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特許7245840電気泳動分離用分解剤としてのトリ-およびテトラ-ヒドロキシル第四級アンモニウム化合物の使用
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  • 特許-電気泳動分離用分解剤としてのトリ-およびテトラ-ヒドロキシル第四級アンモニウム化合物の使用 図1a
  • 特許-電気泳動分離用分解剤としてのトリ-およびテトラ-ヒドロキシル第四級アンモニウム化合物の使用 図1b
  • 特許-電気泳動分離用分解剤としてのトリ-およびテトラ-ヒドロキシル第四級アンモニウム化合物の使用 図2a
  • 特許-電気泳動分離用分解剤としてのトリ-およびテトラ-ヒドロキシル第四級アンモニウム化合物の使用 図2b
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】電気泳動分離用分解剤としてのトリ-およびテトラ-ヒドロキシル第四級アンモニウム化合物の使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20230316BHJP
【FI】
G01N27/447 315F
G01N27/447 315K
G01N27/447 315Z
G01N27/447 315E
G01N27/447 331E
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020537208
(86)(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 US2019013365
(87)【国際公開番号】W WO2019140314
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】62/617,110
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399117121
【氏名又は名称】アジレント・テクノロジーズ・インク
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】キムジー,マイケル・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】リムジャプ,フィエリート・ユー
(72)【発明者】
【氏名】アクソ,フランシス・ティー
(72)【発明者】
【氏名】ヴラセンコ,セルゲイ
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-022796(JP,A)
【文献】特開平06-118058(JP,A)
【文献】特表2007-516449(JP,A)
【文献】特開2006-071433(JP,A)
【文献】国際公開第2017/041013(WO,A1)
【文献】米国特許第04654132(US,A)
【文献】特開昭61-036296(JP,A)
【文献】特表2017-529318(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0356783(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析物としてグリカンの電気泳動による分離のためのゲルであって、前記ゲルが、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物を含み、前記構造1が、
【化1】
であり、前記構造2が、
【化2】
であり、前記ゲルがポリエチレンオキシドをさらに含む、ゲル。
【請求項2】
前記ゲルが、構造1の2種以上の化合物を含む、請求項1に記載のゲル。
【請求項3】
前記ゲルが、構造2の2種以上の化合物を含む、請求項1に記載のゲル。
【請求項4】
前記ゲルが、構造1の1種または複数の化合物と、構造2の1種または複数の化合物とを含む、請求項1に記載のゲル。
【請求項5】
前記構造1の1種もしくは複数の化合物のが、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(「THMH」)であり、前記THMHが安定化剤で安定化されている、請求項1に記載のゲル。
【請求項6】
目的の分析物としてグリカンのキャピラリ電気泳動(CE)による分離のためのカートリッジまたはキャピラリであって、前記カートリッジまたはキャピラリにゲルが装填され、前記ゲルが構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物を含み、前記構造1が、
【化3】
であり、前記構造2が、
【化4】
であり、前記ゲルがポリエチレンオキシドをさらに含む、カートリッジまたはキャピラリ。
【請求項7】
前記ゲルが、構造1の2種以上の化合物を含む、請求項6に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
【請求項8】
前記ゲルが、構造2の2種以上の化合物を含む、請求項6に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
【請求項9】
前記ゲルが、構造1の1種または複数の化合物と、構造2の1種または複数の化合物とを含む、請求項6に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
【請求項10】
前記構造1の1種または複数の化合物が、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(「THMH」)であり、前記THMHが安定化剤で安定化されている、請求項6に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
【請求項11】
前記カートリッジまたはキャピラリが、カートリッジである、請求項6に記載のカートリッジ。
【請求項12】
前記キャピラリが、(i)未被覆である壁を備えた、または(ii)(a)前記目的の分析物のCEを妨げず、かつ(b)前記キャピラリが各運転間で調整されない場合に、前記分析物の分解能が少なくとも5回の運転で劣化することを防ぐものであるコーティングで被覆された壁を備えた、内部ルーメンを有する、請求項6に記載のキャピラリ。
【請求項13】
前記構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物が、ゲルの0.08%wt/wt~0.15%wt/wtの濃度で前記ゲル中に存在する、請求項6に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
【請求項14】
標識された分析物としてグリカンの電気泳動による分離を実施する方法であって、前記方法が、(a)前記分析物をゲルに装填するステップであって、前記ゲルが、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物を含み、前記構造1が、
【化5】
であり、前記構造2が、
【化6】
であり、前記ゲルがポリエチレンオキシドをさらに含む、ステップと、前記ゲル中の前記標識された分析物を電位に供し、これによって前記標識された分析物の電気泳動による分離を実施するステップとを含む、方法。
【請求項15】
前記ゲルが、構造1の2種以上の化合物を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ゲルが、構造2の2種以上の化合物を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ゲルが、構造1の1種または複数の化合物と、構造2の1種または複数の化合物とを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記構造1の1種または複数の化合物が、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(「THMH」)であり、前記THMHが安定化剤で安定化されている、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
記標識されたグリカンの標識が、APTS、ANTS、またはInstantQ(商標)である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物が、ゲルの0.075%wt/wt~0.15%wt/wtの濃度で前記ゲル中に存在する、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年1月12日に出願された米国仮特許出願第62/617110号明細書の利益および優先権を主張し、その内容は引用することによって本明細書の一部を成すものとする。
【0002】
[連邦政府資金援助の記述]
該当なし。
【0003】
本発明は、分析物を含有するゲルを電気泳動による分離に供することによる、分析物の分析分野に関する。
【背景技術】
【0004】
電気泳動では、分析物は、ゲルを通して分析物を移動させる電気力に供される。典型的には、目的(interest)の1種または複数の分析物は、試料中に存在する他の成分からこれらを分離した後、これらの検出および定量化を促進するために標識されている。
【0005】
試料に存在している様々な分析物を分析するための技法の1つは、電気泳動である。典型的には目的の1種または複数の分析物を含む試料は、ゲルに装填され、試料中の分析物をゲルの長さにわたって電位に供し、ゲルを通してこれらを移動させる。電気泳動による分離(electrophoretic separations)についてのいくつかの形態は、当技術分野において公知である。これらは、限定されるものではないものの、スラブゲル、キャピラリ電気泳動(「CE」)、エレクトロフィルトレーション(electrofiltration)、示差イン-ゲル電気泳動(Differential In-gel Electrophoresis)(「DIGE」)、ゾーン電気泳動、等電点電気泳動(「IEF」)、ネイティブ電気泳動(native electrophoresis)、2次元電気泳動、免疫化学/免疫固定電気泳動、固定化pH勾配電気泳動(immobilized pH gradient electrophoresis)、マイクロチップ、移動境界(moving boundary)、等速電気泳動、パルスフィールド電気泳動、およびこれらの組合せを含む。キャピラリ電気泳動では、このような技法は、分子の大きさに基づいて分子を分離するキャピラリゲル電気泳動(capillary gel electrophoresis)、または「CGE」、および電荷:質量比に基づいて分子を分離するキャピラリゾーン電気泳動(capillary zone electrophoresis)、または「CZE」を含む。
【0006】
