(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】二酸化炭素回収のために環状ジアミンを付加した金属有機骨格
(51)【国際特許分類】
B01J 20/26 20060101AFI20230317BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20230317BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20230317BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20230317BHJP
B01D 53/047 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
B01J20/26 A
B01D53/62 ZAB
B01D53/82
B01D53/04 220
B01D53/047
(21)【出願番号】P 2020505866
(86)(22)【出願日】2018-08-03
(86)【国際出願番号】 US2018045259
(87)【国際公開番号】W WO2019028421
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-08-02
(32)【優先日】2017-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(73)【特許権者】
【識別番号】390023630
【氏名又は名称】エクソンモービル・テクノロジー・アンド・エンジニアリング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ExxonMobil Technology and Engineering Company
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー・アール・ロング
(72)【発明者】
【氏名】サイモン・クリストファー・ウエストン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ジェイ・ミルナー
(72)【発明者】
【氏名】レベッカ・エル・シーゲルマン
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/059130(WO,A2)
【文献】特表2012-530718(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0294709(US,A1)
【文献】特表2017-518169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 - 20/34
B01D 53/02 - 53/12
B01D 53/34 - 53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着材料であって、
複数の金属イオンおよび複数のポリトピック有機リンカーを含む金属有機骨格であって、前記複数のポリトピック有機リンカーにおける各ポリトピック有機リンカーが、前記複数の金属イオンにおける少なくとも2つの金属イオンに接続され、前記有機リンカーは、4,4´-ジオキシドビフェニル-3,3´-ジカルボキシレート(dobpdc
4-)、4,4´´-ジオキシド-[1,1´:4´,1´´-テルフェニル]3,3´´-ジカルボキシレート(dotpdc
4-)、またはジオキシドビフェニル-4,4´-ジカルボキシレート(pc-dobpdc
4-)である、金属有機骨格と、
複数の配位子であって、前記複数の配位子における各それぞれの配位子が、前記金属有機骨格の前記複数の金属イオンにおける金属イオンにアミン付加され、前記複数の配位子における各それぞれの配位子が、下式を有し、
【化1-1】
式中、
Xが、前記金属有機骨格の前記複数の金属イオンにおける金属イオンであり、
前記複数の金属イオンにおける各金属イオン(X)が、M
gであり、
Zが、炭素であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、およびR
10が各々、Hである、複数の配位子と、を含む、吸着材料
。
【請求項2】
前記吸着材料が、CO
2吸着時に複数のCO
2吸着ステップを示す、又は、前記吸着材料が、CO
2脱着時に複数のCO
2脱着ステップを示す、請求項
1に記載の吸着材料。
【請求項3】
前記吸着材料が、CO
2吸着時に単一のCO
2吸着ステップを示す、又は、前記吸着材料が、CO
2脱着時に単一のCO
2脱着ステップを示す、請求項
1に記載の吸着材料。
【請求項4】
前記複数の配位子における各それぞれの配位子が、下式を
有する、請求項1に記載の吸着材料。
【化1】
【請求項5】
前記複数の配位子における各それぞれの配位子が、下式を有し、
【化2】
式中
、ジアミンが、前記Mgとも配位結合する、
請求項1に記載の吸着材料。
【請求項6】
供給源によって生成された二酸化炭素を捕捉する方法であって、請求項1~
5のいずれか一項に記載の吸着材料に前記二酸化炭素を曝露することを含み、それにより前記二酸化炭素が、前記吸着材料中に可逆的に捕捉され、
前記方法が、温度スイング吸着法、真空スイング吸着法、圧力スイング吸着法、濃度スイング吸着法、またはそれらの組み合わせを使用して、前記CO
2に富む吸着材料を再生させることをさらに含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年8月4日に出願された米国仮特許出願第62/541,616号、名称「Metal-Organic Frameworks Appended with Cyclic Diamines for CO2 Capture」に対する優先権を主張するものであり、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、低分圧でのCO2の効果的な回収を可能にする一方で、炭素回収用途のために低い再生エネルギーで適温において再生可能な吸着剤に関する。
【背景技術】
【0003】
熱電発電所での化石燃料の燃焼から生成された二酸化炭素(CO2)は、おそらく地球規模の気候変動の主な一因である。Pachauri and Meyer,Climate Change 2014:Synthesis Report.Contribution of Working Groups I,II and III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change,International Government Panel on Climate Change,Geneva,Switzerland,2014を参照されたい。大気中のCO2レベルの増加に対処するために、現在、地球規模のCO2排出の約20%を占める、天然ガス火力発電所などの点源からのCO2排出を削減させる新たな戦略が必要である。Quadrelli and Peterson,2007,Energy Policy 35,p.5938を参照されたい。経済的要因が化石燃料源として石炭から天然ガスへの移行を支持しているため、この占有率は、近い将来、増加するであろう。2017年7月20日にアクセスした、corporate.exxonmobil.com/en/energy/energy-outlook/highlights/のインターネット上で、ExxonMobileの「Outlook for Energy:Journey to 2040」を参照されたい。天然ガスの燃焼は、40~60℃で約4~10%のCO2を含有する総圧力1バールのストリームを生成し、ストリームの残部は、H2O(飽和)、O2(4~12%)、およびN2(残部)からなる。Vaccarelli et al,2014,Energy Procedia 45,p.1165を参照されたい。したがって、最も困難な場合では、天然ガス煙道ガスからCO2の90%以上を除去するには、0.4%(4mbar)以下未満のCO2を含有する湿潤ガスストリームからの選択的な吸着を必要とし、これは、非常に困難な分離である。加えて、吸着剤は、温度スイング吸着(TSA)プロセスにおける用途のための湿度サイクルおよび吸着/脱着サイクルの両方に対して長期の安定性を有しなければならない。
【0004】
金属有機骨格Mg
2(dobpdc)のアルキルエチレンジアミン付加バリアントなどの、CO
2のステップ状の吸着を示す吸着剤(dobpdc
4-=4,4´-ジオキシドビフェニル-3,3´-ジカルボキシレート)(McDonald et al.,2015,Nature 519,p.303、Siegelman,2017,J.Am.Chem.Soc.,139,p.10526)は、そのような炭素回収用途に有望である(
