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  • 特許-水素の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/04 20210101AFI20230317BHJP
【FI】
C25B1/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018207747
(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2020070486
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】521233563
【氏名又は名称】株式会社Eプラス
(74)【代理人】
【識別番号】100127764
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 泰州
(73)【特許権者】
【識別番号】514006464
【氏名又は名称】廣田 武士
(74)【代理人】
【識別番号】100127764
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 泰州
(74)【代理人】
【識別番号】100084630
【弁理士】
【氏名又は名称】澤 喜代治
(72)【発明者】
【氏名】廣田 武次
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-205718(JP,A)
【文献】特開2016-131919(JP,A)
【文献】国際公開第2014/053027(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液に陰極と陽極を接触させ、両電極間に電圧をかけることによって前記水溶液中の水分子を電気分解し、もって水素を得る水素の製造方法であって、
前記陽極として炭素電極を用いる一方で、前記陰極として炭素電極以外の電極を用い、
前記水溶液として、アミン水溶液を用いることを特徴とする電気分解方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電気分解方法において、
前記水溶液として、アミン含有量5重量%以上のアミン水溶液を用いる電気分解方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電気分解方法において、
前記水溶液として、アルカノールアミンを溶解させたアミン水溶液を用いる電気分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解による水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池技術などの展開によって水素の需要が急激に高まってきている。現在、工業的な水素の製造は、主に炭化水素を水蒸気改質したり部分酸化したりする炭化水素ガス分解法によって行われている。
【0003】
最近では、風力発電や太陽光発電などの自然エネルギーによって発生させた電力によって水を電気分解し、もって水素を製造する手段も提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014‐203274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水の電気分解では、水素の発生と同時に酸素が発生するため、水素を高濃度で選択的に回収するためには陽極側の空間と陰極側の空間とを区画した特殊な形状の電解槽が必要となる。
【0006】
本発明は、前記技術的課題を解決するために開発されたものであって、電気分解によって発生した水素を選択的に回収することができる新規な水素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記技術的課題を解決するための本発明の水素の製造方法は、水溶液に陰極と陽極を接触させ、両電極間に電圧をかけることによって前記水溶液中の水分子を電気分解し、もって水素を得る水素の製造方法であって、前記陽極として炭素電極を用い、前記水溶液として、アミン水溶液を用いることを特徴とする(以下、「本発明製造方法」と称する。)。
【0008】
前記本発明製造方法においては、前記水溶液として、アミン含有量5重量%以上のアミン水溶液を用いることが好ましい態様となる。
【0009】
前記本発明製造方法においては、前記水溶液として、アルカノールアミンが溶解されたアミン水溶液を用いることが好ましい態様となる。
【発明の効果】
【0010】
前記本発明製造方法によれば、電気分解によって発生した水素を選択的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明製造方法を実行するための装置の概略を示す斜視図(a)と、一部断面状態で示す側面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<実施形態>
図1に、本発明製造方法を実行するための装置1を示す。本発明製造方法では、電解槽2に貯められた水溶液Wに、一対の電極3を接触させ、電極3間に電圧をかけることによって水溶液W中の水分子を電気分解する。
【0014】
‐電解槽2‐
前記電解槽2は、水溶液Wを貯めるための水槽である。本実施形態において前記電解槽2は、最大貯水容量1000リットルの槽本体21と、蓋体22とからなり、前記蓋体22にて前記槽本体21の開口部を塞ぐことにより、前記槽本体21及び前記蓋体22によって囲まれた空間が外気と隔離される仕組みとなされている。なお、前記電解槽2には、前記蓋体22を通じて前記電解槽2内に至る気体輸送管23が取り付けられている。又、前記気体輸送管23には、管路を通過する気体中の酸素濃度及び水素濃度を計測するための酸素濃度計(TOKICO O2モニター OXY‐M)24と、水素濃度計(新コスモス電機 XP3140)25とが設けられている。更に、前記気体輸送管23の下流には、流量計(HORIBA STEC)26が設けられている。
