(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】虚血性疾患の治療及び/又は予防の為の細胞製剤、及び、その細胞製剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/15 20150101AFI20230317BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
A61K35/15
A61P9/10
(21)【出願番号】P 2020505062
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2019008701
(87)【国際公開番号】W WO2019172279
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2018041841
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300061835
【氏名又は名称】公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 明彦
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】TAGUCHI, A. et al.,Stem Cells Dev,2015年,Vol.24, No.19,p.2207-18
【文献】TAGUCHI, A. et al.,Eur J Vasc Endovasc Surg,2003年,Vol.25, No.3,p.276-8
【文献】KOCH, S. et al.,Transfusion,2015年,Vol.55, Suppl.3,p.60A
【文献】ASSMUS, B. et al.,J Am Coll Cardiol,2010年,Vol.55, No.13,p.1385-94
【文献】SAVITZ, S.I. et al.,Ann Neurol,2011年,Vol.70, No.1,p.59-69
【文献】HONMOU, O. et al.,Brain,2011年,Vol.134,p.1790-807
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血性疾患の治療及び/又は予防のための細胞製剤であって、
正常形態の白血球と、赤血球、変形細胞、血小板及び凝集塊からなる群から選択される少なくとも一つを含む目的外成分
と、からなり、
前記白血球と前記目的外成分とがその割合において、目的外成分数/白血球細胞数
≦10.6%であることを特徴とする細胞製剤。
【請求項2】
前記目的外成分に凝集塊を含まないことを特徴とする請求項
1に記載の細胞製剤。
【請求項3】
前記虚血性疾患は、脳梗塞、心筋梗塞、四肢虚血、腎梗塞、肺梗塞、脾梗塞、腸管梗塞、Buerger病、脳血管性認知症、糖尿病性腎症微小循環障害、又は、糖尿病性心不全であることを特徴とする請求項
1に記載の細胞製剤。
【請求項4】
虚血性疾患の治療及び/又は予防のための細胞製剤のスクリーニング方法であって、
正常形態の白血球と、赤血球、変形細胞、血小板及び凝集塊からなる群から選択される少なくとも一つを含む目的外成分
と、からなり、
前記白血球と前記目的外成分とがその割合において、目的外成分数/白血球細胞数
≦10.6%であるものをスクリーニングする工程を有する細胞製剤のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記目的外成分に凝集塊を含まないことを特徴とする請求項
4に記載の細胞製剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記虚血性疾患は、脳梗塞、心筋梗塞、四肢虚血、腎梗塞、肺梗塞、脾梗塞、腸管梗塞、Buerger病、脳血管性認知症、糖尿病性腎症微小循環障害、又は、糖尿病性心不全であることを特徴とする請求項
5に記載の細胞製剤のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血性疾患の治療及び/又は予防の為の細胞製剤、及び、その細胞製剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
虚血性疾患は、臓器を栄養する動脈の閉塞又は狭窄のため臓器の虚血を来たし、組織が酸素又は栄養の不足のため壊死又は機能不全になる疾患であり、心筋梗塞、四肢虚血、脳梗塞、腎梗塞、肺梗塞、脾梗塞、腸管梗塞、脳血管性認知症等、多岐にわたる疾患が存在する。
【0003】
虚血性疾患により障害された組織の機能回復には、微小血管網の保護/活性化が重要であり、近年この機能回復には細胞移植が有効であることが示唆されている。虚血性疾患のモデル動物を用いた非特許文献1には、心筋梗塞に対する、比重遠心法で得られた骨髄幹細胞の投与が、心臓の微小血管網の血管密度を増加し心機能の向上をもたらすことが記載されている。虚血性疾患のモデル動物を用いた非特許文献2には、四肢虚血に対する、比重遠心法で得られた骨髄幹細胞の投与が、四肢の微小血管網の血管密度を増加し虚血症状の改善をもたらすことが記載されている。また虚血性疾患のモデル動物を用いた非特許文献3には、脳梗塞に対する、比重遠心法で得られた骨髄幹細胞の投与が、微小血管網の脳の血管密度を増加し神経機能の向上をもたらすことが記載されている。
【0004】
一方、虚血性疾患患者において、比重遠心法で得られた骨髄幹細胞の投与は、高い頻度で全く治療効果を有さないことが知られている。虚血性疾患患者に対する臨床試験に関する非特許文献4では、心筋梗塞患者に対する比重遠心法で得られた骨髄幹細胞の投与が、全く治療効果を有していないことが示されている。なお、非特許文献5では、投与細胞に混入する赤血球が治療効果を阻害する原因である可能性を指摘していたが、その仮説を基に実施された非特許文献4の臨床試験では、赤血球の混入を防止しても比重遠心法で得られた骨髄幹細胞の投与は臨床的な治療効果がないことが示されている。虚血性疾患患者に対する臨床試験に関する非特許文献6では、四肢虚血患者に対する比重遠心法で得られた骨髄幹細胞投与において、動脈硬化性四肢虚血患者症例では骨髄幹細胞投与後に全症例において虚血の悪化による虚血肢の切断あるいは突然死していることが示されている(文献内の症例2,3,4及び6)。虚血性疾患患者に対する臨床試験に関する非特許文献7では、脳梗塞患者に対する比重遠心法で得られた骨髄幹細胞の投与が、全く治療効果を有していないことが示されている。
【0005】
上述の通り、動物実験においては比重遠心法で得られた骨髄幹細胞は著効を示すことが多いものの、虚血性疾患患者においては、比重遠心法で得られた骨髄幹細胞の投与では、非常に高い頻度で治療効果が全く得られないノンレスポンダーが発生する。以上のことより、より多くの患者に十分な有効性を示す治療用細胞を供給することは非常に重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Autologous transplantation of bone marrow mononuclear cells improved heart function after myocardial infarction. Lin et al. Acta Pharmacol Sin 2004 Jul; 25 (7): 876-886
【文献】Toward a mouse model of hind limb ischemia to test therapeutic angiogenesis. Brenes RA, et al. J Vasc Surg. 2012 Dec;56(6):1669-1679;
【文献】Bone marrow mononuclear cells promote proliferation of endogenous neural stem cells through vascular niches after cerebral infarction. Nakano-Doi et al. Stem Cells. 2010 Jul;28(7):1292-302.
