(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】プロペラシャフト用摺動式等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/227 20060101AFI20230317BHJP
F16D 3/223 20110101ALI20230317BHJP
F16D 3/226 20060101ALI20230317BHJP
F16D 3/20 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
F16D3/227 G
F16D3/223
F16D3/226
F16D3/20 K
(21)【出願番号】P 2018082973
(22)【出願日】2018-04-24
【審査請求日】2021-03-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 正純
(72)【発明者】
【氏名】小林 智茂
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-073129(JP,A)
【文献】特開2000-314430(JP,A)
【文献】特開2007-100797(JP,A)
【文献】特開2007-224995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/223-3/229
F16D 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラシャフト用摺動式等速自在継手であって、
円筒状内周面に8本の直線状トラック溝が軸方向に沿って形成された外側継手部材と、球状外周面に前記外側継手部材の直線状トラック溝に対向する8本の直線状トラック溝が軸方向に沿って形成されると共に、雌スプラインが形成された連結孔を有する内側継手部材と、前記外側継手部材の直線状トラック溝と前記内側継手部材の直線状トラック溝との間に組み込まれた8個のトルク伝達ボールと、前記トルク伝達ボールをポケットに収容し、前記外側継手部材の円筒状内周面で接触案内される球状外周面及び前記内側継手部材の球状外周面で接触案内される球状内周面を有する保持器とを備え、前記保持器の球状外周面の曲率中心と球状内周面の曲率中心とが、それぞれ前記ポケットの中心に対して軸方向の反対側に等しいオフセット量(f)を有し、
前記内側継手部材の軸方向幅Wiと前記トルク伝達ボールのボール径Dbとの比Wi/Dbが1.2以上、1.4以下であり、
前記トルク伝達ボールのピッチ円直径PCD
BALLと前記トルク伝達ボールの直径Dbとの比PCD
BALL/Dbが3.3以上、3.6以下であり、
前記雌スプラインのピッチ円直径PCD
SPLと前記トルク伝達ボールの直径Dbとの比PCD
SPL/Dbが1.75以上、1.85以下であ
り、
前記内側継手部材の肉厚Tiと前記トルク伝達ボールのボール径Dbとの比Ti/Dbが0.30以上、0.45以下であり、
最大作動角が15°以下に設定されているプロペラシャフト用摺動式等速自在継手。
【請求項2】
前記保持器の軸方向幅Wcと前記トルク伝達ボールの直径Dbとの比Wc/Dbが1.8以上2.0以下である請求項1に記載のプロペラシャフト用摺動式等速自在継手。
【請求項3】
前記オフセット量(f)と前記トルク伝達ボールのピッチ円直径PCD
BALLとの比f/PCD
BALLが、0.07以上、0.09以下である請求項1又は2に記載のプロペラシャフト用摺動式等速自在継手。
【請求項4】
前記ポケットの軸方向壁面とトルク伝達ボールとの間に軸方向のポケットすきまδ1が設けられると共に、前記保持器の球状内周面と前記内側継手部材の球状外周面との間に軸方向すきまδ2が設けられている請求項1~3の何れか1項に記載のプロペラシャフト用摺動式等速自在継手。
【請求項5】
前記ポケットすきまδ1が0~0.050mmであると共に、前記軸方向すきまδ2が0.5~1.5mmである請求項4に記載のプロペラシャフト用摺動式等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プロペラシャフト専用の摺動式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪駆動車(4WD車)やフロントエンジン後輪駆動車(FR車)などの自動車に使用されるプロペラシャフトには軸方向変位と角度変位に対応できる摺動式等速自在継手が使用されている。この摺動式等速自在継手として、ダブルオフセット型摺動式等速自在継手(DOJ)や、トリポード型摺動式等速自在継手(TJ)、クロスグルーブ型摺動式等速自在継手(LJ)などが使用されている。
【0003】
近年、自動車の低燃費化に伴い、プロペラシャフトにおいても小型、軽量化が求められている。従来においては、構成部品の共通化という観点からドライブシャフト用に使用されている各部品(外側継手部材、内側継手部材、保持器など)が、外側継手部材の取付け部形状を変えて、その他の部品は、そのままプロペラシャフト用に用いられてきた。
【0004】
