(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】メタルガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/08 20060101AFI20230316BHJP
【FI】
F16J15/08 A
(21)【出願番号】P 2020550307
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037159
(87)【国際公開番号】W WO2020075484
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2018191437
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 広嗣
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-156147(JP,A)
【文献】特開平09-264427(JP,A)
【文献】特開2005-036938(JP,A)
【文献】特開平09-177977(JP,A)
【文献】特表2004-528516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00 - 15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に凹
形状の円周溝を有する金属製のガスケット本体および弾性体を有するメタル ガスケットであって、前記
凹形状の円周溝に弾性体が挿入され
て当該円周溝内に弾性体が配設されており、当該弾性体がゴム、熱可塑性エラストマーまたは熱可塑性樹脂で構成されており、前記メタルガスケットの縦断面において、被シール材と接触するガスケット本体の上面に上部に向かって膨らみを有する円弧状の上部シール面が形成され、被シール材と接触するガスケット本体の下面に下部に向かって膨らみを有する円弧状の下部シール面が形成され、前記上部シール面に上部平面または上部切り欠き部が設けられ、前記下部シール面に下部平面または下部切り欠き部が設けられていることを特徴とするメタルガスケット。
【請求項2】
ガスケット本体の表面硬度が15~250HVである請求項1に記載のメタルガスケット。
【請求項3】
ガスケット本体を構成する金属がアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、インコネル、炭素鋼、鉛、金、銀、銅およびマグネシウム合金からなる群より選ばれた金属である請求項1または2に記載のメタルガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタルガスケットに関する。さらに詳しくは、本発明は、例えば、火力発電所、原子力発電所、スチームタービン船の蒸気機関、石油精製ライン、石油化学工業のプロセスライン、半導体製造ラインなどにおける配管同士を接続する際に用いられるメタルガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性に優れているメタルガスケットとして、メタル中空Oリング、メタルCリングなどが提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。しかし、これらのメタルガスケットには、フランジ間をシールさせるために必要な締付力が大きいという欠点がある。そこで前記メタルガスケットの締付力を低減させるために当該メタルガスケットのシール面に突起を形成することが考えられるが、当該突起を有するメタルガスケットをフランジ間に装着し、フランジを締め付けたとき、当該突起が潰れてシール性が低下するおそれがあるのみならず、当該突起を精度よく製造することが困難であることから高いシール性を確保することが困難であり、さらに当該突起に応力が集中することからフランジによっては傷がつくことがある。
【0003】
前記メタルガスケットのシール面に突起を設けなくても締付力が小さく、シール性が良好であるメタルガスケットとして、メタルガスケットの外径部側面または内径部側面に凹溝を備えるメタルガスケットが提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、前記メタルガスケットは、フランジ間に装着し、フランジを締め付けたときの締付力が小さく、シール性に優れているが、熱履歴を受けたときにシール性が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-177976号公報
【文献】特開平11-30333号公報
【文献】特開2003-156147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができるメタルガスケットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1)外周面に凹形状の円周溝を有する金属製のガスケット本体および弾性体を有するメタル ガスケットであって、前記凹形状の円周溝に弾性体が挿入されて当該円周溝内に弾性体が配設されており、当該弾性体がゴム、熱可塑性エラストマーまたは熱可塑性樹脂で構成されており、前記メタルガスケットの縦断面において、被シール材と接触するガスケット本体の上面に上部に向かって膨らみを有する円弧状の上部シール面が形成され、被シール材と接触するガスケット本体の下面に下部に向かって膨らみを有する円弧状の下部シール面が形成され、前記上部シール面に上部平面または上部切り欠き部が設けられ、前記下部シール面に下部平面または下部切り欠き部が設けられていることを特徴とするメタルガスケット、
(2)ガスケット本体の表面硬度が15~250HVである前記(1)に記載のメタルガスケット、および