図1)。これらの材料は、カルバミン酸アンモニウム鎖の協同形成によってCO
2を吸着し、これは、低再生エネルギーおよび最小限の温度スイングによって高い作業能力を達成することを可能にする、ステップ状の吸着等温線をもたらす。McDonald et al.,2015,Nature 519,p.303を参照されたい。しかしながら、合成的に官能化した後の材料に関する1つの懸念は、吸着/脱着サイクル時のMg
2+中心からのジアミンの喪失であり、これは、段階的な吸着性の低下につながる。より高分子量のジアミンを追加することは、この課題を克服するための可能な手段であるが、ジアミン上の大きいアルキル基は、吸着/脱着動力学の両方、ならびにCO
2吸着機構に潜在的に干渉する可能性がある。
【0005】
したがって、当技術分野では、低分圧のCO2におけるCO2の効果的な回収を可能にし、かつ多数回にわたって安定的に再生させることができる吸着剤が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本明細書で、発明者らは、高分子量の環状ジアミン、例えば、2-(アミノメチル)ピペリジン(2-ampd)および3-アミノピロリジン(3-apyrr))を、Mg2(dobpdc)(dobpdc4-=4,4´-ジオキシドビフェニル-3,3´-ジカルボキシレート)、Mg2(dotpdc)(dotpdc4-=4,4´´-ジオキシド-[1,1´:4´,1´´-テルフェニル]-3,3´´-ジカルボキシレート)、およびMg2(pc-dobpdc)(pc-dobpdc4-=ジオキシドビフェニル-4,4´-ジカルボキシレート)に付加して、それぞれ、安定したクラスの吸着剤EMM-44、EMM-45、およびEMM-46を生成することができ、これらが、低分圧のCO2でCO2吸着ステップを示し、これらの吸着剤を、天然ガス火力発電所の煙道ガス排出などの、希釈ガスストリームからのCO2除去に適したものにすることを実証する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示による、ジアミン付加した金属有機骨格EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))の構造を示す。
【
図2】本開示による、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))に関する、40℃(202)、50℃(204)、および60℃(206)でのCO
2の等温線、ならびに40℃でのO
2(正方形)およびN
2(三角形)の等温線を示す。
【
図3】本開示による、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))に関する、N
2および乾燥N
2中の乾燥0.4%CO
2の吸着等圧線を示し、0.1℃/分のランプ速度を使用した。
【
図4】本開示による、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))に関する、純CO
2の吸着(実線)および脱着(点線)の等圧線を示し、1℃/分のランプ速度を使用し、ジアミンあたり0.5のCO
2およびジアミンあたり1のCO
2に対応する吸着容量を示す。
【
図5A】本開示による、クラウジウス-クラペイロンの関係を使用して
図2の等温線から決定したときの、CO
2装填の関数としての、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))に関する、吸着の負の微分エンタルピー(-Δh
ads)を示す。
【
図5B】本開示による、変調微分走査熱量測定によって決定したときの、Heの雰囲気下での温度の関数としての、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))の可逆熱容量を示し、2℃/分のランプ速度、0.75℃/80秒の変調周波数を使用した。
【
図6】本開示の実施形態による、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))に関する、純CO
2の乾燥吸着および脱着等圧線、ならびにN
2中0.4%CO
2、N
2中4%CO
2、および純N
2の乾燥吸着等圧線を示し、図中、水平破線は、ジアミンあたり1のCO
2の吸着に対応する容量を示す。
【
図7】本開示の実施形態による、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))に関する、純CO
2の湿潤吸着および脱着等圧線、ならびにN
2中0.4%CO
2、N
2中4%CO
2、および純N
2の湿潤吸着等圧線を示し、図中、水平破線は、ジアミンあたり1のCO
2の吸着に対応する容量を示す。
【
図8】本開示の実施形態による、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))に関する、750回の吸着/脱着サイクルの最後の100回を示し、吸着:N
2中湿潤4%CO
2、40℃、5分、脱着:湿潤純CO
2、140℃、1分、および0g/100gのベースライン値を、第1のサイクルの前に150℃で20分間N
2中湿潤4%CO
2の下での活性化後の質量として定義し、この実験後に、ジアミン装填が94%であることを見出した。
【
図9】本開示の実施形態による、活性化したEMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))の77KのN
2吸着等温線を示し、脱着データを白丸で示し、この材料のブルナーエメットテラー(BET)表面積は、618±2m
2/gであり、ラングミュア表面積は、764±6m
2/gである。
【
図10】本開示の実施形態による、活性化後の(1002)、および140℃で12時間にわたって湿潤CO
2を流した状態で材料を保持した後の(1004)、湿潤CO
2吸着等圧線を示す。
【
図11】本開示の実施形態による、活性化後の(1102)、および100℃で6時間にわたって乾燥空気(21%O
2)を流した状態で材料を保持した後の(1104)、乾燥CO
2吸着等圧線を示す。
【
図12】本開示の実施形態による、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))に関する、N
2中湿潤4%CO
2およびN
2中乾燥4%CO
2の吸着(実線)および脱着(点線)等圧線を示し、0.1℃/分のランプ速度を使用し、水平破線は、ジアミンあたり1のCO
2の吸着に対応する容量を示す。
【
図13】本開示の実施形態による、EMM-45(2-ampd-Mg
2(dotpdc))に関する、純CO
2吸着(実線)および脱着(点線)等圧線を示し、1℃/分のランプ速度を使用し、ジアミンあたり1のCO
2に対応する吸着容量を示す。
【
図14】本開示の実施形態による、EMM-44(Zn)(2-ampd-Zn
2(dobpdc))に関する、純CO
2吸着(実線)および脱着(点線)等圧線を示し、1℃/分のランプ速度を使用した。
【
図15】本開示の実施形態による、EMM-44(3-apyrr)(3-apyrr-Mg
2(dobpdc))に関する、純CO
2吸着(実線)および脱着(点線)等圧線を示し、1℃/分のランプ速度を使用し、ジアミンあたり1のCO
2に対応する吸着容量(水平破線)を示す。
【
図16】本開示の実施形態による、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))(1604)およびEMM-50(nBu-2)(N-(n-ブチルエチレンジアミン)-Mg
2(dobpdc))(1602)に関する、純CO
2吸着(実線)等圧線を示し、1℃/分のランプ速度を使用した。
【
図17】本開示による、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))に関する、30℃(正方形)、40℃(円形)、50℃(三角形)、および60℃(ひし形)でのH
2Oの等温線を示し、挿入図は、低圧領域の拡大を示し、水平破線は、ジアミンあたり1のH
2O分子の吸着に対応する容量を示す。
【
図18】本開示の実施形態による、40℃および1バールでのN
2中乾燥4%CO
2の30sccmによる実験に関する、CO
2破過プロファイルを示す。
【
図19】本開示の実施形態による、40℃および1バールでのN
2中4%CO
2の30sccmによる実験に関する、湿潤および乾燥破過プロファイルを示す。
【
図20】本開示の実施形態による、60℃および1バールでのN
2中4%CO
2の30sccmによる実験に関する、湿潤および乾燥破過プロファイルを示す。
