(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】冷蔵庫
(51)【国際特許分類】
F25D 11/00 20060101AFI20230317BHJP
F25D 29/00 20060101ALI20230317BHJP
F25D 19/00 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
F25D11/00 101W
F25D29/00 A
F25D19/00 520D
F25D19/00 522Z
(21)【出願番号】P 2019072686
(22)【出願日】2019-04-05
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101133
【氏名又は名称】濱田 初音
(74)【代理人】
【識別番号】100199749
【氏名又は名称】中島 成
(74)【代理人】
【識別番号】100197767
【氏名又は名称】辻岡 将昭
(74)【代理人】
【識別番号】100201743
【氏名又は名称】井上 和真
(72)【発明者】
【氏名】桑原 敬史
(72)【発明者】
【氏名】宮原 宏明
(72)【発明者】
【氏名】山脇 聖嘉
(72)【発明者】
【氏名】松下 章弘
【審査官】森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-032207(JP,A)
【文献】特開2018-151123(JP,A)
【文献】特開2005-024203(JP,A)
【文献】特開2015-091214(JP,A)
【文献】特開2001-066012(JP,A)
【文献】特開2004-353947(JP,A)
【文献】特開2008-286506(JP,A)
【文献】特開2015-111036(JP,A)
【文献】特開2007-139328(JP,A)
【文献】特開2005-331200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25D 11/00
F25D 29/00
F25D 19/00
F25B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱容器と、
前記断熱容器の庫内に取り付けられた伝熱板と、
前記伝熱板に接触する伝熱面を有し、前記断熱容器に取り付けられたペルチェ素子により冷却する温度調整装置と、
前記断熱容器の内部に取り付けられ、前記断熱容器の内部の空気温度を検知する温度センサと、
前記温度調整装置の前記ペルチェ素子に供給する電力を調整し、前記断熱容器の内部の空気温度を所定の設定温度に保持する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記温度センサの検出温度が予め設定した第1の設定温度に達しない状態が、予め設定した第1の設定時間継続している場合に、前記第1の設定温度より高い温度であって予め設定された第2の設定温度に切り替えて前記ペルチェ素子に出力する電圧値を算出し、前記第2の設定温度の状態が予め設定した第2の設定時間経過した場合に、前記第1の設定温度に切り換えて前記ペルチェ素子に供給する電圧値を算出する電圧指令部と、前記電圧指令部が前記第2の設定温度から前記第1の設定温度に切り替える場合に、前記ペルチェ素子に供給する電流の上限を制限する制御を行う電流制限部とを有することを特徴とする冷蔵庫。
【請求項2】
前記電圧指令部は、前記第1の設定温度から前記第2の設定温度に切り替える場合に、前記ペルチェ素子に供給する電圧の低下量を制御することを特徴とする請求項1記載の冷蔵庫。
【請求項3】
前記温度調整装置の前記ペルチェ素子は、最大吸熱量が40Wから60Wの範囲内の吸熱量であり、
前記制御装置は、前記ペルチェ素子を動作させる最大電圧を、前記ペルチェ素子の使用可能定格電圧の70%から85%の範囲内の電圧に設定することを特徴とする請求項1または請求項2記載の冷蔵庫。
【請求項4】
前記第1の設定時間が、12時間から36時間の範囲内の時間であり、前記第2の設定時間が0.5時間から1時間の範囲内の時間であることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の冷蔵庫。
【請求項5】
収容量が、15リットルから35リットルの範囲内の容積であることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の冷蔵庫。
【請求項6】
前記第1の設定温度が、3℃から8℃の範囲内の温度であり、前記第2の設定温度が、8℃から13℃の範囲内の温度であることを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の冷蔵庫。
【請求項7】
前記伝熱板は、前記断熱容器を構成する2つの面に沿うL字状の部材であることを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載の冷蔵庫。
【請求項8】
前記温度センサは、前記断熱容器の内部の側面であって、前記断熱容器の背面から20mmから100mmの範囲内の距離、および前記断熱容器の天井面20mmから100mmの範囲内の距離離間させた位置に配置されることを特徴とする請求項1から請求項7のうちのいずれか1項記載の冷蔵庫。
【請求項9】
前記伝熱板は、アルミニウム材からなり、当該伝熱板を前記断熱容器内に配置した場合の庫内側の表面積が、1100cm
2から2200cm
2の範囲内の面積を有することを特徴とする請求項1から請求項8のうちのいずれか1項記載の冷蔵庫。
【請求項10】
前記伝熱板は、板厚が3mmから4mmの範囲内の厚さであることを特徴とする請求項1から請求項9のうちのいずれか1項記載の冷蔵庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、庫内に伝熱板を備えるペルチェ式の冷蔵庫に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、温度センサを用いて庫内の温度を検知し、ペルチェ素子を使用して保冷又は保温を行う小型の保存庫が存在する。例えば、特許文献1に記載の保存庫は、断熱容器の内郭部材の奥面に、アルミニウム等の金属板が折り曲げられてL字状に構成された伝熱板が取り付けられ、当該伝熱板が、ペルチェ素子による温度調整装置からの熱を庫内に伝える。また、庫内に取り付けられた温度センサによって断熱容器内の空気温度を検知し、検知した空気温度に応じて温度調整装置が制御され、伝熱板を介して断熱容器内の空気温度が調整される。
【0003】