CE、CGEおよびCZEEは、当技術分野で周知であり、Beckman Coulter’s booklet“Introduction to Capillary Electrophoresis”(undated, but from1991-2)、Whatley,H.,Basic Principles and Modes of Capillary Electrophoresis,in Petersen and Mohammad,eds.、Clinical and Forensic Applications of Capillary Electrophoresis,Humana Press,Inc.Totowa,NJ(2001)、およびLauer and Rozing,eds.,High Performance Capillary Electrophoresis,2nd Ed.,Agilent Technologies,Inc.,Santa Clara,CA(2014)を含む文献にて広範囲に教示されている。CGEは、タンパク質と核酸を分離するために、数十年にわたって使用されてきている。例えば、Zhu et al.,Anal Chim Acta.2012 Jan 4;709:21-31を参照されたい。
【0007】
様々なタイプの化合物を分離するために、異なる電気泳動の技法を使用することができる。グリカンの相互からの分離、特に電気泳動の技法によるN-グリカンの分離は、これらの複数タイプの化合物の各々の特性に起因して、タンパク質または核酸を相互から分離するよりも挑戦的なものである。例えば、Schwarzer,et al.,“N-glycan analysis by CGE-LIF:Profiling influenza A virus hemagglutinin N-glycosylation during vaccine production,”Electrophoresis 2008,29,4203-4214,at 4204を参照されたい。典型的には、CGEによって分析されるグリカンは、例えば、レーザー誘起蛍光(「LIF」)またはUV光による検出を可能とするために、荷電したフルオロフォアまたはUV可視染料で標識されている。例えば、Schwarzer,supra,Reusch,et al.,“High-throughput glycosylation analysis of therapeutic immunoglobulin G by capillary gel electrophoresis using a DNA analyzer,”2014,doi:10.4161/mabs.26712を参照されたい。
【0008】
電気泳動分離用の検出システムは、吸収、蛍光、質量分析、伝導性、電位差測定、または電流測定を含んでもよい。しかし、目的の1種または複数の分析物の正確な検出および定量化は、電気泳動による分離が実施される条件下で目的の分析物と共移動する(co-migrate)、試料中に存在する他の化合物の存在に起因して困難となる。このような共移動(co-migration)を低減することによって、分析される試料中に存在する目的の分析物の分解能は改善されるであろう。今日まで、電気泳動による分離を受ける試料の成分の共移動を低減する、このような試料中の他の成分からの目的の分析物の分解能を改善するための組成物および方法は、未だ報告されていない。
【0009】
したがって、分析物および成分、特に電気泳動による分離、例えば、CEまたはCGE中に一緒に共移動するグリカンの分解能を改善する、組成物および方法への需要が依然として存在している。しかし、驚くべきことに、本発明はこれらの及び他の需要を満たすものである。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、標識された分析物の電気泳動による分離を改善するための組成物、方法、システム、およびキットを提供する。実施形態に係る第1のグループでは、本発明は、分析物の電気泳動による分離のためのゲルを提供する。ゲルは、構造1の1種もしくは複数の化合物(one or more compounds)、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物を含み、前記構造1は、
【化1】
であり、前記構造2は、
【化2】
である。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造1の2種以上の化合物(two or more compounds)を含む。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造2の2種以上の化合物を含む。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造1の1種または複数の化合物および構造2の1種または複数の化合物を含む。いくつかの実施形態では、構造1の1種の化合物は、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(「THMH」)である。いくつかの実施形態では、THMHは、安定化剤で安定化されている。いくつかの実施形態では、電気泳動による分離は、キャピラリ電気泳動である。いくつかの実施形態では、キャピラリ電気泳動は、キャピラリゲル電気泳動である。いくつかの実施形態では、キャピラリ電気泳動は、キャピラリゾーン電気泳動である。いくつかの実施形態では、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物は、ゲルの0.001%wt/wt~5.0%wt/wtの濃度で存在する。いくつかの実施形態では、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物は、ゲルの0.08%wt/wt~0.15%wt/wtの濃度で存在する。
【0011】
実施形態に係る別のグループでは、本発明は、目的の分析物のキャピラリ電気泳動(CE)による分離のためのカートリッジまたはキャピラリであって、カートリッジまたはキャピラリにゲルが装填されており、ゲルが、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物を含み、前記構造1は、
【化3】
であり、前記構造2は、
【化4】
である、カートリッジまたはキャピラリを提供する。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造1の2種以上の化合物を含む。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造2の2種以上の化合物を含む。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造1の1種もしくは複数の化合物および構造2の1種もしくは複数の化合物を含む。いくつかの実施形態では、構造1の1種もしくは複数の化合物は、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(「THMH」)である。いくつかの実施形態では、THMHは安定化剤で安定化されている。いくつかの実施形態では、ゲルはポリエチレンオキシドをさらに含む。いくつかの実施形態では、目的の分析物は、標識されたグリカンである。いくつかの実施形態では、カートリッジまたはキャピラリは、カートリッジである。いくつかの実施形態では、カートリッジまたはキャピラリは、キャピラリである。いくつかの実施形態では、キャピラリは、未被覆である壁を備えた内部ルーメン(interior lumen)を有する。いくつかの実施形態では、キャピラリは、(a)目的の前記分析物のCEを妨げず、(b)各運転間で前記キャピラリを調整することなく、目的の分析物の分解能が少なくとも5回の運転で劣化することを防ぐ、コーティングで被覆された壁を備えた内部ルーメンを有する。いくつかの実施形態では、コーティングは目的の分析物のCEを妨げず、各運転間で前記キャピラリを調整することなく、分析物の分解能が少なくとも10回の運転で劣化することを防ぐ。いくつかの実施形態では、壁のコーティングは、ポリビニルアルコールである。いくつかの実施形態では、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物は、ゲルの0.001%wt/wt~5.0%wt/wtの濃度でゲル中に存在する。いくつかの実施形態では、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物は、ゲルの0.08%wt/wt~0.15%wt/wtの濃度でゲル中に存在する。
【0012】
実施形態に係る更なるグループでは、本発明は、分析物の電気泳動による分離のためのシステムであって、(a)電気泳動による分離を実施するための装置と、(b)電気泳動による分離を実施するためのゲルであり、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物を含み、構造1は、
【化5】
であり、前記構造2は、
【化6】
である、ゲルとを含む、システムを提供する。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造1の2種以上の化合物を含む。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造2の2種以上の化合物を含む。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造1の1種もしくは複数の化合物、および構造2の1種もしくは複数の化合物を含む。いくつかの実施形態では、構造1の1種もしくは複数の化合物は、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(「THMH」)である。いくつかの実施形態では、THMHは、安定化剤で安定化されている。いくつかの実施形態では、電気泳動による分離は、キャピラリ電気泳動である。いくつかの実施形態では、キャピラリ電気泳動は、キャピラリゲル電気泳動である。いくつかの実施形態では、キャピラリ電気泳動は、キャピラリゾーン電気泳動である。いくつかの実施形態では、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物は、ゲルの0.001%wt/wt~5.0%wt/wtの濃度でゲル中に存在する。いくつかの実施形態では、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物は、ゲルの0.075%wt/wt~0.2%wt/wtの濃度でゲル中に存在する。
【0013】
実施形態に係るなお更なるグループでは、本発明は、標識された分析物の電気泳動による分離を実施する方法であって、(a)ゲルに前記分析物を装填するステップであり、そのゲルが、有効な量の、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物を含み、前記構造1は、
