(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】ワークの研削方法及びシュータイプセンタレス研削盤
(51)【国際特許分類】
B24B 5/18 20060101AFI20230317BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20230317BHJP
【FI】
B24B5/18 D
B24B41/06 J
(21)【出願番号】P 2020059848
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000167222
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトマシンシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110001645
【氏名又は名称】弁理士法人谷藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桶屋 好弘
(72)【発明者】
【氏名】小倉 良延
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-001112(JP,A)
【文献】特開平10-080847(JP,A)
【文献】特開平08-229813(JP,A)
【文献】特開平06-031602(JP,A)
【文献】特開2005-205509(JP,A)
【文献】米国特許第06148248(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B5/00-7/30
B24B41/00-51/00
B23Q3/15-3/154
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁チャックにより主軸の端面側に吸着され且つシューにより回転自在に支持された円筒状のワークを回転させながら、
第1研削工程、第2研削工程を経て前記ワークの外径を砥石により研削するに際し、
前記主軸と一体に回転可能な倒れ防止ピンの外周に前記ワークを挿入して、前記倒れ防止ピンにより研削時の前記ワークの倒れを制限する
と共に、
前記第1研削工程では前記砥石の研削負荷により、前記ワークが前記電磁チャックの吸着力に抗して前記ワークと前記倒れ防止ピンとの隙間内で倒れた状態となり、
前記第1研削工程後の前記第2研削工程では前記電磁チャックの吸着力により、前記ワークが前記砥石の研削負荷に抗して前記倒れ防止ピンと略平行な吸着状態に戻る
ことを特徴とするワークの研削方法。
【請求項2】
前記シューは前記ワークの吸着側近傍を外周側から支持する
ことを特徴とする請求項1に記載のワークの研削方法。
【請求項3】
前記ワークと前記倒れ防止ピンとの隙間は微少間隙である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のワークの研削方法。
【請求項4】
前記倒れ防止ピンは非磁性体である
ことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のワークの研削方法。
【請求項5】
前記ワークは、前記電磁チャックによる吸着側の端部に周方向に連続状に形成された連続円筒部と、前記連続円筒部以外に周方向に非連続状に形成された非連続円筒部とを有する円筒体である
ことを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のワークの研削方法。
【請求項6】
電磁チャックにより主軸の端面側に吸着され且つシューにより回転自在に支持された
円筒状のワークを回転させながら、
第1研削工程、第2研削工程を経て前記ワークの外径を砥石により研削するようにしたシュータイプセンタレス研削盤において、
前記主軸
と一体に回転可能に設けられ且つ外周
に挿入され
た前記ワークの倒れを制限する倒れ防止ピンを備え
、
前記ワークは、前記第1研削工程では前記砥石の研削負荷により、前記電磁チャックの吸着力に抗して該ワークと前記倒れ防止ピンとの隙間内で倒れた状態となり、
前記第1研削工程後の前記第2研削工程では前記電磁チャックの吸着力により、前記砥石の前記研削負荷に抗して前記倒れ防止ピンと略平行な吸着状態に戻る
ことを特徴とするシュータイプセンタレス研削盤。
【請求項7】
前記シューは前記ワークの吸着側近傍を外周から支持し、
前記倒れ防止ピンは
前記主軸
の中心と同軸状である
