、前記細胞は同じ組成物の中にある。他の局面では、前記細胞は異なる組成物の中にあり、これらは同じ時間に、または連続して投与されてもよい。一部の態様において、投与される組成物は、2種類以上の受容体のうちの1つを発現する細胞と、2種類以上の受容体のうちの別の1つを発現する(が、第1の受容体を発現しない)他の細胞、および両受容体を発現する他の細胞を含む。
【0172】
本明細書に提供される態様において使用するための特定の多標的化戦略は、例えば、国際特許出願公開番号WO2014055668A1(例えば、オフターゲット細胞、例えば、正常細胞の表面には個々に存在するが、処置しようとする疾患または状態の細胞の表面にしか一緒に存在しない2つの異なる抗原を標的化する、活性化CARと共刺激CARの組み合わせについて説明している)、およびFedorov et al., Sci. Transl. Medicine, 5(215)(December, 2013)(活性化CARと阻害CARを発現する細胞、例えば、活性化CARが、正常細胞または非罹患細胞と、処置しようとする疾患または状態の細胞の両方に発現している抗原に結合し、阻害CARが、正常細胞または処置が望ましくない細胞にしか発現しない別の抗原に結合する細胞について説明している)に記載されている。
【0173】
一部の態様において、特定の疾患または状態に関連する抗原が一過性(例えば、遺伝子操作に関連して刺激された時)または恒久的に非罹患細胞の表面に発現する場合、および/または操作された細胞それ自身の表面に発現する場合に多標的化戦略が用いられる。このような場合、2つの別々の、かつ個々に特異的な抗原受容体が連結する必要があることで、特異性、選択性、および/または効力が改善されることがある。
【0174】
例えば、一部の態様において、前記細胞は、一般的に、第1の受容体が認識する抗原、例えば、第1の抗原に特異的に結合すると、細胞に対して活性化シグナルを誘導することができる第1の遺伝子操作された抗原受容体(例えば、CARまたはTCR)を発現する受容体を含む。一部の態様において、前記細胞は、一般的に、第2の受容体が認識する第2の抗原に特異的に結合すると、免疫細胞に対して共刺激シグナルを誘導することができる第2の遺伝子操作された抗原受容体(例えば、CARまたはTCR)、例えば、キメラ共刺激受容体をさらに含む。一部の局面において、第1の受容体は、ITAMまたはITAM様モチーフを含有する細胞内シグナル伝達成分を含む。一部の局面において、第2の受容体は、CD28、CD137(4-1BB)、OX40、および/またはICOSなどの共刺激受容体の細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0175】
一部の態様において、第1の受容体によって誘導される活性化は、免疫応答の開始をもたらす、細胞におけるシグナル伝達またはタンパク質発現の変化、例えば、ITAMリン酸化および/もしくはITAMを介したシグナル伝達カスケードの開始、免疫シナプスの形成および/もしくは結合した受容体の近くでの分子(例えば、CD4もしくはCD8など)のクラスター化、1種類もしくは複数種の転写因子、例えば、NF-κBおよび/もしくはAP-1の活性化、ならびに/またはサイトカインなどの因子の遺伝子発現の誘導、増殖、および/もしくは生存を伴う。
【0176】
一部の態様において、第2の受容体によって誘導される共刺激シグナルと、第1の受容体によって誘導されるシグナルの組み合わせは、免疫応答、例えば、ロバストな、かつ持効性の免疫応答をもたらす、例えば、遺伝子発現、サイトカインおよび他の因子の分泌、ならびに細胞死滅などのT細胞を介したエフェクター機能の増加をもたらす組み合わせである。
【0177】
一部の態様において、第1の受容体だけが連結しても、第2の受容体だけが連結してもロバストな免疫応答は誘導されない。一部の局面において、受容体が1つだけ連結された場合には、細胞は寛容化するか、もしくは抗原に対して応答しなくなる、または阻害される、および/または増殖するように、もしくは因子を分泌するように、もしくはエフェクター機能を実行するように誘導されない。しかしながら、このような一部の態様において、第1の抗原および第2の抗原を発現する細胞に遭遇した時など複数の受容体が連結された時には、例えば、1種類または複数種のサイトカインの分泌、増殖、持続、および/または標的細胞の細胞傷害性死滅などの免疫エフェクター機能の実行によって示されるような完全な免疫活性化または刺激などの望ましい応答が生じる。
【0178】
一部の態様において、複数種の抗原、例えば、第1の抗原および第2の抗原は、標的化されている細胞、組織、または疾患もしくは状態において、例えば、がん細胞の表面で発現している。一部の局面において、前記の細胞、組織、疾患、または状態は多発性骨髄腫または多発性骨髄腫細胞である。複数種の抗原の1つまたは複数は、一般的に、細胞療法で標的化することが望ましくない細胞、例えば、正常な、もしくは非罹患の細胞もしくは組織、および/または操作された細胞それ自身の表面にも発現している。このような態様では、細胞の応答を実現するためには複数種の受容体が連結する必要があることで特異性および/または効力が成し遂げられる。
【0179】
一部の態様において、多標的化戦略のための抗原の組み合わせの中には、抗原の少なくとも1つがユニバーサル腫瘍抗原、またはそのファミリーのメンバー、例えば、hTERT、サバイビン、MDM2、CYP1B、HER2/neu、WT1、リビン、AFP、CEA、MUC16、MUC1、PSMA、p53、サイクリン(D1)であり、これらがそれぞれ個々に、腫瘍において発現している抗原を同様に標的化する第2の抗原と組み合わされる組み合わせが含まれる。一部の態様において、ユニバーサル腫瘍抗原と第2の抗原は、同じ腫瘍タイプにある抗原を標的化する。一部の態様において、第2の抗原も別の異なるユニバーサル腫瘍抗原でもよく、腫瘍タイプに特異的な腫瘍抗原でもよい。一部の態様において、第2の抗原は、腫瘍抗原、例えば、ROR1、tEGFR、Her2、L1-CAM、CD19、CD20、CD22、メソテリン、CEA、およびB型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、EPHa2、ErbB2、3、もしくは4、FBP、胎児アセチコリンe受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-α、IL-13R-α2、kdr、κ軽鎖、ルイスY、L1-細胞接着分子、MAGE-A1、メソテリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gp100、がん胎児性抗原、ROR1、TAG72、VEGF-R2、がん胎児抗原(CEA)、前立腺特異的抗原、PSMA、Her2/neu、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、CS-1、c-Met、GD-2、およびMAGEA3、CE7、ウィルムス腫瘍1(WT-1)、サイクリン、例えば、サイクリンA1(CCNA1)、ならびに/またはビオチン化分子、ならびに/またはHIV、HCV、HBV、もしくは他の病原体が発現する分子でもよく、一部の態様においてはネオペプチドまたはそのネオ抗原であってもよい。
【0180】
一部の態様において、多標的化戦略のための抗原の組み合わせの中には、多発性骨髄腫において発現している抗原、例えば、CD38(サイクリックADPリボース加水分解酵素)、CD138(シンデカン-1、シンデカン、SYN-1)、およびCS-1(CS1、CD2サブセット1、CRACC、SLAMF7、CD319、および19A24)が含まれ、これらはそれぞれ個々に、多発性骨髄腫において同様に発現している第2の抗原と組み合わされる。一部の態様において、複数種の抗原、例えば、それぞれ、操作された活性化受容体および共刺激受容体によって認識される抗原(または他の多標的化アプローチ、例えば、同じ細胞もしくは異なる細胞に対して、それぞれが共刺激能力と、一次もしくは活性化シグナル伝達能力を有する2つの異なる受容体を用いる多標的化アプローチによって標的化される抗原)は、CD38およびCD138、CD38およびCS-1、CD138およびCD38、CD138およびCS-1、CS-1およびCD38、ならびに/またはCS-1およびCD138である。一部の態様において、複数種の抗原、例えば、操作された活性化受容体および共刺激受容体によって認識される抗原はそれぞれ、BCMAおよびTACI、BCMAおよびBAFFR、BCMAおよびFcRH5、BCMAおよびCS-1、BCMAおよびCD38、BCMAおよびCD138、ならびに/またはその任意の組み合わせである。さらなる多発性骨髄腫に特異的な抗原には、CD20、CD40、CD56、CD74、CD200、EGFR、およびβ2-ミクログロブリン、HM1.24、IGF-1R、IL-6R、TRAIL-R1、およびアクチビン受容体IIA型(ActRIIA)が含まれる。Benson and Byrd, Journal of Clinical Oncology, June 1, 2012, 30(16): 2013-15; Tao and Anderson, Bone Marrow Research, Volume 2011(2011), Article ID 924058, 14 pages; Chu et al., Leukemia(26 September 2013) 2014 Apr;28(4):917-27; Garfall et al., Discov Med. 2014 Jan;17(91):37-46を参照されたい。一部の態様において、前記抗原には、リンパ系腫瘍、骨髄腫、AIDS関連リンパ腫、および/または移植後リンパ球増殖の際に存在する抗原、例えば、CD38が含まれる。
【0181】
一部の態様において、複数種の抗原受容体の1つまたは複数は比較的低い親和性で抗原を認識し、これに結合する。一部の局面において、前記受容体は、少なくとも10-8Mまたは約10-8M、少なくとも10-7Mもしくは約10-7M、少なくとも10-6Mもしくは約10-6M、少なくとも10-5Mもしくは約10-5M、および/または少なくとも10-4Mもしくは約10-4Mの解離定数(KD)で抗原に結合する。このような一部の態様において、抗原に対する抗原受容体の比較的低い親和性は、複数種の遺伝子操作された抗原受容体のうち、たった1つが連結しても完全応答は生じないことを確かなものにするのに役立つ。一部の態様において、CD38標的化受容体は、抗原結合ドメイン、例えば、米国特許出願公開第US20120189622A1号に開示された抗原結合ドメイン、例えば、OKT10と名付けられた抗体およびこの出願の表1に記載されている他の抗体の抗原結合部分、ならびに同様のエピトープもしくは同じエピトープに結合する抗体の抗原結合部分を含む。
【0182】
一部の態様において、2種類の受容体はそれぞれ、受容体の一方が抗原に結合すると細胞が活性化されるか、または応答が誘導され、第2の抑制性受容体が抗原に結合すると、この応答を抑止するか、または弱めるシグナルが誘導されるように、細胞に対して活性化シグナルおよび阻害シグナルを誘導する。例として、活性化CARと阻害CARまたはiCARの組み合わせがある。このような戦略が用いられてもよく、例えば、この場合、活性化CARは、疾患または状態において発現しているが、正常細胞の表面でも発現している抗原に結合し、抑制性受容体は、正常細胞の表面で発現しているが、疾患または状態の細胞の表面では発現していない別の抗原に結合する。
【0183】
遺伝子操作のためのベクターおよび方法
前記の遺伝子操作された細胞を生成するための方法、核酸、組成物、およびキットも提供される。一部の局面において、遺伝子操作は、遺伝子操作された成分をコードする核酸または細胞に導入するための他の成分、例えば、遺伝子を破壊するタンパク質または核酸をコードする成分の導入を伴う。
【0184】
一部の態様において、遺伝子移入は、最初に、細胞の成長、例えば、T細胞の成長、増殖、および/または活性化を刺激し、その後に、活性化された細胞に形質導入し、臨床用途に十分な数まで培養で増殖させることによって成し遂げられる。
【0185】
ある状況では、刺激因子(例えば、リンホカインまたはサイトカイン)の過剰発現が対象に対して毒性をもつ場合がある。従って、ある状況では、操作された細胞は、例えば、養子免疫治療において投与された時に、インビボで細胞を負の選択に対して感受性にする遺伝子セグメントを含む。例えば、一部の局面において、前記細胞は、細胞が投与された患者のインビボ状態が変化した結果として排除可能になるように操作される。負の選択が可能な表現型は、投与された薬剤、例えば、化合物に対する感受性を付与する遺伝子の挿入に起因してもよい。負の選択が可能な遺伝子には、ガンシクロビル感受性を付与する単純ヘルペスウイルスI型チミジンキナーゼ(HSV-I TK)遺伝子(Wigler et al., Cell II :223, 1977);細胞ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(phosphribosyltransferase)(HPRT)遺伝子、細胞アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)遺伝子、細菌シトシンデアミナーゼ、(Mullen et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 89:33(1992))が含まれる。
【0186】
一部の局面において、前記細胞は、サイトカインまたは他の因子の発現を促進するようにさらに操作される。遺伝子操作された成分、例えば、抗原受容体、例えば、CARを導入するための様々な方法は周知であり、提供される方法および組成物と共に使用することができる。例示的な方法には、ウイルス、例えば、レトロウイルスまたはレンチウイルス、形質導入、トランスポゾン、およびエレクトロポレーションを介した方法を含む、受容体をコードする核酸を移入するための方法が含まれる。
【0187】
一部の態様において、組換え核酸は、組換え感染性ウイルス粒子、例えば、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)に由来するベクターを用いて細胞に移入される。一部の態様において、組換え核酸は、組換えレンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクター、例えば、γ-レトロウイルスベクターを用いてT細胞に移入される(例えば、Koste et al.(2014) Gene Therapy 2014 Apr 3. doi: 10.1038/gt.2014.25; Carlens et al.(2000) Exp Hematol 28(10): 1137-46; Alonso-Camino et al.(2013) Mol Ther Nucl Acids 2, e93; Park et al., Trends Biotechnol. 2011 November; 29(11): 550-557を参照されたい)。
【0188】
一部の態様において、レトロウイルスベクター、例えば、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、骨髄増殖性肉腫ウイルス(myeloproliferative sarcoma virus)(MPSV)、マウス胚性幹細胞ウイルス(MESV)、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)、脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)、またはアデノ随伴ウイルス(AAV)に由来するレトロウイルスベクターには末端反復配列(LTR)がある。ほとんどのレトロウイルスベクターはマウスレトロウイルスに由来する。一部の態様において、レトロウイルスには、任意の鳥類細胞供給源または哺乳動物細胞供給源に由来するレトロウイルスが含まれる。レトロウイルスは典型的に両種指向性である。両種指向性とは、レトロウイルスが、ヒトを含む、いくつかの種の宿主細胞に感染できることを意味する。一態様において、発現させようとする遺伝子はレトロウイルスgag配列、pol配列、および/またはenv配列に取って代わる。多数の例示的なレトロウイルス系が述べられている(例えば、米国特許第5,219,740号;同第6,207,453号;同第5,219,740号; Miller and Rosman(1989) BioTechniques 7:980-990; Miller, A. D.(1990) Human Gene Therapy 1:5-14; Scarpa et al.(1991) Virology 180:849-852; Burns et al.(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:8033-8037;およびBoris-Lawrie and Temin(1993) Cur. Opin. Genet. Develop. 3: 102-109)。
【0189】
レンチウイルス形質導入法は公知である。例示的な方法は、Wang et al.(2012) J. Immunother. 35(9): 689-701; Cooper et al.(2003) Blood. 101: 1637-1644; Verhoeyen et al.(2009) Methods Mol Biol. 506: 97-114;およびCavalieri et al.(2003) Blood. 102(2): 497-505に記載されている。
【0190】
一部の態様において、組換え核酸はエレクトロポレーションを介してT細胞に移入される(例えば、Chicaybam et al,(2013) PLoS ONE 8(3): e60298およびVan Tedeloo et al.(2000) Gene Therapy 7(16): 1431-1437)を参照されたい)。一部の態様において、組換え核酸は転位を介してT細胞に導入される(例えば、Manuri et al.(2010) Hum Gene Ther 21(4): 427-437; Sharma et al.(2013) Molec Ther Nucl Acids 2, e74およびHuang et al.(2009) Methods Mol Biol 506: 115-126を参照されたい)。免疫細胞において遺伝物質を導入および発現する他の方法には、リン酸カルシウムトランスフェクション(例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York. N.Y.に記載)、プロトプラスト融合、カチオン性リポソームを介したトランスフェクション;タングステン粒子によって促進されるマイクロパーティクルボンバードメント(microparticle bombardment)(Johnston, Nature, 346: 776-777(1990));およびリン酸ストロンチウムDNA共沈殿(Brash et al., Mol. Cell Biol., 7: 2031-2034(1987))が含まれる。
【0191】
他の態様において、特定の抗原特異性を有する細胞の増殖を促進するために、前記細胞、例えば、T細胞は、例えば、組換え受容体を発現するように操作されず、逆に、インビトロまたはエクスビボで培養した、例えば、インキュベーション工程の間に培養した腫瘍浸潤リンパ球および/またはT細胞など、望ましい抗原に特異的な天然の抗原受容体を含む。例えば、一部の態様において、前記細胞は、腫瘍特異的T細胞、例えば、自己由来の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を単離することによって養子細胞療法のために生成される。自己由来の腫瘍浸潤リンパ球を用いたヒト腫瘍の直接標的化は場合によっては腫瘍退縮を媒介することができる(Rosenberg SA, et al.(1988) N Engl J Med. 319: 1676-1680を参照されたい)。一部の態様において、リンパ球は、切除された腫瘍から抽出される。一部の態様において、このようなリンパ球はインビトロで増殖される。一部の態様において、このようなリンパ球はリンホカイン(例えば、IL-2)と一緒に培養される。一部の態様において、このようなリンパ球は自己由来の腫瘍細胞の特異的溶解を媒介するが、同種異系の腫瘍の特異的溶解も自己由来の正常細胞の特異的溶解も媒介しない。
【0192】
遺伝子操作された産物をコードする遺伝子操作された核酸を移入するための他のアプローチおよびベクターは、例えば、国際特許出願公開番号WO2014055668および米国特許第7,446,190号に記載されているものである。
【0193】
導入のためのさらなる核酸、例えば、遺伝子の中には、療法の効力を改善する、例えば、移入された細胞の生存および/または機能を促進することによって療法の効力を改善する遺伝子;細胞を選択および/または評価するための、例えば、インビボ生存または局在化を評価するための遺伝子マーカーとなる遺伝子;例えば、Lupton S. D. et al., Mol. and Cell Biol., 11:6(1991);およびRiddell et al., Human Gene Therapy 3:319-338(1992)に記載のように、安全性を改善する、例えば、インビボで細胞を負の選択に対して感受性にすることによって安全性を改善する遺伝子がある。ドミナントポジティブな選択マーカーを負の選択マーカーと融合することから得られた、二機能性の選択可能な融合遺伝子の使用について説明している、LuptonらによるPCT/US91/08442およびPCT/US94/05601の公報も参照されたい。例えば、Riddell et al.,米国特許第6,040,177号、縦列14~17を参照されたい。