また、例えば特許文献2には、上記特許文献1の構成に対して、温度センサを伝熱板に押し当てるように配置した小型の保存庫が記載されている。特許文献2に記載の保存庫は、温度センサで検知した伝熱板の温度に応じて温度調整装置を制御し、保冷時には伝熱板の表面に霜および氷等が付着しにくい構成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-032207号公報
【文献】特開2018-151123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下、保存庫を保冷用途の冷蔵庫として使用する場合について説明する。
上述した特許文献1に記載された保存庫は、制御対象が空気温度であるため、冷蔵庫の周囲温度が高く、断熱容器内の空気または収容物を所望の温度まで冷却する温度調整装置の冷却能力がわずかに不足している状態等では、温度調整装置に継続して高い電力が供給される。これにより、伝熱板の表面の温度が氷点下以下の状態が続き、伝熱板の表面に霜および氷等が付着するという課題があった。
【0006】
一方、上述した特許文献2に記載された保存庫は、温度センサを断熱容器内の伝熱板の温度を直接検知する構成とし、例えば伝熱板の温度が24時間連続して0℃未満である場合に、約15分から20分間、温度調整装置に供給する電圧を下げることにより、伝熱板に付着した霜および氷等を溶かすことを可能としている。特許文献2に記載された保存庫は、伝熱板の表面に霜および氷等が付着しにくい構成であるが、制御対象が伝熱板の温度であるため、断熱容器内の空気または収容物の温度を検知することができず、保存庫の周囲温度によっては空気または収容物が冷えすぎるまたは冷えなくなる場合があるという課題があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、伝熱板の表面に霜および氷等が付着するのを抑制し、庫内の温度制御性のよい冷蔵庫を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る冷蔵庫は、断熱容器と、断熱容器の庫内に取り付けられた伝熱板と、伝熱板に接触する伝熱面を有し、断熱容器に取り付けられたペルチェ素子により冷却する温度調整装置と、断熱容器の内部に取り付けられ、断熱容器の内部の空気温度を検知する温度センサと、温度調整装置のペルチェ素子に供給する電力を調整し、断熱容器の内部の空気温度を所定の設定温度に保持する制御装置とを備え、制御装置は、温度センサの検出温度が予め設定した第1の設定温度に達しない状態が、予め設定した第1の設定時間継続している場合に、第1の設定温度より高い温度であって予め設定された第2の設定温度に切り替えてペルチェ素子に出力する電圧値を算出し、第2の設定温度の状態が予め設定した第2の設定時間経過した場合に、第1の設定温度に切り換えてペルチェ素子に供給する電圧値を算出する電圧指令部と、電圧指令部が第2の設定温度から第1の設定温度に切り替える場合に、ペルチェ素子に供給する電流の上限を制限する制御を行う電流制限部とを有するものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、伝熱板の表面に霜および氷等が付着するのを抑制し、庫内の温度制御性のよい冷蔵庫を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る冷蔵庫の構成を示す外観斜視図である。
【
図3】実施の形態1に係る冷蔵庫の断熱容器内の構成を示す斜視図である。
【
図4】実施の形態1に係る冷蔵庫の温度センサの構成を示す外観斜視図である。
【
図5】実施の形態1に係る冷蔵庫の制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6Aおよび
図6Bは、実施の形態1に係る冷蔵庫の制御装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図7】実施の形態1に係る冷蔵庫の制御装置の電圧指令部の動作を示すフローチャートである。
【
図8】実施の形態1に係る冷蔵庫の断熱容器内の空気温度と出力電圧指令値との関係を、設定温度ごとに示した図である。
【
図10】実施の形態1に係る冷蔵庫の伝熱板の表面積と最低温度との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明をより詳細に説明するために、この発明を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。本発明の技術的範囲は、以下の実施の形態に限定されず、均等な範囲に及ぶ。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る冷蔵庫100の構成を示す外観斜視図である。
図2は、
図1におけるA-A線断面図である。
図3は、実施の形態1に係る冷蔵庫100の断熱容器1内の構成を示す斜視図である。
図4は、実施の形態1に係る冷蔵庫100の温度センサ14の構成を示す外観斜視図である。
なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、
図1から
図3において、冷蔵庫100の上下方向を
図1から
図3の紙面上下方向に対応させて説明を行う。また、
図1から
図3において、後述する扉2が位置する側を冷蔵庫100の前面、後述する背面カバー11が位置する側を冷蔵庫100の背面として説明を行う。
【0013】
冷蔵庫100は、庫内に収納された物品等(以下、収容物という)の保冷を行う装置である。
断熱容器1は、前面が開放された箱型部材であり、内部に食品、飲料等の収容物を収容する。扉2は、断熱容器1の開放された一面に取り付けられた扉である。実施の形態1に係る冷蔵庫100では、断熱容器1の前面に、回転式扉である扉2が取り付けられている。
図2における扉2の上下には、図示しない回転ヒンジ機構が取り付けられている。断熱容器1は、外郭部材3、内郭部材4、外郭部材3と内郭部材4との間に充填された断熱材5、照明装置6、伝熱板7、温度調整装置8、排水筒9、露受け皿10、背面カバー11、送風ファン12、フィルタ13、および後述する制御装置30(
図1から
図3では図示しない)を有している。
【0014】
扉2は、左右一方に取付けられた図示しないヒンジ機構および回転機構が断熱容器1の左右一方にそれぞれ取付けられることで、断熱容器1の前面を開閉可能とするものである。扉2の内部には、図示しない発泡ウレタン等の断熱材が注入される。
【0015】
図2および
図3に示すように、筐体部材20の庫内には、伝熱板7が取り付けられている。実施の形態1に係る冷蔵庫100では、伝熱板7は、庫内の背面側に取り付けられている。伝熱板7は、温度調整装置8からの熱を筐体部材20の庫内に伝える。伝熱板7は、断熱容器1の天井面と背面に沿うようにL字状となるように折り曲げられた板材で構成される。伝熱板7は、内郭部材4に設けられたボス状の支持部4aにネジ止めされる。
