(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】動脈硬化症を予防するためのプロバイオティクス組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/745 20150101AFI20230317BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20230317BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230317BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230317BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20230317BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20230317BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20230317BHJP
【FI】
A61K35/745
A61K31/197
A61P9/10 101
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A23L33/135
A23L33/175
C12N1/20 E
(21)【出願番号】P 2021119595
(22)【出願日】2021-07-20
(62)【分割の表示】P 2017093881の分割
【原出願日】2017-05-10
【審査請求日】2021-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2016094839
(32)【優先日】2016-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD FERM P-21998
(73)【特許権者】
【識別番号】305018395
【氏名又は名称】協同乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】松本 光晴
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-530406(JP,A)
【文献】西南女学院大学紀要, (2010), 14, p.69-75
【文献】Sci. Rep., (2014), 4, Article.4548<DOI:10.1038/sreo04548>
【文献】臨床栄養, (2006), 108,[6], p.767-772
【文献】動脈硬化予防, (2015), 14, [1], p.52-57
【文献】Adiposcience, (2007), 4, [2], p.175-182
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/745
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動脈硬化症を予防するための、プロバイオティクス微生物及びアルギニンの組み合わせを含む組成物であって、
プロバイオティクス微生物が、
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスであり、
1回用量あたりアルギニンを10mg~1000mg含む、
前記組成物。
【請求項2】
血管内皮機能を向上または改善するための、プロバイオティクス微生物及びアルギニンの組合せを含む組成物であって、
プロバイオティクス微生物が、
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスであり、
1回用量あたりアルギニンを10mg~1000mg含む、
前記組成物。
【請求項3】
プロバイオティクス微生物が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である、
請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
1回用量あたり、プロバイオティクス微生物を1×10
6~1×10
11cfu含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
食品組成物又は医薬組成物である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動脈硬化症を予防するためのプロバイオティクス組成物および方法に関する。本発明はまた、血管内皮機能を向上または改善するためのプロバイオティクス組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心疾患や脳血管疾患等の原因となる動脈硬化症は、生活習慣に起因することが殆どで治療よりも予防することが好ましい。
【0003】
動脈硬化は、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙などの危険因子の存在下で生じた血管内皮障害をトリガーとした炎症反応に起因する。障害を受けた血管内皮は炎症性サイトカインや接着因子を発現し、これにより白血球の血管壁への接着が起こり、単球などの炎症細胞が血管壁へ湿潤する。その後、単球はマクロファージに分化し、血管壁に湿潤した低比重リポタンパク質(LDL)コレステロールが酸化された酸化LDLを取り込み泡沫細胞を形成し、さらに炎症性サイトカインを放出し、血管局所で慢性炎症を惹起し、動脈硬化は増悪する。
【0004】
プロバイオティクスを利用した動脈硬化予防に関しては、動脈硬化の原因となるファクターの一つである血中脂質を低下させることをターゲットとしたヒト試験が検討されてきた(非特許文献1~3)。しかしながら、動脈硬化発症に本質的役割を担う、血管内皮機能の維持・改善や慢性炎症の抑制をターゲットとした試みは殆どなされておらず、有効性を示した報告はこれまでにない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kiessling, G., et al., (2002), Eur. J. Clin. Nutr., 56:843 - 849
【文献】Klein, A., et al., (2008), Eur. J. Clin. Nutr., 62:584 - 593
【文献】Andrade, S. and Borges, N., (2009), J. Dairy Res., 76: 469 - 474
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、動脈硬化症を予防するためのプロバイオティクス組成物および方法を提供する。本発明はまた、血管内皮機能を向上または改善するためのプロバイオティクス組成物および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上に鑑み、本件の発明者は、プロバイオティクスを利用した動脈硬化予防に注目し、研究を開始した。鋭意検討の結果、プロバイオティクス微生物、あるいはプロバイオティクス微生物及びアルギニンの組合せが、血管内皮機能の向上および/または改善効果、あるいは炎症の抑制効果を有し、ひいては動脈硬化症の予防に有用であることを見いだした。当該知見に基づいて、本発明は完成された。
【0008】
すなわち、一態様において、本発明は以下のとおりであってよい。
【0009】
[1]動脈硬化症を予防するための、プロバイオティクス微生物を含む組成物。
【0010】
[2]血管内皮機能を向上または改善するための組成物であって、プロバイオティクス微生物を含む、前記組成物。
【0011】
[3]血管内皮機能を向上または改善するための組成物であって、プロバイオティクス微生物及びアルギニンの組合せを含む、前記組成物。
【0012】
[4]プロバイオティクス微生物が、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に
属する微生物、ラクトバチルス属(Lactobacillus)に属する微生物、ストレプトコッカ
