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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】車輪径算出装置及び速度算出装置
(51)【国際特許分類】
   G01P 21/02 20060101AFI20230317BHJP
   G01B 21/12 20060101ALI20230317BHJP
   G01P 3/42 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
G01P21/02
G01B21/12
G01P3/42 J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019040129
(22)【出願日】2019-03-06
(65)【公開番号】P2020143975
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】391039173
【氏名又は名称】株式会社JR西日本テクノス
(73)【特許権者】
【識別番号】390010054
【氏名又は名称】コイト電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】松岡 成康
(72)【発明者】
【氏名】北野 士朗
(72)【発明者】
【氏名】原田 桂
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 光男
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特許第7045791(JP,B2)
【文献】特許第5371908(JP,B2)
【文献】特開平9-28002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P
G01B
B61L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪径を算出する車輪径算出装置であって、
速度発電機から前記鉄道車両の車輪の回転に応じた信号を取得する信号取得部と、
前記速度発電機を用いずに検出された前記鉄道車両の走行速度を取得する速度取得部と、
前記信号取得部が取得した信号及び前記速度取得部が取得した走行速度に基づいて前記車輪径を算出して出力する車輪径算出部と、を備え
前記車輪径算出部は、前記速度取得部が取得した走行速度が第2速度以下の場合に前記車輪径を算出し、その後、前記速度取得部が取得した走行速度が前記第2速度よりも高速な第3速度以上の場合に前記車輪径を算出する、
ことを特徴とする車輪径算出装置。
【請求項2】
前記車輪径算出部は、前記第3速度を用いた車輪径の算出を複数回実行し、今回算出された車輪径と前回算出された車輪径との差が第1差分値以内である場合には、走行速度算出に利用されている車輪径を算出された車輪径に更新することを特徴とする請求項に記載の車輪径算出装置。
【請求項3】
前記車輪径算出部は、前記第2速度を用いて算出された車輪径と現在走行速度算出に利用されている車輪径との差が第2差分値以上である場合には、走行速度算出に利用されている車輪径を算出された車輪径に更新することを特徴とする請求項1または2に記載の車輪径算出装置。
【請求項4】
前記車輪径算出部は、前記速度取得部が取得した走行速度が一定の速度の場合に前記車輪径を算出することを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載の車輪径算出装置。
【請求項5】
前記車輪径算出部は、算出して出力した前記車輪径を記憶する不揮発性の記憶部を備えることを特徴とする請求項1からのうちいずれか一項に記載の車輪径算出装置。
【請求項6】
前記速度取得部が取得する速度は、衛星測位システムを利用して検出された速度であって、
前記衛星測位システムから得られる精度低下率に基づいて、前記速度取得部から取得する走行速度の信頼度を評価する評価部を備え、
前記車輪径算出部は、前記評価部の評価の結果、前記信頼度が所定以下の場合には、前記車輪径の算出をせずに、前記記憶部に記憶された車輪径を出力することを特徴とする請求項に記載の車輪径算出装置。
【請求項7】
前記車輪径算出部は、速度取得部が取得した走行速度よりも前に前記信号取得部が取得した信号に基づいて前記車輪径を算出することを特徴とする請求項1からのうちいずれか一項に記載の車輪径算出装置。
【請求項8】
請求項1からのうちいずれか一項に記載の車輪径算出装置と、
前記車輪径算出装置で算出された車輪径と前記信号取得部で取得した信号とに基づいて前記鉄道車両の走行速度を算出する速度算出部と、
