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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】銘木調圧密材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20230317BHJP
   B27D 3/00 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
B27K5/00 F
B27D3/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019532665
(86)(22)【出願日】2018-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2018027818
(87)【国際公開番号】W WO2019022111
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2017144451
(32)【優先日】2017-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515223075
【氏名又は名称】株式会社パームホルツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000615
【氏名又は名称】弁理士法人Vesta国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福山 昌男
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-267309(JP,A)
【文献】特開2000-176910(JP,A)
【文献】特開昭60-63105(JP,A)
【文献】特開2011-20400(JP,A)
【文献】特開2012-998(JP,A)
【文献】特開2000-263515(JP,A)
【文献】特開2009-269273(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0180987(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 - 9/00
B27D 1/00 - 3/04
B27M 1/00 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧密固定化されたチーク材であって
表色系(L***)におけるウォールナット材との色差(ΔE*ab)の値が5以下であり、
圧密固定化後の気乾密度の値が0.8~1.5(g/cm3)の範囲内にあることを特徴とする銘木調圧密材。
【請求項2】
圧密固定化されたユーカリ材であって、
表色系(L***)における黒檀材との色差(ΔE*ab)の値が5以下であり、
圧密固定化後の気乾密度の値が0.8~1.5(g/cm3)の範囲内にあることを特徴とする銘木調圧密材。
【請求項3】
圧密固定化されたマホガニー材であって、
表色系(L***)における紫檀材との色差(ΔE*ab)の値が5以下であり、
圧密固定化後の気乾密度の値が0.8~1.5(g/cm3)の範囲内にあることを特徴とする銘木調圧密材。
【請求項4】
JIS Z 2101:2009(木材の試験方法)に規定する「ブリネル硬さ試験」に準拠し、試験片の表面への圧入深さが1/π(mm)になるときの荷重をP(N)としたときに、下記の式(1)、
H=P/10 ・・・(1)
で示される、表面の硬さHの値が、25(N/mm2)以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の銘木調圧密材。
【請求項5】
JIS Z 2101:2009(木材の試験方法)に規定する「摩耗試験」に準拠し、試験片の測定前の質量をm1(mg)、試験片の試験後の質量をm2(mg)、試験機の摩耗輪による摩耗を受ける部分の面積をA(mm2)、試験片の密度をρ(g/cm3)としたときに、下記の式(2)、
D=(m1-m2)/A・ρ ・・・(2)
で示される、摩耗深さDの値が、0.12(mm)以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載の銘木調圧密材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載の銘木調圧密材を製造する方法であって、