【文献】Effect of the use and timing of bone marrow mononuclear cell delivery on left ventricular function after acute myocardial infarction: the TIME randomized trial. Traverse JH, et al.JAMA. 2012 Dec 12;308(22):2380-2389.
【文献】Red blood cell contamination of the final cell product impairs the efficacy of autologous bone marrow mononuclear cell therapy.Assmus B, et al.J Am Coll Cardiol. 2010 Mar 30;55(13):1385-1394.
【文献】Safety and efficacy of autologous progenitor cell transplantation for therapeutic angiogenesis in patients with critical limb ischemia.Kajiguchi M, et al.Circ J. 2007 Feb;71(2):196-201.
【文献】Intravenous autologous bone marrow mononuclear stem cell therapy for ischemic stroke: a multicentric, randomized trial.Prasad K,Stroke. 2014 Dec;45(12):3618-3624.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
虚血性疾患のモデル動物を用いた基礎研究では、比重遠心法で得られた骨髄幹細胞の投与は治療効果を有することが示される一方、虚血性疾患を有する患者に対する比重遠心法で得られた骨髄幹細胞の投与では、非常に高い頻度で治療効果が全く得られないノンレスポンダーが存在する。本発明では、虚血性疾患のモデル動物を用いた基礎研究で有効な骨髄由来幹細胞を提供することではなく、実際の虚血性疾患を有する患者を対象とした医学的治療において、十分な治療効果を有する細胞製剤を提供することを目的とする。また、実際の虚血性疾患を有する患者を対象とした医学的治療において、十分な治療効果を有する細胞製剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる細胞製剤は、正常形態の白血球と、赤血球、変形細胞、血小板及び凝集塊からなる群から選択される少なくとも一つを含む目的外成分とが、その割合において、目的外成分数/白血球細胞数が所定値以下であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる細胞製剤のスクリーニング方法は、正常形態の白血球と、赤血球、変形細胞、血小板及び凝集塊からなる群から選択される少なくとも一つを含む目的外成分とが、その割合において、目的外成分数/白血球細胞数が所定値以下であるものをスクリーニングする工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、虚血性疾患を有する患者に対して、十分な効果を発揮する治療及び/又は予防の為の細胞製剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】A:症例1における投与細胞懸濁液の位相差顕微鏡写真である。白枠B,Cはそれぞれ
図1Bおよび
図1Cの場所を示す。B: フィブリン網などで形成されていると考えられる凝集塊が観察された。C: 位相差顕微鏡の焦点を上下させて検鏡することにより、治療効果を期待している白血球細胞ではない、明らかに変形している細胞等が多数観察された。(1)はアポトーシスと考えられる原因により細胞質が凝縮しており、治療効果を期待している細胞機能を有する白血球とは明らかに異なる細胞である。(2)は細胞全体の形状が既に崩壊し始めており細胞種類の同定は困難であるが、治療効果を期待している白血球とは明らかに異なる細胞である。(3)は細胞膜の一部がすでに破たんしており、治療効果を期待している白血球とは明らかに異なる細胞である。(4)は赤血球と考えられ、治療効果を期待している白血球とは明らかに異なる細胞である。(5)は血小板と考えられ、治療効果を期待している白血球とは明らかに異なる。
【
図2】白血球細胞等のカウント方法の説明図。図で示したように、一辺0.2mmの正方形をランダムに12視野選択し、その中に存在している白血球細胞、目的外細胞、血小板、のそれぞれの数をカウントした。
【
図3】症例2における投与細胞懸濁液の位相差顕微鏡写真。症例1に見られたような凝集塊は観察されず、治療効果を期待している細胞以外の細胞・血小板の混入は、症例1に比し明らかに少なかった。
【
