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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】工程フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230316BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20230316BHJP
【FI】
B32B27/00 L
C08J7/04 Z CFD
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019053165
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020152005
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】小原 会美子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴紀
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/073737(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/198720(WO,A1)
【文献】特開2004-115972(JP,A)
【文献】特開2013-056438(JP,A)
【文献】国際公開第2015/053274(WO,A1)
【文献】特開2013-129075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の片側に設けられた剥離剤層とを備えた工程フィルムであって、
前記剥離剤層が、15質量%以上、25質量%以下で充填剤を含有し、
前記剥離剤層の厚さが、1.5μm以上、8.0μm以下であり、
前記剥離剤層における前記基材とは反対側の面における突出谷部高さsvkが、0.2μm以上、1.0μm以下である
ことを特徴とする工程フィルム。
【請求項2】
前記充填剤の平均粒子径は、1.5μm以上、8.0μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の工程フィルム。
【請求項3】
前記充填剤は、不定形無機粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の工程フィルム。
【請求項4】
前記不定形無機粒子は、不定形シリカであることを特徴とする請求項3に記載の工程フィルム。
【請求項5】
前記剥離剤層は、前記充填剤およびシリコーン変性アルキド樹脂を含有する剥離剤組成物から形成されたものであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の工程フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に所定のマット感を有する樹脂フィルムを製造する工程で使用することができる工程フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面に所定のマット感を有する樹脂フィルムを製造する場合、基材と当該基材の片面側に設けられた剥離剤層とを備える工程フィルムが使用されることがある。
【0003】
この場合、当該工程フィルムにおける剥離剤層側の面に、上記樹脂フィルムの材料を塗布し、得られた塗膜を硬化させることで樹脂フィルムが製造される。ここで、上記工程フィルムとして、剥離剤層側の面に所定の凹凸を有するものを使用することで、形成される樹脂フィルムに対して上記凹凸が転写され、それにより、当該樹脂フィルムに所定のマット感が付与される。
【0004】
特許文献1および特許文献2には、上述のような工程フィルムの例が開示されている。これらの工程フィルムでは、剥離剤層に所定の充填剤を含有させることで、表面の凹凸を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4330320号
【文献】特開2018-27642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、マット感を有する樹脂フィルムの用途が広がってきており、それに伴い、求められるマット感のレベルも上がってきている。しかしながら、上述した特許文献1や特許文献2に開示されるような工程フィルムでは、高いマット感を付与するという要求を十分に満たすことができず、より高いマット感を有する樹脂フィルムを製造することが可能な工程フィルムが望まれている。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、高いマット感を有する樹脂フィルムを製造することができる工程フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材の片側に設けられた剥離剤層とを備えた工程フィルムであって、前記剥離剤層が、15質量%以上、25質量%以下で充填剤を含有し、前記剥離剤層の厚さが、1.5μm以上、8.0μm以下であり、前記剥離剤層における前記基材とは反対側の面における突出谷部高さsvkが、0.2μm以上、1.0μm以下であることを特徴とする工程フィルムを提供する(発明1)。
