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特許7245672筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具並びに水性インキ製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具並びに水性インキ製品
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20230316BHJP
   B43K 5/00 20060101ALI20230316BHJP
   B43K 7/01 20060101ALI20230316BHJP
   B43L 25/00 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K5/00
B43K7/01
B43L25/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019036004
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020139073
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 知明
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-168249(JP,A)
【文献】特開2004-231895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/16
B43K 5/00
B43K 7/01
B43L 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、着色剤と、抗菌性物質とを含む筆記具用水性インキ組成物であって、
前記着色剤が自己分散型カーボンブラックであり、
前記抗菌性物質がオルトフェニルフェノールまたはその塩と、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンおよび2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンの少なくとも一方と、を含み、
前記オルトフェニルフェノールまたはその塩と、前記1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンおよび前記2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンの少なくとも一方と、の質量比が1:1~1:0.01であることを特徴とする筆記具用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記オルトフェニルフェノールまたはその塩の添加量が、100~10,000ppmであることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項3】
前記1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンおよび前記2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンの少なくとも一方の添加量が、10~1,000ppmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項4】
前記インキ組成物の、B型回転粘度計を用いて、回転数60rpm、20℃で測定した際の粘度が、1.0~5.0mPa・sであることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項5】
前記筆記具用水性インキ組成物が、筆記先端とインキ貯蔵部を有し、前記筆記先端と前記インキ貯蔵部の間に、インキ貯蔵部から筆記先端にインキを供給できインキ貯蔵部の内圧上昇に伴い溢出したインキを一時的に保持する櫛歯状のインキ保留部を有するインキ流量調節体を配置した筆記具のインキ貯蔵部に内蔵する、筆記具用水性インキ組成物であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物を充填してなる筆記具。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物をインキ保管容器に収容してなる水性インキ製品であって、前記インキ保管容器が前記筆記具用水性インキ組成物を分取する為の開閉口を有し、前記インキ保管容器から分取された前記筆記具用水性インキ組成物が、筆記先端とインキ貯蔵部を有し、前記筆記先端と前記インキ貯蔵部の間に、インキ貯蔵部から筆記先端にインキを供給できインキ貯蔵部の内圧上昇に伴い溢出したインキを一時的に保持する櫛歯状のインキ保留部を有するインキ流量調節体を配置した筆記具のインキ貯蔵部に充填して使用されることを特徴とする水性インキ製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具、並びに水性インキ製品に関する。さらに詳しくは、抗菌性能、顔料の分散安定性に優れた筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具、並びに水性インキ製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、着色剤として顔料を用いた低粘度インキを万年筆やボールペンなどに充填して、筆記媒体へ筆記をすることが行われており、特に、耐水性、耐光性に優れたインキとすることができることから、盛んに検討が行われている。