ス属(Streptococcus)に属する微生物、ラクトコッカス属(Lactococcus)に属する微生物、エンテロコッカス属(Enterococcus)に属する微生物、及びペディオコッカス属(Pediococcus)に属する微生物、バチルス(Bacillus)属に属する微生物、クロストリジウ
ム(Clostridium)属に属する微生物、及びサッカロミセス属(Saccharomyces)に属する微生物、からなる群より選択される、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
【0013】
[5]プロバイオティクス微生物が以下:ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス(B. animalis subsp.lactis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種アニマリス(B. animalis subsp. animalis)、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラタム
(B. pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・カテニュラタム(B. catenulatum)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B. bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム
(B. longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B. breve)、ビフィドバクテリウム
・インファンティス(B. infantis)及びビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(B. adolescentis)からなる群より選択される、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
【0014】
[6]プロバイオティクス微生物が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスである、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
【0015】
[7]プロバイオティクス微生物が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
【0016】
[8]1回用量あたり、プロバイオティクス微生物を1×106~1×1011cfu含む、上記[1]又は[2]に記載の組成物。
【0017】
[9]1回用量あたり、プロバイオティクス微生物を1×106~1×1011cfu含み、アルギニンを10mg~1000mg含む、上記[3]に記載の組成物。
【0018】
[10]食品組成物又は医薬組成物である、上記[1]~[9]のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明のプロバイオティクス組成物は、血管内皮機能の維持および/または改善効果、あるいは炎症の抑制効果を有する点で有用である。また、本発明のプロバイオティクス組成物は動脈硬化症の予防に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、
当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。
【0021】
本発明は、プロバイオティクス微生物を含む、動脈硬化症を予防するための組成物に関する。そして、本発明は動脈硬化症の予防に使用するためのプロバイオティクス微生物に関する。別の態様において、本発明は動脈硬化症を予防するためのプロバイオティクス微生物を含む組成物を投与する又は摂取させる方法に関する。また別の態様において、本発明は、動脈硬化症の予防のための組成物を製造するためのプロバイオティクス微生物の使用に関する。
【0022】
「動脈硬化を予防する」とは、動脈硬化の発症または進行を抑制することを意味する。動脈硬化の予防に関する具体的な指標としては、血管内皮機能の向上または改善、炎症の低減または改善、肥満度の低下、動脈硬化発症に関わる腸内常在菌数の低下、等が挙げられるが、これに限定されない。
【0023】
本明細書において、「血管内皮機能」とは、血管内皮細胞の作用であって、血管の健康状態を維持するために重要な作用であり、血管の収縮・拡張の調節、炎症細胞の血管壁への接着や血小板の粘着・凝集を抑制する事による血管の保護の作用を意味する。血管内皮機能の評価は、例えば、ストレインゲージ式プレチスモグラフィ―(プレチスモグラフィ)、血流介在血管拡張反応(flow-mediated dilatation:FMD)、RH-PAT(reactive hyperemia peripheral arterial tonometry)により評価することができる。また、「循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011-2012年度合同研究班報告)血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン」、循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2186-5973) 2013巻、3-112頁(2014年1月)に記載の方法により評価しても
よい。
【0024】
炎症は、炎症性サイトカイン(例えば、TNF-α)の濃度および発現量により評価することができる。
【0025】
本発明は特に、プロバイオティクス微生物及びアルギニンの組合せを含む、血管内皮機能を向上または改善するための組成物に関する。そして、本発明は血管内皮機能の向上若しくは改善に使用するためのプロバイオティクス微生物及びアルギニンの組合せに関する。別の態様において、本発明は、血管内皮機能を向上または改善するための、プロバイオティクス微生物及びアルギニンの組合せを含む組成物を投与する又は摂取させる方法に関する。また別の態様において、本発明は、血管内皮機能の向上または改善のための組成物を製造するためのプロバイオティクス微生物及びアルギニンの組合せの使用に関する。
【0026】
本発明におけるプロバイオティクス微生物は、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物、ラクトバチルス属(Lactobacillus)に属する微生物、ストレプトコッカス属(Streptococcus)に属する微生物、ラクトコッカス属(Lactococcus)に属する微生物、エンテロコッカス属(Enterococcus)に属する微生物、及びペディオコッカス属(Pediococcus)に属する微生物、バチルス(Bacillus)属に属する微生物、クロスト
リジウム(Clostridium)属に属する微生物、及びサッカロミセス属(Saccharomyces)に属する微生物、からなる群より選択される微生物の少なくとも一つであってよい。
【0027】
好ましい態様において、プロバイオティクス微生物はビフィドバクテリウム属に属する微生物であり、以下:ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス(B. animalis subsp.lactis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種アニマリス(B. animalis subsp. animalis)、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラタム(B. pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・カテニュラタム(B. catenulatum)、ビフィドバクテリウ
ム・ビフィダム(B. bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B. longum)、ビフィ
ドバクテリウム・ブレーベ(B. breve)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B.
