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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】ジエステルを含有する潤滑組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 129/74 20060101AFI20230317BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20230317BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20230317BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20230317BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230317BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230317BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20230317BHJP
【FI】
C10M129/74
C10M169/04
C10M101/02
C10M107/02
C10N40:25
C10N30:00 Z
C10N30:04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020505904
(86)(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 EP2018070745
(87)【国際公開番号】W WO2019025446
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】1757485
(32)【優先日】2017-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514170019
【氏名又は名称】トタル マーケティング セルヴィス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・シャンパーニュ
(72)【発明者】
【氏名】ガエル・ロビノー
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-520319(JP,A)
【文献】特開2005-154726(JP,A)
【文献】特開2009-203377(JP,A)
【文献】特開2011-057759(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02913386(EP,A1)
【文献】特開2006-193723(JP,A)
【文献】特開昭58-017198(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第00716086(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(X)W(Y)(Xは0又は5を表し、Yは4~20の範囲の整数を表す)によって定義されるSAE J300分類による等級の潤滑組成物であって、下記式(I):
【化1】
(式中:
- Rは、独立に、水素原子、又は直鎖状の若しくは分岐した(C~C)アルキル基を表し;
- sは、1又は2であり;
- nは、1、2、又は3であり;
ただし、sが1と異なる場合は、nは同じでも異なっていてもよいことが理解され;そして
- Ra及びRbは、同一でも異なっていてもよく、独立に、~18個の炭素原子の直鎖を有する飽和又は不飽和の、直鎖状の又は分岐した炭化水素基を表し;
ただし、sが2であり、n(これは同一である)が2である場合には、R基の少なくとも1つは直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基を表し;かつ
ただし、sが1であり、nが3である場合には、エステル官能基の酸素原子のベータ位の炭素に結合したR基の少なくとも1つは水素原子を表す)
の少なくとも1つのジエステルを含む、潤滑組成物。
【請求項2】
Ra及びRbは、同じでも異なっていてもよく、~14個の炭素原子の線形配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Ra及びRbは、同じでも異なっていてもよく、C ~C18の直鎖アルキル基を表すことを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
Ra及びRbが両方ともn-オクチル又はn-ウンデシル基を表すことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ジエステルが、下記式(I'):
【化2】
(式中:
- R及びR’は、独立に、水素原子、又は直鎖状の若しくは分岐した(C~C)アルキル基を表し;
- sは、1又は2であり;
- nは2であり;
- mは2であり;
- Ra及びRbは、同一でも異なっていてもよく、独立に、~18個の炭素原子の直鎖を有する飽和又は不飽和の、直鎖状の又は分岐した炭化水素基を表し;
ただし、sが2である場合は、R又はR’基の少なくとも1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基を表す)
のジエステルであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ジエステルが式(I')のジエステルであり、式(I')において、
- sが2であり;
- R基の1つが直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基を表し;
- R'基の1つが直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基を表し;その他のR及びR'基は水素原子を表す、
ことを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
- sが1に等しく;
- R基の1つが直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基を表し;その他は水素原子を表す、
ことを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記ジエステルが、モノプロピレン又はポリプロピレングリコールと、1つ以上のカルボン酸Ra-COOH及びRb-COOHとの間のエステル化反応によって得られるものであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
組成物の総質量に基づいて、式(I)のジエステル(1又は複数)を1~30質量%含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
API分類のグループII、III、及びIVの油から選択される1種以上の基油を含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
摩擦調整添加剤、耐摩耗添加剤、極圧添加剤、清浄添加剤、酸化防止添加剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、分散剤、消泡剤、増粘剤、及びそれらの混合物から選択される1つ以上の添加剤を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
少なくとも1つの摩擦調整添加剤を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
0W4、0W8、0W12、0W16、0W20、5W4、5W8、5W12、5W16、及び5W20から選択されるSAE J300分類による等級の、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