【化7】
であり、前記構造2は、
【化8】
であるステップと、ゲル中の標識された分析物を電位に供し、それによって標識された分析物の電気泳動による分離を実施するステップとを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造1の2種以上の化合物を含む。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造2の2種以上の化合物を含む。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造1の1種もしくは複数の化合物および構造2の1種もしくは複数の化合物を含む。いくつかの実施形態では、構造1の1種もしくは複数の化合物は、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(「THMH」)である。いくつかの実施形態では、THMHは、安定化剤で安定化されている。いくつかの実施形態では、電気泳動による分離は、キャピラリ電気泳動である。いくつかの実施形態では、キャピラリ電気泳動は、キャピラリゲル電気泳動である。いくつかの実施形態では、キャピラリ電気泳動は、キャピラリゾーン電気泳動である。いくつかの実施形態では、標識された分析物は、標識されたグリカンである。いくつかの実施形態では、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物は、ゲルの0.001%wt/wt~5.0%wt/wtの濃度で前記ゲル中に存在する。いくつかの実施形態では、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物は、ゲルの0.075%wt/wt~0.15%wt/wtの濃度で前記ゲル中に存在する。いくつかの実施形態では、標識されたグリカンは、複数のスルホン酸部分を有する染料で標識される。いくつかの実施形態では、標識されたグリカンは、APTS、ANTS、またはInstantQ(商標)で標識される。
【0014】
実施形態のまた更なるグループでは、本発明は、電気泳動による分離を実施するためのキットであって、(a)ゲルを保持する容器であり、ゲルが、有効な量の、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物を含み、構造1は、
【化9】
であり、構造2は、
【化10】
である容器と、(b)緩衝剤とを含む、キットを提供する。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造1の2種以上の化合物を含む。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造2の2種以上の化合物を含む。いくつかの実施形態では、ゲルは、構造1の1種もしくは複数の化合物および構造2の1種もしくは複数の化合物を含む。いくつかの実施形態では、構造1の1種もしくは複数の化合物は、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(「THMH」)である。いくつかの実施形態では、THMHは、安定化剤で安定化されている。いくつかの実施形態では、前記ゲルを保持する容器は、カートリッジまたはキャピラリである。いくつかの実施形態では、カートリッジまたはキャピラリは、カートリッジである。いくつかの実施形態では、前記カートリッジまたはキャピラリは、キャピラリである。いくつかの実施形態では、キャピラリは、未被覆である壁を備えた内部ルーメンを有する。いくつかの実施形態では、キャピラリは、被覆された壁を備えた内部ルーメンを有する。いくつかの実施形態では、キャピラリの壁のコーティングは、ポリビニルアルコールである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1a-1b】融合タンパク質の生物学的治療薬であるエタネルセプトから放出された、APTS標識グリカンの分解能を比較する電気泳動図である。図1a.図1aは、標準ゲルを使用した、APTS標識グリカンの分解能を示す電気泳動図である。矢印は、Man5と接近して共移動する他のグリカンであるAPTS標識A1F、G0およびG0F-Nから、Man5を分解する分離ができなかった、ピークを指している。図1b.図1bは、同じ試薬を使用して分離された、APTS標識グリカンの分解能を示す電気泳動図であるが、ゲルは、0.1%の典型的な第四級アンモニウム化合物であるTHMHをさらに含んでいる。図1Bで矢印によって示されるように、APTS標識MAN5のピークは、A1F、G0、およびG0F-Nのピークから分離されている。GU=グルコース単位。RFU=相対的蛍光単位。
図2a-2b】最初の試料の注入後(図2a)およびその後の同じ試料の注入後(図2b)の、内部がポリビニルアルコールで被覆されたキャピラリ内における、ヒトIgGから放出されて、次にInstantQ(商標)で標識されたグリカンの分解能を比較する電気泳動図である。キャピラリは、各運転の前に新しいゲルを装填され、そこに0.1%wt/wtの典型的な第四級アンモニウム化合物であるTHMHが添加されたが、いずれの運転の間にもキャピラリは調整されなかった。GU=グルコース単位。RFU=相対的蛍光単位。 図2a.図2aは、ヒトIgGから放出されたInstantQ(商標)標識グリカンの、最初の運転での分離を示す電気泳動図である(注入1は標準物質のラダーであったので、その注入は「注入2」と標識される)。 図2b.図2bは、234回さらに分離した後の、同じPVA被覆キャピラリ内における、ヒトIgGから放出されたInstantQ(商標)標識グリカンの分離を示す電気泳動図である(上述のように、最初の注入が標準物質のラダーであったので、これは「注入235」である)。キャピラリは運転の間に新しいゲルを装填されたが、図2aに示された運転と図2bに示された運転の間に調整されなかった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
試料中にどの分析物が存在するかを決定することは、いくつかの状況で重要である。例えば、どの炭水化物(または「グリカン(glycans)」)が複合糖質、例えば、糖タンパク質に結合しているかを決定することは、薬物動態学、免疫原性、および糖タンパク質の潜在的な治療有効性を理解するために重要である。その結果、目的の分析物、例えば、所与の試料に存在するグリカンの検出を改善することは望ましいであろう。
【0017】
しばしば、試料中に存在する分析物は、電気泳動によって分析物を分離し、次に分離された分析物を検出することによって検出される。背景技術で述べたように、いくつかの電気泳動による分離技法は、当技術分野で公知である。これらは、限定されるものではないが、スラブゲル、キャピラリ電気泳動(「CE」)、エレクトロフィルトレーション、示差イン-ゲル電気泳動(「DIGE」)、ゾーン電気泳動、等電点電気泳動(「IEF」)、ネイティブ電気泳動、2次元電気泳動、免疫化学/免疫固定電気泳動、固定化pH勾配電気泳動、マイクロチップ、移動境界、等速電気泳動、パルスフィールド電気泳動、およびこれらの組合せを含む。キャピラリ電気泳動の範囲内で、技法は、分子の大きさに基づいて分子を分離するキャピラリゲル電気泳動、または「CGE」、および電荷:質量比に基づいて分子を分離するキャピラリゾーン電気泳動、または「CZE」を含む。
【0018】
電気泳動の技法が多くの分析物の良好な分離をしばしば与える一方で、いくつかの分析物、特にグリカンは互いに共移動し、どれがどんな量で存在するのかについて決定することを困難にする。所与の試料中に存在する分析物、例えば、標識されたグリカンの共移動を低減することによって、試料中に存在する分析物の分解能が改善されるであろう。残念ながら、分析物、例えば、標識されたグリカンの共移動を低減し、したがって分析物の分解能を改善する組成物および方法があったとしても、今日までほとんど存在していない。
【0019】
驚くべきことに、以前に主として半導体の洗浄に使用された化合物である、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(CAS No.33667-48-0;この化合物は、本明細書にて「THMH」または「TEMAH」と時に呼称する。)が低濃度でゲル中に存在することにより、標識された分析物がゲル中で電気泳動による分離に供された場合、ある特定の標識で標識された分析物の分解能が著しく改善されることを我々は見出した。例えば分析物、例えば、CAS名称/番号が1,3,6-ピレントリスルホン酸8-アミノ-三ナトリウム塩/196504-57-1であるAPTS(8-アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸三ナトリウム塩)で標識されたグリカン、米国特許第8124792号および同第8445292号によって教示されるAPTSの活性化された形態で標識されたグリカン、または複数のスルホン酸部分を備える他の標識で標識されたグリカンは、電気泳動中に少量のTHMHがゲル中に存在すると、CGEによってより良好に分解され得る。本発明の基礎となる研究では、ゲル中のTHMHの存在によって、CGE分離での分離が広がり、分析物の分解能が改善された。本発明の基礎となるいくつかの研究は、CGE分離で分解することが特に困難であり得るグリカンである、Man5(本明細書では、時に「Man-5」または「Man-5グリカン」とも呼称する。)の分離へのTHMHの影響を、ゲル中において単独でMan5の十分な分離を与えないAPTSを使用して試験した。THMHはゲル分離中にMan5のピーク形状を維持するのを助け、さらに、いくつかの運転にわたってそうであることを、研究は示した。実務者が認識するように、手順中にピークが広がると起こり得る、接近して共移動する分析物のピークがオーバーラップすることを避けるのを助けるので、分析物の分離でピーク形状を維持することは望ましい。
【0020】
すべての電気泳動の技法が、電場の影響下でゲルを通る分析物の動きに依存するものと考えれば、CGEシステムを使用した研究で得られる結果は、ゲルを使用する電気泳動の他の形態、特にマイクロ流体の環境で電気泳動による分離が行われる実施形態でも得られると考えることができる。さらに、電場の影響下でゲルを通る目的の化合物の動きは、分析される化合物のタイプに関係なく電気泳動の技法の特徴であるので、グリカンの分解能を増加させることが好ましい実施形態であるが、本明細書で議論するTHMHおよび他の化合物の使用も、他の標識された炭水化物およびそれらを含有する化合物の分解能を増加させると考えられる。
【0021】
