(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】リナグリプチン含有医薬組成物及びその製造方法、並びにリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/522 20060101AFI20230316BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230316BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230316BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230316BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230316BHJP
A61P 3/10 20060101ALN20230316BHJP
【FI】
A61K31/522
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/32
A61K9/20
A61P3/10
(21)【出願番号】P 2019058889
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】506075827
【氏名又は名称】エルメッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕美
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-530566(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03156048(EP,A1)
【文献】特開2018-076372(JP,A)
【文献】Debnath, M. et al.,Formulation, development and in-vitro release kinetics of linagliptin tablet using different super disintegrating agents,CIBTech Journal of Pharmaceutical Sciences,2015年,4巻、3号,12-25,http://www.cibtech.org/J-Pharmaceutical-Sciences/PUBLICATIONS/2015/VOL-4-NO-3/02-CJPS-003-MANIDIPA-FORMULATION.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リナグリプチンと、
カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種と
、
ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びポリビニルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種とを含むことを特徴とするリナグリプチン含有医薬組成物。
【請求項2】
前記カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種が、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載のリナグリプチン含有医薬組成物。
【請求項3】
リナグリプチンと、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種と
、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びポリビニルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種とを混合する工程を含むことを特徴とするリナグリプチン含有医薬組成物の製造方法。
【請求項4】
前記カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種が、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項3に記載のリナグリプチン含有医薬組成物の製造方法。
【請求項5】
リナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法であって、
リナグリプチンと、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種と
、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びポリビニルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種とを混合する工程を含み、
前記品質の向上が、リナグリプチン含有医薬組成物の崩壊遅延の抑制を含むことを特徴とするリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法。
【請求項6】
前記カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種が、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項5に記載のリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法。
【請求項7】
前記品質の向上が、更に、リナグリプチン含有医薬組成物の溶出遅延の抑制を含む請求項5から6のいずれかに記載のリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法。
【請求項8】