エンジン用の潤滑剤としての、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項15】
エンジンの燃料消費を低減するための、式(X)W(Y)(Xは0又は5を表し、Yは4~20の範囲の整数を表す)によって定義され、かつエンジンのためのものであるSAE J300分類による等級の潤滑組成物中の添加剤としての、下記式(I)のジエステルの使用:
【化3】
(式中:
- Rは、独立に、水素原子、又は直鎖状の若しくは分岐した(C ~C )アルキル基を表し;
- sは、1、2、3、4、5、又は6であり;
- nは、1、2、又は3であり;
ただし、sが1と異なる場合は、nは同じでも異なっていてもよいことが理解され;そして
- R a 及びR b は、同一でも異なっていてもよく、独立に、6~18個の炭素原子の直鎖を有する飽和又は不飽和の、直鎖状の又は分岐した炭化水素基を表し;
ただし、sが2であり、n(これは同一である)が2である場合には、R基の少なくとも1つは直鎖状の又は分岐した(C ~C )アルキル基を表し;かつ
ただし、sが1であり、nが3である場合には、エステル官能基の酸素原子のベータ位の炭素に結合したR基の少なくとも1つは水素原子を表す)。
【請求項16】
エンジンの清浄度を向上させるための、式(X)W(Y)(Xは0又は5を表し、Yは4~20の範囲の整数を表す)によって定義され、かつエンジンのためのものであるSAE J300分類による等級の潤滑組成物中の添加剤としての、下記式(I)のジエステルの使用:
【化4】
(式中:
- Rは、独立に、水素原子、又は直鎖状の若しくは分岐した(C ~C )アルキル基を表し;
- sは、1、2、3、4、5、又は6であり;
- nは、1、2、又は3であり;
ただし、sが1と異なる場合は、nは同じでも異なっていてもよいことが理解され;そして
- R a 及びR b は、同一でも異なっていてもよく、独立に、6~18個の炭素原子の直鎖を有する飽和又は不飽和の、直鎖状の又は分岐した炭化水素基を表し;
ただし、sが2であり、n(これは同一である)が2である場合には、R基の少なくとも1つは直鎖状の又は分岐した(C ~C )アルキル基を表し;かつ
ただし、sが1であり、nが3である場合には、エステル官能基の酸素原子のベータ位の炭素に結合したR基の少なくとも1つは水素原子を表す)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、特に自動車エンジン用の潤滑組成物の分野に関する。特に、エンジンの清浄度の向上及び燃料消費量の削減に関して向上した性能をもつ潤滑組成物を提供することを目的としている。
【0002】
「潤滑剤」としても知られる潤滑組成物は、エンジン内で動くさまざまな金属部品間の摩擦力を減らすことを主な目的として、エンジンに一般的に使用されている。さらに、潤滑組成物は、それらの部品、特にその表面への早期の摩耗及び損傷を防ぐのに有効である。
【0003】
この目的のためには、潤滑組成物は、古くから基油(ベースオイル)からなり、そこへ、通常は、基油の潤滑性能を高めるだけでなく、追加の性能をもたらすのに貢献するいくつかの添加剤、例えば、摩擦調整添加剤が添加される。例えば、酸化及び燃焼による副生成物を溶解することによって、金属部品の表面上への堆積物の形成を避けるために、清浄剤が非常に頻繁に考慮される。
【0004】
明らかな理由から、潤滑剤の性能を向上させることは常に関心のある事項である。特に、増大する環境要求事項に適合させるために、車両の燃料消費量を削減することに関心が高まっている。
【0005】
この点に関して、潤滑組成物は、エンジンの様々な部分の間で発生する摩擦力への影響を通じて燃料消費に影響を及ぼす有効な手段であることが知られている。特に、基油(ベースオイル)の品質は、それ単独で、又は粘度指数向上ポリマー及び摩擦調整添加剤(摩擦調整剤)と組み合わせて、燃料経済性を達成するのに特に極めて重要であることが知られている。
【0006】
例えば、いわゆる「Fuel-Eco(燃料エコ)」(fuel economyに対するFE, 燃料経済性)潤滑組成物はすでに開発されている。多かれ少なかれ流体グレードの基油は、そのような「燃料エコ」潤滑油を得る際の決定的要因である。
【0007】
さらに、潤滑剤に使用されるいくつかのモノエステルは室温で固体であり、これは潤滑剤の低温でのポンプ輸送性の問題を引き起こし、さらに、そのような潤滑剤はSAE J300の基準を満たさない。
【0008】
欧州特許出願公開第2913386号明細書により、50~97質量%の基油及び3~50質量%の2-エチルヘキシルセバケートを含み、燃料エコ特性を有する潤滑組成物も知られている。
【0009】
エンジンの故障は、ほとんどの場合、エンジンの汚れの結果である。実際に、エンジンの清浄度を改善する潤滑組成物をもつことが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】欧州特許出願公開第2913386号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、潤滑組成物、特に車両エンジンのための潤滑組成物を提供することをまさに目的とするものであって、それは燃料経済性とエンジン清浄度の点で改善された特性の両方を兼ね備えている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すべての予想に反して、本発明者らは、特定のジエステルを使用することを考慮することを条件として、改善されたエンジンの清浄度に関してその効率が向上し、燃料消費節約に関して、いわゆる「Fuel-Eco(燃料エコ)」潤滑組成物の燃料消費節約と同等又はそれよりさらに優れている性能をもたらす潤滑組成物を得ることができることを発見している。
【0013】
したがって、本発明は、その第1の側面によれば、式(X)W(Y)(Xは0又は5を表し、Yは4~20の範囲の整数を表す)によって定義されるSAE J300分類によるグレードの潤滑組成物に関連し、前記組成物は下記式(I)の少なくとも1つのジエステルを含む:
【化1】
式中:
- Rは、独立に、水素原子、又は直鎖状の若しくは分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、とりわけメチルを表し;
- sは、1、2、3、4、5、又は6であり;
- nは、1、2、又は3であり;
ただし、sが1と異なる場合は、nは同じでも異なっていてもよく;そして
- Ra及びRbは、同一でも異なっていてもよく、独立に、6~18個の炭素原子の直鎖を有する飽和又は不飽和の、直鎖状の又は分岐した炭化水素基を表し;
ただし、sが2であり、n(これは同一である)が2である場合には、R基の少なくとも1つは直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基を表し;
ただし、sが1であり、nが3である場合には、エステル官能基の酸素原子のベータ位の炭素に結合したR基の少なくとも1つは水素原子を表す。
【0014】
好ましくは、sは、1、2、又は3であり、特にsは1又は2である。
【0015】
好ましくは、nは2又は3であり、特にnは2である。
【0016】
特定の態様によれば、本発明による式(I)のジエステルは、下の式(I')のジエステルである:
【化2】
式中:
- R及びR'は、独立に、水素原子、又は直鎖状の若しくは分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、とりわけメチル基を表し;
- sは、1、2、又は3であり、特にsは1又は2であり;
- nは2であり;
- mは2であり;
- Ra及びRbは、同一でも異なっていてもよく、独立に、6~18個の炭素原子の直鎖を有する飽和又は不飽和の、直鎖状の又は分岐した炭化水素基を表し;