しかしながら、万年筆に代表される、インキ貯蔵部から筆記先端にインキを供給できる櫛歯状のインキ保留部材をインキ流量調節体として配置した筆記具は、筆記先端がしばらくの間、大気中に晒された状態になることがあり、また、このような筆記具は、インキ瓶などの開閉口を備えるインキ保管容器に収容されたインキを繰り返し充填して使うなど、インキ組成物が外気に触れる機会が多くなることがあった。インキ組成物が外気に触れることで、微生物が混入する機会も多くなる。この結果、微生物が異常繁殖してしまうことがあり、抗菌性物質の種類によっては、抗菌性能が十分に発揮されないという課題を有していた。抗菌性能が十分でないと微生物が繁殖し、インキ組成物の腐敗などが起こり、粘度などインキ組成物の物性に変化が生じたり、インキ組成物中に析出物や凝集物などの異物が発生したり、インキ組成物の変色を起こしたり、また、顔料インキを用いた際には、発生した異物の影響で顔料の分散が壊れるなど、インキ組成物としての機能が損なわれることがあった。そして筆記具に用いた場合、インキ供給機構内に微生物の繁殖などに起因する析出物や凝集物などの異物が生じてしまい、インキ組成物を供給する流路が狭くなることがある。この結果、インキの供給量が少なくなり、筆跡がかすれるなど、筆記性に影響を与える可能性がある。さらに、異物の量の増加や、凝集物などが大きくなると、インキを供給する流路が異物などにより塞がれ、インキを供給することができなくなり、筆記不能となる可能性がある。また、異物の発生量が少ないインキ組成物であっても、インキを繰返し充填して使用すると、使用開始時は筆記性が良好であっても、充填と使用を繰り返すことにより、インキを供給する流路に異物が徐々に堆積し、筆記性への影響が大きくなっていく。さらに充填と使用を繰り返すと、該流路への異物の堆積がさらに進行し、流路が塞がれ、やはり筆記不能となる可能性がある。
そこで、抗菌性物質をインキ組成物に添加し、微生物などの繁殖を抑制することが盛んに行われている(特許文献1、2および3参照)。しかしながら、用いる材料やその組合せによっては、十分にその効果を発揮できるものではなく、改良の余地があった。
また、安全性の観点から、用いる抗菌剤によっては、その使用に関して制限があり、十分な抗菌性能を発揮することが出来ないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-322406号公報
【文献】特開2004-231895号公報
【文献】特開2007-9046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、筆記先端とインキ貯蔵部を有し、前記筆記先端と前記インキ貯蔵部の間に、インキ貯蔵部から筆記先端にインキを供給できインキ貯蔵部の内圧上昇に伴い溢出したインキを一時的に保留する櫛歯状のインキ保留部を有するインキ流量調節体(以下、単に「ペン芯」と表すことがある)を配置した筆記具のインキ貯蔵部に内蔵する、筆記具用水性インキ組成物であって、顔料の分散性が良好で、抗菌性能に優れるなど、インキの保存安定性に優れた筆記具用水性インキ組成物(以下、単に「水性インキ組成物」または「インキ組成物」と表すことがある)およびそれを用いた筆記具、並びに水性インキ製品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物に、自己分散型カーボンブラックとオルトフェニルフェノールまたはその塩などを含有する水性インキ組成物とすることなどにより上記課題が解決された。
すなわち、本発明は、
「1.水と、着色剤と、抗菌性物質とを含む筆記具用水性インキ組成物であって、前記着色剤が自己分散型カーボンブラックであり、前記抗菌性物質がオルトフェニルフェノールまたはその塩と、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンおよび2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンの少なくとも一方と、を含み、前記オルトフェニルフェノールまたはその塩と、前記1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンおよび前記2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンの少なくとも一方と、の質量比が1:1~1:0.01であることを特徴とする筆記具用水性インキ組成物。
2.前記オルトフェニルフェノールまたはその塩の添加量が、100~10,000ppmであることを特徴とする第1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
