IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジヤトコ株式会社の特許一覧 ▶ 日産自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-変速機の制御装置 図1
  • 特許-変速機の制御装置 図2
  • 特許-変速機の制御装置 図3
  • 特許-変速機の制御装置 図4
  • 特許-変速機の制御装置 図5
  • 特許-変速機の制御装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20230317BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20230317BHJP
   F16H 61/68 20060101ALI20230317BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/66
F16H61/68
F16H63/50
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017218813
(22)【出願日】2017-11-14
(65)【公開番号】P2019090462
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-06-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002549
【氏名又は名称】弁理士法人綾田事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 翔
(72)【発明者】
【氏名】古口 幸司
(72)【発明者】
【氏名】岡本 有司
(72)【発明者】
【氏名】若山 英史
【合議体】
【審判長】平田 信勝
【審判官】内田 博之
【審判官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-125075(JP,A)
【文献】特開2010-209943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H61/00-61/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機の制御装置であって、
前記変速機は、車両の駆動源側の入力軸と車輪側の出力軸との間にある有段変速機構であって、複数の締結要素を備え、前記複数の締結要素の締結と解放を切り替えることで変速比を段階的に変更可能な前記有段変速機構を有し、
前記複数の締結要素のうち、ダウンシフト時に、解放状態から締結状態に切り替わる締結要素を第1締結要素、締結状態から解放状態に切り替わる締結要素を第2締結要素とし、
前記入力軸が前記有段変速機構の駆動側となる状態をパワーオン状態、前記入力軸が前記有段変速機構の非駆動側となる状態をパワーオフ状態とするとき、
前記制御装置は、
前記パワーオフ状態と判定したとき、前記第2締結要素のトルク容量を低下させ、前記第1締結要素のトルク容量の増大制御により前記有段変速機構のダウンシフトをトルク相からイナーシャ相へ進行させる第1変速制御と、
前記パワーオン状態と判定したとき、前記第1締結要素のトルク容量を締結直前の状態とし、前記第2締結要素のトルク容量の低下制御により前記有段変速機構のダウンシフトをイナーシャ相からトルク相へ進行させる第2変速制御とを実行可能であり、
前記第1変速制御中のトルク相からイナーシャ相中に前記パワーオン状態と判定したときには、前記第2変速制御のイナーシャ相への遷移を禁止して前記第1変速制御を継続し、前記第1変速制御中イナーシャ相が実質的に終了していると判定したときには、前記第2変速制御のトルク相へ遷移させ、
前記第2変速制御中に前記パワーオフ状態と判定したときには前記第2変速制御から前記第1変速制御に遷移させて、前記有段変速機構のダウンシフトを継続させることを特徴とする変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機の制御装置において、
前記変速機は、前記駆動源と前記入力軸との間にある無段変速機構であって、変速比を無段階的に変更可能な前記無段変速機構を有し、
前記制御装置は、前記入力軸の回転数を前記目標値に向けて上昇させるためのトルクを、前記無段変速機構の変速比に基づき設定することを特徴とする変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の変速機の制御装置において、
前記駆動源はエンジンであり、前記駆動源と前記変速機との間にロックアップクラッチ付きのトルクコンバータがあり、
前記制御装置は、前記入力軸の回転数を前記目標値に向けて上昇させるためのトルクを、前記ロックアップクラッチの締結状態に基づき設定することを特徴とする変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される変速機として、駆動源側の入力軸と車輪側の出力軸との間にある有段変速機構を備えたものが知られている。特許文献1には、有段変速機構における複数の締結要素(クラッチやブレーキ)のうち、変速時に解放状態から締結状態に切り替わる締結要素を第1締結要素とするとき、イナーシャ相制御において、入力軸の回転数が指示値に追従するように、第1締結要素の油圧(トルク容量)を変化させる制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-97325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の制御装置では、駆動源側から入力軸へ入力されるトルクの大小にかかわらず、第1締結要素のトルク容量を、駆動源側から入力軸へ入力されるトルク相当に、入力軸の回転数を変速後の目標値に向けて変化させるためのトルクを加えた値に制御する。よって、駆動源側から入力軸へ入力されるトルクが大きいとき、第1締結要素をトルク容量が大きい状態でスリップさせることになるため、発熱量が大きいという問題があった。