(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】ペリクル用緩衝材、及び梱包体
(51)【国際特許分類】
G03F 1/66 20120101AFI20230316BHJP
【FI】
G03F1/66
(21)【出願番号】P 2021200500
(22)【出願日】2021-12-10
(62)【分割の表示】P 2017068814の分割
【原出願日】2017-03-30
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 隆徳
【審査官】牧 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-064780(JP,A)
【文献】国際公開第2009/050800(WO,A1)
【文献】特開2014-112126(JP,A)
【文献】特開2011-121596(JP,A)
【文献】特開2013-224182(JP,A)
【文献】特開2008-100733(JP,A)
【文献】特開2007-128030(JP,A)
【文献】米国特許第04836379(US,A)
【文献】国際公開第2008/096462(WO,A1)
【文献】中国実用新案第201626641(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00 - 1/86
B65D 81/00 - 81/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクル用緩衝材によりペリクルを収納したペリクルケースを梱包箱内に水平に保持して収納してなる梱包体
を用いた、異物発生の防止方法であって、
前記梱包箱の内側底面に、前記ペリクル用緩衝材が分散配置されており、
上下方向に収容される単数又は複数の前記ペリクルケースが、梱包箱内の最も下に位置するペリクルケースの底面積の2.0%以上30.0%未満に該当する合計上面面積を有するペリクル用緩衝材の上面で支えられており、
前記ペリクルは、面積が1000cm
2以上50000cm
2以下であるペリクル膜と枠体とを有し、前記枠体の下縁面に粘着剤を介して保護フィルムが粘着されており、
前記ペリクル用緩衝材は、前記粘着剤及び
前記保護フィルムを、粘着テープによって、前記ペリクルと前記ペリクルケースとの間の隙間として設ける設計で、
かつ前記ペリクルを前記ペリクルケースのトレイに止めたときの、前記ペリクル及び当該ペリクルを収納する前記ペリクルケースを含む質量により、前記合計上面面積を満たしており、
かつこれにより前記ペリクル用緩衝材に対して0.06kg/cm
2で90日加圧した後の、振動周波数10.5Hzにおける、前記ペリクルの加速度Aと、最も下に位置する前記ペリクルケースの加速度Bとが、
下記式を満たすものとし、
((A-B)/A)×100(%)≦25
(%)
前記ペリクル
用緩衝材が、反発弾性の異なる、少なくとも2重の構造体を含み、
前記分散配置される前記ペリクル用緩衝材は、鉛直方向上面が個々に独立している、
梱包体
を用いた、異物発生の防止方法。
【請求項2】
前記ペリクル用緩衝材のうちの少なくとも一つの構造体が、反発弾性が60%以下の構造体である、請求項1に記載の梱包体
を用いた、異物発生の防止方法。
【請求項3】
前記反発弾性が60%以下の構造体が、
防振ゴム系、金属バネ系、及び空気バネ系からなる群より選ばれるいずれかの構造体である、請求項2に記載の梱包体
を用いた、異物発生の防止方法。
【請求項4】
前記反発弾性が60%以下の構造体が、前記梱包箱の底面に接している、請求項2又は3に記載の梱包体
を用いた、異物発生の防止方法。
【請求項5】
前記反発弾性が60%以下の構造体以外の、他の構造体が、
発泡ポリエチレン、又は発泡スチロールである、請求項2乃至4のいずれか一項に記載
の梱包体
を用いた、異物発生の防止方法。
【請求項6】
前記梱包箱の底面に接する面には、前記反発弾性が60%以下の構造体が接している、
請求項2乃至5のいずれか一項に記載の梱包体
を用いた、異物発生の防止方法。
【請求項7】
前記少なくとも2重の構造体は、鉛直方向において反発弾性が異なる下部構造体及び上
部構造体を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の梱包体