THMHは、いくつかの実施形態で使用するための、第四級アンモニウム化合物の好ましい実施形態である。しかしながら、メチル基および3つの末端ヒドロキシル基を含有し、メチル基はTHMHのように直接ではないが、炭素数1~5のアルキルリンカーを通して窒素に結合している他の第四級アンモニウム化合物を使用して、電気泳動による分離で分析物の分解能を改善する類似の結果が得られると考えられる。その結果、これらの実施形態では、トリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物は、構造1で示される構造を有する。構造1:
【0022】
【化11】
【0023】
構造1の化合物は、本明細書にて、時に「トリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物(trihydrocyl quaternary ammonium compounds)」と呼称する。
【0024】
THMHのメチルが、代わりに、直接または炭素数1~5のアルキルリンカーを通して窒素に結合し得る第4のヒドロキシル基である、テトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物を使用して、電気泳動による分離で分析物の分解能を改善する類似の結果が得られるとさらに考えられる。そのため、これらの実施形態では、テトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物は、構造2で示される構造を有する。構造2:
【0025】
【化12】
【0026】
構造2の化合物は、本明細書にて、時に「テトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物(tetrahydroxyl quaternary ammonium compounds)」と呼称する。好ましい実施形態では、構造2の化合物のヒドロキシル基は、窒素に直接結合する。いくつかの実施形態では、構造2の化合物は、ヒドロキシル基と窒素の間に1つの炭素を有する。いくつかの実施形態では、構造2の化合物は、ヒドロキシル基と窒素の間に2つの炭素を有する。いくつかの好ましい実施形態では、構造2の化合物は、ヒドロキシル基と窒素の間に3つの炭素を有する。いくつかの好ましい実施形態では、構造2の化合物は、ヒドロキシル基と窒素の間に4つの炭素を有する。いくつかの好ましい実施形態では、構造2の化合物は、ヒドロキシル基と窒素の間に5つの炭素を有する。
【0027】
本発明に係る組成物および方法は、ハイブリッド技法を含む、分析物の大きさ分離用のゲルを使用する電気泳動による分離に特に適している。いくつかの実施形態では、ゲルを使用する電気泳動による分離は、キャピラリ電気泳動である。いくつかの実施形態では、キャピラリ電気泳動は、キャピラリゲル電気泳動である。
【0028】
上述したトリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物またはテトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物は、個々に使用できる、またはトリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物もしくはテトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物の両方の混合物、または2つのトリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物の混合物、または2つのテトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物の混合物として使用できる。1種または複数の分析物の試料を、試験する化合物または化合物の混合物で作られた第1のゲルであるゲル1での分離に導入し、複製試料を、1種または複数の試験化合物を有さない第2のゲルであるゲル2の中へ導入し、試験試料がゲル1で分離された場合に、試験試料がゲル2で分離された場合と比較して、選択した分析物の分解能が(a)改善された、(b)同じ、または(c)より悪い、を決定することによって、任意の特定のトリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、テトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、またはこれらの混合物を容易に試験して、目的の1種または複数の分析物の分解能を改善するかどうかを決定できる。例えば、目的の分析物が、例えば、ANTS、APTS、またはInstantQ(商標)(ProZyme,Inc.,Hayward,CA)で標識されたグリカンのMan5、A1FおよびG0F-Nである場合、それらを試験量の試験化合物または混合物を含有している第1のゲル中でCGEに供し、第1のゲルとの唯一の違いが試験化合物または混合物の不在である第2のゲル中でCGEによって分離された場合より、異なる標識された目的のグリカンが相互から良好に分離されるか否かを見ることができる。
【0029】
典型的には、化合物または混合物は、ゲル組成物へ溶液として簡便に導入され得るが、ゲルマトリックスを形成するために使用される緩衝剤中へ粉末として混合できる、または当技術分野で公知の他の簡便な方法で導入できる。トリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物またはテトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物の溶液は、少量の抗菌剤をさらに含んでもよい。THMHは、例えば、薬剤MEHQ(4-メトキシフェノール、CAS No.150-76-5)で安定化され、水中にて40~50%の濃度で、TCI America(Portland OR)から市販されている。THMHを用いて行われた本開示の基礎となる研究で達成された良好な結果は、THMHの存在に起因し、研究で使用するTHMH中に存在する少量のMEHQに起因しないと考えられる。
【0030】
異なる電気泳動の適用で使用するゲルを作るためのレシピは、当技術分野で周知である。目的の1種または複数の分析物の分析に使用される、特定の電気泳動の技法に好適なレシピに、当業者は精通していると予想される。いくつかの好ましい実施形態では、ゲルのレシピは、キャピラリ電気泳動で使用するゲル用である。いくつかの好ましい実施形態では、ゲルのレシピは、キャピラリゲル電気泳動で使用するゲル用である。トリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物またはテトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、またはトリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物もしくはテトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物の両方の混合物、または2種もしくはそれ以上(two or more)のトリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物の混合物、または2種もしくはそれ以上のテトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物の混合物は、好ましくは0.005%~5%、0.0075%~4%、0.01%~3%、0.025%~2%、0.025%~1%、0.05%~0.75%、0.05%~0.60%、0.075%~0.50%、0.075%~0.4%、0.075%~0.3%、0.075%~0.2%、0.075%~0.15%、0.08%~0.125%、0.85%~0.125%、0.09%~0.120%、0.09%~0.115%、0.09%~0.11%、および0.1%の量で、選択したゲルのレシピに添加され得る。他の接近して共移動するグリカンからMan5を分離するには、百分率0.1%が最善であることが見出された。目的の異なるグリカンの分離で最良に機能する1種または複数の第四級アンモニウム化合物の百分率は、他のグリカンからMan5を分離するために見出されるものとは異なる可能性があるが、上述の百分率の範囲内であり、任意の特定のグリカンまたは他の標識された炭水化物に最良に機能する百分率または濃度は、本開示で教示される試験法を使用して容易に決定できると予想される。百分率は、wt/wt基準、またはv/v基準で計算できる。2つの計算は非常に類似するものであるが、どの計算を使用するかによって、化合物の最適な濃度に僅かな差があり得る。本研究の過程での研究で、両方の計算を使用して混合物を作り、機能的な差は見られなかった。
【0031】
電気泳動ゲルを作るためにレシピに添加する、少量のTHMHまたは他のトリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物またはテトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物またはこれらの混合物は、ゲルのレシピの中へ導入するためにピペットで計るまたは他の方法で操作することは困難であり得る。THMHまたは他のトリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物またはテトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物を含む溶液は、したがって時には最初に2倍~10倍希釈して、導入する化合物を含有する溶液の量を提供する。例えば、THMH原液(45~50%w/w)は、約5%の作業濃度(working concentration)のために、MEHQを含有する水で10倍希釈できる。次に、THMHのこの作業濃度をゲル混合物に添加して、ゲル中に0.05~0.5%のTHMHの最終濃度を有するゲルを形成する。いくつかの実施形態では、中間溶液の必要性を回避することによって、最終溶液の正確性を増加させることが望ましい。これらの実施形態では、レシピに添加される、THMHまたは他のトリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物またはテトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物またはこれらの混合物(「添加物」)は、添加物を計算された所望の濃度へ希釈するのに必要なゲル溶液の重量、添加物を希釈するのに使用する量でゲルを保持するのに好適な容器中に設置される添加物の重量、および容器中の添加物に直接的に添加されるゲル溶液の重量を量り分けることができる。次に、好ましくは、粘性の溶液を混合するために実験室で使用される技法、例えば、回転台に容器を設置すること、または磁気撹拌機を使用することにより、ゲル溶液と添加物は混合される。
【0032】
