(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】地盤沈下予測システム
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20230317BHJP
E02D 1/08 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
E02D1/08
(21)【出願番号】P 2019122228
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】更谷 安紀子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-37427(JP,A)
【文献】特開2019-65523(JP,A)
【文献】特開2000-2769(JP,A)
【文献】特開2018-194404(JP,A)
【文献】特開2006-170739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/34
E02D 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の地点を地盤沈下の推定地点として、前記推定地点の地盤沈下を予測する地盤沈下予測システムであって、
複数の既設建物の建設地点のボーリング試験により得られた、前記建設地点の地表からの深度、前記深度に応じた土質を数値化して設定された土質パラメータの値、および前記深度に応じた標準貫入試験におけるN値、を含む学習用地盤情報と、前記学習用地盤情報に対応した前記既設建物の地盤沈下量に基づいて、地盤沈下のし易さに応じて設定された学習用沈下パラメータの値と、を教師データとして、任意の地点の地盤情報から前記任意の地点の沈下パラメータの値の算出を機械学習により学習した第1学習部と、
所定の地域の地図データと、前記地図データの地図上の複数の既知地点において、前記既知地点ごとの位置情報、前記既知地点ごとのボーリング試験により得られた、地表からの深度、前記深度に応じた土質を数値化して設定された土質パラメータの値、および前記深度に応じた標準貫入試験におけるN値、を含む既知地点情報とが、格納された地域情報格納部と、
前記地図上に前記推定地点を設定する推定地点設定部と、
前記推定地点設定部で設定された前記推定地点の周辺に存在する前記既知地点ごとの前記既知地点情報を抽出する周辺情報抽出部と、
前記周辺情報抽出部で抽出した前記既知地点ごとの前記既知地点情報を、前記第1学習部に入力し、前記既知地点ごとの前記沈下パラメータの値を前記第1学習部に算出させる周辺沈下パラメータ算出部と、
前記周辺沈下パラメータ算出部に算出させた前記既知地点ごとの前記沈下パラメータに基づいて、前記推定地点の沈下パラメータの値を算出する沈下パラメータ推定部と、を備えることを特徴とする地盤沈下予測システム。
【請求項2】
前記周辺情報抽出部は、前記推定地点から所定の距離内に存在する前記既知地点ごとの前記既知地点情報を抽出するものであり、
前記地盤沈下予測システムは、前記周辺情報抽出部で抽出した前記既知地点の数と、前記沈下パラメータ推定部で算出した沈下パラメータの値とから、前記推定地点のボーリング試験および標準貫入試験の実施の要否を判定する試験実施判定部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の地盤沈下予測システム。
【請求項3】
前記地盤沈下予測システムは、複数の既設建物の建設地点から選定した選定地点の学習用沈下パラメータの値と、前記選定地点から所定の範囲内の複数の周辺の建設地点の学習用沈下パラメータの値と、前記選定地点に対する前記周辺の建設地点ごとの相対的な位置情報を特定した学習用位置情報と、を1つのデータ群とし、異なる前記選定地点ごとに得られる複数のデータ群を教師データとし、任意の地点の周辺に存在する複数の周辺地点の沈下パラメータの値と、前記任意の地点に対する前記周辺地点ごとの相対的な位置情報とから、前記任意の地点の沈下パラメータの値の算出を機械学習により学習した第2学習部をさらに備えており、
前記沈下パラメータ推定部は、前記周辺沈下パラメータ算出部で算出した前記既知地点ごとの前記沈下パラメータの値と、前記推定地点に対する前記既知地点ごとの相対的な位置情報と、を前記第2学習部に入力し、前記第2学習部に前記推定地点の沈下パラメータの値を算出させることを特徴とする請求項1または2に記載の地盤沈下予測システム。
【請求項4】
前記第2学習部は、前記地域情報格納部で格納された前記所定の地域内の既知地点ごとの位置情報と、前記第1学習部で算出された前記所定の地域内の既知地点ごとの沈下パラメータの値とを、教師データとして機械学習したものであることを特徴とする請求項3に記載の地盤沈下予測システム。
【請求項5】
前記沈下パラメータ推定部は、前記周辺沈下パラメータ算出部で算出した前記既知地点ごとの前記沈下パラメータの値と、前記推定地点から抽出した各既知地点までの距離に基づいて、前記推定地点の沈下パラメータの値を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の地盤沈下予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤沈下を予測する地盤沈下予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、たとえば建設予定の未設建物の建設予定地の地盤の状態を予測することが成されている。特許文献1に示す技術では、まず、地盤推定箇所周辺の複数のデータに関して既に得られているボーリングデータから、各層の地質特性値を推定し、この地質特性値から地層特定値の等高線図を生成する。次に、生成した等高線図から地盤推定箇所の地質特性値を推定する。地盤推定箇所の地質特性値と、そこで構築される構造物の仕様値から、所定の算定式を適用して、構造物構築で地盤に生じる影響の値を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示す地盤沈下予測システムで、地盤推定箇所(地盤沈下を推定する推定地点)の回りの等高線図を作成するには、推定地点周辺の多大な箇所のボーリング試験のデータを取得する必要がある。これに加えて、推定地点の地盤の状態がわかったとしても、推定地点の地盤沈下を正確に予測することは、容易ではない。
