(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】鉄道用トンネル内輸送車両
(51)【国際特許分類】
B62D 61/10 20060101AFI20230317BHJP
B62D 63/02 20060101ALI20230317BHJP
B60P 3/00 20060101ALI20230317BHJP
B62D 53/00 20060101ALI20230317BHJP
B62D 1/22 20060101ALI20230317BHJP
B62D 7/15 20060101ALI20230317BHJP
B62D 7/14 20060101ALI20230317BHJP
B62D 12/02 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
B62D61/10
B62D63/02
B60P3/00 Z
B62D53/00 Z
B62D1/22
B62D7/15 B
B62D7/14 B
B62D12/02
(21)【出願番号】P 2019012027
(22)【出願日】2019-01-28
【審査請求日】2021-12-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日:平成30年6月8日 集会名:平成30年度 関西・中国支部「鉄道施設技術発表会(保線部門)」 開催場所:大阪コロナホテル 別館(〒533-0031 大阪府大阪市東淀川区西淡路1丁目3番21号)
(73)【特許権者】
【識別番号】390007607
【氏名又は名称】大鉄工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509304922
【氏名又は名称】両備ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 貢
(72)【発明者】
【氏名】坂本 士
(72)【発明者】
【氏名】守分 巧
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-348713(JP,A)
【文献】特開2018-118582(JP,A)
【文献】特開平10-035513(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19914564(DE,A1)
【文献】特開平07-276966(JP,A)
【文献】実開平05-007561(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 61/10
B62D 63/02
B60P 3/00
B62D 53/00
B62D 1/00- 1/28
B62D 7/00- 7/22
B62D 9/00-15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道用トンネル内に設けられた通路を走行する車両であって、
前後に並んだ車体前方部および車体後方部を含む車体と、
前記車体前方部および車体後方部を連結するヒンジと、
前記車体に対して左右に回動可能な前輪および後輪、を含
み、前記通路の表面上を転がる3つ以上の車輪と、
前記3つ以上の車輪の少なくとも一つを表す駆動輪を、前記車両が前進する前進方向、および、前記車両が後進する後進方向、から選択されたいずれかの方向に回転させるパワートレインと、
前記駆動輪の回転方向を前記前進方向および後進方向から選択するときに人によって操作される前後進切替ハンドルと、
前記車体の前端部に配置されており、前記車両の前進時に運転者が座るフロントシートと、
前記車体の後端部に配置されており、前記車両の後進時に運転者が座るリアシートと、
平面視で前記フロントシートと前記リアシートとの間に配置されており、人および荷物の少なくとも一方が載せられる輸送台と
、
前記通路の側面に前記車体が接触することを防止する少なくとも一つのガイドローラとを備え
、
前記車体は、前記ヒンジを中心に上下に屈曲可能であり、
前記車両の幅の最大値は、前記フロントシートおよびリアシートの幅よりも大きく、1000mm未満である、鉄道用トンネル内輸送車両。
【請求項2】
前記パワートレインは、前記駆動輪を前記前進方向および後進方向のいずれかの方向に回転させる油圧モータと、前記油圧モータを回転させる油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動する原動機とを備える、請求項
1に記載の鉄道用トンネル内輸送車両。
【請求項3】
前記車両を旋回させるときに、前記フロントシートに座る運転者によって操作されるフロントステアリングハンドルと、
前記車両を旋回させるときに、前記リアシートに座る運転者によって操作されるリアステアリングハンドルと、
運転者が前記フロントステアリングハンドルおよびリアステアリングハンドルの一方を操作して、前記前輪および後輪の一方を前記車体に対して右回りまたは左回りに回動させると、前記前輪および後輪の他方を前記車体に対して前記前輪および後輪の一方とは反対の回動方向に回動させる操舵輪連動機構とをさらに備える、請求項1~
2のいずれか一項に記載の鉄道用トンネル内輸送車両。
【請求項4】
前記鉄道用トンネル内輸送車両は、前記前輪を前記通路の表面から浮かすフロントジャッキと、前記後輪を前記通路の表面から浮かすリアジャッキとをさらに備え、
前記フロントジャッキおよびリアジャッキのそれぞれは、前記前輪または後輪が前記通路の表面から離れているときに前記通路の表面に接するキャスターを備える、請求項1~
3のいずれか一項に記載の鉄道用トンネル内輸送車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道用トンネル内に設けられた通路を走行して、人および荷物の少なくとも一方を輸送する鉄道用トンネル内輸送車両に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載されているように、新幹線用のトンネル内には、上りと下りの線路の間に中央通路と呼ばれる、幅1メートル程度の狭い通路がある。この通路は、線路を保守する作業員の移動や資材の輸送等に用いられる。
特許文献1に記載されているように、中央通路に到達するには地下通路を通る必要がある。地下通路などの中央通路に至る通路には、曲線半径が極めて小さい円弧コーナーや、概ね直角に折れ曲がった直角コーナーが存在することがある。駅のホームの下を通る地下通路は、天井が極めて低いこともある。車幅、車高、および最小回転半径の制限が極めて厳しいので、一般的な車両は、これらの通路を通ることができない。そのため、これらの通路を利用して作業員や資材を輸送する場合は、専用の車両が用いられる。
【0003】
特許文献1には、2台の牽引車とこれらの間に配置された付随車とを備える連結車両が開示されている。一方の牽引車は、付随車の前方に配置されており、他方の牽引車は、付随車の後方に配置されている。各牽引車には、モータなどの駆動源と、ステアリングと、アクセルとが設けられている。レーザーを用いてコンクリート構造体の健全度を測定する計測機器等は、付随車に載せられ、運搬される。
【0004】
特許文献1に記載の連結車両を前進させる場合は、前方の牽引車に乗る運転者がこの牽引車を走行させる。これにより、付随車と後方の牽引車とが牽引される。連結車両を後進させる場合は、後方の牽引車に乗る運転者がこの牽引車を走行させる。これにより、付随車と前方の牽引車とが牽引される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、特許文献1に記載の連結車両では、2台の牽引車を使い分けることで連結車両を前進および後進させる。言い換えると、牽引車が1台しかない場合は、連結車両を前進させることはできても、後進させることはできない。中央通路の幅が極めて狭いので、連結車両を中央通路内でUターンさせることはできない。したがって、連結車両を中央通路で後進させる場合は、牽引車を人力で連結車両の後方に移動させる必要がある。牽引車を2台設ければ、これを行う必要はないが、牽引車が1台追加で必要になる。
【0007】
そこで、本発明の目的の一つは、車両を前進および後進させるための2台の牽引車が不要である鉄道用トンネル内輸送車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、鉄道用トンネル内に設けられた通路を走行する車両であって、車体と、前記車体に対して左右に回動可能な前輪および後輪を含む3つ以上の車輪と、前記3つ以上の車輪の少なくとも一つを表す駆動輪を、前記車両が前進する前進方向、および、前記車両が後進する後進方向、から選択されたいずれかの方向に回転させるパワートレインと、前記駆動輪の回転方向を前記前進方向および後進方向から選択するときに人によって操作される前後進切替ハンドルと、前記車体の前端部に配置されており、前記車両の前進時に運転者が座るフロントシートと、前記車体の後端部に配置されており、前記車両の後進時に運転者が座るリアシートと、平面視で前記フロントシートと前記リアシートとの間に配置されており、人および荷物の少なくとも一方が載せられる輸送台とを備える、鉄道用トンネル内輸送車両(以下では、単に「車両」ともいう。)を提供する。
【0009】
