(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】ハニカム構造体及び排気ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/028 20060101AFI20230317BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20230317BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20230317BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20230317BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20230317BHJP
B01D 46/84 20220101ALI20230317BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20230317BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
F01N3/028
F01N3/022 B
F01N3/08 C
B01D39/20 D
B01D46/00 302
B01D46/84
B01J35/04 301H
C04B38/00 303Z
(21)【出願番号】P 2021576211
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2021004680
(87)【国際公開番号】W WO2021157746
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2020020108
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】細田 和也
(72)【発明者】
【氏名】木俣 貴文
(72)【発明者】
【氏名】泉 有仁枝
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-188272(JP,A)
【文献】特開平11-336534(JP,A)
【文献】特開2017-2785(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021186(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065381(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00-3/38
B01D 39/00-46/00
B01J 32/00-35/00
C04B 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、
前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、
を有する柱状のハニカム構造体であって、
前記セル内において、前記セルが延びる方向に沿って、磁性体で構成された複数のワイヤー小片が、空間または緩衝材を介して離間して設けられているハニカム構造体。
【請求項2】
前記セルが延びる方向における、前記ワイヤー小片の長さが、それぞれ1~20mmである請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記セルが延びる方向における、前記空間または前記緩衝材の長さが、それぞれ1mm以上である請求項1または2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記セルが延びる方向における、前記空間または前記緩衝材の長さの合計が、前記セルが延びる方向における、前記ワイヤー小片の長さの合計の1/5以上である請求項1~3のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記緩衝材のヤング率が50~500MPaである請求項1~4のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記緩衝材の気孔率が40~70%である請求項1~5のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
前記緩衝材が、コージェライト、シリカ、または、セラミックス材料で構成されている請求項1~6のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項8】
前記ワイヤー小片が、600℃以上のキュリー温度を有する請求項1~7のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項9】
前記ワイヤー小片が、8~12×10
-6/℃の熱膨張係数を有する請求項1~8のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項10】
前記ワイヤー小片が、Coを10質量%以上含むFeCo合金、または、ステンレス鋼で構成されている請求項1~9のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項11】
前記隔壁及び外周壁がセラミックス材料で構成されている請求項1~10のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項12】
前記セラミックス材料がコージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、及び、アルミナからなる群から選択される少なくとも1つである請求項11に記載のハニカム構造体。
【請求項13】
前記セルは、
前記一方の端面側が開口して前記他方の端面に目封止部を有する複数のセルAと、
前記セルAとそれぞれ交互に配置され、前記他方の端面側が開口して前記一方の端面に目封止部を有する複数のセルBと、
を含む請求項1~12のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の外周を螺旋状に周回するコイル配線と、
前記ハニカム構造体及び前記コイル配線を収容する金属管と、
を有する排気ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体及び排気ガス浄化装置に関する。とりわけ、ハニカム構造体を電磁誘導加熱したときの、耐熱衝撃性、及び、耐酸化性が良好なハニカム構造体及び排気ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気ガスには、通常は不完全燃焼の結果として一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物などの有害成分やカーボンなどの微粒子が含まれる。人体への健康被害低減の観点から、自動車排気ガス中の有害ガス成分および微粒子の低減要求が高まっている。
【0003】