互いに対向する熱盤を有する密閉可能な金型を用いて前記チーク材、ユーカリ材、またはマホガニー材を高圧水蒸気含有雰囲気下で150℃~210℃の温度範囲内、及び、5~70kg/cm 2 の圧力範囲内で10分~120分間加熱処理及び圧縮処理することにより、前記チーク材、ユーカリ材、またはマホガニー材を圧密固定化することを特徴とする銘木調圧密材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種銘木に匹敵する表面品位や、黒檀や紫檀などに匹敵する重量感をも備えた銘木調圧密材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材は地球上で枯渇が懸念される資源の一つである。また、木材を生み出す森林は、二酸化炭素の吸収源として、また生物多様性を支える要として、地球環境保護を考える上で欠かせない存在でありながら、急激な減少が危惧されている。
【0003】
木材の中でも、表面品位に優れた木材は銘木とも呼ばれ、特に、希少価値のあるものとして珍重されている。これらの銘木の中でも黒檀や紫檀などは、重硬で緻密な材質であり古くから銘木として珍重されてきたが、資源の枯渇が特に懸念されている。また、黒檀や紫檀などは、高級な家具や建具に使用される市場価値の高い銘木であり、これらに匹敵する表面品位と重量感とを備えた他の木材が求められている。
【0004】
そこで、比較的資源が豊富で入手可能な汎用木材を染色して、高付加価値の木材に似せようとする試みがなされてきた。しかし、染料を使用した染色では、銘木の自然の色調と表面品位を再現することはできない。そこで、例えば、下記特許文献1においては、木材を高圧蒸気処理することにより、木材の組成成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンを成分変質させて全体を茶褐色に着色させる木材の処理方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-155909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1の木材の処理方法は、あくまでも木材の色調を茶褐色にして木目を引き立たせるなどの方法であり、銘木の優れた表面品位を得られるものではなく、更に銘木といわれる黒檀や紫檀などに匹敵する表面品位や重量感に優れた木材が得られるものではない。また、得られた処理木材は、銘木に匹敵する優れた物性を備えるものではない。
【0007】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処して、比較的資源が豊富で入手可能な汎用木材を加工することにより、銘木といわれる木材に匹敵する表面品位を備え、黒檀や紫檀などの場合には表面品位に加え重量感をも備えると共に、物性に優れ高級な家具や建具に使用できる市場価値の高い銘木調圧密材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決にあたり、本発明者は、鋭意研究の結果、目標とする銘木に加工可能な特定の木材を圧密固定化することにより、上記課題を解決できることを見出し本発明の完成に至った。
【0009】
即ち、本発明に係る銘木調圧密材は
圧密固定化された汎用木材であって、目標とする銘木の表面品位を備え、
表色系(L***)における前記銘木との色差(ΔE*ab)の値が5以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は
目標とする銘木の表面品位に加え、当該銘木と同程度の重量感を備え、
圧密固定化後の気乾密度の値が0.8~1.5(g/cm3)の範囲内にあることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は
前記汎用木材がチーク材であって、前記目標とする銘木がウォールナット材であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は
前記汎用木材がユーカリ材であって、前記目標とする銘木が黒檀材であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は
前記汎用木材がマホガニー材であって、前記目標とする銘木が紫檀材であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は
JIS Z 2101:2009(木材の試験方法)に規定する「ブリネル硬さ試験」に準拠し、試験片の表面への圧入深さが1/π(mm)になるときの荷重をP(N)としたときに、下記の式(1)、
H=P/10 ・・・(1)
で示される、表面の硬さHの値が、25(N/mm2)以上であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、
JIS Z 2101:2009(木材の試験方法)に規定する「摩耗試験」に準拠し、試験片の測定前の質量をm1(mg)、試験片の試験後の質量をm2(mg)、試験機の摩耗輪による摩耗を受ける部分の面積をA(mm2)、試験片の密度をρ(g/cm3)としたときに、下記の式(2)、
D=(m1-m2)/A・ρ ・・・(2)