【0009】
上記発明(発明1)に係る工程フィルムによれば、剥離剤層が上述した厚さを有するとともに、上述した含有量で充填剤を含有することで、剥離剤層表面に良好な凹凸が形成され、さらに当該表面の突出谷部高さsvkが上述した範囲であることにより、工程フィルムを用いて製造される樹脂フィルムの表面に高いマット感を付与することができる。
【0010】
上記発明(発明1)において、前記充填剤の平均粒子径は、1.5μm以上、8.0μm以下であることが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明1,2)において、前記充填剤は、不定形無機粒子であることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明3)において、前記不定形無機粒子は、不定形シリカであることが好ましい(発明4)。
【0013】
上記発明(発明1~4)において、前記剥離剤層は、前記充填剤およびシリコーン変性アルキド樹脂を含有する剥離剤組成物から形成されたものであることが好ましい(発明5)。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る工程フィルムによれば、高いマット感を有する樹脂フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る工程フィルムは、基材と、当該基材の片面側に設けられた剥離剤層とを備えて構成される。なお、剥離剤層は、基材の片面に直接積層されていてもよく、または、その他の層を介して基材の片面に積層されていてもよい。
【0016】
本実施形態に係る工程フィルムでは、剥離剤層が、15質量%以上、25質量%以下で充填剤を含有する。剥離剤層中の充填剤の含有量が15質量%以上であることで、剥離剤層における基材と反対側の面(以下、「剥離面」という場合がある。)に良好な凹凸構造を形成することができる。この観点から、上記含有量は、16質量%以上であることが好ましく、特に17質量%以上であることが好ましい。また、上記含有量が25質量%以下であることで、剥離剤層中における充填剤以外の成分の含有量を十分に確保することが可能となる。これにより、充填剤の剥離剤層からの脱落を防ぎ、充填剤を剥離剤層中に保持する性質(以下、「充填剤密着性」という場合がある。)が良好なものとなる。また、充填剤以外の成分として剥離成分を使用する場合には、剥離成分の含有量が十分確保されることとなり、所望の剥離性を達成することができる。これらの観点から、上記含有量は、24.5質量%以下であることが好ましく、特に24質量%以下であることが好ましい。
【0017】
また、本実施形態に係る工程フィルムでは、剥離剤層の厚さが、1.5μm以上、8.0μm以下である。剥離剤層の厚さが8.0μm以下であることで、剥離剤層中に充填剤が埋もれてしまうことを抑制することができ、その結果、剥離面に良好な凹凸構造を形成することができる。この観点から、剥離剤層の厚さは、7.0μm以下であることが好ましく、特に5.0μm以下であることが好ましい。また、剥離剤層の厚さが1.5μm以上であることで、剥離剤層からの充填剤の脱落を抑制することができ、良好な充填剤密着性を確保することができる。この観点から、剥離剤層の厚さは、2.0μm以上であることが好ましく、特に2.5μm以上であることが好ましい。なお、上述した剥離剤層の厚さの測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0018】
さらに、本実施形態に係る工程フィルムでは、剥離剤層における基材とは反対側の面における突出谷部高さsvkが、0.2μm以上、1.0μm以下である。突出谷部高さsvkが0.2μm以上であることで、本実施形態に係る工程フィルムの剥離面における凹凸構造には、十分に深い凹部が形成されるものとなる。そして、このような凹凸構造が転写されることで、樹脂フィルムの表面には十分な高さを有する凸構造が形成される。これにより、樹脂フィルムの表面に対して平行に近い角度から当該表面を見た場合であっても、光沢感を観察し難いものとなり(例えば測定角度85°における光沢度が低い値となり)、優れたマット感が付与されるものとなる。この観点から、突出谷部高さsvkは、0.23μm以上であることが好ましく、特に0.25μm以上であることが好ましい。また、上述した突出谷部高さsvkが1.0μm以下であることで、剥離剤層からの充填剤の脱落を抑制することができ、良好な充填剤密着性を確保することができる。この観点から、突出谷部高さsvkは、0.9μm以下であることが好ましく、特に0.8μm以下であることが好ましい。なお、上述した突出谷部高さsvkの測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0019】