(3)ガスケット本体を構成する金属がアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、インコネル、炭素鋼、鉛、金、銀、銅およびマグネシウム合金からなる群より選ばれた金属である前記(1)または(2)に記載のメタルガスケット
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができるメタルガスケットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】(a)は、本発明のメタルガスケットの一実施態様を示す概略側面図、(b)は、当該メタルガスケットの一実施態様を示す概略平面図である。
【
図2】
図1(b)に示されるX-X部におけるメタルガスケットの一実施態様を示す概略断面図である。
【
図3】
図1(b)に示されるX-X部におけるガスケット本体の一実施態様を示す概略断面図である。
【
図4】
図1(b)に示されるX-X部におけるメタルガスケットの他の実施態様を示す概略断面図である。
【
図5】
図1(b)に示されるX-X部におけるメタルガスケットの他の実施態様を示す概略断面図である。
【
図6】各実施例および各比較例で用いられたガスケットの評価試験装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のメタルガスケットは、前記したように、外周面に凹部状の円周溝を有する金属製のガスケット本体および弾性体を有するメタルガスケットである。
【0010】
本発明のメタルガスケットは、前記ガスケット本体の円周溝に弾性体が挿入され、前記メタルガスケットの縦断面において、被シール材と接触するガスケット本体の上面に上部に向かって膨らみを有する円弧状の上部シール面が形成され、被シール材と接触するガスケット本体の下面に下部に向かって膨らみを有する円弧状の下部シール面が形成され、前記上部シール面に上部平面または上部切り欠き部が設けられ、前記下部シール面に下部平面または下部切り欠き部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明のメタルガスケットは、前記構成を有することから、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができるという優れた効果を発現する。
【0012】
以下に、本発明のメタルガスケットを図面に基づいて詳細に説明するが、本発明は、当該図面に記載の実施態様のみに限定されるものではない。
【0013】
図1(a)は、本発明のメタルガスケットの一実施態様を示す概略側面図であり、
図1(b)は、当該メタルガスケットの一実施態様を示す概略平面図である。
図2は、
図1(b)に示されるX-X部におけるメタルガスケット1の一実施態様を示す概略断面図である。
【0014】
本発明のメタルガスケット1は、
図1(a)および
図2に示されるように、外周面に凹部状の円周溝3を有する金属製のガスケット本体2および弾性体4を有する。ガスケット本体2の円周溝3には、弾性体4が挿入されている。
【0015】
図2に示される実施態様では、被シール材と接触するガスケット本体2の上面に上部に向かって膨らみを有する円弧状の上部シール面2aが形成され、被シール材と接触するガスケット本体の下面に下部に向かって膨らみを有する円弧状の下部シール面2bが形成されている。上部シール面2aおよび下部シール面2bには、それぞれ上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bが設けられている。
【0016】
ガスケット本体2の表面硬度(ビッカース硬度)は、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保する観点から、好ましくは15HV以上、より好ましくは19HV以上である。また、ガスケット本体2の表面硬度(ビッカース硬度)は、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保する観点から、好ましくは250HV以下、より好ましくは220HV以下、さらに好ましくは175HV以下、さらに一層好ましくは170HV以下である。
【0017】
ガスケット本体2の材質は、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保する観点から、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、インコネル、炭素鋼、鉛、金、銀、銅、ニッケル、タンタル、クロムモリブデン鋼、モネル、チタンおよびマグネシウム合金からなる群より選ばれた金属であることが好ましく、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼およびインコネルからなる群より選ばれた金属であることがより好ましく、アルミニウムまたはステンレス鋼であることがさらに好ましい。
【0018】
アルミニウム合金としては、例えば、アルミニウム-鉄合金、アルミニウム-銅合金、アルミニウム-マンガン合金、アルミニウム-マグネシウム合金、アルミニウム-亜鉛合金、アルミニウム-ニッケル合金などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0019】
ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS316、SUS430、SUS630、SUS631、SUS633、SUS420J2などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0020】