本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、第1締結要素の発熱量を抑制可能な変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態に係る変速機の制御装置は、有段変速機構のダウンシフト時に、パワーオフ状態と判定したとき、第2締結要素のトルク容量を低下させ、第1締結要素のトルク容量の増大制御により有段変速機構のダウンシフトをトルク相からイナーシャ相へ進行させる第1変速制御と、パワーオン状態と判定したとき、第1締結要素のトルク容量を締結直前の状態とし、第2締結要素のトルク容量の低下制御により有段変速機構のダウンシフトをイナーシャ相からトルク相へ進行させる第2変速制御とを実行可能であり、第1変速制御中のトルク相からイナーシャ相中にパワーオン状態と判定したときには、第2変速制御のイナーシャ相への遷移を禁止して第1変速制御を継続し、第1変速制御中イナーシャ相が実質的に終了していると判定したときには、前記第2変速制御のトルク相へ遷移させ、第2変速制御中にパワーオフ状態と判定したときには第2変速制御から第1変速制御に遷移させて、有段変速機構のダウンシフトを継続させる。
【発明の効果】
【0006】
有段変速機構の第1変速制御であるダウンシフト時のパワーオフダウンシフト中、パワーオン状態と判定しても、パワーオンダウンシフトへの遷移を禁止して第1変速制御を継続し、イナーシャ相が実質的に終了していると判定したときには、第2変速制御であるパワーオンダウンシフトのトルク相へ遷移させることにより、副変速側入力回転数が過度に上昇したり、再締結時のショック等を抑制することができるとともに、締結要素の架け替え中、トルクダウン制御等により入力トルクの制限が入っていると、架け替え中にアクセルペダルが踏み込まれた場合の架け替えによる加速ラグを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態の車両の駆動システムの概略構成を示す。
図2】第1実施形態の変速線図の一例を示す。
図3】第1実施形態の副変速機構の架け替え変速時における状態遷移を示す。
図4】第1実施形態のローブレーキの指示容量を決定するフローチャートである。
図5】第1実施形態の入力トルクゼロ付近のパワーオフダウンシフトにおけるタイムチャートである。
図6】比較例1の入力トルクゼロ付近のパワーオフダウンシフトにおけるタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転数を当該変速機構の出力回転数で除して得られる値である。
【0009】
〔第1実施形態〕
図1は、本実施形態の車両の駆動システムを示す。駆動システムは、パワートレーン及び変速制御部を有する。パワートレーンは、エンジン(内燃機関)1、トルクコンバータ2、減速機構(第1ギア列)3、自動変速機4、ファイナルドライブギア機構(第2ギア列。終減速装置)6、及び車輪7を有する。エンジン1は車両の駆動源である。トルクコンバータ2はロックアップクラッチ20を有し、エンジン1に駆動結合(駆動力を伝達可能に連結)する。自動変速機4は減速機構3を介してトルクコンバータ2に駆動結合する。ファイナルドライブギア機構6は、変速機出力軸(プロペラシャフト)5を介して自動変速機4に駆動結合する。自動変速機4からの動力は、ファイナルドライブギア機構6を経て、車輪7に出力される。
【0010】
自動変速機4は、無段変速機構8及び副変速機構9を有する。無段変速機構8は、減速機構3の出力軸に連結される駆動プーリ(プライマリプーリ)8aと、副変速機構9の入力軸90に連結される従動プーリ(セカンダリプーリ)8bとを有し、これらの間にベルト8cを掛け渡したベルト式無段変速機構である。駆動プーリ8a及び従動プーリ8bにはそれぞれ、作動油(オイル)が供給され、その油圧に応じてプーリ幅を自由に変更することができる。無段変速機構8は、駆動プーリ8aへの供給圧と従動プーリ8bへの供給圧とを制御することで、変速比(プーリ比)を無段階に変更させることができる。
【0011】
副変速機構9は、複数の摩擦締結要素及び遊星歯車機構を有する有段変速機構である。遊星歯車機構はラビニヨ型であり、複合サンギア9aに入力軸90(従動プーリ8b)を駆動結合することで当該サンギア9aを入力とする。キャリア9bを変速機出力軸5に駆動結合することで当該キャリア9bを出力とする。サンギア9aは、ローブレーキ(第1速選択用ブレーキ)L/Bを介してケースCに固定可能である。キャリア9bは、ハイクラッチ(第2速選択用クラッチ)H/Cを介してリングギア9cに駆動結合することが可能である。リングギア9cは、リバースブレーキR/Bを介してケースCに固定可能である。
【0012】
ローブレーキL/B、ハイクラッチH/C及びリバースブレーキR/Bは、湿式の摩擦締結要素であり、それぞれオイルが供給され、その油圧に応じて締結及び解放を自由に行うことができる。副変速機構9は、各締結要素への供給圧を制御することで、前進1速、前進2速及び後進を選択することができる。前進1速の選択の場合は、ローブレーキL/Bを締結すると共にハイクラッチH/C及びリバースブレーキR/Bを解放する。前進2速の選択の場合は、ハイクラッチH/Cを締結すると共にローブレーキL/B及びリバースブレーキR/Bを解放する。後進の選択の場合は、リバースブレーキR/Bを締結すると共にローブレーキL/B及びハイクラッチH/Cを解放する。
【0013】
変速制御部は、自動変速機4の変速を制御するための制御部であり、油圧コントロールバルブユニット10及び変速機コントローラ11を有する。油圧コントロールバルブユニット10には、複数のソレノイドバルブが内蔵される。これらのソレノイドバルブの作動状態(オン・オフ)が切り替わることで、無段変速機構8の駆動プーリ8a及び従動プーリ8bへの供給圧(通常は、駆動プーリ8aへの供給圧のみ)が制御される。これにより、変速比が無段階に変更される。同様に、上記ソレノイドバルブの作動状態が切り替わることで、副変速機構9のロースブレーキL/B、ハイクラッチH/C及びリバースブレーキR/Bへの供給圧が制御される。これにより、前進1速又は前進2速が選択される。また、上記ソレノイドバルブの作動状態が切り替わることで、ロックアップクラッチ20への供給圧が制御される。これにより、ロックアップクラッチ20の締結状態(締結及び解放)が変更される。