ただし、sが2である場合は、R又はR'基の少なくとも1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基を表す。
【0017】
有利には、式(I')のジエステル中のR又はR'基の少なくとも1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に(C~C)アルキル基、より好ましくは、メチル、エチル、又はプロピル、有利にはメチルを表す。
【0018】
式(I)、特に式(I')のジエステルは、以下に、より詳細に記述されている。
【0019】
好ましくは、上述した式(I)及び(I')中のRa及びRbは、7~14個の炭素原子、特に8~12個の炭素原子、さらに特に8~11個の炭素原子、とりわけ8~10個の炭素原子の線形配列を有する。特に、Ra及びRbは両方ともn-オクチル又はn-ドデカノイル基、好ましくはn-オクチルを表す。
【0020】
式(I)、特に上述した式(I')のそのようなジエステルを組み込んだ潤滑組成物は、エンジン、特に車両エンジン用の潤滑剤として使用するのに特に有効であることが判明している。
【0021】
したがって、本発明は、その側面の別のものによれば、エンジン、特に車両エンジン用の潤滑剤としての上述した組成物の使用に関する。
【0022】
特に、以下の例に示されるように、発明者らは、式(X)W(Y)(Xは0又は5を表し、Yは4~20の範囲の整数を表す)で定義されるSAE J300分類による等級であり、かつ本発明による少なくとも1つのジエステルを含む潤滑組成物は、モノエステル、本発明のもの以外のジエステル、又はトリエステルを含む潤滑組成物と比較して、低減された燃料消費(「燃料エコ」特性)及びエンジンの清浄度の両方に関して、改善された特性を明らかに示すことに気付いた。
【0023】
確かに、1951年の日付のGB716086号明細書は、潤滑組成物にジエステルを用いることを提案している。しかしながら、この使用は、本発明の使用とは非常に異なる事情において考えられたものである。まず第一に、GB716086号明細書で考慮されている潤滑組成物は、本発明に従って考えられているものと一致せず、とりわけ、温度の非常に広い変動にさらされる航空機エンジンでの使用が意図されている。合成エステルは、それが高い粘度指数及び引火点をもち、かつ同等の粘度の鉱油よりも低い流動点を有するという点で、鉱油よりも興味深いと説明されている。
【0024】
本発明との関連において、考えられている潤滑組成物は、式(X)W(Y)(Xは0又は5を表し、Yは4~20の範囲の整数を表す)によって定義されるSAE J300分類による等級のものである。このグレードは、特に自動車エンジン用途向けの潤滑組成物の選択に適しており、始動時の低温粘度、低温ポンプ能力、低せん断速度における動粘性率、及び高せん断速度での動的粘度などのさまざまなパラメーターに関してとりわけ定量化された特異性を充足する。
【0025】
有利なやり方では、本発明に従って考えられるグレードの潤滑組成物中の添加剤として、上で定義した式(I)、特に上述した式(I')のジエステルの使用は、エンジンの燃料消費量を低減することを可能にする。言い換えれば、本発明の潤滑組成物は、低減された燃料消費への手段を提供するという点で「燃料エコ」の資格を満たす。
【0026】
したがって、本発明の別の側面によれば、本発明は、エンジンの燃料消費を低減するための、式(X)W(Y)(Xは0又は5を表し、Yは4~20の範囲の整数を表す)によって定義され、かつエンジン、特に車両用エンジンのためのものであるSAE J300分類による等級の潤滑組成物中の添加剤として、上で定義した式(I)、及び特に上で述べた式(I')のジエステルを使用することをさらに意図している。
【0027】
また、以下の例に示されるように、本発明による潤滑組成物における、良好な洗浄特性を有するそのようなジエステルの使用はエンジンの清浄度を有利に向上させる。
【0028】
したがって、本発明は、そのなお別の側面によれば、エンジンの清浄度を向上させるための、式(X)W(Y)(Xは0又は5を表し、Yは4~20の範囲の整数を表す)で定義され、エンジン、特に車両エンジンのためのSAE J300分類による等級の潤滑組成物における添加剤としての、上で定義した式(I)のジエステル、特に上で述べた式(I')のジエステルの使用に関する。
【0029】
本発明による潤滑組成物のその他の特徴、変形、及び利点は、本発明の非限定的な例示の目的を前提として、以下に続く説明及び実施例を読むことによってより明確になるであろう。
【0030】
以下では、「...と...の間」、「...から(~)...(まで)」および「...から...まで変わる」という表現は同等であり、特に別段の規定がない限り、それらの境界が含まれることを意味する。
【0031】
別段の規定がない限り、「1つを含む」という表現は「少なくとも1つを含む」と理解される。
【0032】
一般式(I)のジエステル
上述したように、本発明による潤滑組成物は、一般式(I)の少なくとも1つのジエステルを含有するという特徴を有する。
【化3】
式中:
- Rは、独立に、水素原子、又は直鎖状の若しくは分岐した(C~C)アルキル基、特にメチル、エチル、又はプロピル基、とりわけメチルを表し;
- sは、1、2、3、4、5、又は6であり;特に、sは、1、2、又は3であり、さらに特に、sは1又は2であり;
- nは、1、2、又は3であり;特に、nは2又は3であり、さらに特に、nは2であり、sが1と異なる場合は、nは同じでも異なっていてもよいことが理解され;そして
- Ra及びRbは、同一でも異なっていてもよく、独立に、6~18個の炭素原子の直鎖を有する、飽和又は不飽和の、直鎖状の又は分岐した炭化水素基を表し;
ただし、sが2であり、n(これは同一である)が2である場合には、R基の少なくとも1つは直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基を表し;
ただし、sが1であり、nが3である場合には、エステル官能基の酸素原子のベータ位の炭素に結合したR基の少なくとも1つは水素原子を表す。
【0033】
以下、本発明による式(I)のジエステルは、より簡単に、本発明のジエステルとして示す。
【0034】
好ましくは、本発明との関連において:
- 「Ct-z」(t及びzは整数)は、tからz個の炭素原子を有してよい炭素鎖を指す。たとえば、C1~4は、1~4個の炭素原子を有してよい炭素鎖を指す。
- 「アルキル」は、飽和の直鎖状の又は分岐した脂肪族基を指す。例えば、C1~4-アルキル基は、1~4個の炭素原子の直鎖状の又は分岐した炭素鎖、より具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチルを表す。
【0035】
好ましくは、上述した式(I)において、sが1と異なる場合、全てのnは同じである。
【0036】
特に、上述した式(I)中のnは2又は3であり、さらに特にnは2である。
【0037】
好ましくは、上述した式(I)中のsは、1、2、又は3であり、好ましくは、sは1又は2である。
【0038】
好ましくは、R基の少なくとも1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に(C~C)アルキル基、より好ましくは、メチル、エチル、又はプロピル、有利にはメチルを表す。
【0039】
特に好ましい態様によれば、本発明による式(I)のジエステルは、さらに特に、下の式(I')のジエステルであってよい:
【化4】
式中:
- R及びR’は、独立に、水素原子、又は直鎖状の若しくは分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、特にメチル基を表し;
- sは、1、2、又は3であり、特にsは1又は2であり;
- nは2であり;
- mは2であり;
- Ra及びRbは、同一でも異なっていてもよく、独立に、6~18個の炭素原子の直鎖を有する飽和又は不飽和の、直鎖状の又は分岐した炭化水素基を表し;