プロペラシャフトに用いられる摺動式等速自在継手の一つとしてダブルオフセット型摺動式等速自在継手(以下、DOJともいう)がある。下記の特許文献1には、DOJのボール個数を8個として小型、軽量化を図ったものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
DOJは、軸方向のスライド量を比較的大きく取ることができ、使用実績が豊富で性能が安定しており、さらに、ボール個数を8個とすることで小型、軽量化を図ることができる。本発明者らは、自動車の更なる低燃費化、プロペラシャフトの小型、軽量化、高速回転化の要求に対応すべく、プロペラシャフトに用いられている現行のDOJを種々検討した。
【0007】
本発明は、自動車の更なる低燃費化、プロペラシャフトの高速回転化の要求に貢献できる小型、軽量なプロペラシャフト専用の摺動式等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々検討し、以下の知見と着想によって、本発明に至った。
(1)
図11、
図12に示す現行の8個ボールタイプのプロペラシャフト用DOJは、ドライブシャフトにも使用できるように最大作動角を25°程度としているが、本発明者らは、DOJを、プロペラシャフト用としての必要特性に特化させることで、DOJの機能が限定できる点に着目した。具体的には、DOJをプロペラシャフト専用とすることで、最大作動角を低く制限する(例えば15°以下とする)ことができ、これによりDOJの小型、軽量化を達成できることを見出した。
(2)プロペラシャフト専用のDOJの最大作動角を低く制限することにより、次の具体的な技術的効果を得ることができる。
(a)各構成部品(外側継手部材、内側継手部材、保持器)の肉厚の低減による半径方向のコンパクト化、軽量化
(b)ボールの軸方向移動量の低減による内側継手部材の軸方向のコンパクト化、軽量化
(c)ボールの周方向移動量の低減による保持器の半径方向のコンパクト化、軽量化
(d)ポケット荷重の低減による保持器の軸方向のコンパクト化、軽量化
(3)加えて、プロペラシャフト用DOJの作動角が小さく、かつ略一定で、高速回転という動的な要因に着目して更なる軽量・コンパクト化の可能性を検討した。その結果、保持器のオフセット量を小さくすることを着想し、これが、上記の(2)の技術的効果を飛躍的に促進させ、従来とは質的に異なる軽量・コンパクト化が達成できることが判明した。
(4)さらに性能面で、保持器のポケットとボールとの間の軸方向のポケットすきまδ1と、保持器と内側継手部材の球面間の軸方向すきまδ2を併用することを着想し、プロペラシャフト専用DOJとしての寿命の向上、高速回転化、スライド抵抗の低減、車両の振動特性の効果を検証し、本発明の有利な構成に至った。
【0009】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、プロペラシャフト用摺動式等速自在継手であって、円筒状内周面に8本の直線状トラック溝が軸方向に沿って形成された外側継手部材と、球状外周面に前記外側継手部材の直線状トラック溝に対向する8本の直線状トラック溝が軸方向に沿って形成されると共に、雌スプラインが形成された連結孔を有する内側継手部材と、前記外側継手部材の直線状トラック溝と前記内側継手部材の直線状トラック溝との間に組み込まれた8個のトルク伝達ボールと、前記トルク伝達ボールをポケットに収容し、前記外側継手部材の円筒状内周面で接触案内される球状外周面及び前記内側継手部材の球状外周面で接触案内される球状内周面を有する保持器とを備え、前記保持器の球状外周面の曲率中心と球状内周面の曲率中心とが、それぞれ前記ポケットの中心に対して軸方向の反対側に等しいオフセット量(f)を有するダブルオフセット型摺動式等速自在継手で構成され、前記内側継手部材の軸方向幅Wiと前記トルク伝達ボールのボール径Dbとの比Wi/Dbが1.2以上、1.4以下であり、前記トルク伝達ボールのピッチ円直径PCDBALLと前記トルク伝達ボールの直径Dbとの比PCDBALL/Dbが3.3~3.6であることを特徴とする。
【0010】
DOJをプロペラシャフト専用とすることで、最大作動角を低く制限することができるため、内側継手部材に対するボールの軸方向移動量が小さくなる。これにより、内側継手部材のトラック溝の軸方向長さ、ひいては内側継手部材の軸方向幅Wiを縮小することができ、これによりDOJの軸方向のコンパクト化、軽量化を達成することができる。
【0011】
また、DOJの最大作動角を低く制限することにより、保持器のポケット内のボールの周方向移動量が小さくなるので、ポケットの周方向長さを短くすることができる。これにより、保持器を小径化することが可能になるため、ボールのピッチ円直径PCDBALLを小さくすることができるため、DOJの半径方向のコンパクト化、軽量化を達成することができる。
【0012】
また、DOJの最大作動角を低く制限することにより、保持器のポケットの軸方向壁面(軸方向で対向する面)に加わる荷重が低減されるため、保持器のうち、ボールから軸方向荷重を受ける領域(具体的には、ポケットの軸方向両側に設けられた環状部分)の軸方向幅を低減することができる。これにより、保持器の軸方向幅が低減され、DOJの軸方向のさらなるコンパクト化、軽量化を達成することができる。
【0013】
