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特許7246323S2又はS2’ポケット中の突然変異を有するサブチリシンバリアント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】S2又はS2’ポケット中の突然変異を有するサブチリシンバリアント
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/56 20060101AFI20230317BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230317BHJP
   C12P 21/04 20060101ALI20230317BHJP
   C12N 15/57 20060101ALN20230317BHJP
【FI】
C12N9/56 ZNA
C12P21/02 C
C12P21/04
C12N15/57
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019563434
(86)(22)【出願日】2018-05-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 NL2018050332
(87)【国際公開番号】W WO2018212658
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】17171981.8
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517123829
【氏名又は名称】エンザイペプ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】トプラク, アナ
(72)【発明者】
【氏名】ナエヘンズ, ティモ
(72)【発明者】
【氏名】クワートフリーク, ピーター ジャン レオナード マリオ
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/056913(WO,A1)
【文献】国際公開第96/027671(WO,A1)
【文献】特表2013-506022(JP,A)
【文献】特開2017-079756(JP,A)
【文献】Toplak Ana et al.,Peptiligase, an Enzyme for Efficient Chemoenzymatic Peptide Synthesis and Cyclization in Water.,Advanced Synthesis & Catalysis,2016年,358(13),2140-2147
【文献】CHANG T K et al.,Subtiligase: A tool for semisynthesis of proteins.,PNAS,1994年,91(26),12544-12548
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00 - 9/99
15/00 - 15/90
C12P 1/00 - 41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブチリシンBPN’バリアント又はそのホモログである酵素であって、
該サブチリシンBPN’バリアントは、配列番号2により表されるサブチリシンBPN’と比較した以下の突然変異:
- 75~83位に対応するアミノ酸の欠失;
- S221に対応するアミノ酸位置における突然変異であって、前記突然変異は、S221C又はS221セレノシステインに対応する突然変異;
- F189W、F189Y、S33D、S33T、N218D、N218T、N62D、N62S、N62W、及びN62Yからなる群から選択される少なくとも1つの突然変異;及び
- P225N、P225D、P225S、P225C、P225G、P225A、P225T、P225V、P225I、P225L、P225H、及びP225Qからなる群から選択される少なくとも1つの突然変異;
からなる突然変異が導入されたものであり、
前記酵素は、前記配列番号2により表されるサブチリシンBPN’に対して500倍以上高い合成対加水分解の比を有し、
前記ホモログは、前記サブチリシンBPN’バリアントと少なくとも90%の配列同一性を有し、かつ、配列番号2により表されるサブチリシンBPN’と比較した前記突然変異を全て含み、
前記アミノ酸位置は、配列番号2により表されるサブチリシンBPN’の配列に従って定義される酵素。
【請求項2】
F189W又はF189Yに対応する前記酵素のS2’ポケット中の突然変異を含む、請求項1に記載の酵素。
【請求項3】
N218に対応する前記アミノ酸位置におけるアミノ酸が、N、D、又はTである、請求項2に記載の酵素。
【請求項4】
N218D又はN218Tに対応する前記酵素のS2’ポケット中の突然変異を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項5】
S33D又はS33Tに対応する前記酵素のS2ポケット中の突然変異を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項6】
S33Dに対応する前記酵素のS2ポケット中の突然変異を含み、N62Sに対応するS2’ポケット中の突然変異をさらに含む、請求項5に記載の酵素。
【請求項7】
S33Tに対応する前記酵素のS2ポケット中の突然変異を含み、N62W又はN62Vに対応するS2’ポケット中の突然変異をさらに含む、請求項5に記載の酵素。
【請求項8】
M222P、Y217H、P225N、F189W、N218D及びI107Vに対応する突然変異をさらに含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項9】
N62D、N62S、N62Y又はN62Wに対応する前記酵素のS2ポケット中の突然変異を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項10】
F189、N218、S33及びN62に対応する位置の群から選択される少なくとも2つの位置が突然変異を含み、
F189に対応する前記位置における前記突然変異が、F189Y又はF189Wに対応し;
N218に対応する前記位置における前記突然変異が、N218D又はN218Tに対応し;
S33に対応する前記位置における前記突然変異が、S33D又はS33Tに対応し;
N62に対応する前記位置における前記突然変異が、N62D、N62S、N62W又はN62Yに対応する、請求項1~9のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項11】
F189、N218、S33及びN62に対応する位置の群から選択される4つ全ての位置が突然変異を含み、
F189に対応する前記位置における前記突然変異が、F189Y又はF189Wに対応し;
N218に対応する前記位置における前記突然変異が、N218D又はN218Tに対応し;
S33に対応する前記位置における前記突然変異が、S33D又はS33Tに対応し;
N62に対応する前記位置における前記突然変異が、N62D、N62S、N62W又はN62Yに対応する、請求項10に記載の酵素。
【請求項12】
P225N、P225D、P225S、P225C、P225G、P225A又はP225Tに対応する突然変異を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項13】
配列番号2のQ2、S3、P5、S9、I31、K43、M50、A73、E156、G166、G169、S188、Q206、N212、T254及びQ271に対応するアミノ酸位置における突然変異の群から選択される1~16個の突然変異を含み、前記突然変異の1つ以上が、Q2K、S3C、P5S、S9A、I31L、K43N、M50F、A73L、E156S、G166S、G169A、S188P、Q206C、N212G、T254A及びQ271Eの群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項14】
ペプチドを酵素的に合成する方法であって、(a)ペプチドC末端エステル又はチオエステル及び(b)N末端無保護アミンを有するペプチド求核剤をカップリングさせることを含み、
水を含む流体中で前記カップリングを実施し、
請求項1~13のいずれか一項に記載の酵素により前記カップリングを触媒する方法。
【請求項15】
前記ペプチドC末端エステル若しくはチオエステル又は前記ペプチド求核剤が、タンパク質である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質が、抗体、抗体断片、ペプチドベース受容体リガンド、アルブミン、ビオチン、成長因子、ホルモン及びナノボディの群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ペプチドC末端エステル若しくはチオエステル、前記ペプチド求核剤、又はその両方が、2~100個のアミノ酸単位を有するペプチド鎖を含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ペプチドC末端エステル若しくはチオエステルが、ペプチドC末端エステル若しくはチオエステルと、ポリアルキレングリコール、脂肪酸及びポリシアル酸の群から選択される部分とのコンジュゲートであり、並びに/又は前記ペプチド求核剤が、ペプチド求核剤と、ポリアルキレングリコール、脂肪酸及びポリシアル酸の群から選択される部分とのコンジュゲートである、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも12個のアミノ酸の環式ペプチドを酵素的に合成する方法であって、N末端無保護アミンを有するペプチドC末端エステル又はチオエステルを環化ステップに供することを含み、水を含む流体中で前記環化を実施し、
請求項1~13のいずれか一項に記載の酵素により前記環化を触媒する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブチリシンBPN’バリアント又はそのホモログである酵素に関する。本発明はさらに、前記酵素を使用する、ペプチドを酵素的に合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドは、多くの用途、例えば、医薬、食料若しくは飼料成分、又は化粧品成分としての用途を有する。
【0003】
ペプチドを合成する方法は、一般に、当分野において公知である。オリゴペプチドは、高度に最適化された方法を介して溶液中で又は固相上で段階的に化学的に合成することができる。しかしながら、10~15個のアミノ酸よりも長いペプチドは、副反応に起因して合成が極めて困難であることが多く、結果として精製が煩雑である。したがって、10個のアミノ酸よりも長いペプチドは側鎖保護オリゴペプチド断片の固相合成の組合せにより合成されることが多く、それが続いて溶液中で、例えば、10+10縮合において化学的に縮合されて20個のアミノ酸のペプチドが作製される。化学的な側鎖保護オリゴペプチド断片縮合の主な欠点は、アシル供与体のC末端アミノ酸残基の活性化時にラセミ化が生じることである。対照的に、酵素触媒ペプチドカップリングはラセミ化を完全に欠き、化学的ペプチド合成と比べていくつかの他の利点、側鎖官能基上の副反応の不存在を有する。産業用途については、速度論的アプローチに基づく酵素的ペプチド合成概念、すなわち、アシル供与体C末端エステルの使用が最も魅力的である(例えば、N.Sewald and H.-D.Jakubke,in:“Peptides:Chemistry and Biology”,1st reprint,Ed.Wiley-VCH Verlag GmbH,Weinheim 2002参照)。
【0004】
化学-酵素的ペプチド合成は、化学的合成、発酵を使用して、又は化学及び酵素的カップリングステップの組合せにより個々に合成されたオリゴペプチド断片の酵素的カップリングを必要とし得る。水溶液中のオリゴペプチド断片の酵素的縮合に関するいくつかの報告が公開されている(Kumaran et al.Protein Science,2000,9,734;Bjoerup et al.Bioorg.Med.Chem.1998,6,891;Homandberg et al.Biochemistry,1981,21,3387;Komoriya et al.Int.J.Pep.Prot.Res.1980,16,433)。
【0005】
Wellsら(米国特許第5,403,737号明細書)により、水溶液中のオリゴペプチドの縮合は、サブチリシンBPN’、B.アミロリケファシエンス(B.amyloliquefaciens)からのサブチリシン(配列番号2)の活性部位の変更により有意に改善され得ることが見出された。2つの突然変異、すなわち、S221C及びP225Aが導入された場合、野生型サブチリシンBPN’と比較して合成対加水分解の比(S/H比)の500倍の増加を有するサブチリガーゼ(subtiligase)と呼ばれるサブチリシンBPN’バリアントが得られた。さらなる実験において、Wellsらは、サブチリガーゼに5つの追加の突然変異、すなわち、M50F、N76D、N109S、K213R及びN218Sを追加して酵素をより安定的にした(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1994,91,12544)。スタビリガーゼ(stabiligase)と呼ばれる新たな突然変異体は、ドデカ硫酸ナトリウム及びグアニジニウム塩酸塩に適度により耐性であると考えられたが、依然として加水分解が主な副反応であった。例えば、ペプチドカルボキシアミドメチル-エステル(Cam-エステル)が、スタビリガーゼを使用してペプチドアミンに44%の収率でライゲートされた。この例において、10当量のペプチドC末端エステルが使用され、したがって、9.56当量のペプチドC末端エステルがC末端エステル官能基において加水分解され、0.44当量のみがペプチドアミンにライゲートされて産物が形成された。おそらくこの理由から、本発明者らが知る限り、過去20年間、サブチリガーゼもスタビリガーゼも酵素的ペプチド合成において産業的に適用されてこなかった。