【0014】
変速機コントローラ11は、油圧コントロールバルブユニット10における複数のソレノイドバルブの作動状態を制御する。変速機コントローラ11は、無段変速制御部111として機能するモジュール、及び有段変速制御部112として機能するモジュールを有する。無段変速制御部111は、自動変速機4の目標とする入力回転数(以下、「目標自動変速機入力回転数」)Nin(o)を算出し、この目標自動変速機入力回転数Nin(o)に基づき、無段変速機構8の変速比(以下、「無段変速側レシオ」)ipを無段階に制御する。有段変速制御部112は、副変速機構9の目標変速段(以下、「目標副変速側レシオ」)isub(o)を算出し、この目標副変速側レシオisub(o)に副変速機構9を制御する。変速機コントローラ11は、無段変速機構8の変速制御と副変速機構9の変速制御を実行することで、自動変速機4の全体として目標とする変速比(以下、「目標トータルレシオ」)i(o)を実現する。自動変速機4の全体としての変速比(以下、「トータルレシオ」)iは、無段変速側レシオipに副変速機構9の変速比(以下、「副変速側レシオ」)isubを乗じて得られる。
【0015】
変速機コントローラ11には、例えば、スロットル開度TVOを検出するスロットル開度センサSThからの信号、アクセルペダル開度APOを検出するアクセルペダル開度センサSAからの信号、エンジン1の出力回転数(以下、「エンジン回転数」)NEngを検出するエンジン回転センサSEからの信号、自動変速機4の入力回転数(以下、「自動変速機入力回転数」)Ninを検出する自動変速機入力回転センサSIからの信号、変速機出力軸5の回転数(以下、「自動変速機出力回転数」)Noutを検出する自動変速機出力回転センサSOからの信号、自動変速機4の油温を検出する油温センサSTeの出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチSInhの出力信号が入力される。自動変速機出力回転数Noutとファイナルドライブギア機構6のギア比から車両の走行速度(以下、「車速」)VSPが検出される。
【0016】
変速機コントローラ11は、これら入力情報に基づき図2に例示する変速線図を用いて以下のとおりに自動変速機4の変速制御を行う。図2の変速線図は、無段変速機構8の変速線と、副変速機構9の変速線とを組み合わせたものである。この変速線図上では、自動変速機4の動作点が、車速VSPと目標自動変速機入力回転数Nin(o)に基づき決定される。目標自動変速機入力回転数Nin(o)は車速VSPとアクセルペダル開度APOとに応じて求められる。動作点と変速線図左下隅の零点とを結ぶ線の傾きがトータルレシオiを表している。副変速機構9の変速段として前進1速が選択されている場合、無段変速機構8の変速可能領域は、1速最Low線から1速最Hi線までの領域である。これに対し、副変速機構9の変速段として前進2速が選択されている場合、無段変速機構8の変速可能領域は、2速最Low線から2速最Hi線までの領域である。このため、図2のA領域は、副変速機構9の変速段が前進1速であるときのみ変速制御が可能な領域となる。また、B領域は、副変速機構9の変速段が前進1速又は前進2速であるときに変速制御が可能な領域となる。更に、C領域は、副変速機構9の変速段が前進2速であるときのみ変速制御が可能な領域となる。このように、自動変速機4は、変速比(レシオ)を無段階に変更させることができる無段変速機構8と、複数の変速段から任意の変速段を選択することができる副変速機構9とを組み合わせることで、どちらか一方のみで取り得るレシオカバレッジに比べて、拡大されたレシオカバレッジを得ることができる。
【0017】
図2のA~C領域では、動作点(目標トータルレシオi(o))に応じて、目標自動変速機入力回転数Nin(o)が達成されるように、無段変速機構8が制御される。これにより、変速比が無段階に連続制御される。これに対し、副変速機構9の変速線は、前進1速から前進2速に切り替わる1→2UP線と、前進2速から前進1速に切り替わる2→1Down線とにより、前進1速領域と前進2速領域とが決定される。例えば、動作点が、1→2UP線を低車速側から高車速側に向かって横切ると、前進2速を選択する。2→1Down線を高車速側から低車速側に向かって横切ると、前進1速を選択する。また、例えば、走行中にセレクトレバーの位置がDレンジからLレンジへ切り替えられることに伴って動作点がC領域のP点からA領域のQ点に移行すると、副変速機構9を前進2速から前進1速にダウンシフトする要求が出力される。なお、Lレンジハイリミッタ線は、Lレンジでの回転数の下限を示す。
【0018】
また、変速機コントローラ11は、無段変速機構8の変速制御を副変速機構9の変速制御に協調させる。目標トータルレシオi(o)と予め定めた変速速度とから、目標トータルレシオi(o)に至るまでの過渡的なトータルレシオ(以下、「指示トータルレシオ」)i(c)を決める。予め定めた副変速機構9の変速時間(イナーシャ相の時間)から、目標副変速側レシオisub(o)に至るまでの過渡的な副変速側レシオ(以下、「指示副変速側レシオ」)isub(c)を決める。指示トータルレシオi(c)を指示副変速側レシオisub(c)で除することで、過渡的な無段変速側レシオ(以下、「指示無段変速側レシオ」)ip(c)を決める。
【0019】