しかしながら、現在、これらの有害成分は、エンジン始動直後という、触媒温度が低く、触媒活性が不十分な期間に排出されている。このため、排気ガス中の有害成分が、触媒活性化温度に達する前に触媒で浄化されずに排出されるおそれがある。このような要求に応えるためには、触媒活性化温度に達する前に触媒で浄化されずに排出されるエミッションを極力低減させることが必要であり、例えば、電気加熱技術を利用した対策が知られている。
【0004】
このような技術として、特許文献1には、触媒担体ハニカムとして広く使用されているコージェライトハニカムの一部のセルに、磁性体ワイヤーを挿入する技術が提案されている。当該技術によれば、ハニカム外周のコイルに電流を流し、電磁誘導加熱によりワイヤー温度を上昇させ、その熱でハニカム温度を上昇させることができる。
【0005】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジンの排気カーボン微粒子も人体の健康への影響があるため低減要求が高く、このような排気ガス処理には、ハニカム構造体に交互に目封止部を設けたウォールフロー型のフィルタが用いられている。当該フィルタで捕集したカーボン微粒子(スス)は、排気ガスを高温化することにより燃焼除去している。しかしながら、燃焼除去にかかる時間が長いと、排気ガス温度を高温化するために必要な燃料の消費が増加してしまう問題が生じる。また、搭載スペース確保の観点からは、比較的スペースの余裕のある床下位置に搭載することが、排気システム構成上の設計自由度確保の観点から好ましい。しかしながら、車両床下に当該フィルタを配置すると、エンジンからの排気温度が低くなり、カーボン微粒子を燃焼除去できない問題が生じる。
【0006】
この対策として、特許文献2には、フィルタの隔壁表面に磁性体微粒子を分散配置して、電磁誘導加熱により加熱する技術が開示されている。また、特許文献3には、フィルタの目封止部に磁性体ワイヤーを挿入する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2017/0022868号明細書
【文献】国際公開第2016/021186号
【文献】米国特許出願公開第2017/0014763号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、金属製のワイヤーの熱膨張率は、ハニカムの熱膨張率に比べて非常に高い。このため、特許文献1及び2に開示のように、金属製のワイヤーをハニカムのセルに挿入して固定し、電磁誘導加熱によって昇温させたとき、熱膨張差によってハニカムのセルの目封止部に応力が生じ、目封止部を破壊してしまう問題が生じる。
【0009】
また、本発明者らは、金属製のワイヤーではなく、フィルタの隔壁表面に磁性体微粒子を分散配置して、電磁誘導加熱により加熱する場合、磁性体微粒子の表面積が大きいため、酸化しやすく、加熱性能が劣化するおそれがあることを見出した。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑み、ハニカム構造体を電磁誘導加熱したときの、耐熱衝撃性、及び、耐酸化性が良好なハニカム構造体及び排気ガス浄化装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討の結果、ハニカム構造体の流体の流路となるセル内に、セルが延びる方向に沿って、磁性体で構成された複数のワイヤー小片を、空間または緩衝材を介して離間して設ける構成とすることで、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は以下のように特定される。
(1)外周壁と、
前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、
を有する柱状のハニカム構造体であって、
前記セル内において、前記セルが延びる方向に沿って、磁性体で構成された複数のワイヤー小片が、空間または緩衝材を介して離間して設けられているハニカム構造体。
(2)(1)のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の外周を螺旋状に周回するコイル配線と、
前記ハニカム構造体及び前記コイル配線を収容する金属管と、
を有する排気ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ハニカム構造体を電磁誘導加熱したときの、耐熱衝撃性、及び、耐酸化性が良好なハニカム構造体及び排気ガス浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態1に係るハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係るハニカム構造体10のセル15の延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係るハニカム構造体10の、電磁誘導加熱前(上図)と加熱後(下図)における、セル15の延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の実施形態2に係るハニカム構造体10のセル15の延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の実施形態1、2に係るハニカム構造体が組み込まれた排気ガス浄化装置の排気ガス流路の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明のハニカム構造体の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0015】
<1.ハニカム構造体>
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るハニカム構造体10を模式的に示す斜視図である。
図2は、本発明の実施形態1に係るハニカム構造体10のセル15の延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。ハニカム構造体10は、柱状に形成されており、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、一方の端面13から他方の端面14まで貫通して流路を形成する複数のセル15を区画形成する多孔質の隔壁12とを備える。
【0016】
複数のセル15の一部には、詳細は後述するが、ワイヤー小片18が設けられている。ワイヤー小片18が設けられたセル15の位置は特に限定されず、例えば、セル15の延伸方向に垂直な断面において、縦方向及び横方向に、それぞれ、ワイヤー小片18が設けられたセル15とワイヤー小片18が設けられていないセル15とを交互に設けてもよい。このように、ワイヤー小片18が設けられたセル15とワイヤー小片18が設けられていないセル15とを交互に設けることで、電磁誘導加熱効率がより良好になる。ワイヤー小片18が設けられたセル15の配置位置及び配置数は、ハニカム構造体10の加熱効率及び圧力損失を考慮して、適宜設計することができる。
【0017】
ワイヤー小片18は、磁性体で構成されており、セル15内において、セル15が延びる方向に沿って、緩衝材17を介して、複数が離間して設けられている。すなわち、ワイヤー小片18と緩衝材17とは、セル15が延びる方向において、交互に隣接して設けられている。また、ワイヤー小片18が設けられているセル15の一方の端面13及び他方の端面14には、それぞれ目封止部16が設けられている。目封止部16は、従来公知のハニカム構造体の目封止部として用いられるものと同様に構成されたものを用いることができる。