【0016】
伝熱板7は、熱伝導性の良い材料で構成され、温度調整装置8からの冷却作用を効率よく庫内に伝える。伝熱板7は、例えばアルミニウム、およびアルミニウム材系合金で構成される板状部材である。伝熱板7をアルミ、およびアルミ系合金で構成する利点は、熱伝導性が良く、入手がしやすい点である。また、伝熱板7を安価に作成するために、板厚が約2mmから5mmの板材を用いる。特に、伝熱板7をL字状等に折り曲げて構成する場合には、板厚を3mmから4mmとする。これにより、伝熱板7は、折り曲げやすく加工が容易で、十分な強度を有し、比較的安価な材料で作成することができる。
【0017】
図2に示すように、温度調整装置8は、ペルチェ素子8a、伝熱ブロック8bおよびヒートシンク8cを有している。ペルチェ素子8aは、吸熱側熱交換面に伝熱ブロック8bを取り付け、反対側の放熱側熱交換面にヒートシンク8cを接合している。ペルチェ素子8aは、背面カバー11内の制御装置(制御基板)30(
図1から
図3では図示しない)により電力が投入されると、一方側で吸熱し他方側で発熱する。伝熱ブロック8bは、熱伝導性のよいアルミ系合金等で構成される。伝熱ブロック8bは、伝熱板7にネジ止めされる。これにより、伝熱ブロック8bの伝熱面が、伝熱板7における温度調整装置8との対向面に熱伝導可能な状態で接触する。
【0018】
図2に示すように、筐体部材20の背面壁20aの外側には、箱型に成形された背面カバー11が取り付けられている。背面カバー11は、樹脂部材で構成される。背面カバー11は、筐体部材20の背面壁20aの外側に位置する温度調整装置8のヒートシンク8c、送風ファン12および制御装置30(
図1から
図3では図示しない)を収納している。また、背面カバー11は、温度調整装置8のヒートシンク8cを冷却するための通風路11aを形成する。筐体部材20は、底面壁20b、背面孔20c、および底面孔20dを有している。
【0019】
図2に示すように、背面カバー11の下部には、外部の空気を吸い込むための吸気口11bが設けられている。吸気口11bの上側には、吸気口11bを覆うようにフィルタ13が取り付けられている。フィルタ13は、吸気口11bを介して通風路11a内に流入する空気から、埃等の異物を除去する。
【0020】
図2に示すように、送風ファン12は、通風路11a内の温度調整装置8のヒートシンク8cの下側に斜めに取り付けられている。ヒートシンク8cは、多数のアルミフィンが上下方向に配置されている。多数のアルミフィンは、送風ファン12により下側から上側へ縦方向に流通する空気との間で熱交換を行う。ヒートシンク8cを通過した空気は、背面カバー11の排気口11cから外部に吐き出される。排気口11cは、背面カバー11の上部の背面に設けられている。排気口11cは、背面カバー11の背面を凹ませて設けられる。冷蔵庫100の背面が壁および棚等に押し当てられた状態であっても、排気口11cから排気が可能となっている。
【0021】
次に、断熱容器1内の温度を検知するための構成例について、
図3および
図4を参照しながら説明する。
断熱容器1内の側面には庫内の空気温度を検知するための温度センサ14を有している。温度センサ14は、内郭部材4の側面に形成した孔部14aの近傍に、図示しないネジ等により取り付けられる。
図4に示すように、温度センサ14は、感温部14bおよびリード線14cを備える。温度センサ14は、検知した空気温度を制御装置30に出力する。
【0022】
次に、冷蔵庫100の運転制御について説明する。
冷蔵庫100の運転制御は、制御装置30によって行われる。通常、断熱容器1内の温度は、ペルチェ素子8aに供給する電力を制御することにより、食品および飲料の冷蔵保存に適した温度である5℃付近に維持されるように管理される。当該管理が行われている断熱容器1内に当該断熱容器1内の温度よりも高い温度の飲料品および食品等が入れられる場合、または当該管理が行われている冷蔵庫100の周囲温度が高い場合には、断熱容器1内の空気温度が上昇する。
【0023】
温度センサ14は、断熱容器1内の温度上昇を検知する。また、温度調整装置8は、伝熱板7を介して、断熱容器1内の空気温度が5℃付近に戻るまで断熱容器1内を高能力で冷却する。このとき、伝熱板7の表面は、温度が0℃未満となる部分がある。特に伝熱ブロック8bが接触している部分の伝熱板7の温度は、-3℃未満となることがある。断熱容器1内の空気温度が5℃付近にならない状態が概ね24時間以上の長い時間続く場合には、伝熱ブロック8bは、伝熱板7を介して、断熱容器1内を継続して高能力で冷却する。伝熱板7は、-3℃未満の表面温度を維持したままの状態が継続すると、表面に霜および氷等が付着する。制御装置30は、このような不具合を解消する構成を有する。
【0024】
図5は、実施の形態1に係る冷蔵庫100の制御装置30の構成を示すブロック図である。
制御装置30は、電源回路30a、電流検出部30b、電流制限部30c、温度演算部30dおよび電圧指令部30eで構成される。また、電源回路30aには交流電源31が接続され、電流検出部30bには温度調整装置8のペルチェ素子8aが接続され、温度演算部30dには温度センサ14が接続される。
【0025】
まず、制御装置30に交流電源31(例えばAC100V電源)が投入されると、制御装置30内の電源回路30aが動作を開始する。電源回路30aは、AC/DC変換を行うスイッチング方式の電源回路であり、温度調整装置8のペルチェ素子8aに直流電圧を出力する。電流検出部30bは、ペルチェ素子8aに流れる電流を検出する。電流検出部30bは、検出した電流値を電流制限部30cおよび電圧指令部30eに出力する。電流制限部30cは、電流検出部30bから入力された電流値を参照し、ペルチェ素子8aに流れる電流を、予め設定された電流上限値Iomaxで制限する。電流制限部30cは電流上限値Iomaxで制限された電流値を電源回路30aに出力する。
【0026】
温度演算部30dは、温度センサ14から入力される断熱容器1内の空気温度Tinと、断熱容器1内の設定温度とから、ペルチェ素子8aへの出力電圧Voutを算出する。温度演算部30dは、断熱容器1内の空気温度Tinと、算出した出力電圧Voutとを電圧指令部30eに出力する。
【0027】
電圧指令部30eは、温度演算部30dから入力される断熱容器1内の空気温度Tinと、断熱容器1内の設定温度とに基づいて、ペルチェ素子8aに供給する電圧値である電圧指令値Vdirを算出する。電圧指令部30eは、算出した電圧指令値Vdirを電源回路30aに出力する。電源回路30aは、電流制限部30cから入力された電流値および電圧指令部30eから入力された電圧指令値Vdirに基づいて、ペルチェ素子8aに直流電圧を出力する。
