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特許7245873耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油またはグリースおよびその調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油またはグリースおよびその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 125/02 20060101AFI20230316BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20230316BHJP
【FI】
C10M125/02
C10N10:02
C10N10:04
C10N30:06
C10N40:04
C10N40:08
C10N40:25
C10N50:10
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021112549
(22)【出願日】2021-07-07
(65)【公開番号】P2022025019
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2021-07-07
(31)【優先権主張番号】202010670619.9
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521299617
【氏名又は名称】広西柳工機械股フン有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】521299628
【氏名又は名称】広西騰智投資有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林博
(72)【発明者】
【氏名】羅金▲ケイ▼
(72)【発明者】
【氏名】張麗
(72)【発明者】
【氏名】万暁娜
(72)【発明者】
【氏名】林明智
(72)【発明者】
【氏名】羅維
(72)【発明者】
【氏名】馮治恒
(72)【発明者】
【氏名】陳宏
【審査官】宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107312600(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107739643(CN,A)
【文献】国際公開第2020/173447(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110106007(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107236581(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油の主成分と、長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンを含み、
前記炭素鎖は、非置換のアルキル基であり、
前記長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンにおける炭素元素と硫黄元素との質量比が15~50であり、
前記長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンにおける長い炭素鎖の炭素原子数が10~50であることを特徴とする耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油。
【請求項2】
前記長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンの添加量が、前記耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油に対して0.001~1質量%であることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油。
【請求項3】
前記潤滑油の主成分に、油圧トランスミッションオイル、作動油、ギヤー油またはエンジン油が含まれることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油。
【請求項4】
前記油圧トランスミッションオイルは、オートマチックトランスミッション油であることを特徴とする請求項3に記載の耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油。
【請求項5】
(1)長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンを基油に分散させることで、グラフェン添加剤を調製して得られることと、
(2)ステップ(1)で調製されたグラフェン添加剤を、潤滑油の主成分と混合し、攪拌し、分散させることで、耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油を得ることと、を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油の調製方法。
【請求項6】
ステップ(1)の前記グラフェン添加剤に対する長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンの質量分率が0.1~10%であること、を特徴とする請求項5に記載の耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油の調製方法。
【請求項7】
ステップ(1)に記載の分散技術は、攪拌分散またはパルス分散を含み、分散時間は10~60min、攪拌時の回転速度は10~6000r/minであることを特徴とする請求項5に記載の耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油の調製方法。
【請求項8】