また、マグネシウム合金に使用されるマグネシウム以外の金属としては、例えば、リチウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛、チタン、マンガン、ジルコニウム、イットリウム、タンタル、ネオジウム、ニオブなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0021】
メタルガスケット1の平面形状は、
図1(b)に示されるように環状であってもよく、四角形状などの多角形状であってもよいが、通常は環状である。メタルガスケット1の外径Lは、メタルガスケット1の用途によって異なるので一概には決定することができないことから、メタルガスケット1の用途に応じて適宜決定することが好ましいが、通常、2mm~3m程度である。
【0022】
図1(b)に示されるX-X部におけるガスケット本体2の断面形状は、
図2に示されるように略円形状であるが、本発明は、当該断面形状のみによって限定されるものではなく、多角形状であってもよい。ガスケット本体2の断面形状は、円形状であることが好ましい。前記円形状は、真円のみならず、縦長の楕円形状、横長の楕円形状およびトラック楕円形状を含む概念のものである。
【0023】
本発明のメタルガスケット1には、前記したように、ガスケット本体2の上面に上部に向かって膨らみを有する円弧状の上部シール面2aが形成され、ガスケット本体2の下面に下部に向かって膨らみを有する円弧状の下部シール面2bが形成されている。前記円弧状は、真円の円弧のみならず、ガスケット本体2の断面形状と同様に、縦長の楕円形状の円弧、横長の楕円形状の円弧およびトラック楕円形状の円弧を含む概念のものである。
【0024】
以下にガスケット本体2を
図3に基づいて説明する。
図3は、
図1(b)に示されるX-X部におけるガスケット本体2の一実施態様を示す概略断面図である。
【0025】
本発明のメタルガスケット1のガスケット本体2の上部シール面2aに上部切り欠き部5aが設けられており、ガスケット本体2の下部シール面2bに下部切り欠き部5bが設けられている。
【0026】
上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bの深さDは、ガスケット本体2の材質、ガスケット本体2の大きさなどによって異なるので一概には決定することができないが、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができるメタルガスケット1を得る観点から、それぞれ好ましくは0.1~3mm、より好ましくは0.3~2mm、さらに好ましくは0.5~1mmである。なお、上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bの深さDは、
図3に示されるように、上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bの端部に接線を引き、上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bの底部に接する直線を前記接線と平行となるように平行線を引き、前記接線と前記平行線との間の距離を意味する。
【0027】
上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bの幅Wは、ガスケット本体2の材質、ガスケット本体2の大きさなどによって異なるので一概には決定することができないが、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができるメタルガスケット1を得る観点から、それぞれ好ましくは0.1~3mm、より好ましくは0.3~2mm、さらに好ましくは0.5~1mmである。なお、上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bの幅Wは、
図3に示されるように、上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bの端部に接線を引き、上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bの端部をそれぞれ起点として当該接線に対して垂直な直線を2本引き、2本の垂線の間の距離を意味する。
【0028】
上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bは、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができるメタルガスケット1を得る観点から、
図3に示されるように、それぞれV字状の切り欠き部であることが好ましい。前記V字状の切り欠き部の溝部のなす角度θは、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができるメタルガスケット1を得る観点から、好ましくは20°以上、より好ましくは40°以上、さらに好ましくは45°以上であり、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができるメタルガスケット1を得る観点から、好ましくは180°未満、より好ましくは160°以下、さらに好ましくは140°以下、さらに一層好ましくは120°以下である。
【0029】
上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bにおいて、V字状の切り欠き部の底部は、
図3に示されるように鋭角をなしていてもよく、平面をなしていてもよく、円弧状であってもよい。V字状の切り欠き部の底部は、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保する観点から、鈍角をなしていることが好ましい。
