(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】含フッ素エラストマー用架橋促進剤、及び、含フッ素エラストマー架橋用組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 27/12 20060101AFI20230317BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20230317BHJP
C08K 5/34 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K5/13
C08K5/34
(21)【出願番号】P 2019145462
(22)【出願日】2019-08-07
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】前田 真宏
(72)【発明者】
【氏名】池田 昭彦
【審査官】長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-203361(JP,A)
【文献】国際公開第98/007784(WO,A1)
【文献】特開2012-072249(JP,A)
【文献】特開2018-177991(JP,A)
【文献】特開2017-095592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00-27/24
C08K 5/00- 5/59
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール系架橋剤により含フッ素エラストマーを架橋する際に用いられる含フッ素エラストマー架橋用架橋促進剤であって、
1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7の下記一般式(1)で表されるジカルボン酸によるジカルボン酸塩を含み、
HOOC-R-COOH ・・・ 一般式(1)
(上記一般式(1)中、Rは直接結合または-(CH
2)
n-を表し、nは6以下の自然数を表す。)
pHが7未満である、含フッ素エラストマー用架橋促進剤。
【請求項2】
含フッ素エラストマーと、
ポリオール系架橋剤と、
1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7の下記一般式(1)で表されるジカルボン酸によるジカルボン酸塩を含み、pHが7未満である架橋促進剤と、
HOOC-R-COOH ・・・ 一般式(1)
(上記一般式(1)中、Rは直接結合または-(CH
2)
n-を表し、nは6以下の自然数を表す。)
を含み、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7の前記ジカルボン酸塩が、前記含フッ素エラストマー100質量部に対して0.01~0.2質量部の範囲内である、含フッ素エラストマー架橋用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エラストマー用架橋促進剤、及び、含フッ素エラストマー架橋用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性と耐熱化学安定性、さらには耐薬品性や、耐燃料油性などを兼備する性能が求められる分野(例えば自動車部品用途、一般産業機械用途、半導体用途の他、化学プラント向けなどのOリングやオイルシール、パッキン、ガスケットなど)では、様々なタイプの含フッ素エラストマーが用いられている。
【0003】
含フッ素エラストマーは、汎用エラストマーと比較して高価格であるため、その適用分野は限られていたが、昨今、特に自動車産業において環境的側面から燃料封止性や耐熱性、化学安定性などの各種特性について、部品に対する要求が高くなり、含フッ素エラストマー製品の適用が増えてきている。
【0004】
含フッ素エラストマーの架橋(加硫)において用いられる架橋(加硫)促進剤として、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(1,8-Diaza-bicyclo(5,4,0)undecene-7。一般に「DBU(登録商標)」と称されることが多い。以下、単に「ジアザビシクロウンデセン」という場合がある。) は優れた架橋促進性能を示す(特許文献1)。しかし、ジアザビシクロウンデセンを使用して得られた含フッ素エラストマーの架橋物(加硫物)は、圧縮永久歪が低下する傾向にある。
【0005】
また、ジアザビシクロウンデセンとベンジルクロライド(塩化ベンジル)との塩を架橋促進剤(加硫促進剤)として用いることによって、優れた架橋促進性能を示す事例も報告されている(特許文献2)。しかし、これらを使用した場合も圧縮永久歪が低下する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭48-55231号公報