で示される、摩耗深さDの値が、0.12(mm)以下であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る銘木調圧密材の製造方法は、
互いに対向する熱盤を有する密閉可能な金型を用いて前記汎用木材を高圧水蒸気含有雰囲気下で加熱処理及び圧縮処理することにより、当該汎用木材を圧密固定化することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る銘木調圧密材の製造方法において、
前記加熱処理及び圧縮処理は、150℃~210℃の温度範囲内、及び、5~70kg/cm2の圧力範囲内で10分~120分間行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
上記構成によれば、本発明に係る銘木調圧密材は、汎用木材を圧密固定化することにより、目標とする銘木の表面品位を備えるようになる。その表面品位に関しては、表色系(L)における銘木との色差(ΔEab)の値が5以下となることにより達成される。また、上記構成によれば、本発明に係る銘木調圧密材は、汎用木材を圧密固定化することにより、目標とする銘木の重量感を備えるようになる。その重量感に関しては、圧密固定化後の気乾密度の値が0.8~1.5(g/cm)の範囲内となることにより達成される。
【0019】
また、上記構成によれば、汎用木材としてチーク材を使用して、目標とする銘木がウォールナット材である銘木調圧密材を得るようにしてもよい。また、汎用木材としてユーカリ材を使用して、目標とする銘木が黒檀材である銘木調圧密材を得るようにしてもよい。また、汎用木材としてマホガニー材を使用して、目標とする銘木が紫檀材である銘木調圧密材を得るようにしてもよい。
【0020】
また、上記構成によれば、本発明に係る銘木調圧密材は、JIS Z 2101:2009(木材の試験方法)に規定する「ブリネル硬さ試験」に準拠し、試験片の表面への圧入深さが1/π(mm)になるときの荷重をP(N)としたときに、上記の式(1)で示される、表面の硬さHの値が、25(N/mm)以上であるようにしてもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0021】
また、上記構成によれば、本発明に係る銘木調圧密材は、JIS Z 2101:2009(木材の試験方法)に規定する「摩耗試験」に準拠し、試験片の測定前の質量をm1(mg)、試験片の試験後の質量をm2(mg)、試験機の摩耗輪による摩耗を受ける部分の面積をA(mm)、試験片の密度をρ(g/cm)としたときに、上記の式(2)で示される、摩耗深さDの値が、0.12(mm)以下であるようにしてもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0022】
また、上記構成によれば、本発明に係る銘木調圧密材の製造方法は、互いに対向する熱盤を有する密閉可能な金型を用いて汎用木材を高圧水蒸気含有雰囲気下で加熱処理及び圧縮処理する。このことにより、処理された汎用木材が圧密固定化されるので、物性に優れることとなり、高級な家具や建具に使用できる。
【0023】
また、上記構成によれば、加熱処理及び圧縮処理は、150℃~210℃の温度範囲内、及び、5~70kg/cmの圧力範囲内で10分~120分間行うようにしてもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0024】
これらのことにより、比較的資源が豊富で入手可能な汎用木材を加工することにより、銘木といわれる木材に匹敵する表面品位を備え、黒檀や紫檀などの場合には表面品位に加え重量感をも備えると共に、物性に優れ高級な家具や建具に使用できる市場価値の高い銘木調圧密材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の圧密固定化に使用する圧密固定化装置の概要を示す断面図である。
図2図1の圧密固定化装置を使用して銘木調圧密材を製造する工程の概要を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
銘木と呼ばれる木材は、杢調などの表面変化や重厚な色調で優れた表面品位を有している。また、黒檀や紫檀などの場合には気乾密度(含水率15質量%の気乾状態における密度)も高く、重量感と優れた物性を有している。例えば、黒檀や紫檀などは、重厚な色調を備え高密度で優れた物性を備えている。各文献値によれば、黒檀の気乾密度の値は0.8~1.3g/cm程度の範囲内にあり、紫檀の気乾密度の値は0.9~1.1g/cm程度の範囲内にある。
【0027】
一方、比較的資源が豊富で入手可能な汎用木材の気乾密度の値は、黒檀や紫檀などに比べれば低い値である。例えば、スギ(0.38g/cm)、ヒノキ(0.41g/cm)、カラマツ(0.53g/cm)、キリ(0.29g/cm)、クリ(0.60g/cm)、ナラ(0.68g/cm)、チーク(0.60g/cm)、ユーカリ(0.70g/cm)、マホガニー(0.48g/cm)、チェリー(0.63g/cm)、クリ(0.60g/cm)、クワ(0.62g/cm)、イチイ(0.48g/cm)、カエデ(0.69g/cm)、ケヤキ(0.70g/cm)などである。
