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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】フッ化ビニリデンポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/20 20060101AFI20230316BHJP
   C08F 214/22 20060101ALI20230316BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230316BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20230316BHJP
【FI】
C08F2/20
C08F214/22
H01M4/62 Z
H01M50/409
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019532695
(86)(22)【出願日】2017-12-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 EP2017083230
(87)【国際公開番号】W WO2018114753
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】16306772.1
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブルソー, セゴレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】アブスレメ, ジュリオ ア.
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/041808(WO,A1)
【文献】特表2010-525124(JP,A)
【文献】特表2016-501950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/20
C08F 214/22
H01M 4/62
H01M 50/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 式(I)の少なくとも1種のポリアルキレンオキシド:
O-[(CHO]-R (I)
(式中、R及びRは、互いに等しいか又は異なり、H又はC~Cの直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、mは各存在において互いに等しいか又は異なり、2~5の整数であり、nは1000~200000の整数である);及び、
- フッ化ビニリデン1Kg当たり0.01~5gの量の少なくとも1種の多糖誘導体;
を含有する水性懸濁媒体中で、フッ化ビニリデンと、前記フッ化ビニリデンの総モル数に対して0.01モル%~10モル%の少なくとも1種の(メタ)アクリルモノマー[モノマー(MA)]と、フッ化ビニリデンとは異なる任意選択的な少なくとも1種のフッ素化モノマーとを重合することを含み、ここで、前記多糖誘導体が、D-グルコピラノシド、D-グルコフラノシド、及びこれらの混合物からなる群から選択されるグリコシド単位由来の繰り返し単位を含み、前記グリコシド単位がグリコシド結合によって互いに連結されており、
前記モノマー(MA)が、式(II):
(式中、R 、R 、及びR は、互いに等しいか又は異なり、独立して、水素原子又はC ~C 炭化水素基であり、且つR は、水素原子、又は任意選択的に少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC ~C 炭化水素基である)
のものである、フッ化ビニリデンポリマー[ポリマー(VDF)]の製造方法。
【請求項2】
前記式(I)のポリアルキレンオキシドが式(I-A):
R’O-(CHCHO)n’-R’(I-A)
(式中、R’及びR’は、互いに等しいか又は異なり、H又はC~Cの直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、n’は1000~200000の整数である)
のポリエチレンオキシドである、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記式(I)のポリアルキレンオキシドが式(I-B):
HO-(CHCHO)n’’-H (I-B)
(式中、n’’は1000~200000の整数である)