ステップ(2)に記載の分散は、攪拌分散、パルス分散または研磨分散を含み、分散時間は0.1~3h、攪拌時の回転速度は10~3000r/minであることを特徴とする請求項5に記載の耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油の調製方法。
【請求項9】
グリースの主成分と、長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンを含み、
前記炭素鎖は、非置換のアルキル基であり、
前記長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンにおける炭素元素と硫黄元素との質量比が15~50であり、
前記長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンにおける長い炭素鎖の炭素原子数が10~50であることを特徴とする耐摩耗、減摩および分散安定のグリース。
【請求項10】
前記長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンの添加量が、前記耐摩耗、減摩および分散安定のグリースに対して0.001~1質量%であることを特徴とする請求項9に記載の耐摩耗、減摩および分散安定のグリース。
【請求項11】
前記グリースの主成分に、カルシウムグリース、リチウムグリース、リチウムコンプレックスグリース、カルシウムコンプレックスグリース、ポリウレア、シリコーングリースまたはフッ素グリースが含まれることを特徴とする請求項9に記載の耐摩耗、減摩および分散安定のグリース。
【請求項12】
(1)長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンを基油に分散させることで、グラフェン添加剤を調製して得られることと、
(2)ステップ(1)で調製されたグラフェン添加剤を、グリースの主成分と混合し、攪拌し、分散させることで、耐摩耗、減摩および分散安定のグリースを得ることと、を含むことを特徴とする請求項9~11のいずれか1項に記載の耐摩耗、減摩および分散安定のグリースの調製方法。
【請求項13】
ステップ(1)の前記グラフェン添加剤に対する長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンの質量分率が0.1~10%であること、を特徴とする請求項12に記載の耐摩耗、減摩および分散安定のグリースの調製方法。
【請求項14】
ステップ(1)に記載の分散技術は、攪拌分散またはパルス分散を含み、分散時間は10~60min、攪拌時の回転速度は10~6000r/minであることを特徴とする請求項12に記載の耐摩耗、減摩および分散安定のグリースの調製方法。
【請求項15】
ステップ(2)に記載の分散は、攪拌分散、パルス分散または研磨分散を含み、分散時間は0.1~3h、攪拌時の回転速度は10~3000r/minであることを特徴とする請求項12に記載の耐摩耗、減摩および分散安定のグリースの調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質潤滑油の技術分野に属し、具体的に、潤滑油またはグリースおよびその調製方法、特に耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油またはグリースおよびその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦と摩耗は、自然の中に一般的に存在するものであるが、摩擦と摩耗は材料や機器が廃棄処分される一つの要因であることから、人は潤滑油またはグリースなどを含めて様々な手段を使用して摩擦および摩耗を軽減することに工夫している。潤滑油またはグリースの潤滑性能を向上させるため、常に潤滑油またはグリースに新型添加剤を導入しているが、現在、耐摩耗および減摩添加剤として主に2つの種類があり、1つ目は、油溶性添加剤として、例えば、極性基を含有する油性剤、脂肪酸、脂肪酸エステル、有機アミン化合物、アミドエステル、イミド化合物、硫化脂肪(vulcanized fats)、リン含有化合物、塩素含有化合物、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、有機金属化合物、有機モリブデン化合物等が挙げられ、2つ目は、固体添加剤として、特に、特殊な層状構造(lamellar structure)のグラファイト、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素等が挙げられる。
【0003】
グラフェンは二次元構造、これまでに最も薄いナノ材料が知られ、最大比表面積が2630m2/gに達し、ずば抜けた熱伝導性、導電性および機械的性能を有している。これらの特性により、グラフェンは潤滑油用固体添加剤として使用した場合、優れた潤滑性、耐摩耗性、熱伝導性、耐酸化性、耐食性および安定性などの利点があり、既存の他の潤滑油用の耐摩耗添加剤よりも非常に優れている。グラフェンは、層状構造により、可動部品と接触する面に均一でしっかり付着した薄膜を形成しやすいことで、部品の直接な摩耗を軽減し、且つ、良好な熱伝導性が摩擦境界面で局所的にホットスポットが発生することを防止するのに役立って、潤滑油の寿命を延ばすことができる。
【0004】
中国特開CN107739643Aでは、表面改質炭素ナノ材料を含有する潤滑油およびその調製方法が開示されており、当該方法において、グラフェン、炭素ナノチューブおよびカーボンナノファイバーは、それぞれ表面がポリドーパミンで被覆され、長い炭素鎖アルカンでグラフト化される(grafted)ことで、相応する改質炭素ナノ材料を得、改質された炭素ナノ材料と、基油と、他の潤滑油用の機能性添加剤と、を比率的に混合することで、表面改質炭素ナノ材料を含有する潤滑油を得た。これにより、安定性や分散性の問題が解決され、ボール効果(ball effect)や支持作用を生じさせ、潤滑油の性能を顕著に向上させた。しかしながら、当該製品において、180日間静置した場合の分散安定性はまだ実際の応用における安定性要件を満たしていないことである。
