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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】旋盤のワーク押付け装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 15/00 20060101AFI20230316BHJP
   B23B 31/00 20060101ALI20230316BHJP
   B23B 31/10 20060101ALI20230316BHJP
   B23Q 7/06 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
B23B15/00 Z
B23B31/00 A
B23B31/10 A
B23Q7/06 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019007920
(22)【出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2020116659
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】木下 友裕
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-238541(JP,A)
【文献】実開昭51-104480(JP,U)
【文献】実開昭55-066703(JP,U)
【文献】実開昭62-130873(JP,U)
【文献】実開平01-138635(JP,U)
【文献】実開平05-078401(JP,U)
【文献】実開平06-031933(JP,U)
【文献】特開平11-277302(JP,A)
【文献】特開2003-251502(JP,A)
【文献】特開2013-059826(JP,A)
【文献】実用新案登録第2533680(JP,Y2)
【文献】特開2004-202590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00-25/06
B23B 31/00-33/00
B23Q 3/00-3/154
B23Q 7/00-7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸と、前記主軸の先端部に設けられてワークを保持するチャックと、タレット刃物台とを備えている旋盤において、前記チャックの取付基準面に前記ワークの一端部を押し付けるためのワーク押付け装置であって、
前記タレット刃物台に取り付けられ、かつ中心部から放射状にのびる少なくとも3つのスリットが周方向に等間隔おきに形成された前壁を有している中空状のボディと、
前記ボディの内部に前記前壁と同心状に回転可能に収容されているとともに、前面にスクロール溝を有しているディスクと、
前記ディスクを回転させるディスク回動装置と、
後面に前記スクロール溝に噛み合わせられる歯を有し、前面に前記ワークの他端部に押し当てられる押当て面を有し、かつ前記ボディの前記前壁に前記少なくとも3つのスリットに沿ってスライド可能に取り付けられている少なくとも3つの押当て片とを備えており、
前記ディスク回動装置によって前記ディスクが回転させられることにより、前記少なくとも3つの押当て片が前記少なくとも3つのスリットに沿って同時にスライドさせられるようになっており、
前記タレット刃物台は回転工具を回転させることが可能な駆動手段を備えており、前記ディスク回動装置が前記駆動手段を利用したものである、旋盤のワーク押付け装置。
【請求項2】
前記ディスクが、中心部に円形の孔を有しているドーナツ形のものであり、
前記ディスク回動装置が、前記駆動手段に接続する接続部と、一端部が前記接続部に保持されている伝動シャフトと、前記伝動シャフトの他端部および前記ディスクにおける前記孔の周縁部に互いに噛み合うように形成された歯車機構とを備えている、請求項記載の旋盤のワーク押付け装置。
【請求項3】
ワーク押付け時の衝撃を吸収しうるように、前記ボディが前記タレット刃物台に弾性的に取り付けられている、請求項1または2記載の旋盤のワーク押付け装置。
【請求項4】