前記品質の向上が、更に、リナグリプチン含有医薬組成物の外観変化の抑制を含む請求項5から7のいずれかに記載のリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リナグリプチン含有医薬組成物及びその製造方法、並びにリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リナグリプチンは、下記構造式で表される化合物である(化学名:8-[(3R)-3-aminopiperidin-1-yl]-7-(but-2-yn-1-yl)-3-methyl-1-[(4-methylquinazolin-2-yl)methyl]-3,7-dihydro-1H-purine-2,6-dione)。リナグリプチンは、現在、2型糖尿病治療剤などに用いられている。
【化1】
【0003】
これまでに、活性成分としてアミノ基を有するDPP IVインヒビターであるリナグリプチン、第一の希釈剤、第二の希釈剤、結合剤、錠剤分解物質及び滑剤を含む医薬組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、市販品としては、トラゼンタ(登録商標)錠5mgなどが販売されている。
【0005】
一方、リナグリプチン含有医薬組成物は、保存環境などの影響により、崩壊が遅延したり、溶出が遅延したりするなど、その品質が低下することがある。
したがって、簡易な手段により、リナグリプチン含有医薬組成物の品質の低下を抑制し、その品質を向上することができる技術の速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、保存環境の影響などによるリナグリプチン含有医薬組成物の品質の低下を簡易に抑制することができる、リナグリプチン含有医薬組成物及びその製造方法、並びにリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> リナグリプチンと、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種とを含むことを特徴とするリナグリプチン含有医薬組成物である。
<2> 前記カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種が、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である前記<1>に記載のリナグリプチン含有医薬組成物である。
<3> リナグリプチンと、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種とを混合する工程を含むことを特徴とするリナグリプチン含有医薬組成物の製造方法である。
<4> 前記カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種が、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である前記<3>に記載のリナグリプチン含有医薬組成物の製造方法である。
<5> リナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法であって、
リナグリプチンと、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種とを混合する工程を含み、
前記品質の向上が、リナグリプチン含有医薬組成物の崩壊遅延の抑制を含むことを特徴とするリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法である。
<6> 前記カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種が、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である前記<5>に記載のリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法である。
<7> 前記品質の向上が、更に、リナグリプチン含有医薬組成物の溶出遅延の抑制を含む前記<5>から<6>のいずれかに記載のリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法である。
<8> 前記品質の向上が、更に、リナグリプチン含有医薬組成物の外観変化の抑制を含む前記<5>から<7>のいずれかに記載のリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、保存環境の影響などによるリナグリプチン含有医薬組成物の品質の低下を簡易に抑制することができる、リナグリプチン含有医薬組成物及びその製造方法、並びにリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(リナグリプチン含有医薬組成物)
本発明のリナグリプチン含有医薬組成物は、リナグリプチンと、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種とを含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0011】
<リナグリプチン>
前記リナグリプチンは、下記構造式で表される化合物である(化学名:8-[(3R)-3-aminopiperidin-1-yl]-7-(but-2-yn-1-yl)-3-methyl-1-[(4-methylquinazolin-2-yl)methyl]-3,7-dihydro-1H-purine-2,6-dione)。
前記リナグリプチンは、公知の方法により製造したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【化2】
【0012】
前記リナグリプチンの前記リナグリプチン含有医薬組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.5質量%~10質量%とすることができる。
【0013】
<カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種>
前記カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種は、いずれか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の中でも、保存環境の影響などによるリナグリプチン含有医薬組成物の崩壊遅延をより抑制することができ、更にはリナグリプチン含有医薬組成物の外観変化をも抑制することができる点で、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
