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特許7246200ひげぜんまい、てんぷ、時計用ムーブメントおよび時計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】ひげぜんまい、てんぷ、時計用ムーブメントおよび時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20230317BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019025318
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020134226
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】野村 寛志
(72)【発明者】
【氏名】井畑 貴吉
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-167531(JP,A)
【文献】特開2011-215085(JP,A)
【文献】特開2006-214822(JP,A)
【文献】特開2015-132501(JP,A)
【文献】国際公開第2017/220672(WO,A1)
【文献】特開2013-210386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06
G04B 17/32,17/34
G04B 18/00,18/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線回りをアルキメデス曲線に沿って延びる本体部と、
前記本体部よりも径方向の外側で前記中心軸線回りの周方向に沿って延びる外端カーブ部と、
前記本体部と前記外端カーブ部とを接続し、前記本体部との第1接続部において前記アルキメデス曲線の接線よりも径方向の外側に向かって曲がる第1曲げ部、および前記外端カーブ部との第2接続部において前記外端カーブ部よりも径方向の内側に向かって曲がる第2曲げ部を有し、前記第1曲げ部および前記第2曲げ部のうち少なくとも一方が湾曲している癖付け部と、
を備え、
前記第1曲げ部および前記第2曲げ部の両方は、それぞれ湾曲し、
前記第1曲げ部の曲率半径は3mm以上7mm以下であり、
前記第2曲げ部の曲率半径は0.5mm以上1mm以下である、
ことを特徴とするひげぜんまい。
【請求項2】
前記第1曲げ部および前記第2曲げ部は、互いに接続している、
ことを特徴とする請求項に記載のひげぜんまい。
【請求項3】
前記第1曲げ部および前記第2曲げ部のうち前記少なくとも一方は、一定の曲率で湾曲している、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のひげぜんまい。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載のひげぜんまいと、
前記ひげぜんまいの内端部に固定されたてん真と、
前記てん真に固定されたてん輪と、
を備えることを特徴とするてんぷ。
【請求項5】
請求項に記載のてんぷを備えることを特徴とする時計用ムーブメント。
【請求項6】
請求項に記載の時計用ムーブメントを備えることを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひげぜんまい、てんぷ、時計用ムーブメントおよび時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械式時計において、てんぷは振動周期が予め決められた規定値内に設定されていることが重要とされている。振動周期が規定値からずれてしまうと、機械式時計の歩度(時計の遅れ、進みの度合い)が変化するためである。歩度を調整するための方法として、一般的に、内端がてんぷのてん真に固定され、外端がひげ持に固定されたひげぜんまいの長さ(有効長さ)を緩急針で調整する方法が知られている。
【0003】
金属製のひげぜんまいは、アルキメデス曲線に沿う渦巻状の部分と、渦巻状の部分の外端部から癖付け部を介して径方向外側に離間して一定の曲率で延びる外端カーブ部と、を備える(例えば、特許文献1参照)。外端カーブ部は、ひげぜんまいの外端を固定するひげ持や、ひげぜんまいの有効長さを調整する緩急針等に係合している。