【0018】
本発明の実施形態1に係るハニカム構造体10の効果について
図3を用いて説明する。
図3の上図は、ハニカム構造体10のワイヤー小片18が設けられているセル15の模式図を示す。セル15内は、両端面13、14に目封止部16が設けられ、目封止部16と接するように、セル15が延びる方向に沿って、複数のワイヤー小片18が、緩衝材17を介して離間して設けられている。このような構成のセル15を有するハニカム構造体10を電磁誘導加熱すると、
図3の下図に示すように、磁性体で構成された複数のワイヤー小片18が、それぞれ昇温して膨張する。このとき、隣接するワイヤー小片18の間に緩衝材17が設けられているため、ワイヤー小片18の膨張で延びた部分を当該緩衝材17が吸収する。従って、ワイヤー小片18の膨張による、セル15の両端面13、14に設けた目封止部の破壊を良好に抑制することができる。また、磁性体として、表面積が大きい磁性体微粒子ではなく、表面積が小さいワイヤー小片18を用いている。このため、電磁誘導加熱により加熱する場合、酸化し難く、加熱性能の劣化を良好に抑制することができる。また、磁性体微粒子は体積が小さいため、電磁誘導加熱するためには高周波誘導加熱が必要となり、電源などについて高コストとなるが、磁性体微粒子に比べて体積の大きいワイヤー小片18を用いているため、電源などについてコストが低下する。
【0019】
図2及び
図3では、隣接するワイヤー小片18の間に緩衝材17が設けられている構成を示しているが、これに限られず、隣接するワイヤー小片18の間が空間で構成されていてもよい。この場合、例えば、ワイヤー小片18の側面の一部分を隔壁12と接合材で固定することで、セル内に配置することができる。当該接合材には、例えば、コージェライト粉末に造孔材と有機バインダと水を適宜加え作製したペーストを用いることができる。
このように緩衝材17の代わりに空間を設けた構成としても、上述のように電磁誘導加熱時に磁性体で構成されたワイヤー小片18が昇温して膨張したとき、ワイヤー小片18の膨張で延びた部分を空間が吸収するために、セル15の両端面13、14に設けた目封止部の破壊を良好に抑制することができる。
【0020】
ワイヤー小片18は、8~12×10-6/℃の熱膨張係数を有するのが好ましい。ハニカム構造体10を電磁誘導加熱した際、ワイヤー小片18の熱膨張係数が、12×10-6/℃より大きいと、ワイヤー小片18の膨張で延びた部分を吸収するために緩衝材または空間部の長さを長くしなければならず、必要な加熱性能を保つためのワイヤー長さを設けることが困難になるおそれがある。また、熱膨張係数が8×10-6/℃より小さい磁性材料は実質的に存在しない。なお、本明細書中での熱膨張係数とは、25℃を基準温度としたときの900℃での熱膨張係数を指す。
8~12×10-6/℃の熱膨張係数を有する磁性体としては、Coを10質量%以上含むFeCo合金、または、ステンレス鋼等がある。Coを10質量%以上含むFeCo合金としては、パーメンジュール、残部Fe-49質量%Co-2質量%V、残部Fe-17質量%Co-2質量%Cr-1質量%Mo等がある。また、ステンレス鋼としては、SUS430fをはじめとするフェライト系ステンレス等がある。
【0021】
ワイヤー小片18は、磁性体であり、磁場により磁化され、磁場の強さにより磁化の状態も変わる。これを表したものが「磁化曲線」である。磁化曲線は、横軸には磁場Hを目盛り、縦軸には、磁束密度Bを目盛る場合(B-H曲線)がある。磁性材料に全く磁場が加えられていない状態を消磁状態といい原点Oで表す。磁場を加えていくと、原点Oから、磁束密度が増加していき飽和する曲線を描く。この曲線が「初磁化曲線」である。初磁化曲線上の点と原点を結ぶ直線の傾きが「透磁率」である。透磁率は、磁場が浸透するといったような意味合いで、磁性体の磁化のしやすさの目安となる。原点付近の磁場が小さい所での透磁率が「初透磁率」であり、初磁化曲線上で最大となる透磁率が「最大透磁率」である。
【0022】
ワイヤー小片18は、10000以上の最大透磁率を有するのが好ましい。このような構成によれば、当該ワイヤー小片18を有するハニカム構造体10を電磁誘導加熱した際、水分が気化する温度(約100℃)まで、さらには触媒が活性化する温度(約300℃)まで、短時間に温度を上昇させることができる。ワイヤー小片18は、25000以上の最大透磁率を有するのがより好ましく、50000以上の最大透磁率を有するのが更により好ましい。10000以上の最大透磁率を有する磁性体としては、例えば、残部Fe-10質量%Si-5質量%Al、49質量%Co-49質量%Fe-2質量%V、残部Fe-36質量%Ni、残部Fe-45質量%Ni等がある。
【0023】
ワイヤー小片18は、600℃以上のキュリー温度を有するのが好ましい。ワイヤー小片18のキュリー温度が600℃以上であると、触媒活性化温度以上に触媒温度を上昇させるのに十分なハニカム温度に達することが可能になるのはもちろん、セル15内に捕集されたPM(粒子状物質)を燃焼除去してハニカム構造フィルタを再生させることが容易となる。600℃以上のキュリー温度を有する磁性体としては、例えば、残部Co-20質量%Fe、残部Co-25質量%Ni-4質量%Fe、残部Fe-15~35質量%Co、残部Fe-17質量%Co-2質量%Cr-1質量%Mo、残部Fe-49質量%Co-2質量%V、残部Fe-18質量%Co-10質量%Cr-2質量%Mo-1質量%Al、残部Fe-27質量%Co-1質量%Nb、残部Fe-20質量%Co-1質量%Cr-2質量%V、残部Fe-35質量%Co-1質量%Cr、純コバルト、純鉄、電磁軟鉄、残部Fe-0.1~0.5質量%Mn、残部Fe-3質量%Si等がある。ここで、磁性体のキュリー温度は、強磁性の特性を失う温度をさす。
【0024】
ワイヤー小片18は、25℃で、10μΩcm~100μΩcmの固有抵抗値を有するのが好ましい。ワイヤー小片18が、25℃で、10μΩcm以上の固有抵抗値を有すると、高い抵抗値によって電磁誘導加熱による発熱量をより高くすることができる。また、ワイヤー小片18が、25℃で、100μΩcm以下の固有抵抗値を有すると、電磁誘導による電流の流れる部位を多くすることができ、電磁誘導加熱による発熱量をより高くすることができる。25℃で、10μΩcm以上の固有抵抗値を有する磁性体としては、例えば、残部Fe-18質量%Cr、残部Fe-13質量%Cr-2質量%Si、残部Fe-20質量%Cr-2質量%Si-2質量%Mo、残部Fe-10質量%Si-5質量%Al、残部Co-20質量%Fe、残部Fe-15~35質量%Co、残部Fe-49質量%Co-2質量%V、残部Fe-18質量%Co-10質量%Cr-2質量%Mo-1質量%Al、残部Fe-36質量%Ni、残部Fe-45質量%Ni等がある。
【0025】
ワイヤー小片18は、100A/m以上の保磁力を有するのが好ましい。このような構成によれば、当該ワイヤー小片18を有するハニカム構造体10を電磁誘導加熱した際、水分が気化する温度(約100℃)まで、さらには触媒が活性化する温度(約300℃)まで、短時間に温度を上昇させることができる。100A/m以上の保磁力を有する磁性体としては、残部Fe-35質量%Co、残部Fe-20質量%Co-1質量%V、残部Fe-13質量%Cr-2質量%Si、残部Fe-18質量%Cr等がある。