【0005】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、本発明では、特定の地点を地盤沈下の推定地点として、推定地点の地盤沈下を正確に予測することができる地盤沈下予測システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を鑑みて、本発明は、特定の地点を地盤沈下の推定地点として、前記推定地点の地盤沈下を予測する地盤沈下予測システムであって、複数の既設建物の建設地点のボーリング試験により得られた、前記建設地点の地表からの深度、前記深度に応じた土質を数値化して設定された土質パラメータの値、および前記深度に応じた標準貫入試験におけるN値、を含む学習用地盤情報と、前記学習用地盤情報に対応した前記既設建物の地盤沈下量に基づいて、地盤沈下のし易さに応じて設定された学習用沈下パラメータの値とを、教師データとして、任意の地点の地盤情報から前記任意の地点の沈下パラメータの値の算出を機械学習により学習した第1学習部と、所定の地域の地図データと、前記地図データの地図上の複数の既知地点において、前記既知地点ごとの位置情報、前記既知地点ごとのボーリング試験により得られた、地表からの深度、前記深度に応じた土質を数値化して設定された土質パラメータの値、および前記深度に応じた標準貫入試験におけるN値、を含む既知地点情報とが、格納された地域情報格納部と、前記地図上に前記推定地点を設定する推定地点設定部と、前記推定地点設定部で設定された前記推定地点の周辺に存在する前記既知地点ごとの前記既知地点情報を抽出する周辺情報抽出部と、前記周辺情報抽出部で抽出した前記既知地点ごとの前記既知地点情報を、前記第1学習部に入力し、前記既知地点ごとの前記沈下パラメータの値を前記第1学習部に算出させる周辺沈下パラメータ算出部と、前記周辺沈下パラメータ算出部に算出させた前記既知地点ごとの前記沈下パラメータに基づいて、前記推定地点の沈下パラメータの値を算出する沈下パラメータ推定部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、第1学習部で、ここまで地盤沈下した既設建物に対して、既設建物の建設地点の学習用地盤情報と、学習用沈下パラメータの値とを教師データとして、任意の地点の地盤情報から、その任意の地点の沈下パラメータの値の算出を機械学習により学習させる。この機械学習は、たとえば、後述する深層学習(ディープラーニング)の1つであるディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)により行ってもよく、その他のアルゴリズムを利用して機械学習を行ってもよい。
【0008】
ここで、この教師データの対象となる建設地点は、実際に地盤沈下が発生した地点であり、各建設地点において、地盤沈下量に対して既設建物の仕様(たとえば、建物の用途、回数、建物面積、建物の基礎の仕様を数値化した値)を数値化した値で正規化した学習用沈下パラメータの値を算出する。したがって、この沈下パラメータは、同じ仕様の建物に対して、地盤沈下のし易さを数値化したものであり、換言すると地盤沈下のリスクの高さを変数にしたものである。沈下パラメータの大きさが大きくなるに従って地盤沈下がし易くなるため、地盤沈下のリスクが高く、たとえば、地盤沈下し難い基礎構造が選定される。
【0009】
本発明では、特定の地点を地盤沈下の推定地点として、推定地点を含む所定の地域の地図データと、地図データの地図上の複数の既知地点において、既知地点ごとの既知地点情報を格納した地域情報格納部を設けている。
【0010】
ここで、推定地点設定部で推定地点が設定されると、周辺情報抽出部で、推定地点の周辺に存在する既知地点ごとの既知地点情報が抽出される。この際、周辺情報抽出部は、推定地点から所定距離の範囲内に存在する既知地点を抽出してもよく、推定地点から近い特定の個数の既知地点を抽出してもよい。
【0011】
次に、周辺沈下パラメータ算出部で、これらの抽出した既知地点の既知地点情報を第1学習部に入力し、推定地点の周辺に存在する既知地点の沈下パラメータの値を算出する。この算出した沈下パラメータの値は、推定地点の沈下パラメータの値に影響のある値である。したがって、次に、沈下パラメータ推定部で、推定地点の周辺に存在する既知地点ごとの沈下パラメータに基づいて、推定地点の沈下パラメータの値を算出する。
【0012】
このようにして、本発明では、実際に沈下の発生した建設地点における学習用地盤情報と、実際に沈下した既設建物の地盤沈下量に基づいて設定された学習用沈下パラメータの値と、を教師データとして学習するので、第1学習部は、推定地点を含む任意の地点での沈下パラメータの値の算出を精度良く学習することができる。そして、推定地点では、その周辺の既知地点の沈下パラメータの値を用いて、推定地点の沈下パラメータの値を算出するので、たとえば推定地点の地盤情報が無くても、推定地点の位置情報を入力するだけで、経験が豊富でない設計者であっても、合理的かつ客観的に、その推定地点の沈下のし易さの程度を精度良く予測することができる。これにより、地盤沈下による建物不具合を未然に防ぐことができ、建設費用を削減することができる。
【0013】
より好ましい態様としては、前記周辺情報抽出部は、前記推定地点から所定の距離内に存在する前記既知地点ごとの前記既知地点情報を抽出するものであり、前記地盤沈下予測システムは、前記周辺情報抽出部で抽出した前記既知地点の数と、前記沈下パラメータ推定部で算出した沈下パラメータの値とから、前記推定地点のボーリング試験および標準貫入試験の実施の要否を判定する試験実施判定部をさらに備える。
【0014】
ここで、推定地点から所定の距離内に存在する既知地点ごとの既知地点情報を抽出した際に、たとえば、抽出した既知地点の個数が、所定の個数よりも少ない場合、算出した推定地点の沈下パラメータの値が所定の値よりも大きい場合、または、これらの両方が成立する場合には、推定地点で地盤沈下する可能性が高い。したがって、この態様によれば、試験実施判定部で、このような場合を考慮して、推定地点のボーリング試験および標準貫入試験の実施の要否を判定することができるので、推定地点での地盤沈下の可能性を、より的確に予測することができる。
【0015】
さらに、好ましい態様としては、前記地盤沈下予測システムは、複数の既設建物の建設地点から選定した選定地点の学習用沈下パラメータの値と、前記選定地点から所定の範囲内の複数の周辺の建設地点の学習用沈下パラメータの値と、前記選定地点に対する前記周辺の建設地点ごとの相対的な位置情報を特定した学習用位置情報と、を1つのデータ群とし、異なる前記選定地点ごとに得られる複数のデータ群を教師データとし、任意の地点の周辺に存在する複数の周辺地点の沈下パラメータの値と、前記任意の地点に対する前記周辺地点ごとの相対的な位置情報とから、前記任意の地点の沈下パラメータの値の算出を機械学習により学習した第2学習部をさらに備えており、前記沈下パラメータ推定部は、前記周辺沈下パラメータ算出部で算出した前記既知地点ごとの前記沈下パラメータの値と、前記推定地点に対する前記既知地点ごとの相対的な位置情報とを、前記第2学習部に入力し、前記第2学習部に前記推定地点の沈下パラメータの値を算出させる。