この構成によれば、人および荷物の少なくとも一方が載せられる輸送台が、フロントシートとリアシートとの間に配置されている。したがって、中央通路などの通路内で人および荷物の少なくとも一方を輸送できる。さらに、車両の前進および後進は、2台の牽引車を使い分けるのではなく、前後進切替ハンドルを操作してパワートレインの回転方向を変更することにより切り替えられる。したがって、車両を前進および後進させるために2台の牽引車を設ける必要がなく、車両単独で前進および後進できる。
【0010】
前輪および後輪は、車体に対して左右に回動可能な操舵輪に相当する。駆動輪は、前輪および後輪の少なくとも一方であってもよいし、前輪および後輪以外の車輪であってもよい。例えば、前輪よりも後方で後輪よりも前方に配置された中央輪が、駆動輪であってもよい。前輪および後輪の少なくとも一方と前輪および後輪以外の車輪とが、駆動輪であってもよい。
【0011】
前記実施形態において、以下の特徴の少なくとも1つを、前記鉄道用トンネル内輸送車両に加えてもよい。
前記車体は、前後に並んだ車体前方部および車体後方部を備え、前記鉄道用トンネル内輸送車両は、前記車体前方部および車体後方部を連結するヒンジをさらに備え、前記車体は、前記ヒンジを中心に上下に屈曲可能である。
この構成によれば、車体が車体前方部および車体後方部に分割されており、車体前方部および車体後方部がヒンジによって連結されている。車体前方部および車体後方部は、ヒンジの回転中心まわりに上下に相対的に移動可能である。例えば、車両が前進中に上り坂に差し掛かると、車体前方部が車体後方部に対して上方に移動するように車体が折れ曲がる。車両が前進中に下り坂に差し掛かると、車体前方部が車体後方部に対して下方に移動するように車体が折れ曲がる。したがって、駆動輪が通路の表面に接した状態を維持でき、パワートレインの動力を駆動輪から通路の表面に確実に伝達できる。
【0012】
前記パワートレインは、前記駆動輪を前記前進方向および後進方向のいずれかの方向に回転させる油圧モータと、前記油圧モータを回転させる油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動する原動機とを備える。
この構成によれば、原動機に油圧ポンプを駆動させると、油圧が油圧ポンプから油圧モータに伝達され、油圧モータが回転する。これにより、駆動輪が回転する。駆動輪の回転方向を切り替えるときは、油圧モータに流れ込む作動油の方向を切り替える。これにより、車両の前進および後進が切り替えられる。さらに、油圧モータに加わる油圧を制御すれば、前進時と同じ速度範囲で車両を後進させることができる。
【0013】
パワートレインが、油圧ポンプおよび油圧モータの代わりに、原動機の回転速度を変更しながら原動機の回転を駆動輪の方に伝達するトランスミッションを備える場合、前進時と同じ速度で車両を後進させるときは、前進用の変速ギヤと同数の変速ギヤを後進用に設ける必要がある。そのため、トランスミッションが大きくなり、車両の重量が増す。駆動輪を油圧で駆動する場合は、トランスミッションが必要ない。したがって、トランスミッションが設けられている場合に比べて、車両を小型化および軽量化でき、輸送台の床面(床板の上面)を低くすることができる。
【0014】
前記鉄道用トンネル内輸送車両は、前記車両を旋回させるときに、前記フロントシートに座る運転者によって操作されるフロントステアリングハンドルと、前記車両を旋回させるときに、前記リアシートに座る運転者によって操作されるリアステアリングハンドルと、運転者が前記フロントステアリングハンドルおよびリアステアリングハンドルの一方を操作して、前記前輪および後輪の一方を前記車体に対して右回りまたは左回りに回動させると、前記前輪および後輪の他方を前記車体に対して前記前輪および後輪の一方とは反対の回動方向に回動させる操舵輪連動機構とをさらに備える。
【0015】
この構成によれば、運転者が前輪を右回りに回動させると、後輪は、左回りに回動する。運転者が前輪を左回りに回動させると、後輪は、右回りに回動する。運転者が後輪を回動させたときも同様である。つまり、運転者が前輪および後輪の一方を回動させると、前輪および後輪の他方は、前輪および後輪の一方とは反対の回動方向に回動する。これにより、車両の最小回転半径を小さくすることができる。
【0016】
右回りおよび左回りは、上から見たときの前輪または後輪の回動方向を意味する。前輪および後輪の他方の回動角度は、前輪および後輪の一方の回動角度と同じであってもよいし、異なっていてもよい。運転者がフロントステアリングハンドルを操作したときに回動する車輪は、前輪および後輪のいずれであってもよい。つまり、運転者がフロントステアリングハンドルを操作すると、フロントステアリングハンドルの動作が前輪に伝達され、前輪の回動が操舵輪連動機構によって後輪に伝達されてもよい。もしくは、運転者がフロントステアリングハンドルを操作すると、フロントステアリングハンドルの動作が後輪に伝達され、後輪の回動が操舵輪連動機構によって前輪に伝達されてもよい。
【0017】
前記鉄道用トンネル内輸送車両は、前記前輪を前記通路の表面から浮かすフロントジャッキと、前記後輪を前記通路の表面から浮かすリアジャッキとをさらに備え、前記フロントジャッキおよびリアジャッキのそれぞれは、前記前輪または後輪が前記通路の表面から離れているときに前記通路の表面に接するキャスターを備える。
【0018】
この構成によれば、フロントジャッキを伸ばして、前輪を通路の表面から浮かす。同様に、リアジャッキを伸ばして、後輪を通路の表面から浮かす。前輪および後輪だけしかない場合は、このとき、フロントジャッキおよびリアジャッキのキャスターだけで車体が支持される。前輪および後輪以外の車輪がある場合は、この車輪とフロントジャッキおよびリアジャッキのキャスターによって車体が支持される。
【0019】
鉄道用トンネル内の通路に至る途中の通路では、複数の車両を平行に横並びさせる場合がある。通路が狭いことに加え、他の車両が存在するので、車両を自走させて、横並びさせる場合は、車両を何度も前進および後進させながら、他の車両の横まで移動させる必要がある(いわゆる切り返し運転の繰り返し)。
キャスターは、車体に対して任意の角度で回転可能である。フロントジャッキおよびリアジャッキで前輪および後輪を浮かせば、前輪および後輪以外の車輪がある場合でも、車両を押して車両の姿勢を変えることができ、車両の最小回転半径よりも小さい半径で車両を旋回させることができる。したがって、短時間で車両を他の車両の横まで移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両の左側面図である。
【
図4】2つのジャッキで前輪および後輪を浮かしている状態を示す模式的な左側面図である。
【
図5A】
図1に示す車両の操舵系について説明するための模式的な平面図である。
【
図5B】前輪を右回りに回動させたときの後輪の回動方向について説明するための模式的な平面図である。
【
図6】
図1に示す車両の駆動系について説明するための模式的な平面図である。
【
図7】駆動輪に相当する中央輪を回転させる油圧モータを示す左側面図である。
【
図8】
図1に示す車両を前進および後進させる油圧回路を示す回路図である。
【
図9】車両の速度を変更するときや車両の前進および後進を切り替えるときに運転者によって操作されるフロントレバーを示す右側面図である。
【
図10】フロントレバーを支持する固定ボックスを示す平面図である。
【
図12】フロントレバーの操作状態およびフリー状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1中の「U」および「F」は、それぞれ、鉄道用トンネル内輸送車両1(以下では、単に「車両1」ともいう。)の上方向および前方向を示している。
図2中の「L」は、車両1の左方向を示している。他の図についても同様である。
以下では、特に断りがない限り、水平面上に配置された基準姿勢の車両1について説明する。基準姿勢は、フロントステアリングハンドル22Fおよびリアステアリングハンドル22Rが直進位置(
図2に示す位置)に配置されているときの姿勢である。前後方向、上下方向、および左右方向は、基準姿勢の車両1に基づいて定義される。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両1の左側面図である。
図2は、車両1の平面図である。
図3は、車両1の前端部の左側面図である。
鉄道用トンネル内輸送車両1は、鉄道用トンネル内で作業員や荷物を輸送する走行台車である。車両1は、前進および後進可能である。
図1に示すように、作業員や荷物を載せる輸送台5は、フロントシート2Fとリアシート2Rとの間に配置されている。
【0023】
図2に示すように、車両1は、平面視で前後方向に長い長方形状である。車両1の幅の最大値は、1000mm未満であり、車両1の全長は、3000~4000mmである。車両1の幅は、車両1の前端部および後端部を除き、一定である。車両1の前端部の幅は、車両1の前端に近づくにしたがって減少している。車両1の後端部の幅は、車両1の後端に近づくにしたがって減少している。
【0024】