のポリエチレングリコールである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、フッ化ビニリデン1Kg当たり0.01~5gの量の、式(I)の少なくとも1種のポリアルキレンオキシドの存在下で行われる、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記多糖誘導体が、β-グリコシド結合によって互いに連結された式(III):
(式中、それぞれのR’は、出現する毎に他のいずれとも等しいか又は異なり、水素原子、C~C炭化水素基又はC~Cヒドロキシアルキル基を表す)
のβ-D-グルコピラノシド由来の繰り返し単位を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
それぞれのR’が、他のいずれとも等しいか又は異なり、水素原子、メチル基、ヒドロキシエチル基、又は2-ヒドロキシプロピル基である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記多糖誘導体が、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
式(I)の少なくとも1種のポリアルキレンオキシド対少なくとも1種の多糖誘導体の重量比が、1:10~10:1に含まれる、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年12月22日出願の欧州特許出願第16306772.1号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、フッ化ビニリデンポリマー、前記フッ化ビニリデンポリマーの製造方法、及び前記フッ化ビニリデンポリマーを含む物品に関する。
【背景技術】
【0003】
フッ化ビニリデンポリマーは複数の異なる用途で有利に使用されている。
【0004】
フッ化ビニリデンポリマーは、懸濁重合又は乳化重合のいずれかによるフッ化ビニリデンの重合によって得られる。
【0005】
フッ化ビニリデンと親水性(メタ)アクリルモノマーとを共重合することは、そのようなモノマーの反応性が非常に異なるため、依然として楽ではない課題である。
【0006】
そのため、ランダムな分布が目標とされる一方で、ブロック型の構造が得られる。親水性(メタ)アクリルモノマー単位のこの不均一な分布は、コポリマー自体の熱安定性に劇的に影響を与える。
【0007】
改善された熱安定性を有する直鎖半結晶性コポリマーは、国際公開第2008/129041号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY S.P.A.)30/10/2008に記載されており、前記コポリマーは、フッ化ビニリデン由来の繰り返し単位と、0.05モル%~10モル%の少なくとも1種の親水性(メタ)アクリルモノマー由来の繰り返し単位とを含み、前記親水性(メタ)アクリルモノマーのランダムに分布した単位の割合は少なくとも40%である。
【0008】
しかしながら、フッ化ビニリデンの懸濁重合中に、反応器のファウリング(すなわち反応器及び/又は撹拌装置の内部表面上へのポリマー堆積物の蓄積)が観察される場合があり、これはプロセスの工業的生産への拡大を妨げる。
【0009】
そのため、ポリマーの堆積物のスケール生成及び蓄積を防止するために、懸濁剤を使用することがフッ化ビニリデンの懸濁重合において一般的である。しかし、懸濁剤が存在する場合、ファウリングは回避できるものの、反応の制御は生成物を工業レベルにスケールアップするのに十分に安定ではない場合がある。
【0010】
国際公開第2016/041808号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY SPA)24/03/2016には、フッ化ビニリデンポリマーの製造方法が開示されており、前記方法は:少なくともa)アルキレンオキシドポリマー(PAO);及びb)多糖誘導体;の存在下で水性懸濁液中でフッ化ビニリデン(VDF)を重合することを含み、PAOは、式(I)
O-[(CHO]-R (I)
(式中、R及びRは互いに独立してH又はC~Cの直鎖若しくは分岐のアルキル、好ましくはH又はCHであり、mは互いに等しいか又は異なり、2~5の整数であり、nは1000~200000の整数である)を有する。前記方法は、重合中に反応器のファウリングを生じさせず、また従来技術のPVDFポリマーよりも、濃酸又は酸性溶液への暴露時の変色に対して耐性のあるポリマーを生じる。しかしながら、この文献ではプロセスの制御、より具体的には重合温度の制御に関しては言及されていない。
【0011】