前記少なくとも3つの押当て片が、後面に前記歯を有しかつ前記ボディの前記前壁に前記少なくとも3つのスリットに沿ってスライド可能に取り付けられている押当て片本体と、ワーク押付け時の衝撃を吸収しうるように前記押当て片本体に弾性的に取り付けられている押当て面形成体とをそれぞれ備えている、請求項1~のいずれか1つに記載の旋盤のワーク押付け装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、NC旋盤等の旋盤において、主軸の先端部に設けられたチャックの取付基準面にワークの一端部を押し付けるためのワーク押付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
NC旋盤等の旋盤では、主軸先端部のチャックにワークを取り付ける際、ワークの傾きを防止して加工精度を高めるために、ワークの一端部をワークの取付基準面に押し付けるワーク押付け装置が使用されている。
ワーク押付け装置としては、旋盤のタレット刃物台の工具取付ステーションに取り付けられたプレート状の押当て片よりなり、タレット刃物台を所要方向に移動させることにより、押当て片をワークの他端部に押し当てるように構成したものが知られている。
但し、上記装置の場合、ワークのサイズに応じた複数の押当て片を用意しておいて、ワークのサイズが変わる毎に押当て片を交換する必要があるため、作業性に問題があった。しかも、上記装置の場合、タレット刃物台の旋回時に押当て片がサドルカバー等に干渉しないようにする必要があるため、押当て片のサイズに制約があり、また、押当て片が取り付けられた工具取付ステーションに隣接する工具取付ステーションには、押当て片と干渉して工具を取り付けることができない場合があった。
【0003】
上記の問題を解決するため、例えば下記特許文献1記載のワーク押付け装置が提案されている。この装置は、旋盤のタレット刃物台の工具取付ステーションに基端部が取り付けられた円筒状の本体と、本体の軸線と平行にのびかつ本体の先端側部分に周方向に等間隔をおいて回転可能に取り付けられた複数の旋回軸と、本体内に設けられかつ複数の旋回軸を同一方向に同時に旋回させる流体圧駆動手段と、複数の旋回軸の先端部にそれぞれ取り付けられかつワークの他端部に押し当てられる複数の押当て片とを備えてなり、流体圧駆動手段によって複数の旋回軸を旋回させることにより、複数の押当て片が開閉されるようになっている。
上記装置によれば、複数の押当て片を外側に旋回させて開くことにより、よりサイズ(径)の大きいワークに対応することができ、また、複数の押当て片を内側に旋回させて閉じれば、タレット刃物台の旋回時にサドルカバー等に干渉しないようにすることができる上、同装置の本体が取り付けられた工具取付ステーションに隣接する工具取付ステーションにも、押当て片と干渉することなく工具を取り付けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実用新案登録第2533680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載のワーク押付け装置の場合、複数の押当て片の配置が、最大限まで外側に開くかまたは内側に閉じるかの2態様に限られるため、対応可能なワークのサイズが少ないという問題があった。
【0006】
この発明は、押当て片を交換することなく、より様々なサイズのワークの押付けに容易に対応することができる旋盤のワーク押付け装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記の目的を達成するために、以下の態様からなる。
なお、この発明を特定するに当たり、ワーク押付け装置の「前」とは、押し付けるワークに近い側(例えば図1,3の左)を指し、「後」とは、その反対側(例えば図1,3の右)を指すものとする。
【0008】
1)主軸と、前記主軸の先端部に設けられてワークを保持するチャックと、タレット刃物台とを備えている旋盤において、前記チャックの取付基準面に前記ワークの一端部を押し付けるためのワーク押付け装置であって、
前記タレット刃物台に取り付けられ、かつ中心部から放射状にのびる少なくとも3つのスリットが周方向に等間隔おきに形成された前壁を有している中空状のボディと、
前記ボディの内部に前記前壁と同心状に回転可能に収容されているとともに、前面にスクロール溝を有しているディスクと、
前記ディスクを回転させるディスク回動装置と、