【0026】
複数のワイヤー小片18は、セルが延びる方向における長さが、それぞれ1~20mmであるのが好ましい。ワイヤー小片18の長さが1mm以上であると、電磁誘導加熱効率がより良好になる。また、ワイヤー小片18の長さが20mm以下であると、ワイヤー小片18の膨張による延びが抑制され、より良好に目封止部16の破壊を抑制することができる。複数のワイヤー小片18は、セルが延びる方向における長さが、それぞれ3~15mmであるのがより好ましく、それぞれ4~6mmであるのが更により好ましい。セル15内に設けられた複数のワイヤー小片18は、互いに同じ長さであってもよく、異なる長さであってもよい。
【0027】
複数のワイヤー小片18の外径は、セル15の内径と同じであってもよく、セル15の内径より小さく形成されていてもよい。また、複数のワイヤー小片18の外径は、互いに同じ大きさであってもよく、異なる大きさであってもよい。
【0028】
複数のワイヤー小片18間に設けられた緩衝材17または空間は、セル15内に設けられた複数のワイヤー小片18が、電磁誘導加熱時に昇温して熱膨張したときの、膨張による延びを全て吸収できる大きさに形成されていれば、どのような大きさであってもよい。緩衝材17または当該空間のセルが延びる方向における長さは、1mm以上に形成されているのが好ましい。このような構成によれば、複数のワイヤー小片18が、電磁誘導加熱時に昇温して熱膨張したときの、膨張による延びをより良好に吸収することができる。緩衝材17または当該空間のセルが延びる方向における長さは、2mm以上に形成されているのがより好ましく、2~3mmに形成されているのが更により好ましい。セル15内に設けられた複数の緩衝材17または当該空間は、互いに同じ長さであってもよく、異なる長さであってもよい。
【0029】
セル15が延びる方向における、緩衝材17または当該空間の長さの合計が、セル15が延びる方向における、ワイヤー小片18の長さの合計の1/5以上であるのが好ましい。このような構成によれば、複数のワイヤー小片18が、電磁誘導加熱時に昇温して熱膨張したときの、膨張による延びをより良好に吸収することができる。セル15が延びる方向における、緩衝材17または当該空間の長さの合計が、セル15が延びる方向における、ワイヤー小片18の長さの合計の、1/5~1/2であるのがより好ましく、1/5~1/3であるのが更により好ましい。
【0030】
緩衝材17は、ヤング率が50~500MPaであるのが好ましい。緩衝材17のヤング率が500MPa以下であると、電磁誘導加熱時に昇温して熱膨張したときの、膨張による延びをより良好に吸収することができる。また、緩衝材17のヤング率が50MPa以上であると、機械的強度の維持ができ、電磁誘導加熱時に昇温して熱膨張したときの、膨張による延びによって発生するクラックを良好に抑制することができる。緩衝材17は、ヤング率が100~400MPaであるのがより好ましく、200~300MPaであるのが更により好ましい。
【0031】
緩衝材17は、気孔率が40~70%であるのが好ましい。緩衝材17の気孔率が40%以上であると、緩衝材17のヤング率が低くなり、電磁誘導加熱時に昇温して熱膨張したときの、膨張による延びをより良好に吸収することができる。また、緩衝材17の気孔率が70%以下であると、緩衝材17の機械的強度を維持でき、電磁誘導加熱時に昇温して熱膨張したときの、膨張による延びによって発生するクラックを良好に抑制することができる。緩衝材17は、気孔率が40~60%であるのがより好ましく、45~50%であるのが更により好ましい。
【0032】
緩衝材17は、コージェライト、シリカ、または、セラミックス材料等で構成することができる。
【0033】
ハニカム構造体10の隔壁12及び外周壁11の材質については特に制限はないが、多数の細孔を有する多孔質体であることが必要であるため、通常は、セラミックス材料で形成される。例えば、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、アルミナ、珪素-炭化珪素系複合材料、炭化珪素-コージェライト系複合材料の、特に珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とする焼結体が挙げられる。本明細書において「炭化珪素系」とは、ハニカム構造体10が炭化珪素を、ハニカム構造体10全体の50質量%以上含有していることを意味する。ハニカム構造体10が珪素-炭化珪素複合材を主成分とするというのは、ハニカム構造体10が珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、ハニカム構造体10全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。また、ハニカム構造体10が炭化珪素を主成分とするというのは、ハニカム構造体10が炭化珪素(合計質量)を、ハニカム構造体10全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0034】
好ましくは、ハニカム構造体10は、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、及び、アルミナからなる群から選択される少なくとも1つのセラミックス材料で形成される。
【0035】
ハニカム構造体10のセル15の形状は特に限定されないが、ハニカム構造体10の中心軸に直交する断面において、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形、円形、又は楕円形であることが好ましく、その他不定形であってもよい。
【0036】
また、ハニカム構造体10の外形としては、特に限定されないが、端面が円形の柱状(円柱形状)、端面がオーバル形状の柱状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、ハニカム構造体10の大きさは、特に限定されないが、中心軸方向長さが40~500mmが好ましい。また、例えば、ハニカム構造体10の外形が円筒状の場合、その端面の半径が50~500mmであることが好ましい。
【0037】
ハニカム構造体10の隔壁12の厚さは、0.10~0.50mmであることが好ましく、製造の容易さの点で、0.25~0.45mmであることが更に好ましい。例えば、0.10mm以上であると、ハニカム構造体10の強度がより向上し、0.50mm以下であると、ハニカム構造体10をフィルタとして用いた場合に、圧力損失をより小さくすることができる。なお、この隔壁12の厚さは、中心軸方向断面を顕微鏡観察する方法で測定した平均値である。
【0038】
また、ハニカム構造体10を構成する隔壁12の気孔率は、30~70%であることが好ましく、製造の容易さの点で40~65%であることが更に好ましい。30%以上であると、圧力損失が減少しやすく、70%以下であると、ハニカム構造体10の強度を維持できる。
【0039】
