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特許7246522コーティングプロバイオティクスおよびこれを含む食品組成物、その製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】コーティングプロバイオティクスおよびこれを含む食品組成物、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20230317BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20230317BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20230317BHJP
   C12R 1/225 20060101ALN20230317BHJP
   C12R 1/46 20060101ALN20230317BHJP
【FI】
A23L33/135
C12N1/04
C12N1/20 C
C12R1:225
C12R1:46
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021564712
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-10
(86)【国際出願番号】 KR2021007036
(87)【国際公開番号】W WO2022092472
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】10-2020-0141940
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521474775
【氏名又は名称】エイチワイ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ウン・チョン
(72)【発明者】
【氏名】スン・フィ・チョン
(72)【発明者】
【氏名】ゴン・ホ
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・ジュン・シム
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ヨル・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・ホン・シム
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107156587(CN,A)
【文献】特表2013-505257(JP,A)
【文献】特表2018-537114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
C12N 1/00- 1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/AGRICOLA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロバイオティクス;および
牛乳由来リン脂質およびアロエベラゲルからなるコーティング物質
を含むコーティングプロバイオティクス。
【請求項2】
前記プロバイオティクスは、ラクトバチルス属(Lactobacillus)菌株、ラクトコッカス属(Lactococcus)菌株、エンテロコッカス属(Enterococcus)菌株、およびストレプトコッカス属(Streptococcus)菌株、並びにビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)菌株からなる群より選択された1種以上である、請求項1に記載のコーティングプロバイオティクス。
【請求項3】
前記コーティング物質は、アロエベラゲルと牛乳由来リン脂質とを1:0.1~2の重量比で混合されたものである、請求項1に記載のコーティングプロバイオティクス。
【請求項4】
前記コーティングプロバイオティクスは、プロバイオティクス30~99重量部、およびコーティング物質0.005~5重量部を含むものである、請求項1に記載のコーティングプロバイオティクス。
【請求項5】
前記コーティングプロバイオティクスは、凍結保護剤をさらに含むものである、請求項1に記載のコーティングプロバイオティクス。
【請求項6】
請求項1に記載のコーティングプロバイオティクスを含む食品組成物。
【請求項7】
a)プロバイオティクスを牛乳由来リン脂質およびアロエベラゲルからなるコーティング物質と混合して混合物を用意するステップと、
b)前記混合物を凍結乾燥するステップと
を含むコーティングプロバイオティクスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング物質として牛乳由来リン脂質およびアロエベラゲルを用いることで、耐酸性、耐胆汁性、胃腸管生存性、冷蔵および常温保存安定性が向上したコーティングプロバイオティクスおよびこれを含む食品組成物、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌(lactic acid bacteria)はラクト酸菌ともいい、グルコースなどの糖類を分解して乳酸を生成するグラム陽性細菌で、人間や哺乳動物の消化管、口腔、膣などで発見される。乳酸菌は人類が最も長い間広範囲に活用している微生物の一つであって、人間や動物の腸に有害な物質を生成せず、腸内で有害菌による異常発酵を防止して整腸剤としても有用に用いられている。