前記カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種は、公知の方法により製造したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0014】
前記カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の前記リナグリプチン含有医薬組成物における合計含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5質量%~20質量%が好ましく、1質量%~15質量%がより好ましく、3質量%~10質量%が特に好ましい。前記好ましい範囲内であると、保存環境の影響などによるリナグリプチン含有医薬組成物の崩壊遅延や溶出遅延等の品質の低下をより抑制することができる点で、有利である。
【0015】
<その他の成分>
前記リナグリプチン含有医薬組成物におけるその他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、製剤分野において通常使用される添加剤を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結合剤、賦形剤、流動化剤、滑沢剤、矯味剤、香料などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記リナグリプチン含有医薬組成物におけるその他の成分は、公知の方法により製造したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
前記リナグリプチン含有医薬組成物におけるその他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0016】
-結合剤-
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コポリビドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール-アクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、コポリビドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコールが好ましく、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコールがより好ましい。
【0017】
前記ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られる重合物である。
前記ポリビニルアルコールの平均重合度、及びけん化度としては、原料となる酢酸ビニルを適宜調整することにより、前記平均重合度、及び前記けん化度を適宜調整することができる。
【0018】
前記ポリビニルアルコールの平均重合度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、200~3,500が好ましく、300~2,200がより好ましい。なお、前記平均重合度としては、JIS K 6726に従って測定することができる。
【0019】
前記ポリビニルアルコールのけん化度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、65mоl%以上が好ましく、78mоl%以上がより好ましい。これらの中でも、前記けん化度が、78mоl%~96mоl%(部分けん化物)、97mоl%以上(完全けん化物)がさらに好ましく、78mоl%~96mоl%(部分けん化物)が特に好ましい。なお、前記けん化度としては、JIS K 6726に従って測定することができる。
【0020】
前記結合剤の前記リナグリプチン含有医薬組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5質量%~15質量%が好ましく、1質量%~10質量%がより好ましく、2質量%~7質量%が特に好ましい。前記好ましい範囲内であると、保存環境の影響などによるリナグリプチン含有医薬組成物の崩壊遅延や溶出遅延等の品質の低下をより抑制することができる点で、有利である。
【0021】
-賦形剤-
前記賦形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マンニトール(以下、「D-マンニトール」と称することがある)、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、乳糖(無水物であってもよいし、水和物であってもよい)、白糖、タルク、精製ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、ケイ酸カルシウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記賦形剤の前記リナグリプチン含有医薬組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
-流動化剤-
前記流動化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、軟質無水ケイ酸、タルク、含水二酸化ケイ素、水酸化アルミナマグネシウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
-滑沢剤-
前記滑沢剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
-矯味剤-
前記矯味剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ソーマチンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
-香料-