図4】症例3における投与細胞懸濁液の位相差顕微鏡写真。症例1に見られたような凝集塊は観察されず、治療効果を期待している細胞以外の細胞・血小板の混入は、症例1に比し明らかに少なかった。
【
図5】各症例における目的白血球に対する目的外細胞の混入比率を図で示した。治療効果が観察されなかった症例1に比し、治療効果が観察された症例2及び症例3において、統計学的にも有意に目的外細胞の混入が少なかった。
【
図6】各症例における目的白血球に対する血小板の混入比率を図で示した。治療効果が観察されなかった症例1に比し、治療効果が観察された症例2及び症例3において、統計学的にも有意に血小板の混入が少なかった。
【
図7】目的外成分の比率の違いによる白血球懸濁液の脳再生促進効果の発現を示す図である。目的外成分比率が異なる白血球懸濁液投与1ヶ月後の[脳梗塞を作った側の脳の面積]/[脳梗塞を作らなかった健常側の面積](梗塞側/健常側面積(%))を比較したものである。生理食塩水投与群(生食)に比し、目的外成分数/白血球細胞数が25%であった白血球懸濁液を投与した群(25%)は、統計学的に有意な脳再生促進効果を認めた。一方、目的外成分数/白血球細胞数が100%以上であった白血球懸濁液を投与した群(100%以上)は、有意な治療効果を認めなかった。
【
図8】脳再生促進効果及び虚血周囲領域(脳梗塞巣の外側)における炎症反応に対する細胞外成分の混入の影響を示す図である。A:目的外成分数/白血球細胞数が25%である白血球懸濁液を投与した脳梗塞モデルマウスの虚血周囲領域を抗CD11b抗体で染色した像である。B: 目的外成分数/白血球細胞数が100%以上である白血球懸濁液を投与した個体の虚血周囲領域を抗CD11b抗体で染色した像である。目的外成分の混入割合が多い白血球懸濁液を投与した個体では、CD11b陽性のマイクログリア/マクロファージの活性化が起こっており、炎症が惹起されていることが分かる。
【
図9】目的外成分数/白血球細胞数が35%である白血球懸濁液を投与した脳梗塞モデルマウスにおける虚血周囲領域(脳梗塞巣の外側)の炎症反応を示す図である。目的外成分数/白血球細胞数が35%である白血球懸濁液は、炎症反応を惹起していないことが分かる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0013】
例えば骨髄液から赤血球を除去する方法には、大別して機器を使う機械的手法と手作業との2つがある。赤血球の混入が少ないのは手作業によるものであるが、汎用されているのは機器を使用する機械的手法である。なお、赤血球の混入を防止した骨髄幹細胞の投与は臨床的な治療効果は十分ではないことは前述の通りである。
【0014】
本発明者は、虚血性疾患を有する患者に対する骨髄由来幹細胞の投与において、血管再生のための主たる目的成分は単核球であるが、細胞懸濁液に混入する目的外成分が多量に存在する場合には、著しく治療効果が減弱するという驚くべき新知見を見出し、かかる事実に基づいて本発明を完成させた。
【0015】
ここで白血球は顆粒球及び単核球ならびにそれらに分化する未成熟細胞(造血幹細胞、前駆細胞、リンパ芽球、単芽球、骨髄芽球など)に分けられるが、本明細書において目的成分とは、正常形態の白血球、すなわちアポトーシスと考えられる原因により細胞全体の凝縮が観察される細胞、細胞全体の形状が崩壊し細胞種類の同定が困難な細胞および細胞膜の一部あるいは全部が破たんしている細胞を除く白血球、である。好ましくは、目的成分は、造血幹細胞を含む正常な形態の白血球(好ましくは単核球)集団である。そして目的外成分とは、(a)目的外細胞と、(b)血小板と、(c)凝集塊と、からなる群から選択される少なくとも一つを含む成分である。なお、目的外成分は、赤血球、変形細胞、血小板及び凝集塊の混合物とすることも可能である。目的外細胞とは、(i)赤血球、及び/又は、(ii)白血球若しくは赤血球が変形した変形細胞である。凝集塊とは、フィブリンと、そのフィブリンに結合した活性化血小板及び/又は変性血球細胞とから構成される塊状物である。また、本明細書において、「骨髄幹細胞」及び「骨髄由来幹細胞」はいずれも、骨髄由来の造血幹細胞を意味する。
【0016】
即ち、本発明にかかる細胞製剤は、正常形態の白血球と目的外成分とが、その割合において、目的外成分数/白血球細胞数が所定値以下であることを特徴とする、造血幹細胞を含む細胞製剤を意味し、該白血球細胞数には、造血幹細胞数も含まれる。造血幹細胞は、CD34陽性細胞を意味し、細胞の由来(例:骨髄由来、臍帯血由来)は特に限定されない。
【0017】