【0005】
潤滑用固体添加剤の微粒子を含有する潤滑油またはグリースは、実際の応用において既に効果が得られているが、このような潤滑油またはグリースには、深く検討すべきである技術的な課題がまだたくさんあり、例えば、添加剤で潤滑油またはグリースの総合的な摩擦性能を向上させる課題と、例えば、添加剤を潤滑油またはグリースの中に均一に分散させ、長期間放置および複雑な環境に放置した場合の懸濁安定性課題があり、添加剤が潤滑油に十分に分散されず、数多くの凝集体(aggregates)が存在した場合は、重力の作用によって沈降しやすい一方で、潤滑性能を向上させる機能も顕著に低下する。
【0006】
中国特開CN109486547Aでは、硫化グラフェン(sulfurized graphene)およびその調製方法と応用が開示されており、具体方法は、過マンガン酸カリウム、濃硫酸でグラフェンを酸化し、次に酸化されたグラフェンをP4S10(五硫化二リン、phosphorus pentasulfide)で硫化することで、硫化グラフェンを製造し得る。シミュレーション工程で、グラフェンの反応・潤滑膜の摩擦学的性能を測定し、その潤滑メカニズムを検討した。結果より、加硫することでグラフェンの分散性が良化でき、グラフェンの耐摩耗および減摩機能が向上できることが明らかになった。但し、吸光度について、100h後の吸光度が1Absから0.4Abs未満に低減して、吸光度が50%以上低減していることから、当該製品の合成油における分散安定性がやはり良くないことを示している。
【0007】
中国特開CN106467767Aでは、微結晶グラフェンの調製方法が開示されており、当該方法は、NaNO、KMnOおよび濃硫酸の混合物を使用して微結晶グラファイトを酸化することと、酸化された微結晶グラファイトを水素雰囲気下で焼成することと、を含む。潤滑油に極少量の微結晶グラフェンを添加することで、潤滑性能が顕著に向上できる。中国特開CN109943384Aでは、グラフェンの耐摩耗作動油が開示されており、その原料構成は、基油90~98重量部、酸化防止剤0.1~5重量部、改質酸化グラフェン1~5重量部、防錆剤0.1~5重量部、消泡剤0.001~0.1重量部からなる。当該製品は、基油におけるグラフェンの分散性能を良化させることで、高安定性で減摩と耐摩耗効果は従来の耐摩耗グラフェン作動油よりもはるかに優れている。しかしながら、現在の従来技術では、一般的に四球法評価による摩擦係数のみ採用しており、単なる動摩擦係数であって、実際の応用工程との相関性が強くないため、実際の応用における総合的な摩擦性能が良いか否かについては知られていないことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】中国特許出願公開第107739643号明細書
【文献】中国特許出願公開第109486547号明細書
【文献】中国特許出願公開第106467767号明細書
【文献】中国特許出願公開第109943384号明細書
【発明の概要】
【0009】
従来技術の欠点を考慮して、本発明は、潤滑油またはグリースおよびその調製方法を提供し、特に、耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油またはグリースおよびその調製方法を提供することを目的とする。当該潤滑油またはグリースは、長期間にわたる分散安定性と複雑環境における分散安定性を実現でき、且つ、終点摩擦係数対中間点摩擦係数の比を減少させるとともに、マシンのトラクションを低減することなく、静止摩擦係数が業界標準の要件を満たすことができ、顕著な作業快適性を有する。
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成とする。
【0011】
一態様において、本発明は耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油またはグリースを提供し、上記耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油またはグリースは、潤滑油またはグリースの主成分と、長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンと、を含む。
【0012】
本発明に係る潤滑油またはグリースは、主成分に長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンを初めて添加し、長期にわたる分散安定性和複雑な環境における分散安定性を顕著に向上させ、常温下において1年間静置した場合ほとんど沈殿なし、120℃下において24時間静置した場合ほとんど沈殿なし、高低温交替変化の環境下において24時間静置した場合ほとんど沈殿なしとなり、主成分に長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンを添加することで、摩擦係数が顕著に良化させ、本発明は、四球法により摩擦係数を検討することで、高荷重下(100kgf)で摩擦係数の降下値が22%を超えることを実証し、加えてSAENo.2に準拠して終点摩擦係数、中間点摩擦係数、トルク曲線を検討することで、結果より、終点摩擦係数対中間点摩擦係数の比の値が顕著に降下し、マシンのトラクションを低減することなく、静止摩擦係数が業界標準の要件を満たすことができ、顕著な作業快適性を有することを示していることを実証し、主成分に長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンを添加することで、潤滑油またはグリースの耐摩耗および減摩性能を顕著に向上させ、摩耗痕径を減少し、銅および鉄の摩耗を軽減することができる。
【0013】