後面に前記スクロール溝に噛み合わせられる歯を有し、前面に前記ワークの他端部に押し当てられる押当て面を有し、かつ前記ボディの前記前壁に前記少なくとも3つのスリットに沿ってスライド可能に取り付けられている少なくとも3つの押当て片とを備えており、
前記ディスク回動装置によって前記ディスクが回転させられることにより、前記少なくとも3つの押当て片が前記少なくとも3つのスリットに沿って同時にスライドさせられるようになっている、旋盤のワーク押付け装置。
【0009】
2)前記タレット刃物台は回転工具を回転させることが可能な駆動手段を備えており、前記ディスク回動装置が前記駆動手段を利用したものである、前記1)の旋盤のワーク押付け装置。
【0010】
3)前記ディスクが、中心部に円形の孔を有しているドーナツ形のものであり、
前記ディスク回動装置が、前記駆動手段に接続する接続部と、一端部が前記接続部に保持されている伝動シャフトと、前記伝動シャフトの他端部および前記ディスクにおける前記孔の周縁部に互いに噛み合うように形成された歯車機構とを備えている、前記2)の旋盤のワーク押付け装置。
【0011】
4)ワーク押付け時の衝撃を吸収しうるように、前記ボディが前記タレット刃物台に弾性的に取り付けられている、前記1)~3)のいずれか1つの旋盤のワーク押付け装置。
【0012】
5)前記少なくとも3つの押当て片が、後面に前記歯を有しかつ前記ボディの前記前壁に前記少なくとも3つのスリットに沿ってスライド可能に取り付けられている押当て片本体と、ワーク押付け時の衝撃を吸収しうるように前記押当て片本体に弾性的に取り付けられている押当て面形成体とをそれぞれ備えている、前記1)~4)のいずれか1つの旋盤のワーク押付け装置。
【発明の効果】
【0013】
前記1)の旋盤のワーク押付け装置によれば、ディスク回動装置によってディスクを所要方向に所要角度(回転量)だけ回転させることにより、少なくとも3つの押当て片が、前壁の少なくとも3つの放射状スリットに沿って同時にスライドさせられて任意の箇所に配置されるので、より様々なサイズのワークの押付けに容易に対応することが可能である。
【0014】
前記2)の旋盤のワーク押付け装置によれば、ディスク回動装置が、タレット刃物台に備えられた回転工具用駆動手段を利用したものであるので、専用の駆動手段を用いる必要がなく、設置コストが抑えられる。また、タレット刃物台に備えられた回転工具用駆動手段がプログラムにより運転制御可能なものである場合には、押当て片の位置調整を、前記プログラムを利用して簡単に行うことが可能となり、段取りに要する時間が大幅に短縮される。
【0015】
前記3)の旋盤のワーク押付け装置によれば、ディスク回動装置が、タレット刃物台の回転工具用駆動手段に接続する接続部、伝動シャフト、および歯車機構よりなるシンプルな構造のものであるので、組立やメンテナンスが容易であり、コストも抑えられる。
【0016】
前記4)の旋盤のワーク押付け装置によれば、タレット刃物台に弾性的に取り付けられたボディにより、ワーク押付け時の衝撃が吸収されるので、ワークやチャックおよび押当て片に損傷が発生するのを効果的に抑制することができる。
【0017】
前記5)の旋盤のワーク押付け装置によれば、各押当て片の押当て片本体に弾性的に取り付けられた押当て面形成体により、ワーク押付け時の衝撃が吸収されるので、ワークやチャックおよび押当て片に損傷が発生するのを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の実施形態に係るワーク押付け装置を備えた旋盤の概略を示す側面図である。
図2】同ワーク押付け装置の正面図である。
図3図2のIII-III線に沿う断面図である。
図4図2のIV-IV線に沿う部分拡大断面図である。
図5】同ワーク押付け装置の押当て部材の変形例を示す図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図1図5を参照して、この発明の実施形態を説明する。
なお、以下の説明において、図1,3の左を「前」といい、同右を「後」というものとする。
【0020】
図1に示すように、この発明の実施形態に係る旋盤(1)は、前後方向(Z軸方向)にのびかつ主軸台(2)に回転可能に取り付けられている主軸(3)と、主軸(3)の後端部(先端部)に取り付けられてワーク(W)を保持するチャック(4)と、チャック(4)の後方に旋回割出し可能に設けられているタレット刃物台(5)とを備えている。