を備えることを特徴とする速度算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の走行速度を算出するために用いられる車輪径を算出する車輪径算出装置と、それを備えた速度算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行速度検出は、車輪の回転数に応じたパルス信号を出力する速度発電機の出力パルス信号から車輪の回転速度を求め、これに予め測定され設定された車輪径を乗じることによって行われることが一般的である。
【0003】
例えば特許文献1には、車軸に連動して回転する駆動円盤の回転に応じて発生する速度パルスに基づいて速度を算出するとともに、車軸の回転と無関係な擬似パルスの影響を排除した速度算出方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-283525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車輪の回転速度に応じて車両の走行速度を検出する場合、例えば車輪の磨耗や削正等によって、速度算出の前提となる車輪径と実際の車輪径とが相違する場合には、検出される走行速度に誤差が生じてしまう。
【0006】
また、車輪径の値は手動で入力するのが一般的であり、鉄道車両の場合、車輪径は速度算出に係る装置以外にも用いられるため、設定箇所が多くヒューマンエラーが発生し易い。さらに、現在の手動入力は10mm単位等の比較的入力し易い数値で入力するようになっていることが多く、例えば1mm単位等のより精密な数値を設定できないことがある。
【0007】
そこで、本発明は、人手による設定の手間を省いて、自動的に車輪径を算出するとともに設定される車輪径の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載された発明は、鉄道車両の車輪径を算出する車輪径算出装置であって、速度発電機から前記鉄道車両の車輪の回転に応じた信号を取得する信号取得部と、前記速度発電機を用いずに検出された前記鉄道車両の走行速度を取得する速度取得部と、前記信号取得部が取得した信号及び前記速度取得部が取得した走行速度に基づいて前記車輪径を算出して出力する車輪径算出部と、を備え、前記車輪径算出部は、前記速度取得部が取得した走行速度が第2速度以下の場合に前記車輪径を算出し、その後、前記速度取得部が取得した走行速度が前記第2速度よりも高速な第3速度以上の場合に前記車輪径を算出する、ことを特徴とする車輪径算出装置である。
【0012】
請求項に記載された発明は、請求項に記載された発明において、前記車輪径算出部は、前記第3速度を用いた車輪径の算出を複数回実行し、今回算出された車輪径と前回算出された車輪径との差が第1差分値以内である場合には、走行速度算出に利用されている車輪径を算出された車輪径に更新することを特徴とする。
【0013】
請求項に記載された発明は、請求項1または2に記載された発明において、前記車輪径算出部は、前記第2速度を用いて算出された車輪径と現在走行速度算出に利用されている車輪径との差が第2差分値以上である場合には、走行速度算出に利用されている車輪径を算出された車輪径に更新することを特徴とする。
【0014】
請求項に記載された発明は、請求項1から3のうちいずれか一項に記載された発明において、前記車輪径算出部は、前記速度取得部が取得した走行速度が一定の速度の場合に前記車輪径を算出することを特徴とする。
【0015】
請求項に記載された発明は、請求項1からのうちいずれか一項に記載された発明において、前記車輪径算出部は、算出して出力した前記車輪径を記憶する不揮発性の記憶部を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項に記載された発明は、請求項に記載された発明において、前記速度取得部が取得する速度は、衛星測位システムを利用して検出された速度であって、前記衛星測位システムから得られる精度低下率に基づいて、前記速度取得部から取得する走行速度の信頼度を評価する評価部を備え、前記車輪径算出部は、前記評価部の評価の結果、前記信頼度が所定以下の場合には、前記車輪径の算出をせずに、前記記憶部に記憶された車輪径を出力することを特徴とする。
【0017】
請求項に記載された発明は、請求項1からのうちいずれか一項に記載された発明において、前記車輪径算出部は、速度取得部が取得した走行速度よりも前に前記信号取得部が取得した信号に基づいて前記車輪径を算出することを特徴とする。
【0018】
