(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】電動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/74 20060101AFI20230316BHJP
B60T 1/06 20060101ALI20230316BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20230316BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20230316BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20230316BHJP
F16D 125/20 20120101ALN20230316BHJP
F16D 127/06 20120101ALN20230316BHJP
F16D 129/00 20120101ALN20230316BHJP
【FI】
B60T13/74 G
B60T1/06 G
B60T8/00 Z
F16D65/18
F16D121:24
F16D125:20
F16D127:06
F16D129:00
(21)【出願番号】P 2019115520
(22)【出願日】2019-06-21
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-84968(JP,A)
【文献】特開2016-583(JP,A)
【文献】特開2018-86868(JP,A)
【文献】特開2017-211086(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114235(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/74
B60T 8/00
B60T 1/06
F16D 65/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキロータと、このブレーキロータと当接してブレーキ力を発生させる摩擦材と、電動モータと、前記摩擦材を前記電動モータによって操作する摩擦材操作手段と、前記電動モータを駆動する駆動回路およびブレーキ指令手段から与えられた目標ブレーキ力に対して前記ブレーキ力を追従させるための電動モータ操作量を算出する制御演算器を有する制御装置と、を備えた電動ブレーキ装置であって、
前記電動モータの回転に同期して運動する被係合部、およびこの被係合部に対して係合・離脱可能に可動する可動部を有し、前記被係合部に前記可動部を係合させることで前記電動モータの回転に同期した運動を阻害し、前記電動モータの駆動力によらず前記ブレーキロータと前記摩擦材との接触によるブレーキ力を保持するパーキングブレーキ機構と、
このパーキングブレーキ機構を用いて、前記ブレーキ力を前記ブレーキ指令手段による指令値に追従させず定められたブレーキ力を保持したパーキングブレーキ状態とするか否かの指示を前記制御装置に送信するパーキングブレーキ指令手段と、を備え、
前記制御装置は、前記ブレーキ力を推定するブレーキ力推定手段、および少なくとも前記電動モータの角度ないし角度の微積分値、もしくは前記角度ないし角度の微積分値と等価となり得る運動量のいずれかを含む電動モータ運動状態を推定するモータ運動推定手段を有し、
前記制御装置は、
前記パーキングブレーキ状態ではないパーキングブレーキ解除中、前記パーキングブレーキ指令手段によりパーキングブレーキ状態とする指示を受信したとき、前記ブレーキ指令手段によらず前記ブレーキ力を発揮させ、少なくとも前記ブレーキ力推定手段に基づいて、前記パーキングブレーキ状態において発揮させるべきブレーキ力を上回るブレーキ力を発揮した状態となったことを判断する第一のパーキングブレーキ動作部と、
この第一のパーキングブレーキ動作部の判断の後、前記可動部を前記被係合部に係合させる状態とし、少なくとも前記モータ運動推定手段に基づいて前記電動モータを前記ブレーキ力が減圧する方向に回転させることで、前記被係合部および前記可動部が係合して前記電動モータの回転が阻害された状態とする第二のパーキングブレーキ動作部と、
この第二のパーキングブレーキ動作部の実行後、前記電動モータに駆動電力を発生させないパーキングブレーキ状態とする第三のパーキングブレーキ動作部と、を有する電動ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、
前記制御装置は、
前記パーキングブレーキ状態で、前記パーキングブレーキ指令手段によりパーキングブレーキ状態を解除する指示を受信したとき、前記可動部を前記被係合部に対して離脱させる状態とし、少なくとも前記ブレーキ力推定手段および前記モータ運動推定手段のいずれか一方または両方に基づいて、パーキングブレーキ解除を開始した状態から前記電動モータを前記ブレーキ力が増圧する方向に回転させて、前記電動モータの回転状態を前記可動部が離脱可能な状態とする第一のパーキングブレーキ解除動作部と、
この第一のパーキングブレーキ解除動作部の実行後、少なくとも前記ブレーキ力推定手段および前記モータ運動推定手段のいずれか一方または両方に基づいて、前記電動モータを回転させ、この電動モータの回転量が所定量超過したことからパーキングブレーキ解除が完了したことを判断する第二のパーキングブレーキ解除動作部と、を有する電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、第一のパーキングブレーキ動作部の実行中、前記パーキングブレーキ指令手段によりパーキングブレーキ状態を解除する指示を受信したとき、前記ブレーキ指令手段によらずブレーキ力を発揮する状態から、前記ブレーキ指令手段から与えられた目標ブレーキ力に対してブレーキ力を追従制御する電動ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1または請求項3に記載の電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、少なくとも前記モータ運動推定手段に基づいて、前記電動モータに作用する外乱トルクを推定する機能を有し、
前記制御装置は、第二のパーキングブレーキ動作部の実行中、推定された前記外乱トルクについて、ブレーキ増圧方向に相当する方向に定められたトルクより大きな外乱トルクが推定されたとき、前記パーキングブレーキ機構の係合により前記電動モータの回転が阻害されたと判断する電動ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1または請求項3に記載の電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、前記電動モータの電流を推定する機能を有し、
前記制御装置は、前記二のパーキングブレーキ動作部の実行中、推定された前記電流について、ブレーキ減圧方向に相当する方向にトルクを発生させる定められた電流より大きな電流が推定されたとき、前記パーキングブレーキ機構の係合により前記電動モータの回転が阻害されたと判断する電動ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記被係合部と前記可動部とは、前記電動モータが定められた角度を回転する度に係合可能な位置関係となる係合ピッチとされ、
前記制御装置は、前記第二のパーキングブレーキ動作部の実行中、少なくとも前記モータ運動推定手段に基づいて、前記電動モータが前記係合ピッチを超過して回転したときに前記パーキングブレーキ機構の係合に失敗したことを判断し、一回以上は再び第一のパーキングブレーキ動作と、第二のパーキングブレーキ動作を実行する電動ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項2に記載の電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、第二のパーキングブレーキ解除動作部の実行中、少なくとも前記モータ運動推定手段に基づいて前記電動モータの回転が前記パーキングブレーキ機構により阻害されたことを判断し、かつ前記電動モータの回転が阻害されたときにパーキングブレーキ解除に失敗したことを判断し、一回以上は再び第一のパーキングブレーキ解除動作部を実行する電動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両等に搭載される電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動ブレーキ装置として、以下の技術が提案されている。