ことを特徴とする請求項6に記載のシュータイプセンタレス研削盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向の端部側に周方向に連続状に形成された連続円筒部と、この連続円筒部以外に周方向に非連続状に形成された非連続円筒部とを有する円筒体等のワークの外径を研削するワークの研削方法、及びその研削に使用するシュータイプセンタレス研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周方向に連続状に形成された連続円筒部と、周方向に非連続状に形成された非連続円筒部とを有する円筒体等のワークの外径をセンタレス研削盤を用いて研削する場合には、そのワークが軸方向に2箇所以上の連続円筒部を有するものであれば、スルーフィードタイプのセンタレス研削盤により研削可能であるだけでなく、引用文献1に記載のようなセンタレス研削盤を用いても外径研削が可能である。
【0003】
この引用文献1に記載のセンタレス研削盤は、軸方向の両端側に連続円筒部があるワークを研削対象とするものであって、ワークの各連続円筒部に対応する二組のシューを備えており、この二組のシューによりワークをその中心回りに回転可能に支持するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
円筒体等のワークには、その用途によって種々の形状、構造のものがあるが、引用文献1のような研削方法では、軸方向の一端側に連続円筒部があり、その連続円筒部以外の全体が非連続円筒部となっているワーク等、軸方向の一端側にしか連続円筒部のないワークの場合には、その外径を研削することはできない。
【0006】
またワークの一端側にしか連続円筒部のない場合には、主軸内の電磁チャックによりワークの連続円筒部側を主軸の端面側に吸着すると共に、その端面側近傍に配置されたシューにより連続円筒部を外周側から支持して、云わばワークを片持ち状に支持した状態で外径を研削することも考えられる。
【0007】
しかし、ワークの外径研削時には、ワークの先端側に大きな研削負荷が加わるため、ワークがその研削負荷に抗しきれずに傾斜して脱落するか、又は研削負荷に抗しながらワークの吸着状態を十分に維持できる強力な電磁チャックを必要とする等の問題がある。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、研削中のワークの脱落を防止しながら安全にワークの外径を研削できるワークの研削方法及びシュータイプセンタレス研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るワークの研削方法は、電磁チャックにより主軸の端面側に吸着され且つシューにより回転自在に支持された円筒状のワークを回転させながら、第1研削工程、第2研削工程を経て前記ワークの外径を砥石により研削するに際し、前記主軸と一体に回転可能な倒れ防止ピンの外周に前記ワークを挿入して、前記倒れ防止ピンにより研削時の前記ワークの倒れを制限すると共に、前記第1研削工程では前記砥石の研削負荷により、前記ワークが前記電磁チャックの吸着力に抗して前記ワークと前記倒れ防止ピンとの隙間内で倒れた状態となり、前記第1研削工程後の前記第2研削工程では前記電磁チャックの吸着力により、前記ワークが前記砥石の研削負荷に抗して前記倒れ防止ピンと略平行な吸着状態に戻るものである。
【0010】
前記シューは前記ワークの吸着側近傍を外周側から支持してもよい。前記ワークと前記倒れ防止ピンとの隙間は微少間隙であることが望ましい。前記倒れ防止ピンは非磁性体であることが望ましい。
【0011】
前記ワークは、前記電磁チャックによる吸着側の端部に周方向に連続状に形成された連続円筒部と、前記連続円筒部以外に周方向に非連続状に形成された非連続円筒部とを有する円筒体であってもよい。
【0012】
本発明に係るシュータイプセンタレス研削盤は、電磁チャックにより主軸の端面側に吸着され且つシューにより回転自在に支持された円筒状のワークを回転させながら、第1研削工程、第2研削工程を経て前記ワークの外径を砥石により研削するようにしたシュータイプセンタレス研削盤において、前記主軸と一体に回転可能に設けられ且つ外周に挿入された前記ワークの倒れを制限する倒れ防止ピンを備え、前記ワークは、前記第1研削工程では前記砥石の研削負荷により、前記電磁チャックの吸着力に抗して該ワークと前記倒れ防止ピンとの隙間内で倒れた状態となり、前記第1研削工程後の前記第2研削工程では前記電磁チャックの吸着力により、前記砥石の前記研削負荷に抗して前記倒れ防止ピンと略平行な吸着状態に戻るものである。
【0013】
前記シューは前記ワークの吸着側近傍を外周から支持し、前記倒れ防止ピンは前記主軸の中心と同軸状であることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、主軸と一体に回転可能な倒れ防止ピンの外周にワークを挿入して、倒れ防止ピンにより研削時のワークの倒れを制限するため、研削中のワークの脱落を防止しながら安全にワークの外径を研削できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本願発明の一実施形態を示す正面断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、発明の一実施形態を図面に基づいて詳述する。