図1に示すように、車両1は、前後方向に延びる車体3と、車体3に対して回転可能な前輪WF、中央輪WC、および後輪WRと、駆動輪に相当する中央輪WCを回転させるパワートレインPTとを備えている。フロントシート2Fは、車体3の前端部に配置されており、リアシート2Rは、車体3の後端部に配置されている。車両1を前進させるときは、車両1の前方向に向いてフロントシート2Fに座った運転者が車両1を運転する。車両1を後進させるときは、車両1の後方向に向いてリアシート2Rに座った運転者が車両1を運転する。
【0025】
図2は、前輪WFおよび後輪WRが1つずつ設けられており、中央輪WCが2つ設けられている例を示している。前輪WFおよび後輪WRは、左右方向における車両1の中央WOに配置されている。2つの中央輪WCは、車両1の中央WOの右方および左方に配置されており、左右方向に向かい合っている。
図1に示すように、前輪WF、中央輪WC、および後輪WRは、いずれも、通路の表面上を転がるゴムまたは樹脂製のタイヤT1と、タイヤT1に取り囲まれた金属製のホイールW1とを含む。
【0026】
車体3は、車両1の骨格を形成する複数のフレームと、複数のフレームに取り付けられた複数のパネルとによって構成されている。車体3は、車体前方部3Fおよび車体後方部3Rに前後2つに分割されている。車体前方部3Fおよび車体後方部3Rは、ヒンジ4によって連結されている。車体3は、左右に水平に延びるヒンジ4の回転中心C4まわりに上下に屈曲可能である。車体3は、上下に屈曲するものの、左右には屈曲しない。
【0027】
図2は、車体3が中央輪WCと後輪WRとの間で前後2つに分割されており、車体3だけでなく輸送台5もヒンジ4を中心に上下に屈曲可能である例を示している。車体3は、前輪WFと中央輪WCとの間で前後2つに分割されていてもよい。もしくは、車体3は、輸送台5よりも前方または後方で前後2つに分割されており、輸送台5は、上下に屈曲しない構造であってもよい。
【0028】
車両1が走行する通路の勾配が変わると、車体3および輸送台5は、勾配の変化点で勾配の変化量に応じた角度だけ屈曲する。例えば、車両1が前進中に上り坂に差し掛かると、車体前方部3Fが車体後方部3Rに対して上方に移動するように車体3および輸送台5が折れ曲がる。車両1が前進中に下り坂に差し掛かると、車体前方部3Fが車体後方部3Rに対して下方に移動するように車体3および輸送台5が折れ曲がる。これにより、駆動輪に相当する中央輪WCが通路の表面に接した状態が維持され、中央輪WCの空転が防止される。
【0029】
図2に示すように、輸送台5は、作業員や荷物が載せられる床板6と、床板6上の作業員や荷物の右方および左方にそれぞれ配置される一対の側壁7とを備えている。
図2は、床板6および側壁7に加えて、床板6上の作業員や荷物の前方および後方にそれぞれ配置される前壁8および後壁9が、輸送台5に設けられている例を示している。側壁7、前壁8、および後壁9は、板あってもよいし、格子であってもよい。
【0030】
床板6、側壁7、前壁8、および後壁9は、車体3に取り付けられている。床板6は、車体3の上に配置されている。床板6は、パワートレインPTよりも上方に配置されている。前壁8は、フロントシート2Fよりも後方で、中央輪WCよりも前方の位置に配置されている。後壁9は、中央輪WCよりも後方で、リアシート2Rよりも前方の位置に配置されている。側壁7の前端部は、前壁8に連結されており、側壁7の後端部は、後壁9に連結されている。
【0031】
図1に示すように、前壁8の上端部は、フロントシート2Fよりも上方に配置されている。フロントシート2Fに座る運転者の背中は、前壁8の前面に接する。同様に、後壁9の上端部は、リアシート2Rよりも上方に配置されており、リアシート2Rに座る運転者の背中は、後壁9の後面に接する。言い換えると、運転者の背中に接する背もたれ部10が、前壁8および後壁9に設けられている。前壁8および後壁9は、運転者の背中に当たらないように、フロントシート2Fおよびリアシート2Rから離れていてもよい。
【0032】
側壁7は、上下2つに分割されていてもよい。例えば、車体3に固定された側壁下方部7Lと、側壁下方部7Lに対して着脱式または開閉式の側壁上方部7Uとが、側壁7に設けられていてもよい(
図3参照)。側壁上方部7Uは、側壁下方部7Lの上方に配置されている。側壁上方部7Uは、板あってもよいし、格子であってもよい。側壁上方部7Uは、鉛直な姿勢で側壁下方部7Lに支持されている。側壁上方部7Uの下面は、側壁下方部7Lの上面に沿って水平に延びている。側壁上方部7Uを側壁下方部7Lから外したり、側壁上方部7Uを外側に開いたりすれば、作業員が簡単に輸送台5に乗り降りできるだけでなく、積卸し高さを下げることができ、輸送台5に対して荷物を簡単に上げ下ろしすることができる。
【0033】
側壁上方部7Uが開閉式である場合、側壁上方部7Uが外側(右方向または左方向)に倒れるように、図示しないヒンジを用いて、側壁上方部7Uの下端部を側壁下方部7Lの上端部に連結すればよい。側壁上方部7Uが着脱式である場合、上下方向に延びる連結軸11(
図3参照)と連結軸11が挿入された連結穴12(
図3参照)とを側壁7に設ければよい。連結軸11は、側壁上方部7Uの下面から下方に突出していてもよいし、側壁下方部7Lの上面から上方に突出していてもよい。側壁上方部7Uを引き上げれば、側壁上方部7Uを側壁下方部7Lから外すことができ、連結軸11を連結穴12に差し込めば、側壁上方部7Uを側壁下方部7Lに取り付けることができる。
【0034】
前述のように、輸送台5は、ヒンジ4を中心に上下に屈曲する。輸送台5は、輸送台前方部5Fおよび輸送台後方部5Rに前後2つに分割されている。輸送台前方部5Fおよび輸送台後方部5Rは、ヒンジ4を中心に上下に相対的に移動可能である。
図2に示すように、床板6は、ヒンジ4の前後で2つに分割されている。同様に、側壁7は、ヒンジ4の前後で2つに分割されている。床板6は、前後に離れた床板前方部6Fおよび床板後方部6Rを含む。側壁7は、前後に離れた側壁前方部7Fおよび側壁後方部7Rを含む。
【0035】
輸送台5は、輸送台前方部5Fおよび輸送台後方部5Rの間に配置された仕切り13を備えている。仕切り13は、一対の側壁7の間に配置されている。仕切り13は、床板前方部6Fおよび床板後方部6Rのいずれかの上方に配置される。
図2は、仕切り13が床板前方部6Fの上方に配置されている例を示している。仕切り13は、板あってもよいし、格子であってもよい。
【0036】
図1に示すように、輸送台5は、側壁前方部7Fおよび側壁後方部7Rの隙間を埋める一対の防護カバー14を備えている。防護カバー14は、側壁前方部7Fおよび側壁後方部7Rの一方に固定されており、側壁前方部7Fおよび側壁後方部7Rの他方に対して移動可能である。
図1は、防護カバー14が側壁後方部7Rに固定されている例を示している。輸送台5がどのような角度で屈曲したとしても、防護カバー14は、側壁前方部7Fおよび側壁後方部7Rの隙間に配置されている。したがって、側壁前方部7Fの後端部が側壁後方部7Rの前端部に近づくように輸送台5が屈曲したとしても、床板6上の荷物が、側壁前方部7Fおよび側壁後方部7Rに挟まれることを防止できる。
【0037】
床板6の上には複数の作業員(例えば、最大6人の作業員)が立った姿勢で乗る。そのため、輸送台5は、床板6上の作業員によって握られる少なくとも一つの手摺を備えていてもよい。
図1は、2つの手摺(手摺15Fおよび手摺15R)が輸送台5に設けられている例を示している。
図1は、手摺15Fおよび手摺15Rが逆U字状のパイプである例を示している。輸送台前方部5Fに設けられた手摺15Fは、左右方向における車両1の中央WOに沿って前壁8から仕切り13まで前後に延びている。輸送台後方部5Rに設けられた手摺15Rは、後壁9の前面に沿って右側の側壁7から左側の側壁7まで左右に延びている。
【0038】
図2に示すように、車両1は、車両1の速度を変更するときや車両1の前進および後進を切り替えるときに運転者によって操作される2つの出力変更レバー(フロントレバー21Fおよびリアレバー21R)と、車両1を右方向または左方向に旋回させるときに運転者に操作される2つのステアリングハンドル(フロントステアリングハンドル22Fおよびリアステアリングハンドル22R)とを備えている。車両1は、さらに、パーキングブレーキを作動させるときに運転者によって操作される2つのブレーキレバー(フロントブレーキレバー23Fおよびリアブレーキレバー23R)を含む。
【0039】
フロントレバー21Fは、前後進切替ハンドルの一例である。フロントレバー21F、フロントステアリングハンドル22F、およびフロントブレーキレバー23Fは、フロントシート2Fに座る運転者が操作可能な位置に配置されている。
図2に示す例では、フロントステアリングハンドル22Fは、フロントシート2Fに座る運転者の前方に配置されており、フロントレバー21Fは、フロントシート2Fに座る運転者の右方に配置されている。フロントレバー21Fの配置はこれに限られない。
【0040】
リアレバー21Rは、前後進切替ハンドルの一例である。リアレバー21R、リアステアリングハンドル22R、およびリアブレーキレバー23Rは、リアシート2Rに座る運転者が操作可能な位置に配置されている。
図2に示す例では、リアステアリングハンドル22Rは、車両1の後方向に向いてリアシート2Rに座る運転者の前方に配置されており、リアレバー21Rは、車両1の後方向に向いてリアシート2Rに座る運転者の右方に配置されている。リアレバー21Rの配置はこれに限られない。
【0041】