1.つめ車の外周に係止機構を設けたパーキングブレーキ機能付電動ブレーキ(特許文献1)。
2.遊星ローラ機構および電動モータを使用した電動式アクチュエータ(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-183809号公報
【文献】特開2006-194356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば特許文献1,2の電動ブレーキ装置におけるパーキングブレーキ機構のように、モータの電力によらず所定の負荷状態を保持したままロック可能な電動式アクチュエータが求められる場合がある。
【0005】
その際、特許文献1のような、可動部と静止部が係合することによる逆入力保持機構を有する電動式アクチュエータについて、逆入力保持状態へと移行する場合および逆入力保持状態を解除する際に、これらの状態遷移を確実に行うことが求められる場合が多い。例えば、電動式アクチュエータを用いた電動ブレーキ装置のパーキングブレーキ機能部に、逆入力保持機構を適用する場合であれば、逆入力保持状態すなわちパーキングブレーキ状態への移行に失敗すれば傾斜路等で車両が操縦者の意図に反し傾斜路を移動してしまう問題が生じる場合があり、パーキングブレーキ解除に失敗すれば車両が発進できない問題が生じる場合がある。
【0006】
この発明の目的は、誤動作が少なく正確なパーキングブレーキ動作が可能となる電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の電動ブレーキ装置1は、ブレーキロータ8と、このブレーキロータ8と当接してブレーキ力を発生させる摩擦材9と、電動モータ4と、前記摩擦材9を前記電動モータ4によって操作する摩擦材操作手段6と、前記電動モータ4を駆動する駆動回路18およびブレーキ指令手段Bpから与えられた目標ブレーキ力に対して前記ブレーキ力を追従させるための電動モータ操作量を算出する制御演算器23を有する制御装置2と、を備えた電動ブレーキ装置であって、
前記電動モータ4の回転に同期して運動する被係合部Hk、およびこの被係合部Hkに対して係合・離脱可能に可動する可動部15を有し、前記被係合部Hkに前記可動部15を係合させることで前記電動モータ4の回転に同期した運動を阻害し、前記電動モータ4の駆動力によらず前記ブレーキロータ8と前記摩擦材9との接触によるブレーキ力を保持するパーキングブレーキ機構7と、
このパーキングブレーキ機構7を用いて、前記ブレーキ力を前記ブレーキ指令手段Bpによる指令値に追従させず定められたブレーキ力を保持したパーキングブレーキ状態とするか否かの指示を前記制御装置2に送信するパーキングブレーキ指令手段Psと、を備え、
前記制御装置2は、前記ブレーキ力を推定するブレーキ力推定手段21、および少なくとも前記電動モータ4の角度ないし角度の微積分値、もしくは前記角度ないし角度の微積分値と等価となり得る運動量のいずれかを含む電動モータ運動状態を推定するモータ運動推定手段22を有し、
前記制御装置2は、
前記パーキングブレーキ状態ではないパーキングブレーキ解除中、前記パーキングブレーキ指令手段Psによりパーキングブレーキ状態とする指示を受信したとき、前記ブレーキ指令手段Bpによらず前記ブレーキ力を発揮させ、少なくとも前記ブレーキ力推定手段21に基づいて、前記パーキングブレーキ状態において発揮させるべきブレーキ力を上回るブレーキ力を発揮した状態となったことを判断する第一のパーキングブレーキ動作部24aaと、
この第一のパーキングブレーキ動作部24aaの判断の後、前記可動部15を前記被係合部Hkに係合させる状態とし、少なくとも前記モータ運動推定手段22に基づいて前記電動モータ4を前記ブレーキ力が減圧する方向に回転させることで、前記被係合部Hkおよび前記可動部15が係合して前記電動モータ4の回転が阻害された状態とする第二のパーキングブレーキ動作部24abと、
この第二のパーキングブレーキ動作部24abの実行後、前記電動モータ4に駆動電力を発生させないパーキングブレーキ状態とする第三のパーキングブレーキ動作部24acと、を有する。
前記定められたブレーキ力は、設計等によって任意に定めるブレーキ力であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切なブレーキ力を求めて定められる。
【0008】
この構成によると、制御装置2は、パーキングブレーキ解除中、ブレーキ指令手段Bpから与えられた目標ブレーキ力に対してブレーキ力を追従制御する。
パーキングブレーキ指令手段Psがパーキングブレーキ状態とする指示を制御装置2に送信すると、順次、第一のパーキングブレーキ動作部24aa、第二のパーキングブレーキ動作部24ab、第三のパーキングブレーキ動作部24acの制御を実行する。
【0009】
先ず、第一のパーキングブレーキ動作部24aaは、パーキングブレーキ解除中、パーキングブレーキ状態とする指示を受信したとき、ブレーキ指令手段Bpによらずブレーキ力を発揮させる。第一のパーキングブレーキ動作部24aaは、さらにパーキングブレーキ状態において発揮させるべきブレーキ力を上回るブレーキ力を発揮した状態になったことを判断する。
この判断の後、第二のパーキングブレーキ動作部24abは、可動部15を被係合部Hkに係合させる状態とし、電動モータ4をブレーキ力が減圧する方向に回転させる。これにより被係合部Hkおよび可動部15が係合するいわゆるロック状態とする。
その後、第三のパーキングブレーキ動作部24acが電動モータ4に駆動電力を発生させないパーキングブレーキ状態とする。
【0010】
このようにパーキングブレーキ状態へと移行する際に、パーキングブレーキ相当のブレーキ力を発揮する動作と、パーキングブレーキ機構7のロックを行う動作と、パーキングブレーキ状態を維持したまま電動モータ4の電力消費を抑制する動作と、を順次行うことで、誤動作が少なく正確なパーキングブレーキ動作が可能となる。
【0011】
前記制御装置2は、
前記パーキングブレーキ状態で、前記パーキングブレーキ指令手段Psによりパーキングブレーキ状態を解除する指示を受信したとき、前記可動部15を前記被係合部Hkに対して離脱させる状態とし、少なくとも前記ブレーキ力推定手段21および前記モータ運動推定手段22のいずれか一方または両方に基づいて、パーキングブレーキ解除を開始した状態から前記電動モータ4を前記ブレーキ力が増圧する方向に回転させて、前記電動モータ4の回転状態を前記可動部15が離脱可能な状態とする第一のパーキングブレーキ解除動作部24baと、
この第一のパーキングブレーキ解除動作部24baの実行後、少なくとも前記ブレーキ力推定手段21および前記モータ運動推定手段22のいずれか一方または両方に基づいて、前記電動モータ4を回転させ、この電動モータ4の回転量が所定量超過したことからパーキングブレーキ解除が完了したことを判断する第二のパーキングブレーキ解除動作部24bbと、を有してもよい。
前記所定量は、設計等によって任意に定める量であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な量を求めて定められる。
この場合、パーキングブレーキ状態から、増圧側に電動モータ4を回転させて被係合部Hkに対し可動部15を離脱させる動作と、減圧してパーキングブレーキ荷重を解除する動作と、を順次行うことで、誤動作が少なく正確なパーキングブレーキ解除動作が可能となる。
【0012】
前記制御装置2は、第一のパーキングブレーキ動作部24aaの実行中、前記パーキングブレーキ指令手段Psによりパーキングブレーキ状態を解除する指示を受信したとき、前記ブレーキ指令手段Bpによらずブレーキ力を発揮する状態から、前記ブレーキ指令手段Bpから与えられた目標ブレーキ力に対してブレーキ力を追従制御してもよい。
第一のパーキングブレーキ動作部24aaの実行中は、被係合部Hkに対し可動部15が係合していない状態であるため、制御装置2がパーキングブレーキ状態を解除する指示を受信したとき、速やかにサービスブレーキへと移行することで、誤操作による急なパーキングブレーキ解除にも対応することができる。
【0013】
前記制御装置2は、少なくとも前記モータ運動推定手段22に基づいて、前記電動モータ4に作用する外乱トルクを推定する機能を有し、
前記制御装置2は、第二のパーキングブレーキ動作部24abの実行中、推定された前記外乱トルクについて、ブレーキ増圧方向に相当する方向に定められたトルクより大きな外乱トルクが推定されたとき、前記パーキングブレーキ機構7の係合により前記電動モータ4の回転が阻害されたと判断してもよい。
