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  • 特許-洗浄剤セット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】洗浄剤セット
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/26 20060101AFI20230317BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20230317BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20230317BHJP
   C11D 7/38 20060101ALI20230317BHJP
   C11D 17/06 20060101ALI20230317BHJP
   C02F 1/50 20230101ALI20230317BHJP
【FI】
C11D7/26
A61K8/34
A61Q19/10
C11D7/38
C11D17/06
C02F1/50 510C
C02F1/50 520L
C02F1/50 531Q
C02F1/50 540B
C02F1/50 550H
C02F1/50 560Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019220571
(22)【出願日】2019-12-05
(65)【公開番号】P2021088681
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】592193410
【氏名又は名称】株式会社ヘルスカンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 明
(72)【発明者】
【氏名】松田 宗大
(72)【発明者】
【氏名】松田 尚子
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-303188(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0032063(US,A1)
【文献】国際公開第2019/076800(WO,A1)
【文献】特開2016-216652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D
A61K 8/00
A61Q
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖アルコールとしてエリスリトール又はキシリトールと、過酸化水素発生剤と、を含有する洗浄剤と、
過酸化成分分解剤と、
を有することを特徴とする洗浄剤セット。
【請求項2】
前記糖アルコールが前記エリスリトールであることを特徴とする請求項1に記載の洗浄剤セット。
【請求項3】
前記過酸化水素発生剤が過炭酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄剤セット。
【請求項4】
前記過酸化成分分解剤が無水重亜硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の洗浄剤セット。
【請求項5】
糖アルコールとしてエリスリトール又はキシリトールと、過酸化水素発生剤と、を含有する洗浄剤と、
過酸化成分活性化剤と、
過酸化成分分解剤と、
を有することを特徴とする洗浄剤セット。
【請求項6】
前記糖アルコールが前記エリスリトールであることを特徴とする請求項5に記載の洗浄剤セット。
【請求項7】
前記過酸化水素発生剤が過炭酸ナトリウムであることを特徴とする請求項5又は6に記載の洗浄剤セット。
【請求項8】
前記過酸化成分活性化剤がテトラアセチルエチレンジアミンであることを特徴とする請求項5~7のいずれかに記載の洗浄剤セット。
【請求項9】
