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特許7246391被検試料を分析するシステム及びその方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】被検試料を分析するシステム及びその方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/01 20060101AFI20230317BHJP
   G01N 21/3504 20140101ALI20230317BHJP
   G01N 21/3577 20140101ALI20230317BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20230317BHJP
   G01N 1/40 20060101ALI20230317BHJP
   G01N 25/02 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
G01N21/01 B
G01N21/3504
G01N21/3577
G01N1/10 A
G01N1/40
G01N25/02 Z
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020530605
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 US2018064340
(87)【国際公開番号】W WO2019113379
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】62/595,362
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/212,499
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508032284
【氏名又は名称】カリフォルニア インスティチュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【弁理士】
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】アクセル シェーラー
(72)【発明者】
【氏名】アミールホセイン ナテギ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン テヨン
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06488892(US,B1)
【文献】特開2004-045357(JP,A)
【文献】特開2015-203582(JP,A)
【文献】特開2014-160086(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138494(WO,A1)
【文献】特開2014-202664(JP,A)
【文献】特開昭49-127677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G01N 1/00 - G01N 1/44
G01N 25/00 - G01N 25/72
G01N 33/00 - G01N 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1平面(310)を有する均質な基板(302)及び該第1平面から突出する複数のフィーチャ(312)を含む試料ホルダ(104)を備えた装置であって、
前記複数のフィーチャの各々は、基部(314)、先端(316)、並びに前記基部(314)と前記先端(316)の間に延在する側壁(318)を備え、前記基部は第1直径(d1)を有するとともに、前記先端は、前記第1直径よりも小さい第2直径(d2)を有し、
前記第1平面、複数の前記側壁及び複数の前記先端は、被検試料(112)を位置付けるように構成された、開放された切れ目がない試料採取面(304)を集合的に画成し、
更に、前記複数のフィーチャは、流体連通する複数の空隙(320)を集合的に画成する装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、前記複数のフィーチャのそれぞれ(the features of the plurality thereof)は、前記複数のフィーチャが平均間隔(s1)よりも大きな横寸法を有する粒子のフィルタとして働くように前記平均間隔で分離される装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置において、複数の前記側壁の少なくとも1つは、前記側壁の表面積を増大させる少なくとも1つのナノ構造(702)を含む装置。