を用いた、異物発生の防止方法。
【請求項8】
前記下部構造体と
前記上部構造体とが、接着剤にて貼り合わせられている、請求項7に記載の梱包体
を用いた、異物発生の防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリクル用緩衝材、及び梱包体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ペリクルを収納、保管、輸送する際には、所定の梱包体が用いられている。
半導体装置や液晶ディスプレイ等の回路パターン製造時のリソグラフィー工程においては、フォトマスクあるいはレティクル等の露光用基盤への異物除けの目的で、一般にペリクルと呼ばれる防塵フィルムを貼付する方法が用いられている。
このペリクルは、露光用基盤の形状に合わせた形状を有する厚さ数ミリ程度の枠体の上縁面に、厚さ10μm以下のニトロセルロース、セルロース誘導体、又はフッ素ポリマー等よりなる透明な高分子膜(以下、「ペリクル膜」という)が展張して接着されており、かつ前記枠体の下縁面に粘着剤が塗着されていると共に、この粘着剤上に所定の接着力で、ライナーと呼ばれる保護フィルムが粘着された構成を有している。また、最近は、ライナーを具備しないライナーレスタイプのペリクルも知られている。
前記粘着剤は、ペリクルを露光用基盤に固着するためのものであり、露光用基盤にペリクルを固着させた際に微細な空洞が生じることが無いように、ミクロンオーダーの平坦性の精度が求められる。また、前記ライナーは前記粘着剤がその用に供するまで粘着剤の接着力を維持するために、粘着剤の接着面を保護するものである。
【0003】
上述したようなペリクルは、一般的には、ペリクルを製造するペリクルメーカーと、ペリクルをフォトマスク等に貼付するマスク等のメーカーとが、地理的に離れている場合が多く、ペリクルメーカーからマスク等のメーカーへの運搬作業が必須となっている。そのため、ペリクルの運搬作業においては、ペリクル膜等に異物が付着することを防止したり、ペリクルが損傷したりすることを防止するため、ペリクルを一個ずつ、トレイとフタからなる専用のペリクルケースに収納し、当該ペリクルケースを複数個重ね、その後、エアークッション等の所定の緩衝材を具備する梱包箱に梱包することが一般的に行われている(例えば、特許文献1参照)。
特に、大型ペリクル用のペリクルケースを梱包箱に梱包する際に用いる緩衝材としては、前記ペリクルケースとの接触面積を規定して緩衝能力を高めた緩衝材も提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-305814号公報
【文献】特開2008-100733号公報
【文献】特開2010-64780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来技術においては、特に大型のペリクルケースは面積も大きく重量が大きいこと、輸送や保管の際に経時でペリクルケースの重量が緩衝材に加わること、さらには、緩衝材を繰り返し使用することは想定されていないことから、もっぱら、新品で緩衝能力が高い緩衝材を求めている。
また、従来においては、輸送中に発生する、悪路や荷運び中での強い衝撃等に起因する、比較的大きな振動を抑制する機能の高い緩衝材を得ることに注力されている。
【0006】
しかしながら、従来技術においては、繰り返し緩衝材を使用した場合、大きな振動のみならず、比較的小さい振動がペリクルケースに加わった場合にも異物が発生し、これが輸送対象に付着してしまうおそれがあることについては、十分な検討がなされていないという問題を有している。
【0007】
そこで本発明においては、上述した従来技術の問題点に鑑み、ペリクルを収納したペリクルケースを収納する梱包箱に配置する緩衝材に関して検討を行い、重量の大きい大型のペリクルケースを輸送する際や、長期保管した後に輸送する際にも異物が付着せず、かつ繰り返し使用しても異物の付着が効果的に低減できるペリクル用緩衝材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討した結果、ペリクルとペリクルケースに、ある特定の振動周波数が加わると、外的に加わる振動以上のストレスが発生することを発見した。