請求項に記載された発明は、請求項1からのうちいずれか一項に記載の車輪径算出装置と、前記車輪径算出装置で算出された車輪径と前記信号取得部で取得した信号とに基づいて前記鉄道車両の走行速度を算出する速度算出部と、を備えることを特徴とする速度算出装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、鉄道車両の車輪の回転に応じた信号と速度発電機を用いずに算出された前記鉄道車両の走行速度に基づいて車輪径を算出するので、現状の車輪径の影響を受けずに算出された速度から自動的に車輪径を算出することができる。したがって、人手による車輪径の設定の手間を省くことができヒューマンエラーを防止することができる。さらに、車輪径算出部により車輪径を算出しているので、1mm単位等の精密な単位で算出することが可能となり、設定される車輪径の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態にかかる車輪径算出装置及び速度算出装置を有するシステムの概略構成図である。
図2図1に示された車輪径演算部の動作についてのフローチャートである。
図3図1に示された速度補償器における処理及びデータの選択についての説明図である。
図4】本発明の第2の実施形態にかかる車輪径演算部の動作についてのフローチャートである。
図5図4に示された低速時車輪径演算処理のフローチャートである。
図6図4に示された高速時車輪径演算処理のフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下、本発明の一実施形態を、図1図3を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる車輪径算出装置及び速度算出装置を有するシステムの概略構成図である。
【0022】
図1に示したシステムは、速度補償器1と、速度発電機2と、GPS受信機3と、速度計4と、を備えている。このシステムは鉄道車両に設けられている。
【0023】
速度補償器1は、図1に示したように、車輪径演算部11と、車輪径格納部12と、速度演算部13と、を備えている。
【0024】
車輪径演算部11は、速度発電機2から出力されたパルス信号と、GPS受信機3から出力された速度情報と、に基づいて車輪径を算出する。そして、車輪径演算部11は、算出した車輪径を車輪径格納部12に格納する。車輪径演算部11は、例えばCPU(Central Processing Unit)やメモリを有するプロセッサ上で動作するプログラムして構成してもよいし、専用のハードウェアとして構成してもよい。
【0025】
即ち、車輪径演算部11が、速度発電機から鉄道車両の車輪の回転に応じた信号を取得する信号取得部、速度発電機を用いずに(衛星測位システムを用いて)検出された前記鉄道車両の走行速度を取得する速度取得部、信号取得部が取得した信号及び速度取得部が取得した走行速度に基づいて車輪径を算出する車輪径算出部、として機能する。また、車輪径演算部11と車輪径格納部12とで車輪径算出装置として機能する。
【0026】
車輪径格納部12は、車輪径演算部11で算出された車輪径の値が格納される。車輪径格納部12はメモリ等で構成されている。このメモリは、電源が落とされても内容が消えない不揮発性のメモリであることが好ましい。不揮発性のメモリとすることで、車輪径演算部11で算出された車輪径の値をバックアップ値として、次に鉄道車両の電源が投入された際の初期値として利用することができる。を即ち、車輪径格納部12は、算出して出力した車輪径を記憶する不揮発性の記憶部として機能する。また、車輪径格納部12は、車輪径演算部11で算出された車輪径が格納されるメモリとは別にデフォルト値が格納されるメモリを有する。デフォルト値は、例えば新品の車輪の車輪径の値(最大値)や、最大値と新品と交換を要する車輪径の値(最小値)との中央値などが挙げられる。
【0027】
速度演算部13は、速度発電機2から出力されたパルス信号と、車輪径格納部12に格納された車輪径と、に基づいて走行速度を算出する。つまり、速度演算部13は、車輪径演算部11で算出された車輪径を用いて走行速度を算出する。速度演算部13おける速度算出方法は速度発電機を用いた周知の方法であるので詳細な説明は省略する。そして、速度演算部13は、算出した速度を速度計4に出力する。
【0028】
速度発電機2は、鉄道車両の車軸等に設けられている。速度発電機2は、車輪(車軸)1回転につき規定のパルスを発生したり、所定の電圧を発生して出力する周知の装置である。即ち、速度発電機2は、車輪の回転に応じた信号を出力する装置である。
【0029】