【請求項4】
請求項1に記載の装置において、前記試料ホルダは、ヒータ(306)及びクーラ(308)からなる群から選択される素子を有する温度コントローラ(110)をさらに含む装置。
【請求項5】
請求項1に記載の装置において、前記試料ホルダは、ヒータ(306)及びクーラ(308)を含む温度コントローラ(110)をさらに含む装置。
【請求項6】
請求項1に記載の装置において、
呼び掛け信号(118)を前記被検試料に供給するよう動作する放射源(102)と、
出力信号(120)のスペクトル内容を検出するよう動作する検出器(106)であり、前記スペクトル内容は前記呼び掛け信号と前記被検試料との間の相互作用に基づく検出器(106)と、
前記スペクトル内容に基づいて前記被検試料中の第1検体の同一性を推定するよう動作するプロセッサ(108)と
をさらに備えた装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置において、前記呼び掛け信号は、約2ミクロン~約15ミクロンの範囲内のスペクトル域を特徴とする装置。
【請求項8】
請求項7に記載の装置において、前記呼び掛け信号は、約2ミクロン~約15ミクロンの範囲に及ぶ波長を含むスペクトル域を特徴とする装置。
【請求項9】
請求項7に記載の装置において、前記第1平面及び前記複数のフィーチャのそれぞれは、シリコンを含む装置。
【請求項10】
請求項9に記載の装置において、前記試料採取面の第1領域(506)をさらに備え、該第1領域はシリコンの表面特性とは異なる表面特性を特徴とする装置。
【請求項11】
請求項1に記載の装置において、前記試料採取面の第1領域(506)をさらに備え、該第1領域は前記被検試料中の第1検体に選択的に結合するよう構成される装置。
【請求項12】
第1平面(310)を有する均質な基板(302)及び該第1平面から空きスペース内に突出する複数のフィーチャ(312)を含む試料ホルダ(104)であり、
前記複数のフィーチャの各々は、基部(314)、先端(316)、並びに前記基部(314)と前記先端(316)の間に延在する側壁(318)を備え、前記基部は第1直径(d1)を有するとともに、前記先端は、前記第1直径よりも小さい第2直径(d2)を有し、
前記第1平面、複数の前記側壁及び複数の前記先端は、被検試料(112)を位置付けるように構成された、切れ目がない試料採取面(304)を集合的に画成し、
更に、前記複数のフィーチャは、被検試料(112)を集合的に位置付けるよう構成され、流体連通する複数の空隙(320)を集合的に画成する、該試料ホルダ(104)と、
呼び掛け信号(118)を前記被検試料に供給するよう動作する放射源(102)と、
出力信号(120)のスペクトル内容を検出するよう動作する検出器(106)であり、前記スペクトル内容は前記呼び掛け信号と前記被検試料との間の相互作用に基づく検出器(106)と、
前記スペクトル内容に基づいて前記被検試料中の第1検体の同一性を推定するよう動作するプロセッサ(108)と
を備えた装置。
【請求項13】
請求項12に記載の装置において、前記呼び掛け信号は、約2ミクロン~約15ミクロンの範囲内のスペクトル域を特徴とする装置。
【請求項14】
請求項13に記載の装置において、前記呼び掛け信号は、約2ミクロン~約15ミクロンの範囲に及ぶ波長を含むスペクトル域を特徴とする装置。
【請求項15】
請求項13に記載の装置において、前記第1平面及び前記複数のフィーチャのそれぞれは、シリコンを含む装置。
【請求項16】
請求項15に記載の装置において、前記試料採取面の第1領域(506)をさらに備え、該第1領域はシリコンの表面特性とは異なる表面特性を特徴とする装置。
【請求項17】
請求項12に記載の装置において、前記試料採取面の第1領域(506)をさらに備え、該第1領域は前記被検試料中の第1検体に選択的に結合するよう構成される装置。
【請求項18】
第1平面(310)を有する均質な基板(302)及び該第1平面から突出する複数のフィーチャ(312)を含む試料ホルダ(104)を用意するステップであり、
前記複数のフィーチャの各々は、基部(314)、先端(316)、並びに前記基部(314)と前記先端(316)の間に延在する側壁(318)を備え、前記基部は第1直径(d1)を有するとともに、前記先端は、前記第1直径よりも小さい第2直径(d2)を有し、