すなわち、所定の圧力で所定の期間加圧した時の、所定の振動周波数におけるペリクルケースとペリクルとの加速度差を所定の値以下に制御することにより、ライナーの脱落や、ライナーとトレイとの摩擦、ペリクルフレームとトレイとの摩擦による異物の発生、及び付着を効果的に防止し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
【0009】
〔1〕
ペリクル用緩衝材によりペリクルを収納したペリクルケースを梱包箱内に水平に保持して収納してなる梱包体を用いた、異物発生の防止方法であって、
前記梱包箱の内側底面に、前記ペリクル用緩衝材が分散配置されており、
上下方向に収容される単数又は複数の前記ペリクルケースが、梱包箱内の最も下に位置するペリクルケースの底面積の2.0%以上30.0%未満に該当する合計上面面積を有するペリクル用緩衝材の上面で支えられており、
前記ペリクルは、面積が1000cm2以上50000cm2以下であるペリクル膜と枠体とを有し、前記枠体の下縁面に粘着剤を介して保護フィルムが粘着されており、
前記ペリクル用緩衝材は、前記粘着剤及び前記保護フィルムを、粘着テープによって、前記ペリクルと前記ペリクルケースとの間の隙間として設ける設計で、かつ前記ペリクルを前記ペリクルケースのトレイに止めたときの、前記ペリクル及び当該ペリクルを収納する前記ペリクルケースを含む質量により、前記合計上面面積を満たしており、かつこれにより前記ペリクル用緩衝材に対して0.06kg/cm2で90日加圧した後の、振動周波数10.5Hzにおける、前記ペリクルの加速度Aと、最も下に位置する前記ペリクルケースの加速度Bとが、下記式を満たすものとし、
((A-B)/A)×100(%)≦25(%)
前記ペリクル用緩衝材が、反発弾性の異なる、少なくとも2重の構造体を含み、
前記分散配置される前記ペリクル用緩衝材は、鉛直方向上面が個々に独立している、
梱包体を用いた、異物発生の防止方法。
〔2〕
前記ペリクル用緩衝材のうちの少なくとも一つの構造体が、反発弾性が60%以下の構造体である、前記〔1〕に記載の梱包体を用いた、異物発生の防止方法。
〔3〕
前記反発弾性が60%以下の構造体が、
防振ゴム系、金属バネ系、及び空気バネ系からなる群より選ばれるいずれかの構造体である、前記〔2〕に記載の梱包体を用いた、異物発生の防止方法。
〔4〕
前記反発弾性が60%以下の構造体が、前記梱包箱の底面に接している、前記〔2〕又は〔3〕に記載の梱包体を用いた、異物発生の防止方法。
〔5〕
前記反発弾性が60%以下の構造体以外の、他の構造体が、
発泡ポリエチレン、又は発泡スチロールである、前記〔2〕乃至〔4〕のいずれか一に記載の梱包体を用いた、異物発生の防止方法。
〔6〕
前記梱包箱の底面に接する面には、前記反発弾性が60%以下の構造体が接している、前記〔2〕乃至〔5〕のいずれか一に記載の梱包体を用いた、異物発生の防止方法。
〔7〕
前記少なくとも2重の構造体は、鉛直方向において反発弾性が異なる下部構造体及び上部構造体を含む、前記〔1〕乃至〔6〕のいずれか一に記載の梱包体を用いた、異物発生の防止方法。
〔8〕
前記下部構造体と上部構造体とが、接着剤にて貼り合わせられている、前記〔7〕に記載の梱包体を用いた、異物発生の防止方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期保管後にペリクル用緩衝材を使用してペリクルケースを輸送した場合や、繰り返しペリクル用緩衝材を使用してペリクルケースを輸送した場合でも、ペリクルに対する異物の付着を効果的に抑制でき、かつ繰り返し使用できるペリクル用緩衝材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ペリクルを収納したペリクルケースを梱包箱に収納した状態の概略断面図を示す。
【
図2】(a)~(d) ペリクル用緩衝材の配置の例を示す、梱包箱内部底部の模式的な平面図を示す。
【
図3】振動周波数と加速度の測定試験の概略図を示す。
【
図4】ペリクル及びペリクルケースの加速度測定位置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」と記載する。)について詳細に説明するが、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
〔ペリクル用緩衝材〕