本発明に係る長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンは、機能的に修飾されたグラフェン誘導体製品であり、その調製方法は、まずグラフェンまたは酸化グラフェンに対してスルホン化処理を行い、次に長い炭素鎖をスルホン化グラフェンにグラフト反応させて修飾を行い、または長い炭素鎖をスルホン化グラフェンに直接グラフトして修飾を行うことで、最終製品を得ることである。その具体的な調製戦略は当業者に知られている基本的な有機合成メカニズムおよび従来の修飾方法に依拠すればよく、本発明はその調製方法を特に限定するものではなく、最終製品の性質も調製方法によって影響を受けるものではなく、グラフェンに対する様々な表面修飾方法は従来技術において開示されているものであるため、ここでその詳細な説明を省略する。
【0014】
上記長い炭素鎖は、置換または非置換の直鎖状アルキル基または分枝鎖状アルキル基から選択される。
【0015】
好ましくは、上記長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンにおける炭素元素と硫黄元素との質量比が15~50であり、例えば、15、16、20、23、25、28、30、32、35、40または50などが挙げられ、上記の数値範囲内のいずれの具体的なポイント値を選択してもよく、ここでこれ以上の説明を省略する。
【0016】
上記長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンにおける炭素元素と硫黄元素との質量比は、本発明に係る潤滑油またはグリースの分散安定性能および耐摩耗および減摩性能に影響を与える重要な要因である。
【0017】
好ましくは、上記長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンにおける長い炭素鎖の炭素原子数が10~50であり、例えば、10、15、20、22、24、25、26、27、28、30、40または50が挙げられる。
【0018】
上記長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンにおける長い炭素鎖の炭素原子数も、本発明に係る潤滑油またはグリースの分散安定性、耐摩耗および減摩性に影響を与える重要な要因であり、潤滑油またはグリースの基油の炭素数のほとんどが炭素原子数20~40に分布されていることから、長い炭素鎖の炭素原子数と基油の炭素原子数とのバラツキが大きいほど、改質グラフェンの分散効果が劣化となるため、安定した耐摩耗および減摩機能を果たしにくい。
【0019】
本発明は、炭素元素と硫黄元素との質量比、長い炭素鎖の炭素原子数を上記の数値範囲内に特に限定し、つまり、潤滑油またはグリースの分散安定性能、耐摩耗および減摩性能を最適化できる最適なミクロ構造形態を確定した。
【0020】
好ましくは、上記の長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンの添加量が、上記耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油またはグリースに対して0.001~1質量%であり、例えば、0.001質量%、0.01質量%、0.05質量%、0.1質量%、0.2質量%、0.3質量%、0.4質量%、0.5質量%、0.6質量%、0.7質量%、0.8質量%、0.9質量%または1質量%などが挙げられ、上記の数値範囲内のいずれの具体的なポイント値を選択してもよく、ここではこれ以上の説明を省略する。
【0021】
本発明は、上記長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンの添加範囲は、上記耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油またはグリースに対して0.001~1質量%であり、添加量が多すぎると、潤滑油またはグリースにおける他の添加剤の機能に影響を与え、添加量が少なすぎると要望された耐摩耗および減摩効果を達成できない。
【0022】
好ましくは、上記潤滑油の主成分に、油圧トランスミッションオイル、作動油、ギヤー油またはエンジン油が含まれる。
【0023】
本発明に係る潤滑油の主成分に、基油と、添加剤が含まれ、上記基油はパラフィン基油、中間基油またはナフテン基油などであってよく、上記添加剤は粘度指数向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、洗浄剤、分散剤、摩擦調整剤、油性剤、極圧剤、消泡剤、金属不活性化剤、乳化剤、腐食防止剤、防錆剤、解乳化剤または酸化と腐食防止剤などであってよい。
【0024】
好ましくは、上記油圧トランスミッションオイルが中国8号油圧トランスミッションオイルまたはオートマチックトランスミッション油である。
【0025】
好ましくは、上記作動油がHM-46作動油である。
【0026】
本発明において、上記の特定のタイプの油圧トランスミッションオイルまたは作動油と、本発明に係る長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンとはより良好な配合関係を有し、後者は前者の耐摩耗および減摩性と分散安定性を顕著に向上させることができることを実験的に確かめた。
【0027】
好ましくは、上記グリースの主成分に、カルシウムグリース、リチウムグリース、リチウムコンプレックスグリース、カルシウムコンプレックスグリース、ポリウレア、シリコーングリースまたはフッ素グリースが含まれる。
【0028】
本発明に係るグリースの主成分に、基油、添加剤や増粘剤が含まれ、上記基油はパラフィン基油、中間基油またはナフテン基油などであってよく、上記添加剤は粘度指数向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、洗浄剤、分散剤、摩擦調整剤、油性剤、極圧剤、消泡剤、金属不活性化剤、乳化剤、腐食防止剤、防錆剤、解乳化剤または酸化と腐食防止剤などであってよい。
【0029】
他の態様において、本発明は上記の耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油またはグリースの調製方法を提供し、上記調製方法は、
【0030】
