(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】感知装置
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20230317BHJP
【FI】
G01N5/02 A
(21)【出願番号】P 2019098699
(22)【出願日】2019-05-27
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茎田 啓行
(72)【発明者】
【氏名】塩原 毅
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 祐希
(72)【発明者】
【氏名】中川 昭平
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 英治
(72)【発明者】
【氏名】土屋 佑太
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-080947(JP,A)
【文献】特開2005-257394(JP,A)
【文献】特開2011-203007(JP,A)
【文献】特開2016-103757(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0260566(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0211191(US,A1)
【文献】特開2020-139788(JP,A)
【文献】B.E.Wood et al.,Quartz crystal microbalance (QCM) flight measurements of contamination on the MSX satellite,SPIE,Vol.2864,pp.187-194
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体である被感知物質を圧電振動子に吸着させ、当該圧電振動子の温度を変化させて被感知物質を脱離させ、圧電振動子の発振周波数の変化と前記温度との関係に基づいて、被感知物質を感知する感知装置において、
前記圧電振動子を保持した基板と、
前記基板と接する位置に設けられ、前記圧電振動子の温度を変化させるための熱電素子部と、
前記基板と接する位置とは反対側から前記熱電素子部を支持する支持板と、
前記熱電素子部を支持する面とは反対側の面と接触するように前記支持板が固定され、前記支持板を介して前記熱電素子部に対する給熱と排熱との少なくとも一方を行うためのベース部と、を備え、
前記基板と熱電素子部と支持板とが一体化され、前記ベース部から着脱自在な感知モジュール部を構成していることを特徴とする感知装置
【請求項2】
前記ベース部には、圧電振動子を発振させるための発振回路を収容した収容空間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の感知装置。
【請求項3】
前記圧電振動子と接続された電極、及び前記発振回路に接続された電極の間に着脱自在に設けられ、前記圧電振動子と、前記発振回路と、の電気的な接続、非接続を切り替える導電部材を備えることを特徴とする請求項2に記載の感知装置。
【請求項4】
前記ベース部は、当該ベース部の冷却、加熱の少なくとも一方を行うための冷却/加熱部に接続されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の感知装置。
【請求項5】
前記基板と、前記熱電素子
部と、は、金属ナノ粒子を介して互いに接続され、前記熱電素子
部と、前記支持板と、は、金属ナノ粒子を介して互いに接続されたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の感知装置。
【請求項6】
前記ベース部と、前記支持板と、の間に熱伝導シートが設けられたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の感知装置。
【請求項7】
前記基板及び前記熱電素子
部の接続部分と、前記熱電素子
部及び前記支持板の接続部分と、は、各々一方を他方に嵌合させて位置決めがされる嵌合構造であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の感知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子の周波数変化により被感知物質を感知する感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス中に含まれる物質を感知する感知センサとして、水晶振動子を用いたQCM(Quartz crystal microbalance)が知られている。このようなQCMを利用した物質の感知手法の一つとして、水晶振動子にガスを付着させた後、当該水晶振動子の温度を低温の状態から徐々に上げて、当該水晶振動子に付着したガスを脱離させる手法が知られている。
