(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】スリットノズルおよび基板処理装置
(51)【国際特許分類】
B05C 5/02 20060101AFI20230316BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
B05C5/02
B05C11/10
(21)【出願番号】P 2019228994
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2021-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】安陪 裕滋
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-073928(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0287171(US,A1)
【文献】特開2017-060910(JP,A)
【文献】特開2016-179460(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102259076(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00-21/00
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対のリップ部がギャップを隔てて互いに対向することで、スリット状に開口する吐出口を形成するノズル本体と、
前記1対のリップ部を相対的に接近方向および離間方向に変位させて前記吐出口の開口幅を調整する調整機構と
を備え、
前記1対のリップ部の少なくとも一方において、他方の前記リップ部と対向する対向面とは反対側の面に前記吐出口の長手方向と平行な方向に沿った溝が設けられており、
前記調整機構は、前記溝を跨いで前記ノズル本体に設けられて、ねじ込み量の増減により前記溝の幅を変化させる調整ねじを含み、複数の前記調整ねじが前記長手方向に沿って配列されて、前記ノズル本体のうち前記溝を挟んで対向する部位の間隔を増減するように前記ノズル本体を変形させることにより前記開口幅を調整し、
前記溝は、前記長手方向における前記吐出口の端部に対応する位置で、前記長手方向における前記吐出口の中央部に対応する位置よりも深いスリットノズル。
【請求項2】
1対のリップ部がギャップを隔てて互いに対向することで、スリット状に開口する吐出口を形成するノズル本体と、
前記1対のリップ部を相対的に接近方向および離間方向に変位させて前記吐出口の開口幅を調整する調整機構と
を備え、
前記1対のリップ部の少なくとも一方において、他方の前記リップ部と対向する対向面とは反対側の面に前記吐出口の長手方向と平行な方向に沿った溝が設けられており、
前記調整機構は、前記溝を跨いで前記ノズル本体に設けられて、ねじ込み量の増減により前記溝の幅を変化させる調整ねじを含み、複数の前記調整ねじが前記長手方向に沿って配列されて、前記ノズル本体のうち前記溝を挟んで対向する部位の間隔を増減するように前記ノズル本体を変形させることにより前記開口幅を調整し、
前記溝の底部と前記対向面との間における前記リップ部の肉厚は、前記長手方向における前記吐出口の端部に対応する位置で、前記長手方向における前記吐出口の中央部に対応する位置よりも小さいスリットノズル。
【請求項3】
前記長手方向における前記吐出口の一方端部に対応する位置から他方端部に対応する位置までの間において、前記溝の深さが多段階に変化する請求項1または2に記載のスリットノズル。
【請求項4】
前記長手方向における前記吐出口の一方端部に対応する位置から他方端部に対応する位置までの間において、前記溝の深さが連続的に変化する請求項1または2に記載のスリットノズル。
【請求項5】
複数の
前記調整ねじの配列ピッチは、前記長手方向における前記吐出口の端部に対応する位置で、前記長手方向における前記吐出口の中央部に対応する位置よりも小さい請求項1ないし4のいずれかに記載のスリットノズル。
【請求項6】
前記溝および前記調整機構が、前記1対のリップ部それぞれに対応して設けられている請求項1ないし5のいずれかに記載のスリットノズル。
【請求項7】
前記溝および前記調整ねじが前記1対のリップ部それぞれに対応して設けられ、前記1対のリップ部のうち一方の前記リップ部に設けられた前記調整ねじと、他方の前記リップ部に設けられた前記調整ねじとの間で前記長手方向における配設位置が互いに異なっている請求項1ないし5のいずれかに記載のスリットノズル。
【請求項8】
前記ノズル本体は、それぞれが前記リップ部を有する第1本体部材と第2本体部材とが結合されることにより形成される請求項1ないし7のいずれかに記載のスリットノズル。
【請求項9】
前記第1本体部材と前記第2本体部材とが、前記ギャップを規定するシムを挟んで結合されている請求項8に記載のスリットノズル。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載のスリットノズルと、
前記スリットノズルの前記吐出口と対向させて基板を配置するとともに、前記スリットノズルと前記基板とを前記長手方向と交わる方向に相対移動させる相対移動機構と、
前記スリットノズルに処理液を供給する処理液供給部と
を備え、前記吐出口から吐出した前記処理液を前記基板の表面に塗布する基板処理装置。
【請求項11】
前記基板の表面に、前記処理液による一様な塗布膜を形成する請求項1
0に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スリット状の吐出口を有するスリットノズルおよび当該スリットノズルを用いて基板に処理液を塗布する基板処理装置に関するものである。なお、上記基板には、半導体基板、フォトマスク用基板、液晶表示用基板、有機EL表示用基板、プラズマ表示用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置などの電子デバイス等の製造工程では、基板の表面に処理液を供給し、当該処理液を基板に塗布する基板処理装置が用いられている。基板処理装置は、基板を浮上させた状態で当該基板を搬送しながら処理液をスリットノズルに送給してスリットノズルの吐出口から基板の表面に吐出して基板のほぼ全体に処理液を塗布する。また、別の基板処理装置は、ステージ上で基板を吸着保持しながら、スリットノズルの吐出口から基板の表面に向けて吐出した状態でスリットノズルを基板に対して相対移動させて基板のほぼ全体に処理液を塗布する。
【0003】