以下、副変速機構9の入力軸90が駆動側となり変速機出力軸5が従動側となる状態をパワーオン状態といい、それ以外の状態をパワーオフ状態という。パワーオフ状態は、変速機出力軸5が駆動側となり入力軸90が従動側となる状態、言い換えるとエンジン1の側から無段変速機構8へ入力されるトルク(以下、「無段変速側入力トルク」)Tp_inが負である状態を含む。そのほか、パワーオフ状態は、無段変速側入力トルクTp_inが(正負に関わらず)ゼロ付近である状態を含む。言い換えると、パワーオフ状態は、副変速機構9の入力軸90が非駆動側となる状態をいう。エンジン1の出力トルク(以下、「エンジントルク」)TEngとトルクコンバータ2のロックアップクラッチ20の締結状態とから、無段変速側入力トルクTp_inを得ることができる。無段変速側入力トルクTp_inが所定のパワーオン判定値Tp_in*(正値)より大きければパワーオン状態と判定でき、パワーオン判定値Tp_in*以下であればパワーオフ状態と判定できる。無段変速側入力トルクTp_inは、エンジン1の側から副変速機構9(入力軸90)へ入力されるトルク(以下、「副変速側入力トルク」)Tsub_inに略相当する。なお、無段変速側入力トルクTp_inと無段変速側レシオipとから副変速側入力トルクTsub_inを算出し、副変速側入力トルクTsub_inが所定の判定値より大きいか否かによりパワーオン状態であるかパワーオフ状態であるかを判定してもよい。また、アクセルペダル操作の有無(例えばアクセル開度APO)その他によりパワーオン状態であるかパワーオフ状態であるかを判定してもよい。
【0020】
副変速機構9を前進1速と前進2速との間で変速するとき、ハイクラッチH/CとローブレーキL/Bのうち一方を締結し他方を解放するいわゆる架け替え制御が実施される。以下、前進2速から前進1速へのダウンシフトを例にとって説明する。ダウンシフトではハイクラッチH/Cが締結状態から解放状態に切り替わり、ローブレーキL/Bが解放状態から締結状態に切り替わる。変速機コントローラ11は、パワーオン状態と判定したとき、ハイクラッチH/Cへの供給油圧(ハイクラッチH/Cのトルク容量)の制御によりダウンシフト(パワーオンダウンシフト)を進行させる(第2変速制御)。パワーオフ状態と判定したとき、ローブレーキL/Bへの供給油圧(ローブレーキL/Bのトルク容量)の制御によりダウンシフト(パワーオフダウンシフト)を進行させる(第1変速制御)。
【0021】
図3の架け替え変速(ダウンシフト)時の状態遷移図に示すように、変速機コントローラ11は、車速VSPが所定の閾値VSP*より大きい非停車時(走行時)に、パワーオン状態と判定すると、準備(変速開始時)制御を行った後、ハイクラッチH/Cのトルク容量の制御によりダウンシフトを進行させる。イナーシャ相の後、トルク相となる。準備制御では、ローブレーキL/Bへの油圧のプリチャージを行い、ローブレーキL/Bを締結直前の状態で待機させる(準備相)。パワーオン状態では、ローブレーキL/Bのトルク容量がなくても、副変速側入力トルクTp_inにより入力軸90の回転数(以下、「副変速側入力回転数」)Nsub_inが上昇しようとする。このため、ハイクラッチH/Cのトルク容量をある程度低下させるだけで、副変速側入力回転数Nsub_inが上昇し、イナーシャ相が進行する。イナーシャ相の進行中、ハイクラッチH/Cへの供給油圧の制御により、副変速側入力回転数Nsub_inの過度の上昇(吹き上がり)を抑制する。その後、ハイクラッチH/Cへの供給油圧(指示トルク容量)を低下させると共にローブレーキL/Bへの供給油圧を増大させ、トルクの伝達を受け持つ締結要素をハイクラッチH/CからローブレーキL/Bへと移行させる(トルク相)。
【0022】
変速機コントローラ11は、走行時にパワーオフ状態と判定すると、準備制御を行った後、ローブレーキL/Bのトルク容量の制御によりダウンシフトを進行させる。トルク相の後、イナーシャ相となる。パワーオフ状態では、副変速側入力トルクTsub_inが小さい(例えば負である)ため、単にハイクラッチH/Cのトルク容量を低下させても、副変速側入力回転数Nsub_inが上昇しない(低下しようとする)。よって、準備制御の後、ハイクラッチH/Cへの供給油圧(指示トルク容量)を低下させると共にローブレーキL/Bへの供給油圧を増大させ、トルクの伝達を受け持つ締結要素をハイクラッチH/CからローブレーキL/Bへと移行させる(トルク相)。その後、ローブレーキL/Bへの供給油圧の制御により、副変速側入力回転数Nsub_inを上昇させ、イナーシャ相を進行させる。
【0023】
車速VSPが閾値VSP*以下である停車時は、準備制御の後、イナーシャ相がなく、トルク相となる。上記いずれの場合も、終了制御(変速終了時制御)を行って遷移を終了する。変速機コントローラ11は、ハイクラッチH/Cへの供給油圧をゼロとしてハイクラッチH/Cを完全解放させるとともにローブレーキL/Bへの供給油圧を増大させてローブレーキL/Bを完全締結させる。
【0024】
変速機コントローラ11は、パワーオフダウンシフト中、パワーオン状態と判定しても、パワーオフダウンシフトを継続する。すなわち、パワーオフダウンシフトにおけるトルク相中、パワーオン状態と判定しても、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相への遷移(図3で破線の矢印αにより示す遷移)を禁止する。また、パワーオフダウンシフトにおけるイナーシャ相中、パワーオン状態と判定しても、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相への遷移(図3で破線の矢印βにより示す遷移)を基本的に禁止する。なお、パワーオフダウンシフトにおけるイナーシャ相中、パワーオン状態と判定したとき、イナーシャ相の進行率が所定の閾値を超えていれば(イナーシャ相が実質的に終了していると判定すれば)、パワーオンダウンシフトにおけるトルク相へ遷移する。
【0025】
変速機コントローラ11は、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中、パワーオフ状態と判定したとき、パワーオフダウンシフトへ遷移する。例えば、アクセルペダルの踏込みによりパワーオンダウンシフトを開始した直後、運転者のチェンジマインドによってアクセルペダルが踏み戻された場合である。このような場合であって、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中にパワーオフ状態と判定したとき、ハイクラッチH/Cへの供給油圧(指示トルク容量)が所定の閾値以上であれば、パワーオフダウンシフトにおけるトルク相へ遷移する。一方、上記判定時にハイクラッチH/Cへの供給油圧が上記閾値未満であれば、パワーオフダウンシフトにおけるイナーシャ相へ遷移する。なお、上記判定時に、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相の進行率が所定の閾値を超えていれば(イナーシャ相が実質的に終了していると判定すれば)、パワーオンダウンシフトにおけるトルク相へ遷移する。