infantis)及びビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(B. adolescentis)からなる群より選択される微生物の少なくとも一つであってよい。特に好ましいプロバイオティクス微生物は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスであり、さらに好ましくはビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスLKM512株である。ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスLKM512株は、受託番号FERM P-21998として2010年8月10日に独立行政法人 製品評価技術基盤機構 NITE特許微生物寄託センター(NITE-IPOD:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8;独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターより2012年4月に業務承継)に寄託されている。
【0028】
アルギニンは、天然アミノ酸の一種で、特に明示しない限りL-アルギニンを指す。
【0029】
本発明の組成物が、プロバイオティクス微生物及びアルギニンの組合せを含む場合における「組合せ」とは、プロバイオティクス微生物とアルギニンが同一剤中に存在する態様を意味してもよく、又は、プロバイオティクス微生物を含む剤とアルギニンを含む別の剤を含む組合せ組成物の態様を意味してもよい。プロバイオティクス微生物とアルギニンの組合せを投与することは、プロバイオティクス微生物とアルギニンを同時に投与する又は摂取させること、プロバイオティクス微生物を投与する又は摂取させた後にアルギニンを投与する又は摂取させること、または、アルギニンを投与する又は摂取させた後にプロバイオティクス微生物を投与する又は摂取させることを意味する。
【0030】
プロバイオティクス微生物、または、プロバイオティクス微生物及びアルギニンの組合せは、有効量で投与されることが好ましい。ここでいう有効量とは、動脈硬化症の予防のために必要な量であれば特に限定されない。例えば、1回用量あたり、プロバイオティクス微生物は、1×106~1×1011cfu、好ましくは1×108~1×1011cfu、1×108~1×1010cfu、1×109~1×1011cfu、1×109~1×1010cfuである。プロバイオティクス微生物とアルギニンを組み合わせる場合のアルギニンの量は、1回用量あたり、10~1000mg、好ましくは10mg~800mg、50mg~800mg、200mg~800mg、50mg~600mg、200mg~600mgである。
【0031】
本発明の組成物は、1日1回、1日2回、または1日3回の投与または摂取としてもよい。投与・摂取期間は、随時、3日以上、1週間以上、4週間以上、または8週間以上、としてもよい。また、本発明の組成物は、いずれの対象に適用してもよい。対象には哺乳動物、特にヒトが含まれる。好ましい態様において対象は、動脈硬化予備軍と判定されたヒトである。動脈硬化予備軍の判定は、例えば、血液生化学的検査による中性脂肪値が150mg/dL以上、LDLコレルテロールが140mg/dL以上、HDLコレルテロールが40mg/dL未満、総コレステロール値が220mg/dL以上、収縮期血圧が130mmHg以上、拡張期血圧が85mmHg以上、又はBMIが25以上、のいずれか1項目を満たすという基準により行うことができる。あるいは、動脈硬化予備軍の判定は、血管機能検査、例えば反応性充血指数(Reactive hyperemia index: RHI)、脈波伝
播速度(PWV)、心臓足首血管指数(CAVI)、中心血圧、増大係数(AI)、又は足関節上
腕血圧比(ABI)において正常値範囲との比較により行ってもよい。血管機能の評価は、
「循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011-2012年度合同研究班報告)血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン」、循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2186-5973) 2013巻、3-112頁(2014年1月)に記載の方法により評価しても
よく、あるいは、上述した血管内皮機能評価方法により評価してもよい。
【0032】
本発明の組成物は、食品組成物または医薬組成物であってもよい。本発明の組成物は、
