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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】繊維板製造方法および繊維板
(51)【国際特許分類】
   D21J 1/00 20060101AFI20230316BHJP
【FI】
D21J1/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019064607
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020165012
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000110860
【氏名又は名称】ニチハ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】椙山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】本間 俊克
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-285305(JP,A)
【文献】特開昭63-295800(JP,A)
【文献】特開昭60-190322(JP,A)
【文献】特開2020-066808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00-D21J7/00
B27N 1/00-9/00
E04C 2/00-2/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に分散させたパルプを、対向するブレードの隙間で叩解することにより、粒径D50が50~110μmで、フリーネス値が150~300mlであり、且つ接着成分を含有する植物系繊維材を作製する第1工程と、
前記植物系繊維材からマットを形成する第2工程と、
前記マットに対する加熱プレスにより、当該マットにおいて前記接着成分を可塑化させる過程を経て当該マットから繊維板を形成する第3工程と、を含む繊維板製造方法。
【請求項2】
前記第1工程で作製される植物系繊維材は水保持率が2000%以下である、請求項1に記載の繊維板製造方法。
【請求項3】
前記第1工程で作製される植物系繊維材の粒径D90は300~700μmである、請求項1から2のいずれか一つに記載の繊維板製造方法。
【請求項4】
前記第1工程では、リグニン含有割合18~35質量%のパルプの叩解により前記植物系繊維材を作製する、請求項1から3のいずれか一つに記載の繊維板製造方法。
【請求項5】
前記第2工程では、前記植物系繊維材を水に分散させて調製されたスラリーからの抄造により前記マットを形成する、請求項1から4のいずれか一つに記載の繊維板製造方法。
【請求項6】
前記第3工程では、植物系繊維材および接着成分のみからなる繊維板を形成する、請求項1から5のいずれか一つに記載の繊維板製造方法。
【請求項7】
植物系繊維材と当該植物系繊維材由来の接着成分とを含み、厚さが0.96mm以下であり、曲げ強度が150N/mm以上であり、曲げ弾性率が9GPa以上であり、且つ長さ70mmあたりの反りが2mm以下である、繊維板。
【請求項8】
前記接着成分はリグニンを含む、請求項7に記載の繊維板。
【請求項9】
前記植物系繊維材および前記接着成分の総量における前記リグニンの割合は18~35質量%である、請求項8に記載の繊維板。
【請求項10】
前記植物系繊維材および前記接着成分のみを構成成分として含む、請求項7から9のいずれか一つに記載の繊維板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築材料や家具材料などに利用することが可能な繊維板の製造方法および繊維板に関する。
【背景技術】
【0002】
建築材料や家具材料として、繊維板が用いられる場合がある。繊維板については、近年、パルプの微細化処理によって得られる微細繊維材から抄造と熱圧成形を経て製造される繊維板が注目されている。このような繊維板に関する技術については、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-201695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の繊維板の製造においては、圧縮成形に付される原料中の繊維材料について、原料パルプの湿式粉砕処理または乾式粉砕処理によって繊維の微小化が図られたものが用いられる場合がある。湿式粉砕処理には、例えば、石臼タイプの湿式摩砕機が使用され、乾式粉砕処理にはハンマー式粉砕機が使用される。原料パルプの粉砕処理を経た繊維材料は水に分散させ抄造によって所定厚さのマットが形成されたうえで、当該マットから圧縮成形によって繊維板が形成される。