【0026】
変速機コントローラ11は、副変速機構9の架け替え制御時、解放側の締結要素への供給油圧及び締結側の締結要素への供給油圧を、それぞれ解放側の締結要素の指示トルク容量及び締結側の締結要素の指示トルク容量を基に算出する。これらの指示トルク容量をそれぞれ、準備相及びトルク相では、フィードフォワード制御の操作量であるF/F指示容量として求める。イナーシャ相では、F/F指示容量と、フィードバック制御の操作量であるF/B指示容量との加算値として、指示トルク容量を求める。変速機コントローラ11は、F/F指示容量を、副変速側入力トルクTsub_in を基に算出する。F/B指示容量を、副変速側入力回転数Nsub_inを基に算出する。F/F指示容量及びF/B指示容量は、各相の開始・終了の判定をトリガーにして算出される。なお、締結要素の実圧応答遅れ分を補正するための適合要素として、副変速機構9の変速の進行率に応じた補正ゲインとオフセットをF/F指示容量に持たせてもよい。この場合、トルク相から補正をかけ、終了相で進行率に応じて補正を解除する。
【0027】
変速機コントローラ11は、準備相に費やす時間を、解放側の締結要素への供給油圧の低下速度(抜け応答)と、締結側の締結要素のプリチャージ完了(棚圧越え)までの時間とに基づき決定する。トルク相に費やす時間を、副変速側入力トルクTsub_inに基づき決定する。例えば、副変速側入力トルクTsub_inが小さいときは大きいときよりも、トルク相の時間を短くする。変速機コントローラ11は、イナーシャ相における指示副変速側レシオisub(c)の変化勾配d(isub(c))/dt(言い換えるとイナーシャ相における副変速側入力回転数Nsub_inのプロフィールないし目標パターン)を、例えば以下の条件を満たすように決定する。
・締結要素への指示供給油圧により実現可能である。
・締結要素への指示供給油圧に対する実供給油圧の応答遅れが許容範囲内である。
・締結側の締結要素の完全締結時にイナーシャトルクによるショックを抑制できる。
【0028】
以下、ローブレーキL/BのF/F指示容量をTLBとし、ハイクラッチH/CのF/F指示容量をTHCとする。図4は、変速機コントローラ11が、イナーシャ相におけるローブレーキL/BのF/F指示容量TLBを決定する流れを示す。ステップS1で、以下の条件をすべて満たすか否かを判定する。
・副変速側入力トルクTsub_inが所定の閾値Tsub_in*以下である。
・副変速機構9のダウンシフトの要求が出力された(前進2速から前進1速へのダウンシフトの開始が判定された)。例えば、セレクトレバーの位置がDレンジからLレンジへ切り替えられると、図2の変速線図において動作点がP点からQ点に移行することで、上記ダウンシフトの要求が出力される。
・車速VSPが所定の閾値VSP*より大きい。
これらの条件をすべて満たせばステップS2へ進み、これらの条件の少なくとも1つを満たさなければステップS5へ進む。ステップS2で、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ20が締結されている状態(オン状態)か解放されている状態(オフ状態)かを判定する。オン状態であればステップS3へ進み、オフ状態であればステップS4へ進む。
【0029】
ステップS3では、ローブレーキL/BのF/F指示容量TLBを以下の式(1)により算出する。
【数1】
ただし、IEng+Tbnはエンジン1とトルクコンバータ2のタービンランナ2aとを合わせた慣性モーメント、icは減速機構3の変速比(ギア比)、IPriは無段変速機構8の駆動プーリ8aの慣性モーメント、ISecは無段変速機構8の従動プーリ8bの慣性モーメントである。
【0030】
ステップS4では、ローブレーキL/BのF/F指示容量TLBを以下の式(2)により算出する。
【数2】
ただし、ITbnはトルクコンバータ2のタービンランナ2aの慣性モーメントである。
【0031】
式(1)(2)における右辺第2項は、副変速機構9よりもエンジン1の側の回転要素を、上記のように決定した副変速側レシオisub(c)の変化勾配d(isub(c))/dt(言い換えると副変速側入力回転数Nsub_inのプロフィール)で、目標副変速側レシオisub(o)(言い換えると入力軸90の変速後の目標回転数(以下、「目標副変速側入力回転数」)Nsub_in(o))に向けて上昇させるためのトルクを表す。式(1)では、ロックアップクラッチ20の締結により従動回転要素として機能するエンジン1(における回転要素)の慣性モーメントを考慮している。ここで「従動回転要素」とは、ローブレーキL/Bから伝達されるトルクにより回転駆動される要素を意味する。一方、式(2)では、ロックアップクラッチ20の解放によりエンジン1が従動回転要素として機能しないため、エンジン1の慣性モーメントを考慮しない。
【0032】
式(1)(2)の右辺第2項において、d(isub(c))/dt×Noutは、副変速機構9の入力軸90の角加速度(副変速側入力回転数Nsub_inの変化率)に相当する。d(isub(c))/dt×Noutに乗じる値は、副変速機構9よりもエンジン1の側の従動回転要素の慣性モーメントを、入力軸90における慣性モーメントに換算したものに相当する。エンジン1とトルクコンバータ2のタービンランナ2aとを合わせた慣性モーメントIEng+Tbn、及びタービンランナ2aの慣性モーメントITbnはそれぞれ、減速機構3の変速比ic(の2乗)及び無段変速側レシオip(の2乗)を乗じることで、入力軸90における慣性モーメントに換算される。無段変速機構8の駆動プーリ8aの慣性モーメントIPriは、無段変速側レシオip(の2乗)を乗じることで、入力軸90における慣性モーメントに換算される。