フロントステアリングハンドル22Fは、ステアリングホイールまたはハンドルバーであってもよいし、これら以外であってもよい。例えば、車両1を右に旋回させるときに操作される右旋回用レバーと、車両1を左に旋回させるときに操作される左旋回用レバーとが、フロントステアリングハンドル22Fとして用いられてもよい。リアステアリングハンドル22Rについても同様である。
図2は、フロントステアリングハンドル22Fおよびリアステアリングハンドル22Rが、ハンドルバーである例を示している。
【0042】
図1に示すように、車両1は、車両1の前端部に設けられたフロントヘッドランプ24Fおよびフロントテールランプ25Fと、車両1の後端部に設けられたリアヘッドランプ24Rおよびリアテールランプ25Rと、フロントヘッドランプ24Fなどの車両1に備えられた電気機器に供給される電力を蓄えるバッテリーB1とを備えている。フロントヘッドランプ24Fおよびフロントテールランプ25Fは、フロントシート2Fよりも前方に配置されている。フロントヘッドランプ24Fおよびフロントテールランプ25Fは、前輪WFの上方に配置されたフロントホルダー26Fに取り付けられている。リアヘッドランプ24Rおよびリアテールランプ25Rは、リアシート2Rよりも後方に配置されており、後輪WRの上方に配置されたリアホルダー26Rに取り付けられている。
【0043】
図2に示すように、車体3の前端部には、フロントシート2F等に加えて、フロントシート2Fに座っている運転者の両足が載せられる一対のフロントフットボード28Fが設けられている。車体3の後端部には、リアシート2R等に加えて、リアシート2Rに座っている運転者の両足が載せられる一対のリアフットボード28Rが設けられている。一対のフロントフットボード28Fは、それぞれ、前輪WFの右方および左方に配置されている。一対のリアフットボード28Rは、それぞれ、後輪WRの右方および左方に配置されている。
【0044】
図1に示すように、車体3は、前輪WFと運転者の両足との間に配置される一対のフロントインナーガード29Fと、後輪WRと運転者の両足との間に配置される一対のリアインナーガード29Rとを備えている。フロントインナーガード29Fは、フロントフットボード28Fから上方に延びている。リアインナーガード29Rは、リアフットボード28Rから上方に延びている。フロントインナーガード29Fおよびリアインナーガード29Rは、板あってもよいし、格子であってもよい。
【0045】
車体3は、フロントシート2Fに座る運転者の両足の外側に配置される一対のフロントアウターガード30Fと、リアシート2Rに座る運転者の両足の外側に配置される一対のリアアウターガード30Rとを備えていてもよい。フロントアウターガード30Fは、フロントフットボード28Fの外側の縁から上方に延びている。リアアウターガード30Rは、リアフットボード28Rの外側の縁から上方に延びている。フロントアウターガード30Fおよびリアアウターガード30Rは、板あってもよいし、格子であってもよい。
【0046】
図3に示すように、フロントシート2Fに座る運転者の足は、フロントインナーガード29Fとフロントアウターガード30Fとの間に配置される。フロントインナーガード29Fを設けることで、運転者の足および脛が前輪WFに接触することを防止できる。さらに、フロントアウターガード30Fを設けることで、フロントフットボード28Fからの足の脱落を防止できる。同様に、リアインナーガード29Rおよびリアアウターガード30Rを設けることで、運転者の足および脛を後輪WRから保護することができ、リアフットボード28Rからの足の脱落を防止できる。
【0047】
図2に示すように、車両1は、車両1が通る通路の側面に車体3が接触することを防止する少なくとも一つのガイドローラ31を備えていてもよい。
図2は、4対のガイドローラ31(8つのガイドローラ31)が車両1に設けられている例を示している。2対のガイドローラ31は、車両1の前端部に配置されており、残り2対のガイドローラ31は、車両1の後端部に配置されている。
【0048】
図3に示すように、車両1の前端部に配置された2対のガイドローラ31のうち、一方の対は、フロントシート2Fよりも前方で、前輪WFの回転中心よりも後方の位置に配置されており、他方の対は、前輪WFの回転中心よりも前方に配置されている。車両1の後端部に配置された2対のガイドローラ31のうち、一方の対は、リアシート2Rよりも後方で、後輪WRの回転中心よりも前方の位置に配置されており、他方の対は、後輪WRの回転中心よりも後方に配置されている。
【0049】
車体3は、ガイドローラ31を保持するローラホルダー32を備えている。ガイドローラ31は、車体3に保持されており、車体3に対して鉛直な直線まわりに回転可能である。ガイドローラ31の一部は、平面視で車体3の外縁から側方に突出している。車両1が細い通路内を旋回するとき、車両1の前端部および後端部の少なくとも一方が通路の側面に近づく。このとき、一つ以上のガイドローラ31が、通路の側面に接触し、通路の側面上を転がる。これにより、車体3が通路の側面に接触することを防止できる。
【0050】
図4は、フロントジャッキ33Fおよびリアジャッキ33Rで前輪WFおよび後輪WRを浮かしている状態を示す模式的な左側面図である。
車両1は、前輪WFを通路の表面(地面)から浮かすときに人によって操作されるフロントジャッキ33Fと、後輪WRを通路の表面から浮かすときに人によって操作されるリアジャッキ33Rとを備えていてもよい。フロントジャッキ33Fは、車体3の前方に配置されている。リアジャッキ33Rは、車体3の後方に配置されている。フロントジャッキ33Fおよびリアジャッキ33Rは、左右方向における車両1の中央WOに配置されている(
図2参照)。
【0051】
フロントジャッキ33Fおよびリアジャッキ33Rは、人によって回されるジャッキハンドル35と、ジャッキハンドル35が取り付けられた外筒36と、ジャッキハンドル35の回転回数に応じた量で外筒36から突出する内筒37とを備えている。フロントジャッキ33Fおよびリアジャッキ33Rは、さらに、外筒36を車体3に固定するブラケット34と、内筒37の先端に取り付けられたキャスターホルダー38と、キャスターホルダー38に保持されたキャスター39とを備えている。
【0052】
フロントジャッキ33Fおよびリアジャッキ33Rの外筒36および内筒37は、鉛直な姿勢で車体3に取り付けられている。内筒37は、外筒36の下端から下方に突出しており、キャスターホルダー38およびキャスター39は、内筒37の下方に配置されている。キャスター39は、外筒36および内筒37の中心線まわりに外筒36および内筒37に対して任意の角度で回転可能である。
【0053】
人がジャッキハンドル35を回転させると、ジャッキハンドル35の回転がネジによって内筒37の直線運動に変換され、外筒36からの内筒37の突出量が変化する。人がジャッキハンドル35を時計回りに回転させると、外筒36からの内筒37の突出量が増加し、キャスター39が通路の表面に接する。その後、人がジャッキハンドル35を時計回りにさらに回転させると、
図4に示すように、前輪WFまたは後輪WRが通路の表面から離れる。この状態で人がジャッキハンドル35を反時計回りに回転させると、外筒36からの内筒37の突出量が減少し、前輪WFまたは後輪WRが通路の表面に接する。その後、人がジャッキハンドル35を反時計回りにさらに回転させると、キャスター39が通路の表面から離れる。
【0054】
前輪WFおよび後輪WRの両方をフロントジャッキ33Fおよびリアジャッキ33Rで浮かし、油圧をフリーにするために後述するバイパスバルブ64を開く。この状態で人が車両1の前端部または後端部を横方向(右方向または左方向)に押すと、2つのキャスター39と一対の中央輪WCとが通路の表面上を転がりながら、一対の中央輪WCの中間点あたりを中心に車両1が旋回する。したがって、フロントジャッキ33Fおよびリアジャッキ33Rの少なくとも一方を用いることにより、車両1を最小回転半径よりも小さい半径で旋回させることができる。
【0055】
次に、車両1の操舵系について説明する。
図5Aは、車両1の操舵系について説明するための模式的な平面図である。
図5Bは、前輪WFを右回りに回動させたときの後輪WRの回動方向について説明するための模式的な平面図である。
図5Aおよび
図5Bは、車体3に対して左右に回動可能な倒立U字状のフロントフォーク41Fを介して前輪WFが車体3に取り付けられており、車体3に対して左右に回動可能な倒立U字状のリアフォーク41Rを介して後輪WRが車体3に取り付けられている例を示している。前輪WFおよび後輪WRは、フロントフォーク41Fおよびリアフォーク41Rに対して前進方向および後進方向に回転可能である。
【0056】
前輪WFは、前輪WFの中心まわりに車体3に対して回転可能であると共に、車体3に対して左右に回動可能である。同様に、後輪WRは、後輪WRの中心まわりに車体3に対して回転可能であると共に、車体3に対して左右に回動可能である。これに対して、中央輪WCは、中央輪WCの中心まわりに車体3に対して前進方向および後進方向に回転可能であるものの、車体3に対して左右には回動できない。
【0057】