【
図21】本開示の実施形態による、40℃および1バールでのN
2中15%CO
2の15sccmによる実験に関する、湿潤および乾燥破過プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
I.序論
ジアミン2-(アミノメチル)ピペリジン(2-ampd)を金属有機骨格Mg
2(dobpdc)(dobpdc
4-=4,4´-ジオキシドビフェニル-3,3´-ジカルボキシレート、Mg
2(dotpdc)(dotpdc
4-=4,4´´-ジオキシド-[1,1´:4´,1´´-テルフェニル]-3,3´´-ジカルボキシレート)、またはMg
2(pc-dobpdc)(pc-dobpdc
4-=ジオキシドビフェニル-4,4´-ジカルボキシレートの開いたMg
2+部位に付加することで、それぞれ、天然ガス火力発電所の煙道排出物からCO
2を回収するための有望な吸着剤EMM-44、EMM-45、およびEMM-46を生成する(
図1)。この吸着剤には、天然ガス火力発電所からの炭素回収に有望となる多数の特徴が存在する。
【0009】
本発明をより詳細に説明する前に、本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態に限定されるものではなく、かかる実施形態は変化し得ることを理解すべきである。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、限定することを意図するものではないことも理解すべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されよう。他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じである。値の範囲が提供される場合、文脈が別途明確に指示しない限り下限値の単位の10分の1までの、その範囲の上限値から下限値の間の各介在値と、その指定範囲の任意の他の指定値または介在値とは、本発明に包含される、ことが理解される。これらのより小さい範囲の上限値および下限値は独立して、そのより小さい範囲に含まれ得、また、本発明に包含され、指定範囲内の任意の具体的に除外された制限値に従う。指定範囲が制限値の一方または両方を含む場合、それらの含まれた制限値のいずれかまたは両方を除外する範囲も本発明に含まれる。特定の範囲は、「約」という用語が先行する数値で本明細書に示される。「約」という用語は、その後に続く正確な数字およびその用語の後に続く数字に近いか、またはほぼその数字である数字を文字通り支持するために本明細書で使用される。ある数字が、具体的に引用されている数字に近いか、またはほぼその数字であるかを決定する際に、その近いかまたはほぼ引用されていない数字は、提示されている文脈において、具体的に引用されている数字と実質的に等価を提供する数字であり得る。本明細書で引用されたすべての刊行物、特許、および特許出願は、個々の刊行物、特許、または特許出願が参照により組み込まれるように具体的かつ個別に示されるのと同程度に参照により本明細書に組み込まれる。さらに、引用された各刊行物、特許、または特許出願は、刊行物が引用されたものに関連する主題を開示および説明するために参照により本明細書に組み込まれる。いかなる刊行物の引用も、出願日より前のその開示のためのものであり、本明細書に記載の発明が、先行発明のためにかかる刊行物に先行する権利が与えられていない、ことを認めるものと解釈するべきではない。さらに、提示される公開日は、実際の公開日とは異なる場合があり、別個に確認する必要があり得る。
【0010】
請求項はいかなる選択的な要素も除外するように作成することができることに留意されたい。そのため、この記載は、請求項要素の列挙、または「否定的な」制限の使用に関連して、「だけ」、「のみ」などの排他的な用語の使用に対して先の記載として役立つことを意図している。本開示を読めば当業者には明らかであろうが、本明細書に記載され、例示されている個々の実施形態は、それぞれ、別個の構成要素および特徴を有しており、この構成要素および特徴は、本発明の範囲または精神から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴から容易に分離されてもよく、またはそのような特徴と組み合わせてもよい。あらゆる列挙された方法は、列挙されたイベントの順序、または論理的に可能な他の順序で実行してよい。本明細書に記載されたものと類似または同等の任意の方法および材料も本発明の実施または試験に使用してもよいが、代表的な例示的な方法および材料をここに記載する。
【0011】
本発明を説明する際には、以下の用語が、使用され、以下に示されるように、定義される。
【0012】
II.定義
置換基が、左から右に書かれたそれらの従来の化学式によって明記される場合、その構造は、任意選択的に、右から左へ構造を書くことによって生じることになる化学的に同一の置換基も包含し、例えば、-CH2O-は、任意選択的に-OCH2-とも列挙することが意図される。
【0013】
「アルキル」という用語は、それ自体または別の置換基の一部として、特に明記しない限り、完全飽和、一価不飽和、または多価不飽和であってもよく、指定された炭素原子数を有する(すなわち、C1~C10は1~10個の炭素を意味する)、二価、三価、および多価ラジカルを含み得る、直鎖、分枝鎖もしくは環状炭化水素ラジカル、またはそれらの組み合わせを意味する。飽和炭化水素ラジカルの例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、シクロヘキシル、(シクロヘキシル)メチル、シクロプロピルメチルなどの基、例えば、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルなどの同族体および異性体が挙げられるが、それらに限定されない。不飽和アルキル基は、1つ以上の二重結合または三重結合を有するものである。不飽和アルキル基の例には、ビニル、2-プロペニル、クロチル、2-イソペンテニル、2-(ブタジエニル)、2,4-ペンタジエニル、3-(1,4-ペンタジエニル)、エチニル、1-および3-プロピニル、3-ブチニル、ならびに高級同族体および異性体が挙げられるが、これらに限定されない。「アルキル」という用語はまた、特に注記しない限り、任意選択的に、「ヘテロアルキル」などの、以下でより詳細に定義されるアルキルの誘導体を含むことも意味する。炭化水素基に限定されるアルキル基は、「ホモアルキル」と称される。例示的なアルキル基としては、モノ不飽和C9~10、オレオイル鎖または二不飽和C9~10、12~13リノエイル鎖が挙げられる。
【0014】
「アルキレン」という用語は、それ自体または別の置換基の一部として、-CH2CH2CH2CH2-によって例示されるがこれに限定されないアルカンから誘導される二価ラジカルを意味し、さらに「ヘテロアルキレン」として以下に記載される基を含む。典型的には、アルキル(またはアルキレン)基は、1~24個の炭素原子を有し、本発明では10個以下の炭素原子を有する基が好ましい。「低級アルキル」または「低級アルキレン」は、一般に8個以下の炭素原子を有する、より短い鎖のアルキルまたはアルキレン基である。
【0015】
「アルコキシ」、「アルキルアミノ」、および「アルキルチオ」(またはチオアルコキシ)という用語は、それらの従来の意味で使用され、それぞれ、酸素原子、アミノ基、または硫黄原子を介して分子の残部に結合したアルキル基を指す。
【0016】
「アリールオキシ」および「ヘテロアリールオキシ」という用語は、それらの従来の意味で使用され、酸素原子を介して分子の残部に結合されたそれらのアリールまたはヘテロアリール基を指す。
【0017】
「ヘテロアルキル」という用語は、それ自体で、または別の用語と組み合わせて、特に明記しない限り、記載の数の炭素原子と、O、N、Si、およびSからなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子とからなる安定な直鎖、分枝鎖、もしくは環状炭化水素ラジカル、またはそれらの組み合わせを意味し、窒素および硫黄原子は、任意選択的に酸化されてもよく、窒素ヘテロ原子は、任意選択的に四級化されてもよい。ヘテロ原子(複数可)O、N、およびSならびにSiは、ヘテロアルキル基の任意の内部位置に、またはアルキル基が分子の残部に結合している位置に配置されてもよい。例としては、-CH2-CH2-O-CH3、-CH2-CH2-NH-CH3、-CH2-CH2-N(CH3)-CH3、-CH2-S-CH2-CH3、-CH2-CH2、-S(O)-CH3、-CH2-CH2-S(O)2-CH3、-CH=CH-O-CH3、-Si(CH3)3、-CH2-CH=N-OCH3、および-CH=CH-N(CH3)-CH3が挙げられるが、それらに限定されない。例えば、-CH2-NH-OCH3および-CH2-O-Si(CH3)3などの最大2個のヘテロ原子が連続していてもよい。同様に、「ヘテロアルキレン」という用語は、それ自体で、または別の置換基の一部として、ヘテロアルキルから誘導された二価のラジカルを意味し、-CH2-CH2-S-CH2-CH2-および-CH2-S-CH2-CH2-NH-CH2-が例示されるが、それらに限定されない。ヘテロアルキレン基について、ヘテロ原子は、鎖末端のいずれかまたは両方を占有することもできる(例えば、アルキレンオキシ、アルキレンジオキシ、アルキレンアミノ、アルキレンジアミノなど)。またさらに、アルキレンおよびヘテロアルキレン連結基の場合、連結基の配向は、連結基の式が書かれている方向によって暗示されない。例えば、式-CO2R’-は、-C(O)OR’および-OC(O)R’の両方を表す。