【0016】
この態様によれば、第2学習部は、所定の建設地点の沈下パラメータの値の算出を、その周辺の建設地点の相対的な位置情報とその沈下パラメータの値から学習したものである。したがって、沈下パラメータ推定部により、推定地点に対する周辺の既知地点の方位を加味した、推定地点の沈下パラメータの値を、第2学習部で算出させることができる。これにより、より正確な沈下パラメータの値を算出することができる。
【0017】
より好ましい態様としては、前記第2学習部は、前記地域情報格納部で格納された前記所定の地域内の既知地点ごとの位置情報と、前記第1学習部に算出された前記所定の地域内の既知地点ごとの沈下パラメータの値と、を教師データとして機械学習したものである。この態様によれば、第2学習部は、推定地点を含む所定の地域において、沈下パラメータの値の算出を学習するので、推定地点の沈下パラメータの値の精度を高めることができる。
【0018】
より好ましい態様としては、前記沈下パラメータ推定部は、前記周辺沈下パラメータ算出部で算出した前記既知地点ごとの前記沈下パラメータの値と、前記推定地点から抽出した各既知地点までの距離に基づいて、前記推定地点の沈下パラメータの値を算出する。
【0019】
この態様によれば、推定地点の沈下パラメータの値は、既知地点ごとの前記沈下パラメータの値と、推定地点から抽出した各既知地点までの距離が大きく影響するので、これらの値を用いることで、推定地点の沈下パラメータの値の精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、特定の地点を地盤沈下の推定地点として、推定地点の地盤沈下を正確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る地盤沈下予測システムを説明するための模式的概念図である。
【
図2】
図1に示す地盤沈下予測システムのブロック図である。
【
図3】
図2に示す沈下パラメータ学習部(第1学習部)が学習するための教師データを示す表である。
【
図4】
図2に示す沈下パラメータ学習部(第1学習部)のニューラルネットワークの模式的概念図である。
【
図5】
図2に示す格納部に格納された地図データの一例を示した図である。
【
図6】各既知地点の地盤情報から周辺沈下パラメータ算出部により算出された既知地点ごとの沈下パラメータの一例を示した表である。
【
図7】
図2に示す沈下パラメータ推定部の算出方法を説明するための図である。
【
図8】
図2に示す地盤沈下予測システムによる一連の工程のフロー図である。
【
図9】第2実施形態に係る地盤沈下予測システムのブロック図である。
【
図10】
図9に示す沈下推定学習部(第2学習部)の学習を説明するための地図データの一例を示した図である。
【
図11】
図9に示す沈下推定学習部のニューラルネットワークの模式的概念図である。
【
図12】
図9に示す沈下パラメータ推定部の算出方法を説明するための図である。
【
図13】
図9に示す地盤沈下予測システムによる一連の工程のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の第1および第2実施形態に係る地盤沈下予測システムを、図面を参照しながら説明する。
【0023】
〔第1実施形態〕
1.地盤沈下予測システム1の装置構成について
本実施形態に係る地盤沈下予測システム1は、たとえば、メインサーバ(ホストコンピュータ)10と、携帯端末(通信端末)20を用いて、特定の地点を地盤沈下の推定地点として、推定地点の地盤沈下を予測するものである。以下に、地盤沈下予測システム1を説明する。
【0024】
地盤沈下予測システム1のメインサーバ10は、地盤沈下の状態(具体的には沈下パラメータの値)を算出する(学習する)人工知能を有した演算装置10Aと、演算装置10Aにデータを入力するキーボードなどの入力装置10Bと、を備えている。演算装置10Aは、後述する所定の地域の地域情報などのデータ、人工知能により機械学習されたプログラムが記憶されたROMまたはRAM等からなる記憶部10aと、機械学習されたプログラムにより沈下パラメータの値を算出するCPU等からなる演算部10bと、を備えている。具体的には、記憶部10aには、
図2に示す、沈下パラメータ学習部11のプログラム、地域情報格納部12で格納された地域情報などが記憶されており、演算部10bでは、
図2に示す沈下パラメータ学習部11による学習(演算)が実行される。
【0025】
地盤沈下予測システム1の携帯端末20は、ネットワークを介してメインサーバ10と通信可能であり、推定地点の沈下パラメータの値を算出する演算装置20Aと、データの入力および表示を行うタッチパネルなどの表示・入力部20Bと、を備えている。演算装置10Aは、メインサーバ10からのデータおよび表示・入力部20Bで入力されたデータを記憶するROMまたはRAM等からなる記憶部20aと、推定地点の沈下パラメータを算出するCPU等からなる演算部20bと、を備えている。具体的には、記憶部20aには、メインサーバ10からのデータおよび表示・入力部20Bで入力されたデータ、演算部20bで演算するためのアプリケーション(プログラム)などが記憶され、演算部20bでは、
図2に示す周辺情報抽出部22、周辺沈下パラメータ算出部23、および沈下パラメータ推定部24などによる演算が実行される。
【0026】
なお、本実施形態では、地盤沈下予測システム1は、メインサーバ10と、携帯端末20とを個別に備えており、携帯端末20は、上述するアプリケーションがインストールされていれば、特にその個数は限定されるものではない。
【0027】
また、地盤沈下予測システム1が、メインサーバ10と携帯端末20とで構成されるのではなく、これらが1つのシステムとして構成されていてもよい。具体的には、メインサーバ10の記憶部10aで、携帯端末20の記憶部20aで記憶されたデータを記憶し、メインサーバ10の演算部10bで、携帯端末20の演算部20bによる演算を行うことで、携帯端末20を省略してもよい。また、携帯端末20では、上述した記憶および演算を行わず、メインサーバ10ですべての記憶および演算を行って、携帯端末20は、推定地点の位置情報の入力と、メインサーバ10により演算された推定地点の沈下パラメータの値の出力とを実行するだけの役割を果たしてもよい。以下に、本実施形態では、地盤沈下予測システム1のソフトウエアの機能を、