【0004】
ひげぜんまいは、衝撃が加わった際に塑性変形して、他部品との接触、または自己接触を起こし、振動周期および歩度の等時性に乱れが生じる場合がある。特に、上記の癖付け部においては、曲率の小さな屈曲点を有する場合、ひげぜんまいに衝撃が加わった際に応力が集中しやすく、塑性変形する可能性がある。
特許文献1に記載の技術では、ぜんまいの永久変形に対する耐性を向上させるため、ひげぜんまいの外端領域に熱処理を加え、内部応力を除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-309802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、ひげぜんまいを製造するにあたって、熱処理が追加されることで製造コストが増加する。したがって、ひげぜんまいの製造コストの上昇を抑制しつつ、応力集中による変形を抑制するという点で課題がある。
【0007】
そこで本発明は、製造コストの上昇を抑制しつつ、応力集中による変形が抑制されたひげぜんまい、てんぷ、時計用ムーブメントおよび時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のひげぜんまいは、中心軸線回りをアルキメデス曲線に沿って延びる本体部と、前記本体部よりも径方向の外側で前記中心軸線回りの周方向に沿って延びる外端カーブ部と、前記本体部と前記外端カーブ部とを接続し、前記本体部との第1接続部において前記アルキメデス曲線の接線よりも径方向の外側に向かって曲がる第1曲げ部、および前記外端カーブ部との第2接続部において前記外端カーブ部よりも径方向の内側に向かって曲がる第2曲げ部を有し、前記第1曲げ部および前記第2曲げ部のうち少なくとも一方が湾曲している癖付け部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、渦巻き状の薄板ばねの一部に例えば曲げ加工等を行って第1曲げ部および第2曲げ部を有する癖付け部を形成することで、緩急針等を係合させる部位として、ひげぜんまいの最外周部に本体部から径方向の外側に離間した外端カーブ部を設けることができる。このような構成において、第1曲げ部および第2曲げ部のうち少なくとも一方が湾曲しているので、第1曲げ部および第2曲げ部が折れ曲がっている場合と比較して、癖付け部に生じる応力集中を抑制することができる。したがって、熱処理等の追加に伴う製造コストの上昇を抑制しつつ、応力集中による変形が抑制されたひげぜんまいを提供できる。
【0010】
上記のひげぜんまいにおいて、前記第1曲げ部および前記第2曲げ部のうち前記少なくとも一方は、一定の曲率で湾曲していてもよい。
【0011】
本発明によれば、第1曲げ部および第2曲げ部のうち湾曲している少なくとも一方において発生する応力を、一定の曲率で湾曲する範囲に略均等に分散させることができる。したがって、応力集中によるひげぜんまいの変形をより確実に抑制できる。
【0012】
上記のひげぜんまいにおいて、前記第1曲げ部および前記第2曲げ部の両方は、それぞれ湾曲していてもよい。
【0013】
本発明によれば、第1曲げ部および第2曲げ部の両方において、応力集中を抑制することができる。したがって、応力集中によるひげぜんまいの変形をより確実に抑制できる。
【0014】
上記のひげぜんまいにおいて、前記第1曲げ部および前記第2曲げ部は、互いに接続していてもよい。
【0015】
本発明によれば、癖付け部の全体が湾曲した曲げ部となるので、癖付け部に発生する応力を癖付け部全体に分散させることができる。したがって、応力集中によるひげぜんまいの変形をより確実に抑制できる。
【0016】
本発明のてんぷは、上記のひげぜんまいと、前記ひげぜんまいの内端部に固定されたてん真と、前記てん真に固定されたてん輪と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、製造コストの上昇を抑制しつつ、応力集中による変形が抑制されたひげぜんまいを備えるので、ひげぜんまいの変形に伴う歩度のばらつきの少ない高品質なてんぷを安価に提供できる。
【0018】
本発明の時計用ムーブメントは、上記のてんぷを備えることを特徴とする。