運転者がフロントステアリングハンドル22Fを動かすと、前輪WFは、フロントステアリングハンドル22Fの動作に応じて車体3に対して右回りまたは左回りに回動する。同様に、運転者がリアステアリングハンドル22Rを動かすと、後輪WRは、リアステアリングハンドル22Rの動作に応じて車体3に対して右回りまたは左回りに回動する。前輪WFおよび後輪WRは、フロントステアリングハンドル22Fまたはリアステアリングハンドル22Rの移動に応じて車体3に対して左右に回動する操舵輪である。
【0058】
車両1は、操舵輪に相当する前輪WFおよび後輪WRを連動させる操舵輪連動機構43を備えている。
図5Bに示すように、例えば、運転者が前輪WFを右回りに30度回動させると、操舵輪連動機構43は、後輪WRを左回りに30度回動させる。つまり、運転者が前輪WFおよび後輪WRの一方をある回動角度で右回りまたは左回りに回動させると、操舵輪連動機構43は、前輪WFおよび後輪WRの他方を、前輪WFおよび後輪WRの一方と同じ回動角度で、前輪WFおよび後輪WRの一方とは反対の回動方向(右回りまたは左回り)に回動させる。
【0059】
操舵輪連動機構43は、フロントフォーク41Fとリアフォーク41Rとを連結する一対の連動ケーブル44を備えている。連動ケーブル44は、輸送台5の床板6(
図2参照)の下に配置されている。前輪WFは、フロントフォーク41Fに設けられた2つのフロントアーム42Fの間に配置されている。同様に、後輪WRは、リアフォーク41Rに設けられた2つのリアアーム42Rの間に配置されている。一方の連動ケーブル44は、前輪WFの右側のフロントアーム42Fと後輪WRの左側のリアアーム42Rとを連結している。他方の連動ケーブル44は、前輪WFの左側のフロントアーム42Fと後輪WRの右側のリアアーム42Rとを連結している。
【0060】
各連動ケーブル44は、例えばプルケーブルである。運転者がフロントステアリングハンドル22Fを右回りに回動させると、前輪WFの左側のフロントアーム42Fが前方に移動し、このフロントアーム42Fに連結された連動ケーブル44が前方に引っ張られる。これにより、後輪WRの右側のリアアーム42Rが前方に引っ張られる。そのため、後輪WRの右側のリアアーム42Rが前方に移動し、後輪WRが左回りに回動する。連動ケーブル44は、プルケーブルではなく、プッシュプルケーブルであってもよい。この場合、連動ケーブル44の本数は1本であってもよい。
【0061】
前輪WFの中心から中央輪WCの中心までの前後方向の距離D1は、後輪WRの中心から中央輪WCの中心までの前後方向の距離D2と等しい。距離D1および距離D2は異なっていてもよい。ただし、距離D1および距離D2が異なると、操作量が同じであっても、運転者がフロントステアリングハンドル22Fを操作したときと、リアステアリングハンドル22Rを操作したときとで、車両1の旋回半径が異なるので、旋回半径の違いを無くす操舵角調整機構を一対の連動ケーブル44に設ける必要がある。距離D1および距離D2を等しくすれば、このような機構を設けなくても、旋回半径の違いを無くすことができ、車両1の構造を簡素化できる。
【0062】
図5Aおよび
図5Bに示すように、車両1は、フロントシート2Fに座る作業員によって握られる少なくとも一つのフロントアシストグリップ27Fと、リアシート2Rに座る作業員によって握られる少なくとも一つのリアアシストグリップ27Rとを備えている(
図1も参照)。フロントステアリングハンドル22Fおよびリアステアリングハンドル22Rが通る領域の外であれば、フロントアシストグリップ27Fおよびリアアシストグリップ27Rは、いずれの位置に配置されていてもよい。
【0063】
フロントステアリングハンドル22Fおよびリアステアリングハンドル22Rが操舵輪連動機構43を介して連結されているので、フロントステアリングハンドル22Fおよびリアステアリングハンドル22Rの一方を動かすと、フロントステアリングハンドル22Fおよびリアステアリングハンドル22Rの他方も動く。例えば、フロントシート2Fに座る運転者が車両1を運転しているときに、リアシート2Rに座る作業員がリアステアリングハンドル22Rに触れていると、車両1の揺れ等が原因で作業員が誤ってリアステアリングハンドル22Rを動かしてしまう場合がある。
【0064】
フロントシート2Fに座る運転者が車両1を運転しているときに、リアシート2Rに座る作業員がリアアシストグリップ27Rを握っていれば、自身の姿勢を安定させることができる上に、前記のようなリアステアリングハンドル22Rの誤操作を防止できる。同様に、リアシート2Rに座る運転者が車両1を運転しているときに、フロントシート2Fに座る作業員がフロントアシストグリップ27Fを握っていれば、自身の姿勢を安定させることができる上に、前記のようなフロントステアリングハンドル22Fの誤操作を防止できる。
【0065】
次に、車両1の駆動系について説明する。
図6は、車両1の駆動系について説明するための模式的な平面図である。
図7は、駆動輪に相当する中央輪WCを回転させる油圧モータ54を示す左側面図である。
図6に示すように、パワートレインPTは、2つの中央輪WCを回転させる2つの油圧モータ54と、2つの油圧モータ54を回転させる油圧ポンプ53と、油圧ポンプ53を駆動する原動機52とを備えている。
図6は、原動機52がエンジンである例を示している。原動機52は、電動モータであってもよいし、エンジンおよび電動モータの両方であってもよい。
【0066】
原動機52がエンジンである場合、エンジンに供給される液体燃料を貯留する燃料タンク51が車両1に設けられる。また、この場合、原動機52を始動させると、原動機52に取り付けられた発電機のロータおよびステーターが相対的に回転し、発電機が電力を発生する。発電機で発生した電力は、フロントヘッドランプ24F(
図1参照)などの車両1に備えられた電気機器や、車両1に備えられたバッテリーB1(
図1参照)に供給される。
【0067】
原動機52は、前輪WFよりも後方で、中央輪WCよりも前方の位置に配置されている。燃料タンク51は、原動機52の上方に配置されている。油圧ポンプ53は、原動機52よりも後方に配置されている。油圧モータ54は、油圧ポンプ53よりも後方に配置されている。2つの油圧モータ54は、平面視で2つの中央輪WCの間に配置されている。2つの油圧モータ54は、左右方向に間隔を空けて配置されている。
【0068】
図7に示すように、油圧モータ54は、側面視で中央輪WCに重なっている。油圧モータ54の外径は、中央輪WCの外径よりも小さい。油圧モータ54は、作動油が流入する円柱状のモータハウジング54hと、モータハウジング54hの端面からモータハウジング54hの軸方向に突出する回転軸54sとを備えている。油圧モータ54の回転軸54sは、中央輪WCの回転中心上に配置されている。油圧モータ54は、中央輪WCと同軸の油圧インホイールモータである。
【0069】
図6に示すように、2つの油圧モータ54は、モータホルダー55に支持されている。各油圧モータ54は、モータホルダー55の上に配置されている。各油圧モータ54のモータハウジング54hは、回転軸54sがモータハウジング54hに対して外側に位置し、回転軸54sが左右に延びる姿勢でモータホルダー55に取り付けられている。モータホルダー55は、2つの懸架ばね56を介して車体3に支持されている。したがって、2つの油圧モータ54は、モータホルダー55および懸架ばね56を介して車体3に支持されている。
【0070】
中央輪WCが通路の表面の凸部または凹部を通ると、懸架ばね56が上下方向に弾性変形し、中央輪WCが、2つの油圧モータ54とモータホルダー55と共に車体3に対して上下に移動する。これにより、車両1の振動が低減される。
図7は、懸架ばね56が、重ね板ばね(leaf spring)である例を示している。懸架ばね56は、コイルばねなどの重ね板ばね以外のばねであってもよい。モータホルダー55は、懸架ばね56の上に配置されている。モータホルダー55は、懸架ばね56の中間部に連結されている。懸架ばね56の前端部および後端部は、車体3に連結されている。
【0071】
図8は、車両1を前進および後進させる油圧回路を示す回路図である。
パワートレインPTは、油圧ポンプ53および油圧モータ54と共に油圧回路を構成する複数の油圧配管57を備えている。油圧ポンプ53および油圧モータ54や油圧配管57等は、輸送台5の床板6(
図2参照)の下に配置されている。油圧ポンプ53から吐出された作動油は、2つの油圧モータ54に供給される。その後、作動油は、油圧モータ54から排出され、油圧ポンプ53に戻る。作動油が2つの油圧モータ54に供給されると、各油圧モータ54が中央輪WCを回転させるトルクを発生する。これにより、駆動輪に相当する2つの中央輪WCが前進方向または後進方向に回転し、車両1が前進または後進する。それに伴って、従動輪に相当する前輪WFおよび後輪WRが、中央輪WCと同じ方向に回転する。
【0072】
車両1が旋回するとき、内側の中央輪WCが通る経路は、外側の中央輪WCが通る経路よりも短い。そのため、内側の中央輪WCに連結された油圧モータ54に加わる抵抗が増加する。この場合、油圧ポンプ53から各油圧モータ54に供給される作動油の流量が、各油圧モータ54に加わる抵抗の大きさに応じて自然に変化し、2つの中央輪WCの回転数に差が生じる。そのため、ディファレンシャルギヤがなくても、車両1を滑らかに旋回させることができる。
【0073】