【0006】
国際公開第2016/056913号パンフレットにおいて、サブチリガーゼ又はスタビリガーゼなどの酵素が水性環境中のペプチド合成に使用される場合に直面する不所望に高い加水分解活性のための解決策が、サブチリシンBPN’バリアント又はそのホモログを提供することにより提供され、それは、配列番号2により表されるサブチリシンBPN’又はそのホモログ配列と比較した以下の突然変異:75~83位に対応するアミノ酸の欠失、S221に対応するアミノ酸位置における突然変異(この突然変異は、S221C又はS221セレノシステインである)、及び好ましくは、1つ以上のさらなる突然変異を含む。特に、前記酵素は、2つのペプチド断片の縮合により、又はペプチドの環化によりペプチドを調製する酵素法において有用であり、水性反応媒体中のサブチリシンBPN’と比較して改善された合成対加水分解(S/H)の比及び安定性を提供する。タンパク質を別のペプチドに効率的にカップリングする方法も開示される。
【0007】
断片縮合又は環化によるペプチドの酵素的合成において使用することができるさらなる酵素が必要とされ続けている。一般に、このような必要性は、特に、規定のペプチドを作製するためのツールのパレットを広げるために存在する。
【0008】
特に、ペプチドアシル供与体及びペプチド求核剤についての広い基質範囲を提供する一方、S/H比を維持し、又は改善するさらなるサブチリシンBPN’バリアント又はそのホモログを提供することが必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
目下、この必要性は、サブチリシンBPN’バリアント又はそのホモログのカップリング部位に対して2残基目のポケット中、すなわち、S2’ポケット中及び/又はS2ポケット中の1つ以上の規定の突然変異を有する酵素を提供することにより満たされることが見出された。特に、S2’ポケット中の1つ以上の規定の突然変異は、ペプチド求核剤のP2’位についてだけでなく、ペプチド求核剤のP1’位についても基質範囲を広げる。特に、S2ポケット中の1つ以上の規定の突然変異は、ペプチドアシル供与体のP2位についてだけでなく、ペプチド求核剤のP1’及びP2’位についても基質範囲を広げる。
【0010】
したがって、本発明は、サブチリシンBPN’バリアント又はそのホモログである酵素であって、配列番号2により表されるサブチリシンBPN’又はそのホモログ配列と比較した以下の突然変異:
- 75~83位に対応するアミノ酸の欠失;
- S221に対応するアミノ酸位置における突然変異(この突然変異は、S221C又はS221セレノシステインであり、好ましくは、S221Cである);
- F189W、F189Y、S33D、S33T、N218D、N218T、N218E、N62D、N62S、N62W、及びN62Y
に対応するアミノ酸位置からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる突然変異;
及び
好ましくは、P225に対応するアミノ酸位置における突然変異;
を含み、
アミノ酸位置は、配列番号2により表されるサブチリシンBPN’の配列に従って定義される酵素に関する。
【0011】
本発明による酵素は、触媒として有用である。酵素は、一般に、ペプチド結合の形成に関する触媒活性(縮合活性)を有する。特に、酵素は、リガーゼ活性又はシクラーゼ活性を有する。
【0012】
したがって、本発明はさらに、ペプチドを酵素的に合成する方法であって、(a)ペプチドC末端エステル又はチオエステル及び(b)N末端無保護アミンを有するペプチド求核剤をカップリングさせることを含み、
水を含む流体中でカップリングを実施し、本発明による酵素によりカップリングを触媒する方法に関する。
【0013】
したがって、本発明はさらに、少なくとも12個のアミノ酸の環式ペプチドを酵素的に合成する方法であって、N末端無保護アミンを有するペプチドC末端エステル又はチオエステルを環化ステップに供することを含み、水を含む流体中で前記環化を実施し、本発明による酵素により環化を触媒する方法に関する。
【0014】
本発明は、ペプチドにより拡張されたタンパク質及びペプチドコンジュゲートを含むペプチドを調製する公知の方法の有用な代替法を提供する。
【0015】
特に、本発明による酵素は、特に水を含む反応媒体、より特に水性媒体中の、典型的には1超、好ましくは、2以上、特に5以上の高いS/H比でペプチド結合の形成における触媒活性を有する。この引用の上限値は重要でなく;実際、それは、例えば、100以下、特に20以下であり得る。
【0016】
本発明は特に、(より)広い基質範囲を有する一方、特に水性反応媒体中のS/H比を少なくとも実質的に維持し、又は改善する酵素を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】BS149-DMGF及びBS149-DMGF+F189W/YのP2’基質範囲を示す。
図1B】BS149-DMPH及びBS149-DMPH+F189WのP2’基質範囲を示す。
図1C】BS149-DMPHNV及びBS149-DMPHNV+F189WのP2’基質範囲を示す。
図1D】BS149-DMPHNV及びBS149-DMPHNV+F189WのP1’基質範囲を示す。
図2】BS149-DMGFN及びBS149-DMGFN+N218D/TについてのP2’基質範囲を示す。
図3】BS149-DMPHV及びBS149-DMPHV+S33D/TについてのP2基質範囲を示す。
図4】BS149-DMPHV及びBS149-DMPHV+N62D/S/W/YについてのP2基質範囲を示す。
図5】BS149-DM PHN F189W及びBS149-DM PHN F189W+N218DについてのP2’基質範囲を示す。
図6】BS149-DMPHNWDV S33D、BS149-DMPHNWDV N62S及びBS149-DMPHNWDV S33D+N62SについてのP2基質範囲を示す。
図7】BS149-DMPHNWDV S33T、BS149-DMPHNWDV N62V/W及びBS149-DMPHNWDV S33T+N62W/VについてのP2基質範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の目的のため、「合成対加水分解の比」(S/H比)は、酵素的に合成された(オリゴ)ペプチド産物の量を、エステル又はチオエステル基が加水分解された(オリゴ)ペプチドC末端エステル又はチオエステルの量により割ったものを意味する。S/H比の決定に関するさらなる詳細については、国際公開第2016/056913号パンフレットを参照されたい。
【0019】
本発明による酵素のS/H比をサブチリシンBPN’のS/H比により割ったものは、少なくとも本実施例に記載の条件下で、通常、100超、好ましくは、250以上、より好ましくは、500以上、特に1000以上である。この引用の上限値は重要でなく;それは、ほぼ無限であり得る。
【0020】
本明細書において使用される用語「又は」は、それが特に規定されない限り、又はそれが「・・・又は・・・のいずれか」を意味する文脈に従わない限り、「及び/又は」と定義される。
【0021】
本明細書において使用される用語「a」又は「an」は、それが特に規定されない限り、又はそれが単数形のみを指すべき文脈に従わない限り、「少なくとも1つ」と定義される。
【0022】
単数形の名詞(例えば、化合物、添加剤など)に言及する場合、それが単数形のみを指すべき文脈にそれが続かない限り、その複数形が含まれることを意味する。
【0023】
本出願に関して、用語「約」は、特に所与の値からの10%以下、より特に5%以下、いっそうより特に3%以下のずれを意味する。
【0024】
用語「本質的(に)」又は「(少なくとも)実質的(に)」は、一般に、それが規定されるものの一般的特徴又は機能を有することを示すために本明細書において使用される。定量可能な特徴部に言及する場合、この用語は、特にそれがその特徴部の最大の少なくとも75%、より特に90%超、いっそうより特に98%超であることを示すために使用される。用語「本質的に有さない」は、一般に、物質が存在しない(有効出願日時に利用可能な分析的方法により達成可能な検出限界未満)、又はそれが前記物質を本質的に有さない産物の特性に有意に影響しないような少量で存在することを示すために本明細書において使用される。実際、定量的観点において、産物は、通常、物質の含有率が、それが存在する産物の総重量に対して0~0.1重量%、特に0~0.01質量%、より特に0~0.005重量%である場合、物質を本質的に有さないとみなされる。
【0025】
立体異性体が存在する化合物に言及する場合、化合物は、そのような立体異性体のいずれか又はそれらの混合物であり得る。したがって、例えば、エナンチオマーが存在するアミノ酸に言及する場合、そのアミノ酸は、L-エナンチオマー、D-エナンチオマー又はそれらの混合物であり得る。天然立体異性体が存在する場合、化合物は、好ましくは、天然立体異性体である。
【0026】
用語「pH」は、見かけのpH、すなわち、標準的な較正pH電極により計測されるpHについて本明細書において使用される。
【0027】
本発明の目的のため、「ペプチド」は、2つ以上のアミノ酸から構成される任意の鎖を意味する。したがって、ペプチドは、一般に、水の形式的損失を伴うあるもののカルボニル炭素から別のものの窒素原子への共有結合の形成により2つ以上のアミノカルボン酸分子(すなわち、アミノ酸)から少なくとも概念的に構成されるアミドである。用語「ペプチド」は、オリゴペプチド及びポリペプチドを含む。用語「ペプチド」は、通常、アルファ-アミノ酸から形成される構造に適用されるが、ペプチドは、他のアミノ酸、例えば、1つ以上のベータ-アミノ酸及び/又は1つ以上のガンマ-アミノ酸を含み得る。ペプチドは、直鎖、分枝鎖又は環状であり得る。ペプチドは、2つ以上のアミノ酸から構成される単一鎖を有し得、又はペプチドは、複数の鎖を有し得る(すなわち、キメラペプチド)。ペプチドが2つ以上の鎖から構成される場合、それぞれの鎖は、一般に、3つ以上のアミノ酸分子から構成される。
【0028】
ペプチドのアミノ酸配列は、一次構造と称される。
【0029】
一実施形態において、ペプチドは、二次構造を本質的に有さず、三次構造を本質的に有さない。
【0030】
さらなる実施形態において、ペプチドは、二次構造を有する。二次構造は、一般に、個々のアミノ酸及びペプチド骨格の間の相互作用による高度に規則的な局所下位構造、例えば、アルファ-ヘリックス及びベータ-シート(又はベータ-ストランド)である。
【0031】
一実施形態において、ペプチド(キメラペプチドであり得る)は、三次構造を有する。三次構造は、一般に、複数の相互作用、とりわけ、水素結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用、イオン相互作用及びジスルフィド結合により形成される。二次構造も三次構造に寄与し得る。三次構造は、三次元形状(安定的環境中で、例えば、温度変化の不存在下及びペプチドが存在する媒体の変化の不存在下などで本質的に固定される)を提供する。当業者が理解するとおり、三次構造は任意の固定三次元構造を欠くランダムコイルペプチド鎖と異なる。インスリン、アルブミン、抗体、ペプチドベース受容体リガンドなどのタンパク質が、三次構造を有するペプチドの例である。種々のペプチドベースホルモンも三次構造を有する。その例としては、エリスロポエチンEPO及びペプチドベース成長因子が挙げられる。
【0032】
ジスルフィド結合(ジスルフィド架橋)は、典型的には、(酸化により形成される)2つのシステイン単位間の結合である。したがって、同一ペプチド鎖(アミノ酸配列)中の2つのアミノ酸は、それらがアミノ酸配列中で隣接アミノ酸でない場合でも共有結合し得る。また、同一又は異なるアミノ酸配列を有し得る、第1のペプチド鎖の第1のシステイン及び第2のペプチド鎖の第2のシステインの間のジスルフィド結合が形成されてペプチドが形成され得る。このようなペプチドは、2つ以上のペプチド鎖を含む。異なる鎖がジスルフィド結合を介して結合している2つ以上のペプチド鎖から構成されるペプチドの一例は、インスリンである。
【0033】
一実施形態において、カップリング又は環化される(させるべき)ペプチドは、本質的にアミノ酸単位からなる。さらなる実施形態において、カップリング又は環化される(させるべき)ペプチドは、本質的にアミノ酸単位及び保護基からなる。
【0034】
一実施形態において、カップリング又は環化させるべきペプチドは、2つ以上のアミノ酸のペプチド鎖と、別の残基、例えば、炭水化物又は脂肪酸とのコンジュゲートである。これらのペプチドは、それぞれ糖ペプチド及びリポペプチドと呼ばれる。脂肪酸は、例えば、溶解度を変化させるために使用することができる。好適な脂肪酸の例は、C8~C24飽和脂肪酸及びC8~C24不飽和脂肪酸である。
【0035】
さらなる実施形態において、カップリング又は環化される(させるべき)ペプチドは、合成親水性ポリマー、例えば、ポリアルキレングリコールにより修飾されたペプチドである。特に好ましいポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコールである。このようなポリマーは、例えば、(例えば、血漿中の)溶解度又はインビボ半減期を増加させるために使用することができる。