【文献】特開2010-24339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ジアザビシクロウンデセンの高い架橋促進性能を保持しつつ、優れた圧縮永久歪特性を有する成形物を得ることを可能とする含フッ素エラストマー用架橋促進剤、及び、含フッ素エラストマー架橋用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る含フッ素エラストマー用架橋促進剤は、ポリオール系架橋剤により含フッ素エラストマーを架橋する際に用いられる含フッ素エラストマー架橋用架橋促進剤であって、
1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7の下記一般式(1)で表されるジカルボン酸によるジカルボン酸塩を含み、
HOOC-R-COOH ・・・ 一般式(1)
(上記一般式(1)中、Rは直接結合または-(CH2)n-を表し、nは6以下の自然数を表す。)
pHが7未満である。
【0009】
また、本発明の一態様に係る含フッ素エラストマー架橋用組成物は、含フッ素エラストマーと、
ポリオール系架橋剤と、
1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7の下記一般式(1)で表されるジカルボン酸によるジカルボン酸塩を含み、pHが7未満である架橋促進剤と、
HOOC-R-COOH ・・・ 一般式(1)
(上記一般式(1)中、Rは直接結合または-(CH2)n-を表し、nは6以下の自然数を表す。)
を含み、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7の前記ジカルボン酸塩が、前記含フッ素エラストマー100質量部に対して0.01~0.1質量部の範囲内である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ジアザビシクロウンデセンの高い架橋促進性能を保持しつつ、優れた圧縮永久歪特性を有する成形物を得ることを可能とする含フッ素エラストマー用架橋促進剤、及び、含フッ素エラストマー架橋用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の含フッ素エラストマー用架橋促進剤、及び、含フッ素エラストマー架橋用組成物について詳細に説明する。
【0012】
<含フッ素エラストマー用架橋促進剤>
本発明の含フッ素エラストマー用架橋促進剤は、ポリオール系架橋剤により含フッ素エラストマーを架橋する際に用いられる含フッ素エラストマー架橋用架橋促進剤(以下、単に「架橋促進剤」と称する場合がある。)であって、
1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(ジアザビシクロウンデセン)の下記一般式(1)で表されるジカルボン酸によるジカルボン酸塩(以下、単に「ジカルボン酸塩」と称する場合がある。)を含み、
HOOC-R-COOH ・・・ 一般式(1)
(上記一般式(1)中、Rは直接結合または-(CH2)n-を表し、nは6以下の自然数を表す。)
pHが7未満である。
【0013】
ジアザビシクロウンデセンは、含フッ素エラストマーの架橋(加硫)用の架橋(加硫)促進剤として知られており、サンアプロ社から「DBU」(登録商標)の商品名で上市されている。
【0014】
本発明において、ジアザビシクロウンデセンをジカルボン酸塩にするためのジカルボン酸は、一般式(1)で表される。
HOOC-R-COOH ・・・ 一般式(1)
(上記一般式(1)中、Rは直接結合または-(CH2)n-を表し、nは6以下の自然数を表す。)
【0015】
一般式(1)中のRとしては、直接結合または-(CH2)n-のnが5以下であることが好ましく、直接結合または-(CH2)n-のnが4以下であることがより好ましい。具体的には、例えば、シュウ酸(一般式(1)中のRが直接結合)、アジピン酸(一般式(1)中のRが-(CH2)n-でnが4)が、好ましいジカルボン酸として例示することができる。
【0016】
ジアザビシクロウンデセンをジカルボン酸によりジカルボン酸塩とする方法としては、両者を溶媒中で混合させて、40~50℃に加温した状態で、一定時間保持すればよい。反応後、真空下で乾燥させて溶媒を除去することで、目的とする液状の含フッ素エラストマー用架橋促進剤を調製することができる。
【0017】
使用可能な溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類を挙げることができる。これらの中でも、メタノール、エタノールが好ましく、更には、予め脱水しておくことが望ましい。
【0018】
ジアザビシクロウンデセンとジカルボン酸との混合液の保持温度としては、30℃~60℃の範囲としておくことが好ましく、35℃~45℃の範囲としておくことがより好ましい。また、ジアザビシクロウンデセンとジカルボン酸との混合液の保持時間としては、30分~180分の範囲としておくことが好ましく、30分~90分の範囲としておくことがより好ましい。
【0019】
ただし、保持温度を高くすれば保持時間を短くすることができ、保持温度が低い場合には保持時間を長く保てばよい。反応が十分に進行した段階で温度の保持を終了すればよく、それ以上保持時間を続ける必要はない。
【0020】
ジアザビシクロウンデセン(a)とジカルボン酸(c)との混合比率(c/a)としては、モル比率として1になるようにすれば、無駄なく(ほぼ過不足なく)両者が反応するため、これを基準とすればよいが、後述するように、含フッ素エラストマー用架橋促進剤のpHを酸性サイドにする必要があるため、使用するジカルボン酸の種類にもよるが、ジカルボン酸の量を過剰に添加することが望ましい場合がある。