【0028】
本発明者は、これまで、木材の圧密固定化及び木材の塑性加工について検討し、汎用木材を圧密固定化することにより優れた物性を持つ圧密材を得ることができた。その過程において、気乾密度の値が高くなると共に木材の色調が茶褐色に変色することを確認した。また、圧密固定化する木材の種類と圧密固定化の程度により、色調の変化に差異があることも確認した。
【0029】
そこで、本発明において、特定の木材を圧密固定化することにより、目標とする銘木に匹敵する重量感や表面品位を備えると共に物性に優れる銘木調圧密材を得ることとした。なお、黒檀や紫檀などに匹敵する重量感を得るには、圧密固定化後の気乾密度の値が0.8~1.5g/cmの範囲内にあることが必要である。気乾密度の値が0.8~1.5g/cmの範囲内にあれば、使用した汎用木材の物性値が飛躍的に向上する。なお、本発明の圧密固定化に使用する装置及び方法については後述する。
【0030】
また、銘木に近い表面品位を得るためには、銘木調圧密材の色の三属性(色相・明度・彩度)を目標とする銘木に近づけることが必要である。そこで、本発明においては、目標とする銘木に対して、選定した汎用木材を圧密固定化することにより、表色系(L)における目標とする銘木との色差(ΔEab)の値が5以下であることが必要である。
【0031】
ここで、表色系(L)とは、国際照明委員会(CIE)で規格化され、我が国においてもJIS Z8729で採用されている表色系であって、物体の色を表すのに適している。また、この表色系(L)における色差(ΔEab)とは、対象とする2つの物体の色の違いを数値で表すものであって、下記の式であらわされる。
【0032】
ΔEab=〔(ΔL+(Δa+(Δb1/2
この色差(ΔEab)の値が大きいほど、比較する2つの物体の色が大きく異なることを意味する。木材の表面品位においては、色差(ΔEab)の値が5以下であることにより、かなり類似した印象を与えることができる。
【0033】
以下、本発明に係る銘木調圧密材の実施例として、ユーカリ材、マホガニー材及びチーク材を汎用木材として、黒檀、紫檀及びウォールナットを目標とする銘木調圧密材の作製について説明する。なお、本発明は、下記に示す各実施例及び各木材の組み合わせにのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
本実施例1は、ユーカリ材の単板を汎用木材として使用し、黒檀を目標とする銘木調圧密材の作製に関するものである。使用したユーカリ材(レモンユーカリ)の圧密固定化前の気乾密度の値は、0.70g/cmであった。
【0035】
本実施例1においては、上述の木材の圧密固定化方法(特許第4787432号)及び塑性加工木材(特許第5138080号)で使用した圧密化装置MCを使用した。まず、圧密固定化する試料として、ユーカリ材の単板W1を準備した。
【0036】
この単板W1を加温し、この加温された単板W1に対して、各圧密化方向から所定の圧縮力を加えて圧縮する。更に、この圧縮力を維持した状態で、更に昇温して所定温度下で所定時間維持した後、温度を降下させて冷却し圧密化による圧密固定化を完了する。なお、本発明においていう「圧密固定化」とは、圧密化した単板W1(圧密固定化後は、銘木調圧密材X1という)が固定化され元の形状を回復しない状態をいう。
【0037】
圧密固定化条件としては、例えば、所定温度とは、150~210℃の温度範囲内であり、好ましくは、170~200℃の温度範囲内である。また、この温度範囲を維持する時間は、圧密化する対象により適宜選定するものであるが、例えば、10分~120分の範囲内であり、好ましくは、20分~60分の範囲内である。一方、圧密化方向から加える圧縮力は、圧密化する対象により適宜選定するものであるが、例えば、5~70kg/cmの範囲内であることが好ましい。
【0038】
ここで、本発明において使用する圧密化装置MCについて説明する。図1は、圧密化装置MCの概要を示す断面図である。図1において、圧密化装置MCは、上下に2分割されるプレス盤10(上プレス盤10A及び下プレス盤10B)から構成される。このプレス盤10が、圧密固定化のための密閉可能な金型に対応する。
【0039】
上プレス盤10Aと下プレス盤10Bとは、上下に分割されることにより、内部空間IS及び位置決め孔18を形成する。位置決め孔18は、加圧前の成形材料の位置を定め規制するものであって、その周縁部10bを上プレス盤10Aの周縁部10aに対向するようにして下プレス盤10Bに形成されている。上プレス盤10Aの周縁部10aには、プレス盤10の上下動の範囲で内部空間IS及び位置決め孔18を密閉状態とするためのシール部材11が形成されている。