【0036】
さらなる実施形態において、カップリング又は環化される(させるべき)ペプチドは、ペプチドとポリシアル酸とのコンジュゲートである。
【0037】
カップリング又は環化される(させるべき)ペプチドは、ペプチドと、イメージング剤、放射線治療剤、毒素又は別の非ペプチド剤、例えば、キレート剤若しくは非ペプチド生物活性部分とのコンジュゲートであり得る。
【0038】
一実施形態において、ペプチドC末端(チオ)エステル及び/又はペプチド求核剤は、生物活性ペプチド、例えば、インスリン受容体リガンド又はホルモンである。好ましいインスリン受容体リガンドは、ヒトインスリン、ブタインスリン、Humalog、アスパルト、インスリングルリシン、インスリンデテミル、インスリンデグルデク、及びグラルギンインスリンである。
【0039】
好ましいホルモンは、成長因子である。
【0040】
さらに、本発明により合成することができる、又は本発明によりカップリング反応における基質として使用することができる生物活性ペプチドの好ましい例としては、エキセナチド、エキセナチドアナログ(例えば、Glp-1、テデュグルチド、グルカゴン、リキシセナチド、リラグルチド及びセマグルチドの群から選択されるアナログ)、チモシン-アルファ-1、チモシン-アルファ-1アナログ、テリパラチド、それらのいずれかの配列及び1つ以上のさらなるアミノ酸単位を含むペプチドが挙げられる。エキセナチド、リキシセナチド又はそのアナログを含むコンジュゲートは、2型糖尿病の治療において、特に補助療法として使用し、メトホルミンを服用しているが、適切な血糖管理を達成していない2型糖尿病を有する患者における血糖管理を改善することができる。チモシン-アルファ-1又はそのアナログを含むコンジュゲートは、細胞媒介免疫の向上から利益を受ける患者において使用することができる。これらの医薬ペプチド1つ以上のための本発明による特に好適な合成方法は、任意選択的に、PCT/NL2016/050501号明細書又は国際公開第2016/056913号パンフレットとの組合せで本開示に基づき得る。
【0041】
一実施形態において、ペプチドを酵素的に合成する方法は、イメージング剤部分(例えば、発色、蛍光、リン光、放射性)、放射線治療部分又は生物活性ペプチドを含有し、規定部位への、例えば、規定の器官組織への第1のペプチドの標的送達のためのタンパク質を含有するペプチドを合成するために使用される。このような実施形態において、タンパク質は、イメージング剤部分、放射線治療部分又は生物活性ペプチドを含有する別のペプチドとカップリングさせる。これらのいずれか1つは、ペプチド求核剤、又はペプチドC末端エステル若しくはチオエステルであり得る。
【0042】
このような目的に好適なタンパク質の周知の例は、抗体、特に免疫グロブリン又はその一部、例えば、免疫グロブリンの抗原結合断片(Fab)又は単一ドメイン抗体(ナノボディ)である。本発明によりカップリングさせることができる抗体の具体例は、IgG、IgA、IgE、IgM及びIgDである。
【0043】
一実施形態において、別の(生物活性)ペプチドの血漿半減期を増加させるために好適なタンパク質を、特にその(生物活性)ペプチドの半減期を増加させるため、他の(生物活性)ペプチドにカップリングさせる。アルブミンは、別の(生物活性)ペプチドの半減期を増加させるためにカップリングさせることができるタンパク質の例である。これらのいずれか1つは、ペプチド求核剤、又はペプチドC末端エステル若しくはチオエステルであり得る。
【0044】
典型的には、ペプチド(この用語は、オリゴペプチド、タンパク質及びキメラペプチドを含む)は、最大約35000個のアミノ酸単位、特に3~20000個のアミノ酸単位、より特に4~5000個のアミノ酸単位、好ましくは、6~1000個のアミノ酸単位を含む。具体的に好ましい実施形態において、ペプチドは、500個以下のアミノ酸単位、特に200個以下、より特に100個以下を含む。具体的に好ましい実施形態において、ペプチドは、少なくとも10個のアミノ酸単位、より具体的には少なくとも15個のアミノ酸、少なくとも25個のアミノ酸又は少なくとも40個のアミノ酸を含む。
【0045】
「オリゴペプチド」は、本発明に関して、2~200個のアミノ酸単位から構成され、特に5~100個のアミノ酸単位から構成され、より特に10~50個のアミノ酸単位から構成されるペプチドを意味する。
【0046】
本発明の目的のため、「ペプチド結合」は、(i)1つのアルファ-アミノ酸のアルファ-アミノ末端又は1つのベータ-アミノ酸のベータ-アミノ末端のいずれかと、(ii)1つの他のアルファ-アミノ酸のアルファ-カルボキシル末端又は1つの他のベータ-アミノ酸のベータ-カルボキシル末端のいずれかとの間のアミド結合を意味する。好ましくは、ペプチド結合は、1つのアルファ-アミノ酸のアルファ-アミノ末端と、別のアルファ-アミノ酸のアルファ-カルボキシル末端との間にある。
【0047】
本発明の目的のため、「環式ペプチド」は、分枝鎖又は直鎖ペプチドのアルファ-アミノ末端及びアルファ-カルボキシル末端がペプチド結合を介して結合しており、それにより少なくとも12個のアミノ酸単位の環構造を形成するペプチド鎖を意味する。環式ペプチドは、特に12~200個のアミノ酸単位から構成され、より特に12~100個のアミノ酸単位から構成され、好ましくは、12~50個のアミノ酸単位から構成される。
【0048】
本発明に関して、「アミノ酸側鎖」は、任意のタンパク質構成又は非タンパク質構成アミノ酸側鎖を意味する。
【0049】
タンパク質構成アミノ酸は、遺伝子コードによりコードされるアミノ酸である。タンパク質構成アミノ酸としては、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、メチオニン(Met)、システイン(Cys)、アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)、グリシン(Gly)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、ヒスチジン(His)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)、プロリン(Pro)及びフェニルアラニン(Phe)が挙げられる。セレノシステイン(Sec、U)は、構造がシステインに対応するが、それが硫黄原子の代わりにセレンを含有するアミノ酸である。タンパク質構成アミノ酸は、前記アミノ酸(立体異性形態を有さないグリシンを除く)のL-立体異性体である。
【0050】
非タンパク質構成アミノ酸は、特にD-アミノ酸、L-若しくはD-フェニルグリシン、DOPA(3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン)、ベータ-アミノ酸、4-フルオロ-フェニルアラニン、又はCα-アルキル化アミノ酸のうちから選択することができる。
【0051】
用語「(チオ)エステル」は、語句「エステル又はチオエステル」の短縮形として本明細書において使用される。
【0052】
タンパク質又はポリペプチド、特に酵素に関して本明細書において使用される用語「突然変異された」又は「突然変異」は、野生型又は天然存在タンパク質又はポリペプチド配列中の少なくとも1つのアミノ酸が、それらのアミノ酸をコードする核酸の突然変異誘発を介して異なるアミノ酸により置き換えられ、その配列中に挿入され、付加され、又はそれから欠失されたことを意味する。突然変異誘発は当分野における周知の方法であり、それとしては、例えば、PCRによる、又はSambrook et al.,Molecular Cloning-A Laboratory Manual,2nd ed.,Vol.1-3(1989)に記載のオリゴヌクレオチド媒介突然変異誘発を介する部位特異的突然変異誘発が挙げられる。遺伝子に関して本明細書において使用される用語「突然変異された」又は「突然変異」は、その遺伝子の核酸配列又はその調節配列中の少なくとも1つのヌクレオチドが、突然変異誘発を介して異なるヌクレオチドにより置き換えられ、その配列中に挿入され、付加され、又はそれから欠失され、定性又は定量的に変更された機能を有するタンパク質配列の転写をもたらし、又はその遺伝子のノックアウトをもたらすことを意味する。
【0053】
本明細書において、アミノ酸置換を示すための短縮形は、置換されるアミノ酸の一文字アミノ酸コードを用い、それにタンパク質アミノ酸配列中で置換が行われる箇所を指定する数字が続く。この数字は、野生型アミノ酸配列のアミノ酸位置である。したがって、突然変異されたアミノ酸配列について、それは野生型酵素におけるその数字を有する位置に対応するアミノ酸位置である。より数が小さい位置における1つ以上の他の突然変異(付加、挿入、欠失など)に起因して、実際の位置は同一である必要はない。当業者は、一般に公知のアラインメント技術、例えば、NEEDLEを使用して対応位置を決定することができる。この数字には、そこで野生型アミノ酸と置き換わるアミノ酸の一文字コードが続く。例えば、F189Wは、189位に対応する位置におけるフェニルアラニンのトリプトファンへの置換を示す。Xは、置換させるべきアミノ酸以外の任意の他のタンパク質構成アミノ酸を示すために使用される。例えば、F189Xは、189位に対応する位置におけるフェニルアラニンの任意の他のタンパク質構成アミノ酸への置換を示す。
【0054】
用語「リガーゼ」は、第1のペプチドのC末端及び別のペプチドのN末端をカップリングさせることによるペプチド結合の形成を触媒することによる2つのペプチドのカップリングにおける触媒活性を有する酵素について本明細書において使用される。
【0055】
Schechter及びBergerにより定義されるとおり、プロテアーゼ、例として、リガーゼ中の活性部位残基は、サブサイトと称される連続ポケットから構成される。それぞれのサブサイトポケットは、本明細書において配列位置と称されるペプチド基質配列中の対応残基に結合する。この定義によれば、基質配列中のアミノ酸残基は、開裂部位から外側に連続的に-P4-P3-P2-P1-P1’-P2’-P3’-P4’-...(被切断結合は、P1及びP1’位の間に局在する)とナンバリングされる一方、活性部位中のサブサイト(ポケット)は、それに対応して-S4-S3-S2-S1-S1’-S2’-S3’-S4’-と標識される(Schechter and Berger,Biochem Biophys Res Commun.1967 Apr 20;27(2):157-62))。全てのプロテアーゼが前記サブサイトの全てを有するわけではないことに留意すべきである。例えば、S3’及び/又はS4’ポケットは、本発明によるサブチリシンBPN’バリアント又はそのホモログ中で不存在であり得る。
【0056】
本発明の目的のため、「S1、S2、S3及びS4ポケット」は、ペプチドアシル供与体のアミノ酸と相互作用するプロテアーゼ(特にリガーゼ)のアミノ酸を意味する。アシル供与体ペプチドのC末端アミノ酸(1番目のアミノ酸;P1)は、プロテアーゼのS1ポケット中のアミノ酸と相互作用する。アシル供与体ペプチドの2残基目のアミノ酸(C末端から2番目のアミノ酸;P2)は、プロテアーゼのS2ポケット中のアミノ酸と相互作用し、3番目のアミノ酸(P3)はS3と相互作用し、4番目のアミノ酸(P4)はS4ポケットと相互作用する。プロテアーゼのS1~S4結合ポケットは、プロテアーゼの一次構造中で遠位であり得るが、三次元空間中で近位であるいくつかのアミノ酸により定められる。本発明の目的のため、S1’及びS2’ポケットは、ペプチド求核剤のN末端アミノ酸と相互作用するプロテアーゼのアミノ酸を意味する。ペプチド求核剤のN末端アミノ酸は、プロテアーゼのS1’ポケット中のアミノ酸と相互作用する。ペプチド求核剤のN末端から2残基目のアミノ酸は、プロテアーゼのS2’ポケット中のアミノ酸と相互作用する。プロテアーゼのS1’及びS2’結合ポケットは、プロテアーゼの一次構造中で遠位であり得るが、三次元空間中で近位であるいくつかのアミノ酸により定められる。
【0057】
酵素が括弧間で酵素クラス(EC)に関して挙げられる場合、その酵素クラスは、http://www.chem.qmul.ac.uk/iubmb/enzyme/において命名法を見出すことができるNomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology(NC-IUBMB)により提供されるEnzyme Nomenclatureに基づき酵素が分類され、又は酵素を分類することができるクラスである。規定クラスに(今のところ)分類されていないが、それ自体分類され得る他の好適な酵素が含まれることを意味する。
【0058】
ホモログは、典型的には、ペプチド又は酵素と共通する目的の機能を有し、そのうち、それは、例えば、同一反応、特に本発明による方法の酵素的カップリング又は環化反応を触媒し得るホモログである。
【0059】
アミノ酸又はヌクレオチド配列は、あるレベルの類似性を示す場合、相同であると言われる。2つの相同配列が近縁で関連するかより遠縁で関連するかは、それぞれ高い又は低い「同一性パーセント」又は「類似性パーセント」により示される。
【0060】