【0028】
通常、温度演算部30dが算出したペルチェ素子8aへの出力電圧Voutは、電圧指令部30eが算出したペルチェ素子8aへの電圧指令値Vdirと一致する。ただし、出力電圧Voutは、電圧指令値Vdirよりも低い電圧値になることがある。これは、特にペルチェ素子8aの図示しない吸熱部と、図示しない放熱部との温度差が小さい場合等、ペルチェ素子8aの内部の電気的インピーダンスが低い状態にあって、かつ、算出された電圧指令値Vdirが比較的高い場合には、電流検出部30bが検出した電流値が電流制限部30cにおいて設定された電流上限値Iomaxで制限された値であるためである。
【0029】
なお、この実施の形態1では、電圧指令値Vdirの最大値および出力電圧Voutの最大値を、最大出力電圧Vmaxと定義する。同様に、この実施の形態1では、電圧指令値Vdirの最小値および出力電圧Voutの最小値を、最小出力電圧Vminと定義する。
【0030】
具体的な一例として、ペルチェ素子8aの最大使用可能入力電圧が約15V(14Vから16Vの範囲内の電圧)の1個のペルチェ素子8aに対して、最大出力電圧Vmaxを約11Vから12Vの範囲内の電圧値、および最小出力電圧Vminを約1Vから2Vの範囲内の電圧値で用いる。
【0031】
ここで、最小出力電圧Vminを0Vではなく、約1Vから2Vの範囲内の電圧値とするのは、電源回路30aを構成する際に、電源供給が必要な他の部品への電源供給を可能とするためである。
また、ペルチェ素子8aの最大使用可能入力電圧に対して、最大出力電圧Vmaxを約70%から80%の範囲内の電圧値で用いる理由は、それ以上の高電圧で利用した場合、ペルチェ素子8aの発熱は多くなるが、冷却能力が変化しないためである。ペルチェ素子8aに対する供給電力を効率よく使用するためには、最大出力電圧Vmaxを約70%から85%の範囲内の電圧値で用いるとよい。
【0032】
次に、ペルチェ素子8aの特性について説明する。
ペルチェ素子8aは、電力を供給すると冷蔵庫100を保冷するための吸熱面と発熱面ができる。ペルチェ素子8aは、供給される電力が大きいほど、吸熱面と発熱面の温度差が高くなり、冷却能力が大きくなる。ペルチェ素子8aは、吸熱面と発熱面の温度差が高いほど、内部の電気抵抗(インピーダンス)が上昇する。また、ペルチェ素子8aは、吸熱面と発熱面の温度差が高い状態でペルチェ素子8aへの電力供給を止めると、その温度差によるゼーベック効果により起電力(逆起電力)が生じる特性がある。ペルチェ素子8aの冷却能力を制御するためには、内部の電気抵抗の変化またはゼーベック効果によって生じる起電力(逆起電力)の影響を抑制しながら制御する必要がある。
【0033】
次に、制御装置30のハードウェア構成例を説明する。
図6Aおよび
図6Bは、実施の形態1に係る冷蔵庫100の制御装置30のハードウェア構成例を示す図である。
制御装置30における電流検出部30b、電流制限部30c、温度演算部30dおよび電圧指令部30eの各機能は、処理回路により実現される。即ち、制御装置30は、上記各機能を実現するための処理回路を備える。当該処理回路は、
図6Aに示すように専用のハードウェアである処理回路100aであってもよいし、
図6Bに示すようにメモリ100cに格納されているプログラムを実行するプロセッサ100bであってもよい。
【0034】
図6Aに示すように、電流検出部30b、電流制限部30c、温度演算部30dおよび電圧指令部30eが専用のハードウェアである場合、処理回路100aは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。電流検出部30b、電流制限部30c、温度演算部30dおよび電圧指令部30eの各部の機能それぞれを処理回路で実現してもよいし、各部の機能をまとめて1つの処理回路で実現してもよい。
【0035】
図6Bに示すように、電流検出部30b、電流制限部30c、温度演算部30dおよび電圧指令部30eがプロセッサ100bである場合、各部の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ100cに格納される。プロセッサ100bは、メモリ100cに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、電流検出部30b、電流制限部30c、温度演算部30dおよび電圧指令部30eの各機能を実現する。即ち、電流検出部30b、電流制限部30c、温度演算部30dおよび電圧指令部30eは、プロセッサ100bにより実行されるときに、後述する
図7に示す各ステップが結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ100cを備える。また、これらのプログラムは、電流検出部30b、電流制限部30c、温度演算部30dおよび電圧指令部30eの手順または方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
【0036】
ここで、プロセッサ100bとは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、プロセッサ、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、またはDSP(Digital Signal Processor)などのことである。
メモリ100cは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically EPROM)等の不揮発性または揮発性の半導体メモリであってもよいし、ハードディスク、フレキシブルディスク等の磁気ディスクであってもよいし、ミニディスク、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスクであってもよい。
【0037】
なお、電流検出部30b、電流制限部30c、温度演算部30dおよび電圧指令部30eの各機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。このように、制御装置30における処理回路100aは、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0038】
次に、制御装置30の動作について説明する。
図7は、実施の形態1に係る冷蔵庫100の制御装置30の電圧指令部30eの動作を示すフローチャートである。