【0033】
ステップS5では、ローブレーキL/BのF/F指示容量TLBを以下の式(3)により算出する。
【数3】
すなわち、F/F指示容量TLBを、副変速側入力トルクTsub_in相当(すなわちTsub_inに釣り合う値)とする。
【0034】
次に、作用効果を説明する。副変速機構9のダウンシフトのうち、無段変速側入力トルクTp_inがゼロ付近であるパワーオフダウンシフト時を想定する。このとき、副変速機構9のイナーシャ相で、副変速側レシオisubを目標副変速側レシオisub(o)に向けて(言い換えると副変速側入力回転数Nsub_inを目標副変速側入力回転数Nsub_in(o)に向けて)上昇させるためのトルクが不足し、当該ダウンシフトの進行が停滞するおそれがある。以下、比較例1を用いて説明する。比較例1の変速機コントローラは、副変速機構9のダウンシフト時に、副変速側入力トルクTsub_inの大小にかかわらず、イナーシャ相におけるローブレーキL/BのF/F指示容量TLBを、副変速側入力トルクTsub_in相当に制御する。
【0035】
図6は、比較例1の変速機コントローラによる、無段変速側入力トルクTp_inがゼロ付近であるパワーオフダウンシフトにおけるタイムチャートを示す。Gは車両の加速度(エンジンブレーキによる減速度を含む。)を示す。フェーズは副変速機構9の変速の各相を示す。時刻t61~t62が準備相、時刻t62~t63がトルク相、時刻t63~t64がイナーシャ相、時刻t64~t65が終了相である。比較例1では、副変速側入力トルクTsub_inの大小にかかわらず、イナーシャ相におけるローブレーキL/BのF/F指示容量TLBを、副変速側入力トルクTsub_in相当に制御する。よって、無段変速側入力トルクTp_inがゼロ付近(副変速側入力トルクTsub_inが閾値Tsub_in*以下)であるパワーオフダウンシフトでは、イナーシャ相におけるF/F指示容量TLBが(副変速側入力トルクTsub_in相当であり)小さい。このため、図6における時刻t63以後の副変速側レシオisubの変化から明らかなように、副変速側入力回転数Nsub_inはなかなか上昇を開始せず、開始しても徐々にしか上昇しない。すなわち、イナーシャ相がなかなか開始せず、また、開始しても徐々にしか進行しない。
【0036】
協調制御される無段変速機構8の変速比(無段変速側レシオip)は、副変速側レシオisubの変化開始前に、最ローに達してしまう(時刻t62直後)。その後も、副変速機構9のダウンシフト(イナーシャ相)がなかなか開始しない。よって、自動変速機4の全体としての変速比(トータルレシオi)の変化が非連続的になり、これによって減速度Gの変動が生じ(時刻t62近傍)、ショックとして運転者に感じられるおそれがある。また、運転者がエンジンブレーキ力を得るためにセレクトレバーをDレンジからLレンジへ切り替え、これによりダウンシフト要求が出されているような場合でも、得られるエンジンブレーキ力(減速度Gの大きさ)が小さく、またその発生が遅い。エンジンブレーキ(減速度Gの大きさの変化)は、無段変速機構8のダウンシフトによるもの(時刻t61~t62)と副変速機構9のダウンシフトによるもの(時刻t63~t64)とが時間的に離れて発生する。よって、エンジンブレーキのタイムラグ感や二段感として運転者に違和感を与えるおそれがある。さらに、イナーシャ相の終了時にはイナーシャトルクによるショックが生じるおそれがある(時刻t64近傍)。以上は、図6の時刻t62~t64において破線で示すように、イナーシャ相でローブレーキL/BのF/F指示容量TLBを所定の最低トルクに設定した場合であっても、同様である。
【0037】
これに対し、本実施形態の変速機コントローラ11は、副変速機構9のダウンシフト時に、副変速側入力トルクTsub_inが閾値Tsub_in*以下のとき、ローブレーキL/BのF/F指示容量TLBを、「副変速側入力トルクTsub_in相当」に「副変速側入力回転数Nsub_inを目標副変速側入力回転数Nsub_in(o)に向けて上昇させるためのトルク」を加えた値に制御する(式(1)(2))。よって、イナーシャ相(ダウンシフト)の進行に必要なローブレーキL/Bのトルクが確保されるため、上記問題を抑制できる。
【0038】
図5は、本実施形態の変速機コントローラ11による、無段変速側入力トルクTp_inがゼロ付近(副変速側入力トルクTsub_inが閾値Tsub_in*以下)であるパワーオフダウンシフトにおけるタイムチャートを示す。時刻t51~t52が準備相、時刻t52~t53がトルク相、時刻t53~t54がイナーシャ相、時刻t54~t55が終了相である。時刻t53以後の副変速側レシオisubの変化から明らかなように、無段変速側レシオipが最ローに達する前に、副変速側レシオisubが変化を開始することで、トータルレシオiの変動が抑制される。副変速機構9のダウンシフト(イナーシャ相)が速やかに開始するため、大きなエンジンブレーキ力が速やかに得られる(時刻t53~t54)。無段変速機構8のダウンシフトと副変速機構9のダウンシフトが連続して行われるため、エンジンブレーキのタイムラグ感や二段感は抑制される。さらに、副変速側入力回転数Nsub_inを上昇させるために必要なトルクのみが副変速側入力トルクTsub_inに加算されるため、イナーシャトルクによるショックも抑制される。
【0039】
比較例2の変速機コントローラは、副変速機構9のダウンシフト時に、副変速側入力トルクTsub_inの大小にかかわらず、イナーシャ相におけるローブレーキL/BのF/F指示容量TLBを、副変速側入力トルクTsub_in相当に、副変速側入力回転数Nsub_inを目標副変速側入力回転数Nsub_in(o)に向けて変化させるためのトルクを加えた値に制御する。よって、副変速側入力トルクTsub_inが大きいときであっても、副変速側入力トルクTsub_inに更にトルクを加えた値にF/F指示容量TLBを制御するため、トルク容量が大きい状態でローブレーキL/Bをスリップさせることになる。よって、ローブレーキL/Bの発熱量が大きくなるおそれがある。
【0040】