【0021】
例えば、ジカルボン酸としてシュウ酸や、一般式(1)中のRが-(CH2)n-でnが4以下のものを用いた場合には、モル比率(c/a)は0.5~2の範囲が好ましく、0.6~1.6の範囲がより好ましい。
【0022】
このように、ジアザビシクロウンデセン(a)とジカルボン酸(c)との混合比率(c/a)は、含フッ素エラストマー用架橋促進剤のpHを調整する目的で適宜選択することができる。
【0023】
本発明において、含フッ素エラストマー用架橋促進剤のpHは、7未満に調整することが必要であり、4以上7未満の範囲に調整することが好ましく、5以上~6以下の範囲に調整することがより好ましい。pHが7以上であると、得られるジカルボン酸塩が吸水性を示すようになるため、好ましくない。一方、pHがあまりにも小さいと強酸として機能し、架橋促進機能が低下する場合があるため、下げ過ぎないことが好ましい。
【0024】
得られた本発明の架橋促進剤は、ジアザビシクロウンデセンのジカルボン酸塩の状態で、あるいは、後述する他の添加剤とともに、含フッ素エラストマーに添加することで用いられる。含フッ素エラストマー用架橋促進剤の添加量としては、含フッ素エラストマー100質量部に対するジカルボン酸塩の量として、0.01~0.2質量部の範囲内であることが好ましく、0.02~0.15質量部の範囲内であることがより好ましく、0.06~0.1質量部の範囲内であることがさらに好ましい。ジカルボン酸塩の量が少な過ぎると、架橋促進効果が十分に得られ難く、ジカルボン酸塩の量が多過ぎると、得られる架橋物の圧縮永久歪が低下する傾向があるため、それぞれ好ましくない。
【0025】
本発明の使用対象としての含フッ素エラストマーや、使用するポリオール系架橋剤、その他の添加剤等については、次の「含フッ素エラストマー架橋用組成物」の項の中で述べる。
【0026】
<含フッ素エラストマー架橋用組成物>
本発明の含フッ素エラストマー架橋用組成物は、含フッ素エラストマーと、ポリオール系架橋剤と、既述の本発明の架橋促進剤と、からなる。
【0027】
使用する含フッ素エラストマーとしては、特に限定されないが、例えば、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル-パーフルオロアルキルオキシアルキルビニルエーテル共重合体などが挙げられる。
【0028】
本発明の架橋促進剤は、そのまま含フッ素エラストマーに配合し、混練してもよいし、あるいは含フッ素エラストマーとのマスターバッチ分散物として使用してもよい。配合物中には、上記各成分に加えて、従来公知の充填剤乃至補強剤(カーボンブラック、シリカ、グラファイト、クレー、タルク、けいそう土、硫酸バリウム、酸化チタン、ウォラストナイト等)、可塑剤、滑剤、加工助剤、顔料等を適宜配合することもできる。
【0029】
含フッ素エラストマーは、ポリオール系架橋剤を用いた公知の方法で、硬化させることができる。使用可能なポリオール系架橋剤としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン[ビスフェノールAF]、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、4,4‘-ジヒドロ期指示フェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4‘-ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタンなど公知のポリヒドロキシ芳香族化合物、あるいは、それらのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が用いられる。これらのポリオール系架橋剤は、含フッ素工ラストマー100質量部あたり約0.5~10質量部の割合で用いることが好ましく、約1~5質量部の割合で用いることがより好ましい。
【0030】
ポリオール架橋は、受酸剤の役目をする二価金属水酸化物及び二価金属酸化物の存在下で架橋反応が行われることが好ましい。二価金属水酸化物及び二価金屈酸化物の添加量としては、含フッ素エラストマー100質量部に対して、1~15質量部の範囲とすることが好ましく、3~6質量部の範囲とすることがより好ましい。二価金属の水酸化物及び酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉛などの水酸化物及び酸化物を挙げることができる。
【0031】
以上の各成分は、ロール、ニーダー、バンバリーなどにより混練することができる。そして、混練された混合物(本発明の含フッ素エラストマー架橋用組成物)は、一般に約100~250℃で約1~60分間程度行われるプレス架橋(プレス加硫、一次加硫)によって成形され、好ましくはさらに約150~300℃で約30時間以内のオーブン架橋(オーブン加硫、二次加硫)が行われ、成形される。成形方法としては、射出成型でも可能である。
【0032】