なお、一般的に、表面粗さの指標は、上述した突出谷部高さsvk以外に、算術平均粗さ、最大突起高さ等が存在する。しかしながら、そのような指標では、工程フィルムの剥離面における凹部の状態を十分に特定することはできない。そのため、当該凹部が転写されてなる凸構造を有する樹脂フィルムが、優れたマット感を有するものであるか否かを特定するには、突出谷部高さsvk以外の指標は不十分となる。
【0020】
1.工程フィルムを構成する各部材
(1)基材
本実施形態における基材は、剥離剤層を積層することができれば特に限定されるものではない。かかる基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニルなどのプラスチックからなるフィルムが挙げられ、単層であってもよいし、同種または異種の2層以上の多層であってもよい。これらの中でもポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく、さらには二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0021】
また、基材においては、その表面に設けられる剥離剤層との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は、基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にコロナ放電処理法が効果および操作性の面から好ましく用いられる。
【0022】
基材の厚さは、10μm以上であることが好ましく、特に15μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。また、基材の厚さは、300μm以下であることが好ましく、特に200μm以下であることが好ましく、さらには125μm以下であることが好ましい。
【0023】
(2)剥離剤層
本実施形態における剥離剤層を形成するための材料としては、所望の剥離性を達成することができるとともに、充填剤の含有量、厚さおよび突出谷部高さsvkが前述した通りとなる剥離剤層を形成することができる限り、特に限定されない。それらの条件を満たし易いという観点から、本実施形態における剥離剤層は、剥離成分および充填剤を含有する剥離剤組成物を用いて形成されることが好ましい。
【0024】
(2-1)剥離成分
剥離剤組成物が剥離成分を含有することで、形成される剥離剤層は、所望の剥離性を達成し易いものとなる。また、当該剥離成分は、剥離剤層中に充填剤を保持する作用を果たすこともできる。
【0025】
本実施形態における剥離成分としては、
(1)低極性でそれ自身が剥離性を示すポリマー化合物、
(2)化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料、
(3)ポリマー材料に剥離性の低分子またはオリゴマー成分を添加して剥離性を付与された組成物
等が挙げられる。
【0026】
上述した(1)低極性でそれ自身が剥離性を示すポリマー化合物の好ましい例としては、ポリオルガノシロキサン;フルオロポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;ポリブタジエン、ポリイソプレン等のジエン系ポリマー等が挙げられる。
【0027】
上述した(2)化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料において、化学修飾されるポリマー成分の好ましい例としては、ポリビニルアルコール、部分鹸化ポリ酢酸ビニル、水酸基含有アクリル酸エステル共重合体、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。これらポリマー成分は、化学修飾されていなければ剥離性を示さない場合が多い。
【0028】
また、(2)化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料において、化学修飾する成分の好ましい例としては、官能基を有するポリオルガノシロキサンまたはオルガノシロキサンオリゴマー;官能基を有するフルオロカーボン化合物;官能基を有する長鎖アルキル化合物が挙げられる。このうちの長鎖アルキル化合物としては、ラウリル基、パルミチル基、ステアリル基等の炭素数12以上のアルキル基をもつ化合物が挙げられる。