【0194】
C.遺伝子発現、活性、または機能の抑制
提供される免疫細胞の中には、遺伝子操作された抗原受容体の抗原をコードする1つまたは複数の遺伝子の発現、活性、および/または機能が細胞内で抑制された免疫細胞がある。場合によっては、関心対象の特定の抗原は、疾患または状態、例えば、腫瘍またはがんにおいて発現しているが、免疫細胞、例えば、T細胞または活性化T細胞でも発現していることがある抗原でもよい。一部の局面において、免疫細胞による抗原の発現は、例えば、免疫細胞を、その抗原に対する遺伝子操作された抗原受容体を用いて操作する状況では、例えば、養子免疫治療の状況では望ましくない場合がある。従って、一部の態様において、疾患または状態、例えば、腫瘍またはがんにある標的抗原に特異的な遺伝子操作された抗原受容体を含有し、細胞において、その抗原をコードする内因性遺伝子の破壊または抑制も含有する免疫細胞、例えば、T細胞が提供される。
【0195】
このような遺伝子抑制を行うための方法も提供される。一部の態様において、遺伝子抑制は、遺伝子破壊、例えば、ノックアウト、挿入、ミスセンス変異もしくはフレームシフト変異、例えば、二対立遺伝子フレームシフト変異、遺伝子の全てもしくは一部、例えば、1つもしくは複数のエキソンもしくはその一部の欠失、および/またはノックインを生じさせることによって行われる。このような破壊は、一部の態様では、特に遺伝子またはその一部の配列に標的化されるように設計された、DNA結合標的化ヌクレアーゼ、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ならびにRNAガイドヌクレアーゼ、例えば、クリスパー関連ヌクレアーゼ(Cas)を含む配列特異的ヌクレアーゼまたは標的化ヌクレアーゼによって行われる。
【0196】
一部の態様において、細胞において遺伝子を抑制または破壊する方法は、遺伝子操作された抗原受容体をコードする核酸分子を細胞に導入する方法の前に、遺伝子操作された抗原受容体をコードする核酸分子を細胞に導入する方法と同時に、または遺伝子操作された抗原受容体をコードする核酸分子を細胞に導入する方法の後に行うことができる。例えば、場合によっては、細胞において遺伝子を抑制または破壊する方法は、遺伝子操作された抗原受容体をコードする核酸分子を細胞に導入する前に行われる。
【0197】
抑制/破壊される遺伝子
一部の態様において、抑制/破壊される遺伝子は、操作された細胞に対して阻害効果を有するか、または阻害効果に寄与することができる産物、例えば、前記細胞による免疫応答を阻害することができる産物をコードする。例えば、場合によっては、抑制および/または破壊される遺伝子は、T細胞などの免疫細胞の表面で発現しているか、またはT細胞などの免疫細胞の表面で発現するように計画される、遺伝子操作された抗原受容体によって認識される抗原をコードする。
【0198】
一部の態様において、前記遺伝子は、操作された細胞の表面にある抗原受容体、例えば、遺伝子操作された抗原受容体、例えば、CARに特異的に結合する標的抗原をコードする。従って、一部の局面において、抑制される遺伝子は、CARまたは他の抗原受容体の標的抗原をコードする。このような局面は、典型的には、特定の疾患または状態において発現しているが、操作されている細胞タイプまたはそのサブセットの表面で発現している、例えば、操作された細胞が活性化された時に発現される標的抗原の場合に生じる。例示的な抗原は、活性化または刺激されたT細胞またはNK細胞およびそのサブセットの表面で発現している抗原、特に、CARまたは他の操作された受容体をコードする核酸の導入を促進するのに用いられる刺激条件によって生成された活性化細胞の表面で発現している抗原である。一部の態様において、操作された細胞の表面での抗原発現を破壊するか、または別の方法で抑制することによって、本明細書で提供される前記方法および組成物は、操作された細胞が自分たちで殺し合う可能性を避けるか、または小さくし、それによって効力が高まる。
【0199】
一部の態様において、前記遺伝子は、活性化CAR標的および/または共刺激CAR標的である抗原をコードする。一部の態様において、前記遺伝子は、受容体の少なくとも1つが、T細胞または活性化T細胞などの免疫細胞の表面にある可能性があるか、または免疫細胞の表面で発現している抗原に特異的である、2種類以上の遺伝子操作された抗原受容体を用いる多標的化戦略の標的である抗原をコードする。
【0200】
一部の態様において、破壊される遺伝子またはその発現もしくは機能が別の方法で抑制される遺伝子は、ユニバーサル腫瘍抗原、またはそのファミリーのメンバー、特に、免疫細胞の表面で、例えば、T細胞または活性化T細胞の表面で発現しているか、またはアップレギュレートされるユニバーサル腫瘍抗原、またはそのファミリーのメンバーをコードする、あらゆる遺伝子である。一部の態様において、破壊または抑制される遺伝子は、hTERTまたはサバイビンをコードする遺伝子である。場合によっては、破壊または抑制することができる他の例示的な遺伝子には、抗原MDM2、CYP1B、HER2/neu、WT1、リビン、AFP、CEA、MUC16、MUC1、PSMA、p53、サイクリン(D1)、BCMA、BAFFR、またはTACIをコードする遺伝子が含まれる。一部の態様において、標的化ヌクレアーゼは、hTERT、サバイビン、p53、または他のユニバーサル腫瘍抗原、またはそのファミリーのメンバーをコードする遺伝子に標的化される。一部の局面において、標的化によって、遺伝子は破壊される、例えば、前記細胞におけるhTERT、サバイビン、p53、または他の標的化ユニバーサル腫瘍抗原、またはそのファミリーのメンバーの発現は減少するか、または無くなる。
【0201】
例えば、一部の態様において、hTERT、サバイビン、MDM2、CYP1B、HER2/neu、WT1、リビン、AFP、CEA、MUC16、MUC1、PSMA、p53、サイクリン(D1)、BCMA、BAFFR、またはTACIから選択される抗原に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体を含有し、免疫細胞における対応する内因性遺伝子の破壊または発現を含有する免疫細胞、例えば、T細胞が提供される。一部の局面において、hTERT抗原に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体を含有し、かつ細胞内にある対応する内因性hTERT遺伝子の破壊または抑制を含有する免疫細胞、例えば、T細胞が提供される。他の局面において、サバイビン遺伝子に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体を含有し、かつ細胞内にある対応する内因性サバイビン遺伝子の破壊または抑制を含有する免疫細胞、例えば、T細胞が提供される。
【0202】
特定の態様において、破壊される遺伝子またはその発現もしくは機能が別の方法で抑制される遺伝子はCD38をコードする、例えば、抗CD38の操作された受容体、例えば、抗CD38 CARを発現する細胞においてCD38をコードする。他の例示的な遺伝子には、抗原CD33およびTIM-3をコードする遺伝子が含まれる。Mardiros et al., Blood 122(18)(October 31, 2013)を参照されたい。他の例示的な遺伝子には、抗原CD26、CD30、CD53、CD92、CD100、CD148、CD150、CD200、CD261、CD262、およびCD362をコードする遺伝子が含まれる。一部の態様において、標的化ヌクレアーゼは、操作された細胞の表面にあるCD38遺伝子に標的化される。一部の局面において、標的化によって、CD38遺伝子は破壊される、例えば、操作された細胞の表面にあるCD38の発現が減少するか、または無くなる。一部の局面において、CD38抗原に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体を含有し、かつ細胞内にある対応する内因性CD38遺伝子の破壊または抑制を含有する免疫細胞、例えば、T細胞が提供される。
【0203】
一部の態様において、前記遺伝子は阻害CAR標的である。例えば、阻害CARに結合する抗原の状況において、遺伝子破壊は、ある状況では、操作された細胞それ自身が発現している分子が、操作された細胞の応答に対して減弱効果を誘導する可能性を阻止または低減する。このような抗原の例は、(オフターゲット効果を阻止するために阻害CAR分子が含まれるように)正常細胞または非標的細胞またはオフターゲット細胞の表面に発現しているが、T細胞またはNK細胞などの遺伝子操作に用いられる細胞タイプの表面にも発現している抗原である。例示的な抗原は、場合によっては、免疫回避、がん、または感染の状況においてダウンレギュレートされていることがあるが、一般的に有核細胞の表面に発現しているMHC分子、例えば、MHCクラスI分子である。他の例は、T細胞、NK細胞、または細胞療法のために操作される他の細胞の表面でも発現している任意の阻害CAR標的である。
【0204】
一部の態様において、前記遺伝子は、例えば、操作された抗原受容体を介した結合に応答して、操作された細胞の活性化もしくは刺激または他のエフェクター機能、例えば、増殖する、生存する、1種類もしくは複数種の因子を分泌する、または動員する能力、あるいは細胞死滅を行う能力を弱めるか、または阻止する免疫阻害分子あるいは他の産物をコードする。
【0205】
一部の態様において、抑制される遺伝子は、免疫系を抑止するタンパク質をコードする。一部の態様において、抑制によって、免疫系に対する遺伝子産物の抑止効果が低下する。一部の局面において、これにより、腫瘍細胞に対する免疫応答が増加する。一部の態様において、前記遺伝子は、A2ARなどのアデノシン受容体をコードする。従って、一部の態様において、A2ARの発現、活性、および/または機能は抑制される。
【0206】
遺伝子抑制のための技法
一部の態様において、前記遺伝子の発現、活性、および/または機能の抑制は遺伝子を破壊することによって行われる。一部の局面において、前記遺伝子は、その発現が、遺伝子破壊が無い、または破壊するために導入される成分が無い場合の発現と比較して少なくとも20%、30%、もしくは40%、または約20%、約30%、もしくは約40%、一般的には少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、もしくは95%、または約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、もしくは約95%低減するように破壊される。
【0207】
一部の態様において、遺伝子破壊は、遺伝子において1つもしくは複数の二本鎖切断および/または1つもしくは複数の一本鎖切断を、典型的には、標的化されたやり方で誘導することによって行われる。一部の態様において、二本鎖切断または一本鎖切断は、ヌクレアーゼ、例えば、エンドヌクレアーゼ、例えば、遺伝子標的化ヌクレアーゼによって行われる。一部の局面において、切断は、遺伝子のコード領域、例えば、エキソンにおいて誘導される。例えば、一部の態様において、誘導は、コード領域のN末端部分の近くで、例えば、第1のエキソン、第2のエキソン、またはその後のエキソンにおいて生じる。
【0208】
一部の局面において、二本鎖切断または一本鎖切断は、細胞修復プロセスを介して、例えば、非相同末端結合(NHEJ)または相同組換え修復(HDR)によって修復を受ける。一部の局面において、修復プロセスは誤りがちであり、遺伝子の破壊、例えば、遺伝子を完全にノックアウトすることができるフレームシフト変異、例えば、二対立遺伝子フレームシフト変異をもたらす。例えば、一部の局面において、破壊は、欠失、変異、および/または挿入を誘導する工程を含む。一部の態様において、破壊は早期終止コドンの存在をもたらす。一部の局面において、挿入、欠失、転位置、フレームシフト変異、および/または中途終止コドンの存在は遺伝子の発現、活性、および/または機能の抑制をもたらす。
【0209】
一部の態様において、遺伝子発現が後で回復されるように、抑制は一過性または可逆的である。他の態様において、抑制は可逆的でも一過性でもなく、例えば、恒久的である。
【0210】
一部の態様において、遺伝子抑制は、アンチセンス技法を用いて、例えば、RNA干渉(RNAi)によって成し遂げられ、遺伝子の発現を選択的に抑止または抑制するために低分子干渉RNA(siRNA)、ショートヘアピン(shRNA)、および/またはリボザイムが用いられる。siRNA技術には、遺伝子から転写されたmRNAのヌクレオチド配列と相同な配列と、そのヌクレオチド配列と相補的な配列をもつ二本鎖RNA分子を利用するRNAiに基づくsiRNA技術が含まれる。siRNAは、一般的に、遺伝子から転写されたmRNAのある領域と相同/相補的であるか、または異なる領域と相同/相補的な複数のRNA分子を含むsiRNAでもよい。
【0211】
DNA標的化分子および複合体;標的化エンドヌクレアーゼ
一部の態様において、抑制は、特異的に遺伝子に結合またはハイブリダイズする、DNA標的化分子、例えば、DNA結合タンパク質もしくはDNA結合核酸、またはそれを含有する複合体、化合物、もしくは組成物を用いて成し遂げられる。一部の態様において、DNA標的化分子は、DNA結合ドメイン、例えば、ジンクフィンガータンパク質(ZFP)DNA結合ドメイン、転写アクチベーター様タンパク質(TAL)もしくはTALエフェクター(TALE)DNA結合ドメイン、クリスパーDNA結合ドメイン、またはメガヌクレアーゼに由来するDNA結合ドメインを含む。
【0212】
ジンクフィンガー、TALE、およびクリスパー系結合ドメインは、例えば、天然のジンクフィンガーまたはTALEタンパク質の認識ヘリックス領域を操作する(1つまたは複数のアミノ酸を変える)ことによって、予め決められたヌクレオチド配列に結合するように「操作」することができる。操作されたDNA結合タンパク質(ジンクフィンガーまたはTALE)は非天然タンパク質である。設計のための合理的な基準には、置換規則の適用、ならびに既存のZFPおよび/またはTALE設計および結合データの情報を記憶するデータベース内で情報を処理するためのコンピュータアルゴリズムが含まれる。例えば、米国特許第6,140,081号;同第6,453,242号;および同第6,534,261号を参照されたい。WO98/53058;WO98/53059;WO98/53060;WO02/016536およびWO03/016496ならびに米国特許出願公開第20110301073号も参照されたい。
【0213】
一部の態様において、DNA標的化分子、複合体、または組み合わせは、DNA結合分子と、1つまたは複数のさらなるドメイン、例えば、遺伝子の抑制または破壊を容易にするエフェクタードメインを含有する。例えば、一部の態様において、遺伝子破壊は、DNA結合タンパク質と異種調節ドメインまたはその機能的断片を含む融合タンパク質によって行われる。一部の局面において、ドメインには、例えば、転写因子ドメイン、例えば、アクチベーター、リプレッサー、コアクチベーター、コリプレッサー、サイレンサー、がん遺伝子、DNA修復酵素ならびにその関連因子およびモディファイヤー、DNA再編成酵素ならびにその関連因子およびモディファイヤー、クロマチン結合タンパク質およびそのモディファイヤー、例えば、キナーゼ、アセチラーゼ、およびデアセチラーゼ、ならびにDNA修飾酵素、例えば、メチルトランスフェラーゼ、トポイソメラーゼ、ヘリカーゼ、リガーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、ポリメラーゼ、エンドヌクレアーゼ、ならびにその関連因子およびモディファイヤーが含まれる。例えば、DNA結合ドメインおよびヌクレアーゼ切断ドメインの融合に関する詳細については、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第20050064474号;同第20060188987号および同第2007/0218528号を参照されたい。一部の局面において、さらなるドメインはヌクレアーゼドメインである。従って、一部の態様において、遺伝子破壊は、操作されたタンパク質、例えば、ヌクレアーゼ、および非特異的DNA切断分子、例えば、ヌクレアーゼと融合または複合体化した配列特異的DNA結合ドメインで構成されるヌクレアーゼ含有複合体または融合タンパク質を用いた遺伝子編集またはゲノム編集によって容易になる。
【0214】
一部の局面において、これらの標的化されたキメラヌクレアーゼまたはヌクレアーゼ含有複合体は、標的化された二本鎖切断または一本鎖切断を誘導し、誤りがちな非相同末端結合(NHEJ)および相同組換え修復(HDR)を含む細胞DNA修復機構を刺激することによって正確な遺伝子組換えを行う。一部の態様において、ヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼ、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEヌクレアーゼ(TALEN)、RNAガイドエンドヌクレアーゼ(RGEN)、例えば、クリスパー関連(Cas)タンパク質、またはメガヌクレアーゼである。
【0215】
一部の態様において、遺伝子操作された抗原受容体をコードするドナー核酸、例えば、ドナープラスミドまたは核酸が提供され、DSBが導入された後に遺伝子編集部位にHDRによって挿入される。従って、一部の態様において、遺伝子の破壊と、抗原受容体、例えば、CARの導入は同時に行われ、それによって、遺伝子は、部分的に、CARをコードする核酸のノックインまたは挿入によって破壊される。
【0216】
一部の態様において、ドナー核酸は提供されない。一部の局面において、DSBが導入された後にNHEJを介した修復が起こると、例えば、ミスセンス変異またはフレームシフトが作り出されることで、遺伝子を破壊することができる挿入または欠失変異が生じる。
【0217】
ZFPおよびZFN;TAL、TALE、およびTALEN
一部の態様において、DNA標的化分子は、エフェクタータンパク質、例えば、エンドヌクレアーゼと融合したDNA結合タンパク質、例えば、1種類または複数種のジンクフィンガータンパク質(ZFP)または転写アクチベーター様タンパク質(TAL)を含む。例には、ZFN、TALE、およびTALENが含まれる。Lloyd et al., Fronteirs in Immunology, 4(221), 1-7(2013)を参照されたい。
【0218】
一部の態様において、DNA標的化分子は、配列特異的にDNAに結合する、1種類または複数種のジンクフィンガータンパク質(ZFP)またはそのドメインを含む。ZFPまたはそのドメインは、亜鉛イオンの配位結合によって安定化される構造をもつ、結合ドメインの中にあるアミノ酸配列の領域である1つまたは複数のジンクフィンガーを介して配列特異的にDNAに結合するタンパク質または大きなタンパク質の中にあるドメインである。ジンクフィンガーDNA結合タンパク質という用語はジンクフィンガータンパク質またはZFPと略されることが多い。
【0219】
ZFPの中には、個々のフィンガーを集めることによって作製された、特定のDNA配列、典型的には9~18ヌクレオチド長を標的化する人工的なZFPドメインがある。
【0220】
ZFPには、1個のフィンガードメインが約30アミノ酸長であり、亜鉛を介して1つのβターンの2個のシステインと配位結合する2個の変化しないヒスチジン残基を含有するαヘリックスを含有し、2個、3個、4個、5個、または6個のフィンガーを有するZFPが含まれる。一般的に、ZFPの配列特異性は、ジンクフィンガー認識ヘリックス上にある4つのヘリックス位置(-1、2、3、および6)でアミノ酸置換を行うことによって変えられる可能性がある。従って、一部の態様において、ZFPまたはZFP含有分子は非天然であり、例えば、選択された標的部位に結合するように操作されている。例えば、Beerli et al.(2002) Nature Biotechnol. 20: 135-141; Pabo et al.(2001) Ann. Rev. Biochem. 70:313-340; Isalan et al.(2001) Nature Biotechnol. 19:656-660; Segal et al.(2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12:632-637; Choo et al.(2000) Curr. Opin. Struct. Biol. 10:411-416;米国特許第6,453,242号;同第6,534,261号;同第6,599,692号;同第6,503,717号;同第6,689,558号;同第7,030,215号;同第6,794,136号;同第7,067,317号;同第7,262,054号;同第7,070,934号;同第7,361,635号;同第7,253,273号;および米国特許出願公開第2005/0064474号;同第2007/0218528号;同第2005/0267061号を参照されたい。これらは全て、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0221】