前記第1平面、複数の前記側壁及び複数の前記先端は、被検試料(112)を位置付けるように構成された、切れ目がない試料採取面(304)を集合的に画成し、
更に、前記複数のフィーチャは、被検試料(112)を集合的に位置付けるよう構成され、流体連通する複数の空隙(320)を集合的に画成する、該ステップと、
前記被検試料を前記試料採取面に採取するステップと
を含む方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、表面張力により前記被検試料を前記試料採取面に採取する方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法において、前記被検試料をガスとして供給して前記試料採取面に凝縮させることにより、前記被検試料を前記試料採取面に採取する方法。
【請求項21】
請求項18に記載の方法において、
前記被検試料が液体形態である間に該被検試料を前記試料採取面に分注すること、及び
前記被検試料から溶媒を蒸発させること
を含む動作により、前記被検試料を前記試料採取面に採取する方法。
【請求項22】
請求項18に記載の方法において、
前記被検試料を通過するように呼びかけ信号(118)を指向させるステップと、
出力信号(120)のスペクトル内容に基づくスペクトル信号(126)を供給するステップであり、前記スペクトル内容は前記被検試料と前記呼び掛け信号との間の相互作用に基づくステップと、
前記スペクトル内容に基づいて前記被検試料中の第1検体の同一性を推定するステップと
をさらに含む方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、
前記被検試料の温度を第1温度範囲内で変えるステップと、
前記スペクトル内容で第1変化が起こる前記第1温度範囲内の第1温度に基づいて、前記第1検体の同一性を確認するステップと
をさらに含む方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法において、前記スペクトル内容で第2変化が起こる前記第1温度範囲内の第2温度に基づいて、前記被検試料中の第2検体の同一性を確認するステップをさらに含む方法。
【請求項25】
請求項18に記載の方法において、前記第1平面及び前記複数のフィーチャがシリコンを含むように前記試料ホルダを用意し、該方法は、第1領域(506)がシリコンの表面特性とは異なる表面特性を特徴とするように前記第1領域を前記試料採取面に形成するステップをさらに含む方法。
【請求項26】
請求項18に記載の方法において、第1領域(506)が前記被検試料中の第1検体に選択的に結合するように前記第1領域を前記試料採取面に形成するステップをさらに含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本件は、2017年12月6日付けで出願された米国仮特許出願第62/595,362号(代理人整理番号:CIT-7919-P)の優先権を主張し、上記出願を参照により本明細書に援用する。本願と参照により援用された事件の1つ又は複数との間に、本件の特許請求の範囲の解釈に影響を及ぼし得る矛盾又は文言の不一致がある場合、本件の特許請求の範囲は本件の文言と一致すると解釈すべきである。
【0002】
本発明は、概して化学分析に関し、より詳細には、分光及び熱量分析システムでの使用に適した分光及び熱量解析の方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
分光法は、任意の化学物質(chemical)の結合構造に特有の放射線吸収ピークの特徴的パターンの測定により、被検試料内に含有される検体を同定するための重要な分析手段である。したがって、化学物質の吸収ピークのパターンは、その化学物質のスペクトル「指紋」として機能し得る。
【0004】
中赤外(MIR)スペクトル域(本明細書では、約2ミクロン~約15ミクロンの範囲内の波長として定義される)は、大半の化学物質で吸収ピークを豊富に含むので、特に情報に富んだスペクトル域である。したがって、MIRスペクトル域は、赤外分光法の動作範囲として魅力的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