本実施形態のペリクル用緩衝材は、
ペリクルを載置したペリクルケースが収納された梱包箱の中に、前記ペリクルケースが上部に載置された状態で配置されるペリクル用緩衝材であって、
前記ペリクル用緩衝材に対して0.06kg/cm2で90日加圧した後の、振動周波数10.5Hzにおける、前記ペリクルの加速度Aと、前記ペリクルケースの加速度Bとが、
((A-B)/A)×100(%)≦25(%)の関係を満たす、ペリクル用緩衝材である。
【0014】
以下、本実施形態のペリクル用緩衝材について、図面を用いて説明する。
図1は大型のペリクルを収納した梱包体の一例を示す模式的な断面図である。
また、
図2(a)~(d)は、ペリクル用緩衝材の配置の例を示す梱包箱の内側底面の平面図である。
ここで大型のペリクルとは、ペリクル膜の面積が1000cm
2以上50000cm
2以下であるものを言う。
【0015】
図1に示すように、梱包体Aは、ペリクルフレーム10の一端面にペリクル膜が接着されているペリクル9を収納した、蓋4a及びトレイ4bからなるペリクルケース4と、当該ペリクルケース4を支持する、ペリクル用緩衝材1とを梱包箱6内に収納した構成を有している。
ここで梱包箱6に収納するペリクルケース4は、単数であっても複数であってもよいが、大型のペリクルケースの場合は、大きさと重量の関係から最大3枚までを一つの梱包箱6に収納させることが好ましい。
図1においては、下段保持部材2及び上段保持部材3により、各々ペリクルケース4が収納された2段構成となっており、天板5によって保持された状態で梱包箱6に収納された梱包体Aが2段積み重ねられ、パレット8に載置され、輸送用天板7によって保持された構成となっている。
【0016】
ペリクル用緩衝材1は、2重以上の構造体からなることが好ましく、
図1においては、一例として、上部構造体1bと下部構造体1aからなる2重構造を示しているが、本実施形態は、かかる構成に限定されるものではなく、単層構造であってもよく、また、3重以上の構造であってもよい。
【0017】
本実施形態のペリクル用緩衝材は、
図1に示すような構成で0.06kg/cm
2で90日加圧した後の、振動周波数10.5Hzにおける、前記ペリクルの加速度Aと、前記ペリクルケースの加速度Bとが、((A-B)/A)×100(%)≦25(%)である機能を有している。好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下である。
従来は輸送や保管中の大きな振動だけに注力して、緩衝材の緩衝能力を高めていたが、実際の輸送には、振動は大きくない場合でも、ペリクルとペリクルケースに、ある特定の振動周波数が加わると、ペリクルが激しく動き、外的に加わっている振動以上のストレスが発生する。
特に、長期的に使用された後に輸送を行った場合、特定の振動周波数が加わると、ペリクルが新品のペリクルと比較して激しく動き、大きなストレスがペリクルに加わり、ペリクルとペリクルケースとの間に摩擦が発生し、ライナーの脱落や、ライナーとトレイとの摩擦、ペリクルのフレームとトレイとの摩擦により異物が発生する。
本実施形態においては、ペリクルの加速度Aと、ペリクルケースの加速度Bとを、上記式の関係を満たすように特定し、ストレスが若干かかっても、ペリクルとペリクルケースとの間の摩擦の発生を効果的に抑制し、上述した異物等の発生を防止できる。
【0018】
上述したように、ペリクルの加速度Aと、ペリクルケースの加速度Bとを、((A-B)/A)×100(%)≦25(%)に制御するためには、ペリクルケースに対する圧縮率が小さい緩衝材を使用したり、経日的に劣化の少ない緩衝材を使用したり、ペリクルケースを今よりも柔軟な素材にしたり、ペリクルとペリクルケースとの間に隙間を設けるような設計にしたりすることが有効である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態のペリクル用緩衝材1は、梱包箱6の中に、ペリクルケース4が上部に載置された状態で配置されるものである。
ペリクル用緩衝材1は、
図2(a)~(d)に示すように、梱包箱6の内側底面に分散配置することが好ましい。
ここで、分散配置されたペリクル用緩衝材1は、個々に独立したものであることが好ましいが、少なくとも上面が独立していれば、下部において互いに連結していてもよい。独立している場合には、ペリクル用緩衝材1の占有体積を小さくでき、連結している場合には梱包箱6へのペリクル用緩衝材1の配置が容易になる。