図2のブロック図を用いて説明する。
【0028】
本実施形態では、メインサーバ10の演算装置10Aは、沈下パラメータ学習部(第1学習部)11と、地域情報格納部12とを備えている。携帯端末20の演算装置20Aは、推定地点設定部21と、周辺情報抽出部22と、周辺沈下パラメータ算出部23と、沈下パラメータ推定部24と、を備えている。メインサーバ10の演算装置10Aのデータと、携帯端末20の演算装置20Aのデータとは、ネットワークを介して相互に送受信可能になっている。
【0029】
2.地盤沈下予測システム1のモデルについて
2-1.沈下パラメータ学習部11
沈下パラメータ学習部11(以下「第1学習部11」という)は、複数の既設建物A、B、C、…の建設地点P1、P2、P3、…における学習用地盤情報と、各建設地点P1、P2、P3、…に紐付けられた(関連付けられた)学習用沈下パラメータの値と、を教師データとして、任意の地点の地盤情報から、その任意の地点の沈下パラメータの値の算出を機械学習による学習したものである。ここで、第1学習部11により学習される教師データの対象となる「地点」は、既設建物が建設された建設地内に存在する建設地点であり、実際に地盤沈下し、地盤沈下量が測定された建設地内の地点、または、既設建物の仕様等から地盤沈下の沈下量が推定された建設地内の地点である。学習後の第1学習部11に入力されるデータの対象となる「地点」は、所定の地域においてボーリング試験および標準貫入試験が実施された既知地点であり、これらの試験結果から入力されたデータにより出力されるデータは、既知地点の沈下パラメータの値である。
【0030】
具体的には、「学習用地盤情報」は、既設建物A、B、C、…の建設地点P1、P2、P3、…のボーリング試験により得られた、建設地点P1、P2、P3、…の地表からの深度、深度に応じた土質を数値化して設定された土質パラメータの値、および深度に応じた標準貫入試験におけるN値、を含むものである。ここで、入力される「深度」は、たとえば、各土質を構成する層の最下部の深さなど、土質を構成する深度と、その土質の層厚みの情報が特定できるような「深度」を入力することができるのであれば、土質パラメータの値とN値に関連付けられた「深度」の値は特に限定されるものではない。
【0031】
一般的に、ボーリング試験において、地表からの深度に応じて、土質の種類が調査される。ここで、「土質パラメータ」とは、土質ごとに数値化されて設定されたパラメータである。たとえば、土質には、粘土、シルト、細砂、粗砂、細礫、中礫、粗礫、コブル、またはボルタなどを挙げることができ、この土質ごとに、数値化されている。たとえば、土質の種類に応じた粒度分布に対応する数値が、設定されていてもよい。たとえば、土質の種類に応じた粒度分布が大きくなるに従って、建物からの荷重を支持する支持力が大きい(地盤沈下し難い)ことから、この順に、小さい数値となるように数値が割り当てられている。なお、たとえば、
図3に示すように、土質A~土質Eに対して、土質パラメータの数値が割り当てられる。
【0032】
「標準貫入試験におけるN値」とは、標準貫入試験(JIS A 1219に準拠した試験)で測定されたN値、スウェーデン式サウンディング試験(JIS A 1212に準拠した試験)に基づく換算N値などを挙げることができ、N値が大きいほど、建物からの荷重を支持する支持力が大きい。
【0033】
図3に示すように、各建設地点P1、P2、P3、…において、その深度、その深度ごとの土質パラメータの値、およびその深度ごとのN値が教師データとして割り当てられる。なお、これらの学習用地盤情報のうち、各建設地点P1、P2、P3、…の土質パラメータの値を、たとえば、ボーリング柱状図の画像から土質を認識し、機械学習を利用した人工知能を用いて設定してもよい。
【0034】
各建設地点に関連付けられた「学習用沈下パラメータ」は、既設建物の地盤沈下量に基づいて、地盤沈下のし易さに応じた値に設定される変数であり、この変数の値が大きいほど地盤沈下がし易いような値に設定される。
【0035】
本実施形態では、「学習用沈下パラメータ」の値は、建設地点において、地盤沈下量に対して、既設建物の仕様(たとえば、建物の用途、回数、建物面積、建物の基礎の仕様を加味した仕様)を数値化した値で正規化された値である。たとえば、この沈下パラメータは、同じ仕様の建物に対して、地盤沈下のし易さ(地盤沈下のリスク)を数値化したものである。換言すると、沈下パラメータの大きさが大きくなるに従って、地盤沈下がし易くなるため、地盤沈下し難い基礎構造が選定される。このような学習用沈下パラメータの値は、学習の基礎となる教師データであることから、既設建物の沈下量と既設建物の仕様とから、熟練者がその経験に基づいて数値を設定してもよく、以下のように設定してもよい。
【0036】
具体的には、「学習用沈下パラメータ」の値は、既設建物の地盤沈下量を、以下に示す既設建物の建物仕様に対応した値で除算した値であってもよい。本実施形態では、「既設建物の建物仕様に対応した値」は、たとえば、(1)既設建物の用途を数値化して設定された用途パラメータの値、(2)既設建物の階数、(3)既設建物の建物面積、および(4)既設建物に選択された基礎形式を数値化して設定された基礎パラメータの値、を乗算した値である。
【0037】
「用途パラメータ」は、既設建物の用途に応じたパラメータであり、その用途が、たとえば、病院、学校、工場、またはオフィスビル等に合わせて、既設建物の重量が変動することから、これらの用途に応じて数値化され、設定されている。たとえば、用途パラメータの値は、地盤沈下し易い用途の順に、大きい数値となるように数値が割り当てられている。
【0038】
「建物階数」は、既設建物または未設建物の階数であり、「建物面積」は、既設建物または未設建物の基礎部分に相当する面積である。
【0039】
「基礎パラメータ」は、既設建物または未設建物に選択された基礎形式を数値化して設定されたパラメータである。具体的には、(1)杭を設けた直接基礎構造、(2)杭を設けたパイル・ドラフト基礎構造、(3)摩擦杭による杭基礎構造、(4)支持層により支持される支持杭による杭基礎構造などを挙げることができ、これらの基礎形式(基礎構造の形式)を数値化して設定される。たとえば、地盤沈下し易い基礎構造の順に、大きい数値となるように数値が割り当てられている。
【0040】
さらに、杭基礎構造の場合には、摩擦杭の長さ、摩擦杭の種類等により、さらに、地盤沈下し易い順に、これに応じた大きさの数値が設定されてもよい。さらに、基礎構造の他にも、例えば、セメントミルクにより地盤改良された基礎構造等を含んでもよく、この構造にも、上述した如き数値が設定される。