近年製品の高品質化に伴って、基板処理装置により塗布される処理液の膜厚の均一性を高めることが重要となっている。この目的のために、スリット状の吐出口における開口寸法を、スリットの長手方向に沿った位置ごとに個別に調整することを可能とするための構成が提案されている。例えば特許文献1には、2つの部材を組み合わせてそれらの間のギャップを吐出口とする構成における調整機構として、差動ねじを長手方向に複数配列した従来の構成(
図8)と、一方部材を長手方向に分割して吐出口の中央部と端部とで独立したギャップ調整を可能とした発明に係る構成(
図2)とが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子デバイスの微細化や材料の効率的利用等の見地から、塗布の均一性に関してこれまで以上に高い水準が求められるようになってきている。このため、吐出口の長手方向にわたる全域において、吐出量をきめ細かく調整することが必要となっている。しかしながら、上記従来技術はこのような要求に対応することができなかった。特に、長手方向における吐出口の中央部付近と端部付近とでは、吐出口の開口幅を同じように変化させたとしても吐出量の変化は必ずしも同じにならない。つまり、開口幅の調整に対する吐出量の応答感度が、吐出口の中央部と端部とで異なっている。このため、吐出口の中央部から端部まで吐出量を均一に揃えるための微調整の作業が煩雑になりがちである。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、スリット状の吐出口を有するスリットノズルおよびこれを備え基板に処理液を塗布する基板処理装置において、吐出口の中央部と端部との間で吐出量を均一化するための作業を効率的に行うことのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るスリットノズルの一の態様は、上記目的を達成するため、1対のリップ部がギャップを隔てて互いに対向することで、スリット状に開口する吐出口を形成するノズル本体と、前記1対のリップ部を相対的に接近方向および離間方向に変位させて前記吐出口の開口幅を調整する調整機構とを備え、前記1対のリップ部の少なくとも一方において、他方の前記リップ部と対向する対向面とは反対側の面に前記吐出口の長手方向と平行な方向に沿った溝が設けられており、前記調整機構は、前記溝を跨いで前記ノズル本体に設けられて、ねじ込み量の増減により前記溝の幅を変化させる調整ねじを含み、複数の前記調整ねじが前記長手方向に沿って配列されて、前記ノズル本体のうち前記溝を挟んで対向する部位の間隔を増減するように前記ノズル本体を変形させることにより前記開口幅を調整し、前記溝は、前記長手方向における前記吐出口の端部に対応する位置で、前記長手方向における前記吐出口の中央部に対応する位置よりも深い。
【0008】
本発明に係るスリットノズルの他の一の態様は、上記目的を達成するため、1対のリップ部がギャップを隔てて互いに対向することで、スリット状に開口する吐出口を形成するノズル本体と、前記1対のリップ部を相対的に接近方向および離間方向に変位させて前記吐出口の開口幅を調整する調整機構とを備え、前記1対のリップ部の少なくとも一方において、他方の前記リップ部と対向する対向面とは反対側の面に前記吐出口の長手方向と平行な方向に沿った溝が設けられており、前記調整機構は、前記溝を跨いで前記ノズル本体に設けられて、ねじ込み量の増減により前記溝の幅を変化させる調整ねじを含み、複数の前記調整ねじが前記長手方向に沿って配列されて、前記ノズル本体のうち前記溝を挟んで対向する部位の間隔を増減するように前記ノズル本体を変形させることにより前記開口幅を調整し、前記溝の底部と前記対向面との間における前記リップ部の肉厚は、前記長手方向における前記吐出口の端部に対応する位置で、前記長手方向における前記吐出口の中央部に対応する位置よりも小さい。
【0009】
このように構成された発明では、リップ部を変形させるために加えられる力に対するリップ部の変形量が、長手方向における中央部よりも端部において大きくなる。その理由は、第1の態様では端部において中央部よりも溝が深いため、また第2の態様では端部において中央部よりもリップ部の肉厚が小さいため、変形させようとする力に対するノズル本体の撓み量が中央部より端部で大きくなるからである。したがって、吐出口の開口幅を増減させるべく、調整機構によりノズル本体を変形させるための力をノズル本体に作用させたとき、同じ大きさの力に対応する吐出口の開口幅の変形量は、中央部よりも端部において大きくなる。
【0010】
一方、スリットノズルから液体を吐出させる際、吐出口の長手方向における全域で均一な吐出量を実現することは難しく、特に吐出口の中央部近傍と端部近傍とで吐出量に差が生じることがある。より具体的には、吐出口の端部近傍では、吐出口周囲のノズル内壁との摩擦の影響等により液体の流通に対する抵抗が大きくなることを原因の1つとして、中央部よりも吐出量が小さくなりがちである。言い換えれば、吐出口の開口幅の調整量に対応する吐出量の変化量は、吐出口の中央部よりも端部近傍において感度が低いということである。そのため、長手方向における吐出口の全域で吐出量を均一に調整するための作業が煩雑なものとなりがちである。
【0011】
このことから、吐出口の中央部と端部とでその開口幅を調整するための機械的入力に対する吐出量の変動量を同等とするためには、機械的入力に対する開口幅の変化量を、中央部よりも端部において大きくすることが好ましいと言える。本発明の構成は、同じ機械的入力に対する開口幅の変化の感度を中央部よりも端部において高くすることができるものであり、この目的に好適なものである。
【0012】
また、本発明に係る基板処理装置の一の態様は、上記目的を達成するため、上記構成を有するスリットノズルと、前記スリットノズルの前記吐出口と対向させて基板を配置するとともに、前記スリットノズルと前記基板とを前記長手方向と交わる方向に相対移動させる相対移動機構と、前記スリットノズルに処理液を供給する処理液供給部とを備え、前記吐出口から吐出した前記処理液を前記基板の表面に塗布する。
【0013】
このように構成された発明では、上記のような構成を用いて開口幅が調整されたスリットノズルから基板に処理液が供給されることで、長手方向において膜厚が均一な膜を安定して形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明では、ノズル本体を変形させるための機械的入力に対する吐出口の開口幅の変化量が、吐出口の中央部よりも端部においてより大きく、すなわち高感度となるように構成されている。これにより、機械的入力に対する吐出量の変化量が中央部と端部とで異なり調整が困難になるという問題を解消し、吐出量を均一化するための調整作業を効率よく行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る基板処理装置の一実施形態を模式的に示す図である。
【
図2】スリットノズルの第1実施形態を模式的に示す分解組立図である。
【
図3】第1実施形態のスリットノズルの三面図である。