本発明の時計は、上記の時計用ムーブメントを備えることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、歩度のばらつきの少ない高品質、かつ安価なてんぷを備えているので、時刻誤差が少ない高品質な時計用ムーブメントおよび時計を安価に提供できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、製造コストの上昇を抑制しつつ、応力集中による変形が抑制されたひげぜんまいを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態の時計の外観図である。
図2】第1実施形態のムーブメントの平面図である。
図3】第1実施形態のてんぷの平面図である。
図4図3のIV-IV線における断面図である。
図5】第1実施形態のひげぜんまいの平面図である。
図6】ひげぜんまいの一部に一定の曲率で湾曲する曲げ部を設け、その曲げ部の曲率半径と応力緩和率との関係を示すグラフである。
図7】第2実施形態のひげぜんまいの平面図である。
図8】第3実施形態のひげぜんまいの平面図である。
図9】第4実施形態のひげぜんまいの平面図である。
図10】第5実施形態のひげぜんまいの平面図である。
図11】第6実施形態のひげぜんまいの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0023】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の時計の外観図である。
図1に示すように、本実施形態の時計1は、図示しないケース裏蓋およびガラス2を有する時計ケース3内に、ムーブメント10(時計用ムーブメント)と、少なくとも時に関する情報を示す目盛りを有する文字板4と、時を示す時針5、分を示す分針6、および秒を示す秒針7を含む指針と、を備えている。
【0024】
図2は、第1実施形態のムーブメントの平面図である。
図2に示すように、ムーブメント10は、基板を構成する地板11を有している。地板11には、巻真案内穴11aが形成されている。巻真案内穴11aには、図1に示すりゅうず8に連結された巻真12が回転自在に組み込まれている。巻真12は、おしどり13、かんぬき14、かんぬきばね15および裏押さえ16を有する切換装置により、軸方向の位置が決められている。なお、巻真12の案内軸部には、きち車17が回転自在に設けられている。
【0025】
このような構成のもと、巻真12を回転させると、図示しないつづみ車の回転を介してきち車17が回転する。きち車17が回転すると、丸穴車20および角穴車21が順に回転し、香箱車22に収容された図示しないぜんまいが巻き上げられる。なお、香箱車22は、地板11と香箱受23との間で軸支されている。
【0026】
地板11と輪列受24との間には、二番車25、三番車26、四番車27およびがんぎ車35が軸支されている。ぜんまいの復元力により香箱車22が回転すると、二番車25、三番車26および四番車27が順に回転するように構成されている。これら香箱車22、二番車25、三番車26および四番車27は、表輪列を構成している。
【0027】
なお、二番車25が回転すると、その回転に基づいて図示しない筒かなが回転し、筒かなに取り付けられた分針6(図1参照)が「分」を表示する。また、筒かなが回転すると、図示しない日の裏車を介して図示しない筒車が回転し、筒車に取り付けられた時針5(図1参照)が「時」を表示する。また、四番車27が回転することで、四番車27に取り付けられた秒針7(図1参照)が「秒」を表示する。
【0028】
ムーブメント10の表側には、表輪列の回転を制御するための脱進・調速機構30が配置されている。脱進・調速機構30は、四番車27と噛み合うがんぎ車35と、がんぎ車35を脱進させて規則正しく回転させるアンクル36と、てんぷ40と、を備えている。以下に、てんぷ40の構造について詳細に説明する。
【0029】
図3は、第1実施形態のてんぷの平面図である。図4は、図3のIV-IV線における断面図である。