油圧ポンプ53は、例えば、可変容量形斜板アキシャルピストンポンプである。油圧ポンプ53は、作動油が通過する2つのポート(前進ポート53fおよび後進ポート53r)を備えている。油圧ポンプ53から吐出される作動油の流量は、斜板の角度に応じて変更される。油圧ポンプ53から吐出される作動油の方向は、斜板の角度に応じて前進方向と後進方向との間で変更される。前進方向は、前進ポート53fが作動油を吐出し、後進ポート53rが作動油を吸引する方向である。後進方向は、後進ポート53rが作動油を吐出し、前進ポート53fが作動油を吸引する方向である。
【0074】
油圧ポンプ53の斜板は、中立位置を中心に前進全開位置と後進全開位置との間で移動可能である。中立位置は、油圧ポンプ53が作動油の吐出を停止する位置である。中立位置よりも前進全開位置側の範囲は、油圧ポンプ53が前進方向に作動油を吐出する範囲である。中立位置よりも後進全開位置側の範囲は、油圧ポンプ53が後進方向に作動油を吐出する範囲である。油圧ポンプ53から吐出される作動油の流量は、斜板が前進全開位置に近づくにしたがって増加する。同様に、油圧ポンプ53から吐出される作動油の流量は、斜板が後進全開位置に近づくにしたがって増加する。
【0075】
パワートレインPTは、複数の油圧配管57内が作動油で満たされた状態を維持するチャージポンプ59と、チャージポンプ59から複数の油圧配管57の方に送られる作動油を貯留するオイルタンク58と、チャージポンプ59から複数の油圧配管57に作動油を案内する複数のチャージ配管61とを備えている。パワートレインPTは、さらに、チャージ配管61内をチャージポンプ59の方に流れる作動油をせき止める2つのチェックバルブ62と、複数の油圧配管57内の作動油の圧力をチャージ圧に維持するリリーフバルブ60とを備えている。
【0076】
パワートレインPTは、さらに、油圧ポンプ53を迂回するバイパス配管63と、バイパス配管63の内部を開閉するバイパスバルブ64とを備えている。バイパス配管63の一端は、油圧ポンプ53の前進ポート53fと油圧モータ54との間で油圧配管57に接続されている。バイパス配管63の他端は、油圧ポンプ53の後進ポート53rと油圧モータ54との間で油圧配管57に接続されている。バイパスバルブ64は、例えば、常時閉の手動バルブである。バイパスバルブ64は、流体がバイパス配管63内を通過する開状態と、流体がバイパス配管63内でせき止められる閉状態と、の間で開閉する。
【0077】
バイパスバルブ64を開いた状態で人が車両1を前方または後方に押すと、2つの中央輪WCが回転し、それに伴って、2つの油圧モータ54の回転軸54sも回転する。このとき、油圧配管57内の作動油が、油圧モータ54に吸引されると共に、油圧モータ54内の作動油が油圧配管57に排出される。それと同時に、油圧配管57内の作動油は、バイパス配管63を通り、油圧ポンプ53を迂回する。したがって、車両1が故障したとしても、バイパスバルブ64を開けば、2つの中央輪WCを回転させながら車両1を人力で移動させることができる。
【0078】
運転者がフロントレバー21Fおよびリアレバー21Rのいずれか一方を操作すると、それに応じて油圧ポンプ53の斜板の角度が変わり、油圧ポンプ53から吐出される作動油の流量や方向が変化する。これにより、車両1の進行方向や速度が変更される。油圧ポンプ53の斜板は、揺動アーム65の移動に応じて前進全開位置と後進全開位置との間で移動する。フロントレバー21Fは、プッシュプルケーブル66によって揺動アーム65に連結されている。リアレバー21Rは、別のプッシュプルケーブル67によって揺動アーム65に連結されている。
【0079】
運転者がフロントレバー21Fを動かすと、フロントレバー21Fの動作がプッシュプルケーブル66を介して揺動アーム65に伝達され、油圧ポンプ53の斜板が移動する。それと同時に、揺動アーム65の動作が、プッシュプルケーブル67を介してリアレバー21Rに伝達され、リアレバー21Rが移動する。運転者がリアレバー21Rを動かしたときも同様に、油圧ポンプ53の斜板とフロントレバー21Fとが移動する。
【0080】
フロントレバー21Fは、中立位置を介して前進全開位置と後進全開位置との間を移動する。同様に、リアレバー21Rは、中立位置を介して前進全開位置と後進全開位置との間を移動する。
図8中の「F」「N」「R」は、それぞれ、前進全開位置、中立位置、後進全開位置を表している。
フロントレバー21Fの前進全開位置、中立位置、および後進全開位置は、それぞれ、斜板の前進全開位置、中立位置、および後進全開位置に対応付けられている。リアレバー21Rの前進全開位置は、斜板の後進全開位置に対応付けられており、リアレバー21Rの後進全開位置は、斜板の前進全開位置に対応付けられている。リアレバー21Rの中立位置は、斜板の中立位置に対応付けられている。
【0081】
フロントレバー21Fおよびリアレバー21Rが中立位置に配置されているときは、斜板も中立位置に配置される。このとき、油圧ポンプ53から油圧モータ54には作動油が流れない。運転者がフロントレバー21Fを中立位置から前進全開位置の方に移動させると、斜板も中立位置から前進全開位置の方に移動する。運転者がフロントレバー21Fを中立位置から後進全開位置の方に移動させると、斜板も中立位置から後進全開位置の方に移動する。同様に、運転者がリアレバー21Rを移動させると、リアレバー21Rの移動に連動して、斜板が移動する。例えば、運転者がリアレバー21Rを中立位置から前進全開位置の方に移動させると、斜板は、中立位置から後進全開位置の方に移動する。
【0082】
運転者がフロントレバー21Fを中立位置から前進全開位置側に移動させると、パワートレインPTは車両1を前進させる動力を発生する。運転者がリアレバー21Rを中立位置から前進全開位置側に移動させると、パワートレインPTは車両1を後進させる動力を発生する。中立位置よりも前進全開位置側の範囲では、フロントレバー21Fおよびリアレバー21Rが前進全開位置に近づくにしたがってパワートレインPTの動力が増加する。運転者がフロントレバー21Fおよびリアレバー21Rのいずれか一方を中立位置から後進全開位置側に移動させたときも同様である。
【0083】
パワートレインPTは、原動機52の回転数を変更するときに運転者の手で操作される2つのスロットルハンドル68を備えている。一方のスロットルハンドル68は、フロントシート2Fに座る運転者が操作可能な位置に配置されている。他方のスロットルハンドル68は、リアシート2Rに座る運転者が操作可能な位置に配置されている。パワートレインPTは、スロットルハンドル68に代えて、運転者の足で踏まれるスロットルペダルを備えていてもよい。
【0084】
車両1は、前方だけでなく、後方にも走行できる。原動機52の回転数が同じであり、中立位置からの移動量が同じであれば、フロントレバー21Fおよびリアレバー21Rを前進全開位置側および後進全開位置側のいずれに移動させても、パワートレインPTは、同じ大きさの動力を発生する。したがって、前進するときと同じ速度で車両1を後進させることができる。
【0085】
次に、車両1の操作系について説明する。
図9は、車両1の速度を変更するときや車両1の前進および後進を切り替えるときに運転者によって操作されるフロントレバー21Fを示す右側面図である。
図10は、フロントレバー21Fを支持する固定ボックス74を示す平面図である。
図11は、フロントレバー21Fを示す正面図である。
図9~
図11は、フロントレバー21Fが中立位置に配置されている状態を示している。
図9中の「F」「N」「R」は、それぞれ、前進全開位置、中立位置、後進全開位置を表している。
【0086】
図9に示すように、車両1は、フロントレバー21Fを含むフロント出力変更ユニット71Fを備えている。同様に、車両1は、リアレバー21Rを含むリア出力変更ユニット71R(
図1参照)を備えている。リア出力変更ユニット71Rの構造は、フロント出力変更ユニット71Fの構造と同様であるので、以下では、フロント出力変更ユニット71Fの構造について説明し、リア出力変更ユニット71Rの構造の説明を省略する。
【0087】
図9に示すように、フロントレバー21Fは、運転者によって握られるハンドグリップ72が取り付けられた先端部21tと、先端部21tとは反対側の端部である根本部21rとを含む。フロント出力変更ユニット71Fは、フロントレバー21Fに加えて、フロントレバー21Fの根本部21rに取り付けられた支軸73と、フロントレバー21Fが支軸73を中心に回動できるように支軸73を支持すると共に、車体3に対して固定された固定ボックス74とを含む。
【0088】
フロントレバー21Fは、支軸73を中心に固定ボックス74に対して回動可能である。
図9は、支軸73が左右に水平に延びており、フロントレバー21Fが前後に回動可能である例を示している。フロントレバー21Fは、左右方向などの前後方向以外の方向に回動可能であってもよい。つまり、支軸73は、左右方向ではなく前後方向に水平に延びていてもよいし、前後方向および左右方向の両方に対して斜めに傾いた方向に水平に延びていてもよい。もしくは、支軸73は、鉛直であってもよい。
【0089】
図10に示すように、固定ボックス74は、フロントレバー21Fを前進全開位置および後進全開位置で停止させる2つのエンドストッパー75を含む。フロントレバー21Fは、2つのエンドストッパー75の間に配置されている。運転者がフロントレバー21Fを回動させ続けると、フロントレバー21Fが一方のエンドストッパー75に接触し、フロントレバー21Fの回動が止まる。これにより、前進全開位置または後進全開位置にフロントレバー21Fが配置される。