前記過酸化成分分解剤が無水重亜硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項5~8のいずれかに記載の洗浄剤セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽の洗浄に関し、特に、循環式浴槽の循環配管を効率良く洗浄することができる洗浄剤、洗浄剤セット、浴用水添加剤、及び、循環浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環式浴槽は、浴用水(温泉、井戸水及び/又は水道水)の使用量を少なくする目的で、浴用水をろ過器などに通して循環させて使用する方式の浴槽であり、公衆浴場、スーパー銭湯及び温泉浴場などで使用されている。循環式浴槽を使用した24時間営業のスーパー銭湯などでは、浴用水の使用量をより少なくするために、浴用水の交換サイクルを1日以上に伸ばして使用する浴槽も存在する。
【0003】
循環式浴槽では、ろ過器などが接続された循環配路に浴用水を循環させて使用するが、循環配路内の消毒や洗浄が十分でないと、循環配路内に「ぬめり」とも称される有機質の生物膜(バイオフィルム)が形成される。
【0004】
バイオフィルムは、浴用水に混入した細菌が繁殖し、細菌が排出した有機質のフィルムであるため、細菌の繁殖の温床となり、レジオネラ属菌(Legionella spp.)などの人体に悪影響を及ぼす細菌が繁殖することがある。
【0005】
このため、従来から、バイオフィルムを除去する洗浄剤が知られ、特許文献1には、バイオフィルムを除去する液状洗浄剤組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-214183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載れた液状洗浄剤組成物は、アルキルアミンオキシド型両性界面活性剤と水溶性含窒素ポリマーの組み合わせにより、バイオフィルム除去性を発揮しているが、バイオフィルム除去性が十分でないという課題があった。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、バイオフィルムを除去することが可能な洗浄剤、洗浄剤セット、浴用水添加剤、及び、循環浄化方法を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の洗浄剤は、糖アルコールを含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の洗浄剤によれば、洗浄水に投入された洗浄剤の糖アルコールが浴槽と循環配管内に生じるバイオフィルムを除去することができる。
【0011】
ここで、上記洗浄剤において、過酸化水素発生剤を含有するものとすることができる。
【0012】
これによれば、過酸化水素発生剤によって発生する過酸化水素がバイオフィルムに接触することによって、バイオフィルムの除去を促進することができる。
【0013】
また、本発明の洗浄剤セットは、上記の洗浄剤と、過酸化成分活性化剤と、を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の洗浄剤セットによれば、過酸化成分活性化剤が過酸化水素発生剤の過酸化水素の発生を活性化させるため、バイオフィルムの除去をより促進することができる。
【0015】
また、本発明の洗浄剤セットは、上記の洗浄剤と、過酸化成分分解剤と、を有することを特徴とする。
【0016】
本発明の洗浄剤セットによれば、過酸化成分分解剤が過酸化水素発生剤を中和し排水できる状態にするため、排水を容易なものとすることができる。
【0017】
また、本発明の浴用水添加剤は、糖アルコールを含有することを特徴とする。
【0018】
本発明の浴用水添加剤によれば、糖アルコールがバイオフィルムの形成を抑制することができる。
【0019】
ここで、上記浴用水添加剤において、アルカリ性化合物を含有するものとすることができる。
【0020】
これによれば、アルカリ性化合物が有機分の分解を促進するため、バイオフィルムの形成をより抑制することができる。
【0021】
また、上記浴用水添加剤において、錠剤に成形されたものであるとすることができる。
【0022】
これによれば、浴用水添加剤の取扱性を高めることができる。
【0023】
また、本発明の循環浄化方法は、上記の浴用水添加剤が添加された浴用水を循環配管内に循環させて、該循環配管内を浄化することを特徴とする。
【0024】
本発明の循環浄化方法によれば、浴用水添加剤が添加された浴用水が循環配管内を循環し、浴用水添加剤に含まれる糖アルコールによって、循環配管内のバイオフィルムの形成を抑制することができる。