DOJでは、保持器の球状外周面の曲率中心と球状内周面の曲率中心を軸方向でオフセットさせることで、あらゆる作動角においてボールを作動角の二等分面上に保持し、これにより等速でのトルク伝達を実現している。プロペラシャフトのDOJは、作動角が小さくかつ略一定であるため、保持器の外周面の曲率中心と内周面の曲率中心とのオフセット量(f)を小さくしても、スムーズなトルク伝達が可能となる。本発明者らは、保持器のオフセット量(f)を小さくすることで、DOJの機能や耐久性を阻害することなく、保持器の軸方向寸法や半径方向肉厚を低減することが可能となることを見出し、これによりDOJのさらなる小型軽量化を実現した。また、保持器のオフセット量(f)を小さくすることで、保持器のポケットや外側継手部材の内周面に作用する力が低減されるため、高速回転で使用されるプロペラシャフト用のDOJにおいて発熱量を抑制することができる。
【0014】
上記のプロペラシャフト用摺動式等速自在継手では、保持器のポケットの軸方向壁面とトルク伝達ボールとの間に軸方向のポケットすきまδ1を設けると共に、上記の保持器の球状内周面と内側継手部材の球状外周面との間に軸方向すきまδ2を設けることが望ましい。これにより、保持器とボールとの摺動、及び、保持器と内側継手部材との摺動による温度上昇が抑制されるため、継手の寿命の向上や高速回転化に有効であると共に、継手のスライド抵抗が低減される。また、上記のポケットすきまδ1及び軸方向すきまδ2により、エンジンからの振動を吸収することができるため、車両の振動特性の向上を図ることができる。特に、ポケットすきまδ1を0~0.050mmとすると共に、軸方向すきまδ2を0.5~1.5mmとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自動車の更なる低燃費化、プロペラシャフトの高速回転化の要求に貢献できる、小型、軽量なプロペラシャフト専用の摺動式等速自在継手を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るプロペラシャフト用摺動式等速自在継手が装着されたプロペラシャフトを示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るプロペラシャフト用摺動式等速自在継手を示し、(a)図は(b)図のB-N-B線における縦断面図であり、(b)図は(a)図のA-A線における横断面図である。
【
図3】本実施形態に係るプロペラシャフト用摺動式等速自在継手とプロペラシャフトに用いられている現行の摺動式等速自在継手のそれぞれの縦断面を対比したもので、(a)図は、
図2(a)の摺動式等速自在継手の軸線N-Nより上半分の縦断面を上側に示し、
図11(a)の摺動式等速自在継手の軸線N-Nより上半分の縦断面を反転させて下側に示した図である。(b)図は、
図2(a)の摺動式等速自在継手の軸線N-Nより下半分の縦断面を反転させて上側に示し、
図11(a)の摺動式等速自在継手の軸線N-Nより下半分の縦断面を下側に示した図である。
【
図4】
図2(a)の摺動式等速自在継手(上半分)と
図11(a)の摺動式等速自在継手(下半分)の内側継手部材及びボールとの軸方向移動状態を対比した断面図である。
【
図5】
図2(a)の内側継手部材、保持器およびボールを拡大した縦断面図である。
【
図6】(a)図は、
図5のC部の拡大図であり、(b)図は、
図5のD部の拡大図である。
【
図7】(a)図は、ポケットすきまδ1及び軸方向すきまδ2を設けていない標準仕様の内側継手部材、保持器およびボールを示す縦断面図である。(b)図は、ポケットすきまδ1と軸方向すきまδ2を設けた仕様の内側継手部材、保持器およびボール示す縦断面図である。(c)図は、ポケットすきまδ1と軸方向すきまδ2を設けた別の仕様の内側継手部材、保持器およびボール示す縦断面図である。
【
図8】
図2の摺動式等速自在継手の最大作動角を示す縦断面図である。
【
図9】
図2の摺動式等速自在継手のブーツ装着状態で取れる作動角を示す縦断面図である。
【
図10】
図2(b)の摺動式等速自在継手の横断面と
図11(b)の摺動式等速自在継手の横断面とを比較した図である。
【
図11】現行の摺動式等速自在継手を示し、(a)図は(b)図のF-N-F線における縦断面図であり、(b)図は(a)図のE-E線における横断面図である。
【
図12】
図11の摺動式等速自在継手を組み立てた状態を示す縦断面図である。
【
図13】FFベースの4WD車の駆動系の概要を示す平面図である。
【
図14】FRベースの4WD車の駆動系の概要を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
まず、プロペラシャフトを用いた四輪駆動車(以下、4WD車ともいう)を例にして駆動系の概要を
図13、
図14に基づいて説明する。
【0019】
図13に示すように、FF(フロントエンジン前輪駆動)ベースの4WD車の駆動系は、エンジン100→トランスアクスル113→デファレンシャル111→トランスファ112→プロペラシャフト(リヤプロペラシャフト)102→デファレンシャル103→ドライブシャフト104→リヤ側車輪105という駆動力の伝達が行われる。また、フロント側において、エンジン100→トランスアクスル113→デファレンシャル111→ドライブシャフト109→フロント側車輪110という駆動力の伝達が行われる。