実際、反応制御、より具体的には重合温度の制御は、工業的規模でプロセスを利用するために必須の重要な側面である一方で、操作の円滑性、及び全てのプロセスパラメータの予測可能性が保証されるべきである。
【0012】
そのため、工業的規模で実行可能であり優れた色安定性を有するフッ化ビニリデンポリマーを得ることを可能にするフッ化ビニリデンポリマーの製造方法が当該技術分野で依然として求められている。
【発明の概要】
【0013】
驚くべきことに、今回、本発明の方法が、有利なことには反応器のファウリングを依然として回避しながらも、正確に制御することができる(例えば設定点を超える制御されない反応温度を引き起こす急激な熱が発生しない)方法により、(メタ)アクリルモノマー由来の繰り返し単位を更に含むフッ化ビニリデンポリマーを得ることを可能にすることが分かった。これは、制御されない重合の局所的現象を引き起こし得る、フッ化ビニリデンと(メタ)アクリルポリマーなどの非常に異なる重合速度を有するモノマーを反応器に供給する場合に特に重要である。
【0014】
特に、本発明の方法は、設定温度に対する実際の反応温度の逸脱によって測定される重合の正確な制御を首尾よく可能にすることが分かった。
【0015】
また、驚くべきことに、本発明のフッ化ビニリデンポリマーが、有利なことには様々な用途に好適に使用される優れた熱安定性と組み合わされた優れた色保持性も示すことが分かった。
【0016】
第1の例では、本発明は、
- 式(I)の少なくとも1種のポリアルキレンオキシド:
O-[(CHO]-R(I)
(式中、R及びRは、互いに等しいか又は異なり、H又はC~Cの直鎖若しくは分岐のアルキル基、好ましくはH又はCHであり、mは各存在において互いに等しいか又は異なり、2~5の整数であり、nは1000~200000、好ましくは2000~100000、より好ましくは5000~70000の整数である);及び、
- フッ化ビニリデン1Kg当たり0.01~5g、好ましくは0.05~2.5g、より好ましくは0.1~1.5g、更に好ましくは0.4~0.8gの量の少なくとも1種の多糖誘導体;
を含有する水性懸濁媒体中で、フッ化ビニリデンと、前記フッ化ビニリデンの総モル数に対して0.01モル%~10モル%、好ましくは0.05モル%~8モル%、より好ましくは0.1モル%~3モル%の少なくとも1種の(メタ)アクリルモノマー[モノマー(MA)]と、フッ化ビニリデンとは異なる任意選択的な少なくとも1種のフッ素化モノマーとを重合することを含む、フッ化ビニリデンポリマー[ポリマー(VDF)]の製造方法に関する。
【0017】
第2の例では、本発明は、本発明の方法によって得られるフッ化ビニリデンポリマー[ポリマー(VDF)]に関する。
【0018】
ポリマー(VDF)は、典型的には、
- フッ化ビニリデン由来の繰り返し単位;
- 前記ポリマー(VDF)中の繰り返し単位の総モル数に対して0.05モル%~5モル%、好ましくは0.1モル%~3モル%の、少なくとも1種の(メタ)アクリルモノマー[モノマー(MA)]由来の繰り返し単位;及び
- 任意選択的な、フッ化ビニリデンとは異なる少なくとも1種のフッ素化モノマー由来の繰り返し単位;
を含む。
【0019】
本発明の目的のためには、用語「フッ化ビニリデン(VDF)ポリマー」は、フッ化ビニリデン由来の繰り返し単位を50モル%超含むポリマーを指すことが意図されている。
【0020】
モノマー(MA)は、典型的には、式(II):
(式中、R、R、及びRは、互いに等しいか又は異なり、独立して、水素原子又はC~C炭化水素基であり、且つRは、水素原子、又は任意選択的に少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC~C炭化水素基である)
のものである。
【0021】
式(II)のモノマー(MA)の非限定的な例は、特には、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0022】
モノマー(MA)は、好ましくは、
- 式:
のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、
- 次のいずれかの式:
の2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
- 式:
のアクリル酸(AA)、及び
- これらの混合物
からなる群から選択される。
【0023】
最も好ましくは、モノマー(MA)は、AA及び/又はHEAである。
【0024】
本発明の目的のためには、用語「フッ素化モノマー」は、少なくとも1個のフッ素原子を含むエチレン性不飽和モノマーを意味することを意図する。