一部の局面において、遺伝子の抑制は、遺伝子にある第1の標的部位を第1のZFPと接触させ、それによって、遺伝子を抑制することによって行われる。一部の態様において、遺伝子にある標的部位は、6個のフィンガーと調節ドメインを含む融合ZFPと接触され、遺伝子の発現が阻害される。
【0222】
一部の態様において、接触させる工程は、遺伝子にある第2の標的部位を第2のZFPと接触させる工程をさらに含む。一部の局面において、第1の標的部位および第2の標的部位は隣接している。一部の態様において、第1のZFPおよび第2のZFPは共有結合により連結される。一部の局面において、第1のZFPは、1個の調節ドメインまたは少なくとも2個の調節ドメインを含む融合タンパク質である。一部の態様において、第1のZFPおよび第2のZFPは融合タンパク質であり、それぞれが調節ドメインを含むか、またはそれぞれが少なくとも2個の調節ドメインを含む。一部の態様において、調節ドメインは、転写リプレッサー、転写アクチベーター、エンドヌクレアーゼ、メチルトランスフェラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、またはヒストンデアセチラーゼである。
【0223】
一部の態様において、ZFPは、プロモーターに機能的に連結されたZFP核酸によってコードされる。一部の局面において、前記方法は、最初に、核酸を脂質:核酸複合体の中に入れて、または裸の核酸として細胞に投与する工程をさらに含む。一部の態様において、ZFPは、プロモーターに機能的に連結されたZFP核酸を含む発現ベクターによってコードされる。一部の態様において、ZFPは、誘導性プロモーターに機能的に連結された核酸によってコードされる。一部の局面において、ZFPは、弱いプロモーターに機能的に連結された核酸によってコードされる。
【0224】
一部の態様において、標的部位は遺伝子の転写開始点の上流にある。一部の局面において、標的部位は遺伝子の転写開始点に隣接する。一部の局面において、標的部位は、遺伝子の転写開始点の下流にあるRNAポリメラーゼ休止(pause)部位に隣接する。
【0225】
一部の態様において、DNA標的化分子は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を形成するようにDNA切断ドメインと融合したジンクフィンガーDNA結合ドメインであるか、またはこれを含む。一部の態様において、融合タンパク質は、操作されていてもよく、操作されていなくてもよい、少なくとも1つのIIS型制限酵素に由来する切断ドメイン(または切断ハーフドメイン)と1つまたは複数のジンクフィンガー結合ドメインを含む。一部の態様において、切断ドメインはIIS型制限エンドヌクレアーゼFokIに由来する。FokIは、一般的に、一方の鎖にあるFokI認識部位から9ヌクレオチド、および他方の鎖にあるFokI認識部位から13ヌクレオチドの場所でDNAの二本鎖切断を触媒する。例えば、米国特許第5,356,802号;同第5,436,150号および同第5,487,994号;ならびにLi et al.(1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:4275-4279; Li et al.(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2764-2768;Kim et al.(1994a) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:883-887; Kim et al.(1994b) J. Biol. Chem.269:31,978-31,982.]を参照されたい。
【0226】
一部の態様において、ZFNは、操作された細胞に存在する遺伝子を標的とする。一部の局面において、ZFNは、二本鎖切断(DSB)を、例えば、遺伝子のコード領域にある予め決められた部位で効率的に生じる。標的化される典型的な領域には、エキソン、N末端領域をコードする領域、1番目のエキソン、2番目のエキソン、およびプロモーターまたはエンハンサー領域が含まれる。一部の態様において、ZFNが一過性に発現されると、操作された細胞における標的遺伝子の高効率、かつ恒久的な破壊が促進される。特に、一部の態様において、ZFNが送達されると50%を超える効率で遺伝子が恒久的に破壊される。
【0227】
多くの遺伝子特異的な操作されたジンクフィンガーが市販されている。例えば、Sangamo Biosciences(Richmond, CA, USA)は、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO, USA)と共同で、研究者がジンクフィンガーの構築と検証を全て素通りするのを可能にするジンクフィンガー構築用プラットフォーム(CompoZr)を開発しており、数千種類ものタンパク質に対する特異的に標的化されたジンクフィンガーを提供する。Gaj et al., Trends in Biotechnology, 2013, 31(7), 397-405。一部の態様において、市販のジンクフィンガーが用いられるか、特別設計される(例えば、Sigma-Aldrichカタログ番号CSTZFND、CSTZFN、CTI1-1KT、およびPZD0020を参照されたい)。
【0228】
TALEおよびTALEN
一部の態様において、DNA標的化分子は、例えば、転写アクチベーター様タンパク質エフェクター(TALE)タンパク質の中にある、天然のまたは操作された(非天然の)転写アクチベーター様タンパク質(TAL)DNA結合ドメインを含む。例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2011030107号を参照されたい。
【0229】
TALE DNA結合ドメインまたはTALEは、1つまたは複数のTALE反復ドメイン/単位を含むポリペプチドである。この反復ドメインはTALEとそのコグネイト標的DNA配列との結合に関与する。1個の「反復単位」(「反復」とも呼ばれる)は典型的には33~35アミノ酸長であり、天然TALEタンパク質の中にある他のTALE反復配列と少なくとも、いくらかの配列相同性を示す。それぞれのTALE反復単位は、典型的には反復の位置12および/または位置13に、反復可変二残基(Repeat Variable Diresidue)(RVD)を構成する1個または2個のDNA結合残基を含む。位置12および位置13にあるHD配列がシトシン(C)と結合し、NGがTと結合し、NIがAに結合し、NNがGまたはAに結合し、NGがTに結合するように、これらのTALEがDNAを認識するための天然の(標準的な)コードが決定されている。非標準的な(非典型的な)RVDも公知である。米国特許出願公開第20110301073号を参照されたい。一部の態様において、標的DNA配列に対して特異性をもつTALアレイを設計することによって、TALEを任意の遺伝子に標的化することができる。標的配列は一般的にチミジンから始まる。
【0230】
一部の態様において、前記分子は、DNA結合エンドヌクレアーゼ、例えば、TALE-ヌクレアーゼ(TALEN)である。一部の局面において、TALENは、TALEに由来するDNA結合ドメインと、核酸標的配列を切断するヌクレアーゼ触媒ドメインを含む融合タンパク質である。一部の態様において、TALE DNA結合ドメインは、標的抗原および/または免疫抑制分子をコードする遺伝子の中にある標的配列に結合するように操作されている。例えば、一部の局面において、TALE DNA結合ドメインはCD38および/またはA2ARなどのアデノシン受容体を標的としてもよい。
【0231】
一部の態様において、TALENは遺伝子にある標的配列を認識および切断する。一部の局面において、DNAが切断されると二本鎖切断が生じる。一部の局面において、切断によって、相同組換えまたは非相同末端結合(NHEJ)の割合が刺激される。一般的に、NHEJは、切断部位にあるDNA配列を変えることが多い不完全な修復プロセスである。一部の局面において、修復機構は、直接的な再連結を介して(Critchlow and Jackson, Trends Biochem Sci. 1998 Oct;23(10):394-8)、またはいわゆるマイクロホモロジー媒介末端結合を介して、2つのDNA末端の中で残っているものが再結合することを伴う。一部の態様において、NHEJを介した修復は小さな挿入または欠失をもたらし、遺伝子を破壊し、それによって抑制するのに使用することができる。一部の態様において、改変は、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、欠失、または付加でもよい。一部の局面において、切断によって誘導される変異誘発事象、すなわち、NHEJ事象に引き続いて起こる変異誘発事象が発生した細胞は、当技術分野において周知の方法によって特定および/または選択することができる。
【0232】
一部の態様において、TALE反復は遺伝子を特異的に標的化するように組み立てられる(Gaj et al., Trends in Biotechnology, 2013, 31(7), 397-405)。18,740種類のヒトタンパク質コード遺伝子を標的化するTALENライブラリーが構築されている(Kim et al., Nature Biotechnology. 31, 251-258(2013))。特別設計された TALE アレイが、Cellectis Bioresearch(Paris, France)、Transposagen Biopharmaceuticals(Lexington, KY, USA)、およびLife Technologies(Grand Island, NY, USA)から市販されている。特に、CD38を標的とするTALENが市販されている(ワールドワイドウェブ上にあるwww.genecopoeia.com/product/search/detail.php?prt=26&cid=&key=HTN222870から入手可能なGencopoeia、カタログ番号HTN222870-1、HTN222870-2、およびHTN222870-3を参照されたい)。例示的な分子は、例えば、米国特許出願公開第US2014/0120622号および同第2013/0315884号に記載されている。
【0233】
一部の態様において、TALENは、1つまたは複数のプラスミドベクターによってコードされるトランスジーンとして導入される。一部の局面において、プラスミドベクターは、前記ベクターを受け取った細胞を特定および/または選択する選択マーカーを含有することができる。
【0234】
RGEN(クリスパー/Cas系)
一部の態様において、抑制は、1種類または複数種のDNA結合核酸を用いて、例えば、RNAガイドエンドヌクレアーゼ(RGEN)を介した破壊、または別のRNAガイドエフェクター分子による他の形の抑制を介した破壊を用いて行われる。例えば、一部の態様において、抑制はクリスパーおよびクリスパー関連(Cas)タンパク質を用いて行われる。Sander and Joung, Nature Biotechnology, 32(4): 347-355を参照されたい。
【0235】
一般的に、「クリスパー系」とは、クリスパー関連(「Cas」)遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化クリスパー)配列(例えば、tracrRNAもしくは活性のある部分的なtracrRNA)、tracr-mate配列(内因性クリスパー系の状況では「直列反復配列(direct repeat)」およびtracrRNAによって処理された部分的な直列反復配列を含む)、ガイド配列(内因性クリスパー系の状況では「スペーサー」とも呼ばれる)、ならびに/またはクリスパー遺伝子座に由来する他の配列および転写物を含むCas遺伝子の発現に関与するか、またはその活性を誘導する転写物および他のエレメントをひとまとめにして指す。
【0236】
一部の態様において、クリスパー/Casヌクレアーゼまたはクリスパー/Casヌクレアーゼ系は、DNAに配列特異的に結合するノンコーディングRNA分子(ガイド)RNA、およびヌクレアーゼ機能(例えば、2つのヌクレアーゼドメイン)をもつCasタンパク質(例えば、Cas9)を含む。
【0237】
一部の態様において、クリスパー系の1つまたは複数の要素はI型、II型、またはIII型クリスパー系に由来する。一部の態様において、クリスパー系の1つまたは複数の要素は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)などの内因性クリスパー系を含む特定の生物に由来する。
【0238】
一部の態様において、CasヌクレアーゼおよびgRNA(標的配列に特異的なcrRNAと、決まったtracrRNAとの融合を含む)が前記細胞に導入される。一般的に、gRNAの5'末端にある標的部位は、相補的塩基対合を用いて、Casヌクレアーゼを標的部位、例えば、遺伝子に標的化する。一部の態様において、標的部位は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列のすぐ5'側にある場所、例えば、典型的にはNGGまたはNAGに基づいて選択される。この点において、gRNAは、標的DNA配列に対応するようにガイドRNAの最初の20ヌクレオチドを改変することによって望ましい配列に標的化される。
【0239】
一部の態様において、クリスパー系は、本明細書において議論されるように標的部位におけるDSBと、その後に破壊を誘導する。他の態様において、Cas9変種は「ニッカーゼ」と見なされ、一本鎖の標的部位にニックを入れるのに用いられる。一部の局面において、ニックが同時に導入されて5'オーバーハングが導入されるように、それぞれが一対の異なるgRNA標的化配列によって向けられる一対のニッカーゼが、例えば、特異性を改善するために用いられる。他の態様において、遺伝子発現に影響を及ぼすために、触媒的に不活性なCas9が異種エフェクタードメイン、例えば、転写リプレッサーまたはアクチベーターと融合される。
【0240】
一般的に、クリスパー系は、標的配列部位でのクリスパー複合体の形成を促進する要素を特徴とする。典型的に、クリスパー複合体の形成の状況において、「標的配列」とは、一般的に、相補性をもつように設計されたガイド配列の相手となる配列を指す。ここで、標的配列とガイド配列がハイブリダイズすることによってクリスパー複合体の形成が促進される。ハイブリダイゼーションを引き起こし、クリスパー複合体の形成を促進するのに十分な相補性があれば、完全な相補性が必ずしも必要とされるわけではない。
【0241】
標的配列は、DNAまたはRNAポリヌクレオチドなどの任意のポリヌクレオチドを含んでもよい。一部の態様において、標的配列は細胞の核または細胞質に位置する。一部の態様において、標的配列は細胞の細胞小器官内にあってもよい。一般的に、標的配列を含む標的化された遺伝子座の中での組換えに用いられる可能性のある配列またはテンプレートは「編集テンプレート」または「編集ポリヌクレオチド」または「編集配列」と呼ばれる。一部の局面において、外因性テンプレートポリヌクレオチドが編集テンプレートと呼ばれることがある。一部の局面において、組換えは相同組換えである。
【0242】
典型的に、内因性クリスパー系の状況において、クリスパー複合体(標的配列にハイブリダイズし、1つまたは複数のCasタンパク質と複合体化するガイド配列を含む)が形成すると、標的配列の中で、または標的配列の近くで(例えば、標的配列から1塩基対、2塩基対、3塩基対、4塩基対、5塩基対、6塩基対、7塩基対、8塩基対、9塩基対、10塩基対、20塩基対、50塩基対、またはそれより多い塩基対内で)一方の鎖または両方の鎖が切断される。理論に拘束されるつもりはないが、野生型tracr配列の全てまたは一部(例えば、野生型tracr配列の約20、約26、約32、約45、約48、約54、約63、約67、約85以上のヌクレオチド、もしくはそれより多いヌクレオチド)を含んでもよく、またはそれからなってもよいtracr配列もまた、例えば、tracr配列の少なくとも一部に沿って、ガイド配列に機能的に連結されたtracr mate配列の全てまたは一部にハイブリダイズすることによって、クリスパー複合体の一部を形成してもよい。一部の態様において、tracr配列は、ハイブリダイズし、クリスパー複合体の形成に関与するのに十分な、tracr mate配列との相補性を有する。
【0243】
標的配列と同様に、一部の態様において、完全な相補性が必ずしも必要とされるわけではない。一部の態様において、tracr配列は、最適にアラインメントされた時に、tracr mate配列の長さに沿って少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%の配列相補性を有する。一部の態様において、クリスパー系の要素が発現することで1つまたは複数の標的部位においてクリスパー複合体の形成が誘導されるように、クリスパー系の1種類または複数種の要素を発現させる1種類または複数種のベクターが細胞に導入される。例えば、Cas酵素、tracr-mate配列に連結されたガイド配列、およびtracr配列をそれぞれ、別々のベクター上にある別々の調節エレメントに機能的に連結することができる。または、同じ調節エレメントまたは異なる調節エレメントから発現されるエレメントのうち2つ以上が1つのベクターの中で組み合わされ、1種類または複数種のさらなるベクターが、第1のベクターに含まれないクリスパー系の任意の成分を供給してもよい。一部の態様において、1つのベクターの中で組み合わされるクリスパー系要素は任意の適切な方向に並べられてよく、例えば、ある要素が第2の要素に対して5'側(第2の要素の「上流」)または第2の要素に対して3'側(第2の要素の「下流」)に位置してもよい。ある要素のコード配列は第2の要素のコード配列の同じ鎖に位置してもよく反対の鎖に位置してもよく、同じ方向に向けられてもよく反対の方向に向けられてもよい。一部の態様において、1つのプロモーターによって、クリスパー酵素、ならびにガイド配列、tracr mate配列(任意で、ガイド配列に機能的に連結される)、および1つまたは複数のイントロン配列に埋め込まれたtracr配列(例えば、それぞれが異なるイントロンの中にあるか、2つ以上が少なくとも1つのイントロンの中にあるか、または全てが1つのイントロンの中にある)の1つまたは複数をコードする転写物が発現される。一部の態様において、クリスパー酵素、ガイド配列、tracr mate配列、およびtracr配列は同じプロモーターに機能的に連結され、同じプロモーターから発現される。
【0244】
一部の態様において、ベクターは、1つまたは複数の挿入部位、例えば、制限エンドヌクレアーゼ認識配列(「クローニング部位」とも呼ばれる)を含む。一部の態様において、1つまたは複数の挿入部位(例えば、約1個、約2個、約3個、約4個、約5個、約6個、約7個、約8個、約9個、約10個以上の挿入部位、またはこれより多い挿入部位)が1つまたは複数のベクターの1つまたは複数の配列エレメントの上流および/または下流に位置する。一部の態様において、ガイド配列が挿入部位に挿入された後に、および発現された時に、ガイド配列が真核細胞内でクリスパー複合体と標的配列の配列特異的結合を誘導するように、ベクターは、tracr mate配列の上流に、任意で、tracr mate配列に機能的に連結された調節エレメントの下流に挿入部位を含む。一部の態様において、ベクターは2つ以上の挿入部位を含み、ガイド配列を各部位に挿入できるように、それぞれの挿入部位は2つのtracr mate配列の間に位置する。このような配置において、2つ以上のガイド配列は、2コピー以上の1種類のガイド配列、2つ以上の異なるガイド配列、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。複数の異なるガイド配列が用いられる場合、細胞内にある複数の異なる対応する標的配列にクリスパー活性を標的化するように1種類の発現構築物が用いられてもよい。例えば、1種類のベクターが、約1個、約2個、約3個、約4個、約5個、約6個、約7個、約8個、約9個、約10個、約15個、約20個以上の、またはそれより多いガイド配列を含んでもよい。一部の態様において、約1個、約2個、約3個、約4個、約5個、約6個、約7個、約8個、約9個、約10個以上の、またはそれより多いこのようなガイド配列を含有するベクターが提供されてもよく、任意で前記細胞に送達されてもよい。
【0245】
一部の態様において、ベクターは、クリスパー酵素、例えば、Casタンパク質をコードする酵素コード配列に機能的に連結された調節エレメントを含む。Casタンパク質の非限定的な例には、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1およびCsx12とも知られる)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、そのホモログ、またはその改変バージョンが含まれる。これらの酵素は公知である。例えば、S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9タンパク質のアミノ酸配列は、SwissProtデータベースにアクセッション番号Q99ZW2で見つけることができる。一部の態様において、Cas9などの改変されていないクリスパー酵素にはDNA切断活性がある。一部の態様において、クリスパー酵素はCas9であり、S.ピオゲネス、黄色ブドウ球菌(S.aureus)またはS.ニューモニエ(S.pneumoniae)に由来するCas9でもよい。一部の態様において、クリスパー酵素は、標的配列の場所で、例えば、標的配列内、および/または標的配列の相補鎖内で一方の鎖または両方の鎖の切断を誘導する。一部の態様において、クリスパー酵素は、標的配列の最初のヌクレオチドまたは最後のヌクレオチドから約1塩基対、約2塩基対、約3塩基対、約4塩基対、約5塩基対、約6塩基対、約7塩基対、約8塩基対、約9塩基対、約10塩基対、約15塩基対、約20塩基対、約25塩基対、約50塩基対、約100塩基対、約200塩基対、約500塩基対、またはそれより多い塩基対内で一方の鎖または両方の鎖の切断を誘導する。