残念ながら、多くの混合物は、MIR放射線の吸収性が高いバックグラウンド溶媒(background solvents)を含有し、混合物中の検体のスペクトル内容を識別する能力を妨げる。さらに、少数の物質のみを含有する混合物の化学組成を同定することは、特にそれらの成分が既知である場合は比較的容易だが、より複雑な混合物では化学組成を同定する難易度は急激に高くなる。この問題に対処するために、予備精製及び選択的濃縮という方策が多くの場合に用いられるが、試料調製が複雑になる。
【0006】
化学混合物を含む被検試料の組成を迅速に且つ高い信頼度で識別できることが、技術水準における大きな進歩となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
試料ホルダの1つ又は複数の採取面に採取された被検試料の化学分析を実行するシステム及び装置を記載する本開示の態様に従って、技術の進歩が遂げられる。各試料採取面は、平面の表面積を増加させるような構造であることにより、被検試料の高性能測定を容易にする。本発明の実施形態は、分光システム、熱量測定システム、示差走査熱量測定フーリエ変換赤外分光システム等での使用に特に適している。
【0008】
本開示による例示的な実施形態は、流体ベースの被検試料で示差走査熱量測定フーリエ変換赤外分光法(DSC-FTIR)を実行するよう動作する分析システムである。本システムは、幾何学的パターンの試料採取面を有する低熱質量試料ホルダを含み、試料採取面は、平面と、平面から延びる複数のフィーチャの側壁及び先端とを含む。フィーチャは、基板の前面にマスク層を形成し、マスク層を通して基板のバルク材をエッチングすることにより形成される。エッチングプロセスは、マスク層により露出された基板材料を除去し、したがって表面張力による採取面への被検試料の堆積を容易にする複数の空隙を作ると共に、空隙の底部に平面を作る。空隙は、横寸法がこの横寸法よりも大きなサイズを有する粒子、細胞、又は他の物質の通過を阻止する幾何学的フィルタリング機能を与える流路としても機能することができる。いくつかの実施形態では、フィーチャは、基板の前面の化学的粗面化により形成され、これにはマスク層の形成が必要ない。
【0009】
試料ホルダは、試料ホルダの低熱質量(thermal mass)により被検試料の急速な加熱及び冷却を可能にする一体型の温度コントローラを含む。結果として、被検試料の温度を制御することで、例えば、被検試料の溶媒による呼び掛け(interrogation)信号の吸収を低減するためのその溶媒の蒸発、検体の物理的及び/又は化学的変化の誘発、被検試料の成分の選択的揮発、被検試料の熱量測定の実行、被検試料の周期測定の実行等ができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、フィーチャは、例えば選択領域成長、自己組織化、ラングミュア・ブロジェット法等により材料を表面に堆積させることにより、基板の平坦面に形成される。
【0011】
いくつかの実施形態では、フィーチャの1つ又は複数の側壁は、電気化学エッチング、イオンアシストエッチング等のナノ構造化法によりその表面にナノ構造を形成することにより粗面化されて、試料ホルダの表面積対体積比を増加させる。
【0012】
いくつかの実施形態では、親水性及び/又は疎水性の表面が試料採取面の側壁及び/又は平面に形成される。いくつかの実施形態では、試料採取面の複数領域に、被検試料からの関心物質の局所的採取を可能にする1つ又は複数の結合化学品(binding chemistries)が設けられる。
【0013】
本開示による一実施形態は、第1平面(310)及び第1平面から突出する複数のフィーチャ(312)を含む試料採取面(304)を有する試料ホルダ(104)を備えた装置であって、複数のフィーチャは被検試料(112)を位置付けるよう構成された複数の空隙(320)を集合的に画成する装置である。
【0014】
本開示による別の実施形態は、第1平面(310)及び第1平面から突出する複数のフィーチャ(312)を含む試料採取面(304)を有する試料ホルダ(104)であり、複数のフィーチャは被検試料(112)を位置付けるよう構成された複数の空隙(320)を集合的に画成する試料ホルダ(104)と、呼び掛け信号(118)を被検試料に供給するよう動作する放射源(102)と、出力信号(120)のスペクトル内容を検出するよう動作する検出器(106)であり、スペクトル内容は呼び掛け信号と被検試料との間の相互作用に基づく検出器(106)と、スペクトル内容に基づいて被検試料中の第1検体の同一性を推定するよう動作するプロセッサ(108)とを備えた装置である。
【0015】