【0005】
しかしながら、湿式摩砕処理を経た繊維材料は高強度であるものの、湿式粉砕処理には、数時間程度の長時間を要する。また、原料パルプの湿式粉砕処理によって得られる繊維材料は、過度に小さな粒度分布をとりやすく、そのために水離れしにくい(即ち、濾水性が低い)傾向にある。このような繊維材料を含有するスラリーから上述のマットを形成するための抄造には、やはり長時間を要する傾向にある。これら工程に長時間を要することは、繊維板の製造効率の観点から好ましくない。さらに、得られる繊維材料は反りが大きいといった特徴もある。
【0006】
乾式粉砕処理を経た繊維材料は、短時間で製造が可能であり、かつ反りは小さいが、マットの引張強度が低いためプレス前のハンドリングが悪い。
【0007】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであり、その目的は、反りが抑制された繊維板を効率よく製造するのに適した繊維板製造方法、および、そのような繊維板製造方法によって得られる繊維板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面によると、繊維板製造方法が提供される。この繊維板製造方法は、次の第1工程、第2工程、および第3工程を含む。
【0009】
第1工程では、水に分散させたパルプを、対向するブレードの隙間で叩解することにより、粒径D50が50~110μmで、フリーネス値が150~300mlであり、且つ接着成分を含有する植物系繊維材を作製する。本発明におけるフリーネス値とは、カナディアンスタンダードフリーネスの値であり、JIS P 8121-2(パルプ-ろ水度試験方法)に準拠して測定することができる。
【0010】
第2工程では、植物系繊維材からマットを形成する。
【0011】
第3工程では、マットに対する加熱プレスにより、当該マットにおいて接着成分を可塑化させる過程を経て当該マットから繊維板を形成する。
【0012】
接着成分を含有し、粒径D50が50~110μmであり且つフリーネス値が150~300mlである上記植物系繊維材は、当該植物系繊維材を含有するスラリーからの抄造によりマットを形成する場合において、比較的水離れしやすい(即ち、比較的濾水性が高い)。したがって、本製造方法は、繊維板製造過程の短時間化を図るのに適する。
【0013】
接着成分を含有し、粒径D50が50~110μmであり且つフリーネス値が150~300mlである植物系繊維材は、抄造を経てマットが形成される場合あっても水分含量が少なく、当該マットの乾燥・調湿過程での収縮が小さい。加熱プレス工程に供されるマットに生ずる収縮は、当該マットの歪みを誘発し、加熱プレス工程を経て形成される繊維板の反りの原因となりうるものの、本製造方法で得られる植物系繊維材から形成されるマットではそのような収縮が小さい。そのため、本製造方法で得られる植物系繊維材のマットから形成される繊維板では反りが抑制されるものと考えられる。また、叩解により適度にフィブリル化されたことにより、マット成型時に繊維が絡み合い、マットの引張強度が高いため、ハンドリングが良いものと考えられる。
【0014】
以上のように、本発明の第1の側面に係る繊維板製造方法は、反りが抑制された繊維板を効率よく製造するのに適する。
【0015】
第1工程で作製される植物系繊維材は、水保持率が好ましくは2000%以下であり、より好ましくは1800~2000%である。本発明にて水保持率とは、植物系繊維材濃度0.5質量%の水分散液が1000Gでの15分間の遠心分離処理を経て生じる沈殿物についての、上澄み液と分離された後の乾燥前の重量と、105℃での24時間の乾燥後の重量との差の、当該乾燥後重量に対する割合(%)をいうものとする。
【0016】
このような構成は、反りの抑制された繊維板を効率よく製造するのに適する。当該構成は、具体的には、第2工程にてマット形成手法が採用される場合において、繊維板製造過程の短時間化を図るのに適する。