【0041】
このようにして、教師データとして、
図3に示すように、建設地点ごとの「学習用沈下パラメータ」の値が、その建設地点ごとの学習用地盤情報に紐付けて設定される。たとえば、建設地点P1では、学習用沈下パラメータの値が50であり、建設地点P2では、学習用沈下パラメータの値が32である。したがって、建設地点P1と建設地点P2に同じ仕様の建物を建設した場合には、建設地点P1の方が、地盤沈下がし易いことになる。
図3に示す建設地点P1~P4では、建設地点P4、P1、P3、P2の順に、沈下し易い地盤を有することになる。
【0042】
図3に示す、各建設地点P1、P2、…ごとにおける学習用地盤情報と、学習用沈下パラメータの値を教師データとして、任意の地点の地盤情報から任意の地点の沈下パラメータの値の算出を機械学習により学習する。
【0043】
本実施形態では、第1学習部11は、これまでに建設された既設建物A、B、C、…の入力値に対して算出される出力値が、各既設建物A、B、C、…で、実際の地盤沈下量に基づいて地盤沈下のし易さに応じて設定された沈下パラメータ(実際の沈下パラメータ)の値に収束するように、沈下パラメータの値の算出を機械学習により学習する。
【0044】
この学習は、例えば、学習用地盤情報の入力値の個数に応じた変数からなる所定の数式に対して、各変数に乗じられる補正係数を、繰り返し補正することにより行ってもよい。本実施形態では、
図4に示すように、第1学習部11は、ディープニューラルネットワーク(DNN:以下「ニューラルネットワーク」という)11’を備えており、ニューラルネットワーク11’は、建設地点の地盤情報を入力値とし、沈下パラメータの値を出力値として算出するものである。
【0045】
本実施形態では、ニューラルネットワーク11’は、入力層11Aを有している。入力層11Aは、各建設地点P1、P2、P3、P4、…に対して、地表からの深度N1、N2、…と、これらに応じた土質パラメータの値およびN値を入力値とする。入力層11Aは、この入力値の個数に合わせた複数の入力層ニューロン素子11aで構成される。入力層11Aの入力層ニューロン素子11aは、入力する条件データの個数に応じて、増減することができ、この増減による入力されるデータの個数に応じたニューラルネットワーク11’のモデルが構築される。
【0046】
ニューラルネットワーク11’は、出力層11Eを有している。出力層11Eは、沈下パラメータの値を出力する1つの出力層ニューロン素子11eで構成される。ニューラルネットワーク11’は、3つの中間層11B、11C、11Dを有している。3つの中間層11B、11C、11Dは、入力層11Aと出力層11Eとの間に設けられている。各中間層11B、11C、11Dは、これらの素子に直接的または間接的に結合された複数の中間層ニューロン素子11b、11c、11dを含む。
【0047】
なお、本実施形態では、中間層が3つの層で構成されるが、たとえば、中間層が、1つ、2つの層、4つ以上の層で構成されていてもよく、中間層が3つの層に限定されるものではない。さらに、各中間層11B、11C、11Dを構成する中間層ニューロン素子11b、11c、11dは、入力層ニューロン素子11aの個数に応じた個数であるが、入力されるデータ数に応じて、入力層ニューロン素子11aの個数を変化させてもよく、入力されるデータ数と異なる個数の中間層のニューロン素子を、各中間層が備えてもよい。
【0048】
中間層11B、11C、11Dは、入力層11A側の同じ層にあるニューロン素子のニューロンパラメータの値を用いて、所定の演算を行い、その演算結果を、出力層11E側のニューロン素子に出力するものである。具体的には、中間層ニューロン素子11b、11c、11dおよび出力層ニューロン素子11eは、入力層ニューロン素子11aまたは入力層11A側の中間層ニューロン素子11b、11c、11dから入力されるニューロンパラメータの値を用いて、所定の演算を行う。
【0049】
具体的には、演算を実行する中間層ニューロン素子11b、11c、11dと、出力層ニューロン素子11eは、それぞれ所定の活性化関数を有しており、入力されたデータ(パラメータの値)をその活性化関数に代入することにより、ニューロンパラメータの値を演算する。たとえば、中間層11Bの各中間層ニューロン素子11bは、各入力層ニューロン素子11aの入力値がニューロンパラメータの値として入力され、活性化関数により、入力層ニューロン素子11aごとのニューロンパラメータの値が演算される。
【0050】
この際、各中間層11B、11C、11Dの中間層ニューロン素子11b、11c、11dで出力されるニューロンパラメータの値は、その素子内において、活性化関数により演算されたニューロンパラメータの値に対して、重み付け係数が乗算されることで算出され、出力層ニューロン素子11eまたは出力層11E側の中間層ニューロン素子11c、11dに出力される。
【0051】
本実施形態では、出力層ニューロン素子11eで出力された既設建物A、B、C、…の沈下パラメータの値が、既設建物A、B、C、…の実際の沈下パラメータの値に対して予め設定した範囲内に収束するまで、各中間層ニューロン素子11b、11c、11dのニューロンパラメータの値に乗算される重み付け係数を繰り返し補正する。このようにして、本実施形態では、機械学習により、沈下パラメータの値の算出(方法)を予め学習することができる。このようにして、複数の建設地点P1、P2、P3、…における学習用地盤情報と学習用沈下パラメータの値とを教師データとして、第1学習部11の機械学習が実行され、任意の地点の地盤情報から、沈下パラメータの値を算出するモデルが生成される。
【0052】
なお、本実施形態では、中間層ニューロン素子11b、11c、11dにおいて、活性化関数により算出されたニューロンパラメータの値に対して乗算される重み付け係数を、各中間層ニューロン素子11b、11c、11dに設けたが、これに加えて、出力層ニューロン素子11eにもさらに活性化関数により算出されたニューロンパラメータの値に対して乗算される重み付け係数を設けてもよい。
【0053】
2-2.地域情報格納部12
地域情報格納部12には、
図5に示すように、所定の地域の地図データと、地図データの地
図M1上の複数の既知地点T1、T2、…における既知地点情報が格納されている。この既知地点情報は、既知地点T1、T2、…ごとの位置情報、既知地点T1、T2、…ごとのボーリング試験により得られた、地表からの深度、深度に応じた土質を数値化して設定された土質パラメータの値、および深度に応じた標準貫入試験におけるN値、を含むものであり、これらのデータは既知地点ごとに紐付けられている。ここで示す、深度、土質パラメータの値、およびN値の地盤情報は、学習用地盤情報で説明したものと同じ種類の情報であるので、詳細な説明は省略する。なお、地図データの地