好ましくは経口摂取または経口投与される。本発明の組成物は、医薬品又は食品(例えば、機能性食品、健康食品、サプリメントなど)として継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒剤(ドライシロップを含む)、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、錠剤(チュアブル剤などを含む)、散剤(粉末剤)、丸剤などの各種の固形製剤、又は内服用液剤(液剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)などの液状製剤などの形態で調製することができるが、特に限定されるものではない。プロバイオティクス微生物およびアルギニンは腸溶コーティングされていてもよい。しかしながら、胃内環境に対して耐性を有するプロバイオティクス微生物を用いる場合、プロバイオティクス微生物に対する腸溶コーティングは必ずしも必要ない。
【0033】
腸溶コーティングは、当業者に公知のものを使用でき、特に限定されない。例えば、腸溶コーティングされた錠剤として、有用な成分を含む素錠の表面に、アンダーコート層と、大腸崩壊性基剤層と、第1の腸溶性基剤層と、第2の腸溶性基剤層とを、この順に被覆してなり、前記第1の腸溶性基剤層がゼインを含み、前記第2の腸溶性基剤層がシェラックを含む、大腸ドラッグデリバリーシステム錠剤を使用することができる。
【0034】
製剤化のための添加物としては、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、流動化剤、分散剤、湿潤剤、防腐剤、粘稠剤、pH調整剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、溶解補助剤などが挙げられる。また、液剤の形態にする場合は、ペクチン、キサンタンガム、グアガムなどの増粘剤を配合することができる。また、コーティング剤を用いてコーティング錠剤にしたり、ペースト状の膠剤とすることもできる。さらに、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0035】
本発明の組成物は、必要に応じ、従来公知の着色剤、保存剤、香料、風味剤、コーティング剤などの成分を配合して調製することもできる。
【0036】
本発明の組成物が食品組成物である場合、以下のような形態であってもよい。例えば、飲料、発酵食品、菓子類、パン類、スープ類等の各種食品又はその添加成分として;又はドッグフード、キャットフードなどの各種ペットフード又はその添加成分として使用することができる。これらの食品の製造方法は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されず、各用途で当業者に使用されている方法に従えばよい。本発明の組成物を適用できる食品は、例えば、対象が日常的に摂取する食品だけでなく、特定保健用食品、栄養機能食品、特別用途食品等の機能性食品にも適用できる。本発明の組成物が適用可能な食品の具体例としては、牛乳、ヨーグルト、発酵乳、乳酸菌飲料、チーズ、プリン、アイスクリーム、氷菓、清涼飲料水(フルーツジュース、緑茶、紅茶、烏龍茶、及びコーヒー等を含む)、サプリメント、及び豆乳等が挙げられる。固形食品に本発明の組成物を加える場合には、例えば顆粒剤、及び粉剤等の形態で加えることが好ましい。また、飲料、ペースト状食品に本発明の組成物を加える場合には、例えばマイクロカプセルの形態で加えることが好ましい。
【0037】
本発明の組成物は、血管内皮機能の向上または改善、あるいは炎症の低減または改善に有効である。血管内皮機能が向上または維持されること、あるいは炎症が低減または改善されることは、動脈硬化の予防、動脈硬化の進行の予防、さらには心筋梗塞や脳卒中の予防に有効である。したがって、本発明の組成物は、動脈硬化の予防、動脈硬化の進行の予防、さらには心筋梗塞や脳卒中の予防に用いることもできる。
【0038】
本発明について全般的に記載したが、さらに理解を得るために参照する特定の実施例をここに提供する。しかし、これらは例示目的とするものであって、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
実施例1~3では、被験者の選定に際して、薬物による脂質異常症の治療を受けている患者、コレステロール値に影響のある薬剤を服用している方、重篤な心疾患、肝疾患、腎疾患などの患者は除外した。また、被験者には担当医師より本研究の意義や目的を十分に説明し、インフォームド・コンセントを得た上で、ヘルシンキ宣言の精神に則り実施した。
【0040】
実施例1
実験方法
・被験者
募集期間中に集まった被験者候補を対象に、試験開始2週間前に血液生化学的検査を実施し、中性脂肪値(100~250mg/dL)でBMIが25程度の被験者を中心に、医師
が動脈硬化予備軍と判定した30名を被験者として登録した。登録された被験者はプロトコルに従い、割付責任者が試験前に無作為に試験食群20名、プラセボ群10名に群分けした。しかしながら、直前の血液検査で試験食群の3名の中性脂肪が100mg/dl未満となったため除外した。結果的に、試験食群17名(男性9名、女性8名、平均年齢41.7歳)とプラセボ群10名(男性6名、女性4名、平均年齢41.7歳)で実施した。 また、被験者はアンケートによる食生活から、総摂取カロリーは平均2000kcal/日以上と推測された。
・試験食