ただし、sが2である場合は、R又はR’基の少なくとも1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基を表す。
【0040】
好ましくは、本発明によるジエステルは式(I')で表されるものであって、式中、R又はR'の少なくとも1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に(C~C)アルキル基、より好ましくは、メチル、エチル、又はプロピル、有利にはメチルを表す。
【0041】
変形した態様によれば、上述した式(I)又は(I')中のsは2である。
【0042】
特に、本発明によるジエステルは、下記式(I'a)を有し得る:
【化5】
式中:
- R及びR'は、独立に、水素原子、又は直鎖状の若しくは分岐した(C~C)アルキル基、特にメチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチル基を表し;
- nは2であり;
- mは2であり;
- Ra及びRbは、同一でも異なっていてもよく、独立に、6~18個の炭素原子の直鎖を有する飽和又は不飽和の、直鎖状の又は分岐した炭化水素基を表し;
ただし、R又はR'基の少なくとも1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル、有利にはメチルを表す。
【0043】
好ましくは、R基の少なくとも1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、かつ、R'の少なくとも1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表す。
【0044】
さらにより好ましくは、本発明のジエステルは、式(I'a)で表されるものであってよく、式中、R基の1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、かつ、R'基の1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、 その他のR及びR'基は水素原子を表す。
【0045】
言い換えれば、特定の態様によれば、本発明のジエステルは、下記式(I"a)を有することができる:
【化6】
ここで:
- R1及びR2基のうち1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基を表し、その他は水素原子を表し;
- R3及びR4基のうち1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基を表し、その他は水素原子を表し;かつ
- Ra及びRbは、同一又は異なっていてよく、上で定義したとおりである。
【0046】
特に、本発明のジエステルは、式(I"a)で表されるものであることができ、式中、
- R1及びR2基のうち1つが、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、他方は水素原子を表し;かつ
- R3及びR4基のうち1つが、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチル基を表し、他方は水素原子を表す。
【0047】
別の変形態様によれば、上記の式(I)又は(I')中のsは1である。
【0048】
言い換えれば、本発明によるジエステルは、下記式(I'b)で表されるものであることができる:
【化7】
式中、
- Rは、独立に、水素原子、又は直鎖状の若しくは分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し;
- nは2であり;
- Ra及びRbは、同一でも異なっていてもよく、独立に、6~18個の炭素原子の直鎖を有する、飽和又は不飽和の、直鎖状の又は分岐した炭化水素基を表す。
【0049】
好ましくは、上述した式(I'b)において、Rのうち少なくとも1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表す。
【0050】
特に、本発明のジエステルは、式(I'b)で表されるものであってよく、式中、R基の1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、その他は水素原子を表す。
【0051】
さらに別の変形態様によれば、本発明のジエステルは式(I)で表され、式中、sが3である。
【0052】
好ましくは、この変形態様との関連において、n(これは同一である)は2に等しい。好ましくは、-([C(R)2]n-O)-基のそれぞれについて、Rのうち1つは直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル、有利にはメチルを表し、その他は水素原子を表す。
【0053】
上で示したように、上の式(I)、(I')、(I'a)、(I"a)、及び(I'b)中のRa及びRbは、同一又は異なっていてよく、6~18個の炭素原子の直鎖を有する、飽和又は不飽和の、直鎖状の又は分岐した炭化水素基を表す。
【0054】
「炭化水素」基は、その分子の残りの部分に直接結合した炭素原子を有し、主に脂肪族炭化水素の特性を有する任意の基を意味する。
【0055】
好ましくは、Ra及びRbは、7~17個の炭素原子、特に7~14個の炭素原子、特に8~12個の炭素原子、特に8~11個の炭素原子、とりわけ8~10個の炭素原子の直鎖を有する。
【0056】
「t~z個の炭素原子の線形配列(直鎖状配列)」とは、連続したtからz個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の、好ましくは飽和の炭素鎖を意味し、その炭素鎖の任意選択により場合によっては存在していてもよい分岐に存在する炭素原子は、その線形配列を構成する炭素原子の数(t~z)には入れない。
【0057】
特定の態様によれば、上の式(I)、(I')、(I'a)、(I"a)、又は(I'b)において、Ra及びRbは、同一又は異なっていてよく、植物、動物、又は石油起源のものである。
【0058】
特定の態様によれば、上述した式(I)、(I')、(I'a)、(I"a)、又は(I'b)において、Ra及びRbは、同一又は異なっていてよく、飽和基を表す。
【0059】
別の特に好ましい態様によれば、上述した式(I)、(I')、(I'a)、(I"a)、又は(I'b)において、Ra及びRbは、同一または異なっていてよく、直鎖状の基を表す。
【0060】
特に、Ra及びRbは、C~C18、特にC~C17、とりわけC~C14、好ましくはC~C12、より好ましくはC~C11、とりわけC~C10の飽和直鎖炭化水素基を表す。
【0061】
別の特に好ましい態様によれば、上述した式(I)、(I')、(I'a)、(I"a)、又は(I'b)において、Ra及びRbは、 C~C18、特にC~C17、とりわけC~C14、好ましくはC~C12、より好ましくはC~C11、とりわけC~C10アルキル基を表す。
【0062】
特に、RaとRbは同じである。
【0063】
好ましくは、Ra及びRbは両方ともn-オクチル又はn-ウンデシル基、好ましくはn-オクチルを表す。
【0064】
本発明による式(I)のジエステルは、市販されているか、又は文献に記載されており且つ当業者に知られている合成方法に従って調製することができる。これらの合成方法は、さらに特に、式HO-([C(R)2]n-O)s-OHのジオール化合物と式Ra-COOH及びRb-COOHの化合物との間のエステル化反応を含み、ここでRa及びRbは、同一又は異なっていてよく、上で定義したとおりである。
【0065】
もちろん、本発明によるジエステルを得るために合成の条件を調整することは、当業者に任されている。
【0066】
例として、上述した式(I)、特に上述した式(I')のジエステルは、モノプロピレングリコール又はポリプロピレングリコール、特にモノプロピレングリコール(MPG)又はジプロピレングリコール(DPG)と、1つ以上の適切なカルボン酸Ra-COOH及びRb-COOHとの間のエステル化反応によって得ることができる。