図M1上の既知地点に、機械学習で用いた建設地点が含まれていてもよい。
【0054】
具体的には、各既知地点は、ボーリング試験および標準貫入試験が実施された地点であり、これらの試験により得られた地盤情報が、地
図M1上の各既知地点T1、T2、…の位置情報に紐付けられている。なお、この既知地点では、現在または過去に建物が建設されていなくてもよく、仮に、この既知地点において建物による地盤沈下が発生していた場合には、地域情報格納部12に、実際に測定されたまたは推定された地盤沈下量に関連付けられた沈下パラメータをさらに格納してもよい。なお、地図データの対象となる所定の地域とは、たとえば、区または市などの地域であってもよく、1つまたは複数の共通の土質の層が連続して含む領域であってもよい。このような地図データは、メインサーバ10から携帯端末20に送信され、携帯端末20の表示・入力部20Bに表示される。
【0055】
2-3.推定地点設定部21
図5に示すように、推定地点設定部21は、地
図M1上の推定地点Gを設定する。本実施形態では、携帯端末20の表示・入力部20Bに表示された地
図M1上に、操作者が推定地点Gの位置情報を入力する。これにより、携帯端末20の演算装置20Aにおいて、地
図M1上の推定地点Gが設定される。
【0056】
2-4.周辺情報抽出部22
図2および
図5に示すように、周辺情報抽出部22は、推定地点設定部21で設定された推定地点Gの周辺に存在する既知地点T1、T7、T8、…ごとの既知地点情報を抽出する(
図6参照)。本実施形態では、
図5、
図7に示すように、推定地点Gを含む所定の範囲RG内に存在する既知地点T1、T7、T8、…ごとの既知地点情報を抽出する。
【0057】
ここで、本実施形態では、周辺情報抽出部22は、推定地点Gから所定の距離r内に存在する既知地点ごとの既知地点情報を抽出する。具体的には、
図5および
図7に示すように、周辺情報抽出部22が抽出する領域は、推定地点Gから一定の距離r(たとえば3km)内にある円領域(半径3kmの円内)である。しかしながら、周辺情報抽出部22は、たとえば、推定地点Gからの距離が短い順に、特定(一定)の個数の既知地点の既知地点情報を抽出してもよい。
【0058】
2-5.周辺沈下パラメータ算出部23
周辺沈下パラメータ算出部23は、
図6に示す周辺情報抽出部22で抽出した既知地点T1、T7、T8、…ごとの既知地点情報を、第1学習部11に入力し、
図6に示す既知地点T1、T7、ごとの沈下パラメータの値を第1学習部11に算出させるものである。第1学習部11は、上述した如く、任意の地点の地盤情報から、その任意の地点の沈下パラメータの値の算出が学習されているので、既知地点T1、T7、T8、…ごとの沈下パラメータの値を精度良く算出することができる。
【0059】
なお、ここで、地域情報格納部12において、抽出された既知地点に、実際の沈下パラメータの値が既に格納されている場合には、周辺沈下パラメータ算出部23は、この既知地点における沈下パラメータの値の算出を行わなくてもよい。また、別の態様としては、このように、演算によらない実際の沈下パラメータの値が既に格納されている場合であっても、周辺沈下パラメータ算出部23は、この既知地点における沈下パラメータの値の算出を行い、算出した沈下パラメータの値と実際の沈下パラメータの値との差分または比率から、他の既知地点において算出した沈下パラメータの値を補正してもよい。
【0060】
2-6.沈下パラメータ推定部24
沈下パラメータ推定部24は、
図7に示すように、周辺沈下パラメータ算出部23で算出した既知地点T1、T7、T8、…ごとの沈下パラメータに基づいて、推定地点Gの沈下パラメータの値を算出する。ここで、推定地点Gの沈下パラメータの値を、たとえば、算出した既知地点T1、T7、T8、…ごとの沈下パラメータの平均値により算出してもよい。
【0061】
しかしながら、本実施形態では、周辺沈下パラメータ算出部23で算出した既知地点T1、T7、T8、…ごとの沈下パラメータの値と、推定地点Gからの抽出した既知地点ごとの距離L1、L7、L8…に基づいて、推定地点Gの沈下パラメータの値を算出する。これにより、推定地点Gの沈下パラメータの値は、既知地点T1、T7、T8、…ごとの沈下パラメータの値と、推定地点Gからの抽出した既知地点T1、T7、T8、…ごとの距離L1、L7、L8…が大きく影響するので、これらの値を用いることで、推定地点Gの沈下パラメータの値の精度を高めることができる。
【0062】
より具体的には、本実施形態では、沈下パラメータ推定部24は、推定地点からの抽出した既知地点ごとの距離が大きくなるに従って、推定地点Gの沈下パラメータの値が小さくなるように、沈下パラメータの値を補正した後、これらの値の平均値を、推定地点Gの沈下パラメータの値と推定する。これにより、推定地点Gからより近い既知地点の沈下パラメータの値を、推定地点Gの沈下パラメータの値に反映することができる。このような算出を以下に示す数1に基づいて行ってもよい。
【0063】
【0064】
ここで、DGは、推定地点の沈下パラメータの値であり、Dkは、抽出した各既知地点の沈下パラメータの値であり、Lkは、推定地点からの抽出した既知地点ごとの距離であり、rは、推定地点からの既知地点を抽出する距離であり、Nは、抽出した既知地点の個数である。なお、αは、補正係数であり、この補正係数は、たとえば、数1で算出した推定地点の沈下パラメータの値が、推定地点における実際の沈下パラメータの値に、一致するように設定される定数である。但し、この式には、周辺情報抽出部22で抽出されていない既知地点のDkは含まれず、抽出されていない既知地点は、Nの個数にはカウントされない。
従って、この数1を、
図7に示す場合に適用すると、以下の数2のようになる。
【0065】
【0066】
なお、ここで、地域情報格納部12において、抽出された既知地点のいくつかに、実際の沈下パラメータの値が既に格納されている場合には、沈下パラメータ推定部24は、推定地点の沈下パラメータの値の算出に、実際の沈下パラメータを用いてもよい。
【0067】
3.地盤沈下予測システム1を用いた地盤沈下予測方法について
以下に、
図8を参照して、本実施形態に係る地盤沈下予測システム1を用いた地盤沈下予測方法を説明する。まず、ステップS1では、第1学習部11により、学習用地盤情報と学習用沈下パラメータの値を用いて機械学習を行う。これにより、地盤情報から沈下パラメータの値を出力するニューラルネットワーク11’のモデルが構築される。