試験食は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)凍結乾燥粉末を1g(生菌数は約6×109cfu)ずつ分包したスティックを1セットとし、1日に2包(朝、晩に一包ずつ)12週間摂取した。プラセボ用粉末は、賦形剤のみのスティックを作製して用いた。
・試験スケジュール
摂取期間12週間の無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施した。摂取前及び摂取12週後に、血清中のTNF-αを測定した。また、試験開始前及び摂取12週後に糞便を回収した。なお、試験期間2週間前から終了時まで、乳酸菌およびビフィズス菌を含むヨーグルト、乳酸菌飲料、およびサプリメント、また腸内菌叢解析結果に著しい影響を及ぼす納豆の摂取は禁止したが、その他の食事は制限しなかった。
・血清中のTNF-αの測定
摂取前及び摂取12週後に、各被験者より採血して血清を調製後、速やかに凍結し、-80℃に保存して検体とした。血清中TNF-αは、Human TNF-α Chemiluminescent Immunoassay(QuantiGlo(登録商標))を使用し、化学発光酵素免疫測定法にて測定した。
【0041】
<BMI、γーGTPの測定>
接種前及び摂取12週間後に、各被験者のBMI(Body Mass Index)を測定した。B
MI値は、次式:[体重(kg)/(身長(cm))2]によって計算される。また、摂取前及び摂取12週後に、各被験者より得た血液について、血中γ-GTPを測定した。
・腸内菌叢解析
(糞便サンプル)
糞便サンプルは、試験開始前と摂取12週後に回収した。採便シート「ナガセール」(オザックス株式会社製)を用いて、排便後、直ちに糞便を採便管に回収し、冷蔵条件下で輸送し、排便後12時間以内に-80℃で保存し、腸内菌叢解析用に処理した。すなわち、200-300mgの糞便を9倍量のダルベッコリン酸バッファー(pH7.2)(D-PBS, GIBCO社製)に均一に懸濁し、1分間の激しい撹拌後、遠心分離を行い(16000×g、10分間)、上清を除去し沈殿を得た。さらに再びD-PBSを1ml添加し、同様の作業を
二度繰り返し、得られた沈殿物を菌叢解析用試料として解析時まで-80℃にて保存した。
(糞便サンプルからのDNA抽出)
DNAの抽出はMatsukiら(Matsuki, T., et al., Appl. Environ. Microbiol, 2004, 70:7220-7228)の方法の一部を改変して行った。改変点は、抽出DNAの回収をエタ沈メイト(Takara)で実施し、冷70%エタノール(1 ml)を用いて2回の遠心洗浄(15000
×g、5分間)後、風乾した点である。
(IonPGMによる菌叢解析)
16S rRNA遺伝子の可変領域V1-V2をフュージョンプライマー法で増幅した。フォワード
プライマーはIon Aアダプターやキー配列、バーコード配列、アダプター配列(GT)、な
らびに16S rRNA特異的な27Fmodプライマー配列を有するものを使用し、リバースプライマーはIon truncated P1アダプター配列、アダプター配列(CC)、ならびに338Rプライマー配列を有するものを使用した(Kim, S. W., et al., DNA Res., 2013, 20:241-253)。PCRの反応液の組成はPlatinum(登録商標) PCR SuperMix High Fidelity (Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を23.5μl、各5μMのプライマー混合液を0.5μl、DNA溶液を1
μlを含む合計25μlの系を用いた。サーマルサイクラーの温度条件は、最初のDNA変性を94℃で3分間行い、その後、変性(94℃で30秒)、アニーリング(55℃で4
5秒)、伸長(68℃で1分間)のサイクルを25サイクル繰り返した。PCR産物はPureLink PCR Purification Kit (Invitorogen)を用いて精製した。サンプルのDNA濃度はQuant
dsDNA HS Assay Kit (Invitrogen)とQubit 2.0 Flourometer (Invitrogen)を用いて定量し、各サンプルが等量となるように混合した。DNA混合液は2.0%TAEアガロースゲ
ルにて電気泳動し、目的産物のバンドを切り出し精製した。精製したDNAはBioanalyzer(Agilent)を用いて精製産物のピークと濃度を確認した。エマルジョンPCRとライブラリービーズの回収はIon PGM Template OT2 400 Kit(ThermoFisher Scientific)を用
い、シークエンスはIon PGM Sequencing 400 Kit (ThermoFisher Scientific)とIon 318 Chip V2(ThermoFisher Scientific)を用いた。いずれもThermoFisher Scientificの
