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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20230316BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20230316BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20230316BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
B41M5/00 100
C09D11/30
C09D11/54
B41M5/00 132
B41J2/01 123
B41J2/01 501
B41M5/00 114
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019035328
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020138408
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】林 暁子
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-147405(JP,A)
【文献】特開2016-163986(JP,A)
【文献】特開2015-091640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
C09D 11/30
C09D 11/54
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散性樹脂を凝集させる凝集剤を含む第一の前処理液と、
前記水分散性樹脂を含む第二の前処理液と、
水性インクを凝集させる凝集剤を含む第三の前処理液と、
を用意し、
第一の前処理液、第二の前処理液、及び第三の前処理液の順で記録媒体の表面を前処理した後、当該前処理された表面に水性インクをインクジェット方式で吐出することを含む、
印刷物の製造方法(ただし、前記第二の前処理液が色材を含む場合を除く)
【請求項2】
前記第一の前処理液に含まれる凝集剤は多価金属塩を含む、請求項1に記載の印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記第三の前処理液に含まれる凝集剤は多価金属塩を含む、請求項1または請求項2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記第一の前処理液に含まれる凝集剤及び前記第三の前処理液に含まれる凝集剤は同じ多価金属塩である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記記録媒体が、布及び多孔質材からなる群から選択される、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクを用いて、レースや不織布のような隙間の多い記録媒体に対しても優れた画質の画像をインクジェット記録できる印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布に簡便に捺染する方法として、水性顔料インクを用いたインクジェット印刷が利用されている。しかしながら、一般的に顔料は染料よりも発色に劣るため、水性顔料インクを用いた捺染は発色の点で染料を用いた捺染に対し不利であった。
【0003】
水性顔料インクを用いた捺染の発色を改善する方法として、顔料の凝集剤を含む前処理液を用いて発色を向上させる方法が既に提案されている(特許文献1、2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-55886号公報
【文献】特開2006-132034号公報
【文献】特開2015-161043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、布は繊維の種類、織り方、編み方等によって様々な特性のものがある。例えば、ポリエステル製のニットなどは親水基の少ない繊維を用いているため保水性が低く、また、編み目により隙間が生じているため通気性が高い。このような布は、汗が乾きやすい等の利点があるものの、インクジェット印刷する場合、インクが布の隙間に流れやすい、つまり布の表面に残りにくいため所望の画像が得られ難いという問題があった。
【0006】
本発明は、ポリエステル製ニットのような隙間の多い記録媒体に対しても、所望の画像をインクジェット記録できる印刷物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的の下に鋭意研究した結果、記録媒体に水分散性樹脂の凝集剤を付着させた後、これに重ねて水分散性樹脂を付着させることにより、記録媒体上で水分散性樹脂を凝集させた後、これに重ねてインク凝集剤を付着させ、しかる後に、これに重ねて水性インクを用いてインクジェット印刷することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一局面によれば、水分散性樹脂を凝集させる凝集剤を含む第一の前処理液と、
前記水分散性樹脂を含む第二の前処理液と、
水性インクを凝集させる凝集剤を含む第三の前処理液と、
を用意し、
第一の前処理液、第二の前処理液、及び第三の前処理液の順で記録媒体の表面を前処理した後、当該前処理された表面に水性インクをインクジェット方式で吐出することを含む、印刷物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第一の前処理液を用いて記録媒体の表面に水分散性樹脂の凝集剤を付着させた後、これに重ねて第二の処理液を用いて記録媒体の表面に水分散性樹脂を付着させることにより、記録媒体の表面付近で水分散性樹脂を凝集させ、巨大化させることができる。したがって、水分散性樹脂は記録媒体上で凝集して表面積を増やしながら記録媒体の繊維に付着することにより、記録媒体表面の繊維の凹凸を緩和し、平坦化する。一方、第二の前処理液で前処理した記録媒体の表面は凝集力が低下しているので、この状態で印刷を行うと滲みの多い画像となる。そこで、本発明によれば、第三の前処理液を用いて上記記録媒体の表面にインクを凝集させる凝集剤を付着させることとしたので、記録媒体の表面でインクの色材が凝集し易くなるだけでなく、上記水分散性樹脂の凝集物が目止め効果を発揮してインクの色材が記録媒体の隙間に浸透するのを抑制すると同時に色材を記録媒体の表面近くに定着させるため、これに重ねて印刷を行った場合に、記録媒体の表面にムラや滲みが少なく、濃度が高い画像を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
1.第一の前処理液
第一の前処理液は、通常、水及び水分散性樹脂凝集剤を少なくとも含有してなる。水としては、印刷の分野で使用されているものであれば特に限定されないが、例えば、水道水、イオン交換水、脱イオン水等が挙げられる。
【0011】
1-1.水分散性樹脂凝集剤.
