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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】位置補正機能を有する顕微分光装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20230317BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
G01N21/27 E
G01N21/65
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019025323
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020134227
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000232689
【氏名又は名称】日本分光株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】▲会▼澤 見斗
(72)【発明者】
【氏名】久保 佳子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 智仁
(72)【発明者】
【氏名】森井 克典
【審査官】古川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/138098(WO,A1)
【文献】特開2004-191846(JP,A)
【文献】特開2014-089321(JP,A)
【文献】国際公開第2017/005909(WO,A1)
【文献】特表2020-505633(JP,A)
【文献】特開2007-292704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/74
G02B 19/00 - G02B 21/00
G02B 21/06 - G02B 21/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に励起光を照射する光源と、励起光を前記試料の所定位置に照射するとともに該試料からの反射光または透過光を集光する対物レンズと、集光した光を検出する分光器と、該分光器からの信号を解析する解析制御手段と、を含み、前記試料の観察画像を利用して分光測定を行う顕微分光装置であって、
前記解析制御手段は、
低倍率の前記対物レンズで焦点のみ異なる複数の低倍率の前記観察画像を採取し、前記複数の低倍率の前記観察画像の合焦領域を合成して全焦点画像を得て、当該全焦点画像に分光測定の対象となる複数のサンプルポイントの情報を付加して記憶する画像記憶部と、
高倍率の前記対物レンズに切り替え、前記全焦点画像において分光測定の対象にする前記サンプルポイントと、高倍率の前記観察画像における前記分光測定の対象にする前記サンプルポイントと、のズレ量を計測し、前記試料の位置補正により芯出しを行い、該高倍率の前記対物レンズにより前記少なくとも1つのサンプルポイントの分光測定を行う制御部と、を含ことを特徴とする顕微分光装置。
【請求項2】
請求項1に記載の顕微分光装置であって、
前記制御部は、前記全焦点画像上の前記サンプルポイントを含むテンプレート画像を設定し、該テンプレート画像を用いて前記高倍率の前記観察画像を走査することにより、前記サンプルポイントのズレ量を計測することを特徴とする顕微分光装置。
【請求項3】
請求項2に記載の顕微分光装置であって、
前記画像記憶部は、前記全焦点画像に対して前記サンプルポイントの高さ位置情報を付加して位置補正画像データを作成し、
前記制御部は、該位置補正画像データに付加された前記高さ位置情報を利用して、前記テンプレート画像を用いた前記高倍率の前記観察画像の走査を実行する
ことを特徴とする顕微分光装置。
【請求項4】
請求項記載の顕微分光装置であって、
前記対物レンズは、前記低倍率対物レンズと前記高倍率対物レンズとを切り替えるレボルバを有し、
前記ズレ量は、前記低倍率対物レンズと前記高倍率対物レンズとの切り替え動作に起因するものであることを特徴とする顕微分光装置。
【請求項5】
請求項記載の顕微分光装置であって、前記ズレ量は、長時間測定による累積誤差に起因するものであることを特徴とする顕微分光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顕微分光装置、特に顕微分光装置の分光測定において試料等の位置ズレに対する位置補正技術の精度向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から試料に含まれる物質を特定するための手段として分光測定が広く知られている。例えば、ラマン分光測定では励起光により試料から発生するラマン散乱光を検出し、励起光とラマン散乱光との振動数の差分(ラマンシフト)に基づいて試料に含まれる物質を特定することができる。