【0020】
図14に示すように、FR(フロントエンジン後輪駆動)ベースの4WD車の駆動系は、エンジン100→トランスミッション101→プロペラシャフト(リヤプロペラシャフト)102→デファレンシャル103→ドライブシャフト104→リヤ側車輪105という駆動力の伝達が行われる。また、フロント側において、エンジン100→トランスミッション101→トランスファ106→プロペラシャフト(フロントプロペラシャフト)107→デファレンシャル108→ドライブシャフト109→フロント側車輪110という駆動力の伝達が行われる。
【0021】
FFベース、FRベースのいずれの4WD車においも、最終減速機となるデファレンシャル103、108、111を経たドライブシャフト104、109に用いられる等速自在継手45、46、47は、最大回転数が2000min-1程度、常用最大作動角が15°程度である。作動角の挙動として、ドライブシャフト104、109に用いられる等速自在継手45、46、47では、車輪105、110の上下動があるので、これに追従する作動角が必要で、かつ、作動角が常時変動する。加えて、フロント側車輪110の場合は、車輪側の固定式等速自在継手46には転舵のための大きな作動角が必要になる。本実施形態では、フロント側車輪110に取り付けられる固定式等速自在継手46の最大作動角は45°程度であり、それ以外の等速自在継手46、47の最大作動角は20~25°程度である。
【0022】
一方、プロペラシャフト102、107は、最終減速機となるデファレンシャル103、108、111の手前に配置されるので、高速回転で使用され、具体的には最大回転数が8000min
-1程度である。また、デファレンシャル103、108、111は独立懸架車では車体側に取付けられ、かつ、プロペラシャフト102、107の全長は長いので、プロペラシャフト102、107に用いられる等速自在継手1の作動角は、小さく、かつ略一定である。具体的には、等速自在継手1の常用最大作動角は10°以下であり、最大作動角は15°程度である。さらに、プロペラシャフト102、107に用いられる等速自在継手1は、ドライブシャフト104、109に用いられる等速自在継手45、46、47より、伝達トルクが大幅に小さい。尚、
図13、
図14では、プロペラシャフト102、107に用いられる自在継手43、44、48、49をクロスジョイントで例示したが、これらの自在継手43、44、48、49の少なくとも一部は、等速自在継手が用いられる場合もある。
【0023】
FFベースの4WD車のプロペラシャフトを例にして、プロペラシャフトの概要を
図1に基づいて説明する。プロペラシャフト102は、前方(図中右側、
図13のエンジン100側)に位置する第1のプロペラシャフト41と、後方(図中左側、
図13のデファレンシャル103側)に位置する第2のプロペラシャフト42とから構成されている。
【0024】
第1のプロペラシャフト41は、主要部が中空パイプ64で構成され、一端(前端)が、クロスジョイント43を介してエンジン100の出力側(トランスファ112、
図13参照)に連結されている。第1プロペラシャフト41の中空パイプ64の他端(後端)には、摺動式等速自在継手1が接続されている。この摺動式等速自在継手1が、本実施形態に係るプロペラシャフト用摺動式等速自在継手である。
【0025】
第2のプロペラシャフト42は、主要部が中空パイプ65で構成され、一端(前端)が、ベアリングサポート60により回転自在に支持されている。具体的には、ベアリングサポート60は、ブラケット61、弾性部材62および転がり軸受63とからなり、弾性部材62の外環62aがブラケット61に嵌合し、弾性部材62の内環62bが転がり軸受63に嵌合している。第2のプロペラシャフト42の一端にはシャフト20が設けられ、シャフト20の外周が転がり軸受63に嵌合して半径方向に弾性支持されている。シャフト20の一端(前端)は、摺動式等速自在継手1の内側継手部材の連結孔に連結されている。第2のプロペラシャフト42の他端(後端)は、クロスジョイント44を介してデファレンシャル103(
図13参照)に接続されている。以上のように、第1のプロペラシャフト41と第2のプロペラシャフト42とは、軸方向に連結した構成となっている。
【0026】
本実施形態に係るプロペラシャフト用摺動式等速自在継手1の全体構成を
図2(a)、
図2(b)に基づいて説明する。
【0027】
本実施形態に係るプロペラシャフト用摺動式等速自在継手(以下、単に摺動式等速自在継手ともいう)1は、いわゆる、ダブルオフセット型摺動式等速自在継手(以下、DOJともいう)であり、外側継手部材2、内側継手部材3、トルク伝達ボール4および保持器5を主な構成とする。外側継手部材2の円筒状内周面6には、8本の直線状トラック溝7が円周方向に等間隔で、かつ軸方向に沿って形成されている。内側継手部材3の球状外周面8には、外側継手部材2のトラック溝7と対向する8本の直線状トラック溝9が円周方向に等間隔で、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材2の直線状トラック溝7と内側継手部材3の直線状トラック溝9との間にトルク伝達ボール(以下、単にボールともいう)4が1個ずつ組み込まれている。ボール4は保持器5のポケット5aに収容されている。