水分散性樹脂凝集剤は、水分散性樹脂を凝集させる性質のある物質であれば特に限定されないが、例えば、金属塩及び有機酸が挙げられる。これらの凝集剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
第一の前処理液中の全水分散性樹脂凝集剤の含有量の下限は、画質の向上の観点から、第一の前処理液全量に対して、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらにより好ましく、8質量%以上が特に好ましい。一方、第一の前処理液中の全水分散性樹脂凝集剤の含有量の上限は、第一の前処理液全量に対して、30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、12質量%以下が特に好ましい。第一の前処理液中の全水分散性樹脂凝集剤の量は、第一の前処理液全量に対して、1~30質量%が好ましく、3~30質量%がより好ましく、5~15質量%がさらにより好ましく、8~12質量%が特に好ましい。
【0013】
金属塩は、水分散性樹脂凝集性のあるものであれば特に限定されないが、例えば、凝集力の強さの観点から多価金属塩が好ましい。
多価金属塩は、2価以上の多価金属イオンとアニオンから構成される。2価以上の多価金属イオンとしては、例えば、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Ni2+、Zn2+、Ba2+が挙げられる。アニオンとしては、例えば、Cl、NO3-、SO 2-、CHCOO、I、Br、ClO が挙げられる。多価金属塩の具体例としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、硝酸銅、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどが挙げられる。これらの金属塩は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
金属塩の第一の前処理液中の濃度の下限は、第一の前処理液全量に対して0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらにより好ましく、例えば、5質量%以上であってもよい。金属塩の第一の前処理液中の濃度の上限は、第一の前処理液全量に対して30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらにより好ましく、15質量%以下が特に好ましく、例えば、12質量%以下であってもよい。金属塩の第一の前処理液中の濃度は、第一の前処理液全量に対して、例えば、0.5~30質量%が好ましく、1~25質量%がより好ましく、1~20質量%がさらに好ましく、1~15質量%がさらにより好ましく、例えば、3~12質量%、または5~12質量%であってよい。
【0015】
有機酸としては、水分散性樹脂凝集性のあるものであれば特に限定されないが、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等が挙げられる。なかでも、23℃で液体の有機酸が好ましく、23℃で液体の有機酸としては、例えば、酢酸、乳酸等が好ましい。これらの有機酸は、1種単独で、または複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
第一の前処理液中の有機酸の含有量の下限は、画質の向上の観点から、第一の前処理液全量に対して、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらにより好ましく、8質量%以上が特に好ましい。一方、第一の前処理液中の有機酸の含有量の上限は、第一の前処理液全量に対して、30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、12質量%以下がさらにより好ましい。第一の前処理液中の有機酸の量は、親水性の低い布でも高画質を形成する観点から、第一の前処理液全量に対して、例えば、1~30質量%が好ましく、3~30質量%がより好ましく、5~15質量%がさらにより好ましく、8~12質量%が特に好ましい。
【0017】
1-2.その他の成分
第一の前処理液は、その性状に悪影響を与えない限り、上記成分以外に、例えば、水溶性有機溶剤、pH調整剤、界面活性剤、分散剤、定着剤、防腐剤等の他の成分を含有してもよい。
【0018】
水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、2-メチル-2-プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエタノールアミン、1-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、β-チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。水溶性有機溶剤の沸点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。
【0019】
これらの水溶性有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。水溶性有機溶剤の第一の前処理液中の含有量は、1種単独で用いられる場合はその含有量として、及び、2種以上が用いられる場合はその合計含有量として、5~90質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。
【0020】
1-3.第一の前処理液の作製方法
第一の前処理液は、例えば、水中に水分散性樹脂凝集剤、及び必要に応じてその他の成分を分散又は溶解することにより得ることができる。
【0021】
2.第二の前処理液
第二の前処理液は、通常、水及び水分散性樹脂を少なくとも含有してなる。水としては、第一の前処理液について上記したものを同様に使用することができる。
【0022】
2-1.水分散性樹脂.