本開示によるさらに別の実施形態は、第1平面(310)及び第1平面から突出する複数のフィーチャ(312)を含む試料採取面(304)を有する試料ホルダを用意するステップであり、複数のフィーチャは被検試料(112)を位置付けるよう構成された複数の空隙(320)を集合的に画成するステップと、試料採取面に被検試料を採取するステップとを含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示による化学分析システムの例示的な実施形態のブロック図を示す。
図2】例示的な実施形態による被検試料の分析を実行する方法の動作を示す。
図3図3Aは、本開示による試料ホルダの突起フィーチャの概略斜視図を示す。図3Bは、本開示による試料ホルダの突起フィーチャの概略断面図を示す。
図4】例示的な実施形態による試料ホルダ104を形成する方法の動作を示す。
図5図5A図5Cは、一形成時点での試料ホルダ104の断面図を示す。
図6】例示的な実施形態による試料採取面304の一部の写真図を示す。
図7図7A図7Fは、本開示によるフィーチャ312の代替形状の非限定的な例の概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本開示による化学分析システムの例示的な実施形態のブロック図を示す。システム100は、中赤外(MIR)分光法及び熱量測定の少なくとも一方を用いて被検試料を分析するよう動作する。システム100は、放射源102、試料ホルダ104、検出システム106、及びプロセッサ108を含む。
【0018】
図2は、例示的な実施形態による被検試料の分析を実行する方法の動作を示す。図1を引き続き参照して、且つ図3A図7Fを参照して、方法200を説明する。
【0019】
方法200は動作201で始まり、被検試料112が試料ホルダ104に供給される。
【0020】
試料ホルダ104は、試料採取面に被検試料112を採取するよう構成された試料採取デバイスである。図示の例では、被検試料112は血液だが、本開示の教示は流体又は流体状の形態の広範な被検試料(例えば、液体、ガス、ゲル、クリーム、懸濁液、混合物、溶液、体液及び血清等)を対象とすることができる。本開示による実施形態は、体液及び血清、化学溶液及び化合物、有機溶液、石油製品、化粧品、ガス等の分析での使用に特に適している。
【0021】
図3A及び図3Bは、本開示による試料ホルダの突起フィーチャの概略斜視図及び概略断面図を示す。試料ホルダ104は、加工された試料採取面に含まれる複数の空隙での被検試料の採取を可能にするよう構成された設備である。試料ホルダ104は、基板302、試料採取面304、ヒータ306、及びクーラ308を含む。
【0022】
図4は、例示的な実施形態による試料ホルダ104を形成する方法の動作を示す。方法400は動作401で始まり、試料採取面304が基板302に形成される。
【0023】
図5A図5Cは、異なる形成時点での試料ホルダ104の断面図を示す。図5A図5Cに示す断面図は、図3Aの線a-aで切断したものである。
【0024】
基板302は、プレーナプロセス製造(planar-processing fabrication)での使用に適した構造材料の層である。図示の例では、基板302は、主面502及び504を含む従来の均質な単結晶シリコン基板である。しかしながら、本開示の範囲から逸脱せずに無数の材料を基板302で用いることができることに留意されたい。基板302での使用に適した材料は、呼び掛け信号118に対して比較的透明な材料であり、シリコン、多結晶シリコン、シリコン化合物(例えば、シリコンカーバイド、シリコンゲルマニウム等)、化合物半導体、シリコンナイトライド、オキシナイトライド、フルオライド、セラミックス、ポリマー、複合材料等を無制限に含む。
【0025】
さらに、基板302が均質であることが好ましいが、いくつかの実施形態では、基板302は、フィーチャ312の形成に適した1つ又は複数の構造層が表面502及び504の少なくとも一方に配置されたバルク基板を含む。
【0026】
試料採取面304は、表面310並びにフィーチャ312の先端316及び側壁318を含む。試料採取面を形成するために、フィーチャ312の画成に適したマスク層が、平面P1を規定する表面502に形成される。
【0027】
マスク層が形成されたら、無指向性の(non-directional)反応性イオンエッチング(RIE)、ウェットエッチング、ディープRIE、結晶異方性エッチング(crystallographic-dependent etching)等の従来のエッチング技法によりマスク層を通して基板302のバルクをエッチングすることにより、フィーチャ312が画成される。フィーチャ312の形成と同時に、平面P2を規定する表面310が形成される。表面310及びフィーチャ312は、基板302の材料のエッチングにより形成されるので、それぞれが単結晶シリコンも含む。