(1)長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンを基油に分散させることで、グラフェン添加剤を調製して得られることと、
【0031】
(2)ステップ(1)で調製されたグラフェン添加剤を、潤滑油またはグリースの主成分と混合し、攪拌し、分散させることで、上記耐摩耗、減摩および分散安定の潤滑油またはグリースを得ることと、を含む。
【0032】
ステップ(1)の上記基油と、ステップ(2)における潤滑油またはグリース主成分的基油とは同様である。
【0033】
好ましくは、ステップ(1)の上記グラフェン添加剤の質量分率が、長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンに対して0.1~10%であり、例えば、0.1%、1%、2%、5%、8%または10%などが挙げられ、上記の数値範囲内のいずれの具体的なポイント値を選択してもよく、ここではこれ以上の説明を省略する。
【0034】
好ましくは、ステップ(1)の上記分散技術は、攪拌分散またはパルス分散を含み、分散時間は10~60min(例えば、10min、30min、40minまたは60minなど)、攪拌時の回転速度は10~6000r/min(例えば、10r/min、500r/min、1000r/min、3000r/min、4000r/minまたは6000r/minなど)である。
【0035】
好ましくは、ステップ(2)の上記分散は、攪拌分散、パルス分散または研磨分散を含み、分散時間は0.1~3h(例えば、0.1h、0.2h、0.5h、0.8h、1h、2hまたは3hなど)、攪拌時の回転速度は10~3000r/min(例えば、10r/min、50r/min、80r/min、100r/min、200r/min、300r/min、500r/min、1000r/min、2000r/minまたは3000r/minなど)である。
【0036】
従来技術に比較して、本発明は有利な効果として、
【0037】
(1)本発明に係る潤滑油またはグリースは、主成分に長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンを添加することで、長期にわたる分散安定性と複雑な環境における分散安定性を顕著に向上させ、常温下において1年間静置した場合ほとんど沈殿なし、120℃下において24時間静置した場合ほとんど沈殿なし、高低温交替変化の環境下において24時間静置した場合ほとんど沈殿なしとなることと、
【0038】
(2)本発明は、潤滑油またはグリースの主成分に長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンを添加することで、摩擦係数が顕著に良化させることと、ここで、本発明は、四球法により摩擦係数を検討することで、高荷重下(100kgf)で摩擦係数の降下値が22%を超えることを実証し、加えてSAE No.2に準拠して終点摩擦係数、中間点摩擦係数、トルク曲線を検討することで、結果より、終点摩擦係数対中間点摩擦係数の比の値が顕著に降下し、静止摩擦係数はマシンのトラクションを低減することなく、業界標準の要件を満たすことができ、顕著な作業快適性を有することを示していることを実証したこと、
【0039】
(3)本発明は、潤滑油またはグリースの主成分に長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンを添加することで、潤滑油またはグリースの耐摩耗および減摩性能を顕著に向上させ、摩耗痕径を減少し、銅および鉄の摩耗を軽減することができることと、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】実施例1と比較例2、比較例4の製品の分析フェログラム(a、b、cはそれぞれ実施例1、比較例2、比較例4の製品に対応しており、スケールは100μmである)である。
図2】実施例1に係る長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンの走査型電子顕微鏡図である。
図3】実施例1に係る長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンの透過型電子顕微鏡図である。
図4】実施例1に係る長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンのラマン分光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を実施するための形態にて本発明の構成をさらに説明する。当業者なら、本文で述べる実施例は本発明をよく理解するために提供されるものであって、本発明を特に限定するものではないことを理解すべきである。
【0042】
下記の実施例に係る調製用原料は、明記されていない限り、すべて従来技術で開示されている方法より調製可能または市販で購入可能なものである。
【実施例
【0043】
実施例1
【0044】
本実施例において、耐摩耗、減摩および分散安定の作動油であって、直鎖状ベヘニル基をグラフト(graft)したスルホン化グラフェンが添加されているHM-46作動油を提供する。ここで、直鎖状ベヘニル基をグラフトしたスルホン化グラフェンの添加量は、HM-46作動油に対して0.03質量%であり、直鎖状ベヘニル基をグラフトしたスルホン化グラフェンにおける炭素元素と硫黄元素との質量比は23である。
【0045】
その調製方法は、
【0046】
(1)直鎖状エイコシル基をグラフトしたスルホン化グラフェンを、質量分率5%、分散時間20min、加熱温度30℃、攪拌時回転速度3000r/minの条件下で攪拌しながらHM-46作動油の基油に分散させることで、グラフェン添加剤を調製して得られることと、
【0047】
(2)ステップ(1)で調製されたグラフェン添加剤と、HM-46作動油とを混合し、攪拌しながら分散させ、100r/minで40分間分散させることで、上記の耐摩耗、減摩および分散安定の作動油を得ること、である。
【0048】
実施例2
【0049】