【0025】
ここで、上記循環浄化方法において、糖アルコールを前記浴用水に追加するものであるとすることができる。
【0026】
これによれば、浴用水が補充され、浴用水添加剤が薄められた際に、糖アルコールを補充することができる。
【0027】
また、上記循環浄化方法において、前記浴用水の糖アルコールの濃度を1ppm~1,000ppmとするものとすることができる。
【0028】
これによれば、好適にバイオフィルムを除去することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の洗浄剤によれば、洗浄水に投入された洗浄剤の糖アルコールが浴槽と循環配管内に生じるバイオフィルムを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の洗浄剤が使用される循環式浴槽の一例の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、図1に示す循環式浴槽1内、特に循環配管20及びろ過器23内を効率良く洗浄することができる洗浄剤、洗浄剤セット、浴用水添加剤、及び、浴用水Wの循環浄化方法に関する。洗浄剤及び洗浄剤セットは、循環式浴槽1を使用した公衆浴場、スーパー銭湯又は温泉浴場など(以下、公衆浴場等とする。)の営業後の完全換水の際に実施される循環式浴槽1の洗浄に使用される洗浄剤であり、人の入浴を想定していないものである。一方、浴用水添加剤は、人の入浴中に浴用水Wに添加する薬剤でありながらバイオフィルムの形成を抑制するものである。また、浴用水Wの循環浄化方法は、浴用水添加剤が添加された浴用水Wを循環式浴槽1の循環配管20内を循環させることによって、バイオフィルムの形成を抑制するものである。なお、循環式浴槽1は、公衆浴場等のみならず住宅等の浴槽であっても適用することができるものである。
【0032】
洗浄剤は、少なくとも、糖アルコールを含有し、過酸化水発生剤、アルカリ性化合物及び/又はアルコール系溶剤を含有させることができるものである。
【0033】
本願発明者らは、糖アルコールに、有機質の生物膜(バイオフィルム)を除去する効果があることを見出したものである。糖アルコールとして、エリスリトール(erythritol)、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、オリゴ糖アルコールなどを使用することができる。糖アルコールの中でも、エリスリトールが特にバイオフィルムを除去する効果があるため、好んで使用することができる。
【0034】
エリスリトールとは、下記一般式(1)で表される糖アルコールの1種であり、主に甘味料として利用されているものである。
【0035】
【化1】
洗浄剤として糖アルコールを使用する際の洗浄水(残り湯)に対する糖アルコールの濃度は、1ppm~10,000ppmであることが好ましい。バイオフィルムを好適に除去することができるためである。糖アルコールの濃度が1ppm未満だと、バイオフィルムを十分に除去することができないおそれがある。一方、糖アルコールの濃度が10,000ppmを超えると、洗浄水の粘度が上がり循環配管20内のポンプ22に過大な負荷を与えるおそれがある。より好ましくは、洗浄剤として糖アルコールを使用する際の洗浄水に対する糖アルコールの濃度は、50ppm~2,000ppmであり、さらに好ましくは、100ppm~1,000ppmである。
【0036】
過酸化水素発生剤とは、過酸化水素発生能力を有する薬剤である。過酸化水素発生剤によって発生する過酸化水素が、バイオフィルムに接触することによって、バイオフィルムの除去を促進するものである。過酸化水素発生剤として、過酸化水素水、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過酸化尿素を使用することができる。なお、過酸化水素発生剤が液体である場合(例えば、過酸化水素水)には、洗浄剤は、過酸化水素発生剤と、エリスリトール(必要によりアルカリ性化合物及び/又はアルコール系溶剤を加えた混合物)と、に分けたセットとすることができる。
【0037】