前記香料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、l-メントール、バニリン、オレンジ油などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記リナグリプチン含有医薬組成物の剤形としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、素錠、チュアブル錠、フィルムコート錠、口腔内崩壊錠等の錠剤や散剤、顆粒剤などが挙げられる。なお、前記錠剤は、湿製錠剤であってもよい。
【0027】
前記リナグリプチン含有医薬組成物の形状、構造、大きさ、重さ、硬さなどとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
本発明のリナグリプチン含有医薬組成物によれば、前記カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いるという簡易な手段により、高温高湿環境という苛酷条件下で保存した場合であっても、崩壊の遅延を抑制することができ、更には、溶出の遅延や外観変化、特に変色を抑制することもできる。
【0029】
前記リナグリプチン含有医薬組成物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後述する本発明のリナグリプチン含有医薬組成物の製造方法により製造することが好ましい。
【0030】
(リナグリプチン含有医薬組成物の製造方法)
本発明のリナグリプチン含有医薬組成物の製造方法は、混合工程を少なくとも含み、必要に応じて、打錠工程などの更にその他の工程を含む。
【0031】
<混合工程>
前記混合工程は、リナグリプチンと、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種とを混合し、リナグリプチン含有混合物を得る工程である。
前記リナグリプチン含有混合物は、前記リナグリプチン、並びにカルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種以外のその他の成分を含んでもよい。
【0032】
-リナグリプチン-
前記リナグリプチンは、上述した本発明のリナグリプチン含有医薬組成物の<リナグリプチン>の項目に記載したものと同様である。
【0033】
-カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種-
前記カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種は、上述した本発明のリナグリプチン含有医薬組成物の<カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種>の項目に記載したものと同様である。
【0034】
-その他の成分-
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上述した本発明のリナグリプチン含有医薬組成物の<その他の成分>の項目に記載したものなどが挙げられる。
【0035】
-混合-
前記混合の方法及び条件としては、特に制限はなく、製剤分野で通常用いられる公知の方法を適宜選択することができる。
【0036】
前記リナグリプチン含有混合物は、造粒物(顆粒)であってもよい。
前記顆粒の調製方法(造粒方法)としては、特に制限はなく、製剤分野で通常用いられる公知の方法を適宜選択することができ、例えば、ローラー圧縮法などによる乾式顆粒調製法、押出造粒法、流動層造粒法、撹拌造粒法などによる湿式顆粒調製法などが挙げられる。
【0037】
また、前記リナグリプチン含有医薬組成物が湿製錠剤の場合には、前記リナグリプチン含有混合物に、練合溶媒を加え練合し、湿潤粉体とすることができる。前記湿潤粉体は、更に湿式造粒して造粒物としてもよい。
【0038】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、打錠工程、前記リナグリプチン含有混合物を乾燥する乾燥工程、前記リナグリプチン含有混合物を整粒する整粒工程などが挙げられる。
前記その他の工程の方法としては、特に制限はなく、製剤分野で通常用いられる公知の方法を適宜選択することができる。
【0039】
-打錠工程-
前記打錠工程は、前記混合工程で得られた混合物と、必要に応じて前記その他の成分から選択された成分との混合物(以下、「打錠用粉末」と称することがある)を打錠し、素錠を得る工程である。
前記打錠の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、卓上型精密万能試験機(オートグラフ)を用いる方法、ロータリー式打錠機を用いる方法などが挙げられる。
前記打錠の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
本発明のリナグリプチン含有医薬組成物の製造方法によれば、本発明のリナグリプチン含有医薬組成物を効率良く製造することができる。
【0041】
(リナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法)
本発明のリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法は、混合工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0042】
<混合工程>
前記混合工程は、リナグリプチンと、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種とを混合する工程であり、上述した本発明のリナグリプチン含有医薬組成物の製造方法の<混合工程>の項目に記載したものと同様である。
【0043】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上述した本発明のリナグリプチン含有医薬組成物の製造方法の<その他の工程>の項目に記載したものなどが挙げられる。
【0044】
本発明のリナグリプチン含有医薬組成物の品質の向上方法によれば、少なくとも保存環境の影響などによるリナグリプチン含有医薬組成物の崩壊遅延を抑制することができる。さらには、リナグリプチン含有医薬組成物の溶出遅延の抑制及び/又はリナグリプチン含有医薬組成物の外観変化、特に変色の抑制をすることもできる。