【0003】
通常、ラマン分光測定において測定点が多い場合には、可動ステージの移動による累積誤差や温度変化による熱膨張などの影響で試料と各光学部品等との位置関係に変化が生じてしまうことがある。この対策として、測定条件から当該位置変化を算出するなど何らかのアルゴリズムに基づいた補正を行いながら分光測定を実行することができる。ところが、位置変化に対するパラメータは多種多様に存在し、測定状況や試料の種類によっては所定のアルゴリズムのみでは解決できない場合も少なくない。
【0004】
そこで特許文献1には、分光測定装置を用いた二次元色彩計において基準試料を予め分光測定し、この測定結果を位置補正情報として記憶手段に保存するとともに、試料測定時には位置補正情報に基づいて歪み補正手段により歪み補正された分光画像を得ることができる技術が開示されている。すなわち、特許文献1には試料と光学部品との位置ズレやレンズの収差等による影響を補正した分光画像により、正確な分光強度分布を測定することができる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-15046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のように基準試料による位置補正情報が得られれば試料測定時には歪み補正された分光画像により正確な分光強度分布を得ることができるが、未知試料の測定や異物検査等ではこの技術をそのまま利用することが困難である。さらに、基準試料の測定における分光画像には当然のことながら各領域で焦点のズレが生じており、その結果、位置補正情報が必ずしも正確とは言えず、分光測定をする試料の種類によっては精度の良い測定結果を得ることは困難である。
【0007】
本発明は上記従来技術の課題に鑑みて行われたものであって、その目的は構成部品の変更や長時間測定による試料と光学部品との位置ズレを抑制し、従来よりも精度の良い分光測定が可能な位置補正機能を有する顕微分光装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる顕微分光装置は、
試料に励起光を照射する光源と、励起光を前記試料の所定位置に照射するとともに該試料からの反射光または透過光を集光する対物レンズと、集光した光を検出する分光器と、該分光器からの信号を解析する解析制御手段と、を含み、前記試料の観察画像を利用して分光測定を行う顕微分光装置であって、
前記解析制御手段は、
低倍率の前記対物レンズで焦点のみ異なる複数の低倍率の前記観察画像を採取し、前記複数の低倍率の前記観察画像の合焦領域を合成して全焦点画像を得て、当該全焦点画像に分光測定の対象となる複数のサンプルポイントの情報を付加して記憶する画像記憶部と、
高倍率の前記対物レンズに切り替え、前記全焦点画像において分光測定の対象にする前記サンプルポイントと、高倍率の前記観察画像における前記分光測定の対象にする前記サンプルポイントと、のズレ量を計測し、前記試料の位置補正により芯出しを行い、該高倍率の前記対物レンズにより前記少なくとも1つのサンプルポイントの分光測定を行う制御部と、を含ことを特徴とする。
【0009】
また、前記制御部は、前記全焦点画像上の前記サンプルポイントを含むテンプレート画像を設定し、該テンプレート画像を用いて前記高倍率の前記観察画像を走査することにより、前記サンプルポイントのズレ量を計測することが好ましい。
また、前記画像記憶部は、前記全焦点画像に対して前記サンプルポイントの高さ位置情報を付加して位置補正画像データを作成し、前記制御部は、該位置補正画像データに付加された前記高さ位置情報を利用して、前記テンプレート画像を用いた前記高倍率の前記観察画像の走査を実行することが好ましい
【0010】
また、前記対物レンズは、前記低倍率対物レンズと前記高倍率対物レンズとを切り替えるレボルバを有し、前記ズレ量は、前記低倍率対物レンズと前記高倍率対物レンズとの切り替え動作に起因するものであることが好ましい
【0011】
また、前記ズレ量は、長時間測定による累積誤差に起因するものであることが好ましい