【0030】
メタルガスケット1の水平方向における上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bの最も深い部分の位置は、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができるメタルガスケット1を得る観点から、
図3に示されるように、円周溝3の内部側壁の最奥端Pから円周溝3の入り口部Qまでの間に存在していることが好ましい。
【0031】
なお、上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bは、それぞれ上部シール面2aおよび下部シール面2bのみではなく、必要により、後述する弾性体4を挿入するための円周溝3の内部の上部壁面(図示せず)および下部壁面(図示せず)にそれぞれ設けられていてもよい。
【0032】
ガスケット本体2の内部には、弾性体4を挿入するための円周溝3が形成されている。
図2および
図3に示される実施態様では、円周溝3の内部の上部壁面(図示せず)および下部壁面(図示せず)は、いずれもガスケット本体2と水平な平面となるように形成されているが、必ずしもガスケット本体2と水平な平面となるように形成されている必要がなく、ガスケット本体2の水平方向に対して傾斜(テーパ)を有する平面であってもよい。
【0033】
円周溝3の内部側壁の最奥端Pにおけるガスケット本体2の最小厚さは、本発明のメタルガスケット1の用途などによって異なるので一概には決定することができないが、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができるメタルガスケット1を得る観点から、それぞれ、好ましくは1mm以上、より好ましくは1.5mm以上、さらに好ましくは2mm以上である。また、円周溝3の最奥端Pにおけるガスケット本体2の最大厚さは、本発明のメタルガスケット1の用途などによって異なるので一概には決定することができないが、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができるメタルガスケット1を得る観点から、好ましくは15mm以下、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは5mm以下である。
【0034】
図3に示されるガスケット本体2の円周溝3の内面(図示せず)は、いずれも平面で形成されているが、必ずしも平面で形成されている必要がなく、例えば、円弧状曲面、波形状曲面、凹凸状曲面などの曲面で形成されていてもよい。
【0035】
円周溝3の開口部の幅Sは、本発明のメタルガスケット1の用途などによって異なるので一概には決定することができないが、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができるメタルガスケット1を得る観点から、
図1(a)に示されるメタルガスケット1のガスケット本体2の厚さTの30~85%であることが好ましい。
【0036】
ガスケット本体2の厚さTは、メタルガスケット1の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、メタルガスケット1の用途に応じて適宜決定することが好ましいが、通常、1.5~15mm程度である。
【0037】
図3において、ガスケット本体2の水平方向の長さBは、メタルガスケット1の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、メタルガスケット1の用途などに応じて適宜決定することが好ましいが、通常、1~15mm程度である。
【0038】
ガスケット本体2の円周溝3の深さAとガスケット本体2の水平方向の長さBとの比(円周溝の深さA/水平方向の長さB)の値は、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保する観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、より一層好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.4以上、さらに一層好ましくは0.5以上であり、ガスケット本体2の機械的強度を高め、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保する観点から、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下、より一層好ましくは0.88以下、さらに好ましくは0.86以下である。
【0039】
ガスケット本体2の円周溝3には、
図2に示されるように、弾性体4が配設されている。弾性体4を構成する材料としては、例えば、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴムなどのゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂などのように可撓性が高い熱可塑性樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの弾性体4を構成する材料のなかでは、耐熱性に優れているとともに、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができるメタルガスケット1を得る観点から、フッ素ゴムおよびシリコーンゴムが好ましく、フッ素ゴムがより好ましい。なお、弾性体4として、コイルばねを用いることが可能である。
【0040】
弾性体4は、ガスケット本体2の円周溝3の内部形状に対応する形状を有する。