後述の実施例において根拠は示されているが、正常形態の白血球と目的外成分とが、その割合において、目的外成分数/白血球細胞数≦35.0%であることが好ましい。また目的外成分数/白血球細胞数≦20.0%であることがより好ましい。また目的外成分数/白血球細胞数≦14.0%であることが更に好ましい。目的外成分数/白血球細胞数≦37.0%、25.0%、12.0%、10.6%、又は8.3%であることもまた好ましい。また、不可避的に細胞製剤に混入してしまう目的外成分の中でも特に凝集塊が混入していると治療効果の減弱が著しいため、目的外成分に凝集塊が極力存在しないことが好ましい。例えば、凝集塊数/白血球細胞数≦1.0%であることが好ましい。前記実施例は、骨髄由来の造血幹細胞を含む細胞製剤を用いたものであるが、骨髄由来の造血幹細胞以外の造血幹細胞、例えば臍帯血由来の造血幹細胞を含む細胞製剤を用いた場合でも、目的外成分の混入により細胞製剤の治療効果が減弱されると予期されるため、上記目的外成分数/白血球細胞数の割合は、骨髄由来の造血幹細胞以外の造血幹細胞を含む細胞製剤においても適用され得る。また、後述の実施例で得られた白血球細胞には、顆粒球が含有されるとしてもその数は単核球の数よりも十分に少ないと考えられること、及び治療効果を発揮する目的成分は主として造血幹細胞を含む単核球であると考えられることから、上記割合における白血球細胞数は、造血幹細胞を含む単核球細胞数と置き換えることができる。
【0018】
本発明にかかる細胞製剤は、虚血性疾患の治療及び/又は予防の為のものであるが、本明細書において、「治療」には、症状を治癒すること、症状を改善すること及び症状の進行を抑えることが含まれる。一方、「予防」には疾患の発症を抑えること及び遅延させることが含まれ、疾患になる前の予防だけでなく、治療後の疾患の再発に対する予防も含まれる。
【0019】
後述の実施例において、本発明にかかる細胞製剤は、少なくとも1つの効果として、組織損傷の再生過程に有害である、脳虚血における虚血周囲領域での炎症反応を低減することで、組織損傷の再生を促進することを実証している。脳虚血だけでなく虚血性疾患全般において、虚血周囲領域で炎症反応が惹起されることが知られているため、本発明にかかる細胞製剤は、虚血性疾患全般において効果を発揮し得る。従って、本発明にかかる細胞製剤は、虚血性疾患を対象としており、対象となる疾患は、例えば脳梗塞、心筋梗塞、四肢虚血、腎梗塞、肺梗塞、脾梗塞、腸管梗塞、Buerger病、脳血管性認知症、糖尿病性腎症微小循環障害、糖尿病性心不全等である。また、本発明にかかる細胞製剤を哺乳動物(治療及び/又は予防の対象とする動物)に投与する、上記虚血性疾患の治療及び/又は予防方法も、本発明に含まれる。該動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒト)が挙げられ、好ましくはヒトである。
【0020】
また、本発明にかかる細胞製剤は、超急性期、急性期、亜急性期、及び、慢性期の何れにおいても使用可能であるが、急性心筋梗塞や脳梗塞等、急性発症する虚血性疾患に対しては特に急性期及び亜急性期において好適に使用可能である。ここで、超急性期は発症してから8時間以内の期間であり、ステント術や血栓溶解療法、血栓除去等により組織細胞死を阻止できる可能性が高い時期である。急性期は発症してから8時間~2日以内の期間であり、亜急性期は発症してから2日~2週以内の期間である。慢性期は発症してから2週以上の期間である。一方、慢性循環障害による四肢虚血等、慢性的に経過する虚血性疾患に対しては、時期に関係なく好適に使用可能である。投与経路は、静脈内投与、動脈内投与、門脈内投与、局所組織投与が好適である。
【0021】
投与される目的成分としての細胞数は、特に限定されるものではないが、静脈内投与においては例えば1×105個/kg~1×109個/kgとすることができ、好適には1×106個/kg~5×108個/kgであり、特に好適には2×108個/kgである。
【0022】
本発明においては、更に血管再生促進因子を含有することも可能である。血管再生促進因子は、特に限定されるものではないが、例えば、VEGF、アンジオポエチン(angiopoietin)、PDGF、TGF-β、FGF, PlGF、マトリックスメタロプロテアーゼ、プラスミノーゲンアクチベータ等を使用することができるが、好ましくはangiopoietinである。angiopoietinは、脈管形成(vasculogenesis)あるいは血管新生(angiogenesis)を促進する糖タンパク質の成長因子であり、angiopoietinには、アンジオポエチン1(Ang1)、アンジオポエチン2(Ang2)、アンジオポエチン3(Ang3)、アンジオポエチン4(Ang4)の4種類があるだけでなく、類似のタンパク質として6種類のアンジオポエチン関連タンパク質(ANGPTL:angiopoietin-related protein、または、angiopoietin-like protein)がある。
【0023】
本発明にかかる細胞製剤を注射用製剤とする場合は、当技術分野で通常使用されている添加剤を適宜用いることができる。添加剤としては、例えば、等張化剤、安定化剤、緩衝剤、保存剤、キレート剤、又は抗酸化剤等が挙げられる。等張化剤としては、例えば、ブドウ糖、ソルビトール、マンニトール等の糖類、塩化ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。安定化剤としては、例えば亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤等が挙げられる。保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、ベンジルアルコール、クロロクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0024】