3.前記1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンおよび前記2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンの少なくとも一方の添加量が、10~1,000ppmであることを特徴とする第1項または第2項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
.前記インキ組成物の、B型回転粘度計を用いて、回転数60rpm、20℃で測定した際の粘度が、1.0~5.0mPa・sであることを特徴とする第1項~第項のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
.前記筆記具用水性インキ組成物が、筆記先端とインキ貯蔵部を有し、前記筆記先端と前記インキ貯蔵部の間に、インキ貯蔵部から筆記先端にインキを供給できインキ貯蔵部の内圧上昇に伴い溢出したインキを一時的に保持する櫛歯状のインキ保留部を有するインキ流量調節体を配置した筆記具のインキ貯蔵部に内蔵する、筆記具用水性インキ組成物であることを特徴とする第1項~第いずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
.第1項~第項のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物を充填してなる筆記具。
.第1項~第項のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物をインキ保管容器に収容してなる水性インキ製品であって、前記インキ保管容器が前記筆記具用水性インキ組成物を分取する為の開閉口を有し、前記インキ保管容器から分取された前記筆記具用水性インキ組成物が、筆記先端とインキ貯蔵部を有し、前記筆記先端と前記インキ貯蔵部の間に、インキ貯蔵部から筆記先端にインキを供給できインキ貯蔵部の内圧上昇に伴い溢出したインキを一時的に保持する櫛歯状のインキ保留部を有するインキ流量調節体を配置した筆記具のインキ貯蔵部に充填して使用されることを特徴とする水性インキ製品。」に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、インキ組成物に自己分散型カーボンブラックとオルトフェニルフェノールまたはその塩を含むことにより、インキ組成物の抗菌性能を保ちながら、顔料の分散性が向上し、さらに消泡性能が向上したインキ組成物となるなど、優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の筆記具用水性インキ組成物は、筆記先端とインキ貯蔵部を有し、前記筆記先端と前記インキ貯蔵部の間に、ペン芯を配置した筆記具に内蔵する筆記具用水性インキ組成物に、水と、自己分散型カーボンブラックと、オルトフェニルフェノールまたはその塩を含むことを一つの特徴とする。
【0008】
本発明に用いる筆記具用水性インキ組成物は、自己分散型カーボンブラックを含んでなる。
自己分散型カーボンブラックとは、分散剤を用いることなく、水性媒体中に分散することが可能となるカーボンブラックをいい、例えば、カーボンブラックに物理的処理または化学的処理を施すことで、カーボンブラックの表面に親水性の官能基などを有するものをいう。自己分散型カーボンブラックは分散剤などの成分を含まないため、強制分散型のカーボンブラック分散体と比較し良好な発色が得られる。また、再分散性に優れるため、筆記具の筆記先端やインキ流量調節体などにインキ組成物が固着してしまった際にも容易に洗浄が可能である。
【0009】
前記物理的処理としては、例えば、真空プラズマ処理などが挙げられ、化学的処理としては、例えば、水中で酸化剤により酸化する湿式酸化法や、p-アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法などが挙げられる。
【0010】
本発明に用いることができる自己分散型カーボンブラックとしては特に限定されず、例えば、市販品では、オリヱント化学工業株式会社製のマイクロジェットシリーズ、キャボット社製のCAB-O-JETシリーズ、東海カーボン株式会社製のAqua-Blackシリーズ、冨士色素株式会社製のFuji-JET Blackシリーズなどが挙げられる。
【0011】
これらの自己分散型カーボンブラックは、アニオン性、カチオン性などの自己分散型カーボンブラックが挙げられるが、オルトフェニルフェノールまたはその塩による相互作用におけるカーボンブラックの分散性を考慮すれば、アニオン性の自己分散型カーボンブラックを用いることが好ましい。また、自己分散型カーボンブラックは、それぞれ、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。但し、2種以上を混合して用いる際には、カーボンブラックの分散性に影響を与えない様に、そのイオン性が同じであることが好ましく、表面の親水基が同じであることがより好ましい。
【0012】
水性インキ組成物における自己分散型カーボンブラックの含有量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、1~20質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましく、さらには、1~5質量%であることが好ましい。自己分散型カーボンブラックの含有量が前記範囲内であると、筆記先端へのインキ追従性能の低下を防止できるとともに、発色が良好な筆跡を得ることができる。