用語「相同性」、「相同性パーセント」、「同一性パーセント」又は「類似性パーセント」は、本明細書において互換的に使用される。本発明の目的のため、本明細書において、2つのアミノ酸配列の同一性パーセントを決定するため、完全配列が最適な比較目的についてアラインされることが定義される。2つの配列間のアラインメントを最適化するため、比較される2つの配列のいずれかにギャップを導入することができる。このようなアラインメントは、比較される配列の全長にわたり実施される。或いは、アラインメントは、より短い長さにわたり、例えば、約20、約50、約100個以上の核酸又はアミノ酸にわたり実施することができる。同一性の割合は、報告されるアライン領域にわたる2つの配列間の同一マッチの割合である。
【0061】
2つの配列間の配列の比較及び同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを使用して達成することができる。当業者は、2つの配列をアラインし、2つの配列間の相同性を決定するためにいくつかの異なるコンピュータプログラムが利用可能であるという事実を認識する(Kruskal,J.B.(1983)An overview of sequence comparison In D.Sankoff and J.B.Kruskal,(ed.),Time warps,string edits and macromolecules:the theory and practice of sequence comparison,pp.1-44 Addison Wesley)。2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、2つの配列のアラインメントのためのNeedleman及びWunschアルゴリズムを使用して決定することができる(Needleman,S.B.and Wunsch,C.D.(1970)J.Mol.Biol.48,pp443-453)。Needleman-Wunschアルゴリズムは、コンピュータプログラムNEEDLE中に実装されている。本発明の目的のため、EMBOSSパッケージからのNEEDLEプログラムを使用した(バージョン2.8.0以上、EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite(2000)Rice,P.Longden,I.and Bleasby,A.Trends in Genetics 16,(6)pp276-277,http://emboss.bioinformatics.nl/)。タンパク質配列について、EBLOSUM62は、置換行列について使用される。他の行列を規定することができる。アミノ酸配列のアラインメントに使用される任意選択パラメータは、10のギャップオープンペナルティ及び0.5のギャップ延長ペナルティである。当業者は、これら全ての異なるパラメータがわずかに異なる結果を生じさせることを認識するが、異なるアルゴリズムを使用する場合、2つの配列の同一性の割合全体が有意に変更されないことを認識する。
【0062】
2つのアライン配列間の相同性又は同一性は、以下のとおり計算される:両方の配列中の同一アミノ酸を示すアラインメント中の対応位置の数字を、アラインメント中のギャップの総数の減算後のアラインメントの全長により割る。本明細書において定義される同一性は、NOBRIEFオプションを使用することによりNEEDLEから得ることができ、「最長同一性」としてプログラムの出力で標識される。本明細書の目的のため、2つの配列間の同一性(相同性)のレベルは、プログラムNEEDLEを使用することにより実施することができる「最長同一性」の定義により計算される。
【0063】
ポリペプチド配列、特に酵素配列は、配列データベースに対する検索を実施するため、例えば、他のファミリーメンバー又は関連配列を同定するための「クエリ配列」としてさらに使用することができる。このような検索は、BLASTプログラムを使用して実施することができる。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)を介して公的に利用可能である。BLASTPは、アミノ酸配列に使用される。BLASTプログラムは、デフォルトとして以下を使用する:
-オープンギャップのコスト:デフォルト=タンパク質について11
-延長ギャップのコスト:デフォルト=タンパク質について1
-予測値:デフォルト=10
-ワードサイズ:デフォルト=megablastについて28/タンパク質について3。
【0064】
さらに、アミノ酸配列クエリ及び検索相同配列の間の局所同一性(相同性)の程度は、BLASTプログラムにより決定される。しかしながら、ある閾値を超えるマッチを与えるそれらの配列セグメントのみが比較される。したがって、プログラムは、それらのマッチングセグメントについてのみ同一性を計算する。したがって、このように計算される同一性は、局所同一性と称される。
【0065】
用語「ホモログ」は、ホモログペプチド又は酵素が比較されるペプチド、特に酵素と少なくとも50%、好ましくは、少なくとも60%、より好ましくは、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有する、特にペプチドについて、より特に酵素について本明細書において使用される。明らかに、配列同一性は、100%未満である。配列同一性の割合は、ホモログが比較されるペプチド(酵素)の突然変異の数及び長さに依存する。「最長同一性」において、アラインメント欠失は考慮されない。
【0066】
本発明の目的のため、「縮合」は、あるペプチド)のC末端カルボン酸官能基と、特定の別のペプチドの求核剤のN末端アミン官能基との間の新たなアミド結合の形成を意味する。
【0067】
ペプチドの用語「アナログ」は、特に前記ペプチドの構造的アナログ及び/又は機能的アナログであるペプチドについて使用される。機能的アナログは、同一のインビボ標的(例えば、細胞膜上の同一の標的受容体)を有し;構造的アナログは、アミノ酸配列における高い類似性を有する。ペプチドの機能的アナログは、例えば、完全アミノ酸配列にわたる約50%以下の比較的低いアミノ酸配列同一性を有し得るが、アミノ酸配列のセグメントにおいて、例えば、N末端部分付近又はC末端部分付近でそれらがアナログであるペプチドと高い配列同一性(及びしたがって、高い構造的類似性)を有する。構造的アナログは、特にペプチドがアナログであるペプチドのアミノ酸配列と少なくとも60%、より特に少なくとも70%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0068】
明確性及び正確な説明の目的のため、特徴部は、同一又は別個の実施形態の一部として本明細書において記載されるが、本発明の範囲は、記載される特徴部の全て又は一部の組合せを有する実施形態を含み得ることが認識される。本明細書において具体的に定義されない、本明細書において使用される用語は、国際公開第2016/056913号パンフレットに定義されるとおりであり、又は、それに定義されていない場合、共通一般知識に従って使用される。
【0069】
ペプチドC末端エステル又はチオエステルは、典型的には、活性化(チオ)エステルであり、すなわち、それは、酵素的カップリング反応に関与し得るカルボキシエステル又はカルボキシチオエステル基を含有する。原則として、任意の(置換又は非置換)アルキル又は(置換又は非置換)アリール(チオ)エステルを使用することができる。酵素的カップリング反応に関与し得る(チオ)エステルの典型例は、メチル-、エチル、プロピル-、イソプロピル-、フェニル-、ベンジル-(例えば、p-カルボキシ-ベンジル-)、2,2,2-トリクロロエチル-、2,2,2-トリフルオロエチル-、シアノメチル-及びカルボキシアミドメチル-(チオ)エステルである。
【0070】
式ペプチド-(C=O)-O-CX-C(=O)N-Rにより表されるカルボキシアミドメチル型エステルについて特に良好な結果が得られた。ここで、それぞれのX及びXは、独立して、水素原子又はアルキル基を表す。X及びXの両方が水素原子である場合(ペプチド-(C=O)-O-CH-C(=O)N-R)に良好な結果が達成された。ここで、Rは、水素原子又はアルキル基を表し、Rは、水素原子又はアルキル基又はアミノ酸の側鎖官能基上で、若しくはアミノ酸の側鎖官能基上の1つ以上で任意選択的に保護されているC末端カルボキシアミド若しくはカルボン酸官能基を有するアミノ酸若しくはペプチド残基を表す。ここで、それぞれのアルキル基は、独立して、(置換又は非置換)C1~C7アルキル基、好ましくは、(置換又は非置換)直鎖C1~C6アルキル基、より好ましくは、(置換又は非置換)直鎖C1~C3アルキル基、最も好ましくは、メチル基を表し得る。R及びRの両方が水素原子を表し、又はRが水素原子を表し、Rがアミノ酸の側鎖官能基上で、若しくはアミノ酸の側鎖官能基上の1つ以上で任意選択的に保護されているC末端カルボキシアミド又はカルボン酸官能基を有するアミノ酸又はペプチド残基を表す本発明の方法において特に良好な結果が達成された。Cam-エステル(X、X、R及びRは、水素原子である)を使用した場合に特に良好な結果が達成された。
【0071】
カルボキシル置換ベンジルエステルについても、特に式ペプチド-(C=O)-O-CH-C-COE(式中、Eは、水素原子、正荷電塩イオン、例えば、アンモニウムイオン、又はアミノ酸の側鎖官能基上で、若しくはアミノ酸の側鎖官能基上の1つ以上で任意選択的に保護されているC末端カルボキシアミド若しくはカルボン酸官能基を有するアミノ酸若しくはペプチド残基を表す)により表されるp-カルボキシル置換ベンジルエステルについても特に良好な結果が得られた。式ペプチド-(C=O)-O-CH-C-COEにより表されるp-カルボキシル置換ベンジルエステル(式中、Eは、上記のとおり定義され、フェニル環(上記式中のC)中の1つ以上の水素原子は、置換基、例えば、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ又はハロゲンにより置き換えられている)についても良好な結果が得られた。
【0072】
ペプチドC末端(チオ)エステルは、N末端無保護でもN末端保護でもよい。
【0073】
用語「N末端保護」は、ペプチドのN末端アミン基が、一般に、別のペプチドの、又は同一ペプチド分子のC末端カルボン酸基へのN末端アミン基のカップリングを少なくとも実質的に保護する保護基とともに提供されることを示すために本明細書において使用される。
【0074】
特に、保護側鎖官能基を有さないペプチドC末端(チオ)エステルについて良好な結果が得られた。
【0075】
一実施形態において、1つ以上の側鎖官能基(特にヒドロキシル基、カルボキシル基又はアミン基)、例えば、全ての側鎖官能基は、保護基とともに提供される。好ましい実施形態において、ペプチドC末端(チオ)エステルのP4及びP1位におけるアミノ酸の側鎖官能基(特にヒドロキシル基、カルボキシル基又はアミン基)のみが、保護基とともに提供される。好適な保護基は、当業者に公知である。カルボン酸基は、例えば、シクロヘキシル、ベンジル又はアリル基により保護することができ;アミン官能基は、例えば、アリルオキシカルボニル基又はトリフルオロアセチル基により保護することができる。
【0076】
ペプチドC末端(チオ)エステルの活性化C末端(チオ)エステル基は、固相合成を使用して高い収率及び純度でラセミ化なしで合成することができる。カルボキシアミドメチル型の(チオ)エステル(式中、Rは、水素原子を表し、Rは、アミノ酸の側鎖官能基上で、又はアミノ酸の側鎖官能基上の1つ以上で任意選択的に保護されているC末端カルボン酸官能基を有するアミノ酸又はペプチド残基を表す)の使用の追加の利点は、安価で産業的に利用可能な2-クロロトリチルクロリド樹脂を使用してそれらの活性化C末端エステル又はチオエステル基を合成することができることである。
【0077】
ペプチドC末端(チオ)エステルの活性化C末端(チオ)エステル基は、液相合成又は微生物を使用する発酵により合成することもできる。発酵を使用するペプチド(チオ)エステルを得る信頼性が高い方法は、いわゆるインテイン発現を介する(例えば、E.K.Lee,Journal of Chemical Technology and Biotechnology,2010,9,11-18参照)。様々なインテイン発現系キットが市販されている(例えば、IMPACT(商標)キット)。ペプチド(チオ)エステルの発酵生産のための他の方法は、当分野において公知である。
【0078】
ペプチドC末端(チオ)エステルのC末端アミノ酸及びペプチドC末端(チオ)エステルの他のアミノ酸は、原則として、任意のタンパク質構成又は非タンパク質構成アミノ酸であり得る。ペプチドC末端(チオ)エステルのC末端部分のアミノ酸配列が、カップリング酵素のアミノ酸優先性に起因して、及び/又はペプチドの二次若しくは三次構造に起因してカップリング酵素により不十分に認識され、又はそれに接近不可能である場合、一次構造(アミノ酸配列)をC末端において伸長させることができる。本質的には、ペプチドC末端(チオ)エステルのC末端は、多数のアミノ酸により伸長させて酵素的カップリング反応のために酵素による良好な認識及び酵素中への接近性を確保する。当業者は、本明細書に開示の情報及び共通一般知識に基づきどのようにペプチドC末端(チオ)エステルを伸長させるかを理解する。通常、伸長のためのアミノ酸の数は、1~10個の範囲内であるが、原則としてそれは、それよりも多くてよい。4つのアミノ酸残基によるペプチドC末端(チオ)エステルの伸長、例えば、-Phe-Ser-Lys-Leu-(チオ)エステルにより良好な結果が得られた。
【0079】
特に、(任意選択的にN末端保護されている)ペプチドC末端(チオ)エステルは、式Iの化合物により表すことができる。
【化1】
【0080】
ここで、Qは、OR又はSR部分を表す。Rは、(置換又は非置換)アルキル又は(置換又は非置換)アリール基を表し得る。
【0081】