図3および図4に示すように、てんぷ40は、てん真41と、てん輪42と、ひげぜんまい43と、を備える。てんぷ40は、ひげぜんまい43の動力を利用して、てん真41の中心軸線O回りに一定の振動周期(振り角)で往復回転(正逆回転)する。なお、本実施形態では、てん真41の中心軸線Oに沿う方向を軸方向といい、中心軸線Oに直交して中心軸線Oから放射状に延びる方向を径方向といい、軸方向から見た平面視で中心軸線Oを周回する方向を周方向という。
【0030】
てん真41は、例えば真鍮等の金属材料によって形成され、中心軸線Oに沿って延在した棒状部材とされている。てん真41における軸方向の両端には、先細りした第1ほぞ41aおよび第2ほぞ41bが形成されている。てん真41は、第1ほぞ41aおよび第2ほぞ41bを介して、地板11および図示しないてんぷ受の間に軸支されている。てん真41は、軸方向の略中央部分がてん輪42の後述する嵌合孔49a内に例えば圧入によって固定されている。これにより、てん真41およびてん輪42は、一体的に固定されている。
【0031】
てん真41には、てん輪42よりも第2ほぞ41b寄りに位置する部分に、円環状の振り座44が中心軸線Oと同軸に外嵌されている。振り座44は、径方向の外側に向けて張り出したフランジ部44aを有している。フランジ部44aには、アンクル36を揺動させるための振り石45が固定されている。さらにてん真41には、てん輪42よりも第1ほぞ41a寄りに位置する部分に、ひげぜんまい43を固定するための環状のひげ玉46が外嵌されている。
【0032】
てん輪42は、てん真41を径方向の外側から囲む円環状のリム部47と、リム部47とてん真41とを径方向に連結するアーム部48と、を備えている。リム部47は、中心軸線Oと同軸に配置されている。リム部47は、例えば真鍮等の金属材料により形成されている。アーム部48は、径方向に延在すると共に周方向に間隔をあけて複数配置されている。図示の例では、アーム部48は、中心軸線Oを中心として90度の間隔をあけて4つ配置されている。但し、アーム部48の数や配置、形状はこの場合に限定されるものではない。
【0033】
各アーム部48の径方向の外端部は、リム部47の内周部に対して一体に連結されている。各アーム部48の径方向の内端部は、互いに接続されて一体となっている。各アーム部48の内端部が一体となった連結部49には、中心軸線Oと同軸の嵌合孔49aが形成されている。上述したように、嵌合孔49a内には、てん真41が例えば圧入により固定されている。
【0034】
ひげぜんまい43は、金属材料により形成された薄板ばねである。ひげぜんまい43は、例えば鉄やニッケル等により形成されている。ひげぜんまい43は、中心軸線Oの垂直面内で渦巻き状に形成されている。ひげぜんまい43の内端部は、ひげ玉46を介しててん真41に固定されている。ひげぜんまい43のうち、最外周部分の一部は、後述する癖付け部55を介して径方向外側に離間すると共に、曲率半径が癖付け部55よりも内周に位置する部分よりも大きく形成されている。ひげぜんまい43の外端部は、図示しないひげ持受を介して取り付けられたひげ持67に固定されている。
【0035】
図5は、第1実施形態のひげぜんまいの平面図である。
図5に示すように、ひげぜんまい43は、中心軸線O回りを軸方向から見てアルキメデス曲線に沿って延びる本体部51と、本体部51よりも径方向の外側で周方向に沿って延びる外端カーブ部53と、本体部51と外端カーブ部53とを接続する癖付け部55と、を備える。
【0036】
本体部51は、軸方向から見て径方向に略等間隔で隣り合うように複数の巻き数で巻かれている。図示の例では、本体部51は、内端部51aを巻出し位置として、軸方向から見て中心軸線Oを極座標原点とするアルキメデス曲線に沿って巻出しが進み、15巻の巻き数で形成されている。本体部51の内端部51aは、ひげぜんまい43の内端部とされている。以下、周方向のうち、本体部51が内端部51aを起点として延びる方向を本体部51の巻出し方向という。
【0037】
外端カーブ部53は、ひげぜんまい43の最外周部分とされている。外端カーブ部53は、中心軸線O回りを一定の曲率で延びている。外端カーブ部53は、曲率半径が本体部51よりも大きく形成された円弧状に形成されている。なお、ひげぜんまい43の各部における「曲率半径」は、対象の部位における凹曲面の曲率の逆数とする。外端カーブ部53の第1端部53aは、ひげぜんまい43の外端部とされている。外端カーブ部53の第2端部53bは、本体部51の外端部51bに対して本体部51の巻出し方向に所定角度ずれた位置に設けられている。