プロトコールに従って行った。シークエンスはIon PGM System(ThermoFisher Scientific)を用いて行った。
(シークエンスデータの解析方法)
Ion PGMのシークエンスデータはfastq形式で取得し、Qiimeソフトウェアー(Caporaso,
J. G., et al., Bioinformatics, 2010, 26:266-267)を用いて解析した。出力された配列データより、バーコード、フォワードプライマー、リバースプライマー配列部位のミスマッチが無く、かつ平均のクオリティースコアが20以上の配列を抽出した。抽出した配列は、uclust方法(Edgar, R. C., Bioinformatics, 2010, 26:2460-2461)とfarthest neighbor アルゴリズムを用いて97%の相同性となるようにoperational taxonomic units(OTUs)にクラスター化した。各OTUの内、最も頻度の高い配列を代表配列として抽出した。代表配列はPyNASTアルゴリズム(Caporaso, J. G., et al., Bioinformatics, 2010,
26:266-267)を用いてアライメントした。キメラ配列はChimeraSlayerアルゴリズムを用いて確認し、解析に用いる配列から削除した。配列の系統分類はRDP classifier(Wang, Q., et al., Appl. Environ. Microbiol., 2007, 73: 5261-5267)を用い、confidence cutoff値を80に設定して行った。
・統計解析
TNF-αの測定値についての試験食群とプラセボ群の比較はSAS 9.3(SAS Institute
Inc.)によるスチューデントのt検定(Student’s t-test)あるいはウィルコクソンの順位和検定(Wilcoxon rank-sum test)で実施し、各群内の摂取前後の結果の比較は対応のあるt検定(paired t-test)で実施した。糞便菌叢の検出菌群の相対存在量の比較はSPSS(IBM)を用いてKolmogorov-Smirnov の正規性検定を行い、正規分布が否定された菌
群の独立2群比較についてはマン・ホイットニーのU検定、各群内の摂取前後の結果の比
較についてはウィルコクソンの符号順位検定を行った。正規分布している菌群の独立2群比較は、F検定後、スチューデントのt検定、あるいはウェルチのt検定にて解析し、各群内の摂取前後の結果の比較は対応のあるt検定(paired t-test)で実施した。
【0042】
結果
・血清TNF-α、BMI、γ-GTP
摂取12週目の群間比較及び摂取前後の比較を行い、数値は平均値±標準誤差で表した。
【0043】
血清TNF-αは、試験食群では、摂取前0.962±0.094pg/ml、摂取後0.722±0.070pg/mlと有意な減少(p<0.01)が認められたのに対し、プラセボ群では摂取前0.997±0.124pg/ml、摂取後0.873±0.133pg/mlで有意な変化は認められなかった。
【0044】
TNF-αが試験食群で有意に減少したことは、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスが、動脈硬化予備軍の動脈硬化症への進行を抑制する効果を有していることを示している。プロバイオティクス投与による動脈硬化予備軍に対する抗炎症効果はこれまでに報告がない。
【0045】
BMI値の変動は、摂取12週後において試験食群0.26±0.17減少したのに対し、プラセボ群は0.22±0.09の増加と有意差が認められた(p<0.05)。血中γ-GTPの変動は、摂取12週後において試験食群0.82±2.31U/L減少したのに対し、プラセボ群は14.9±7.15U/Lの増加と有意差が認められた(p<0.05)。
【0046】
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスの摂取によりBMI値、血中γ-GTPが減少したことは、間接的に動脈硬化への発展を抑制することにつながる。
・糞便菌叢の変化
動脈硬化症と腸内菌叢に関する研究は少ないが、最近、食事由来フォスファチジルコリン、コリンやカルニチンが腸内常在菌によりトリメチルアミン(TMA)に変換され吸収後
、肝臓でトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)に変換され、このTMAOがアテローム性動脈硬化を促進することが注目されている(Wang, Z., et al., Nature, 2011, 472: 57-63;Koeth, R. A., et al., Nat. Med., 2013, 19:576-585)。このコリンからTMAへの変換は、コリンが炭素-窒素結合(C-N bond)切断によりTMAとアセトアルデヒドが生じる
反応に起因し、それに関与しているcholine utilization(cut)遺伝子クラスターがデスルフォビブリオ・デスルフリカンス(Desulfovibrio desulfuricans)ゲノムから発見さ