【0067】
例として、上で定義された式(I')(式中、
- sは2であり、
- R基の1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、その他は水素原子を表し;かつ
- R'基の1つは、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、その他は水素原子を表す)
のジエステル又はジエステルの混合物は、ジプロピレングリコール(DPG)と1つ以上の適切なカルボン酸Ra-COOH及びRb-COOHとのエステル化反応によって得ることができる。
【0068】
上で定義した式(I')(式中、
- sは1であり、
- R基の1つが、直鎖状の又は分岐した(C~C)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、その他は水素原子を表す)
のジエステルは、モノプロピレングリコール(MPG)と1つ以上の適切なカルボン酸Ra-COOH及びRb-COOHとのエステル化反応によって得ることができる。
【0069】
特に、Ra及びRbが両方ともn-オクチル又はn-ウンデシル基を表す場合、そのようなジエステル又はジエステル混合物は、モノプロピレングリコール又はジプロピレングリコールとノナン酸又はウンデカン酸との間のエステル化反応によって得ることができる。
【0070】
潤滑組成物
式(I)のジエステルは、1つ以上の基油(ベースオイル)と、特に以下に規定するように、混合して、すぐに使用できる潤滑組成物を形成することができる。あるいは、それらは、単独で、又は1つ以上の他の添加剤と混合して、以下に規定されるように、潤滑組成物の特性を改善するために基油の混合物に添加される添加剤として、添加することができる。
【0071】
本発明による式(I)のジエステルは、潤滑組成物において、単独で、又は式(I)の他の1つ以上のジエステルと組み合わせて使用できることが理解される。
【0072】
有利には、本発明による潤滑組成物は、したがって、少なくとも50質量%の、Ra及びRbがC~C10飽和直鎖炭化水素基、特にC8~10-アルキル基を表す式(I)の1つ以上のジエステルから構成される、式(I)のジエステルの混合物を含むことができる。
【0073】
特定の実施形態によれば、本発明による潤滑組成物は、少なくとも、本発明による式(I)のジエステルとして、モノプロピレングリコール(MPG)又はジプロピレングリコール(DPG)とC~C19カルボン酸との間の、特にMPG又はDPGとノナン酸又はウンデカン酸との間のエステル化反応によって生じるジエステル又はジエステル混合物を含む。
【0074】
好ましくは、本発明による潤滑組成物は、少なくとも、本発明による式(I)のジエステルとして、MPG又はDPGとノナン酸との間のエステル化反応によって生じるジエステル又はジエステル混合物を含む。
【0075】
本発明による式(I)のジエステル(1又は複数)の含有量を、潤滑組成物に使用するように適合させることは当業者に任される。
【0076】
一般に、本発明による潤滑組成物は、組成物の総質量に基づいて、式(I)のジエステル(1又は複数)を1~30質量%含み得る。特に、潤滑組成物は、式(I)のジエステル(1又は複数)を5~30質量%、特に5~25質量%、さらに特に10~25質量%、さらにいっそう特に10~20質量%含むことができる。
【0077】
本発明による潤滑組成物は、上で定義した式(I)の1つ以上のジエステルに加えて、特に以下で規定するように、1つ以上の基油(ベースオイル)並びに添加剤を含むことができる。
【0078】
基油(ベースオイル)
本発明による潤滑組成物は、さらには、1つ以上の基油(ベースオイル)を含んでもよい。
【0079】
これらの基油は、潤滑油の分野で通常使用される基油、例えば、鉱物油、合成油、又は天然油、動物油、若しくは植物油、又はそれらの混合物から選択することができる。
【0080】
本発明による潤滑組成物に使用される基油は、特に、API分類(表A)で定義されたクラスにしたがうグループI~Vに属する鉱物又は合成起源の油、又はATIEL分類に従うそれらの同等物、又はそれらの混合物であってよい。
【0081】
【表1】
【0082】
鉱物基油には、原油の常圧及び真空蒸留と、それに続く精製操作、例えば、溶媒抽出、脱アスファルト、溶媒脱ろう、水素化処理、水素化分解、水素化異性化、及び水素化仕上(hydrofinishing)によって得られる全てのタイプの基剤が含まれる。
【0083】
合成基油は、カルボン酸とアルコールのエステル、又はポリアルファオレフィンであることができる。 基油として使用されるポリアルファオレフィンは、例えば、4~32の炭素原子をもつモノマー、例えば、デセン、オクテン、又はドデセンから得られ、ASTM D445に準拠して1.5~15mm・s-1の100℃における粘度を有する。それらの平均分子量は、一般に、ASTM D5296に準拠して250~3000である。
【0084】
合成油と鉱物油の混合物も使用できる。
【0085】
本発明による潤滑組成物を製造するために異なる潤滑基剤を使用することに関しては、それらが、車両エンジンでの使用に適した特性、とりわけ、粘度、粘度指数、硫黄含有量、耐酸化性を有しなければならないことを除いて、一般に制限はない。もちろん、それらはまた、それらが組み合わされるオイル又は一般式(I)のジエステルによってもたらされる特性に影響してはならない。
【0086】
好ましくは、本発明による潤滑組成物は、API分類のグループII、III、及びIVから選択される基油を含む。
【0087】
特に、本発明による潤滑組成物は、少なくとも1つのグループIIIの基油を含んでよい。
【0088】
本発明による潤滑組成物は、その総質量に基づいて少なくとも50質量%の基油(1つ又は複数)、特に少なくとも60質量%の基油(1つ又は複数)、さらに特に60~99質量%の基油(1つ又は複数)を含むことができる。
【0089】
好ましくは、グループIIIの油(1つ又は複数)は、組成物の基油の総質量の少なくとも50質量%、特に少なくとも60質量%に相当する。
【0090】
添加剤
本発明による潤滑組成物は、車両エンジン、特に自動車エンジン用の潤滑剤に使用するのに適した全てのタイプの添加剤をさらに含むことができる。
【0091】
これらの添加剤は、個別に、及び/又は当業者に周知のACEA(欧州自動車工業会)及び/又はAPI(米国石油協会)によって定義された性能レベルを有する商用車両エンジン潤滑油製剤用にすでに市場で入手可能なものと同様の混合物の形態で導入することができる。
【0092】
したがって、本発明による潤滑組成物は、摩擦調整添加剤、耐摩耗添加剤、極圧添加剤、清浄添加剤、酸化防止添加剤、粘度指数(VI)向上剤、流動点降下剤(PPD)、分散剤、消泡剤、増粘剤、及びそれらの混合物から選択される1つ以上の添加剤を含むことができる。
【0093】
摩擦調整添加剤に関する限り、それらは、金属元素を提供する化合物及び無灰(ash-free)化合物から選択されてもよい。
【0094】
金属元素を提供する化合物の中では、遷移金属、例えば、Mo、Sb、Sn、Fe、Cu、Znの錯体が挙げられ、その配位子は、酸素、窒素、硫黄、又はリン原子を含む炭化水素化合物であり得る。
【0095】
無灰(ash-free)摩擦調整添加剤は一般に有機起源であり、脂肪酸とポリオールのモノエステル、アルコキシル化アミン、アルコキシル化脂肪アミン、脂肪エポキシド、ホウ酸エステル化脂肪エポキシド(borate fatty epoxide)、脂肪アミン、又は脂肪酸グリセロールエステルから選択してよい。本発明によれば、脂肪化合物は、10~24個の炭素原子を含む少なくとも1つの炭化水素基を含む。
【0096】
有利な変形態様によれば、本発明による潤滑組成物は、少なくとも1つの摩擦調整添加剤、特にモリブデンをベースとするものを含む。
【0097】
特に、モリブデンベースの化合物は、モリブデンジチオカルバメート(Mo-DTC)、モリブデンジチオホスフェート(Mo-DTP)、及びそれらの混合物から選択することができる。
