(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】光電陰極用光増感剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20230317BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20230317BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20230317BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230317BHJP
C25B 11/049 20210101ALI20230317BHJP
H01G 9/20 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
C09K3/00 T
B01J35/02 J
C01B3/04 A
C25B1/04
C25B11/049
H01G9/20 113A
H01G9/20 113B
(21)【出願番号】P 2020533010
(86)(22)【出願日】2018-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2018000562
(87)【国際公開番号】W WO2019115012
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】102017011653.9
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510113313
【氏名又は名称】ツェーエフエスオー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オイウォール・タイェ・サラミ
(72)【発明者】
【氏名】シグリット・オーベンラント
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・フィッシャー
(72)【発明者】
【氏名】トーベン・シュリュッカー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ヴァルター
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-500966(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0017098(US,A1)
【文献】Journal of the American Chemical Society,2011年,Vol. 133,pp. 15224-15227, SI pp. S1-S46
【文献】Langmuir,2012年,Vol. 28,pp. 10916-10924
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
B01J 21/00- 38/74
C01B 3/00- 6/34
C25B 1/00- 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集合体として420nm以上の波長(a)の光を吸収するオリゴマー性又はポリマー性発色団を含む光増感剤であって、
前記オリゴマー性又はポリマー性発色団は、少なくとも3つの同一又は異なる適切なモノマー性発色団単位を含み、
前記モノマー性発色団単位は、少なくとも2つの置換基を有し、
前記置換基はそれぞれ、少なくとも3炭素原子の鎖長を有する少なくとも1つのアルキレン、アルケニレン、及び/又はアルキニレン鎖を含み、かつ、チオール基により末端停止されており、
前記オリゴマー性又はポリマー性発色団は、その発色団のそれぞれの間に、2つの個々のモノマー性単位の2つのチオール基をそれらのモノマー性単位のオリゴマー化又はポリマー化によって化学結合さ
せて前記オリゴマー性又はポリマー性発色団を形成させることによって生成された、ジスルフィド結合を有
し、
前記光増感剤は、ジスルフィド結合の形成に関与していない過剰なチオール基と反応する少なくとも1つの架橋剤をさらに含む、光増感剤。
【請求項2】
前記少なくとも1つの架橋剤が発色団を含まない、請求項
1に記載の光増感剤。
【請求項3】
同一又は異なるオリゴマー化又はポリマー化された発色団単位から構成されるか、あるいは同一又は異なるオリゴマー化又はポリマー化された発色団単位並びに少なくとも1つの架橋剤から構成される、請求項1
又は2に記載の光増感剤。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の光増感剤を含む光電陰極。
【請求項5】
前記光増感剤を含む層に接続する側面に電子伝導性表面を有する担体と、
前記担体の導電性表面と、前記光増感剤を含む層の前記担体の導電性表面に接続する側面とは反対側の側面の上部の電子伝導性層との間で、前記光増感剤を取り囲んでいる誘電体コーティングと、
水性媒体中のプロトンを還元、及び/又は、水性媒体中に溶解した、水素によって還元され得る化合物を還元するための、前記水性媒体と接触している触媒と
をさらに含む、請求項
4に記載の光電陰極。
【請求項6】
請求項
4又は
5に記載の光電陰極と、前記光電陰極と導電接続する電子源とを含む、水性媒体中のプロトンを還元、及び/又は、水性媒体に溶解した、水素によって還元され得る化合物を還元するためのデバイス。
【請求項7】
前記電子源が
、バイアスがかけられた陽極、光電池、又は水性媒体に浸漬された光陽極から選択される、請求項
6に記載のデバイス。
【請求項8】
水溶性媒体中で、プロトンを還元するか、又は水素によって還元され得る化合物を還元する、方法であって、
請求項
4又は
5に記載の光電陰極を、電子伝導性の様式で電子源に接続した状態で、プロトンを含むか、又はプロトン及び前記水素によって還元され得る化合物を含む水性媒体中に、室温を超える温度で浸漬させ、
前記光電陰極に、420nm以上の可視領域の波長を含む光を照射し、
さらに、前記光電陰極で生成した水素を収集するか、又は、前記光電陰極で還元された化合物を前記水性媒体内に収集するか若しくはそれに代えて前記水性媒体から分離することにより収集する、方法。
【請求項9】
電子源が光陽極であり、前記水性媒体中、又は別の水性媒体中に浸漬されている、請求項
8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴマー性又はポリマー性発色団を含む改良された光増感剤、酸化形態にあるプロトン及び/又は水性媒体に可溶性の化学物質を可視光の利用によって水性媒体中で還元するのに特に有用な光増感剤を含む光電陰極、この光電陰極と、光電陽極若しくは他の任意の陽極又は電子源とを含むシステム、並びに、光電陰極を含むシステムを用いて、酸化形態にあるプロトン及び/又は水性媒体に可溶性の化学物質を水性媒体中で還元する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