【0068】
次に、ステップS2で、地域情報格納部12に所定の地域の地図データと、地図データの地図上の複数の既知地点T1、T2、…における既知地点情報とを格納する。なお、ステップS1とステップS2の順序は問わず、メインサーバ10で実行される。次に、ステップS3で、携帯端末20のアプリケーションを起動し、メインサーバ10に格納された地図データの地
図Mを、既知地点T1、T2、…とともに表示する。
【0069】
次に、ステップS4では、操作者が、携帯端末20に表示された地
図M上に推定地点Gの位置情報を入力する。これにより、推定地点設定部21が、地図データに推定地点Gの位置情報を紐付けることで、地
図M上の推定地点Gを設定する。次に、ステップS5では、周辺情報抽出部22が、推定地点Gの周辺に存在する既知地点T1、T7、T8、…ごとの既知地点情報(周辺情報)を抽出する。
【0070】
次に、ステップS6では、周辺沈下パラメータ算出部23は、携帯端末20からネットワークを介して各既知地点T1、T7、T8、…ごとの地盤情報をメインサーバ10の演算装置10Aに送信し、メインサーバ10内の第1学習部11で各既知地点T1、T7、T8、…ごとの沈下パラメータの値D1、D7、D8、…を算出する。第1学習部11は、算出した結果を、ネットワークを介して携帯端末20の演算装置20Aに送信し、この結果が沈下パラメータ推定部24に入力される。
【0071】
次に、ステップS7では、沈下パラメータ推定部24が、推定地点Gからの抽出した既知地点ごとの距離L1、L7、L8…を算出する。ステップS8では、沈下パラメータ推定部24が、既知地点T1、T7、T8、…ごとの沈下パラメータの値D1、D7、D8、…と、推定地点Gから抽出した既知地点までの距離L1、L7、L8…に基づいて、推定地点Gの沈下パラメータの値を算出する。最後に、ステップS9で、推定地点Gの沈下パラメータの値を、携帯端末20の表示・入力部20Bに入力し、この結果が表示される。
【0072】
本実施形態では、実際に沈下の発生した建設地点における学習用地盤情報と、実際に沈下した既設建物の沈下量に基づいて設定された学習用沈下パラメータの値と、を教師データとして学習するので、第1学習部11は、任意の地点での沈下パラメータの値の算出を精度良く学習することができる。推定地点Gでは、その周辺の既知地点の沈下パラメータの値を用いて、推定地点Gの沈下パラメータの値を算出するので、推定地点Gの地盤情報が無くても、推定地点Gの沈下のし易さの程度を精度良く予測することができる。
【0073】
〔第2実施形態〕
以下に、本発明の第2実施形態に係る地盤沈下予測システム1を、
図9~
図13を参照しながら説明する。第2実施形態に係る地盤沈下予測システム1が、第1実施形態のものと相違する点は、(1)
図9に示すように、沈下推定学習部13を新たに設け、これを用いて沈下パラメータ推定部24で、沈下パラメータを算出した点と、(2)試験実施判定部25を新たに設けた点と、(3)第1学習部の学習に所定の地域の既知地点情報を教師データとして用いて補正した(再学習させた)点とである。したがって、第1実施形態と同じ構成については、その詳細な説明を省略し、相違する構成を以下に説明する。
【0074】
沈下推定学習部13(以下「第2学習部13」という)は、任意の地点の周辺に存在する複数の周辺地点の沈下パラメータの値と、任意の地点に対する前記周辺地点ごとの相対的な位置情報とから、任意の地点の沈下パラメータの値の算出を機械学習により学習したものである。
【0075】
第2学習部13の教師データは、たとえば、
図10に示すように、複数の既設建物の建設地点W1~W37から選定した選定地点の学習用沈下パラメータの値と、選定地点から所定の範囲内の複数の周辺の建設地点の学習用沈下パラメータの値と、選定地点に対する周辺の建設地点ごとの相対的な位置情報を特定した学習用位置情報とを、1組の教師データ(1つのデータ群)とし、異なる選定地点ごとに得られる複数のデータ群である。
【0076】
たとえば、
図10では、所定の地域の地
図M2上の建設地点W1を選定地点に選定する。選定した建設地点W1に対して、建設地点W1から所定の範囲R1(たとえば距離r)内の周辺の建設地点W6、W7、W9、…を抽出する。そして、建設地点W1の沈下パラメータの値と、周辺の建設地点W6、W7、W9、…ごとの沈下パラメータの値とを、学習用沈下パラメータの値として用いる。建設地点(選定地点)W1に対する周辺の建設地点W6、W7、W9、…の相対位置を特定した学習用位置情報として用いる。なお、周辺の建設地点W6、W7、W9、…の学習用位置情報は、選定地点を原点とした直交座標系の座標であってもよく、極座標系の座標であってもよい。なお、第2学習部の学習で利用される建設地点に、第1学習部の学習で利用される建設地点が含まれていてもよい。
【0077】
これらを1組の教師データとして、
図11に示すように、周辺の建設地点W6、W7、W9、…ごとの学習用沈下パラメータの値と、周辺の建設地点W6、W7、W9、…の学習用位置情報とを、ニューラルネットワーク13’に入力し、この出力値が、建設地点W1の学習用沈下パラメータの値に収束するように、沈下パラメータの値の算出を機械学習により学習する。このような学習を、他の複数の建設地点(例えば
図10のW4、W36等)に対しても選定地点に選定することにより、教師データを抽出し、この教師データを用いて、沈下パラメータの値の算出を機械学習により学習する。
【0078】
なお、第2学習部13のニューラルネットワーク13’も、第1学習部11のニューラルネットワーク11’と同様に、入力層13A、中間層13B~13D、および出力層13Eを備えている。これらの層は、ニューロン素子13a~13eで構成されており、ニューロンパラメータの値に乗算される重み付け係数を繰り返し補正することにより、機械学習を行う。
【0079】
ここで、たとえば、各建設地点W1~W34において教師データに用いる沈下パラメータの値は、第1学習部11により算出される各建設地点の沈下パラメータの値であってもよく、各地点の実際の沈下パラメータの値であってもよい。ここで、教師データのうち、実際の沈下パラメータの値が格納された建設地点を、選定地点とすることが好ましい。これにより、実際の沈下パラメータの値に収束するように、第2学習部13の機械学習が行われるので、より精度の高い沈下パラメータの値を算出することができる。
【0080】