以下では、制御装置30に第1の設定温度Tset1、第2の設定温度Tset2、第1の設定時間Time1および第2の設定時間Time2が設定されているとして説明する。また、温度演算部30dは、予め設定されたタイミングで温度センサ14から入力される断熱容器1内の空気温度Tinを、電圧指令部30eに出力するものとする。
【0039】
制御装置30において冷却動作が開始すると、電圧指令部30eは第1の設定温度Tset1を設定温度Tsetとして、電圧指令値Vdirを算出し、電源回路30aに出力する(ステップST1)。電圧指令部30eは、温度演算部30dから入力された断熱容器1内の空気温度Tinが設定温度Tsetより大きいか否か判定を行う(ステップST2)。断熱容器1内の空気温度Tinが設定温度Tsetより小さい場合(ステップST2;NO)、フローチャートはステップST1の処理に戻り、上述した処理を繰り返す。一方、断熱容器1内の空気温度Tinが設定温度Tsetより大きい場合(ステップST2;YES)、電圧指令部30eは断熱容器1内の空気温度Tinが設定温度Tsetより大きい状態が、予め設定した第1の設定時間Time1継続しているか否か判定を行う(ステップST3)。
【0040】
第1の設定時間Time1継続していない場合(ステップST3;NO)、フローチャートはステップST1の処理に戻り、上述した処理を繰り返す。一方、第1の設定時間Time1継続している場合(ステップST3;YES)、電圧指令部30eは、第2の設定温度Tset2を設定温度Tsetとして、電圧指令値Vdirを算出し、電源回路30aに出力する(ステップST4)。電圧指令部30eは、予め設定した第2の設定時間Time2経過したか否か判定を行う(ステップST5)。
【0041】
第2の設定時間Time2経過していない場合(ステップST5;NO)、フローチャートはステップST4の処理に戻り、上述した処理を繰り返す。一方、第2の設定時間Time2経過した場合(ステップST5;YES)、フローチャートはステップST1の処理に戻り、上述した処理を繰り返す。
【0042】
次に、断熱容器1内の空気温度Tinと電圧指令値Vdirとの関係について説明する。
図8は、実施の形態1に係る冷蔵庫100の断熱容器1内の空気温度と電圧指令値との関係を、設定温度ごとに示した図である。
図8では、設定温度Tsetが5℃である場合の電圧指令値Vdirと、設定温度Tsetが10℃である場合の電圧指令値Vdirとを示している。また、
図8では、最大出力電圧Vmaxとなるときの空気温度Tinを設定温度Tsetとしている。
断熱容器1内の空気温度Tinが設定温度Tset以上の場合、電圧指令値Vdirは最大出力電圧Vmaxと一致する。一方、断熱容器1内の空気温度Tinが低下すると、電圧指令値Vdirも徐々に減少する。
【0043】
図8の例では、断熱容器内の空気温度Tinが設定温度Tsetよりも1℃以上低い温度の場合、電圧指令値Vdirは最小出力電圧Vminと一致する。具体的には、設定温度Tsetが5℃である場合の電圧指令値Vdirは、断熱容器内の空気温度Tinが4℃以下の場合に、最小出力電圧Vminと一致する。同様に、設定温度Tsetが10℃である場合の電圧指令値Vdirは、断熱容器内の空気温度Tinが9℃以下の場合に、最小出力電圧Vminと一致する。
【0044】
空気温度Tinが、設定温度Tsetと設定温度Tsetから1℃低い温度との間である場合、空気温度Tinが低下すると電圧指令値Vdirは比例的に下がる。具体的には、設定温度Tsetが5℃である場合、空気温度Tinが5℃以上の場合、電圧指令値Vdirは最大出力電圧Vmax(
図8の例では、11V)となる。次に、空気温度Tinが4℃より大きく5℃未満の範囲の場合、電圧指令値Vdirは、空気温度Tinに応じてVmin(
図8の例では、1V)から最大出力電圧Vmaxの範囲で比例的に増減する。次に、空気温度Tinが4℃以下の場合、電圧指令値Vdirは最小出力電圧Vminとなる。空気温度Tinが4℃より大きく5℃未満の範囲で、電圧指令値Vdirを比例的に変化させる理由は、設定温度5℃に対して約1℃の範囲であれば冷蔵庫100の実使用上、収容物の温度の変動を許容できる範囲であるためである。
【0045】
設定温度Tsetが10℃である場合も同様に、空気温度Tinが10℃以上の場合、電圧指令値Vdirは最大出力電圧Vmax(
図8の例では、11V)となる。空気温度Tinが9℃より大きく10℃未満の範囲の場合、電圧指令値VdirはVmin(
図8の例では、1V)から最大出力電圧Vmaxの範囲で比例的に増減する。空気温度Tinが9℃以下の場合、電圧指令値Vdirは最小出力電圧Vminとなる。空気温度Tinが9℃より大きく10℃未満の範囲で、電圧指令値Vdirを比例的に変化させる理由は、設定温度10℃に対して約1℃の範囲であれば冷蔵庫100の実使用上、収容物の温度の変動を許容できる範囲であるためである。
【0046】
次に、具体例を参照しながら、制御装置30の処理動作を示す。
図9は、実施の形態1に係る冷蔵庫100の制御装置30の処理動作を時間軸のグラフで示した図である。
図9Aは制御装置30の出力電圧Vout、
図9Bは制御装置30の出力電流、
図9Cは断熱容器1内の空気温度Tin、
図9Dは伝熱板7の温度を示している。
図9Aから
図9Dは、それぞれ時間経過に伴う値の変動を示している。
【0047】
以下の説明では、第1の設定温度Tset1を5℃とし、当該第1の設定温度Tset1で動作する第1の設定時間Time1を24時間とする。また第2の設定温度Tset2を10℃とし、当該第2の設定温度Tset2で動作する第2の設定時間Time2を0.5時間とする。なお、上述した第1の設定温度Tset1、第2の設定温度Tset2、第1の設定時間Time1および第2の設定時間Time2の値は一例であり、適宜設定可能である。
【0048】
まず、
図9Aから
図9Dを参照しながら、
図7で示したフローチャート各処理について説明する。
温度センサ14により検知された断熱容器内の空気温度Tinが第1の設定温度Tset1(5℃)に達しない場合、例えば空気温度Tinが7℃付近の場合、電圧指令部30eは、ステップST1として第1の設定温度Tset1(5℃)を設定温度Tsetとして、電圧指令値Vdirを算出する。
ここで、電圧指令部30eは、電圧指令値Vdirを、ペルチェ素子8aへの投入電力すなわち冷却能力を最大として運転している状態(Vmax:11Vから12Vで運転)として算出する。
【0049】
電圧指令部30eは、ステップST2(YES)およびステップST3として、空気温度Tinが第1の設定温度Tset1(5℃)に達しない状態が、第1の設定時間Time1(24時間)継続したと判定した場合に、ステップST4として第2の設定温度Tset2(10℃)を設定温度Tsetとして、電圧指令値Vdirを算出する。