【0018】
「シクロアルキル」および「ヘテロシクロアルキル」という用語は、それ自体で、または他の用語と組み合わせて、特に明記しない限り、それぞれ、「アルキル」および「ヘテロアルキル」の環式バージョンを表す。加えて、ヘテロシクロアルキルの場合、ヘテロ原子は、複素環が分子の残部に結合している位置を占めることができる。シクロアルキルの例としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、1-シクロヘキセニル、3-シクロヘキセニル、シクロヘプチルなどが挙げられるが、それらに限定されない。さらに例示的なシクロアルキル基としては、ステロイド、例えばコレステロールおよびその誘導体が挙げられる。ヘテロシクロアルキルの例としては、1-(1,2,5,6-テトラヒドロピリジル)、1-ピペリジニル、2-ピペリジニル、3-ピペリジニル、4-モルホリニル、3-モルホリニル、テトラヒドロフラン-2-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、テトラヒドロチエン-2-イル、テトラヒドロチエン-3-イル、1-ピペラジニル、2-ピペラジニルなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0019】
「ハロ」または「ハロゲン」という用語は、それら自体または別の置換基の一部として、特に明記しない限り、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子を意味する。加えて、「ハロアルキル」などの用語は、モノハロアルキルおよびポリハロアルキルを含むことを意味する。例えば、「ハロ(C1~C4)アルキル」という用語は、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、4-クロロブチル、3-ブロモプロピルなどを非限定的に含むことを意味する。
【0020】
「アリール」という用語は、特に明記しない限り、一緒に縮合しているかまたは共有結合している単環または多環(好ましくは、1~3環)であり得る多価不飽和芳香族置換基を意味する。「ヘテロアリール」という用語は、N、O、S、Si、およびBから選択される1~4個のヘテロ原子を含有するアリール置換基(または環)を指し、窒素および硫黄原子は、任意選択的に酸化され、窒素原子(複数可)は、任意選択的に四級化される。例示的なヘテロアリール基は、6員アジン、例えば、ピリジニル、ジアジニル、およびトリアジニルである。ヘテロアリール基は、ヘテロ原子を介して分子の残部に結合することができる。アリールおよびヘテロアリール基の非限定的な例には、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、4-ビフェニル、1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル、3-ピラゾリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、ピラジニル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、2-フェニル-4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、3-イソオキサゾリル、4-イソオキサゾリル、5-イソオキサゾリル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-ピリミジル、4-ピリミジル、5-ベンゾチアゾリル、プリニル、2-ベンズイミダゾリル、5-インドリル、1-イソキノリル、5-イソキノリル、2-キノキサリニル、5-キノキサリニル、3-キノリル、および6-キノリルが挙げられる。上述のアリールおよびヘテロアリール環系の各々の置換基は、下記の許容される置換基の群から選択される。
【0021】
簡潔にするために、「アリール」という用語は、他の用語(例えば、アリールオキシ、アリールチオキシ、アリールアルキル)と組み合わせて使用するとき、上で定義したようにアリール環、ヘテロアリール環、およびヘテロアレーン環を含む。したがって、「アリールアルキル」という用語は、アリール基がアルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル、ピリジルメチルなど)に結合しているラジカルを含むことを意味し、これらのアルキル基には、炭素原子(例えば、メチレン基)が、例えば、酸素原子(例えば、フェノキシメチル、2-ピリジルオキシメチル、3-(1-ナフチルオキシ)プロピルなど)で代置されているアルキル基が含まれる。
【0022】
上記の用語(例えば、「アルキル」、「ヘテロアルキル」、「アリール」、および「ヘテロアリール」)の各々は、任意選択的に、示された種の置換形態および非置換形態の両方を含むことを意味する。これらの種の例示的な置換基を以下に示す。
【0023】
アルキルおよびヘテロアルキルラジカル(アルキレン、アルケニル、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、およびヘテロシクロアルケニルとしばしば称されるそれらの基を含む)のための置換基は、一般に「アルキル基置換基」と称され、それらは、0~(2m’+1)(式中、m’は、かかるラジカル中の炭素原子の総数である)の範囲の数で、H、置換または非置換アリール、置換または非置換ヘテロアリール、置換または非置換ヘテロシクロアルキル、-OR’、=O、=NR’、=N-OR’、-NR’R”、-SR’、ハロゲン、-SiR’R”R’’’、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’、-CONR’R”、-OC(O)NR’R”、-NR”C(O)R’、-NR’-C(O)NR”R’’’、-NR”C(O)2R’、-NR-C(NR’R”R’’’)=NR’’’’、-NR-C(NR’R”)=NR’’’、-S(O)R’、-S(O)2R’、-S(O)2NR’R”、-NRSO2R’、-CN、および-NO2から選択されるが、それらに限定されない様々な基のうちの1つ以上であることができる。R’、R”、R’’’、およびR’’’’は各々好ましくは独立して、水素、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換アリール、例えば、1~3個のハロゲンで置換されたアリール、置換もしくは非置換アルキル基、アルコキシ基、もしくはチオアルコキシ基、またはアリールアルキル基を指す。本発明の化合物が1つを超えるR基を含むとき、例えば、これらの基のうちの1つを超える基が存在するとき、R基の各々は独立して、各R’、R”、R’’’、およびR’’’’基であるように選択される。R’およびR”が同じ窒素原子に結合されるとき、それらは、窒素原子と組み合わさって、5、6、または7員環を形成することができる。例えば、-NR’R’’は、1-ピロリジニルおよび4-モルホリニルを非限定的に含むことを意味する。置換基の上記の考察から、当業者は、「アルキル」という用語は、ハロアルキル(例えば、-CF3および-CH2CF3)およびアシル(例えば、-C(O)CH3、-C(O)CF3、-C(O)CH2OCH3など)などの水素基以外の基に結合された炭素原子を含む基を含むことを意味していることが理解されよう。これらの用語は、例示的な「置換アルキル」および「置換ヘテロアルキル」部分の成分である例示的な「アルキル基置換基」と考えられる基を包含する。
【0024】