【0040】
また、上プレス盤10Aには、その上面側から内部空間IS内に連通され、内部空間IS及び位置決め孔18内に蒸気を供給するための配管口12aを有する配管12が設けられている。この配管12には、その下流側にバルブV4が設けられている。一方、下プレス盤10Bには、その側面側から内部空間IS及び位置決め孔18内に連通され、内部空間IS内から水蒸気を排出するための配管口13aを有する配管13が設けられている。この配管13には、その内部の蒸気圧を検出する圧力計P2と、その下流側のバルブV5と、バルブV5に接続されたドレン配管14が設けられている。
【0041】
また、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bには、その内部に高温の水蒸気を通すことにより所定の温度に昇温するための配管路15、16が形成されており、これら配管路15、16には蒸気供給側の配管ST1から分岐された配管ST2、ST3、蒸気排出側の配管ET1、ET2がそれぞれ接続されている。これらの蒸気供給側の配管ST1,ST2、ST3の途中にはバルブV1、V2、V3、配管ST1内の蒸気圧を検出する圧力計P1が配設されており、蒸気排出側の配管ET1、ET2は、バルブV6を介してドレン配管14に接続されている。
【0042】
図1においては、配管ST1に水蒸気を供給するボイラ装置、また、プレス盤10の固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを上昇/下降させ加圧するための油圧機構を含むプレス昇降装置は省略する。
【0043】
更に、上プレス盤10A及び下プレス盤10B内に形成された配管路15、16に水蒸気に換えて低温の冷却水を通すことによって所望の温度に冷却する冷却水供給側の配管ST11から分岐された配管ST12、ST13が、上記配管ST2、ST3にそれぞれ接続されている。また、冷却水供給側の配管ST11、ST12、ST13の途中にはバルブV11、V12、V13が配設されている。なお、図1においては、配管ST11に冷却水を供給する冷却水供給装置は省略する。
【0044】
次に、このように構成された圧密化装置MCを用いて、単板W1から銘木調圧密材X1を製造する製造工程について図2の各工程に沿って説明する。まず、図2(a)において、圧密化装置MCにおける固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aが上昇し、予め所定の条件に配置した単板W1を、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで形成される内部空間IS及び位置決め孔18内に載置する。
【0045】
次に、図2(b)において、固定側の下プレス盤10Bの位置決め孔18上に載置した単板W1に対して上プレス盤10Aを下降させて単板W1の上面に対して垂直方向に当接させる。この状態において、上プレス盤10Aの配管路15及び下プレス盤10Bの配管路16に所定温度(例えば、110℃~180℃)の水蒸気を通して、内部空間IS及び位置決め孔18内を所定温度(例えば、110℃~180℃)に昇温する。この状態においては、内部空間IS及び位置決め孔18で構成される空間は、未だ密閉されていない。
【0046】
次に、固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aの圧縮力を所定圧力(例えば、5~70kg/cm)に設定し、単板W1を上プレス盤10A及び下プレス盤10Bにて所定時間(例えば、5分~40分)加熱圧縮する。なお、このときの圧縮力は、割れを防止するために、単板W1の温度上昇、即ち、単板W1の熱伝導(内部の温度上昇)の状態に応じて徐々に昇温することが望ましく、加熱圧縮の時間も熱伝導に要する時間を考慮して設定することが好ましい。この状態においては、内部空間IS及び位置決め孔18で構成される空間は、未だ密閉されていない。
【0047】
次に、図2(c)において、上プレス盤10Aの周縁部10aが下プレス盤10Bの周縁部10bに当接すると上プレス盤10Aの周縁部10aに配設されたシール部材11によって、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bにて形成される内部空間IS及び位置決め孔18が密閉状態となる。この状態において、内部空間IS及び位置決め孔18の密閉状態が維持されると共に、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによる圧縮力が維持された状態で、所定温度(例えば、150~210℃)まで昇温する。
【0048】