【
図6】第1実施形態のスリットノズルの変形例を示す図である。
【
図7】スリットノズルの第2実施形態を模式的に示す分解組立図である。
【
図8】スリットノズルの第3実施形態を模式的に示す分解組立図である。
【
図10】第3実施形態のスリットノズルの変形例を示す図である。
【
図11】スリットノズルの第4実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<塗布装置の全体構成>
図1は本発明に係る基板処理装置の一実施形態である塗布装置の全体構成を模式的に示す図である。この塗布装置1は、
図1の左手側から右手側に向けて水平姿勢で搬送される基板Sの表面Sfに塗布液を塗布するスリットコータである。例えば、ガラス基板や半導体基板等各種の基板Sの表面Sfに、レジスト膜の材料を含む塗布液、電極材料を含む塗布液等、各種の処理液を塗布し均一な塗布膜を形成する目的に、この塗布装置1を好適に利用することができる。
【0017】
なお、以下の各図において装置各部の配置関係を明確にするために、
図1に示すように右手系XYZ直交座標を設定する。基板Sの搬送方向を「X方向」とし、
図1の左手側から右手側に向かう水平方向を「+X方向」と称し、逆方向を「-X方向」と称する。また、X方向と直交する水平方向Yのうち、装置の正面側(図において手前側)を「-Y方向」と称するとともに、装置の背面側を「+Y方向」と称する。さらに、鉛直方向Zにおける上方向および下方向をそれぞれ「+Z方向」および「-Z方向」と称する。
【0018】
まず
図1を用いてこの塗布装置1の構成および動作の概要を説明し、その後で本発明の技術的特徴を備えるスリットノズルの詳細な構造および開口寸法の調整動作について説明する。塗布装置1では、基板Sの搬送方向Dt、つまり(+X方向)に沿って、入力コンベア100、入力移載部2、浮上ステージ部3、出力移載部4、出力コンベア110がこの順に近接して配置されており、以下に詳述するように、これらにより略水平方向に延びる基板Sの搬送経路が形成されている。
【0019】
処理対象である基板Sは
図1の左手側から入力コンベア100に搬入される。入力コンベア100は、コロコンベア101と、これを回転駆動する回転駆動機構102とを備えており、コロコンベア101の回転により基板Sは水平姿勢で下流側、つまり(+X)方向に搬送される。入力移載部2は、コロコンベア21と、これを回転駆動する機能および昇降させる機能を有する回転・昇降駆動機構22とを備えている。コロコンベア21が回転することで、基板Sはさらに(+X)方向に搬送される。また、コロコンベア21が昇降することで基板Sの鉛直方向位置が変更される。このように構成された入力移載部2により、基板Sは入力コンベア100から浮上ステージ部3に移載される。
【0020】
浮上ステージ部3は、基板の搬送方向Dtに沿って3分割された平板状のステージを備える。すなわち、浮上ステージ部3は入口浮上ステージ31、塗布ステージ32および出口浮上ステージ33を備えており、これらの各ステージの表面は互いに同一平面の一部をなしている。入口浮上ステージ31および出口浮上ステージ33のそれぞれの表面には浮上制御機構35から供給される圧縮空気を噴出する噴出孔がマトリクス状に多数設けられており、噴出される気流から付与される浮力により基板Sが浮上する。こうして基板Sの裏面Sbがステージ表面から離間した状態で水平姿勢に支持される。基板Sの裏面Sbとステージ表面との距離、つまり浮上量は、例えば10マイクロメートルないし500マイクロメートルとすることができる。
【0021】
一方、塗布ステージ32の表面では、圧縮空気を噴出する噴出孔と、基板Sの裏面Sbとステージ表面との間の空気を吸引する吸引孔とが交互に配置されている。浮上制御機構35が噴出孔からの圧縮空気の噴出量と吸引孔からの吸引量とを制御することにより、基板Sの裏面Sbと塗布ステージ32の表面との距離が精密に制御される。これにより、塗布ステージ32の上方を通過する基板Sの表面Sfの鉛直方向位置が規定値に制御される。浮上ステージ部3の具体的構成としては、例えば特許第5346643号に記載のものを適用可能である。なお、塗布ステージ32での浮上量については後で詳述するセンサ61、62による検出結果に基づいて制御ユニット9により算出され、また気流制御によって高精度に調整可能となっている。
【0022】
なお、入口浮上ステージ31には、図には現れていないリフトピンが配設されており、浮上ステージ部3にはこのリフトピンを昇降させるリフトピン駆動機構34が設けられている。
【0023】
入力移載部2を介して浮上ステージ部3に搬入される基板Sは、コロコンベア21の回転により(+X)方向への推進力を付与されて、入口浮上ステージ31上に搬送される。入口浮上ステージ31、塗布ステージ32および出口浮上ステージ33は基板Sを浮上状態に支持するが、基板Sを水平方向に移動させる機能を有していない。浮上ステージ部3における基板Sの搬送は、入口浮上ステージ31、塗布ステージ32および出口浮上ステージ33の下方に配置された基板搬送部5により行われる。
【0024】
基板搬送部5は、基板Sの下面周縁部に部分的に当接することで基板Sを下方から支持するチャック機構51と、チャック機構51上端の吸着部材に設けられた吸着パッド(図示省略)に負圧を与えて基板Sを吸着保持させる機能およびチャック機構51をX方向に往復走行させる機能を有する吸着・走行制御機構52とを備えている。チャック機構51が基板Sを保持した状態では、基板Sの裏面Sbは浮上ステージ部3の各ステージの表面よりも高い位置に位置している。したがって、基板Sは、チャック機構51により周縁部を吸着保持されつつ、浮上ステージ部3から付与される浮力により全体として水平姿勢を維持する。なお、チャック機構51により基板Sの裏面Sbを部分的に保持した段階で基板Sの表面の鉛直方向位置を検出するために板厚測定用のセンサ61がコロコンベア21の近傍に配置されている。このセンサ61の直下位置に基板Sを保持していない状態のチャック(図示省略)が位置することで、センサ61は吸着部材の表面、つまり吸着面の鉛直方向位置を検出可能となっている。
【0025】
入力移載部2から浮上ステージ部3に搬入された基板Sをチャック機構51が保持し、この状態でチャック機構51が(+X)方向に移動することで、基板Sが入口浮上ステージ31の上方から塗布ステージ32の上方を経由して出口浮上ステージ33の上方へ搬送される。搬送された基板Sは、出口浮上ステージ33の(+X)側に配置された出力移載部4に受け渡される。
【0026】
出力移載部4は、コロコンベア41と、これを回転駆動する機能および昇降させる機能を有する回転・昇降駆動機構42とを備えている。コロコンベア41が回転することで、基板Sに(+X)方向への推進力が付与され、基板Sは搬送方向Dtに沿ってさらに搬送される。また、コロコンベア41が昇降することで基板Sの鉛直方向位置が変更される。出力移載部4により、基板Sは出口浮上ステージ33の上方から出力コンベア110に移載される。