ここで、電圧指令部30eは、空気温度Tinが第2の設定温度Tset2(10℃)に近づくまでの間、電圧指令値Vdirを、ペルチェ素子8aへの投入電力すなわち冷却能力を最小として運転している状態(Vmin:1Vから2Vで運転)として算出する。
【0050】
ペルチェ素子8aへの投入電力を最小として運転している状態では、伝熱板7の温度は10℃付近まで上昇していく。伝熱板7の温度が0℃を越えた時点で(
図9Dの点P参照)、伝熱板7の表面に付着した霜および氷等の解氷が始まる。
【0051】
電圧指令部30eが第2の設定温度Tset2(10℃)を設定温度Tsetとして、電圧指令値Vdirを算出する時間は、第2の設定時間Time2である。第2の設定時間Time2は、伝熱板7の表面に付着した霜および氷等を溶かすのに必要な時間であり、0.5時間(30分)である。電圧指令部30eは、ステップST5(YES)として、第2の設定時間Time2(例えば、0.5時間)経過したと判断した場合、第1の設定温度Tset1(5℃)を設定温度Tsetとして、電圧指令値Vdirを算出する。その後、電圧指令部30eは、上述した処理を繰り返し行う。
【0052】
次に、
図9Aから
図9Dで示したグラフの詳細について説明する。
第1の設定時間Time1(24時間)の間、
図9Cで示す断熱容器1内の空気温度Tinが第1の設定温度Tset1よりも高い状態にある、この期間は、
図9Aに示すように出力電圧Voutは最大出力電圧Vmaxを保持している。また、
図9Dに示すように伝熱板7の温度は-3℃未満に保持され、伝熱板7の凍結が進行している。
【0053】
この状態で第1の設定時間Time1(24時間)が経過すると、第2の設定温度Tset2に移行する。
図9Aに示すように第2の設定時間Time2(0.5時間)の間、出力電圧Voutは、最大出力電圧Vmaxから、最大出力電圧Vmaxの70%から30%の範囲内の値に低下する。なお、
図9では示していないが、第1の設定時間Time1から第2の設定温度Tset2に移行する際、電圧指令値Vdirは最大出力電圧Vmaxである状態から最小出力電圧Vminに急激に変化することとなる。電圧指令値Vdirが急激に変化するのを抑制するために、電圧指令部30eは後述する急変抑制機能により、出力電圧Voutが最大出力電圧Vmaxの70%から30%範囲内の値に低下するように、電圧の低下量を制御する。これにより、
図9Aに示すように出力電圧Voutが緩やかに低下する。
【0054】
第2の設定温度Tset2で動作している第2の設定時間Time2(0.5時間)の期間では、
図9Aで示す出力電圧Voutと、
図9Bで示すペルチェ出力電流とが低下する。これにより、
図9Cで示す空気温度Tinが第2の設定温度Tset2を目標に上昇し、
図9Dで示す伝熱板7の温度は-3℃未満から徐々に上昇する。
図9Dに示す伝熱板7の温度が0℃より高くなると、伝熱板7の表面の凍結部分の解氷が始まる(
図9Dの点P参照)。ここで第1の設定時間Time1(24時間)で付着した氷または霜は、第2の設定時間Time2(0.5時間)の期間で解氷が可能である。その後、第2の設定時間Time2が経過すると、再び設定温度Tsetを第1の設定温度Tset1に移行する(
図9CのTime1´参照)。
【0055】
なお、
図9では示していないが、第2の設定時間Time2から第1の設定温度Tset1に移行する際、電圧指令値Vdirは最小出力電圧Vminである状態から最大出力電圧Vmaxに急激に変化することとなる。電圧指令値Vdirが急激に変化するのを抑制するために、電流制限部30cは後述する電流上限値Iomaxに基づく制御を行う。これにより、
図9Aに示すように、出力電圧Voutは急激には上昇せず、緩やかに上昇する。
【0056】
電流制限部30cが電流上限値Iomaxに基づく制御を行っている間、ペルチェ素子8a自身の吸熱部と放熱部の温度差が大きくなるに従って、ペルチェ素子8aの内部の電気抵抗が上昇する。電流制限部30cが電流上限値Iomaxに基づく制御を行っている間、
図9Aに示すように出力電圧Voutが上昇し、その後最大出力電圧Vmaxに到達する。その後、
図9Bに示すように、ペルチェ素子8aへの出力電流はペルチェ素子8aの内部の電気抵抗の上昇により電流上限値Iomax以下に低下する。その後、
図9Cに示すように、空気温度Tinが第1の設定温度Tset1に向けて下降し、
図9Dに示すように伝熱板7の温度も下降する。
【0057】
上述した説明において、第1の設定温度Tset1を、5℃とする一例を示したが、当該温度に限定されるものではない。第1の設定温度Tset1は、保冷時の冷蔵庫100の収容物が、例えば飲料である場合に、冷えた飲料としての一般的な適温を想定して設定すればよい。具体的には、第1の設定温度Tset1を、例えば3℃から8℃の範囲内の値に設定すればよい。
【0058】
また、第1の設定時間Time1を、24時間とする一例を示したが、当該時間に限定されるものではない。当該第1の設定時間Time1の間に、断熱容器1内の空気温度が第1の設定温度Tset1に到達しない場合、冷蔵庫100の周囲温度が高い等、冷蔵庫100の周囲条件が原因となり断熱容器1内の空気または収容物が十分に冷えない可能性がある。そこで、第1の設定時間Time1は、冷蔵庫100の使用者が不具合と認識しない時間、および伝熱板7の表面に付着する霜および氷等の量が許容可能な時間に設定すればよい。なお、伝熱板7の表面に付着する霜および氷等の量が許容可能な時間は、伝熱板7の表面積またはペルチェ素子8aの冷却能力に応じて設定される。具体的には、第1の設定時間Time1を、例えば約12時間から36時間の範囲内で現実的に実現可能な時間に設定すればよい。
【0059】
また、第2の設定温度Tset2を、第1の設定温度Tset1より高い温度である10℃とし、第2の設定時間Time2を0.5時間とした一例を示した。当該第2の設定温度Tset2および第2の設定時間Time2も、上述した値に限定されるものではない。
冷蔵庫100の収容物が、例えば飲料である場合に、冷えた飲料としての一般的な適温であって、かつ、伝熱板7の表面に付着した霜および氷等を溶かすことができる温度と時間とに基づいて設定すればよい。具体的には、第2の設定温度Tset2を、例えば8℃から13℃の範囲内の温度で設定し、第2の設定時間Time2を、例えば0.5時間から1時間の範囲内の時間で設定すればよい。これにより、断熱容器1内の空気温度Tinが急激に温められることがなく、冷蔵庫100の収容物がぬるくなり使用者に不快感を与えることがない。
【0060】