水分散性樹脂は、布に定着できるものであれば特に限定されないが、具体例としては、スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体等の共役ジエン系樹脂;アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体、またはこれらとスチレン等との共重合体等のアクリル系樹脂;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂;及び、これらの各種樹脂のカルボキシ基等の官能基含有単量体による官能基変性樹脂の他、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキッド樹脂等が挙げられる。これらの水分散性樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。これら水分散性樹脂は、水性樹脂エマルジョン(O/W型エマルション)の形態のものであってもよい。上記水性樹脂エマルジョンは、上記樹脂単独の樹脂エマルジョンであってもよく、上記樹脂の2以上からなるハイブリッド型の樹脂エマルジョンでもよい。
【0023】
水分散性樹脂の粒径は、記録媒体の隙間の大きさに応じて適宜選択できるが、第二の前処理液をインクジェット方式で吐出する場合は、0.01~0.50μmが好ましく、0.05~0.30μmがさらに好ましい。本発明において、水分散性樹脂の粒径は、光散乱法(日機装(株)製ナノトラック粒度分布測定装置)による体積基準の累積50%平均粒径(d50)を意味する。
水分散性樹脂の第二の前処理液中の含有量(固形分)は、その合計含有量として、0.5~30質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましい。
【0024】
上記水分散性樹脂のうち、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、及びアクリル系樹脂が好ましく、インク定着性の点からポリオレフィン樹脂及びポリウレタン樹脂がより好ましく、印刷物の乾燥摩擦堅牢度の点からポリウレタン樹脂がより好ましい。
【0025】
水分散性ポリオレフィン樹脂の市販品としては、ユニチカ株式会社製アローベースシリーズ(アローベースSB-1010、アローベースSE-1010、アローベースTC-4010、アローベースDB-4010等)、東洋紡株式会社製ハードレンシリーズ(NZ1004、EW5250、EH801J等)、ビックケミー株式会社製AQUACERシリーズ(272、497、531、537等)等が挙げられる。
【0026】
水分散性ポリウレタン樹脂としては、ウレタン骨格を有し水分散性を有する樹脂であれば特に限定はされない。なかでも、第二の前処理液をインクジェット方式で吐出する場合は、インクジェットヘッドへの材質適合性の観点から、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等のアニオン性の官能基を有する、アニオン性のウレタン樹脂が好ましい。上記のような特性を満たす水分散性ウレタン樹脂の具体例としては、ウレタン骨格を有するアニオン性樹脂が挙げられ、具体的には、第一工業製薬(株)製のスーパーフレックス150、スーパーフレックス300、スーパーフレックス460、スーパーフレックス470、スーパーフレックス740、スーパーフレックス840等、三井化学ポリウレタン(株)製のタケラックWS-6021、タケラックW-512-A-6、(株)アデカ製アデカボンタイターHUX-370、アデカボンタイターHUX-380、DSM社製NeoRez R-9660、NeoRez R-966、NeoRez R-986、NeoRez R-2170等が挙げられる。
【0027】
水分散性アクリル樹脂としては、例えば、スチレン(メタ)アクリル樹脂及び水分散性(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。スチレン(メタ)アクリル樹脂及び水分散性(メタ)アクリル樹脂は、いずれも特に限定されず、市販のものを用いることができる。