【0246】
一部の態様において、変異したクリスパー酵素は、対応する野生型酵素と比べて変異しているクリスパー酵素をコードする。Cas9タンパク質における変異の非限定的な例は、当業者には公知であり(例えばWO2015/161276を参照のこと)、そのいずれも、提供される方法に従ってCRISPR/Cas9システムに含まれ得る。一部の態様において、クリスパー酵素が標的配列を含有する標的ポリヌクレオチドの一方の鎖または両方の鎖を切断する能力を欠くように、クリスパー酵素は変異している。例えば、S.ピオゲネスに由来するCas9のRuvC I触媒ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、両鎖を切断するヌクレアーゼに由来するCas9をニッカーゼ(1本の鎖を切断する)に変える。一部の態様において、Cas9ニッカーゼは、ガイド配列、例えば、それぞれDNA標的のセンス鎖およびアンチセンス鎖を標的とする2つのガイド配列と組み合わせて用いられてもよい。この組み合わせを用いると、両鎖にニックを入れ、NHEJを誘導するのに使用することが可能になる。
【0247】
一部の態様において、クリスパー酵素をコードする酵素コード配列は、特定の細胞、例えば、真核細胞における発現のためにコドン最適化される。真核細胞は、特定の生物、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、もしくは非ヒト霊長類を含むが、これに限定されない哺乳動物の真核細胞でもよく、これに由来してもよい。一般的に、コドン最適化とは、天然アミノ酸配列を維持しながら、天然配列の少なくとも1つのコドン(例えば、約1個、約2個、約3個、約4個、約5個、約10個、約15個、約20個、約25個、約50個以上のコドン、またはそれより多いコドン)を、宿主細胞の遺伝子においてもっと頻繁に用いられるコドンまたは最も頻繁に用いられるコドンと交換することによって関心対象の宿主細胞における発現を強化するための核酸配列を改変するプロセスを指す。様々な種が、特定のアミノ酸のある特定のコドンを好む特定の偏りを示す。コドンバイアス(生物間のコドン使用頻度の違い)はメッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳効率と相関することが多い。そして次に、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳効率は、特に、翻訳されているコドンの特性および特定のトランスファーRNA(tRNA)分子の利用可能性に依存すると考えられている。選択されたtRNAが細胞において優勢であることは、一般的に、ペプチド合成の際に最も頻繁に用いられるコドンを反映している。従って、ある特定の生物において最適に遺伝子発現するようにコドン最適化に基づいて遺伝子を合わせることができる。一部の態様において、クリスパー酵素をコードする配列中にある1つまたは複数のコドン(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、10個、15個、20個、25個、50個、もしくはそれより多い、または全てのコドン)は、特定のアミノ酸の最も頻繁に用いられるコドンに対応する。
【0248】
一般的に、ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズし、クリスパー複合体と標的配列との配列特異的結合を誘導するのに標的ポリヌクレオチド配列と十分な相補性をもつポリヌクレオチド配列を含む標的ドメインを含む。一部の態様において、ガイド配列とその対応する標的配列との間の相補性の程度は、適切なアラインメントアルゴリズムを用いて適切にアラインメントされた時に、約50%、約60%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97.5%、約99%以上であるか、またはこれより大きい。一部の態様において、gRNAの標的ドメインは、標的核酸の標的配列に対して相補性であり、例えば、少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%相補性であり、例えば、完全に相補性である。
【0249】
最適アラインメントは、配列をアラインメントするための任意の適切なアルゴリズムを用いることによって確かめることができる。アルゴリズムの非限定的な例には、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、Burrows-Wheeler変換に基づいたアルゴリズム(例えば、Burrows Wheeler Aligner)、ClustalW、Clustal X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies, ELAND(Illumina, San Diego, Calif.)、SOAP(soap.genomics.org.cnで入手可能)、およびMaq(maq.sourceforge.netで入手可能)が含まれる。一部の態様において、ガイド配列は、長さが約5ヌクレオチド、約10ヌクレオチド、約11ヌクレオチド、約12ヌクレオチド、約13ヌクレオチド、約14ヌクレオチド、約15ヌクレオチド、約16ヌクレオチド、約17ヌクレオチド、約18ヌクレオチド、約19ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約21ヌクレオチド、約22ヌクレオチド、約23ヌクレオチド、約24ヌクレオチド、約25ヌクレオチド、約26ヌクレオチド、約27ヌクレオチド、約28ヌクレオチド、約29ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約35ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約45ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約75ヌクレオチド以上であるか、またはこれより長い。一部の態様において、ガイド配列は、長さが約75ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約45ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約35ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約25ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約15ヌクレオチド、約12ヌクレオチド未満であるか、またはそれより短いヌクレオチドである。ガイド配列がクリスパー複合体と標的配列との配列特異的結合を誘導する能力は任意の適切なアッセイによって評価することができる。例えば、試験しようとするガイド配列を含む、クリスパー複合体を形成するのに十分なクリスパー系の成分は、例えば、クリスパー配列の成分をコードするベクターを用いてトランスフェクトすることによって、対応する標的配列を有する細胞に供給され、その後に、標的配列内での優先的な切断が、例えば、本明細書に記載のようにSurveyorアッセイによって評価されてもよい。同様に、標的ポリヌクレオチド配列の切断は、標的配列、試験しようとするガイド配列を含むクリスパー複合体の成分、および試験ガイド配列とは異なる対照ガイド配列を準備し、試験ガイド配列反応と対照ガイド配列反応との間で標的配列での結合または切断速度を比較することによって試験管内で評価されてもよい。
【0250】
ガイド配列は任意の標的配列を標的化するように選択することができる。一部の態様において、標的配列は細胞のゲノム内にある配列である。例示的な標的配列には、標的ゲノムにおいて独特の配列が含まれる。一部の態様において、ガイド配列は、ガイド配列内にある二次構造の程度を少なくするように選択される。二次構造は任意の適切なポリヌクレオチドフォールディングアルゴリズムによって決定することができる。
【0251】
一般的に、tracr mate配列は、(1)対応するtracr配列を含有する細胞内における、tracr mate配列が隣接するガイド配列の切除;および(2)標的配列における、tracr配列にハイブリダイズしたtracr mate配列を含むクリスパー複合体の形成の1つまたは複数を促進するのに十分な、tracr配列との相補性を有する任意の配列を含む。一般的に、相補性の程度は、tracr mate配列とtracr配列のうちの短い方の配列の長さに沿った、2つの配列の最適アラインメントに関するものである。
【0252】
最適アラインメントは任意の適切なアラインメントアルゴリズムによって確かめることができ、二次構造、例えば、tracr配列内またはtracr mate配列内での自己相補性をさらに明らかにすることができる。一部の態様において、最適にアラインメントされた時の、tracr配列とtracr mate配列のうちの短い方の配列の長さに沿った2つの配列間の相補性の程度は、約25%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約97.5%、約99%以上、またはこれより大きい。一部の態様において、tracr配列は、長さが約5ヌクレオチド、約6ヌクレオチド、約7ヌクレオチド、約8ヌクレオチド、約9ヌクレオチド、約10ヌクレオチド、約11ヌクレオチド、約12ヌクレオチド、約13ヌクレオチド、約14ヌクレオチド、約15ヌクレオチド、約16ヌクレオチド、約17ヌクレオチド、約18ヌクレオチド、約19ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約25ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約50ヌクレオチド以上、またはそれより長い。一部の態様において、tracr配列とtracr mate配列がハイブリダイズすることによってヘアピンなどの二次構造を有する転写物が生じるように、2つの配列は1本の転写物の中に含まれる。一部の局面において、ヘアピン構造において使用するためのループ形成配列は長さが4ヌクレオチドであり、配列GAAAを有する。しかしながら、さらに長い、または短いループ配列が用いられてもよく、同様に、代わりの配列が用いられてもよい。一部の態様において、前記配列は、ヌクレオチドトリプレット(例えば、AAA)、およびさらなるヌクレオチド(例えばCまたはG)を含む。ループ形成配列の例にはCAAAおよびAAAGが含まれる。一部の態様において、転写物または転写されたポリヌクレオチド配列は少なくとも2個以上のヘアピンを有する。一部の態様において、転写物は2個、3個、4個、または5個のヘアピンを有する。さらなる態様において、転写物は最大で5個のヘアピンを有する。一部の態様において、1本の転写物は、転写終結配列、例えば、ポリT配列、例えば、6個のTヌクレオチドをさらに含む。
【0253】
一部の態様において、クリスパー酵素は、1種類または複数種の異種タンパク質ドメイン(例えば、クリスパー酵素の他に約1個、約2個、約3個、約4個、約5個、約6個、約7個、約8個、約9個、約10個以上のドメイン、またはこれより多いドメイン)を含む融合タンパク質の一部である。クリスパー酵素融合タンパク質は、任意のさらなるタンパク質配列と、任意で、任意の2つのドメインの間にあるリンカー配列を含んでもよい。クリスパー酵素と融合され得るタンパク質ドメインの例には、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、ならびに以下の活性:メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写放出因子活性、ヒストン修飾活性、RNA切断活性、および核酸結合活性の1つまたは複数を有するタンパク質ドメインが含まれるが、それに限定されるわけではない。エピトープタグの非限定的な例には、ヒスチジン(His)タグ、V5タグ、FLAGタグ、インフルエンザ血球凝集素(HA)タグ、Mycタグ、VSV-Gタグ、およびチオレドキシン(Trx)タグが含まれる。レポーター遺伝子の例には、グルタチオン-5-トランスフェラーゼ(GST)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、および青色蛍光タンパク質(BFP)を含む自己蛍光タンパク質が含まれるが、これに限定されない。クリスパー酵素は、マルトース結合タンパク質(MBP)、S-タグ、LexA DNA結合ドメイン(DBD)融合、GAL4A DNA結合ドメイン融合、および単純ヘルペスウイルス(HSV)BP16タンパク質融合を含むが、これに限定されない、DNA分子に結合するか、または他の細胞分子に結合するタンパク質またはタンパク質断片をコードする遺伝子配列と融合されてもよい。クリスパー酵素を含む融合タンパク質の一部を形成し得る、さらなるドメインは、参照により本明細書に組み入れられるUS20110059502に記載されている。一部の態様において、標的配列の場所を突き止めるためにタグ化クリスパー酵素が用いられる。
【0254】
一部の態様において、ガイド配列と組み合わせた(任意で、ガイド配列と複合体化した)クリスパー酵素が細胞に送達される。一部の態様において、本開示によるタンパク質構成成分を細胞内に導入する方法(例えば、Cas9/gRNA RNP)は、物理的な送達方法(例えば、エレクトロポレーション、微粒子銃、リン酸カルシウム法によるトランスフェクション、細胞への加圧または圧迫)、リポソーム、またはナノ粒子を介してもよい。
【0255】
例えば、操作された細胞において標的抗原の遺伝子発現をノックダウンするのにクリスパー/Cas9技術が用いられることがある。例示的な方法では、例えば、レンチウイルス送達ベクターを用いて、または多数の公知の送達方法もしくは細胞に移入するためのビヒクルのいずれか、例えば、Cas9分子およびガイドRNAを送達するための多数の公知の方法またはビヒクルのいずれかを用いて、Cas9ヌクレアーゼ(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)もしくはストレプトコッカス・ピオゲネス(Stretpococcus pyogenes)に由来するmRNAによってコードされるCas9ヌクレアーゼ、例えば、pCW-Cas9、Addgene #50661、Wang et al.(2014) Science、3:343-80-4;または Applied Biological Materials(ABM; Canada)からカタログ番号K002、K003、K005、もしくはK006として入手可能なヌクレアーゼもしくはニッカーゼレンチウイルスベクター)と、標的抗原遺伝子に特異的なガイドRNAが細胞に導入される。非特異的な、または空のベクター対照T細胞も作製される。(例えば、移入して24~72時間後の)遺伝子ノックアウトの程度は、細胞における遺伝子破壊を評価するための多数の周知のアッセイのいずれかを用いて評価される。
【0256】
関心対象の標的抗原、例えば、エキソン配列、ならびにプロモーターおよびアクチベーターを含む調節領域配列を含む、本明細書に記載の任意の標的抗原を標的化する配列であるか、またはこれを含むgRNA配列を、設計または特定することは当業者の水準内にある。クリスパーゲノム編集用のゲノムワイドgRNAデータベースは公的利用可能であり、ヒトゲノムまたはマウスゲノムにある遺伝子の構成的エキソンの中にある例示的なシングルガイドRNA(sgRNA)標的配列を含む(例えば、genescript.com/gRNA-database.htmlを参照されたい;Sanjana et al. (2014) Nat. Methods, 11:783-4; http://www.e-crisp.org/E-CRISP/;http://crispr.mit.edu/;https://www.dna20.com/eCommerce/cas9/inputも参照されたい)。一部の態様において、gRNA配列は、非標的遺伝子と最小オフターゲット結合をもつ配列であるか、またはこれを含む。
【0257】
ユニバーサル腫瘍抗原、または他の標的抗原、またはそのファミリーのメンバー、例えば本明細書に記載する任意のもの、例えば、MDM2、CYP1B、HER2/neu、WT1、リビン、AFP、CEA、MUC16、MUC1、PSMA、p53、はサイクリン(D1)、BCMA、BAFFR、またはTACIのいずれか1つまたは複数をノックアウトするための市販のキット、gRNAベクター、およびドナーベクターは、例えば、Origene(Rockville, MD)、GenScript(Atlanta, GA)、Applied Biological Materials(ABM; Richmond, British Colombia)、BioCat(Heidelberg, Germany)などから入手することができる。例えば、クリスパーを介してhTERTをノックアウトするための市販のキットには、例えば、それぞれがABMから入手可能な、カタログ番号K0009801、K0009802、K009803、および/またはK0009804で入手可能なキットが含まれる。クリスパーを介してサバイビンをノックアウトするための市販のキットには、例えば、Origeneから入手可能なカタログ番号KN205935、およびそれぞれABMから入手可能なカタログ番号K0184401、K0184402、K0184403、K0184404が含まれる。クリスパーを介してMDM2をノックアウトするための市販のキットには、例えば、OrigeneのKN219518およびABMのカタログ番号K1283521が含まれる。クリスパーを介してHer2/neuをノックアウトするための市販のキットには、例えば、OrigeneのKN212583が含まれる。クリスパーを介してCyp1B1をノックアウトするための市販のキットには、例えば、BioCatから入手可能なKN204074-ORが含まれる。クリスパーを介してWT1をノックアウトするための市販のキットには、例えば、OrigineのKN220079が含まれる。
【0258】
クリスパーを介してCD38をノックアウトするための市販のキット、gRNAベクター、およびドナーベクターは、例えば、OriGeneから入手することができる。www.origene.com/CRISPR-CAS9/Product.aspx?SKU=KN203179; カタログ番号KN203179G1、KN203179G2、KN203179Dを参照されたい。
【0259】
BCMA、TACI、もしくはBAFF受容体、FcRH5、または説明された他の抗原をノックアウトするための市販のキット、gRNAベクター、およびドナーベクターは、例えば、Santa Cruz Biotechnology(Dallas, Texas)、Origene(Rockville, MD)、GenScript(Piscataway, NJ)から入手することができる。一部の態様において、BCMAをクリスパーノックアウトするためのgRNA配列には、例えば、SEQ ID NO:37~42のいずれかに示した任意のセットが含まれる。このセットは、場合によっては、遺伝子編集によって二本鎖切断を導入するためにCas9ヌクレアーゼと共に使用することができる(例えば、Sanjana et al. (2014) Nat. Methods, 11 :783-4を参照されたい)。クリスパーを介してBCMAをノックアウトするための市販のキットには、例えば、Origeneから入手可能なカタログ番号KN208851が含まれる。一部の態様において、TACIをクリスパーノックアウトするためのgRNA配列には、例えば、SEQ ID NO:43~48のいずれかに示した任意のセットが含まれる。このセットは、場合によっては、遺伝子編集によって二本鎖切断を導入するためにCas9ヌクレアーゼと共に使用することができる。クリスパーを介してTACIをノックアウトするための市販のキットには、例えば、Origeneから入手可能なカタログ番号KN204672が含まれる。一部の態様において、BAFF受容体をクリスパーノックアウトするためのgRNA配列には、例えば、SEQ ID NO:49~54のいずれかに示した任意のセットが含まれる。このセットは、場合によっては、遺伝子編集によって二本鎖切断を導入するためにCas9ヌクレアーゼと共に使用することができる。クリスパーを介してBAFF受容体をノックアウトするための市販のキットには、例えば、Origeneから入手可能なカタログ番号KN211270が含まれる。
【0260】
一部の態様において、FcRH5をクリスパーノックアウトするためのgRNA配列には、例えば、SEQ ID NO:57~62のいずれかに示した任意のセットが含まれる。このセットは、場合によっては、遺伝子編集によって二本鎖切断を導入するためにCas9ヌクレアーゼと共に使用することができる。クリスパーを介してFcRH5をノックアウトするための市販のキットには、例えば、Origeneから入手可能なカタログ番号KN221468が含まれる。
