(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】紫外線発光装置を備えたクリーンエア装置およびパスボックス
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230316BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20230316BHJP
A61L 2/10 20060101ALI20230316BHJP
A61L 2/26 20060101ALI20230316BHJP
H01L 33/00 20100101ALI20230316BHJP
A61L 9/20 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
C12M1/00 K
F24F7/06 C
A61L2/10
A61L2/26
H01L33/00 L
A61L9/20
(21)【出願番号】P 2020012369
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金子 健
(72)【発明者】
【氏名】松村 健史
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-118823(JP,A)
【文献】特開2021-090923(JP,A)
【文献】特開2017-035013(JP,A)
【文献】特開2007-151930(JP,A)
【文献】国際公開第2021/005869(WO,A1)
【文献】特開2016-116820(JP,A)
【文献】特開2009-28450(JP,A)
【文献】特開2008-161095(JP,A)
【文献】特開2007-007083(JP,A)
【文献】特開2006-263609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
F24F 7/06
A61L 2/10-26
A61L 9/20
H01L 33/00
B01L 1/00-04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップを用いた紫外線発光装置を備えたクリーンエア装置であって、
紫外線を発光する半導体チップとは別に、可視光線を発光する半導体チップまたは表示ランプを配置して、紫外線強度の強弱を可視化したことを特徴とするクリーンエア装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクリーンエア装置において、
前記紫外線を発光する半導体チップと、前記可視光線を発光する半導体チップとを、同一の基板に配置してモジュール化したことを特徴とするクリーンエア装置。
【請求項3】
請求項1に記載のクリーンエア装置において、
紫外線強度の強弱を濃淡の色調または寒暖の色調で可視化したことを特徴とするクリーンエア装置。
【請求項4】
請求項1に記載のクリーンエア装置において、
クリーンエア装置は、安全キャビネット、アイソレータ、またはクリーンキャビネットであることを特徴とするクリーンエア装置。
【請求項5】
半導体チップを用いた紫外線発光装置を備えたパスボックスであって、
紫外線を発光する半導体チップとは別に、可視光線を発光する半導体チップまたは表示ランプを配置して、紫外線強度の強弱を可視化したことを特徴とするパスボックス。
【請求項6】
請求項5に記載のパスボックスにおいて、
前記紫外線を発光する半導体チップと、前記可視光線を発光する半導体チップとを、同一の基板に配置してモジュール化したことを特徴とするパスボックス。
【請求項7】
請求項5に記載のパスボックスにおいて、
作業室の両側の壁面に、前記作業室の底面を照射するように、前記紫外線を発光する半導体チップと前記可視光線を発光する半導体チップとを配置したことを特徴とするパスボックス。
【請求項8】
請求項5に記載のパスボックスにおいて、
紫外線強度の強弱を濃淡の色調または寒暖の色調で可視化したことを特徴とするパスボックス。
【請求項9】
請求項5に記載のパスボックスにおいて、
殺菌を必要とする面にステンレスのヘアライン材を用い、
前記ステンレスのヘアライン材のヘアライン方向と平行に、前記可視光を発光する複数の半導体チップを直線状に配置したことを特徴とするパスボックス。
【請求項10】
請求項5に記載のパスボックスにおいて、
空気を循環するファンと塵埃を除去するHEPAフィルタを内蔵し、