【0027】
出力コンベア110は、コロコンベア111と、これを回転駆動する回転駆動機構112とを備えており、コロコンベア111の回転により基板Sはさらに(+X)方向に搬送され、最終的に塗布装置1外へと払い出される。なお、入力コンベア100および出力コンベア110は塗布装置1の構成の一部として設けられてもよいが、塗布装置1とは別体のものであってもよい。また例えば、塗布装置1の上流側に設けられる別ユニットの基板払い出し機構が入力コンベア100として用いられてもよい。また、塗布装置1の下流側に設けられる別ユニットの基板受け入れ機構が出力コンベア110として用いられてもよい。
【0028】
このようにして搬送される基板Sの搬送経路上に、基板Sの表面Sfに塗布液を塗布するための塗布機構7が配置される。塗布機構7はスリットノズル71を有している。また、図示を省略するが、スリットノズル71には位置決め機構が接続されており、位置決め機構によりスリットノズル71は塗布ステージ32の上方の塗布位置(
図1中で実線で示される位置)やメンテナンス位置に位置決めされる。さらに、スリットノズル71には、塗布液供給機構8が接続されており、塗布液供給機構8から塗布液が供給され、ノズル下部に下向きに開口する吐出口から塗布液が吐出される。なお、スリットノズル71については後で詳述する。
【0029】
スリットノズル71には、
図1に示すように、基板Sの浮上高さを非接触で検知するための浮上高さ検出センサ62が設置されている。この浮上高さ検出センサ62によって、浮上した基板Sと、塗布ステージ32のステージ面の表面との離間距離を測定することが可能であり、その検出値に伴って、制御ユニット9を介して、スリットノズル71が下降する位置を調整することができる。なお、浮上高さ検出センサ62としては、光学式センサや、超音波式センサなどを用いることができる。
【0030】
スリットノズル71に対して所定のメンテナンスを行うために、
図1に示すように、塗布機構7にはノズル洗浄待機ユニット79が設けられている。ノズル洗浄待機ユニット79は、主にローラ791、洗浄部792、ローラバット793などを有している。そして、スリットノズル71がメンテナンス位置に位置決めされた状態で、これらによってノズル洗浄および液だまり形成を行い、スリットノズル71の吐出口を次の塗布処理に適した状態に整える。
【0031】
この他、塗布装置1には、装置各部の動作を制御するための制御ユニット9が設けられている。制御ユニット9は、所定のプログラムや各種レシピなどを記憶する記憶部、当該プログラムを実行することで装置各部に所定の動作を実行させるCPUなどの演算処理部、液晶パネルなどの表示部およびキーボードなどの入力部を有している。
【0032】
以下、スリットノズル71の具体的な構成例および吐出口の開口寸法の調整方法などについて詳述する。なお、ここでいう開口寸法の調整とは、開口寸法が一定あるいは予め定められた規定値となることを目指す調整ではなく、吐出の結果として基板Sの表面に形成される塗布膜の厚さを均一にすることを目指す調整である。
【0033】
<第1実施形態>
図2は
図1の塗布装置で使用されるスリットノズルの第1実施形態の主要構成を模式的に示す分解組立図であり、
図3は当該スリットノズルの三面図である。スリットノズル71は、第1本体部711、第2本体部712、第1側板713および第2側板714を有している。一点鎖線矢印で示すように、第1本体部711と第2本体部712とがX方向に対向する状態で結合され、その結合体の(-Y)側端面に第1側板713が、また(+Y)側端面に第2側板714がそれぞれ結合されてノズル本体710が構成される。
【0034】
これらの各部材は、例えばステンレス鋼やアルミニウム等の金属ブロックから削り出されたものである。なお、ノズル本体710を構成する各部材は例えばボルトのような適宜の固結部材で固結されることによって互いに結合されるが、そのような結合構造は公知である。そこで、図面を見やすくするため、ここでは固定ボルトやこれを挿通するためのねじ穴等、固結に関わる構成の記載を省略するものとする。この点は後述の他の実施形態においても同様とする。
【0035】
第1本体部711の第2本体部712と対向する側の主面、つまり(+X)側の主面のうち下半分は、YZ平面と平行な平坦面711aとなるように仕上げられている。以下では、この平坦面711aを「第1平坦面」と称する。第1本体部711の第2本体部712と対向する側の主面のうち上半分も、YZ平面と平行な平坦面711bとなるように仕上げられている。また、第1本体部711の下部は下向きに突出して第1リップ部711cを形成している。平坦面711a,711bは、Y方向を長手方向としX方向を深さ方向とする略半円柱形状の溝711dによって隔てられている。この溝711dは、塗布液の流路におけるマニホールドとして機能するものである。
【0036】
一方、第2本体部712の第1本体部711と対向する側の主面、つまり(-X)側の主面は、YZ平面と平行な単一の平坦面712aとなっている。以下では、この平坦面712aを「第2平坦面」と称する。また、第2本体部712の下部は下向きに突出して第2リップ部712cを形成している。平坦面711bと、第2平坦面712aのうち上半分とが密着するように、第1本体部711と第2本体部712とが結合される。
【0037】
第1平坦面711aは、平坦面711bより僅かに(-X)側に後退している。このため、第1本体部711と第2本体部712とが結合された状態では、第1平坦面711aと第2平坦面712aとは、微小なギャップを隔てて平行に対向することとなる。このように互いに対向する対向面(第1平坦面711a、第2平坦面712a)の間のギャップ部分がマニホールドからの塗布液の流路となり、その下端が基板Sの表面Sfに向けて下向きに開口する吐出口715(
図3)として機能する。吐出口715は、Y方向を長手方向とし、X方向における開口寸法が微小なスリット状の開口である。
【0038】
第2本体部712の主面のうち第2平坦面712aとは反対側の主面712eには、Y方向に沿って延びる溝712fが設けられている。溝712fの深さについては後述する。溝712fは、Y方向において第2本体部712の全域にわたって連続的に設けられている。このため、第2本体部712のうち、溝712fより下部は、Y方向に概ね一様な断面形状を有し(+X)方向に突出する突出部712gとなっている。
【0039】
突出部712gの下面には、突出部712gを上下方向に貫通するねじ穴712hが設けられている。ねじ穴712hは、突出部712gの下面にY方向に沿って一列に、かつ均等なピッチで複数設けられている。各ねじ穴712hには、後述するように吐出口715のX方向の開口寸法を調整するための調整ねじ716が取り付けられる。調整ねじ716は溝712fを跨いで、その上端が溝712fの上面まで到達している。