GPS受信機3は、複数のGPS衛星から受信した電波に基づいて鉄道車両の走行速度を検出(算出)して出力する。走行速度の検出(算出)方法は、2点の位置の距離と移動時間による方法や、GPS衛星からの搬送波のドップラー効果を利用する方法等の周知の方法を用いればよい。なお、本実施形態では衛星測位システムとしてGPS(Global Positioning System)で説明するが、GPSに限らず他の衛星測位システムを利用してもよい。
【0030】
また、本実施形態では、GPS受信機3で検出された走行速度で説明するが、例えばミリ波やレーザ光等の電磁波を利用して走行速度を検出するドップラー式の速度検出装置など速度発電機を用いずに走行速度を検出するのであれば他の方式の速度検出装置であってもよい。
【0031】
速度計4は、運転台等に設けられ、速度演算部13が出力した速度を表示する周知の計器である。速度計4は、目盛と指針を備えたものに限らず、デジタル表示など表示方式は問わない。
【0032】
次に、上述した車輪径演算部11における車輪径の算出動作について図2図4を参照して説明する。
【0033】
図2は、車輪径の算出動作を示すフローチャートである。まず、例えば鉄道車両の電源投入時に車輪径演算処理が起動されると、GPS受信機3が3次元測位を行っているか判断する(ステップS11)、本ステップでは、GPS受信機3から受信する信号(例えば衛星の捕捉数)から3次元測位を行っているか判断する。
【0034】
次に、GPS受信機3からPDOP値を取得し、その値が0より大きく3以下か判断する(ステップS12)。PDOP(Position Dilution of Precision)値とは、GPS衛星の位置情報精度を示す値であり、GPS受信機3から取得することができる情報である。本実施形態では、GPS衛星の位置情報精度が悪い場合は車輪径演算を行わないようにしている。なお、判定に用いるPDOP値の範囲は上記に限らず適宜変更してもよい。
【0035】
PDOP値が0より大きく3以下の場合(ステップS12:YES)は、GPS受信機3から速度情報を取得し、取得した速度が第1速度としての20km/h以上か判断する(ステップS13)。これは、あまりに低速の場合は、速度発電機2から取得するパルス信号の1パルスあたりの誤差が大きくなるので一定速度以上で以下のステップを実行するようにしているためである。この20km/hは、他の速度であってもよいが例えば構内速度の範囲を含むことが好ましい。構内速度とは、車両基地等の鉄道車両の滞泊、整備や列車の組成等を行う施設内における走行速度である。つまり、構内速度で走行中に以下のステップを実行することができるとよい。なお、構内速度以上の営業速度での走行中も以下のステップを実行することができるのは勿論である。
【0036】
以上のステップS11、S12では、GPS受信機3からの信号を評価しているが、これば、GPS受信機3から取得する速度情報の信頼度を評価することを意味する。即ち、車輪径演算部11は、速度取得部から取得する走行速度の信頼度を評価する評価部として機能する。また、ステップS11ではGPS受信機3が2次元測位や1次元測位である場合、ステップS12では、PDOP値が0より大きく3以下の範囲外の場合は信頼度が所定以下となることを意味する。
【0037】
速度が20km/h以上であった場合(ステップS13:YES)は、速度発電機2から取得したパルス信号と、GPS受信機3から取得した速度から車輪径を算出する(ステップS14)。算出式は次の(1)式のとおりである。なお、(1)式において、定数1000000は単位系をkmからmmへ、定数3600は単位系を時間から秒へ合わせるためのものである。
車輪径(mm)=(速度(km/h)×車輪1回転あたりのパルス数×1000000)/(1秒間のパルス数×π×3600)・・・・(1)
【0038】
また、ステップS14においては、GPS受信機3から取得した速度は、1秒前に取得した速度との平均値としてもよい。これは、加減速時における速度変化の影響を抑えるためである。車輪径演算部11は、速度取得部が取得した走行速度よりも前に信号取得部が取得した信号に基づいて車輪径を算出している。また、平均する速度は1秒前に限らず、0.5秒前や2秒等前他の時間であってもよい。
【0039】
さらには、ステップS14において、速度発電機2から取得したパルス信号は、GPS受信機3から取得した速度よりも1秒前のものを用いてもよい。これは、GPS受信機3からの速度の情報は速度発電機2からのパルス信号よりも遅延する傾向があるためである。なお、1秒前は一例であり、他の時間であってもよい。
【0040】
次に(1)式により算出した車輪径が予め定めた有効範囲内であるか判断する(ステップS15)。有効範囲とは、車輪径としてとり得る値の範囲である。つまり車輪径の最大値(新品時の値)と最小値(交換を要する値)の間をいう。