【0020】
ペリクル用緩衝材1の配置数と形状は、外部からの衝撃が無い時は、ペリクルケース4を平坦に保つことが可能な程度に適宜選択する。すなわち、梱包箱6の側面に沿って、ペリクルケース4の底面積の2.0%~30.0%となる合計上面面積を有する範囲で、複数のペリクル用緩衝材1を対称的に配置することが好ましい。
ペリクル用緩衝材1をこのように配置することにより、特に下方から梱包体Aに強い衝撃が加わった場合においても、ペリクルケース4に梱包箱6が直接接触することを防止できるため、膜あたりが回避できる。
また、ペリクル用緩衝材1の形状は、荷重によりペリクルケースとの接触面積が大きく変化しない形状が好ましく、例えば直方体が好ましい。
【0021】
本実施形態のペリクル用緩衝材1の形状、及び梱包箱6中における配置の具体例としては、
図2(a)に示すように直方体形状のペリクル用緩衝材を梱包箱の内側底面の6カ所に配置する形態、
図2(b)に示すように直方体形状のペリクル用緩衝材を梱包梱の内側底面の6か所に配置する形態、
図2(c)に示すように、矩形断面のペリクル用緩衝材1を梱包箱内側底面の4か所に配置する形態、
図2(d)に示すように梱包箱の内側底面の短辺両側に、ペリクル用緩衝材1を各々平行2列に配置する形態が挙げられる。
【0022】
ペリクルケース4を支持するペリクル用緩衝材1の上面の面積の合計は、梱包箱6内で、最も下に位置するペリクルケース4の底面積の2.0%以上30.0%未満であることが好ましい。さらには、2.5%以上25.0%未満であることがより好ましく、3.0%以上20.0%未満がさらに好ましい。
また、本実施形態のペリクル用緩衝材1は、直接ペリクルケース4に接していてもよいし、後述する保持部材のようにペリクルケース4を固定するために使用する所定の部材を、ペリクルケース4とペリクル用緩衝材1の間に配置してもよい。
また、梱包箱6底面とペリクル用緩衝材1との間に、ペリクル用緩衝材1と接着力が良好な部材や底面を平行にするような部材を配置してもよい。
【0023】
ペリクルケース4を支持するペリクル用緩衝材1の上面の面積の合計が、梱包箱6内で、最も下に位置するペリクルケース4の底面積に対して2.0%よりも少ない場合は、静置時に収納容器を十分に支持できないため平坦性が悪くなり、発塵のおそれがある。
一方において、30.0%以上である場合は、逆に緩衝能力が悪くなり、外側からの衝撃を受けやすくなるため好ましくない。また、梱包箱6は段ボールのような素材で作られていることが一般的なため、フォークリフトの刺し傷や輸送中の強い衝撃に対して変形しやすいという問題がある。そのため、梱包箱6が変形した場合に、ペリクル用緩衝材1が衝撃を伝える媒体となってペリクルケース4に衝撃が伝わり、結果的に汚染や膜あたり等が生じるおそれがある。
【0024】
本実施形態のペリクル用緩衝材1は、高さが50~500mmであることが好ましく、80~400mmがより好ましく、100~250mmがさらに好ましい。
本実施形態のペリクル用緩衝材1の高さが500mm以下であれば、無駄なスペースが少なく、50mm以上であれば落下衝撃によって梱包体Aの底面が衝撃を受けても、ペリクルケース4内のペリクル9が受ける影響を効果的に少なくできる。
従って、梱包体Aの質量増に応じて、ペリクル用緩衝材1の高さを適宜設計することが好ましい。
上述したように、合計上面面積以外のペリクル用緩衝材1の形状、配置については、収納するペリクルケース4の質量に対して、上述した点を考慮して、所望の緩衝効果が得られるように適宜決定する。
【0025】
本実施形態のペリクル用緩衝材1は、少なくとも2重の構造体を含むことが好ましい。
ペリクル用緩衝材1が、2重の構造体を含む場合、そのうちの少なくとも1つの構造体が、反発弾性が60%以下の構造体であることが好ましい。
前記反発弾性は58%以下であることがより好ましく、55%以下であることがさらに好ましい。
反発弾性が前記数値範囲内にあることにより、長期間保管、使用しても、輸送中の特定の振動周波数によるそれぞれの振動を抑える効果を発揮できる。
また、長期保管後の輸送中でも、劣化なく振動を抑える効果を発揮でき、好ましい。
【0026】