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、観察画像を変換処理して得られた全焦点画像を利用し画像のマッチング動作としてのテンプレートマッチングによる位置補正を行うことで、構成部品の変更や長時間測定による位置ズレの影響を受けることなく従来よりも精度の良い分光測定が可能な位置補正機能を有する顕微分光装置を提供できる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係るラマン顕微分光測定装置の概略構成図を示す。
図2】本実施形態に係るラマン顕微分光測定装置における位置補正機能のフローチャートを示す。
図3】本実施形態に係るラマン顕微分光測定装置における全焦点画像の取得方法の概略図を示す。
図4】本実施形態に係るラマン顕微分光測定装置における位置補正機能の他のフローチャートを示す。
図5】本実施形態に係るラマン顕微分光測定装置における対物レンズの切り替えについての概略図を示す。
図6】本実施形態における対物レンズ切り換え時の芯ズレおよび芯出し補正の概略イメージ図を示す。
図7】本実施形態における全焦点画像を利用した芯出し補正についての概略説明図を示す。
図8】本実施形態における対物レンズの測定位置への移動による位置ドリフトの概略イメージ図を示す。
図9】従来の位置ドリフトの補正におけるテンプレート画像サイズおよび走査範囲の概略図を示す。
図10】本発明の位置ドリフトの補正におけるテンプレート画像サイズおよび走査範囲の概略図を示す。
図11】本実施形態におけるサンプルポイントのフェレ径についての概略説明図を示す。
図12】試料の傾斜および試料における高さ方向の位置情報についての概略イメージ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の顕微分光装置について図面を用いて説明するが、本発明の趣旨を超えない限り何ら以下の例に限定されるものではない。
【0015】
図1に本発明の実施形態に係る顕微分光装置の概略構成図を示す。本実施形態に係る顕微分光装置は、ラマン顕微分光測定装置である。同図に示すラマン顕微分光測定装置10は、励起光を試料20に照射する光源12と、該励起光を試料20方向へ導光するビームスプリッター14と、励起光を試料20の所定位置に照射するとともに試料20からの反射光を集光する集光レンズ機能を有する対物レンズ16と、試料20が載置される可動ステージ18と、集光した試料20からの反射光の中から測定に不要な特定の光を除去するフィルタ22と、該フィルタ22を通過したラマン散乱光を検出する分光器24と、該分光器24に接続された解析制御手段としてのコンピュータ30と、から構成されている。また、コンピュータ30は、顕微測定による観察画像を記憶する画像記憶部32と当該ラマン顕微分光測定装置10を測定動作させる制御部34を有している。
【0016】
はじめにラマン分光測定のおおまかな流れについて説明する。光源12から放射された励起光は、ビームスプリッター14によって試料20方向へ反射され、対物レンズ16を経由して試料20の所定位置へ照射される。試料20に照射された励起光により、励起光の波長とは異なる光(ラマン散乱光)が試料20から散乱する。
【0017】
そして、対物レンズ16によってラマン散乱光が取り込まれ(対物レンズ16は集光レンズとしての役割も果たしている)、その後、ビームスプリッター14を通過したラマン散乱光はフィルタ22を介して分光器24へと進む。本実施形態におけるフィルタ22には、例えばノッチフィルタやエッジフィルタのようなリジェクションフィルタを利用することが出来る。
【0018】
分光器24によって検出されたラマン散乱光はコンピュータ30に取り込まれ、スペクトルデータとして目的に合わせた所定の解析が行われる。本実施形態におけるラマン分光測定は概略以上のような流れで行われる。ここで、実際のラマン分光測定においては例えば可動ステージ18の移動による累積誤差や温度変化による熱膨張の影響を受けて試料20の位置ズレが生じてしまうことが多い。
【0019】
そこで本実施形態に係るラマン顕微分光測定装置10では、このような位置ズレの影響を受けないようにするため、試料において分光測定の対象となるサンプルポイントの位置ズレに対する位置補正機能を有している。以下、本発明の特徴的な機能である位置補正機能について詳しく説明する。
【0020】
位置補正機能
図2には、本実施形態に係るラマン顕微分光測定装置における位置補正機能のフローチャートを示す。なお、図2のフローチャートは、ラマン顕微分光測定装置10によるラマン分光測定前およびラマン分光測定中におけるそれぞれの処理または工程をあらわしている。
【0021】
図2に示すように、はじめに試料20の全焦点画像を取得する(S1)。本明細書における全焦点画像とは、ラマン顕微分光測定装置10で顕微測定した全領域において焦点が定まっている観察画像、または全領域において焦点を定めるための何らかの処理が施された観察画像のことを言う。