図2に示されている弾性体4は、ガスケット本体2の円周溝3の内壁と接触するように円周溝3内に配設されているが、例えば、弾性体4の表面に凹凸形状を形成したり、弾性体4の断面形状を円形、三角形などの形状にすることにより、弾性体4と円周溝3の内面との間に間隙が設けられていてもよい。また、弾性体4には、弾性体4の可撓性を高める観点から、必要により、
図4に示されるように肉盗み6が設けられていてもよい。なお、
図4は、
図1(b)に示されるX-X部におけるメタルガスケット1の他の実施態様を示す概略断面図である。
【0041】
弾性体4は、ガスケット本体2の円周溝3の内部全体が充填されるように配設されていてもよく、
図2に示されるように、ガスケット本体2の円周溝3の入り口部Qで鍔部2cが形成されるように円周溝3内に配設されていてもよい。
【0042】
本発明のメタルガスケット1の他の実施態様として、
図5に示されるメタルガスケット1を挙げることができる。
図5は、
図1(b)に示されるX-X部におけるメタルガスケットの他の実施態様を示す概略断面図である。
【0043】
図2~4に示される実施態様では、上部シール面2aに上部切り欠き部5aが設けられ、下部シール面2bに下部切り欠き部5bが設けられているのに対し、
図5に示される実施態様では、上部シール面2aに上部平面5cが設けられ、下部シール面2bに下部平面2dが設けられている。これらの実施態様のなかでは、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保する観点から、上部シール面2aに上部切り欠き部5aが設けられ、下部シール面2bに下部切り欠き部5bが設けられていることが好ましい。
【0044】
上部平面5cおよび下部平面5dは、それぞれ上部シール面2aおよび下部シール面2bに対して平行となるように設けられていてもよく、
図5に示されるように、それぞれ上部シール面2aおよび下部シール面2bに対して傾斜して設けられていてもよい。これらの実施態様の中では、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保する観点から、上部平面5cおよび下部平面5dは、それぞれ上部シール面2aおよび下部シール面2bに対して傾斜して設けられていることが好ましい。この場合、上部平面5cの垂直方向における上端から下端までの長さEおよび下部平面5dの垂直方向における上端から下端までの長さFは、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保する観点から、それぞれ、好ましくは0.1~3mm、より好ましくは0.3~2mm、さらに好ましくは0.5~1mmである。また、上部平面5cの水平方向における上端から下端までの長さGおよび下部平面5dの水平方向における上端から下端までの長さHは、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保する観点から、それぞれ、好ましくは0.1~3mm、より好ましくは0.3~2mm、さらに好ましくは0.5~1mmである。
【0045】
以上のようにして構成される本発明のメタルガスケット1は、小さい締め付け力でフランジ間を締め付けることによってシール性を確保することができ、熱履歴を受けた場合であってもシール性を確保することができる。したがって、本発明のメタルガスケット1は、例えば、火力発電所、原子力発電所、スチームタービン船の蒸気機関、石油精製ライン、石油化学工業のプロセスライン、半導体製造ラインなどにおける配管同士を接続する際に好適に使用することができる。
【実施例】
【0046】
次に、本発明のメタルガスケットの一実施態様を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0047】
実施例1
ガスケット本体として、
図1~
図3に示される形状を有するアルミニウム製ガスケット本体(表面硬度:22HV)を用いた。
【0048】
より具体的には、
図1(a)および図(b)に示されるメタルガスケット1において、ガスケット本体2の平面形状における外径Lが75mmであり、厚さTが3.5mmであり、
図2に示されるメタルガスケット1において、円周溝3の開口部の幅Sの長さが2.5mmであり、円周溝3の内部側壁の最奥端Pにおけるガスケット本体2の最小厚さが0.3mmであり、
図3に示されるガスケット本体2において、円周溝3の深さAが3mmであり、水平方向の長さBが3.5mmであり、深さAと水平方向の長さBとの比(円周溝3の深さA/水平方向の長さB)の値が0.86であり、上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bの幅Wがそれぞれ4mmであり、上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bの深さDがそれぞれ2mmであり、上部切り欠き部5aおよび下部切り欠き部5bのV字状の切り欠き部の溝部3のなす角度θがそれぞれ110°であるガスケット本体2を用いた。
【0049】
ガスケット本体2の円周溝3内に
図2に示される形状を有するフッ素ゴム製弾性体4を装着することにより、メタルガスケット1を作製した。
【0050】
前記で得られたメタルガスケット1の物性として、必要締付け力、シール性および熱履歴後のシール性を以下の方法に基づいて評価した。その結果を表1に示す。
【0051】
(1)必要締付け力
図6に示されるガスケットの評価試験装置7を用いて必要締付け力を評価した。
図6は、ガスケットの評価試験装置7の概略説明図である。
【0052】
ガスケット8を試験プラテン9aと試験プラテン9bとの間に装着し、ガスケット8を圧縮しながら試験プラテン9aの移動量をダイヤルゲージで測定し、式:
[圧縮率]=[(初期のガスケット8の高さ)-(圧縮後のガスケット8の高さ)]÷[初期のガスケット8の高さ]×100