このようにロック動作の完了の判断を具体的に実行し得る。
前記定められたトルクは、設計等によって任意に定めるトルクであって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切なトルクを求めて定められる。
【0014】
前記制御装置2は、前記電動モータ4の電流を推定する機能を有し、
前記制御装置2は、前記二のパーキングブレーキ動作部24abの実行中、推定された前記電流について、ブレーキ減圧方向に相当する方向にトルクを発生させる定められた電流より大きな電流が推定されたとき、前記パーキングブレーキ機構7の係合により前記電動モータ4の回転が阻害されたと判断してもよい。
このようにロック動作の完了の判断を具体的に実行し得る。
前記定められた電流は、設計等によって任意に定める電流であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な電流を求めて定められる。
【0015】
前記被係合部Hkと前記可動部15とは、前記電動モータ4が定められた角度を回転する度に係合可能な位置関係となる係合ピッチとされ、
前記制御装置2は、前記第二のパーキングブレーキ動作部24abの実行中、少なくとも前記モータ運動推定手段22に基づいて、前記電動モータ4が前記係合ピッチを超過して回転したときに前記パーキングブレーキ機構7の係合に失敗したことを判断し、一回以上は再び第一のパーキングブレーキ動作と、第二のパーキングブレーキ動作を実行してもよい。
前記定められた角度は、設計等によって任意に定める角度であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な角度を求めて定められる。
【0016】
例えば、主にパーキングブレーキ機構を長時間使用しなかった場合などにおいて、パーキングブレーキ機構の周辺部材の摩耗粉またはグリース等の混入により、パーキングブレーキ機構の可動部15の動作速度が鈍くなるような状況が発生する可能性がある。そのような場合に、パーキングブレーキ機構7のロック動作をある回数までは繰り返すような処理とすることで、パーキングブレーキ動作の信頼性を向上することができる。
【0017】
前記制御装置2は、第二のパーキングブレーキ解除動作部24bbの実行中、少なくとも前記モータ運動推定手段22に基づいて前記電動モータ4の回転が前記パーキングブレーキ機構7により阻害されたことを判断し、かつ前記電動モータ4の回転が阻害されたときにパーキングブレーキ解除に失敗したことを判断し、一回以上は再び第一のパーキングブレーキ解除動作部24baを実行してもよい。
パーキングブレーキ機構7の可動部15の動作速度が鈍くなる場合に、パーキングブレーキ機構7のロック解除動作であるリリース動作をある回数までは繰り返すような処理とすることで、パーキングブレーキ解除動作の信頼性を向上することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明の電動ブレーキ装置は、ブレーキロータと、このブレーキロータと当接してブレーキ力を発生させる摩擦材と、電動モータと、前記摩擦材を前記電動モータによって操作する摩擦材操作手段と、前記電動モータを駆動する駆動回路およびブレーキ指令手段から与えられた目標ブレーキ力に対して前記ブレーキ力を追従させるための電動モータ操作量を算出する制御演算器を有する制御装置と、を備えた電動ブレーキ装置であって、前記電動モータの回転に同期して運動する被係合部、およびこの被係合部に対して係合・離脱可能に可動する可動部を有し、前記被係合部に前記可動部を係合させることで前記電動モータの回転に同期した運動を阻害し、前記電動モータの駆動力によらず前記ブレーキロータと前記摩擦材との接触によるブレーキ力を保持するパーキングブレーキ機構と、このパーキングブレーキ機構を用いて、前記ブレーキ力を前記ブレーキ指令手段による指令値に追従させず定められたブレーキ力を保持したパーキングブレーキ状態とするか否かの指示を前記制御装置に送信するパーキングブレーキ指令手段と、を備え、前記制御装置は、前記ブレーキ力を推定するブレーキ力推定手段、および少なくとも前記電動モータの角度ないし角度の微積分値、もしくは前記角度ないし角度の微積分値と等価となり得る運動量のいずれかを含む電動モータ運動状態を推定するモータ運動推定手段を有し、前記制御装置は、前記パーキングブレーキ状態ではないパーキングブレーキ解除中、前記パーキングブレーキ指令手段によりパーキングブレーキ状態とする指示を受信したとき、前記ブレーキ指令手段によらず前記ブレーキ力を発揮させ、少なくとも前記ブレーキ力推定手段に基づいて、前記パーキングブレーキ状態において発揮させるべきブレーキ力を上回るブレーキ力を発揮した状態となったことを判断する第一のパーキングブレーキ動作部と、この第一のパーキングブレーキ動作部の判断の後、前記可動部を前記被係合部に係合させる状態とし、少なくとも前記モータ運動推定手段に基づいて前記電動モータを前記ブレーキ力が減圧する方向に回転させることで、前記被係合部および前記可動部が係合して前記電動モータの回転が阻害された状態とする第二のパーキングブレーキ動作部と、この第二のパーキングブレーキ動作部の実行後、前記電動モータに駆動電力を発生させないパーキングブレーキ状態とする第三のパーキングブレーキ動作部と、を有する。このため、誤動作が少なく正確なパーキングブレーキ動作が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置を概略示す図である。
【
図2】同電動ブレーキ装置におけるパーキングブレーキ機構の被係合部の構造例を示す図である。
【
図3】同被係合部に対し可動部が係合・離脱する状態を模式的に示す図である。
【
図4】同電動ブレーキ装置の制御系のブロック図である。
【
図5】パーキングブレーキ制御器の基本動作を表すフローチャートである。
【
図6】
図5のS5に記載のロック動作についてのフローチャートである。
【
図7】
図5のS10に記載のリリース動作についてのフローチャートである。
【
図8】同パーキングブレーキ制御器の状態遷移を示す図である。
【
図9】同パーキングブレーキ機構の動作例を示す図である。
【
図10】この発明の他の実施形態の電動ブレーキ装置の制御系のブロック図である。
【
図12】被係合部のその他の構造例を示す図である。
【
図13】被係合部のその他の構造例を示す図である。
【
図14】被係合部のその他の構造例を示す図である。
【
図15】被係合部のその他の構造例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
この発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置を
図1ないし
図9と共に説明する。この電動ブレーキ装置は例えば車両に搭載される。
図1に示すように、この電動ブレーキ装置1は、ブレーキアクチュエータBAと、電源装置3と、制御装置2とを備える。先ず、ブレーキアクチュエータBAの構造について説明する。
【0021】
<ブレーキアクチュエータBAの構成例>
ブレーキアクチュエータBAは、電動モータ4と、直動機構6と、減速機5と、摩擦ブレーキBRと、パーキングブレーキ機構7と、角度センサSa(
図4)と、荷重センサSb(
図4)とを有する。
電動モータ4は回転子および固定子を有し、例えば、永久磁石式の同期電動機から成る。電動モータ4として、永久磁石式の同期電動機を適用すると省スペースで高効率かつ高トルクとなり好適である。
【0022】
摩擦ブレーキBRは、車両の各車輪にそれぞれ設けられる。摩擦ブレーキBRは、車輪と連動して回転するブレーキロータ8と、このブレーキロータ8と当接してブレーキ力を発生させる摩擦材9とを有する。この摩擦材9を、摩擦材操作手段である直動機構6により操作してブレーキロータ8に押圧し、摩擦力によって負荷荷重を発生させ得る。この例の摩擦ブレーキBRとして、ブレーキディスクであるブレーキロータ8および図示外のキャリパを用いたディスクブレーキ装置を適用しているが、ドラムおよびライニングを用いたドラムブレーキ装置であってもよい。
【0023】
減速機5は、電動モータ4の回転を減速する機構であり、それぞれ伝達部である一次歯車12、中間歯車13、および三次歯車11を含む。この例では、減速機5は、電動モータ4のロータ軸4aに取り付けられた一次歯車12の回転を、中間歯車13の第一,第二の歯車形状部13a,13bにより減速して、回転軸10の端部に固定された三次歯車11に伝達可能な平行歯車が用いられている。
【0024】