ここで、Pは、水素又はN末端保護基を意味する。好適なN末端保護基は、ペプチドの合成に使用することができるN保護基である。このような基は、当業者に公知である。好適なN保護基の例としては、カルバメート又はアシル型保護基、例えば、「Cbz」(ベンジルオキシカルボニル)、「Boc」(tert-ブチルオキシカルボニル)、「For」(ホルミル)、「Fmoc」(9-フルオレニルメトキシカルボニル)、「PhAc」(フェナセチル)及び「Ac」(アセチル)が挙げられる。For、PhAc及びAcの基を導入し、それぞれ酵素ペプチドデホルミラーゼ、PenGアシラーゼ又はアシラーゼを使用して酵素的に開裂させることができる。化学開裂法は、一般に、当分野において公知である。
【0082】
ここで、nは、少なくとも2の整数である。nは、特に少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9又は少なくとも10であり得る。原則として、nの上限値は存在しないが、一般に、nは、特に10.000以下、1000以下、500以下、例えば、100以下、50以下又は40以下であり得る。
【0083】
ここで、それぞれのR及びそれぞれのRは、独立して、水素原子又は有機部分、好ましくは、アミノ酸側鎖を表す。したがって、Rが全てのn個のアミノ酸単位中で同一であることは要求されない。同様に、Rが全てのn個のアミノ酸単位中で同一であることは要求されない。任意選択的に、側鎖官能基の1つ以上は保護基を含有し得る。
【0084】
ペプチド求核剤のアミノ酸単位は、原則として、任意のタンパク質構成又は非タンパク質構成アミノ酸から選択することができる。
【0085】
特に、ペプチド求核剤は、式IIの化合物により表すことができる。
【化2】
【0086】
用語「C末端保護」は、ペプチドのC末端カルボン酸基が、一般に、別のペプチドの、又は同一ペプチド分子のN末端アミン基へのカルボン酸基のカップリングを実質的に保護する保護基とともに提供されることを示すために本明細書において使用される。
【0087】
ここで、n、R及びRは、上記定義のとおりである。
【0088】
ここで、Pは、アミン部分又はOR部分を表す。
【0089】
がアミン部分を表す場合、アミン部分は、式NR(式中、R及びRは、それぞれ個々に、任意の(置換又は非置換)アルキル又は(置換又は非置換)アリール基を表し得る)により表すことができる。特に、R及びRのうち一方は水素原子であり、他方は(置換又は非置換)アルキル基である。特に、R及びRの両方が水素原子である場合に良好な結果が得られた。
【0090】
がOR部分を表す場合、Rは、C末端保護基又はカチオン、例えば、一価カチオン、例えば、三又は四置換アンモニウムイオン又はアルカリ金属イオン又はHを表し得る。
【0091】
RがC末端保護基である場合、これは、特に任意選択的に置換されているアルキル基であり得る。好ましくは、これはt-アルキル基であるが、原則として、それは、当業者に公知の任意の他の保護エステルであってもよい。t-アルキルは、原則として、任意の保護第三級アルキル基であり得る。好ましくは、t-アルキルは、t-ブチル(2-メチル-2-プロピル)、t-ペンチル(2-メチル-2-ブチル)及びt-ヘキシル(2,3-ジメチル-2-ブチル)の群から選択される。
【0092】
一実施形態において、ペプチド求核剤は、C末端保護されている。別の実施形態において、これはC末端保護されていない。
【0093】
特に、保護側鎖官能基を有さないペプチド求核剤について良好な結果が達成された。
【0094】
一実施形態において、ペプチド求核剤の1つ以上の側鎖官能基(特に、1つ以上のヒドロキシル基、カルボキシル基又はアミン基)は、保護基とともに提供される。好適な保護基は、当業者に公知である。カルボン酸基は、例えば、シクロヘキシル、ベンジル又はアリル基により保護することができ;アミン官能基は、例えば、アリルオキシカルボニル基又はトリフルオロアセチル基により保護することができる。
【0095】
ペプチド求核剤は、当分野において公知の方法、例えば、固相合成、液相合成を使用して、又は微生物を使用する発酵により合成することができる。ペプチド求核剤のN末端アミノ酸及びペプチド求核剤の他のアミノ酸は、原則として、任意のタンパク質構成又は非タンパク質構成アミノ酸であり得る。ペプチド求核剤のN末端部分のアミノ酸配列が、カップリング酵素のアミノ酸優先性に起因して、又はペプチド求核剤の二次若しくは三次構造に起因してカップリング酵素により不十分に認識され、又はそれに接近不可能である場合、一次構造(アミノ酸配列)をN末端において伸長させることができる。本質的には、ペプチド求核剤のN末端は、多数のアミノ酸により伸長させて酵素的カップリング反応のためにカップリング酵素による良好な認識及びそれへの接近性を確保する。当業者は、本明細書に開示の情報及び共通一般知識に基づきどのようにペプチド求核剤を伸長させるかを理解する。通常、伸長のためのアミノ酸の数は、1~10個の範囲内であるが、原則としてそれは、それよりも多くてよい。3つのアミノ酸残基によるペプチド求核剤の伸長、例えば、H-Ser-Tyr-Argにより良好な結果が得られた。
【0096】
本発明による酵素は、サブチリシンBPN’バリアント又はそのホモログである。
【0097】
特に、本発明は、(生物中で産生された場合、発現された生物(典型的には、組換え生物)から、又は合成された反応媒体から単離された)単離酵素を提供する。
【0098】
特に、本発明の酵素は、本発明の目的のため、粗製形態又は、任意の好適な技術、例えば、Smith and Johnson,Gene 67:31-40(1988)に開示の単一ステップ精製法などにより実質的に精製された形態のいずれかで、単離されたとみなされる。
【0099】
本発明の酵素は、少なくとも実質的に純粋な形態(例えば、75重量%超、80重量%超)で、又は1つ以上の他の構成成分との混合物で、例えば、原液の形態で、特に水性緩衝溶液で提供することができる。
【0100】
本開示は、特にサブチリシンBPN’バリアントとみなされる本発明の酵素の種々の例を提供する。既に上記のとおり、本発明の酵素は、少なくとも以下を含むべきである。
- サブチリシンBPN’中の75~83位に対応するアミノ酸の欠失;
- S221に対応するアミノ酸位置における突然変異(この突然変異は、サブチリシンBPN’中のS221C又はS221セレノシステイン、好ましくは、S221Cである);
- サブチリシンBPN’中のF189W、F189Y、S33D、S33T、N218D、N218T、N218E、N62D、N62S、N62W、及びN62Y
に対応するアミノ酸位置からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる突然変異。
【0101】
F189W又はF189Yに対応する突然変異は、(より)広い基質範囲について、特にペプチド求核剤のP2’及びP1’位のアミノ酸に関して非常に好ましい一方、十分なS/H比が維持され、又はS/H比が改善される。これら2つの突然変異のうち、F189Wが特に好ましい。有利には、F189W又はF189Yに対応する突然変異、特にF189Wに対応する突然変異を有する酵素は、N218Dに対応する突然変異も有する。有利には、N218Dに対応する突然変異及びF189W又はF189Yに対応する突然変異を有する酵素は、M222P、Y217H又はP225Nに対応する少なくとも1つの突然変異、好ましくは、それらのそれぞれをさらに有する。
【0102】
N218D、N218T又はN218Eに対応する突然変異は、ペプチド求核剤のP2’位及び/又はP1’位のアミノ酸に関して(より)広い基質範囲に好ましい一方、十分なS/H比が維持され、又はS/H比が改善される。これらの突然変異のうち、N218Dが特に好ましい。
【0103】
S33D又はS33Tに対応する突然変異は、特にペプチドC末端(チオ)エステルのP2位の、並びに/又はペプチド求核剤のP1’位及び/若しくはP2’位のアミノ酸に関して(より)広い基質範囲に非常に好ましい一方、十分なS/H比が維持され、又はS/H比が改善される。これら2つの突然変異のうち、S33Dが特に好ましい。
【0104】
N62D、N62S、N62W、N62Yに対応する突然変異は、特にペプチドC末端(チオ)エステルのP2位の、並びに/又はペプチド求核剤のP1’及び/若しくはP2’位のアミノ酸に関して(より)広い基質範囲に好ましい一方、十分なS/H比が維持され、又はS/H比が改善される。これらの突然変異のうち、N62Dが特に好ましい。
【0105】
特に、S33Dに対応するアミノ酸位置における酵素のS2ポケット中の突然変異を含み、N62Sに対応するS2’ポケット中の突然変異をさらに含む酵素について良好な結果が達成された。さらに、S33Tに対応するアミノ酸位置における酵素のS2ポケット中の突然変異を含み、N62W又はN62Vに対応するS2’ポケット中の突然変異をさらに含む酵素について特に良好な結果が達成された。S33に対応する位置における規定のアミノ酸及びN62に対応する位置における規定のアミノ酸のこのような組合せを有する酵素は、S33位における規定のアミノ酸(D又はT)又はN62位における規定のアミノ酸(W又はV)のいずれかを有する同等の酵素と比べて区別される基質特異性を有することが見出された。さらに、この組合せは、S/H比及び酵素的カップリング活性に関して相乗効果を提供することが見出された。好ましくは、相乗効果及び/又は区別される基質特異性の提供のため、S33D+N62Sに、又はS33T+N62Wに、又はS33T+N62Vに対応する突然変異を有する前記酵素は、M222P、Y217H及びI107Vに対応する突然変異、より好ましくは、M222P、Y217H、P225N、F189W、N218D及びI107Vに対応する突然変異をさらに含む。
【0106】
特に好ましい実施形態において、サブチリシンBPN’バリアント又はそのホモログは、F189、N218、S33及びN62に対応する位置の群から選択される位置における少なくとも2つ、いっそうより好ましくは、少なくとも3つ、最も好ましくは、4つの突然変異を含む。本明細書において、最も好ましくは、F189に対応する位置における突然変異は、F189Y又はF189Wに対応し、N218に対応する位置における突然変異は、N218D、N218T又はN218Eに対応し、S33に対応する位置における突然変異は、S33D又はS33Tに対応し、N62に対応する位置における突然変異は、N62D、N62S、N62W又はN62Yに対応する。
【0107】
本発明の酵素は、サブチリシンBPN’と比較したさらなる突然変異、特に、本明細書の他箇所に記載の1つ以上のさらなる突然変異を有し得、但し、それがペプチドの調製において酵素的断片縮合活性(カップリング活性)又は環化活性を有することを条件とする。
【0108】
本発明による酵素、特に本発明のサブチリシンBPN’バリアントのホモログを突然変異誘発により誘導することができるテンプレート酵素としての、サブチリシンBPN’の代替物は、他のサブチリシン、特にサブチリシンBPN’と少なくとも50%の相同性を有するサブチリシンである。
【0109】
好適なサブチリシンの配列は、2014年8月11日に利用可能なUNIPROT配列データベース(http://www.uniprot.org/)から、サブチリシンBPN’(配列番号2)をクエリとして用いてデータベースをBLAST処理することにより検索することができる。しかしながら、配列検索は、UNIPROTにも日付にも限定されない。当業者は、どのように代替配列寄託機関にクエリを行うか又はシーケンシングにより追加のホモログ配列を回収するかを理解する(例えば、Zooming in on metagenomics:molecular microdiversity of Subtilisin Carlsberg in soil.Gabor E,Niehaus F,Aehle W,Eck J.J Mol Biol.2012 Apr 20;418(1-2):16-20参照)。特に、本発明はさらに、サブチリシンBPN’のL75からG83まで(G83を含む)に対応するアミノ酸の少なくとも前記欠失、サブチリシンBPN’中の221位に対応する位置におけるシステイン又はセレノシステイン及び請求項1に記載の前記さらなる突然変異の少なくとも1つを有するバリアントに関する。
【0110】
サブチリシンBPN’の配列を配列番号2(成熟形態)に挙げる。サブチリシンBPN’アミノ酸-107~275をコードする遺伝子を配列番号1に挙げる。サブチリシンBPN’バリアント又はホモログは、国際公開第2016/056913号パンフレットによる酵素をベースとし得、但し、それが上記に挙げた突然変異を有することを条件とする。
【0111】
配列番号3は、Ca2+結合ループの欠失、S221突然変異(S221Xと示す)、位置S33、N62、E156、G166、F189、N218(全てXと標識し、任意のタンパク質構成アミノ酸を示し、但し、少なくとも1つが突然変異であることを条件とする)、及びXと標識されるP225位(任意のタンパク質構成アミノ酸、好ましくは、本明細書の他箇所に定義の突然変異)を有する本発明によるサブチリシンBPN’バリアントを示す。さらに好ましい酵素は、1つ以上の追加の突然変異、特に本明細書の他箇所又は参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2016/056913号パンフレットに同定される1つ以上のさらなる突然変異を含み得る。
【0112】
本発明による酵素のS221に対応するアミノ酸位置における突然変異は、好ましくは、S221Cである。
【0113】
P225に対応するアミノ酸位置における突然変異は、通常、目的のカップリング又は環化反応についてのS/H比に有利である。突然変異は、通常、P225N、P225D、P225S、P225C、P225G、P225A、P225T、P225V、P225I、P225L、P225H、P225Qの群から、好ましくは、P225N、P225D、P225S、P225C及びP225Gの群から、より好ましくは、P225N又はP225Dから選択される。