に基づいて求められる圧縮率が17%に到達したときの圧縮荷重を測定し、当該圧縮荷重を必要締付け力として以下の評価基準にしたがって必要締付け力を評価した。なお、圧縮率が17%に到達したときの圧縮荷重は、ガスケット8と試験プラテン9a,9bとの間の間隙を消滅させるために必要な圧縮荷重(必要締付け力)を意味する。
【0053】
〔評価基準〕
◎:必要締付け力(圧縮荷重)が50kN/m未満である。
〇:必要締付け力(圧縮荷重)が50kN/m以上、80kN/m未満である。
△:必要締付け力(圧縮荷重)が80kN/m以上、100kN/m未満である。
×:必要締付け力(圧縮荷重)が100kN/m以上である。
【0054】
(2)シール性
ガスケットのシール性を評価する際に
図6に示されるガスケットの評価試験装置7を用いた。
【0055】
まず、シール性の評価試験装置7内にガスケット8を試験プラテン9aと試験プラテン9bとの間に装着し、圧縮荷重25kN/mをガスケット8に付与した後、ヘリウムガスボンベ10のノズル10aからヘリウムガスを噴射させ、大気圧のヘリウムガスを評価試験装置7内に充満させた。
【0056】
次に、ヘリウムリークディテクター11を用い、ガスケット8の内側を真空度が0.1Paとなるまで減圧し、当該真空度に到達してから5分間経過した時点でガスケット8の外部からガスケット8の内側の空間部に流入したヘリウムガスの漏れ量を測定した。
【0057】
前記で測定したヘリウムガスの漏れ量に基づき、シール性を以下の評価基準にしたがって評価した。
【0058】
〔評価基準〕
◎:ヘリウムガスの漏れ量が4×10-11Pa・m3/s・m(検出限界値)未満である。
〇:ヘリウムガスの漏れ量が4×10-11Pa・m3/s・m以上、1×10-10Pa・m3/s・m未満である。
△:ヘリウムガスの漏れ量が1×10-10Pa・m3/s・m以上、1×10-9Pa・m3/s・m未満である。
×:ヘリウムガスの漏れ量が1×10-9Pa・m3/s・m以上である。
【0059】
(3)熱履歴後のシール性
ガスケットを温度が100℃である恒温槽内に24時間入れて加熱することにより、ガスケットに熱履歴を付与した後、当該ガスケットを室温まで放冷し、恒温槽から取り出した。
【0060】
前記で熱履歴が付与されたガスケットを用い、前記と同様にしてシール性を調べ、ヘリウムガスの漏れ量が前記シール性の測定時よりも増加したかどうかを調べ、以下の評価基準に基づいて熱履歴後のシール性を評価した。
〔評価基準〕
◎:ヘリウムガスの漏れ量の増加が認められない。
×:ヘリウムガスの漏れ量の増加が認められる。
【0061】
(4)総合評価
ガスケットの必要締付け力、シール性および熱履歴後のシール性の評価結果において、◎の評価を100点、〇の評価を80点、△の評価を60点、×の評価を0点とし、ガスケットの必要締付け力、シール性および熱履歴後のシール性の各得点を合計し、その合計点を表1の総合評価の欄に記載した。
【0062】
なお、ガスケットの必要締付け力、シール性および熱履歴後のシール性の評価結果のいずれかに×の評価が存在する場合には、総合評価の欄に「不合格」を記載した。
【0063】
比較例1
実施例1において、弾性体が使用されていないガスケット本体をメタルガスケットとして使用した。
【0064】
前記メタルガスケットの必要締付け力、シール性および熱履歴後のシール性を実施例1と同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0065】
比較例2
従来のガスケットとして、フッ素ゴム製のOリング〔(株)バルカー製、品番:No.4640〕を用い、実施例1と同様にして必要締付け力、シール性および熱履歴後のシール性を評価した。その結果を表1に示す。
【0066】
比較例3
従来のメタルガスケットとして、ばね入りメタルCリング〔(株)バルカー製、品番:3645〕を用い、実施例1と同様にして必要締付け力、シール性および熱履歴後のシール性を評価した。その結果を表1に示す。
【0067】
比較例4
従来のガスケットとして、ステンレス鋼(SUS304)製のメタル中空Oリング〔(株)バルカー製、品番:3640〕を用い、実施例1と同様にして必要締付け力、シール性および熱履歴後のシール性を評価した。その結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1に示された結果から、実施例1で得られたメタルガスケットは、必要締付け力が35kN/mという低締め付け力でメタルガスケットと試験プラテンとの間の間隙を消滅させることができることから、例えば、アルミニウム製フランジなどの軟質金属からなるフランジを締め付ける際に使用しても当該フランジに締付け痕を残さず、ひいては当該フランジを用いたときのシール性を高めることができることがわかる。
【0070】
また、実施例1で得られたメタルガスケットは、シール性に優れており、熱履歴を受けた後のシール性に変化がないことから、火力発電所、原子力発電所、スチームタービン船の蒸気機関、石油精製ライン、石油化学工業のプロセスライン、半導体製造ラインなどにおける配管同士を接続する際に好適に使用することができるものと考えられる。
【0071】
これに対して、各比較例で使用されたガスケットは、必要締付け力、シール性および熱履歴後のシール性のうち、いずれかの物性に劣るものであることがわかる。
【符号の説明】
【0072】
1 メタルガスケット
2 ガスケット本体
2a 上部シール面
2b 下部シール面
2c 鍔部
3 円周溝
4 弾性体
5a 上部切り欠き部
5b 下部切り欠き部
5c 上部平面
5d 下部平面
6 肉盗み
7 シール性の評価試験装置
8 ガスケット
9a 試験プラテン
9b 試験プラテン
10 ヘリウムガスボンベ
11aノズル
12 ヘリウムリークディテクター