【0003】
一方、プロバイオティクス(probiotics)は、体内に入って健康に良い効果を与える生きた菌であり、現在まで知られた大部分のプロバイオティクスは乳酸菌を含む。プロバイオティクスを含むヒトの腸内微生物がヒトの健康に重要な影響を及ぼすという研究結果および科学性資料が増えるにつれ、プロバイオティクスに対する消費者の認識がさらに拡大し、それによってプロバイオティクス製品の需要が次第に増加している。現在、韓国食品医薬品安全処で登載したLactobacillus11種(L.acidophilus、L.casei、L.gasseri、L.delbruekii subsp.bulgaricus、L.helveticus、L.fermentum、L.paracasei、L.plantarum、L.reuteri、L.rhamnosus、L.salivarius)と、Lactococcus1種(Lc.lactis)、Enterococcus2種(E.faecium、E.faecalis)、Streptococcus1種(S.thermophilus)、Bifidobacterium4種(B.bifidum、B.breve、B.longum、B.animalis subsp.lactis)を含む19種の菌についてプロバイオティクスとして告示しており、多くの企業体がプロバイオティクスを研究し、関連製品を生産、販売している。代表的なプロバイオティクスの機能性としては、有害菌抑制、乳酸菌増殖、円滑な排便活動に役立つという機能性のほか、数多くの研究と臨床結果によれば、整腸作用、過敏性腸症候群、アトピー、便秘、女性疾患などへの多様な効能をもっている。しかし、このようなプロバイオティクスも菌自体がタンパク質で構成されているため、体内への投入時、胃酸および胆汁酸によって細胞膜が損傷することによってプロバイオティクスの本来の機能性を発揮できずにいる。
【0004】
このような問題点を克服すべく、現在プロバイオティクスを生産する業界では、高濃度の菌株を含んだり、3~4種類以上の追加的な工程によりコーティングされた菌株を用いた製品を生産している(韓国登録特許第10-2048690号および第10-1918089号)。しかし、高濃度の菌株を含む製品は、製品の価格上昇で消費者に大きな負担を与えるだけでなく、1日摂取量以上の生菌を摂取すれば副作用が起こりうる問題点がある。また、複合工程による菌株コーティング技術は、高価な設備とコーティング剤によって製品の単価上昇につながり、追加的な工程が加えられることによってプロバイオティクスの安定性を確保しにくいというデメリットもある。そのため、プロバイオティクスの安定性向上のためには依然として多くの研究が必要なのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国登録特許第10-2048690号
【文献】韓国登録特許第10-1918089号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐酸性、耐胆汁性、胃腸管生存性、冷蔵および常温保存安定性が向上したコーティングプロバイオティクスを提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、前記コーティングプロバイオティクスを含む食品組成物を提供することを目的とする。
【0008】
さらに、本発明は、前記コーティングプロバイオティクスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、高価なコーティング剤および複合工程使用、高濃度のプロバイオティクス使用などの従来の問題点を解決するために、経済的でかつ高難度技術および高価な装備を要求しない新たなプロバイオティクス安定性向上技術を研究した結果、プロバイオティクスのコーティング剤として牛乳由来リン脂質およびアロエベラゲルを含む新規なコーティングプロバイオティクスを開発して、本発明を完成した。
【0010】
本発明の一態様は、プロバイオティクス;および牛乳由来リン脂質およびアロエベラゲルからなるコーティング物質を含むコーティングプロバイオティクスを提供する。
【0011】
本発明で使用された「プロバイオティクス」は、体内に入って健康に良い効果を与える生きた菌を意味し、より広い意味では死菌までを含む。
【0012】
本発明の一具体例によれば、前記プロバイオティクスは、ラクトバチルス属(Lactobacillus)菌株、ラクトコッカス属(Lactococcus)菌株、エンテロコッカス属(Enterococcus)菌株、およびストレプトコッカス属(Streptococcus)菌株、並びにビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)菌株からなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0013】