水分散性スチレン(メタ)アクリル樹脂又は水分散性(メタ)アクリル樹脂の市販品としては、例えば日本合成化学株式会社製のモビニール966A、モビニール6750、モビニール6751D、モビニール6960、モビニール6718、モビニール7320、日本ペイント株式会社製のマイクロジェルE-1002、マイクロジェルE-5002、株式会社DIC製のボンコート4001、ボンコート5454、日本ゼオン株式会社製のSAE1014、サイデン化学株式会社製のサイビノールSK-200、DSM社製のネオクリルBT-62、ネオクリルSA-1094、BASF社製のジョンクリル7100、ジョンクリル390、ジョンクリル711、ジョンクリル511、ジョンクリル7001、ジョンクリル632、ジョンクリル741、ジョンクリル450、ジョンクリル840、ジョンクリル74J、ジョンクリルHRC-1645J、ジョンクリル734、ジョンクリル852、ジョンクリル7600、ジョンクリル775、ジョンクリル537J、ジョンクリル1535、ジョンクリルPDX-7630A、ジョンクリル352J、ジョンクリル352D、ジョンクリルPDX-7145、ジョンクリル538J、ジョンクリル7640、ジョンクリル7641、ジョンクリル631、ジョンクリル790、ジョンクリル780、ジョンクリル7610、日信化学工業株式会社製のビニブラン2580、ビニブラン2585、ビニブラン2682、ビニブラン2680、ビニブラン2684、ビニブラン2685、ビニブラン2687、新中村化学工業株式会社製のNKバインダー R-5HN等が挙げられる。
【0028】
2-2.その他の成分
第二の前処理液は、その性状に悪影響を与えない限り、上記成分以外に、例えば、水溶性有機溶剤、pH調整剤、界面活性剤、分散剤、定着剤、防腐剤等の他の成分を含有してもよい。水溶性有機溶剤としては、第一の前処理液について上記したものを上記した量で使用することができる。
【0029】
2-3.第二の前処理液の作製方法
第二の前処理液は、例えば、水中に水分散性樹脂、及び必要に応じてその他の成分を分散又は溶解することにより得ることができる。水分散性樹脂が水性樹脂エマルジョン(O/W型エマルション)の形態である場合は、これをそのまま又は適当な量の水で希釈して第二の前処理液として用いることもでき、このようにして得られた第二の前処理液に、必要に応じてその他の成分を分散又は溶解してもよい。
【0030】
3.第三の前処理液
第三の前処理液は、通常、水及びインク凝集剤を少なくとも含有してなる。水としては、第一の前処理液について上記したものを同様に使用することができる。
【0031】
3-1.インク凝集剤
第三の前処理液で使用するインク凝集剤は、インクを凝集させる性質のある物質であれば特に限定されないが、好ましくは、カチオン性高分子、金属塩及び有機酸が挙げられる。この中でも凝集力の強さの観点から、多価金属塩が好ましい。これらの凝集剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
第三の前処理液で凝集剤として使用するカチオン性高分子としては、インク凝集性のある物質であれば特に限定されないが、例えば、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン硫酸塩、ポリアリルアミン塩酸塩、アリルアミンジアリルアミン共重合体、アリルアミンジアリルアミン共重合体硫酸塩、アリルアミンジアリルアミン共重合体塩酸塩、アリルアミンジメチルアリルアミン共重合体、アリルアミンジメチルアリルアミン共重合体硫酸塩、アリルアミンジメチルアリルアミン共重合体塩酸塩、ジアリルアミン、ジアリルアミン硫酸塩、ジアリルアミン塩酸塩、メチルジアリルアミンアミド、メチルジアリルアミンアミド硫酸塩、メチルジアリルアミンアミド塩酸塩、ジアリルアミン二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン二酸化硫黄共重合体硫酸塩、ジアリルアミン二酸化硫黄共重合体塩酸塩、メチルジアリルアミン二酸化硫黄共重合体、メチルジアリルアミン二酸化硫黄共重合体硫酸塩、メチルジアリルアミン二酸化硫黄共重合体塩酸塩、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。
【0033】