【0025】
フッ素化モノマーが少なくとも1個の水素原子を含む場合、それは、水素含有フッ素化モノマーと称される。
【0026】
フッ素化モノマーが水素原子を含まない場合、それは、ペル(ハロ)フッ素化モノマーと称される。
【0027】
フッ素化モノマーは、1個若しくは複数個の他のハロゲン原子(Cl、Br、I)を更に含んでもよい。
【0028】
ポリマー(VDF)は、典型的には、前記ポリマー(VDF)中の繰り返し単位の総モル数に対して0.1モル%~10モル%、好ましくは0.2モル%~5モル%の、フッ化ビニリデンとは異なる少なくとも1種のフッ素化モノマー由来の繰り返し単位を更に含む。
【0029】
フッ化ビニリデンとは異なるフッ素化モノマーの非限定的な例としては、特には次のものが挙げられる:
(i)トリフルオロエチレン(TrFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC~Cフルオロオレフィン;
(ii)式CH=CH-Rf0(Rf0はC~Cのペルフルオロアルキル基である)のペルフルオロアルキルエチレン;
(iii)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのクロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン;
(iv)ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)及びペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)などの、式CF=CFORf1(Rf1はC~Cのペルフルオロアルキル基である)のペルフルオロアルキルビニルエーテル;
(v)式CF=CFOX(Xは、例えばペルフルオロ-2-プロポキシアルキル基などの、1つ以上のエーテル基を有するC~C12オキシアルキル基又はC~C12(ペル)フルオロオキシアルキル基である)の(ペル)フルオロオキシアルキルビニルエーテル;
(vi)式CF=CFOCFORf2(Rf2はC~C(ペル)フルオロ基(例えば-CF、-C、-C)又は1つ以上のエーテル基を有するC~C(ペル)フルオロオキシアルキル基(例えば-C-O-CF)である)の(ペル)フルオロアルキルビニルエーテル;
(vii)式CF=CFOY(YはC~C12アルキル基若しくは(ペル)フルオロアルキル基、1つ以上のエーテル基を有するC~C12オキシアルキル基及びC~C12(ペル)フルオロオキシアルキル基から選択され、Yはその酸、酸塩化物、又は塩の形態のカルボン酸基又はスルホン酸基を含む)の官能性(ペル)フルオロオキシアルキルビニルエーテル;
(viii)フルオロジオキソール、特にはペルフルオロジオキソール;
(ix)フッ化ビニル;
並びにこれらの混合物。
【0030】
最も好ましいフッ素化モノマーは、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)である。
【0031】
ポリマー(VDF)は、好ましくは、
- フッ化ビニリデン由来の繰り返し単位;
- 前記ポリマー(VDF)中の繰り返し単位の総モル数に対して0.1モル%~3モル%の、少なくとも1種の(メタ)アクリルモノマー[モノマー(MA)]由来の繰り返し単位;及び
- 前記ポリマー(VDF)中の繰り返し単位の総モル数に対して0.1モル%~10モル%、好ましくは0.2モル%~5モル%の、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)由来の繰り返し単位;
を含み、より好ましくはこれらからなる。
【0032】
本発明の目的のためには、用語「ポリアルキレンオキシド」は、直鎖アルキレンオキシド由来の繰り返し単位から本質的になるホモポリマー又はコポリマーを指すことが意図されている。本発明の目的のためには、用語「ポリ(アルキレンオキシド)」には、例えば2-プロピレン単位(-CH(CH)CH-)などの分岐アルキレンオキシド由来の繰り返し単位を含むポリマーは包含されない。
【0033】
本発明の方法における使用に適した式(I)のポリアルキレンオキシドは、排他的ではないが、典型的には、ポリエチレングリコール(PEG、POE、又はPEOとも呼ばれる)などのエチレンオキシド(EO)由来の繰り返し単位からなるホモポリマーからなる群から選択される。
【0034】
式(I)のポリアルキレンオキシドは、典型的には、水中の式(I)の前記ポリアルキレンオキシドの溶液の粘度を決定するなどの当業者に広く知られている任意の手法によって測定される、50,000~10,000,000g/molの平均分子量(M)を有する。