【0003】
当該手法においては、このガス脱離前後の周波数変化量を測定することでガスの付着量が測定され、ガスが脱離する際の温度を検出することでガスの成分が特定される。上記の水晶振動子の温度変更を能動的に行うためにペルチェ素子を内蔵したものが知られており、このようにQCMとガスを離脱させるための温度調節手段とを組み合わせた感知装置は、TQCM(Thermoelectric QCM)とも呼ばれる。
【0004】
このようなTQCMにおいて、近年では、測定感度の向上のため水晶振動子の加熱、冷却性能のばらつきを抑えることが求められている。また温度調節部や水晶振動子の発振回路などを備え、構造が複雑化したTQCMであっても、メンテナンス性の高い装置構成となっていることが好ましい。
【0005】
なお特許文献1には、この感知センサは、水晶振動子センサと、ペルチェ素子と、伝熱材と、を上方からこの順で積層した構成が記載されている。しかしながら水晶振動子の加熱、冷却性能のばらつきや装置のメンテナンスには、着目しておらず本発明の課題を解決する構成は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、圧電振動子の加熱冷却のばらつきを抑制しつつメンテナンスが簡単な感知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の感知装置は、気体である被感知物質を圧電振動子に吸着させ、当該圧電振動子の温度を変化させて被感知物質を脱離させ、圧電振動子の発振周波数の変化と前記温度との関係に基づいて、被感知物質を感知する感知装置において、
前記圧電振動子を保持した基板と、
前記基板と接する位置に設けられ、前記圧電振動子の温度を変化させるための熱電素子部と、
前記基板と接する位置とは反対側から前記熱電素子部を支持する支持板と、
前記熱電素子部を支持する面とは反対側の面と接触するように前記支持板が固定され、前記支持板を介して前記熱電素子部に対する給熱と排熱との少なくとも一方を行うためのベース部と、を備え、
前記基板と熱電素子部と支持板とが一体化され、前記ベース部から着脱自在な感知モジュール部を構成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、圧電振動子を保持した基板と、前記圧電振動子の温度を変化させるための熱電素子部と、前記熱電素子部を支持する支持板とを、予め一体的に構成し、熱電素子部に対する給熱と排熱との少なくとも一方を行うためのベース部から着脱自在な感知モジュール部としている。そのため基板や熱電素子部を個別に組み合わせて感知装置を構成する場合の組み立て誤差による、冷却加熱性能のばらつきを抑えることができると共にメンテナンスが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る感知装置の縦断側面図である。
【
図2】前記感知装置の一部を拡大した縦断側面図である。
【
図3】前記感知装置におけるセンサモジュールの着脱を示す説明図である。
【
図4】前記感知装置が設けられた感知
システムの縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態のTQCMである感知装置1について、
図1の縦断側面図を参照して説明する。感知装置1は、ベース部2、回路基板3、水晶振動子4と、ペルチェ素子部6及びカバー9を備えている。またこの例では、水晶振動子4と、ペルチェ素子部6とは、感知モジュール部であるセンサモジュール100として構成されている。感知装置1の構造の概略を述べると、ベース部2にセンサモジュール100及びカバー9が各々支持され、カバー9によってベース部2上のセンサモジュール100が覆われる。カバー9は開口しており、水晶振動子4にガスを供給可能に構成されている。
【0012】
水晶振動子4を発振させるための回路基板3は、ベース部2の内部に収納される。この感知装置1は、ペルチェ素子部6によって、水晶振動子4の温度を例えば-80℃~125℃の範囲内で変更できるように構成されている。ベース部2は水晶振動子4の発振周波数を感知装置1の外部装置へ取り出すと共に、ペルチェ素子部6が水晶振動子4を冷却するにあたり発生する熱を排熱するための冷却部71に接続できるように構成されている。
【0013】
ベース部2は、例えばニッケル鍍金がされた銅により構成されており、ベース本体21と蓋部22とにより構成されている。ベース本体21は平面視円形なブロックとして構成されており、高い伝熱性が得られるように例えば一体成形されている。当該ベース本体21の一面側(上面側)の中央部は当該一面側に突出し、平面視円形の突起部23として構成されており、当該突起部23の一面は平坦面23Aとして構成されている。平坦面23Aには2つの長穴20が
図1を正面に見て左右に離れて開口している。長穴20は、