本発明にかかる細胞製剤の製造方法は、目的外成分数/白血球細胞数が所定値以下とするものであれば特に限定されるものではないが、例えば機器を使用する機械的手法によるものが可能である。具体的には、遠心分離媒体と血液試料とが注入された容器を遠心分離させる遠心分離手段と、遠心分離後に単核球層(単核球が存在する層であるバフィーコート層)に存在する目的外成分を検出する検出手段と、検出されたその目的外成分を除去する除去手段と、目的外成分数/白血球細胞数の割合をカウントする手段と、を有する分離装置を使用することが可能である。
【0025】
検出手段は、容器内の単核球層を鉛直上方方向から撮影する上部撮影手段と、容器内の単核球層を水平方向から撮影する側部撮影手段と、上部撮影手段により撮影して得られた画像及び側部撮影手段により撮影して得られた画像から得られる形状情報に基づいて単核球層に存在する目的外成分の位置情報を検知する位置情報検知手段と、を備える。後述の実施例でも記載しているが、目的外細胞、血小板及び凝集塊は形状情報に基づいて、正常形態の白血球と区別して識別することができる。また目的外成分数/白血球細胞数の割合は、一定範囲内における目的外成分数/白血球細胞数をカウントして所定値以下であることが確認される。
【0026】
本発明にかかる細胞製剤のスクリーニング方法は、正常形態の白血球と目的外成分とが、その割合において、目的外成分数/白血球細胞数が所定値以下であるものをスクリーニングする工程を有する。本発明にかかるスクリーニング方法によれば、実際の虚血性疾患患者に細胞製剤を投与する前に、十分な治療効果を有するか否かを評価できるため、虚血性疾患の治療に大きな効果を発揮することができる。
【実施例】
【0027】
(症例1)凝血塊、目的外細胞、血小板の混入が多いことによる、比重遠心法で得られた骨髄幹細胞移植治療における治療効果の消失
【0028】
発症8日後の重症脳梗塞患者より、骨髄細胞を25ml採取し、Ficoll-Paque Premiumを用いた比重遠心法によって骨髄由来の造血幹細胞を含む白血球細胞集団を分離し、分離した造血幹細胞を含む白血球懸濁液を経静脈的に投与した。細胞投与直前においては、脳梗塞重症度を示すNational Institutes of Health Stroke Scale (NIHSS:点数が高いほど重症)は13点であった。
【0029】
投与細胞の位相差顕微鏡写真を
図1に示す。位相差顕微鏡とは、光線の位相差をコントラストに変換して観察できる光学顕微鏡のことであり、標本を非侵襲的に観察することができるため、特に生物細胞を詳細に観察する場合に多く用いられる。細胞観察には、Digital Bio社製のディスポーザブル細胞計算盤(C-Chipノイバウエル改良型)を用い、細胞計算盤に細胞懸濁液を注入後直ちに検鏡した。
図1に示されているように、治療効果を期待している明らかな変性がない白血球細胞以外の成分、例えば凝集塊(
図1B)、目的外細胞および血小板(
図1C)の混入が見られた。なお治療効果を期待している白血球は直径約7-25μmの球体であり、位相差顕微鏡を使った観察時には顕微鏡の焦点を上下に動かしながら細胞の全体像を検鏡することができるため、白血球と目的外成分との違いを区別することは困難ではない。
【0030】
次に、白血球細胞と目的外細胞との細胞数比率、及び白血球細胞と血小板との細胞数比率の検討を行った(なお、凝集塊の個数と血小板の個数とを合わせて血小板数として計算した。)。その方法は
図2に示すようにディスポーザブル細胞計算盤の一辺0.2mmの正方形中に存在している白血球細胞、目的外細胞、血小板、のそれぞれの数を、ランダムに選んだ12視野でカウントした。その結果、白血球細胞に対する目的外細胞の混入割合、即ち目的外細胞数/白血球細胞数は42.1±6.4%(平均±標準誤差、以下同じ)であり、同様に白血球細胞に対する血小板の混入割合、即ち血小板数/白血球細胞数は25.5±5.2%であった。
【0031】
本症例では、投与した白血球細胞数は2.7x108個であった。臍帯血由来の造血幹細胞を含む白血球細胞集団を用いた動物実験では、造血幹細胞であるCD34陽性細胞が重要な治療効果を担っているとされている (Taguchi et al. J Clin Invest. 2004;114(3):330-8) が、投与細胞中のCD34陽性細胞の頻度は1.19%であった。
【0032】
退院時(細胞投与1カ月後)のNIHSSは13点であった。他の脳梗塞重症度を示すJapan Stroke Scale(JSS:点数が高いほど重症)は12.76点であった。更に日常生活能力を示すBarthel Index (BI:点数が高いほど日常生活能力が高い)は20点であった。
【0033】