【0041】
(1)式により算出した車輪径が有効範囲にあった場合(ステップS15:YES)は、ステップS14で算出した車輪径の値を車輪径演算部11内部のメモリ等に蓄積する(ステップS16)。このメモリ等には、鉄道車両の電源投入後に算出した車輪径の値が蓄積される。そして、メモリ等に蓄積された車輪径の値が10以上あるか否か判断する(ステップS17)。図2に示したフローチャートは、鉄道車両の電源が投入されている限り1秒ごとに起動されるので、例えばステップS11~S13の条件を満たしている場合は10回起動されると車輪径の値が10個蓄積される。そして、この蓄積は電源が落とされるまで継続する。
【0042】
メモリ等に蓄積された車輪径の値が10以上である場合(ステップS17:YES)は、蓄積された車輪径の値のうち最頻値を求める(ステップS18)。この最頻値が速度演算用の車輪径なる。このように本実施形態では、走行中に算出された車輪径の値のうち最頻値を車輪径として採用している。これは、最頻値が最も真の車輪径の値に近いと考えられるためである。なお、出現回数が同じ車輪径が複数ある場合は、その中で一番大きい値を採用すればよい。大きい値を採用するのは、仮に真の車輪径と異なったとしても、実際の車輪径よりも大きな値となる方が、算出される速度も実際の速度よりも速い速度となる。したがって、走行している鉄道車両が制限速度を超過しないようにすることができる。
【0043】
そして、ステップS18で求めた車輪径(最頻値)を車輪径格納部12(メモリ)に格納する(ステップS19)。このようにして車輪径の値が更新され、速度演算部13へ更新後の車輪径の値が出力される。即ち、車輪径演算部11は、鉄道車両の走行中に順次算出された車輪径のうち最頻値を出力している。
【0044】
一方、ステップS11、S12、S13、S15、S17においてNOと判断された場合はその時点でフローチャートは終了する。このようにして、車輪径の算出が行われる。
【0045】
次に、上述した構成及び動作をする速度補償器1における処理及びデータの選択について図3を参照して説明する。図3の横軸は時間(t)である。車両速度は鉄道車両の走行速度、電源は速度補償器1の電源、処理内容は車輪径演算部11及び速度補償部13の処理内容、車輪径選択値は各時間における速度演算部13で利用される車輪径の値をそれぞれ示している。
【0046】
図3において、時刻t0で電源が投入されると、車輪径演算部11と速度演算部13が初期起動モードとなり、各種機能の初期化やメモリチェック等が行われる。初期起動モードにおける処理が終了すると、車輪径演算部11においては車輪径演算処理(車輪径算出動作)が行われ、速度演算部13においては速度演算処理が行われる。車輪径選択値は、初期起動モードにおけるメモリチェックにおいて、バックアップ値(車輪径格納部12に格納されている値)が正常と判定された場合はバックアップ値が選択され、バックアップ値が異常と判定された場合はデフォルト値が選択される。つまり、メモリチェックで異常が検出された場合はバックアップ値は異常と判定する。
【0047】
次に、時刻t1でGPS受信機3から測位データが送信され始める。したがって、図2のステップS11、S12の判断が可能となる。
【0048】
次に、時刻t2で車両速度が20km/h以上になると、車輪径演算部11は車輪径演算処理と、最頻値の取得処理を行う。但し、最頻値が取得されるのは、時刻t3で算出された車輪径の値が10蓄積された後である。したがって、車輪径選択値は、時刻t3までは、バックアップ値又はデフォルト値が選択され、時刻t3で演算結果が選択される。
【0049】
次に、時刻t4で車両速度が20km/h未満になると、ステップS13がNOと判断されるため、車輪径演算処理、最頻値の取得処理ともに停止する。そして、時刻t5で車両速度が20km/h以上になると、車輪径演算処理、最頻値の取得処理ともに再開される。
【0050】
なお、車輪径選択値において、GPS受信機3において3次元測位がされない、PDOP値が0より大きく3以下の範囲外の状態(GPS異常)が所定時間以上継続した場合は、バックアップ値が正常であった場合であってもデフォルト値が選択される。即ち、速度取得部から取得する走行速度の信頼度が所定以下の場合には、車輪径の算出をせずに、記憶部に記憶された車輪径を出力している。
【0051】