前記反発弾性が60%以下の構造体は、例えば、防振ゴム系、樹脂発泡体系、金属バネ系、空気バネ系の緩衝材であることが好ましいが、より好ましくは、防振性のゴムスポンジやポリウレタン発泡体である。特に繰り返し使用する耐久性に優れるポリウレタン発泡体がさらに好ましい。
【0027】
また、梱包箱6の底面に接する面には、前記反発弾性が60%以下の構造体が接していることが好ましい。これによりペリクルケース4全体の振動を抑制することができる。
また、本実施形態のペリクル用緩衝材が2重の構造体を含む場合、当該2重構造の比率は、ペリクルケースの重量と面積の観点、及び、ペリクルケースと梱包箱底面に空間を設けて膜あたりを抑制したいという観点から、ペリクル用緩衝材1の高さ全体に対して、前記反発弾性が60%以下の構造体が、25%以下であることが好ましい。より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下である。
【0028】
2重の構造体のうちの反発弾性が60%以下の構造体以外の、他の構造体は、強い衝撃から抑制できる材料により形成されていることが好ましい。さらに、長期間保管を行った場合に、重量が大きいペリクルケースを保持した場合であっても、高さの変位を抑制することもでき、好ましい。
また、フォークリフト等で底面が突き上げられたときに、フォークリフトの爪がペリクルケース4に当たる確率が低くし、かつ輸送中のトラブルを少なくする観点から、ペリクルケース4と梱包箱6の底面との間に空間が設け、ペリクルケース4と梱包箱6の底面からの距離を保つことが好ましい。
2重の構造体のうちの反発弾性が60%以下の構造体以外の他の構造体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フロー成形品の中空構造体、発泡ポリエチレン、発泡スチロール、段ボール、紙類で作製した構成体等を挙げられ、特に、適度な剛性と軽量性の観点から、発泡ポリエチレン、発泡スチロール、中空構造体が好ましい。
【0029】
〔梱包体〕
本実施形態の梱包体は、上述した本実施形態のペリクル用緩衝材により、ペリクルを収納したペリクルケースを梱包箱内に水平に保持して収納してなるものであり、前記梱包箱の内側底面には、前記ペリクル用緩衝材が分散配置されており、単数又は複数の前記ペリクルケースが、梱包箱の最も下に位置するペリクルケースの底面積の2.0%以上30.0%未満に該当する合計上面面積を有するペリクル用緩衝材の上面で支えられている構成を有している。
図1を用いて、本実施形態の梱包体Aについて説明する。
図1に示す態様においては、梱包体Aは、ペリクルケース4を1つずつ保持する下段保持部材2及び上段保持部材3と、上段保持部材3の上部に蓋をする天板5と、前記ペリクル用緩衝材1とを梱包箱6に収納してなるものである。
梱包体Aにおいては、前記保持部材2、3を利用してペリクルケース4を複数重ねることができるが、重ねる段数は1段又は2段とすることが好ましい。
前記保持部材2、3は、ペリクルケース4の上下のスペースを調整する役割に加えて、ペリクルケース4の水平方向の位置を規制する役割も有している。さらに、梱包体Aを複数本の結束バンド(図示しない)で強固に締結してもよい。
【0030】
また、梱包体Aは複数重ねて運送できるが、持ち運び易さや安定性から1箱又は2箱とすることが好ましい。
梱包体Aを輸送する際には、その上部には輸送用天板7、その下部にはパレット8を配置した梱包パレットとすることが好ましい。そして、輸送用天板7、梱包体A、パレット8の三つは、複数本の結束バンド(図示せず)で強固に締結されることが好ましい。
梱包体Aはそのまま輸送することもできるが、輸送用天板7とパレット8を兼ね備えたほうがより好ましい。その場合、角あてを利用すると梱包パレットがより強固になる。
【0031】
輸送用天板7、梱包体A、パレット8(支持脚は除く)は、十分な強度を持つ材質で構成されることが好ましく、プラスチック段ボール、紙段ボール、強化段ボール、多層段ボール、ハニカム構造を有する板状材料、合成樹脂、合成樹脂の発泡体、金属類等から適宜選択できるが、これに限定されるものではない。また、角あてを利用する場合の材質は特に限定されず、適宜選択することができる。
【0032】