また、多孔質の隔壁12の平均細孔径は、5~30μmであることが好ましく、10~25μmであることが更に好ましい。5μm以上であると、フィルタとして用いた場合に、圧力損失を小さくすることができ、30μm以下であると、ハニカム構造体10の強度を維持できる。なお、本明細書において、「平均細孔径」、「気孔率」というときには、水銀圧入法により測定した平均細孔径、気孔率を意味するものとする。
【0040】
ハニカム構造体10のセル密度も特に制限はないが、5~93セル/cm2の範囲であることが好ましく、5~63セル/cm2の範囲であることがより好ましく、31~54セル/cm2の範囲であることが更に好ましい。
【0041】
このようなハニカム構造体10は、セラミックス原料を含有する坏土を、一方の端面から他方の端面まで貫通し流体の流路となる複数のセル15を区画形成する隔壁12を有するハニカム状に成形して、ハニカム成形体を形成し、このハニカム成形体を、乾燥した後に焼成することによって作製される。そして、このようなハニカム構造体を、本実施形態のハニカム構造体10として用いる場合には、外周壁をハニカム構造部と一体的に押し出してそのまま外周壁として使用してもよいし、成形又は焼成後に、ハニカム成形体(ハニカム構造体)の外周を研削して所定形状とし、この外周を研削したハニカム構造体に、コーティング材を塗布して外周コーティングを形成してもよい。なお、本実施形態のハニカム構造体10においては、例えば、ハニカム構造体の最外周を研削せずに、外周を有したハニカム構造体を用い、この外周を有するハニカム構造体の外周面(即ち、ハニカム構造体の外周の更に外側)に、更に、上記コーティング材を塗布して、外周コーティングを形成してもよい。即ち、前者の場合には、ハニカム構造体の外周面には、コーティング材からなる外周コーティングのみが最外周に位置する外周壁となる。一方、後者の場合には、ハニカム構造体の外周面に、更にコーティング材からなる外周コーティングが積層された、最外周に位置する、二層構造の外周壁が形成される。外周壁をハニカム構造部と一体的に押し出してそのまま焼成し、外周の加工無しに、外周壁として使用してもよい。
【0042】
コーティング材の組成は特に限定されるものではなく、種々の公知のコーティング材を適宜使用することができる。コーティング材は、コロイダルシリカ、有機バインダ、粘土等を更に含有させてもよい。なお、有機バインダは、0.05~0.5質量%用いることが好ましく、0.1~0.2質量%用いることが更に好ましい。また、粘土は、0.2~2.0質量%用いることが好ましく、0.4~0.8質量%用いることが更に好ましい。
【0043】
なお、ハニカム構造体10は、隔壁12が一体的に形成された一体型のハニカム構造体10に限定されることはなく、例えば、多孔質の隔壁12を有し、隔壁12によって流体の流路となる複数のセル15が区画形成された柱状のハニカムセグメントが、接合材層を介して複数個組み合わされた構造を有するハニカム構造体10(以下、「接合型ハニカム構造体」ということがある)であってもよい。
【0044】
ハニカム構造体10は、焼成ハニカム構造体のそれぞれをハニカムセグメントとして利用し、複数のハニカムセグメントの側面同士を接合材で接合して一体化し、ハニカムセグメントが接合された状態のハニカム構造体とすることができる。ハニカムセグメントが接合された状態のハニカム構造体は例えば以下のように製造することができる。
【0045】
まず、各ハニカムセグメントの両底面に接合材付着防止用マスクを貼り付けた状態で、接合面(側面)に接合材を塗工する。次に、これらのハニカムセグメントを、ハニカムセグメントの互いの側面同士が対向するように隣接して配置し、隣接するハニカムセグメント同士を圧着した後、加熱乾燥する。このようにして、隣接するハニカムセグメントの側面同士が接合材によって接合されたハニカム構造体を作製する。ハニカム構造体に対しては、外周部を研削加工して所望の形状(例えば円柱状)とし、外周面にコーティング材を塗工した後、加熱乾燥させて外周壁11を形成してもよい。
【0046】
接合材付着防止用マスクの材料は、特に制限はないが、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、又はテフロン(登録商標)等の合成樹脂を好適に使用可能である。また、マスクは粘着層を備えていることが好ましく、粘着層の材料は、アクリル系樹脂、ゴム系(例えば、天然ゴム又は合成ゴムを主成分とするゴム)、又はシリコン系樹脂であることが好ましい。
【0047】
接合材付着防止用マスクとしては、例えば厚みが20~50μmの粘着フィルムを好適に使用することができる。
【0048】
接合材としては、例えば、セラミックス粉末、分散媒(例えば、水等)、及び必要に応じて、バインダ、解膠剤、発泡樹脂等の添加剤を混合することによって調製したものを用いることができる。セラミックスとしては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、及びチタニアからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有するセラミックスであることが好ましく、ハニカム構造体と同材質であることがより好ましい。バインダとしては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)などを挙げることができる。
【0049】
ハニカム構造体10は、隔壁12の表面の少なくとも一部において、通気性を有する表面層を有してもよい。ここで、通気性を有するとは、表面層のパーミアビリティーが、1.0×10-13m2以上であることをいう。圧力損失をさらに低減する観点から、パーミアビリティーが、1.0×10-12m2以上であることが好ましい。表面層が通気性を有することで、表面層に起因するハニカム構造体10の圧力損失を抑制することができる。
【0050】
また、本明細書において「パーミアビリティー」は、下記式(1)により算出される物性値をいい、所定のガスがその物(隔壁12)を通過する際の通過抵抗を表す指標となる値である。ここで、下記式(1)中、Cはパーミアビリティー(m2)、Fはガス流量(cm3/s)、Tは試料厚み(cm)、Vはガス粘性(dynes・sec/cm2)、Dは試料直径(cm)、Pはガス圧力(PSI)を示す。なお、下記式(1)中の数値は、13.839(PSI)=1(atm)であり、68947.6(dynes・sec/cm2)=1(PSI)である。
【0051】
【数1】
パーミアビリティーを測定する際には、表面層つきの隔壁12を切り出し、この表面層つきの状態で、パーミアビリティーを測定した後、表面層を削りとった状態でのパーミアビリティー測定を行い、表面層と隔壁基材の厚さの比率と、これらのパーミアビリティー測定結果から、表面層のパーミアビリティーを算出する。
【0052】
表面層の気孔率は、50%以上であることが好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。50%以上の気孔率を有することで、圧力損失を抑えることができる。ただし、気孔率が高すぎると表面層が脆くなり、はがれやすくなるので、90%以下とすることが好ましい。
【0053】