作業室の底面に、開閉扉の近くであって開閉扉と平行に、複数の循環用スリットを配列したことを特徴とするパスボックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の培養を行う再生医療分野や、病原体の取り扱い、遺伝子操作を行う医療・製薬などの産業分野において、細胞・微生物・病原体などの取り扱いにより発生する災害を防止する安全キャビネット、アイソレータ等の装置、作業環境の清浄度を維持するクリーンキャビネット等の装置、クリーンルーム内に資材を持ち込む際の外部汚染を防止するパスボックス等の装置などの、殺菌を必要とする装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病源体等の研究や、再生医療等で細胞や微生物を取り扱う場合、アイソレータや安全キャビネットが用いられている。病原体等を含まないことがあらかじめ分かっている場合は、清浄度の維持を目的としたクリーンキャビネットが用いられている。また、クリーンルームに資材を持ち込む際にはパスボックスが用いられている。
【0003】
それらの装置の中で取り扱うものの表面殺菌をする目的として、アルコールなどでの清拭とは別に、殺菌灯を用いることがある。殺菌灯は、主に低圧水銀ランプが用いられているが、微量の水銀が含まれていることにより、環境汚染につながるとともに、廃棄方法が煩雑であり、代替品として紫外線を発光する半導体チップが用いられることがある。
【0004】
特許文献1には、半導体チップを用いた紫外線発光装置の一例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
殺菌灯として、低圧水銀ランプを用いる場合には、400~500nmの範囲の可視光線が微量に含まれるため、青紫色に見える。しかし、その代替品として紫外線を発光する半導体チップを用いる場合には、殺菌効果の高い深紫外(UV-C)の範囲に波長のピークを作ることができ、その範囲以外の波長の光は出力しないため、殺菌灯の光が目に見えなく、点灯しているかどうか、紫外線が照射されているかどうか判断できない。
【0007】
特許文献1には、半導体チップを用いた紫外線発光装置の構造が記載されているが、クリーンエア装置等の機器への設置や発光光可視化手段は考慮されていない。
【0008】
本発明は、紫外線を発光する半導体チップを用いて殺菌するクリーンエア装置やパスボックスにおいて、紫外線の強度を可視化し、殺菌力の高い領域に物品を設置できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための、本発明の「紫外線発光装置を備えたクリーンエア装置およびパスボックス」の一例を挙げれば、
半導体チップを用いた紫外線発光装置を備えたクリーンエア装置またはパスボックスであって、紫外線を発光する半導体チップとは別に、可視光線を発光する半導体チップまたは表示ランプを配置して、紫外線強度の強弱を可視化したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紫外線を発光する半導体チップを用いて殺菌するクリーンエア装置やパスボックスにおいて、紫外線の強度を可視化し、殺菌力の高い領域に物品を設置することができる。
【0011】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1の紫外線発光装置の一例を示す図である。
【
図2】実施例1の紫外線発光装置を備えたパスボックスの一例を示す図である。
【
図3】実施例1の紫外線発光装置を備えたパスボックスにおいて、紫外線強度の強弱を濃淡で可視化した一例を示す図である。
【
図4】実施例1の紫外線発光装置の変形例を示す図である。
【
図5】実施例2の、紫外線強度の強弱を寒暖の色調で可視化した一例を示す図である。
【
図6】実施例3の紫外線発光装置を備えたパスボックスにおいて、殺菌面をステンレスのヘアライン材で可視化した一例を示す図である。
【
図7】実施例3の紫外線発光装置を備えたパスボックスにおいて、殺菌面をステンレスのヘアライン材にした時の光の見え方の例を示す図である。
【
図8】実施例4の紫外線発光装置を備えたパスボックスの一例を示す図である。
【
図9】実施例4の紫外線発光装置を備えたパスボックスにおいて、作業室の底面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。なお、実施の形態を説明するための各図において、同一の構成要素にはなるべく同一の名称、符号を付して、その繰り返しの説明を省略する。
【実施例1】
【0014】
図1は、実施例1の紫外線発光装置の一例を示す図であり、
図1(b)は半導体チップを取り付けた底面側から見た図、