【0017】
第1工程で作製される植物系繊維材の粒径D90は、好ましくは300~700μmである。このような構成によると、第3工程において、植物系繊維材から接着成分を滲出させて、充分量の接着成分を可塑化させやすい。
【0018】
第1工程では、リグニン含有割合18~35質量%のパルプの叩解により植物系繊維材を作製すると、植物系繊維材は適度な粒径およびフリーネス値をとりやすく好ましい。
【0019】
本発明において、リグニン含有割合とは、いわゆるクラーソン法による定量値とする。接着成分として機能しうるリグニンの含有割合に関するこのような構成は、製造される繊維板において高い曲げ強度など高い強度を実現するうえで好適である。
【0020】
第2工程では、植物系繊維材を水に分散させて調製されたスラリーからの抄造によりマットを形成する。
【0021】
第3工程では、好ましくは、植物系繊維材および接着成分のみからなる繊維板を形成する。このような構成は、高い曲げ強度など高い強度を有する繊維板を効率よく製造するうえで好適である。また、繊維板構成材料としてプラスチックや金属などを意図的には含まずに天然素材のみよりなる繊維板は、環境の面において好ましい。
【0022】
本発明の第2の側面によると、繊維板が提供される。この繊維板は、植物系繊維材と当該植物系繊維材由来の接着成分とを含み、厚さが0.96mm以下であり、曲げ強度が150N/mm以上であり、曲げ弾性率が9GPa以上であり、且つ長さ70mmあたりの反りが2mm以下である。
【0023】
本発明において、繊維板の曲げ強度とは、当該繊維板から40mm×10mmのサイズに切り出される繊維板試験片について、60℃での乾燥状態にてJIS A 1408に準拠した3点曲げ試験によって測定される強度とする。
【0024】
本発明において、繊維板の曲げ弾性率とは、上述の3点曲げ試験において得ることのできる荷重-変位曲線の初期勾配によって示される物性とする。
【0025】
本発明において、繊維板の反りとは、繊維板試験片についての、反りが全く生じていない場合に繊維板試験片表面がとりうる位置(基準位置)からの当該試験片表面が実際にとる位置(湾曲形状内側の試験片表面の位置)までの最大変位量とする。
【0026】
本発明の第2の側面に係るこのような繊維板は、本発明の第1の側面に係る上述の繊維板製造方法によって製造することが可能である。したがって、本発明の第2の側面に係る繊維板は、効率よく製造するのに適するとともに、反りを抑制するのに適する。
【0027】
本繊維板において、好ましくは、接着成分はリグニンを含む。より好ましくは、本繊維板中の植物系繊維材と接着成分との総量におけるリグニンの割合は18~35質量%である。接着成分として機能しうるリグニンの含有割合に関するこのような構成は、本繊維板において高い曲げ強度など高い強度を実現するうえで好適である。
【0028】
本繊維板は、好ましくは、植物系繊維材および接着成分のみを構成成分として含む。繊維板構成材料としてプラスチックや金属などを意図的には含まずに天然素材のみよりなる繊維板は、環境の面において好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一の実施形態に係る繊維板製造方法の工程図である。
図2】本発明の一の実施形態に係る繊維板の部分断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本発明の一の実施形態に係る繊維板製造方法の工程図である。本製造方法は、例えば図2に模式的に示すような繊維板Xを製造するための方法であって、本実施形態では、パルプ粉砕工程S1と、マット形成工程S2と、加熱プレス工程S3とを少なくとも含む。繊維板Xは、植物系繊維材の圧縮成形体であり、例えば、壁材や天井板、断熱材、吸音材など建築材料、および家具材料として、使用可能なものである。
【0031】
パルプ粉砕工程S1(第1工程)では、原料パルプを叩解処理して、接着成分含有の植物系繊維材を作製する。具体的には、まず、パルプを水に分散しパルプ濃度1~10%のスラリーとする。そして、スラリーを対向するブレードの隙間に注入し、当該ブレードで叩解することにより、粒径D50が50~110μmで、フリーネス値が150~300mlであり、且つ接着成分を含有する植物系繊維材を作製する。叩解処理とは、対向するブレードの隙間を繊維が通過することによって繊維に強い圧縮力と剪断力を与えることであり、複数回行う。ブレードとは、パルプを叩解可能な形状の金属部品であり、例えば、円盤上に金属の歯が複数設置されたものが例示され、その円盤が回転することによりパルプが叩解される。ブレードの隙間としては、パルプの叩解処理が可能であれば良く、例えば、繊維の粒径に合わせ0.05~2.0mmの範囲で調整する。フリーネス値とは、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)の値であり、JIS P 8121-2(パルプ-ろ水度試験方法)に準拠して測定することができる。