第三の前処理液中のカチオン性高分子の含有量の下限は、画質向上の観点から、第三の前処理液全量に対して、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が特に好ましい。一方、第三の前処理液中のカチオン性高分子の含有量の上限は、第三の前処理液全量に対して、30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、12質量%以下がさらにより好ましい。第三の前処理液中のカチオン性高分子の量は、画質向上の観点から、第三の前処理液全量に対して、例えば、1~30質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましく、5~12質量%が特に好ましい。
【0034】
第三の前処理液で凝集剤として使用する金属塩及び有機酸としては、第一の前処理液について上記したものを上記した量で使用することができる。
【0035】
第三の前処理液中の全凝集剤の含有量は、第一の前処理液について上記したと同様である。したがって、第一の前処理液に含まれる凝集剤及び前記第三の前処理液に含まれる凝集剤は同じものであってもよく、例えば、同じ多価金属塩であってもよい。したがって、本発明において、第一の前処理剤と第三の前処理剤は同じであってもよいが、異なってもよい。
【0036】
3-2.その他の成分
第三の前処理液は、その性状に悪影響を与えない限り、上記成分以外に、例えば、水溶性有機溶剤、pH調整剤、界面活性剤、分散剤、定着剤、防腐剤等の他の成分を含有してもよい。水溶性有機溶剤としては、第一の前処理液について上記したものを上記した量で使用することができる。
【0037】
3-3.第三の前処理液の作製方法
第三の前処理液は、第一の前処理液と同様の方法で作製することができる。
【0038】
4.水性インク
本発明で使用する水性インクは、水性溶媒及び色材から主として構成されるが、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0039】
4-1.水性溶媒
水性溶媒は、水のみから構成されてもよく、水に加えて水溶性有機溶剤を含有してもよい。水としては、水道水、イオン交換水、脱イオン水等が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、第一の前処理液について上記したものを上記した量で使用することができる。
【0040】
4-2.色材
色材としては、顔料及び染料の何れも使用することができ、単独で使用しても両者を併用してもよい。印刷物の耐候性及び印刷濃度の点から、色材として顔料を使用することが好ましい。
色材は、水性インク全量に対して0.01~20質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0041】
4-2-1.染料
染料としては、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料、金属フタロシアニン染料等を挙げることができる。これらの染料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0042】
4-2-2.顔料
顔料としては、アゾ系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラックなど)、コバルト、鉄、クロム銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物及び硫化物、ならびに黄土、群青、紺青などの無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類等が挙げられる。また、顔料として、顔料表面を親水性官能基で修飾した自己分散性顔料を水性溶媒に分散させた顔料分散体を使用することもできる。かかる顔料分散体の市販品としては、例えば、キャボット社製CAB-O-JETシリーズ(CAB-O-JET200、300、250C、260M、270C)、オリエント化学工業株式会社製CW-1、CW-2等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0043】
4-3.その他の成分
水性インクには、インクの性状に悪影響を与えない限り、上記水性溶媒、色材以外に、例えば、界面活性剤、定着剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
【0044】
4-4.水性インクの製造方法
水性インクは、公知の方法で製造することができ、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。