アルキルラジカルについて説明した置換基と同様に、アリールヘテロアリールおよびヘテロアレーン基のための置換基は、一般に「アリール基置換基」と称される。その置換基は、例えば、0から、芳香環系における開原子価の総数までの範囲の数で、例えば、炭素またはヘテロ原子(例えば、P、N、O、S、Si、またはB)を介してヘテロアリールまたはヘテロアレーン核に結合された基から選択され、それらの基は、置換または非置換アルキル、置換または非置換アリール、置換または非置換ヘテロアリール、置換または非置換ヘテロシクロアルキル、-OR’、=O、=NR’、=N-OR’、-NR’R”、-SR’、ハロゲン、-SiR’R”R’’’、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’、-CONR’R”、-OC(O)NR’R”、-NR”C(O)R’、-NR’-C(O)NR”R’’’、-NR”C(O)2R’、-NR-C(NR’R”R’’’)=NR’’’’、-NR-C(NR’R”)=NR’’’、-S(O)R’、-S(O)2R’、-S(O)2NR’R”、-NRSO2R’、-CNおよび-NO2、-R’、-N3、-CH(Ph)2、フルオロ(C1~C4)アルコキシ、ならびにフルオロ(C1~C4)アルキルを非限定的に含む。上記の基の各々は、ヘテロアレーンまたはヘテロアリール核に直接またはヘテロ原子(例えば、P、N、O、S、Si、またはB)を介して結合され、R’、R”、R’’’、およびR’’’’は好ましくは独立して、水素、置換または非置換アルキル、置換または非置換ヘテロアルキル、置換または非置換アリール、および置換または非置換ヘテロアリールから選択される。本発明の化合物が1つを超えるR基を含むとき、例えば、これらの基のうちの1つを超える基が存在するとき、R基の各々は独立して、各R’、R”、R’’’、およびR’’’’基であるように選択される。
【0025】
アリール環、ヘテロアレーン環、またはヘテロアリール環の隣接原子上の置換基のうちの2つは、任意選択的に、式-T-C(O)-(CRR’)q-U-の置換基で置き換えてもよく、式中、TおよびUは独立して、-NR-、-O-、-CRR’-、または単結合であり、qは、0~3の整数である。あるいは、アリール環またはヘテロアリール環の隣接原子上の置換基のうちの2つは、任意選択的に、式-A-(CH2)r-B-の置換基で置き換えてもよく、式中、AおよびBは独立して、-CRR’-、-O-、-NR-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S(O)2NR’-、または単結合であり、rは、1~4の整数である。そのようにして形成された新しい環の単結合のうちの1つは、任意選択的に、二重結合で置き換えてもよい。あるいは、アリール環、ヘテロアレーン環、またはヘテロアリール環の隣接原子上の置換基のうちの2つは、任意選択的に、式-(CRR’)s-X-(CR”R’’’)d-の置換基で置き換えてもよく、式中、sおよびdは独立して、0~3の整数であり、Xは、-O-、-NR’-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、または-S(O)2NR’-である。置換基R、R´、R´´、およびR´´´は、好ましくは独立して、水素または置換もしくは非置換(C1~C6)アルキルから選択される。これらの用語は、例示的な「アリール基置換基」と考えられる基を包含し、それは、例示的な「置換アリール」「置換ヘテロアレーン」および「置換ヘテロアリール」部分の成分である。
【0026】
本明細書で使用されるとき、「アシル」という用語は、カルボニル残基、C(O)Rを含有する置換基を表している。Rの例示的な種としては、H、ハロゲン、置換または非置換アルキル、置換または非置換アリール、置換または非置換ヘテロアリール、および置換または非置換ヘテロシクロアルキルが挙げられる。
【0027】
本明細書で使用されるとき、「縮合環系」という用語は、少なくとも2つの環を意味し、各環は、別の環と共通の少なくとも2個の原子を有する。「縮合環系」は、芳香環ならびに非芳香環を含み得る。「縮合環系」の例は、ナフタレン、インドール、キノリン、クロメンなどである。
【0028】
本明細書で使用されるとき、「ヘテロ原子」という用語には、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)およびケイ素(Si)、ホウ素(B)およびリン(P)が含まれる。
【0029】
記号「R」は、H、置換または非置換アルキル、置換または非置換ヘテロアルキル、置換または非置換アリール、置換または非置換ヘテロアリール、および置換または非置換ヘテロシクロアルキル基から選択される置換基を表す一般的な略語である。
【0030】
本明細書に開示される化合物はまた、かかる化合物を構成する原子のうちの1つ以上において、不自然な割合の原子同位体を含有することもできる。例えば、化合物は、例えば、トリチウム(3H)、ヨウ素-125(125I)、または炭素-14(14C)などの放射性同位体で放射性標識することができる。本発明の化合物のすべての同位体変種は、放射性であろうとなかろうと、本発明の範囲内に包含されることが意図される。
【0031】
「塩(複数可)」という用語には、本明細書に記載の化合物に見出される特定の配位子または置換基に応じて、酸または塩基の中和によって調製された化合物の塩が含まれる。本発明の化合物が比較的酸性の官能基を含有するとき、塩基付加塩は、かかる化合物の中性形態を、純粋なまたは好適な不活性溶媒中の十分な量の所望の塩基と接触させることによって、得ることができる。塩基付加塩の例としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノ、またはマグネシウム塩、または同様の塩が挙げられる。酸付加塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、炭酸一水素酸、リン酸、リン酸一水素酸、リン酸二水素酸、硫酸、硫酸一水素酸、ヨウ化水素酸、または亜リン酸などの無機酸から誘導される酸付加塩、ならびに、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、乳酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p-トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などの比較的無毒性の有機酸から誘導される塩、が挙げられる。本発明のある特定の化合物は、化合物を塩基付加塩または酸付加塩のいずれかに変換させることを可能にする塩基官能基および酸官能基の両方を含有する。塩の水和物も含まれる。
【0032】
「-COOH」は、この用語が使用される場合、-C(O)O-および-C(O)O-X+を任意選択的に含むことを意味しており、式中、X+はカチオン性対イオンである。同様に、式-N(R)(R)を有する置換基は、-N+H(R)(R)および-N+H(R)(R)Y-を任意選択的に含むことを意味しており、式中、Y-はアニオン性対イオンを表している。発明の例示的なポリマーは、プロトン化カルボキシル部分(COOH)を含む。発明の例示的なポリマーは、脱プロトン化カルボキシル部分(COO-)を含む。発明の様々なポリマーは、プロトン化カルボキシル部分および脱プロトン化カルボキシル部分の両方を含む。
【0033】
1つ以上のキラル中心を有する本明細書に記載の任意の化合物において、絶対立体化学が明示的に示されない場合、各中心は独立して、R配置またはS配置またはそれらの混合物であり得ることが理解される。したがって、本明細書で提供される化合物は、鏡像異性的に純粋であっても、立体異性体混合物であってもよい。さらに、EまたはZとして定義することができる幾何異性体を生成する1つ以上の二重結合を有する本明細書に記載の任意の化合物において、各二重結合は独立して、EまたはZであってもよく、それらの混合物であってもよい、ことが理解される。同様に、記載した任意の化合物において、すべての互変異性形態も含まれることが意図されていることが理解される。
【0034】
以下は、本開示の特定の実施形態の実施例である。実施例は、例示目的のみのために提供されており、決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0035】
III.組成物
本開示の一態様は、吸着材料を提供する。吸着材料は、複数の金属イオンおよび複数のポリトピック有機リンカーを備える金属有機骨格を備える。複数のポリトピック有機リンカーにおける各ポリトピック有機リンカーは、複数の金属イオンにおける少なくとも2つの金属イオンに接続されている。吸着材料は、複数の配位子をさらに備える。複数の配位子における各それぞれの配位子は、金属有機骨格の複数の金属イオンにおける金属イオンにアミン付加される。複数の配位子における各それぞれの配位子は、下式を有し、
【化1-1】
【化1-2】