【0029】
化学修飾する化合物が有する上述した官能基の好ましい例としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基、チオール基、アルコキシシリル基等が挙げられる。
【0030】
なお、化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料は、通常、シリコーン変性樹脂、フルオロ変性樹脂、長鎖アルキル変性樹脂のように呼称される。
【0031】
上述した(3)ポリマー材料に剥離性の低分子またはオリゴマー成分を添加して剥離性を付与された組成物において、用いられるポリマー材料の好ましい例としては、ポリビニルアルコール、部分鹸化ポリ酢酸ビニル、アクリル酸エステル共重合体、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0032】
これらのポリマー材料に添加される剥離性の低分子またはオリゴマー成分の好ましい例としては、ワックス(炭化水素化合物);ポリオルガノシロキサンまたはオルガノシロキサンオリゴマー;フルオロカーボン;長鎖アルキル化合物が挙げられ、さらにこれらのポリエーテル付加物、ポリエステル付加物等が挙げられる。
【0033】
以上の剥離成分の中でも、優れた剥離性や耐熱性を達成し易く、また、充填剤や他の添加剤と間で良好な親和性を達成し易いという観点から、(2)化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料が好ましく、特に、ポリオルガノシロキサンで化学修飾されたアルキド樹脂、すなわちシリコーン変性アルキド樹脂が好ましい。
【0034】
なお、以上説明した剥離成分は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0035】
(2-2)充填剤
剥離剤組成物に配合される充填剤は、前述した突出谷部高さsvkを達成できるとともに、剥離剤層が所定の剥離性を有するものとなる限り、特に限定されない。特に、これらの条件を満たし易いという観点から、充填剤は、不定形のものであることが好ましく、特に不定形無機粒子であることが好ましい。
【0036】
上記不定形無機粒子の好ましい例としては、不定形のシリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、クレー等が挙げられる。中でも、耐熱性の観点からは、不定形シリカ、不定形アルミナが好ましく、経済的な観点から、不定形シリカを採用することがより好ましい。
【0037】
充填剤として不定形無機粒子を使用する場合、シリカ、アルミナ等の原材料の塊状体を破砕、粉砕した状態のものや沈降法やゲル法などの湿式法による一次粒子の二次凝集により形成されたものを用いるのが好ましい。それによって得らえる不定形無機粒子の比表面積は、10m/g以上であることが好ましく、特に20m/g以上であることが好ましく、さらには50m/g以上であることが好ましい。また、上記比表面積は、1000m/g以下であることが好ましく、特に500m/g以下であることが好ましい。
【0038】
また、充填剤は、分散性の向上や剥離成分との反応性の付与を目的として、表面を有機基や官能基などで修飾したものであってもよい。
【0039】
本実施形態における充填剤の平均粒子径は、1.0μm以上であることが好ましく、特に1.3μm以上であることが好ましく、さらには1.5μm以上であることが好ましい。また、上記平均粒子径は、8.0μm以下であることが好ましく、特に6.0μm以下であることが好ましく、さらには4.0μm以下であることが好ましい。充填剤の平均粒子径が上述した範囲であることで、剥離面に良好な凹凸構造を形成し易いものとなり、それより、形成される樹脂フィルムに対して良好なマット感を付与し易いものとなる。なお、本実施形態における充填剤の平均粒子径は、充填剤が配合された剥離剤組成物を計測対象として、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0040】
本実施形態における充填剤が不定形のものである場合、当該充填剤は、所定の粒径分布を有することが好ましい。特に、当該粒径分布は、より広い方が好ましく、すなわち、累積分布による粒子径D10および粒子径D90の差がより大きいことが好ましい。具体的には、D10が平均粒子径の0.8倍以下であり、かつ、D90が平均粒子径の1.2倍以上であることが好ましい。粒径分布がこの幅を持つ場合、剥離剤層の剥離面の凹凸構造が、比較的粗い部分と比較的滑らかな部分とがランダムに形成されたものとなり易くなる。それにより、得られる樹脂フィルムに対して所望のマット感を付与し易いものとなる。なお、また、充填剤の粒径分布に所望の幅を持たせ易いという観点からも、充填剤は、不定形のものであることが好ましい。