【0045】
5.印刷物の製造方法
本発明の上記一局面による印刷物の製造方法は、
(1)第一の前処理液で記録媒体の表面を前処理する第一の工程と、
(2)第一の前処理液で前処理された記録媒体の上記表面を、さらに第二の前処理液で前処理する第二の工程と、
(3)第一及び第二の前処理液で前処理された記録媒体の上記表面を、さらに第三の前処理液で前処理する第三の工程と、
(4)第一、第二及び第三の前処理液で前処理された記録媒体の上記表面に、水性インクをインクジェット方式で吐出して印刷する第四の工程と
を含む。
前述のとおり、第一の前処理液と第三の前処理液とは同じものであってもよい。
【0046】
第一の工程、第二の工程、第三の工程、及び第四の工程はこの順序で行われる。第一の工程及び第二の工程、第二の工程及び第三の工程、又は、第三の工程及び第四の工程は、両工程の間に前処理液の乾燥工程のような他の工程を介在させてもよく、又は、他の工程を介在させずに連続的に行ってもよい。
【0047】
記録媒体の表面の各前処理液による前処理は、塗工(コーティング)、印刷等の方法で記録媒体の表面に前処理液を適用することにより行うことができ、具体的には、刷毛、ローラー、バーコーター、ブレードコーター、ダイコーター、ロールコーター、エアナイフコーター等の塗布装置を使用して行ってもよく、または、インクジェット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷手段によって画像を印刷することで行ってもよい。
【0048】
第四の工程における水性インクを用いたインクジェット印刷は、通常のインクジェットプリンタを用いて行うことができる。
【0049】
したがって、本発明の印刷物の製造方法は、例えば、インクジェットプリンタを使用し、記録媒体の表面上へ第一の前処理液をインクジェット方式で吐出し、これに重ねて第二の前処理液をインクジェット方式で吐出し、さらにこれに重ねて第三の前処理液をインクジェット方式で吐出した後、さらにこれに重ねて水性インクを連続的にインクジェット方式で吐出させることにより行ってもよい。
【0050】
第一の前処理液の塗工量は、記録媒体面積当たり1~100g/mであることが好ましく、5~50g/mがより好ましい。第二の前処理液の塗工量は、記録媒体面積当たり1~100g/mであることが好ましく、5~50g/mがより好ましい。第三の前処理液の塗工量は、記録媒体面積当たり1~100g/mであることが好ましく、5~50g/mがより好ましい。第一及び第二の前処理液の塗工量が上記範囲にあると、間隙の多い記録媒体に付着した第二の前処理液中の水分散性樹脂が凝集して巨大化し、記録媒体表面の繊維の凹凸の緩和及び平坦化がより効果的に行われるので、上記範囲は好ましい実施形態を提供する。第三の前処理液の塗工量が上記範囲にあると、インク中の色材が記録媒体の表面付近で定着し、発色及び摩擦堅牢性の両立した良好な印刷画像がより効果的に得られるので、上記範囲は好ましい実施形態を提供する。
【0051】
6.記録媒体
本発明において、記録媒体は、液体浸透性を備えるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、布や多孔質材が挙げられる。布としては、織布、不織布、ニットなどが挙げられる。布を構成する繊維としては、金属繊維、ガラス繊維、岩石繊維および鉱サイ繊維等の無機繊維、セルロース系およびたんぱく質系等の再生繊維、セルロース系等の半合成繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびポリフッ化エチレン等の合成繊維、綿、麻、絹および毛等の天然繊維等各種の繊維から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。多孔質材としては、例えば、アルミニウムの不織布をプレス加工したもの;アルミニウム粉末を焼結して多孔質にしたもの;ポリエステル繊維等の樹脂繊維を圧縮成形したもの;石膏ボード;グラスウール、セラミック素材、又は木質繊維等の天然繊維を成形したものなどが挙げられる。本発明は、ポリエステル生地のような隙間が多いが吸水性の低い記録媒体に印刷するのに好適である。
【実施例
【0052】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
製造例1(前処理液の作製)