図1を正面に見て紙面と直交する方向に向かって伸びている。ベース本体21の他面側の中央部には凹部19が形成されており、上記の長穴20は当該凹部19内に開口している。ところで以下の説明では特に記載無い限り、突起部23の突出方向を上方向、2つの長穴20の配列方向を左右方向、
図1に直交する方向を前後方向とする。ただしこの方向については説明の便宜上付すものであり、ここで示す方向となるように使用時の感知装置1の方向が限られるものでは無い。
【0014】
ベース部2を構成する蓋部22は、ベース本体21の下方側(一方側)から上記の凹部19を塞いで上記の回路基板3などを収容する密閉された収容空間25を形成する。回路基板3は基板31と、基板31の上面側の中央部、下面側の中央部に各々設けられた集積回路32と、を備えている。集積回路32はシリコン製の半導体素子によって構成されており、水晶振動子4に接続されて当該水晶振動子4を発振させる発振回路を含む。基板31の上面側の左右の各端部には、上下方向に伸びる筒状のソケット33が複数ずつ、前後方向に並べて形成される。ソケット33は導電性であり、各集積回路32と電気的に接続された電極に相当する。
【0015】
また、各ソケット33の位置は、後述の当該ソケット33に差し込まれるピン53の位置に対応する。基板31においては、このソケット33の孔と重なるように孔が厚さ方向に穿孔されており、ソケット33に差し込まれたピン53は、基板31を貫通できるように構成されている。また、基板31には図示しないケーブルの一端が接続されるように構成され、当該ケーブルの他端は、ベース部2の板状体26の凹部22Aへ引き出され、外部の本体部と接続するための図示しないコネクタに接続される。
【0016】
ところで収容空間25には、回路基板3の他に2つのスペーサー35及び2つのガイド部材37が収納される。これらのスペーサー35及びガイド部材37は、ベース部2から回路基板3への伝熱を抑制する断熱部であり、熱伝導率が低い材料例えばテフロン(登録商標)により構成される。スペーサー35は、回路基板3の基板31の左右の各端部の下方に配置され、ガイド部材37は当該基板31の左右の各端部の上方に配置される。ガイド部材37は、当該ガイド部材37を上下方向に貫通する複数の貫通孔38を備えており、当該貫通孔38は前後方向に配列されている。貫通孔38の下部側には上記のソケット33が挿入される。
【0017】
既述のようにベース部2のベース本体21と蓋部22とが互いに固定されることで、ガイド部材37の上面、下面は収容空間25の天井面25A、基板31の上面に夫々密着し、且つスペーサー35の上面、下面は基板31の下面、支持突起29に夫々密着するように、基板31の左右の端部はガイド部材37及びスペーサー35によって挟み込まれる。それにより収容空間25におけるガイド部材37、スペーサー35、基板31の各位置が固定される。このように各部材が固定された際に、基板31の上面側の集積回路32は収容空間25の天井面25Aから離れ、基板31の下面側の集積回路32は、ベース部2の板状体26から離れる。
【0018】
続いてセンサモジュール100の構成についてセンサモジュール100を拡大した
図2も参照して説明する。センサモジュール100は、水晶振動子4が設けられたセンサ部5と、水晶振動子4を加熱冷却して温度を変化させるペルチェ素子部6と、センサ部5及びペルチェ素子部6を支持し、ベース部2に着脱するための支持板10とを備えている。
センサ部5は、その中央部に上記の水晶振動子4を保持するLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)製の基板50を備えている。当該基板50の上面には、水晶振動子4の下面側の励振電極43を収納する概ね楕円形の凹部51が形成されており、水晶振動子4の周縁部は、当該凹部51の開口縁部に支持されている。また、この基板50の上面には、水晶振動子4の温度を検出するための温度検出部52が設けられている。また基板50の下面の中央部には、後述のペルチェ素子部6の位置決めをするための、ペルチェ素子63の上面の形状に対応した矩形の凹部状のキャビティ50aが形成されている。
【0019】
水晶振動子4は、例えばATカットされた圧電片である円板状の水晶片40を備えている。水晶片40の上面側及び下面側には、夫々金(Au)により構成された励振電極41、43が設けられる。励振電極41、43は、水晶片40を挟んで互いに重なるように配置される。励振電極41、43の周の一部は水晶片40の縁部へ引き出されて、図示しない引き出し電極を形成している。
【0020】
温度検出部52及び上記の各励振電極41、43から延出される引き出し電極については、基板50に形成される図示しない配線パターンや基板50に設けられる図示しない導電性部材を介して、棒状の導電部材であるピン53の上端部に電気的に接続されている。このピン53は、基板50の左右の端部に複数ずつ設けられて、前後方向に配列されており、当該基板50を貫通すると共に当該基板50の垂直下方に長く伸び出している。なおこの実施の形態では、ピン53は、温度検出部52及び各励振電極41、43に接続された引き出し電極から着脱自在に構成されている。そして、当該ピン53は、ベース部2の長穴20、ガイド部材37の貫通孔38、ソケット33の孔、基板31の孔、スペーサー35の孔36に順に挿通される。また、ピン53がソケット33に差し込まれることで、回路基板3に接続された電極であるソケット33とピン53とが電気的に接続され、センサ部5の水晶振動子4及び温度検出部52と回路基板3とが電気的に接続される。また、ピン53をソケット33から引き抜くことにより、センサ部5側と回路基板3とが非接続状態に切り替わる。