【0098】
本発明による潤滑組成物は、少なくとも1つのMo-DTC化合物及び少なくとも1つのMo-DTP化合物を含む。潤滑組成物は、とりわけ、1000から2500ppmの間のモリブデン量を含むことができる。
【0099】
有利には、そのような組成物は、さらなる燃料節約の利点をもたらす。
【0100】
有利には、本発明による潤滑組成物は、潤滑組成物の総質量に基づいて、0.01~5質量%、好ましくは0.01~5質量%、さらに特に0.1~2質量%、さらにいっそう特に0.1~1.5質量%の摩擦調整添加剤を含むことができ、有利には、少なくとも1つのモリブデンベースの摩擦調整添加剤を含む。
【0101】
耐摩耗添加剤及び極圧添加剤に関する限り、これらは、摩擦表面上に吸着された保護フィルムを形成することによって、擦られる表面を保護することを特に目的としている。さまざまな耐摩耗添加剤がある。
【0102】
本発明による潤滑組成物に特に適しているのは、ポリスルフィド添加剤、硫黄含有オレフィン添加剤、又はリン-硫黄添加剤、例えば、金属アルキルチオリン酸塩、特にアルキルチオリン酸亜鉛、さらに特にジアルキルジチオリン酸亜鉛又はZnDTPから選択される耐摩耗添加剤である。好ましい化合物は、式Zn((SP(S)(OR)(OR'))2(式中、R及びR'は同一でも異なっていてもよく、独立にアルキル基、好ましくは1~18個の炭素原子を含むアルキル基を表す)で表されるものである。
【0103】
有利には、本発明による潤滑組成物は、組成物の総質量に基づいて、0.01~6質量%、好ましくは0.05~4質量%、より好ましくは0.1~2質量%の耐摩耗添加剤及び極圧添加剤を含むことができる。
【0104】
酸化防止添加剤に関する限り、それらは、使用されている潤滑組成物の劣化を遅らせることを本質的に目的としている。この劣化は、堆積物の形成、スラッジの形成、又は潤滑組成物の粘度の上昇をもたらしうる。それらは、特に、ラジカル阻害剤又はヒドロペルオキシド破壊剤として作用する。一般的に使用される酸化防止添加剤には、フェノール系酸化防止剤、アミノ系酸化防止添加剤、リン-硫黄酸化防止添加剤が包含される。これらの酸化防止酸化添加剤のいくつか、例えば、リン-硫黄酸化防止添加剤は、灰分発生剤となりうる。フェノール系酸化防止添加剤は、灰分を含まないか、あるいは中性又は塩基性の金属塩の形であることができる。酸化防止添加剤は、とりわけ、立体障害フェノール(ヒンダードフェノール)、立体障害フェノールエステル、及びチオエーテル架橋を含む立体障害フェノール、ジフェニルアミン類、少なくとも1つのC~C12アルキル基で置換されたジフェニルアミン類、N,N'-ジアルキル-アリール-ジアミン、及びそれらの混合物から選択されうる。
【0105】
好ましくは、立体障害フェノールは、アルコール官能基を有する炭素に隣接する少なくとも1つの炭素が少なくとも1つのC~C10アルキル基、好ましくはC~Cアルキル基、好ましくはCアルキル基、好ましくはtert-ブチル基で置換されたフェノール基を含む化合物から選択される。
【0106】
アミノ化合物は、任意選択により場合によってはフェノール系酸化防止添加剤と組み合わせて使用することができる、別のクラスの酸化防止添加剤である。アミノ化合物の例は、芳香族アミン、例えば式NR5R6R7の芳香族アミンであり、式中、R5は任意選択により置換されていてもよい脂肪族基又は芳香族基を表し、R6は任意選択により置換されていてもよい芳香族基を表し、R7は水素原子、アルキル基、アリール基、又は式R8S(O)zR9(式中、R8はアルキレン基又はアルケニレン基を表し、R9はアルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表し、zは0、1、又は2を表す)の基を表す。
【0107】
硫化アルキルフェノール又はそのアルカリ及びアルカリ土類金属塩も、酸化防止添加剤として使用できる。
【0108】
本発明による潤滑組成物は、当業者に知られているすべてのタイプの酸化防止添加剤を含むことができる。有利には、潤滑組成物は、少なくとも1つの灰分を含まない(ash-free)酸化防止添加剤を含有する。
【0109】
同様に有利には、本発明による潤滑組成物は、組成物の総質量に基づいて、少なくとも1つの酸化防止添加剤を0.1~2質量%含んでもよい。
【0110】
いわゆる清浄添加剤の場合、それらは一般に、酸化及び燃焼副産物を溶解することにより、金属部品の表面上での堆積物の形成を低減する。
【0111】
本発明による潤滑組成物に使用できる清浄添加剤は、一般に当業者に知られている。清浄添加剤は、長い親油性炭化水素鎖と親水性頭部を含むアニオン性化合物であり得る。対になるカチオンは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属カチオンであり得る。
【0112】
清浄添加剤は、優先的には、カルボン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩、及びフェネート塩から選択される。アルカリ及びアルカリ土類金属は、好ましくは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、又はバリウムである。これらの金属塩は、一般に、化学量論量の又は過剰の、すなわち化学量論量よりも多い量の金属を含む。これらは過塩基性清浄添加剤である。清浄添加剤に過塩基性の特性をもたらす過剰な金属は、通常、基油に不溶性の金属塩、例えば、炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩の形態であり、優先的には炭酸塩の形態である。
【0113】
本発明による潤滑組成物は、潤滑組成物の総質量に基づいて、0.5~8質量%、好ましくは0.5~4質量%の清浄添加剤を含んでもよい。
【0114】
有利には、本発明による潤滑組成物は、4質量%未満、特に2質量%未満、とりわけ1質量%未満の清浄添加剤を含むか、あるいは清浄添加剤を含まなくてもよい。
【0115】
流動点低下(PPD)添加剤に関していえば、この添加剤は、パラフィン結晶の形成を遅くすることによって、本発明による潤滑組成物の低温挙動を改善する。
【0116】
流動点低下剤の例として、ポリアルキルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ポリアルキルフェノール、ポリアルキルナフタレン、及びアルキル化ポリスチレンを挙げることができる。
【0117】
分散剤は、潤滑組成物の使用中に生成する酸化副生成物から不溶性の固体汚染物質を懸濁させ及び除去するために使用される。それらは、マンニッヒ塩基、コハク酸イミド、及びそれらの誘導体から選択することができる。
【0118】
特に、本発明による潤滑組成物は、組成物の総質量に基づいて、0.2~10質量%の分散剤(1又は複数)を含むことができる。
【0119】
粘度指数(VI)向上剤、特に粘度指数(VI)向上ポリマーは、良好な低温性能及び高温での最小粘度を確実にする。粘度指数向上ポリマーの例には、ポリマーエステル、スチレン、ブタジエン、及びイソプレンの、水素化又は非水素化ホモポリマー又はコポリマー、オレフィン、例えば、エチレン又はプロピレンのホモポリマー又はコポリマー、ポリアクリレート及びポリメタクリレート(PMA)が含まれる。
【0120】
特に、本発明による潤滑組成物は、潤滑組成物の総質量に基づいて1~15重量%の粘度指数向上剤(1又は複数)を含むことができる。
【0121】
消泡添加剤は、極性ポリマー、例えば、ポリメチルシロキサン又はポリアクリレートから選択できる。
【0122】
特に、本発明による潤滑組成物は、潤滑組成物の総質量に基づいて0.01~3質量%の消泡添加剤(1又は複数)を含むことができる。
【0123】
応用
本発明による潤滑組成物は、エンジン、特に車両エンジン、さらに特に軽車両用の潤滑剤として特に興味深い用途を見出している。
【0124】
本発明による潤滑組成物は、特に有利な粘度等級(粘度グレード)を有する。