細胞投与3カ月後のNIHSSは12点であり、細胞投与直前との比較で改善度は1点、退院時との比較でも改善度は1点であった。またJSSの細胞投与3カ月後点数は14.82点であり、退院時との比較では2.06点の悪化であった。またBIの細胞投与3カ月後点数は15点であり、退院時との比較では5点の悪化であった。
【0034】
以上の結果より、白血球細胞以外の凝血塊、目的外細胞、血小板等が多量に混入している骨髄幹細胞の投与では、十分な治療効果が得られないことが判明した。
【0035】
(症例2)凝血塊、目的外細胞、血小板の混入が極めて少ないことによる、比重遠心法で得られた骨髄幹細胞の投与による治療効果の発現
【0036】
発症8日後の重症脳梗塞患者より、骨髄細胞を25ml採取し、Ficoll-Paque Premiumを用いた比重遠心法によって骨髄由来の造血幹細胞を含む白血球集団を分離し、分離した造血幹細胞を含む白血球懸濁液を経静脈的に投与した。細胞投与直前においては、脳梗塞重症度を示すNIHSSは15点であった。
【0037】
投与細胞の位相差顕微鏡写真を
図3に示す。症例1で見られたような凝血塊は観察されず、また目的外細胞や血小板の混入も明らかに少なかった。
【0038】
次に、白血球細胞数、目的外細胞数、血小板数を、ランダムに選んだ12視野でカウントした。その結果、目的外細胞数/白血球細胞数は1.8±1.0%、血小板数/白血球細胞数は6.5±2.7%であった(なお、凝集塊の個数と血小板の個数とを合わせて血小板数として計算した。)。
【0039】
本症例では、投与白血球細胞数は2.4x108個であった。動物実験では造血幹細胞であるCD34陽性細胞が重要な治療効果を担っているとされているが、投与細胞中のCD34陽性細胞の頻度は1.70%であった。
【0040】
退院時(細胞投与1カ月後)のNIHSSは10点であった。他の脳梗塞重症度を示すJSSは5.23点であった。更に日常生活能力を示すBIは30点であった。
【0041】
細胞投与3カ月後のNIHSSは7点であり、細胞投与直前との比較で改善度は8点、退院時との比較では改善度は3点であった。またJSSの細胞投与3カ月後点数は3.43点であり、退院時との比較では0.80点の改善であった。またBIの細胞投与3カ月後点数は65点であり、退院時との比較では35点の改善であった。
【0042】
本症例は、細胞治療直前のNIHSSが15点であり、症例1(細胞治療直前のNIHSSが13点)と比し、細胞治療前の時点では、より重症の脳梗塞であった。更に投与細胞数は、症例1に比し、少なかった。
【0043】
しかし一方、細胞投与3カ月後の時点では、NIHSS、JSS及びBIの全ての評価で、本症例の方が、症例1と比し、明らかに優れた機能予後を示した。更に、症例1では、継時的な観察において神経機能改善効果は観察されなかったが、本症例では、細胞投与直前あるいは退院後から細胞投与3カ月後において、NIHSS、JSS及びBIの全ての評価で著しい機能改善が観察された。
【0044】
以上のことより、白血球細胞以外の凝血塊、目的外細胞、血小板等の混入が少ない骨髄幹細胞の投与では、治療効果を十分有することが明らかになった。
【0045】
(症例3)凝血塊、目的外細胞、血小板の混入が少ないことによる、比重遠心法で得られた骨髄幹細胞の投与による治療効果の発現
【0046】
発症9日後の重症脳梗塞患者より、骨髄細胞を25ml採取し、Ficoll-Paque Premiumを用いた比重遠心法によって骨髄由来の造血幹細胞を含む白血球細胞集団を分離し、分離した造血幹細胞を含む白血球懸濁液を経静脈的に投与した。細胞投与直前においては、脳梗塞重症度を示すNIHSSは17点であった。
【0047】
投与細胞の位相差顕微鏡写真を
図4に示す。症例1で見られたような凝血塊は観察されず、また目的外細胞や血小板の混入も明らかに少なかった。
【0048】
次に、白血球細胞数、目的外細胞数、血小板数を、ランダムに選んだ12視野でカウントした。その結果、目的外細胞数/白血球細胞数は2.8±1.6%、血小板数/白血球細胞数は7.8±1.8%であった(なお、凝集塊の個数と血小板の個数とを合わせて血小板数として計算した。)。症例3の結果から、目的外成分数/白血球細胞数≦14.0(4.4%+9.6%)%であることが好ましいことが判明した。また、誤差を考慮しない場合には、目的外成分数/白血球細胞数=10.6(2.8%+7.8%)%となり、目的外成分数/白血球細胞数≦10.6%であることもまた好ましい。
【0049】
本症例では、投与白血球細胞数は2.7x108個であった。動物実験では造血幹細胞であるCD34陽性細胞が重要な治療効果を担っているとされているが、投与細胞中のCD34陽性細胞の頻度は0.66%であった。
【0050】
退院時(細胞投与1カ月後)のNIHSSは12点であった。他の脳梗塞重症度を示すJSSは5.11点であった。更に日常生活能力を示すBIは10点であった。
【0051】
細胞投与3カ月後のNIHSSは9点であり、細胞投与直前との比較で改善度は8点、退院時との比較では改善度は3点であった。またJSSの細胞投与3カ月後点数は4.08点であり、退院時との比較では1.03点の改善であった。またBIの細胞投与3カ月後点数は65点であり、退院時との比較では55点の改善であった。