図1(a)は側面から見た図である。
【0015】
紫外線発光装置5は、紫外線を発光する半導体チップ1と、可視光線を発光する半導体チップ11と、半導体チップ1および半導体チップ11を配置した基板2と、電源供給のための配線を接続するコネクタ3と、放熱用フィン4から構成され、モジュール化されている。基板2の一面には、紫外線を発光する複数の半導体チップ1が一列に配置され、半導体チップ1に沿うように隣接して可視光線を発光する複数の半導体チップ11が一列に配置されている。基板2の反対側の面には、半導体チップ1および11からの熱を放熱するための放熱用フィン4が設けられている。紫外線を発光する半導体チップ1からは、紫外線、例えば殺菌に有効な100~280nmの範囲の波長のUV-C波(深紫外光)が出力される。可視光線を発光する半導体チップ11からは、例えば400nm~800nmの波長の可視光線が出力される。
【0016】
なお、
図1では、半導体チップ1と半導体チップ11とが一体のモジュールとして構成され、紫外線発光装置5の取付けが容易であるが、半導体チップ1と半導体チップ11とを別体としてもよい。また、半導体チップの配置や数は、適宜変えることができる。
【0017】
図2に、実施例1の紫外線発光装置5を備えたパスボックスの一例を示す。パスボックスは、クリーンルームの入口側や出口側に設置され、クリーンルームに物品を出し入れするための設備である。パスボックスにはクリーンルーム側と前室側に扉が設けられており、クリーンルームへ塵などが入らないよう、扉が同時には開かないように構成されている。
【0018】
図2において、パスボックス30には紫外線発光装置5と紫外線発光装置コントローラ6が取り付けられている。
図1に示す紫外線発光装置5は、作業室10の両側面に、物品が置かれる作業室の底面に向けて紫外線100を照射するように取付けられている。符号9はパスボックスの扉を示し、パスボックス30は図の前面側および背面側に扉を備えている。
【0019】
図2の、紫外線発光装置を備えたパスボックスの動作を説明する。コネクタ3から紫外線を発光する半導体チップ1へ電気を供給すると、紫外線を発光し、作業室10の底面に配置した物品へ紫外線100が照射される。同時に、照射角度の同じ半導体チップを用いることにより、半導体チップ1に隣接して配置した可視光線を発光する半導体チップ11から、可視光線が照射され、光の強弱を目視できる。
【0020】
図3は、その目視効果の一例であり、対面に設置された紫外線発光装置5の各々の紫外線が交わる殺菌効果が強い領域12の光強度が強くなり、周囲は、殺菌効果の中程度の領域13と殺菌効果が弱い領域14を目視にて確認できる。そして、殺菌が必要な物品は紫外線強度が強い領域12に置き、樹脂材料等の紫外線による劣化を防ぎたい物品は、紫外線強度が弱い領域13あるいは14に置くことにより、使い勝手が良くなる。
【0021】
図4に、紫外線発光装置の変形例を示す。この変形例は、可視光線を発光する可視化用半導体チップ11の数を間引いたものである。可視化用半導体チップ11の発光により形成される光の強弱に応じて、半導体チップの数は、適宜調整できる。
【0022】
なお、可視光線を出す可視化用半導体チップ11に代えて、ネオンランプなどの表示灯を用いても良い。また、
図2では、紫外線発光装置5を作業室の両側の壁面に配置したが、作業室の天井など、作業室の上方に配置して、作業室の底面を照射するようにしてもよい。
【0023】
本実施例によれば、可視光線を発光する半導体チップ11を紫外線を発光する半導体チップ1に隣接して配列することにより、半導体チップ1から照射される紫外線の強度分布と同等の可視光線が照射されるため、紫外線の強度、すなわち殺菌効果の強弱を目視することができ、殺菌力の高い領域に物品を設置することができる。また、半導体チップの直進性の高い性質を利用し、必要な領域に必要な強度の紫外線を照射できるようになり、コスト抑制、省電力にもつながる。
【0024】
また、紫外線量をあらかじめ測定し、必要な紫外線以上の領域のみ可視光線の強度が高くなるように、可視光線を発光する半導体チップの数を決めるか配置すれば、光の強弱によりゾーニング(区域分け)することができる。また、それとは逆に紫外線の弱い領域に特定の可視光線を照射することにより、使用不可領域を色調でゾーニングすることができる。
【実施例2】
【0025】