【0125】
本発明による潤滑組成物の粘度等級は、とりわけ、以下から選択することができる。
- 下の式(II)又は(III)で定義されるSAE J300分類に準拠した等級
【数1】
ここで、Yは4~20、特に4~16又は4~12の整数を表す。または、
- 下の式(IV)又は(V)で定義されるSAE J300分類に準拠した等級
【数2】
ここで、Xは0又は5を表す。
【0126】
特定の態様によれば、本発明による潤滑組成物のSAE J300分類による等級は、0W4、0W8、0W12、0W16、0W20、5W4、5W8、5W12、5W16、及び5W20から選択される。
【0127】
特に、本発明による潤滑組成物は、SAE J300分類による0W20又は0W16の等級を有し得る。
【0128】
有利には、本発明による潤滑組成物のASTM D445に準拠して100℃において測定される動粘度は、3~15mm・s-1、特に3~13mm・s-1である。
【0129】
有利には、150℃において測定される高温高剪断(HTHS)粘度は、1.7mPa・s以上、好ましくは1.7~3.7mPa・s、有利には2.3~3.7mPa・sである。
【0130】
HTHS測定は、標準的方法であるCEC-L-36-A-90、ASTM D4683、及びASTM D4741に準拠して、高剪断(106 s-1)及び150℃にて行われる。
【0131】
有利には、本発明による潤滑組成物は、ASTM D5800に準拠して決定されるノアック揮発度(Noack volatility)が15%以下、特に14%以下である。
【0132】
上で示したように、本発明による潤滑組成物は、特に本発明による式(I)のジエステルの使用により、燃料消費の低減及びエンジンの清浄度の両方の点で良好な特性を有利に組み合わせることを可能にする。
【0133】
したがって、本発明は、式(X)W(Y)(Xは0又は5を表し、Yは、特に、エンジン、特に車両エンジンのための4~20の範囲の整数を表す)によって定義されるSAE J300分類による等級(グレード)の潤滑組成物における、本発明による式(I)のジエステルの使用を目的とする。
【0134】
エンジンの清浄度は、試験をする潤滑組成物、特にグループIII基油に関連する潤滑組成物を使用したエンジンテスト後に、エンジンのピストンの汚れを点数化することによって測定される。
【0135】
本発明は、本発明の当然に非限定的な例示として与えられる以下の実施例によって説明される。
【実施例
【0136】
以下の例では、本発明による潤滑組成物、及び本発明によるジエステルの代わりに、例えば本発明のもの以外のモノエステル又はジエステルを含む比較組成物を、表1に示す以下の成分を用いて配合した:
- 本発明のエステル及び従来技術のエステルは、少なくとも2つのアルコール官能基を有する化合物と少なくとも2つの脂肪酸との間のエステル化反応によって得た。これらの酸は同一であることも、異なることもできる。
- 従来技術のエステルもまた、少なくとも2つのカルボン酸官能基を有する脂肪酸と少なくとも1つのアルコール官能基を有する少なくとも2つの化合物との間のエステル化反応によって得られた。それらのアルコールは同一であることも、異なることもできる。
【0137】
【表2】
【0138】
例1
本発明による潤滑組成物及び比較組成物の物理化学的特性評価
下の表2及び表3は、本発明による潤滑組成物及び比較組成物の詳細、並びにそれらの物理化学的特性を示している。
【0139】
潤滑組成物は、以下の成分を室温において単に混合することによって得られる。
- 基油1は、たとえばSK社から「Yubase 4+」の商品名で市販されているグループIII基油(ASTM D-556に準拠して測定した100℃における動粘度= 4.11mm2/s)である。
- 基油2は、たとえばSK社から「Yubase 6」の商品名で市販されているグループIII基油(ASTM D-556に準拠して測定した100℃における動粘度= 6mm2/s)である。
- 分散剤、清浄剤、耐摩耗添加剤を含む従来の添加剤パッケージ1
- 従来の添加剤パッケージ2
- 従来の添加剤パッケージ3
- 従来の添加剤パッケージ4
- Infineum社から「SV(登録商標)」の商品名で市販されている従来の水素化ポリイソプレンスチレンポリマーである粘度指数向上剤1
- Infineum社から商品名「SV(登録商標)」で市販されている従来の水素化ポリイソプレンスチレンポリマーである粘度指数向上剤2
- Evonik社から商品名「Viscoplex(登録商標)」で市販されている従来のポリメタクリレートポリマーである粘度指数向上剤3
- Adeka社から「Sakuralube(登録商標)」の商品名で市販されている従来の有機モリブデン化合物である摩擦調整剤
- Evonik社から「Viscoplex(登録商標)」の商品名で市販されている従来のポリメタクリレートポリマーである流動点降下添加剤
- BASF社から商品名「Irganox(登録商標)」で市販されているアミン系酸化防止添加剤
【0140】
表2中、各潤滑組成物の成分含有量は、潤滑組成物の総質量に基づいた質量パーセントで示されている。
【0141】
このようにして調製された潤滑組成物の特性は、下の表3に載せてある。
【0142】
【表3】
【0143】
【表4】
【0144】
例2
燃料経済性(「燃料エコ」)に関する、本発明による組成物及び比較組成物の特性分析
この試験は、900~4500 rpmの回転速度を負荷することができる発電機によって駆動され、5500 rpmにおいて81 kWの出力をもつEB 1.2 Lターボエンジンを使用して実施され、トルクセンサーが、エンジン内の部品の動きによって発生する摩擦トルクを測定する。 試験潤滑剤によって引き起こされる摩擦トルクを、各速度及び温度について、参照潤滑組成物(SAE 0W30)によって引き起こされるトルクと比較する。
【0145】
このテストの条件は次のとおりである。
テストは次の順序で実施する。
- 清浄添加剤を含むフラッシングオイルでエンジンを洗浄(フラッシング)し、続いて参照潤滑組成物で洗浄(フラッシング)する;
- 参照潤滑組成物を使用するエンジンについての、下に示す4つの異なる温度における摩擦トルクの測定;
- 清浄添加剤を含むフラッシングオイルでエンジンを洗浄し、続いて、評価する潤滑組成物で洗浄する;
- 評価する潤滑組成物を使用するエンジンについての、4つの異なる温度における摩擦トルクの測定;
- 清浄添加剤を含むフラッシングオイルでエンジンを洗浄し、続いて参照潤滑組成物で洗浄する;そして
- 参照潤滑組成物を使用するエンジンについての、下に示す4つの異なる温度における摩擦トルクの測定。
【0146】
NEDCのポイントをできるだけ代表的にカバーするように、速度範囲、速度変動、及び温度を選択した。
【0147】
実施される指示(インストラクション)は次のとおりである。
- モーター出口の水温:35℃/50℃/80℃/100℃±0.5℃、
- 油温ランプ:35℃/50℃/80℃/110℃±0.5℃。
【0148】
フリクションゲイン(friction gain)は、各潤滑組成物(C1、CC1~CC3)について、エンジンの温度と速度の関数として、かつ参照潤滑組成物の摩擦と比較して評価される。
【0149】
「燃料エコ」試験の結果を下の表4にまとめ、900 rpm~4500 rpmの速度範囲にわたり所定の温度における各化合物に対するフリクションゲインの平均パーセント割合を示す。
【0150】
【表5】
【0151】
これらの結果は、本発明によるエステルを含む組成物C1のフリクションゲインが、エステルを含まない比較組成物CC1、本発明のものとは異なるエステルを含むCC2及びCC3で得られたフリクションゲインよりもはるかに大きいことを示している。
【0152】
フリクションゲインが大きくなるほど、燃料経済性又は燃料エコが大きくなることがわかっている。したがって、これは、エステルを含まない又は本発明のエステルとは異なるエステルを含む組成物とは対照的に、本発明による組成物は燃料エコを高めることを可能にすることを意味している。