【0261】
一部の態様において、本明細書に記載の任意の抗原に対する設計gRNAガイド配列および/またはベクターは、多数の公知の任意の方法、例えば、クリスパーを介した方法、TALENを介した方法、および/または関連方法による遺伝子ノックダウンにおいて使用するための方法を用いて作製される。
【0262】
一部の局面において、標的ポリヌクレオチドは真核細胞において改変される。一部の態様において、前記方法は、クリスパー複合体を標的ポリヌクレオチドと結合させて、前記標的ポリヌクレオチドを切断し、それによって、標的ポリヌクレオチドを改変する工程を含む。ここで、クリスパー複合体は、前記標的ポリヌクレオチドの中にある標的配列とハイブリダイズするガイド配列と複合体化したクリスパー酵素を含み、前記ガイド配列はtracr mate配列と連結され、そして次に、tracr mate配列はtracr配列とハイブリダイズする。
【0263】
一部の局面において、前記方法は、真核細胞におけるポリヌクレオチドの発現を改変する工程を含む。一部の態様において、前記方法は、クリスパー複合体とポリヌクレオチドが結合することで前記ポリヌクレオチドの発現が増加または減少するように、クリスパー複合体を前記ポリヌクレオチドと結合させる工程を含む。ここで、クリスパー複合体は、前記ポリヌクレオチドの中にある標的配列とハイブリダイズするガイド配列と複合体化したクリスパー酵素を含み、前記ガイド配列はtracr mate配列と連結され、そして次に、tracr mate配列はtracr配列とハイブリダイズする。
【0264】
一部の態様において、クリスパー/Cas系は、標的配列の発現をノックダウンするのに、例えば、標的配列の発現を低減または抑制するのに使用することができる。クリスパー/Cas系の例示的な特徴は以下で説明され、酵素的に不活性なヌクレアーゼを用いることによって、分子をコードする遺伝子を破壊または欠失するのではなく、分子の発現を低減または抑制するのに使用するのに合わせることができる。一部の態様では、関心対象の遺伝子、例えば、本明細書に記載の任意の遺伝子、またはこれに関連するプロモーター、エンハンサー、または他のシス作用調節領域もしくはトランス作用調節領域を標的化するガイドRNA(gRNA)を、改変されたCas9タンパク質または改変されたCas9タンパク質を含有する融合タンパク質と組み合わせて導入して、遺伝子の発現を抑制、例えば、ノックダウンすることができる。一部の態様において、Cas9分子は、Cas9分子が不活性になるような変異、例えば、点変異、例えば、Cas9分子切断活性を無くすか、または大幅に減らす変異を含む酵素的に不活性なCas9(eiCas9)分子である(例えば、WO2015/161276を参照されたい)。一部の態様において、eiCas9分子は、転写アクチベーターまたはリプレッサータンパク質と直接的または間接的に融合される。
【0265】
遺伝子を破壊する分子および複合体をコードする核酸の送達
一部の局面において、DNA標的化分子、その複合体(例えば、Cas9/gRNA RNP)、または組み合わせをコードする核酸が前記細胞に投与または導入される。一部の態様において、このような核酸分子またはその複合体は、当技術分野において周知の方法によってT細胞などの細胞に導入することができる。このような方法には、組換えウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス)、リポソーム、またはナノ粒子の形での導入が含まれるが、これに限定されない。一部の態様において、方法は、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、パーティクルボンバードメント、リン酸カルシウムトランスフェクション、細胞圧縮、または圧迫を含んでもよい。一部の態様において、このような核酸分子またはその複合体は、ウイルス発現ベクターなどの発現ベクターの形で導入することができる。一部の局面において、発現ベクターは、レトロウイルス発現ベクター、アデノウイルス発現ベクター、DNAプラスミド発現ベクター、またはAAV発現ベクターである。一部の局面において、破壊分子または複合体、例えば、DNA標的化分子をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドが細胞に送達される。一部の局面において、送達は、1つまたは複数のベクター、その1つもしくは複数の転写物、および/または前記のものから転写された1つもしくは複数のタンパク質の送達によるものであり、これは細胞に送達される。
【0266】
一部の態様において、前記ポリペプチドは、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入した結果としてインサイチューで細胞内で合成される。一部の局面において、前記ポリペプチドは細胞外で産生され、次いで、細胞に導入されてもよい。ポリヌクレオチド構築物を動物細胞に導入するための方法は公知であり、非限定的な例として、ポリヌクレオチド構築物が細胞ゲノムに組み込まれる安定形質転換法、ポリヌクレオチド構築物が細胞ゲノムに組み込まれない一過性形質転換法、およびウイルスを介した方法を含む。一部の態様において、前記ポリヌクレオチドは、例えば、組換えウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス)、リポソームなどによって細胞に導入されてもよい。例えば、一部の局面において、一過性形質転換法には、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、またはパーティクルボンバードメントが含まれる。一部の態様において、前記ポリヌクレオチドは細胞内で発現されることを考えて、ベクター、さらに詳細にはプラスミドまたはウイルスに含まれてもよい。
【0267】
一部の態様では、ウイルスおよび非ウイルスに基づく遺伝子移入法を用いて、哺乳動物細胞または標的組織に核酸を導入することができる。このような方法を用いて、クリスパー、ZFP、ZFN、TALE、および/またはTALEN系の成分をコードする核酸を培養中の細胞または宿主生物内にある細胞に投与することができる。非ウイルスベクター送達系には、DNAプラスミド、RNA(例えば、本明細書に記載のベクターの転写物)、裸の核酸、および送達ビヒクル、例えば、リポソームと複合体化した核酸が含まれる。ウイルスベクター送達系には、細胞に送達された後にエピソームまたは組み込まれたゲノムを有する、DNAウイルスおよびRNAウイルスが含まれる。遺伝子療法手順の総説については、Anderson, Science 256:808-813(1992); Nabel & Felgner, TIBTECH 11:211-217(1993); Mitani & Caskey, TIBTECH 11: 162-166(1993); Dillon. TIBTECH 11: 167-175(1993); Miller, Nature 357:455-460(1992); Van Brunt, Biotechnology 6(10): 1149-1154(1988); Vigne, Restorative Neurology and Neuroscience 8:35-36(1995); Kremer & Perricaudet, British Medical Bulletin 51(1):31-44(1995); Haddada et al., in Current Topics in Microbiology and Immunology Doerfler and Bohm(eds)(1995);およびYu et al., Gene Therapy 1: 13-26(1994)を参照されたい。
【0268】
核酸の非ウイルス送達方法には、リポフェクション、ヌクレオフェクション(nucleofection)、マイクロインジェクション、バイオリスティック、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム(immunoliposome)、ポリカチオンまたは脂質:核酸結合体、裸のDNA、人工ビリオン、および薬剤によって増強されるDNA取り込みが含まれる。リポフェクションは、例えば、米国特許第5,049,386号、同第4,946,787号、および同第4,897,355号に記載されている。リポフェクション試薬は市販されている(例えば、Transfectam(商標)およびLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに適したカチオン性脂質および中性脂質には、Felgner, WO91/17424;WO91/16024のカチオン性脂質および中性脂質が含まれる。送達は細胞への送達でもよく(例えば、インビトロ投与またはエクスビボ投与)、標的組織への送達でもよい(例えば、インビボ投与)。
【0269】
一部の態様において、送達は、核酸送達用のRNAウイルスに基づく系またはDNAウイルスに基づく系の使用を介したものである。ウイルスベクターは一部の局面では患者(インビボ)に直接投与されてもよく、インビトロまたはエクスビボで細胞を処理するのに使用し、次いで、患者に投与することができる。ウイルスに基づく系には、一部の態様では、遺伝子移入用のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、および単純ヘルペスウイルスベクターが含まれる。
【0270】
一部の局面において、遺伝子産物の発現の変化または改変を測定するためのマーカーとして役立つ遺伝子産物をコードするように、グルタチオン-5-トランスフェラーゼ(GST)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、および青色蛍光タンパク質(BFP)を含む自家蛍光タンパク質を含むが、これに限定されないレポーター遺伝子が細胞に導入されてもよい。さらなる態様において、遺伝子産物をコードするDNA分子はベクターを介して細胞に導入されてもよい。一部の態様において、遺伝子産物はルシフェラーゼである。さらなる態様において、遺伝子産物の発現は減少する。
【0271】
一部の態様において、遺伝子破壊、例えば、標的遺伝子、例えば、本明細書に記載の抗原をコードする任意の遺伝子のノックダウンまたはノックアウトを誘導することができる薬剤が複合体、例えば、リボ核タンパク質(RNP)複合体として導入される。RNP複合体は、RNAまたはgRNA分子などのリボヌクレオチド配列と、Cas9タンパク質またはその変種などのポリペプチドを含む。一部の態様において、Cas9タンパク質は、Cas9タンパク質およびgRNA分子、例えば、標的抗原をコードする遺伝子に標的化されたgRNAを含むRNP複合体として送達される。一部の態様において、標的抗原をコードする遺伝子に標的化された1つまたは複数のgRNA分子と、Cas9酵素またはその変種を含むRNPは、物理的送達(例えば、エレクトロポレーション、パーティクルガン、リン酸カルシウムトランスフェクション、細胞圧縮、もしくは圧迫)、リポソーム、またはナノ粒子を介して細胞に直接導入される。特定の態様において、標的抗原をコードする遺伝子に標的化された1つまたは複数のgRNA分子と、Cas9酵素またはその変種を含むRNPはエレクトロポレーションを介して導入される。
【0272】
一部の態様において、様々な時点での、例えば、薬剤を導入して24~72時間後の、遺伝子、例えば、本明細書に記載の抗原をコードする任意の遺伝子のノックアウトの程度は、細胞における遺伝子破壊を評価するための多数の周知の任意のアッセイを用いて評価することができる。様々な時点での、例えば、薬剤を導入して24~72時間後の、遺伝子のノックアウトの程度は、細胞における遺伝子発現を評価するための多数の周知の任意のアッセイ、例えば、転写またはタンパク質発現または細胞表面発現のレベルを確かめるアッセイを用いて評価することができる。
【0273】
II.組成物、製剤、キット、装置、方法、および使用
提供される方法によって生成された細胞、細胞集団、および前記細胞を含有する組成物も提供される。前記組成物の中には、投与するための、例えば、養子細胞療法のために投与するための薬学的組成物および製剤がある。前記細胞および前記組成物を対象、例えば、患者に投与するための治療方法も提供される。
【0274】
治療方法および使用、例えば、養子細胞療法における治療方法および使用を含む、前記細胞の方法および使用が提供される。一部の態様において、前記方法は、前記細胞または前記細胞を含有する組成物を、対象、組織、または細胞、例えば、疾患、状態、もしくは障害があるか、疾患、状態、もしくは障害のリスクがあるか、または疾患、状態、もしくは障害があると疑われる対象、組織、または細胞に投与する工程を含む。一部の態様において、前記方法はがん、ならびに他の疾患、状態、および障害を処置する。一部の態様において、前記の細胞、集団、および組成物は、例えば、養子細胞療法、例えば、養子T細胞療法を介して処置しようとする特定の疾患または状態をもつ対象に投与される。一部の態様において、前記の細胞または組成物は、対象、例えば、疾患もしくは状態をもつ対象または疾患もしくは状態のリスクがある対象に投与される。一部の局面において、それによって、前記方法は、例えば、操作された細胞が認識する抗原を発現するがんの腫瘍量を少なくすることによって、疾患または状態の1つまたは複数の症状を処置する、例えば、寛解させる。
【0275】
養子細胞療法のために細胞を投与するための方法は公知であり、提供される方法および組成物に関連して使用することができる。例えば、養子T細胞療法の方法は、例えば、Gruenbergらへの米国特許出願公開第2003/0170238号;Rosenbergへの米国特許第4,690,915号; Rosenberg(2011) Nat Rev Clin Oncol. 8(10):577-85)に記載されている。例えば、Themeli et al.(2013) Nat Biotechnol. 31(10): 928-933; Tsukahara et al.(2013) Biochem Biophys Res Commun 438(1): 84-9; Davila et al.(2013) PLoS ONE 8(4): e61338を参照されたい。
【0276】
一部の態様において、細胞療法、例えば、養子細胞療法、例えば、養子T細胞療法は自家移入によって行われ、この場合、細胞は、細胞療法を受け取ることになっている対象またはこのような対象に由来する試料からから単離されている、および/または別の方法で調製されている。従って、一部の局面において、前記細胞は、処置を必要とする対象、例えば、患者に由来し、単離および処理された後に同じ対象に投与される。
【0277】
一部の態様において、細胞療法、例えば、養子細胞療法、例えば、養子T細胞療法は同種異系移入によって行われ、この場合、細胞は、細胞療法を受け取ることになっている対象または細胞療法を最終的に受け取る対象とは別の対象、例えば、第1の対象から単離されている、および/または別の方法で調製されている。このような態様では、次いで、細胞は、同じ種の異なる対象、例えば、第2の対象に投与される。一部の態様において、第1の対象および第2の対象は遺伝的に同一である。一部の態様において、第1の対象および第2の対象は遺伝的に似ている。一部の態様において、第2の対象は第1の対象と同じHLAクラスまたはスーパータイプを発現する。
【0278】
一部の態様において、前記の細胞、細胞集団、または組成物が投与される対象、例えば、患者は哺乳動物、典型的には霊長類、例えば、ヒトである。一部の態様において、霊長類はサルまたは類人猿である。対象は男性または女性でもよく、乳児、若年、青少年、成人、および老人の対象を含む任意の適切な年齢でよい。一部の態様において、対象は非霊長類哺乳動物、例えば、げっ歯類である。一部の例では、患者または対象は、疾患、養子細胞療法のための、および/またはサイトカイン放出症候群(CRS)などの毒性アウトカムを評価するための検証済みの動物モデルである。
【0279】
このような方法において使用するための薬学的組成物も提供される。
【0280】
疾患、状態、および障害の中には、固形腫瘍、血液悪性腫瘍、およびメラノーマを含む腫瘍、ならびに感染症、例えば、ウイルスまたは他の病原体、例えば、HIV、HCV、HBV、CMVによる感染、ならびに寄生生物疾患がある。一部の態様において、疾患または状態は、腫瘍、がん、悪性腫瘍、新生物、または他の増殖性疾患である。このような疾患には、免疫系のがん、白血病、リンパ腫、例えば、慢性リンパ性白血病(CLL)、ALL、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、難治性濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、無痛性B細胞リンパ腫、B細胞悪性腫瘍、結腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、皮膚がん(メラノーマを含む)、骨がん、および脳がん、卵巣がん、上皮がん、腎細胞がん、膵臓腺がん、ホジキンリンパ腫、子宮頸がん、結腸直腸がん、グリア芽細胞腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、ユーイング肉腫、髄芽腫、骨肉腫、滑膜肉腫、ならびに/または中皮腫が含まれるが、これに限定されない。一態様において、疾患または状態は多発性骨髄腫であるか、またはこれに関連する。
【0281】
一部の態様において、疾患または状態は、ウイルス感染、レトロウイルス感染、細菌感染、および原生動物感染、免疫不全症、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン-バーウイルス(EBV)、アデノウイルス、BKポリオーマウイルスなどがあるが、これに限定されない感染性の疾患または状態である。一部の態様において、疾患または状態は自己免疫性または炎症性の疾患または状態、例えば、関節炎、例えば、慢性関節リウマチ(RA)、I型糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)、炎症性腸疾患、乾癬、硬皮症、自己免疫性甲状腺疾患、グレーブス病、クローン病、多発性硬化症、喘息、および/または移植に関連する疾患もしくは状態である。
【0282】
一部の態様において、1種類または複数種の遺伝子操作された抗原受容体は、疾患または障害に関連する標的抗原に特異的に結合する。一部の態様において、1種類または複数種の遺伝子操作された抗原受容体は、標的好転、ならびに、標的抗原に関連する1つまたは複数の抗原に結合する。場合によっては、2種類以上の遺伝子操作された抗原受容体が、疾患または障害に関連する2つ以上の異なる抗原、またはその関連する抗原に結合する。一部の態様において、疾患または障害に関連する少なくとも1種類の抗原はユニバーサル腫瘍抗原、またはそのファミリーのメンバーである。例えば、場合によっては、抗原は、hTERT、サバイビン、MDM2、CYP1B、HER2/neu、WT1、リビン、AFP、CEA、MUC16、MUC1、PSMA、p53、サイクリン(D1)、BCMA、BAFFR、またはTACIである。例えば、ユニバーサル腫瘍抗原はhTERTまたはサバイビンである。一部の態様において、疾患または障害に関連する少なくとも1種類の抗原は骨髄腫抗原である。例えば、場合によっては、骨髄腫抗原は、CD38、CD138、CS-1、CD56、TIM-3、CD33、CD123、またはCD44である。例えば、骨髄腫抗原はCD38である。
【0283】
一部の態様において、疾患または障害に関連する1種類または複数種の他の抗原は、オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、tEGFR、Her2、L1-CAM、CD19、CD20、CD22、メソテリン、CEA、およびB型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、OEPHa2、ErbB2、3、もしくは4、FBP、胎児アセチコリンe受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-α、IL-13R-α2、kdr、κ軽鎖、ルイスY、L1-細胞接着分子、MAGE-A1、メソテリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gp100、がん胎児性抗原、ROR1、TAG72、VEGF-R2、がん胎児抗原(CEA)、前立腺特異的抗原、PSMA、Her2/neu、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、CS-1、c-Met、GD-2、およびMAGE A3、CE7、ウィルムス腫瘍1(WT-1)、サイクリン、例えば、サイクリンA1(CCNA1)、ならびに/またはビオチン化分子、ならびに/またはHIV、HCV、HBV、もしくは他の病原体が発現する分子からなる群より選択される。抗原には、タンパク質、炭水化物、および他の分子が含まれる。
【0284】