直動機構6は、減速機5で出力される回転運動を送りねじ機構により直動部14の直線運動に変換して、ブレーキロータ8に対して摩擦材9を当接離隔させる機構である。直動部14は、回り止めされ且つ矢符A1にて表記する軸方向に移動自在に支持されている。直動部14のアウトボード側端に摩擦材9が設けられる。電動モータ4の回転を減速機5を介して直動機構6に伝達することで、回転運動が直線運動に変換され、それが摩擦材9の押圧力に変換されることによりブレーキ力を発生させる。なお電動ブレーキ装置1を車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側といい、車両の車幅方向中央側をインボード側という。
【0025】
図4に示すように、角度センサSaは、電動モータ4の回転量である回転角度(モータ角度)を検出する。角度センサSaは、例えば、レゾルバまたは磁気エンコーダ等を用いると高精度かつ高信頼性であり好適であるが、光学式のエンコーダ等の各種センサを用いることもできる。前記角度センサSaを用いずに、後述する制御装置2において、電動モータ4の電圧と電流との関係等からモータ角度を推定する角度センサレス推定を用いることもできる。
【0026】
荷重センサSbは、直動機構6の軸方向荷重を検出する。この荷重センサSbは、例えば、直動機構6の荷重に応じた歪または変形等を検出するセンサを用いると安価で高精度となり好適である。荷重センサSbは、圧電素子等の感圧媒体、ブレーキロータ8の制動トルクを検出するトルクセンサ、または車両用の電動ブレーキ装置1の場合は車両の前後減速度を検出する加速度センサ等を用いてもよい。もしくは、制御装置2において、アクチュエータ剛性とモータ角度との相関、アクチュエータ荷重とモータトルクとの相関、等の所定の相関関係に基づき、荷重センサを設けずにセンサレス推定を行ってもよい。
【0027】
<パーキングブレーキ機構の構成例>
図1および
図2に示すように、パーキングブレーキ機構7は、電動モータ4の駆動力によらずブレーキロータ8と摩擦材9との接触によるブレーキ力を保持する機構である。パーキングブレーキ機構7は、電動モータ4の回転に同期して運動する被係合部Hkと、この被係合部Hkの各孔haに対し可動部15を係合・離脱可能に駆動する駆動源であるソレノイド16とを有する。
【0028】
被係合部Hkとして、この例では減速機5の中間歯車13が適用され、この中間歯車13の回転軸方向端面に複数(この例では6個)の孔haが円周等配に設けられている。
図2(a)は中間歯車13の正面図であり、
図2(b)は
図2(a)のII(b)-II(b)線断面図であり、
図2(c)は
図2(a)のII(c)-II(c)線断面図である。
図2(a)~(c)に示すように、前記各孔haは、中間歯車13の第一の歯車形状部13aの軸方向に貫通する貫通孔であり、かつ、円周方向に所定長さ円弧状に延びる長孔である。
【0029】
図2および
図3に示すように、本構造にてパーキングブレーキ機構7のロックを行う際は、ハウジング等の静止系に保持されて対向するソレノイド16から係止ピンである可動部15が突出し、いずれかの前記孔haと係合することにより電動モータ4(
図1)の回転が阻害され、被係合部Hkと可動部15との接触面の摩擦力により係合状態が保持される。よって、電動モータ4(
図1)の駆動力によらずパーキングブレーキ機構7のロック状態が維持される。被係合部Hkと可動部15とは、電動モータ4(
図1)が定められた角度を回転する度に係合可能な位置関係となる係合ピッチPcとされている。
【0030】
図1および
図2に示すように、ソレノイド16は、ソレノイドコイルにより励磁磁界を発生させて、電磁力により係止ピンである可動部15を駆動し、対向する減速機5の被係合部Hkの孔haに可動部15が係合することにより、電動モータ4と連動する中間歯車13の回転をロックすることでパーキングブレーキ機構7のロック状態にする。可動部15を前記被係合部Hkの孔haから離脱させることで中間歯車13の回転を許容し、パーキングブレーキ機構7のロック解除状態(リリース状態)とする。
【0031】
この構成において、可動部15を被係合部Hkから離反させた状態に保持するバネ等の付勢手段(図示せず)をソレノイド16に設け、極性によらず通電によって前記付勢手段の付勢力を上回る電磁力を発生させてロック可能な状態とする構成とすると、安価で省電力となり好適である。但し、ソレノイド16は、例えば、係止ピンである可動部15に磁石等の界磁部を設け、ソレノイドコイルの電流の向きによって、可動部15を双方向に駆動する構成としてもよい。
【0032】
前記ソレノイド16に代えて、DCモータおよびねじ機構を設けることで被係合部Hkをロックする構成とすることもできる。また被係合部Hkは、減速機5に設けることで省スペースとなり好適であるが、例えば、電動モータ4の回転子または直動機構6等、モータ回転に連動して動作する何れの箇所に設けてもよい。
その他、図示外の要素として、サーミスタ等の各種センサ類を要件に応じて別途設けてもよい。
【0033】
<制御装置の構成>
図4は、この電動ブレーキ装置1の制御系のブロック図である。例えば、各車輪に対応する制御装置2およびブレーキアクチュエータBAが設けられている。各制御装置2は対応する電動モータ4を制御する。各制御装置2に、直流の電源装置3、ブレーキ指令手段であるブレーキペダルBp、パーキングブレーキ指令手段であるパーキングブレーキスイッチPsがそれぞれ接続されている。電源装置3は、例えば、自動車用の電動ブレーキ装置1においては、低電圧(例えば12V)バッテリ、または高電圧バッテリを降圧する降圧コンバータ等を用いることができる。もしくは、電源装置3は、高容量のキャパシタ等を用いるか、あるいはこれらを並列使用して冗長化してもよい。
【0034】
ブレーキペダルBpは、操作者による操作量に応じて変化するセンサの出力をブレーキ指令信号(目標ブレーキ力)として各制御装置2に与える。なお、ブレーキ指令手段は、ボリューム、ジョイスティック、スイッチ等の操作者が操作可能な各種操作手段であってもよい。その他、ブレーキ指令手段は、例えば自動運転車両のように車両の状態および各種センサ等の情報から、操作手段の操作に依ることなく自動的に指令値(ブレーキ指令信号)を求めて出力することも可能である。
【0035】
パーキングブレーキスイッチPsは、操作者が操作可能なスイッチであり、前記パーキングブレーキ機構7を用いて、ブレーキ力をブレーキペダルBpによるブレーキ指令信号に追従させず定められたブレーキ力を保持したパーキングブレーキ状態とするか否かの指示を制御装置2に送信する。
【0036】
各制御装置2は、制御演算を行う各種制御演算器と、モータドライバ18と、ソレノイドドライバ19と、電流センサ20とを備える。前記各種制御演算器は、ブレーキ力推定手段21、運動状態推定器22、制御演算器23およびパーキングブレーキ制御器24を備える。
ブレーキ力推定手段21は、荷重センサSbの出力から、ブレーキアクチュエータBAが外部に作用させる負荷であるブレーキ力を推定する。なおブレーキ力推定手段21は、前述の通り、荷重センサSbを用いないセンサレス推定を行ってもよい。
【0037】
モータ運動推定手段である運動状態推定器22は、角度センサSaの出力から、電動モータ4の回転運動状態を推定する。この運動状態推定器22は、電動モータ4の回転子の角度(回転角度)を推定する角度推定部22aと、電動モータ4の角速度を推定する角速度推定部22bとを有する。あるいは、運動状態推定器22は、例えば、電動モータ4の角加速度等の所定の微積分値を推定する機能、および外乱を推定する機能等を設けてもよい。
【0038】
角度推定部22aは、電動モータ4の回転角度を推定する際、例えば、電流制御に用いる電気角位相、または角度制御に用いる角度センサSaのオーバーラップおよびアンダーラップを補正した総回転角度等、制御構成に基づいて必要な物理量を適宜求める機能を有する。その他、前記回転角度および角速度は、電動モータ4の回転子に代えて、例えば、減速比に基づいて求めた減速機5の所定部位の角度等、または等価リード等に基づいて求めた位置および速度であってもよい。前記物理量の推定は、例えば、状態推定オブザーバ等の構成を用いてもよく、微分または慣性方程式に基づく逆算等の直接的な演算であってもよい。
【0039】
電流センサ20は、例えば、シャント抵抗両端の電圧を検出するアンプから成るセンサ、または電動モータ4の相電流の通電経路周囲の磁束等を検出する非接触式センサ等を用いることができる。電流センサ20は、他の構成として、例えば、モータドライバ18を構成する素子等の端子電圧等を検出する構成としてもよい。また、電流センサ20は、電動モータ相間に設けてもよく、ローサイドないしハイサイドに一つあるいは複数設けてもよい。もしくは、制御装置2は、一切の電流センサを設けずに、電動モータ4のインダクタンスまたは抵抗値等のモータ特性等に基づいてフィードフォワード制御を行うこともできる。