【0035】
式(I)のポリアルキレンオキシドは、好ましくは式(I-A):
R’O-(CHCHO)n’-R’(I-A)
(式中、はR’及びR’は互いに等しいか又は異なり、H又はC~Cの直鎖若しくは分岐のアルキル基、好ましくはH又はCHであり、n’は1000~200000、好ましくは2000~100000、より好ましくは5000~70000の整数である)のポリエチレンオキシドである。
【0036】
式(I)のポリアルキレンオキシドは、より好ましくは式(I-B):
HO-(CHCHO)n’’-H (I-B)
(式中、n’’は1000~200000、好ましくは2000~100000、より好ましくは5000~70000の整数である)のポリエチレングリコールである。
【0037】
本発明の方法は、典型的には、フッ化ビニリデン1Kg当たり0.01~5g、好ましくは0.01~2g、より好ましくは0.05~1.5gの量の、式(I)の少なくとも1種のポリアルキレンオキシド、好ましくは式(I-A)の少なくとも1種のポリエチレンオキシド、より好ましくは式(I-B)の少なくとも1種のポリエチレングリコールの存在下で行われる。
【0038】
本発明の目的のためには、用語「多糖誘導体」は、グリコシド結合によって互いに連結されたグリコシド単位由来の繰り返し単位を含む多糖ポリマーの誘導体を意味することが意図されている。
【0039】
グリコシド単位は、6員ピラノシド環又は5員フラノシド環のいずれかである。
【0040】
好適な6員ピラノシドの非限定的な例としては、とりわけ、α-D-グルコピラノシド又はβ-D-グルコピラノシドなどのD-グルコピラノシドが挙げられる。
【0041】
好適な5員フラノシドの非限定的な例としては、とりわけ、α-D-グルコフラノシド又はβ-D-グルコフラノシドなどのD-グルコフラノシドが挙げられる。
【0042】
特に断らない限り、本発明の方法における多糖誘導体及び他のポリマーの動粘度は、2重量%の濃度の水溶液中20℃でASTM D445に従って測定される。
【0043】
好ましくは、本発明の方法において、2重量%の濃度の水溶液中20℃でASTM D445に従って測定される多糖誘導体の動粘度は、1~30,000mPa.s、好ましくは3~21,000mPa.s、より好ましくは50~15,000mPa.s、更に好ましくは80~13,000mPa.s、特に好ましくは120~11,250mPa.sである。
【0044】
より好ましくは、本発明の方法において、2重量%の濃度の水溶液中20℃でASTM D445に従って測定される多糖誘導体の動粘度は、2.4~3.6mPa.s、好ましくは80~120mPa.s、より好ましくは11,250~21,000mPa.sである。
【0045】
好ましくは、本発明の方法において、多糖誘導体は、D-グルコピラノシド、D-グルコフラノシド、及びこれらの混合物からなる群から選択されるグリコシド単位由来の繰り返し単位を含み、前記グリコシド単位はグリコシド結合によって互いに連結されている。
【0046】
より好ましくは、本発明の方法において、多糖誘導体は、
(式中、それぞれのR’は、出現する毎に他のいずれとも等しいか又は異なり、水素原子、C~C炭化水素基又はC~Cヒドロキシアルキル基を表す)のβ-D-グルコピラノシド由来の繰り返し単位を含む。
【0047】
更に好ましくは、式(III)のβ-D-グルコピラノシド由来の繰り返し単位において、それぞれのR’は、他のいずれとも等しいか又は異なり、水素原子、メチル基、ヒドロキシエチル基又は2-ヒドロキシプロピル基である。
【0048】
また更に好ましくは、本発明の方法において、多糖誘導体は、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される。
【0049】
好ましくは、本発明の方法において、多糖誘導体はヒドロキシエチルエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0050】
ヒドロキシエチルエチルセルロースは、典型的には、0.5~2.0(例えば0.9)のメトキシ置換度(すなわち、基R’の総数に対する、R’が式(III)においてメチル基である基R’の1モル当たりの平均数)、及び/又は0.5~1.0(例えば0.8)のヒドロキシプロピル置換度(すなわち、基R’の総数に対する、R’が式(III)において2-ヒドロキシプロピル基である基R’の1モル当たりの平均数)を有する。
【0051】