れている(Craciun, S. and Balskus, E. P., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, 2012, 109:21307-21312)。この遺伝子と相同性が高い遺伝子を有する可能性があるとリストアッ
プされた菌(Craciun, S. and Balskus, E. P., 同上)と本実験で変動した腸内細菌を比較した。その結果、試験12週目に試験食群がプラセボ群と比較し有意に低くかったクロストリジア(Clostridia)綱およびクロストリジアレス(Clostridiales)目(共に試験
食群66.6%、プラセボ群77.5%、p<0.01)に属する細菌が24菌種、ラクノスピラセアエ(Lachnospiraceae)科(試験食群53.7%、プラセボ群60.9%、
p<0.05)に属する細菌が4菌種含まれていた。また、試験期間中にプラセボ群でのみ有意に増加した(試験前0.07%、12週目0.47%)クロストリジウム(Clostridium)(ハンガテラ(Hungatella)含む)属(クロストリジアセアエ(Clostridiaceae
)科)に属する6菌種、有意差は認められなかったが試験期間中に試験食群で減少傾向を示したクレブシエラ(Klebsiella)属の細菌が6菌種含まれていた。
【0047】
これらの結果は、平均約2000 kcal/日以上の生活をしている被験者は12週間の試験
期間中においてもプラセボ群はTMAを産生し易い菌叢に変化しているのに対し、同様の食
事をしていてもプロバイオティクス微生物摂取がコリンからTMAへの変換に関与する腸内
細菌の増加を抑えたことを示している。
【0048】
同様に、カルニチンからTMAが合成される腸内細菌の研究も始まっており、Rieske-type
oxygenase/reductase(CntAB)およびその関連遺伝子を有する菌グループの関連が示唆
されている(Zhu, Y., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, 2014, 111:4268-4273)。これらの遺伝子を有していると推測される菌として本実験の被験者からも検出されたガンマプロバクテリア(Gammaproteobacteria)綱に属するクレブシエラ(Klebsiella)属、エシェ
リキア(Escherichia)属、シトロバクター(Citrobacter)属等が挙げられており、この内クレブシエラ属に関しては、プラセボ群では有意な変動が無かったが試験食群で減少傾向(p=0.087)が示された。この結果は、プロバイオティクス摂取はカルニチンからのTMA合成に関与する腸内細菌の増加を抑えたことを示している。
【0049】
したがって、プロバイオティクス微生物の摂取は、アテローム性動脈硬化症と関連がある腸内菌叢の改善に有用である。
【0050】
実施例2
実験方法
・被験者
40歳以上75歳以下でBMIが25.0付近である成人(性別は問わない)を公募した。募集期間中に集まった46名の被験者候補を対象に、試験開始2週間前に前観察期を設け、EndoPAT値および血液生化学的検査を行い、医師が動脈硬化予備軍と判定した40
名(男性21名、女性19名、平均年齢49.3歳)を被験者として登録した。登録された被験者はプロトコルに従い、割付責任者が試験前に無作為に試験食群20名、プラセボ群20名に群分けした。
・試験食
試験食は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)生菌粉末(約6×109cfu/包×1包)とアルギニン錠剤(100mg/錠×3錠)を1セットとし、1日に2回、朝・夕食後に8週間摂取した。プラセボ用粉末は賦形剤のみで作製し、プラセボ用錠剤はアルギニンの代わりにデンプンを用いた。
・試験スケジュール
摂取期間8週間の無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施した。摂取直前および摂取8週後に、EndoPATにて血管内皮機能の測定を行った。なお、試験期間2週間前から終了
時まで、乳酸菌およびビフィズス菌を含むヨーグルト、乳酸菌飲料、およびサプリメント、また腸内菌叢解析結果に著しい影響を及ぼす納豆の摂取は禁止したが、その他の食事は制限しなかった。
・EndoPATを用いた血管内皮機能の測定
血管内皮細胞は血管の収縮・拡張を調節するほか、血小板の粘着、凝集を抑制し血管の保護をしている。この作用を血管内皮機能と表現し、本試験では、この内皮細胞が健康な状態に保たれているかをEndoPATで検査した。
【0051】
EndoPAT測定は、摂取直前および8週目に実施した。被験者は、試験前日は午後9時に食
事を終え、試験当日は朝食抜きの状態で測定に臨んだ。被験者は横になり、両手は体側に伸ばした状態で、両手の指にプローブを装着した。5分間の安静ののち、片腕を5分間駆血し、その後、駆血を外し、5分間動脈の拡張機能を測定した。左右の指尖脈は同時計測により駆血解放前と解放後の動脈血液量を求め、その比を動脈の血管内皮機能(RHI:反