【0021】
本例のペルチェ素子部6は、各々角型に構成された2つのペルチェ素子63、64を備え、ペルチェ素子63の下面及びペルチェ素子64の上面が、高熱伝導性接着剤などを介して互いに密着固定された上下に2段の構成となっている。ペルチェ素子63、64は、その上面及び下面のうちの一方の面が放熱面(加熱面)、他方の面が冷却面であり、ペルチェ素子63、64へ供給される電流の方向が切り替えられることによって放熱面と冷却面とが互いに切り替えられて、センサ部5の冷却と加熱とを行うことができる。センサ部5を冷却する際にはペルチェ素子63、64共にその上面が冷却面となり、その下面が放熱面となる。センサ部5を加熱する際にはペルチェ素子63、64共にその上面が放熱面となり、その下面が冷却面となる。また、下段側のペルチェ素子64の上面は、上段側のペルチェ素子63の下面よりも大きく形成されており、当該ペルチェ素子64の上面の中央部にペルチェ素子63の下面が配置される。ペルチェ素子部6は、本実施の形態の熱電素子部に相当する。
【0022】
支持板10は、ニッケル鍍金が施された円板状の銅板で構成され、上面の中央部には、ペルチェ素子部6の位置決めをするための、ペルチェ素子64の下面の形状に対応した矩形の凹部状のキャビティ10aが形成されている。またキャビティ10aの左右には、夫々前述のピン53が通過するスリット11が各々形成されている。
さらに支持板10におけるキャビティ10aの前後の周縁には、各々センサモジュール100をベース部2に固定するためのネジ部材24が挿入される孔部12が周方向に離間して2か所づつ形成されている。孔部12は、支持板10の中心部を通り前後に伸びる直線に対して左右で対称な位置となるように配置されている。
【0023】
そして
図2に示すようにペルチェ素子部6の上面がセンサ部5の下面のキャビティ50aに挿入されて位置決めがされる。ペルチェ素子部6と、センサ部5とは、例えば、銀ナノ粒子ペーストなどの金属ナノ粒子ペースト90により固定される。またペルチェ素子部6の下面が支持板10の上面のキャビティ10aに挿入されて位置決めがされ、ペルチェ素子部6と、支持板10とについても既述の金属ナノ粒子ペースト90により固定される。
【0024】
本例のセンサモジュール100において、基板50とペルチェ素子部6と支持板10とは、金属ナノ粒子ペースト90を介して一体化されている。なお、本例において、センサモジュール100の「一体化」とは、基板50、ペルチェ素子部6及び支持板10が感知装置1に対して一体的に装着、取り外し可能であれば足り、これらの部材50、6、10を互いに分離することが困難な程度に接着固定されていることを必須の要件とするものではない。
また、このようにペルチェ素子部6の上面及び下面をセンサ部5及び支持板10に挿入して位置決めがされることからセンサ部5及びペルチェ素子部6の接続部分と、ペルチェ素子部6及び支持板10の接続部分と、は、各々一方を他方に嵌合させて位置決めがされる嵌合構造といえる。
【0025】
上記の構成を備えるセンサモジュール100の着脱について
図3を参照して説明する。なお
図3は、
図2の感知装置1を上下方向に伸びる鉛直軸周りに90°回転させた状態を示している。センサモジュール100をベース部2に固定するにあたっては、ベース部2の上面にグラファイトシートなどの熱伝導シート8が配置される。さらに
図3(a)に示すように熱伝導シート8の上面にセンサモジュール100の下面(支持板10の下面)が載置され、孔部12がベース部2に形成された
ネジ孔2aに揃うように配置される。この時支持板10に形成されたスリット11がベース部2の長穴20に揃う。
図3では、ピン53を取り外した状態で示しているが、ピン53をセンサモジュール100に取り付けた状態、あるいは下端をソケット33に挿入した状態であってもよい。
【0026】
さらにセンサモジュール100は、各孔部12に上面側からネジ部材24が挿入されてベース部2に固定される。その後ピン53がセンサモジュール100に取り付けられると共に、既述のようにピン53の下方側がソケット33に挿入される。これにより励振電極41、43及び温度検出部52と、回路基板3側とが電気的に接続される。
そして、ベース部2及びセンサモジュール100の上面側からカバー9を取り付け、後述の感知システム内に設置することにより、感知装置1が使用可能な状態となる。
【0027】