洗浄剤として過酸化水素発生剤を使用する際の洗浄水に対する過酸化水素発生剤の濃度は、有効酸素濃度が30ppm~8,000ppmとなる濃度が好ましい。バイオフィルムの除去を好適に促進することができるためである。有効酸素濃度が30ppm未満だと、バイオフィルムの除去の促進が十分でないおそれがある。一方、有効酸素濃度が8,000ppmを超えると、バイオフィルムの除去の促進効果が頭打ちとなり、不経済となるおそれがある。より好ましくは、有効酸素濃度は、50ppm~7,000ppmであり、さらに好ましくは、100ppm~6,000ppmである。過酸化水素発生剤は、過酸化水素発生剤の種類によって有効酸素(wt%)が異なるため、過酸化水素発生剤の種類ごとに、有効酸素濃度が好ましい範囲となるように、過酸化水素発生剤の濃度を定める必要がある。なお、有効酸素(wt%)は、一例として、過酸化水素水(35wt%)が16.5wt%、過酸化水素水(50wt%)が23.5wt%、過酸化水素水(60wt%)が28.2wt%、過炭酸ナトリウムが11~15wt%、過ホウ酸ナトリウムが10.6wt%、である。
【0038】
アルカリ性化合物とは、洗浄剤が添加される洗浄水のpHをアルカリ性にする薬剤である。アルカリ性化合物によって洗浄水のpHをアルカリ性にすることによって、バイオフィルムの除去を容易にするものである。アルカリ性化合物として、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、オルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸ナトリウムなどを使用することができる。
【0039】
洗浄剤としてアルカリ性化合物を使用する際の洗浄水に対するアルカリ性化合物の濃度は、10ppm~10,000ppmであることが好ましい。バイオフィルムの除去を好適に促進することができるためである。アルカリ性化合物の濃度が10ppm未満だと、バイオフィルムの除去の促進が十分でないおそれがある。一方、アルカリ性化合物の濃度が10,000ppmを超えると、アルカリ性化合物の濃度が過剰なものとなり、不経済となるおそれがある。より好ましくは、洗浄剤としてアルカリ性化合物を使用する際の洗浄水に対するアルカリ性化合物の濃度は、50ppm~2,000ppmであり、さらに好ましくは、100ppm~1,000ppmである。
【0040】
アルコール系溶剤とは、浸透剤として作用する添加剤であり、バイオフィルムに洗浄剤成分を浸透させやすくする薬剤である。アルコール系溶剤によってバイオフィルムを膨潤させることによって、洗浄剤成分を浸透させやすくするものである。なお、実施形態において、アルコール系溶剤とは、アルコール系の溶剤に加え、エーテル系の溶剤も含むものである。アルコール系溶剤として、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ノルマルブチルアルコール、ベンジルアルコール、イソアミルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどを使用することができる。
【0041】
洗浄剤としてアルコール系溶剤を使用する際の洗浄水に対するアルコール系溶剤の濃度は、1ppm~200ppmであることが好ましい。バイオフィルムを好適に膨潤させることができるためである。アルコール系溶剤の濃度が1ppm未満だと、バイオフィルムを十分に膨潤させることができないおそれがある。一方、アルコール系溶剤の濃度が200ppmを超えると、バイオフィルムを膨潤させる効果が頭打ちとなり、不経済となるおそれがある。より好ましくは、洗浄剤としてアルコール系溶剤を使用する際の洗浄水に対するアルコール系溶剤の濃度は、3ppm~100ppmであり、さらに好ましくは、5ppm~50ppmである。
【0042】
洗浄剤セットは、少なくとも、下記のA剤と、B剤又はC剤とからなるセットである。また、より洗浄効果を高めるために、A剤、B剤及びC剤のセットとすることができる。
【0043】
A剤:少なくとも糖アルコールと過酸化水素発生剤を含有する洗浄剤
B剤:過酸化成分活性化剤
C剤:過酸化成分分解剤
投入する際の順序は、A剤、必要によりB剤、C剤の順である。
【0044】
B剤の過酸化成分活性化剤とは、洗浄剤セットに用いることにより、A剤に含まれる過酸化水素発生剤の過酸化水素の発生を促進し、洗浄効率を上げることができる薬剤である。過酸化成分活性化剤として、グルコースペンタアセテート、テトラアセチルグリコールウリル、テトラアセチルエチレンジアミン、アセトキシオキシベンゼンスルホン酸塩、アルカノイルオキシベンゼンスルホン酸塩などを使用することができる。