その全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2009/056348号には、光を利用して水を水素と酸素に分解するための触媒システム、及びこの触媒システムを使用して水素と酸素を製造する方法が開示され、触媒システムがどのように機能するかが説明されている。光電陰極の調製のためにそこで使用される物質(第二光活性物質として記載される物質)の1つは、トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2009/056348号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
光増感剤がルテニウム錯体のオリゴマー性又はポリマー性のルテニウム錯体であるか、あるいは他のいずれかのオリゴマー性又はポリマー性の420nm以上の波長で光を吸収する発色団であって、アルキレン又はアルケニレン又はアルキニレン基を含む鎖を介してそれに結合している少なくとも2つのSH基を有し、そのオリゴマー又はポリマーが少なくとも3つのモノマー性単位を含む発色団のオリゴマー又はポリマーである場合には、水素又は光電陰極で水素によって還元され得る化合物の還元の収率がかなり改善され得ることが今や発見された。オリゴマー又はポリマーは、発色団に結合したアルキレン、アルケニレン又はアルキニレン鎖に挿入されたジスルフィド部分を含む。照射すると、励起された電子状態が生成され、電子の光伝導が鎖構造に沿って進行する。この鎖構造は、H+イオンを還元することができる担体及び触媒、並びに電子が供給されると水性媒体中で水素によって還元され得る酸化された有機種に、電子伝導性の様式で接続されている。
【0005】
第1の態様では、本発明は、1つの集合体(ensemble)として420nm以上の波長(a)の光を吸収するオリゴマー性又はポリマー性発色団であって、少なくとも3つの同一又は異なる適切なモノマー性発色団単位を含む光増感剤に関する。ここで、このモノマー性発色団単位は、それぞれが少なくとも3つの炭素原子の鎖長を有する少なくとも1つのアルキレン、アルケニレン、及び/又はアルキニレン鎖を含む2つの置換基であって、チオール基で終端されている置換基を有し、オリゴマー性又はポリマー性発色団は、その発色団のそれぞれの間に、2つの個々のモノマー性単位の2つのチオール基をそれらのモノマー性単位のオリゴマー化又はポリマー化によって化学結合させて前記オリゴマー性又はポリマー性発色団を形成させることによって調製されたジスルフィド結合を有する。
【0006】
さらに、本発明は、この光増感剤を含む光電陰極、並びに、水性媒体中のプロトン及び/又は水性媒体中に溶解した水素によって還元され得る化学化合物を還元するためのデバイスであって、光電陰極と、光電陰極と導電接続している電子源とを含むデバイスに関する。
【0007】
最後に、本発明は、水溶性媒体中で、プロトン又は水素によって還元され得る化合物を還元する方法であって、
デバイスの光電陰極を、電子伝導方式で電子源に接続された状態で、プロトンを含有するか、あるいはプロトン及び前記水素によって還元され得る化合物を含有する水性媒体中に、室温を超える温度で浸漬させ、
前記光電陰極に、420nm以上の可視領域の波長を含む光を照射し、
さらに、前記光電陰極で生成した水素を収集するか、あるいは、前記光電陰極で還元された化合物を水性媒体内に収集するか又は代替的に水性媒体から分離することにより収集する、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】金表面に付着したポリ{トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4’-メチル-2,2’-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)}の略図を示す。
【
図2】金表面に付着したポリ[N,N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミド]の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、オリゴマー性又はポリマー性発色団を含む光増感剤であって、そのオリゴマー性又はポリマー性発色団が、少なくとも3つのモノマー性発色団単位を含み、420nm以上の波長の光を吸収し、アルキレン、アルケニレン及び/又はアルキニレン鎖を含む少なくとも3つの炭素原子の鎖長を有する少なくとも2つの置換基であって、チオール基で末端化された置換基を有する、光増感剤に関する。ここで、オリゴマー化又はポリマー化は、2つの個々のモノマー単位の2つのチオール基を化学結合させて2つの発色団間にジスルフィド結合を形成することによって行われる。このような光増感剤を含む光電陰極は、プロトン及び水素で還元され得る化合物を良好な収率で還元することができる。
【0010】
オリゴマー性又はポリマー性発色団は、少なくとも3個、特に少なくとも4個のモノマー単位、好ましくは少なくとも6個のモノマー単位、より好ましくは少なくとも8個のモノマー単位、さらにより好ましくは少なくとも10個のモノマー単位を含む。
【0011】
モノマー単位は同一でも異なっていてもよい。
【0012】
2つのチオール基からジスルフィド結合を形成する方法は、当技術分野でよく知られている。例えば、Michael B. Smith and Jerry March:「MARCH’S ADVANCED ORGANIC CHEMISTRY」, 6th Edition, 2007, John Wiley & Sons, Inc., Hoboken, New Jerseyの1785頁を参照されたい。
【0013】
少なくとも3つのモノマー性発色団単位を含み、420nm以上の波長で光を吸収するオリゴマー性又はポリマー性発色団を含む光増感剤は、発色団基を含むか又は含まない架橋剤をさらに含むことができ、架橋剤は、ジスルフィド結合の形成に関与していない発色団上のチオール基と反応することができる。架橋剤に含まれるチオール基と反応することができる反応性基(少なくとも2つのそのような基が架橋剤に存在しなければならない)も、当技術分野でよく知られている。例えば、Michael B. Smith and Jerry March:「MARCH’S ADVANCED ORGANIC CHEMISTRY」, 6th Edition, 2007, John Wiley & Sons, Inc., Hoboken, New Jerseyの主題索引、キーワード「チオール」を参照されたい。
【0014】
実施例に、本発明において有用な適切なモノマー発色団及び架橋剤、並びにそれらを重合する方法を示す。
【0015】