したがって、本発明は、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むリナグリプチン含有医薬組成物の品質向上剤にも関する。
【実施例】
【0045】
以下、試験例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例に限定されるものではない。
【0046】
(試験例1)
<試験例1-1>
リナグリプチン 0.25g、マンニトール(マンニットP、三菱商事フードテック社製) 7.45g、カルボキシメチルスターチナトリウム(Primojel、DFE Pharma社製) 0.90g、コポリビドン(コリドンVA64、BASF社製) 0.27gを乳鉢にて混合し、混合物を得た。
前記混合物に、水 4.0gを添加して造粒し、造粒物を得た。
前記造粒物を乾燥(DAE-20型 熱風乾燥機)し、整粒(目開き850μmで篩過)後、ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製) 0.13gを混合し、打錠用粉末を得た。
前記打錠用粉末を、卓上型精密万能試験機(オートグラフ、株式会社島津製作所製)と、直径8.0mmの杵及び臼とを用いて、圧力5,500Nで打錠し、1錠あたり180mgの錠剤を得た。
【0047】
<試験例1-2>
試験例1-1において、カルボキシメチルスターチナトリウムをカルメロース(NS-300、五徳薬品社製)に代えた以外は、試験例1-1と同様にして、錠剤を製造した。
【0048】
<試験例1-3>
試験例1-1において、カルボキシメチルスターチナトリウムを部分α化デンプン(PCS、旭化成社製)に代えた以外は、試験例1-1と同様にして、錠剤を製造した。
【0049】
下記表1-1に試験例1-1~1-3で製造した錠剤1錠中の組成を示す。
【0050】
【0051】
<評価>
試験例1-1~1-3で得られた錠剤を以下の条件で保存し、試験用検体とした。
(1) 4℃、密閉条件(初期品に相当。以下、「イニシャル」と記載することがある。)で、2週間保存した。
(2) 50℃、相対湿度90%、開放条件(以下、「50℃・90%RH・開放・2W」と記載することがある。)で、2週間保存した。
【0052】
-崩壊時間の測定-
前記各試験用検体(n=6)について、崩壊終了自動検出装置(ERWEKA社製、補助盤あり、残渣厚Res.0.5mm、水 37℃)を用いて崩壊時間を測定した。下記表1-2に結果(崩壊時間の平均値、(1)イニシャルの崩壊時間と(2)50℃・90%RH・開放・2Wの崩壊時間との差)を示す。
【0053】
【0054】
表1-2に示したように、試験例1-1及び1-2の錠剤では、試験例1-3の錠剤と比べて、保存後における錠剤の崩壊遅延が抑制されていた。
【0055】
-外観変化-
保存後における錠剤の崩壊遅延が抑制されていた試験例1-1及び1-2の各試験用検体について、イニシャルの錠剤と、50℃・90%RH・開放・2Wで保存後の錠剤の外観変化を以下の評価基準で評価した。下記表1-3に結果を示す。
[評価基準]
○ : イニシャルの錠剤と、50℃・90%RH・開放・2Wで保存後の錠剤とで、錠剤表面の色の変化がない。
△ : イニシャルの錠剤と、50℃・90%RH・開放・2Wで保存後の錠剤とで、錠剤表面の色の変化が若干見られるが、製品として許容範囲内である。
× : イニシャルの錠剤と、50℃・90%RH・開放・2Wで保存後の錠剤とで、錠剤表面の色の変化が見られ、外観が不良である。
【0056】
【0057】
表1-3に示したように、試験例1-1の錠剤は、試験例1-2の錠剤の錠剤と比べて外観変化の点で、優れていることが確認された。
【0058】
(試験例2)
<試験例2-1>
リナグリプチン 4.2g、マンニトール(マンニットP、三菱商事フードテック社製) 124.8g、クロスカルメロースナトリウム(Primellose、DFE Pharma社製) 15.0gを混合し、混合物を得た。
前記混合物に、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L、日本曹達社製)を5質量%含有する水溶液 90gを用いて、前記混合物を流動層造粒(MP-01、パウレック社製)し、造粒物を得た。
前記造粒物を850μmで篩過し、ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製) 1.5gを混合し、打錠用粉末を得た。
前記打錠用粉末を、ロータリー式打錠機(株式会社菊水製作所製)と、直径8.0mmの円形状杵とを用い、打圧600kgで打錠し、1錠あたり180mgの錠剤を得た。
【0059】
<試験例2-2>
試験例2-1において、クロスカルメロースナトリウムをカルボキシメチルスターチナトリウム(Primojel、DFE Pharma社製)に代えた以外は、試験例2-1と同様にして、錠剤を製造した。
【0060】
<試験例2-3>
試験例2-1において、クロスカルメロースナトリウムをカルメロースカルシウム(ECG-505、五徳薬品社製)に代えた以外は、試験例2-1と同様にして、錠剤を製造した。
【0061】
下記表2-1に試験例2-1~2-3で製造した錠剤1錠中の組成を示す。
【0062】
【0063】
<評価>
試験例2-1~2-3で得られた錠剤を試験例1と同じ条件で保存し、試験用検体とした。
【0064】
-崩壊時間の測定-
前記各試験用検体(n=6)について、崩壊試験器(富山産業株式会社製、補助盤なし、水 37℃)を用いて、目視にて、崩壊時間を全ての錠剤の崩壊が確認されるまでの時間を測定した。下記表2-2に結果(崩壊時間の平均値、(1)イニシャルの崩壊時間と(2)50℃・90%RH・開放・2Wの崩壊時間との差)を示す。
【0065】
【0066】
表2-2に示したように、カルボキシメチルスターチナトリウムを用いた試験例2-2の錠剤と同様に、クロスカルメロースナトリウムを用いた試験例2-1及びカルメロースカルシウムを用いた試験例2-3の錠剤でも、保存後における錠剤の崩壊遅延を抑制できることが確認された。
【0067】
-外観変化-
試験例1と同様にして、試験例2-1~2-3の各試験用検体について、イニシャルの錠剤と、50℃・90%RH・開放・2Wで保存後の錠剤の外観変化を評価した。下記表2-3に結果を示す。