パレット8の支持脚は、重量を支持できる強度を備え、特に上下の衝撃に対して緩衝効果が高い材質で構成されることが好ましく、発泡性樹脂(例えば、発泡性ポリエチレン、発泡性スチロール等)、プラスチック段ボール、紙段ボール、強化段ボール、多層段ボール、エアークッション、液体ゲル等から適宜選択できるが、これらに限定されるものではない。
形状としては、衝撃に対して潰れやすい方向に穴が貫通していることが好ましく、丸形状、楕円状、三角形状等が好ましいが、穴が貫通していなくても緩衝材となるような構成にしてもよい。
また、支持脚は、パレット8を利用しない場合は、梱包箱6の外側下部面に直接設置してもよい。
【0033】
輸送用天板7、梱包体A、パレット8を結束する結束バンドは、ポリプロピレン製のものが一般的であるが、各構成部材の重量に応じて適宜選択することが好ましい。
【0034】
梱包体A内で利用される保持部材2、3について説明する。
保持部材2、3の材質は、発泡性ポリエチレン、発泡性スチロール、発泡性ポリウレタン等、衝撃を吸収する緩衝材で、ペリクルケース4を平坦に保持できる程度の強度を持つ材質であればよい。
また、保持部材2、3は、ペリクルケース4を平坦に保持できる構造であることが好ましいが、ペリクルケース4の側面と底面を覆う凹形状より、ペリクルケースの側面と底面の一部を覆う形状であることが好ましい。より好ましくは、断面がL字形状のものである。
【0035】
また、最下段の下段保持部材2は、ペリクル用緩衝材1の上面、当該ペリクル用緩衝材1が複数の構造体、例えば上部構造体1b及び下部構造体1aよりなる場合には、上部構造体1bに接して載置されていることが好ましい。
【0036】
最上部の上部保持部材3の蓋となる天板5の材質について説明する。
天板5は、発泡性ポリエチレン、発泡性スチロール、発泡性ポリウレタン等、衝撃を吸収する緩衝材で構成されることが好ましく、上部保持部材3の周縁部に載置することができるように、少なくとも下面がフラットに形成されているものとする。また、天板5とペリクルケース4との間に、発泡性ウレタンやエアークッションのような柔らかい所定の緩衝材を配置して、さらにペリクルケース4に対しする衝撃を抑制する構成としてもよい。
このような構成とすることで、梱包体Aの天面を効果的に保護することができる。
【0037】
本実施形態の梱包体Aにおいては、ペリクル用緩衝材1によってペリクルケース9が梱包箱6内に水平に保持されて収納されている。
前記梱包箱6の内側底面には、前記ペリクル用緩衝材が分散配置されている。例えば、
図2(a)~(d)に示した配置形態が挙げられる。
また、単数又は複数の前記ペリクルケース4が、梱包箱6の最も下に位置するペリクルケース4の底面積の2.0%以上30.0%未満に該当する合計上面面積を有するペリクル用緩衝材1の上面で支えられている。
ペリクルケース4を支持するペリクル用緩衝材1の上面の面積の合計が、梱包箱6内で、最も下に位置するペリクルケース4の底面積に対して2.0%以上とすることにより、静置時に収納容器を十分に支持でき、良好な平坦性が得られ、発塵を効果的に防止できる。
また、30.0%未満とすることにより、優れた緩衝能力を発揮でき、外側からの衝撃を抑制できる。
【0038】
本実施形態の梱包体によれば、ペリクルの保管、輸送時の振動、衝撃から、ペリクルを効果的に保護でき、膜あたりを生じず、また、ペリクルに異物が付着することがなく、清浄な状態を保って輸送することができる。
また、緩衝材の占有体積を小さくして緩衝効果を発現することができる。
【実施例】
【0039】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実
施形態はその要旨を超えない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例中の各物性は下記の方法により測定した。
【0040】
((1)振動周波数と加速度の測定試験)
ペリクルケース、及びペリクルにかかる振動周波数と加速度を測定した。
図3に示すように、
図1の梱包体Aを一箱利用して測定を実施した。
図3に示すように、ペリクルケース4を上段保持部材3、下段保持部材2のそれぞれに、合計2個収納した。
下段保持部材2によって保持されている下段側のペリクルケース4に、ペリクル膜とペリクルフレーム10を具備するペリクル9を載置し、上段保持部材3によって保持されている上段側のペリクルケース4にはペリクルフレーム10のみを載置した。