本発明の光増感剤を含む光電陰極は、電子伝導性表面を有する担体又は基材を含む。適切な基材は、国際公開第2009/056348号の13頁21行目から14頁1行目で議論されている。担体又は基材の導電性表面は、例えば、金属表面、好ましくは金表面などの貴金属表面、又はITO表面などの電子伝導性金属酸化物表面である。光増感剤は、導電性表面から発色団への電子輸送を可能にする様式で導電性表面に付着されなければならない。これについての詳細な議論は、国際公開第2009/056348号の12頁13~41行、及びそこで言及されている文献〔Elena Galoppini,「Linkers for anchoring sensitizers to semiconductor nanoparticles(半導体ナノ粒子に増感剤を固定するためのリンカー)」, Coordination Chemistry Review, 2004, Vol. 248, pages 1283-1297〕に存在する。アルキレン、アルケニレン、及び/又はアルキニレン鎖を含む置換基上にチオール末端基を有する本増感剤を用いて、発色団と電子伝導性表面との間に電子伝導リンカーを提供する最も都合の良い方法は、チオール基がそこに直接付着することができる金表面を担体に具備させることである。
【0016】
担体に付着した表面と反対側の光増感剤の表面上には、チオール基、又は場合によっては脱プロトン化したチオール基(スルフィド基)若しくはジスルフィド基に、直接付着した触媒が存在するか、あるいは、電子導電性の様式で、チオール又はスルフィド又はジスルフィド基に触媒が間接的に接続されており、ここで、触媒は、プロトン又は水素で還元され得る有機化合物、例えば水溶性カルボン酸又は水溶性アルデヒドを還元することができる(言い換えれば、いわゆる「水素化触媒」である)。この水素化触媒は、置換基の1つとしてオリゴマー性又はポリマー性増感剤のチオール又はスルフィド又はジスルフィド基を有する有機金属錯体(例:ロジウム錯体)であってよく、あるいは固体水素化触媒(例えば、白金又はZnO)の半透明又は透明層であってよく、任意選択で表面の層又は部分的に表面の層として担持されていてよい。この表面の層又は部分的に表面の層は、H+又はヒドロニウムイオンの形態のプロトンを含む水性媒体、又は水素で還元され得る有機化合物(水溶性カルボン酸又は水溶性アルデヒドなど)を含有する水性媒体に曝される層であって、1つ又は複数の電子伝導性物質(例えば、金属又は電子伝導性金属酸化物など)の1つ又は複数の半透明又は透明層の、表面の層又は部分的に表面の層であり、オリゴマー性又はポリマー性増感剤のチオール又はジスルフィド基、又は、チオール、スルフィド又はジスルフィド基とアンカー基との間の電子伝導性リンカー基に、電子伝導性の様式で付着している(担体の電子伝導性表面物質及びその担体の表面への光増感剤の付着に関する上述した議論を参照されたい)。
【0017】
電子伝導性の様式で担体に付着した増感剤のオリゴマー/ポリマーの表面とは反対側の表面で増感剤のチオール、スルフィド又はジスルフィド基に付着した非常に好ましい電子伝導性金属層は、金の気相から光増感剤の末端チオール基又はスルフィド若しくはジスルフィド基上に堆積された半透明又は透明の金の層である。
【0018】
プロトン又は水素で還元され得る有機化合物を還元するための固体触媒(一般に水素化触媒として知られている)は、当技術分野でよく知られている。例えば、Michael B. Smith and Jerry March:「MARCH’S ADVANCED ORGANIC CHEMISTRY」, 6th Edition, 2007, John Wiley & Sons, Inc., Hoboken, New Jerseyの1054頁の「heterogenous catalysts(不均一系触媒)」を参照されたい。本光電陰極に好ましい不均一系水素化触媒は、その気相から半透明又は透明な金層上に堆積された白金の1原子部分層である。
【0019】
基材の電子伝導性表面層と、光増感剤の反対側上の電子伝導性半透明又は透明層との間の短絡を回避するために、光増感剤は1つ以上の誘電体コーティング層で完全に囲まれている必要がある。オリゴマー又はポリマーの光増感剤を囲むこの誘電体コーティングは、化学的に不活性であり、強力な誘電体材料でなければならない。そのような材料は、当技術分野でよく知られている。例えば、「Dielectric materials for Electric Engineering(電気工学のための誘電材料)」、Juan Martinez-Vega (Ed.), 2010, John Wiley & Sons, Inc., Hoboken, New Jerseyを参照されたい。金表面上の適切な材料は、例えば、Si3N4(金に直接結合できるという利点がある)、SiC(例えば、SiO2又はシリコーン材料の最上層として)、高密度の非多孔質石英層などである(材料特性と堆積方法については、例えば、https://www.coursehero.com/file/18376010/2013-CCD-Material-Charts/及び
http://www.aimcal.org/uploads/4/6/6/9/46695933/george.pdfを参照されたい)。実施例では、2つの異なる構成成分を有する多層の誘電体の形成を示している。このタイプの誘電体コーティング構造が実験室規模で最も便利なものであったためである。
【0020】
水性媒体中のプロトン又は水素によって還元され得る化合物を還元するためのデバイス、すなわち、光電気化学電池又は半電池(本発明の光電陰極のみが水性媒体中で還元可能な化学物質と共に使用される場合)では、本発明の光電陰極を、電子源に接続する必要がある。適切な電子源は、当技術分野でよく知られている。適切な電子源は、例えば、電池で使用される従来の陽極、光電池、例えば国際公開第2009/056348号に開示されている(第一光活性物質として示されている)光陽極、又は米国特許出願公開第2010/0133110号に開示されている陽極である。プロトン又は酸化された形態の化合物を水性媒体で還元するプロセスは、還元触媒の隣の1つ以上の発色団の光(好ましくは太陽光)による電子励起と、1つ又は2つの電子の1つ又は2つのH+への移動によって開始され、H又はH2、又は水素で還元され得る別の還元種を生成する。これにより、本発明のオリゴマー又はポリマーの発色団に1つ又は複数の正孔が残り、次に電子源からの電子によって中和され、記述したプロセスが繰り返され得る。本発明の陰極を効率的に機能させるために、水性媒体は、好ましくは室温(23℃)を超える温度、例えば45℃以上、より好ましくは50℃以上、さらにより好ましくは55℃以上、例えば60℃であり、しかし、好ましくは90℃未満、より好ましくは80℃未満、さらにより好ましくは70℃未満である。還元された化合物は、必要に応じて、適切な周知の手段によって水性相から隔離することができる。
【0021】