【0015】
‐電極3‐
前記電極3は、陽極3Pと陰極3Nとを具備する。本発明製造方法では、前記陽極3Pにつき、炭素電極を用いる。一方、前記陰極3Nとしては、導電性がある素材からなる各種電極材料(例えば、白金電極、炭素電極、ステンレス電極、鉄電極、銅電極)から選択されたものが用いられる。本実施形態においては、前記陰極3Nとしてステンレス電極を用いた。なお、各電極3は図示しない整流器に接続されており、前記整流器の操作によって、両電極3間に任意の電圧がかけられる仕組みとなされている。
【0016】
‐水溶液W‐
本発明製造方法では、前記水溶液Wとして、アミン水溶液を用いる。ここで「アミン水溶液」とは、アンモニア、又は、アンモニアの水素基が各種官能基に置換されたアミン系化合物を溶質とする水溶液を意味する。なお、前記水溶液Wには、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の無機電解質やシュウ酸等の有機電解質を加えても良い。
【0017】
前記構成を有する前記装置1を用いて、前記電解槽2に貯められた前記水溶液Wを電気分解することによって本発明製造方法を実行すると、陰極3N側において水素イオン(H)が電子を受け取り、水素(H)が発生する。発生した水素は、前記気体輸送管23を通じて回収される。
【0018】
一方、陽極3P側では、水酸化物イオン(OH)が前記陽極3Pに電子を供与し、酸素(O)と水(HO)が発生する筈である。しかしながら、本発明製造方法においては、前記陽極3Pとして炭素電極を用いているため、発生した酸素が炭素電極由来の炭素(C)と速やかに結びつき二酸化炭素(CO)となって前記水溶液W中に溶解する。更に、水溶液W中に溶解した二酸化炭素は、前記水溶液Wに含まれるアミンと結合し、前記水溶液W中で固定されていると考えられる。このメカニズムは、例えば、RNHの化学式(R:アルキル基又はアルカノール基)を有するアミンを溶質とする水溶液W中で生じた二酸化炭素は、まず、アミンと結合形成反応(RNH+CO→RNHCO)を起こし、続くプロトン脱離反応(RNHCO+HO→RNHCO +H)によって、前記水溶液W中に固定されていると予想される。
【0019】
これより、本発明製造方法によれば、電気分解によって発生した水素を選択的に回収することができる。
【0020】
[実施例1~6]
下記表1に実施例1~6において用いた水溶液(アミン水溶液)Wの組成を示す。
【0021】
【表1】
【0022】
又、実施例1~6では、図1に記載の電解槽1を用い、下記の条件にて本発明製造方法を実行した。
【0023】
‐条件‐
陽極3P:炭素電極
陰極3N:ステンレス電極
電極間距離:600mm
印加電圧:12V(1000A)
【0024】
[比較例1]
比較例1では、アミン水溶液に替えて、下記表2に示す組成の水溶液を用いた以外は、各実施形態と同様の条件で電気分解を行った。
【0025】
【表2】
【0026】
[比較例2]
比較例2では、実施例2で用いた水溶液(アミン水溶液)Wを使用した。但し、比較例2では、陽極3Pをステンレス電極に替えて電気分解を行った。
【0027】
前記実施例1~6及び比較例1、2につき、24時間の電気分解を行った結果を下記表3に示す。なお、水素濃度及び酸素濃度は、電気分解の実施中に気体輸送管23を通過する気体を酸素濃度計24と、水素濃度計25とで測定した値である。
【0028】
【表3】
【0029】
表3に示す結果から解るように、水溶液Wとしてアミン水溶液を用い、且つ、陽極3Pに炭素電極を用いた実施例1~6では、試験開始後30分~1時間経過後には、気体輸送管23を通過する気体に酸素の存在が殆ど無くなり、その結果、高濃度の水素が選択的に回収し得ることが確認された。なお、試験開始後に検知される酸素は、大気中にもともと含まれていた酸素が検知されたものである。
【0030】
又、更に、試験を継続したところ、水溶液Wとして用いたアミン水溶液中のアミンの含有量に応じて、電気分解により発生した酸素(二酸化炭素)の水溶液W中への固定量が決定されることが確認された。
【0031】
一方、水溶液Wとしてアミン水溶液を用いなかった比較例1、及び、陽極3Pに炭素電極を用いなかった比較例2では、試験開始から終わりまで気体輸送管23を通過する気体に酸素が含まれていた。
【0032】
ところで、前記各実施例においては、アミン水溶液の溶質としてアンモニア又はアルカノールアミンを用いているが、本発明製造方法において、水溶液Wの溶質として用いられるアミンは、特に限定されるものではない。前記アミンとしては、アンモニアやアンモニアの水素基がアルカノール基によって置換されたアルカノールアミン(モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、トリアルカノールアミン)の他、例えば、アンモニアの水素基がアルキル基によって置換されたアルキルアミン(モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン)などを用いても、同様の結果が得られることが確認されている。但し、本発明製造方法においては、水に対する溶解性が良好で、アンモニアと比較して刺激臭の少ないアルカノールアミンを水溶液Wの溶質として用いることが好ましい。
【0033】
又、本発明製造方法では、水溶液Wにおけるアミンの含有量についても特に限定されない。アミンの含有量が少なければ、電気分解により発生した酸素(二酸化炭素)の水溶液W中への固定量が少なくなり、アミンの含有量が多くなれば固定量が多くなることが確認されており、アミンの含有量としては、5重量%以上(より好ましくは10重量%以上)が好ましい。
【0034】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、電気分解にて水素を得る手段として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 装置
2 電解槽
3 電極
3P 陽極
3N 陰極
W 水溶液

図1