本実施形態によれば、速度補償器1は、車輪径演算部11が、速度発電機2から車輪の回転速度に応じたパルス信号を取得し、GPS受信機3で算出された鉄道車両の走行速度を取得し、そのパルス信号及び走行速度に基づいて車輪径を算出する。このようにすることにより、現状の車輪径の影響を受けずに算出された速度から自動的に車輪径を算出することができる。したがって、人手による車輪径の設定の手間を省くことができヒューマンエラーを防止することができる。さらに、車輪径演算部11により車輪径を算出しているので、1mm単位等の精密な単位で算出することが可能となり、車輪径格納部12に格納(設定)される車輪径の精度を向上させることができる。
【0052】
また、車輪径演算部11は、鉄道車両の走行中に順次算出された車輪径のうち最頻値を出力するので、鉄道車両の速度や加減速等の走行状態に関わらず適切な車輪径を出力することができる。
【0053】
また、車輪径演算部11は、GPS受信機3から取得した走行速度が20km/h以上の場合に車輪径を算出するので、速度発電機2が出力するパルス信号の1パルスあたりの誤差が大きい速度域を除外して車輪径の算出処理をすることができる。
【0054】
また、車輪径演算部11は、算出して出力した前記車輪径を不揮発性のメモリで構成された車輪径格納部12に記憶するので、算出結果をバックアップとして保存することができる。したがって、電源を落としても算出結果が消えずに保持することができ、次に電源を投入した際にバックアップとして速度算出に利用することができる。
【0055】
また、車輪径演算部11は、GPS受信機3の測位状態やPDOP値を評価し、その評価の結果、3次元測位やPDOP値が所定の範囲でない場合には、車輪径の算出をせずに、速度演算部13には車輪径格納部12に記憶された車輪径を出力するようにしている。このようにすることにより、GPS衛星からの受信の状態が良くない場合は車輪径の算出を行わないようにして、精度の低い車輪径が算出されないようにすることができる。
【0056】
また、速度演算部13は、車輪径演算部11で算出された車輪径と速度発電機2から取得したパルス信号とに基づいて鉄道車両の走行速度を算出しているので、自動的に算出された車輪径を用いて適切な走行速度を算出することができる。
【0057】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態にかかる車輪径算出装置及び速度算出装置について、図4図6を参照して説明する。なお、前述した第1の実施形態と同一部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0058】
本実施形態は、構成は図1に示したものと同様であるが、動作(フローチャート)が異なる。図4に、本実施形態にかかる車輪径の算出動作を示すフローチャートを示す。
【0059】
まず、例えば鉄道車両の電源投入時に車輪径演算処理が起動されると、低速時車輪径演算が完了しているか判断し(ステップS21)、低速時車輪径演算が完了している場合は(ステップS21:YES)、高速時車輪径演算が完了しているか判断する(ステップS23)。高速時車輪径演算が完了している場合は本フローチャートは終了する(ステップS23:YES)。ここで、低速時車輪径演算が完了しているか否かは後述する低速時車輪径演算完了フラグが“1”に設定されている場合は完了していると判断する。高速時車輪径演算が完了しているか否かは後述する高速時車輪径演算完了フラグが“1”に設定されている場合は完了していると判断する。
【0060】
一方、低速時車輪径演算が完了していない場合は(ステップS21:NO)、低速時車輪径演算処理を実行する(ステップS22)。また、高速時車輪径演算が完了していない場合は(ステップS23:NO)、高速時車輪径演算処理を実行する(ステップS24)。
【0061】
次に、上述した低速時車輪径演算処理(ステップS12)について図5のフローチャートを参照して説明する。図4のフローチャートで低速時車輪径演算処理が起動されると、GPS受信機3からPDOP値を取得し、その値が0より大きく3以下か判断する(ステップS31)。本実施形態でも、第1の実施形態と同様にGPS衛星の位置情報精度が悪い場合は車輪径演算を行わないようにしている。なお、本フローチャートでも3次元測位か否かの判定を行ってもよい。
【0062】
PDOP値が0より大きく3以下の場合(ステップS31:YES)は、GPS受信機3から速度情報を取得し、取得した速度が30km/h以上か判断する(ステップS32)。この30km/hは、他の速度であってもよいが構内速度の範囲であることが好ましい。但し、営業運転時の速度よりも低速であることが好ましい。本実施形態では、第3速度として30km/h以上構内速度の上限以下としている。これは、あまりに低速の場合は、速度発電機2から取得するパルス信号の1パルスあたりの誤差が大きくなるためである。
【0063】