【0041】
なお、剥離剤組成物中における充填剤の含有量は、形成される剥離剤層中における充填剤の含有量とほぼ一致する。そのため、剥離剤組成物中における充填剤の好ましい含有量は、剥離剤層中における充填剤の前述した含有量と同一である。
【0042】
(2-3)その他の成分
本実施形態における剥離剤組成物は、上述した剥離成分および充填剤以外にその他の成分を含有していてもよい。例えば、本実施形態における剥離剤組成物は、硬化剤、架橋剤、反応開始剤、触媒等を含有してもよい。
【0043】
上述した硬化剤、架橋剤および反応開始剤としては、剥離成分が有する官能基と化学結合が可能な官能基を有する化合物を選択することが好ましい。このような化合物は、剥離成分と反応して三次元網目構造を形成することでき、それにより、剥離剤層が所望の被膜強度や耐熱性を有し易いものとなる。
【0044】
上述した硬化剤、架橋剤および反応開始剤の具体例としては、多価ヒドロシリル基含有オルガノシロキサン化合物、メラミン化合物、多価イソシアネート化合物、多価エポキシ化合物、多価アルデヒド化合物、多価アミン化合物、多価オキサゾリン化合物、金属錯体等が挙げられる。
【0045】
剥離剤組成物が、硬化剤、架橋剤および反応開始剤の少なくとも1種を含有する場合、その含有量は、剥離成分100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、特に10質量部以上であることが好ましい。また、上記含有量は、剥離成分100質量部に対して、400質量部以下であることが好ましく、特に200質量部以下であることが好ましい。
【0046】
一方、上述した触媒としては、剥離剤組成物の硬化反応(架橋反応)を低温または短時間で進むよう反応促進させる化合物を使用することが好ましい。このような触媒の例としては、当該触媒が多価ヒドロシリル基含有オルガノシロキサン化合物による付加反応に使用される場合には、白金触媒が用いられる。また、触媒がメラミン化合物による脱水、脱アルコールを伴う反応に用いられる場合には、当該触媒は、p-トルエンスルホン酸などの酸触媒であることが好ましい。
【0047】
剥離剤組成物が、触媒を含有する場合、その含有量は、剥離成分100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.5質量部以上であることが好ましい。また、上記含有量は、剥離成分100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、特に5質量部以下であることが好ましい。
【0048】
(2-4)剥離剤組成物の調製方法
剥離剤組成物は、剥離成分と、充填剤と、所望によりその他成分とを混合することで調製することができる。このような剥離剤組成物は、希釈溶媒により希釈し、剥離剤組成物の塗布液としてもよい。この場合、当該塗布液は、剥離成分を希釈溶媒で希釈した後、充填剤を添加し、十分に混合して分散させ、さらに所望によりその他の成分を添加・混合することで得ることが好ましい。
【0049】
上記希釈溶媒としては、剥離剤層に対する溶解性および揮発性が良好であって、剥離剤組成物の各成分に対して化学的に不活性な公知の溶剤の中から適宜選択して用いることができる。このような希釈溶媒の例としては、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、n-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
上述した剥離剤組成物の塗布液における固形分濃度は、塗工適性および乾燥性の観点から適宜設定することができ、例えば、5質量%以上であることが好ましく、特に10質量%以上であることが好ましく、さらには20質量%以上であることが好ましい。また、上記固形分濃度は、60質量%以下であることが好ましく、特に50質量%以下であることが好ましく、さらには40質量%以下であることが好ましい。
【0051】
2.工程フィルムの物性
本実施形態に係る工程フィルムでは、その剥離面についての測定角度85°における光沢度は、工程フィルムにより製造される樹脂フィルムの表面マット感を良好にするために、例えば、25%以下であることが好ましく、特に20%以下であることが好ましく、さらには15%以下であることが好ましい。ただし、工程フィルムの表面の光沢度は、転写される樹脂フィルムの面に同等の光沢度として現れにくい。特に、測定角度が大きいほどその差は顕著になる。なお、剥離剤層における充填剤の含有量、厚さおよび突出谷部高さsvkが前述した通りであることにより、工程フィルムにより製造される樹脂フィルムの転写面のマット感を向上させることができる。上記光沢度の下限値については特に限定されず、例えば、0.01%以上であってよく、特に0.1%以上であってよく、さらには1%以上であってよい。上記光沢度の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0052】