チャック(4)は、チャック本体(41)と、チャック本体(41)にラジアル方向にスライドして開閉可能に取り付けられた3つのチャック爪(42)とを備えている。チャック本体(41)の後面によって、取付基準面(411)が構成されている。
タレット刃物台(5)は、図示しない駆動手段によってZ軸方向およびX軸方向に移動自在となされている。タレット刃物台(5)の外周部には、複数の工具取付ステーション(51)が周方向に等間隔おきに設けられている。また、タレット刃物台(5)は、エンドミルやドリル等の回転工具を回転させることが可能なモータ等の駆動手段(図示略)を備えている。駆動手段は、プログラムにより回転方向や回転角度(回転量)等が制御可能となされている。そして、複数の工具取付ステーション(51)のうち1つの工具取付ステーション(51)に、駆動手段に接続する接続部(6)が装着されている。接続部(6)は、ケーシング(61)と、ケーシング(61)内に回転可能に配置されかつ駆動手段によって回転させられる保持部(62)とを有している。
【0021】
また、旋盤(1)には、チャック(4)の取付基準面(411)にワーク(W)の前端部を押し付けるためのワーク押付け装置(7)が設けられている。
図2図4は、ワーク押付け装置(7)の詳細を示すものである。なお、図3では、タレット刃物台(5)および接続部(6)の断面構造の図示を省略している。これらの図に示すように、ワーク押付け装置(7)は、タレット刃物台(5)に取り付けられかつ中心部から放射状にのびる3つのスリット(811)が周方向に等間隔おきに形成された前壁(81)を有している中空状のボディ(8)と、ボディ(8)の内部に前壁(81)と同心状に回転可能に収容されているとともに、前面にスクロール溝(91)を有しているディスク(9)と、ディスク(9)を回転させるディスク回動装置(10)と、後面にスクロール溝(91)に噛み合わせられる歯(111)を有し、前面にワーク(W)の後端部に押し当てられる押当て面(112)を有し、かつボディ(8)の前壁(81)に3つのスリット(811)に沿ってスライド可能にかつ中心部からの距離が等しくなるように取り付けられている3つの押当て片(11)とを備えている。
上記のワーク押付け装置(7)にあっては、ディスク回動装置(10)によってディスク(9)が回転させられることにより、3つの押当て片(11)が3つのスリット(811)に沿って同時に、すなわち、同一方向(径方向内方または外方)に同一距離だけスライドさせられるようになっている。
【0022】
ボディ(8a)は、中空円盤状のものであって、ベースプレート(12)を介して、タレット刃物台(5)の前面および接続部(6)のケーシング(61)前面にまたがって取り付けられている。
より詳細には、ボディ(8)は、円形の後壁(82)および後壁(82)の外周縁から前方に短くのびた環状周壁(83)を有するボディ本体(8a)と、ボディ本体(8a)の前方開口を覆うようにボディ本体(8a)に接合されて前壁(81)を構成する円形のボディ蓋体(8b)とで構成されている。ボディ蓋体(8b)、すなわち前壁(81)の中心部には、円形の孔(812)が形成されている。但し、この孔(812)は形成されない場合もある。
前壁(81)における各スリット(811)の両側縁部には、その幅中間位置にスリット(811)の長さ方向に沿ってのびる係合凸条(813)が形成されている(図4参照)。
ベースプレート(12)は、例えば図2に示すような三角形のものであって、複数の取付ボルト(13)によって、タレット刃物台(5)の前面および接続部(6)のケーシング(61)前面に締結固定されている。なお、ベースプレート(12)の形状は、三角形に限らず、四角形等のその他の形状であってもよい。
ベースプレート(12)には、複数の取付ボルト(14)によって、ボディ(8)が取り付けられている。各取付ボルト(14)は、ベースプレート(12)にあけられたボルト挿通孔(121)に長さ方向にスライド可能に挿通されている。ボルト挿通孔(121)の後部には、取付ボルト(14)の頭部(141)を収容しうる収容凹所(122)が形成されている。収容凹所(122)の深さは、取付ボルト(14)の頭部(141)の高さよりも大きくなされている。取付ボルト(14)の先端部は、ボディ(8)の後壁(82)後面に形成されたねじ孔(821)にねじ込まれている。また、取付ボルト(14)の長さ中間部の外周には、ベースプレート(12)とボディ(8)との間に介在されるように、圧縮コイルばね(15)が嵌められている。この圧縮コイルばね(15)により、ボディ(8)およびその前壁(81)に取り付けられた3つの押当て片(11)が前方に向かって付勢されている。上記の取付構造により、ボディ(8)がタレット刃物台(5)に弾性的に取り付けられ、それによってワーク押付け時の衝撃が吸収されるようになっている。