上述したように、第1の設定温度Tset1から第2の設定温度Tset2に移行する際、電圧指令値Vdirは、最大出力電圧Vmaxから最小出力電圧Vminに急激に変化する。一方、直前まで出力電圧Voutが最大出力電圧Vmax(約11Vから12Vの値)であった状態では、ペルチェ素子8a自身の吸熱面と放熱面との間に生じている温度差によって、ペルチェ素子8aの端子間には6V前後の電位差がゼーベック効果によって発生している。
【0061】
電源回路30aからの出力電圧Voutが、ゼーベック効果による電位差6Vよりも低い値で出力される瞬間にはペルチェ素子8aから電源回路30aへの電流の逆流が発生し、電気的なストレスが加わり、電源回路30aの故障の原因となる。電源回路30a故障を回避するために、出力電圧Voutがゼーベック効果による電圧6Vよりも十分高い電圧から緩やかに低下するように、電圧指令部30eは電圧指令値Vdirの急変を抑制する機能を有している。
【0062】
つまり、電圧指令部30eは、ペルチェ素子8aに供給する電圧に対し、電流検出部30bで検出された電流値を参照してゼーベック効果による逆起電力の大きさを随時演算する。これにより、電圧指令部30eは、電流の逆流が発生しないように、供給する電圧を緩やかに低下させるように、電圧の低下量を制御する。電圧指令部30eが緩やかに電圧を低下させる範囲は、最大出力電圧Vmaxの約70%から30%の範囲内で行えばよく。
図9Aの例では、最大出力電圧Vmaxの約50%から緩やかに低下させる場合を示している。
【0063】
また、上述したように、第2の設定温度Tset2から第1の設定温度Tset1に移行する際、電圧指令値Vdirは、最小出力電圧Vminから最大出力電圧Vmaxに急激に変化する。低い電力から高い電力への切り替えるタイミングにおいて、直前の低い電力での動作により、ペルチェ素子8aの吸熱面と放熱面の間の温度差が小さく、ペルチェ素子8aの内部の電気抵抗が小さい。ここでペルチェ素子8aへの電圧が急激に上昇するのを抑制するために、電流制限部30cが、ペルチェ素子8aの吸熱面と放熱面の間の温度差が予め設定された値まで大きくなり、ペルチェ素子8a内部の電気抵抗が大きくなるまでの間、電流を制限する。さらに、電圧指令部30eは、電圧指令値Vdirを制限する。これらによりペルチェ素子8aへの電力を、小さく抑えている。これにより、電源回路30aの小型化を実現し、コストを抑制することができる。
【0064】
つまり、第2の設定時間Time2が終了して第1の設定温度Tset1に戻る場合、即ち低い電力から高い電力への切り替えのタイミングにおいて、電流制限部30cは、ペルチェ素子8aに供給する電圧に対し、電流検出部30bで検出される電流からペルチェ素子8aの電気抵抗の上昇を演算する。電流制限部30cは、ペルチェ素子8aの吸熱面と放熱面の間の温度差が大きくなり、内部の電気抵抗が大きくなるまでの間、電流を制限する。電流制限部30cは、電流を制限している旨を電圧指令部30eに通知する。電圧指令部30eは、電流制限部30cからの通知に基づいて電圧指令値Vdirを制限する制御を行う。これにより、電源回路30aの小型化を実現し、コストを抑制することができる。
【0065】
次に、温度センサ14について説明する。
温度センサ14の付近に冷却前の飲料等が置かれた場合に、温度センサ14が実際の空気温度よりも高い温度を長時間検知するのを抑制するために、温度センサ14を断熱容器1内の側面の上方、かつ断熱容器1内の背面側に配置している。温度センサ14を配置した領域付近の空気温度は、断熱容器1内の中央付近の温度とほぼ一致する。
【0066】
約15リットルから30リットルの範囲内の内容積であるL字型の伝熱板7を有する冷蔵庫100においては、
図3で示した例では、断熱容器1内の背面から20mmから100mmの範囲内の距離離間した位置(
図3で示した矢印Bで示す寸法)、および天井面から20mmから100mmの範囲内の距離離間した位置(
図3で示した矢印Cで示す寸法)の側面に温度センサ14を配置している。約15リットルから30リットルの範囲内の内容積であるL字型の伝熱板7を有する冷蔵庫100においては、上述した温度センサ14を配置した位置の空気温度は、断熱容器1内の中央の温度とほぼ一致する。上述した位置に温度センサ14を配置することにより、制御装置30は断熱容器1内の中央付近の温度を用いて温度調整装置8を制御することができる。これにより、制御装置30は、断熱容器1内を均一に温度制御することができる。
【0067】
また、
図3で示したように、温度センサ14を断熱容器1内の側面の天井面側の位置に設けている。当該位置に温度センサ14を配置することにより、冷却前の飲料等が温度センサ14の孔部14aを塞ぐのを抑制する。これにより、断熱容器1内の収容物により、温度センサ14が、実際の断熱容器1内の中央付近の空気温度、または他の収容物の温度よりも高い温度を、長時間検知するのを抑制する。また、温度調整装置8へ投入する電力の値が継続して高い値となる頻度を抑制する。さらに、伝熱板7の表面に霜または氷等が付着するのを抑制する。
【0068】
また、上述した例では、冷蔵庫100が庫内の温度を検出する温度センサ14を1個配置する構成を示した。温度センサ14の配置個数を1個とすることにより、部品点数を抑制して冷蔵庫100のコストを抑制し、かつ温度センサ14の故障率を低減させることができる。一方、温度センサ14の配置個数は1個に限定されるものではなく、断熱容器1内の温度の制御性能を向上させるために、複数個の温度センサ14を配置してもよい。その場合、温度センサ14の配置個数は、断熱容器1の内容積が大きい場合等に応じて設定する。
【0069】
次に、冷蔵庫100の内容積は15リットルから35リットルの範囲内の容積を想定している。冷蔵庫100は、最大吸熱量が50W前後(40Wから60Wの範囲内の吸熱量)のペルチェ素子8aを1個搭載する構成を想定している。冷蔵庫100は、構成材を安価な構成で実現するために、適切なコンパクトな内容積としている。
図10は、実施の形態1に係る冷蔵庫100の伝熱板7の表面積と最低温度との関係の一例を示す図である。
図10では、断熱容器1内が5℃に到達する場合を例に、伝熱板7の表面積と最低温度との関係を示している。また、伝熱板7の表面積とは、断熱容器1に伝熱板7を配置した際に、庫内側に位置する面の面積である。
【0070】
伝熱板7の表面積が小さくなるほど、断熱容器1内の冷却温度を維持するためには強力な冷却が必要となり、伝熱板7の最低温度は低くなる。一方、伝熱板7の表面積が大きくなるほど、伝熱板7の最低温度が高くなる。
図10で示した例では、伝熱板7の表面積が、約3000cm
2以上であれば、伝熱板7の最低温度が0℃以上となる。即ち、伝熱板7の表面積が約3000cm
2以上であれば、当該伝熱板7は氷結することなく断熱容器1内の空気温度を5℃に保持するための冷却を行うことができる。
【0071】