【0028】
保持器5は、球状外周面12と球状内周面13を有し、球状外周面12は外側継手部材2の円筒状内周面6と嵌合して接触案内され、球状内周面13は内側継手部材3の球状外周面8と嵌合して接触案内されている。保持器5の球状外周面12は曲率中心O1を有し、球状内周面13は曲率中心O2を有している。曲率中心O1、O2は、保持器5のポケット5aの中心O3に対して軸方向の反対側に等しいオフセット量fを有する。ここで、ポケット5aの中心O3は、8個のポケット5aのそれぞれの軸方向の中心を含む平面と継手の軸線N-Nとの交点を意味する。これにより、継手が作動角を取った場合、外側継手部材2と内側継手部材3の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール4が常に案内され、二軸間で回転トルクが等速で伝達される。
【0029】
図2(a)に示すように、外側継手部材2の一端〔
図2(a)の右端〕に第1のプロペラシャフト41の中空パイプ64と接合される大径部2aが形成され、大径部2aの近傍の内周孔にシールカバー16が装着されている。内側継手部材3の軸心を貫通する連結孔10には雌スプライン(セレーションを含む)11が形成されており、シャフト20(
図1、
図8参照)の雄スプライン21が嵌合連結され、止め輪22により軸方向に固定されている。
【0030】
外側継手部材2の他端(開口側端部)の内周には止め輪溝14が設けられる。この止め輪溝14に装着された止め輪23(
図8参照)により、内側継手部材3、ボール4および保持器5からなる内側組立体が、外側継手部材2の開口側端部から抜け出すのを防止する。保持器5の大径側端部〔
図2(a)の右側端部〕の内周には、内側継手部材3を組み込むための円筒面状の切欠き5cが設けられている。外側継手部材2の開口側端部の外周にブーツ装着溝15が設けられている。
図9に示すように、外側継手部材2のブーツ装着溝15とシャフト20のブーツ装着溝20aにブーツ25が装着され、ブーツバンド27、26により締付け固定されている。ブーツ25とシールカバー16とが協働して、継手内部に封入されたグリースの外部漏洩や継手外部からの異物侵入が防止される。
【0031】
本実施形態の摺動式等速自在継手1の全体的な構成は以上のとおりであるが。次に特徴的な構成を説明する。本実施形態の摺動式等速自在継手1の特徴的な構成に至った開発過程の知見と着想は次のとおりである。
(1)ダブルオフセット型摺動式等速自在継手(DOJ)は、軸方向のスライド量を比較的に大きく取ることができ、使用実績が豊富で性能が安定しており、さらに、ボール個数を8個とすることで小型、軽量化を図ることができる。これらの点に着目し、自動車の更なる低燃費化、プロペラシャフトの小型、軽量化、高速回転化の要求に対応すべく、
図11、
図12に示す現行のプロペラシャフトに用いられているDOJを種々検討した。その結果、現行のDOJは、ドライブシャフトにも使用できるように最大作動角を25°程度としているが、プロペラシャフト用としての必要特性に特化させることで、DOJの機能が限定できる点に着目した。具体的には、DOJをプロペラシャフト専用とすることで、最大作動角を低く制限する(例えば15°以下とする)ことができ、これによりDOJの小型、軽量化を達成できることを見出した。
(2)プロペラシャフト専用のDOJの最大作動角を低く制限することにより、次の具体的な技術的効果を得ることができる。
(a)各構成部品(外側継手部材、内側継手部材、保持器)の半径方向肉厚の低減による半径方向のコンパクト化、軽量化
(b)ボールの軸方向移動量の低減による内側継手部材の軸方向のコンパクト化、軽量化
(c)ボールの周方向移動量の低減による保持器の半径方向のコンパクト化、軽量化
(d)ポケット荷重の低減による保持器の軸方向のコンパクト化、軽量化
(3)加えて、プロペラシャフト用DOJの作動角が小さく、かつ略一定で、高速回転という動的な要因に着目して更なる軽量・コンパクト化の可能性を検討した。その結果、保持器のオフセット量を小さくすることを着想し、これが、上記の(2)の技術的効果を促進させ、DOJのさらなる軽量・コンパクト化が達成できることが判明した。
【0032】
上記の特徴的な構成について、
図11、
図12に示す現行の摺動式等速自在継手と比較して説明する。
図11、
図12に示すように、現行の摺動式等速自在継手201は、8個のトルク伝達ボール204を使用したダブルオフセット型摺動式等速自在継手で、外側継手部材202、内側継手部材203、トルク伝達ボール204および保持器205を主な構成とし、最大作動角は25°程度である。本実施形態に係る摺動式等速自在継手1のトルク伝達ボール4の直径Dbと、現行の摺動式等速自在継手201のトルク伝達ボール204の直径Db’とは等しい。基本的な内部構成は、本実施形態のプロペラシャフト用摺動式等速自在継手1と同様であるので、本実施形態のプロペラシャフト用摺動式等速自在継手1と同じ機能を有する部位には本実施形態に付した符号に200を加算した符号を付し、ポケットの中心、曲率中心、オフセット量などのアルファベット符号については本実施形態の符号にダッシュ(’)を付している。