式中、Xは、金属有機骨格の金属イオンであり、Zは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、硫黄、またはセレニウムであり、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、およびR
10は各々独立して、H、ハロゲン、メチル、ハロゲン置換メチル、およびヒドロキシルから選択される。より一般的には、いくつかの実施形態では、複数の各それぞれの配位子は、飽和X員環に付加される第一級アミンであり、ここで、Xは、4、5、6、7、8、または9であり、環は、シクロアルキルまたはヘテロシクロアルキルのいずれかである。
【0036】
いくつかの実施形態では、複数の金属イオン中の各金属イオン(X)は、Mg、Ca、Mn、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、またはZnである。
【0037】
いくつかの実施形態では、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、およびR10は各々、水素である。いくつかの実施形態では、Zは、炭素である。いくつかの実施形態では、複数の金属イオン中の各金属イオン(X)は、Mgである。
【0038】
いくつかの実施形態では、ポリトピック有機リンカーは、4,4´-ジオキシドビフェニル-3,3´-ジカルボキシレート(dobpdc4-)、4,4´´-ジオキシド-[1,1´:4´,1´´-テルフェニル]3,3´´-ジカルボキシレート(dotpdc4-)、またはジオキシドビフェニル-4,4´-ジカルボキシレート(パラ-カルボキシレート-dobpdc4-、pc-dobpdc4-とも称される)である。
【0039】
いくつかの実施形態では、吸着材料が、CO2吸着時に単一のCO2吸着ステップを示す。いくつかの実施形態では、吸着材料は、CO2脱着時に単一のCO2脱着ステップを示す。
【0040】
いくつかの実施形態では、吸着材料は、CO2吸着時に複数のCO2吸着ステップを示す。いくつかの実施形態では、吸着材料は、CO2脱着時に複数のCO2脱着ステップを示す。
【0041】
いくつかの実施形態では、ポリトピック有機リンカーは、下式を有し、
【化2】
式中、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19およびR
20は各々独立して、H、ハロゲン、ヒドロキシル、メチル、およびハロゲン置換メチルから選択される。
【0042】
いくつかの実施形態では、ポリトピック有機リンカーは、下式を有し、
【化3】
式中、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、およびR
16は各々独立して、H、ハロゲン、ヒドロキシル、メチル、およびハロゲン置換メチルから選択される。
【0043】
いくつかの実施形態では、ポリトピック有機リンカーは、下式を有し、
【化4】
式中、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、およびR
16は各々独立して、H、ハロゲン、ヒドロキシル、メチル、またはハロゲン置換メチルから選択され、R
17は、置換または非置換アリール、ビニル、アルキニル、および置換または非置換ヘテロアリールから選択される。
【0044】
いくつかの実施形態では、ポリトピック有機リンカーは、下式を有し、
【化5】
式中、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、およびR
16は各々独立して、H、ハロゲン、ヒドロキシル、メチル、またはハロゲン置換メチルから選択される。
【0045】
いくつかの実施形態では、複数の配位子における各それぞれの配位子は、下式を有する。
【化6】
【0046】
いくつかのそのような実施形態では、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、およびR10は各々、水素であり、Zは、炭素であり、Xは、Mgである。いくつかの実施形態では、ポリトピック有機リンカーは、4,4´-ジオキシドビフェニル-3,3´-ジカルボキシレート(dobpdc4-)、4,4´´-ジオキシド-[1,1´:4´,1´´-テルフェニル]3,3´´-ジカルボキシレート(dotpdc4-)、またはジオキシドビフェニル-4,4´-ジカルボキシレート(パラ-カルボキシレート-dobpdc4-、pc-dobpdc4-とも称される)である。
【0047】
いくつかの実施形態では、複数の配位子における各それぞれの配位子は、下式を有する。
【化7】
【0048】
いくつかの実施形態では、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6は各々、水素であり、Zは炭素であり、Xは、Mgである。いくつかの実施形態では、ポリトピック有機リンカーは、4,4´-ジオキシドビフェニル-3,3´-ジカルボキシレート(dobpdc4-)、4,4´´-ジオキシド-[1,1´:4´,1´´-テルフェニル]3,3´´-ジカルボキシレート(dotpdc4-)、またはジオキシドビフェニル-4,4´-ジカルボキシレート(パラ-カルボキシレート-dobpdc4-、pc-dobpdc4-とも称される)である。
【0049】
IV.技術用途
本開示の一態様では、開示された吸着材料に関するいくつかの技術用途を提供する。
【0050】
1つのそのような用途は、石炭煙道ガスまたは天然ガス煙道ガスからの炭素回収である。地球規模の気候変動の一因となっている二酸化炭素(CO2)の大気レベルでの増加は、発電所などの点源からのCO2排出を削減するための新しい戦略の根拠となっている。特に、石炭火力発電所は世界のCO2排出量の30~40%を占めている。参照により本明細書に組み込まれるQuadrelli et al.,2007,「The energy-climate challenge: Recent trends in CO2 emissions from fuel combustion,」Energy Policy 35,pp.5938-5952を参照されたい。したがって、石炭煙道ガスから、すなわち、周囲圧力および40℃において、CO2(15~16%)、O2(3~4%)、H2O(5~7%)、N2(70~75%)、および微量不純物(例えば、SO2、NOx)からなるガスストリームから、炭素を回収するための新しい吸着剤の開発に関しては依然として継続したニーズが存在する。参照により本明細書に組み込まれる、Planas et al.,2013,「The Mechanism of Carbon Dioxide Adsorption in an Alkylamine-Functionalized Metal-organic Framework」,J.Am.Chem.Soc.135,pp.7402-7405を参照されたい。同様に、燃料源としての天然ガスの使用の増加は、天然ガス火力発電所の煙道ガスからCO2を回収することができる吸着剤に対するニーズを必然的に伴う。天然ガスの燃焼によって生成された煙道ガスは、より低いCO2濃度、約4~10%のCO2を含み、ストリームの残部は、H2O(飽和)、O2(4~12%)、およびN2(残り)からなる。特に、温度スイング吸着プロセスの場合、吸着剤は、次の特性を有しているべきである:(a)再生エネルギーコストを最小化するために、最小の温度スイングで高い作業容量、(b)石炭煙道ガスの他の成分を超えるCO2に関する高い選択性、(c)煙道ガス条件下でのCO2の90%回収、(d)湿潤条件下で、効果的な性能、および(d)湿潤条件下で、吸着/脱着サイクルに対する長期安定性。
【0051】
別のかかる用途は、粗バイオガスからの炭素回収である。有機物の分解によって生成されるCO2/CH4混合物であるバイオガスは、従来の化石燃料源に取って代わる可能性のある再生可能な燃料源である。粗バイオガス混合物からのCO2の除去は、この有望な燃料源をパイプライン品質のメタンにアップグレードする最も困難な態様の1つである。したがって、吸着剤を使用して、高い作業容量および最小の再生エネルギーによってCO2/CH4混合物からCO2を選択的に除去することは、エネルギーセクターにおける用途のために天然ガスの代わりにバイオガスを使用するコストを大幅に削減する可能性がある。
【0052】
開示される組成物(吸着材料)を使用して、CO2に富むガスストリームから大部分のCO2をストリッピングすることができ、CO2に富む吸着材料は、温度スイング吸着方法、圧力スイング吸着法、真空スイング吸着法、濃度スイング吸着法、またはそれらの組み合わせを使用して、CO2を取り除くことができる。例示的な温度スイング吸着法および真空スイング吸着法は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第WO2013/059527 A1号に開示されている。