非限定的な例として、本発明の方法におけるヒドロキシエチルエチルセルロースは、2重量%の濃度の水溶液中20℃で260~360mPa.sの動粘度を有する。
【0052】
本発明の方法における使用に適した多糖誘導体の非限定的な例としては、特に、商標名BERMOCOLL(登録商標)E230FQとして入手可能なヒドロキシエチルエチルセルロース誘導体が挙げられる。
【0053】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、典型的には、1.2~2.0(例えば1.4)のメトキシ置換度(すなわち、基R’の総数に対する、R’が式(III)においてメチル基である基R’の1モル当たりの平均数)、及び/又は0.10~0.25(例えば0.21)のヒドロキシプロピル置換度(すなわち、基R’の総数に対する、R’が式(III)において2-ヒドロキシプロピル基である基R’の1モル当たりの平均数)を有する。
【0054】
非限定的な例として、本発明の方法におけるヒドロキシプロピルメチルセルロースは、2重量%の濃度の水溶液中20℃で40~60mPa.s、好ましくは80~120mPa.s、より好ましくは11,250~21,000mPa.sの動粘度を有する。
【0055】
本発明の方法における使用に適した多糖誘導体の非限定的な例としては、とりわけ、2重量%の濃度の水溶液中20℃で80~120mPa.sの動粘度を有する商標名METHOCEL(登録商標)K100、2重量%の濃度の水溶液中20℃で11,250~21,000mPa.sの動粘度を有するMETHOCEL(登録商標)K15M、2重量%の濃度の水溶液中20℃で2.4~3.6mPa.sの動粘度を有する、METHOCEL(登録商標)K3、2重量%の濃度の水溶液中20℃で3000~6000mPa.sの動粘度を有する、METHOCEL(登録商標)K4M、及び2重量%の濃度の水溶液中20℃で4~8mPaxsの動粘度を有するCULMINAL(登録商標)MHPC5として入手可能なヒドロキシプロピルメチルセルロース誘導体が挙げられる。
【0056】
本発明の方法における式(I)の少なくとも1種のポリアルキレンオキシド対少なくとも1種の多糖誘導体の重量比は、典型的には1:10~10:1、好ましくは1:7~7:1に含まれる。
【0057】
本発明の方法は、典型的にはラジカル開始剤の存在下、水性懸濁媒体中で行われる。ラジカル開始剤の選択は特に限定されない一方で、本発明による方法に適した開始剤は、重合プロセスを開始及び/又は促進することができる化合物から選択されることが理解される。
【0058】
本発明の方法で有利に使用されてもよいラジカル開始剤のうちで、有機ラジカル開始剤を挙げることができる。適切な有機ラジカル開始剤の非限定的な例としては、アセチルシクロヘキサンスルホニルペルオキシド;ジアセチルペルオキシジカーボネート;ジエチルペルオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネートなどのジアルキルペルオキシジカーボネート;tert-ブチルペルネオデカノエート;2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4ジメチルバレロニトリル;tert-ブチルペルピバレート;tert-アミルペルピバレート;ジオクタノイルペルオキシド;ジラウロイル-ペルオキシド;2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル);tert-ブチルアゾ-2-シアノブタン;ジベンゾイルペルオキシド;tert-ブチル-ペル-2エチルヘキサノエート;tert-ブチルペルマレエート;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル);ビス(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン;tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート;tert-ブチルペルアセテート;2,2’-ビス(tert-ブチルペルオキシ)ブタン;ジクミルペルオキシド;ジ-tert-アミルペルオキシド;ジ-tert-ブチルペルオキシド(DTBP);p-メタンヒドロペルオキシド;ピナンヒドロペルオキシド;クメンヒドロペルオキシド;及びtert-ブチルヒドロペルオキシドが挙げられるが、それらに限定されない。
【0059】
本発明の方法は、典型的には少なくとも10℃、好ましくは少なくとも25℃、より好ましくは少なくとも45℃の温度で行われる。
【0060】
圧力は、典型的には25bar超、好ましくは50bar超、更により好ましくは75bar超の値で維持される。