【0114】
良好な酵素安定性のため、サブチリシンBPN’バリアント又はそのホモログは、好ましくは、配列番号2のQ2、S3、P5、S9、I31、K43、M50、A73、E156、G166、G169、S188、Q206、N212、N218、T254及びQ271に対応するアミノ酸位置における突然変異の群から選択される1つ以上の突然変異を含む。本明細書の他箇所に記載のとおり、N218における規定の突然変異は、S/H比及び/又は基質範囲に関してさらに有利である。一実施形態において、N218に対応する位置は突然変異されていない一方、酵素安定性はこの位置が突然変異された酵素と比較して少なくとも実質的に維持される。
【0115】
好ましくは、(良好な酵素安定性に好ましい)前記1つ以上の突然変異は、Q2K、S3C、P5S、S9A、I31L、K43N、M50F、A73L、E156S、G166S、G169A、S188P、Q206C、N212G、T254A及びQ271Eの群から選択される。特に好ましい実施形態において、サブチリシンBPN’バリアント又はそのホモログは、Q2K、S3C、P5S、S9A、I31L、K43N、M50F、A73L、E156S、G166S、G169A、S188P、Q206C、N212G、T254A及びQ271Eの群から選択される前記突然変異の少なくとも6つ、好ましくは、少なくとも8つ、より特に少なくとも12個を含む。
【0116】
好ましい実施形態において、サブチリシンBPN’バリアント又はそのホモログは、配列番号2のG100、S125、L126、G127、P129、及びN155に対応するアミノ酸位置における1つ以上の突然変異を含む。
【0117】
具体的な実施形態において、サブチリシンBPN’バリアント又はそのホモログは、M222及びY217に対応するアミノ酸位置における突然変異を含み、この突然変異は、
- M222P及びY217H;
- M222P及びY217G;
- M222G及びY217F;又は
- M222G及びY217G
である。
【0118】
さらなる実施形態において、サブチリシンBPN’又はそのホモログは、配列番号2のY104、I107、S101、G102、128、L135及びP168に対応するアミノ酸位置における突然変異の群から選択される少なくとも1つの突然変異を含み、1つ又は複数の突然変異は、特にY104F、Y104S、I107V、I107A、L135N、L135S、L135D又はL135Aの群から選択することができる。
【0119】
本発明の方法において、酵素的カップリング反応、又は酵素的環化反応は、典型的には、水を含む流体中で実施される。好ましくは、反応は、緩衝流体中で実施される。含水率は、通常、総液体に対して10~100容量%、好ましくは、20容量%以上、好ましくは、40容量%以上、特に50容量%以上、特に60容量%以上である。70~100容量%の水、より特に90~100容量%、95~100容量%又は98~100容量%の水を含む反応媒体中で特に良好な結果が達成された。用語「水性」は、少なくとも実質的に水からなる媒体について使用される。
【0120】
原則として、任意の緩衝液が好適である。良好な緩衝液は、当業者に公知である。例えば、David Sheehan in Physical Biochemistry,2nd Ed.Wiley-VCH Verlag GmbH,Weinheim 2009;http://www.sigmaaldrich.com/life-science/core-bioreagents/biological-buffers/learning-center/buffer-calculator.html参照。
【0121】
ペプチド断片縮合のための緩衝液のpHは、少なくとも5、特に少なくとも6、好ましくは、少なくとも7であり得る。望ましいpHは、通常、11未満、特に10未満、いっそうより好ましくは、9未満である。通常、酵素断片縮合のための最適pHは、7~9である。環化反応については、最適pHは異なり得る。環化反応のためのpHは、少なくとも3、特に少なくとも4、好ましくは、少なくとも5であり得る。望ましいpHは、通常、11未満、特に10未満、好ましくは、9未満である。通常、酵素的環化反応のための最適pHは、5~9である。
【0122】
高いS/H比に起因して、大過剰のペプチドC末端エステル若しくはチオエステル又はペプチド求核剤は、一般に、縮合反応における高収率に到達するためには必要でない。通常、(a)ペプチドC末端エステル又はチオエステルと、(b)ペプチド求核剤との比は、1:5~5:1、好ましくは、1:3~3:1の範囲内、より好ましくは、1.0:2.5~2.5:1.0の範囲内、特に1:2~2:1の範囲内、より特に1:1.5~1.5:1の範囲内である。ほぼ化学量論比が特に有効であることが見出された。
【0123】
本発明の方法において、反応を実施する流体に添加剤を添加してペプチド断片の溶解度を改善し、又は反応収率を改善することが有利であり得る。このような添加剤は、塩又は有機分子、例えば、グアニジニウム塩酸塩、尿素、ドデカ硫酸ナトリウム又はTweenであり得る。
【0124】
反応は、完全水性液体中で、又は水及び水混和共溶媒、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-ピロリジノン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、エーテル、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-テトラヒドロフラン(Me-THF)若しくは1,2-ジメトキシエタン、若しくは(ハロゲン化)アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert-ブタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノールの混合物、又はそれらの有機溶媒の混合物中で実施することができる。サブチリシンBPN’バリアントの安定性及びペプチド基質の溶解度に応じて、共溶媒の量は、好ましくは、70容量%未満、より好ましくは、60容量%未満、いっそうより好ましくは、50容量%未満、最も好ましくは、40%未満である。
【0125】
原則として、酵素的断片縮合又は環化の間の温度は、使用すべき酵素が十分な活性及び安定性を示す温度が選択される限り重要でない。このような温度は、定型的に決定することができる。一般に、温度は、少なくとも-10℃、特に少なくとも0℃又は少なくとも10℃であり得る。一般に、温度は、70℃以下、特に60℃以下又は50℃以下であり得る。最適温度条件は、規定の酵素的断片縮合又は環化のための規定の酵素について当業者により共通一般知識及び本明細書に開示の情報に基づく定型的な実験を介して容易に同定することができる。一般に、温度は、有利には、20~50℃の範囲内である。
【0126】
本発明の酵素は、一般に、組換え法により、特に酵素的に活性な本発明のサブチリシンBPN’バリアントを発現時にもたらすように突然変異させたサブチリシンBPN’DNAの発現により産生される。
【0127】
したがって、本発明はさらに、本発明による酵素を調製する組換え法であって、
a)酵素をコードする遺伝子を機能的に発現する組換え宿主細胞、例えば、細菌細胞、例えば、大腸菌(E.coli)又はバシラス属(Bacillus)を提供すること;
b)酵素的に活性な酵素の発現を提供する条件下で前記宿主細胞を培養すること;及び
c)前記微生物宿主から発現された酵素を回収すること
を含む方法に関する。
【0128】
本発明はさらに、本発明による酵素をコードする配列を含む組換えポリヌクレオチドに関する。
【0129】
本発明はさらに、酵素を発現し得る本発明によるポリヌクレオチドを含む宿主細胞に関する。
【0130】
本発明に対する触媒としての本発明による酵素の使用は、ペプチドの環化、又はペプチド求核剤、例えば、上記のものへのペプチドC末端エステル又はチオエステルのカップリングを超えて拡大する。
【0131】
酵素は、ペプチド結合以外のアミド結合の形成において使用することができるが、ペプチド結合の形成の触媒における使用は、酵素の特に好ましい使用である。
【0132】
目下、本発明を以下の実施例により説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【実施例
【0133】
本発明による(使用のための)酵素の産生
突然変異誘発、クローニング及び発現
BS149-DMと示される酵素は、75~83位に対応するアミノ酸の欠失を有し、追加の突然変異Q2K、S3C、P5S、S9A、I31L、K43N、M50F、A73L、E156S、G166S、G169A、S188P、Q206C、N212G、Y217L、N218S、S221C、P225A、T254A及びQ271Eを含む配列番号2に対応する。Hisタグを有するBS149-DMをコードする遺伝子を、pUB-110ベース大腸菌(E.coli)-枯草菌(B.subtilis)シャトルベクター(すなわち、pBS42又はpBES(国際公開第2016/056913号パンフレットも参照)中にクローニングした。対応するアミノ酸配列を、サブチリシンBPN’ナンバリングスキームに従ってナンバリングする。アミノ酸-107~-1は、完全成熟時に開裂除去されるシグナル配列、プレ配列及びプロ配列を含む。アミノ酸1~275は、完全触媒活性を示す成熟酵素を含む。迅速で効率的な精製を可能とするため、アミノ酸275の後にC末端Hisタグを付着させる。カルシウム結合部位の除去の結果として、BS149-DMは、サブチリシンBPN’中のL75、N76、N77、S78、I79、G80、V81、L82及びG83に対応するアミノ酸を含むサブチリシンBPN’と比較した9つのアミノ酸の欠失を含有する。BS149-DMについてのサブチリシンBPN’ナンバリングを維持するため、ナンバリングを74から83まで飛ばす。シャトルベクター中で、遺伝子の発現はaprEプロモーターの制御下である。得られたプラスミドpBES-BS149DMHISを大腸菌(E.coli)TOP10中で繁殖させ、枯草菌(B.subtilis)GX4935(trpC2 metB10 lys-3ΔnprEΔaprE)中に形質転換した。pBES-BS149DMHISをテンプレートとして使用して、Quikchange法(Agilent)により突然変異誘発を実施した。或いは、当分野において公知の部位特異的突然変異誘発の他の方法を使用することができる(Sambrook et al.,1989)。或いは、DNAをGenScript,USAにより合成し、それぞれのシャトルベクター中に取り込んだ。
【0134】
His-タグを担持する合成サブチリシンBPN’バリアントの産生及び精製:
目的サブチリシンバリアント遺伝子を有するプラスミドを含有する枯草菌(B.subtilis)の単一微生物コロニーを、カナマイシン(10μg/mL)を有する5mLのLB中で37℃において振盪インキュベーター中で植菌した。抗生物質(カナマイシン10μg/mL)及びアミノ酸(100mg/LのTrp、100mg/LのMet及び100mg/LのLys)が補給された30mLのテリフィックブロスに、0.6mLの一晩培養物を添加した。細胞を37℃において振盪インキュベーター(200rpm)中で48時間成長させた。細胞を遠心分離(30分間、4,000rpm、4℃)により回収した。培地(30mL)をデカントし、Amicon遠心分離ユニット(15ml、10kDaのMWのカットオフ)上で2回の遠心分離ステップ(15分間、4000rpm、4℃)において濃縮した。次いで、濃縮した培地(0.5ml)を緩衝液A(25mMのトリシン、pH7.5、0.5MのNaCl)と、3回の洗浄/濃縮ステップ(14mlの緩衝液A、10分間、4,000rpm、4℃)で交換した。Hisタグ精製のため、Talon樹脂(2.5ml、Clonetech)をプラスチックカラムカートリッジに添加した。樹脂を5mLのMilliQ水により洗浄し、5mLの緩衝液Aにより平衡化した。粗製酵素をカラム上に負荷し、オービタルシェーカーにおいて4℃において一晩インキュベートした。インキュベーション後、樹脂を25mLの緩衝液Aにより洗浄した。酵素を15mLの緩衝液B(25mMのトリシン、pH7.5、0.5MのNaCl、0.5Mのイミダゾール)により溶出させた。溶出物をAmicon遠心分離ユニット(15ml、10kDaのMWのカットオフ)上で遠心分離(30分間、4000rpm、4℃)により濃縮し、緩衝液を25mMのトリシン、pH7.5に、3回の洗浄/濃縮ステップ(15mlの緩衝液、10分間、4,000rpm、4℃)で交換した。
【0135】
純度及び酵素濃度は、上記のとおり決定した。純度は90%超であった。約0.1~2mg/mlの得られた酵素を含有する得られた水溶液(25mMのトリシン、pH7.5)を、オリゴペプチド断片縮合及び環化にそのまま使用した。
【0136】
参考文献
Abrahmsen,L,J Tom,J Burnier,K A Butcher,A Kossiakoff,and J A Wells.1991.“Engineering Subtilisin and Its Substrates for Efficient Ligation of Peptide Bonds in Aqueous Solution.”Biochemistry 30(17)(April 30):4151-9.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2021606.