【0028】
図示の例では、フィーチャ312は、平面P2から平面P1まで延びる円錐台である。フィーチャ312は、フィーチャ間間隔s1を有する2次元配置で表面310上に分配される。
【0029】
図示の例では、s1は約2.0ミクロンであり、これはフィーチャ312の配置で幾何学的フィルタリング能力を実現するように選択される。このような幾何学的フィルタリング能力により、試料採取面が空隙320よりも大きな寸法の粒子、細胞、又は他の物質を排除する「篩」として機能することが可能となる。結果として、試料採取面は、分析用の複合溶液からの特定の成分の濃縮を可能にする。このフィルタリング/濃縮能力により、生化学物質(例えば、血液、尿、汗、涙、痰(sputum:唾液)等)等の複合溶液中の検体の濃度が非常に低くても信号対雑音比(SNR)性能の改善が可能となるので、従来技術の試料ホルダよりもはるかに有利な本開示による実施形態が得られる。
【0030】
いくつかの実施形態では、フィーチャ312は、試料採取領域毎に異なるフィーチャ間間隔を有することで、試料ホルダ104が異なる領域で異なる寸法を有する粒子、細胞等を濃縮することを可能にする。
【0031】
いくつかの実施形態では、マイクロ流路、弁、及びポンプを試料採取面304に加えることにより、付加的な流体試料採取及び精製能力が実現される。ディープRIE、光電気化学エッチング等の指向性の高いエッチングを用いて基板302に貫通孔を開けることにより、エラストマー製の又は一方の面の微細加工により作製されたマイクロ流体システムを反対面のこのようなシステムに接続することができる。流体システムの追加により、リアルタイムでの液体の分析並びに化学反応及びスペクトル変化とのその相関の分光観察が可能となる。シリコーンエラストマー等のエラストマーマイクロ流体材料は、MIRスペクトル域の波長に対して実質的に透明であり、既知の波長で特定のピークを有する。結果として、いくつかの実施形態では、これらのピークを、検体ピークの強度を比較できる内部「基準」として用いることができる。
【0032】
フィーチャ312のそれぞれが、表面310における基部314から先端316までの高さh1を有する。基部314は直径d1を有し、先端316は直径d2を有する。いくつかの実施形態では、フィーチャ312は、表面502が完全に除去されて先端316が平面P1より下の別の平面を集合的に規定するように形成される。図示の例では、h1は約5ミクロンであり、d1は約1.8ミクロンであり、d2は約460nmである。本開示の範囲から逸脱せずに、フィーチャ312に広範な寸法及び間隔を用いることができることに留意されたい。
【0033】
表面310及びフィーチャ312の構造が完成すると、試料採取面304は、通常はマスク層の除去で仕上げられる。
【0034】
図6は、例示的な実施形態による試料採取面304の一部の写真図を示す。
【0035】
円錐台が、本開示の範囲内でフィーチャ312に適した形状の一例にすぎないことに留意されたい。
【0036】
図7A図7Fは、本開示によるフィーチャ312の代替形状のいくつかの非限定的な例の概略断面図を示す。
【0037】
フィーチャ312Aはフィーチャ312と類似しているが、フィーチャ312Aは凹状側壁を有する。
【0038】
フィーチャ312Bはフィーチャ312と類似しているが、フィーチャ312Bは先端316が実質的に点であるように終端し、フィーチャ312Bは円錐形である。先端316Bは平面P3を集合的に規定する。
【0039】
フィーチャ312Cはフィーチャ312Bと類似しているが、フィーチャ312は、フィーチャの側壁の表面積を増やすのに役立つナノ構造702を含む。ナノ構造702は、電気化学エッチング、イオンアシストエッチング等を無制限に含む任意の従来のナノ構造化プロセスにより形成され得る。本開示の範囲から逸脱せずに、いかなる形状のフィーチャ312もナノ構造702を含むことができることに留意されたい。
【0040】
フィーチャ312Dはフィーチャ312と類似しているが、フィーチャ312Dは凸状側壁を有する。
【0041】
フィーチャ312Eはフィーチャ312と類似しているが、フィーチャ312Eは実質的に円筒形である。
【0042】