【0068】
【0069】
表2-3に示したように、カルボキシメチルスターチナトリウムを用いた試験例2-2の錠剤と同様に、クロスカルメロースナトリウムを用いた試験例2-1及びカルメロースカルシウムを用いた試験例2-3の錠剤も外観変化が抑制されていることが確認された。
【0070】
(試験例3)
<試験例3-1>
<<試験例3-1-A>>
試験例2-1と同様にして、錠剤を製造した。
【0071】
<<試験例3-1-B>>
試験例3-1-Aにおいて、ヒドロキシプロピルセルロースをヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)(TC―5E、信越化学工業社製)に代えた以外は、試験例3-1―Aと同様にして、錠剤を製造した。
【0072】
<<試験例3-1-C>>
試験例3-1-Aにおいて、ヒドロキシプロピルセルロースをポリビニルアルコール(ゴーセノールEG-05PW(ポリビニルアルコール部分けん化物;けん化度 86.5mоl%~89.0mоl%)、日本合成化学社製)に代えた以外は、試験例3-1-Aと同様にして、錠剤を製造した。
【0073】
下記表3-1に試験例3-1-A~3-1-Cで製造した錠剤1錠中の組成を示す。
【0074】
【0075】
<<評価>>
試験例3-1-A-3-1-Cで得られた錠剤を試験例1と同じ条件で保存し、試験用検体とした。
【0076】
-溶出試験-
前記各試験用検体について、溶出試験液として0.2質量%のNaClを含む水を用い、日本薬局方一般試験法溶出試験第2法(パドル法、50rpm)により溶出試験を行った。下記表3-2に結果を示す。
なお、前記溶出試験において溶出したリナグリプチンの量は、以下のようにして測定、算出した。
【0077】
--溶出したリナグリプチンの量の測定及び算出--
[標準溶液の調製]
リナグリプチンの原薬を100mLのメタノールに溶かし、5mLをとって溶出試験液を加えて、リナグリプチンの濃度が5.5μg/mLの溶液とした。
【0078】
[試料溶液の調製]
所定の時間(5分間、10分間、15分間、30分間、45分間、60分間、90分間、又は120分間)にベッセルからサンプリングした液を0.2μmのメンブランフィルターで濾過し、UPLCに供する試料溶液とした。
【0079】
[分析条件]
装置 : UPLC(Waters社製)
検出波長 : 225nm
カラム : ACQUITY BEH C18(Waters社製、粒子径 1.7μm、2.1mm×50mm
注入量 : 1μL
流速 : 0.3mL/分間
移動相 : A:B=50:50(体積比)の混液
A : 2.72gのリン酸二水素カリウムを1Lの水に溶かし、リン酸を用いてpHを3.5に調整した。この液900mLとメタノール100mLを混合した。
B : アセトニトリル700mLとメタノール150mLと水150mLを混合した。
【0080】
[リナグリプチンの量の算出]
前記UPLCの結果から、リナグリプチンの量(リナグリプチンの溶出率)を下記式から算出した。
リナグリプチンの溶出率(%)=(ru/rs)×(Cs/L)×V×100
上記式中、「ru」は前記試料溶液におけるリナグリプチンの面積を示し、「rs」は前記標準溶液におけるリナグリプチンの面積を示し、「Cs」は前記標準溶液におけるリナグリプチンの濃度(mg/mL)を示し、「L」は試料のリナグリプチン含量を示し、「V」は試験溶液の量(本試験では900mLとした。)を示す。
【0081】
【0082】
<試験例3-2>
<<試験例3-2-A>>
試験例3-1-Aにおいて、クロスカルメロースナトリウムをカルボキシメチルスターチナトリウム(Primojel、DFE Pharma社製)に代え、ヒドロキシプロピルセルロースをコポリビドン(コリドンVA64、BASF社製)に代えた以外は、試験例3-1―Aと同様にして、錠剤を製造した。
【0083】
<<試験例3-2-B>>
試験例3-2-Aにおいて、コポリビドンをヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L、日本曹達社製)に代えた以外は、試験例3-2―Aと同様にして、錠剤を製造した。
【0084】
<<試験例3-2-C>>
試験例3-1-Aにおいて、コポリビドンをヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC―5E、信越化学工業社製)に代えた以外は、試験例3-2―Aと同様にして、錠剤を製造した。
【0085】
<<試験例3-2-D>>
試験例3-1-Aにおいて、コポリビドンをポリビニルアルコール(ゴーセノールEG-05PW(ポリビニルアルコール部分けん化物;けん化度 86.5mоl%~89.0mоl%)、日本合成化学社製)に代えた以外は、試験例3-2-Aと同様にして、錠剤を製造した。
【0086】
下記表3-3に試験例3-2-A~3-2-Dで製造した錠剤1錠中の組成を示す。
【0087】
【0088】
<<評価>>
試験例3-2-A~3-2-Dで得られた錠剤を試験例1と同じ条件で保存し、試験用検体とした。
【0089】
-溶出試験-
前記各試験用検体について、試験例3-1と同様にして溶出試験を行った。下記表3-4に結果を示す。
【0090】
【0091】
<試験例3-3>
<<試験例3-3-A~3-3-D>>
試験例3-2-A~3-2-Dにおいて、カルボキシメチルスターチナトリウムをカルメロースカルシウム(ECG-505、五徳薬品社製)に代えた以外は、試験例3-2-A~3-2-Dと同様にして、錠剤を製造した。
【0092】
下記表3-5に試験例3-3-A~3-3-Dで製造した錠剤1錠中の組成を示す。
【0093】
【0094】
<<評価>>
試験例3-3-A~3-3-Dで得られた錠剤を試験例1と同じ条件で保存し、試験用検体とした。
【0095】
-溶出試験-
前記各試験用検体について、溶出試験液として水を用いた以外は、試験例3-1と同様にして溶出試験を行った。下記表3-6に結果を示す。
【0096】
【0097】
試験例3の結果から、本発明の医薬組成物は、保存後のイニシャルと比較した溶出の遅延が製品として許容できる範囲内に抑えられていることが確認された。また、試験例3の中でも、カルボキシメチルスターチナトリウムを用いた錠剤では、溶出遅延がより抑制されていた。