【0045】
洗浄剤セットとしてB剤の過酸化成分活性化剤を使用する際の過酸化水素発生剤に対する過酸化成分活性化剤の質量は、過酸化水素発生剤1に対して、0.01~2.0であることが好ましい。A剤に含まれる過酸化水素発生剤の過酸化水素の発生を促進し、洗浄効率を上げることができるためである。過酸化水素発生剤1に対する、過酸化成分活性化剤の質量が0.01未満だと、過酸化水素発生剤の過酸化水素の発生を促進することができないおそれがある。一方、過酸化水素発生剤1に対する、過酸化成分活性化剤の質量が2.0を超えると、過酸化水素の発生を促進させる効果が頭打ちとなり、不経済となるおそれがある。より好ましくは、洗浄剤として過酸化成分活性化剤を使用する際の過酸化水素発生剤1に対する過酸化成分活性化剤の質量は、0.02~1.5であり、さらに好ましくは、0.02~1.0である。
【0046】
C剤の過酸化水素分解剤とは、洗浄剤セットに用いることにより、A剤に含まれる過酸化水素発生剤を分解及び中和させる薬剤である。洗浄剤セットの最後に洗浄水に添加することにより、洗浄水を排水として流せる濃度まで、過酸化水素発生剤を分解及び中和させるものである。過酸化水素分解剤として、無水重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどを使用することができる。
【0047】
少なくとも糖アルコールと過酸化水素発生剤を含有する洗浄剤(つまり、洗浄剤セットのA剤)は、大量の水で希釈することにより、排水として流すことができるものである。このため、少なくとも糖アルコールと過酸化水素発生剤を含有する洗浄剤は、C剤の過酸化水素分解剤を用いて排水させる場合には、洗浄剤セットのA剤となり、大量の水で希釈して排水させる場合には、単独で使用可能な洗浄剤となる。
【0048】
洗浄剤セットとしてC剤の過酸化水素分解剤を使用する際の過酸化水素発生剤に対する過酸化水素分解剤の質量は、過酸化水素発生剤1に対して、0.2~2.0であることが好ましい。A剤に含まれる過酸化水素発生剤を好適に中和及び分解することができるためである。過酸化水素発生剤1に対する、過酸化水素分解剤の質量が0.2未満だと、過酸化水素発生剤を十分に中和及び分解することができないおそれがある。一方、過酸化水素発生剤1に対する、過酸化水素分解剤の質量が2.0を超えると、過剰な添加量となり、不経済となるおそれがある。より好ましくは、過酸化水素発生剤1に対する、過酸化水素分解剤の質量は、0.4~1.5であり、さらに好ましくは、0.4~1.0である。
【0049】
次に、洗浄剤又は洗浄剤セットを用いた循環式浴槽1の洗浄方法について説明する。図1は、本発明の洗浄剤又は洗浄剤セットが使用される循環式浴槽1の一例の概念図である。
【0050】
循環式浴槽1では、公衆浴場等の営業中、浴用水Wは、浄化機としての循環配管20を循環させることにより清浄が保たれ、完全換水されることなく使用される。浴用水Wは、浴槽10の吸込口12からポンプ22の吸引力によって循環配管20内に引き込まれ、浴用水Wに含まれる髪の毛などの混入物が集毛器21で除去され、注入装置25から消毒剤が混合され、浴用水Wに含まれる微細な汚濁物質がろ過器23でろ過される。その後、浴用水Wは、熱交換器24で適温に加熱され、吐出口13から浴槽10に戻される。
【0051】
洗浄剤又は洗浄剤セットを用いた循環式浴槽1の洗浄は、公衆浴場等の営業後に行われ、洗浄剤の濃度が適当になるまで浴用水Wを排水し、洗浄剤又は洗浄剤セットのA剤を浴用水Wに投入し、洗浄水(洗浄剤又は洗浄剤セットが投入された浴用水W)をポンプ22によって循環配管20内を強制的に循環させる。このとき、糖アルコールが、循環式浴槽1内、特に循環配管20及びろ過器23内に発生したバイオフィルムを除去する。また、過酸化水素発生剤が含まれている場合には、過酸化水素発生剤が、バイオフィルムに接触することによって、バイオフィルムの除去を促進する。
【0052】
洗浄剤を使用した循環式浴槽1の洗浄の場合、洗浄水を循環配管20内に強制的に循環させた後に、洗浄水を排水可能な濃度まで水で希釈し、洗浄水を排水する。
【0053】