図5に、実施例2の、紫外線強度の強弱を寒暖の色調で可視化した例を示す。紫外線発光用の半導体チップ1(図示せず)とは波長の異なる可視化用半導体チップ11を2種類以上配列し、色調を作り出す。図において、例えば符号11aは、上下の中央部に配置した、赤などの暖色を発光する半導体チップ、符号11bは、上下の両側に配置した、青などの寒色を発光する半導体チップである。作業室の底面を示す図において、符号12は紫外線強度が強く、除菌効果の強い領域であり、暖色で表示される。符号13は紫外線強度が中間で、除菌効果が中程度の領域であり、弱い暖色で表示される。符号14は紫外線強度が弱く、除菌効果の弱い領域で、寒色で表示される。紫外線強度が高い領域を赤などの暖色、低い領域を青などの寒色にすると分かりやすい。
【0026】
図では、2種類の可視光を発光する半導体チップを設けたが、さらに多くの半導体チップを配置しても良い。
【0027】
本実施例によれば、紫外線強度の強弱を寒暖などの色調の変化で目視することができ、必要な殺菌力の領域に物品を設置することができる。
【実施例3】
【0028】
図6に、実施例3の紫外線発光装置を備えるパスボックスの一例を示す。
図6は、殺菌面であるパスボックスの底面15にステンレスのヘアライン材を用いた例である。ステンレスのヘアライン材とは、ステンレス板の表面に複数の平行な微細な溝を形成したものである。照射角度が120°以下の直進性が高く可視光線を出力する可視化用半導体チップ11の配列と平行にステンレスのヘアライン方向17をとる。これにより、
図7に示すように、ヘアラインの微細な溝に光が反射し、可視化用半導体チップ11の可視光線の色が縞模様18に見え、紫外線照射領域が一目で分かるようになる。紫外線が有効に照射できていない領域では縞模様18が見えないので、殺菌効果がないことが一目で分かるようになる。
【0029】
本実施例によれば、紫外線強度の強弱を濃淡の色調で見ることができるとともに、作業室の底面に形成される縞模様でも照射領域を見ることができる。
【実施例4】
【0030】
図8に、実施例4の紫外線発光装置を備えるパスボックスの一例を示す。また、
図9に、実施例4のパスボックスの、作業室の底面を示す。実施例4は、塵埃除去効率を高めたパスボックスの例である。
【0031】
図8のパスボックス30は、
図2のパスボックスにおいて、パスボックス内の清浄度を維持するために、HEPAフィルタ7とファン8を内蔵している。物品の出し入れをするパスボックスの扉9を閉じている状態で、作業室に清浄空気を吹き出し、清浄空気を循環することにより、作業室10の清浄度を確保することができる。ここで、HEPAフィルタは、High Efficiency Particulate Air Filterの略である。
【0032】
紫外線照射により殺菌効果を得るには、照射面をできるだけ清潔に保ち、汚れの無い状態にする必要がある。汚れがある場合、紫外線が遮断され、有効な殺菌効果を得られないことがある。そこで、
図9に示すように、物品からの発塵は、作業室10から最短で排除するように、作業室の底面15の、パスボックスの前後の扉9側に循環用スリット20を設ける。そして、通過風速を5m/s程度に保つことで、空気の循環効率を高め、作業室の清浄度を維持する。なお、スリットは、前後に重ならないように、交互にずらして配置することにより、塵埃を有効に除去することができる。また、スリットは、底面の中央部には設けないで、前後の扉の近くにのみ設けることで、風速を高くすることができ、塵埃を有効に除去することができる。また、パスボックスの扉9を開けて、物品を作業室10に入れた際に発生する塵埃をパスボックス外に漏出することを抑制し、パスボックス外のクリーンルームの汚染を抑制する。
【0033】
本実施例によれば、殺菌面である作業室に外部から物品を入れた際に物品に付着した塵埃がパスボックス外に漏れ出ずに、パスボックス内のHEPAフィルタに集塵されることにより、作業室の汚染を抑制し、紫外線発光装置の紫外線による殺菌効果を極力高めることができる。
【0034】
上記各実施例では、パスボックスを例に本発明を説明したが、安全キャビネット、アイソレータ、クリーンキャビネットなどの、殺菌を必要とする何れのクリーンエア装置にも、本発明を用いることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 紫外線を発光する半導体チップ
2 基板
3 コネクタ
4 放熱用フィン
5 紫外線発光装置
6 紫外線発光装置用コントローラ
7 HEPAフィルタ
8 ファン
9 パスボックスの扉
10 作業室
11 可視光線を発光する半導体チップ
12 殺菌効果の強い領域
13 殺菌効果が中程度の領域
14 殺菌効果の弱い領域
15 作業室の底面
16 可視化用半導体チップ
17 ヘアライン方向
18 縞模様
20 循環用スリット
30 パスボックス
100 紫外線