【0040】
アクチュエータ制御器である制御演算器23は、ブレーキペダルBpから与えられたブレーキ指令信号に対してブレーキ力を追従させるための操作量(電動モータ操作量)を算出する。つまり制御演算器23は、所定の指令入力に対してブレーキアクチュエータBAが望ましく追従するための操作量を求め、モータ駆動信号に変換する機能を有する。制御演算器23は、主にブレーキ荷重(ブレーキ力)を制御するためのブレーキ荷重制御部23aと、モータ角度を制御するためのモータ角度制御部23bとを備え、要件に応じてブレーキ荷重制御部23aとモータ角度制御部23bとを切り替える。また、制御演算器23は、図示外の機能として、モータ電流を制御するための電流制御器、およびモータ出力特性に基づいて望ましいモータトルクを発揮するためのモータ電流を導出する機能を設けると高機能な制御を実行できて好ましい。
【0041】
パーキングブレーキ制御器24は、電動モータ4とソレノイド16とを連携させて、パーキングブレーキ状態への移行およびパーキングブレーキ状態の解除を行うための制御演算機能を有する。パーキングブレーキ制御器24は、パーキングブレーキ状態へ移行するためのロック制御部24aと、パーキングブレーキ状態を解除するためのリリース制御部24bとを有する。ロック制御部24aとリリース制御部24bを切り替える制御切替信号がパーキングブレーキ制御器24から制御演算器23に出力される。
【0042】
パーキングブレーキ状態においては、ソレノイド16の係止ピンである可動部15等により被係合部Hkがロックされたロック状態となり、このロック状態は被係合部Hkの接触箇所に逆入力が作用することによる摩擦力によって、電動モータ4に駆動電力を発生させることなく(換言すれば、モータ電力を消費することなく)保持される。このとき、電動モータ4は通電を停止した失陥状態であってもよく、あるいはトルク零等の省電力で制御を実行し続ける状態であってもよく、あるいはこれらの組み合わせであってもよい。
【0043】
ロック制御部24aは、第一のパーキングブレーキ(PKB)動作部24aaと、第二のパーキングブレーキ(PKB)動作部24abと、第三のパーキングブレーキ動作部(PKB)24acとを有する。第一のPKB動作部24aaは、パーキングブレーキ状態ではないパーキングブレーキ解除中、パーキングブレーキスイッチPsによりパーキングブレーキ状態とする指示を受信したとき、ブレーキペダルBpによらずブレーキ力を発揮させ、少なくともブレーキ力推定手段21に基づいて、パーキングブレーキ状態において発揮させるべきブレーキ力を上回るブレーキ力を発揮した状態になったことを判断する。
【0044】
第二のPKB動作部24abは、第一のPKB動作部24aaの判断の後、可動部15を被係合部Hkに係合させる状態とし、少なくとも運動状態推定器22に基づいて電動モータ4をブレーキ力が減圧する方向に回転させることで、被係合部Hkおよび可動部15が係合して電動モータ4の回転が阻害された状態とする。
第三のPKB動作部24acは、第二のPKB動作部24abの実行後、電動モータ4に駆動電力を発生させないパーキングブレーキ状態とする。
これらは、基本的に、第一のPKB動作部24aa、第二のPKB動作部24ab、第三のPKB動作部24acの順で実行され、第三のPKB動作部24acの実行が正常に完了した状態がパーキングブレーキ状態となる。
【0045】
リリース制御部24bは、第一のパーキングブレーキ(PKB)解除動作部24baと、第二のパーキングブレーキ(PKB)解除動作部24bbとを有する。第一のPKB解除動作部24baは、パーキングブレーキ状態で、パーキングブレーキスイッチPsによりパーキングブレーキ状態を解除する指示を受信したとき、可動部15を被係合部Hkに対して離脱させる状態とし、少なくともブレーキ力推定手段21および運動状態推定器22のいずれか一方または両方に基づいて、パーキングブレーキ解除を開始した状態から電動モータ4をブレーキ力が増圧する方向に回転させて、電動モータ4の回転状態を可動部15が離脱可能な状態とする。つまり第一のPKB解除動作部24baは、ブレーキ荷重がパーキングブレーキ状態よりも増加するよう電動モータ4を所定量回転させ、被係合部Hkに対し係止ピンである可動部15が離脱可能な状態とする。
【0046】
第二のPKB解除動作部24bbは、第一のPKB解除動作部24baの実行後、少なくともブレーキ力推定手段21および運動状態推定器22のいずれか一方または両方に基づいて、電動モータ4を回転させ、この電動モータ4の回転量が所定量超過したことからパーキングブレーキ解除が完了したことを判断する。つまり第二のPKB解除動作部24bbは、ブレーキ荷重が少なくともパーキングブレーキ状態より減少するよう電動モータ4を所定量回転させる。
【0047】
これらは、基本的に、第一のPKB解除動作部24ba、第二のPKB解除動作部24bbの順で実行され、第二のPKB解除動作部24bbの実行が正常に完了した状態がパーキングブレーキ解除状態すなわちサービスブレーキ状態となる。
以上の各種演算機能は、例えば、マイクロコンピュータ、FPGA、ASIC等の演算器および周辺回路により構成すると、安価で高性能となり好適である。
【0048】
モータドライバ18は、電動モータ4に供給する電力を制御する。駆動回路であるモータドライバ18は、例えば、電界効果トランジスタ(Field effect transistor;略称FET)等のスイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路を構成し、前記スイッチ素子のON-OFFデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う構成とすると安価で高性能となる。あるいは、変圧回路等を設け、PAM制御を行う構成とすることもできる。
【0049】
ソレノイドドライバ19は、パーキングブレーキ制御器24から与えられるソレノイドON/OFF信号によりソレノイド16を駆動制御する。ソレノイドドライバ19は、例えば、電界効果トランジスタまたはバイポーラトランジスタ等のスイッチ素子により構成すると安価で好適である。離反バネを有するソレノイド16の場合、前記スイッチ素子は電源装置3からソレノイド16への通電を接続/遮断するスイッチか、あるいはソレノイド16からGNDへの通電を接続/遮断するスイッチとして一つ設ければよいが、その両方を設けて冗長化する構成とすることもできる。双方向駆動するソレノイドまたはDCモータ等の場合、最小でスイッチ素子を四個備えるブリッジ回路を構成してもよい。
【0050】
図示外の要素として、モータドライバ18またはソレノイドドライバ19には、直接電源装置3からの電力を供給し、前記各種制御演算器等には、制御装置2内で小型の降圧コンバータを適用する構成が好ましいが、モータドライバ18およびソレノイドドライバ19のいずれか一方または両方には昇圧コンバータを介して電力を供給する構成としてもよい。
【0051】
<パーキングブレーキ制御器24の基本動作フロー>
図5は、パーキングブレーキ制御器24の基本動作を表すフローチャートである。以後、
図4も適宜参照しつつ説明する。
本処理開始後、パーキングブレーキ制御器24は、パーキングブレーキの動作状態についての判断を行う(ステップS1)。ステップS1において、パーキングブレーキ解除状態、すなわちサービスブレーキ中と判断された場合、パーキングブレーキ制御器24は、パーキングブレーキ指令について、パーキングブレーキ動作要求であるか、パーキングブレーキ解除要求であるかを判断する(ステップS2)。
【0052】
前記パーキングブレーキ動作要求として、例えば、パーキングブレーキスイッチPsがONの場合はパーキングブレーキ動作要求、パーキングブレーキスイッチPsがOFFの場合はパーキングブレーキ解除要求としてもよい。あるいは、3状態以上を有するスイッチ(例えば、ON1-ON2-OFFの切替)を用いて、パーキングブレーキスイッチPsがON1の場合はパーキングブレーキ動作要求、パーキングブレーキスイッチPsがON2の場合はパーキングブレーキ解除要求、パーキングブレーキスイッチPsがOFFの場合は前記状態の保持、とすることもできる。これらはパーキングブレーキ指令手段として上位ECUからの指令信号を用いる場合においても同様である。
【0053】
ステップS2においてパーキングブレーキ解除要求である場合、サービスブレーキ状態とする(ステップS3)。ステップS2でパーキングブレーキ動作要求である場合、パーキングブレーキのロック動作状態に移行する(ステップS4)。