洗浄剤セットを使用した循環式浴槽1の洗浄の場合、洗浄剤セットのA剤を洗浄水に投入し、洗浄水をポンプ22によって循環配管20内を強制的に循環させた後、以下に記載するように、必要により、B剤を洗浄水に投入し、洗浄水を循環配管20内に強制的に循環させ、C剤を洗浄水に投入し、洗浄水を循環配管20内に強制的に循環させる。
【0054】
B剤は、洗浄剤セットの洗浄効果をより高めたい場合に使用するものであり、B剤を洗浄水に投入し、洗浄水を循環配管20内に強制的に循環させることにより、A剤に含まれる過酸化水素発生剤を活性化させ、バイオフィルムの除去を促進させる。
【0055】
C剤は、C剤を洗浄水に投入し洗浄水を循環配管20内に強制的に循環させることにより、A剤に含まれる過酸化水素発生剤を分解及び中和させ、洗浄水を排水可能な状態にする。その後、洗浄水を排水する。
【0056】
次に、実施形態の浴用水添加剤と、浴用水Wの循環浄化方法について説明する。
【0057】
実施形態の浴用水添加剤は、人が入浴している浴用水Wに添加して、バイオフィルムの形成を抑制し、入浴者に保湿感などを与えるものである。実施形態の浴用水添加剤は、糖アルコールを含有し、アルカリ性化合物及び/又は無機塩類を含有させることができるものである。また、浴用水添加剤には、必要により、色素、香料、生薬などを含有させることができる。
【0058】
本願発明者らは、糖アルコールを浴用水添加剤に含有させることにより、有機質の生物膜(バイオフィルム)の形成を抑制する効果があることを見出したものである。また、糖アルコールを浴用水添加剤に含有させることにより、入浴者に保湿感を与えることができることを見出したものである。糖アルコールとして、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、オリゴ糖アルコールなどを使用することができる。糖アルコールの中でも、エリスリトールが特にバイオフィルムの形成を抑制する効果があるため、好んで使用することができる。
【0059】
浴用水Wに、浴用水添加剤として糖アルコールを添加する際の濃度は、1ppm~1,000ppmであることが好ましい。バイオフィルムの形成を好適に抑制することができるためである。糖アルコールの濃度が1ppm未満だと、バイオフィルムの形成を十分に抑制することができないおそれがある。一方、糖アルコールの濃度が1,000ppmを超えると、入浴者がべたつき感を感じるおそれがある。より好ましくは、浴用水Wの糖アルコールの濃度は、1ppm~500ppmであり、さらに好ましくは、1ppm~100ppmである。
【0060】
アルカリ性化合物は、入浴者の肌に清浄効果を与えつつ、バイオフィルムの形成のもととなる有機質の生物膜を分解する効果を有し、バイオフィルムの形成を抑制するものである。浴用水添加剤に配合するアルカリ性化合物として、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、オルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸ナトリウムなどを使用することができる。
【0061】
浴用水Wに、浴用水添加剤としてアルカリ性化合物を添加する際の濃度は、1ppm~1,000ppmであることが好ましい。バイオフィルムの形成のもととなる有機質の生物膜を好適に分解することができるためである。アルカリ性化合物の濃度が1ppm未満だと、生物膜を好適に分解することができないおそれがある。一方、アルカリ性化合物の濃度が1,000ppmを超えると、入浴者が肌に刺激を感じるおそれがある。より好ましくは、浴用水Wのアルカリ性化合物の濃度は、1ppm~500ppmであり、さらに好ましくは、1ppm~100ppmである。
【0062】
無機塩類は、入浴者に保温効果を与えるものであり、入浴料基剤として作用するものである。無機塩類として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウムなどを使用することができる。
【0063】
浴用水Wに、浴用水添加剤として無機塩類を添加する際の濃度は、1ppm~1,000ppmであることが好ましい。入浴者に好適に保温効果を与えることができるためである。無機塩類の濃度が1ppm未満だと、入浴者に対する保温効果が不十分となるおそれがある。一方、無機塩類の濃度が1,000ppmを超えると、入浴者が肌に刺激感を感じるおそれがある。より好ましくは、浴用水Wの無機塩類の濃度は、1ppm~500ppmであり、さらに好ましくは、1ppm~100ppmである。