図1は研削対象であるワークWを示す。このワークWは、軸方向の一端側を除く範囲に軸方向の切り欠き部1が形成された円筒体であって、軸方向の一端側に周方向に連続状に形成された連続円筒部2と、この連続円筒部2を除く範囲に周方向に非連続状に形成された非連続円筒部3とを有する。非連続円筒部3は、周方向の一部に形成された軸方向の切り欠き部1により周方向に非連続状になっている。
【0017】
なお、ワークWは軸方向の略全長が連続円筒部2となった円筒体でもよいし、軸方向の複数箇所に連続円筒部2が設けられたものでもよい。従って、ワークWは
図1に示すような円筒体、即ち軸方向の端部側にのみ連続円筒部2があり、その連続円筒部2を除く軸方向の全体が非連続円筒部3となった円筒体に限定されるものではない。また非連続円筒部3には、周方向の複数箇所に切り欠き部1又は開口部等があってもよい。
【0018】
図2はシュータイプセンタレス研削盤10の正面断面図、
図3はシュータイプセンタレス研削盤10の側面断面図を示す。このセンタレス研削盤10は、
図2、
図3に示すように、横軸回りに回転自在に支持された主軸11と、主軸11の端面に同軸状に固定され且つワークWが取り付けられるワーク吸着体12と、ワーク吸着体12の吸着面13に主軸11と同軸状に固定され、且つ隙間14を介して外周側に挿入されたワークWの倒れを内側から制限する倒れ防止ピン15と、ワークWのワーク吸着体12側の近傍を回転自在に支持するフロントシュー16及びリアシュー17と、倒れ防止ピン15に挿入されたワークWの外径を外周側の研削面で研削する円盤状の砥石18とを備えている。
【0019】
主軸11には電磁チャック20が内蔵されており、この電磁チャック20の電磁吸着力により、倒れ防止ピン15の外周に挿入されたワークWの端面をワーク吸着体12の吸着面13に吸着し、主軸11の回転と共にワーク中心W0回りにワークWを回転させるようになっている。
【0020】
倒れ防止ピン15は電磁チャック20の吸着力よりも砥石18の研削負荷が大きい粗研削等の第1研削工程のときにワークWの倒れを内側から制限するためのものであって、ワークWの内径よりも若干小径の円柱体により構成され、ワーク吸着体12の吸着面13にねじ等の取り付け手段15aを介して固定されている。ワークWは倒れ防止ピン15の外周に微少間隙を介して挿入されている。なお、倒れ防止ピン15のワーク吸着体12からの突出長さは、ワークWの軸方向の長さと略同一程度であるが、ワークWよりも多少長くてもよいし、短くてもよい。その場合、ワークWのローディングの形態等に応じて決めるのがよい。
【0021】
ワーク吸着体12は電磁チャック20の電磁力によりワークWを吸着できるように磁性体により構成されている。しかし、倒れ防止ピン15は、電磁チャック20の電磁力によりワークWをワーク吸着体12に吸着した際にも、その電磁力によりワークWを倒れ防止ピン15の外周面に吸着しないように、非磁性体により構成されている。従って、ワークWは電磁チャック20の吸着力によりワーク吸着体12に吸着された状態でも倒れ防止ピン15の外周でワーク中心W0回りに回転可能である。
【0022】
フロントシュー16はワークWの下方に配置され、リアシュー17はワークWに対して砥石18と反対側に配置されている。フロントシュー16、リアシュー17は、取り付け台19に対してワークWの中心を通る方向16a,17aに位置調整可能に取り付けられており、このフロントシュー16、リアシュー17を適宜調整することにより、ワーク中心W0が倒れ防止ピン15のピン中心(=主軸中心)C1に対して下方で砥石18側に僅かに偏心するように設定されている。
【0023】
これによって主軸11の回転時に、この主軸11の回転に同期してワークWをフロントシュー16、リアシュー17に押し付けながらワーク中心W0回りに回転させることが可能であり、ワークWを外径基準でワーク中心W0回りに安定的に回転させることができる。
【0024】
即ち、主軸11が回転すると、ワーク中心W0は主軸中心C1との偏心量を半径として主軸中心C1回りに回転しようとする。しかし、ワークWの外周にはフロントシュー16、リアシュー17が接触しており、このシュー16,17がワークWに対してストッパとなるため、ワークWは主軸中心C1回りに回転することができない。その結果、ワークWをフロントシュー16、リアシュー17に押し付ける力が発生し続けることになり、ワークWを外径基準でワーク中心W0回りに回転させることができる。
【0025】
なお、このときワークWは、主軸中心C1に対して偏心した状態にあるため、ワーク吸着体12の吸着面13を偏心方向に滑りながら、外径基準でワーク中心W0回りに回転することになる。