【0038】
癖付け部55は、本体部51の外端部51bと、外端カーブ部53の第2端部53bと、を接続している。癖付け部55は、本体部51の外端部51bから、径方向の外側、かつ本体部51の巻出し方向に延びて、外端カーブ部53の第2端部53bに結合している。癖付け部55は、本体部51との第1接続部55aにおいて前記アルキメデス曲線の接線Tよりも径方向の外側に向かって曲がる第1曲げ部56と、外端カーブ部53との第2接続部55bにおいて外端カーブ部53よりも径方向の内側に向かって曲がる第2曲げ部57と、を有する。第1曲げ部56および第2曲げ部57のうち少なくとも一方は、湾曲している。本実施形態では、第1曲げ部56および第2曲げ部57のうち第1曲げ部56のみが湾曲している。すなわち、第1曲げ部56は湾曲し、第2曲げ部57は折れ曲がっている。第1曲げ部56は、一定の曲率で湾曲している。第1曲げ部56の曲率半径は、癖付け部55におけるひげぜんまい43の厚みよりも大きい。第1曲げ部56は、軸方向から見て本体部51に滑らかに接続している。なお「滑らかに接続」とは、屈曲せずに接線の傾きを連続させた状態での接続を意味する。第1曲げ部56および第2曲げ部57は、互いに接続している。
【0039】
本実施形態のひげぜんまい43における各部の寸法および角度について詳述するにあたって、ひげぜんまい43の原形について説明する。ひげぜんまい43の原形は、癖付け部55によって変形しておらず、全体が前記アルキメデス曲線に沿って延びる形状を有する。すなわち、ひげぜんまい43の原形は、ひげぜんまい43のうち癖付け部55および外端カーブ部53を構成する部分を、図中の二点鎖線Aで示すように本体部51の外端部51bからさらに前記アルキメデス曲線に沿って延ばした形状を有する。
【0040】
軸方向から見て、中心軸線Oとひげぜんまい43の原形における外端部とを通る仮想直線L上において、ひげぜんまい43の原形の最外周部の内径を時間径Dと定義する。時間径Dが3.5mm≦D≦5.5mmを満たし、外端カーブ部53の曲率半径Rが0.25mm≦R-(D/2)≦0.65mmを満たし、癖付け部55の両端間の中心軸線Oにおける中心角θが10°≦θ≦35°を満たしている場合、第1曲げ部56の曲率半径R1は、0.35mm≦R1≦10mmを満たすことが望ましい。さらに、第1曲げ部56の曲率半径R1は、3mm≦R1≦7mmを満たすことがより望ましい。これにより、第1曲げ部56に生じる応力の最大値を20%以上緩和することができる。
【0041】
以上に説明したように、本実施形態のひげぜんまい43は、本体部51と外端カーブ部53とを接続する癖付け部55を備える。癖付け部55は、本体部51との第1接続部55aにおいてアルキメデス曲線の接線Tよりも径方向の外側に向かって曲がる第1曲げ部56、および外端カーブ部53との第2接続部55bにおいて外端カーブ部53よりも径方向の内側に向かって曲がる第2曲げ部57を有する。第1曲げ部56は湾曲している。
この構成によれば、渦巻き状の薄板ばね(ひげぜんまい43の原形)の一部に例えば曲げ加工等を行って第1曲げ部56および第2曲げ部57を有する癖付け部55を形成することで、緩急針等を係合させる部位として、ひげぜんまい43の最外周部に本体部51から径方向の外側に離間した外端カーブ部53を設けることができる。このような構成において、第1曲げ部56が湾曲しているので、第1曲げ部および第2曲げ部が折れ曲がっている場合と比較して、癖付け部55に生じる応力集中を抑制することができる。したがって、熱処理等の追加に伴う製造コストの上昇を抑制しつつ、応力集中による変形が抑制されたひげぜんまい43を提供できる。
【0042】
なお、本実施形態では、第1曲げ部56および第2曲げ部57を有する癖付け部55によって、外端カーブ部53を本体部51から離間させている。このような形状のひげぜんまいは、例えば薄板ばねを塑性変形によって癖付けすることにより形成される。ここで、アルキメデス曲線の接線よりも径方向の外側に向かって曲がる第1曲げ部を有しないひげぜんまいでは、外端カーブ部を本体部から離間させる際の曲げ量(角度)が微小になる。このため、薄板ばねを十分に塑性変形させることができず、外端カーブ部の位置精度が悪化する可能性がある。本実施形態によれば、第1曲げ部56および第2曲げ部57を有するので、ひげぜんまい43を形成する際に薄板ばねを塑性変形により容易に癖付けでき、外端カーブ部53の位置および形状の精度の向上を図ることができる。