【0064】
浴用水添加剤は、粉末状又は錠剤状に成形されて、市場に流通され、使用されるのが好ましい。取扱性に優れるためである。なお、浴用水添加剤は、水溶液の状態で、市場に流通され、使用されることもできる。
【0065】
浴用水添加剤を用いた浴用水Wの循環浄化方法は、一例として図1に記載する循環式浴槽1を用いて実施することができる。
【0066】
公衆浴場等の営業中、浴用水添加剤が添加された浴用水Wは、浄化機としての循環配管20を循環させることにより清浄が保たれ、完全換水されることなく使用される。浴用水添加剤が添加された浴用水Wは、浴槽10の吸込口12からポンプ22の吸引力によって循環配管20内に引き込まれ、浴用水Wに含まれる髪の毛などの混入物が集毛器21で除去され、消毒剤が注入装置25から混合され、浴用水Wに含まれる微細な汚濁物質がろ過器23でろ過される。その後、浴用水Wは、熱交換器24で適温に加熱され、吐出口13から浴槽10に戻される。循環式浴槽1内、特に、循環配管20及びろ過器23内で、浴用水Wに添加された浴用水添加剤の糖アルコールがバイオフィルムの形成を抑制する。また、浴用水添加剤のアルカリ性化合物がバイオフィルムの形成のもととなる有機質の生物膜を好適に分解する。
【0067】
公衆浴場等の営業中、浴用水添加剤が添加された浴用水Wの糖アルコール成分が消失し、その濃度が低下した際には、浴用水Wに浴用水添加剤又は糖アルコールを投入する。
【実施例
【0068】
以下、本発明を、実施例に基づいてさらに詳細に説明する。各実施例に使用した原材料及び配合量は、以下の通りである。
【0069】
○洗浄剤セット
・A剤
エリスリトール(糖アルコール)・・・・・・・・・・・・・・・3.0質量%
過炭酸ナトリウム(有効酸素14.2%)(過酸化水素発生剤)・・90.0質量%
炭酸ナトリウム(アルカリ性化合物)・・・・・・・・・・・・・6.8質量%
イソプロピルアルコール(アルコール系溶剤)・・・・・・・・・0.2質量%
・B剤
テトラアセチルエチレンジアミン(過酸化成分活性化剤)・・・・100質量%
・C剤
無水重亜硫酸ナトリウム(過酸化水素分解剤)・・・・・・・・・100質量%
○浴用水添加剤
エリスリトール(糖アルコール)・・・・・・・・・・・・・・・2.0質量%
炭酸水素ナトリウム(アルカリ性化合物)・・・・・・・・・・28.0質量%
硫酸ナトリウム(無機塩類)・・・・・・・・・・・・・・・・70.0質量%
これら原材料には、市販品を使用した。
【0070】
(実施例1)
実施例1は、A剤、B剤及びC剤からなる洗浄剤セットを用いて、1週間公衆浴場等として使用した2,000リットルの浴用水Wが入った循環式浴槽1の洗浄を行った。
【0071】
洗浄は、以下の工程で行った。第1工程として、A剤8.8kgを洗浄水に投入し、強制循環を20分間行った。次に、第2工程として、B剤0.2kgを洗浄水に投入し、強制循環を40分間行った。最後に、第3工程として、C剤6.0kgを洗浄水に投入し、強制循環を10分間行い、その後、洗浄水を排水した。
【0072】
実施例1の洗浄を行った後の循環式浴槽1の循環配管20内は、バイオフィルムがほとんど除去されていた。
【0073】
(実施例2)
実施例2は、A剤及びB剤からなる洗浄剤セットを用いて、1週間公衆浴場等として使用した2,000リットルの浴用水Wが入った循環式浴槽1の洗浄を行った。
【0074】
洗浄は、以下の工程で行った。第1工程として、A剤8.8kgを洗浄水に投入し、強制循環を20分間行った。最後に、第2工程として、B剤0.2kgを洗浄水に投入し、強制循環を40分間行った。
【0075】
実施例2の洗浄を行った後の循環式浴槽1の循環配管20内は、バイオフィルムがほとんど除去されていた。なお、洗浄後の洗浄水は、過酸化水素発生剤の濃度が高いため、水で希釈した後に排水処理を行った。
【0076】
(実施例3)
実施例3は、A剤及びC剤からなる洗浄剤セットを用いて、1週間公衆浴場等として使用した2,000リットルの浴用水Wが入った循環式浴槽1の洗浄を行った。
【0077】
洗浄は、以下の工程で行った。第1工程として、A剤8.8kgを洗浄水に投入し、強制循環を1時間行った。最後に、第2工程として、C剤6.0kgを洗浄水に投入し、強制循環を10分間行い、その後、洗浄水を排水した。