【0052】
本症例は、細胞治療直前のNIHSSが17点であり、症例1(細胞治療直前のNIHSSが13点)と比し、細胞治療前の時点では、より重症の脳梗塞であった。更に動物実験で有効成分とされる投与CD34陽性細胞数は、明らかに症例1に比し、少なかった。
【0053】
しかし一方、細胞投与3カ月後の時点では、NIHSS、JSS及びBIの全ての評価で、本症例の方が、症例1と比し、明らかに優れた機能予後を示した。更に、症例1では、継時的な観察において神経機能改善効果は観察されなかったが、本症例では、細胞投与直前あるいは退院後から細胞投与3カ月後において、NIHSS、JSS及びBIの全ての評価で著しい機能改善が観察された。
【0054】
以上のことより、白血球細胞以外の凝血塊、目的外細胞、血小板等の混入が少ない骨髄幹細胞の投与では、治療効果を十分有することが明らかになった。
【0055】
(実施例1)目的外細胞の混入減少と治療効果の発現
【0056】
症例1、2及び3における目的外細胞の混入の程度に関して、比較検討を行った。各症例の目的外細胞数/白血球細胞数の比率(%)を
図5に示す。JMPソフトウェア(SAS 社製)を使った統計学的解析(分散分析)では、治療効果が観察されなかった症例1に比し、治療効果が観察された症例2及び症例3において、統計学的に有意に目的外細胞の混入が少ないことが明らかとなった。
図5の結果から、正常形態の白血球と目的外細胞とが、その割合において、目的外細胞数/白血球細胞数≦20.0%であることが好ましいことが理解できる。なお、症例2及び症例3の比較では、神経学的回復は症例2の方がより良好で、目的外細胞の混入比率も統計学的な有意差はないものの症例2の方が低値であった。
【0057】
(実施例2)血小板の混入減少と治療効果の発現
【0058】
症例1、2及び3における血小板の混入の程度に関して、比較検討を行った。各症例の血小板数/白血球細胞数の比率(%)を
図6に示す(なお、凝集塊の個数と血小板の個数とを合わせて血小板数として計算した。)。統計学的解析では、治療効果が観察されなかった症例1に比し、治療効果が観察された症例2及び症例3において、統計学的に有意に血小板の混入が少ないことが明らかとなった。
図6の結果から、正常形態の白血球と血小板とが、その割合において、血小板数/白血球細胞数≦15.0%であることが好ましいことが理解できる。このように実施例1及び実施例2の結果から、本発明にかかる細胞製剤は、正常形態の白血球と目的外成分とが、その割合において、目的外成分数/白血球細胞数≦35.0%であることが好ましいことが示された。なお、症例2及び症例3の比較では、神経学的回復は症例2の方がより良好で、血小板の混入比率も統計学的な有意差はないものの症例2の方が低値であった。
【0059】
(実施例3)目的外成分比率の違いによる骨髄由来白血球懸濁液の脳再生促進効果の検討
【0060】
目的外成分比率の違いによる骨髄由来白血球懸濁液の脳再生促進効果への影響を、脳梗塞モデルマウスを用いて検証した。脳梗塞モデルマウスは以下の手法で作製した。8週齢のSCIDマウスをハロセン麻酔により全身麻酔し、左頬骨部よりアプローチして左中大脳動脈に直達できるよう頭蓋底に1.5mm程度の穿孔を行った。嗅索を通過した直後(嗅索交差部の遠位側)の左中大脳動脈を、バイポーラ電気メスを用いて凝固させ、凝固後切断することにより、左中大脳動脈を永久に閉塞した。この脳梗塞モデルマウスは、左中大脳動脈領域の皮質に限局する虚血部位及び虚血強度の再現性に優れている。ヒト骨髄液は、Lonza社より購入し、Ficoll-Paque PREMIUMを用いた比重遠心法により白血球を分離した。目的外成分の混入を抑制した白血球懸濁液は、比重遠心後に得られるバフィーコート層のみから白血球を調製した。目的外成分の混入を許容した白血球懸濁液はバフィーコート層の白血球及びその上下の層(血漿分画層[血小板が多く存在]及びFicoll-Paque PREMIUM層[赤血球が一部存在])に存在する細胞等を併せて採取した。位相差顕微鏡を用いて目的外成分の混入の程度をカウントしたところ、目的外成分の混入を抑制した白血球懸濁液では、目的外成分数/白血球細胞数は25±12%で、目的外成分の混入を許容した白血球懸濁液では100%以上であった。なお、赤血球数/白血球細胞数は0%±0%であったため、血小板数/白血球細胞数が25±12%であった。この結果から、目的外成分数/白血球細胞数≦37.0(25%+12%)%であることが好ましいことが判明した。また、目的外成分数/白血球細胞数≦25.0%であることもまた好ましい。
【0061】
脳梗塞モデルマウス作製48時間後に生理食塩水、目的外成分の混入を抑制した白血球懸濁液(目的細胞を1x10
5個含む)又は目的外成分の混入を許容した白血球懸濁液(目的細胞を1x10
5個含む)を静脈内投与した(各群n=9)。白血球懸濁液投与1ヶ月後にマウスから脳を取り出し、脳全体の画像を上部から撮像し、[脳梗塞を作った側の脳の面積]/[脳梗塞を作らなかった健常側の面積]の比(%)を検討した。結果を