【実施例】
【0053】
開示される組成物の用途、および天然ガス煙道ガスからの炭素回収のための方法。40℃、50℃、および60℃でのEMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))のCO
2等温線で、おそらくは関連する材料に類似するカルバミン酸アンモニウム鎖の協同形成により、ステップ状の吸着挙動(
図2)を示すことが確認される。McDonald et al.,2015,Nature 519,p.303、およびSiegelman et al.,2017,J.Am.Chem.Soc.,139,p.10526を参照されたい。嵩高いジアミンを付加したMg
2(dobpdc)バリアントによって以前に観察されたものに類似する、2つの別個のCO
2吸着ステップが各温度で観察された。Siegelman et al.,2017,J.Am.Chem.Soc.,139,p.10526、およびMilner et.al,2018,Chem.Sci.,9,p.160を参照されたい。3つすべての温度で、どちらのCO
2吸着ステップも、40mbar未満で発生し、これらのステップが天然ガス煙道ガス条件下で動作しなければならないことを示す。これは、40mbarでの高いCO
2の取り込みにつながる(40℃:3.47mmol/g、50℃:3.44mmol/g、60℃:3.22mmol/g)。加えて、40℃および50℃で、より低い圧力ステップが4mbar未満で生じ、この材料がこれらの温度でガスストリームから90%以上の回収を達成することが可能でなければならないことを示唆する。60℃で、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))は、水の非存在下でターゲットストリームからCO
2の約87%を除去することが可能であると予測される。一貫して、EMM-44のN
2等圧線における0.4%のCO
2は、60℃未満の温度でのCO
2の取り込みを示す(
図3)。この材料の40℃のO
2およびN
2等温線で、これらのガスのごくわずかな取り込みを示すことが確認され、ターゲットプロセスに関連する圧力において、40℃での高い非競合的なCO
2/N
2(約1300)およびCO
2/O
2(約700)の選択性につながる(
図2)。加えて、純CO
2吸着/脱着等圧線は、EMM-44が125℃で純乾燥CO
2の下で完全に再生され得ることを明らかにする(
図4)。
【0054】
吸着の微分エンタルピー(Δh
ads)は、
図2における等温線の直線補間によるCO
2装填の関数として決定した(
図5A)。どちらのCO
2吸着ステップの吸着微分エンタルピーの大きさも、比較的高く(75±5kJ/mol、143±9kJ/kg)、これは、強力なCO
2の吸着、および温度の関数としてのCO
2吸着ステップ圧力の急速な移動を容易にする。加えて、
図5Bを参照すると、40℃~140℃の範囲にわたるEMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))の平均可逆熱容量は、比較的低い(1.67J/g・℃)。したがって、EMM-44を60℃から140℃まで加熱するためには、約134kJ/kg
MOFしか費やさない。この80℃の温度スイング、平均CO
2吸着エンタルピー、および3.2mmol/gの予想CO
2作業容量を使用して、2.7MJ/kgのCO
2の予測再生エネルギーを計算することができる。吸着温度を40℃まで低減させることは(ΔT=100℃)、予測CO
2容量(3.5mmol/g)および再生エネルギー(2.8MJ/kg、CO
2)のわずかな増加をもたらす。これらの値が、骨格が140℃、1バールでいかなるCO
2も吸着しないこと、他の共同吸着された種を考慮しないこと、および活性化した骨格と比較してCO
2吸着相の異なる熱容量を考慮しないことを前提としているので、これらの値は、推定に過ぎない。それにもかかわらず、これらの値は、低いエネルギーペナルティでEMM-44からCO
2を脱着させることができることを示唆する。
【0055】
湿潤条件下のEMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))の性能は、ターゲットプロセスに対するその用途に重要である。熱重量分析(TGA)によって収集した湿潤等圧線は、乾燥CO
2と比較して湿潤CO
2下の吸着ステップ温度の増加によって証明されているように(
図7と
図6とを比較する)、H
2O(ストリームの約1.3%)の存在下でEMM-44がより効果的にCO
2を吸着することを示唆する。これは、H
2Oの存在下でCO
2結合相の優先的安定化によるものであり得、および/またはH
2OがCO
2の協同化学吸着に必要とされる陽子移動を容易にするためであり得る。この仮説と一致して、EMM-44は、水の存在下で、N
2ストリームにおける0.4%CO
2からの向上した吸着を示す(
図7と
図6とを比較する)。しかしながら、乾燥および湿潤CO
2吸着等圧線は、60℃でほぼ完全に重なり、これは、寄生水共同吸着がこの温度で最小になるだろうことを示唆する。
【0056】
模擬温度スイング吸着(TSA)プロセスにおける湿潤吸着/脱着サイクルに対するEMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))の安定性を、熱重量分析(
図8)によって評価した。この材料は、750回の吸着/脱着サイクルのうちの最後の100回によって示されるように、優れたサイクル安定性を示した(
図8)。40℃での吸着に関して、吸着容量は、約16g/100gであった(すべてCO
2である場合は、3.6mmol/g)であった。加えて、この材料における高速吸着/脱着動力学および急速拡散のため、短い吸着(5分)および脱着(1分)間隔を使用することができる。後者は、77KのN
2吸着等温線(
図9)から決定したときに、この材料(618±2m
2/g)の高いブルナーエメットテラー(BET)表面積に起因する。このサイクル実験の後の材料の消化で、ジアミンとMg
2+部位との比率が依然として高い(93%)ことが確認され、喪失の大部分は、おそらく欠陥部位からのジアミンの揮発によるものである。同様に、効果的な吸着/脱着サイクルは、湿潤4%のストリームからの60℃での吸着によって、200サイクル後に最小のジアミン喪失を伴って達成することができる(表1)。
【0057】
【0058】
高いジアミン装填(98%)および鮮明なCO
2吸着ステップによって140℃(CO
2およびH
2Oを完全に脱着させるために必要とされる温度)で12時間にわたって湿潤CO
2を流しながら材料の存続処理を行うことによって(
図10)、高温での曝露の後にジアミン喪失に対するEMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))の熱安定性も優れている(表1)。実際に、EMM-44は、最高180℃の温度でのジアミン喪失に対して安定している(表1)。加えて、EMM-44は、100℃で6hにわたって乾燥空気を流しながら処理した場合、そのCO
2吸着プロファイルに対していかなる影響も有しなかったので、O
2、すなわち、天然ガス煙道ガスの別の潜在的反応性成分に対する長期間の曝露に対して安定している(
図11)。最後に、乾燥条件および湿潤条件下での4%CO
2吸着等圧線で、EMM-44が、水の存在下で、85℃の高い温度で4%CO
2ストリームからCO
2を除去できることが確認されるが、45℃以下の温度で、水の共同吸着の増加が観察される(
図12)。
【0059】
ジアミン2-ampdも、拡張骨格Mg
2(dotpdc)(dotpdc
4-=4,4´´-ジオキシド-[1,1´:4´,1´´-テルフェニル]-3,3´´-ジカルボキシレート)に付加した。得られた吸着剤(EMM-45)は、純CO
2等圧線において単一のCO
2吸着/脱着ステップを示したが(
図13)、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))のより高い温度(113℃)の吸着ステップと比較して、吸着ステップは、上昇した温度(121℃)で生じ、これは、親材料と比較して、低分圧ストリームからのCO
2の改善された回収を実証し得ることを示す。拡張骨格における2つの吸着ステップの欠如は、Mg
2(dobpdc)の嵩高いジアミン付加バリアントにおける2つのCO
2吸着/脱着ステップの起源に関する以前の結果と一致する。Siegelman et al.,2017,J.Am.Chem.Soc.,139,p.10526、およびMilner et al.,2018,Chem.Sci.,9,p.160を参照されたい。加えて、ジアミン2-ampdは、親骨格の同形金属バリアントに付加することができる。例えば、2-ampdをMg