【0022】
例えば図3に示すように、焦点の異なる複数の画像を合成することで、ボケの無い鮮明な全焦点画像を取得することが出来る。また、全焦点画像を取得する際に、試料20の高さ情報も同時に取得することが出来る。さらに、本実施形態における全焦点画像は顕微測定と同時に各点をオートフォーカス等することで取得しても良いが、例えば顕微測定した観察画像を図1の画像記憶部32に記憶し、その後に所定の処理を施して全焦点画像に加工することも出来る。
【0023】
そして本実施形態では分光測定の前段階として、試料20において分光測定の対象となるサンプルポイントが測定点としてあらかじめ登録されている。この登録されている測定点をラマン顕微分光測定装置10により分光測定していくことになる。例えば、分光測定の前段階として該分光測定の対象としてのサンプルポイントを前記観察画像により自動検出できるようにし、その結果を測定点として登録しても良い。
【0024】
さらに本実施形態では、フローチャートのS1で取得した全焦点画像を利用してサンプルポイントを自動検出できるようにすることも出来る。また、図4のフローチャートに示すようにあらかじめ何らかの方法でサンプルポイントの測定点の登録を行い、その後にS1および後述するS2~S7までの動作を行うようにしても良い。
【0025】
次に、S2ではラマン顕微分光測定装置10が有する対物レンズ16の切り換え動作を行う。ここでは、例えば自動レボルバを用いて低倍率の対物レンズから高倍率の対物レンズへの切り替えを自動で行うようにする(図1では図示を省略)。本実施形態においてこの低倍率対物レンズから高倍率対物レンズへの切り換え動作は自動レボルバにより自動で行っているが、従来どおり手動で行うようにしても良い。
【0026】
図5には、本実施形態に係るラマン顕微分光測定装置における対物レンズの切り替えについての概略図を示す。図5に示すように、例えば試料の広範囲を測定できる20倍の低倍率対物レンズから、あらかじめ登録されたサンプルポイントが位置する測定点をより詳細に分光測定するために100倍の高倍率対物レンズへの切り替えを行っている。
【0027】
この時、レボルバ(または自動レボルバ)により対物レンズが切り替えられると、少なからず試料20と対物レンズ16との間(または光源12から試料20までの光路)で位置ズレが生じてしまう。そこで本実施形態では、分光測定を行う前にこの位置ズレに対して芯出し補正を行っている(S3)。
【0028】
図6には、本実施形態における対物レンズ切り換え時の芯ズレおよび芯出し補正の概略イメージ図を示す。同図に示すように、20倍の低倍率対物レンズから100倍の高倍率対物レンズに切り替えを行うことで測定登録点に位置ズレが生じているのがわかる。この位置ズレは、分光測定において誤差の原因となってしまう。そこで本実施形態では、S1であらかじめ取得した全焦点画像を利用して芯出し補正を行うことで、良好な位置補正を実現している。
【0029】
具体的には図7に示すように、低倍率対物レンズ(20倍)の観察画像でテンプレート画像範囲の設定を行い、その後に高倍率対物レンズ(100倍)のテンプレート画像のサイズに変換する。そして、テンプレート画像と観察画像とをスキャン動作により画像のマッチング動作をさせることで、ズレ量を計測し、芯出し補正を行っている。このように全焦点画像を利用して画像のマッチング動作としてのテンプレートマッチングにより芯出し補正を行うことで、従来よりも正確な位置補正が実現できる。
【0030】
そしてS3の芯出し補正により正確な位置補正が行われた後に、対物レンズは測定位置へと移動する(S4)。この時にも、実際の分光測定においては位置ズレが生じてしまう。図8には対物レンズの測定位置への移動による位置ドリフトの概略イメージ図を示す。図8に示すように芯出し補正後においても測定点への移動によって実際には登録点に対して位置ドリフトが生じてしまう。特に測定時間が長くなると、温度ドリフトや可動ステージの繰り返し再現性の影響により、数μm程度の位置ズレが生じてしまう。本実施形態のように試料20の微小領域をラマン分光測定する場合にはこの位置ドリフトを無視することができない。
【0031】
そこで本実施形態では、この位置ドリフトに対しても全焦点画像を利用したテンプレートマッチング(画像のマッチング動作)による位置ドリフトの補正を行う(S5)。この場合の位置補正は、通常であれば図9に示すように撮影画像には焦点が定まっていない領域も存在するので、これをカバーするためにある程度広い範囲を走査することでテンプレートマッチングを行う必要がある。しかしながら、このように走査範囲が広いと、正確なテンプレートマッチングができない場合がある。