3.工程フィルムの製造方法
本実施形態における工程フィルムの製造方法は、前述した充填剤の含有量、厚さおよび突出谷部高さsvkを満たす剥離剤層を形成することができる限り、特に制限されない。例えば、基材の一方の面に、前述した剥離剤組成物および所望により有機溶剤を含有する塗布液を塗工した後、得られた塗膜を硬化させて剥離剤層を形成し、これにより工程フィルムを得ることができる。
【0053】
上述した塗工の具体的な方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ロールナイフコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0054】
基材に形成された塗膜の硬化は、剥離剤組成物の成分に応じた手法により行うことでき、特に、乾燥および加熱することにより硬化させることが好ましい。このときの加熱温度は、80℃以上とすることが好ましく、特に100℃以上とすることが好ましい。また、加熱温度は、250℃以下とすることが好ましく、特に230℃以下とすることが好ましい。さらに、加熱時間は、15秒以上とすることが好ましく、特に20秒以上とすることが好ましい。また、加熱時間は、5分以下とすることが好ましく、特に3分以下とすることが好ましい。
【0055】
また、剥離剤組成物が、活性エネルギー線硬化性を有する成分を含有する場合には、上述した加熱の代わりに、あるいは、上述した加熱とともに、塗膜に対して活性エネルギー線を照射することで、当該塗膜を硬化させてもよい。このような活性エネルギー線としては、紫外線、電子線等が挙げられる。
【0056】
4.工程フィルムの使用方法
本実施形態における工程フィルムは、樹脂フィルムを製造するために使用することが好適である。特に、本実施形態における工程フィルムは、表面に所定のマット感を有する樹脂フィルムを製造するために使用することが好適である。このような、表面に所定のマット感を有する樹脂フィルムの例としては、電子部品に対して使用されるフィルム、合成皮革フィルム、プリプレグ等が挙げられる。電子部品に対して使用されるフィルムの例としては、電子部品の保護フィルム等が挙げられる。
【0057】
本実施形態における工程フィルムを用いた樹脂フィルムの製造方法の一例としては、樹脂フィルムの材料となる樹脂を、工程フィルムにおける剥離面に塗布した後、得られた塗膜を硬化させることで樹脂フィルムを形成する。続いて、当該樹脂フィルムから工程フィルムを剥離することで、工程フィルムと接触していた面に所望のマット感が付与された樹脂フィルムを得ることができる。本実施形態に係る工程フィルムは、剥離面に所定の凹凸構造を有しており、得られる樹脂フィルムには当該凹凸構造が転写され、その結果、良好なマット感を達成できるものとなる。
【0058】
樹脂フィルムの製造方法の別の例として、工程フィルムの剥離面上に樹脂フィルムの材料を塗布し、塗膜を形成し、当該塗膜から工程フィルムを剥離・除去した後に、当該塗膜の硬化を行ってもよい。この場合、工程フィルムから剥離した塗膜を、単独で硬化させてもよく、あるいは、別のフィルムや部材上に積層した後に硬化させてもよい。本実施形態に係る工程フィルムによれば、樹脂フィルムの材料を適宜選択することで、(硬化前の)塗膜に対しても凹凸構造を良好に転写させることができ、その結果、優れたマット感を有する樹脂フィルムを製造することができる。
【0059】
上述した樹脂フィルムの材料としては、特に限定はなく、一般的に使用される材料を使用することができる。具体的には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を使用することができる。また、上述した樹脂フィルムの材料は、熱硬化性であってもよく、あるいは活性エネルギー線硬化性であってもよい。工程フィルムの剥離面に対する樹脂フィルムの材料の塗布方法としては、特に限定はなく、一般的に使用される手法を使用することができる。
【0060】
本実施形態における工程フィルムを用いて製造された樹脂フィルムでは、工程フィルムの剥離面から転写された面の測定角度85°における光沢度が、35%以下であることが好ましく、特に20%以下であることが好ましく、さらには15%以下であることが好ましい。上記光沢度が35%以下であれば、樹脂フィルムに対し、観測者と光源とがどのような位置関係に変わっても、観測者は樹脂フィルムのマット感を良好に感じることができるようになる。上記光沢度の下限値については特に限定されず、例えば、0.1%以上であってよく、特に1%以上であってよい。なお、測定面の光沢度の測定角度が60°の場合では、その測定値がどんなに小さい値であったとしても、測定角度85°の値が大きければ、観測者が樹脂フィルムに対して位置を変えてしまえば反射光を感じてしまい、樹脂フィルムの意匠性は劣ることになる。すなわち、樹脂フィルムのマット感を評価する上では、測定角度60°の値だけではなく、測定角度85°の値を検討することが好ましい。上記光沢度の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0061】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0062】