【0023】
ディスク(9)は、中心部に円形の孔(92)を有しているドーナツ形のものである。
ディスク(9)の内周縁部には、周方向に一定のピッチで多数の歯(93)が形成されている。
【0024】
ディスク回動装置(10)は、タレット刃物台(5)に備えられた回転工具用駆動手段を利用したものである。より詳細には、ディスク回動装置(10)は、工具取付ステーション(51)に装着されて駆動手段に接続する接続部(6)と、後端部が接続部(6)の保持部(62)に保持されている伝動シャフト(16)と、ディスク(9)の内周縁部に形成された多数の歯(93)および伝動シャフト(16)の前端部に形成されてディスク(9)の歯(93)と噛み合せられる多数の歯(171)を有する歯車(17)よりなる歯車機構とを備えている。伝動シャフト(16)は、ベースプレート(12)およびボディ(8)の後壁(82)を緩く貫通して回転可能となされている。
接続部(6)の保持部(62)を、図示しない駆動装置によって所要方向に回転させると、伝動シャフト(16)が回転させられ、その回転運動が歯車(17)およびディスク(9)の歯(92)よりなる歯車機構を介してディスク(9)に伝動されて、ディスク(9)が回転するようになっている。
【0025】
3つの押当て片(11)は、それぞれ短い角棒形をした同形同大のものである。各押当て片(11)の両側面には、ボディ(8)の前壁(81)におけるスリット(811)の両側縁部に形成された係合凸条(813)に係合可能な係合溝(113)が形成されている。そして、これらの係合溝(113)に係合凸条(813)が挿入されて互いに係り合わせられることにより、各押当て片(11)が、ボディ(8)の前壁(81)に、各スリット(811)の長さ方向に沿ってスライド可能に取り付けられている。なお、上記構成とは逆に、各押当て片(11)の両側面に係合凸条を形成し、ボディ(8)の前壁(81)におけるスリット(811)の両側縁部に係合溝を形成してもよい。
3つの押当て片(11)は、その後面の歯(111)がディスク(9)前面のスクロール溝(91)と噛み合わせられているので、ディスク(9)が回転すると、スリット(811)の長さ方向、すなわちラジアル方向に同時にスライドさせられる。図2および図3では、ボディ(8)の前壁(81)の中心部からの距離が最も遠くなる全開位置に配されている押当て片(11)を実線で示し、中心部からの距離が最も近くなる全閉位置に配されている押当て片(11)を2点鎖線で示しているが、押当て片(11)の位置は、ディスク(9)の回転角度(回転量)を適宜調整することにより、押し付けるワーク(W)のサイズ(外径)に応じて任意に変更調整可能である。接続部(6)に接続されているモータ等の駆動手段は、回転方向や回転角度(回転量)等をプログラムにより制御可能なものであるので、同プログラムを利用して押当て片(11)の位置を簡単に調整することができ、段取りに要する時間が大幅に短縮される。
なお、押当て片(11)は、図示のように少なくとも3つあれば足りるが、4つ以上設けても構わない。
【0026】
図5は、押当て片の変形例を示したものである。
図示の押当て片(110)は、後面にスクロール溝(91)に噛み合わせられる歯(111)を有しかつボディ(8)の前壁(81)にスリット(811)に沿ってスライド可能に取り付けられている押当て片本体(110A)と、ワーク押付け時の衝撃を吸収しうるように押当て片本体(110A)に弾性的に取り付けられている押当て面形成体(110B)とを備えている。
押当て片本体(110A)は、図4に示す押当て片(11)とほぼ同様の形態を有するものであって、その両側面には係合凸条(813)に係合可能な係合溝(113)が形成されている。