この状態において、図2(c)に示す内部空間IS及び位置決め孔18の密閉状態で、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bの圧縮力が維持され、且つ、内部空間IS及び位置決め孔18が所定温度(例えば、150~210℃)に維持されたまま、所定時間(例えば、30分~120分)保持され、この後の冷却圧縮を解除したときに、戻り(膨張)のない銘木調圧密材X1を形成するための加熱処理が行われる。このとき、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで密閉状態とされている内部空間IS及び位置決め孔18を介して、単板W1の周囲面とその内部とでは高温高圧の蒸気圧が出入り自在となっている。
【0049】
次に、図2(d)において、内部空間IS及び位置決め孔18の密閉状態で加熱圧縮処理が行われているときに、蒸気圧制御処理として圧力計P2で内部空間IS及び位置決め孔18の蒸気圧が検出され、バルブV5が適宜、開閉される。これにより、配管口13a、配管13を通って内部空間IS及び位置決め孔18からドレン配管14側に高温高圧の水蒸気が排出されることで、特に、単板W1の外層部分の含水率に基づく余分な内部空間IS及び位置決め孔18内の水分が除去され、内部空間IS及び位置決め孔18内が所定の蒸気圧となるように調節される。
【0050】
また、必要に応じて、バルブV4に接続された配管12、配管口12a(図2)を介して内部空間ISに所定の蒸気圧を供給することができる。これらにより、加熱圧縮処理の定着、所謂、固定化がより促進されることとなる。
【0051】
更に、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによる加熱圧縮から冷却圧縮へと移行する直前に、蒸気圧制御処理としてバルブV5が開状態とされることで配管口13a、配管13を通って内部空間IS及び位置決め孔18からドレン配管14側に高温高圧の水蒸気が排出される。
【0052】
次に、図2(e)において、上プレス盤10Aの配管路15及び下プレス盤10Bの配管路16に常温の冷却水が通されることによって、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが常温前後まで冷却され、材料によって異なる所定時間(例えば、10分~120分)保持される。なお、このときの固定側の下プレス盤10Bに対する上プレス盤10Aの圧縮力は、加熱圧縮の際の圧力と同じ所定圧力(例えば、5~70kg/cm)に保持されたまま、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが冷却される。
【0053】
最後に、図2(f)において、固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを上昇させ、内部空間IS及び位置決め孔18から仕上がり品である銘木調圧密材X1が取出されることで一連の処理工程が終了する。
【0054】
このようにして得られた銘木調圧密材X1及び未処理のユーカリ単板W1の表面を平滑化するために研磨処理を行った。次に、目標とする黒檀サンプル、銘木調圧密材X1及びユーカリ単板W1の表面を測色した。測色には、積分球を備えた紫外可視分光光度計V-550(株式会社日本分光)を使用した。測色した黒檀サンプル、銘木調圧密材X1及びユーカリ単板W1のL値、a値、b値の各値を表1に示す。また、これらの値から黒檀サンプルと銘木調圧密材X1、黒檀サンプルとユーカリ単板W1の各色差(ΔEab)を計算した。計算して求めた各色差(ΔEab)の値を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1において、黒檀サンプルと銘木調圧密材X1との色差(ΔEab)は5以下であって、目標とする黒檀に近い色調と表面品位を示していた。これに対して、黒檀サンプルとユーカリ単板W1の各色差(ΔEab)は20以上あり、目標とする黒檀とは色調が大きく異なるものであった。
【0057】
次に、銘木調圧密材X1及び未処理のユーカリ単板W1の気乾密度を測定した。圧密固定化前のユーカリ単板W1の気乾密度の値が0.70g/cmであったことに対して、銘木調圧密材X1の気乾密度の値は1.36g/cmであった。
【0058】
次に、銘木調圧密材X1の物性を評価した。物性の評価は、表面の硬さ(H)及び摩耗深さ(D)の値で確認した。まず、表面の硬さ(H)の評価は、JIS Z 2101:2009(木材の試験方法)に規定する「ブリネル硬さ試験」に準拠した方法で行った。通常の木材、例えば、広葉樹(ナラ等)の表面の硬さは、H=15N/mmである。これに対して、銘木調圧密材X1の表面の硬さは、H=25N/mm以上であって良好な物性を示した。
【0059】
一方、摩耗深さ(D)の評価は、JIS Z 2101:2009(木材の試験方法)に規定する「摩耗試験」に準拠した方法で行った。通常の木材、例えば、広葉樹(ナラ等)の摩耗深さは、D=0.14mm程度である。これに対して、銘木調圧密材X1の摩耗深さは、D=0.12mm以下であって良好な物性を示した。