結果として得られるゲル中に存在する、トリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、テトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、またはこれらの混合物の任意の特定の濃度を容易に試験して、それが電気泳動装置中で使用に推奨される電流の量を超える電流を生じるかどうかを確かめることができ、超える場合、その特定のトリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、テトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、またはこれらの混合物のその特定の濃度は好ましくないものである。トリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、テトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、またはこれらの混合物を、好ましくは選択したゲルのレシピの他の成分に添加し、撹拌して、トリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、テトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、またはこれらの混合物の均一な分布をゲル中に得る。
【0033】
同様に、任意の特定のトリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、テトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、またはこれらの混合物の任意の特定の濃度は、分析物の試験試料を、1種または複数の化合物の試験濃度で作られた第1のゲルであるゲル1での分離、および1種または複数の試験化合物を有さない第2のゲルであるゲル2での分離に供し、試験試料をゲル1で分離した場合に、試験試料をゲル2で分離した場合と比較して、選択した分析物の分解能が改善された、同等、またはより悪いかを決定することにより、目的の1種または複数の分析物の分解能を改善する際のその効果に関して容易に試験することができる。例えば、目的の分析物が、例えば、ANTS、APTS、またはInstantQ(商標)(ProZyme,Inc.,Hayward,CA)で標識された、Man5、A1FおよびG0として当技術分野で公知のグリカンである場合、これらを試験化合物または混合物の試験量でCGEに供して、目的の異なる標識されたグリカンを相互から分離することに、ゲルが成功するかどうかを見ることができる。特定量の特定のトリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、テトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、またはこれらの混合物が、トリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、テトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、またはこれらの混合物の非存在下で実施した同様の分離と比較して、特定の分析物の分解能を改善するのに成功するかどうかを決定するために、ANTS、APTSまたはInstantQ(商標)以外の標識によって標識された分析物を同様に使用することができる。所与のゲルのレシピで、選択した分析物の分解能を改善するが、電気泳動による分離を行うために使用する装置の過熱をもたらさない、特定のトリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、テトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、またはこれらの混合物の量が、トリヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、テトラヒドロキシル第四級アンモニウム化合物、またはこれらの混合物の有効な量であると考えられる。
【0034】
[定義]
本明細書にて、「ゲル」、「ゲルマトリックス」および「ふるい分けマトリックス(sieving matrix)」というフレーズは、同意語である。
【0035】
例えば、CGEまたはゲルを使用するハイブリッドCE手順(hybrid CE procedures)によって、電気泳動による分離を実施する文脈において、「分解能(resolution)」という用語は、分離するために使用される分析システムにおいて、他の場合には一緒に移動する2つの分析物を識別する能力を指す。参照の便宜上、本明細書にて「CGE」という用語は、文脈により他に必要とされない限り、ゲルを使用するハイブリッドCE手順を含む。
【0036】
目的の分析物の標識に関する「標識(label)」という用語は、目的のその分析物に、蛍光性の部分またはUV可視染料を化学的に結合することを意味している。
【0037】
指定された化合物「と反応することによって分析物は標識された(analyte has been labeled by being reacted with)」というフレーズは、標識された分析物に結合した標識が、蛍光性部分またはUV可視染料で分析物を標識させる条件下で、分析物が指定された化合物と接触した後に残存する標識であることを意味している。
【0038】
[Man5]
哺乳類の抗体および融合タンパク質は重要であり、非常に高価な治療薬のグループであり、典型的には商業的な醗酵システムで製造されている。抗体または融合タンパク質の製造中に、「Man5」(マンノペンタオース-ジ-(N-アセチル-D-グルコサミン)、または「オリゴマンノース-5グリカン」、CAS No.66091-47-2、「Man-5」もしくは「Man-5グリカン」としても公知である。)として公知のグリカンのレベルをモニタリングすることは、醗酵システムがストレス下にあることのマーカーとして機能することができ、望ましくは生産ロットを節約するのに間に合う介在を可能とする。Man-5グリカンに関する以下の構造
【化13】
は、Sigma-Aldrichウェブサイト(Sigma-Aldrich, St.Louis,MO)から得られる。
【0039】
[CEおよびCGE]
様々な分析物を分離するために、キャピラリ電気泳動およびCGEは20年にわたって使用されてきている。したがって、実務者はCGEおよびゲルを使用するハイブリッドCE法を実施するための当技術分野で使用される様々な手順および試薬に精通しており、これらの手順および試薬についてここで長々と議論する必要はないと予想される。例えば、一般にCEおよび特にCGEは、テキスト、例えば“Capillary Electrophoresis Methods for Pharmaceutical Analysis,”Volume9,Ahuja and Jimidar,eds.,Elsevier,London(2008)、“Capillary Electrophoresis Guidebook:Principles,Operation,and Applications,”(Methods in Molecular Biology),Altria,ed.,Humana Press,Totowa,NJ(2010)、および“Capillary Electrophoresis:Methods and Potentials,”Engelhardt et al.,eds.,Friedr,Vieweg&Sohn,Braunschweig/Wiesbaden(1996)にて詳細に議論されている。特に炭水化物のCEについても、“Capillary Electrophoresis of Carbohydrates”(Methods in Molecular Biology,Vol.213),Thibault and Honda,eds.,Humana Press Inc,,Totowa,NJ(2003)、“Capillary Electrophoresis of Carbohydrates:From Monosaccharides to Complex Polysaccharides,”Volpi,ed.,Humana Press,Totowa,NJ(2011)および“Carbohydrate Analysis:High Performance Liquid Chromatography and Capillary Electrophoresis,”El Rassi,ed.,Elsevier Science B.V.,Amsterdam,the Netherland(1995)を含む、いくつかのテキストにて教示されている。最後の引用文献の第8章では、炭水化物および複合糖質の分析のための、CZEとCGEの両方を含む様々なCE技法の使用について議論されている。
【0040】
[ゲル、カートリッジ、キャピラリおよび標識]
様々な分析物の電気泳動による分離のためのゲルは、当技術分野で周知であり、実務者によって選択される特定の電気泳動の技法で、目的の分析物の特性用に調整された、異なる組成物を含有する。ゲルを含む選択された電気泳動による分離技法、ならびにグリカンおよび炭水化物を含有する他の化合物のための技法によって、目的の特定の分析物を電気泳動による分離に供するために、当業者は当技術分野で使用される様々なゲルに精通していると予想される。
【0041】
グリカン分離のいくつかの実施形態では、本発明に係る方法および組成物で使用される特にCGE分離用のゲルは、米国特許第8163152号(「’152特許」)における第12列第15~23行に教示される通りである。いくつかの好ましい実施形態では、ゲルは、以下の変更とともに、’152特許における第12列第25~35行に明記されたレシピに従って作られる。(1)レシピに明記された7000000mwt g/molのポリエチレンオキシド(「PEO」)は、分子量7000000のPEOが現在市販されていないので、8000000のmwt g/molのPEOと置き換え、(2)EtBrは省く(この変更されたレシピを、本明細書では時に「変更PEOゲル」と呼ぶ。)。いくつかの実施形態では、レシピに明記された、より大きなおよびより小さなPEOのmwt g/molは、独立して、述べられているmwt g/mol値の±20%であり得る。また、使用されるPEOの大きさに関係なく、好ましくはEtBrをゲルから省く。’152特許は、引用することによってその全体が本明細書の一部を成し、上に引用した部分は特に本明細書に組み込まれるものである。当業者にとって既知であるように、「PEO」および「ポリエチレングリコール」または「PEG」は、化学的に同意語であるが、「PEG」は、20,000g/mol未満のポリマーを指すために典型的には使用される一方で、「PEO」は、そのポイントを超えるポリマーを指すために典型的には使用される。
【0042】