より具体的には、前記プロバイオティクスは、ラクトバチルスアシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルスカゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルスガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルスデルブルエッキイブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii ssp.bulgaricus)、ラクトバチルスヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルスファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルスプランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルスラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルスサリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトコッカスラクチス(Lactococcus lactis)、エンテロコッカスフェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカスフェカリス(Enterococcus faecalis)、ストレプトコッカスサーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ビフィドバクテリウムビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウムブレーべ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウムロンガム(Bifidobacterium longum)およびビフィドバクテリウムアニマリスラクチス(Bifidobacterium animalis ssp.lactis)からなる群より選択された1種以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0014】
本発明で使用された「コーティング」は、プロバイオティクスの表面にコーティング物質で膜を覆ってプロバイオティクスまたはプロバイオティクスの表面を外部環境から保護することを意味する。コーティング方法は、大きく物理蒸着方法と化学蒸着方法とに分けられ、プロバイオティクス、コーティング物質などによって当業界にて公知のコーティング方法および条件が制限なく適用可能である。
【0015】
前記コーティング物質は、プロバイオティクスに耐酸性、耐胆汁性、胃腸管生存性、冷蔵および常温保存安定性などを付与できる物質であれば制限なく使用可能であり、一例としては、リン脂質、多糖体、タンパク質などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0016】
本発明の一具体例によれば、前記コーティング物質は、牛乳由来リン脂質およびアロエベラゲルからなるものであってもよい。
【0017】
前記牛乳由来リン脂質は、乳脂肪から抽出されたリン脂質であって、ホスファチジルコリン(Phosphatidylcholine、PC)、ホスファチジルエタノールアミン(Phosphatidylethanolamine、PE)、ホスファチジルイノシトール(Phosphatidylinositol、PI)、ホスファチジン酸(Phosphatidic acid、PA)、ホスファチジルセリン(Phosphatidylserine、PS)、スフィンゴミエリン(Sphingomyelin、SPM)などを含み、特に、大豆由来リン脂質や卵黄由来リン脂質、魚類由来リン脂質に微量含有されているホスファチジルセリンとスフィンゴミエリンを多量含有することを特徴とする(表3参照)。前記ホスファチジルセリンはpH2まで耐えられて耐酸性に優れ、前記スフィンゴミエリンはリン脂質二重層の安定性を向上させるので、このようなホスファチジルセリンおよびスフィンゴミエリンを多量含有する牛乳由来リン脂質は、プロバイオティクスの安定性向上に寄与することができる。
【0018】
本発明の一具体例によれば、前記牛乳由来リン脂質は、全体重量に対して、ホスファチジルセリン5%以上、好ましくは5~20%、およびスフィンゴミエリン20%以上、好ましくは20~30%を含むものであってもよい。
【0019】
本発明の一実施例によれば、プロバイオティクスの安定性向上のために、リン脂質として牛乳由来リン脂質、大豆由来リン脂質および卵黄由来リン脂質を用いてプロバイオティクスをコーティングした結果、牛乳由来リン脂質でコーティングされたプロバイオティクスが、大豆由来リン脂質または卵黄由来リン脂質でコーティングされたプロバイオティクスに比べて、45℃の苛酷条件と消化管条件で生存率が高く維持されることを確認した。
【0020】