一部の態様において、前記の細胞および細胞集団は薬学的組成物などの組成物の形で対象に投与される。一部の態様において、薬学的組成物は、他の薬学的に活性な薬剤または薬物、例えば、化学療法剤、例えば、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキセート、パクリタキセル、リツキシマブ、ビンブラスチン、ビンクリスチンなどをさらに含む。一部の態様において、前記細胞集団は、塩、例えば、薬学的に許容される塩の形で投与される。適切な薬学的に許容される酸添加塩には、鉱酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸、および硫酸、ならびに有機酸、例えば、酒石酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸、およびアリールスルホン酸、例えば、p-トルエンスルホン酸に由来する酸添加塩が含まれる。
【0285】
一部の局面において、薬学的組成物中にある担体の選択は、一つには、特定の操作されたCARもしくはTCR、ベクター、またはCARもしくはTCRを発現する細胞によって、ならびにベクターまたはCARを発現する宿主細胞を投与するのに用いられる特定の方法によって決定される。従って、様々な適切な製剤がある。例えば、薬学的組成物は防腐剤を含有してもよい。適切な防腐剤には、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム、および塩化ベンザルコニウムが含まれ得る。一部の局面において、2種類以上の防腐剤の混合物が用いられる。防腐剤またはその混合物は典型的には全組成物の重量に対して約0.0001%~約2%の量で存在する。
【0286】
さらに、一部の局面では、緩衝剤が前記組成物に含まれる。適切な緩衝剤には、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸カリウム、および様々な他の酸および塩が含まれる。一部の局面において、2種類以上の緩衝剤の混合物が用いられる。緩衝剤またはその混合物は典型的には全組成物の重量に対して約0.001%~約4%の量で存在する。投与可能な薬学的組成物を調製するための方法は公知である。例示的な方法は、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott Williams & Wilkins; 21st ed.(May 1, 2005)において、さらに詳細に説明されている。
【0287】
ある特定の態様では、本明細書に記載の細胞集団を含む薬学的組成物は、封入複合体(inclusion complex)(例えば、シクロデキストリン封入複合体)として、またはリポソームとして処方されてもよい。リポソームは宿主細胞(例えば、T細胞またはNK細胞)を特定の組織に標的化するのに役立つことができる。リポソームを調製するために多くの方法、例えば、Szoka et al., Ann. Rev. Biophys. Bioeng., 9: 467(1980)ならびに米国特許第4,235,871号、同第4,501,728号、同第4,837,028号、および同第5,019,369号に記載の方法を利用することができる。
【0288】
薬学的組成物は、一部の局面では、処置しようとする部位の感の前に、かつ処置しようとする部位の感作を引き起こすのに十分な時間をかけて組成物が送達されるように、時間放出(time-released)送達系、遅延放出送達系、および持続放出送達系を使用することができる。多くのタイプの放出送達系が利用可能であり、当業者に公知である。このような系を用いると、組成物の反復投与を避け、それによって、対象および医師に対する利便性を向上させることができる。
【0289】
薬学的組成物は、一部の態様では、疾患または状態を処置または予防するのに有効な量、例えば、治療的有効量または予防的有効量の細胞を含む。治療効力または予防効力は、一部の態様では、処置される対象を定期的に評価することによってモニタリングされる。状態に応じて数日またはそれより長期間にわたって反復投与するために、疾患症状の望ましい抑止が起こるまで処置は繰り返される。しかしながら、他の投与計画が有用な場合があり、確かめることができる。望ましい投与量は組成物の単回ボーラス投与によって送達されてもよく、組成物の複数回ボーラス投与によって送達されてもよく、組成物の連続注入投与によって送達されてもよい。
【0290】
ある特定の態様において、対象には、約100万~約1000億個の細胞、例えば、100万~約500億個の細胞(例えば、約500万個の細胞、約2500万個の細胞、約5億個の細胞、約10億個の細胞、約50億個の細胞、約200億個の細胞、約300億個の細胞、約400億個の細胞、もしくは前述の値のいずれか2つによって規定される範囲)、例えば、約1000万~約1000億個の細胞(例えば、約2000万個の細胞、約3000万個の細胞、約4000万個の細胞、約6000万個の細胞、約7000万個の細胞、約8000万個の細胞、約9000万個の細胞、約100億個の細胞、約250億個の細胞、約500億個の細胞、約750億個の細胞、約900億個の細胞、もしくは前述の値のいずれか2つによって規定される範囲)、場合によっては約1億個の細胞~約500億個の細胞(例えば、約1億2000万個の細胞、約2億5000万個の細胞、約3億5000万個の細胞、約4億5000万個の細胞、約6億5000万個の細胞、約8億個の細胞、約9億個の細胞、約30億個の細胞、約300億個の細胞、約450億個の細胞)またはこれらの範囲の間にある任意の値の範囲で投与される。
【0291】
前記の細胞および組成物は、一部の態様では、標準的な投与技法、製剤、および/または装置を用いて投与される。前記組成物を保管および投与するための製剤および装置、例えば、注射器およびバイアルが提供される。投与は自家投与でもよく、または異種投与でもよい。例えば、ある対象から免疫応答性細胞または前駆細胞を入手し、同じ対象または異なる適合性の対象に投与することができる。末梢血に由来する本発明の免疫応答性細胞またはその子孫(例えば、インビボ、エクスビボ、またはインビトロで得られる)を、カテーテル投与を含む局所注射、全身注射、局所注射、静脈内注射、または非経口投与を介して投与することができる。本発明の治療用組成物(例えば、遺伝子組換えされた免疫応答性細胞を含有する薬学的組成物)が投与される時に、一般的に、単位投与量注射液の形で処方される(溶液、懸濁液、エマルジョン)。
【0292】
製剤には、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、肺投与、経皮投与、筋肉内投与、鼻腔内投与、頬投与、舌下投与、または坐剤投与のための製剤が含まれる。一部の態様において、前記細胞集団は非経口投与される。本明細書で使用する「非経口」という用語は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸投与、腟投与、および腹腔内投与を含む。一部の態様において、前記細胞集団は、静脈内注射、腹腔内注射、または皮下注射による末梢全身送達を用いて対象に投与される。
【0293】
前記細胞の組成物は、一部の態様では、滅菌した液体調製物、例えば、等張性水溶液、懸濁液、エマルジョン、分散液として提供されるか、または粘性のある組成物として提供され、これらは、一部の局面では、選択されたpHまで緩衝化されてもよい。液体調製物は、通常、ゲル、他の粘性のある組成物、および固体組成物より調製しやすい。さらに、液体組成物の方が、投与するのに、特に、注射によって投与するのに若干便利である。他方で、粘性のある組成物は、特定の組織との長い接触期間をもたらすように適切な粘性の範囲内で処方することができる。液体組成物または粘性のある組成物は、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(polyoi)(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)およびその適切な混合物を含有する、溶媒または分散媒でもよい担体を含んでもよい。
【0294】
滅菌注射液は、遺伝子操作されたものを溶媒の中に取り入れて、例えば、適切な担体、希釈剤、または賦形剤、例えば、滅菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロースなどと混合して調製することができる。前記組成物はまた凍結乾燥することもできる。前記組成物は、望ましい投与経路および調製物に応じて、補助物質、例えば、湿潤剤、分散剤、または乳化剤(例えば、メチルセルロース)、pH緩衝剤、ゲル化または粘性を高める添加物、防腐剤、着香剤、染料などを含有することができる。一部の局面では、適切な調製物を調製するために標準的な教科書が調べられる場合がある。
【0295】
抗菌性防腐剤、抗酸化物質、キレート剤、および緩衝液を含む、前記組成物の安定性および無菌性を向上させる様々な添加物を添加することができる。微生物の作用は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などによって防止することができる。注射用薬学的剤形の長期吸収は、吸収を遅延する薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを使用することによって引き起こすことができる。
【0296】
前記細胞は、一部の態様では、1種類もしくは複数種のさらなる治療剤と一緒に、または別の治療介入に関連して、同時に、または連続して任意の順序で同時投与される。ある状況では、前記細胞は、細胞集団が1種類もしくは複数種のさらなる治療剤の効果を向上させるほど十分に短い時間で別の療法と一緒に同時投与され、または逆もまた同じである。一部の態様において、細胞集団は、1種類もしくは複数種のさらなる治療剤の前に投与される。一部の態様において、細胞集団は、1種類もしくは複数種のさらなる治療剤の後に投与される。
【0297】
細胞が哺乳動物(例えば、ヒト)に投与されたら、操作された細胞集団の生物学的活性は、一部の局面では、多数の公知の方法のいずれかによって測定される。評価するパラメータには、インビボでは、例えば、画像化による、またはエクスビボでは、例えば、ELISAもしくはフローサイトメトリーによる、操作された、もしくは天然のT細胞または他の免疫細胞と抗原との特異的結合が含まれる。ある特定の態様において、操作された細胞が標的細胞を破壊する能力は、当技術分野において公知の任意の適切な方法、例えば、細胞傷害アッセイ、例えば、Kochenderfer et al., J. Immunotherapy, 32(7): 689-702(2009)およびHerman et al. J. Immunological Methods, 285(1): 25-40(2004)に記載の細胞傷害アッセイを用いて測定することができる。ある特定の態様において、細胞の生物学的活性はまた、ある特定のサイトカイン、例えば、CD107a、IFNγ、IL-2、およびTNFの発現および/または分泌をアッセイすることでも測定することができる。一部の局面において、生物学的活性は、臨床アウトカム、例えば、腫瘍量(tumor burden)または腫瘍量(tumor load)の低下を評価することによって測定される。
【0298】
ある特定の態様では、操作された細胞は、治療効力または予防効力が向上するように任意の数のやり方で改変される。例えば、集団によって発現される操作されたCARまたはTCRは、リンカーを介して標的化部分と直接的または間接的に結合体化することができる。化合物、例えば、CARまたはTCRを標的化部分に結合体化するための手法は当技術分野において公知である。例えば、Wadwa et al., J. Drug Targeting 3: 111(1995)および米国特許第5,087,616号を参照されたい。
【0299】
III.定義
本明細書で使用する、遺伝子発現の「抑制」とは、細胞内にある対象遺伝子によってコードされる1つまたは複数の遺伝子産物の発現が、抑制が無い場合の遺伝子産物発現レベルと比較して無くなること、または低減することを指す。例示的な遺伝子産物には、その遺伝子によってコードされるmRNAおよびタンパク質産物が含まれる。抑制は場合によっては一過性または可逆的であり、他の場合では恒久的である。切断型産物または非機能的産物が生成される可能性があるという事実にもかかわらず、抑制は、場合によっては、機能的な、または完全長のタンパク質またはmRNAの抑制である。本明細書における一部の態様において、発現に対立するものとして、遺伝子の活性または機能が抑制される。遺伝子抑制は、一般的に、人為的な方法によって、すなわち、化合物、分子、複合体、もしくは組成物を添加もしくは導入することによって、および/または遺伝子の核酸もしくは遺伝子に関連する核酸を、例えば、DNAレベルで破壊することによって誘導される。遺伝子抑制のための例示的な方法には、遺伝子サイレンシング、ノックダウン、ノックアウト、および/または遺伝子破壊法、例えば、遺伝子編集が含まれる。例には、一般的に発現を一過性に低減するアンチセンス技術、例えば、RNAi、siRNA、shRNA、および/またはリボザイム、ならびに例えば、切断および/または相同組換えを誘導することによって、標的化された遺伝子不活化または破壊をもたらす遺伝子編集法が含まれる。
【0300】
本明細書で使用する、遺伝子の「破壊」とは、DNAレベルでの遺伝子配列の変化を指す。例には、挿入、変異、および欠失が含まれる。破壊によって、典型的には、遺伝子によってコードされる正常産物もしくは「野生型」産物の発現が抑制される、および/または完全に無くなる。このような遺伝子破壊の例は、遺伝子全体の欠失を含む、遺伝子または遺伝子の一部の挿入、フレームシフト変異およびミスセンス変異、欠失、ノックイン、ならびにノックアウトである。このような破壊は、コード領域、例えば、1つまたは複数のエキソンにおいて行われ、その結果、例えば、停止コドンが挿入されることで、完全長産物、機能的産物、または任意の産物が生成できなくなる。このような破壊はまた、遺伝子転写を阻止するように、プロモーターもしくはエンハンサーまたは転写活性化に影響を及ぼす他の領域を破壊することによって行われてもよい。遺伝子破壊には、相同組換えによる標的化された遺伝子不活化を含む遺伝子標的化が含まれる。
【0301】
本明細書で使用する単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、特に文脈によってはっきり示されていない限り複数の指示物を含む。例えば、「1つの(a)」または「1つの(an)」は「少なくとも1つの」または「1つまたは複数の」を意味する。
【0302】
本開示全体を通じて、クレームされた対象の様々な局面が範囲の形で示される。範囲の形での説明は単なる便宜および簡略のためであり、クレームされた対象の範囲に対する融通の利かない限定として解釈してはならないと理解されるはずである。従って、範囲の説明は、可能性のある全ての部分範囲(subrange)ならびにその範囲内にある個々の数値を具体的に開示したとみなされるはずである。例えば、値の範囲が示された場合、その範囲の上限と下限との間の、間にあるそれぞれの値と、その述べられた範囲内にある他の任意の述べられた値または間にある値が、クレームされた対象に包含されると理解される。これらのさらに小さな範囲の上限および下限は、独立して、その小さな範囲に含まれてもよく、その述べられた範囲内にある、明確に除外されるあらゆる限界を条件としてクレームされた対象に包含される。述べられた範囲が限界の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界のいずれかまたは両方を除外する範囲もまた、クレームされた対象に含まれる。このことは範囲の幅に関係なく適用される。
【0303】
本明細書で使用する「約」という用語は、この技術分野の当業者に容易に分かる、それぞれの値の通常の誤差範囲を指す。本明細書における「約」のついた値またはパラメータについての言及は、その値またはパラメータそのものに向けられた態様を含む(およびその態様について説明している)。
【0304】
本明細書で使用する対象は、ヒトおよび他の哺乳動物などの任意の生物を含む。哺乳動物には、ヒト、ならびに家畜、スポーツ動物、げっ歯類、およびペットを含む非ヒト動物が含まれるが、これに限定されない。
【0305】
本明細書で使用する組成物とは、細胞を含む、2種類以上の産物、物質、または化合物の任意の混合物を指す。組成物は、溶液、懸濁液、液体、粉末、ペースト、水性、非水性、またはその任意の組み合わせでもよい。
【0306】
本明細書で使用する「処置」、「処置する(treat)」、および「処置する(treating)」という用語は、疾患もしくは状態もしくは障害、または症状、副作用、もしくはアウトカム、またはこれらに関連する表現型の完全または部分的な寛解または軽減を指す。ある特定の態様において、この効果は、疾患もしくは状態またはこれらに起因し得る有害な症状を部分的または完全に治すような治療効果である。
【0307】
本明細書で使用する、化合物または組成物または組み合わせの「治療的有効量」とは、例えば、疾患、状態、もしくは障害を処置するために、および/または処置の薬物動態学的もしくは薬力学的な効果のために、必要な投与量で、かつ期間にわたって、望ましい治療結果を成し遂げるのに有効な量を指す。治療的有効量は、対象の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびに投与される細胞集団などの要因に応じて変化する場合がある。
【0308】
本明細書で使用する、細胞または細胞集団が特定のマーカーについて「陽性」であるという記載は、特定のマーカー、典型的には表面マーカーが細胞の表面に、または細胞の中に検出可能に存在することを指す。表面マーカーを指している場合、この用語は、フローサイトメトリーによって、例えば、マーカーに特異的に結合する抗体で染色し、この抗体を検出することによって検出される時に表面発現が存在することを指す。ここで、染色は、フローサイトメトリーによって、他の点では同一の条件下で、アイソタイプが一致する対照を用いた同じ手順を行って検出される染色をかなり上回るレベルで、および/またはマーカーが陽性であることが分かっている細胞のレベルと実質的に類似するレベルで、および/またはマーカーが陰性であることが分かっている細胞のレベルよりかなり高いレベルで検出することができる。
【0309】
本明細書で使用する、細胞または細胞集団が特定のマーカーについて「陰性」であるという記載は、特定のマーカー、典型的には表面マーカーが細胞の表面に、または細胞の中に実質的に検出可能に存在することが無いことを指す。表面マーカーを指している場合、この用語は、フローサイトメトリーによって、例えば、マーカーに特異的に結合する抗体で染色し、この抗体を検出することによって検出される時に表面発現が存在しないことを指す。ここで、染色は、フローサイトメトリーによって、他の点では同一の条件下で、アイソタイプが一致する対照を用いた同じ手順を行って検出される染色をかなり上回るレベルで、および/またはマーカーが陽性であることが分かっている細胞のレベルよりかなり低いレベルで、および/またはマーカーが陰性であることが分かっている細胞のレベルと比較して実質的に類似するレベルで検出されない。
【0310】
一部の態様において、1種類または複数種のマーカーの発現の減少とは、平均蛍光強度の1log10消失、ならびに/または参照細胞集団と比較した時に、少なくとも、細胞の中の約20%、細胞の中の25%、細胞の中の30%、細胞の中の35%、細胞の中の40%、細胞の中の45%、細胞の中の50%、細胞の中の55%、細胞の中の60%、細胞の中の65%、細胞の中の70%、細胞の中の75%、細胞の中の80%、細胞の中の85%、細胞の中の90%、細胞の中の95%、および細胞の中の100%、ならびに20~100%の任意の%の、マーカーを示す細胞のパーセント減少を指す。一部の態様において、1種類または複数種のマーカーが陽性の細胞集団とは、参照細胞集団と比較した時に、少なくとも、細胞の中の約50%、細胞の中の55%、細胞の中の60%、細胞の中の65%、細胞の中の70%、細胞の中の75%、細胞の中の80%、細胞の中の85%、細胞の中の90%、細胞の中の95%、および細胞の中の100%、ならびに50~100%の任意の%の、マーカーを示す細胞のパーセントを指す。
【0311】
特に定義のない限り、本明細書において用いられる専門用語、注釈、ならびに他の技術用語および科学用語または専門語は全て、クレームされた対象が属する当業者に一般的に理解するものと同じ意味を有することが意図される。場合によっては、理解しやすいように、および/または容易に参照できるように、一般的に理解されている意味を有する用語が本明細書において定義される。本明細書における、このような定義の記載が、必ず、当技術分野において一般的に理解されているものと、かなり大きく異なると解釈することはしてはならない。
【0312】
本願において言及された、特許文書、科学文献、およびデータベースを含む刊行物は全て、それぞれ個々の刊行物が個々に参照により組み入れられるのと同じ程度に、全ての目的のためにその全体が参照により組み入れられる。本明細書において示された定義が、参照により本明細書に組み入れられる特許、出願、公開された出願、および他の刊行物に示された定義と相違するか、または他の点で一致しない場合、参照により本明細書に組み入れられる定義ではなく、本明細書において示された定義が優先される。
【0313】
本明細書において用いられるセクションの見出しは、系統立ててまとめることだけを目的とし、説明された対象を限定すると解釈してはならない。
【0314】
IV.例示的な態様
本明細書において提供される態様の中には以下のものがある。
1.
以下を含む、操作された免疫細胞:
ユニバーサル腫瘍抗原である標的抗原に特異的に結合する、遺伝子操作された抗原受容体;および
操作された免疫細胞において標的抗原の発現を低下させる遺伝子破壊。
2.