目的の分析物がグリカンであるいくつかの実施形態では、ゲルは、グリカンのキャピラリゲル電気泳動用に使用されるPEO以外の化合物、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)から構成され得る。特に好ましいゲルはPEOであるが、他の中性親水性ポリマー、例えば、アルキルセルロース、ポリビニルアルコール、デキストラン、またはポリアクリルアミドを使用することができる。
【0043】
電気泳動による分離のために使用するゲルは、当技術分野にて公知である任意の手段によって調製できる。構造1、構造2、またはこれらの混合物の化合物を、ゲルが形成される前に簡便に試薬に添加し、構造1、構造2、またはこれらの混合物の化合物のゲル内での均一な分布を可能にする。多くの機器では、ゲルを1つもしくは複数の容器に配置し、キャピラリの端をゲル内へ導入して、典型的には空気圧によってゲルをキャピラリ内に送る。
【0044】
いくつかの実施形態では、ゲルをカートリッジに配置し、カートリッジに流動的に接続されたキャピラリに送り、試料の分析の間にキャピラリ内のゲルの変更を促進できる。カートリッジは、例えば、GL1000グリカン分析計(BiOptic Inc.,New Taipei City,Taiwan(R.O.C))で使用するように構成されたゲルカートリッジのように、典型的にはカートリッジを受け入れるように構成された分析機器で使用するように設計されており、好ましくはゲルの速やかな変更を可能にし、一連の分析を促進する。典型的には、ゲルは大量に製造され、カートリッジ内へ分配され、次に、カートリッジを受け取るように構成された機器でCGE分離を実施するために、カートリッジを使用することを意図する実務者が、選択したゲルですでに満たされたカートリッジを購入する。
【0045】
グリカンの分析では、好適な標識としては、APTSおよびInstantQ(商標)(ProZyme,Inc.,Hayward,CA)が挙げられる。ANTS(典型的には、8-アミノナフタレン-1,3,6-トリスルホン酸二ジナトリウム塩、ナトリウム塩水和物、CAS No.5398-34-5として購入される。)、およびグリカン用の他のポリスルホネート標識も使用できる。構造1、構造2、またはこれらの混合物の化合物は、目的の分析物を標識するために使用される標識が複数のスルホン酸部分を含む電気泳動による分離に、特に有用であると考えられる。
【0046】
[他のグリカンからのMan-5グリカンの分離]
前述したように、発酵槽におけるMan5のレベルの変更は、価値ある治療薬、例えば、抗癌性治療薬としてFDAによって承認された抗体の1つの全製造運転の喪失をもたらすおそれがある、発酵反応でのストレスを示す可能性がある。その結果、システムに存在するMan5の量を決定することが重要となった。残念ながら、Man5と共移動する他のグリカンが存在する可能性があるので、従来のCGEゲルを使用してCGEによりMan5の量をモニタリングすることは、困難であった。グリカンがAPTSで標識される場合、Man5と共移動するグリカンは、A1F、G0およびG0F-Nである。グリカンがInstantQ(商標)で標識される場合、MAN-5グリカンと共移動するグリカンは、G0F-NおよびA1Fである。前述したように、本開示の基礎となる研究では、典型的な第四級アンモニウム化合物であるTHMHは、Man-5グリカンがAPTSで標識された場合に、他の接近して共移動するグリカンからのMan-5グリカンの分解能を改善することを示した。特に、APTSで標識されたMan-5グリカンのピーク形状は、分離中に維持され、Man-5グリカンをG0F-N、G0、およびA1Fから識別することをより容易にした。
【0047】
[未被覆および被覆キャピラリ]
前述のように、本開示の基礎となる研究は、典型的な第四級アンモニウム化合物であるTHMHがキャピラリ電気泳動中に存在することにより、いくつかの分解困難なグリカンの分解能に著しい改善をもたらすことを見出した。したがって、分析物のCE分離での第四級アンモニウム化合物の存在は有利であり、他の場合には目的の1種または複数の分析物と共移動する他の分析物から識別することが困難な、目的の分析物の存在に対して、試料を分析する能力を改善するために使用できる。いくつかの好ましい実施形態では、第四級アンモニウム化合物は、THMHである。いくつかの好ましい実施形態では、分析物は、グリカンであり、使用するゲルは、グリカンを分析する際に使用するのに好適である。
【0048】
現行のほとんどのCE機器は、試料の各運転間にキャピラリを洗浄し、新しいゲルをキャピラリ内へ導入するように設計されている。このような洗浄は、キャピラリを「再生する(regenerating)」または「調整する(conditioning)」と呼ばれ、再現性を改善するために多くのCE手順で使用されている。例えば、D.Heiger,HIGH PERFORMANCE CAPILLARY ELECTROPHORESIS,AN INTRODUCTION(Agilent Technologies,Publication 5968-9963E,Germany,2000)(“Heiger”),p.92には、キャピラリを強塩基、強酸、有機化合物、例えば、メタノールもしくはDMSO、または洗浄剤で洗浄し、すすぎによる洗浄を伴うことによって、キャピラリを調整できると記載されている。
【0049】
各運転の間にキャピラリを洗浄してそれらを調整することによって、キャピラリの分解能は確かに維持されるが、複数の分析を実施しなければならない場合、それは相当な時間も追加する。キャピラリを洗浄し、すすぎ、新しいゲルを再充填するステップには時間がかかり、分析が完了するのに要する時間を2倍またはそれ以上にするおそれがある。各運転間にキャピラリを調整する必要性を低減することによって、複数の運転を実施するのに必要な時間を除去または低減することは望ましいものであろう。
【0050】
ProZymeのGly-Q(商標)Glycan Analysis Systemは、各運転間でキャピラリを調整する必要を伴わずに、再現可能な結果を提供する。典型的な第四級アンモニウム化合物であるTHMHをシステムで使用するゲルに添加すると、他の場合にはMan5と共移動するのであろう試料中の他の標識されたグリカンから、標識されたMan5を分解する能力を著しく改善することが見出された。しかしながら、何回か運転をした後、その能力は劣化した。標識されたグリカンを表すピークが広がって重なるおそれがあり、Man5と接近して共移動する試料中の他の標識されたグリカンから、標識されたMan5を分解する能力を低下させるまでに、典型的には20~50回運転できる可能性がある。
【0051】
本開示の基礎となる研究では、酸を備える溶液(研究では、酢酸)または低pHを備える溶液(研究では、0.1MのMES、(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸、3.5pH)でのキャピラリの洗浄、続いて水でのすすぎ、および典型的な第四級アンモニウム化合物を含有する新しいゲルによって、キャピラリの能力が維持され、典型的な分析物として使用されるグリカンの優れた分解能が提供された。理論によって拘束されることを望むものではないが、調整せずに同じキャピラリで複数分離した後、第四級アンモニウム化合物のアミンとキャピラリの壁との相互作用により、分解能の低下がもたらされるおそれがあり、キャピラリを調整すると、この相互作用が除かれるものと考えられる。キャピラリの調整に他の従来の試薬を使用した場合、同様の結果が得られるものと予想される。したがって、本発明に係る組成物および方法は、キャピラリ調整用の標準的な手順を使用して各運転間でキャピラリを洗浄する機器と、使用の適合性がある。
【0052】
キャピラリの洗浄は、THMHを使用して、他の接近して移動するグリカンからのMan5の分解能を改善することを可能にしたが、それは、Gly-Q(商標)Glycan Analysis Systemを使用して、分析に使用するキャピラリを調整するのに必要な時間を除去することによって、グリカン分析の全体の時間を低減する能力を減少させた。ゲル中にTHMHが存在する場合に、キャピラリを調整する必要性を低減するために、別の手法を用いた。
【0053】
先の段落で報告した研究は、内部が被覆されていないキャピラリを使用して実施した。(実務者が認識するように、すべてでなくとも殆どのキャピラリは、これらの脆性を低減するために、これらの外部は被覆されている。)キャピラリの内部がいくつかのコーティングのいずれかで被覆されたキャピラリは、市販されており、典型的には分析物と壁の相互作用を防ぐために存在している。本発明者らは、ゲル添加剤、例えば、第四級アンモニウム化合物の性能を改善するために使用されているコーティングの存在を知らない。
【0054】
本開示の基礎となる研究では、恒久的に取り付けられたコーティングで被覆された市販のキャピラリをシステムに合うように変更し、典型的な第四級アンモニウム化合物であるTHMHがゲル中に存在する場合に、コーティングの存在が分析物の分解能に影響を与えるか否かを見るために、グリカンを典型的な分析物として使用し、分解が困難なグリカンであるMan5を、他の接近して移動するグリカンからの分解能が所望されるグリカンとして使用し試験した。試験したすべてのキャピラリは、Agilent Technologies,Inc.(Santa Clara,CA)から入手した。以下に述べるコーティングの名前は、Agilentによってそのウェブサイトで言及されているコーティングである。
【0055】
5つの異なるタイプの被覆キャピラリ、すなわち、ポリビニルアルコールもしくは「PVA」、μSIL-WAX、DB-1、μSIL-DNA、またはCEPで被覆されたキャピラリを試験した。Agilentのウェブサイトは、μSIL-WAXコーティングを、「変性された、ポリエチレンオキシド、親水性コーティング」と記述している。DB-1は、ジメチルポリシロキサンであると記述されている。Agilentのウェブサイトには、μSIL-DNAを専売のフルオロカーボンポリマーと記述され、CEPを、キャピラリ表面のシラノール官能性を遮蔽し、試料吸着防止を助ける、恒久的に結合したポリマーコーティングと記述されている。
【0056】
以下の実施例3で示すように、ポリビニルアルコールまたは「PVA」で被覆されたキャピラリは、THMHが存在した場合にグリカン分解能の妨害を示さず、運転の間に調整することなく試料および標準物質を複数回運転した場合に、Man5を他のグリカンから分解する能力の劣化を示さなかった。試験した被覆キャピラリの他のタイプのうちの2つである、μSIL-WAXまたはDB-1で被覆されたキャピラリは、他の接近して移動するグリカンからMan5を分解するTHMHゲルの能力を劣化させないことが見出された。本開示の時点で、これらを複数の運転にわたって試験していないものの、(例えば、上述したような各運転間で、キャピラリを洗浄しゲルを置換するCE機器を用いた)少なくとも1回の運転適用で、これらのコーティングのいずれかを使用でき、複数の使用適用でも好適であり得る。