前記アロエベラゲルは、アロエベラ(Aloe vera)から分離されたゲル(gel)であって、多様なビタミン、無機質、酵素、脂肪酸、多糖体などを含み、アロエ全葉(whole leaf)とは成分が異なることが知られている。食用アロエの種類としては、アロエベラ、アロエアルボレッセンス(Aloe arborescens)、アロエサポナリア(Aloe saponaria Haw.)があるが、アロエゲルは葉の大きいアロエベラからのみ得られることが知られている。このようなアロエベラゲルは、特に食品保存期間の保存および向上に効果があることが知られていて、主に食品添加物として使用されているが、乳酸菌の成長および保存性、生存率との関連性については多くの研究がなされていなかった。
【0021】
本発明の一具体例によれば、前記アロエベラゲルは、固形分中、多糖体30mg/g以上、好ましくは30~300mg/gを含み、アントラキノン系化合物(無水バルバロインとして)0.005%以下、好ましくは0.005~0.0005%を含有するものであってもよい。
【0022】
本発明の一実施例によれば、アロエベラゲルとアロエベラ全葉、従来の乳酸菌またはプロバイオティクスコーティング用多糖体(キサンタンガム、ローカストビーンガムおよびアラビアガム)を用いてプロバイオティクスの安定性を比較した結果、アロエベラゲルでコーティングされたプロバイオティクスが、アロエベラ全葉、キサンタンガム、ローカストビーンガムまたはアラビアガムでコーティングされたプロバイオティクスに比べて、45℃の苛酷条件で生存率が高く維持されることを確認した。
【0023】
本発明の一具体例によれば、前記コーティング物質は、アロエベラゲルと牛乳由来リン脂質とを1:0.1~2の重量比で混合されたものであってもよい。
【0024】
例えば、アロエベラゲルと牛乳由来リン脂質との混合比率は、1:0.1~2、1:0.1~1.5、1:0.1~1、1:0.1~0.5、1:0.5~2、1:0.5~1.5、1:0.5~1、1:1~2、1:1~1.5、1:1.5~2、または1:1の重量比であってもよいし、プロバイオティクスの安定性向上のために、アロエベラゲルと牛乳由来リン脂質とを1:1の重量比で混合使用することが好ましい。
【0025】
本発明の一具体例によれば、前記コーティングプロバイオティクスは、プロバイオティクス30~99重量部、およびコーティング物質0.005~5重量部を含むものであってもよい。
【0026】
この時、コーティング物質が0.005重量部未満の場合には、プロバイオティクスまたはプロバイオティクスの表面を十分にコーティングできないので、プロバイオティクスの安定性向上を期待することができず、5重量部を超える場合には、消化器官に負担を与えて、胃腸管痙攣および痛み、消化不良、下痢、炎症などの副作用が発生しうる。
【0027】
本発明の一実施例によれば、コーティング物質として牛乳由来リン脂質とアロエベラゲルとを1:1の重量比で混合してプロバイオティクスをコーティングした結果、牛乳由来リン脂質およびアロエベラゲルで複合コーティングされたプロバイオティクスが、牛乳由来リン脂質またはアロエベラゲルで単独コーティングされたプロバイオティクスに比べて、消化管条件と冷蔵、常温および加速条件で生存率が高く維持されることを確認した。
【0028】
本発明の一実施例によれば、コーティング物質として牛乳由来リン脂質およびアロエベラゲルで複合コーティングされたプロバイオティクスの生存率は、コーティング前のプロバイオティクスに比べて増加したもので、例えば、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%以上増加したものであってもよい。
【0029】
このようなコーティングプロバイオティクスは、凍結乾燥過程により-10℃以下の温度で乾燥させて粉末化して保存期間を増やすことができる。
【0030】
本発明の一具体例によれば、前記コーティングプロバイオティクスは、凍結保護剤をさらに含むものであってもよい。
【0031】
前記凍結保護剤は、当業界にて公知の凍結保護剤の成分を制限なく使用可能であり、一例としては、脱脂粉乳、フラクトオリゴ糖、トレハロース(trehalose)、マルトデキストリン(maltodextrin)、グリセリン(glycerin)などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明の一具体例によれば、前記プロバイオティクス、コーティング物質および凍結保護剤を含むコーティングプロバイオティクスは、凍結保護剤100重量部に対して、コーティング物質0.1~10重量部を含むものであってもよい。
【0033】
例えば、コーティング物質は、凍結保護剤100重量部に対して、0.1~10重量部、0.1~5重量部、0.1~1重量部、0.1~0.5重量部、0.5~10重量部、0.5~5重量部、0.5~1重量部、1~10重量部、1~5重量部、または5~10重量部であってもよい。
【0034】
本発明の一具体例によれば、前記プロバイオティクス、コーティング物質および凍結保護剤を含むコーティングプロバイオティクスは、プロバイオティクス30~99重量部、および凍結保護剤およびコーティング物質を含む混合物1~70重量部を含むものであってもよい。
【0035】
この時、凍結保護剤およびコーティング物質を含む混合物が1重量部未満の場合には、プロバイオティクスの凍結条件および保存条件に対する安定性を期待することができず、70重量部を超える場合には、プロバイオティクスの腸内定着および増殖を阻害したり、消化器官に負担を与えて、胃腸管痙攣および痛み、消化不良、下痢、炎症などの副作用が発生しうる。