【0013】
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、抗菌性物質として、オルトフェニルフェノールまたはその塩を用いる。オルトフェニルフェノールは、食品添加物としても使用が認められている抗菌性物質であり、従来の抗菌性物質より安全性が高いものである。具体的には、オルトフェニルフェノール、オルトフェニルフェノールナトリウムなどが挙げられる。オルトフェニルフェノールナトリウムは、インキ組成物での溶解性が高く、その添加量を任意に調整できることから好適である。
【0014】
1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンなどの抗菌性物質は、理由は定かではないが、自己分散型カーボンブラックの分散性を低下させる傾向にあり、インキ組成物の顔料が若干凝集する。そして、特に自己分散型カーボンブラックを用いた際に、抗菌効果が低下するが、これは、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンなどの抗菌性物質がカーボンブラックに取り込まれて吸着するため、抗菌性能が低下すると考えられる。
【0015】
しかしながら、オルトフェニルフェノールまたはその塩は、フェノール基がアニオンに帯電することから、アニオン性の自己分散型のカーボンブラックとオルトフェニルフェノールまたはその塩が電気的に反発することで、自己分散型カーボンブラックに吸着されにくくなり、自己分散型カーボンブラックの分散性を損なうことがなく、インキ組成物の抗菌性能を落とすことがない。さらに、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンなどの抗菌性物質を併用した場合においても、自己分散型カーボンブラックの分散性を損なうことがなく、抗菌性能に相乗効果を与えることができるので好ましい。より抗菌性能を考慮すれば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンを併用して用いることが好ましい。
【0016】
本発明に用いるオルトフェニルフェノールまたはその塩は、インキ組成物に添加することで、さらに、消泡性能を向上させることができる。従来の抗菌性物質は、インキ組成物に添加しても消泡性能が得られなかったが、本発明に用いるオルトフェニルフェノールまたはその塩は、抗菌性能と消泡性能を併せ持つ。
【0017】
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、特定構造を有する筆記具に好適に用いることができるが、使用する際に筆記具のインキ貯蔵部に、繰り返しインキを充填して用いる構造の筆記具などが挙げられる。前記インキ貯蔵部としては、一例として所謂コンバーターを用いることができる。コンバーターへインキ組成物を充填する際には、コンバーター内の空気を排出しながらインキ組成物を吸入することとなるが、本発明のインキ組成物においては、オルトフェニルフェノールまたはその塩が消泡剤としてはたらき、無用な気泡を生じることなくインキ吸入が可能となる。
【0018】
さらに、インキ組成物に気泡が生じ難いことから、インキ貯蔵部の内圧が上昇した際にも、溢出したインキ組成物を一時的に保持する櫛歯状のインキ保留部材にインキ組成物がスムーズに流入し、筆記先端からインキがボタ落ちしにくくなり、インキ組成物として、優れたものとなる。
【0019】
本発明の筆記具用水性インキ組成物に用いるオルトフェニルフェノールまたはその塩の添加量としては、100~10,000ppmであることが好ましい。より好ましくは、100~5,000ppmである。この範囲より少ないと、消泡性能が若干劣る傾向が見られ、この範囲より多いと、インキ組成物の安定性と筆記性能に対して影響を及ぼす恐れがある。前記範囲にあると、消泡性能が十分であり、顔料の分散性に対しても効果的に働き、安定性と筆記性能に対しても影響がなく、抗菌性能が十分に得られるため、好ましい。
【0020】
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、インキ組成物の性能を損なわない範囲で、さらに抗菌性物質を用いることができる。抗菌性物質としては、従来筆記具用インキ組成物に用いることができる抗菌性物質であれば特に限定はないが、フェノール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。特に、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンを用いると、無臭のインキ組成物を得ることができるため好ましく、両者を併用するとさらに一方の耐性菌に対する抗菌性能が強化されるのでより好ましい。
オルトフェニルフェノールまたはその塩と1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンおよび/または、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンを併用すると、分散性を損なうことなく、抗菌性能に相乗効果を与え、分散性安定性、抗菌性能、消泡性を維持しつつ、抗菌性物質の総量を少なくすることが可能となるため、特に好ましい。
【0021】