Fahnestock SR,Fisher KE:Expression of the staphylococcal protein A gene in Bacillus subtilis by gene fusions utilizing the promoter from a Bacillus amyloliquefaciens alpha-amylase gene.J Bacteriol.1986 Mar;165(3):796-804
Kawamura,Fujio,and Roy H.Doi.Construction of a Bacillus subtilis double mutant deficient in extracellular alkaline and neutral proteases.J Bacteriol.1984 Oct;160(1):442-4
Ruan,Biao,Viktoriya London,Kathryn E Fisher,D Travis Gallagher,and Philip N Bryan.Engineering substrate preference in subtilisin:structural and kinetic analysis of a specificity mutant.Biochemistry.2008 Jun 24;47(25):6628-36.
Sambrook J,Fritsch EF,Maniatis T.1989.Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2nd edition.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY.
Wells,James A,Eugenio Ferrari,Dennis J Henner,David A Estell,and Ellson Y Chen.
Cloning,sequencing,and secretion of Bacillus amyloliquefaciens subtilisin in Bacillus subtilis.Nucleic Acids Res.1983 Nov 25;11(22):7911-25.
【0137】
酵素的断片縮合及び環化の実施例
材料及び方法
特に記述のない限り、化学薬品は市販源から入手し、さらに精製することなく使用した。逆相カラム(Phenomenex、C18、5μmの粒子サイズ、150×4.6mm)を使用するHP1090液体クロマトグラフ上で40℃において分析的HPLCを実施した。220nmにおいてUV-VIS204リニア分光光度計を使用してUV検出を実施した。勾配プログラムは、以下のとおりであった:0から25分間まで、5%から98%の溶出剤Bのリニア勾配ランプ及び25.1から30分間まで、5%の溶出剤B(溶出剤A:HO中0.5mL/Lのメタンスルホン酸(MSA)、溶出剤Bアセトニトリル中0.5mL/LのMSA)。流速は、0から25.1分間まで、1mL/分及び25.2から29.8分間まで、2mL/分、次いで30分間における停止まで再び1mL/分であった。インジェクション容量は、20μLであった。固定相カラム(Pursuit XRs、C18、10μmの粒子サイズ、500×41.4mm)を使用するVarian PrepStarシステム上で分取HPLCを実施した。逆相カラム(Phenomenex、C18、5μmの粒子サイズ、150×4.6mm)を使用するAgilent 1200シリーズ液体クロマトグラフ上で40℃においてLC-MSを実施した。UV検出及び勾配プログラムは、分析的HPLCについて記載のとおりであった。Agilent 6130四重極LC/MSシステムを使用して分子量を決定した。
【0138】
プロトコル1:オリゴペプチド-OCam-Leu-OHエステルを下記のとおり合成した:
1グラムのFmoc-Leu-Wang樹脂(0.72mmol/グラムの負荷)をDCM(2×2分間、10mL)及びDMF(2×2分間、10mL)により洗浄し、ピペリジン/DMF(1/4、v/v、2×8分間、10mL)を使用してFmoc脱保護した。DMF(2×2分間、10mL)、DCM(2×2分間、10mL)及びDMF(2×2分間、10mL)による洗浄後、DCM(45分間、10mL)中でDCC(4当量)及びHOAt(4当量)を使用してヨード酢酸(4当量)を樹脂にカップリングさせた。DMF(2×2分間、10mL)、DCM(2×2分間、10mL)及びTHF(2×2分間、10mL)による洗浄後、DMF/THF(1/1、v/v、10mL)中で4当量のFmoc-Xxx-OH及び10当量のDiPEAを使用して50℃において20時間、樹脂にFmoc保護アミノ酸を負荷した。ここで、及び本開示の他の部分において、「Xxx」は、1つのアミノ酸(以下の実施例に属する図面に示される可変部)を意味する。
【0139】
DMF(2×2分間、10mL)、DCM(2×2分間、10mL)及びDMF(2×2分間、10mL)による洗浄後、標準的SPPSプロトコルに従ってペプチドを伸長させた(Weng C.Chan and Peter White,OUP Oxford,2000)。トリフルオロ酢酸(TFA)、トリイソプロピルシラン(TIS)及び水の混合物(95/2.5/2.5、v/v/v、15mL)を使用して樹脂からの開裂及び側鎖脱保護を120分間実施した。メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)/n-ヘプタン(1/1、v/v、50mL)を使用して粗製ペプチドを沈殿させた。沈殿したペプチドを遠心分離により回収し、MTBE/n-ヘプタン(1/1、v/v、50mL)により2回洗浄し、次いでアセトニトリル/水(1/1、v/v、50mL)から凍結乾燥させた。
【0140】
プロトコル2:オリゴペプチドC末端アミド求核剤を下記のとおり合成した:
1グラムのRink樹脂(4-((2,4-ジメトキシフェニル)(Fmoc-アミノ)メチル)フェノキシアルキルリンカー、0.64mmol/グラムの負荷)をDCM(2×2分間、10mL)及びDMF(2×2分間、10mL)により洗浄し、ピペリジン/DMF(1/4、v/v、2×8分間、10mL)を使用してFmoc脱保護した。標準的SPPSプロトコルに従ってペプチドを伸長させた(Weng C.Chan and Peter White,OUP Oxford,2000)。TFA/TIS/水の混合物(95/2.5/2.5、v/v/v、15mL)を使用して樹脂からの開裂及び側鎖脱保護を120分間実施した。MTBE/n-ヘプタン(1/1、v/v、50mL)を使用して粗製ペプチドを沈殿させた。沈殿したペプチドを遠心分離により回収し、MTBE/n-ヘプタン(1/1、v/v、50mL)により2回洗浄し、次いでアセトニトリル/水(1/1、v/v、50mL)から凍結乾燥させた。
【0141】
プロトコル3:N-アセチル保護オリゴペプチド活性化エステルを下記のとおり合成した:
プロトコル1の1つによる所望の配列のSPPS後、ピペリジン/DMF(1/4、v/v、2×8分間、10mL)を使用して樹脂結合ペプチドをFmoc脱保護した。樹脂をDMF(2×2分間、10mL)、DCM(2×2分間、10mL)及びDMF(2×2分間、10mL)により洗浄し、AcO(10容量%)、DiPEA(5容量%)、HOBt(0.2重量%)のDMF(2×10分間、10mL)中混合物を使用してペプチドN末端アミン官能基をアセチル化した。樹脂をDMF(3×2分間、10mL)及びDCM(3×2分間、10mL)により洗浄した。TFA/TIS/水の混合物(95/2.5/2.5、v/v/v、15mL)を使用して樹脂からの開裂及び側鎖脱保護を120分間実施した。MTBE/n-ヘプタン(1/1、v/v、50mL)を使用して粗製ペプチドを沈殿させた。沈殿したペプチドを遠心分離により回収し、MTBE/n-ヘプタン(1/1、v/v、50mL)により2回洗浄し、次いでアセトニトリル/水(1/1、v/v、50mL)から凍結乾燥させた。
【0142】
カップリング実施例
注:BS149-DMと示される酵素は、75~83位に対応するアミノ酸の欠失を有し、追加の突然変異Q2K、S3C、P5S、S9A、I31L、K43N、M50F、A73L、E156S、G166S、G169A、S188P、Q206C、N212G、Y217L、N218S、S221C、P225A、T254A及びQ271Eを含む配列番号2に対応する。実施例1~5において使用される全ての他の酵素は、BS149-DMのそれら全ての突然変異と、実施例に挙げられる追加の突然変異を有する。上記の技術を使用してBS149-DM及びさらなる突然変異を有する酵素を産生した。
【0143】
実施例1
P2’ポケット中の突然変異を有する様々な酵素バリアントのP1’及びP2’ポケット基質特異性のマッピング:
様々な突然変異体のP1’及びP2’ポケット基質特異性を決定するため、以下の2つの標準反応を実施した。800μLのリン酸緩衝液(100mM、pH8.0)を、100μLのトリペプチドC末端アミド原液(300μLの水中の0.01mmolの、P1’ポケットについてのH-Xxx-Leu-Arg-NH.2TFA及びP2’ポケットについてのH-Ala-Xxx-Arg-NH.2TFA)及び100μLのペンタペプチドC末端Cam-エステル原液(1200μLの水中の0.01mmolのAc-Asp-Phe-Ser-Lys-Leu-OCam.TFA)の混合物に添加した。この混合物に、5.5μgの酵素を添加し、反応混合物を室温において振盪させた(150rpm)。30分後、反応混合物の550μLのアリコートを抜き取り、500μLのMSA/水(1/99、v/v)によりクエンチし、LC-MSにより分析した。カップリング産物、加水分解したペンタペプチドC末端Cam-エステル及び残りのペンタペプチドC末端Cam-エステルピークを積分した。面積%産物は、規定の反応時間内の、産物の量を産物、加水分解したペンタペプチドC末端Cam-エステル及び残りのペンタペプチドC末端Cam-エステルの量の合計により割ったものと定義する。
【0144】
BS149-DM+222G+217F(BS149-DMGF)及びBS149-DM+222G+217F+189W/Y(BS149-DMGF+189W/Y)及びBS149-DM+222P+217H(BS149-DMPH)及びBS149-DM+222P+217H+189W(BS149-DMPH+189W)についてのP2’基質範囲を、それぞれ図1A及び1Bに示す。
【0145】
BS149-DM+222P+217H+225N+107V(BS149-DMPHNV)及びBS149-DM+222P+217H+225N+107V+F189W(BS149-DMPHNV+189W)についてのP2’及びP1’基質範囲を、それぞれ図1C及び1Dに示す。
【0146】
BS149-DM+222G+217F+225N+218N(BS149-DMGFN)及びBS149-DM+222G+217F+225N+N218D/T(BS149-DMGFN+N218D/T)についてのP2’基質範囲を、図2に示す。
【0147】
結論:突然変異F189W及びF189Yは、P2’基質範囲及びカップリング効率に関して望ましい効果を有する(図1A~1C)。
【0148】
P2’突然変異F189Wは、P1’基質範囲及びカップリング効率に関して明らかに望ましい効果を有する(図1D)。
【0149】