【0043】
また、第1曲げ部56は一定の曲率で湾曲している。
この構成によれば、第1曲げ部56において発生する応力を、一定の曲率で湾曲する範囲に略均等に分散させることができる。したがって、応力集中によるひげぜんまい43の変形をより確実に抑制できる。
【0044】
ここで、ひげぜんまいに一定の曲率で湾曲する曲げ部を設けることによる応力緩和の有効性を説明する。
図6は、ひげぜんまいの一部に一定の曲率で湾曲する曲げ部を設け、その曲げ部の曲率半径と応力緩和率との関係を示すグラフである。図6において横軸は、曲げ部の曲率半径を示している。縦軸は、応力緩和率として、曲げ部の曲率半径が0.15mmの場合に対する応力の最大値の減少率を示している。なお、図6に示す結果は、ひげぜんまいの幅を0.078mmとし、ひげぜんまいの厚みを0.028mmとした場合の結果である。
図6に示すように、曲げ部の曲率半径が大きくなるに従い、応力の緩和率が上昇していることが確認できる。したがって、本実施形態において、第1曲げ部56を一定の曲率で湾曲させることで、癖付け部55に生じる応力集中を抑制することができることが確認できた。
【0045】
さらに、本実施形態のてんぷ40によれば、上述したひげぜんまい43を備えるので、ひげぜんまい43の変形に伴う歩度のばらつきの少ない高品質、かつ安価なてんぷ40とすることができる。
【0046】
さらに、本実施形態のムーブメント10および時計1によれば、上述したてんぷ40を備えるので、時刻誤差が少ない高品質なムーブメント10および時計1とすることができる。
【0047】
[第2実施形態]
次に、図7を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、癖付け部155が第1曲げ部156と第2曲げ部157との間に直線部158を備える点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0048】
図7は、第2実施形態のひげぜんまいの平面図である。
図7に示すように、癖付け部155は、本体部51との第1接続部155aにおいて前記アルキメデス曲線の接線Tよりも径方向の外側に向かって曲がる第1曲げ部156と、外端カーブ部53との第2接続部155bにおいて外端カーブ部53よりも径方向の内側に向かって曲がる第2曲げ部157と、第1曲げ部156と第2曲げ部157とを接続する直線部158と、を有する。本実施形態では、第1曲げ部156および第2曲げ部157のうち第1曲げ部156のみが湾曲している。第1曲げ部156は、一定の曲率で湾曲している。直線部158は、軸方向から見て直線状に延びている。直線部158は、第1曲げ部156の外端部から、径方向の外側、かつ本体部51の巻出し方向に延びて、第2曲げ部157に結合している。直線部158は、軸方向から見て第1曲げ部156に滑らかに接続している。なお、時間径D、外端カーブ部53の曲率半径R、癖付け部155の両端間の中心角θ、および第1曲げ部156の曲率半径R1については、第1実施形態と同様の条件を満たすことが望ましい。
【0049】
以上に説明したように、本実施形態のひげぜんまい43は、一定の曲率で湾曲した第1曲げ部156を備えるので、第1実施形態のひげぜんまい43と同様の作用効果を奏する。
【0050】
[第3実施形態]
次に、図8を参照して、第3実施形態について説明する。第3実施形態は、第1曲げ部256が折れ曲がり、第2曲げ部257が湾曲している点で、第1実施形態と異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0051】
図8は、第3実施形態のひげぜんまいの平面図である。