水銀圧入法により表面層の気孔率を測定する方法として、表面層と基材とを有するサンプルでの水銀ポロシカーブと、表面層のみを削って取り除いた基材のみの水銀ポロシカーブの差を表面層の水銀ポロシカーブとみなし、削りとった質量と水銀ポロシカーブとから表面層の気孔率が算出される。SEM画像撮影を行い、表面層部分の画像解析により、空隙部と個体部の面積比率から表面層の気孔率を算出しても良い。
【0054】
また、表面層の平均細孔直径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、4μm以下であることがさらに好ましく、3μm以下であることが特に好ましい。平均細孔直径を10μm以下とすることで、高い粒子捕集効率を達成することができる。ただし、表面層の平均細孔直径が小さすぎると圧力損失が増加してしまうので、0.5μm以上とすることが好ましい。
【0055】
水銀圧入法により表面層の平均細孔直径を測定する方法として、水銀ポロシメータでのピーク値という形にして、表面層つきでの水銀ポロシカーブ(細孔容積頻度)と表面層のみを削って取り除いた基材のみの水銀ポロシカーブの差を表面層の水銀ポロシカーブとし、そのピークを平均細孔直径とする。また、ハニカム構造体10の断面のSEM画像を撮影し表面層部分の画像解析により、空隙部と個体部の2値化を行い、ランダムに20以上の空隙を選択してその内接円の平均を平均細孔直径としても良い。
【0056】
また、表面層の厚みは特に限定されない。ただし、表面層の効果をより顕著に得るためには、表面層の厚みが10μm以上であることが好ましい。一方、圧力損失の増加を回避する観点から、表面層の厚みが80μm以下であることが好ましい。表面層の厚みはより好ましくは50μm以下である。表面層の厚みの測定方法として、例えば表面層が形成されたハニカム構造体10を、セル15が伸びる方向に垂直な方向に切断して、その断面から表面層の厚みを測定し、任意の5点の厚みの測定値の平均を取ることができる。
【0057】
次に、ハニカム構造体10の製造方法を説明する。まず、多孔質の隔壁を有し、隔壁によって複数のセルが区画形成されたハニカム構造体を作製する。例えば、コージェライトからなるハニカム構造体を作製する場合には、まず、坏土用材料としてコージェライト化原料を用意する。コージェライト化原料は、コージェライト結晶の理論組成となるように各成分を配合するため、シリカ源成分、マグネシア源成分、及びアルミナ源成分等を配合する。このうちシリカ源成分としては、石英、溶融シリカを用いることが好ましく、更に、このシリカ源成分の粒径を100~150μmとすることが好ましい。
【0058】
マグネシア源成分としては、例えば、タルク、マグネサイト等を挙げることができる。これらの中でも、タルクが好ましい。タルクは、コージェライト化原料中37~43質量%含有させることが好ましい。タルクの粒径(平均粒子径)は、5~50μmであることが好ましく、10~40μmであることが更に好ましい。また、マグネシア(MgO)源成分は、不純物としてFe2O3、CaO、Na2O、K2O等を含有していてもよい。
【0059】
アルミナ源成分としては、不純物が少ないという点で、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムの少なくとも一種を含有するものが好ましい。また、コージェライト化原料中、水酸化アルミニウムは10~30質量%含有させることが好ましく、酸化アルミニウムは0~20質量%含有させることが好ましい。
【0060】
次に、コージェライト化原料に添加する坏土用材料(添加剤)を用意する。添加剤として、少なくともバインダと造孔剤を用いる。そして、バインダと造孔剤以外には、分散剤や界面活性剤を使用することができる。
【0061】
造孔剤としては、コージェライトの焼成温度以下において酸素と反応して酸化除去可能な物質、又は、コージェライトの焼成温度以下の温度に融点を有する低融点反応物質等を用いることができる。酸化除去可能な物質としては、例えば、樹脂(特に、粒子状の樹脂)、黒鉛(特に、粒子状の黒鉛)等を挙げることができる。低融点反応物質としては、鉄、銅、亜鉛、鉛、アルミニウム、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも一種の金属、これらの金属を主成分とする合金(例えば、鉄の場合には炭素鋼や鋳鉄、ステンレス鋼)、又は、二種以上を主成分とする合金を用いることができる。これらの中でも、低融点反応物質は、粉粒状又は繊維状の鉄合金であることが好ましい。更に、その粒径又は繊維径(平均径)は10~200μmであることが好ましい。低融点反応物質の形状は、球状、巻菱形状、金平糖状等が挙げられ、これらの形状であると、細孔の形状をコントロールすることが容易となるため好ましい。
【0062】
バインダとしては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。また、分散剤としては、例えば、デキストリン、ポリアルコール等を挙げることができる。また、界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸を挙げることができる。なお、添加剤は、一種単独又は二種以上用いることができる。
【0063】
次に、コージェライト化原料100質量部に対して、バインダを3~8質量部、造孔剤を3~40質量部、分散剤を0.1~2質量部、水を10~40質量部の割合で混合し、これら坏土用材料を混練し、坏土を調製する。
【0064】
次に、調製した坏土を、押出成形法、射出成形法、プレス成形法等でハニカム形状に成形し、生のハニカム成形体を得る。連続成形が容易であり、例えばコージェライト結晶を配向させることができることから、押出成形法を採用することが好ましい。押出成形法は、真空土練機、ラム式押出成形機、2軸スクリュー式連続押出成形機等の装置を用いて行うことができる。
【0065】
次に、ハニカム成形体を乾燥させて所定の寸法に調整してハニカム乾燥体を得る。ハニカム成形体の乾燥は、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等で行うことができる。なお、全体を迅速且つ均一に乾燥することができることから、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥と、を組み合わせて乾燥を行うことが好ましい。
【0066】
次に、磁性体で構成されたワイヤー小片と、コージェライト等で構成された緩衝材とを、交互に、ハニカム乾燥体の所定のセル内に設ける。また、緩衝材の代わりに空間を設ける場合は、ワイヤー小片の側面に接合材を設け、当該ワイヤー小片をセル壁に固定する。
【0067】
次に、目封止部の原料を用意する。目封止部の材料(目封止用スラリー)は、隔壁(ハニカム乾燥体)と同じ坏土用材料を用いてもよいし、異なる材料を用いてもよい。具体的には、セラミック原料、界面活性剤、及び水を混合し、必要に応じて焼結助剤、造孔剤等を添加してスラリー状にし、ミキサー等を使用して混練することにより得ることができる。
【0068】