【0036】
また、本発明の他の態様は、前記コーティングプロバイオティクスを含む食品組成物を提供する。
【0037】
前記食品組成物は、食品、食品添加剤、飲料、飲料添加剤、発酵乳、健康機能食品などに使用できる。食品、食品添加剤、飲料、飲料添加剤、または健康機能食品に使用される場合、各種食品類、発酵乳、肉類、飲料水、チョコレート、スナック類、お菓子類、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム類、アイスクリーム類、アルコール飲料、ビタミン複合剤、酒類またはその他の健康機能食品の剤形として提供できるが、これに限定されるものではない。本発明の一具体例によれば、前記食品組成物は、発酵乳、機能性飲料および健康機能食品からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0038】
本発明による食品組成物は、有効成分として、コーティングプロバイオティクスのほか、食品の製造時に通常添加される成分を含むことができ、例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪、栄養素、調味剤および香味剤を含むことができる。炭水化物の例は、モノサッカライド(例えば、ブドウ糖、果糖など)、ジサッカライド(例えば、マルトース、スクロース、オリゴ糖など)およびポリサッカライド(例えば、デキストリン、シクロデキストリンなど)などのような通常の糖、およびキシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールであってもよい。香味剤として、天然香味剤[タウマチン、ステビア抽出物(例えば、レバウジオシドA、グリチルリチンなど)]および合成香味剤(例えば、サッカリン、アスパルテームなど)を使用することができる。
【0039】
また、本発明の食品組成物は、様々な営養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成風味剤および天然風味剤などの風味剤、着色剤および充填剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸およびその塩、アルギン酸およびその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含有することができる。このような成分は、独立してまたは組み合わせて使用することができ、このような添加剤の比率は、本発明の食品組成物100重量部あたり、0~約20重量部の範囲から選択できるが、これに限定されるものではない。
【0040】
さらに、本発明の他の態様は、前記コーティングプロバイオティクスの製造方法を提供する。より具体的には、前記コーティングプロバイオティクスの製造方法は、a)プロバイオティクスを牛乳由来リン脂質およびアロエベラゲルからなるコーティング物質と混合して混合物を用意するステップと、b)前記混合物を凍結乾燥するステップとを含むものであってもよい。
【0041】
前記a)ステップは、プロバイオティクス菌株とコーティング物質とを混合する過程である。
【0042】
前記プロバイオティクスおよびコーティング物質に関する説明は前述したものと同じであるので、重複説明を避けるために省略する。
【0043】
本発明の一具体例によれば、前記a)ステップのプロバイオティクスは、ラクトバチルス属(Lactobacillus)菌株、ラクトコッカス属(Lactococcus)菌株、エンテロコッカス属(Enterococcus)菌株、およびストレプトコッカス属(Streptococcus)菌株、並びにビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)菌株からなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0044】
本発明の一具体例によれば、前記a)ステップのコーティング物質は、アロエベラゲルと牛乳由来リン脂質とを1:0.1~2の重量比で混合されたものであってもよい。
【0045】
本発明の一具体例によれば、前記a)ステップの混合物は、プロバイオティクス30~99重量部、およびコーティング物質0.005~5重量部を含むものであってもよい。
【0046】
このようなプロバイオティクスとコーティング物質とを含む混合物は、後のステップで凍結乾燥する時、低温の条件でプロバイオティクス菌株または菌株の活性を保護するために、凍結保護剤をさらに含むことができる。
【0047】
本発明の一具体例によれば、前記a)ステップの混合物は、凍結保護剤をさらに含むものであってもよい。
【0048】
前記凍結保護剤に関する説明は前述したものと同じであるので、重複説明を避けるために省略する。
【0049】
このようなプロバイオティクスおよびコーティング物質、またはプロバイオティクス、コーティング物質および凍結保護剤の混合は、当業界にて公知の混合装置を制限なく用いて均一に混合可能であり、一例としては、均質機、超音波器などを用いることができる。
【0050】
前記b)ステップは、プロバイオティクスとコーティング物質とが混合された混合物を乾燥、粉末化するために凍結乾燥する過程である。
【0051】