【0040】
ねじ穴712hに対する調整ねじ716が溝712fを跨いで設けられているため、そのねじ込み量を変化させると、第2本体部712が溝712fの延設方向(Y方向)の軸まわりに僅かに変形し、溝712fを挟んで互いに対向する両側の部位の間隔が増減する。具体的には、第2本体部712のうち溝712fよりも上側の部位に対して、溝712fよりも下側の第2突出部712gが相対的に接近または離間する方向に変位することで、両者の間隔が変化する。
【0041】
このような変位に伴って、第2突出部712gに接続する第2リップ部712cがX方向、つまり対向する第1リップ部711cに対し接近、離間する方向に変位することになる。このように、互いに対向する第1リップ部711cと第2リップ部712cとが相対的に接近方向および離間方向に変位することにより、両者の間隔、つまり吐出口715の開口幅が変化する。したがって、調整ねじ716のねじ込み量により吐出口715の開口幅を調整することができる。吐出口715の長手方向に沿って複数の調整ねじ716が配列されることで、同方向における各位置で開口幅の調整を行うことが可能となる。
【0042】
調整ねじ716は例えば差動ねじである。調整ねじとして差動ねじを用いた場合の吐出口の開口寸法を調整する方法の原理については、例えば特開平09-131561号公報に記載されており、本実施形態でも同様の原理を用いることができるので、ここでは詳しい説明を省略する。
【0043】
なお、図面を見やすくするため、
図2および
図3では調整ねじ716の配設数を実際より少なく記載している。すなわち、実際の装置においては、これらの図よりも細かい配列ピッチでより多くの調整ねじ716が配置されている。
【0044】
図4は溝の深さプロファイルを例示する図である。より具体的には、
図4(a)ないし4(d)は
図3のA-A線断面に相当するノズル本体710の断面図であり、それぞれ異なる形状の深さプロファイルの例を示すものである。これらの図に示すように、溝712fの深さはY方向において一様ではなく、長手方向(Y方向)における吐出口715の中央部で比較的浅く、両端部で深くなっている。
【0045】
より具体的には、
図4(a)に示す例では、溝712fの深さは、長手方向における中央部Rcでは一定値Dcであり、中央部Rcに隣接する両側の端部Reではこれより大きい一定値Deである。すなわち、溝712fはステップ状に変化する深さプロファイルを有し、長手方向における中央部Rcでほぼ一定の深さDcである一方、両端部Reはこれより大きい深さDeである。さらに別の見方をすれば、溝712fが設けられた部位において、第2本体部712の肉厚は中央部Rcで大きく両端部Reで小さい。すなわち、中央部Rcにおける第2本体部712の肉厚Tcは、両端部Reにおける肉厚Teよりも大きい。
【0046】
図4(b)に示す例では、中央部Rcおよび両端部Reにおける溝712fの深さは
図4(a)の例と同等であるが、その境界部分における深さ変化が連続的でなだらかである。また、
図4(c)に示す例では、溝712fは、中央部Rcでは概ね一定の深さである一方、両端部Reにおいては深さが次第に増加するような深さプロファイルを有している。さらに、
図4(d)に示す例では、長手方向における溝712fの中央で最も浅く、外側に向かって深さが漸増するような深さプロファイルとなっている。また、例えば
図4(b)、(c)に示すような連続的な変化を多段階のステップ状に近似したプロファイルとすることもできる。
【0047】
スリットノズル71の溝712fが有する深さプロファイルは、これらのうちいずれであってもよい。このように溝712fの深さプロファイルを「中央部で浅く、両端部で深く」なるようにした理由について、次に説明する。なお、ここでは代表的に、溝712fが
図4(a)に例示した深さプロファイルを有するものとする。
【0048】
図5はスリットノズルの断面図である。より詳しくは、
図5(a)は
図3のB-B線断面図、
図5(b)は
図3のC-C線断面図である。なお、
図4(a)のB-B線は
図3のB-B線に対応しており、
図4(a)のC-C線は
図3のC-C線に対応している。
図5(a)に示すように、吐出口715のY方向における中央部に対応するB-B線断面においては溝712fの深さが比較的浅い。言い換えれば、溝712fの底部と第2平坦面712aとの間の距離、つまり溝712fの底部に対応する位置での第2本体部712の肉厚が比較的大きい。一方、
図5(b)に示すように、吐出口715のY方向における端部に近い位置に対応するC-C線断面においては溝712fの深さがより深い。言い換えれば、溝712fの底部と第2平坦面712aとの間の距離、つまり溝712fの底部に対応する位置での第2本体部712の肉厚がより小さい。
【0049】
このため、第2本体部712は、溝712fの浅い位置よりも深い位置においてより撓みやすくなっている。したがって、開口幅を調整するために調整ねじ716に与えられる回転入力量ΔRに対する第2本体部712の変形量、より具体的には突出部712gの上下方向(Z方向)への変位量ΔZは、溝712fの深い端部近傍において、溝712fのより浅い中央部よりも大きくなる。その結果、吐出口715の開口幅のX方向への変化量ΔXについても、同じ回転入力量ΔRに対して中央部よりも端部においてより大きくなる。
【0050】
ここでいう「回転入力」とは、開口幅を増減させるために例えばオペレータにより与えられる機械的入力の一例であり、例えば調整ねじ716に対して操作入力される回転量あるいは回転角度によって、回転入力量ΔRを定量的に表すことができる。
【0051】
本願発明者の知見では、開口幅の増減に対する吐出量の変化、つまり開口幅の調整に対する吐出量の応答感度は、吐出口の中央部で高く、端部で低い。このため、開口幅の変化量が同じであれば、中央部では比較的大きく吐出量が変化するのに対して、端部では吐出量の変化が小さい。
【0052】
中央部と端部との間で、仮に回転入力量ΔRに対する開口幅の変化量ΔXが同程度であれば、同じ回転入力を与えても、それによる吐出量の変化量は中央部と端部とで異なることになる。そうすると、吐出口の全体で吐出量を揃えて厚さの均一な塗布膜を得るための調整作業が、非常に煩雑なものとなってしまう。これを防止するために、吐出量の応答感度、つまり同じ回転入力量ΔRに対する吐出量の変化量が、吐出口の長手方向における全域にわたって同等であることが好ましい。そのためには、特に端部における応答感度を向上させることが求められる。
【0053】