さらに、本実施形態では、第2学習部13は、選定した建設地点W1に対して、建設地点W1から所定の範囲R1内に存在する7個の建設地点W6、W7、W9、…を抽出して学習したが、他の建設地点を選択したり、所定の範囲の大きさを変更したりすることで、この周辺の建設地点が、他の複数の個数(7個以外の個数)に対して、同様の学習を行ってもよい。これにより、周辺情報抽出部22で抽出された既知地点の個数に合わせて、後述する第2学習部13で推定地点Gの沈下パラメータの値をより正確に算出することができる。
【0081】
ここで、第2学習部13は、教師データとして、地域情報格納部12で格納された所定の地域内の既知地点T1~T33ごとの位置情報と、第1学習部11に算出された既知地点T1~T33ごとの沈下パラメータの値とを用いて機械学習したものであってもよい。これにより、第2学習部13は、推定地点Gを含む所定の地域において、沈下パラメータの値の算出を学習するので、推定地点Gの沈下パラメータの値の精度を高めることができる。
【0082】
本実施形態では、
図12に示すように、沈下パラメータ推定部24は、周辺沈下パラメータ算出部23で算出した既知地点T1、T7、T8、…ごとの沈下パラメータの値D1、D7、T8、…と、推定地点に対する既知地点ごとの相対的な位置情報(X1,Y1)、(X7,Y7)、(X8,Y8)、…とを、第2学習部13に入力し、第2学習部13に推定地点Gの沈下パラメータの値を算出させる。
【0083】
ここで、
図12に示すように、既知地点T1、T7、T8、…ごとの位置情報は、推定地点Gを原点(0,0)とした直交系座標における座標であってもよく、推定地点Gを原点とした極座標系における座標であってもよい。
【0084】
第2学習部13では、選定した建設地点W1に対して、建設地点W1から所定の範囲R1内に存在する建設地点W6、W7、W9、…の個数に応じて生成されたニューラルネットワークのモデルを選択し、このモデルを用いて、推定地点の沈下パラメータの値を算出する。
【0085】
試験実施判定部25は、周辺情報抽出部22で抽出した既知地点の数と、沈下パラメータ推定部24で算出した沈下パラメータの値とから、推定地点のボーリング試験および標準貫入試験の実施の要否を判定する。具体的には、周辺情報抽出部22で抽出した既知地点の数が、所定の数よりも少ない(たとえば、6カ所より少ない)場合には、抽出した点が少ないため、試験実施判定部25は、推定地点Gのボーリング試験および標準貫入試験の実施を要と判定する。
【0086】
一方、周辺情報抽出部22で抽出した既知地点の数が、所定の数以上(たとえば、6カ所以上)である場合には、抽出した点が十分であるため、試験実施判定部25は、推定地点Gのボーリング試験および標準貫入試験の実施を否と判定する。たとえば、本実施形態では、既知地点の数が7カ所であるので、試験の実施を否と判定する。
【0087】
さらに、試験の実施を否と判定した場合であっても、沈下パラメータ推定部24で算出した沈下パラメータの値が、所定の値を超えている(たとえば30を超えている)場合には、地盤沈下の可能性が高いため、試験実施判定部25は、推定地点Gのボーリング試験および標準貫入試験の実施を要と判定する。一方、沈下パラメータ推定部24で算出した沈下パラメータの値が、所定の値以下(たとえば30以下)である場合には、地盤沈下の可能性が低いため、試験実施判定部25は、推定地点Gのボーリング試験および標準貫入試験の実施を否と判定する。
【0088】
このように、周辺情報抽出部22で抽出した既知地点の数が、所定の数よりも少ない場合、または、沈下パラメータ推定部24で算出した沈下パラメータの値が、所定の値を超えている場合に、試験実施判定部25は、推定地点Gのボーリング試験および標準貫入試験の実施を要と判定する。これにより、推定地点Gでの地盤沈下の可能性を、より的確に予測することができる。
【0089】
以下に、
図13を参照して、本実施形態に係る地盤沈下予測システム1を用いた地盤沈下予測方法を説明する。ステップS1、S2では、
図8に示すステップS1、S2と同様のことを行う。本実施形態では、ステップS21において、S1で機械学習を行った第1学習部11に対して、ステップS2で格納した既知地点のデータのうち、実際に地盤沈下が発生した既知地点に対して、その地盤情報と沈下パラメータとを教師データとし、第1学習部11による学習を再度行う。これにより、ステップS1で生成したモデルが補正され、その所定の地域の地盤沈下の傾向を、第1学習部11に再学習させることができる。
【0090】
ステップS3~ステップS6では、
図8に示すステップS3~ステップS6と同様のことを行う。次に、ステップS61では、沈下パラメータ推定部24は、
図12に示すように、既知地点の座標を算出する。
【0091】
ステップS81では、沈下パラメータ推定部24は、携帯端末20からネットワークを介して、各既知地点T1、T7、T8、…ごとの位置情報(X1,Y1)、(X7,Y7)、(X8,Y8)、…と、これに紐付けられた沈下パラメータの値D1、D7、D8、…と、をメインサーバ10の演算装置10Aに送信する。メインサーバ10内の第2学習部13では、推定地点Gの沈下パラメータの値を算出する。第2学習部13は、算出した結果を、ネットワークを介して携帯端末20の演算装置20Aに送信し、この結果が試験実施判定部25に入力される。
【0092】
次に、ステップS82では、試験実施判定部25が、抽出した既知地点の数と、算出した推定地点Gの沈下パラメータの値とから、推定地点Gのボーリング試験および標準貫入試験の実施の要否を判定する。最後に、ステップS9では、推定地点Gの沈下パラメータの値と試験実施の要否の結果を、携帯端末20の表示・入力部20Bに入力し、この結果が表示される。
【0093】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0094】
第2実施形態では、試験実施判定部は、抽出した既知地点の数と、算出した推定地点の沈下パラメータの値とから、推定地点のボーリング試験および標準貫入試験の実施の要否を判定した。たとえば、試験実施判定部は、推定地点から抽出した既知地点までの距離の平均値、抽出した既知地点の数、または算出した推定地点の沈下パラメータの値から選択される1つ以上を用いて、推定地点のボーリング試験および標準貫入試験の実施の要否を判定してもよい。さらに、第1学習部を用いて、所定の地域における地図データに紐付けた沈下パラメータの値を示すマップを作成してもよい。
【符号の説明】
【0095】
1:地盤沈下予測システム、10:メインサーバ、20:携帯端末、11:沈下パラメータ学習部(第1学習部)、12:地域情報格納部、13:沈下推定学習部(第2学習部)、21:推定地点設定部、22:周辺情報抽出部、23:周辺沈下パラメータ算出部、24:沈下パラメータ推定部、25:試験実施判定部、G:推定地点、T1~T33:既知地点