【0057】
試験した2つの最終タイプの被覆キャピラリである、μSIL-DNAおよび「CEP」は、典型的な分析物としてのグリカンの分解能を破壊することが見出された。その結果、目的の分析物がグリカンである場合、μSIL-DNAまたはCEPで被覆されたキャピラリは、使用することが好ましくないものである。
【0058】
PVA被覆キャピラリ、または劣化を保護し、それら自身が分析物のCEを妨げない他のコーティングで内部が被覆されたキャピラリにおいて、同じキャピラリ内で分析物の複数の運転を分解能の劣化を伴わないで実施する能力により、いくつかの運転にわたって調整するステップを回避することが可能となる。これによって、分析物の分析を行う時間を少なくとも半分だけ低減することが可能となり、再現性を改善するために各運転間でのキャピラリの再調整に依存する、現行の機器および手順に著しい利点が提供される。
【0059】
本開示の基礎となる研究で試験されたコーティング以外の任意の特定のコーティングで内部が被覆されたキャピラリを容易に試験して、任意の特定の第四級アンモニウム化合物またはこうした化合物の混合物の分解能の劣化をコーティングが保護し、目的の分析物のCEをコーティング自体が妨げないかどうかを決定できる。例えば、一方は目的のコーティングで被覆され、他方は未被覆である2つのキャピラリに、問題となっている特定の第四級アンモニウム化合物またはこれらの混合物を含む同一のゲルを満たし、検知できる標識で標識された目的の分析物(例えば、APTSで標識されたMan5)を、同じく検知できる標識で標識され、目的の分析物と接近して共移動すると予想される他の分析物(例えば、G0F-NおよびA1F)と組み合わせて注入し、電気泳動に供し、これによって運転を実施でき、(a)目的の分析物の存在をそれと共移動すると予想される存在する他の分析物から分解する能力に、未被覆のキャピラリでの分析物の分解能と比較して、コーティングの存在が有害な影響を有するかどうかを、1回目の運転で、影響がなければ2回目の運転で、決定し、(b)少ない運転回数でしか劣化を防がないコーティングより好ましい、多くの運転で分解能の劣化を防ぐコーティングを用いて、このような運転を各運転間でキャピラリの調整を伴わなずに複数回実施し、所望の運転回数、例えば、5回の運転、10回の運転、15回の運転、20回の運転、50回の運転、75回の運転、100回の運転、150回の運転、または200回の運転にわたって、コーティングが分解能の劣化を防ぐかどうかを分析する。上述したように、PVA被覆キャピラリは、運転間で調整されないキャピラリで試験した場合、200回を超える運転で分解能の劣化を示さず、特に好ましい。
【0060】
[キット]
いくつかの実施形態では、本発明に係るゲルは、キャピラリ電気泳動を実施するためのキットで提供することができる。キットは、構造1の化合物、構造2の化合物、または構造1および構造2の1種もしくは複数の化合物の混合物を含む、CEを実施するのに好適なゲルを保持する容器、ならびにCEの実施に使用するのに好適な緩衝剤を保持する容器を含むことができる。好ましい実施形態では、構造1、構造2または両方の1種または複数の化合物は、0.05%wt/wt~0.5%wt/wt、より好ましくは0.075%wt/wt~0.150%wt/wtの濃度(または、2つ以上のこうした化合物が存在する場合、組み合わせた濃度)で存在する。好適な緩衝剤、例えばMESは、当技術分野で周知なものである。いくつかの実施形態では、ゲルを保持する容器は、ゲルを1つもしくは複数のキャピラリへ導入するように構成されたカートリッジ、またはキャピラリもしくは複数のキャピラリであり得る。1つもしくは複数のキャピラリは、目的の分析物のCEを妨げないコーティングでこれらの内部を被覆でき、これは好ましくは、分析物の分解能の改善を、いくつか、例えば50、100、200回の運転により劣化することから防ぐコーティングである。いくつかの好ましい実施形態では、コーティングはポリビニルアルコールであり得る。
【実施例
【0061】
[実施例1]
本実施例では、図に記載の研究において、グリカン試料のCE分離に使用した手順を説明する。本手順で列挙する商標登録された試薬および機器は、ProZyme,Inc.(Hayward,CA)の製品である。
【0062】
すべての試料は、市販のキットを使用してAPTS、またはInstantQ(商標)で標識した。実験は、Gly-Q(商標)Glycan Analysis Systemで以下を使用して実施した。
a.分離キャピラリ各実験で、これら3つのうちの1つを使用した。
i.Gly-Q(商標)G1カートリッジ(標準ゲル、未被覆のキャピラリを使用)
ii.Gly-Q(商標)G1カートリッジ((i)と同じゲルだがTHMHを0.1%wt/wt添加、未被覆のキャピラリを使用)、または
iii.Gly-Q(商標)G1カートリッジ((i)と同じゲルだがTHMHを添加、PVA被覆キャピラリを使用)
b.分離緩衝剤:Gly-Q(商標)分離緩衝剤
c.校正標準:Gly-Q(商標)GU Ladder
d.校正標準注入:2kVで2秒
e.移動標準:Gly-Q(商標)移動標準(上および下)
f.移動標準注入:2kVで2秒
g.試料注入:2kVで2秒
h.分離:10kVで120秒
【0063】
データ分析は、Gly-Q(商標)Managerソフトウェアを使用して実施した。結果は、グルコース単位(GU)値を使用して示した。
【0064】
校正目的のために、すべての分析は、校正標準の注入(「注入1」)とともに開始した。したがって、すべての研究にて、「注入2」が目的の試料の最初の注入および分析であった。
【0065】
[実施例2]
本実施例では、通常はGly-Q(商標)G1カートリッジとともに販売されているゲルを使用して、典型的な第四級アンモニウム化合物であるTHMHを0.1%ゲルに添加した場合の、接近して共移動するグリカンA1FおよびG0F-NからのMan5の分解能を比較する研究の結果を示す。
【0066】
Enbrel(登録商標)、またはエタネルセプトは、関節炎のいくつかの形態に対して米国で使用を承認された、腫瘍壊死因子を阻害する、融合タンパク質の生物学的治療薬(fusion protein biologic)である。グリカンは酵素消化によってエタネルセプトから放出され、APTSで標識されて、CEに供された。図1aは、Gly-Q(商標)G1カートリッジとともに販売されているゲルでの、放出され標識されたグリカンの分離を示す電気泳動図である。矢印はMan5、A1FおよびG0F-Nを含むピークを指し、2つの他のグリカンは、接近してMan5と共移動する。このように、このゲルでのCEは、他の接近して共移動するグリカンからのMan5の分離をもたらさなかった。図1bは、同様のプラットフォームで、同様の試薬を用いているものの、ゲルは0.1%の典型的な第四級アンモニウム化合物であるTHMHをさらに含む、同じAPTS標識グリカンの分解能を示す電気泳動図である。図1Bで矢印によって示されるように、APTS標識Man5のピークは、A1FおよびG0F-Nのピークから分離された。
【0067】
[実施例3]
本実施例では、酵素消化によりヒトIgGから放出され、染料InstantQ(商標)で標識され、その内部がポリビニルアルコールで被覆されたキャピラリ内でCEに供された、グリカンの分解能を比較する2つの電気泳動図について説明する。
【0068】
図2aは、典型的な第四級アンモニウム化合物であるTHMHが0.1%wt/wt添加された標準ゲルが装填されているPVA被覆キャピラリ内へ、試料が最初に注入された際の(最初の注入が標準物質のラダーであったため、この注入は「注入2」と標識される。)、ヒトIgGから放出されたInstantQ(商標)標識グリカンの分離を示す電気泳動図である。
【0069】
図2bは、異なる標識で標識されたグリカンの分離および標準物質の追加ラダーの分離を含めて、同じPVA被覆キャピラリ内で4日にわたって234回さらに分離した後の(上述のように、最初の注入が標準物質のラダーであったため、この注入は「注入235」と標識される。)、ヒトIgGから放出されたInstantQ(商標)標識グリカンの同様の試料の分離を示す電気泳動図である。キャピラリには、各注入および電気泳動の後に新しいゲルを装填したが、図2aに示す運転と図2bに示す運転の間の234回のいずれの運転の間にも、調整はされなかった。図2aと図2bとを比較すると、いくつかのピークの高さは変化しているものの、各成分のピークは両方の電気泳動図で依然として明確に識別可能であることを示した。その結果、キャピラリでPVAコーティングを使用することによって、各分離間でキャピラリを調整する必要がなく、2つの分離の間でキャピラリを200回超調整するために要する時間を伴うことなく、典型的な第四級アンモニウム化合物を含むゲルにより、グリカン分離の優れた再現性が提供された。
【0070】
本明細書に記載の実施例および実施形態は、説明を目的としたのみのものであって、これらを考慮して様々な変更または変化が当業者に提案され、本出願の趣旨および領域ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることを理解されたい。本明細書で引用されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、すべての目的のためにそれらの全体は、引用することによって本明細書の一部を成すものとする。
なお、本願の出願当初の特許請求の範囲の請求項は以下の通りである。
[請求項1]
分析物の電気泳動による分離のためのゲルであって、前記ゲルが、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物を含み、前記構造1が、
【化1】
であり、前記構造2が、
【化2】
である、ゲル。
[請求項2]
前記ゲルが、構造1の2種以上の化合物を含む、請求項1に記載のゲル。
[請求項3]
前記ゲルが、構造2の2種以上の化合物を含む、請求項1に記載のゲル。
[請求項4]
前記ゲルが、構造1の1種または複数の化合物と、構造2の1種または複数の化合物とを含む、請求項1に記載のゲル。
[請求項5]
前記構造1の1種または複数の化合物が、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(「THMH」)である、請求項1に記載のゲル。
[請求項6]
前記THMHが、安定化剤で安定化されている、請求項5に記載のゲル。
[請求項7]
前記電気泳動による分離が、キャピラリ電気泳動による分離である、請求項1に記載のゲル。
[請求項8]
前記キャピラリ電気泳動が、キャピラリゲル電気泳動である、請求項7に記載のゲル。
[請求項9]
前記キャピラリ電気泳動が、キャピラリゾーン電気泳動である、請求項7に記載のゲル。
[請求項10]