光電気化学セル(photoelectrochemical cell)を、水を酸素と水素に光化学的に分解するために使用する場合、陽極は、光陽極であり、例えば、国際公開第2009/056348号に記載されている(「第一光活性物質」)。また、陽極は、水性媒体に浸漬されており、例えば、これも国際公開第2009/056348号に詳細に記載されている。 酸素と水素は異なる場所で形成され、別々に収集することができる。必要に応じて、光電陽極と光電陰極とは、Nafion(登録商標)膜などのプロトン透過性膜で分離することができる。
【実施例】
【0022】
[実施例1]:光電陰極の担体として機能する金被覆ガラスシートへの誘電絶縁層の適用
金でコーティングされたゴールシート(galls sheet)を、ACM社(Rue de la Gare, 78640 Villiers SinatFrederic、フランス)から取得する。このシートは、50 x 25 x 1 mmの寸法であり、片側に0.4μmのAu 111の上部層を有するDuranガラスで構成され、ガラスと、Ni / Cr(80/20)又はTi(ガラス上)/ Pt(Ti上)のいずれかにコーティングされた金との間に接着層を有する。
【0023】
絶縁誘電体層を、金層上に、約3 mmの幅を持つストリップの2つの25 mmの端部(エッジ)のそれぞれが誘電体層で覆われないように適用する。さらに、金の平らなプレートの中央にある約23x10 mmのサイズ長方形部分も、誘電体層によって覆わず、長方形部分が誘電体層で対称的に完全に囲まれるようにした。
【0024】
[実施例1.1]
誘電体層は、アクリルラッカー層で構成されていてよい。しかしながら、この層は、陰極の照射条件下で非常に安定ではない。したがって、実施例1.2に示すように、少なくとも2つの異なる構成成分を有する絶縁多層誘電体層に置き換える方が適切である。
【0025】
[実施例1.2]
金によく接着する、シランの薄い気泡を含まない層(Nano-Care Deutschland AGから入手可能な、ジブチルエーテル及び3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む)を、金表面に塗布し、マイクロファイバークロスで覆って250℃で30分乾燥させた。この上に、薄いSiOx層を、SurA Chemicals、GmbH社(Am PosenerWeg 2, D-07751 Bucha bei Jena、独国)のSurASil(登録商標)Verfahren(手順)に従って、火炎熱分解によって適用する。この際、 SurAChem(登録商標)VorbehandlungsgeratVG 03(前処理装置)及びSurASil 600カートリッジを、SurSurAChem(登録商標)Vorbehandlungsgerat VG 03に付属する取扱説明書に従って使用する。最後に、シリカ層を、SiOx層の上に、ゾルゲル法によって適用する。これは、独国特許第109 09 551 C1号の第6欄、第50-54行の開示に従って行った。テトラエトキシシラン(TEOS)、エタノール、H2O、及びHNO3を、1:1.26:1.8:0.01のモル比で混合し、室温で5時間激しく撹拌した。このゾル混合物の大きな液滴を、上で調製したSiOx層の上に堆積させ、シリコーン塗布ツールで均一に広げた。次に、このゾルを150℃で2時間乾燥させた。これにより、耐溶剤性の安定した2成分多層誘電体膜が提供される。
【0026】
このように処理されたプレートのいくつかは、隣接する金表面に隣接する端部(エッジ)に依然として小さな不安定な領域を有する。したがって、これらのプレートの上に別の誘電体層を堆積させる、つまりSiH4及びNH3を用いてPECVDによって製造されたSi3N4層を堆積させる〔NTTF Coating GmbH社(Markweg 30、53218 Rheinbreitbach、独国)の専門家による堆積〕。
【0027】
ここで、金の表面が完全に前処理されていると、Si3N4と金との間の接着が十分となるため、Si3N4だけが本発明の目的に適した誘電体層として機能し得ることに注意されたい。
【0028】
[実施例2]:トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4’-メチル-2,2’-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)の調製
【化1】
表題化合物を、国際公開第2009/056348号(A1)、実施例4に記載されている通りに調製した。
【0029】
[実施例3]:N,N-ジ(1,13-ジメルカプトトリデカン-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-ジカルボン酸ビスイミドの調製
【0030】
[実施例3.1]:7-トリフェニルメチルメルカプトヘプタンニトリルの調製
【化2】
【0031】
7.41 gのトリフェニルメタンチオール(Chempur)及び10 mlの3M NaOH水溶液を室温(RT)で10分間撹拌し、次に60 mlのエタノールを加える。次に、この溶液をさらに10分間撹拌し、5.1 g(26.8 mmol)の7-ブロモヘプタンニトリル(ABCR GmbH)を、この溶液に滴下により添加する。室温で7日間撹拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液40 mlを加えて反応を停止させる。有機相を分離し、水性相をジクロロメタン(3 x 40 ml)で抽出する。合わせた有機相をMgSO4上で乾燥させる。ロータリーエバポレーターを使用して溶媒を除去する。真空下(9ミリバール、室温)で乾燥させた後、白色固体の形態の10.1 g(26.2ミリモル;収率98%)の表題生成物が得られる。次に、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製する(溶出液:最初は不純物のためにトルエン、次に主要画分のためにジクロロメタン(DCM):メタノール(90:10))。純粋な表題化合物の生成物9.0 g(90%)が白色固体として得られる。
融点:102℃。
1H-NMR(CDCl3)、δ:7.4-7.35 (m, 6H), 7.30-7.20 (m, 9H), 2.3 (t, 2H, CH2CN), 2.1 (t, 2H, トリチルS-CH2), 1.55 (t, 4H); 1.3 (m, 4H)。
(類似:Hara, K.ら、2008, Angewandte Chemie; 120, 30, 5709-5712)
【0032】
[実施例3.2]:1-ブロモ-6-(トリフェニルメチル)メルカプトヘキサンの調製
【化3】
【0033】