一方、センサモジュール100を交換する場合には、例えばピン53を取り外し、続いて各ネジ部材24を取り外すことで、センサモジュール100をベース部2から取り外すことができる。なおネジ部材24の着脱を容易にするために、センサ部5の面積の小型化や、センサ部5における孔部12の上方に貫通孔や切り欠きを設けるといった構成としてもよい。
【0028】
続いてカバー9について説明する。このカバー9は、上記の水晶振動子4の上面側の励振電極41にガスを導入できるように構成され、ベース部2にセンサモジュール100を取り付けた後、センサモジュール100の周囲を覆うように設けられる。カバー9は有天井の起立した円筒として構成されており、当該カバー9の下端部はベース部2の突起部23の側周面を囲み、当該ベース部2に係合される。そして、カバー9の天井部には円形の開口部61が、既述した励振電極41に重なるように開口している。開口部61の開口縁は下方へと延伸されて、下方に向かうにつれて開口径が次第に小さくなる筒状のガイド62を形成する。ガイド62の下端は、水晶振動子4の表面からわずかに、例えば0.5mm離間している。
【0029】
図4は、感知装置1を用いた感知システムを示している。感知システムは、真空容器70を備え、真空容器70は、その側面のうちの一面が感知装置1を冷却するための冷却部71として構成されている。そして感知装置1は、
図4に示すように真空容器70内において、冷却部71にベース部2が固定され、開口部61が水平方向を向くように取り付けられる。冷却部71は例えば冷媒が流通する流路71aを備えたチラーにより構成され、凹部72及び凹部72の開口縁部を冷却できるように構成されている。これにより感知装置1は、ベース部2を介して、その全体が冷却される。このように冷却部71の熱は、ベース部2を介して、ペルチェ素子部6に熱伝導されることから、ベース部2は、ペルチェ素子部6に対する給排熱を行うと言える。なおベース部2は、ペルチェ素子部6に対して
給熱と排熱との一方を行う構成でも良い。
【0030】
真空容器70の内部には感知装置1の開口部61と対向する位置に試料77を支持するための台部73が設けられ、この台部73は加熱機構74により所定の温度に加熱できるようになっている。真空容器70は、排気路75を介して真空排気機構76に接続され、所定の真空度に真空排気されるように構成されている。
【0031】
また感知装置1を冷却部71に取り付けたときに、既述のコネクタに設けられる図示しない電極と、凹部72内に設けられる図示しない電極とが互いに接続される。これにより感知装置1は図示しない感知システムの本体部に電気的に接続され、冷却部71により冷却可能になる。そして既述のコネクタの電極と、凹部72内の電極とが互いに接続されることで、集積回路32が外部の本体部と電気的に接続され、水晶振動子4の発振周波数を取得できるように構成されている。またペルチェ素子部6に対して電流を供給できるように構成されると共に、温度検出部52で検出される水晶振動子4の温度が取得できるように構成される。そして当該温度検出部52にて検出された水晶振動子4の温度に基づいて、ペルチェ素子部6へ供給される電流の向き及び供給電力を調整して、水晶振動子4の温度を調整する。これにより水晶振動子4の温度を所定の温度から所定の速度で昇温させることができる。
【0032】
この感知システムにおいては、台部73に試料77を支持させた後、真空容器70を閉じ、真空容器70内を所定の真空度に真空排気すると共に、台部73を加熱機構74により例えば125℃に加熱する。これにより、試料77に含まれる被感知物質であるガスが昇華し、真空容器70内に放出される。一方、冷却部71に冷却媒体を供給すると共に、ペルチェ素子部6により温度を調整し、水晶振動子4を、例えば-80℃に冷却する。これにより、試料77の加熱により発生したガスが開口部61を介して感知装置1内に進入し励振電極41に付着する。
【0033】
この時水晶振動子4の質量変化により水晶振動子4の発振周波数が変化し、被感知物質を検出することができる。さらに発振周波数の取得を行いながらペルチェ素子63、64により温度を調節し、水晶振動子4を例えば1℃/分の速度で昇温させる。この水晶振動子4の昇温により、励振電極41に付着した被感知物質が脱離すると、発振周波数が大きく変化する。感知システムのユーザーは、発振周波数の経時変化を示すグラフから、発振周波数が変化するタイミングを読み出し、この変化したタイミングに基づいて当該変化が起きた温度を特定し、さらにはその温度に基づいて被感知物質の種類を特定することができる。
【0034】
本実施の形態に係る感知システムの特徴について述べる。本実施の形態に係る感知システムにおいては、センサ部5、ペルチェ素子部6及び支持板10を一体化したセンサモジュール100として構成し、ベース部2に簡単に着脱できるように構成している。ここで従来の感知システムにおいては、ペルチェ素子部6の上方にセンサ部5を接着せずに配置し、センサ部5をベース部2から伸びる支柱に締め付けて固定することにより、ペルチェ素子部6を挟み込んで、センサ部5と密着させていた。
【0035】