本実施形態のスリットノズル71では、端部において中央部よりも溝712fを深くすることで、同じ回転入力量ΔRに対する吐出口開口幅の変化量ΔXが中央部よりも端部で大きくなるようにしている。このため、同じ回転入力量ΔRに対する吐出量の変化の違いが、中央部と端部との間で生じにくくなっている。これにより、吐出口の中央部および端部のいずれにおいても、調整ねじ716への回転入力量に対応する吐出量の変化が同等となり、オペレータにとっては吐出量を均一化するための調整作業を効率よく行うことが可能になる。
【0054】
溝712fの深さプロファイルを適宜に設定することによって、中央部と端部との間における応答感度の違いを実用上問題のないレベルにまで抑えることが可能であると考えられる。具体的な深さプロファイルについては、吐出口715の開口幅の大きさや使用される塗布液の粘度等に基づいて、例えば実験的に求めることができる。
【0055】
なお、上記した第1実施形態のスリットノズル71においては、第2本体部712に一定の配列ピッチで調整ねじ716が配置されている。しかしながら、以下に変形例として示すように、調整ねじの配列ピッチを不均等なものとしてもよい。また、同様の技術思想に基づき構成されるスリットノズルとしては、上記以外に他の実施形態も考えられる。以下ではこのような他の構成例について順に説明する。以下の説明においては、他の実施形態との対比をわかりやすくするために、既出の構成と同一の、または軽微な差異があるものの相当する機能を有する構成については同一の符号を付すものとする。
【0056】
図6は第1実施形態のスリットノズルの変形例を示す図である。
図6に示す変形例のスリットノズル71Aでは、吐出口715のY方向における中央部Rcでは比較的粗い配列ピッチで調整ねじ716が配置される一方、吐出口715のY方向における端部Reではより細かい配列ピッチで調整ねじ716が配置される。スリットノズルを用いた塗布では、形成される塗布膜の中央部では比較的一様な膜を得やすいが、端部近傍においては、高粘度の塗布液の盛り上がりや低粘度の塗布液の外側への流出等に起因する塗布膜の乱れが生じやすい。このような乱れを抑えるために、長手方向における吐出口715の端部近傍では、中央部よりも細かい分解能で調整を行うことができるのが望ましい。この変形例のスリットノズル71Aは、このような要求に応えることのできるものである。
【0057】
言い換えれば、比較的均一性を得やすい中央部Rcにおいて調整ねじ716の配列ピッチを大きくすることで、部品点数および調整工数の削減を図ることができ、装置コストおよびランニングコストの軽減にも寄与することが可能である。
【0058】
<第2実施形態>
図7は
図1の塗布装置で使用されるスリットノズルの第2実施形態の主要構成を模式的に示す分解組立図である。この種のスリットノズルには、高剛性の材料で形成された2つの本体部材の間に薄板状のシムを挟み込んだ構造となっているものがある。
図7に示す第2実施形態のスリットノズル71Bは、このような構造を有するものである。
【0059】
スリットノズル71Bでは、互いに対向する平坦面を有する第1本体部711Bと第2本体部712Bとが、シム72Bを挟んで結合されることにより、ノズル本体710Bが構成される。第1本体部711Bでは、第2本体部712Bと対向する側の平坦な主面711aに塗布液のマニホールドとして機能する略半円柱形状の溝711kが設けられている。シム72Bは、塗布液の流路となる部分が切り欠かれた例えば金属製の薄板であり、第1本体部711Bと第2本体部712Bとの間に挟み込まれることで、両者の間のギャップを規定するとともに塗布液の流路を形成する。
【0060】
これらの点を除き、第1本体部711Bおよび第2本体部712Bの形状は、第1実施形態の対応する構成711,712と同じである。すなわち、第2本体部712Bの主面のうち第1本体部711Bと対向する面712aとは反対側の面712eに溝712fが設けられ、該溝712fを跨ぐように、複数の調整ねじ716がY方向に配列されている。溝712fの形状および調整ねじ716の機能は、上記実施形態のものと同様であり、これによりもたらされる作用効果も同じである。
【0061】
このように、本発明の技術思想に基づく吐出口開口幅の調整機構は、シムを用いてギャップを規定するノズル、シムを用いないノズルのいずれにも適用可能である。
【0062】
<第3実施形態>
図8は
図1の塗布装置で使用されるスリットノズルの第3実施形態の主要構成を模式的に示す分解組立図であり、
図9は当該スリットノズルの三面図である。この実施形態のスリットノズル71Cは、第1本体部711C、第2本体部712C、第1側板713Cおよび第2側板714Cを有している。このうち、第2本体部712Cの構造は、上記第1実施形態の第2本体部712と同一である。第1実施形態と同様、これらが結合されてノズル本体710Cが構成される。
【0063】
第1実施形態においては第2本体部712のみに吐出口の開口幅を調整するための機構(具体的には、溝712gおよび調整ねじ716)が設けられていた。一方、この実施形態では、第1本体部711C、第1本体部712Cの両方に同様の調整機構が設けられている。より具体的には、第1本体部711Cの主面のうち第1平坦面711aとは反対側の主面711eに、Y方向に沿って延びる溝711fが設けられている。溝711fは、Y方向において第1本体部711の全域にわたり一様な断面形状で設けられている。このため、第1本体部711Cのうち、溝711fより下部は、Y方向に概ね一様な断面形状を有し(-X)方向に突出する突出部711gとなっている。2つの本体部711C,712Cにそれぞれ設けられた突出部を区別する必要がある場合、それぞれを「第1突出部」、「第2突出部」と称することがある。
【0064】
第1突出部711gおよび第2突出部712gの下面には、これらを上下方向に貫通するねじ穴711h、712hが設けられている。ねじ穴711hは、第1突出部711gの下面にY方向に沿って複数設けられている。また、ねじ穴712hは、第2突出部712gの下面にY方向に沿って複数設けられている。各ねじ穴711h、712hには、後述するように吐出口715のX方向の開口寸法を調整するための調整ねじ716が取り付けられる。調整ねじ716は、溝711f、712fを跨いでその上端は溝711f、712fの上面まで到達している。
【0065】
図9下部の下面図に示すように、第1本体部711と第2本体部712との間で、調整ねじ716の配設位置がY方向に異なっている。具体的には、Y方向において、第1本体部711側の調整ねじ716が第2本体部712側で隣り合う2つの調整ねじ716,716の間に位置するように、各ねじ穴711h、712hが配置されている。したがって、スリットノズル71を下面側から見たとき、各調整ねじ716はY方向に沿っていわゆる千鳥配置となっている。
【0066】