前記凍結乾燥は、当業界にて公知の凍結乾燥方法を制限なく利用可能であり、この時、凍結乾燥の温度および時間の条件は、混合物の濃度、量などに応じて調節可能である。
【0052】
本発明の一具体例によれば、前記b)ステップは、混合物を急速凍結条件(-40℃以下)で4~24時間前後に維持した後、凍結乾燥機で解凍しながら水分を除去するものであってもよい。
【0053】
例えば、凍結乾燥の温度条件は、-40~-70℃、-40~-75℃、-40~-80℃、-45~-70℃、-45~-75℃、-45~-80℃、-50~-70℃、-50~-75℃、-50~-75℃、または-50~-80℃であってもよいし、凍結乾燥の時間の条件は、12~24時間、10~22時間、8~20時間、6~18時間、4~16時間、4~14時間、または4~12時間であってもよい。
【発明の効果】
【0054】
本発明によるコーティングプロバイオティクスは、コーティング物質としてアロエベラゲルおよび牛乳由来リン脂質を含むことにより、プロバイオティクス自体の凍結乾燥安定性、保存安定性など外部環境のストレスに対する安定性が増加するだけでなく、プロバイオティクスの摂取時、腸管環境安定性の指標である耐酸性、耐胆汁性が著しく向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明をより詳細に説明する。しかし、このような説明は本発明の理解のために例示的に提示されたものに過ぎず、本発明の範囲がこのような例示的な説明によって制限されるわけではない。
【0056】
実施例1.コーティングプロバイオティクスの製造-リン脂質の種類の差
本実施例で使用されたプロバイオティクスの種類は下記表1の通りであり、凍結保護剤の組成は下記表2の通りである。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
プロバイオティクスは、当業界の菌株培養マニュアルに従って各菌株に合った食用培地で培養して用意した。培養された培地を8,000rpm、15分間遠心分離後、菌株のみ獲得して、菌株、凍結保護剤およびコーティング剤を混合し、急速凍結条件(-40℃以下)で4~24時間前後に維持した後、凍結乾燥してプロバイオティクス粉末を製造した。コーティング剤としては、凍結保護剤に牛乳由来リン脂質1%、大豆由来リン脂質1%または卵黄由来リン脂質1%を混合して使用し、各菌株90重量部と、凍結保護剤およびコーティング剤混合物10重量部とを混合した。対照群としては、コーティング剤なしに菌株および凍結保護剤を混合してプロバイオティクス粉末を製造した。
【0060】
前記牛乳由来リン脂質、大豆由来リン脂質および卵黄由来リン脂質の組成は下記表3の通りである。
【0061】
【表3】
【0062】
1-1.コーティングプロバイオティクスの生存率の測定-加速実験
製造されたプロバイオティクス粉末は個別包装して45℃での加速実験により生存率を測定し、プロバイオティクス粉末の菌株生存率は、凍結乾燥しない菌数と比較して表4に示した。
【0063】
【表4】
【0064】
前記表4に示すように、食品に適用可能なリン脂質を用いてリン脂質の種類による菌株の生存率の差を比較した結果、コーティング剤として大豆由来リン脂質または卵黄由来リン脂質を用いた場合には、コーティング剤を用いずに凍結乾燥した場合(無処理)と生存率が類似の水準であったが、牛乳由来リン脂質を用いた場合には、コーティング剤を用いなかったり、大豆由来リン脂質または卵黄由来リン脂質を用いた場合に比べて生存率が増加したことが確認された。
【0065】
1-2.コーティングプロバイオティクスの消化管生存率の測定
製造されたプロバイオティクス粉末は最終濃度が1×10cfu/mlとなるようにPBS(phosphate buffer saline)に溶解して試料を用意した。
【0066】
M.Minekus et al.(Food Funct.2014(5):1113-1124)などの論文を参照して、消化モデルに使用される電解質溶液を製造し、電解質溶液の組成は下記表5の通りである。
【0067】
【表5】
【0068】
口腔段階では、用意された試料にSSF電解質溶液、人体由来唾液のα-amylaseを添加して37℃で2分間反応後、SGF電解質溶液とブタ由来ペプシンを添加してpH3.0に調節し、37℃で2時間反応した。小腸段階では、先に消化した試料にブタ由来パンクレアチン、胆汁酸を添加してpH7.0に調節した後、37℃で2時間反応した。最後の吸収段階では、先に消化した試料に刷子縁膜小胞(Brush Border Membrane Vesicles)を添加してpH7.0に調節した後、37℃で4時間反応した。すべての消化吸収過程を経た後に残存するプロバイオティクス菌数は通常の乳酸菌生菌数の測定方法によって生菌数を分析し、菌株の消化管生存率は消化吸収前の初期菌数と比較して生存率(%)で表現し、その結果は下記表6に示した。
【0069】
【表6】
【0070】
前記表6に示すように、大豆由来リン脂質または卵黄由来リン脂質を用いた場合には、コーティング剤を用いずに凍結乾燥した場合(無処理)と生存率が類似の水準であったが、牛乳由来リン脂質を用いた場合には、コーティング剤を用いなかったり、大豆由来リン脂質または卵黄由来リン脂質を用いた場合に比べて生存率が増加したことが確認された。
【0071】
2.コーティングプロバイオティクスの製造-多糖体の種類の差