例えば、基材における剥離剤層の反対側の面、または基材と剥離剤層との間には、帯電防止層等の他の層が設けられてもよい。
【実施例
【0063】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0064】
〔実施例1〕
剥離成分としてのシリコーン変性アルキド樹脂(日立化成ポリマー社製,製品名「TA31-209E」)100質量部を、希釈溶媒としてのトルエン480質量部とメチルエチルケトン320質量部との混合溶媒中に混合した後、充填剤としての不定形シリカ粒子(東ソー・シリカ社製,製品名「ニップシールSS-50B」,平均粒子径:2.0μm)32.1質量部を添加し、ディスパーを用いて2,000rpmで20分間分散した。さらに、硬化触媒としてのp-トルエンスルホン酸メタノール2.8質量部を添加し、ディスパーを用いて1,500rpmで5分間撹拌した。これによって、剥離剤組成物の塗布液を得た。なお、上記塗布液中における固形成分(剥離成分、充填剤および硬化触媒)に対する充填剤の含有量を計算すると23.8質量%となる。
【0065】
得られた塗布液を、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製,製品名「ダイアホイルT-100」)の片面に塗布し、得られた塗膜を150℃で1分間乾燥および硬化させた。これにより、基材の片面に厚さ2.0μmの剥離剤層が積層されてなる工程フィルムを得た。
【0066】
なお、充填剤の平均粒子径は、剥離剤組成物の塗布液中において、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(Malvern Panalytical社製,製品名「マスターサイザー3000」)を用いて、粒子成分の平均粒子径として測定したものである。
【0067】
また、剥離剤層の厚さは、走査型電子顕微鏡(キーエンス社製,製品名「VE-9800S」)を用いて、剥離剤層の基材とは反対側の面において、突起部分を除いた平坦部分を特定し、剥離剤層の基材側の面から上記平坦部分までの厚さとして測定したものである。
【0068】
〔実施例2~4〕
剥離剤層の厚さおよび充填剤の含有量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを得た。
【0069】
〔実施例5〕
充填剤として不定形シリカ粒子(東ソー・シリカ社製,製品名「ニップシールSS-50A」,平均粒子径:3.0μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを得た。
【0070】
〔実施例6〕
充填剤として不定形シリカ粒子(東ソー・シリカ社製,製品名「ニップシールSS-50F」,平均粒子径:1.3μm)を用いるとともに、剥離剤層の厚さを表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを得た。
【0071】
〔実施例7〕
剥離剤層の厚さを表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを得た。
【0072】
〔比較例1~2〕
剥離剤層の厚さおよび充填剤の含有量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを得た。
【0073】
〔比較例3〕
充填剤として球形シリコーン粒子(モメンティブパフォーマンスマテリアルズジャパン社製,製品名「トスパール120」,平均粒子径:2.0μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを得た。
【0074】
〔比較例4〕
充填剤として不定形シリカ粒子(東ソー・シリカ社製,製品名「ニップシールSS-50F」,平均粒子径:1.3μm)を用いるとともに、剥離剤層の厚さおよび充填剤の含有量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを得た。
【0075】
〔比較例5〕
充填剤として球形シリコーン粒子(モメンティブパフォーマンスマテリアルズジャパン社製,製品名「トスパール120」,平均粒子径:2.0μm)を用いるとともに、充填剤の含有量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを得た。