速度が30km/h以上であった場合(ステップS32:YES)は、ステップS32で取得した速度が前回取得した速度よりも±0.2km/h以内であるか判断する(ステップS33)。前回とは、図2フローチャートの前回起動時のことである。図2のフローチャートは後述する低速時車輪径演算完了フラグや高速時車輪径演算完了フラグが“1”にならない限り例えば1秒周期で起動される。つまり、ステップS23は1秒前に取得した速度と比較して±0.2km/h以内であるか判断している。即ち、一定速度で走行しているか判断している。なお、一定速度での走行の判定閾値としては0.2km/hに限らないのは言うまでもない。
【0064】
前回取得した速度よりも±0.2km/h以内である場合(ステップS33:YES)、つまり一定速度で走行している場合は、速度発電機2から取得したパルス信号と、GPS受信機3から取得した速度から車輪径を算出する(ステップS34)。算出式は上述した(1)式のとおりである。
【0065】
そして、(1)式により算出した車輪径が予め定めた有効範囲内であるか判断する(ステップS35)。有効範囲とは、車輪径としてとり得る値の範囲である。つまり車輪径の値の最大値と最小値の間をいう。
【0066】
(1)式により算出した車輪径の値が有効範囲にあった場合(ステップS35:YES)は、低速時車輪径演算完了フラグに“1”をセットする(ステップS36)。低速時車輪径演算完了フラグとは、本フローチャートにより車輪径の算出が行われたことを示すフラグであり、以後は電源が落とされるまで(本フラグが“1”である限り)本フローチャートは実行されない。
【0067】
そして、(1)式により算出した車輪径の値が初期化処理で取り出した値より10mm以上差があるか判断する(ステップS37)。初期化処理とは、鉄道車両の電源投入時に行われる処理であり、図3の初期起動モードから車輪径選択値を決定するまでに相当する。この初期化処理時において、前回の電源投入時に図4のフローチャートを実行して不揮発性のメモリ等に保存された車輪径の値を読み出して、本ステップにおいて比較をしている。この初期化処理で取り出した値は電源投入時に車輪径格納部12にロードされて現在速度演算部13における速度算出に利用されている車輪径の値である。即ち、本ステップでは、算出された車輪径の値と現在走行速度算出に利用されている車輪径の値との差が第2差分値として10mm以上であるか判断している。
【0068】
なお、本実施形態では、比較した際の基準値(第2差分値)として10mmとしているが、一例であって適宜変更してもよい。但し、本ステップでの基準値は後述する高速時車輪径演算処理における基準値(第1差分値)よりも大きな値とするのが望ましい。これは、低速時車輪径演算処理では、パルス信号の1パルスあたりの誤差が大きくなるので、比較的大きな車輪径の値の変化の検出を目的としているためである。
【0069】
(1)式により算出した車輪径の値が初期化処理で取り出した値より10mm以上差がある場合(ステップS37:YESの場合)は、速度算出用の車輪径の値、つまり車輪径格納部12に格納されている車輪径の値を更新する(ステップS38)。
【0070】
一方、ステップS31、S32、S33、S35、S37においてNOと判断された場合はその時点でフローチャートは終了する。このようにして、低速時(構内速度)における車輪径の算出が行われる。
【0071】
次に、高速時車輪径演算処理(ステップS24)について図6のフローチャートを参照して説明する。図4のフローチャートで高速時車輪径演算処理が起動されると、GPS受信機3からPDOP値を取得し、その値が0より大きく3以下か判断する(ステップS41)。本ステップでは、ステップS21と同様にGPS衛星の位置情報精度が悪い場合は車輪径演算を行わないようにしている。なお、本フローチャートでも3次元測位か否かの判定を行ってもよい。
【0072】
PDOP値が0より大きく3以下の場合(ステップS41:YES)は、GPS受信機3から速度情報を取得し、取得した速度が第2速度としての100km/h以上か判断する(ステップS42)。この100km/hは、他の速度であってもよいが構内速度よりも高く営業運転速度の範囲であることが好ましい。つまり、低速時車輪径演算処理のステップS32の速度閾値よりも高い値とする。本ステップでは、1パルスあたりの誤差を少なくするため、低速時車輪径演算処理よりも速度閾値を高く設定している。
【0073】
速度が100km/h以上であった場合(ステップS42:YES)は、ステップS42で取得した速度が前回取得した速度よりも±0.2km/h以内であるか判断する(ステップS43)。本ステップは、ステップS33と同様に1秒前に取得した速度と比較して±0.2km/h以内であるか判断している。即ち、一定速度で走行しているか判断している。