【0032】
原料パルプとしては、例えば、ケミサーモメカニカルパルプやサーモメカニカルパルプを用いることができる。また、原料パルプのリグニン含有割合は好ましくは18~35質量%であり、これから作製される植物系繊維材に含まれる第1接着成分は好ましくはリグニンである。
【0033】
本工程での叩解処理は、例えば、シングルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナー、シングルコニカルリファイナー、ダブルコニカルリファイナーを使用して行うことができる。
【0034】
本工程で作製される植物系繊維材の粒径D50は、上述のように50~110μmであり、好ましくは80μm以下である。また、本工程で作製される植物系繊維材の粒径D90は、好ましくは300~400μmである。
【0035】
本工程で作製される植物系繊維材は、水保持率が好ましくは2000%以下であり、より好ましくは1800~2000%である。水保持率とは、植物系繊維材濃度0.5質量%の水分散液が1000Gでの15分間の遠心分離処理を経ることによって生じる沈殿物についての、上澄み液と分離された後の乾燥前の重量と、105℃での24時間の乾燥後の重量との差の、当該乾燥後重量に対する割合(%)をいうものとする。
【0036】
マット形成工程S2(第2工程)では、植物系繊維材からマットを形成する。
【0037】
湿式法では、植物系繊維材を含有するスラリーからの抄造によりマットを形成する。このスラリーは、所定量の植物系繊維材を水に分散させることによって調製することができる。このスラリーの固形分濃度(植物系繊維材濃度)は、例えば1~5質量%である。抄造により形成されるマットについては、乾燥してその含水率を調整するのが好ましい。調整後のマットの含水率は、20℃および65%RHの条件下で例えば5~15%である。そして、本実施形態では、マットに対してプリプレスを行う。プリプレスにおける荷重は、例えば1~5MPaである。
【0038】
このようなマット形成工程S2に供される植物系繊維材は、上述のパルプ粉砕工程S1で作製される接着成分含有の植物系繊維材そのものでもよいし、繊維板構成成分として当該植物系繊維材に他の成分が添加されたものでもよい。パルプ粉砕工程S1で作製される接着成分含有の植物系繊維材に対して他の成分を添加することなく当該植物系繊維材をマット形成工程S2に供する場合、植物系繊維材と接着成分のみからなる繊維板Xを本製造方法によって製造することができる。
【0039】
加熱プレス工程S3(第3工程)では、マットに対する加熱プレスにより、当該マットにおいて接着成分を可塑化させる過程を経て当該マットから繊維板Xを形成する。本工程では、例えば、加熱プレス装置の備える一対の熱板の間に、加熱プレス対象のマットを間に挟む一対のステンレス板を設置し、所定の加熱温度に設定された熱板間で当該ステンレス板の間のマットを加熱プレスする。
【0040】
マット形成工程S2において上述の湿式法によりマットを形成する場合、当該マットに対する加熱プレス工程S3でのプレス温度は例えば170~200℃であって好ましくは180~190℃であり、プレス圧力は例えば20~95MPaであって好ましくは30~50MPaであり、プレス時間は例えば1~30分間であって好ましくは3~10分間である。
【0041】
加熱プレス工程S3の後、例えば、ステンレス板間に荷重をかけた状態で、装置の熱板、従ってステンレス板間を、95℃以下にまで降温させる。
【0042】
以上のようなパルプ粉砕工程S1、マット形成工程S2、および加熱プレス工程S3を経ることにより、接着成分含有の上述の植物系繊維材から、曲げ強度が150N/mm以上であり、曲げ弾性率が9GPa以上であり、且つ長さ70mmあたりの反りが2mm以下である繊維板Xを、製造することができる。繊維板Xは、好ましくは接着成分としてリグニンを含み、繊維板X中の植物系繊維材と接着成分の総量におけるリグニンの割合は好ましくは18~35質量%である。