フィーチャ312Fはフィーチャ312と類似しているが、フィーチャ312Fは、表面502から基板302のバルク内に突出するように形成される。フィーチャ312Fの逆構造の結果として表面502が平面P1を規定する一方で、複数の先端316Fが平面P2を集合的に規定することに留意されたい。
【0043】
フォトリソグラフィ及びエッチングによるサブトラクティブパターニングが、本開示の範囲内でフィーチャ312を画成する例示的な方法の1つにすぎないことにさらに留意されたい。いくつかの実施形態では、原子層堆積(LAD)、自己組織化、蒸発、スパッタリング、シャドーマスクを通した蒸着又はスパッタ成膜、選択領域成長等の従来の堆積法により、フィーチャ312を表面310上で成長させる。さらに、フィーチャ312の成長により、フィーチャ312は、それらが延びる表面とは異なる材料を含み得る。
【0044】
任意の動作402において、領域506を試料採取面304に形成する。領域506は、試料採取面のうちその表面特性を変えるよう処理された部分である。図示の例では、領域506を酸化させて試料採取面304の一部に二酸化ケイ素の単層を形成することにより、領域506を親水性にする。いくつかの実施形態では、試料採取面304は、(例えば結合・洗浄・溶出(bind-wash-elute)プロセスにてメタノールで表面を洗うことにより)DNAに対する親和性を高めるよう処理された少なくとも1つの領域を含む。いくつかの実施形態では、領域506は、
i.親水性、又は
ii.疎水性、又は
iii.1つ又は複数の所望の化学品、生体化合物、DNA、RNA等に対する選択的結合性、又は
iv.抗体での被覆、又は
v.アプタマーでの被覆、又は
vi.ハイブリダイゼーション結合化学品(hybridization-binding chemistries)での被覆、又は
vii.i、ii、iii、iv、v、及びviの任意の組み合わせ
を与えるよう処理される。
【0045】
当業者が本明細書を読めば明らかなように、既知の技法を用いて多くの材料の表面特性を操作することができ、例えば、シリコンの表面を酸化させて二酸化ケイ素領域を形成することにより、親水性表面をシリコン上に容易に生成することができ、関心物質を採取するための選択的結合化学品(selective-binding chemistries)を有する表面を、広範な表面上にパターン化することができ、表面を抗体、アプタマー、又はハイブリダイゼーション結合化学品等でコーティングすることができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、領域506は、被検試料112中の関心物質との反応を引き起こしてその物質のMIRスペクトルを予測可能に変える結合化学品を含む。結果として、吸収性能が低い可能性がある検体自体の固有吸収スペクトルではなく、反応からのスペクトルの変化を測定することが可能である。たとえば、いくつかのかかる実施形態では、特定の検体を対象としてその吸収コントラストを向上させる結合化学品が用いられることにより、より高い感度及び/又は特異度での検体濃度の測定を可能にする。このような機能性が、実質的に最大の蛍光又は特定の波長の蛍光を提供するよう蛍光体標識を最適化することができる方法と類似していることに留意されたい。
【0047】
いくつかの実施形態では、領域506は試料採取面304の全体に形成される。いくつかの実施形態では、複数の領域506が試料採取面304に形成され、各領域が同じ表面特性を有する。いくつかの実施形態では、複数の領域506が試料採取面304に形成され、領域のうち少なくとも2つが異なる表面特性を有する。
【0048】
動作403において、ヒータ306を表面310に形成する。
【0049】
ヒータ306は、電流を流して熱を発生させることができる金属等の導電性材料のトレースを含む従来のオーミックヒータ(ohmic heater)である。ヒータ306は、直線トレースの配置を含む経路を有するように図示されているが、いくつかの実施形態では、ヒータ306は、蛇行状、正弦曲線状、鋸歯状、渦巻き状、又は不規則な経路等の異なる経路形状で配置される。さらに、いくつかの実施形態では、ヒータが試料ホルダ104に組み込まれないが、外部熱源を用いて従来の加熱、放射加熱、又は別の従来の加熱法により被検試料の温度が制御される。
【0050】
動作404において、クーラ308を基板302の表面504に接合する。図示の例では、クーラ308は、熱伝導性接着剤を用いて表面504に結合された従来のペルチェクーラである。クーラ308は、被検試料112を通して指向された光がクーラを通過して検出器106に達するのを可能にする環状の形状を有する。いくつかの実施形態では、試料ホルダ104はクーラ308を含まない。