本発明の筆記具用水性インキ組成物は、オルトフェニルフェノールまたはその塩と1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンおよび/または、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンを併用しても良いが、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンおよび/または、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンの添加量としては、10~1,000ppmであることが好ましい。より好ましくは、20~200ppmである。この範囲より少ないと、併用の効果が十分得られず、この範囲より多いと、自己分散型カーボンブラックの分散性が劣る可能性がある。前記範囲にあると、自己分散型カーボンブラックの分散性に対して影響がなく、安全性も問題なく、抗菌性能も十分に得られるため、好ましい。
【0022】
本発明の筆記具用水性インキ組成物は、オルトフェニルフェノールまたはその塩と1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンおよび/または、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンを併用しても良いが、その添加量比としては、オルトフェニルフェノールまたはその塩を基準として、質量比で、1:1~1:0.01であることが好ましく、1:0.2~1:0.02であることがより好ましい。この範囲にあると、消泡性能、自己分散型カーボンブラックの分散性、抗菌性能に対して、良好であるため好ましい。
【0023】
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、自己分散型カーボンブラックとオルトフェニルフェノールまたはその塩を含んでなる。
一般的には、カーボンブラックなどの顔料を分散するには、界面活性剤や樹脂系の分散剤が用いられる。カーボンブラックを分散する際には、カーボンブラックの分散安定性を向上させるために、そのカーボンブラックに適した分散剤を選択するが、その分散剤が、他の添加剤の影響で分散剤としての機能が低下することがある。この場合には、カーボンブラックの分散を安定的に保つことができなくなり、カーボンブラックが凝集して、インキ組成物の分散安定性を保つことができなくなる。自己分散型カーボンブラックは、分散剤を用いることなく分散できることは前述の通りであるが、用いる抗菌性物質によっては、その自己分散の機能を低下させることがある。しかしながら、オルトフェニルフェノールまたはその塩は、自己分散型カーボンブラックの分散性を損なうことなく、その分散安定性を向上させることができる。
【0024】
<顔料>
本発明による水性インキ組成物は、インキ組成物の性能を損なわない範囲で、自己分散型カーボンブラック以外の顔料を用いることができる。用いる顔料としては、通常、筆記具用水性インキ組成物に用いる顔料が挙げられる。
【0025】
本発明において用いることができる顔料としては、水性媒体に分散可能であれば特に制限されるものではない。例えば、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック(自己分散型でない)、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料などが挙げられる。その他、着色樹脂粒子体として顔料を媒体中に分散させてなる着色体を公知のマイクロカプセル化法などにより樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包又は固溶化させたマイクロカプセル顔料を用いても良い。また、顔料は、予め界面活性剤や樹脂を用いて微細に安定的に水媒体中に分散された水分散顔料製品などを用いてもよい。
【0026】
<水>
水としては、特に制限はなく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水または蒸留水などを用いることができる。
【0027】
本発明による水性インキ組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、濡れ剤、水溶性有機溶剤、pH調整剤、保湿剤、防錆剤などの各種添加剤を含むことができる。
【0028】
<その他成分>
本発明の水性インキ組成物は、筆記具に用いる際にインキ流量調節体の濡れ性を向上させるために、各種濡れ剤を用いることができる。濡れ剤としては、特に限定されないがポリエーテルアミンを用いることが好ましい。ポリエーテルアミンは、自己分散型カーボンブラックの分散安定性の向上と、インキ流量調節体に対する濡れ性を適度に保つことができる。
【0029】
また、前記ポリエーテルアミンは、インキ流量調節体に対する濡れ性を適度に保つことができるため、インキ流量調節体の機能を十分に得ることができ、筆記具が横置きの状態や筆記先端が上向きの状態から、筆記するために筆記先端を下向きの状態にした場合でも、筆記先端方向へインキ組成物を円滑に流下させることができ、筆記先端からのインキ吐出性を良好に維持することが可能となり、また、インキ流量調節体に余剰なインキがスムーズに流入することができるため、インキのボタ落ち現象を抑制することができる。さらに、ポリエーテルアミンを用いた筆記具用水性インキ組成物を筆記具に内蔵して筆記した場合、紙面への浸透性が高くなって筆跡が滲んでしまったり、裏抜けしてしまったりすることがなく、良好な筆跡を得ることができる。