【0061】
本発明のVDFポリマーは、25℃でN,N-ジメチルホルムアミド中で測定される0.05~0.75l/g、好ましくは0.10~0.55l/g、より好ましくは0.15~0.45l/gの固有粘度を有する。
【0062】
第3の例では、本発明は、本発明の少なくとも1種のポリマー(VDF)を含有する組成物[組成物(C)]に関する。
【0063】
本発明の組成物(C)は、1種以上の添加剤を更に含んでもよい。
【0064】
適切な添加剤の非限定的な例としては、例えばジブチルセバケートなどの可塑剤が挙げられる。
【0065】
第4の例では、本発明は、本発明の組成物(C)を含む物品に関する。
【0066】
本発明の物品は、典型的には、射出成形又は圧縮成形などの溶融加工技術を使用して本発明の組成物(C)を加工することによって得られる。
【0067】
本発明の物品は、電池用途などの様々な用途における使用に特に適している。
【0068】
特に、本発明のポリマー(VDF)は、二次電池用の電極及び/又はセパレータなどの二次電池用の構成要素、特にリチウムイオン電池における使用に適している。
【0069】
本発明のポリマー(VDF)は、二次電池、特にリチウムイオン電池用の電極におけるバインダーとして特に適している。
【0070】
また、本発明のポリマー(VDF)は、
- 少なくとも1種のポリオレフィンを含む、好ましくはそれからなる少なくとも1つの基材層;及び
- 前記基材層に接着されている、少なくとも1種の本発明のポリマー(VDF)を含む、好ましくはそれからなる少なくとも1つの層;
を含む複合セパレータなどの、二次電池、特にリチウムイオン電池用のセパレータにおける使用に特に適している。
【0071】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0072】
本発明は、以下の実施例を参照してこれからより詳細に説明されるが、実施例の目的は、例示的なものであるにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0073】
原材料
ここで例示される作用実施形態において使用されるポリアルキレンオキシドは、商標名ALKOX(登録商標)(Meisei Chemical Works,Ltd)(以降「a1」という)として市販されているポリエチレンオキシド(PEO)である。
これらの特性は以下の表1に列挙されている:
【0074】
【0075】
以下の多糖誘導体を使用した:
1.METHOCEL(登録商標)K100GR、2重量%の濃度の水溶液中で20℃で80~120mPa.sの動粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース(以降「b1」という)。
2.BERMOCOLL(登録商標)E 230FQ、2重量%の濃度の水溶液中で20℃でBrookfield LVにより測定される260~360mPa.sの粘度を有するヒドロキシエチルエチルセルロース(以降「b2」という)。
【0076】
ポリマー(VDF)の合成のための基本手順
4リットル反応器中でのポリマー(VDF)の合成
4リットルの反応器の中に、表2に示される通りに、脱塩水と、2種の懸濁剤:METHOCEL(登録商標)K100ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びALKOX(登録商標)PEOグレードとを順次入れた。この混合物を、880rpmの速度で回転する羽根車で攪拌した。反応器を、20℃の固定温度で真空(30mmHg)及び窒素(1barに固定)のパージの順序でパージした。この順序を3回行った。次いで、表2に記載の通り、ジエチルカーボネート(DEC)、最初のアクリル酸(AA)、及びt-アミルペルピバレート(TAPPI)を反応器に添加した。VDFを表2に規定されている量として混合物に入れた。反応器を表2に記載の設定温度になるまで徐々に加熱した。この温度で、表2に記載の通りに圧力を110又は120barに固定した。表2に記載の濃度で脱塩水の中に溶解させた適量の異なるアクリル酸(AA)を供給することによって圧力を等しく一定に保った。その後、圧力を90bar(110barの初期圧力について)又は96bar(120barの初期圧力について)に低下させた。概して、全ての作業実施形態においてVDFのほぼ75~80%の変換を達成した。大気圧に達するまで反応器を脱気することによって重合を止めた。VDFコポリマーを濾過により回収し、脱塩水中で洗浄した。洗浄工程後に、ポリマー粉末を65℃のオーブン中で一晩乾燥させた。