【0090】
固定ボックス74は、フロントレバー21Fが回動しているときに断続的な抵抗をフロントレバー21Fに与える凹凸ガイド76を含む。凹凸ガイド76は、支軸73を中心とする仮想円に沿って配置された円弧状である。凹凸ガイド76は、支軸73を中心とする仮想円に沿って等間隔で並んだ複数の切欠き76nを有している。各切欠き76nは、半円状である。フロントレバー21Fの外周面は、凹凸ガイド76上を移動する接触部21cを含む。接触部21cは、切欠き76nよりも直径が小さい半円形または円形の断面を有している。
【0091】
フロント出力変更ユニット71Fは、フロントレバー21Fの外周面を凹凸ガイド76に押し付けるスプリング80を含む。運転者がフロントレバー21Fに力を加えると、フロントレバー21Fは、スプリング80の力に抗して切欠き76nから脱出しながら回動する。その後、フロントレバー21Fは、スプリング80の力で別の切欠き76nに嵌る。これを繰り返しながら、フロントレバー21Fは回動する。運転者がフロントレバー21Fを回動させると、断続的な抵抗がフロントレバー21Fを介して凹凸ガイド76から運転者に加わる。したがって、運転者は、自身の手に加わる抵抗に基づいてフロントレバー21Fの移動とその量を感覚的に把握できる。さらに、フロントレバー21Fが切欠き76n内に保持されるので、フロントレバー21Fが振動で前後に動くことを防止できる。
【0092】
図9に示すように、フロント出力変更ユニット71Fは、フロントレバー21Fが中立位置に配置されると、フロントレバー21Fを自動的に中立位置で停止させるスライドロック81を含む。スライドロック81は、フロントレバー21Fに固定された筒状のアウターケース82と、アウターケース82内に配置されたロックピン83と、ロックピン83をアウターケース82に対して固定ボックス74の方に移動させる力を発生するバネ85とを含む。
図9は、アウターケース82の上部を断面で示している。
【0093】
アウターケース82、ロックピン83、およびバネ85は、フロントレバー21Fと共に支軸73を中心に回動する。ロックピン83は、アウターケース82に対してロックピン83の軸方向に移動可能である。バネ85は、ロックピン83を固定ボックス74の方に押している。フロントレバー21Fを回動させると、ロックピン83の先端部は、固定ボックス74に設けられた円弧状のスライド面77に接触しながらスライド面77上を移動する。スライド面77は、支軸73を中心とする円弧状である。
【0094】
図10に示すように、スライド面77には、ロックピン83の先端部が嵌るニュートラル停止孔78が設けられている。運転者がフロントレバー21Fを回動させているときに、ロックピン83の先端部がニュートラル停止孔78に重なると、ロックピン83の先端部は、バネ85の力でアウターケース82に対してロックピン83の軸方向に移動し、ニュートラル停止孔78に嵌る。ニュートラル停止孔78は、フロントレバー21Fが中立位置で停止する位置に配置されている。したがって、前進全開位置側および後進全開位置側のどちらからフロントレバー21Fを中立位置に移動させても、フロントレバー21Fは、必ず中立位置で止まる。
【0095】
図9および
図11に示すように、フロント出力変更ユニット71Fは、スライドロック81によるフロントレバー21Fの停止を解除させるときに運転者に操作される解除ハンドル86を含む。解除ハンドル86は、フロントレバー21Fに取り付けられている。解除ハンドル86は、フロントレバー21Fと共に回動する。解除ハンドル86は、フロントレバー21Fに対して原点位置と解除位置との間で移動可能である。
図9および
図11は、解除ハンドル86が原点位置に配置されている状態を示している。解除ハンドル86は、ワイヤー87によってロックピン83に連結されている。
【0096】
ロックピン83の先端部がニュートラル停止孔78に嵌っているときに、運転者が解除ハンドル86を原点位置から解除位置まで動かすと、解除ハンドル86の動作がワイヤー87によってロックピン83に伝達され、ロックピン83がバネ85の力に抗してロックピン83の軸方向に移動する。これにより、ロックピン83がアウターケース82に対してロックピン83の軸方向に移動し、ロックピン83の先端部がニュートラル停止孔78の外に出る。したがって、解除ハンドル86を解除位置に位置させながら、フロントレバー21Fを回動させれば、フロントレバー21Fを中立位置から前進全開位置側または後進全開位置側に移動させることができる。
【0097】
スライドロック81は、ロックピン83をアウターケース82に対して移動させるときに運転者によって操作されるつまみ84を含む。ロックピン83は、ロックピン83の軸方向だけでなく、ロックピン83の周方向にもアウターケース82に対して移動可能である。つまみ84は、ロックピン83に固定されている。運転者がつまみ84をアウターケース82に対して軸方向または周方向に移動させると、ロックピン83もアウターケース82に対して軸方向または周方向に移動する。
【0098】
図9に示すように、アウターケース82には、ロックピン83の軸方向に延びるストレート溝82sと、ストレート溝82sから分岐した複数の分岐溝とが形成されている。複数の分岐溝には、ロックピン83の先端部がアウターケース82から突出する突出溝82pと、ロックピン83の先端部がアウターケース82内に収容される収容溝82hとが含まれる。
【0099】
運転者がバネ85の力に抗してつまみ84を突出溝82pから収容溝82hに移動させると、アウターケース82からのロックピン83の突出量が減少し、ロックピン83の先端部がスライド面77から離れる。加えて、ロックピン83の軸方向へのロックピン83の移動が、つまみ84の表面と収容溝82hの内面との接触によって制限される。そのため、フロントレバー21Fを中立位置に移動させても、ロックピン83の先端部がニュートラル停止孔78に嵌らない。
【0100】
これに対して、運転者がつまみ84を収容溝82hからストレート溝82sに移動させると、アウターケース82からのロックピン83の突出量が増加し、ロックピン83の先端部がスライド面77に接触する。つまみ84は、ストレート溝82s内でロックピン83の軸方向に移動可能である。したがって、運転者がフロントレバー21Fを中立位置に移動させると、前述のように、ロックピン83の先端部がニュートラル停止孔78に嵌り、フロントレバー21Fが中立位置で停止する。
【0101】
このように、波型の切欠き76nが形成された凹凸ガイド76が固定ボックス74に設けられているので、運転者がフロントレバー21Fまたはリアレバー21Rを回動させると、断続的な抵抗が運転者に加わる。したがって、運転者が意図せずフロントレバー21Fまたはリアレバー21Rを操作してしまい、車両1の速度が変わってしまうことを防止できる。さらに、フロントレバー21Fおよびリアレバー21Rに中立位置を通過させるときは、必ず解除ハンドル86を握らないといけないので、意図せず車両1が前進または後進することを防止できる。
【0102】
図11に示すように、フロント出力変更ユニット71Fは、フロントレバー21Fを凹凸ガイド76から離すときに運転者によって操作される無効化スライドロック88を含む。無効化スライドロック88は、フロントレバー21Fと共に支軸73を中心に回動する。無効化スライドロック88は、フロントレバー21Fに対してスライドロック81とは反対側に配置されている。無効化スライドロック88は、スライドロック81と同様の構成を有している。すなわち、無効化スライドロック88は、アウターケース82と、ロックピン83と、つまみ84と、バネ85とを含む。ただし、スライドロック81とは異なり、無効化スライドロック88は、解除ハンドル86に接続されていない。
【0103】
図12は、フロントレバー21Fの2つの状態(操作状態、フリー状態)を示す正面図である。
図12(a)および
図12(b)に示すように、固定ボックス74は、フロントレバー21Fに対して凹凸ガイド76とは反対側に配置されたフラットガイド79を備えている。フロントレバー21Fは、凹凸ガイド76とフラットガイド79との間に配置されている。フロントレバー21Fは、フロントレバー21Fが凹凸ガイド76に押し付けられる接触位置(
図12(a)に示す位置)と、フロントレバー21Fが凹凸ガイド76から離れた非接触位置(
図12(b)に示す位置)との間で移動可能である。フロントレバー21Fは、スプリング80によって凹凸ガイド76に押し付けられている。運転者がフロントレバー21Fを凹凸ガイド76とは反対の方に押すと、スプリング80が弾性変形し、フロントレバー21Fが凹凸ガイド76から離れる。
【0104】
図12(b)に示すように、運転者がフロントレバー21Fを非接触位置に配置し、無効化スライドロック88のつまみ84を突出溝82pに配置すると、フラットガイド79は、フロントレバー21Fと無効化スライドロック88のロックピン83との間に配置される。このとき、運転者がフロントレバー21Fを離すと、フロントレバー21Fは、スプリング80の力で接触位置の方に移動するものの、無効化スライドロック88のロックピン83によって移動が規制される。したがって、無効化スライドロック88のつまみ84を突出溝82pに配置しておけば、フロントレバー21Fは、接触位置に戻らずに、非接触位置に留まる。このとき、スライドロック81のつまみ84を収容溝82hに配置しておけば、スライドロック81のロックピン83は、凹凸ガイド76に接触しない。