図8に示すように、癖付け部255は、本体部51との第1接続部255aにおいて前記アルキメデス曲線の接線Tよりも径方向の外側に向かって曲がる第1曲げ部256と、外端カーブ部53との第2接続部255bにおいて外端カーブ部53よりも径方向の内側に向かって曲がる第2曲げ部257と、を有する。本実施形態では、第1曲げ部256および第2曲げ部257のうち第2曲げ部257のみが湾曲している。第2曲げ部257は、一定の曲率で湾曲している。第2曲げ部257は、軸方向から見て外端カーブ部53に滑らかに接続している。第1曲げ部256および第2曲げ部257は、互いに接続している。時間径D、外端カーブ部53の曲率半径R、および癖付け部255の両端間の中心角θが上記第1実施形態と同様の条件を満たす場合において、第2曲げ部257の曲率半径R2は、0.3mm≦R2≦2mmを満たすことが望ましい。さらに、第2曲げ部257の曲率半径R2は、0.5mm≦R2≦1mmを満たすことがより望ましい。これにより、第2曲げ部257に生じる応力の最大値を20%以上緩和することができる。
【0052】
以上に説明したように、本実施形態のひげぜんまい43は、一定の曲率で湾曲した第2曲げ部257を備えるので、第1実施形態のひげぜんまい43と同様の作用効果を奏する。
【0053】
[第4実施形態]
次に、図9を参照して、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、癖付け部355が第1曲げ部356と第2曲げ部357との間に直線部358を備える点で、第3実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第3実施形態と同様である。
【0054】
図9は、第4実施形態のひげぜんまいの平面図である。
図9に示すように、癖付け部355は、本体部51との第1接続部355aにおいて前記アルキメデス曲線の接線Tよりも径方向の外側に向かって曲がる第1曲げ部356と、外端カーブ部53との第2接続部355bにおいて外端カーブ部53よりも径方向の内側に向かって曲がる第2曲げ部357と、第1曲げ部356と第2曲げ部357とを接続する直線部358と、を有する。本実施形態では、第1曲げ部356および第2曲げ部357のうち第2曲げ部357のみが湾曲している。第2曲げ部357は、一定の曲率で湾曲している。直線部358は、軸方向から見て直線状に延びている。直線部358は、第2曲げ部357の内端部から、径方向の内側、かつ周方向のうち本体部51の巻出し方向とは反対方向に延びて、第1曲げ部356に結合している。直線部358は、軸方向から見て第2曲げ部357に滑らかに接続している。なお、時間径D、外端カーブ部53の曲率半径R、癖付け部355の両端間の中心角θ、および第2曲げ部357の曲率半径R2については、第3実施形態と同様の条件を満たすことが望ましい。
【0055】
以上に説明したように、本実施形態のひげぜんまい43は、一定の曲率で湾曲した第2曲げ部357を備えるので、第3実施形態のひげぜんまい43と同様の作用効果を奏する。
【0056】
[第5実施形態]
次に、図10を参照して、第5実施形態について説明する。第5実施形態は、第1曲げ部456および第2曲げ部457の両方が湾曲している点で、第1実施形態と異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0057】
図10は、第5実施形態のひげぜんまいの平面図である。
図10に示すように、癖付け部455は、本体部51との第1接続部455aにおいて前記アルキメデス曲線の接線Tよりも径方向の外側に向かって曲がる第1曲げ部456と、外端カーブ部53との第2接続部455bにおいて外端カーブ部53よりも径方向の内側に向かって曲がる第2曲げ部457と、を有する。本実施形態では、第1曲げ部456および第2曲げ部457の両方が湾曲している。第1曲げ部456および第2曲げ部457は、それぞれ一定の曲率で湾曲している。第1曲げ部456は、軸方向から見て本体部51に滑らかに接続している。第2曲げ部457は、軸方向から見て外端カーブ部53に滑らかに接続している。第1曲げ部456および第2曲げ部457は、互いに滑らかに接続している。例えば、第1曲げ部456の曲率半径は、第2曲げ部の曲率半径よりも大きい。
【0058】
時間径D、外端カーブ部53の曲率半径R、および癖付け部455の両端間の中心角θが上記第1実施形態と同様の条件を満たす場合において、第1曲げ部456の曲率半径R1は、0.35mm≦R1≦10mmを満たし、第2曲げ部457の曲率半径R2は、0.3mm≦R2≦2mmを満たすことが望ましい。さらに、第1曲げ部456の曲率半径R1は、3mm≦R1≦7mmを満たし、第2曲げ部457の曲率半径R2は、0.5mm≦R2≦1mmを満たすことがより望ましい。これにより、第1曲げ部456および第2曲げ部457それぞれに生じる応力の最大値を20%以上緩和することができる。