本実施例において、耐摩耗、減摩および分散安定のトランスミッションオイルであって、直鎖状ベヘニル基をグラフトしたスルホン化グラフェンが添加されている中国8号油圧トランスミッションオイル(No.8 hydraulic transmission oil)を提供する。ここで、直鎖状ベヘニル基をグラフトしたスルホン化グラフェンの添加量は中国8号油圧トランスミッションオイルに対して0.02質量%であり、直鎖状ベヘニル基をグラフトしたスルホン化グラフェンにおける炭素元素と硫黄元素との質量比は23である。
【0050】
その調製方法は、
【0051】
(1)直鎖状エイコシル基をグラフトしたスルホン化グラフェンを、質量分率5%、分散時間20min、加熱温度30℃、攪拌時の回転速度3000r/minの条件下で中国8号油圧トランスミッションオイルの基油にパルスで分散させることで、グラフェン添加剤を調製して得られることと、
【0052】
(2)ステップ(1)で調製されたグラフェン添加剤と、中国8号油圧トランスミッションオイルとを混合し、パルス分散させ、100r/minで40分間分散させることで、上記の耐摩耗、減摩および分散安定の油圧トランスミッションオイルを得ること、である。
【0053】
実施例3~10
【0054】
本実施例において、耐摩耗、減摩および分散安定の8種類の作動油であって、長い直鎖状炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンが添加されているHM-46作動油を提供する。実施例3~10において、長い直鎖状炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンにおける炭素元素と硫黄元素との質量比が順次に10、15、17、19、25、30、35、40である。調製方法は、実施例1の方法を参照する。
【0055】
実施例11
【0056】
本実施例において、耐摩耗、減摩および分散安定の作動油であって、直鎖状ベヘニル基をグラフトしたスルホン化グラフェンが添加されているHM-22作動油を提供する。直鎖状ベヘニル基をグラフトしたスルホン化グラフェンの特徴は、実施例1と同様である。調製方法も実施例1と同様である。
【0057】
実施例12
【0058】
本実施例において、耐摩耗、減摩および分散安定のトランスミッションオイルであって、直鎖状ベヘニル基をグラフトしたスルホン化グラフェンが添加されている6号油圧トランスミッションオイルを提供する。直鎖状ベヘニル基をグラフトしたスルホン化グラフェンの特徴は、実施例2と同様である。調製方法も実施例1との同様である。
【0059】
比較例1
【0060】
本比較例において、作動油であって、グラフェン粉末(モデルはG-Powder、メーカーは中国寧波モーシュテクノロジー株式会社(Ningbo Morsh Technology Co.,Ltd))が添加されているHM-46作動油を提供する。ここで、グラフェン粉末の添加量は、HM-46作動油に対して0.03質量%である。その調製方法は実施例1を参照する。
【0061】
比較例2
【0062】
本比較例は、添加剤成分を一切加えていないHM-46作動油である。
【0063】
比較例3
【0064】
本比較例において、油圧トランスミッションオイルであって、グラフェン粉末(モデルはG-Powder、メーカーは中国寧波モーシュテクノロジー株式会社)が添加されている中国8号油圧トランスミッションオイルを提供する。ここで、グラフェン粉末の添加量は、中国8号油圧トランスミッションオイルに対して0.02質量%である。その調製方法は実施例2を参照する。
【0065】
比較例4
【0066】
本比較例は、添加剤成分を一切加えていない中国8号油圧トランスミッションオイルである。
【0067】
評価試験
【0068】
(1)分散安定性評価
【0069】
実施例1~12及び比較例1、比較例3の製品について、下記の面から分散安定性評価を行い、ここで、LUMISizer@651を使用して各グループ製品の透過率を測定する原理は、もし製品の分散安定性がよくなければ、製品は沈降によってキュベットの尾部に沈むことになり、主な透過率測定位置はキュベットの中央部であるため、もしグラフェンが沈降して透過率が高くなれば、安定性が劣化したことを示唆するものである。
【0070】
(1.1)遠心分離機(ショウイ(XIANGYI) H1850)を使用して各グループ製品50mLを25℃下で6000rpmの速度で10分間遠心分離し、透過率を算出し、結果を表1に示す。
【0071】
(1.2)各グループ製品50mLを25℃下で1年間静置し、透過率を算出し、結果を表1に示す。
【0072】
(1.3)各グループ製品50mLを120℃下で24時間静置し、透過率を算出し、結果を表1に示す。
【0073】
(1.4)各グループ製品50mLを高低温の交替変化のサイクルプログラムによって24時間経過させ、透過率を算出し、ここで、高温低温の交替変化のサイクルプログラムは、下記の表に示す通りであり、結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
表1
【0077】
【表3】
【0078】
潤滑油は製造から顧客によって使用されるまで一定の時間がかかるので、潤滑油は静置時沈殿なしの時間が長いほど良好であり、また建設機械の作業条件は非常に厳しく、北部地方では、建設機械が零下20℃の環境下で作業する可能性もあり、潤滑油の最低使用温度が-20℃となり、最高使用温度が120℃となる要件を満たすように要求されていることから、本発明は、静置時の安定性に加えて、高温低温の交替変化性能と高温性能に対する評価を追加した。表1の結果より、本発明に係る潤滑油またはグリースは、すべて比較例1および比較例3の製品よりも良好な分散安定性を有し、最終製品の分散安定性は、長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンにおける炭素元素と硫黄元素との質量比により顕著に影響を受けており、質量比が16~32である場合、その分散安定性がより良好であることが認められた。
【0079】