次に、ハニカム乾燥体の一方の端面のセル開口部の一部にマスクを施し、その端面を、目封止用スラリーが貯留された貯留容器中に浸漬して、マスクをしていないセルに目封止用スラリーを充填する。同様にして、ハニカム乾燥体の他方の端面のセル開口部の一部にマスクを施し、その端面を、目封止用スラリーが貯留された貯留容器中に浸漬して、マスクをしていないセルに目封止用スラリーを充填する。このようにして、ワイヤー小片を設けたセルの両端を目封止する。その後、乾燥させ、焼成することによって、目封止部を有するハニカム構造体を得る。上記乾燥の条件は、ハニカム成形体を乾燥させる条件と同様の条件を採用することができる。また、上記焼成の条件は、コージェライト化原料を用いた場合には、通常、大気雰囲気下、1410~1440℃の温度で3~15時間とすることができる。
【0069】
目封止の方法としては、ペースト状の材料を、スキージのようなヘラで押し込むのが簡単な方法である。スキージの押し込み回数で深さを制御するのが簡単である。深く磁性体を入れたいセルの部分は、押し込み回数を多くし、周辺の浅い箇所は押し込み回数を少なくする。
【0070】
また、得られたハニカム構造体は、その外周面に外周壁が形成された状態で作製される場合には、その外周面を研削し、外周壁を取り除いた状態としてもよい。このようにして外周壁を取り除いたハニカム構造体の外周に、後の工程にて、コーティング材を塗布して外周コーティングを形成する。また、外周面を研削する場合には、外周壁の一部を研削して取り除き、その部分に、コーティング材によって外周コーティングを形成してもよい。コーティング材を調製する場合には、例えば、2軸回転式の縦型ミキサーを用いて調製することができる。
【0071】
また、コーティング材には、コロイダルシリカ、有機バインダ、粘土等を更に含有させてもよい。なお、有機バインダは、0.05~0.5質量%用いることが好ましく、0.1~0.2質量%用いることが更に好ましい。また、粘土は、0.2~2.0質量%用いることが好ましく、0.4~0.8質量%用いることが更に好ましい。
【0072】
先に作製したハニカム構造体の外周面に、コーティング材を塗布し、塗布したコーティング材を乾燥させて、外周コーティングを形成する。このように構成することによって、乾燥・熱処理時の外周コーティングのクラックの発生を効果的に抑制することができる。
【0073】
コーティング材の塗工方法としては、例えば、ハニカム構造体を回転台の上に載せて回転させ、コーティング材をブレード状の塗布ノズルから吐出させながらハニカム構造体の外周部に沿うように塗布ノズルを押し付けて塗布する方法を挙げることができる。このように構成することによって、コーティング材を均一な厚さで塗布することができる。また、形成した外周コーティングの表面粗さが小さくなり、外観に優れ、且つ熱衝撃によって破損し難い外周コーティングを形成することができる。
【0074】
なお、ハニカム構造体の外周面が研削されて、外周壁が取り除かれたものの場合には、ハニカム構造体の外周面全体にコーティング材を塗布して外周コーティングを形成する。一方、ハニカム構造体の外周面に外周壁が存在する、或いは、一部の外周壁が取り除かれている場合には、部分的にコーティング材を塗布して外周コーティングを形成してもよいし、勿論、ハニカム構造体の外周面全体にコーティング材を塗布して外周コーティングを形成してもよい。
【0075】
塗布したコーティング材(即ち、未乾燥の外周コーティング)を乾燥する方法については特に制限はないが、例えば、乾燥クラック防止の観点から、室温にて24時間以上保持することでコーティング材中の水分の25%以上を乾燥させた後、電気炉にて600℃で1時間以上保持することで水分及び有機物を除去する方法を好適に用いることができる。
【0076】
また、ハニカム構造体のセルの開口部が予め封止されていない場合には、外周コーティングを形成した後に、セルの開口部に目封止を行ってもよい。
【0077】
また、得られたハニカム構造体は、その外周面にレーザーを照射することによって、コーティング材に含まれる炭化珪素粉末が発色するため、得られたハニカム構造体の外周コーティングに、レーザー光を照射して、製品情報等を印字(マーキング)してもよい。
【0078】
レーザーによるマーキングの際に使用するレーザー光としては、例えば、炭酸ガス(CO2)レーザー、YAGレーザー、YVO4レーザーを好適例として挙げることができる。レーザー光を照射するレーザーの条件については、使用するレーザーの種類に応じて適宜選択することができるが、例えば、CO2レーザーを用いた場合には、出力15~25W、スキャンスピード400~600mm/sでマーキングすることが好ましい。このようにマーキングすることによって、照射部分が、黒色から緑色のような暗色を呈するように発色し、非照射部分との発色によるコントラストが極めて良好なものとなる。
【0079】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係るハニカム構造体20について説明する。
図4は、本発明の実施形態2に係るハニカム構造体20のセル25の延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。ハニカム構造体20は、柱状に形成されており、外周壁21と、外周壁21の内側に配設され、一方の端面23から他方の端面24まで貫通して流路を形成する複数のセル25を区画形成する多孔質の隔壁22とを備える。
【0080】
複数のセル25の一部には、ワイヤー小片28が設けられている。ワイヤー小片28は、磁性体で構成されており、セル25内において、セル25が延びる方向に沿って、緩衝材27を介して、複数が離間して設けられている。隣接するワイヤー小片28の間には、緩衝材27の代わりに、空間を設けてもよい。また、ワイヤー小片28が設けられているセル25の一方の端面23及び他方の端面24には、それぞれ目封止部26が設けられている。
【0081】
本発明の実施形態2に係るハニカム構造体20は、フィルタ構造を形成している点で、本発明の実施形態1に係るハニカム構造体10と異なっている。すなわち、ハニカム構造体20において、セル25は、一方の端面23側が開口して他方の端面24に目封止部29を有する複数のセルAと、セルAとそれぞれ交互に配置され、他方の端面24側が開口して一方の端面23に目封止部29を有する複数のセルBとを備える。セルA及びセルBの数、配置、形状等は制限されず、必要に応じて適宜設計することができる。このようなハニカム構造体20は、排気ガス中の粒子状物質(カーボン微粒子)を浄化するフィルタ(例えば、ガソリンパティキュレートフィルタ(以下、「GPF」ともいう)、または、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」ともいう))として用いることができる。
【0082】
本発明の実施形態2に係るハニカム構造体20は、複数のセル25の内壁を形成する多孔質の隔壁22の表面及び/又は隔壁22の細孔内に触媒が担持されたものであってもよい。触媒の種類については特に制限なく、ハニカム構造体20の使用目的や用途に応じて適宜選択することができる。例えば、貴金属系触媒又はこれら以外の触媒が挙げられる。貴金属系触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった貴金属をアルミナ細孔表面に担持し、セリア、ジルコニア等の助触媒を含む三元触媒や酸化触媒、又は、アルカリ土類金属と白金を窒素酸化物(NOx)の吸蔵成分として含むNOx吸蔵還元触媒(LNT触媒)が例示される。貴金属を用いない触媒として、銅置換又は鉄置換ゼオライトを含むNOx選択還元触媒(SCR触媒)等が例示される。また、これらの触媒からなる群から選択される2種以上の触媒を用いてもよい。なお、触媒の担持方法についても特に制限はなく、従来、ハニカム構造体に触媒を担持する担持方法に準じて行うことができる。