ユニバーサル腫瘍抗原が、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、マウス二重微小染色体2ホモログ(MDM2)、チトクロムP450 1B1(CYP1B)、HER2/neu、ウィルムス腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン、αフェトプロテイン(AFP)、がん胎児抗原(CEA)、ムチン16(MUC16)、MUC1、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、p53、またはサイクリン(D1)である、態様1記載の操作された細胞。
3.
ユニバーサル腫瘍抗原がhTERTまたはサバイビンである、態様1または2記載の操作された細胞。
4.
以下を含む、操作された免疫細胞:
B細胞成熟抗原(BCMA)、CAMLタンパク質(TACI(transmembrane activator and CAML interactor))、またはB細胞活性化因子受容体(BAFF-R)である標的抗原に特異的に結合する、遺伝子操作された抗原受容体;および
操作された免疫細胞において標的抗原の発現を低下させる遺伝子破壊。
5.
遺伝子破壊が、標的抗原をコードする遺伝子の破壊を含む、態様1~4のいずれかの操作された免疫細胞。
6.
標的抗原が、操作された免疫細胞の細胞タイプにおいて天然に発現され得る遺伝子産物である、態様1~5のいずれかの操作された免疫細胞。
7.
標的抗原が、休止T細胞、活性化T細胞、またはその両方によって発現される抗原である、態様1~6のいずれかの操作された免疫細胞。
8.
標的抗原が、活性化T細胞によって発現されかつ減少したレベルで休止T細胞によって発現される抗原である、態様1~7のいずれかの操作された免疫細胞。
9.
活性化T細胞による標的抗原の発現が、休止T細胞または非活性化T細胞と比較して50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、もしくはそれより大きなレベル、および/または1倍、1.5倍、2倍、3倍、もしくはそれより大きなレベルである、態様8記載の操作された免疫細胞。
10.
標的抗原が休止T細胞では発現していない、態様8または9記載の操作された免疫細胞。
11.
以下を含む、操作された免疫細胞:
疾患特異的標的抗原に特異的に結合する、遺伝子操作された抗原受容体であって、標的抗原に関連する関連抗原にも結合するか、または結合すると疑われる、遺伝子操作された抗原受容体;ならびに
関連抗原をコードする遺伝子の遺伝子破壊、および/あるいは操作された免疫細胞において関連抗原の発現を低下させるかもしくは抑制するか、または低下もしくは抑制することができる遺伝子破壊。
12.
標的抗原がB細胞成熟抗原(BCMA)であり、関連抗原が、異なるBCMAファミリーメンバーである、態様11記載の操作された免疫細胞。
13.
BCMAファミリーメンバーがTACIまたはBAFF-Rである、態様12記載の操作された免疫細胞。
14.
標的抗原が、操作された免疫細胞の細胞タイプにおいて天然に発現していない遺伝子産物であり、関連抗原が、操作された免疫細胞の細胞タイプにおいて天然に発現している遺伝子産物である、態様11~13のいずれかの操作された免疫細胞。
15.
免疫細胞がT細胞またはNK細胞である、態様1~14のいずれかの操作された免疫細胞。
16.
免疫細胞が、CD4+T細胞またはCD8+T細胞であるT細胞である、態様1~15のいずれかの操作された免疫細胞。
17.
関連抗原が、休止T細胞、活性化T細胞、またはその両方によって発現される抗原である、態様11~12のいずれかの操作された免疫細胞。
18.
関連抗原が、活性化T細胞によって発現されかつ減少したレベルで休止T細胞によって発現される抗原である、態様11~17のいずれかの操作された免疫細胞。
19.
活性化T細胞による関連抗原の発現が、休止T細胞または非活性化T細胞と比較して50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、もしくはそれより大きなレベル、および/または1倍、1.5倍、2倍、3倍、もしくはそれより大きなレベルである、態様18記載の操作された免疫細胞。
20.
関連抗原が休止T細胞では発現していない、態様18または19記載の操作された免疫細胞。
21.
活性化T細胞が、HLA-DR、CD25、CD69、CD71、CD40L(CD154)、および4-1BB(CD137)からなる群より選択されるT細胞活性化マーカーについて表面陽性である、ならびに/もしくはIL-2、IFNγ、およびTNF-αからなる群より選択されるサイトカインの細胞内発現を含有する、ならびに/または
休止T細胞が、HLA-DR、CD25、CD69、CD71、CD40L(CD154)、および4-1BB(CD137)からなる群より選択されるT細胞活性化マーカーについて表面陰性であるか、もしくはIL-2、IFNγ、およびTNF-αからなる群より選択されるサイトカインの細胞内発現を欠く、
態様8~10または17~19のいずれかの操作された免疫細胞。
22.
操作された免疫細胞における標的抗原または関連抗原の発現が、破壊が無い免疫細胞における発現と比較して少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または95%少ない、態様1~21のいずれかの細胞。
23.
標的抗原が、がんにおける細胞表面で発現しているか、あるいは
標的抗原が、がんの細胞もしくは組織の表面で、またはがんの細胞もしくは組織の中で発現している、態様1~22のいずれかの操作された免疫細胞。
24.
がんが、血液がん、免疫がん、白血病、リンパ腫、および/または骨髄腫であり、骨髄腫が、任意で、多発性骨髄腫である、態様23記載の操作された免疫細胞。
25.
遺伝子操作された抗原受容体がT細胞受容体(TCR)または機能的非TCR抗原認識受容体である、態様1~24のいずれかの操作された免疫細胞。
26.
遺伝子操作された抗原受容体が、標的抗原に特異的に結合する細胞外抗原認識ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)である、態様1~25のいずれかの操作された免疫細胞。
27.
遺伝子操作された抗原受容体が、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の状況において標的抗原のペプチドに特異的に結合する細胞外抗原認識ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)である、態様1~26のいずれかの操作された免疫細胞。
28.
遺伝子操作された抗原受容体が、操作された免疫細胞に対して活性化シグナルを誘導することができる、態様1~27のいずれかの操作された免疫細胞。
29.
遺伝子操作された抗原受容体が、ITAM含有モチーフを有する細胞内ドメインを含む、態様28記載の操作された免疫細胞。
30.
細胞内シグナル伝達ドメインがCD3-ゼータ(CD3ζ)鎖の細胞内ドメインを含む、態様29記載の操作された免疫細胞。
31.
遺伝子操作された受容体がCARであり、かつ共刺激シグナル伝達領域をさらに含む、態様28~30のいずれかの操作された免疫細胞。
32.
共刺激シグナル伝達領域がCD28のシグナル伝達ドメインを含む、態様31記載の操作された免疫細胞。
33.
別の抗原に特異的に結合しかつ細胞に対して共刺激シグナルを誘導することができるキメラ共刺激受容体である、別の遺伝子操作された抗原受容体をさらに含む、態様1~32のいずれかの操作された免疫細胞。
34.
第2の標的抗原に特異的に結合し、他の標的抗原の認識時に、細胞に対して阻害シグナルまたは免疫抑制シグナルまたは抑制シグナルを誘導することができるキメラ抑制性受容体である、別の遺伝子操作された抗原受容体をさらに含む、態様1~32のいずれかの操作された免疫細胞。
35.
第2の標的抗原が、がん細胞の表面にも感染細胞の表面にも発現していない抗原であるか、またはその発現ががん細胞もしくは感染細胞でダウンレギュレートされている、態様34記載の操作された免疫細胞。
36.
第2の標的抗原がMHCクラスI分子である、態様34または35記載の操作された免疫細胞。
37.
遺伝子操作された抗原受容体がキメラ抗原受容体(CAR)である、態様34~36のいずれかの操作された免疫細胞。
38.
CARが、標的抗原に特異的に結合する細胞外抗原認識ドメインと、免疫チェックポイント分子のシグナル伝達部分を含む細胞内シグナル伝達ドメインとを含む、態様37記載の操作された免疫細胞。
39.
免疫チェックポイント分子がPD-1またはCTLA4である、態様38記載の操作された免疫細胞。
40.
(a)ユニバーサル腫瘍抗原である標的抗原に特異的に結合する、遺伝子操作された抗原受容体を免疫細胞に導入する工程;および
(b)免疫細胞において標的抗原の発現の抑制を行い、それによって、標的抗原の発現が抑制された、遺伝子操作された免疫細胞を生成する工程
を含み、工程(a)および(b)が同時にまたは任意の順序で連続して行われる、遺伝子操作された免疫細胞を生成する方法。
41.
ユニバーサル腫瘍抗原が、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、マウス二重微小染色体2ホモログ(MDM2)、チトクロムP450 1B1(CYP1B)、HER2/neu、ウィルムス腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン、αフェトプロテイン(AFP)、がん胎児抗原(CEA)、ムチン16(MUC16)、MUC1、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、p53、またはサイクリン(D1)である、態様40記載の方法。
42.
ユニバーサル腫瘍抗原がhTERTまたはサバイビンである、態様40または41記載の方法。
43.
(a)BCMA、TACI、またはBAFF受容体である標的抗原に特異的に結合する、遺伝子操作された抗原受容体を免疫細胞に導入する工程;および
(b)免疫細胞において標的抗原の発現の抑制を行い、それによって、標的抗原の発現が抑制された、遺伝子操作された免疫細胞を生成する工程
を含み、工程(a)および(b)が同時にまたは任意の順序で連続して行われる、遺伝子操作された免疫細胞を生成する方法。
44.
標的抗原が、操作された免疫細胞の細胞タイプにおいて天然に発現され得る遺伝子産物である、態様40~43のいずれかの方法。
45.
標的抗原が、休止T細胞、活性化T細胞、またはその両方によって発現される抗原である、態様40~44のいずれかの方法。
46.
標的抗原が、活性化T細胞によって発現されかつ減少したレベルで休止T細胞によって発現される抗原である、態様40~45のいずれかの方法。
47.
活性化T細胞による標的抗原の発現が、休止T細胞または非活性化T細胞と比較して50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、もしくはそれより大きなレベル、および/または1倍、1.5倍、2倍、3倍、もしくはそれより大きなレベルである、態様46記載の方法。
48.
標的抗原が休止T細胞では発現していない、態様46または47記載の方法。
49.
以下の工程:
(a)BCMA、TACI、またはBAFF受容体である標的抗原に特異的に結合する、遺伝子操作された抗原受容体を免疫細胞に導入する工程;および
(b)免疫細胞において関連抗原の発現の抑制を行い、それによって、関連抗原の発現が抑制された、遺伝子操作された免疫細胞を生成する工程であって、受容体が、標的抗原に関連する関連抗原にも結合するか、または結合すると疑われる、工程
を含み、工程(a)および(b)が同時にまたは任意の順序で連続して行われる、遺伝子操作された免疫細胞を生成する方法。
50.
標的抗原がB細胞成熟抗原(BCMA)であり、関連抗原が、異なるBCMAファミリーメンバーである、態様49記載の方法。
51.
BCMAファミリーメンバーがTACIまたはBAFF-Rである、態様50記載の方法。
52.
標的抗原が、操作された免疫細胞の細胞タイプにおいて天然に発現していない遺伝子産物であり、関連抗原が、操作された免疫細胞の細胞タイプにおいて天然に発現している遺伝子産物である、態様49~51のいずれかの方法。
53.
免疫細胞がT細胞またはNK細胞である、態様40~52のいずれかの方法。
54.
免疫細胞が、CD4+T細胞またはCD8+T細胞であるT細胞である、態様40~53のいずれかの方法。
55.
関連抗原が、休止T細胞、活性化T細胞、またはその両方によって発現される抗原である、態様49~54のいずれかの方法。
56.
関連抗原が、活性化T細胞によって発現されかつ減少したレベルで休止T細胞によって発現される抗原である、態様49~55のいずれかの方法。
57.
活性化T細胞による関連抗原の発現が、休止T細胞または非活性化T細胞と比較して50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、もしくはそれより大きなレベル、および/または1倍、1.5倍、2倍、3倍、もしくはそれより大きなレベルである、態様56記載の方法。
58.
関連抗原が休止T細胞では発現していない、態様56または57記載の方法。
59.
活性化T細胞が、HLA-DR、CD25、CD69、CD71、CD40L(CD154)、および4-1BB(CD137)からなる群より選択されるT細胞活性化マーカーについて表面陽性である、ならびに/もしくはIL-2、IFNγ、およびTNF-αからなる群より選択されるサイトカインの細胞内発現を含有する、ならびに/または
休止T細胞が、HLA-DR、CD25、CD69、CD71、CD40L(CD154)、および4-1BB(CD137)からなる群より選択されるT細胞活性化マーカーについて表面陰性であるか、もしくはIL-2、IFNγ、およびTNF-αからなる群より選択されるサイトカインの細胞内発現を欠く、
態様45~48および態様55~58のいずれかの方法。
60.
(b)の工程が、標的抗原または関連抗原をコードする遺伝子を破壊することを含む、態様40~59のいずれかの方法。
61.
破壊が、遺伝子をDNAレベルで破壊することを含み、および/または
破壊が可逆的でない、および/または
破壊が一過性でない、
態様60記載の方法。
62.
破壊が、特異的に遺伝子に結合またはハイブリダイズするDNA結合タンパク質またはDNA結合核酸を免疫細胞に導入することを含む、態様60または61記載の方法。
63.
破壊が、(a)DNA標的化タンパク質とヌクレアーゼを含む融合タンパク質、または(b)RNAガイドヌクレアーゼを導入することを含む、態様62記載の方法。
64.
DNA標的化タンパク質またはRNAガイドヌクレアーゼが、遺伝子に特異的な、ジンクフィンガータンパク質(ZFP)、TALタンパク質、またはクリスパー(CRISPR:clustered regularly interspaced short palindromic nucleic acid)を含む、態様63記載の方法。
65.
破壊が、特異的に遺伝子に結合するか、遺伝子を認識するか、または遺伝子とハイブリダイズする、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TAL-エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、または/およびクリスパー-Cas9の組み合わせを導入することを含む、態様40~64のいずれかの方法。
66.
標的抗原が、免疫細胞において天然に発現している遺伝子産物である、および/または標的抗原の発現が、遺伝子操作された抗原受容体を導入することによって誘導される、態様40~65のいずれかの方法。
67.
標的抗原が、操作された免疫細胞の細胞タイプにおいて天然に発現していない遺伝子産物であり、関連抗原が、操作された免疫細胞の細胞タイプにおいて天然に発現している遺伝子産物である、態様49~65のいずれかの方法。
68.
前記抑制が、操作された免疫細胞における標的抗原または関連抗原の発現を、抑制が無い方法によって生成された操作された細胞と比較して少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または95%低下させる、態様40~67のいずれかの方法。
69.
標的抗原が多発性骨髄腫において発現している、態様40~68のいずれかの方法。
70.
(c)別の抗原に特異的に結合しかつ細胞に共刺激シグナルを誘導することができるキメラ共刺激受容体である、別の遺伝子操作された抗原受容体を免疫細胞に導入する工程
をさらに含み、工程(a)、(b)、および(c)が同時にまたは任意の順序で連続して行われる、態様40~69のいずれかの方法。
71.
遺伝子操作された抗原受容体がT細胞受容体(TCR)または機能的非TCR抗原認識受容体である、態様40~70のいずれかの方法。
72.
遺伝子操作された抗原受容体がキメラ抗原受容体(CAR)である、態様40~71のいずれかの方法。
73.
態様40~72のいずれかの方法によって生成された、細胞。
74.
(a)第1の抗原に特異的に結合する第1の遺伝子操作された抗原受容体を免疫細胞に導入する工程;および
(b)キメラ共刺激受容体でありかつ第2の抗原に特異的に結合する第2の遺伝子操作された抗原受容体を免疫細胞に導入し、それによって、操作された免疫細胞を生成する工程
を含み、第1の抗原および第2の抗原が別個であり、少なくとも、第1の抗原または第2の抗原がユニバーサル腫瘍抗原であり、(a)および(b)が同時にまたは任意の順序で連続して行われる、遺伝子操作された免疫細胞を生成する方法。
75.
ユニバーサル腫瘍抗原が、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、マウス二重微小染色体2ホモログ(MDM2)、チトクロムP450 1B1(CYP1B)、HER2/neu、ウィルムス腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン、αフェトプロテイン(AFP)、がん胎児抗原(CEA)、ムチン16(MUC16)、MUC1、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、p53、またはサイクリン(D1)である、態様74記載の方法。
76.
ユニバーサル腫瘍抗原がhTERTまたはサバイビンである、態様74または75記載の方法。
77.
(a)第1の抗原に特異的に結合する第1の遺伝子操作された抗原受容体を免疫細胞に導入する工程;および
(b)キメラ共刺激受容体でありかつ第2の抗原に特異的に結合する第2の遺伝子操作された抗原受容体を免疫細胞に導入し、それによって、操作された免疫細胞を生成する工程
を含み、第1の抗原および第2の抗原が別個であり、少なくとも、第1の抗原または第2の抗原が、B細胞成熟抗原(BCMA)、CAMLタンパク質(TACI(transmembrane activator and CAML interactor))、またはB細胞活性化因子受容体(BAFF-R)であり、(a)および(b)が同時にまたは任意の順序で連続して行われる、遺伝子操作された免疫細胞を生成する方法。
78.
(a)第1の抗原に特異的に結合する第1の遺伝子操作された抗原受容体を免疫細胞に導入する工程;および
(b)第2の抗原に特異的に結合する第2の遺伝子操作された抗原受容体を免疫細胞に導入し、それによって、操作された免疫細胞を生成する工程
を含み、第1の抗原および第2の抗原が別個であり、少なくとも、第1の抗原または第2の抗原が、B細胞成熟抗原(BCMA)、CAMLタンパク質(TACI(transmembrane activator and CAML interactor))、またはB細胞活性化因子受容体(BAFF-R)であり、(a)および(b)が同時にまたは任意の順序で連続して行われる、遺伝子操作された免疫細胞を生成する方法。
79.
第1の抗原または第2の抗原の一方が、腫瘍において発現している抗原である、態様74~78のいずれかの方法。
80.
第1の抗原または第2の抗原がBCMAである、態様77~79のいずれかの方法。
81.
第1の抗原または第2の抗原の一方が、BCMA関連ファミリーメンバーである、態様80記載の方法。
82.
BCMA関連ファミリーメンバーがTACIまたはBAFF-Rである、態様81記載の方法。
83.
第1の抗原または第2の抗原の一方が、FcRH5、CS1、CD38、またはCD138である、態様78~82のいずれかの方法。
84.