しかし、伝熱板7の表面積を3000cm2以上とするためには、伝熱板7の配置数を増加させる必要があり、冷蔵庫100のコストが上昇する。
そこで、伝熱板7の表面積を小さくし(例えば、3000cm2未満)、かつ上述した制御装置30による制御を行うことにより、伝熱板7の最低温度が0℃以下となるが、伝熱板7の表面に霜および氷等が付着するのを防止することができる。
制御装置30による上述した制御を行った場合、伝熱板7の温度が約-3℃まで低下した場合にも、伝熱板7の表面に霜および氷等が付着するのを防止することができる。伝熱板7をアルミニウム材で構成した場合、表面積が1100cm2であれば、上述した制御装置30による制御を行うことにより、伝熱板7の表面に霜および氷等が付着するのを防止することができる。
【0072】
次に、伝熱板7の構成について説明する。
図11は、実施の形態1に係る冷蔵庫100の伝熱板7の構成例を示す図である。
図11AはL字状に構成した伝熱板7を示し、
図11Bはコ字状に構成した伝熱板7を示している。
上述したが、伝熱板7をアルミニウム材で構成した場合、表面積を約1100cm
2まで小さくすることができる。ここで、伝熱板7の表面積とは、断熱容器1に伝熱板7を配置した際に、庫内側に位置する面の面積(
図11Aで示した、L字状の内側の面L1の面積と面L2の面積との和)である。これにより、伝熱板7を安価に構成することができる。
冷蔵庫100の収納容量が15Lから35Lの範囲内の容積である場合、アルミニウム材の価格を抑えること考慮すれば、伝熱板7の表面積を1100cm
2から2200cm
2の範囲内の面積で設定するとよい。
【0073】
図2では、伝熱板7がL字状である場合を例に示したが、当該形状に限定されるものではない。例えば、
図11Bに示すように、伝熱板7は、断熱容器1の天井面、背面および下面に沿うコ字状となるように折り曲げて構成してもよい。
【0074】
また、上述した説明では、第1の設定温度Tset1と第2の設定温度Tset2の二段階の温度設定で、制御装置30がペルチェ素子8aを制御する場合を例に示したが、二段階以上の温度設定を設けて制御してもよい。
【0075】
以上のように、この実施の形態1によれば、断熱容器1と、断熱容器1の庫内に取り付けられた伝熱板7と、伝熱板7に接触する伝熱面を有し、断熱容器1に取り付けられたペルチェ素子8aにより冷却する温度調整装置8と、断熱容器1の内部に取り付けられ、断熱容器1の内部の空気温度を検知する温度センサ14と、ペルチェ素子8aに供給する電力を調整し、断熱容器1の内部の空気温度を所定の設定温度に保持する制御装置30とを備え、制御装置30は、温度センサ14の検出温度が予め設定した第1の設定温度に達しない状態が、予め設定した第1の設定時間継続している場合に、第1の設定温度より高い温度であって予め設定された第2の設定温度に切り替えてペルチェ素子8aに出力する電圧値を算出し、第2の設定温度の状態が予め設定した第2の設定時間経過した場合に、第1の設定温度に切り換えてペルチェ素子8aに供給する電圧値を算出する電圧指令部30eと、第2の設定温度から第1の設定温度に切り替える場合に、ペルチェ素子8aに供給する電流の上限を制限する制御を行う電流制限部30cとを有するように構成した。
これにより、伝熱板の表面に霜および氷等が付着するのを抑制し、庫内の温度制御性のよい冷蔵庫を提供することができる。
【0076】
また、この実施の形態1によれば、電圧指令部30eは、第1の設定温度から第2の設定温度に切り替える場合に、ペルチェ素子8aに供給する電圧の低下量を制御するように構成した。
これにより、ペルチェ素子8aのゼーベック効果によって生じる電位差による、制御装置30の電源回路30aへの電流の逆流を防止することができる。さらに、制御装置30の電源回路30aの小型化を実現することができ、冷蔵庫のコストを抑制することができる。
【0077】
また、この実施の形態1によれば、ペルチェ素子8aは、最大吸熱量が40Wから60Wの範囲内の吸熱量であり、制御装置30は、ペルチェ素子8aを動作させる最大電圧を、ペルチェ素子8aの使用可能定格電圧の70%から85%の範囲内の電圧に設定するように構成した。
これにより、冷蔵庫のコストを抑制した、および故障の発生を抑制した冷蔵庫を得ることができる。また、冷蔵庫の電力を効率よく使用できる。
【0078】
また、この実施の形態1によれば、第1の設定時間が、12時間から36時間の範囲内の時間であり、第2の設定時間が0.5時間から1時間の範囲内の時間である。さらに、第1の設定温度が、3℃から8℃の範囲内の温度であり、第2の設定温度が、8℃から13℃の範囲内の温度である。
これにより、冷蔵庫の使用者に、収納物が冷えない等の不具合を感じさせることがない。
【0079】
また、この実施の形態1によれば、冷蔵庫の収容量が、15リットルから35リットルの範囲内の容積であり、ホテルまたは病院等で利用しやすい冷蔵庫を得ることができる。
【0080】
また、この実施の形態1によれば、伝熱板7を、断熱容器1を構成する2つの面に沿うL字状の部材で構成したので、伝熱板7を安価に構成することができる。
【0081】
また、この実施の形態1によれば、温度センサ14が、断熱容器1の内部の側面であって、断熱容器1の背面から20mmから100mmの範囲内の距離、および断熱容器1の天井面20mmから100mmの範囲内の距離離間させた位置に配置されるように構成した。
これにより、温度センサ14が断熱容器1の中心部の温度と同程度の温度を検出することができる。また、制御装置30が当該検出温度を用いて温度制御することができ、温度特性のよい冷蔵庫を得ることができる。
【0082】
また、この実施の形態1によれば、伝熱板7は、アルミニウム材からなり、当該伝熱板7を断熱容器1内に配置した場合の庫内側の表面積が、1100cm2から2200cm2の範囲内の面積を有する。これにより、冷蔵庫を安価に構成することができる。
【0083】
また、この実施の形態1によれば、伝熱板7は、板厚が3mmから4mmの範囲内の厚さである。これにより、十分な強度を有し、かつ安価な冷蔵庫を得ることができる。
【0084】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0085】
100 冷蔵庫、2 扉、3 外郭部材、4 内郭部材、5 断熱材、6 照明装置、7 伝熱板、8 温度調整装置、8a ペルチェ素子、8b 伝熱ブロック、8c ヒートシンク、9 排水筒、10 露受け皿、11 背面カバー、12 送風ファン、13 フィルタ、14 温度センサ、14a 孔部、14b 感温部、14c リード線、30 制御装置、30a 電源回路、30b 電流検出部、30c 電流制限部、30d 温度演算部、30e 電圧指令部。