35.5 ml(54.6 g、223.6 mmol)の1,6ジブロモヘキサン(ABCR GmbH)及び16.0 g(56.2 mmol;化学量論的に必要な量の半分だけ)のトリフェニルメタンチオール(Sigma Aldrich)を、丸底フラスコ内で混合し、200mlのテトラヒドロフラン(THF)を添加する。次に、8.64 g(360ミリモル)のNaHに相当する14.4 gのNaH懸濁液(鉱油中60%)を、室温でこの溶液に加え、それを次に2日間還流させる。この懸濁液を室温まで冷却し、1時間放置する。 NaHを懸濁液から濾過し、無水THFで洗浄した。合わせたTHF溶液を、ロータリーエバポレーターを使用して濃縮する。次に、ヘキサン150mlを加え、その溶液を冷蔵庫に一晩入れて、生成物を沈殿させる。形成された結晶を冷ヘキサンで洗浄し、真空乾燥する。得られた結晶の質量(26.5 g)が表題生成物の60.3 mmol(123%)に相当するため、表題生成物には依然として1,6-ジブロモヘキサン出発物質が混入している。しかし、それをさらに精製することなく次の工程に使用した。
1H-NMR(CDCl3)、δ:7.4-7.35 (m, 6H), 7.30-7.20 (m. 9H), 3.40 (t, J= 6.9, 2H), 2.13 (t, J= 7.2, 2H), 1.84 (qn, J= 7.2, 2H), 1.39-1.18 (m, 6H)。
(類似:Hara, K. et al. 2008, Angewandte Chemie; 120, 30, 5709-5712)
【0034】
[実施例3.3]:6-(トリフェニルメチル)メルカプトヘキサン-1マグネシウムブロマイド及び1,13-ビス-[(トリフェニルメチル)メルカプト]-トリデカン-7-オンの調製
【化4】
【0035】
250 mlの三口丸底フラスコ、均圧滴下漏斗、ガラスストッパー、塩化カルシウムチューブ、二重表面還流凝縮器、卵形の磁気撹拌棒を125℃で30分間乾燥させてから使用する。フラスコをN2で完全にフラッシュした後、N2で満たす。まだ熱いうちに、0.416 g;(17.1ミリモル)のMg粉末をフラスコに導入する。フラスコを(温度約350℃以上の)ヒートガンで真空及び撹拌下で加熱してマグネシウムを乾燥させ、1.0 mlのTHFをこの活性化マグネシウムに加える。次に、7.1 g(16.9ミリモル)の1-ブロモ-6-(トリフェニルメチル)メルカプトヘキサンの16 mlのTHF中の溶液を、撹拌しながら室温で30分間かけて滴下し、グリニャール試薬の形成が完了するまで65℃で2時間還流させる。
【0036】
この溶液を室温に冷却し、実施例2.1で調製した5.75 g(14.9 mmol)の7-(S-トリフェニルメチル)メルカプトヘプタノニトリルの16 mlの無水THF中の分散液(60℃でTHFに予め溶解させたもの)を、窒素下で撹拌しながら室温で添加する。溶液の色が淡い緑色に変わる。次に、この溶液を65℃で還流しながら3時間撹拌する。反応が完了した後、飽和塩化アンモニウム30mlをその溶液に注意深く加え、10分間撹拌する。
【0037】
この粗ケトン生成物の溶液を、30 mlのジクロロメタンで3回抽出する。合わせた有機相を45 mlの飽和炭酸ナトリウム溶液で1回、次に45 mlの水で洗浄し、硫酸マグネシウムで無水にし、濾過する。溶媒は、40℃のロータリーエバポレーターで除去する。黄色の粗生成物を真空下(室温、9ミリバール)で乾燥させて、11.8 g(15.8ミリモル)を得る。次にこれを、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用して精製し、最初にヘキサンで不純物を溶出させ、次にヘキサン:酢酸エチル(90:10)で溶出させる。最終的な純粋な1,13-ビス-(トリフェニルメチル)メルカプトトリデカン-7-オン生成物の収量は10.9 g(14.6 mmol; 98%)である。
1H NMR(CDCl3)、δ:7.4-7.35 (m, 6H), 7.30-7.20 (m. 9H), 2.0-2.4 (4 H, CH2COCH2), 2.1 (t, 4H, トリチル-SCH2), 1.0 -1.75 (m, 16H)。
【0038】
[実施例3.4]:1,13-ビス-[(トリフェニルメチル)メルカプト]-トリデカン-7-オキシムの調製
【化5】
【0039】
10.9 g(14.6ミリモル)の1,13-ビス-[(トリフェニルメチル)メルカプト]-トリデカン-7-オンを、25 mlのMeOHに懸濁させる。これに、2.6 g(37.4ミリモル)の塩化ヒドロキシルアンモニウムNH3(OH)Clを添加し、室温で撹拌する。次に、78 mlのピリジンを、滴下漏斗を介して約1滴/秒でゆっくりと加える。この溶液を25時間室温で激しく撹拌し、次にピリジン及びメタノールを除去するためにロータリーエバポレーターを使用して濃縮する。残渣を水(約90 ml)と酢酸エチル(EtOAc)との間で分配させる(各回約90 mlで4回)。合わせた有機層を、2M HCl 90 ml、飽和Na2CO3水溶液90 ml、及び水90 mlで洗浄し、MgSO4で無水にする。次に、ロータリーエバポレーターを使用して溶媒を蒸発させる。表題生成物の収量は、9.14 g(12.0 mmol、82%)である。
1H NMR(CDCl3)、δ:8.75 (s, 1H, NOH), 7.4-7.35 (m, 6H), 7.30-7.20 (m. 9H), 2.2 (t, 4H), 2.1 (t, 4H, トリチル-SCH2), 1.0-1.5 (m, 16 H)。
【0040】
[実施例3.5]:7-アミノ-1,13-ビス-[(トリフェニルメチル)メルカプト}-トリデカンの調製
【化6】
【0041】
29.2ミリモルのLiAlH4を含有する、無水THF中のLiAlH4のストック溶液12.0 mlを、シリンジ及びセプタムを介して、N2雰囲気下に保たれた乾燥した250 mlの三口丸底フラスコに加える。この溶液を、氷浴で冷却し、20 mlの無水THFをゆっくりと添加する。40 mlのTHFに溶解させた9.14 g(12.0 mmol)の1,13-ビス-(トリフェニルメチル)メルカプトトリデカン-7-オキシムを、氷浴中のLiAlH4の撹拌溶液に、シリンジを使用してセプタムを介してゆっくりと添加する。添加の完了後、溶液を70℃にて4時間還流下で撹拌する。次に、この溶液を0℃に冷却し、40 mlの水をゆっくりと添加する。その後、6M NaOH 20.0 mlを添加する。この溶液を約30分間撹拌してから、濾過して固体を除去する。次に、その粗生成物溶液を、水とTHF /酢酸エチル(1:1)との間で分配させ、分離した後、THF/酢酸エチルでさらに2回抽出する。次に、有機相を、MgSO4で無水にし、ロータリーエバポレーターで蒸発させる。高真空下で乾燥した後、表題生成物の収量は8.0 g(10.7 mmol、89.2%)である。
1H NMR(CDCl3)、δ:7.4-7.35 (m, 6H), 7.30-7.20 (m. 9H), 2.3 (t, 4H), 2.1 (t, 4H, トリチル-SCH2), 1.0-1.5 (m, 16H), 0.5 (br s, 2H, NH2)。
【0042】
[実施例3.6]:N、N-ビス-[1,13-ビス-[(トリフェニルメチル)メルカプト]-トリデシ-7-イル]-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミドの調製