押当て面形成体(110B)は、板状のものであって、その前面が押当て面(112)を構成しており、複数の取付ボルト(18)によって、押当て片本体(110A)の前面に取り付けられている。各取付ボルト(18)は、押当て面形成体(110B)にあけられたボルト挿通孔(114)に長さ方向にスライド可能に挿通されている。ボルト挿通孔(114)の後部には、取付ボルト(18)の頭部(181)を収容しうる収容凹所(115)が形成されている。収容凹所(115)の深さは、取付ボルト(18)の頭部(181)の高さよりも大きくなされている。取付ボルト(18)の先端部は、押当て片本体(110A)の前面に形成されたねじ孔(116)にねじ込まれている。また、取付ボルト(18)の長さ中間部の外周には、押当て片本体(110A)と押当て面形成体(110B)との間に介在されるように、圧縮コイルばね(19)が嵌められている。この圧縮コイルばね(19)により、押当て面形成体(110B)が前方に向かって付勢されている。上記の取付構造により、押当て面形成体(110B)が押当て片本体(110A)に弾性的に取り付けられ、それによってワーク押付け時の衝撃が吸収されるようになっている。
なお、上記の押当て片(110)を使用する場合、ボディ(8)はタレット刃物台(5)に固定的に取り付けられていても構わない。
【0027】
上記のワーク押付け装置(7)によれば、以下のような効果が奏される。
すなわち、上記ワーク押付け装置(7)によれば、ディスク回動装置(10)によって、ディスク(9)を所要方向に所要角度(回転量)だけ回転させることにより、3つの押当て片(11)(110)をボディ(9)の前壁(91)のスリット(911)に沿ってスライドさせて所望の位置に短時間で正確に位置させることができるので、従来装置のように押当て片を交換することなく、サイズ(外径)の異なる複数種類のワーク(W)の押付け操作に容易に対応することができ、しかも、対応可能なワークのサイズは、上記特許文献1記載の回転式押当て片を備えた装置と比べて、かなり多くなる。加えて、上記ワーク押付け装置(7)の場合、ディスク回動装置(10)が、タレット刃物台(5)に予め備えられたプログラム制御可能な回転工具用駆動手段を利用したものであるので、制御のためのプログラムも含めて専用の駆動手段を用いる必要がなく、設置コストが抑えられる。また、上記ワーク押付け装置(7)によれば、タレット刃物台(5)の旋回時にサドルカバー等との干渉を避けるための最大旋回径の範囲を超えた位置に、3つの押当て片(11)(110)を配置することができるので、押付け時のワーク(W)の姿勢が安定する。しかも、上記ワーク押付け装置(7)によれば、タレット刃物台(5)における同装置(7)が取り付けられた工具取付ステーション(51)に隣接する工具取付ステーション(51)にも、種類によっては工具を取り付けることが可能となる。
また、上記ワーク押付け装置(7)は、シンプルな構造であるので、その組立やメンテナンスが容易であり、コストも抑えられる。
さらに、上記ワーク押付け装置(7)によれば、タレット刃物台(5)に弾性的に取り付けられたボディ(8)や、押当て片(110)の押当て片本体(110A)に弾性的に取り付けられた押当て面形成体(110B)により、ワーク押付け時の衝撃が吸収されるので、ワーク(W)やチャック(4)および押当て片(11)(110)に損傷が発生するのを効果的に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明は、タレット刃物台を備えたNC旋盤等の旋盤において、主軸の先端部に設けられたチャックの取付基準面にワークの一端部を押し付けるためのワーク押付け装置として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0029】
(1):旋盤
(3):主軸
(4):チャック
(411):取付基準面
(5):タレット刃物台
(6):接続部
(62):保持部
(7):ワーク押付け装置
(8):ボディ
(81):前壁
(811):スリット
(9):ディスク
(91):スクロール溝
(92):中心部の孔
(93):歯(歯車機構)
(10):ディスク回動装置
(11):押当て片
(110):押当て片
(110A):押当て片本体
(110B):押当て面形成体
(111):歯
(112):押当て面
(14):取付ボルト
(15):圧縮コイルばね
(16):伝動シャフト
(17):歯車(歯車機構)
(18):取付ボルト
(19):圧縮コイルばね
(W):ワーク
図1
図2
図3
図4
図5