前記構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物が、ゲルの0.001%wt/wt~5.0%wt/wtの濃度で存在する、請求項1に記載のゲル。
[請求項11]
前記構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物が、ゲルの0.08%wt/wt~0.15%wt/wt濃度で存在する、請求項10に記載のゲル。
[請求項12]
目的の分析物のキャピラリ電気泳動(CE)による分離のためのカートリッジまたはキャピラリであって、前記カートリッジまたはキャピラリにゲルが装填され、前記ゲルが構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物を含み、前記構造1が、
【化3】
であり、前記構造2が、
【化4】
である、カートリッジまたはキャピラリ。
[請求項13]
前記ゲルが、構造1の2種以上の化合物を含む、請求項12に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
[請求項14]
前記ゲルが、構造2の2種以上の化合物を含む、請求項12に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
[請求項15]
前記ゲルが、構造1の1種または複数の化合物と、構造2の1種または複数の化合物とを含む、請求項12に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
[請求項16]
前記構造1の1種または複数の化合物が、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(「THMH」)である、請求項12に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
[請求項17]
前記THMHが、安定化剤で安定化されている、請求項13に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
[請求項18]
前記ゲルが、ポリエチレンオキシドをさらに含む、請求項12に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
[請求項19]
前記目的の分析物が、標識されたグリカンである、請求項12に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
[請求項20]
前記カートリッジまたはキャピラリが、カートリッジである、請求項12に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
[請求項21]
前記カートリッジまたはキャピラリが、キャピラリである、請求項12に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
[請求項22]
前記キャピラリが、未被覆である壁を備えた内部ルーメンを有する、請求項21に記載のキャピラリ。
[請求項23]
前記キャピラリが、(a)前記目的の分析物のCEを妨げず、(b)前記キャピラリが各運転間で調整されない場合に、前記分析物の分解能が少なくとも5回の運転で劣化することを防ぐものであり、コーティングで被覆された壁を備えた内部ルーメンを有する、請求項21に記載のキャピラリ。
[請求項24]
前記コーティングが、前記目的の分析物のCEを妨げず、前記キャピラリが各運転間で調整されない場合に、前記分析物の分解能が少なくとも10回の運転で劣化することを防ぐものである、請求項23に記載のキャピラリ。
[請求項25]
前記壁の前記コーティングが、ポリビニルアルコールである、請求項23に記載のキャピラリ。
[請求項26]
前記構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物が、ゲルの0.001%wt/wt~5.0%wt/wtの濃度で前記ゲル中に存在する、請求項12に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
[請求項27]
前記構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物が、ゲルの0.08%wt/wt~0.15%wt/wtの濃度で前記ゲル中に存在する、請求項26に記載のカートリッジまたはキャピラリ。
[請求項28]
分析物の電気泳動による分離のためのシステムであって、(a)前記電気泳動による分離を実施するための装置と、(b)前記電気泳動による分離を実施するためのゲルであって、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物を含み、前記構造1が、
【化5】
であり、前記構造2が、
【化6】
である、ゲルとを含む、システム
[請求項29]
前記ゲルが、構造1の2種以上の化合物を含む、請求項28に記載のシステム。
[請求項30]
前記ゲルが、構造2の2種以上の化合物を含む、請求項28に記載のシステム。
[請求項31]
前記ゲルが、構造1の1種もしくは複数の化合物と、構造2の1種もしくは複数の化合物とを含む、請求項28に記載のシステム。
[請求項32]
前記構造1の1種もしくは複数の化合物が、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(「THMH」)である、請求項28に記載のシステム。
[請求項33]
前記THMHが、安定化剤で安定化されている、請求項32に記載のシステム。
[請求項34]
前記電気泳動による分離が、キャピラリ電気泳動による分離である、請求項28に記載のシステム。
[請求項35]
前記キャピラリ電気泳動が、キャピラリゲル電気泳動である、請求項34に記載のシステム。
[請求項36]
前記キャピラリ電気泳動が、キャピラリゾーン電気泳動である、請求項34に記載のシステム。
[請求項37]
前記構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物が、ゲルの0.001%wt/wt~5.0%wt/wtの濃度でゲル中に存在する、請求項28に記載のシステム。
[請求項38]
構造1の前記1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物が、ゲルの0.075%wt/wt~0.2%wt/wtの濃度で前記ゲル中に存在する、請求項37に記載のシステム。
[請求項39]
標識された分析物の電気泳動による分離を実施する方法であって、前記方法が、(a)前記分析物をゲルに装填するステップであって、前記ゲルが、有効な量の、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物を含み、前記構造1が、
【化7】
であり、前記構造2が、
【化8】
である、ステップと、前記ゲル中の前記標識された分析物を電位に供し、これによって前記標識された分析物の電気泳動による分離を実施するステップとを含む、方法。
[請求項40]
前記ゲルが、構造1の2種以上の化合物を含む、請求項39に記載の方法。
[請求項41]
前記ゲルが、構造2の2種以上の化合物を含む、請求項39に記載の方法。
[請求項42]
前記ゲルが、構造1の1種または複数の化合物と、構造2の1種または複数の化合物とを含む、請求項39に記載の方法。
[請求項43]
前記構造1の1種または複数の化合物が、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(「THMH」)である、請求項39に記載の方法。
[請求項44]
前記THMHが、さらに安定化剤で安定化されている、請求項39に記載の方法。
[請求項45]
前記電気泳動による分離が、キャピラリ電気泳動による分離である、請求項39に記載の方法。
[請求項46]
前記キャピラリ電気泳動が、キャピラリゲル電気泳動である、請求項39に記載の方法。
[請求項47]
前記キャピラリ電気泳動が、キャピラリゾーン電気泳動である、請求項39に記載の方法。
[請求項48]
前記標識された分析物が、標識されたグリカンである、請求項39に記載の方法。
[請求項49]
前記構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物が、ゲルの0.001%wt/wt~5.0%wt/wtの濃度で前記ゲル中に存在する、請求項39に記載の方法。
[請求項50]
前記構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物が、ゲルの0.075%wt/wt~0.15%wt/wtの濃度で前記ゲル中に存在する、請求項49に記載の方法。
[請求項51]
前記標識されたグリカンが、複数のスルホン酸部分を有する染料で標識されている、請求項39に記載の方法。
[請求項52]
前記標識されたグリカンが、APTS、ANTS、またはInstantQ(商標)で標識されている、請求項51に記載の方法。
[請求項53]
電気泳動による分離を実施するためのキットであって、前記キットが、(a)ゲルを保持する容器であり、前記ゲルが、有効な量の、構造1の1種もしくは複数の化合物、または構造2の1種もしくは複数の化合物、または構造1の1種もしくは複数の化合物と構造2の1種もしくは複数の化合物との混合物を含み、前記構造1が、
【化9】
であり、前記構造2が、
【化10】
である、容器と、(b)緩衝剤とを含む、キット。
[請求項54]
前記ゲルが、構造1の2種以上の化合物を含む、請求項53に記載のキット。
[請求項55]
前記ゲルが、構造2の2種以上の化合物を含む、請求項53に記載のキット。
[請求項56]
前記ゲルが、構造1の1種または複数の化合物と、構造2の1種または複数の化合物とを含む、請求項53に記載のキット。
[請求項57]
前記構造1の1種もしくは複数の化合物が、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド(「THMH」)である、請求項53に記載のキット。
[請求項58]
前記THMHが、安定化剤で安定化されている、請求項57に記載のキット。
[請求項59]
前記ゲルを保持する前記容器が、カートリッジまたはキャピラリである、請求項53に記載のキット。
[請求項60]
前記カートリッジまたはキャピラリが、カートリッジである、請求項59に記載のキット。
[請求項61]
前記カートリッジまたはキャピラリが、キャピラリである、請求項59に記載のキット。
[請求項62]
前記キャピラリが、未被覆である壁を備えた内部ルーメンを有する、請求項61に記載のキット。
[請求項63]
前記キャピラリが、被覆された壁を備えた内部ルーメンを有する、請求項61に記載のキット。
[請求項64]
前記キャピラリの前記壁の前記コーティングが、ポリビニルアルコールである、請求項63に記載のキット。
図1a
図1b
図2a
図2b