その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の含フッ素エラストマー用架橋促進剤、及び、含フッ素エラストマー架橋用組成物を適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例】
【0033】
[架橋促進剤の合成]
<合成例l>
攪拌翼を有する窒素置換を行った1リットルガラス製容器に、溶媒として脱水済のメタノール100gと、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(DBU)15.2g(0.10mol)と、を入れ、滴下漏斗及び還流管を設置した後に、再度窒素置換した。続けて還流を行いながら40℃に加温し、攪拌を保ちながら、滴下漏斗に入れたシュウ酸9.0g(0.10mol)を脱水済のメタノール200gに溶かした液を、10g/min.の滴下速度で添加した。滴下終了後も攪拌を続け、40℃で1時間保った。その後、30℃で15時間真空乾燥し、メタノールを除去することで、ジアザビシクロウンデセン(a)に対するシュウ酸(c)のモル比率(c/a)が1(a:cで表すと1:1)の含フッ素エラストマー用架橋促進剤(ジアザビシクロウンデセンのシュウ酸塩)が得られた。このシュウ酸塩のpHは5.4であり、吸水性を示さなかった。当該シュウ酸塩の収率は92mol%であった。
【0034】
<合成例2>
攪拌翼を有する窒素置換を行った1リットルガラス製容器に、溶媒として脱水済のメタノール100gと、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(DBU)12.2g(0.08mol)と、を入れ、滴下漏斗及び還流管を設置した後に、再度窒素置換した。続けて還流を行いながら40℃に加温し、攪拌を保ちながら、滴下漏斗に入れたシュウ酸10.8g(0.11mol)を脱水済のメタノール200gに溶かした液を、10g/min.の滴下速度で添加した。滴下終了後も攪拌を続け、40℃で1時間保った。その後、30℃で15時間真空乾燥し、メタノールを除去することで、ジアザビシクロウンデセン(a)に対するシュウ酸(c)のモル比率(c/a)が1.5(a:cで表すと2:3)の含フッ素エラストマー用架橋促進剤(ジアザビシクロウンデセンのシュウ酸塩)が得られた。このシュウ酸塩のpHは4.3であり、吸水性を示さなかった。当該シュウ酸塩の収率は94mol%であった。
【0035】
<合成例3>
攪拌翼を有する窒素置換を行った1リットルガラス製容器に、溶媒として脱水済のメタノール100gと、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(DBU)18.2g(0.12mol)と、を入れ、滴下漏斗及び還流管を設置した後に、再度窒素置換した。続けて還流を行いながら 40℃に加温し、攪拌を保ちながら、滴下漏斗に入れたシュウ酸7.2g(0.08mol)を脱水済のメタノール150gに溶かした液を、10g/min.の滴下速度で添加した。滴下終了後も攪拌を続け、40℃で1時間保った。その後、30℃で15時間真空乾燥し、メタノールを除去することで、ジアザビシクロウンデセン(a)に対するシュウ酸(c)のモル比率(c/a)が0.67(a:cで表すと3:2)の含フッ素エラストマー用架橋促進剤(ジアザビシクロウンデセンのシュウ酸塩)が得られた。このシュウ酸塩のpHは9.8の液体であり、吸水性を示した。当該シュウ酸塩の収率は87mol%であった。
【0036】
<合成例4>
攪拌粟を有する窒素置換を行った1リットルガラス製容器に、溶媒として脱水済のメタノール100gと、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(DBU)l5. 2g(0.10mol)と、を入れ、滴下漏斗及び還流管を設置した後に、再度窒素置換した。続けて還流を行いながら 40℃に加温し、攪拌を保ちながら、滴下漏斗に入れたアジピン酸16.lg(0.10mol)を脱水済のメタノール400gに溶かした液を、10g/min.の滴下速度で添加した。滴下終了後も攪拌を続け、40℃で1時間保った。その後、30℃で15時間真空乾燥し、メタノールを除去することで、ジアザビシクロウンデセン(a)に対するアジピン酸(c)のモル比率(c/a)が1(a:cで表すと1:1)の含フッ素エラストマー用架橋促進剤(ジアザビシクロウンデセンのアジピン酸塩)が得られた。このアジピン酸塩のpHは5.9であり吸水性を示さなかった。当該アジピン酸塩の収率は92mol%であった。
【0037】
<合成例5>
攪拌翼を有する窒素置換を行った1リットルガラス製容器に、溶媒として脱水済のメタノール100gと、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(DBU)15.2g(0.10mol)と、を入れ、滴下漏斗及び還流管を設置した後に、再度窒素置換した。続けて還流を行いながら40℃に加温し、攪拌を保ちながら、滴下漏斗に入れた塩化ベンジル12.7g(0.10mol)を脱水済のメタノール200gに溶かした液を、10g/min.の滴下速度で添加した。滴下終了後も攪拌を続け、40℃で1時間保った。その後、30℃で15時間真空乾燥し、メタノールを除去することで、含フッ素エラストマー用架橋促進剤(ジアザビシクロウンデセンの塩化ベンジル塩、比較用)が得られた。この塩化ベンジル塩のpHは9.9であり、吸水性を示した。当該塩化ベンジル塩の収率は93mol%であった。