ステップS1においてロック動作中であると判断された場合、パーキングブレーキロック動作を行う(ステップS5)。次に、パーキングブレーキ制御器24は、パーキングブレーキロック動作が完了したかどうかの判断を行い(ステップS6)、完了していればパーキングブレーキ状態に移行する(ステップS7)。
【0054】
ステップS1において、パーキングブレーキ状態であると判断された場合、パーキングブレーキ制御器24は、パーキングブレーキ指令について、パーキングブレーキ動作要求であるか、パーキングブレーキ解除要求であるかを判断する(ステップS8)。パーキングブレーキ解除要求であった場合は、パーキングブレーキ中に所定の待機状態となる電動モータ4の駆動を開始し(ステップS26)、リリース動作状態に移行する(ステップS9)。
【0055】
ステップS1において、リリース動作中であると判断された場合、リリース動作を行う(ステップS10)。パーキングブレーキ制御器24は、リリース動作が完了しているかを判断し(ステップS11)、リリース動作が完了していればサービスブレーキ状態に移行する(ステップS12)。
【0056】
<ロック動作についてのフロー>
図6は、
図5のS5に記載のロック動作についてのフローチャートである。
本処理開始後、ロック制御部24aは、フロー実行状態が初回実行であるかどうかを判断し(ステップS13)、初回実行であれば現在の動作状態を第一のPKB動作状態に初期化する(ステップS14)。前記初回実行とは、パーキングブレーキロック動作が非動作状態から動作状態となってから初回である場合を示す。
【0057】
次に、パーキングブレーキロック動作状態を判断し(ステップS15)、第一のPKB動作状態の場合は第一のPKB動作部24aaによりブレーキ荷重を増圧する(ステップS16)。次に、所定のブレーキ荷重にまで到達したかどうかを判断し(ステップS17)、到達していれば(ステップS17:yes)、第二のPKB動作状態に移行する(ステップS18)。前記所定のブレーキ荷重は、例えば、ターゲットであるパーキングブレーキ荷重に被係合部Hkの孔haの係合ピッチPc(
図3)等に起因する保持荷重精度等の影響を考慮したバイアス量を加えたブレーキ荷重とすると好ましい。
【0058】
ステップS15にて第二のPKB動作状態であると判断された場合、第二のPKB動作部24abは、可動部15が突出するようソレノイド16を駆動する(ステップS19)。本
図6はソレノイド16を用いる例を示すが、DCモータ等を用いる場合でも係止ピンに相当する可動部15が被係合部Hkに対して近接するよう駆動する操作は同様となる。また、可動部15の突出時間が無視できない場合、ソレノイド16を駆動した状態で所定の待機時間を設けてもよい。
【0059】
第二のPKB動作部24abは、ソレノイド16を駆動した状態で、電動モータ4を減圧方向に回転する(ステップS20)。この電動モータ4の回転は、ブレーキ荷重制御、モータ角度制御、モータ角速度制御、等を用いて回転させてもよく、あるいはモータ電流を徐々に低下させてブレーキ反力により回転させてもよい。次に、ロック制御部24aは、ロックが完了したか否かを判断し(ステップS21)、ロック完了していたら(ステップS21:yes)ソレノイド16の駆動を停止し(ステップS22)、第三のPKB動作状態に移行する(ステップS23)。
【0060】
前記ロック完了の判断については、ステップS20にて電動モータ4を回転させると係止ピンと孔との位相が略一致したところで係止ピンが孔と係合し、さらに回転方向に対して被係合部Hkの隙間が無くなり電動モータ4の回転が阻害されたことを判断すればよく、例えば、外乱オブザーバ等を設ける場合は推定外乱の向きまたは大きさから判断することができる。具体的には、ロック制御部24aは、少なくとも運動状態推定器22に基づいて、電動モータ4に作用する外乱トルクを推定する機能を有し、ロック制御部24aは、第二のパーキングブレーキ動作部24abの実行中、推定された前記外乱トルクについて、ブレーキ増圧方向に相当する方向に定められたトルクより大きな外乱トルクが推定されたとき、パーキングブレーキ機構7の係合により電動モータ4の回転が阻害されたと判断する。
【0061】
ロック完了の他の判断として、例えば、ステップS20においてモータ角度制御または角速度制御により電動モータ4を回転させる場合は減圧方向に比較的大きなモータ電流が発生したことを検出して判断してもよい。具体的には、ロック制御部24aは、第二のPKB動作部24aaの実行中、推定された電動モータ4の電流について、ブレーキ減圧方向に相当する方向にトルクを発生させる定められた電流より大きな電流が推定されたとき、パーキングブレーキ機構7の係合により電動モータ4の回転が阻害されたと判断する。その他、例えば、ステップS20においてモータ電流を低下させてブレーキ反力により回転させる場合は、電動モータ4の回転が停止したことを検出して判断してもよい。
【0062】
なお、被係合部Hkの孔haが
図2(a)のような、モータ回転を相方向に拘束可能な形状である場合は、ステップS20において、電動モータ4を増圧方向に回転させてもよい。この場合、増圧側に電動モータ4が回転する状況で係止ピンと孔haとの位相が略一致したところで、係止ピンが孔haと係合して電動モータ4の回転が阻害されたことを判断し、その状態から孔haの隙間に相当し得る角度分、電動モータ4を減圧方向に駆動し、再度、電動モータ4の回転が阻害されたことを判断することにより、ロック完了を判断することができる。この場合、前述のステップS20にて電動モータ4を減圧方向に回転させる手法に対し、フローが複雑になり動作時間が延びる点が不利となるものの、より確実にパーキングブレーキ荷重を上回るブレーキ荷重が保持できる点が優位となる。
【0063】
ステップS15にて第三のPKB動作状態であると判断された場合、第三のPKB動作部24acは、電動モータ4の駆動を停止し(ステップS24)、ロック動作完了状態とする(ステップS25)。電動モータ4の駆動停止方法として、例えば、トルク相当の操作量(線間電圧、相電流など)が零となる制御状態としてもよく、モータドライバ18への電力供給および回路駆動信号の少なくともいずれか一方または両方を遮断してもよく、制御装置2の再起動に必要な機能を除いた全ての機能をシャットダウンしてもよい。
【0064】
操作量が零となる制御状態とする場合、以降にパーキングブレーキ解除要求が指令された際に迅速なモータ駆動が可能となる。なお、操作量が零とは、概ね零とみなせる微小な操作量も含まれるものとする。
電動モータ駆動回路への電力供給および駆動回路信号のいずれか一方または両方を遮断する場合、再度電動モータ4を駆動するまでのタイムラグが延長される点が不利となるものの、電動モータ4の駆動停止中の消費電力をより低減できる点が有利となる。
制御装置2の再起動に必要な機能を除いた全ての機能をシャットダウンする場合、再度電動モータ4を駆動するまでのタイムラグが最も長くなる点が不利となるものの、電動モータ4の駆動停止中の消費電力を最も低減できる点が有利となる。
【0065】
<リリース動作についてのフロー>
図7は、
図5のS10に記載のリリース動作についてのフローチャートである。
本処理開始後、リリース制御部24bは、フロー実行状態が初回実行であるかどうかを判断し(ステップS27)、初回実行であれば現在の動作状態を第一のPKB解除動作状態に初期化する(ステップS28)。なお、初回動作とは、パーキングブレーキリリース動作が非動作状態から動作状態となってから初回である場合を示す。
【0066】
次に、パーキングブレーキリリース動作状態について判断し(ステップS29)、第一のPKB解除動作状態である場合は第一のPKB解除動作部24baにより電動モータ4を増圧方向に回転させる(ステップS30)。この電動モータ4の回転は、ブレーキ荷重制御、モータ角度制御、モータ角速度制御、等を用いて回転させてもよく、あるいはモータ電流を徐々に増加させることで回転させてもよい。
【0067】
次に、リリース制御部24bは電動モータ4が所定量回転したかを判断し(ステップS31)、所定量回転した場合(ステップS31:yes)、第二のPKB解除動作状態に移行する(ステップS32)。前記所定量は、例えば、パーキングブレーキ機構7の係合状態において電動モータ4の回転を拘束せしめる被係合部Hkの接触部が十分に乖離するモータ回転量として設定することができ、前記接触部が乖離すればソレノイド16の付勢手段によって係止ピンは被係合部Hkより離脱する。
【0068】