【0043】
リグニン含有割合は、いわゆるクラーソン法により測定することができる。クラーソン法とは、パルプなど植物系繊維材を濃硫酸で処理することによって当該植物系繊維材中のセルロースおよびヘミセルロースを加水分解して溶解させ、残留分をクラーソンリグニンとして定量するものである。本発明においてリグニンとは、このクラーソンリグニンをいうものとする。
【0044】
本製造方法のパルプ粉砕工程S1では、上述のように、叩解処理によって所定の植物系繊維材が作製される。粒径D50が50~110μmであり且つフリーネス値が150~300mlである接着成分含有の植物系繊維材について叩解処理による作製が可能であることは、後記の実施例および比較例をもって示すとおりである。植物系繊維材を得るうえで湿式摩砕処理ではなく叩解処理が行われる本製造方法は、繊維板製造過程の短時間化を図るのに適する。
【0045】
粒径D50が50~110μmであり且つフリーネス値が150~300mlである上述の植物系繊維材は、当該植物系繊維材を含有するスラリーからの抄造によりマットを形成する場合において、比較的水離れしやすい(即ち、比較的濾水性が高い)。したがって、マット形成工程S2にて湿式法でマットを形成する場合においても、本製造方法は繊維板製造過程の短時間化を図るのに適する。
【0046】
接着成分を含有し、粒径D50が50~110μmであり且つフリーネス値が150~300mlである植物系繊維材から圧縮成形によって製造される繊維板Xについては反りが抑制される。例えば、後記の実施例および比較例をもって示すとおりである。
【0047】
接着成分を含有し、粒径D50が50~110μmであり且つフリーネス値が100~300mlである植物系繊維材は、従来の湿式摩砕処理によって微小化された植物系繊維材よりも、抄造を経てマットが形成される場合あっても水分含量が少なく、当該マットの乾燥・調湿過程での収縮が小さい。加熱プレス工程に供されるマットに生ずる収縮は、当該マットの歪みを誘発し、加熱プレス工程を経て形成される繊維板の反りの原因となりうるものの、本製造方法で得られる植物系繊維材から形成されるマットではそのような収縮が小さい。そのため、叩解処理で得られる植物系繊維材のマットから形成される繊維板では反りが抑制されるものと考えられる。また、また、叩解により適度にフィブリル化されたことにより、マット成型時に繊維が絡み合い、マットの引張強度が高いため、乾式粉砕から得られる植物繊維材のマットよりもハンドリングが良い。
【0048】
以上のように、本繊維板製造方法は、反りの抑制された繊維板Xを効率よく製造するのに適する。
【0049】
パルプ粉砕工程S1で作製される植物系繊維材の水保持率は、上述のように、好ましくは2000%以下であり、より好ましくは1800~2000%である。このような構成は、反りの抑制された繊維板Xを効率よく製造するのに適する。当該構成は、具体的には、マット形成工程S2にて湿式法でマットが形成される場合において繊維板製造過程の短時間化を図るのに適する。
【0050】
パルプ粉砕工程S1で作製される植物系繊維材の粒径D50は、上述のように、50~110μmである。このような構成は、パルプ粉砕工程S1での叩解処理に要する時間を抑えつつ、高い曲げ強度でありながら反りの抑制された繊維板を効率よく製造するのに適する。
【0051】
パルプ粉砕工程S1で作製される植物系繊維材の粒径D90は、上述のように300~700μmである。このような構成によると、加熱プレス工程S3において、植物系繊維材から接着成分を滲出させて、充分量の接着成分を可塑化させやすい。
【0052】
パルプ粉砕工程S1では、好ましくは、リグニン含有割合18~35質量%のパルプの叩解により植物系繊維材を作製する。接着成分として機能しうるリグニンの含有割合に関するこのような構成は、製造される繊維板Xにおいて高い曲げ強度など高い強度を実現するうえで好適である。
【0053】
本製造方法によって製造される繊維板Xは、植物系繊維材および接着成分のみからなってもよい。繊維板Xが、繊維板構成材料としてプラスチックや金属などを意図的には含まずに天然素材のみよりなる場合、そのような繊維板Xは環境の面において好ましい。
【実施例
【0054】
試料1~8に係る繊維板を製造し、各繊維板について、厚さ、曲げ強度、曲げ弾性率、絶乾比重、および反りを調べた。
【0055】