(2)摩擦係数評価
【0080】
実施例1~12及び比較例1~4の製品に対して、下記の面から摩擦係数評価を行う。
【0081】
(2.1)四球式試験機SH/T 0762-2005を使用して各グループ製品の動摩擦係数を測定し、上部の鋼球は1分間に600回転させ、下部の鋼球は固定させ、荷重は下から上への順に、初期荷重を10kgfとし、10分間経過する毎に10kgfをかけ、このように類推して、共に10レベルとし、結果を表2に示す。
【0082】
表2
【0083】
【表4】
【0084】
表2の結果より、本発明に係る潤滑油は、比較例1~4の製品に比べて、高荷重の60kgf~100kgf下での摩擦係数に対する良化効果が明らかであり、全荷重の10kgf~100kgf下での摩擦係数のバラツキが小さいことが認められ、これは、当該潤滑油により異なる作業条件下でスムーズに働き、顧客の体験(快適性)が良好であることと、及び、最終製品の動摩擦係数は、長い炭素鎖をグラフトしたスルホン化グラフェンにおける炭素元素と硫黄元素との質量比により顕著な影響を受けていることと、を示唆している。
【0085】
(2.2)SAE No.2試験機(測定方法はSAE J2490改訂に準拠)を使用して各グループ製品の始点/中間点/終点摩擦係数、トルク曲線や4.37rpm条件下の静止摩擦係数を測定し、測定プログラムは、下記の表に示すように、測定プログラムを16個のステップに分けてそれぞれA/B・・・・・・Pで表し、各ステップ同士は250回結合され、油温は90℃、圧力は433kPa、回転速度は2500rpmとし、各ステップの測定が終了した場合、静止摩擦係数を追加測定し、測定条件は、油温は90℃、圧力は433kPa~439kPa、回転速度は4.37rpmとする。
【0086】
【表5】
【0087】
次に下記のようにデータを収集する。各ステップの最終回の結合の開始/中間点/終点摩擦係数は、表3に示す通りである。各ステップの結合が終了した場合に追加として測定された4.37rpm条件下での静止摩擦係数は、表4に示す通りである。第1000回結合した場合のトルク曲線は、表5に示す通りである。
【0088】
表3
【0089】
【表6】
【0090】
表4
【0091】
【表7】
【0092】
表3及び表4のデータより、実施例1及び実施例2の中間点摩擦係数が全体としてより大きく、1500回~3000回結合した場合に最も明らかであることが認められた。第2500回目の結合を例とすると、実施例1の中間点摩擦係数は0.047、実施例2の中間点摩擦係数は0.044、比較例2の中間点摩擦係数は0.044、比較例4の中間点摩擦係数は0.039である。実施例1及び実施例2において、動摩擦係数がより大きく現れることは、より効率的なトルク伝達を提供し、作業負荷と作業効率を向上させることを示唆している。
【0093】
実施例1において、中間点摩擦係数が比較的大きく、加えて終点摩擦係数が比較的小さく、第2500回目の結合においてより明らかである。この場合、実施例1の終点摩擦係数は0.105、実施例2の終点摩擦係数は0.125、比較例2の終点摩擦係数は0.132、比較例4の終点摩擦係数は0.174である。中間点摩擦係数に対する終点摩擦係数の比の値が小さいほど、結合時の滑らかさを向上させるのに有利である。実施例1及び実施例2において、一方では、中間点摩擦係数が比較的大きく、もう一方では、終点摩擦係数が比較的小さく、最終的には、終点摩擦係数対中間点摩擦係数の比の値が比較的小さく、顕著な良化効果を有することに現れている。
【0094】
表5
【0095】
【表8】
【0096】
表5のデータより、実施例1において、結合過程における最大トルクが比較的小さくて279.8N・mとなることと、比較例4において、結合過程における最大トルクが比較的大きくて397.3N・mとなることと、比較例4に対する実施例1の最大トルクの降下値が30%となることと、が認められた。クラッチは、結合過程における最大トルクが大きいほど、発熱量が大きくなり、潤滑油、材料およびシール材に及ぼす影響も大きくなる。最大トルクを効果的に低減することで部品の寿命をある程度延ばすことができる。実施例1から実施例2にわたってみると、直鎖状アルカンで改質されたスルホン化グラフェンはともに最大トルクの低減のに機能している。改質グラフェンは、炭素対硫黄の質量比によって最大トルクの低減に対する効果が異なり、ここで、炭素対硫黄の質量比が16~32範囲内にある場合の改質効果がより良好である。比較例1及び比較例3においては、最大トルクへの低減機能が現れておらず、これは、グラフェンの種類や分散安定性と有意な相関があると考えられる。
【0097】
(2.3)完成品トラクション評価
【0098】
実施例1~2ならびに比較例2、比較例4の製品は、同一台ローダーにおいてトラクションを測定し、測定方法は、GB/T 6375-2008標準における土工機械トラクション測定方法に準拠して最大トラクションを測定し、結果を表6に示す。結果より、測定誤差の範囲内において、実施例1と比較例2、実施例2と比較例4のF1級およびF2級の最大トラクションに明らかな相違がないことを示しており、これは、本発明に係る潤滑油は、トラクションを低減することなく、静止摩擦係数および終点摩擦係数を低減する強みを具備していることを示唆している。
【0099】
表6
【0100】
【表9】
【0101】
(3)耐摩耗性能評価
【0102】
実施例1~12及び比較例1~4の製品に対して下記の面から耐摩耗性能評価を行う。
【0103】
(3.1)四球式摩擦試験機(中国厦門天機(TENKEY)自動化有限公司)を使用して392N、100r/min、10minの条件下で摩耗痕径(mm)を測定し、結果を表7に示す。
【0104】
表7
【0105】
【表10】
【0106】
表7のデータより、実施例1~12において、ほとんどがある程度の摩耗痕減少に機能しているが、実施例3および実施例10においては、このような現象が現れていないことが認められ、これは、改質グラフェンの分散安定性と相関であると考えられる。比較例1及び比較例3において、摩耗痕がわずかに増大する現象が現れており、これは、グラフェンの種類や分散安定性と相関であると考えられる。