【0078】
実施例3の洗浄を行った後の循環式浴槽1の循環配管20内は、バイオフィルムがほとんど除去されていたが、洗浄水の流れの悪い循環配管20内の屈曲部には、僅かであるがバイオフィルムが残っていた。
【0079】
(実施例4)
実施例4は、A剤のみからなる洗浄剤を用いて、1週間公衆浴場等として使用した2,000リットルの浴用水Wが入った循環式浴槽1の洗浄を行った。洗浄は、A剤8.8kgを洗浄水に投入し、強制循環を1時間行った。
【0080】
実施例4の洗浄を行った後の循環式浴槽1の循環配管20内は、バイオフィルムがほとんど除去されていたが、洗浄水の流れの悪い循環配管20内の屈曲部には、僅かであるがバイオフィルムが残っていた。なお、洗浄後の洗浄水は、過酸化水素発生剤の濃度が高いため、水で希釈した後に排水処理を行った。
【0081】
(比較例1)
比較例1は、A剤からエリスリトールを除いた洗浄剤のみを用いて、1週間公衆浴場等として使用した2,000リットルの浴用水Wが入った循環式浴槽1の洗浄を行った。洗浄は、A剤8.536kgを洗浄水に投入し、強制循環を1時間行った。
【0082】
比較例1の洗浄を行った後の循環式浴槽1の循環配管20内は、ほぼ全面に亘りバイオフィルムに薄く覆われていた。
【0083】
(比較例2)
比較例2は、1週間公衆浴場等として使用した2,000リットルの浴用水Wが入った循環式浴槽1について、洗浄として、浴用水Wの強制循環を1時間行った。
【0084】
比較例1の洗浄を行った後の循環式浴槽1の循環配管20内は、ほぼ全面に亘りバイオフィルムに覆われていた。
【0085】
(実施例5)
実施例5は、2,000リットルの浴用水Wが入る循環式浴槽1に、新しい浴用水Wを2,000リットル入れ、浴用水添加剤を0.2kg添加して、公衆浴場等として1週間営業した。営業中に掛け湯などで消失した浴用水Wは、適宜、補給口11から補充した。
【0086】
1週間の営業の後、浴用水Wを排水し、循環式浴槽1の循環配管20内を確認したところ、内面積のほぼ半分程度に亘りバイオフィルムに覆われていた。公衆浴場等としての営業中に適宜補充した浴用水Wによって、浴用水添加剤が薄められ、バイオフィルム形成抑制効果が半減したものと推測される。しかし、後述する比較例3又は4よりは、明らかにバイオフィルムの形成量は少ないものであった。
【0087】
(実施例6)
実施例6は、2,000リットルの浴用水Wが入る循環式浴槽1に、新しい浴用水Wを2,000リットル入れ、浴用水添加剤を0.2kg添加して、公衆浴場等として1週間営業した。営業中に掛け湯などで消失した浴用水Wは、浴用水添加剤と共に適宜補充した。
【0088】
1週間の営業の後、浴用水Wを排水し、循環式浴槽1の循環配管20内を確認したところ、循環式浴槽1の循環配管20内にはバイオフィルムの形成はほとんど確認できなかった。営業中に適宜補充した浴用水Wによって、浴用水添加剤が薄められたものの、浴用水添加剤が適宜補充されたため、バイオフィルム形成抑制効果が維持されたものと推測される。
【0089】
(比較例3)
比較例3は、2,000リットルの浴用水Wが入る循環式浴槽1に、新しい浴用水Wを2,000リットル入れ、浴用水添加剤からエリスリトールを除いた添加剤を0.196kg添加して、公衆浴場等として1週間営業した。営業中に掛け湯などで消失した浴用水Wは、浴用水添加剤からエリスリトールを除いた添加剤と共に適宜補充した。
【0090】
1週間の営業の後、浴用水Wを排水し、循環式浴槽1の循環配管20内を確認したところ、ほぼ全面に亘りバイオフィルムに覆われていた。
【0091】
(比較例4)
比較例4は、2,000リットルの浴用水Wが入る循環式浴槽1に、新しい浴用水Wを2,000リットル入れ、公衆浴場等として1週間営業した。営業中に掛け湯などで消失した浴用水Wは、適宜、補給口11から補充した。
【0092】
1週間の営業の後、浴用水Wを排水し、循環式浴槽1の循環配管20内を確認したところ、ほぼ全面に亘りバイオフィルムに覆われていた。
【符号の説明】
【0093】
1…循環式浴槽、10…浴槽、11…補給口、12…吸込口、13…吐出口、20…循環配管、21…集毛器、22…ポンプ、23…ろ過器、24…熱交換器、25…注入装置、W…浴用水。
図1