【0032】
そこで、本実施形態では全焦点画像を利用することで図10に示すように走査範囲を狭めてテンプレートマッチングを実行することができるので、精度の良い位置ドリフトの補正が実現できる。ここで言うテンプレートマッチングとは、例えば全焦点画像とその後の分光測定による画像とを重ね合わせることでサンプルポイントの形状の抽出やサンプルポイントの特定などを行うマッチング技術のことである。本実施形態では全焦点画像を利用したテンプレートマッチングを行っているが、例えば全焦点画像以外の画像でもマッチング動作は可能である。
【0033】
具体的には、図10のテンプレート画像のサイズおよび走査する範囲は、サンプルポイントのフェレ径よりもある程度大きい範囲を個別に設定することができる。例えば、テンプレート画像のサイズ指定としてサンプルポイントのフェレ径+αとし、走査範囲としてサンプルポイントのフェレ径+β(α、βはユーザーが任意に設定)とすることができる。
【0034】
ここで本実施形態におけるフェレ径とは、図11に示すように外接長方形のX軸に平行な辺の長さを水平方向フェレ径とし、外接長方形のY軸に平行な辺の長さを垂直方向フェレ径とし、これらの総称としてフェレ径と呼ぶこととしている。このようにテンプレート画像のサイズと観察画像における走査範囲を制限することで、精度の良い位置補正を実現することが出来る。
【0035】
そしてラマン顕微分光測定装置10は、図2におけるS5で位置ドリフトの補正を行った後に、試料20における測定点(サンプルポイント)について分光測定を行う(S6)。その後、全登録位置の測定が終了しているか否かを判定し(S7)、全登録位置の測定が終了するまでラマン顕微分光測定装置10はS4~S7までの位置補正動作および分光測定を繰り返す。本実施形態では全登録位置での測定が終了すると、ラマン顕微分光測定装置10による分光測定は終了する。
【0036】
このように本実施形態に係るラマン顕微分光測定装置10は、あらかじめ全焦点画像を取得し(S1)、この全焦点画像の特徴を利用して芯出し補正(S3)およびドリフト補正(S5)を行うことで、従来よりも精度の良い位置補正が実現できる。
【0037】
高さ方向(Z方向)の位置情報
ここで、本発明の特徴である全焦点画像を利用した位置補正の他の利点について説明する。図12には試料の傾斜および試料における高さ方向の位置情報についての概略イメージ図を示す。同図に示すように従来方式であれば、図1の可動ステージ18に載置された試料20に傾斜がある場合には撮影画像は高さ方向の位置情報を有していないため(または高さ方向の位置情報が正確ではないため)、それぞれの各測定点についてオートフォーカス等を行う必要があった。
【0038】
しかしながら、本実施形態のように全焦点画像を利用した位置補正においては、最初から試料20の高さ位置情報が得られているか、あるいは全焦点画像に高さ位置情報を付加することができるため、適切な高さ位置を測定点として設定することができる。つまり本実施形態では、それぞれの測定点について分光測定のたびにオートフォーカスを実行する必要がない。
【0039】
本実施形態では、この高さ位置情報が付加された全焦点画像のことを位置補正画像データと呼ぶ。例えば、画像記憶部32において前記全焦点画像に対してサンプルポイントの高さ位置情報を付加して位置補正画像データを作成するようにすることができる。
【0040】
また、位置ドリフトの補正(フローチャートのS5)に対応するためにオートフォーカスを行う必要が生じた場合でも、位置補正画像データに登録された高さ情報を基準に走査すればよいため、試料20の傾斜の影響を受けづらい。すなわち、試料20の傾斜を気にせずに高さ情報による基準点付近の狭い範囲で走査すれば、精度の良い位置ドリフトの補正を実現することができる(仮にオートフォーカスが必要な場合でも、高さ情報による基準点付近の狭い範囲のみ実行すれば良い)。
【0041】
また、本実施形態ではラマン分光測定について説明したが、本発明はラマン分光測定に限られず他の分光測定においても同様の効果を得ることができる。例えば赤外分光測定や紫外可視分光測定に本実施形態と同様の全焦点画像を利用して位置補正を行うことで、従来に比べて精度の良い位置補正を実現することが出来る。
【符号の説明】
【0042】
10 ラマン顕微分光測定装置
12 光源
14 ビームスプリッター
16 対物レンズ(集光レンズ)
18 可動ステージ
20 試料
22 フィルタ
24 分光器
30 コンピュータ
32 画像記憶部
34 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12