【0107】
(3.2)模擬ベンチ試験(Simulation bench test)を行い、測定方法は、トランスミッションにおいて、F1→ニュートラル→R1→ニュートラル→F1→ニュートラルを1作業サイクルとして完成品の作業条件を模擬し、クラッチの結合や切離を実現し、240hにわたって測定を行う。模擬ベンチ試験と完成品の作業条件との区別は主に2つがあり、1は、模擬ベンチは常に最大負荷で作業するが、実際の作業条件ではずっと最大負荷状態にあるわけではないこと、2は、模擬ベンチにおいて、クラッチは比較的頻繁で連続的に結合および切離を行うことであるので、条件は実際の作業条件よりも劣悪であることである。0.5h、120h、240h時の鉄元素および銅元素の含有量(ASTM D5185)を測定し、結果を表8に示す。表8の結果より、実施例1において、鉄元素および銅元素の含有量は比較例2よりも少ないことと、実施例2は、比較例4と比較して同じ効果を有していることが明らかになった。全体的に言えば、実施例1および実施例2は、鉄および銅の摩耗、特に銅の摩耗を低減できる。
【0108】
表8
【0109】
【表11】
【0110】
実施例1ならびに比較例2、比較例4の分析フェログラムは、図1(a、b、cはそれぞれ実施例1、比較例2、比較例4の製品に対応しており、スケールは100μmである)に示すとおりであり、図面より、240hの中国8号油圧トランスミッションオイルの旧油に大量の強磁性粒子および銅粒子が生成していることと、240hのHM-46作動油の旧油に顕著な銅粒子(黄色の光を反射する粒子たち)が生成していることと、実施例1の作動油にはごく少量の強磁性粒子、油垢および粉塵の凝集物しかないことと、が認められた。結果より、本発明に係る潤滑油は、銅および鉄の摩耗、特に銅の摩耗を明らかに低減したことを示している。
【0111】
(3.3)完成品信頼性測定であって、実施例1の製品について、ASTM D8184標準に準拠して旧油のPQを測定し、GB/T 265標準に準拠して旧油の100℃での動粘度変化率を測定し、ASTM D5185標準に準拠して旧油の鉄および銅の摩耗量(mg/kg)を測定し、結果を表9に示す。
【0112】
表9
【0113】
【表12】
【0114】
表9の結果より、同一完成品において、1420h実施例1のCu元素の摩耗は790h比較例4に対して50%となり、且つ、790h比較例4の100℃での粘度変化率は-22%となり、1420h実施例1の粘度変化率は-12%であることが認められ、これは、本発明に係る潤滑油は、Cu元素の摩耗を顕著に低減し、ギアシフトの滑らかさを向上するという利点を有しているとともに、Fe元素の摩耗を効果的に低減し、耐摩耗および減摩に明らかな強みを有していることを再度実証した。
【0115】
(4)実施例1において添加される直鎖状ベヘニル基をグラフトしたスルホン化グラフェンについて、以下の特性評価を行う。
【0116】
(4.1)図2(スケールは2μm)に示すように、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy、SEM)による特性評価であって、図面より、改質グラフェン凝集体は、層状構造となっており、横方向の長手サイズは約8μm、短手サイズは約2μmであることを示している。
【0117】
(4.2)図3に示すように、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy、TEM)による特性評価であって、図面より、改質グラフェンシートが積み重ねられている位置は比較的暗い色であり、1つの改質グラフェンシートには軽微な皺があり、1つシートの横方向サイズは約400~1000nmであることを示している。これは、TEMは改質グラフェンの形態をより好適に反映でき、SEMは凝集状態的形態をより多く反映できることを示唆している。
【0118】
(4.3)図4に示すように、ラマン分光分析(Raman spectroscopy analysis)であって、図面より、1350cm-1に結晶格子のランダム性を示す鋭いDバンドピークが現れることと、1580cm-1にSP2原子ペアの伸縮振動を示す鋭いGバンドピークが現れることと、2700cm-1付近に5層ぐらいのグラフェンと推測される(ここで、中国書籍《グラフェン-構造、調製方法および性能の特性評価》を参照すること、作者は、Zhu Hongwei、Xu Zhiping、Xie Danなどである)ピークの重ね合せが現れることと、を示している。
【0119】
(4.4)元素分析であって、測定方法はSN/T3005-2011標準に準拠し、結果より、改質グラフェン粉体に対して、Cの質量分率は70.46%、Sの質量分率は3.01%、炭素対硫黄の質量比は23であることを示している。
【0120】
本発明は上述した実施例を使用して、耐摩耗性、減摩性および分散安定性の潤滑油またはグリースおよびそれらの調製方法を説明しているが、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、つまり、本発明は上述した実施例に依拠しなければ実施できないということを意図するものではないと出願人は声明する。当業者であれば、本発明に対するいかなる改良、本発明に係る製品の各原材料に対する均等な置換ならびに補助成分の添加、具体的形態の選択などは、すべて本発明の保護および開示の範囲内にあることを理解すべきである。
【0121】
上記で本発明の好ましい実施例について詳細に説明されているが、本発明は上述した実施例に係る具体的な詳細に限定されるものではなく、本発明の各部構成は、本発明の技術的思想の範囲内で、様々な簡単な変形が可能である。但し、これらの簡単な変形は、すべて本発明の保護範囲内に属する。
【0122】
なお、上述した本発明を実施するための形態において記載された各部構成は、矛盾しない限り、任意の好適な形態で組み合わせ可能であり、無用な重複を避けるために、本発明は様々な可能な形態の組み合わせについて別に説明しない。
図1
図2
図3
図4