【0026】
倒れ防止ピン15は、次のような外径にする必要がある。倒れ防止ピン15のピン外径をD、ワークWの内径をd、ワーク中心W0とピン中心(主軸中心)C1との上下方向の偏心量をA、ワーク中心W0とピン中心(主軸中心)C1との砥石方向の偏心量をBとした場合、倒れ防止ピン15のピン最大外径Dmaxは1)式となり、ピン最小外径Dminは2)式となるため、倒れ防止ピン15のピン外径Dは3)式となる。
ピン最大外径Dmax<d-2√(A2 +B2) ・・・・1)式
ピン最小外径Dmin>d-2C ・・・・2)式
d-2C<ピン外径D<d-2√(A2 +B2) ・・・・3)式
【0027】
フロントシュー16、リアシュー17の調整に際して、ワークWの仕上げ寸法のワーク中心W0とピン中心(主軸中心)C1との上下方向の偏心量がAとなり、ワーク中心W0とピン中心(主軸中心C1)との砥石方向の偏心量がBとなるように調整する。主軸11が右回り(時計回り)に
図2のf矢示方向に回転すると、ワークWはフロントシュー16、リアシュー17に押し付けられながら、主軸11と同期して右回りに回転する。偏心量A、Bは、ワークWの大きさや研削代により決定される。
【0028】
倒れ防止ピン15の外周にワークWを挿入した状態において、倒れ防止ピン15はワークWの内径と接触してはいけないから、倒れ防止ピン15の外径は、ワークWの内径より、ワーク中心W0とピン中心C1との偏心量(√(A2 +B2))だけ半径を小さくする必要がある。従って、倒れ防止ピン15のピン最大外径Dmaxは、1)式に示すように、ワーク内径dから偏心量の2倍を引いた値よりも小さくする。
【0029】
一方、
図4に示すように、倒れ防止ピン15のない状態でワークWを右回りにf矢示方向に回転させて、ワークWのワーク吸着体12と反対の先端側に砥石18の切込み方向18aに荷重をかけながら、ワークWが電磁チャック20の吸着力に抗して
脱落するまでの倒れ量を測定する。
【0030】
そして、ワークWを砥石18の切込み方向18aに押して倒れ量がCになったときに、そのワークWがワーク吸着体12から脱落したと仮定すると、その倒れ量Cは直径の半分の半径分であるから、倒れ防止ピン15のピン最小外径Dminは、2)式に示すように、ワーク内径dから直径分の2Cを引いた値よりも大きくする。なお、倒れ量Cは電磁チャック20の吸着力の大小によって異なる。
【0031】
これら1)式及び2)式の結果、
図5に示すようにワークWに対して切込み方向(g矢示方向)に大きな研削負荷L1が加わった場合に、ワークWが電磁チャック20の吸着力に抗して倒れ防止ピン15により制限される角度まで倒れ、また
図6に示すようにワークWに対する切込み方向(g矢示方向)の研削負荷L2が低下した場合に、電磁チャック20が研削負荷L2に抗してワークWをワーク吸着体12に再吸着可能にするためには、倒れ防止ピン15は3)式を満足する太さのものを使用する必要がある。
【0032】
砥石18はワークWに対してワーク中心W0を通る方向に往復移動可能である。砥石18の軸方向の厚みは、ワークWの軸方向の長さ以上である。
【0033】
ワークWの外径研削に際しては、
図2に示すように、ワークWを連続円筒部2側から倒れ防止ピン15の外周に挿入し、電磁チャック20によりワークWの連続円筒部2の端面の全周をワーク吸着体12の吸着面13に吸着する。なお、ワークWの倒れ防止ピン15の外周に対する挿入は、ロボット等を用いて行えば安全である。
【0034】
主軸11をf矢示方向に時計回りに回転させると、ワーク中心W0が主軸中心C1に対して下方側に砥石18側の所定の偏心量で偏心しているため、ワークWは電磁チャック20の電磁力によりワーク吸着体12に吸着された状態で、その連続円筒部2がフロントシュー16、リアシュー17に押さえ付けられながら、主軸11の回転に同期してワーク中心W0回りに時計回りに回転する。この時点ではワークWは倒れ防止ピン15と接触していない。
【0035】
第1研削工程では、h矢示方向に回転する砥石18を研削開始位置からワークW側へと速い粗研削速度でg矢示方向に切り込みながら、砥石18の外周側の研削面でワークWの外径を粗研削する。
【0036】
この第1研削工程において、砥石18を粗研削速度でワークWに切り込む粗研削を開始すると、電磁チャック20の電磁力によりワーク吸着体12に吸着され、またワーク吸着体12の近傍がシュー16,17により支持された状態にあるワークWに対して、
図5に示すように、そのシュー16,17から離れた位置に砥石18の大きな研削負荷L1が切込方向に加わるため、その研削負荷L1でワークWがワーク吸着体12の吸着面13から離れて傾いてしまう。
【0037】