【0105】
車両1を走行させるときは、フロントレバー21Fおよびリアレバー21Rの一方だけが、運転者によって操作される。運転者がフロントレバー21Fおよびリアレバー21Rの一方を動かすと、フロントレバー21Fおよびリアレバー21Rの他方も移動する。運転者がフロントレバー21Fを操作するときは、リアレバー21Rを予め非接触位置に配置し、リアレバー21R用の無効化スライドロック88のつまみ84を予め突出溝82pに配置する。運転者がリアレバー21Rを操作するときは、フロントレバー21F等を同じように配置する。
【0106】
このようにすれば、フロントレバー21Fの操作中に、リアレバー21R用のスライドロック81のロックピン83がニュートラル停止孔78に嵌らず、このロックピン83が、リアレバー21R用の凹凸ガイド76に触れることはない。したがって、運転者がフロントレバー21Fを中立位置から移動させるときに、リアレバー21R用の解除ハンドル86を解除位置に移動させる必要がない。
【0107】
以上のように本実施形態では、人および荷物の少なくとも一方が載せられる輸送台5が、フロントシート2Fとリアシート2Rとの間に配置されている。したがって、中央通路などの通路内で人および荷物の少なくとも一方を輸送できる。さらに、車両1の前進および後進は、2台の牽引車を使い分けるのではなく、前後進切替ハンドルの一例であるフロントレバー21Fまたはリアレバー21Rを操作してパワートレインPTの回転方向を変更することにより切り替えられる。したがって、車両1を前進および後進させるために2台の牽引車を設ける必要がなく、車両1単独で前進および後進できる。
【0108】
本実施形態では、車体3が車体前方部3Fおよび車体後方部3Rに分割されており、車体前方部3Fおよび車体後方部3Rがヒンジ4によって連結されている。車体前方部3Fおよび車体後方部3Rは、ヒンジ4の回転中心C4まわりに上下に相対的に移動可能である。例えば、車両1が前進中に上り坂に差し掛かると、車体前方部3Fが車体後方部3Rに対して上方に移動するように車体3が折れ曲がる。車両1が前進中に下り坂に差し掛かると、車体前方部3Fが車体後方部3Rに対して下方に移動するように車体3が折れ曲がる。したがって、駆動輪が通路の表面に接した状態を維持でき、パワートレインPTの動力を駆動輪から通路の表面に確実に伝達できる。
【0109】
本実施形態では、原動機52に油圧ポンプ53を駆動させると、油圧が油圧ポンプ53から油圧モータ54に伝達され、油圧モータ54が回転する。これにより、駆動輪が回転する。駆動輪の回転方向を切り替えるときは、油圧モータ54に流れ込む作動油の方向を切り替える。これにより、車両1の前進および後進が切り替えられる。さらに、油圧モータ54に加わる油圧を制御すれば、前進時と同じ速度範囲で車両1を後進させることができる。
【0110】
パワートレインPTが、油圧ポンプ53および油圧モータ54の代わりに、原動機52の回転速度を変更しながら原動機52の回転を駆動輪の方に伝達するトランスミッションを備える場合、前進時と同じ速度で車両1を後進させるときは、前進用の変速ギヤと同数の変速ギヤを後進用に設ける必要がある。そのため、トランスミッションが大きくなり、車両1の重量が増す。駆動輪を油圧で駆動する場合は、トランスミッションが必要ない。したがって、トランスミッションが設けられている場合に比べて、車両1を小型化および軽量化でき、輸送台5の床面(床板6の上面)を低くすることができる。
【0111】
本実施形態では、運転者が前輪WFを右回りに回動させると、後輪WRは、左回りに回動する。運転者が前輪WFを左回りに回動させると、後輪WRは、右回りに回動する。運転者が後輪WRを回動させたときも同様である。つまり、運転者が前輪WFおよび後輪WRの一方を回動させると、前輪WFおよび後輪WRの他方は、前輪WFおよび後輪WRの一方とは反対の回動方向に回動する。これにより、車両1の最小回転半径を小さくすることができる。
【0112】
本実施形態では、フロントジャッキ33Fを伸ばして、前輪WFを通路の表面から浮かす。同様に、リアジャッキ33Rを伸ばして、後輪WRを通路の表面から浮かす。これにより、前輪WFおよび後輪WRの両方が地面から離れ、2つの中央輪WCとフロントジャッキ33Fおよびリアジャッキ33Rのキャスター39によって車体3が支持される。
鉄道用トンネル内の通路に至る途中の通路では、複数の車両1を平行に横並びさせる場合がある。通路が狭いことに加え、他の車両1が存在するので、車両1を自走させて、横並びさせる場合は、車両1を何度も前進および後進させながら、他の車両1の横まで移動させる必要がある(いわゆる切り返し運転の繰り返し)。
【0113】
キャスター39は、車体3に対して任意の角度で回転可能である。フロントジャッキ33Fおよびリアジャッキ33Rで前輪WFおよび後輪WRを浮かせば、車両1を押して車両1の姿勢を変えることができ、車両1の最小回転半径よりも小さい半径で車両1を旋回させることができる。したがって、短時間で車両1を他の車両1の横まで移動させることができる。
【0114】
他の実施形態
本発明は、前述の実施形態の内容に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
例えば、前輪WFの数は、1つではなく、2つであってもよい。ただし、前輪WFが1つである方が、車両1を小回りさせることができる。同様に、後輪WRの数は、1つではなく、2つであってもよい。
【0115】
モータホルダー55および懸架ばね56に2つの中央輪WCを支持させる代わりに、中央輪WCごとに設けられたサスペンションアームおよびショックアブソーバーに中央輪WCを支持させてもよい。つまり、2つの中央輪WCが独立して上下できる独立懸架方式を採用してもよい。
前輪WFおよび後輪WRの少なくとも一方が2つ設けられる場合(3輪または4輪である場合)、中央輪WCを省略して、パワートレインPTの動力を前輪WFおよび後輪WRの少なくとも一方に伝達してもよい。もしくは、前輪WF、中央輪WC、および後輪WR以外の車輪を追加してもよい。
【0116】
前輪WFおよび後輪WRを連動させる操舵輪連動機構43を省略してもよい。つまり、運転者がフロントステアリングハンドル22Fまたはリアステアリングハンドル22Rを操作すると、前輪WFおよび後輪WRの一方だけが右回りまたは左回りに回動してもよい。
車両1は、車両1の走行中に、前輪WF、中央輪WC、および後輪WRのいずれかに制動力を加えるブレーキを備えていてもよい。この場合、ブレーキを作動させるブレーキペダルまたはブレーキハンドルを、フロントシート2Fまたはリアシート2Rに座る運転者が操作可能な位置に配置すればよい。
【0117】
油圧モータ54は、中央輪WCと同軸でなくてもよい。つまり、油圧モータ54の回転軸54sは、中央輪WCの回転中心に対してずれていてもよい。この場合、複数の歯車、または、プーリーおよびベルトによって、油圧モータ54の回転を中央輪WCに伝達すればよい。
パワートレインPTは、油圧ポンプ53および油圧モータ54の代わりに、原動機52の回転速度を変更しながら原動機52の回転を駆動輪に伝達するトランスミッションを備えていてもよい。
【0118】
起伏の小さい通路を走行する場合や、車両1の全長が短い場合は、車体3は、ヒンジ4を中心に上下に屈曲する構造ではなく、上下に屈曲しない構造であってもよい。
フロントシート2Fおよびリアシート2Rの少なくとも一方は、運転者の臀部に接する座面に加えて、運転者の背中または腰の背面に接する背もたれを備えていてもよい。
フロントレバー21Fが、車両1の前進および後進を切り替えるときに操作される前後進切替ハンドルと、パワートレインPTの出力を変更するときに操作されるアクセルとを兼ねるのではなく、フロントレバー21Fとは別のアクセルを設けてもよい。同様に、リアレバー21Rとは別のアクセルを設けてもよい。アクセルは、アクセルペダルであってもよいし、アクセルグリップやアクセルレバーなどのアクセルハンドルであってもよい。
【0119】
フロントレバー21Fおよびリアレバー21Rとは別のアクセルが設けられる場合、車両1に設けられる前後進切替ハンドル(フロントレバー21Fおよびリアレバー21R)の数は、1つであってもよい。この場合、1つの前後進切替ハンドルは、フロントシート2Fまたはリアシート2Rの近傍に配置されていてもよいし、フロントシート2Fおよびリアシート2Rから離れた位置に配置されていてもよい。
【0120】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0121】
1 :車両
2F :フロントシート
2R :リアシート
3 :車体
4 :ヒンジ
5 :輸送台
6 :床板
7 :側壁
8 :前壁
9 :後壁
21F :フロントレバー
21R :リアレバー
33F :フロントジャッキ
33R :リアジャッキ
39 :キャスター
43 :操舵輪連動機構
44 :連動ケーブル
52 :原動機
53 :油圧ポンプ
54 :油圧モータ
PT :パワートレイン
WC :中央輪
WF :前輪
WR :後輪