【0033】
本実施形態に係る摺動式等速自在継手1と現行の摺動式等速自在継手201のそれぞれの縦断面を
図3(a)、
図3(b)に基づいて対比して説明する。
図3(a)は、
図2(a)の軸線N-Nより上半分の縦断面を上側に示し、
図11(a)の軸線N-Nより上半分の縦断面を反転させて下側に示した図である。
図3(b)は、
図2(a)の軸線N-Nより下半分の縦断面を反転させて上側に示し、
図11(a)の軸線N-Nより下半分の縦断面を下側に示した図である。
【0034】
図3(b)の継手の軸線N-Nの上側に示す本実施形態の摺動式等速自在継手1の最大作動角は15°に設定されている。これに伴い、保持器5の外周の円錐状ストッパ面5dの傾斜角βは、最大作動角15°の1/2である7.5°に形成されている。そのため、
図8に示すように、摺動式等速自在継手1は、ブーツを装着前の状態で最大作動角θmax=15°を取ることができる。ただし、最大作動角は15°以下の適宜の角度に設定してもよい。このように、作動角を取ったとき、外側継手部材2の円筒状内周面6と保持器5の外周の円錐状ストッパ面5dが当接することにより最大作動角が規制される。本明細書において最大作動角とは上記の意味を有する。なお、摺動式等速自在継手1にブーツを装着した完成状態では、
図9に示すように、作動角を取ったとき、ブーツ25とシャフト20が当接することにより、取れる作動角が規制され、上記の最大作動角より小さくなる。
【0035】
上記に対して、
図3(b)の継手の軸線N-Nの下側に示す現行の摺動式等速自在継手201の最大作動角はドライブシャフトに使用可能なように25°程度に設定されており、保持器205の外周面の円錐状ストッパ面205dの傾斜角β’は、最大作動角25°の1/2である12.5°に形成されている。
【0036】
ボールタイプの等速自在継手では、作動角0°のときは各ボールが均等に負荷を受けるが、作動角を取ると各ボールに不均等な荷重が掛かり、作動角が高くなるほど、その差が大きくなる。したがって、高い作動角の場合には、1か所のボールに掛かる最大荷重も大きくなるために、ボールと接触する内側継手部材、外側継手部材、及び保持器は、ボールから受ける最大荷重に耐え得るだけの厚い肉厚が要求される。これに対し、本実施形態の摺動式等速自在継手1では、最大作動角を低く制限することにより、構成部品である外側継手部材2、内側継手部材3および保持器5の必要強度を抑制できるため、これらの肉厚を薄くすることができる。また、最大作動角を低く制限することで、最大作動角時の保持器5のポケット5a内におけるボール4の半径方向移動量も小さくなることから、保持器5の肉厚を薄くすることができる。
【0037】
具体的には、
図3(a)、
図3(b)に示すように、本実施形態の摺動式等速自在継手1の外側継手部材2の肉厚To(詳しくは、外側継手部材2のトラック溝7の溝底と外周面との半径方向距離)、内側継手部材3の肉厚Ti(詳しくは、内側継手部材3のトラック溝9の溝底と雌スプライン11のピッチ円との半径方向距離)は、現行の摺動式等速自在継手201の外側継手部材202の肉厚To’、内側継手部材203の肉厚Ti’より、それぞれ薄くなっている。最適値としては、内側継手部材3の肉厚Tiとボール径Dbとの比Ti/Dbは0.30~0.45である。また、外側継手部材2の肉厚Toとボール径Dbとの比To/Dbは0.25~0.29である。
【0038】
ボールタイプの等速自在継手では、作動角が高くなるほど、保持器に対するボールの周方向移動量が大きくなる。現行の8個ボールを使用した摺動式等速自在継手201では、最大作動角を25°程度に設定しているため、保持器205に対するボール204の周方向移動量が大きく、ボール204を収容する保持器205のポケット205aの周方向長さを長くする必要がある。また、保持器205の柱部205b〔
図11(b)参照〕の強度を確保するために、柱部205bの周方向寸法の縮小には限界がある。その結果、保持器205の外径が大きくなり、摺動式等速自在継手201の十分な小型化ができなかった。また、それに伴って、内側継手部材203の肉厚Ti’も必要以上に厚いものとなっていた。
【0039】
これに対し、上記のように摺動式等速自在継手1の最大作動角を低く制限することにより、保持器5のポケット5a内のボール4の周方向移動量が小さくなるので、ポケット5aの周方向長さを短くすることができ、保持器5の小径化、ひいては摺動式等速自在継手1の半径方向のコンパクト化が可能になる。また、保持器5を小径化することにより、内側継手部材3の肉厚を適正化して、ボール4のピッチ円直径PCDBALLを小さくすることができる。これに伴って、外側継手部材2の外径Doを小さくすることができる。最適値としては、ボール4のピッチ円直径PCDBALLとボール4の直径Dbとの比PCDBALL/Dbが3.3以上、3.6以下である。
【0040】
本実施形態の摺動式等速自在継手1と現行の摺動式等速自在継手201のそれぞれの横断面を