そのため感知装置1を組み立てるときのセンサ部5の支柱への締め付け具合によりペルチェ素子部6と、センサ部5との密着性に差が生じ、個々の感知システム間のセンサ部5とペルチェ素子部6との密着性の差による水晶振動子4の冷却性能の差が生じることがあった。
【0036】
さらに従来の感知システムにおいては、ペルチェ素子部6をベース部2に、例えばはんだなどにより固定していた。このような従来の感知システムにおいては、例えばセンサ部5やペルチェ素子部6などに故障が発生したときには、装置全体を交換する必要があった。
本実施の形態に係る感知システムにおいては、予めセンサ部5とペルチェ素子部6とを密着させて固定したモジュールとして構成している。そのため個々の感知システムを組み上げるときに、センサ部5とペルチェ素子部6との間の密着性に差が生じにくく、感知システム間の冷却性能の差が小さくなる。
【0037】
また感知システムの部品例えばセンサ部5に故障が発生したときにも、センサモジュール100単位で交換することができる。さらにはセンサモジュール100をネジ部材24により固定しているため、ベース部2に対して着脱しやすく交換が容易である。
【0038】
上述の感知システムは、センサ部5と、ペルチェ素子部6と、を支持板10と一体化したセンサモジュール100を備えている。そのためセンサ部5と、ペルチェ素子部6とを組み立てるときの設置誤差による感知装置1毎の冷却加熱性能のばらつきを抑制することができる。また支持板10をベース部2に対して着脱自在に構成することでセンサモジュール100に故障が発生したときにもセンサモジュール100単位で着脱することができ、簡単に交換することができる。
【0039】
またセンサモジュール100を設置するときにセンサ部5と回路基板3とを電気的に接続する必要がある。上述の実施の形態では、導電性部材のピン53を用い、ピン53をソケット33に挿入して機械的に接続することでセンサ部5と回路基板3とを電気的に接続している。そのためセンサモジュール100を設置したときに、センサ部5と回路基板3との電気的な接続も簡単になる。
またセンサ部5の周縁を支柱に固定する構造の場合には、各支柱に対してネジ部材により締め付ける力の差により、センサ部5の基板50に歪ませる力が生じることがあり基板50が破損することがある。本実施の形態では、センサ部5の下面中央をペルチェ素子部6により保持するため基板50の歪みを抑制できる。
【0040】
また本実施の形態に係るセンサモジュール100はセンサ部5の基板50内にヒータ回路を埋設してもよい。これによりペルチェ素子部6のみを設けた構成に比べて水晶振動子を加熱冷却する温度帯域を広くすることができる。例えば圧電振動子の温度を変化させて圧電振動子に被感知物質を吸着脱離させて被感知物質を感知する感知システムとしては、冷却媒体として、液体窒素を用いるCQCMが知られている。このようなCQCMは、実施の形態で示したTQCMとは異なる温度帯域で使用するが、センサモジュール100の使用温度帯域を広げることでセンサモジュール100を、TQCMとCQCMとの間で共用することができる。
【0041】
また本実施の形態に係るセンサモジュール100においては、センサ部5及び支持板10に夫々、ペルチェ素子部6の上面及び下面に対応するキャビティ50a、10aを形成している。そのためセンサ部5とペルチェ素子部6との接続部分、及びペルチェ素子部6と、支持板10との接続部分が常に同じ箇所での接続となる。従って水晶振動子4に対するペルチェ素子部6及びベース部2の位置ずれに起因する感知装置1の加熱冷却性能の誤差を抑制することができる。
【0042】
さらに上述の実施の形態においては、センサ部5とペルチェ素子部6とを接続するにあたって金属ナノ粒子ペースト90を用いている。そのためセンサ部5とペルチェ素子部6と間の熱伝導率が高くなっている。またペルチェ素子部6と支持板10との接続にも金属ナノ粒子ペースト90を用いることで同様にペルチェ素子部6と支持板10と間の熱伝導率を高めることができる。
また本実施の形態に係る感知システムは、ベース部2を冷却部71に接触させて冷却することにより水晶振動子4を冷却することから支持板10とベース部2との間に熱伝導シート8を設け、ベース部2とセンサモジュール100との間の熱伝導率を高めることが好ましい。また冷却部71に代えて感知装置1を加熱する加熱部を設けてもよい。あるいはベース部2を加熱すると共に冷却することもできるように構成してもよい。
【0043】
なお、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。例えば、ペルチェ素子は1つのみ設けられてもよいし、3段以上の多段に設けられていてもよい。また、水晶振動子について検出精度を高めるために反応電極及び参照電極を設けて発振周波数F1、F2が取得できる構成とし、当該発振周波数F1、F2に基づいて検出を行ってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 感知装置
2 ベース部
5 センサ部
6 ペルチェ素子部
10 支持板