2(dobpdc)の同形金属バリアントであるZn
2(dobpdc)に付加することで、吸着剤EMM-44(Zn)(2-ampd-Zn
2(dobpdc))を生成したが、これも、ステップ状のCO
2の吸着を示す(
図14)。
【0060】
この戦略の一般性を調べるために、環状ジアミン3-アミノピロリジン(3-apyrr)も、Mg
2(dobpdc)に付加した(
図15)。得られた吸着剤EMM-44(3-apyrr)(3-apyrr-Mg
2(dobpdc))は、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))と比較して、同程度の温度(115℃)で、単一のCO
2吸着ステップを示したが、これも天然ガス煙道ガスからのCO
2の除去に有望なことを示している。
【0061】
2-ampd(EMM-44)で官能化したMg
2(dobpdc)のCO
2吸着特性もまた、直鎖状アルキル基、N-(n-ブチル)エチレンジアミン(EMM-50(nBu-2))を有する対応するジアミンで官能化したMg
2(dobpdc)の吸着特性と比較した(
図16)。どちらの吸着剤も2つのCO
2吸着/脱着ステップを示しているが、EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))のステップは、互いに非常に接近している。EMM-44の2つの高温吸着ステップは、天然ガス煙道ガスからのその吸着容量を増加させるはずである。したがって、N
2ストリーム中の湿潤4%CO
2からCO
2の約90%を回収するEMM-44の能力は、高い熱安定性、酸化安定性、および加水分解安定性と相まって、この材料を、天然ガス煙道ガスからの炭素回収に非常に有望にする。
【0062】
30℃、40℃、50℃、および60℃でのEMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))に関するH
2O吸着等温線は、最初に、H
2Oが、P/P
0=0.2によって、続いてより高い相対圧力での濃縮によって、ジアミンあたり1のH
2O分子に相当する容量まで吸着することを示す(
図17)。-Δh
ads=50~65kJ/molのH
2Oの吸着の微分エンタルピーを、0.25~1.25mmol H
2O/gのEMM-44から、H
2O装填について計算した。H
2Oは、CO
2の化学吸着機構に従うことができず、したがって、CO
2とは別体の結合部位を有するので、H
2Oの存在下でのCO
2の協同吸着が可能である。
【0063】
乾燥条件および湿潤条件下のEMM-44(2-ampd-Mg2(dobpdc))によって破過実験を行って、模擬固定床プロセスにおける材料の性能を特徴付けた。実験は、篩分けした圧縮粉末から形成した0.73gのEMM-44の25~45メッシュペレットを含む6インチのステンレス鋼床(外形0.25インチ、壁厚0.035インチ)を使用して行った。材料は、最初に、120℃で30分にわたって30mL/分のHe流量の下で活性化させた。その後の破過サイクル間の再活性化は、100℃で30~60分にわたって30mL/分のヘリウムまたはアルゴン流量の下で行った。湿潤実験について、最初に、ヘリウムの湿潤供給を使用して、吸着床を水で事前飽和させた。N2中にCO2を事前混合したシリンダをウォーターバブラーに通すことによって、模擬湿潤煙道ガス(2~3%H2O)を生成した。バブラーは、湿潤破過実験の前にCO2で事前飽和させた。すべての実験では、N2破過容量は、ゼロの誤差範囲内であったが、誤差は、ガスクロマトグラフの走査速度(1分)によって設定した時間分解能に対応する、積分破過時間から決定した。
【0064】
図18は、40℃および1バールでN
2中乾燥4%CO
2の30sccmに関する、CO
2破過曲線を示す。完全な破過の前に、破過の初期部分は、CO
2「スリップ」、すなわち、ステップ状の吸着等温線の直接的な結果を示す。材料は、床内のCO
2分圧がステップ圧力未満に低下するとCO
2を回収することができなくなるので、スリップ濃度は、実験温度においてCO
2吸着ステップ圧力とおおむね相関する。40℃での乾燥破過実験は、CO
2吸着等温線に基づいた予想(予想スリップ:0.4mbar、予想回収率:99%)よりもわずかに高いスリップ(約5mbar)、およびそれに対応してより低い回収率(約88%)を示した。これはおそらく、CO
2吸着時の床の熱上昇に一部起因する。この実験から計算した消耗時のCO
2容量は、2.7mmol/gであった。
【0065】
事前湿潤させた吸着床を有する湿潤模擬天然ガス煙道ガスの存在下では、CO
2回収性能の飛躍的な向上が観察された。
図19は、40℃(N
2中4%CO
2、30sccm、1バール)での湿潤破過の3回目のサイクルが、
図18からの等価な乾燥実験と重なることを示す。湿潤実験では、単一の鮮明な破過プロファイルを生じさせる事前破過スリップを除外する。湿潤実験からの消耗時のCO
2容量は、乾燥実験の容量に相当する、2.7mmol/gであった。60℃(N
2中4%CO
2の30sccm、1バール)でのCO
2破過プロファイルもまた、湿潤条件下で飛躍的に向上した性能を示す(
図20)。湿潤実験は、乾燥実験(2.4mmol/g)と比較して、消耗時にわずかに低いCO
2容量(2.0mmol/g)を示すが、CO
2回収率における大幅な向上が可能である(乾燥煙道ガスからの約63%の回収と比較して、湿潤煙道ガスから99%を超える回収)。
【0066】
湿潤条件下でのEMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))の向上した性能は、CO
2吸着プロファイルに対する水の影響から生じる熱力学効果として説明することができる。吸着等圧線(
図12)に見られるように、湿度の組み込みは、CO
2吸着ステップを、等温実験におけるより低い圧力に相当する、より高い温度にシフトする。ステップ状の等温線を有する材料について、カラムを通るCO
2の「スリップ」は、初期状態(0mbar)と供給状態(40mbar)との間の弦との吸着等温線の交点から予測される。参照により本明細書に組み込まれる、Golden,1973,「Theory of Fixed-Bed Performance for Ion Exchange Accompanied by Chemical Reaction」,Ph.D.Dissertation,University of California,Berkeley,Californiaを参照されたい。この交点は、典型的に、ステップ圧力で生じ、ステップ圧力を使用して、破過実験におけるCO
2スリップ濃度を予測することができる。したがって、等温線を、湿度を伴うより低い圧力へシフトすることで、交点の圧力を低下させることによって、CO
2スリップを低減させることができる。供給濃度に対する弦が等温線ともはや交差しなくなるように、水がCO
2吸着等温線の形状を変化させた場合に、CO
2スリップを完全に排除することができる。いかなる特定の理論にも限定することを意図するものではないが、分子の観点から、水の存在下でCO
2吸着に対する閾値の低減は、おそらくはCO
2との反応時に形成されるカルバメートに対する水の水素結合によって、水の存在下でのCO
2吸着相の優先的安定化によって説明することができる。この結果は、吸着された水とカルバメート基との相互作用を示す、DFT計算ならびに核磁気共鳴および赤外線スペクトルによって支持される。加えて、水は、カルバミン酸アンモニウム鎖の形成中の陽子移動速度に影響を及ぼすことによって動力学的役割を果たすことができる。
【0067】
EMM-44(2-ampd-Mg
2(dobpdc))の破過性能もまた、40℃および1バールにおいて、模擬乾燥石炭煙道ガス(N
2中15%CO
2、15sccm)の下で試験した(
図21)。40℃でのCO
2のより高い供給圧力およびEMM-44の低いステップ圧力(どちらも4mbar未満)のため、CO
2スリップの分画は少なく、高い回収率(95%超)が容易に達成される。この実験から計算した消耗時のCO
2容量は、3.3mmol/gであった。
【0068】
結論
本明細書に記載した実施例および実施形態は、単に例示を目的とし、それを踏まえた様々な修正または変更が当業者に示唆され、本出願の趣旨および権限ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解される。本明細書で引用したすべての刊行物、特許、および特許出願は、あらゆる目的のためにそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。