【0051】
いくつかの実施形態では、クーラ308は、基板302の本体内に形成されて基板を通して冷却流体を流すよう動作する複数の流路等の異なる冷却装置を含む。
【0052】
動作405において、被検試料112が空隙320内にあるように被検試料を試料採取面304に採取する。
【0053】
図示の例では、被検試料112は、試料採取面304へのピペッティングによりこの面に分注される。いくつかの実施形態では、異なる分注技法が用いられる(例えば、灌注、塗抹、ドクターブレーディング、スピンコーティング等)。
【0054】
いくつかの実施形態では、被検試料112は、クーラ308により試料ホルダ104を冷却してガス状の被検試料(例えば、呼気、気化した流出液(vaporized effluent)等)を試料採取面304上に凝縮することにより試料採取面上に蓄積される。
【0055】
次に方法200に戻ると、動作202において、放射源102が呼び掛け信号118を試料ホルダ104へ向けて送り、呼び掛けビームが被検試料112と相互作用して出力信号120として被検試料及び試料ホルダを通過できるようにする。
【0056】
図示の例では、放射源102は、約2ミクロン~約15ミクロンの範囲に及ぶ波長を含むように呼び掛け信号118を供給するよう動作する供給源である。換言すれば、放射源102は、中赤外(MIR)放射源である。いくつかの実施形態では、放射源102は、異なる波長(例えば、近赤外線、可視光等)及び/又はMIRスペクトルの小部分(sub-portion)を含む呼び掛け信号を供給する。
【0057】
任意の動作203において、試料ホルダ104を加熱して被検試料112の一成分を蒸発させる。図示の例では、試料ホルダが加熱されて、MIR放射線を強力に吸収する水を被検試料112(すなわち血液)から蒸発させる。しかしながら、血液から水の一部又は全部を除去することにより、被検試料を通る呼び掛け信号118の経路長を増加させることができ、且つ/又は血液中の残りの物質(すなわちその検体)を濃縮することができることで、スペクトル解析の改善が可能となる。
【0058】
動作204において、プロセッサ108からの制御信号122に応じて、温度コントローラ110が第1温度範囲で被検試料112の温度を上昇させる。
【0059】
動作205において、プロセッサ108は、温度コントローラ110からの温度信号124により被検試料112の温度を監視する。
【0060】
動作206において、プロセッサ108は、検出器106からスペクトル信号126を受け取る。スペクトル信号126は、呼び掛け信号118と被検試料112の化学成分との相互作用に基づく吸収ピーク等のスペクトル内容を含む。
【0061】
動作207において、被検試料112中の1つ又は複数の潜在化学成分をスペクトル信号126に基づいて同定する。
【0062】
これらの潜在化学成分は、スペクトル信号126における吸収ピークを観察して、これらの吸収ピークをプロセッサ108に含まれるルックアップテーブルに記憶された既知の化学物質のライブラリに関する標準吸収スペクトルと相関させることにより同定される。
【0063】
動作208において、プロセッサ108は、スペクトル信号126の変化及び変化が起こる温度に基づいて、被検試料112中の潜在化学成分の1つ又は複数の同一性を確認する。
【0064】
被検試料112の化学成分の同一性は、スペクトル信号126における吸収ピークが消える温度をルックアップテーブルに記憶された標準吸収スペクトルと相関させる熱量測定により確認される。
【0065】
被検試料112の個々の成分が異なる温度で順次変質及び/又は蒸発するので、被検試料の化学組成が通常はその温度の上昇と共に単純化することに留意されたい。結果として、異なる温度で一連のスペクトルを発生させることができることにより、化学物質の複雑な混合物を含む被検試料の組成を容易に理解することが可能となる。これにより、従来技術の分析システムよりもはるかに有利な本開示による実施形態が得られる。
【0066】
本開示が教示するのは例示的な実施形態のごく一例であり、当業者が本開示を読めば本発明の多くの変形形態を容易に案出することができ、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲により決まるものとすることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7