【0059】
以上に説明したように、本実施形態では、第1曲げ部456および第2曲げ部457の両方がそれぞれ一定の曲率で湾曲している。この構成によれば、第1曲げ部456および第2曲げ部457の両方において、応力集中を抑制することができる。したがって、応力集中によるひげぜんまい43の変形をより確実に抑制できる。
【0060】
また、第1曲げ部456および第2曲げ部457は、互いに接続している。
この構成によれば、癖付け部455の全体が湾曲した曲げ部となるので、癖付け部455に発生する応力を癖付け部455の全体に分散させることができる。したがって、応力集中によるひげぜんまい43の変形をより確実に抑制できる。
【0061】
[第6実施形態]
次に、図11を参照して、第6実施形態について説明する。第6実施形態は、癖付け部555が第1曲げ部556と第2曲げ部557との間に直線部558を備える点で、第5実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第5実施形態と同様である。
【0062】
図11は、第6実施形態のひげぜんまいの平面図である。
図11に示すように、癖付け部555は、本体部51との第1接続部555aにおいて前記アルキメデス曲線の接線Tよりも径方向の外側に向かって曲がる第1曲げ部556と、外端カーブ部53との第2接続部555bにおいて外端カーブ部53よりも径方向の内側に向かって曲がる第2曲げ部557と、第1曲げ部556と第2曲げ部557とを接続する直線部558と、を有する。本実施形態では、第1曲げ部556および第2曲げ部557の両方が湾曲している。第1曲げ部556および第2曲げ部557は、それぞれ一定の曲率で湾曲している。直線部558は、軸方向から見て直線状に延びている。直線部558は、第1曲げ部556の外端部から、径方向の内側、かつ本体部51の巻出し方向に延びて、第2曲げ部557の内端部に結合している。直線部558は、軸方向から見て第1曲げ部556および第2曲げ部557それぞれに滑らかに接続している。なお、時間径D、外端カーブ部53の曲率半径R、癖付け部555の両端間の中心角θ、第1曲げ部556の曲率半径R1、および第2曲げ部557の曲率半径R2については、第5実施形態と同様の条件を満たすことが望ましい。
【0063】
以上に説明したように、本実施形態では、第1曲げ部556および第2曲げ部557の両方がそれぞれ一定の曲率で湾曲しているので、第5実施形態と同様に、応力集中によるひげぜんまい43の変形をより確実に抑制できる。
【0064】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、外端カーブ部53が一定の曲率で中心軸線O回りを延びているが、これに限定されない。外端カーブ部は、周方向に沿って延びていればよく、曲率が一部で僅かに変化していてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、第1曲げ部56および第2曲げ部57を塑性変形により形成しているが、ひげぜんまいの形成方法は特に限定されない。例えば電鋳等のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術によりひげぜんまいを形成してもよい。
【0066】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…時計 10…ムーブメント(時計用ムーブメント) 40…てんぷ 41…てん真 42…てん輪 43…ひげぜんまい 51…本体部 53…外端カーブ部 55,155,255,355,455,555…癖付け部 55a,155a,255a,355a,455a,555a…第1接続部 55b,155b,255b,355b,455b,555b…第2接続部 56,156,256,356,456,556…第1曲げ部 57,157,257,357,457,557…第2曲げ部 O…中心軸線 T…接線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11