これに対し、本実施形態の変速機コントローラ11は、副変速機構9のダウンシフト時に、副変速側入力トルクTsub_inが所定の閾値Tsub_in*より大きいとき、ローブレーキL/BのF/F指示容量TLBを、副変速側入力トルクTsub_in相当に制御する(式(3))。よって、副変速機構9のダウンシフト時に、副変速側入力トルクTsub_inが大きいとき、ローブレーキL/Bのトルク容量が副変速側入力トルクTsub_in相当に抑制されるため、発熱量を抑制できる。ここで、副変速側入力トルクTsub_inが閾値Tsub_in*より大きいときは、ローブレーキL/BのF/F指示容量TLBに更にトルクを加えなくても、エンジン1からの動力(副変速側入力トルクTsub_in)により副変速側入力回転数Nsub_inが上昇するため、ダウンシフトの進行が停滞することは回避される。
【0041】
変速機コントローラ11は、副変速側入力回転数Nsub_inを目標副変速側入力回転数Nsub_in(o)に向けて上昇させるためのトルクを、無段変速側レシオipに基づき設定する(式(1)(2))。すなわち、副変速機構9よりもエンジン1の側の従動回転要素には無段変速機構8の駆動プーリ8a等が含まれる。無段変速機構8の変速比(無段変速側レシオip)は可変であり、上記従動回転要素の慣性モーメント(例えば駆動プーリ8aの慣性モーメントIPri)を入力軸90における慣性モーメントに換算した値は、無段変速側レシオipに応じて変わりうる。よって、副変速側入力回転数Nsub_inを目標副変速側入力回転数Nsub_in(o)に向けて上昇させるためのトルクも、無段変速側レシオipに応じて変わりうる。これに対し、変速機コントローラ11は、副変速側入力回転数Nsub_inを上昇させるための上記トルクを、そのときどきで検出した無段変速側レシオipに基づき設定する。よって、無段変速機構8の状態(無段変速側レシオip)に関わらず、より確実に、副変速側入力回転数Nsub_inを目標副変速側入力回転数Nsub_in(o)に向けて上昇させることができる。
【0042】
変速機コントローラ11は、副変速側入力回転数Nsub_inを目標副変速側入力回転数Nsub_in(o)に向けて上昇させるためのトルクを、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ20の締結状態に基づき設定する(式(1)(2))。すなわち、副変速機構9に連結するエンジン1の側の従動回転要素の慣性モーメント(を入力軸90における慣性モーメントに換算した値)は、ロックアップクラッチ20の締結状態(オン・オフ)に応じて変わりうる。ロックアップクラッチ20の締結によりエンジン1が従動回転要素として機能するようになる。よって、副変速側入力回転数Nsub_inを上昇させるための上記トルクも、ロックアップクラッチ20の締結状態に応じて変わりうる。これに対し、変速機コントローラ11は、副変速側入力回転数Nsub_inを上昇させるための上記トルクを、ロックアップクラッチ20の締結状態に基づき設定する。ロックアップクラッチ20の締結時には、エンジン1の慣性モーメントを考慮して、上記トルクを設定する。よって、ロックアップクラッチ20の締結状態(慣性モーメントの変化)に関わらず、より確実に、副変速側入力回転数Nsub_inを目標副変速側入力回転数Nsub_in(o)に向けて上昇させることができる。
【0043】
図3を用いて説明したように、変速機コントローラ11は、パワーオフダウンシフト中、パワーオン状態と判定しても、パワーオフダウンシフトを継続する。すなわち、パワーオフダウンシフト中、パワーオン状態と判定したとき、仮にパワーオンダウンシフト(におけるイナーシャ相)へ遷移すると、以下のような問題がある。すなわち、パワーオフダウンシフト中にハイクラッチH/Cの油圧は抜かれる。この状態でパワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相へ遷移すると、ハイクラッチH/Cへ油圧を再度供給することになる。このため、実圧の応答遅れ等によりハイクラッチH/Cのトルク容量が足りなくなるおそれがあり、これにより副変速側入力回転数Nsub_inが過度に上昇したり(吹き上がったり)、その後の再締結時のショック等の懸念がある。また、締結要素の架け替え中、(油圧応答確保のための)トルクダウン制御等により入力トルクの制限が入っていると、架け替え中にアクセルペダルが踏み込まれた場合、架け替えが加速ラグ(遅延)の要因となる。よって、架け替え時間を短縮することが好ましい。しかし、パワーオフダウンシフトからパワーオンダウンシフトへ移行すると、パワーオンダウンシフトにおいてイナーシャ相の後に再度(すなわちパワーオフダウンシフトにおいてトルク相を実施した後に)トルク相を実施することになるため、締結要素の架け替え時間が伸びるおそれがある。これに対し、変速機コントローラ11は、パワーオフダウンシフト(トルク相又はイナーシャ相)中、パワーオン状態と判定しても、パワーオンダウンシフト(イナーシャ相)への遷移を禁止する。よって、上記問題を抑制可能である。
【0044】
以上説明したように、第1実施形態にあっては、以下の作用効果を奏する。
(1)自動変速機4(変速機)の変速機コントローラ11(制御装置)であって、
自動変速機4は、エンジン1(車両の駆動源)の側の入力軸90と車輪7の側の変速機出力軸5との間にある副変速機構9(有段変速機構)であって、ローブレーキL/B、ハイクラッチH/C及びリバースブレーキR/B(複数の締結要素)を備え、これら複数の締結要素の締結と解放を切り替えることで変速比を段階的に変更可能な副変速機構9を有し、
上記複数の締結要素のうち、変速時に解放状態から締結状態に切り替わる締結要素を第1締結要素とするとき、
変速機コントローラ11は、副変速機構9のダウンシフト時に、
副変速側入力トルクTsub_in(エンジン1の側から入力軸90へ入力されるトルク)が所定の閾値Tsub_in*より大きいとき、ローブレーキL/B(第1締結要素)のF/F指示容量TLB(トルク容量)を、副変速側入力トルクTsub_in相当に制御し、