上段のペリクルケース4の、ペリクルの短辺側の中央部に対応する位置に、
図4のように粘着テープにより加速度計を取付け、かかる位置をペリクルケース4の加速度測定位置としてペリクルケースの加速度(B)を測定した。
ペリクルの加速度(A)は、
図4のように上記ペリクルケース4の加速度測定位置とほぼ同じ位置になるようにペリクルフレーム10の短辺中央部における当該ペリクルフレーム上に同様に加速度計を取付け測定した。
ペリクルケース4を梱包箱に収納し、ペリクル用緩衝材1を配置した。
図3に示すように、ペリクルケース4を収納した梱包箱6を振動試験機ステージ上に載置し、振動駆動部により振動させる振動試験を行った。データ処理は、輸送振動記録計(Tough Logger model TR-1000 IMV社製)を使用して、振動周波数、加速度を求めた。
振動試験機は、IMV製 K125LS/SA18Mを使用した。
試験条件は、加速度8G、振動周波数0~200Hzとした。
【0041】
((2)異物検査)
前記と同様なサンプルを作製し、輸送試験を行った。
輸送試験は、宮崎から羽田を往復することにより行った。
宮崎-福岡往復はトラックで、福岡-羽田往復は空輸で輸送し、上下方向の衝撃を測定し、異物付着状態を評価した。
【0042】
〔実施例1〕
図1に示すように、ペリクル9をペリクルケース4に載置した。
その際、ライナーをトレイ4bにとめるために粘着テープを使用した。
当該ペリクルケース4を梱包箱6に収納した。
ペリクル用緩衝材1としては、2重構造体1a、1bを有するものを用いた。
2重構造体のペリクル用緩衝材1は、上部構造体1bとして、160mm×50mm、高さ140mmの発泡ポリエチレン製の緩衝材を使用し、下部構造体1aとして、160mm×50mm、高さ20mmの、反発弾性が50%のポリウレタンエラストマー製の緩衝材を用いた。これら上部及び下部構造体を接着剤にて貼り合わせ、ペリクル用緩衝材1とした。
ペリクルケース4としては、外寸が950mm×1300mmで、蓋4aも合わせたペリクルケース4の高さが100mmであるものを用いた。
ペリクルケース4を、保持部材(発泡ポリエチレン製)2、3にて保持し、下段のペリクルケース4の底部に、ペリクル用緩衝材1を
図2(a)のように6カ所に配置し、梱包体Aとした。このとき、梱包箱6の底面にペリクル用緩衝材1を固定しやすいように、底面に発泡ポリエチレン製の板状物、外寸が1050mm×1400mm、高さ4mmを敷いてその上にペリクル用緩衝材1を接着剤にて貼り付けた。
このとき、ペリクル用緩衝材1に対して0.06kg/cm
2の圧力がかかっていた。
上述のようにして得た梱包体において、倉庫にて梱包体を90日間保管し、前記((1)振動周波数と加速度試験)を実施した。
振動周波数が10.5Hzとし、ペリクルケースの加速度(B)と、ペリクルの加速度(A)をそれぞれ測定した。
加速度差を((A)-(B)/(A))×100により算出したところ、3%であった。
また、((2)異物検査)を実施したところ、異物付着が無いことが確認された。
【0043】
〔比較例1〕
前記〔実施例1〕の上部構造体1bと下部構造体1aを一体物として、反発弾性が72%の発泡性ウレタンに替えた。
また、ペリクル用緩衝材1の配置を、
図2(c)のように4隅の4か所に変更した。
その他の条件は、〔実施例1〕と同様の条件とし、前記(1)及び(2)の評価を実施した。
(1)の加速度差は、振動周波数が10.5Hzの時に58%であった。
また、(2)の異物検査の結果、異物付着が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のペリクル用緩衝材は、LSI、液晶ディスプレイ(LCD)を構成する薄膜トランジスタ(TFT)やカラーフィルター(CF)等を製造する際のリソグラフィー工程で使用されるフォトマスクやレティクルなどの露光用基盤に異物が付着することを防止するために用いられるペリクルの緩衝材として産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0045】
1 ペリクル用緩衝材
1a 下部構造体
1b 上部構造体
2 下段保持部材
3 上段保持部材
4 ペリクルケース
4a 蓋
4b トレイ
5 天板
6 梱包箱
7 輸送用天板
8 パレット
9 ペリクル
10 ペリクルフレーム
A 梱包体