調整ねじ716をこのような配置とすることで、次のような効果が得られる。すなわち、Y方向に沿って延びる吐出口715においては、第1本体部711に調整ねじ716が設けられた位置の近傍では第1リップ部711cの変位により開口寸法が調整される一方、第2本体部712に調整ねじ716が設けられた位置の近傍では第2リップ部712cの変位により開口寸法が調整される。
【0067】
そのため、第1本体部711または第2本体部712の一方のみに調整ねじを配置した構成と比較して、よりきめ細かく開口寸法の調整を行うことが可能となる。すなわち、第1本体部711および第2本体部712にそれぞれ調整ねじ716を配列し、しかもそれらを千鳥配置とした構成により、いずれか一方のみに調整ねじを配置した場合に比べて調整の「分解能」を2倍に向上させることが可能である。また、同等の分解能を得るためであれば必要な調整ねじの配列ピッチを2倍に広げることができるので、各部材の機械的強度を確保することも容易である。
【0068】
この実施形態では、第1本体部711Cに設けられた溝711f、第2本体部712Cに設けられた溝712fの一方、もしくは両方が、
図4(a)~
図4(d)に例示したような「中央部で浅く、両端部で深い」深さプロファイルを有するものとされる。これにより、上記実施形態と同様に、調整のための調整ねじ716への回転入力に対する吐出量の応答感度を中央部と端部とで揃えて、調整作業の効率化を図ることができる。
【0069】
なお、単に第1実施形態と同等の効果を得るという目的からは、第1本体部711および第2本体部712の両方に調整ねじ716を配列する場合において、その配設位置をY方向において同じとすることも考えられる。しかしながら、この場合には、上記のように調整ねじを千鳥配置とすることで得られる分解能の向上効果は得られない。また、吐出口のうち長手方向における1つの位置に対して2つの調整機構が独立して作用することになるため、むしろ調整作業が面倒になることがある。
【0070】
図10は第3実施形態のスリットノズルの変形例を示す図である。
図10(a)に示す変形例のスリットノズル71D、および
図10(b)に示す変形例のスリットノズル71Eでは、
図6に示した第1実施形態の変形例のスリットノズル71Aと同様に、調整ねじ716の配列ピッチが不均等となっている。具体的には、
図10(a)に示す変形例のスリットノズル71Dでは、第1本体部711Dおよび第2本体部712Dのそれぞれにおいて、吐出口715のY方向における中央部Rcでは比較的粗い配列ピッチで調整ねじ716が配置される一方、吐出口715のY方向における端部Reではより細かい配列ピッチで調整ねじ716が配置される。
【0071】
また、
図10(b)に示す変形例のスリットノズル71Eでは、同様の観点から、中央部Rcでは第2本体部712Eのみに調整ねじ716を配置し、第1本体部711Eではこれが省かれている。こうすることで、実用上は塗布膜の均一性を保ちつつ、部品点数および調整工数をさらに削減することが可能である。なお、これとは反対に、第2本体部712E側の調整ねじを省くようにしてももちろん構わない。
【0072】
<第4実施形態>
次に、塗布装置1に適用可能なスリットノズルの第4実施形態について説明する。上記各実施形態では、スリットノズルの長手方向(Y方向)において単一の吐出口が設けられている。しかしながら、この種の塗布装置では、吐出口を長手方向において複数に分割し、複数の塗布膜を同時に形成するような利用形態も存在する。次に示す第4実施形態のスリットノズル71Fは、このようなニーズに対応するものである。
【0073】
図11は
図1の塗布装置で使用されるスリットノズルの第4実施形態を示す図である。より具体的には、
図11(a)はこの実施形態のスリットノズル71Fの主要構成を模式的に示す分解組立図である。また、
図11(b)はスリットノズル71Fの下面図および溝712fに対応する位置を含む水平面を切断面とするスリットノズル71Fの断面図であり、このうち断面図は第1実施形態において
図3に示したA-A線断面図に相当する図である。
【0074】
この実施形態では、第1本体部711Fと第2本体部712Fとの間にシム72Fが挟み込まれることにより本体部710Fが構成される。シム72Fの中央部には流路の隔壁として作用する突出部位721Fが設けられており、これにより塗布液の流路は2つに区画される。突出部位710Fは第1および第2リップ部711c,712cの下端まで延びており、これらの下端には、それぞれがY方向を長手方向とし、かつY方向に並ぶ2つの吐出口715a,715bが形成されることになる。
【0075】
この場合、2つの吐出口715a,715bのそれぞれで「中央部と端部とで応答感度を揃える」という目的を達成するために、
図11(b)に示されるように、それぞれの吐出口の中央部Rcに対応する領域で浅く、端部Reに対応する領域で深くなるような溝712fの深さプロファイルが採用される。この図では各吐出口に対応する深さプロファイルは
図4(a)に対応するものであるが、
図4(b)~
図4(d)に示される形状でももちろん構わない。
【0076】
なお、同様の概念が
図2、
図6、
図8等で既に示されているため図示を省略するが、第4実施形態においてもその変形例として次のような構成が考えられる。すなわち、上記した第4実施形態のスリットノズル71Fは、第1本体部711Fおよび第2本体部712Fに挟まれたシム72Fにより2つの流路および2つの吐出口を形成するものである。しかしながら、
図2に示した例のように、第1および第2本体部の少なくとも一方の形状を変更することでシムを用いずに流路および吐出口を形成するないノズルでも上記と同様の考え方を適用することが可能である。
【0077】
また、
図6に示した例のように、調整ねじ716の配列ピッチを、各吐出口の中央部に対応する領域で広く、端部に相当する領域で狭くするようにしてもよい。さらに、
図8に示した例のように、2つの本体部のそれぞれに調整機構(溝および調整ねじ)が設けられてもよい。
【0078】
このように、上記した各実施形態では、目的に応じて、また装置や塗布液の特性に応じて、ノズル本体に設けられた溝の深さおよびその幅を増減する調整ねじ716の配列ピッチを適宜設定し開口寸法の調整を行うことで、均一な塗布膜を得ることのできる塗布条件をより効率よく実現することが可能となる。
【0079】
<その他>
以上説明したように、上記各実施形態においては、第1リップ部711cと第2リップ部712cとが「1対のリップ部」を構成し、第1本体部711および第2本体部712がそれぞれ、本発明の「第1本体部材」および「第2本体部材」として機能している。また、互いに対向する第1本体部の第1平坦面711aと第2本体部の第2平坦面712aとが、本発明の「対向面」に相当している。また、第1本体部711に設けられたねじ穴711h、調整ねじ716等が一体として本発明の「調整機構」として機能している。また、第2本体部712に設けられたねじ穴712h、調整ねじ716等も、これらが一体として本発明の「調整機構」として機能している。また、溝711f、712fが本発明の「溝」に相当している。