【化7】
【0043】
1.99 g(5.1ミリモル)のペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸二無水物(PTCDA)(Sigma Aldrich)及び185.7 mg(1.0ミリモル)の酢酸亜鉛を20 gの溶融イミダゾールに約100℃で溶解させる。次に、7-アミノ-1,13-ビス-[(トリフェニルメチル)メルカプト]-トリデカン8.0 g(10.7ミリモル)を12 mlのトルエンに溶解させ、激しく撹拌されているPTCDA混合物にゆっくりと添加する。完全に添加した後、溶液を130℃で3時間撹拌する。次に、トルエン溶媒及び水を真空下、80℃で除去する。60℃に冷却した後、70 mlのメタノール及び310 mlの2M HClを添加する。表題生成物である固体残渣を濾過により収集し、それぞれ約150 mlの2M HCl、次いでメタノールで洗浄する。この濾物を、粗生成物を再溶解させるために40mlのジクロロメタン(DCM)で洗浄する。ロータリーエバポレーターを用いて濾液からDCMを除去し、残渣をさらに真空下(9 mbar圧力、40℃)で乾燥させて、8.2 g(4.4 mmol、86.3%)の粗N,N-ビス- [1,13-ビス-(トリフェニルメチル)メルカプト-トリデシ-7-イル]-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミドを得る。これを、溶離液としてDCMを使用するカラムクロマトグラフィーによりさらに精製して、4.5 gの純粋な生成物(55%)を得る。2番目のフラクション(1.95 g、24%)には、まだ出発物質が含まれていた。
1H NMR(CDCl3)δ:8.76 (br. s, 4H, arom.). 7.4-7.35 (m, 19H, 芳香族), 5.56 (t, 2H, N-CH), 2.65 (t, 8H, トリチル-SCH2), 2.12 (8H), 1.57-0.85 (m, 32H)。
【0044】
[実施例3.7:N,N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミドの調製
【化8】
【0045】
N、N-ビス-[1,13-ビス-(トリフェニルメチル)メルカプト-トリデシ-7-イル]-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミド3.0 g(1.62 mmol)を、10 mlの無水DCMに溶解させる。次に、トリフルオロ酢酸(TFA)1.3 ml(1.87 mg、16.4 mmol)及びトリイソプロピルシラン(TIPS)0.55 ml(400 mg;2.52 mmol)を添加する。この反応混合物を3時間撹拌する。その後、溶媒、TFAの大部分、及びTIPSを減圧留去した。脱保護された赤いN,N’-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)ペリレン3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミドを、高真空(9 mbar、室温)でさらに乾燥させて、1.42 g(99.6%)の表題生成物を得る。
1H NMR(CDCl3)、δ:8.75 (br. s, 4H、芳香族), 7.2-7.4 (br. s, 4H、芳香族) 5,25 (2H, N-CH), 4.3 (4H, S-H), 2.5 (8H、メチレン), 1.6-0,75 (m, 42H)。
【0046】
[実施例4]:トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4’-メチル-2,2’-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)の重合
【0047】
[実施例4.1]:トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4’-メチル-2,2’-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)の金表面上のその場重合
トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4’-メチル-2,2’-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)をCH2Cl2に溶解した。
5~10 nmのCo/Ni接着層の上に、0.4μmのAu 111コーティングを施した25 x 50 mmのガラススライドを、上の実施例1で記述したように、ポリビニルラッカーで前処理する。
これらのスライドを、約120℃のオーブンに入れる。次に、数滴のトリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)のCH2Cl2溶液を、スライドの中央の約10 x 23 mmの金で被覆されたフリーの(未処理の)長方形の領域上に滴下し、その直後に2滴のSO2Cl2を滴下する。次に、スライドを約5~7分間オーブンに戻し、この手順を約7~10回繰り返した。スライドの中央の未処理領域の上に暗赤色のポリマーが形成された。
【0048】
[実施例4.2]:トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4’-メチル-2,2’-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)の重合
20 mg(13.7μmol)のトリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)を、100 mlの3つ口フラスコ内で、20 mlのトルエン:クロロホルム(50:50)混合溶媒中に溶解させる。この溶液を40℃、次に50℃に加熱して、錯体を可能な限り溶解する。0.4 mlのSO2Cl2(0.69 g、5.0ミリモル)を徐々に少量ずつ加えながら、溶液を撹拌しながら60℃にさらに加熱する。2つのスクラバーを使用して、HCl及びSO2ガスを捕集する。SO2Cl2を55℃以上で添加すると、重合が強力なガス発生と共に開始されることが観察される。35分後、重合反応が停止する。次に、溶媒を真空下で除去する。固体の暗赤色のポリマーを、アセトンで4回洗浄して、未反応のモノマーを除去する。残渣は、60℃でジメチルホルムアミド(DMF)以外のいかなる溶媒にも溶解しない。
サイズ排除クロマトグラフィーにより、分子量が約700,000 Daであることが示される。
【0049】
[実施例4.3]:トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)とペンタエリスリトールテトラアクリレートとの共重合