(c)免疫細胞において第1の抗原および/または第2の抗原の発現の抑制を行う工程をさらに含む、態様74~83のいずれかの方法。
85.
抑制を行う工程が、特異的に遺伝子に結合またはハイブリダイズするDNA結合タンパク質またはDNA結合核酸を免疫細胞に導入することを含む、態様84記載の方法。
86.
抑制を行う工程が、特異的に遺伝子に結合するか、遺伝子を認識するか、または遺伝子とハイブリダイズする、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TAL-エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、または/およびクリスパー-Cas9の組み合わせを導入することを含む、態様84または85記載の方法。
87.
前記抑制が、操作された免疫細胞における標的抗原の発現を、抑制が無い方法によって生成された操作された細胞と比較して少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または95%低下させる、態様84~86のいずれかの方法。
88.
態様74~87のいずれかの方法によって生成された、細胞。
89.
(a)第1の抗原に特異的に結合しかつ細胞に対して活性化シグナルを誘導することができる、第1の遺伝子操作された抗原受容体;および
(b)第2の抗原に特異的に結合しかつ細胞に対して共刺激シグナルを誘導することができるキメラ共刺激受容体である、第2の遺伝子操作された抗原受容体
を含み、第1の抗原および第2の抗原が別個であり、第1の抗原または第2の抗原のうちの少なくとも1つがユニバーサル腫瘍抗原である、操作された免疫細胞。
90.
ユニバーサル腫瘍抗原が、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、マウス二重微小染色体2ホモログ(MDM2)、チトクロムP450 1B1(CYP1B)、HER2/neu、ウィルムス腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン、αフェトプロテイン(AFP)、がん胎児抗原(CEA)、ムチン16(MUC16)、MUC1、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、p53、またはサイクリン(D1)である、態様89記載の操作された免疫細胞。
91.
ユニバーサル腫瘍抗原がhTERTまたはサバイビンである、態様89または90記載の操作された免疫細胞。
92.
(a)第1の抗原に特異的に結合しかつ細胞に対して活性化シグナルを誘導することができる、第1の遺伝子操作された抗原受容体;および
(b)第2の抗原に特異的に結合しかつ細胞に対して共刺激シグナルを誘導することができるキメラ共刺激受容体である、第2の遺伝子操作された抗原受容体
を含み、第1の抗原および第2の抗原が別個であり、第1の抗原または第2の抗原のうちの少なくとも1つが、B細胞成熟抗原(BCMA)、CAMLタンパク質(TACI(transmembrane activator and CAML interactor))、またはB細胞活性化因子受容体(BAFF-R)である、操作された免疫細胞。
93.
(a)第1の抗原に特異的に結合する第1の遺伝子操作された抗原受容体;および
(b)第2の抗原に特異的に結合する第2の遺伝子操作された抗原受容体
を含み、第1の抗原および第2の抗原が別個であり、第1の抗原または第2の抗原のうちの少なくとも1つが、B細胞成熟抗原(BCMA)、CAMLタンパク質(TACI(transmembrane activator and CAML interactor))、またはB細胞活性化因子受容体(BAFF-R)である、操作された免疫細胞。
94.
第1の抗原または第2の抗原の一方が、腫瘍において発現している抗原である、態様89~93のいずれかの操作された免疫細胞。
95.
第1の抗原または第2の抗原がBCMAである、態様92~94のいずれかの操作された免疫細胞。
96.
第1の抗原または第2の抗原の一方が、BCMA関連ファミリーメンバーである、態様92~95のいずれかの操作された免疫細胞。
97.
BCMA関連ファミリーメンバーがTACIまたはBAFF-Rである、態様96記載の操作された免疫細胞。
98.
第1の抗原または第2の抗原の一方が、FcRH5、CS1、CD38、またはCD138である、態様92~95のいずれかの操作された免疫細胞。
99.
第1の遺伝子操作された抗原受容体がITAM含有配列を含む、態様89~98のいずれかの操作された免疫細胞。
100.
第1の遺伝子操作された抗原受容体がCD3-ゼータ(CD3ζ)鎖の細胞内シグナル伝達ドメインを含む、態様99記載の操作された免疫細胞。
101.
第1の遺伝子操作された抗原受容体が、T細胞共刺激分子に由来するシグナル伝達ドメインを含まない、態様99または100記載の操作された免疫細胞。
102.
受容体が、T細胞共刺激分子の細胞内シグナル伝達ドメインを含む、態様89~101のいずれかの操作された免疫細胞。
103.
T細胞共刺激分子が、CD28および41BBからなる群より選択される1つまたは複数の分子を含む、態様102記載の操作された免疫細胞。
104.
第1の抗原をコードする遺伝子および/または第2の抗原をコードする遺伝子の破壊をさらに含み、破壊によって、操作された免疫細胞における第1の抗原および/または第2の抗原の発現が低下する、態様89~103のいずれかの操作された免疫細胞。
105.
操作された免疫細胞における第1の抗原および/または第2の抗原の発現が、遺伝子破壊が無い免疫細胞における発現と比較して少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または95%低下する、態様104記載の操作された免疫細胞。
106.
免疫細胞がT細胞である、態様89~105のいずれかの操作された免疫細胞。
107.
免疫細胞がCD4+T細胞またはCD8+T細胞である、態様106記載の操作された免疫細胞。
108.
第1の遺伝子操作された抗原受容体がT細胞受容体(TCR)または機能的非TCR抗原認識受容体である、態様89~107のいずれかの操作された免疫細胞。
109.
第1の遺伝子操作された抗原受容体がキメラ抗原受容体(CAR)である、態様108記載の操作された免疫細胞。
110.
態様1~39および態様89~109のいずれかの操作された免疫細胞、ならびに薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
111.
(a)第1の抗原に特異的に結合する第1の遺伝子操作された抗原受容体を発現しかつ第2の抗原に特異的に結合する第2の操作された抗原受容体を発現しない、第1の操作された免疫細胞;ならびに
(b)遺伝子操作された抗原受容体を発現する、第2の操作された免疫細胞
を含み、第1の抗原および第2の抗原が別個であり、第1の抗原または第2の抗原のうちの少なくとも1つが、B細胞成熟抗原(BCMA)、CAMLタンパク質(TACI(transmembrane activator and CAML interactor))、またはB細胞活性化因子受容体(BAFF-R)である、組成物または組み合わせ。
112.
第1の抗原または第2の抗原がBCMAである、態様111記載の組成物または組み合わせ。
113.
第1の抗原または第2の抗原の一方が、BCMA関連ファミリーメンバーである、態様112記載の組成物または組み合わせ。
114.
BCMA関連ファミリーメンバーがTACIまたはBAFF-Rである、態様113記載の組成物または組み合わせ。
115.
第1の抗原または第2の抗原の一方が、FcRH5、CS1、CD38、またはCD138である、態様111または112記載の組成物または組み合わせ。
116.
薬学的組成物である、態様111~115のいずれかの組成物または組み合わせ。
117.
態様1~39および態様89~109のいずれかの細胞、または態様111~116のいずれかの組成物もしくは組み合わせを、疾患または状態を有する対象に投与する工程を含む、処置方法。
118.
1種または複数種の遺伝子操作された抗原受容体が、疾患または状態に関連する抗原に特異的に結合する、態様117記載の方法。
119.
疾患または状態ががんである、態様117または118記載の方法。
120.
疾患または状態を処置するための方法において使用するための医用薬剤の製造における、態様1~39および89~109のいずれかの細胞、態様110記載の組成物、または態様111~116のいずれかの組成物もしくは組み合わせの、使用。
121.
疾患または状態の処置において使用するための、態様110記載の組成物または態様111~116のいずれかの組成物もしくは組み合わせ。
122.
遺伝子操作された抗原受容体が、疾患または状態に関連する抗原に特異的に結合する、態様120記載の使用または態様121記載の組成物もしくは組み合わせ。
123.
疾患または状態が腫瘍またはがんである、態様121または122記載の使用、組成物、または組み合わせ。
【実施例】
【0315】
V.実施例
以下の実施例は例示のためだけに含まれ、本発明の範囲を限定することを目的としない。
【0316】
実施例1:内因性hTERT抑制の存在下または非存在下での、hTERTに特異的なキメラ抗原受容体(CAR)を用いて操作されたT細胞の細胞傷害活性の評価
T細胞内で発現しているか、またはT細胞の表面で発現している特定の抗原の発現の抑制および/または遺伝子破壊もしくはノックアウトがT細胞において行われた後に、このような抗原に特異的な操作された抗原受容体を発現するT細胞を評価するために例示的な研究を行う。この例示的な研究は、ユニバーサル腫瘍タンパク質抗原であるヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)の発現を破壊することによって行われる。他の研究では、他の関心対象の抗原標的、例えば、他のユニバーサルタンパク質抗原(例えば、サバイビン)を(このような抗原を認識する遺伝子操作された抗原受容体を発現する細胞において)破壊することによって、ならびに/またはT細胞および/もしくは活性化T細胞において天然に発現している抗原(例えば、CD38)を含む他の関心対象の抗原を破壊することによって同様の方法が行われる。
【0317】
HLA-A*0201対立遺伝子を発現する対象、例えば、場合によっては、がんをもつ対象に由来するヒトアフェレーシス産物試料からの免疫親和性に基づく選択によってT細胞を単離する。結果として生じた細胞を、IL-2(100IU/mL)の存在下で抗CD3/抗CD28試薬を用いて、例えば、37℃で72時間、活性化する。
【0318】
クリスパー/Cas9技術は、活性化T細胞においてhTERT遺伝子発現をノックダウンするのに用いられる。例示的な方法では、例えば、レンチウイルス送達ベクターを用いて、または細胞に移入するための多数の公知の送達方法もしくはビヒクルのいずれかを用いて、例えば、Cas9分子およびガイドRNAを送達するための多数の公知の方法もしくはビヒクルのいずれかを用いて、Cas9ヌクレアーゼ(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)もしくはストレプトコッカス・ピオゲネス(Stretpococcus pyogenes)に由来するmRNA、例えば、pCW-Cas9, Addgene #50661, Wang et al.(2014) Science, 3:343-80-4;またはApplied Biological Materials(ABM; Canada)からカタログ番号K002、K003、K005、またはK006として入手可能なヌクレアーゼもしくはニッカーゼレンチウイルスベクター、およびhTERTガイドRNA(gRNA、例えば、ABM, カタログ番号K0009811から入手可能な例示的なgRNAベクターによってコードされるCas9ヌクレアーゼ)を細胞に導入する。非特異的な、または空のベクター対照T細胞も作製する。細胞における遺伝子破壊を評価するための多数の周知のアッセイのいずれかを用いて、(例えば、移入して24~72時間後の)hTERTノックアウトの程度を評価する。
【0319】
クリスパー/Cas9系を形質導入した後、24~96時間以内に、細胞(hTERTノックダウンおよび対照細胞)に、空のベクター、あるいはhTERT抗原受容体、例えば、T細胞受容体(TCR)、または、例えば、米国特許第7,718,777号に記載のような、SEQ ID NO:7、8、もしくは10~14に示したペプチドのいずれかに特異的な抗体結合分子を含む、HLA-A*0201の状況においてhTERT由来ペプチドエピトープに特異的に結合する抗hTERTキメラTCR様抗体もしくはその結合断片(例えば、scFv)をコードするウイルスベクターを形質導入する。従って、全部で4つの細胞群を、以下:1)hTERTノックアウト(遺伝子操作された受容体がない);2)hTERTノックアウト/遺伝子操作されたhTERT抗原受容体;3)hTERT野生型T細胞/遺伝子操作されたhTERT抗原受容体;およびhTERT野生型(遺伝子操作された受容体がない)(対照)のように作製する。
【0320】
導入後に、例えば、細胞を増殖するために、細胞を一般的には37℃でさらに培養する。細胞増殖アッセイ、クロム放出アッセイ、IFN-γ、グランザイムB、および/もしくはパーフォリンを対象にしたエリスポットアッセイ、ならびに/または細胞生存を対象にしたアッセイを行うことによって、例えば、CellTiter-Glo(登録商標)(CTG)-アッセイ、または細胞の増殖、生存、および/もしくは細胞傷害性を測定する他のアッセイを用いることによって、各群の培養中の細胞の、抗原によって誘導される細胞傷害性および/または活性化を評価する。作製された細胞の様々な群の間で、細胞の細胞傷害性を比較する。評価する操作された細胞のhTERT特異的機能を確かめるために、細胞傷害性もしくは活性化または他の機能の正の対照として、hTERTを発現することが分かっている、および/または細胞が認識可能なhTERT由来ペプチドを提示することが分かっている細胞を含める。
【0321】
さらなる研究では、様々な条件群の細胞を動物対象に投与し、このような細胞による自死に及ぼすノックアウトの影響と、ある期間にわたる、このような細胞の持続と、腫瘍細胞などの標的抗原を発現する細胞の標的化における効力を評価するために、このような細胞の持続を、ある期間にわたって追跡し、比較する。
【0322】
任意で、培養中での自死を回避し、その可能性を小さくすることが見出された、前記のように操作された自己hTERTノックアウト/hTERT抗原特異的T細胞を、がんを処置するために、例えば、1x107個の細胞~5x1010個の細胞の投与量で対象に投与する。
【0323】
実施例2:別の関連抗原の内因性抑制の存在下または非存在下での、疾患特異的標的抗原に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)を用いて操作されたT細胞の細胞傷害活性の評価
標的抗原と類似性またはエピトープを共有する関連抗原に対して交差反応性を示すことが知られているか、または交差反応性を示す可能性がある、特定の疾患特異的標的抗原に特異的な操作された抗原受容体を発現するT細胞の活性および特性を評価するために例示的な研究を行う。T細胞はまた、T細胞におけるこのような関連抗原の発現抑制および/または遺伝子破壊もしくはノックアウトを行うように操作される。具体的には、1つの例示的な研究では、T細胞は、BCMAに特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように操作され、また、1種類または複数種の他の関連抗原、例えば、BAFF-RまたはTACIの発現が破壊される。
【0324】
対象、例えば、場合によっては、がんをもつ対象に由来するヒトアフェレーシス産物試料からの免疫親和性に基づく選択によってT細胞を単離する。結果として生じた細胞を、IL-2(100IU/mL)の存在下で抗CD3/抗CD28試薬を用いて、例えば、37℃で72時間、活性化する。
【0325】
クリスパー/Cas9技術を用いて、活性化T細胞におけるBAFF-RまたはTACIの遺伝子発現をノックダウンする。例示的な方法では、Cas9ヌクレアーゼ(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)もしくはストレプトコッカス・ピオゲネス(Stretpococcus pyogenes)に由来するmRNA、例えば、pCW-Cas9, Addgene #50661, Wang et al. (2014) Science, 3:343-80-4;またはApplied Biological Materials(ABM; Canada)からカタログ番号K002、K003、K005、もしくはK006として入手可能なヌクレアーゼもしくはニッカーゼレンチウイルスベクター)と、TACIガイドRNA(gRNA、例えば、Origene、カタログ番号KN204672から入手可能な例示的な試薬)、またはBAFF-RガイドRNA(gRNA、例えば、Origene、カタログ番号KN211270から入手可能な例示的な試薬)を、例えば、レンチウイルス送達ベクター、または細胞に移入するための多数の公知の任意の送達方法もしくはビヒクル、例えば、Cas9分子およびガイドRNAを送達するための多数の公知の任意の方法もしくはビヒクルを用いて細胞に導入する。非特異的な、または空のベクター対照T細胞も作製する。細胞における遺伝子破壊を評価するための多数の周知の任意のアッセイを用いて、(例えば、移入して24~72時間後の)TACIまたはBAFF-Rノックアウトの程度を評価する。
【0326】
クリスパー/Cas9系を形質導入した後、24~96時間以内に、細胞(TACIノックアウト、BAFF-Rノックアウト、および対照細胞)に、空のベクター、またはBCMA特異的抗原受容体、例えば、BCMAに特異的に結合する抗BCMA抗体またはその結合断片(例えば、scFv)を含有するキメラ抗原受容体をコードするウイルスベクターを形質導入する。従って、全部で6つの細胞群を、以下:(1)TACIノックアウト(遺伝子操作された受容体がない); (2)TACIノックアウト/遺伝子操作されたBCMA特異的抗原受容体; (3)BAFF-Rノックアウト(遺伝子操作された受容体がない); (4)BAFF-Rノックアウト/遺伝子操作されたBCMA特異的抗原受容体; (5)野生型T細胞/遺伝子操作されたBCMA特異的抗原受容体;および(6)野生型細胞(遺伝子操作された受容体がない)(対照)のように作製する。
【0327】
導入後に、例えば、細胞を増殖するために、細胞を一般的には37℃でさらに培養する。細胞増殖アッセイ、クロム放出アッセイ、IFN-γ、グランザイムB、および/もしくはパーフォリンを対象にしたエリスポットアッセイ、ならびに/または細胞生存を対象にしたアッセイを行うことによって、例えば、CellTiter-Glo(登録商標)(CTG)-アッセイ、または細胞の増殖、生存、および/もしくは細胞傷害性を測定する他のアッセイを用いることによって、各群の培養中の細胞の、抗原によって誘導される細胞傷害性および/または活性化を評価する。作製された細胞の異なる群の間で細胞の細胞傷害性を比較する。評価する操作された細胞のBCMA特異的機能を確かめるために、細胞傷害性もしくは活性化または他の機能の正の対照として、BCMAを発現することが分かっている細胞を含める。
【0328】
さらなる研究では、このような細胞による自死に及ぼすノックアウトの影響と、ある期間にわたる、このような細胞の持続と、腫瘍細胞などの標的抗原を発現する細胞の標的化における効力を評価するために、様々な条件群の細胞を動物対象に投与し、このような細胞の持続を、ある期間にわたって追跡し、比較する。
【0329】
任意で、培養中での自死を回避するか、またはその可能性が小さいことが見出された、前記のように操作された自己TACIノックアウトおよび/またはBAFF-RノックアウトならびにBCMA特異的抗原特異的T細胞を、がんを処置するために、例えば、1x107個の細胞~5x1010個の細胞の投与量で対象に投与する。
【0330】
本発明の範囲は、本発明の個々の局面の例示と意図される本明細書に開示された態様によって限定してはならず、機能的に等価なあらゆるものが本発明の範囲内にある。本明細書に記載の組成物および方法の他に、本発明の組成物および方法に対する様々な変更が前述の説明および開示から当業者に明らかになり、同じように本発明の範囲内にあることが意図される。このような変更または他の態様は、本発明の真の範囲および精神から逸脱することなく実施することができる。
【0331】
【配列表】