応性充血指数)として評価した。測定にはイタマー・メディカル・ジャパン株式会社製EndoPAT(登録商標)2000(医療機器承認番号22500BZI00008000)を用いた。
【0052】
結果
試験食群の血管内皮機能(EndoPAT測定値)は、試験前1.644±0.393 RH
I、試験後1.976±0.528 RHIと有意な上昇(p=0.01、1標本Wilcoxon検定)を示したのに対し、プラセボ群は、試験前1.517±0.389 RHI、試
験後1.683±0.0.340 RHIとなり有意差は認められなかった。すなわち、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスとアルギニンの併用摂取により、血管内皮機能が向上することが確認された。
【0053】
実施例3
実験方法
・被験者
30歳以上65歳以下でBMIが30未満である成人(性別は問わない)を公募した。募集期間中に集まった44名の被験者(男性21名、女性23名、平均年齢44.2歳)を対象に実施した。登録された被験者はプロトコルに従い、割付責任者が試験前に無作為に試験食群22名、プラセボ群22名に群分けした。
・試験食
試験食は、通常の乳酸菌で発酵させたヨーグルトにビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)とアルギニンを添加したヨーグルト100g(LKM512数:約1×1010cfu/カップ、アルギ
ニン:600 mg/カップ)(以後、LKM512&Argヨーグルト)とし、毎日昼
食後に1カップを12週間摂取した。プラセボはLKM512とアルギニンを除いた通常
ヨーグルトを用いた。
・試験スケジュール
摂取期間12週間の無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施した。その結果、試験食群は男性10名、女性12名、平均年齢44.2歳、プラセボ群は男性11名、女性11名、平均年齢44.2歳となった。摂取直前および摂取12週後に、EndoPATにて血管内
皮機能の測定を行った。なお、試験期間2週間前から終了時まで、乳酸菌およびビフィズス菌を含むヨーグルト、乳酸菌飲料、およびサプリメント、また腸内菌叢解析結果に著しい影響を及ぼす納豆の摂取は禁止したが、その他の食事は制限しなかった。
・EndoPATを用いた血管内皮機能の測定
実施例2と同様にEndoPATにより血管内皮機能を測定した。EndoPAT測定は、摂取直前および12週目に実施した。
・糞便中ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス菌数の定量
試験最終週に回収した糞便より、細菌由来DNAをMatsukiら(Matsuki, T., et al., Appl. Environ. Microbiol, 2004, 70:7220-7228)の方法の一部を改変して行った。改変点は、菌体破砕をMicro Smash MS-100 (トミー精工)を用い、菌体抽出DNAの回収をエタ沈メイト(Takara)で実施し、冷70%エタノール(1 ml)を用いて2回の遠心洗浄(15000×g、5分間)後、風乾した点である。ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスの定量は、Matsumotoら(Matsumoto, M., et al., Microbiology and Immunology,
2009, 53:421-432)の本菌種特異的プライマーを用いたStepOne Realtime PCR systemで定量した。
【0054】
結果
摂取前の中性脂肪値が低過ぎると医師が判断した3名と試験最終週の糞便中のビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス菌数でプロトコル違反と判断された6名の合計9名(試験食群4名、プラセボ群5名)を除去して層別解析を行った。その結果、EndoPAT測定値の摂取前後の差(摂取後から摂取前の値を引いた値)において、試験食群(0.
31±0.51)がプラセボ群(-0.17±0.79)より有意に(p < 0.05)
高い値を示した。すなわち、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスとアルギニンの併用摂取により、血管内皮機能が向上することが確認された。
【0055】
血管内皮機能が低下した状態が続くと、将来的に、動脈硬化が進行し心筋梗塞や脳卒中などを発症するリスクが高くなることから、実施例2および3の結果は、プロバイオティクス微生物とアルギニンの併用摂取は動脈硬化の進行、さらに心筋梗塞や脳卒中の予防に
繋がることを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のプロバイオティクス組成物は、血管内皮機能を維持および/または改善する、または炎症を低減および/または改善するものであり、ひいては動脈硬化症の予防において有用である。