【0077】
85リットル反応器中でのポリマー(VDF)の合成
85リットルの反応器の中に、表2に示される通りに、脱塩水と、1種又は2種の懸濁剤:METHOCEL(登録商標)K100ヒドロキシプロピルメチルセルロース(又はBERMOCOLL(登録商標)E230FQヒドロキシエチルエチルセルロース)及びALKOX(登録商標)PEOグレードとを順次入れた。
この混合物を、250rpmの速度で回転する羽根車で攪拌した。反応器を、20℃の固定温度で真空(30mmHg)及び窒素(1barに固定)のパージの順序でパージした。この手順を3回行い、その後混合物を300rpmの速度で撹拌した。表2に記載の通りの最初の量のアクリル酸(AA)を反応器に添加した。次いで、表2に記載の通りのt-アミルペルピバレート(TAPPI)を反応器に添加した。VDFを表2に記載されている量として混合物に入れた。
反応器を表2に記載の設定温度になるまで徐々に加熱した。この温度で、圧力を110bar又は120barに固定した。表2に記載の濃度の脱塩水の中の適量の異なるアクリル酸(AA)を供給することによって圧力を一定に保った。その後、圧力を90bar(110barの初期圧力について)又は96bar(120barの初期圧力について)に低下させた。概して、全ての作業実施形態においてモノマーの約75~85%の変換を達成した。大気圧に達するまで反応器を脱気することによって重合を止めた。
VDFコポリマーを濾過により回収し、脱塩水中で洗浄した。洗浄工程後に、ポリマー粉末をAeromatic AG流動床中で65℃の目標流出空気温度で2時間乾燥させた。
【0078】
反応(CR)の制御
反応の制御(CR)は、設定温度に対する温度反応の逸脱の尺度として決定した。設定温度に対して0.5℃を超える逸脱は良好ではない(NG)とみなされ、0.2℃~0.5℃の値は満足である(S)とみなされ、0.2℃より低い値は優れている(E)とみなされた。比較は、上で詳述した基本手順に従って85リットルの反応器中で行われた試験で行った。
【0079】
ポリマー(VDF)試験板の作製
VDFポリマー試験板を圧縮成形によって得た。プレス温度を190℃に設定し、60gのポリマーを130×130×1.5mmの大きさの枠に入れた。成形には次の3つの工程を必要とした:(1)190℃での予熱ステップに5分;(2)脱気工程に1分、;及び(3)16000Kgでの成形工程に2分。これらの工程の後、室温の水で冷却した2枚のプレート間で試験板を冷却した。試験板のための基材としてアルミニウム箔を使用した。
【0080】
ポリマー(VDF)の固有粘度の決定
固有粘度(η)[dl/g]は、Ubbelhode粘度計を用い、VDFポリマーを約0.2g/dlの濃度でN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させることによって得られた溶液の、25℃での落下時間に基づいて、以下の式:
(式中、cは、ポリマー濃度[g/dl]であり、ηは、相対粘度、すなわち試料溶液の落下時間と溶媒の落下時間との間の比であり、ηspは、比粘度、すなわちη-1であり、Γは、VDFポリマーについては3に相当する、実験因子である)を使用して測定した。
【0081】
色の保持
ポリマー(VDF)の白色度は、ASTM E313標準法に従って白色度指数(WI)を測定することによって決定し、白色(W)(WI>45)及び近白色(NW)(35<WI<45)として分類した。
【0082】
実施例1~7
処理条件は表2に記載されている。
実施例1、2、6、及び7は、上で詳述した基本手順に従って85リットルの反応器中で行った。
実施例3、4、及び5は、上で詳述した基本手順に従って4リットルの反応器中で行った。
実施例3は、26g/Kgのフッ化ビニリデン量でジエチルカーボネート(DEC)を使用して、上で詳述した基本手順に従って行った。
【0083】
比較例1~2
処理条件は表2に記載されている。
比較例1及び2は、ALKOX(登録商標)PEOグレードを添加せずに、上で詳述した基本手順に従って85リットルの反応器中で行った。
【0084】
【0085】
表3に示されるように、本発明の方法は、様々な用途での使用に適した優れた色保持性と優れた熱安定性の両方を示す実施例1~7のいずれか1つの方法に従って得られるポリマーによって特に具体化されるVDFポリマーを有利に得られることが分かった。
【0086】
他方で、たとえ多量の多糖誘導体を使用しても、ポリアルキレンオキシドなしの比較例1及び2のいずれかのポリマーを製造する方法は、工業的規模でスケールアップするのに十分に安定ではない。
【0087】