【実施例2】
【0060】
本実施例2は、マホガニー材の単板W2を汎用木材として使用し、紫檀を目標とする銘木調圧密材X2の作製に関するものである。使用したマホガニー材の圧密固定化前の気乾密度の値は、0.48g/cmであった。なお、本実施例2においては、上記実施例1と同様の圧密化装置MCを使用し、圧密固定化の条件も上記実施例1と同様にして行ったので、ここでは省略する。
【0061】
得られた銘木調圧密材X2及び未処理のマホガニー単板W2の表面を平滑化するために研磨処理を行った。次に、目標とする紫檀サンプル、銘木調圧密材X2及びマホガニー単板W2の表面を測色した。測色には、上記実施例1と同様の積分球を備えた紫外可視分光光度計V-550(株式会社日本分光)を使用した。測色した紫檀サンプル、銘木調圧密材X2及びマホガニー単板W2のL値、a値、b値の各値を表2に示す。また、これらの値から紫檀サンプルと銘木調圧密材X2、紫檀サンプルとマホガニー単板W2の各色差(ΔEab)を計算した。計算して求めた各色差(ΔEab)の値を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2において、紫檀サンプルと銘木調圧密材X2との色差(ΔEab)は5以下であって、目標とする紫檀に近い色調と表面品位を示していた。これに対して、紫檀サンプルとマホガニー単板W2の各色差(ΔEab)は20以上あり、目標とする紫檀とは色調が大きく異なるものであった。
【0064】
次に、銘木調圧密材X2及び未処理のマホガニー単板W2の気乾密度を測定した。圧密固定化前のマホガニー単板W2の気乾密度の値が0.48g/cmであったことに対して、銘木調圧密材X2の気乾密度の値は1.18g/cmであった。
【0065】
次に、銘木調圧密材X2の物性を評価した。物性の評価は、上記実施例1と同様に表面の硬さ(H)及び摩耗深さ(D)の値で確認した。その結果、銘木調圧密材X2の表面の硬さは、H=25N/mm以上であって良好な物性を示した。また、銘木調圧密材X2の摩耗深さは、D=0.12mm以下であって良好な物性を示した。
【実施例3】
【0066】
本実施例3は、チーク材の単板W3を汎用木材として使用し、ウォールナットを目標とする銘木調圧密材X3の作製に関するものである。使用したチーク材の圧密固定化前の気乾密度の値は、0.60g/cmであった。なお、本実施例3においては、上記実施例1と同様の圧密化装置MCを使用し、圧密固定化の条件も上記実施例1と同様にして行ったので、ここでは省略する。
【0067】
得られた銘木調圧密材X3及び未処理のチーク単板W3の表面を平滑化するために研磨処理を行った。次に、目標とするウォールナットサンプル、銘木調圧密材X3及びチーク単板W3の表面を測色した。測色には、上記実施例1と同様の積分球を備えた紫外可視分光光度計V-550(株式会社日本分光)を使用した。測色したウォールナットサンプル、銘木調圧密材X3及びチーク単板W3のL値、a値、b値の各値を表3に示す。また、これらの値からウォールナットサンプルと銘木調圧密材X3、ウォールナットサンプルとチーク単板W3の各色差(ΔEab)を計算した。計算して求めた各色差(ΔEab)の値を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
表3において、ウォールナットサンプルと銘木調圧密材X3との色差(ΔEab)は5以下であって、目標とするウォールナットに近い色調と表面品位を示していた。これに対して、ウォールナットサンプルとチーク単板W3の各色差(ΔEab)は20以上あり、目標とするウォールナットとは色調が大きく異なるものであった。
【0070】
次に、銘木調圧密材X3及び未処理のチーク単板W3の気乾密度を測定した。圧密固定化前のチーク単板W3の気乾密度の値が0.60g/cmであったことに対して、銘木調圧密材X3の気乾密度の値は0.80g/cmであった。
【0071】
次に、銘木調圧密材X3の物性を評価した。物性の評価は、上記実施例1と同様に表面の硬さ(H)及び摩耗深さ(D)の値で確認した。その結果、銘木調圧密材X3の表面の硬さは、H=25N/mm以上であって良好な物性を示した。また、銘木調圧密材X3の摩耗深さは、D=0.12mm以下であって良好な物性を示した。
【0072】
以上のことから、本発明によれば、比較的資源が豊富で入手可能な汎用木材を加工することにより、銘木といわれる木材に匹敵する表面品位を備え、黒檀や紫檀などの場合には表面品位に加え重量感をも備えると共に、物性に優れ高級な家具や建具に使用できる市場価値の高い銘木調圧密材及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0073】
W1、W2、W3…単板、X1、X2、X3…銘木調圧密材、
MC…圧密化装置、10…プレス盤、10A…上プレス盤、10B…下プレス盤、
IS…内部空間、18…位置決め孔。
図1
図2