しかし、ワークW内には倒れ防止ピン15があるため、ワークWは倒れ防止ピン15との隙間14の範囲内で倒れるだけであり、連続円筒部2の端面の砥石18と反対側の一部がワーク吸着体12の吸着面13に当接した状態にあるので、ワークWは倒れた状態のままで電磁チャック20の電磁力により吸着されており、ワーク吸着体12から脱落することはない。従って、倒れた状態のままでワークWの粗研削を継続することができる。
なお、ワークWの倒れ角度は、ワークWと倒れ防止ピン15との間が微少間隙であるため、ワークWの外径の粗研削に影響しない程度である。
【0038】
第1研削工程の終了後に第2研削工程に移行して、回転状態の砥石18を粗研削速度よりも遅い仕上げ研削速度で切り込む。この第2研削工程では、砥石18をワークWに対して遅い仕上げ研削速度で切り込むため、ワークWに対する砥石18の研削負荷L2が小さくなり、電磁チャック20の吸着力が研削負荷L2よりも大になるので、
図6に示すように、ワークWの連続円筒部2の端面の全周がワーク吸着体12に吸着されて正常な吸着状態に戻る。
【0039】
第2研削工程では、正常な吸着状態でワークWの仕上げ研削を実行した後、砥石18の移動を停止させて砥石18の回転状態でスパークアウトを行い、その後に回転状態の砥石18を研削開始位置まで反g矢示方向に戻し、電磁チャック20によるワークWの吸着を解除して、研削後のワークWを倒れ防止ピン15の外周から抜き取る。これによってワークWの外径研削の一連の作業が終了する。なお、第2研削工程では、仕上げ研削とスパークアウトとを経てワークWの外径を中心軸と平行に研削して、要求仕様の研削精度に仕上げる。
【0040】
このようなワークWの研削方法を採用すれば、ワークWが軸方向の一端側にのみ連続円筒部2を有する円筒体であるにも拘わらず、研削中にワークWが倒れて飛び出すようなこともなくなり、安全性の向上を図りながらワークWを要求仕様の研削精度に研削することができる。
【0041】
また研削中のワークWの脱落によるシュー16,17や砥石18の破損を防止することができる。更に主軸11と倒れ防止ピン15とが一体に回転するため、ワークWの回転不良による傷の発生を防止することができる。
【0042】
更に大きな研削負荷L1が加わる第1研削工程ではワークWが倒れた状態となり、その後に小さい研削負荷L2が加わる第2研削工程では、ワークWが正常な吸着状態に戻ればよいので、大きな研削負荷L1が加わる第1研削工程でも、電磁チャック20にはワークWを常時正常な吸着状態に保つような強力なものを使用する必要がなく、装置の小型化を図ることができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。主軸11に内蔵の電磁チャック20は、ワークWの粗研削の第1研削工程ではワークWを倒れた状態で脱落しないように吸着状態を維持でき、粗研削後の仕上げ研削の第2研削工程では、ワークWを正規状態に吸着でき、しかもワーク吸着体12に対して偏心回転を許容できる程度の電磁力を有するものであればよい。
【0044】
また倒れ防止ピン15を主軸11の端面側にワーク吸着体12を介して間接的又は直接的に設ける場合、倒れ防止ピン15のピン中心C1上に取り付け手段15aを設けることが望ましいが、取り付け手段15aに代えて他の手段を用いてもよい。
【0045】
シュー16,17はワークWのワーク吸着体12の吸着面13の極近傍を外周側から支持することが望ましいが、第1研削工程での研削負荷L1により、ワークWの端面の一部がワーク吸着体12の吸着面13に接触した状態で倒れるならば、ワーク吸着体12の吸着面13から多少離れた位置にシュー16,17を配置することも可能である。
【0046】
ワークWと倒れ防止ピン15との隙間14は、原則的には微少間隙であるが、その隙間14の大小は、電磁チャック20の吸着力の大小、ワークWの長さの長短、倒れ防止ピン15の長さの長短等を考慮して具体的に決定する必要がある。例えば倒れ防止ピン15に対してワークWの長さが長い場合には、隙間14を小さくする必要がある。
【0047】
ワーク中心W0と主軸中心(ピン中心)C1との偏心量は、主軸11の回転により、ワークWに対してシュー16,17側への押し付け力を発生させながら、ワークWがワーク中心W0回りに回転できる程度であれば十分である。
【0048】
また実施形態では、粗研削と仕上げ研削とに分けて、粗研削を第1研削工程とし、仕上げ研削を第2研削工程として説明したが、第1粗研削とその後の第2粗研削とを第1研削工程とし、中間研削とその後の仕上げ研削を第2研削工程とする等、研削負荷の大小に応じて適宜組み合わせを変更することも可能である。
【符号の説明】
【0049】
W ワーク
2 連続円筒部
3 非連続円筒部
10 シュータイプセンタレス研削盤
11 主軸
12 ワーク吸着体
13 吸着面
14 隙間
15 倒れ防止ピン
16 フロントシュー
17 リアシュー
18 砥石
20 電磁チャック