前記ソレノイド16として、ソレノイドコイルおよび付勢手段により駆動可能なソレノイドを用いる例を示すが、例えば、双方向に駆動可能なソレノイドまたはDCモータを用いる場合、ステップS30の電動モータ4の回転と同時に係止ピンが被係合部Hkより離脱する方向に駆動することで、係止ピンを被係合部Hkより離脱させることができる。また、前記係止ピンまたは係止ピン相当の可動部15の突出時間が無視できない場合、ソレノイド16の可動部15を離脱させるための所定の待機時間を設けてもよい。
【0069】
ステップS29にて第二のPKB解除動作状態であると判断された場合、第二のPKB解除動作部24baにより減圧方向に電動モータ4を回転させる(ステップS33)。この電動モータ4の回転は、ブレーキ荷重制御、モータ角度制御、モータ角速度制御、等を用いて回転させてもよく、あるいはモータ電流を徐々に低下させてブレーキ反力により回転させてもよい。次に、電動モータ4が所定量回転したかどうかを判断し(ステップS34)、所定量回転していれば(ステップS34:yes)、リリース動作を完了する(ステップS35)。
【0070】
前記所定量は、例えば、パーキングブレーキリリース動作を開始する前にロックされていた電動モータ4の角度を記憶しておき、少なくとも前記角度よりも減圧側に電動モータ4が回転したことを判断するための所定量とすると、被係合部Hkに対し可動部15が離脱したことを確実に判断することができて好ましい。
なお、
図5~
図7の“スタート”および“リターン”は便宜上記載しているものであり、各図におけるスタートからリターン間のフローが必ずしも制御サイクル中で同期している必要はない。また、計算順序または判断方法などについては、本実施形態に記載に動作に矛盾が生じない範囲であれば、実装都合等により適宜改変可能であるものとする。
【0071】
図8は、パーキングブレーキ制御器24の状態遷移を示す図である。
初期状態として、パーキングブレーキ解除状態であればST0に遷移し、パーキングブレーキ状態であればST2に遷移する。前記パーキングブレーキ状態か否かについては、例えば、制御装置2にパーキングブレーキ状態で車両操作を終了したか否かを記憶する図示外の不揮発性記憶装置を設け、この不揮発性記憶装置に記憶された状態に基づいて判断してもよく、あるいは車両の上位ECU等から初期状態を指示される構成としてもよい。もしくは、
図6と共に前述した手法でロック状態か否かを判断し、前記ロック状態か否かの判断に基づいて、パーキングブレーキ状態か否かを決定してもよい。
【0072】
図8に示すように、サービスブレーキ状態(ST0)から、パーキングブレーキ要求が指令されると、パーキングブレーキロック動作状態(ST1)に遷移する。パーキングブレーキロック動作状態(ST1)から、ロック動作が完了すると、パーキングブレーキ状態(ST2)に遷移する。また、ロック動作中にパーキングブレーキ解除要求が指令され、かつロック動作が中断可能である場合は、サービスブレーキ状態(ST0)に遷移する。具体的には、制御装置2は、第一のPKB動作部24aaの実行中、パーキングブレーキスイッチPsによりパーキングブレーキ状態を解除する指示を受信したとき、ブレーキペダルBpによらずブレーキ力を発揮する状態から、ブレーキペダルBpから与えられた目標ブレーキ力に対してブレーキ力を追従制御する。前記ロック動作が中断可能である場合とは、例えば、ソレノイド16を駆動していない状態とすることができる。
【0073】
パーキングブレーキロック動作状態(ST1)から、ロック動作に失敗した場合はリトライ可能であれば再度パーキングブレーキロック動作状態(ST1)へと遷移する。具体的には、制御装置2は、第二のPKB動作部24abの実行中、少なくとも運動状態推定器22に基づいて、電動モータ4が係合ピッチPc(
図3)を超過して回転したときにパーキングブレーキ機構7の係合に失敗したことを判断し、一回以上は再び第一および第二のパーキングブレーキ動作を実行する。
【0074】
リトライ不可であれば、サービスブレーキ状態(ST0)へと遷移する。前記ロック動作の失敗は、例えば、第二のPKB動作(
図6)を実行中、電動モータ4がロックされないまま減圧方向に所定量より回転したことから判断してもよく、前記所定量は例えば被係合部Hkの係合ピッチ等に基づいて決定してもよい。また、前記リトライ可/不可は、例えば、制御装置2にリトライ回数を記憶する機能を設け、リトライ回数が所定値を超えた場合はリトライ不可としてもよい。前記リトライ不可が判断された場合、パーキングブレーキ動作異常をランプ等の手段により車両の操縦者に伝える機能を設けてもよい。
【0075】
パーキングブレーキ状態(ST2)から、パーキングブレーキ解除要求が指令されると、パーキングブレーキリリース動作状態(ST3)へと遷移する。パーキングブレーキリリース動作状態(ST3)から、リリース動作が完了するとサービスブレーキ状態(ST0)へと遷移する。パーキングブレーキリリース動作状態(ST3)において、パーキングブレーキ要求が指令されると、パーキングブレーキロック動作状態(ST1)へと遷移する。
【0076】
また、パーキングブレーキリリース動作状態(ST3)において、リリース動作に失敗した場合はリトライ可能であれば再度パーキングブレーキリリース動作状態(ST3)へと遷移する。具体的には、制御装置2は、第二のPKB解除動作部24bbの実行中、少なくとも運動状態推定器22に基づいて電動モータ4の回転がパーキングブレーキ機構7により阻害されたことを判断したときにパーキングブレーキ解除に失敗したことを判断し、一回以上は再び第一のPKB解除動作部24baを実行する。
【0077】
リトライ不可であれば、パーキングブレーキ状態(ST2)へと遷移する。前記リリース動作の失敗は、例えば、第二のPKB解除動作(
図7)を実行中、電動モータ4がロックされたことから判断してもよい。また、前記リトライ可/不可は、例えば、制御装置2にリトライ回数を記憶する機能を設け、リトライ回数が所定値を超えた場合はリトライ不可としてもよい。前記リトライ不可が判断された場合、パーキングブレーキ動作異常をランプ等の手段により車両の操縦者に伝える機能を設けてもよい。
【0078】
<パーキングブレーキ機構7の動作例>
図9は、電動ブレーキ装置の動作例を示す図である。
時刻t1において、第一のPKB動作が開始されると、所定のブレーキ荷重へと上昇させる。時刻t2で所定のブレーキ荷重にまで到達すると、第二のPKB動作状態に移行する。次にソレノイド16を駆動した状態で、電動モータ4を減圧方向に回転させる。被係合部Hkとソレノイド16の可動部15との位置関係が係合する所定位置にくると、ソレノイド16により被係合部Hkがロックされて電動モータ4の回転が阻害された状態となる(時刻t3)。その後、電動モータ4の駆動を停止し、ロック動作完了状態とする(時刻t3→t4)。
【0079】
時刻t4よりリリース動作が開始され、電動モータ4をブレーキ荷重が増圧する方向に所定量回転させた後、ソレノイド16の可動部15が確実に離脱するまでの時間、電動モータ角度を概ね一定に維持する。その後、時刻5より電動モータ4を減圧方向に回転させ、時刻t6で電動モータ4が所定量回転されたことからロックが解除されていることを確認し、リリース動作は完了となる。
【0080】
<作用効果>
以上説明した電動ブレーキ装置1によれば、制御装置2は、パーキングブレーキ解除中、ブレーキペダルBpから与えられた目標ブレーキ力に対してブレーキ力を追従制御する。
パーキングブレーキスイッチPsがパーキングブレーキ状態とする指示を制御装置2に送信すると、順次、第一のパーキングブレーキ動作部24aa、第二のパーキングブレーキ動作部24ab、第三のパーキングブレーキ動作部24acを実行する。
【0081】
先ず、第一のPKB動作部24aaは、パーキングブレーキ解除中、パーキングブレーキ状態とする指示を受信したとき、ブレーキペダルBpによらずブレーキ力を発揮させる。第一のPKB動作部24aaは、さらにパーキングブレーキ状態において発揮させるべきブレーキ力を上回るブレーキ力を発揮した状態になったことを判断する。
この判断の後、第二のPKB動作部24abは、可動部15を被係合部Hkに係合させる状態とし、電動モータ4をブレーキ力が減圧する方向に回転させる。これにより被係合部Hkおよび可動部15が係合するいわゆるロック状態とする。
その後、第三のPKB動作部24acが電動モータ4に駆動電力を発生させないパーキングブレーキ状態とする。
【0082】
このようにパーキングブレーキ状態へと移行する際に、パーキングブレーキ相当のブレーキ力を発揮する動作と、パーキングブレーキ機構7のロックを行う動作と、パーキングブレーキ状態を維持したまま電動モータ4の電力消費を抑制する動作と、を順次行うことで、誤動作が少なく正確なパーキングブレーキ動作が可能となる。