図7に示す。生理食塩水投与群に比し、目的外成分の混入を抑制した白血球懸濁液を投与されたマウス群においては、脳組織の再生が促進している一方、目的外成分の混入を許容した白血球懸濁液を投与されたマウス群においては、有意な再生促進効果が認められなかった。
【0062】
(実施例4)虚血による損傷の修復効果(脳再生促進効果)及び虚血周囲領域(脳梗塞巣の外側)における炎症反応に対する細胞外成分の混入の影響の検討
【0063】
虚血による損傷の修復効果(脳再生促進効果)の発現を減弱させる原因を検討した。本発明者は、再生過程に有害である炎症反応を虚血周囲領域で惹起することにより、脳の再生を阻害することを見出した(データは示さず)。そこで、虚血周囲領域におけるマイクログリア/マクロファージの活性化 (CD11b陽性マイクログリア/マクロファージの出現・炎症反応)を検討した。実施例3で調製した目的外成分の混入を抑制した白血球懸濁液、及び目的外成分の混入を許容した白血球懸濁液を、実施例3に記載した同様の方法でSCIDマウスに脳梗塞を作製してから48時間後に投与し、白血球懸濁液投与24時間後の虚血周囲領域(脳梗塞巣の外側)での炎症反応惹起の検討を下記の方法で実施した。白血球懸濁液投与24時間後に、2%パラホルムアルデヒド固定液を用いて灌流固定を行い、ビブラトームを用いて厚さ20μmの脳の切片を作製し、抗CD11b抗体(Serotec社製)を用いて炎症反応の可視化を行い、更に虚血部位が明瞭になるように、ヘマトキシリン染色による核染色も行った。結果を
図8に示す。
図8Aは、目的外成分の混入を抑制した白血球懸濁液が投与されたマウスの脳を、抗CD11b抗体で染色したものであり、CD11b陽性マイクログリア/マクロファージは虚血周囲領域にはほとんど観察されなかった。
図8Bは、目的外成分の混入を許容した白血球懸濁液を投与されたマウスの染色像であり、虚血周囲領域で活性化されたCD11b陽性マイクログリア/マクロファージが多く観察された。
【0064】
実施例3及び実施例4の結果より、目的外成分の混入を抑制した白血球懸濁液(目的外成分数/白血球細胞数が25±12%)は、脳組織再生促進作用を有すること及び虚血周囲領域でのCD11b陽性マイクログリア/マクロファージの活性化(炎症反応)が弱いことが示され、及び脳梗塞作製72時間後(白血球懸濁液投与24時間後)の虚血周囲領域におけるCD11b陽性マイクログリア/マクロファージの活性化(炎症反応)の状態が白血球懸濁液の脳再生促進効果の指標の一つになり得ることが推測された。
【0065】
(実施例5)目的外成分数/白血球細胞数が35%であるマウス白血球懸濁液の炎症惹起作用の検討
【0066】
正常形態の白血球と目的外成分の割合、すなわち目的外成分数/白血球細胞数として35%であるマウス白血球懸濁液を作製し、脳梗塞モデルマウスを用いて、虚血周囲領域(脳梗塞領域の外側)におけるCD11b陽性のマイクログリア/マクロファージの活性化(炎症反応)に関する検討を行なった。目的外成分数/白血球細胞数が35%である白血球懸濁液の調製は以下の方法で行った。マウス大腿骨及び脛骨より骨髄液を採取して、Ficoll-Paque PREMIUMを用いた比重遠心法によって分離したバフィーコート層の白血球及びその上下の層(血漿分画層[血小板が多く存在]及びFicoll-Paque PREMIUM層[赤血球が一部存在])に存在する適量の細胞/成分を単離し、目的外成分数/白血球細胞数が35%である白血球懸濁液を作製した。なお、目的外成分数/白血球細胞数が35%である白血球懸濁液の調製では、目的外成分数/白血球細胞数の割合が35%以下及び以上であるものを準備し、適切に混合することにより実験に供した。
【0067】
検証に用いる梗塞モデルマウスは8週齢のSCIDマウスを用いて実施例3と同様の方法で作製した。脳梗塞作製48時間後に目的外成分数/白血球細胞数が35%である白血球懸濁液(目的細胞を1x10
5個含む)を投与し、実施例4と同様の方法で虚血周囲領域(脳梗塞領域の外側)におけるCD11b陽性のマイクログリア/マクロファージの活性化(炎症反応)の状態を検証した。結果を
図9に示す。
図9から分かるように、目的外成分数/白血球細胞数が35%である白血球懸濁液の投与では、白血球細胞を使った虚血性疾患の治療効果を阻害すると考えられる虚血周囲領域におけるCD11b陽性のマイクログリア/マクロファージの活性化(炎症反応)は惹起されていないことが判明した。
【0068】
以上の結果より、正常形態の白血球と目的外成分とが、その割合において、目的外成分数/白血球細胞数≦35%であれば、虚血性疾患の治療効果を阻害するCD11b陽性のマイクログリア/マクロファージの活性化(炎症反応)を惹起せず、治療効果が期待できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の細胞製剤は、虚血性疾患の治療及び/又は予防に利用できる。
【0070】
本出願は、2018年3月8日付で日本国に出願された特願2018-041841を基礎としており、ここで言及することによって、その内容はすべて本明細書中に包含される。