79.0 mg(54.1μmol)のトリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)を、トルエン/クロロホルム(容量で50:50)30 m中の21 mg(54.1μmol)のペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)(Sigma Aldrich)と混合する。この混合物を撹拌しながら60℃に加熱する。次に、0.4 mlのSO2Cl2(0.69 g、5 mmol)を、2回に分けて添加し(1時間間隔)、反応を合計24時間続ける。10mlの水を加え、続いてメタノールを加え、濾過する。赤い固体コポリマーをアセトンで数回洗浄した。
【0050】
[実施例5]:N,N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミドの重合
【0051】
[実施例5.1]:N,N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミドの重合
450 mg(0.541 mmol)のN、N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミドを、100 mlフラスコ内で、5 mlのジクロロメタン(DCM)溶媒に溶解させる。0.38 mlのTEA(2.74 mmol)を加える。この混合物を空気下で15分間激しく撹拌し、その後1.5mlの過酸化水素水(0.88M、1.32mmol、45mgの過酸化物)を滴下(0.1ml/5分)する。この反応物を24時間撹拌し続けると、沈殿するまでポリマーのサイズを徐々に大きくすることができる。過剰なTEAをデカントし、ポリマーを真空乾燥する。次に、このポリマー沈殿物を水、続いてメタノール(2 ml)で洗浄する。濃いオレンジ色のポリマーを、洗浄液が無色になるまでフィルター上で繰り返しアセトンですすぎ、真空下で乾燥する。
サイズ排除クロマトグラフィーにより、ポリマーの分子量が約10 kDaであることが示される。
【0052】
[実施例5.2]:N,N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミドとペンタエリスリトールテトラアクリレートとの共重合
100.0 mg(113.6μmol)のN、N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミドを、10 mlのTHF中の6.5 mg(18.4μmol)のペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA))(Sigma Aldrich)と混合する。この混合物を、室温で15分間撹拌する。次に、1.0 ml(0.73 mg、7.2μmol)のTEAを、一度に加えて重合を開始させ、空気に開放させて3時間撹拌し、ストッパーで緩く閉じてさらに21時間撹拌した。その後、10 mlの水、続いてメタノールを添加し、濾過する。濃いオレンジ色の固体ポリマーをアセトンで数回洗浄する。
【0053】
[実施例6]:予め合成したポリ{トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4’-メチル-2,2’-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)}の金表面上への堆積
以下の実験では、上述した実施例1.2で調製した多成分多層の誘電体コーティングで部分的に覆われた、金でコーティングされたガラスシートを使用する。
【0054】
[実施例6.1]:トルエン/クロロホルム溶液からのポリ{トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4’-メチル-2,2’-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)}の堆積
その表面の一部に誘電体コーティングが施された金でコーティングされたガラスシートを、乾燥した100 mlの3つ口フラスコに入れ、2回真空乾燥してN2でパージする。
トルエン/クロロホルム(容量で50:50)の混合物を、固体のDCM可溶性の濃い赤色のポリ{トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)}画分(オリゴマー性の低分子量ポリマー画分:窒素下でより高分子量のアセトン不溶性ポリマーからアセトンで抽出されたもの)に徐々に添加し、全てのポリマーが溶解するまで撹拌する。次に、窒素下で、三口フラスコ内の金でコーティングされたガラスシートに、ガラスシートが完全に覆われるまで加える。溶液を60℃に加熱して10分間撹拌した後、72時間放置する。
プレートをポリマー溶液から取り出し、真空乾燥する。次に、プレートをDCMで3回すすぎ、さらに真空乾燥させる。シートの全ての金の表面は、赤いポリマーで完全に覆われている。
長いプレートの2つの端部にある帯状(バンド状)の2つの金表面上のポリマーを、カロ酸(Caro’s acid)で除去した。これは、後の実験のためにこれらの表面が導電性でなければならないためである。
プレートを、N2の下で保管する。
【0055】
[実施例6.2]:DMF溶液からのポリ{トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4’-メチル-2,2’-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)}の堆積
この実験では、アセトンを用いた抽出によって低分子重量画分が除去された、高分子量のポリ{トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)}のDMF可溶性画分を使用する。
プレートの両端にある2つの金バンド上の不要なポリマーの除去に時間がかかるため、溶液を適用するための別のアプローチも選択される。
すなわち、DMF中の上記ポリマーの高濃度且つ粘性のある溶液を、金の表面が完全に覆われるまで、プレートの中心にある長方形の金の表面にシリンジで滴下する。一部の溶液は、その長方形の金の表面の周囲の誘電体コーティングに広がるが、プレートの両端の金バンドに広がることは避けられる。
次に、このプレートを180℃のオーブンに入れ、監視する。溶媒が実質的に蒸発したらすぐにプレートをオーブンから取り出し、中央の金表面の完全で比較的厚い被覆が観察されるまで(通常4~6回)この手順を繰り返す。冷却後、誘電体コーティング上に堆積したポリマーは、綿棒に浸したイソプロパノールを使用して簡単に除去することができる。
【0056】
[実施例6.3]:DMF溶液からのポリ{トリス[4-(11-メルカプトウンデシル)-4’-メチル-2,2’-ビピリジン]ルテニウム(II)-ビス-(ヘキサフルオロホスフェート)-コ-ペンタエリスリトールテトラアクリレート}の堆積
実施例4.3で調製した表題ポリマーの高分子量画分を、上の実施例6.2で記述したように、DMFに溶解させ、4分以内に金の表面に堆積させる。
【0057】