表1に記載の配合比で原材料を混合し、孔径0.8μmのセルロースアセテートフィルターで濾過し、前処理液を得た。
塩化カルシウム及び乳酸は、CAB-O-JET300の他、スーパーフレックス740、スーパーフレックス470及びビニブラン2585のいずれも凝集する。よって、前処理液A及び前処理液Bは本発明の第一の前処理液及び第三の前処理液の何れとしても用いることができる。また、前処理液C、前処理液D及び前処理液Eは本発明の第二の前処理液として用いることができる。
【0054】
【表1】
【0055】
尚、表1記載の原材料の詳細は下記のとおりである。
・塩化カルシウム:富士フィルム和光純薬株式会社製
・乳酸:富士フィルム和光純薬株式会社製
・スーパーフレックス740(商品名):第一工業製薬株式会社製ウレタン水分散性樹脂、(平均粒径0.20μm)
・スーパーフレックス470(商品名):第一工業製薬株式会社製ウレタン水分散性樹脂(平均粒径0.05μm)
・ビニブラン2585(商品名):日信化学工業株式会社製アクリル水分散性樹脂(平均粒径0.23μm)
・サーフィノール485(商品名):日信化学工業株式会社製アセチレングリコール界面活性剤
・グリセリン:関東化学株式会社製
【0056】
製造例2(インクの作製)
表2に記載の配合比で原材料を混合し、孔径0.8μmセルロースアセテートフィルターで濾過し、インクを得た。
【0057】
【表2】
【0058】
尚、表2記載の原材料の詳細は下記のとおりである。
・CAB-O-JET300(商品名):キャボット株式会社製カーボンブラック自己分散顔料分散体
・スーパーフレックス740(商品名):第一工業製薬株式会社製ウレタン水分散性樹脂、(平均粒径0.20μm)
・アローベースTC4010(商品名):ユニチカ株式会社製オレフィン水分散性樹脂
・サーフィノール485(商品名):日信化学工業株式会社製アセチレングリコール界面活性剤
・グリセリン:関東化学株式会社製
【0059】
実施例1~5及び比較例1~5
ポリエステル製ニット(目付270g/m)を80mm×210mmに裁断し、試験片とした。また、表3に示すとおり、第一の前処理液、第二の前処理液及び第三の前処理液を用意した。
試験片に第一の前処理液を40g/mの塗工量で塗工し、この上に第二の前処理液を40g/mの塗工量で乾燥工程を設けずに塗工し、さらにこの上に第三の前処理液を40g/mの塗工量で乾燥工程を設けずに塗工し、この上にマスターマインド社製インクジェットプリンターMMP-813BT-Cを用いてインク塗工量20g/mで乾燥工程を設けずに画像を印字した。画像は単色ベタと、明朝体12ポイントの「領」の漢字とした。画像印字後、フュージョン製ヒートプレスを用いて180℃で60秒間加熱し、印刷物を得た。得られた印刷物について、下記(1)~(3)の評価を行った。結果を表3に示す。
【0060】
(1)ベタムラ
印刷された黒ベタ画像のムラを目視で観察し、以下の基準で判断した。
○:ムラが確認されなかった。
×:ムラが確認された。
【0061】
(2)滲み
印刷された漢字「領」の右側の「頁」の「目」の部分の横線間の隙間の寸法を観察し、以下の基準で判断した。
○:隙間の寸法が0.2mm以上であった。
×:隙間の寸法が0.2mm未満、又は隙間が無かった。
【0062】
(3)OD値
分光測色計X-Rite eXact(商品名:ビデオジェット・エックスライト株式会社製)を用いて測定し、以下の基準で判断した。
○:OD値1.30以上。
△:OD値1.20以上1.30未満。
×:OD値1.2未満。
【0063】
【表3】
【0064】
表3の結果から、本発明に属する実施例1~5はベタムラや滲みが良好であり、OD値も高かった。一方、比較例1及び比較例4は、顔料を凝集する作用のある前処理液Bの後に、顔料を凝集する作用のない前処理液Cを塗工したため、布表面の凝集剤が前処理液Cによって洗い流された状態になり、インクを付着させても顔料が凝集しにくく、画質が低下した。また、比較例2及び比較例5は前処理液Cを1液目として塗工したため、水分散性樹脂が布の奥に浸透しやすく、目止め効果が弱くなることで画質が低下した。比較例3はインクの凝集剤を使用していない為、十分な画質が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、各種の隙間の多い記録媒体にインクジェットプリンタで印刷する分野で広く利用できる。