〔試料1〕
以下のようなパルプ粉砕工程、マット形成工程、および加熱プレス工程を経て試料1の繊維板を製造した。
【0056】
パルプ粉砕工程では、フリーネス値が800mlより大きいサーモメカニカルパルプ(TMP)を水に分散させパルプ濃度3%としたスラリーを、シングルディスクリファイナーを使用して叩解処理を行った。詳しくは、シングルディスクリファイナーの対向するブレードの隙間をパルプの粒径に合わせ0.1~2mmの範囲で調整し、スラリーを対向するブレードの隙間に注入して叩解した。叩解処理は10回行った。なお、TMPは、接着成分として31質量%のリグニンを含有するものを用いた。
【0057】
このようなパルプ粉砕工程により得られた接着成分含有の植物系繊維材について、粒度分布測定装置(商品名「MT3500」,Microtrac製)を使用して、レーザー回折・散乱法による粒度分布解析を行ったところ、粒径D10は20.2μm、粒径D50は98.2μm、粒径D90は615.3μmであった。この結果を表1に掲げる(後記の他試料の製造過程のパルプ粉砕工程で得られた接着成分含有の植物系繊維材についても、その粒度分布測定結果を表1に掲げる)。
【0058】
上述のパルプ粉砕工程を経て得られた接着成分含有の植物系繊維材について、JIS P 8121-2(パルプ-ろ水度試験方法)に準拠してカナディアンスタンダードフリーネスを調べたところ、そのフリーネス値(CSF)は240mlであった。この結果を表1に掲げる(後記の他試料の製造過程のパルプ粉砕工程で得られた接着成分含有の植物系繊維材についても、そのフリーネス測定結果を表1に掲げる)。
【0059】
上述のパルプ叩解工程を経て得られた接着成分含有の植物系繊維材について、水保持率を調べたところ、その測定値は1865%であった。この水保持率測定結果を表1に掲げる(後記の他試料の製造過程のパルプ粉砕工程で得られた接着成分含有の植物系繊維材についても、その水保持率測定結果を表1に掲げる)。
【0060】
水保持率の測定にあたっては、まず、水と植物系繊維材とを混合して固形分濃度0.5質量%の分散液を調製した。次に、この分散液を、遠心力1000Gおよび遠心時間15分間の条件での遠心分離処理に付した。次に、この遠心分離処理によって生じた沈殿物を上澄み液と分離した後、その沈殿物の重量(W1)を測定した。次に、この沈殿物について、温度105℃で24時間の乾燥を行った後、その重量(W2)を測定した。そして、[(W1-W2)/W2]×100の値を水保持率(%)として算出した。
【0061】
マット形成工程では、湿式法により植物系繊維材からマットを形成した。具体的には、まず、上述のパルプ粉砕工程を経て得られた植物系繊維材5.5gを300gの水に分散させてスラリーを調製した。次に、このスラリーを、内径70mmのろ過器と ろ紙5A(JIS P 3801に規定される5種Aのろ紙)とを使用して行う吸引ろ過に付した(抄造)。
【0062】
マット形成工程では、次に、上述の抄造により形成されたマットについて、器内温度60℃の乾燥器内で24時間の乾燥を行った後、20℃および65%RHの条件下に静置して調湿した。静置の期間は3日間である。この後、マットに対して2MPaの荷重をかけてプリプレスを行った。なお、プリプレスは加熱せずに行った。以上のようにして、円盤形状のマット(直径70mm)を形成した。
【0063】
加熱プレス工程では、形成されたマットに対して加熱プレスを行った。具体的には、加熱プレス機(商品名「小型熱プレス機 AH-2003C」,アズワン株式会社製)を使用して、プレス温度180℃、プレス圧力30MPaおよびプレス時間10分間の条件で、ステンレス板間に挟まれたマットに対して加熱プレスを行った。そして、ステンレス板間に荷重をかけた状態で95℃以下にまで降温した後、圧縮成形された繊維板を取り出した。以上のようにして、試料1に係る繊維板を製造した。この繊維板について厚さを測定したところ、0.95mmであった。その結果を表1に掲げる(後記の他試料の厚さも表1に掲げる)。
【0064】
〔試料2~3〕
パルプ粉砕工程において、リファイナーを使用して行う叩解処理回数を10回(試料1)に代えて13回(試料2)、17回(試料3)としたこと以外は試料1の繊維板と同様にして、試料2~3の各繊維板を製造した。
【0065】
〔試料4~5〕