【0030】
本発明に用いることができるポリエーテルアミンのHLB値は、10~20であることが好ましい。これは、ポリエーテルアミンのHLB値が10以上であると、水に完全に溶解し、自己分散型カーボンブラックと凝集物を作ることがないので、インキ組成物中での分散安定性に影響を及ぼすことがない為である。
【0031】
また、前記ポリエーテルアミンの平均酸化エチレン付加モル数(EO数)は、10~35であることが好ましく、13~30であることがより好ましい。前記ポリエーテルアミンの平均酸化エチレン付加モル数(EO数)が上記数値の範囲内であれば、水への溶解性が高いため、ポリエーテルアミンの効果を安定して得ることができる。
【0032】
前記ポリエーテルアミンとしては、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレン(20)アルキル(C14-C18)アミン、ポリオキシエチレン牛脂アルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンアルキル(ヤシ)アミンなどが挙げられる。
【0033】
水性インキ組成物における前記ポリエーテルアミンの含有量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、0.1~2.0質量%であることが好ましく、0.5~1.0質量%であることがより好ましい。
【0034】
水溶性有機溶剤としては、(i)エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、またはグリセリンなどのグリコール類、(ii)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコールなどのアルコール類、および(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブタノール、または3-メトキシ-3-メチルブタノールなどのグリコールエーテル類などが挙げられる。水溶性有機溶剤の添加量は、水性インキ組成物に対して、0.1~10質量%であることが好ましく、0.1~7質量%であることがより好ましい。
【0035】
pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物、酢酸ナトリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの塩基性有機化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられ、水性インキ組成物の経時安定性を考慮すれば、塩基性有機化合物を用いることが好ましく、より考慮すれば、弱塩基性であるトリエタノールアミンを用いることが好ましい。これらのpH調整剤は単独又は2種以上混合して使用してもかまわない。
pH調整剤の含有量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、0.1~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。
【0036】
保湿剤としては、前記水溶性有機溶剤の他に尿素、ソルビット、N,N,N-トリアルキルアミノ酸などが挙げられる。特に、N,N,N-トリアルキルアミノ酸は、他の保湿剤に比べ、乾燥時の水分保持力が極めて高いため、好ましい。保湿剤の添加量は、水性インキ組成物に対して、0.1~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。
【0037】
前記N,N,N-トリアルキルアミノ酸は、下記式(1)で表せるものである。
【化1】
【0038】
~Rとしては、直鎖又は分岐鎖のアルキル基を広く用いることができる。すなわち、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが例示される。なおR~Rは同一であっても異なっていてもよい。具体的には、n=1のトリメチルグリシン、トリエチルグリシン、トリプロピルグリシン、トリイソプロピルグリシン、n=2のトリメチル-β-アラニン、n=3のトリメチル-γ-アミノ酪酸などが挙げられる。耐ドライアップ性能の向上や水性インキ組成物の保存安定性の向上などを考慮すると、トリメチルグリシンを選択して用いることが好ましい。
【0039】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。
【0040】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)及びそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩又はアミン塩などが挙げられる。
【0041】