【0074】
前回取得した速度よりも±0.2km/h以内である場合は(ステップS43:YES)、速度発電機2から取得したパルス信号と、GPS受信機3から取得した速度から車輪径を算出する(ステップS44)。算出式は上記した(1)式のとおりである。
【0075】
そして、(1)式により算出した車輪径の値と前回算出値との差が1mm以下か判断する(ステップS45)。本ステップにおける前回はステップS33と同様に1秒前である。本ステップは、精度を高めるために2回行った結果を照合するようにしている。したがって、電源投入後の初回実行時は本ステップはNOと判断される。即ち、本フローチャートである第1速度を用いた車輪径の算出を複数回実行し、今回算出された車輪径の値と前回算出された車輪径の値との差が第1差分値として1mm以内であるか判断している。
【0076】
(1)式により算出した車輪径の値と前回算出値との差が1mm以下の場合(ステップS45:YES)は、(1)式により算出した車輪径の値が予め定めた有効範囲内であるか判断する(ステップS46)。有効範囲とは、ステップS35と同様に車輪径としてとり得る値の範囲である。
【0077】
(1)式により算出した車輪径の値が有効範囲であった場合(ステップS46:YES)は、高速時車輪径演算完了フラグに“1”をセットする(ステップS47)。高速時車輪径演算完了フラグとは、本フローチャートにより車輪径の算出が行われたことを示すフラグであり、以後は電源が落とされるまで(本フラグが“1”である限り)本フローチャートは実行されない。
【0078】
次に、速度算出用の車輪径、つまり車輪径格納部12に格納されている車輪径の値をステップS44で算出された値に更新する(ステップS48)。ここで、更新された値は、以降の速度演算に利用するだけでなく、第1の実施形態と同様にバックアップとして利用することができる。
【0079】
一方、ステップS41、S42、S43、S45、S46においてNOと判断された場合はその時点でフローチャートは終了する。このようにして、高速時(営業速度)における車輪径の算出が行われる。
【0080】
本実施形態によれば、車輪径演算部11は、GPS受信機3から取得した走行速度が構内速度以内の場合に車輪径を算出し、その後、GPS受信機3から取得した走行速度が営業運転の場合に車輪径を算出する。このようにすることにより、例えば車両基地内等を走行時に車輪径を算出することで、営業運転前に車輪径の大きな変化を検出することが可能となる。さらに、営業運転の場合に車輪径を算出するので、ある程度高速で走行している際に車輪径を算出することができる。また、高速走行時に車輪径を算出することで、算出される車輪径の精度を向上させることができる。さらに、車輪径算出部11により車輪径を算出しているので、1mm単位等の精密な単位で算出することが可能となり、車輪径格納部12に格納(設定)される車輪径の精度を向上させることができる。
【0081】
また、車輪径演算部11は、構内速度走行中算出された車輪径と車輪径格納部12に格納されている車輪径との差が10mm以上である場合には、車輪径格納部12に格納されている車輪径を算出された車輪径に更新するので、低速走行時には大きな差を検出して更新することができる。
【0082】
車輪径演算部11は、営業運転時に車輪径の算出を複数回実行し、今回算出された車輪径と前回算出された車輪径との差が1mm以内である場合には、車輪径格納部12に格納されている車輪径を算出された車輪径に更新するので、高速走行時には高精度な更新をすることができる。
【0083】
また、車輪径演算部11は、GPS受信機3から取得した走行速度が一定の速度の場合に車輪径を算出するので、加減速等を考慮することなく精度良く車輪径を算出することができる。
【0084】
また、上述した実施形態では、低速時車輪径演算処理実行後に高速時車輪径演算処理を実行している。このようにすることで、まず、低速時車輪径演算処理で大きな差の修正をしてから高速時車輪径演算処理で高精度な差の修正をすることができる。
【0085】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の車輪径算出装置及び速度算出装置の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0086】
1 速度補償器(速度算出装置)
2 速度発電機
3 GPS受信機
4 速度計
11 車輪径演算部(車輪径演算装置、信号取得部、速度取得部、車輪径算出部)
12 車輪径格納部
13 速度演算部(速度算出部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6