コーティング剤として、牛乳由来リン脂質、大豆由来リン脂質または卵黄由来リン脂質の代わりに、アロエベラ全葉、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アラビアガムまたはアロエベラゲル1%を用いたことを除けば、実施例1と同様の方法でコーティングプロバイオティクスを製造した。
【0072】
前記アロエベラ全葉は、アロエベラ(Aloe vera)から非可食部位(刺など)を除去した後、乾燥、粉末化して製造されたもので、健康機能食品の基準規格により、アントラキノン系化合物(無水バルバロインとして)を2.0~50.0mg/g含有する。
【0073】
前記アロエベラゲルは、アロエベラ(Aloe vera)から非可食部位、外皮を除去した後、ゲル(gel)のみを分離して乾燥、粉末化して製造されたもので、健康機能食品の基準規格により、固形分中、多糖体を30mg/g以上含有し、アントラキノン系化合物(無水バルバロインとして)を0.005%以下含有する。
【0074】
2-1.コーティングプロバイオティクスの生存率の測定-加速実験
実施例1-1の加速実験と同様の方法でプロバイオティクス粉末の菌株生存率を測定し、その結果を表7に示した。
【0075】
【表7】
【0076】
前記表7に示すように、食品に適用可能な多糖体を用いて多糖体の種類による菌株の生存率の差を比較した結果、コーティング剤としてアロエベラ全葉、キサンタンガム、ローカストビーンガムまたはアラビアガムを用いた場合には、コーティング剤を用いずに凍結乾燥した場合(無処理)と生存率が類似の水準であったが、アロエベラゲルを用いた場合には、コーティング剤を用いなかったり、アロエベラ全葉、キサンタンガム、ローカストビーンガムまたはアラビアガムを用いた場合に比べて生存率がはるかに増加したことが確認された。
【0077】
実施例3.コーティングプロバイオティクスの製造
実施例1および2でプロバイオティクスの高い生存率を示した牛乳由来リン脂質とアロエベラゲルとを混合使用して単独使用と菌株生存率を比較した。
【0078】
コーティング剤として、牛乳由来リン脂質、大豆由来リン脂質または卵黄由来リン脂質の代わりに、複合物1%(牛乳由来リン脂質0.5%およびアロエベラゲル0.5%)を用いたことを除けば、実施例1と同様の方法でプロバイオティクス粉末を製造した。
【0079】
3-1.コーティングプロバイオティクスの生存率の測定-加速実験
実施例1-1の加速実験と同様の方法でプロバイオティクス粉末の菌株生存率を測定し、その結果を表8に示した。
【0080】
【表8】
【0081】
前記表8に示すように、コーティング剤として、牛乳由来リン脂質とアロエベラゲルとを複合使用した場合(複合処理)には、牛乳由来リン脂質またはアロエベラゲルを単独使用した場合と生存率が類似の水準であることが確認された。
【0082】
3-2.コーティングプロバイオティクスの消化管生存率の測定
実施例1-2の消化管生存率の測定と同様の方法でプロバイオティクス粉末の菌株生存率を測定し、その結果を表9に示した。
【0083】
【表9】
【0084】
前記表9に示すように、コーティング剤として、牛乳由来リン脂質とアロエベラゲルとを複合使用した場合(複合処理)には、牛乳由来リン脂質またはアロエベラゲルを単独使用した場合に比べて生存率がやや増加したことが確認された。
【0085】
3-3.コーティングプロバイオティクスの生存率の測定-温度条件別
製造されたプロバイオティクス粉末を冷蔵(10℃以下、湿度40%以下)、常温(25℃、湿度40~60%)および加速(40℃、湿度70%)の条件で1ヶ月保管後、通常のプロバイオティクス生菌数の測定方法によって生菌数を分析し、凍結乾燥直後の生菌数と対比して生存率(%)で表現した。
【0086】
【表10】
【0087】
【表11】
【0088】
【表12】
【0089】
前記表10~12に示すように、プロバイオティクス粉末を冷蔵保管時、コーティング剤として牛乳由来リン脂質およびアロエベラゲルを複合使用した場合(複合処理)には、コーティング剤を用いずに凍結乾燥した場合(無処理)に比べて生存率がやや増加したことが確認された。また、プロバイオティクス粉末を常温または加速条件で保管した場合には、菌株の生存率が全体的に減少したが、コーティング剤として牛乳由来リン脂質およびアロエベラゲルを複合使用した場合には、牛乳由来リン脂質またはアロエベラゲルを単独使用した場合に比べて菌株の生存率が高い水準に維持されることを確認した。
【0090】
このような結果は、コーティング剤として牛乳由来リン脂質およびアロエベラゲルの複合使用が冷蔵、常温または加速条件で菌株生存率を高めるのに役立つということを示唆する。
【0091】
これまで本発明についてその好ましい実施例を中心に説明した。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性を逸脱しない範囲で変形された形態で実現可能であることを理解するであろう。そのため、開示された実施例は限定的な観点ではなく説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は上述した説明ではなく特許請求の範囲に示されており、それと同等範囲内にあるすべての差異は本発明に含まれたものと解釈されなければならない。