またパーキングブレーキ制御器24のリリース制御部24bは、パーキングブレーキ状態から、増圧側に電動モータ4を回転させて被係合部Hkに対し可動部15を離脱させる動作と、減圧してパーキングブレーキ荷重を解除する動作と、を順次行うことで、誤動作が少なく正確なパーキングブレーキ解除動作が可能となる。
【0083】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0084】
図10は、例えば、車両全般を制御する車両統合制御装置(Vehicle Control Unit, VCU)等の上位ECU17が、ブレーキ指令手段17aおよびパーキングブレーキ指令手段17bを有する例を示す。上位ECU17におけるブレーキ指令手段17aは、目標ブレーキ力であるブレーキ指令信号を制御装置2に送信し、パーキングブレーキ指令手段17bは、パーキングブレーキ状態とするか否かの指示を制御装置2に送信する。上位ECU17の機能として、前記ブレーキペダル等の操作状態からブレーキ指令信号を生成する機能であってもよく、自動ブレーキ、自動運転等の操縦者によらない指令信号を生成する機能であってもよい。
【0085】
図4、
図10を併用する構成としてもよい。例えば、ブレーキ指令手段17aはブレーキペダルBpの操作に基づき、パーキングブレーキ指令手段17bは上位ECU17からの指令信号であってもよい。または、反対に、ブレーキ指令手段17aは上位ECU17からの指令信号であり、パーキングブレーキ指令手段17bはパーキングブレーキスイッチPs等であってもよい。
【0086】
図4、
図10の想像線で示すように、パーキングブレーキ制御器24において、電流センサ20の出力を取得してもよい。この電流センサ値は、前述のようにパーキングブレーキ動作において、電動モータ4がロックされたか否かの判断に用いることができる。
その他
図4、
図10に示す機能ブロックはあくまで記述の便宜上設けたものであり、ハードウェアないしソフトウェアの構成またはパーティション等を制約し得るものではない。ソフトウェアおよびハードウェアの具体的構成は、
図4、
図10に示す機能に支障がない範囲で任意に構成し得るものとし、また必要に応じて本図に示す各ブロックの機能を統合ないし分割してもよい。あるいは、本図の機能に支障がない範囲で図示外の要素を加えることも可能であり、例えば、電動ブレーキ装置のアンチスキッド制御、ブレーキ解除時のパッドクリアランス制御、横滑り防止制御、等の付加制御、およびその他セーフティメカニズム等をシステム要件に基づいて適宜加えてもよい。
【0087】
<被係合部Hkの他の構造例>
図11(a)は他の第一の歯車形状部13aの正面図であり、
図11(b)は
図11(a)のXI(b)-XI(b)線断面図であり、
図11(c)は
図11(a)のXI(c)-XI(c)線断面図である。
図11では、被係合部Hkに、回転方向一方向にのみ係合部をロック可能とし、反対方向である回転方向他方向にロック解除可能な傾斜面34を有する周方向長孔形状の貫通孔haを設けている。
【0088】
前記傾斜面34は、係合部の駆動方向に対して所定角度に設定され、係合部の突出方向に向かうに従って貫通孔haが円周方向に狭くなる傾斜角度である。また傾斜面34は、係合部の外周面形状に合わせて湾曲するように形成されている。ロック解除時、電動モータの駆動により第一の歯車形状部13aを回転方向他方向に回転させることで、傾斜面34に沿って係合部の先端部分が退縮することでロック解除可能となる。また第二の歯車形状部13bの最外径寸法は前記貫通孔haよりも半径方向内方に配置されている。
【0089】
本図の例は、孔形状が比較的複雑となるものの、例えば、電動ブレーキ装置のパーキングブレーキ機構のように一方向についてのみ逆入力を保持すればよい場合、この逆入力保持と反対方向に電動モータを回転させることで係合部の係合を解除できるため、
図2の構造例よりさらに信頼性の高い動作を行うことができる。
【0090】
図12(a)はその他の第一の歯車形状部13aの正面図であり、
図12(b)は
図12(a)のXII(b)-XII(b)線断面図であり、
図12(c)は
図12(a)のXII(c)-XII(c)線断面図である。
図12は、被係合部Hkに、可動部が係合・離脱
する径方向に延びる溝mzを円周等配に複数設ける例を示す。本図の例は、形状が単純であり加工コストを低減できる点で優位となり、また第一の歯車形状部13aの外径寸法に対し第二の歯車形状部13bの外径寸法の差が比較的小さい場合においても、各溝mzが第一の歯車形状部13aを貫通しないため第一,第二の歯車形状部13a,13bを単一部材として一体に構成できる点が好ましい。
【0091】
図13(a)はその他の第一の歯車形状部13aの正面図であり、
図13(b)は
図13(a)のXIII(b)-XIII(b)線断面図である。
図13では、被係合部Hkに、可動部が係合・離脱可能な貫通孔haを円周等配に複数(この例では10個)設け、各貫通孔haが単純な丸孔形状から成る。また第二の歯車形状部13bの最外径寸法が前記貫通孔haよりも半径方向内方に配置されている。
本図の例は孔形状が単純であり加工コストを低減できる点で優位となり、また比較的短いピッチPcで多数の孔を設けることができるため、逆入力保持する保持荷重の精度を向上することができる。
【0092】
図14(a)はその他の第一の歯車形状部13aの正面図であり、
図14(b)は
図14(a)のXIV(b)-XIV(b)線断面図であり、
図14(c)は
図14(a)のXIV(c)-XIV(c)線断面図である。
図14では、
図11と同様に、被係合部Hkに、回転方向一方向にのみ係合部をロック可能とし、反対方向である回転方向他方向にロック解除可能な傾斜面34を有する周方向長孔形状の溝mzを設けている。
【0093】
本
図14の例は、孔形状が比較的複雑となるものの、例えば、電動ブレーキ装置のパーキングブレーキ機構のように一方向についてのみ逆入力を保持すればよい場合、この逆入力保持と反対方向に電動モータを回転させることで係合部の係合を解除できるため、
図2の構造例よりさらに信頼性の高い動作を行うことができる。また各溝mzが第一の歯車形状部13aを貫通しないため第一,第二の歯車形状部13a,13bを単一部材として一体に構成できる点が好ましい。
【0094】
図15(a)はその他の第一の歯車形状部13aの正面図であり、
図15(b)は
図15(a)のXV(b)-XV(b)線断面図であり、
図15(c)は
図15(a)のXV(c)-XV(c) 線断面図である。
図15では、第一の歯車形状部13aの端面に突起部Tkを円周等配に複数設ける例を示す。円周方向に隣接する突起部Tk,Tk間の溝部35に、可動部が係合・離脱可能に構成される。この例の各突起部Tkは、第一の歯車形状部13aに一体に設けられるが、第一の歯車形状部13aに対して別部材として固定する構造としてもよい。
本図の例は、端面に突起部Tkを設けるのみであるため、加工コストに優れ、突起部Tkの形状の自由度が比較的高い点が好ましい。
【0095】
各実施形態では、歯車端面に係合用の孔haを設ける例を示しているが、係合用の孔haが設けられる部材であれば、歯車以外の部材に係合用の孔haを設けることができる。例えば、電動モータの回転軸の端面に係合用の孔を設け、ソレノイドを対向して配置することもできる。
電動モータ4として、例えば、ブラシを用いたDCモータ、永久磁石を用いないリラクタンスモータ、あるいは誘導モータ等を適用することもできる。
減速機5は、例えば、遊星歯車、ウォーム歯車、ハーモニック減速機等を用いてもよい。
直動機構6は、遊星ローラねじ、ボールねじ等の各種ねじ機構、ボールランプ等、回転軸周方向の傾斜により回転運動を直進運動に変換する各種機構を用いることができる。
【0096】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0097】
2…制御装置、4…電動モータ、6…直動機構(摩擦材操作手段)、7…パーキングブレーキ機構、8…ブレーキロータ、9…摩擦材、15…可動部、18…モータドライバ(駆動回路)、22…運動状態推定器(モータ運動推定手段)、23…制御演算器、24aa…第一のパーキングブレーキ動作部、24ab…第二のパーキングブレーキ動作部、24ac…第三のパーキングブレーキ動作部、24ba…第一のパーキングブレーキ解除動作部、24bb…第二のパーキングブレーキ解除動作部、Bp…ブレーキペダル(ブレーキ指令手段)、Hk…被係合部、Ps…パーキングブレーキスイッチ(パーキングブレーキ指令手段)