[実施例7]金表面への予め合成したポリ[N,N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミド]の堆積
以下の実験では、上の実施例1.2で調製した多成分多層誘電体コーティングで部分的に覆われた金でコーティングされたガラスシートを使用する。
【0058】
[実施例7.1]:トルエン/クロロホルム混合溶液からのポリ[N,N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミド]の堆積
表題ポリマーのDCM可溶性画分を、丸底フラスコ内で、その後除去される溶媒に溶解させ、空気下で50:40のトルエン/クロロホルム/混合物に置き換えて、ポリマーを溶解させる。この溶液を、金でコーティングされたシートが入っている3つ口丸底フラスコに加え、シートが完全に覆われるようにする。溶液を、空気中で50℃に加熱する。その後、フラスコを窒素雰囲気下に置き、3日間加熱を続ける。
フラスコからシートを取り出し、イソプロパノールですすぎ、乾燥させた後、金の表面が表題ポリマーの単層で完全に覆われていることがわかる。長いプレートの両方の端部にある金バンド上のポリマーは、カロ酸で再び除去する。
この実験を繰り返すが、溶液が50℃に達したらすぐに、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、ヒューニッヒ塩基)を10滴加えて行う。しかし、結果として生じるポリマー堆積には変化はなかった。
【0059】
[実施例7.2]:DMFからのポリ[N,N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミド]の堆積
25 mgの表題ポリマーを加熱しながら無水DMFに溶解する。ポリマーに、すべてのポリマーが溶解するまで、50 mlの無水DMFを3つのバッチ(15 ml、15 ml、及び20 ml)で間隔をあけてポリマーに添加する。その後、反応物を窒素雰囲気下に置き、130℃で5時間、次に140℃で4日間撹拌した。
全ての金の表面が完全にポリマーで覆われ、被覆物は実施例7.1のトルエン/クロロホルム混合溶液から得られるものよりも厚い。長いプレートの2つの端部にある2つの金バンド上のポリマーを、カロ酸で再び除去する。
【0060】
[実施例7.3]:オーブン内でのDMFからのポリ[N、N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミド]の堆積
ここでも、カロ酸を使用してプレートの両端にある2つの金バンド上の不必要なポリマーを除去することを避けるために、オーブン内で溶液を塗布する方法を選択する。
表題のポリマーを、少量のDCMに予め溶解させ、その量の1.5倍量のDMFと混合する。その後、DCMを除去する。この粘性のある溶液を、金の表面が完全に覆われるまで、プレートの中央にある長方形の金表面にシリンジを介して滴下する。一部の溶液は、その長方形の金表面の周囲の誘電体コーティングに広がるが、プレートの両端の金バンドに広がることは避けられる。
次に、プレートを180℃のオーブンに入れ、監視する。溶媒が実質的に蒸発したらすぐに、プレートをオーブンから取り出し、中央の金表面の完全で比較的厚い被覆が観察されるまで(通常4~6回)手順を繰り返す。冷却後、誘電体コーティング上に堆積したポリマーは、綿棒に浸したイソプロパノールを使用して簡単に除去することができる。
【0061】
[実施例7.4]:オーブン内でのDMFからのポリ[N,N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミド-コ-ペンタエリスリトールテトラアクリレート]の堆積
部分的に誘電体コーティングが施された金でコーティングされたガラスシートを、3つ口丸底フラスコに入れる。実施例5.2で調製したポリ[N、N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミド-コ-ペンタエリスリトールテトラアクリレート]の、トルエン/クロロホルム(50:50)混合溶媒中の溶液を、このフラスコに加えて、シートが完全に覆われるようにする。この混合物を撹拌し、窒素下で60℃に加熱する。60℃で撹拌を停止し、堆積を4日間続ける。フラスコからプレートを取り出し、真空乾燥し、イソプロパノールで十分にすすいだ後、全ての金の表面がコポリマーで完全に覆われていることが観察される。プレートのサイドバンド上のコポリマーを、カロ酸で再び除去する。
【0062】
[実施例8]2つの異なるポリマーの共堆積
実施例7.2に記述した通りに、DMFからのポリ[N,N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミド]の堆積を繰り返した。次に、上述した実施例7.3に記述した通りに、ポリ[N,N-ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミド]を少量のDCMに予め溶解させてからその量の1.5倍量のDMFと混合し、その後DCMを除去する。次に、この溶液を、先のポリ[N,N -ビス-(1,13-ジメルカプトトリデシ-7-イル)-ペリレン-3,4:9,10-テトラカルボン酸ビスイミド]の堆積物上に、実施例7.3に記述した方法と同様の方法で、約4分間にわたって滴下した。
【0063】
[実施例9]
実施例4.1、6.1~6.3、7.1~7.4、及び8のプレートを、高真空チャンバー内でさらに処理する。これにより、プレートの中心にある長方形の金表面上の、隣接する誘電コーティングの内側部分を覆っているポリマー上に、薄い金の層又は被覆(約5 nm)を堆積させるようにし、さらに、金表面のわずか50~70%を覆うその金被覆上に、白金の0.4~0.7単分子層を堆積させるようにする。
【0064】
[実施例10]:実施例4.1、6.1~6.3、7.1~7.4、及び8のプレートと、TiO2/RuS2で被覆されたITOプレートとの組み合わせ
この組み合わせは、国際公開第2009/056348号(A1)の実施例7.1.a.に記述されている通りに製造した。
【0065】
[実施例11]:D2O中での照射
実施例10の組み合わせを、照射試験管内の窒素雰囲気中のD2Oに浸漬させ、60~65℃の温度にて、その中に照射試験管が浸漬されている水を満たしたDuran(登録商標)ビーカーを通して、500Wのタングステンランプで両側から照射した。
【0066】
全ての場合で、約6分の保持時間でH2/D2を検出するように設定されたガスクロマトグラフ(Shimadzu)において、約6分の保持時間に強いピークが現れた。マススペクトルはD及びD2の強いピークを示した。実施例4.1で使用したアクリルラッカーは、照射条件下では安定ではなく、より長い照射時間で完全に分解した。
【0067】
本明細書で引用した全ての特許、特許出願、学術文献、本及び本の一部の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。