本発明に用いるペン芯をインキ流量調節体として配置した筆記具は、使用者が繰返しインキを補充して使用することができ、補充インキはガラス瓶などのインキ収容器に収容されることがある。ガラス瓶は安価で成形が容易で、さらに所望の強度が得られやすいという反面、特に廉価で汎用性の高いソーダ石灰ガラスなどを用いた場合には、水性インキ組成物を長期間収容していると、水性インキ組成物中にガラス中のアルカリ成分が溶出する可能性が高く、この溶出したアルカリ成分と水性ンキ組成物の成分が反応して、析出物が形成される可能性がある。従って、本発明に用いられる水性インキ組成物においては、ガラス製のインキ収容器から溶出するアルカリ成分を補足し、該アルカリ成分が水性インキ組成物中の成分と反応して水に不溶な析出物などが発生することを防ぎ、発生した析出物などによりインキ流路が塞がれて、筆跡がかすれたり、筆記不能になることを抑制することができる前記キレート剤を含んでなることが好ましい。
アルカリ成分を十分に補足できること、また、水性インキ組成物のキレート剤の配合前後の物性や性能に変化を与えにくいことなどを考慮すると、前記キレート剤の中でも、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を用いることが好ましい。
【0042】
本発明に用いる筆記具用水性インキ組成物の粘度は、B型回転粘度計を用いて、回転数60rpm、20℃で測定したインキ粘度が、1.0~5.0mPa・sであることが好ましい。この範囲より大きいと、前記ペン芯をインキ流量調節体として配置した筆記具に用いた際に、筆記先端へインキが安定して供給されず、筆跡がかすれたり、筆記不能になる恐れがある。より好ましくは、1.0~3.0mPa・sであり、さらに好ましくは、1.0~2.0mPa・sである。インキ粘度が前記範囲内であれば、ペン芯をインキ流量調節体として配置されてなる筆記具に用いた際に、安定して筆記先端へインキが供給され、良好な筆跡が得られるなど、インキ追従性能を向上させることができるためである。
【0043】
本発明におけるインキ粘度は、B型回転粘度計(機種:BLII、ローター:BLアダプタ、東機産業株式会社製)により、JIS Z 8803:2011に従って、測定することができる。
【0044】
本発明による水性インキ組成物の20℃における表面張力は、30~70mN/mであることが好ましく、35~60mN/mであることがより好ましい。水性インキ組成物の表面張力が、上記数値の範囲内であれば、ペン芯をインキ流量調節体として配置した筆記具に用いた際、前記ペン芯に対する濡れ性を適度に保つことができる。従って、インキ貯蔵部の内圧が上昇した際にも、溢出したインキが、ペン芯内に円滑に入ることができ、筆記先端からのインキのボタ落ちを効果的に抑制することが可能となる。さらに、筆記面に対する濡れ性も、適切に保たれることから、得られる筆跡が滲んだり、筆跡の乾燥が進まず、こすれて筆跡が汚れてしまうことを防ぐことができる。なお、表面張力は、表面張力計測器(機種:DY-200、協和界面科学株式会社製、20℃環境下、白金プレート、垂直平板法)により測定して求められる。
【0045】
<インキ組成物の製造方法>
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、ホモミキサー、遊星式攪拌機などの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0046】
<筆記具>
本発明の水性インキ組成物は、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップまたはボールペンチップなどをペン先としたマーキングペンやボールペン、金属製のペン先を用いた万年筆などの筆記具に用いることができる。
【0047】
本発明の筆記具は、水性インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、水性インキ組成物を充填することのできるインキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。
【0048】
本発明の筆記具の出没機構は、特に限定されず、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式、ノック式、回転式およびスライド式などが挙げられる。また、軸筒内にペン先を収容可能な出没式であってもよい。
【0049】
また、筆記具におけるインキ供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、(2) 溝状のインキ流量調節部材を備え、これを介在させ、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、(3)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、および(4)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、水性インキ組成物を直接、ペン先に供給する機構などを挙げることができる。
【0050】
本発明に用いる筆記具は、筆記先端とインキ貯蔵部を有し、前記筆記先端と前記インキ貯蔵部の間に、インキ貯蔵部から筆記先端にインキを供給でき、インキ貯蔵部の内圧上昇に伴い溢出したインキを一時的に保持する櫛歯状のインキ保留部を有するインキ流量調節体を配置した筆記具を用いることが好ましい。前記櫛歯状のインキ保留部を有するインキ流量調節体は、インキ貯蔵部から水性インキ組成物を筆記先端に供給し、かつ、インキ貯蔵部の内圧上昇に伴って溢出した水性インキ組成物を一時的に保持することが可能である。前記筆記具の具体的例としては、万年筆、ボールペン、カリグラフィー用ペンなどが挙げられる。