【0153】
例3
燃料経済性(「燃料エコ」)に関する、本発明による組成物及び比較組成物の特性分析
この試験は、1000~4400 rpmの回転速度をかけることができる発電機によって駆動され、6500 rpmにおいて180 kWの出力をもつ日産HR12DDRエンジンを使用して行い、トルクセンサーが、エンジン内の部品の動きによって発生する摩擦トルクを測定する。試験潤滑剤によって引き起こされる摩擦トルクは、各速度及び温度について、試験潤滑剤の前と後に評価された参照潤滑組成物(SAE 0W16)によって引き起こされた平均トルクと比較される。
【0154】
この試験のための条件は以下のとおりである。
試験は次の順序で実施される。
- 清浄添加剤を含むフラッシングオイルでエンジンを洗浄(フラッシング)し、続いて参照潤滑組成物で洗浄(フラッシング)する;
- 参照潤滑組成物を使用するエンジンについての、下に示す4つの異なる温度における摩擦トルクの測定;
- 清浄添加剤を含むフラッシングオイルでエンジンを洗浄し、続いて、評価する潤滑組成物で洗浄する;
- 評価する潤滑組成物を使用するエンジンについて、4つの異なる温度における摩擦トルクの測定;
- 清浄添加剤を含むフラッシングオイルでエンジンを洗浄し、続いて参照潤滑組成物で洗浄する;そして
- 参照潤滑組成物を使用するエンジンについての、下に示す4つの異なる温度における摩擦トルクの測定。
【0155】
NEDCのポイントをできるだけ代表的にカバーするように、速度範囲、速度変動、及び温度を選択した。
【0156】
実施される指示(インストラクション)は次のとおりである。
- モーター出口の水温:30℃/50℃±0.5℃、
- 油温ランプ:30℃/50℃±0.5℃。
【0157】
フリクションゲイン(friction gain)は、各潤滑組成物(C2、C3、CC4~CC6)について、エンジンの温度と速度の関数として、かつ参照潤滑組成物の摩擦と比較して評価される。
【0158】
「燃料エコ」試験の結果を下の表5にまとめ、1000 rpm~4400 rpmの速度範囲にわたり所定の温度における各化合物のフリクションゲインの平均パーセント割合を示す。
【0159】
【表6】
【0160】
これらの結果は、本発明によるエステルを含む組成物C2及びC3の摩擦ゲインは、エステルを含まない比較組成物CC4並びに本発明のものとは異なるエステルを含むCC5及びCC6で得られるフリクションゲインよりもはるかに大きいことを示している。
【0161】
これらの結果はまた、比較組成物CC4からCC6がフリクションゲインを示さず、むしろ摩擦損失(フリクションロス)を示すことを示しており、このことは、比較組成物CC4からCC6が燃料エコを可能にせず、それとは反対に、参照組成物と比較して、燃料の過剰消費をもたらすことを意味している。
【0162】
フリクションゲインが大きくなればなるほど、燃料経済性又は燃料エコが大きくなることがわかっている。したがって、これは、エステルを含まない又は2-エチルヘキシルセバケートなどの、本発明のエステルとは異なるエステルを含む組成物とは対照的に、本発明による組成物が、燃料エコを高めることを可能にすることを意味している。
【0163】
例4
燃料経済性(「燃料エコ」)に関する、本発明による組成物及び比較組成物の特性分析
この試験は、650~5000 rpmの回転速度をかけることができる発電機によって駆動され、5500 rpmにおいて81 kWの出力をもつホンダL13-Bエンジンを使用して行い、トルクセンサーが、エンジン内の部品の動きによって発生する摩擦トルクを測定する。試験潤滑剤によって引き起こされる摩擦トルクは、各速度及び温度について、参照潤滑組成物(SAE 0W16)によって引き起こされるトルクと比較される。
【0164】
このテストの条件は次のとおりである。
テストは次の順序で実施する。
- 清浄添加剤を含むフラッシングオイルでエンジンを洗浄(フラッシング)し、続いて参照潤滑組成物で洗浄(フラッシング)する;
- 参照潤滑組成物を使用するエンジンについての、下に示す4つの異なる温度における摩擦トルクの測定;
- 清浄添加剤を含むフラッシングオイルでエンジンを洗浄(フラッシング)し、続いて、評価する潤滑組成物で洗浄(フラッシング)する;
- 評価する潤滑組成物を使用するエンジンについての、4つの異なる温度における摩擦トルクの測定;
- 清浄添加剤を含むフラッシングオイルでエンジンを洗浄(フラッシング)し、続いて参照潤滑組成物で洗浄(フラッシング)する;そして
- 参照潤滑組成物を使用するエンジンについての、下に示す4つの異なる温度における摩擦トルクの測定。
【0165】
NEDCのポイントをできるだけ代表的にカバーするように、速度範囲、速度変動、及び温度を選択した。
【0166】
実施される指示(インストラクション)は次のとおりである。
- モーター出口の水温:35℃/50℃±0.5℃、
- 油温ランプ:35℃/50℃±0.5℃。
【0167】
フリクションゲイン(friction gain)は、各潤滑組成物(C4及びCC7)について、エンジンの温度と速度の関数として、かつ参照潤滑組成物の摩擦と比較して評価される。
【0168】
「燃料エコ」試験の結果を下の表5にまとめ、650 rpm~5000 rpmの速度範囲にわたり所定の温度における各化合物のフリクションゲインの平均パーセント割合を示す。
【0169】
【表7】
【0170】
これらの結果は、本発明によるエステルの混合物を含む組成物C4に対するフリクションゲインが、エステルとして本発明のものとは異なるセバシン酸2-エチルヘキシルを含む比較組成物CC7で得られるフリクションゲインよりもはるかに大きいことを示している。
【0171】
摩擦ゲインが大きくなればなるほど、燃料経済性又は燃料エコが大きくなることがわかっている。したがって、これは、エステルを含まない又はセバシン酸2-エチルヘキシルなどの本発明のエステルとは異なるエステルを含む組成物とは対照的に、本発明の組成物は燃料エコを高めることを可能にすることを意味している。
【0172】
例5
本発明による潤滑組成物C5及び比較潤滑組成物CC8の、エンジン清浄度改善特性の評価
潤滑組成物C5及びCC8についてのエンジン清浄性能は、次の方法を使用して評価される。
【0173】
各潤滑剤組成物(10 kg)を、自動車用のコモンレール式ディーゼルエンジンの清浄度テスト中に評価する。そのエンジンは4気筒で排気量は1.4 Lである。その出力は80 kWである。テストサイクル時間は、アイドリングと4000 rpmを交互に繰り返しながら96時間である。潤滑剤組成物の温度は145℃、冷却システムの水温は100℃である。試験中、潤滑組成物の排出又は補充は行わない。EN 590燃料を使用する。
【0174】
試験は、2段階で、合計106時間のあいだ、10時間のリンス(rinsing)及び慣らし運転の第1段階、次に、評価される組成物(4 kg)を用いての第2段階、最後に、評価される組成物(4 kg)を用いての96時間続く耐久段階で行われる。
【0175】
この試験の後、エンジン部品を分析し、4つのピストンを欧州規格CEC M02A78に準拠して評価した。各ピストンについてそのメリット評価(堆積物評価、merit rating)を行い、4つのピストンの合計ピストンメリット評価(ピストン堆積物評価、piston merit rating)の平均を計算する。
【0176】
得られた結果を表7にまとめてある。
【0177】
参照オイルの定期的な通過は、2つの候補の間の4ポイントの差が顕著な差であることを示した。
【0178】
平均メリット評価の値が高いほど、ピストンの清浄度はより良好であり、したがって潤滑組成物の性能がより良好であり、エンジンの清浄度を向上させる。
【0179】
【表8】
【0180】
この結果は、潤滑組成物における本発明によるエステルの使用(潤滑組成物C5)が、本発明によるエステルを含まない比較潤滑組成物(潤滑組成物CC8)と比較して、エンジンの清浄度を向上させることを示している。