【0076】
〔比較例6〕
充填剤として球形シリコーン粒子(モメンティブパフォーマンスマテリアルズジャパン社製,製品名「トスパール140」,平均粒子径:4.5μm)を用いるとともに、充填剤の含有量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを得た。
【0077】
〔比較例7〕
充填剤として不定形シリカ粒子(モメンティブパフォーマンスマテリアルズジャパン社製,製品名「トスパール240*」,平均粒子径:4.0μm)を用いるとともに、充填剤の含有量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを得た。
【0078】
〔比較例8〕
充填剤として不定形シリカ粒子(モメンティブパフォーマンスマテリアルズジャパン社製,製品名「トスパール240*」,平均粒子径:4.0μm)を用いるとともに、剥離剤層の厚さおよび充填剤の含有量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを得た。
【0079】
〔比較例9~10〕
充填剤として不定形シリカ粒子(モメンティブパフォーマンスマテリアルズジャパン社製,製品名「トスパール240*」,平均粒子径:4.0μm)を用いるとともに、充填剤の含有量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを得た。
【0080】
〔試験例1〕(突出谷部高さsvkの測定)
実施例および比較例にて製造した工程フィルムの剥離面について、走査型白色干渉顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製,製品名「VS1550」)を用いて、突出谷部高さsvk(μm)を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
〔試験例2〕(工程フィルムの光沢度の測定)
実施例および比較例にて製造した工程フィルムの剥離面について、光沢度計(日本電色工業社製,製品名「VG7000」)を用いて、測定角度60°および85°の光沢度を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
〔試験例3〕(充填剤密着性の評価)
実施例および比較例にて製造した工程フィルムの剥離面に対し、学振試験機(大栄科学精器製作所製,製品名「RT-200」)を用いて、加重1kg、30往復の条件で、無延伸ポリプロピレンフィルムを摩擦させた。
【0083】
続いて、摩擦後の工程フィルムの剥離面を目視にて確認し、以下の基準に基づいて充填剤密着性を評価した。
○:充填剤の脱落が確認できなかった。
×:充填剤の脱落が確認できた。
【0084】
〔試験例4〕(製造された樹脂フィルムの光沢度の測定およびマット感の評価)
実施例および比較例にて製造した工程フィルムの剥離面に、熱硬化性アクリル樹脂(東亜合成社製,製品名「UC-3000」)を塗工し、塗膜と工程フィルムとの積層体を得た。続いて、当該積層体を160℃で30秒加熱することにより、塗膜を硬化させた。これにより、工程フィルム上に厚さ約3μmのアクリル樹脂フィルムを製造した。
【0085】
得られたアクリル樹脂フィルムから工程フィルムを剥離し、アクリル樹脂フィルムにおける工程フィルムが積層されていた面について、光沢度計(日本電色工業社製,製品名「VG7000」)を用いて、測定角度60°および85°の光沢度を測定した。結果を表1に示す。
【0086】
さらに、測定角度60°および85°のそれぞれの光沢度の測定結果について、以下の基準に基づいてマット感を評価した。その結果を表1に示す。
測定角度60°
○:測定値が5%未満
×:測定値が5%以上
測定角度85°
○:測定値が30%未満
×:測定値が30%以上
【0087】
【表1】
【0088】
表1から明らかなように、実施例で得られた工程フィルムを用いることで、表面の光沢度が非常に低い樹脂フィルムを製造することができた。特に、当該樹脂フィルムは、85°の測定角度で光沢度を測定した場合であっても、非常に低い光沢度となった。すなわち、実施例で得られた工程フィルムによれば、優れたマット感を有する樹脂フィルムを製造できることが示された。これに対し、工程フィルムの剥離面の測定角度85°の光沢度が小さいものであっても突出谷部高さsvkの値も小さい比較例は、樹脂フィルムの転写面の85°の測定角度の光沢度は十分に小さくならず、マット感は不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の工程フィルムは、表面に所定のマット感を有する樹脂フィルムを製造するのに好適である。