【0051】
その他の実施形態において、筆記具は、マーキングペンであり、ペン先は、特に限定されず、例えば、繊維チップ、フェルトチップまたはプラスチックチップなどであってよく、さらに、その形状は、砲弾型、チゼル型または筆ペン型などであってよい。
【0052】
その他の実施形態において、筆記具は、ボールペンであり、インキ逆流防止体を備えたボールペンであることが好ましい。
【実施例
【0053】
下記の配合組成および方法により、筆記具用水性インキ組成物を得た。
(実施例1)
自己分散型カーボンブラック1 17.5質量%
(商品名:Fuji Jet Black-20 冨士色素株式会社製、イオン性:アニオン カーボンブラック20%水分散体)
オルトフェニルフェノールナトリウム 0.5質量%(5,000ppm相当量)
ジエチレングリコール(水溶性有機溶剤) 3.0質量%
トリエタノールアミン(pH調整剤) 1.0質量%
イオン交換水 残部
イオン交換水に抗菌性物質、水溶性有機溶剤、pH調整剤を添加し、プロペラ攪拌により混合してベース液を得た。その後、ベース液に自己分散型カーボンブラックを添加し、プロペラ攪拌により混合して、筆記具用水性インキ組成物を得た。得られた水性インキ組成物の粘度を、JIS Z 8803:2011に従って、B型回転粘度計(機種:BLII、ローター:BLアダプタ、東機産業株式会社製、サンプル量20ml)により測定した。具体的には、20℃、回転速度60rpmにおけるインキ粘度は1.65mPa・sであった。また、得られた水性インキ組成物の表面張力を、表面張力計測器(機種:DY-200、協和界面科学株式会社製、20℃環境下、白金プレート、垂直平板法)により測定したところ、49.0mN/mであった。
【0054】
(実施例2~7、比較例1~3)
実施例1に対して、(表1)に示した配合とした以外は、実施例1と同じ方法にて、実施例2~7、比較例1~3の筆記具用水性インキ組成物を得た。
【0055】
(抗菌性能試験)
実施例1~7、比較例1~3の筆記具用水性インキ組成物中に、アスペルギルスsp.(BIT耐性菌)を1mlあたり約1×10個になるように接種した。これを試験インキとし、接種直後の試験インキをポテトデキストロース寒天培地による塗抹平板法にて28℃で7日間培養し、残存した菌数から抗菌性能を評価した。
○:残存した菌数が、1×10cfu/ml未満となっている。
△:残存した菌数が、1×10cfu/ml以上1×10cfu/ml未満となっている。
×:残存した菌数が、1×10cfu/ml以上1×10cfu/ml未満となっている。
××:残存した菌数が、1×10cfu/ml以上となっている。
【0056】
【表1】

自己分散型カーボンブラック1:商品名:Fuji Jet Black-20 冨士色素株式会社製、イオン性:アニオン カーボンブラック20%水分散体
カーボンブラックI:商品名:Fuji SP Black 8980 冨士色素株式会社製、アクリル樹脂分散 カーボンブラック15%水分散体
【0057】
(分散安定性試験)
実施例1~7、比較例1~3の筆記具用水性インキ組成物を、30mlスクリュー管に充填し、4週間室温にて放置し、スクリュー管の上部と底部のインキ組成物を顕微鏡にて観察した。
○:上部、底部とも顔料が、均一に分散しており、分散安定性が良好である。
△:わずかに顔料の凝集がみられ、底部に比べ、上部の顔料が少なくなっている。
×:顔料の凝集物がみられ、底部に比べ、上部の顔料が少なくなっており、均一な分散が得られていない。
【0058】
(消泡性試験)
実施例1~7、比較例1~3の筆記具用水性インキ組成物を、100mlスクリュー管に充填して振とうし、1分後の泡立ちを目視にて観察した。
○:気泡が完全に消失しており、振とう前の状態に戻っている。
△:小さい気泡がみられる。
×:大きな気泡がみられ、ほとんど気泡が消失していない。
【0059】
(筆記性能試験)
実施例1~7、比較例1~3の筆記具用水性インキ組成物をポリエチレン製のインキカートリッジに注入し、株式会社パイロットコーポレーション製万年筆(カスタム74:ペン種M)に装着し、筆記用紙Aに筆記を行った。その際の筆跡を目視により観察した。
○:筆跡にかすれもなく、良好な筆跡が得られる。
△:筆跡にかすれが生じる。
×:析出物がインキ流路を塞ぎ、インキが出てこない為、筆記不能。
【0060】
実施例1~7は、比較例1との比較において、抗菌性能と消泡性能が優れていた。実施例1~7と比較して、比較例2のインキ組成物は、分散安定性と消泡性能が劣っていた。比較例3のインキ組成物は、分散安定性が劣っていた。上記の通り、実施例1~7の筆記具用インキ組成物は、優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の筆記具用水性インキ組成物は、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィーペン、各種マーカー類など、各種筆記具に用いることができ、特に、ペン芯をインキ流量調節体として配置した筆記具用のインキ組成物として好適に用いることができる。