【0080】
また、上記実施形態の塗布装置1は本発明の「基板処理装置」に相当するものであり、入力コンベア100、入力移載部2、浮上ステージ部3、出力移載部4、出力コンベア110、基板搬送部5等が一体として本発明の「相対移動機構」を構成している。また、塗布液供給機構8が、本発明の「処理液供給部」として機能している。
【0081】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では第2本体部712の側面に溝712fを設け、下方から取り付けられた調整ねじ716により吐出口715の開口寸法を調整している。しかしながら、これに限定されず、他の方式で開口寸法を調整する構成であってもよい。例えば、ノズルの下面に溝を設け、水平方向に設けた調整ねじでノズルを弾性変形させ開口寸法を増減するようにしてもよい。
【0082】
また例えば、上記実施形態では、調整ねじとして、開口寸法を広げる方向および狭める方向のいずれに対しても能動的に作用する差動ねじを用いているが、例えば予め広めに設定された開口寸法を縮める、あるいは逆に予め狭く設定された開口寸法を広げるというように一方向のみの調整機能を有する調整ねじによっても、適切な開口寸法の調整は可能である。
【0083】
また、上記実施形態ではスリットノズル71の下方で基板Sを搬送することでスリットノズル71と基板Sとの相対移動が実現されている。しかしながら、これらの相対移動の実現方法は上記に限定されない。例えばステージ上に保持された基板に対しスリットノズルが走査移動する構成においても、本発明は有効に機能する。また、基板の搬送形式は上記のような浮上式のものに限定されず、例えばローラ搬送、ベルト搬送、移動ステージによる搬送など各種のものを適用可能である。
【0084】
また、上記説明では特に言及していないが、第3実施形態のようにノズル本体を構成する2つの本体部材のそれぞれに調整機構を設ける場合において、各本体部材に設けられる溝の深さプロファイルは互いに異なっていてもよい。また、いずれか一方の溝は一定の深さを有するものであってもよい。
【0085】
さらに、上記実施形態では、基板Sの表面Sfに塗布液を供給する塗布装置1に対して本発明を適用しているが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、スリットノズルに処理液を送給することで当該スリットノズルから基板の表面に処理液を供給しながらスリットノズルに対して相対的に移動させて所定の処理を施す基板処理技術全般に適用可能である。
【0086】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係るスリットノズルは、例えば長手方向における吐出口の一方端部に対応する位置から他方端部に対応する位置までの間において、溝の深さが多段階に変化する構成とすることができる。あるいは例えば、長手方向における吐出口の一方端部に対応する位置から他方端部に対応する位置までの間において、溝の深さが連続的に変化する構成とすることができる。これらのいずれの構成であっても、吐出口の中央部と端部との間において、開口幅調整のための機械的入力に対する吐出量の変化の差を抑制することが可能である。
【0087】
また例えば、調整機構は、溝を跨いでノズル本体に設けられて、ねじ込み量の増減により溝の幅を変化させる調整ねじを含み、複数の調整ねじが長手方向に沿って配列された構成であってもよい。このような構成によれば、それぞれの調整ねじを操作することで、各位置における吐出口の開口幅を調整することが可能である。
【0088】
この場合において、複数の調整ねじの配列ピッチは、例えば長手方向における吐出口の端部に対応する位置で、長手方向における吐出口の中央部に対応する位置よりも小さくなっていてもよい。このような構成によれば、吐出量のばらつきが生じやすい吐出口の端部において開口幅をきめ細かく調整することが可能であり、吐出量を均一化する作業を効率よく行うことが可能になる。
【0089】
また例えば、溝および調整機構が、1対のリップ部それぞれに対応して設けられていてもよい。このような構成によれば、吐出口を構成する1対のリップ部それぞれで開口幅の調整を行うことができるので、一方のリップ部のみを調整する構成よりも細かく調整作業を行うことが可能である。
【0090】
また、調整機構が調整ねじを有する構成において、溝および調整ねじが1対のリップ部それぞれに対応して設けられ、一対のリップ部のうち一方のリップ部に設けられた調整ねじと、他方のリップ部に設けられた調整ねじとの間で長手方向における配設位置が互いに異なっていてもよい。このような構成によれば、一方のリップ部における調整位置と、他方のリップ部における調整位置とが長手方向に異なっているので、開口幅をより細かい調整ピッチで調整することができる。
【0091】
また例えば、ノズル本体は、それぞれがリップ部を有する第1本体部材と第2本体部材とが結合されることにより形成される構成であってもよい。このような構成によれば、第1本体部材と第2本体部材との間に設けたギャップを液体の流路および吐出口として機能させることができる。この場合、第1本体部材と第2本体部材とが、ギャップを規定するシムを挟んで結合されていてもよい。
【0092】
また、本発明に係る基板処理装置は、基板の表面に、処理液による一様な塗布膜を形成するものであってもよい。スリットノズルを用いて一様な塗布膜を形成する場合においては、ノズルの吐出口の中央部と端部とで吐出量が異なり、これによって塗布膜の厚さにばらつきが生じることがある。このような装置に本発明を適用することにより、吐出口の全域にわたって一様な塗布膜を形成するための調整作業を効率的に行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
この発明は、スリット状の吐出口を有するスリットノズルおよび当該スリットノズルを用いて基板に処理液を塗布する基板処理装置全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 塗布装置(基板処理装置)
2 入力移載部(相対移動機構)
3 浮上ステージ部(相対移動機構)
4 出力移載部(相対移動機構)
5 基板搬送部(相対移動機構)
8 塗布液供給機構(処理液供給部)
71,71A~71F スリットノズル
72B,72F シム
100 入力コンベア(相対移動機構)
110 出力コンベア
710 ノズル本体
711 第1本体部(ノズル本体、第1本体部材)
711a 第1平坦面(対向面)
711c,712c リップ部
711f,712f 溝
711h,712h ねじ穴(調整機構)
712 第2本体部(ノズル本体、第2本体部材)
712a 第2平坦面(対向面)
715 吐出口
716 調整ねじ(調整機構)