図10に対比して示す。本実施形態の摺動式等速自在継手1は、現行の摺動式等速自在継手201に比べて、外側継手部材2の外径Doで5%以上のコンパクト化を実現した。外側継手部材2の外径Doとボール4の直径Dbとの比Do/Dbの最適値は、2.7以上、3.0以下である。
【0041】
また、上記のように摺動式等速自在継手1の最大作動角を低く制限することにより、内側継手部材3の強度に余裕ができ、低作動角時の最弱部品であるシャフト20を強化することができる。すなわち、内側継手部材3の雌スプライン11のピッチ円直径(PCDSPL)をアップさせることができ、その結果、低作動角時のプロペラシャフトの強度向上を図ることができる。最適値としては、雌スプライン11のピッチ円直径PCDSPLとボール4の直径Dbとの比PCDSPL/Dbが1.75以上、1.85以下である。一方、雌スプライン11のピッチ円直径(PCDSPL)を現行のままとし、内側継手部材3の半径方向のコンパクト化の促進を図ることも可能である。
【0042】
また、上記のように摺動式等速自在継手1の最大作動角を低く制限することにより、内側継手部材3、保持器5の軸方向幅を短縮することができ、摺動式等速自在継手1の軽量化、軸方向のコンパクト化が図られる。
図3(a)、
図3(b)に示すように、摺動式等速自在継手1の内側継手部材3の軸方向幅Wi、保持器5の軸方向幅Wcは、現行の摺動式等速自在継手201の内側継手部材203の軸方向幅Wi’、保持器205の軸方向幅Wc’に比べて大幅に短縮されている。
【0043】
上記の摺動式等速自在継手1では、最大作動角によってボール4の軸方向移動量が決まってくるため、それに合わせて内側継手部材3の軸方向幅Wiを設定すればよい。ボール4の軸方向移動量と内側継手部材3の軸方向幅Wiの関係を
図4に基づいて具体的に説明する。
図4は、本実施形態に係る摺動式等速自在継手1と、プロペラシャフトに用いられている現行の摺動式等速自在継手201とにおいて、それぞれの内側継手部材とボールとの軸方向移動状態を対比した図である。摺動式等速自在継手1におけるボール4の軸方向移動量はZiであり、現行の摺動式等速自在継手201におけるボール204の軸方向移動量はZi’である。軸方向移動量Ziは、最大作動角が低い分、軸方向移動量Zi’に比べて短くなる。内側継手部材3の軸方向幅Wi、内側継手部材203の軸方向幅Wi’は、軸方向移動量Zi、Zi’のそれぞれに合わせて設定されているので、摺動式等速自在継手1の内側継手部材3の軸方向幅Wiは、現行の摺動式等速自在継手201の内側継手部材203の軸方向幅Wi’に比べて大幅に短縮される。
【0044】
内側継手部材3の軸方向幅Wiが短すぎると、内側継手部材3の雌スプライン11とシャフト20の雄スプライン21とのスプライン嵌合長さが不足し、内側継手部材3とシャフト20との結合強度不足が生じる。しかし、上記のように摺動式等速自在継手1の最大作動角を低く制限することで、内側継手部材3の強度に余裕ができるため、雌スプライン11のピッチ円直径(PCDSPL)を通常より大きく設定できる。これが、低作動角時の最弱部品であるシャフト20の捩り強度、並びにスプライン歯面圧について有利に働くことで、スプライン嵌合長さを短縮することができるため、内側継手部材の軸方向幅Wiを短縮して軽量化を図ることができる。最適値としては、内側継手部材3の軸方向幅Wiとボール径Dbとの比Wi/Dbは1.2~1.4である。
【0045】
上記のように摺動式等速自在継手1の最大作動角を制限することにより、保持器5のポケット5aに掛かるボール荷重が低減される。これにより、ポケット5aの軸方向壁面と保持器5の端面との間の軸方向肉厚(すなわち、ポケット5aの軸方向両側に設けられた環状部分の軸方向肉厚)を低減でき、もって軽量化が図られる。具体的には、
図3(b)に示すように、摺動式等速自在継手1の保持器5の軸方向幅Wcは、現行の摺動式等速自在継手201の保持器205の軸方向幅Wc’に比べて大幅に短縮されている。最適値としては、保持器5の軸方向幅Wcとボール径Dbとの比Wc/Dbは1.8~2.0である。
【0046】
以上に説明した本実施形態の摺動式等速自在継手1の軽量化、コンパクト化の技術的効果を飛躍的に促進させた保持器の小オフセット量化について、
図3(b)に基づいて説明する。開発過程において、プロペラシャフト用摺動式等速自在継手1の最大作動角が小さく、かつ角度が略一定で、高速回転という動的な要因に着目し、軽量・コンパクト化の可能性を抜本的に検討した。その結果、保持器5のオフセット量fを小さくすることが可能であることを着想し、これが上述した技術的効果を飛躍的に促進させ、摺動式等速自在継手1のさらなる軽量・コンパクト化が達成できることが判明した。
【0047】
図3(b)に示すように、摺動式等速自在継手1の保持器5のオフセット量fは、現行の摺動式等速自在継手201の保持器205のオフセット量f’に比べて小さく設定されている。摺動式等速自在継手1では、プロペラシャフト専用の仕様として、保持器5のオフセット量fとボール4のピッチ円直径PCD
BALL〔
図3(a)参照〕との比f/PCD