副変速側入力トルクTsub_inが閾値Tsub_in*以下のとき、ローブレーキL/BのF/F指示容量TLBを、「副変速側入力トルクTsub_in相当」に「副変速側入力回転数Nsub_in(入力軸90の回転数)を目標副変速側入力回転数Nsub_in(o)(変速後の目標値)に向けて上昇させるためのトルク」を加えた値に制御する。
よって、副変速機構9のダウンシフト時に、エンジン1の側から入力軸90へ入力されるトルクが大きいとき、ローブレーキL/Bのトルク容量が上記入力されるトルク相当に抑制されるため、ローブレーキL/Bの発熱量を抑制できる。エンジン1の側から入力軸90へ入力されるトルクが小さいとき、ローブレーキL/Bのトルク容量が、上記入力されるトルク相当に、入力軸90の回転数を目標値に向けて上昇させるためのトルクを加えた値に制御されるため、入力軸90の回転数を上昇させるためのトルクが不足して変速の進行が停滞することを抑制できる。
【0045】
(2)自動変速機4(変速機)は、エンジン1(駆動源)と入力軸90との間にある無段変速機構8であって、変速比を無段階的に変更可能な無段変速機構8を有し、
変速機コントローラ11(制御装置)は、「副変速側入力回転数Nsub_in(入力軸90の回転数)を目標副変速側入力回転数Nsub_in(o)(変速後の目標値)に向けて上昇させるためのトルク」を、無段変速側レシオip(無段変速機構8の変速比)に基づき設定する。
よって、無段変速機構8の状態に関わらず、より確実に入力軸90の回転数を目標値に向けて上昇させることができる。
【0046】
(3) 駆動源はエンジン1であり、エンジン1と自動変速機4(変速機)との間にロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ2があり、
変速機コントローラ11(制御装置)は、「副変速側入力回転数Nsub_in(入力軸90の回転数)を目標副変速側入力回転数Nsub_in(o)(変速後の目標値)に向けて上昇させるためのトルク」を、ロックアップクラッチ20の締結状態に基づき設定する。
よって、ロックアップクラッチ20の締結状態に関わらず、より確実に入力軸90の回転数を目標値に向けて上昇させることができる。
【0047】
(4) 複数の締結要素のうち、変速時に締結状態から解放状態に切り替わる締結要素を第2締結要素とし、
入力軸90が副変速機構9(有段変速機構)の駆動側となる状態をパワーオン状態、入力軸90が副変速機構9の非駆動側となる状態をパワーオフ状態とするとき、
変速機コントローラ11(制御装置)は、
パワーオフ状態と判定したとき、ローブレーキL/B(第1締結要素)のF/F指示容量TLB(トルク容量)の制御により副変速機構9の(パワーオフ)ダウンシフトを進行させる第1変速制御と、
パワーオン状態と判定したとき、ハイクラッチH/C(第2締結要素)のF/F指示容量THC(トルク容量)の制御により副変速機構9の(パワーオン)ダウンシフトを進行させる第2変速制御とを実行可能であり、
第1変速制御中、パワーオン状態と判定したとき、第1変速制御を継続する。
よって、締結要素の架け替え時に、入力軸90の回転数が過度に上昇したり、架け替え時間が伸びたりすることを抑制できる。
【0048】
〔第2実施形態〕
本実施形態の変速機コントローラ11は、図4のステップS1で、第1実施形態と異なる以下の条件をすべて満たすか否かを判定する。
・副変速機構9の前進2速から前進1速へのダウンシフトの実施中である。
・ハイクラッチH/CのF/F指示容量THCが所定の閾値THC*未満である(THC<THC*)。
・副変速機構9のイナーシャ相の進行率が所定の閾値未満である。
・車速VSPが閾値VSP*より大きい(VSP>VSP*)。
これらの条件をすべて満たせばステップS2へ進み、これらの条件の少なくとも1つを満たさなければステップS5へ進む。例えば、車両の走行中、運転者がアクセルペダルを一瞬踏み込み、図2の変速線図において動作点が移行することでダウンシフトの要求が出力された後、アクセルペダルが踏み戻された(足離しされた)場合(アクセル踏み込み後のチェンジマインド)が、ステップS1からS2へ進む一例である。この場合、図3で、パワーオンダウンシフトのイナーシャ相の進行率が閾値未満であり、F/F指示容量THCが閾値THC*未満であれば、パワーオンダウンシフトのイナーシャ相からパワーオフダウンシフトのイナーシャ相へ遷移する。他の構成は第1実施形態と同じである。
【0049】
よって、ステップS1の条件として第1実施形態と異なる上記条件を設定した場合でも、第1実施形態と同じ作用効果を得ることができる。
【0050】
以上、本発明を実施するための形態を実施形態に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施形態に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。例えば、駆動源は、エンジン(内燃機関)に限らず、電動機等であってもよい。無段変速機構は、ベルト式に限らず、動力伝達部材としてチェーンがプーリ間に掛け回されたものや、トロイダル式であってもよいし、油圧で駆動されるものに限らず電気的に駆動されるものあってもよい。副変速機構(有段変速機構)は、前進用の変速段として3段以上を有してもよいし、通常の遊星歯車機構を用いてもよいし、ギア比の異なる複数の歯車列で構成される複数の動力伝達経路と、これら動力伝達経路を切り換える摩擦締結要素とによって構成されてもよい。実施形態では、運転者がエンジンブレーキ力を得るためにするセレクトレバー操作として、DレンジからLレンジへの切り替えを例示したが、Mレンジ(マニュアルモード)への切り替え等であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 エンジン(駆動源)
4 自動変速機(変速機)
5 変速機出力軸
7 車輪
8 無段変速機構
9 副変速機構(有段変速機構)
90 入力軸
11 変速機コントローラ(制御装置)
L/B ローブレーキ(第1締結要素)
H/C ハイクラッチ(第2締結要素)
R/B リバースブレーキ(締結要素)
図1
図2
図3
図4
図5
図6