【0083】
本発明の実施形態2に係るハニカム構造体20のワイヤー小片28、及び、隣接するワイヤー小片28の間に設けた緩衝材27または空間の効果は、
図3で示した本発明の実施形態1に係るハニカム構造体10と同様である。すなわち、このような構成のセル25を有するハニカム構造体20を電磁誘導加熱すると、磁性体で構成された複数のワイヤー小片28が、それぞれ昇温して膨張する。このとき、隣接するワイヤー小片28の間に緩衝材27または空間が設けられているため、ワイヤー小片28の膨張で延びた部分を当該緩衝材27または空間が吸収する。従って、ワイヤー小片28の膨張による、セル25の両端面23、24に設けた目封止部の破壊を良好に抑制することができる。また、磁性体として、表面積が大きい磁性体微粒子ではなく、表面積が小さいワイヤー小片28を用いている。このため、電磁誘導加熱により加熱する場合、酸化し難く、加熱性能の劣化を良好に抑制することができる。また、磁性体微粒子は体積が小さいため、電磁誘導加熱するためには高周波誘導加熱が必要となり、電源などについて高コストとなるが、磁性体微粒子に比べて体積の大きいワイヤー小片28を用いているため、電源などについてコストが低下する。
【0084】
本発明の実施形態2に係るハニカム構造体20の製造方法は、ハニカム乾燥体において、ワイヤー小片を設けるセル以外の所定のセルに対しても、目封止部を設ける点以外は、本発明の実施形態1に係るハニカム構造体10の製造方法と同様に行うことができる。
【0085】
<2.排気ガス浄化装置>
上述した本発明の各実施形態に係るハニカム構造体を用いて排気ガス浄化装置を構成することができる。
図5は、例として、ハニカム構造体10またはハニカム構造体20が組み込まれた排気ガス浄化装置6の排気ガス流路の概略図を示している。排気ガス浄化装置6は、ハニカム構造体10、20とハニカム構造体10、20の外周を螺旋状に周回するコイル配線4とを有する。また、排気ガス浄化装置6は、ハニカム構造体10、20及びコイル配線4を収容する金属管2を有する。金属管2の拡径部2aに排気ガス浄化装置6を配置することができる。コイル配線4は固定部材5によって金属管2内に固定されてもよい。固定部材5は、セラミック繊維等の耐熱性部材であることが好ましい。ハニカム構造体10、20は触媒を担持してもよい。
【0086】
コイル配線4は、ハニカム構造体10、20の外周に螺旋状に巻かれる。2以上のコイル配線4が用いられる形態も想定される。スイッチSWのオン(ON)に応じて交流電源CSから供給される交流電流がコイル配線4に流れ、この結果として、コイル配線4の周囲には周期的に変化する磁界が生じる。なお、スイッチSWのオン・オフが制御部3により制御される。制御部3は、エンジンの始動に同期してスイッチSWをオンさせ、コイル配線4に交流電流を流すことができる。なお、エンジンの始動とは無関係に(例えば、運転手により押される加熱スイッチの作動に応じて)制御部3がスイッチSWをオンする形態も想定される。
【0087】
本開示においては、コイル配線4に流れる交流電流に応じた磁界の変化に応じてハニカム構造体10、20が昇温する。これによりハニカム構造体10、20により捕集されるカーボン微粒子などが燃焼する。また、ハニカム構造体10、20が触媒を担持する場合、ハニカム構造体10、20の昇温は、ハニカム構造体10、20に含まれる触媒担体より担持された触媒の温度を高め、触媒反応が促進される。端的には、一酸化炭素(CO)、窒化酸化物(NOx)、炭化水素(CH)が、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)、水(H2O)に酸化又は還元される。
【実施例】
【0088】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0089】
<実施例1~7>
縦11mm、横19mm、長さ25mm、隔壁厚さが0.1mm、隔壁間距離が約1mmの直方体のコージェライト製ハニカムに、5×5セル間隔において1セル内に、セルが延びる方向に沿って、表1に示す長さ及び磁性体で構成されたワイヤー小片を、緩衝材を介して複数設けた。各緩衝材は、コージェライト、シリカで形成し、セルが延びる方向に沿って、1mmの長さとした。また、ワイヤー小片を設けたセルの両端には、目封止部を設けた。
【0090】
<比較例1及び2>
実施例1と同じ直方体のコージェライト製ハニカムを準備した。次に、5×5セル間隔において1セル内に、セルが延びる方向に沿って、表1に示す長さ及び磁性体で構成されたワイヤーを設けた。比較例1及び2では、緩衝材は設けず、セル内には一端の目封止部から他端の目封止部まで到達するような1本のワイヤーを設けた。
【0091】
<電磁誘導加熱>
次に、電磁誘導加熱装置を用いて、実施例1~7及び比較例1及び2に係るハニカム構造体の加熱試験を行い、ハニカム構造体の端面の温度(表1の誘導加熱時温度)を赤外線温度計で測定した。投入電力は、4kWとし、電磁誘導加熱周波数は500kHzとした。
昇温後、目封止部にクラックが生じているか否かを確認した。
【0092】
<熱膨張係数、キュリー温度、気孔率、ヤング率>
表1に記載の磁性体の熱膨張係数は、25℃を基準温度としたときの900℃での熱膨張係数とした。また、表1に記載のキュリー温度は、強磁性の特性を失う温度とした。また、表1に記載の緩衝材の気孔率は、緩衝材の断面のSEM画像から画像解析によって測定した。また、表1に記載の緩衝材のヤング率の測定はJIS R1602に準拠して行った。
【0093】
【0094】
<評価>
表1の温度評価の基準は以下の通りである。
A:600℃以上 〔スス(ディーゼル由来)の燃焼温度〕
B:500℃以上600℃未満 〔スス(ガソリン由来)の燃焼温度〕
C:250℃以上500℃未満 〔自動車排気ガス浄化触媒の必要温度〕
D:250℃未満
【0095】
表1の総合評価の基準は以下の通りである。
A:GPF(ガソリン・パーティキュレート・フィルター)への利用が可能
B:自動車排気ガス浄化触媒用担体への利用が可能
F:GPF及び自動車排気ガス浄化触媒用担体への利用が不可
【0096】
実施例1~7に係るハニカム構造体は、いずれも、磁性体として、表面積が小さいワイヤー小片を用いたため、電磁誘導加熱により加熱しても、酸化し難く、加熱性能の劣化を良好に抑制することができ、また、昇温後、目封止部にクラックが生じていなかった。
一方、比較例1及び2に係るハニカム構造体は、いずれも、緩衝材は設けず、セル内に、一端の目封止部から他端の目封止部まで到達するような1本のワイヤーを設けたため、昇温後、目封止部にクラックが生じていた。
【符号の説明】
【0097】
10、20 ハニカム構造体
2 金属管
3 制御部
4 コイル配線
5 固定部材
6 排気ガス浄化装置
11 外周壁
12、22 隔壁
13、14、23、24 端面
15 セル
16、26 目封止部
17、27 緩衝材
18、28 ワイヤー小片
25 セル(セルA+セルB)