BALLが、0.07以上、0.09以下に設定されている。このような保持器5の小オフセット量化により、摺動式等速自在継手1のさらなる軽量・コンパクト化が達成できる。また、保持器5のオフセット量fを小さくすることで、保持器5のポケット5aや外側継手部材2の内周面6に作用する力が低減されるため、高速回転で使用されるプロペラシャフト用の摺動式等速自在継手1において発熱量を抑制することができる。なお、現行の摺動式等速自在継手201の保持器205のオフセット量f’とボール204のピッチ円直径PCD
BALL’〔
図3(a)参照〕との比f’/PCD
BALL’は、0.09を超える値に設定されている。
【0048】
本実施形態の摺動式等速自在継手1と現行の摺動式等速自在継手201との各寸法比率を表1に示す。
【0049】
【0050】
次に、プロペラシャフト用摺動式等速自在継手1としての振動特性、低発熱化、高速回転化という性能面での特徴を
図5~
図7に基づいて説明する。
【0051】
図5に示すように、保持器5のポケット5aの軸方向壁面とボール4との間には、軸方向のポケットすきまδ1が設けられている。保持器5のポケット5aの軸方向壁面の間の寸法をLcとし、ボール4のボール径Dbとすると、ポケットすきまδ1は、δ1=Lc-Dbで表される。
【0052】
図6に示すように、保持器5の球状内周面13と内側継手部材3の球状外周面8との間には、軸方向すきまδ2が設けられている。軸方向すきまδ2は、例えば、保持器5を固定した状態で、内側継手部材3を軸方向一方側に移動させて内側継手部材3の球状外周面8を保持器5の球状内周面13に当接させた位置から、内側継手部材3を軸方向他方側に移動させて内側継手部材3の球状外周面8が保持器5の球状内周面13に当接する位置までの軸方向の相対移動量である。
【0053】
上記のようなポケットすきまδ1及び軸方向すきまδ2を設けることにより、摺動式等速自在継手1のスライド抵抗が低減され、車両の振動特性の向上が図れると共に、抑温効果による摺動式等速自在継手1の寿命の向上が期待できる。特に、プロペラシャフトでは、ドライブシャフトに比べて高速回転で使用されるために有効である。
【0054】
ポケットすきまδ1は、0~0.05mmに設定することが好ましい。ポケットすきまδ1は、少しでも設けておけば効果を発揮することができる。また、ポケットすきまδ1が0.05mmより大きい場合は、作動角の二等分面からのボール4の外れ量が大きくなり、摺動式等速自在継手1の等速性、耐久性の低下につながる可能性がある。
【0055】
軸方向すきまδ2は、0.5~1.5mm程度に設定することが好ましい。軸方向すきまδ2が0.5mmより小さい場合は、エンジンからの振動量(軸方向振幅量)を内側継手部材3と保持器5との間の軸方向の相対移動量で吸収できず、振動を伝播してしまう可能性がある。一方、軸方向すきまδ2が1.5mmより大きい場合は、作動角の二等分面からのボール4の外れ量が大きくなり、摺動式等速自在継手1の等速性、耐久性の低下につながる可能性がある。
【0056】
ポケットすきまδ1と軸方向すきまδ2の各仕様について、
図7(a)、
図7(b)、
図7(c)に基づいて説明する。
図7(a)に示す標準仕様では、保持器5のポケット5aの軸方向壁面とボール4との間に軸方向のポケットすきまδ1が設けられていない。また、保持器5の球状内周面13の曲率半径Rcと内側継手部材3の球状外周面8の曲率半径Riとは、摺動案内のための僅かな球面すきまはあるが、実質的にRc≒Riであり、軸方向すきまδ2は設けられていない。
【0057】
本実施形態の摺動式等速自在継手1は、
図7(b)、
図7(c)に示すように、ポケットすきまδ1と軸方向すきまδ2(
図5参照)を設けた仕様となっている。
図7(b)に示す仕様では、ポケットすきまδ1を設けると共に、保持器5の球状内周面13の曲率半径Rc’を内側継手部材3の球状外周面8の曲率半径Riより大きくし、かつ、曲率半径Rc’の曲率中心を保持器5の軸心より半径方向にオフセットさせている。これにより、内側継手部材3の軸方向の中央で内側継手部材3の球状外周面8と保持器5の球状内周面13が当接するが、内側継手部材3の両側では軸方向すきまδ2(
図5参照)が形成される。
【0058】
図7(c)は、ポケットすきまδ1と軸方向すきまδ2を設けた別の仕様を示す。この仕様では、内側継手部材3の球状外周面8は曲率半径Riの単一の球面で形成されているが、保持器5の球状内周面13は、内側継手部材3の軸方向の中央に対応する位置に、Sの範囲で円筒部13aが形成され、円筒部13aの両端部に曲率半径Rcの球面が滑らかに接続されている。保持器5の球状内周面13の曲率半径Rcと内側継手部材3の球状外周面8の曲率半径Riとは、摺動案内のための僅かな球面すきまはあるが、実質的にRc≒Riである。この仕様では、保持器5と内側継手部材3とが軸方向に相対移動する際、内側継手部材3の球状外周面8の軸方向の中央が円筒部13aによって摺動案内されるため、滑らかに相対移動できる。
【0059】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0060】
1 プロペラシャフト用摺動式等速自在継手
2 外側継手部材
3 内側継手部材
4 トルク伝達ボール
5 保持器
102 プロペラシャフト
107 プロペラシャフト
O1 保持器の球状外周面の曲率中心
O2 保持器の球状内周面の曲率中心
O3 保持器のポケットの中心