パルプ粉砕工程において、リファイナーを使用して行う叩解処理回数を10回(試料1)に代えて5回(試料4)、7回(試料5)としたこと、およびパルプ粉砕工程を経て得られた植物系繊維材を5.5g(試料1)に代えて13.0g(試料4、5)とした以外は試料1の繊維板と同様にして、試料4~5の各繊維板を製造した。
【0066】
〔試料6〕
試料6の製造過程におけるパルプ粉砕工程では、スラリーのパルプ濃度を3%(試料1)に代えて1%(試料5)とし、シングルディスクリファイナーを石臼タイプの湿式摩砕機(商品名「スーパーマスコロイダー MKCA6-2J」,増幸産業株式会社製)に代えて摩砕処理を行った。湿式摩砕機における処理回数は1回とした。
【0067】
このようなパルプ粉砕工程によって得られた植物系繊維材から、試料1の製造過程に関して上述したのと同様のマット形成工程および加熱プレス工程を経て、試料6の繊維板を製造した。
【0068】
〔試料7〕
パルプ粉砕工程において、衝撃式微粉砕機(商品名「アトマイザー MKA-5J」,増幸産業株式会社製)に分画サイズ0.5mmのスクリーンを用いたうえで乾式粉砕処理を行った。当該乾式粉砕機における処理回数は5回とした。
【0069】
〔試料8〕
試料1の繊維板の製造過程においてパルプ粉砕工程を行わない未粉砕状態のパルプを植物系繊維材としてマット形成工程に供したこと以外は試料1の繊維板と同様にして、試料8の繊維板を製造した。
【0070】
〈曲げ強度〉
試料1~8の各繊維板から10mm×40mmのサイズの試験片を切り出し、各試験片について、60℃での乾燥状態にてJIS A 1408に準じて3点曲げ試験を行い、曲げ強度(N/mm)を測定した。その結果を表1に掲げる。
【0071】
〈曲げ弾性率〉
試料1~8の各繊維板について、上記の3点曲げ試験において得られる荷重-変位曲線の初期勾配によって示される値を曲げ弾性率(GPa)として求めた。その結果を表1に掲げる。
【0072】
〈絶乾比重〉
試料1~8の各繊維板について、次のようにして絶乾比重を求めた。まず、繊維板から所定サイズの試験片を切り出し、その試験片の長さ、幅、および厚さを測定した。これら測定値より、試験片の体積が算出される。次に、試験片について、温度105℃で24時間以上の乾燥を行った後、その重量(絶乾重量)を測定した。そして、絶乾重量を試験片の体積で除した値に100を乗じて絶乾比重を算出した。
【0073】
〈反り〉
試料1~8の各繊維板について、次のようにして反りの程度を調べた。具体的には、直径70mmの円盤形状の繊維板を試験片として、その試験片において、反りが全く生じていない場合に試験片表面がとりうる位置(基準位置)からの当該試験片表面が実際にとる位置(湾曲形状内側の試験片表面の位置)までの最大変位量を反り(mm)として、直交する2方向について測定した。その測定結果を表1に掲げる。なお、表1では、長さ70mmあたりの反りが2mm以下の場合は「≦2mm」とし、2mmより大きい場合は「>2mm」とした。
【0074】
[評価]
試料1~3の繊維板は、パルプの叩解処理により得られた、粒径D50が50~110μmの範囲にあり、フリーネス値が150~300mlの範囲にあり、且つ接着成分を含有する植物系繊維材の圧縮成形によって製造されたものである。このような試料1~3の繊維板は、フリーネス値が300mlより大きい植物系繊維材の圧縮成形物である試料4~5、パルプの乾式粉砕粉砕により得られた植物系繊維材の圧縮成形物である試料7、および粉砕処理を経ていない植物系繊維材の圧縮成形体である試料8の繊維板と比較して、有意に高い曲げ弾性率と曲げ強度を示した。
【0075】
試料1~3の繊維板において、反りは2mm以下であり、反りが充分に抑制されていた。これに対し、パルプの摩砕処理により得られた植物系繊維材の圧縮成形物である試料6の繊維板の反りは2mmより大きく、試料1~3の繊維板の反りよりも有意に大きかった。
【0076】
試料6の繊維板の製造過程において、植物系繊維材を作製するための上述の摩砕処理には1kgあたり約5時間もの時間を要し、その後のマット形成工程での抄造には約4時間もの長時間を要した。これに対し、試料1~3の繊維板の各製造過程においては、接着成分含有の植物系繊維材を作製するための上述の叩解処理には1kgあたり試料1は約1時間、試料2は約1.3時間、試料3は約1.7時間で済み、その後のマット形成工程での抄造も短時間(5分程度以内)で終了することができた。
【0077】
【表1】
【符号の説明】
【0078】
S1 パルプ粉砕工程
S2 マット形成工程
S3 加熱プレス工程
X 繊維板
図1
図2