突然変異N218D及びN218Tは、P2’基質範囲及びカップリング効率に関して望ましい効果を有する(図2)。
【0150】
実施例2
P2’ポケット中の突然変異を有する様々な酵素バリアントのP2’ポケット基質特異性のマッピング
様々な突然変異体のP2’ポケット基質特異性を決定するため、以下の反応を実施した。最初に、基質プレミックス(20μl)を、10mMのペンタペプチドCam-エステルAc-Asp-Phe-Ser-Lys-Leu-OCam.TFA及び15mMのC末端アミドH-Ala-Xxx-Lys-Lys(DNP)Lys-NH.2TFA(DNPは、ジニトロフェニル保護基である)の最終濃度を有するそれぞれの水中原液から調製した。この混合物に、TCEP(トリス-(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩、0.1mg/ml)が補給された1Mのトリシン緩衝液pH8.5中の20μlの酵素溶液を添加した。ウェル当たり合計0.4μgの酵素を添加し、反応混合物を室温において振盪させた(150rpm)。30分後、反応混合物の10μLのアリコートを抜き取り、150μLのMSA/水(2/98、v/v)によりクエンチし、350μlの水により希釈し、LC-MSにより分析した。カップリング産物、加水分解したペンタペプチドC末端Cam-エステル及び残りのペンタペプチドC末端Cam-エステルピークを積分した。面積%産物は、規定の反応時間内の、産物の量を産物、加水分解したペンタペプチドC末端Cam-エステル及び残りのペンタペプチドC末端Cam-エステルの量の合計により割ったものと定義する。データをスクリーニングにおいて得られた最大変換率に関して100%に正規化した。
【0151】
BS149-DM+222P+217H+225N+189W(BS149-DM PHN F189W)及びBS149-DM+222P+217H+225N+189W+218D(BS149-DM PHN F189W+N218D)についてP2’基質範囲を、図5に示す。
【0152】
結論:S2’ポケット中で同定された単一の望ましい突然変異の組合せが相加効果を有し、さらにカップリング収率及びP2’基質範囲を改善する。
【0153】
実施例3
P2ポケット中の突然変異を有する様々な酵素バリアントのP2ポケット基質特異性のマッピング
様々な突然変異体のP2ポケット基質特異性を決定するため、以下の標準反応を実施した。800μLのリン酸緩衝液(100mM、pH8.0)を、100μLのトリペプチドC末端アミド原液(300μLの水中の0.01mmolのH-Ala-Leu-Arg-NH.2TFA)及び200μLのペンタペプチドC末端Cam-エステル原液(1.2mLの水中の0.01mmolのAc-Asp-Phe-Ser-Xxx-Leu-OCam.TFA+1mLのアセトニトリル)の混合物に添加した。Xxx位におけるアミノ酸が異なるこれら全てのペプチドエステルとのカップリングを実施した。
【0154】
この混合物に、5.5μgの酵素を添加し、反応混合物を室温において振盪させた(150rpm)。30分後、反応混合物の550μLのアリコートを抜き取り、500μLのMSA/水(1/99、v/v)によりクエンチし、LC-MSにより分析した。カップリング産物、加水分解したペンタペプチドC末端Cam-エステル及び残りのペンタペプチドC末端Cam-エステルピークを積分した。面積%産物は、規定の反応時間内の、産物の量を産物、加水分解したペンタペプチドC末端Cam-エステル及び残りのペンタペプチドC末端Cam-エステルの量の合計により割ったものと定義する。
【0155】
BS149-DM+222P+217H+107V(BS149-DMPHV)及びBS149-DM+222P+217H+107V+S33D/T(BS149-DMPHV+S33D/T)についてのP2基質範囲を、図3に示す。
【0156】
BS149-DM+222P+217H+107V(BS149-DMPHV)及びBS149-DM+222P+217H+107V+N62D/S/W/Y(BS149-DMPHV+N62D/S/W/Y)についてのP2基質範囲を、図4に示す。
【0157】
結論:突然変異S33D及びS33Tは、P2基質範囲及びカップリング効率に関して望ましい効果を有する。S33Tと比較してS33Dが良好である(図3)。
【0158】
突然変異N62D及びN62Sは、P2基質範囲及びカップリング効率に関して望ましい効果を有する。突然変異N62W及びN62Yは、規定の基質の集合についての優先性を有する(図4)。
【0159】
実施例4
P2ポケット中の突然変異を有する様々な酵素バリアントのP2ポケット基質特異性のマッピング
様々な突然変異体のP2ポケット基質特異性を決定するため、以下の反応を実施した。最初に、基質プレミックス(15μl)を、10mMのペンタペプチドCam-エステルAc-Asp-Phe-Ser-Xxx-Leu-OCam.TFA及び10mMのC末端アミドH-Ala-Leu-Lys-Lys(DNP)-Lys-NH2.2TFAの最終濃度を有するそれぞれの水中原液から調製した。この混合物に、TCEP(トリス-(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩、0.1mg/ml)が補給された1Mのトリシン緩衝液pH8.5中の50μlの酵素溶液を添加した。ウェル当たり合計0.25μgの酵素を添加し、反応混合物を室温において振盪させた(150rpm)。30分後、反応混合物の25μLのアリコートを抜き取り、475μLのMSA/水(2/98、v/v)によりクエンチし、500μlの水により希釈し、LC-MSにより分析した。カップリング産物、加水分解したペンタペプチドC末端Cam-エステル及び残りのペンタペプチドC末端Cam-エステルピークを積分した。面積%産物は、規定の反応時間内の、産物の量を産物、加水分解したペンタペプチドC末端Cam-エステル及び残りのペンタペプチドC末端Cam-エステルの量の合計により割ったものと定義する。
【0160】
BS149-DM+222P+217H+225N+189W+218D+107V+S33D(BS149-DMPHNWDV S33D)、BS149-DM+222P+217H+225N+189W+218D+107V+N62S(BS149-DMPHNWDV N62S)及びBS149-DM+222P+217H+225N+189W+218D+107V+S33D+N62S(BS149-DMPHNWDV S33D+N62S)についてのP2基質範囲を、図6に示す。
【0161】
結論:S2ポケット中の突然変異(33及び62位)の組合せは、明らかな相乗効果を示す。S33D+N62Sの組合せは、単一のS33D又はN62Sバリアントよりも優れている。さらに、組合せ突然変異体は、区別される特異性プロファイルも有する。
【0162】
BS149-DM+222P+217H+225N+189W+218D+107V+S33T(BS149-DMPHNWDV S33T)、BS149-DM+222P+217H+225N+189W+218D+107V+N62V/W(BS149-DMPHNWDV N62V/W)及びBS149-DM+222P+217H+225N+189W+218D+107V+S33T+N62V/W(BS149-DMPHNWDV S33T+N62V/W)についてのP2基質範囲を、図7に示す。
【0163】
結論:33及び62位の突然変異の組合せは、P2基質範囲に関して相乗効果を有する。S33T+N62V及びS33T+N62Wの組合せは、単一のS33T、N62V又はN62Wバリアントよりも優れている。
【0164】
実施例5
BS149-DMPHV及びBS149-DMPHNV+F189Wを使用する2つの断片からのエキセナチドの合成
2つ組(duplo)において、300mgのH-His-Gly-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Leu10-Ser11-Lys12-Gln13-Met14-Glu15-Glu16-Glu17-Ala18-Val19-Arg20-Leu21-OCam-Leu-OH.3TFA及び200mgのH-Phe22-Ile23-Glu24-Trp25-Leu26-Lys27-Asn28-Gly29-Gly30-Pro31-Ser32-Ser33-Gly34-Ala35-Pro36-Pro37-Pro38-Ser39-NH.2TFAを1mLのリン酸緩衝液(0.2M)中で溶解させ、水性NaOH(5M)を使用してpHを8.3に調整した。この混合物に、100μLのBS149-DMPHV(1mg/mL、実験1)又は100μLのBS149-DMPHNV+F189W(1mg/mL、実験2)を添加し、反応混合物を37℃において振盪させた(200rpm)。60分後、反応混合物を9mLのMSA/水(1/9、v/v)によりクエンチし、LC-MSにより分析した。Cam-エステル出発材料、加水分解したC末端Cam-エステル及びエキセナチド産物ピークを積分した。エキセナチド産物の量は、BS149-DMPHV(実験1)について89%(11%の加水分解)及びBS149-DMPHNV+F189W(実験2)について97%(3%の加水分解)であった。
【0165】
結論:突然変異F189Wは、カップリング効率及び反応収率に対して望ましい効果を有する。
【0166】
実施例6
BS149-DM+222P+217H+225N+107V+189Wを使用するシクロチドMcoTI-IIの合成
1mgのH-Ile-Leu-Lys-Lys-Cys-Arg-Arg-Asp-Ser-Asp-Cys-Pro-Gly-Ala-Cys-Ile-Cys-Arg-Gly-Asn-Gly-Tyr-Cys-Gly-Ser-Gly-Ser-Asp-Gly-Gly-Val-Cys-Pro-Lys-OCam-Leu-OHを1mLのリン酸緩衝液(1M)中で溶解させ、水性NaOH(5M)を使用してpHを8.3に調整した。この混合物に、10μLのBS149-DM+222P+217H+225N+107V+189W(1mg/mL)を添加し、反応混合物を周囲温度において静置しておいた。60分後、反応混合物を9mLのMSA/水(1/9、v/v)によりクエンチし、LC-MSにより分析した。Cam-エステル出発材料、加水分解したCam-エステル及び環式McoTI-II産物ピークを積分した。環式産物の量は、93%(7%の加水分解)であった。
【0167】
配列
配列番号1:サブチリシンBPN’アミノ酸-107~275をコードする野生型遺伝子
ENA|K02496|K02496.1 B.サブチリシンBPN’バシラス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)
【化3】
【0168】
配列番号2:野生型サブチリシンBPN’(成熟型)
>SUBT_BACAM サブチリシンBPN’バシラス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)成熟型1~275
【化4】
【0169】
配列番号3:Ca2+結合ループの欠失、S221突然変異(S221X)、S33、N62、F189、N218突然変異位置及びP225突然変異位置を有するサブチリシンBPN’バリアント
【化5】
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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