【0038】
<合成例6>
1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(DBU)そのものを合成例6の含フッ素エラストマー用架橋促進剤(比較用)とした。
【0039】
[架橋促進剤の吸水性試験]
得られた合成例1~7において合成した架橋促進剤について、吸水性を確認する試験を行った。試験方法は、23℃、相対湿度50%の環境条件下で各合成例の架橋促進剤約1.00gを静置し、静置時間と重量変化を観察する事で吸水性を確認した。結果を下記表1に示す。
【0040】
【0041】
上記表1中、試薬Aとは、ジアザビシクロウンデセン-オルトフタル酸塩であり、サンアプロ社製のU-CAT SA102を使用した。試薬Aにおいて、ジアザビシクロウンデセン(a)に対するオルトフタル酸(op)のモル比率(op/a)は、1(a:opで表すと1:1)である。
【0042】
また、上記表1中、試薬Bとは、ジアザビシクロウンデセン-オクチル酸塩であり、サンアプロ社製のU-CAT SA810を使用した。試薬Bにおいて、ジアザビシクロウンデセン(a)に対するオクチル酸(ot)のモル比率(ot/a)は、1(a:otで表すと1:1)である。
【0043】
上記表1中の数値は試験開始時のジカルボン酸塩(またはカルボン酸塩)の重量を100とした時の重量増加分で、吸水量に相当する。表1をみればわかる通り、架橋促進剤の水溶液液性が塩基性のものは吸水性を持ち、液性が酸性のものは吸水性を持たない結果となった。ポリオール架橋は水により促進されるため、架橋促淮剤の吸水はポリオール架橋の架橋速度の調整を困難にし、更にはスコーチの原因となることから、架橋促淮剤には吸水性が低いこと、さらには吸水性が無いことが好ましい。
【0044】
[含フッ素エラストマー架橋用組成物の製造]
上記合成例1~8の架橋促進剤を用い、下記表2に示す配合でそれぞれ混合して、実施例1~5及び比較例1~17の含フッ素エラストマー架橋用組成物を製造し、これを架橋させて、その架橋促進性能や、得られた架橋物の圧縮永久歪等について、比較試験を行った。
【0045】
【0046】
試験に用いた含フッ素エラストマーは、以下の通りである。
・含フッ素エラストマーA:フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体エラストマー(共重合mol比=80/20)、ムーニー粘度=45
・含フッ素エラストマーB:フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体エラストマー(共重合mol比=75/25)、ムーニー粘度=35
・含フッ素エラストマーC:フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体エラストマー(共重合mol比=75/10/15)、ムーニー粘度=20
これら含フッ素エラストマーのムーニー粘度は、JIS K 6300-1に準拠(ML1+10、121℃)して、測定した。
【0047】
具体的には、まず、上記表2に示す配合でそれぞれ混合し、ロールミルを用いて30分間混練した。その後、一次架橋として180℃で10分間の条件でプレス架橋を行い、次いで、二次架橋として230℃で22時間の条件でオーブン架橋を行って、それぞれの架橋物を得た。
【0048】
なお、これら架橋反応とは別に、可動式ダイレオメータ(モンサント社製MDR2000型)を用い、180℃の温度条件において、tc10(min.)及びtc90(min.)を測定することで、それぞれの実施例及び比較例の組成物について、架橋速度を求めた。
【0049】
ここで、tc10(min.)、tc90(min.)は、以下の通り定義される。即ち、加硫トルクを縦軸、時間を横軸に取って加硫曲線を描く。試験中の最大加硫トルクをMH(10)とし、最小トルクをMLとした時、MHを通り横軸に平行な直線とMLを通り横軸に平行な直線の間の距離をMEとし、ML+10%MEを通る横軸に平行な直線と加硫曲線の交点が示す時間がtc10(min.)であり、ML+90%MEを通る横軸に平行な直線と加硫曲線の交点が示す時間がtc90(min.)である。
【0050】
得られた実施例及び比較例の各架橋物について、圧縮永久歪を測定した、圧縮永久歪の測定用の架橋物は、Oリング形状(JIS B 2401 P、P-24)に成形した。ぞれぞれの架橋物を200℃で70時間圧縮し、ASTM D395 Method Bに準拠して測定した。
各実施例及び比較例の架橋速度及び圧縮永久歪の測定結果を下記表3にまとめて示す。なお、当該表3には、用いた架橋促進剤(ジアザビシクロウンデセンのカルボン酸塩の吸水性の結果も併せて示している。
【0051】
【0052】
上記表3を見ればわかるように、本発明の含フッ素エラストマー架橋用組成物によれば、本発明の含フッ素エラストマー用架橋促進剤による架橋促進性の効果が発揮されて、架橋速度が速く、また、圧縮永久歪性にも優れている。さらに、本発明の含フッ素エラストマー用架橋促進剤によれば、吸水性を示さないため、架橋速度の調整を容易にし、更にはスコーチを引き起こしにくい。